2017年11月21日火曜日

「日本は借金まみれ」という人の根本的な誤解―【私の論評】政府は不死身!日露戦争の戦費は外債で賄った(゚д゚)!

「日本は借金まみれ」という人の根本的な誤解

「政府の借金」と「家計の借金」は同じではない

村上 尚己 : マーケット・ストラテジスト

日本の経済メディアでは、「金融緩和・財政政策拡大をやりすぎると問題・弊害が起こる」という論者のコメントが多く聞かれる。

日銀は本当に「危険な金融緩和」を続けているのだろうか


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実際のところ2008年のリーマンショック直後から、米国の中央銀行であるFRBは、国債などの大量購入に果敢に踏み切り、それが一足早い米国経済の正常化を後押しした。その後、2012年の第2次安倍晋三政権誕生後の日銀総裁・副総裁人事刷新を経て日本銀行はFRB(米国連邦準備制度理事会)にほぼ4年遅れる格好で大規模にバランスシートを拡大させる政策に転じた。
これが、アベノミクスの主役となった量的質的金融緩和政策が始まった経緯である。筆者には日本のメディアがこれを正しく伝えているようには思われず、いまだに日銀は「危険な金融緩和」を続けているなどといわれている。
実際には、最も金融緩和に慎重とされたECB(欧州中央銀行)も含めて、多くの先進国の中央銀行は大規模な資産購入拡大を行っており、日銀もその1つにすぎないというのが投資家の立場での、筆者の見方である。つまり、雇用を生み出し国民生活を豊かにするために、米国などで実現している金融緩和政策が、日本でも2013年になって遅ればせながら実現しただけである。始めるのが遅かったのだから、FRBよりも日銀の出口政策が遅れているのは、やむをえない側面がある。
また、アベノミクス第2の矢とされた拡張的な財政政策は、政府部門の債務を増やす政策である。「日本の財政は危機的な状況にある」というのが通説になっている。
「借金が増え続けている」というフレーズだけを聞くと、不安に思う一般の人々が多いのは仕方ないかもしれない。たとえば年収500万円の人が、1000万円の借金を抱えることになれば、その負担が大きいのは確かだ。そして、日本は国民1人当たりの借金が数百万円に達するなどと頻繁に伝えられている。
しかし、メディアでいわれる「日本の借金」とは、個々の家計が抱える借金とはかなり異なるのが実情である。国民1人当たり数百万円の借金があるという言い方は、機械的に計算するとそういう数字が出てくるだけにすぎない。
これは、日本の財政状況の危機が深刻であるかのように政治的にアピールする方便の1つだと筆者は常々考えている。この事実を理解するには、政府・企業・家計という主体別にバランスシートを分けて考えたうえで、俗にいう「日本の借金」は、実は政府の負債であり、家計や企業から政府が借金しているという貸借関係を頭に入れる必要がある。
そうすると、「日本の財政状況は、家計が大規模な借金を抱えている状況」というイメージと実情がまったく異なることが理解できる。よく知られている話かもしれないが、政府部門では、2017年3月末時点で、借金である国債などが1052兆円の負債として計上されている。

政府は借金の一方、日本人は国債という資産を保有

だが、政府よりも大きなバランスシートを持つ金融機関と家計・企業によって、この1000兆円規模の国債(政府負債)の多くが「資産」として保有されている。つまり、政府は借金しているが、一方で日本人が「国債という資産」を保有していることになる。
実際に国債を大量に直接購入しているのは銀行、生命保険会社などの金融機関であり、約1000兆円の国債などを金融機関が資産側に保有している。
一方、家計・企業が国債を資産として保有している分は限られる。ここで、なぜ銀行や生命保険会社が国債を大量に保有するかを理解する前提として、金融機関と家計・企業のバランスシートの関係を理解する必要がある。
金融資産を蓄積している家計・企業の預金や保険料(将来の保険支払いに充当する)が、金融機関にとっての負債に相当するが、その見合いで金融機関は何らかの金融資産を保有しなければならない。その投資先が、1000兆円規模の安全資産である国債になっているわけである。
政府負債である国債をめぐる貸借関係を整理すると、家計・企業の預金(約1200兆円)を原資にして、金融機関を通じて、政府の負債である国債のほとんどが国民によって金融資産として保有されているということになる。要するに、政府部門は1000兆円の負債を、家計や企業などの国民から一時的に借りているだけである。
これを理解すれば、日本人全体でみれば、たとえば500万円の収入の家計が、収入の2倍の規模(1000万円)のローンを抱えているというイメージと、現実がまったく異なることが理解できるのではないか。「借金大国日本」のイメージはバランスシートの1面にフォーカスしているだけで、バランスシートの別の部分をみれば、家計・企業の収入は500万円あるが、同時に安全資産である1000万円の金融資産を保有していると言うこともできる。そういえば、日本は大変豊かな国である、と多くの方は感じるのではないか?

財政健全化に傾倒する「緊縮策」は危険な思想


「緊縮政策への傾倒克服を通じて日本人の生活はより豊かになる」――。筆者の見解をまとめた新著『日本の正しい未来 世界一豊かになる条件』が11月21日発売です。クリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
米国の経済学者である、ブラウン大学のマーク・プライス教授は、財政健全化などを至上命題とする政策を「緊縮策(Austerity)」として、それに傾倒する考えを、危険な思想であると批判している。日本においては、金融市場・経済当局・メディアの関係者の多くが、この「危険な思想」にとらわれているように筆者には見える。安倍政権になってからの2014年の消費増税の失政により、脱デフレ完遂に時間がかかってしまった経緯などをみれば明らかに思える。
日本が「借金まみれ」というのは誤解で、むしろ実際には世界一の資産保有国である。財政赤字や公的債務問題は、日本の「有権者」が自ら選んだ政府に一時的に貸している資産(借金)が増えている、というだけである。そして政府から有権者である国民への借金返済ペースは、国民経済を豊かにするために、余裕を持って決めることができる。性急な増税が妥当な政策なのか、われわれ国民は冷静に賢く判断できると筆者は考えているが、「危険な思想」に傾倒した方々には、冷静な判断が難しいのかもしれない。
【私の論評】政府は不死身!日露戦争の戦費は外債で賄った(゚д゚)!

個人の借金と政府の借金は異なる
「日本は借金まみれ」という言説は間違いであるということは、ブログ冒頭の記事で十分に説明されいて、これ以上付け加えることはないようにも思います。

唯一付け加えると、政府は不死身のようなものですが、人の命には限りがあるということです。国という存在は、世代を超えて受継がれていくものですが、個人はそうではありません。

だから、国の借金を個人や家計の借金と同じように考えるのは根本的な間違いです。個人よりも、企業などの組織、さらに政府ともなれば、膨大な借金を長期間続けても問題はありません。だから、企業や政府はお金を潤沢に借りることができるのです。

逆に、短命な個人は、企業や国などと比較すれば、僅少な借金を短期間しかすることはできません。個人は、自らの収入などに見合った短期の借金しかできないし、してはならないのは当然のことです。

そうして、今の日本はブログ冒頭の記事にもあるように、政府は外国から借金をせず、国内から借金をしているだけです。逆に外国には世界で一番多く、お金を貸している国でもあるのです。

しかし、このような日本も昔は外国から借金をしていたときがあります。たとえば、日露戦争の戦費のほとんどは外国からの借金に依存しました。

そうして、日本政府の先達たちは非常に厚い信用を創ってきました。日本は1905年に日露戦争に勝利して戦争を終えました。しかし多額の借入を背負いました。次の年の1906年からイギリス銀行団とユダヤ人銀行家ジェイコブシフに戦費の借金返済をし始めました。

そしてなんと返済をし終えたのが日露戦争が終わってから82年後の、1986年だったのです。日露戦争の借金を返し終えたのは比較的最近のことです。日本人は借りたものは必ず返すのです。だからこそ、皆さん安心して国債を買うのです。そして日本政府はどんなに時間がかかろうとも必ず返済するのです。

日露戦争の戦地
日露戦争当時の日本は、そのような信用は勝ち得ていませんでした。日露戦争の費用は国家予算の8年分で国債を発行して賄われました。日露戦争の費用は総計で19億8612万円でした。当時の国家予算は2億5000万円だったので、8年分です。

この内、14億7329万円は国債で賄いました。4分の3は借金によって賄われたわけです。では、この国債を日本はどのようにして、消化したのでしょう。

それは、14億7329万円は国債の内、13億円が外債として、外国に引き受けてもらったのです。

しかし、日本の国債を外国に買ってもらうというのは困難なことでした。当時は世界中のほとんどの国が、ロシアと日本が戦争をすればロシアが勝つと思っており、負けると思っている国の国債を買うはずもありません。

この困難な仕事を引き受けたのが、当時、日本銀行の副総裁であった高橋是清なのです。日露戦争が開戦するとすぐに、外債募集のためにアメリカ、ヨーロッパに高橋是清は派遣されます。

高橋是清
当初のアメリカもヨーロッパも日本に投資(国債購入)をしませんでした。高橋是清は、まずアメリカに向かいました。

しかし、当時のアメリカは豊かな国だったのですが、未開の地が多く残る発展途上の国でもあったことで、アメリカ自身がヨーロッパから投資をしてもらっている段階であり、日本に投資をするような状況ではなかったので、外債の募集は難しかったのです。

当時の日本は担保になる資源も無く勝てる見込みも無くまだまだ、国際的な評価が低い状況でした。

次に高橋是清は、ヨーロッパに向かいますが、ここでも結果はあまり良くありません。

当然のことながら当時の日本は、国際的な評価が低くアジアの小国に過ぎなかったので、ロシアに勝てるわけはないと思われていることから、外債を買ってくれる国は現れませんでした。

さらにもう一つの理由が、日本には担保になるものがないことです。ロシアには、広大な国土と鉱山があったので、もし戦争に負けてもそれを取ればいいのですが、日本にはそれに当たるような資産はありませんでした。

よって、ヨーロッパ諸国は日本には金を貸さずに、ロシアにばかり投資をしていたのです。しかし、高橋是清は諦めずにイギリスに向かい成果をあげました。

なかなか外債が売れないままでしたが、日本は日露戦争の直前に同盟を結んでいたイギリスを当てにしていました。

しかし、イギリス人は日本人が思っている以上にシビアで、同盟は結んでも、お金を貸すことは渋り、同盟はあくまでもロシアの脅威から自国を守るためのもので、日露戦争での日本の勝利のためにお金を貸すことではないと考えていたのです。

それでも高橋是清は諦めず、イギリスの銀行家たちを説得し、なんとか500万ポンド分の国債を買ってもらいました。

政府から申し付けられていた額は1000万ポンドでしたが、それでも売れないよりは良かったのです。

やっとの思いで、イギリスで国債を発行できたことのお祝いで、イギリス人の知人が高橋是清を晩餐会に招待してくれました。この晩餐会で彼は、幸運にめぐり合います。

晩餐会には、アメリカ国籍ユダヤ人の銀行家ジェイコブ・シフも招待されていました。高橋是清はジェイコブ・シフに、日本の経済状態についてや、日本の国債を1000万ポンド発行しようとしていることを話しました。

アメリカ国籍ユダヤ人の銀行家ジェイコブ・シフ
すると、ジェイコブ・シフは、売れ残っている500万ポンドを引き受けると言いだしたのです。それには理由があり、当時のロシア帝政が、ジェイコブ・シフと同じユダヤ人を迫害していたのです。

日本と戦争をしてロシアの国力が弱まれば、ロシア帝政は倒れる。そのために、日本に加担しようと考えたのです。

ジェイコブ・シフの協力は、日本が日露戦争を続ける上で多大なる貢献となります。ユダヤ人の迫害を続けていたロシアに日本を勝たせたかった

ジェイコブ・シフは、ロシアにユダヤ人の迫害をやめさせるように様々な努力をしていました。

ヨーロッパ各国に働きかけたり、ロシア政府に抗議したこともあります。さらに、ジェイコブ・シフは、ロシア政府にお金を貸してもいました。

これには、お金を貸すからユダヤ人の迫害をやめてくれというメッセージでした。それでもロシア政府はユダヤ人の迫害をやめません。

このような経緯があり、ジェイコブ・シフは日本に加担することを決めたのです。

一方その頃、日本軍はロシア軍との激突を繰り返していました。日本軍は、1904年4月30日に鴨緑江の渡河作戦を行い、作戦は圧勝となり、日本軍は次々に占領していきます。

これにより、欧米での日本の人気は高まり、高橋是清はようやく当初の予定の外債を消化できたのです。

日本にとって、鴨緑江の渡河作戦は、外債のためにも絶対負けられない戦いでした。もしこの作戦で戦いに負けていれば、日本は外債が消化できず、戦闘が継続できなくなり敗戦していたかもしれません。それぐらい、日露戦争は綱渡り状態だったのです。

鴨緑江の渡河作戦の成功により、イギリスとアメリカで発行された日本の国債は、申込者が予定の数倍以上になり、発行銀行には何十メートルもの行列ができるほどの人気となりました。


日露戦争の軍費は予想をはるかに超え、外債は最終的に8200万ポンド発行されました。戦争前は、1000万ポンドの国債を消化させるのにあれだけ苦労したのに、最終的には、その8倍も発行・消化が出来たのです。

その多くは、高橋是清の功績によるもので、日露戦争は高橋是清の活躍で勝利したと言っても過言ではありません。

この当時と比較して、今の日本は外国からお金を借りているわけてばなく、ブログ冒頭の記事にもあるように、日本国内からお金を借りているわけです。日露戦争当時の日本から比較すれば、会社でいえば無借金経営をしているようなものです。

人と比較すれば、不死身な政府が日露戦争当時の日本のように、個人で借りる場合と比較すると破滅的な額を借りたとしても、返済は可能なのです。ましてや、今の日本は戦争をしているわけでもないし、日露戦争当時のように外国から借金をしているわけではありません。

そんな日本を借金まみれというのは、財務省による増税キャンペーン以外の何物でもありません。私は、このような陰湿な印象操作をする人は、病的であると思います。

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2017年11月20日月曜日

日本版トマホーク、政府が開発の方向で検討―【私の論評】日本がトマホークを持つということは、先制攻撃能力を持つということ(゚д゚)!

日本版トマホーク、政府が開発の方向で検討


 政府は、地上の目標を攻撃できる巡航ミサイルを開発する方向で検討に入った。

 防衛省が2018年度から研究を始める予定の対艦ミサイルに対地攻撃能力の付加を計画しているもので、日本が対地巡航ミサイルを本格的に開発するのは初めてとなる。敵に占領された離島の奪還が主目的だが、敵基地攻撃も性能上は可能で、北朝鮮への抑止力向上にもつながる見通しだ。

 巡航ミサイルは搭載したレーダーなどによって攻撃目標に向かう精密誘導兵器で、弾道ミサイルが放物線を描いて上空から飛来するのに対し、飛行機のように翼とジェットエンジンで水平飛行する。米国の「トマホーク」と共通点が多いことから、防衛省内では開発するミサイルを「日本版トマホーク」と位置付けている。

【私の論評】日本がトマホークを持つということは、先制攻撃能力を持つということ(゚д゚)!

上の記事にでてくる、米軍の「トマホーク」とは、全長:5.56m、直径:0.52m、速度:時速880km、射程:3000kmといわれています。

「トマホーク」は主にレイセヨン社が開発した巡航ミサイルであり、高い性能と実績を持っています。開発は1970年代にスタートして、1980年から対地・対艦攻撃用の兵装として前線に配備され始めました。トマホークミサイルは使用する目標によって主に二種類あり、対艦攻撃用、対地攻撃用に分類されます。

通常のミサイルは射程は150~200kmぐらいですが、速度はかなり速いです。トマホークの場合は速度は比較的遅いものの、北海道の最北端の稚内から九州までは余裕で飛んでしまうということになります。さらに、かなり低空で飛行するため敵のレーダーに発見されにくいです。

それほどの距離を飛ばすだけでも凄いですが、誘導させて3000km先の標的に命中させることができます。

この巡航ミサイルは、デジタル式情景照合装置を使い、最終的に誤差10mまでの精度で命中させるとのことです。とはいいながら、誤爆も多いと聞きます。

これはどうやら狙った建物などの標的に、子供などの民間人がいて巻き添えを食らったため、結果的に誤爆という報道に繋がっているようです。精度は高いのでしょうが、結果的には敵のみをピンポイントで狙うということはかなり難しいことのようです。

飛行するトマホーク
トマホークミサイルは様々なバリエーションがあるため、その威力も多岐にわたります。弾頭を変更できるので、破壊力は搭載されている種類によって変わります。核搭載型もあります。

対艦攻撃型弾頭は着弾による破壊と延焼で艦の機能を喪失させる能力を持っていました。その破壊力は凄まじく、1発で通常の艦艇はもちろんのこと、大型艦も戦闘不能に陥ります。

現在運用されている対地攻撃型の中には通常弾頭の他に戦車や装甲車などの車両を広範囲で破壊するために子爆弾を100個以上内蔵したものがあります。広範囲にわたって甚大なダメージを与えることができます。さらに、地下の目標を攻撃するための強化徹甲弾頭を搭載したものもあり、地下陣地の破壊などに使用されます。

このように地上攻撃型は陣地や車両を破壊するには十分な威力があり、軍事施設も機能を喪失させることが可能です。実際にアメリカ軍が対地攻撃に使用する時は、1、2発とかではなくかなりの数のトマホークを発射するので破壊力は凄まじいものになります。

以下に、湾岸戦争の開始以来、米軍が発射したトマホークの数を国別に表示した表を掲載します。


トマホークミサイルの値段は搭載する弾頭によっても違いますが、約1億円といわれています。2017年4月にアメリカがシリアを攻撃した時に打ったトマホークミサイルの数は59発です。これだけで60億円です。日本で開発するとしても、そんなには変わらない額になることが予想できます。

日本が日本版トマホークを開発することは、北朝鮮への抑止力になる事であり大賛成です。そうして、何よりも良いのは、ミサイルなので、北朝鮮などの敵を攻撃するにしても戦闘機で空爆するのとは異なり、人的被害がおさえられるというのが、良いです。

このブログでアメリカの戦略家である、ルトワック氏による日本の北朝鮮への対応は、先制攻撃か降伏しかないという内容を掲載したことがあります。ルトワック氏は、中途半端な対応は、許されないし、北朝鮮の誤解をまねくだけになるとしています。

中途半端な態度を取り続ければ、降伏したつもりはないのに、北は降伏したものとうけとり、日本に無理難題を押し付けくる可能性もあるのです。

そんなことにならないためには、日本は現実的な対応力として、北の拠点を攻撃する能力を持つべきだとルトワック氏は主張しています。

その一つの方法として、既存の戦闘機に装備品を買い足せば、あまり費用をかけることもなくすぐにも北朝鮮に対する先制攻撃ができるとしています。

北の防空体制は、無きに等しいので、実際これでも可能なのでしょう。そうして、これが北朝鮮に対する抑止力にもなるわけです。

さらに、日本がトマホークを開発すれば、戦闘機などと異なり、戦闘によって人を失うという危険性がさらにへるわけです。

このブログでは、先日、日本も数ヶ月以上も自力で巡航できる、水中ドローンや空中ドローンを開発すべきことを主張しました。これらと、日本製のトマホークや既存の戦闘機、艦艇などと有機的にネットワークで結びつければ、かなりの戦力になると予想されます。

米国の軍事用ドローン
日本は、日本独自の軍事力を持つべきです。日本や、敵国の人員をなるべく殺傷せずに、それでいて効果的にピンポイントで敵の要衝を攻撃して、戦闘力を奪うというような方式の新たな軍事力をもつべきです。

そのためにも、トマホークは役に立つと思います。「はやぶさ」などの高度な遠隔操作技術を持つ日本が、本格的にこれに取り組めば、日本がさらにピンポイントで正確に敵の標的を攻撃できるようになり、敵の戦闘員を殺傷することを最低限にしつつ、ミッションを遂行できるものを開発できる可能性が高いです。

それにしても、日本がトマホークを持つということになれば、それはルトワック氏がいうように日本が先制攻撃能力を持つことを示していることになります。日本がそのつもりではなくても、北朝鮮や中国はそう受け取ります。そうして、かなりの抑止力になることが期待できます。

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2017年11月19日日曜日

【北朝鮮危機】朝鮮半島の最悪シナリオに備えよ 「中国が実質的に支配」なら日本は脅威を直接受けることに―【私の論評】中国が北実効支配なら習近平は寝首をかかれる(゚д゚)!

【北朝鮮危機】朝鮮半島の最悪シナリオに備えよ 「中国が実質的に支配」なら日本は脅威を直接受けることに

米中の「二大大国の覇権争い」で朝鮮半島の危機を考えたとき、日本はどう動くべきか
 朝鮮半島の危機は、単なる日米韓と北朝鮮の枠組みでとらえるのではなく、米国と中国という「二大大国の覇権争い」という構図の中で考えるべきである。例えば、北朝鮮に対する米国の先制攻撃のみならず、中国の先制攻撃の可能性も考える必要がある。

 なぜならば、自国との国境付近で核実験を繰り返し、習近平国家主席の顔に泥を塗る行為を繰り返す北朝鮮に対し、中国は激怒しているはずだ。そして、米軍の攻撃が成功し、その影響力が朝鮮半島全域に及ぶことを、中国は避けたいと思うからだ。

 中国の人民解放軍が北から北朝鮮を攻撃し、南から米韓連合軍が攻撃する案は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を排除する目的のためであれば、米中双方にとって悪い案ではない。今後、朝鮮半島を舞台とした米中の駆け引きが注目される。

 ここで、朝鮮半島をめぐる将来シナリオを列挙してみる。

 (1)現在と変化なく、韓国と北朝鮮が併存する。

 (2)朝鮮半島に統一国家が誕生する。このシナリオには2つのケースがあり、北朝鮮が主導する統一国家が誕生するケースと、韓国が主導する統一国家が誕生するケースだ。両ケースとも、米軍は朝鮮半島から撤退せざるを得ないであろう。

 (3)中国が実質的に朝鮮半島の一部または全域を支配する。このシナリオには2つのケースがある。中国が北朝鮮のみを実質的に支配するケースと、朝鮮半島全域を実質的に支配するケースだ。このシナリオでは人民解放軍がその支配地域に駐留することになる。米軍が韓国に残る場合は「北朝鮮のみを中国が実質的に支配するケース」であり、米軍と人民解放軍が38度線で直接対峙(たいじ)することになる。

(4)米国が朝鮮半島を実質的に支配するシナリオも考えられるが、民主主義国家である米国が採用する案ではないので削除する。

 以上の各シナリオに対し、日本の安全保障はいかにあるべきかを分析すべきだ。最悪のシナリオは「朝鮮半島全域を中国が実質的に支配し、中国の人民解放軍がその支配地域に駐留する」シナリオだ。

 この場合、日本は中国の脅威を直接受けることになり、この脅威に対処するためには、現在の防衛態勢を抜本的に改善する必要がある。

 いずれにしろ、北朝鮮の「核・ミサイル」の脅威は目の前にある現実の脅威であり、これに確実に対処する一方で、朝鮮半島の将来を見据えたシナリオに基づく日本の国家安全保障戦略を構築し、それに基づき防衛態勢を整備することが急務である。

 ■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『米中戦争そのとき日本は』(講談社現代新書)など。

【私の論評】中国が北実効支配なら習近平は寝首をかかれる(゚д゚)!

中国が北朝鮮を攻撃し、中国が実質的に朝鮮半島の一部または全域を支配する可能性については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、正恩氏排除を決断か 人民解放軍が対北参戦の可能性も…軍事ジャーナリスト「黙ってみているはずがない」―【私の論評】中国の北朝鮮への侵攻は新たな火種を生むことに(゚д゚)!
失脚した元人民解放軍トップ郭伯雄氏
この記事を理解するためには、まずは以下のような事実を知っていなければなりません。
人民解放軍は「国家の軍隊」ではなく、共産党の私兵です。そもそも、中国には普通の国でいう、軍隊は存在しないのです。
中国人民解放軍女性兵士?彼女らは、総合商社の一員でもある\(◎o◎)/!
人民解放軍は日本でいえば、商社のような存在であり、実際中国国内外で様々なビジネスを展開しているという事実です。そのような存在でありながら、武装もしており、いわば武装商社のような存在です。そうして中には核武装もしているという異常な組織です。
人民解放軍にはさらなる弱点もあります。中国政府が1970年代から進めた一人っ子政策で誕生した「一人っ子軍人」です。兄弟姉妹のいない環境で過保護に育てられた別名「小皇帝」が軍内部で増加。有事でまともに戦えそうにない“本性”を、災害派遣などの場面でさらしているといわれています。巨大な軍は、実は内部崩壊を招きかねない深刻な事態に直面しているのです。 
さて、このような事実を前提に、この記事にはもし人民解放軍が北朝鮮に侵攻すれば、さらなる火種を生み出すことになることを掲載しました。その部分を以下に引用します。
このような軍とは呼べないような武装組織である、人民解放軍がまともに戦えるとは思えませんが、まかり間違って北朝鮮に攻め込み、北朝鮮に進駐することにでもなれば、それこそ目もあてられない状況になります。北朝鮮は人民解放軍の不正の温床になるだけです。それどころか、金目のものといえば、武器、核兵器、核関連施設だけの北朝鮮と言っても良いくらいなので、これらを海外に売却するということもやりかねません。

かえって、治安を悪化させ、次の戦争の火種を生み出すことになりかねません。米国であろうが、中国であろうが、特に地上戦で北朝鮮を打ち負かした後に、少なくと50年くらい軍隊を進駐させて、民主的な政権を樹立して、自分たちで国を収めることができるように監視を続ける覚悟がなければなりません。

中国の人民解放軍にはそのような覚悟は最初からありませんし、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされていない中国の人民解放軍にはそれはできません。それこそ、腐敗の温床になるだけです。
これをご覧いただければ、北朝鮮に中国が侵攻して、朝鮮半島の一部(現在の北朝鮮に相当する部分)、あるいは朝鮮半島一部に進駐することになれば、とんでもないことになることは明らかです。

一人っ子が多い、武装商社である中国の人民解放軍は、韓国まで攻め込んで一挙に半島を統一して統治するようなことは、ほとんど無理だと思います。しかし、北朝鮮侵攻ということはあり得ない話ではないので、仮に中国が北朝鮮に進駐したとなると、現在の北朝鮮は紛争の絶えない地域になることが考えられます。

まずは、中国が侵攻したことで、北朝鮮の経済も中国のようにある程度は良くなるかもしれません。特に、中国が得意のインフラ整備を行えば、それなりに経済成長するかもしれません。

しかし、中国は他の先進国のように、これをさらになる地域の発展に結びつけるようなことはできず、中国国内のように富裕層だけが潤い、その他大勢の一般の人民は、旧北朝鮮のときと同じ程度の生活水準から抜け出ることはできないでしょう。

これが不満をよび、さらに外国に支配されているということでこれがさらに朝鮮族の不満を呼ぶでしょう。そうして、これから北朝鮮内で紛争が絶えない地域になってしまう事が考えられます。

そうして、この地域に投入される人民解放軍は、大部分は瀋陽に本拠をおく軍制改革後も、《北部戦区》と名前を変えたに過ぎず、今もって「瀋陽軍区」のままの戦区からの人民解放軍ということになると考えられます。この瀋陽軍区にも着目すべきです。



この瀋陽軍区は特に中国人民解放軍の中でも、最精強を誇り、機動力にも優れています。

朝鮮戦争(1950~53年休戦)の戦端が再び開かれる事態への備え+過去に戈を交えた旧ソ連(現ロシア)とも国境を接する領域を担任する旧瀋陽軍区には、軍事費が優遇され、最新兵器が集積されています。

大東亜戦争(1941~45年)以前に大日本帝國陸軍がこの地に関東軍を配置したのも、軍事的要衝だったからです。

習国家主席は、北京より平壌と親しいとされる「瀋陽軍区」によるクーデターを極度に恐れているといわれています。「瀋陽軍区」高官の一族らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しています。

これは、「瀋陽軍区」が密輸支援する武器+エネルギー+食糧+生活必需品や脱北者摘発の見返りです。北朝鮮の軍事パレードで登場するミサイルや戦車の一部も「瀋陽軍区」が貸している、と分析する関係者の話もあります。

もっと恐ろしい「持ちつ持たれつ」関係は核・ミサイル製造です。中国人民解放軍の核管理は《旧・成都軍区=現・西部戦区》が担い「瀋陽軍区」ではありません。「瀋陽軍区」は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいのですが、北京が警戒し許さないのです。

ならば、核実験の原料や核製造技術を北朝鮮に流し、または北の各種技術者を「瀋陽軍区」内で教育・訓練し、「自前」の核戦力完成を目指すということも考えられます。

実際、2016年、中国の公安当局は、瀋陽軍区→北部戦区の管轄・遼寧省を拠点にする女性実業家を逮捕しました。高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリーなど大量の通常兵器の関連部品を北朝鮮に密かに売りつけていたのです。戦略物資の(密輸)重油も押収されました。

しかも、北の核戦力は日米ばかりか北京にも照準を合わせている可能性があります。

その理由は以下のようなものです。
(1)北京が北朝鮮崩壊を誘発させるレベルの対北完全経済制裁に踏み切れば、最精強の「瀋陽軍区」はクーデターを考える。
(2)他戦区の通常戦力では鎮圧できず、北京は旧成都軍区の核戦力で威嚇し恭順させる他ない。
(3)「瀋陽軍区」としては、北朝鮮との連携で核戦力さえ握れば、旧成都軍区の核戦力を封じ、「瀋陽軍区」の権限強化(=対北完全経済制裁の中止)ORクーデターの、二者択一を北京に迫れる。
習国家主席が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れていますが、「瀋陽軍区」を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できぬだけでなく、「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもあります。

「瀋陽軍区」が北朝鮮と北京を半ば無視してよしみを通じる背景にはその出自も関係しています。中国は朝鮮戦争勃発を受けて“義勇軍”を送ったのですが、実はそれは人民解放軍所属の第四野戦軍でした。

朝鮮戦争時に韓国内を侵攻した中国軍
当時、人民解放軍で最強だった第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」だったのです。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人もの朝鮮族が居住します。

いわば、「瀋陽軍区」と北朝鮮の朝鮮人民軍は「血の盟友」として今に至っています。金正日総書記(1941~2011年)も2009年以降、11回も瀋陽軍区を訪れています。

北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するには、北と一蓮托生の「瀋陽軍区」を筆頭とする反習近平派人民解放軍を習近平派人民解放軍が掃討しなければ、決着がつかないことでしょう。

2012年氷点下40度の気温のもとで、演習を実施する瀋陽軍区の高射砲部隊
中国は、国内の内戦の危険を抱えているのです。この内戦で逃げ回るのは、「瀋陽軍区」の猛攻を前に恐れをなす習近平派人民解放軍の役どころかもしれないです。

瀋陽軍区の人民解放軍が北朝鮮に侵攻すれば、金ファミリーは実権を失い以前にもこのブログに掲載したように、ロシアが亡命の手助けをするかもしれません。しかし、朝鮮人民解放軍の組織はそのまま残り、瀋陽軍区と北朝鮮軍により、いずれ中国に反旗を翻すことになりそうです。そうして何よりも、瀋陽軍区は北の核兵器を手に入れるのです。

これを考えると、習近平が自らの私兵である人民解放軍を、北朝鮮に送り込むのはかなり難しいです。もし送りこめめたにしても、瀋陽軍区と北朝鮮軍とに挟まれることになり、中国本土からの供給の道が絶たれ、兵糧攻めで崩壊するかもしれません。

かといつて、瀋陽軍区の人民解放軍を送り込めば、北朝鮮の人民解放軍と結託して、それこそクーデターをおこし、逆に北京に攻め込むということも考えられます。

以上のことから、習近平が北朝鮮に人民解放軍を送り込むことは考えにくいし、送るとすれば、それこそ習近平が命脈がつきかけているというサインかもしれません。

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2017年11月18日土曜日

潜水艦の時代は終わる? 英国議会報告書が警告―【私の論評】水中ドローンが海戦を根底から覆す(゚д゚)!


大量のドローンから潜水艦は逃げられない

海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」
 質・量ともに圧倒的な中国の軍拡と、自衛隊の予算・人員の無駄遣いによって、日本の対中軍事優位性が日々減少している。そうした中、残された数少ない対中優位性の1つが日本の潜水艦戦力である。中国は対潜水艦作戦能力が低く、一方、日本の潜水艦は静粛性が高いので、日本がこの点では有利というわけだ。

 しかし、英国のシンクタンクが議会の要請に応じて作成した報告書によれば、小型偵察ドローンが潜水艦の優位性である「ステルス性」を無力化していく可能性が出てきているという。今回はその内容を紹介しつつ、意味するところを論じたい。

何千もの無人機が潜水艦を探索

2016年3月、英国の英米安全保障情報会議(BASIC)は、科学ジャーナリスト、デイビッド・ハンブリング氏による「対潜戦における無人兵器システムの網」と題する報告書を発表した。報告書の作成を求めたのは英国議会である。英国が潜水艦型核ミサイルシステムを維持すべきかどうかを検討する材料として用いるためだった。

 ハンブリング氏の報告書の概要は、以下の通りである。

 これまでの「対潜水艦戦」(以下、ASW)は、少数の艦艇および有人機によって実行されていた。これらの仕事は、広大な荒野で逃亡者を探す少人数の警察のようなものだった。最も可能性の高い逃走ルートや隠れ家に戦力を集中させて、幸運を祈るだけであった。

 しかし、安価な無人機の登場によって、逃亡者の逃走は不可能になる。一人ひとりの探知能力は低いものの何千人もの応援が警察の側につき、隅から隅まで全域を探索するようになるからだ。

 小型偵察ドローンが米軍を中心に増加している。精密攻撃が可能な小型無人機もイスラエルなどで登場してきている。

 しかも最近の米国防総省は、大量の小型ドローンを「群れ」として使う研究を進めている。例えば、米海軍は「コヨーテ小型偵察無人機」というASW対応の小型無人機を開発した。コヨーテ小型偵察無人機は哨戒機から投下されるや飛行形態に変形し、熱センサーで水温を測定し、風速・圧力などの様々なデータを収集可能する。

 そもそも偵察機を飛ばす必要はなくなるかもしれない。米海軍が開発した小型水上無人機「フリマ―」は、今までASWの主力であったソノブイ(対潜水艦用音響捜索機器)の代替になる可能性がある。

 また、やはり米海軍が開発した「セイル・ア・プレーン」は、飛行機であると同時に偵察時は水上で帆を使って帆走し、太陽発電と波力発電で充電できる偵察機である。

 水中グライダー式の小型無人機もある(水中グライダーは推進機を持たず、浮力を調整することで水中を上下しながら移動する)。大阪大学の有馬正和教授が開発した「ALEX」は低コストの水中グライダーである。有馬教授は、1000ものALEXのような無人機の群れで構成される巨大な共同ネットワークで海洋研究調査を行うことを提唱している。

 なお、現在、水中グライダー研究でもっとも重要な国は中国である。中国は世界初の水中無人グライダー「シーウィング」を瀋陽研究所で開発している。また天津大学のプロジェクトでは、リチウム電池により年単位で稼働するとされる水中グライダーを開発した。西安工科大学も、波力発電で稼働する水中グライダーの開発に成功している。

 しかも問題なのは、近年は水中センサーの発達が目覚ましく、小型無人機がソナー、磁気探知、熱センサー、光センサー、レーザー探知装置など、あらゆるセンサーを搭載できるようになったことである。しかも、米中が開発しているタイプはいずれも何時間、何日も行動可能だからである。

 現在の「コヨーテ小型偵察無人機」の稼働時間は90分だが、燃料電池技術の進捗によりこれは近い将来に5倍になるだろうし、そのほかの技術は無限に小型無人機の飛行時間を延ばすだろう。例えばいくつかの小型ドローンは既に太陽発電や波力発電機能を備えており、80時間以上の飛行に成功したタイプもある。これは昼夜連続で飛行できるということである。また、海鳥が何千時間も連続飛行するメカニズムを応用し、風速を利用した研究も進んでいる。

きわめて遅れている日本のドローン対策

以上のハンブリング氏の論考は一体なにを意味しているのだろうか。

 それは、「National Interest」誌のマイケル・ペック氏が指摘するように、「高コストで壊れやすい潜水艦」と「低コストな小型無人機の群れ」という兵器システム間における争いが起こりつつあるということだ。

 この争いで、潜水艦が優位性を保つのは難しい。例えば、ヴァージニア級攻撃型原潜の価格は30億ドル(約3386億円)だが、小型無人機は5000ドル(約56万円)、30機の群れでも15万ドル(約1680万円)にすぎない。しかも、ヴァージニア級潜水艦は撃沈させられると乗員134名の被害が出るが、小型無人機は何機叩き落されても人的損失は出ない。どう見ても、中長期的に潜水艦システムが費用対効果で不利なのは間違いない。

 そして、これは我が国にとっても深刻な影響をもたらす。海上自衛隊の潜水艦が中国のドローンに追い回され、攻撃される日が来るかもしれない、ということだ。

【私の論評】水中ドローンが海戦を根底から覆す(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事では、ドローンと表現していますが、これに関してはシーグライダーという名称でこのブログに以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。これをご覧いただければ、いわゆる小型の水中ドローンのイメージがつかめると思います。
中国上空の機内から女子高生、北朝鮮SLBMを撮影?…軍事アナリスト「北朝鮮のミサイルと推測」―【私の論評】北SLBM、中国の領空・領海侵犯にもドローン哨戒は有効なことが実証された?
さて、空中のドローンに関しては、まだ、想像の域を超えていない(ブログ管理人注:数ヶ月から数年空中を飛び続けるドローンという意味)のですが、それに良く似たものである、水中ドローンに関しては、すでに日本は開発を終えています。

それは、シーグライダーと呼ばれています。その外観はロケットに似ています。その小さな翼で水中を進み、毎時1キロメートル未満で非常にゆっくり移動します。電力消費量は極めて少ないです。
分解したシーグライダー ワシントン大学応用物理研究室が、
地球温暖化による氷河の変化を観察するため開発したもの
結果として、それは一度に何ヶ月も海中にとどまることができます。2009年には、一挺のシーグライダーが、一回のバッテリー充電のみで大西洋を横断しました。横断には7ヶ月かかりました。
シーグライダーのおかけで、科学者たちは、以前には不可能だった多くの事ができるようになっています。シーグライダーは、海底火山を観察することができます。氷山の大きさを測ることができます。魚の群れを追うことができます。
さまざまな深度で水中の汚染の影響を監視することができます。科学者たちは、シーグライダーを利用して海底の地図を作成することまでも始めています。
シーグライダーはすでに、数ヶ月も継続する任務を遂行することが可能になっています。ところが、日本の研究者は現在、SORAと呼ばれる太陽光発電を使ったグライダーを開発中で、この船は再充電のために2、3日間海面に出れば、その後作業を続けられます。結果として、必要な何年も海に留まることができます。
現在、シーグライダーを製造するにはおよそ15万ドル費用 (ブログ管理人注:当時の計算であり、現在はもっと安価に作成可能)がかかるとされていますが、それがなし得ることを考えれば、その費用は非常に小さいです。シーグライダーを使えば、企業は石油とガスの探索のために海底調査ができますし、政府は軍事情報を収集できます。

上で掲載したシーグライダーを水中に投下するところ
シーグライダーは敵に見つかることなく海面にいる船舶や、近くを通り過ぎる有人潜水艦を特定できます。日本では、軍事転用はまだのようですが、日本の技術をもってすれば、容易にできることです。
ブログ冒頭の記事では、日本がこのような水中ドローンを開発していることは全く触れられていませんでした。おそらく、これは軍事目的のものではないので、 日本では全く開発されていないかのような報道になってしまったのだと思います。

しかし、ドローンに積載する観測装置などを軍事用に変えればすぐにも軍事用にも使えます。それを考えると、日本のドローン対策が極めて遅れているとはいえないと思います。

それに、ブログ冒頭の記事では、海上自衛隊の潜水艦が中国のドローンに追い回され、攻撃される日が来るかもしれないなどとして、脅威を煽っていますが、一つ忘れていることがあります。いくら、ドローンで探査が簡単になったとはいえ、ソナーなどの観測装置が優れていないと、潜水艦の発見は難しいです。

ソナーに関しては、日米のほうが中国より未だかなり勝っていますから、すぐに「海上自衛隊の潜水艦が中国のドローンに追い回され、攻撃される日が来る」わけではありません。それよりも、ステルス性にかなり劣る中国の潜水艦のほうが先に発見されて、攻撃される可能性のほうが高いです。

さらに、掃海能力は日本は世界一です。掃海とは機雷などを除去することです。これは、以前このブログでも掲載したことがあります。水中ドローンなども掃海できるようになれば、日本にとって中国の水中ドローンの脅威も取り除ける可能性が高いです。一方中国の掃海能力はかなり低いので、日本が軍事ドローンを開発した場合、それを掃海することはできないでしょう。

ちなみに、海自は、すでに水中航走式機雷掃討具「S10」や機雷処分具「S7」といった水中無人機を使用して、掃海を行っています。これは、機雷を除去するための水中ドローンです。

日本の掃海母艦「うらが」
しかし、かつて大艦巨砲主義の時代から、航空機と航空母艦の時代に変わったように、現在兵器にもかつてないほどの大きな変化が起こりつつあることは認識しなければならないでしょう。

確かに、いずれ現在の潜水艦の任務のほとんどを水中ドローンが果たす時代がくるかもしれません。ドローンそのものが魚雷や爆雷になっているとか、偵察用ドローンと、攻撃用ドローンが共同するということも考えられます。そうなると、かつての潜水艦はいらなくなるのかもしれません。

水中ドローンだけではなく、空中のドローンのほうも、数ヶ月から数年も空を飛び続けることができるようになることでしょう。実際、Googleが数ヶ月空を飛び続けるドローンを開発中です。

Googleが太陽光で発電して自動飛行する大型のドローンの飛行試験をしています。このドローン飛行試験のプロジェクトは「Project Skybender」と呼ばれており、ミリ波による通信試験も並行して行っている模様です。

Googleが開発中の太陽光で発電して自動飛行する大型のドローン
運送用のドローンを開発していることでも知られるGoogleですが、Skybenderプロジェクトでは4Gの最大40倍高速な5Gの超高速モバイル回線をミリ波を使って空から提供することを狙っていると考えられています。

このようなドローンも軍事転用できます。軍事転用すれば、たとえば、日本であれば、常時数機の軍事偵察用のドローンを空中に待機させ、迎撃や地上のミサイルと連動すれば、北朝鮮のミサイルを常時迎え撃つ体制を築けます。

また、中国の尖閣への空域侵犯にも素早く対応できます。日本列島のまわりに、水中ドローンや空中ドローンを常時待機させて、それらを従来の海軍力と空軍力と結びつけることができれば、かなり防衛力が増すことが期待できます。

また、攻撃型空中・水中ドローンを開発することができれば、さらに防衛力を増すことができます。特にこれは、北朝鮮には有効です。北朝鮮は、防空能力や、対潜哨戒能力などほどゼロに等しいといわれています。狙った目標をかなりの確率で攻撃する事が可能になります。尖閣などを狙う中国に対しても有効です。

潜水艦や航空母艦は今でも有効な兵器ですが、いずれその優位もゆらぎ新たな時代に入ります。航空母艦は今でもステルス潜水艦に簡単に撃沈されてしまう恐れがあります。

地上から発射できる対空ミサイルによって、かつて航空兵力は存在意義を失いました。地上から発射できる比較的安価なミサイルによっても撃墜されるようになったからです。

かつて、敵が対空ミサイルを装備しているとの想定の軍事訓練行ったところ、敵地を攻撃した戦闘機のパイロットは一回の攻撃で、全員が平均で6回から7回も撃墜されたというシミレーションの結果がでた程です。

地上の対空ミサイルの発達によって、戦闘の様相が全く変わってしまったのです。このようなことから、先進国は脅威を感じ、ステルス戦闘機の開発に走り、今日に至っているのです。
携帯型地対空ミサイルM171ショルダー・ランチャーを構える兵士
水中ドローン、空中ドローンの発展はこれに似たようなことになるかもしれません。陸戦においても、小型ロボットが人のかわりをするようになります。

オスプレイや、F35など、数機購入することをやめて、このようなドローンの研究開発に振り向ければ、日本は十分に開発できる能力をもっています。

また、かつて日本の空母打撃群による攻撃や島嶼攻撃が、米軍の手本になったように、これにより日本が再び軍事力で世界の手本となれるチャンスかもしれません。高性能のドローンを開発し、それらを既存の兵力と組み合わせることにより、従来にはなかった高度な軍事力を開発できる可能性があります。

いずれにせよ、水中ドローンが海戦を根底から覆すのも間近になった今日、これから兵器に対する考えを根本的に改めなければならなくなったことだけは確かなようです。

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2017年11月17日金曜日

北朝鮮 SLBM搭載の新型潜水艦建造か―【私の論評】日本は北を先制攻撃しても世界から非難されないが国内で非難されるこの矛盾(゚д゚)!

北朝鮮 SLBM搭載の新型潜水艦建造か

潜水艦のものとみられる部品が移動、SLBM用の潜水艦の建造進展か
 アメリカの北朝鮮研究機関は16日、北朝鮮東部で、弾道ミサイルを発射できる新型の潜水艦の建造が進んでいる可能性があるとして、衛星写真を公開した。

 アメリカの北朝鮮研究機関が公開した北朝鮮・新浦にある潜水艦基地の衛星写真で、建設エリアでは継続的に部品が動かされ、中には潜水艦の船体部分の部品とみられるものがあることから、SLBM(=潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載するための、新型潜水艦の建造が進んでいる可能性があると分析している。

 また、エンジンの噴射実験を示す動きが確認できるとして、潜水艦の建造と並行して、SLBMの開発も続いていると指摘している。

【私の論評】日本は北を先制攻撃しても世界から非難されないが国内で非難されるこの矛盾(゚д゚)!

本日写真を公開したアメリカの北朝鮮研究機関とは、38 Northのことです。この写真が掲載されている元の記事は以下のリンクからご覧になることができます。
North Korea’s Submarine Ballistic Missile Program Moves Ahead: Indications of Shipbuilding and Missile Ejection Testing
38Northは、フェイスブックページがあります。以下にそのページのリンク先と、そのページにあった写真を掲載します。
https://www.facebook.com/38NorthNK/

38ノース(38 North)は北朝鮮に関する分析を専門とするウェブサイト。ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院の米韓研究所(USKI)のプログラムであり、米国務省の元職員ジョエル・S・ウィットとUSKIアシスタント・ディレクターのジェニー・タウンによって管理されています。

著名な貢献者として核科学者のジークフリート・ハッカー 、元AP通信平壌支局長のジーン・H・リー 、サイバーセキュリティの専門家ジェームス・アンドリュー・ルイス及び「ノースコリア・テック」の創設者マーティン・ウィリアムズがいます。

Siegfried S. Hecker (ジークフリート S. ハッカー)
38ノースは北朝鮮の主要分野の商業衛星画像を使用し、アナリストに国内の開発に関する洞察を明らかにする機会を提供しています。たとえば、過去に以下のような発表を行っています。
2013年11月、38ノースは北朝鮮のミサイル発射地点で新たな建造物を発見したと公表し、より大型のロケットを扱えるようにアップグレードされていると述べました。
2015年12月21日の北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1号」の「排出」実験後の2016年1月に、38ノースは新浦市南部の造船所の衛星画像分析を使用して北朝鮮のSLBMプログラムについて報告しました。ジョセフ・バミューデスは衛星画像は北朝鮮のSLBMプログラムへの能動的な探求を示していると述べ 、その予測は後に2016年の3回のSLBM実験(4月23日、7月9日、8月24日)や、2017年2月13日に北極星1号を改良し、地上発射型にした新兵器「北極星2号」の試験発射成功で裏付けられることになりました。
2016年1月下旬、38ノースは北朝鮮の東倉里ミサイル発射場での不審な活動を報告しました。ジャック・リウによる衛星画像分析で東倉里の主要施設と地点で低レベルの活動が示されました。記事が公表されてから10日後、北朝鮮は東倉里で人工衛星「光明星4号」を搭載した光明星の打ち上げを実施しました。
2016年4月、38ノースのアナリストは主要プラントを加熱するために使われた寧辺核施設の蒸気プラントから出ている排気プルーム(煙)について報告しました。これは追加プルトニウムの再処理が進行中である徴候の可能性があるとされました。4月中旬、38ノースは北朝鮮が核兵器用のプルトニウムの再処理を開始したことを示す活動を報告しましたが、国際原子力機関は約2ヶ月後の6月7日まで認めませんでした。
2016年9月、38ノースはジョセフ・バミューデスとジャック・リウによって行われた衛星画像分析に基づき豊渓里核実験場の3か所のトンネル全てで新たな活動が見られると報告したました。この活動は、メンテナンスと小規模な掘削作業が再開したことを示していました。翌日、北朝鮮は豊渓里で5回目の核実験を実施しました。
過去の実績内容からみても、38ノースはかなり確度の高い情報を提供しています。北朝鮮情勢を知るには見逃せないサイトです。

朝鮮中央テレビでは、昨年「戦略潜水艦弾道弾水中発射成功」を大々的に報道しました。その動画を以下に掲載します。



このときは、まだ半信半疑でした。今回の38ノースの発表からどの段階までいっているのかわかりませんが、SLBMとこれを発射可能な潜水艦を開発中であることは間違いないようです。いつ開発に成功し、実戦配備するのかは、まだ未知数ですが、北朝鮮の過去の核・ミサイルの開発をふりかえると、いずれ数年のうちにはブロとタイプができるとみるべきでしょう。

だからこそ、38ノースはこの動きを公表したのでしょう。日米の対潜哨戒能力などは、かなり高度であり、たとえ北朝鮮がSLBM発射可能の潜水艦を開発したとしても、それを撃沈することはできます。しかも、北朝鮮の付近の海域には、日米が追跡することが不可能なとほどの深い海域はありません。

さらに、北朝鮮の潜水艦は原潜ではないので長い期間潜水することはできません。また、原潜までいかなくとも、技術水準の高い水準の高い日本の新型潜水艦のように、実戦的には十分であると考えられる長時間潜水もできません。ちなみに原潜は理論上、無限近いほどに潜水していられますが、乗組員の飲料・食料の補給、交代があるため限界があります。

しかし、そうはいっても潜在的脅威になることは間違いないです。北朝鮮のSLBMを搭載した潜水艦がオホーツク海や、南シナ海の深海に潜伏することが可能になれば、日米もこれを発見することは難しいです。

現状では、そんなことはあり得ないと断言できますが、中国がその究極の目的である深い海域のある南シナ海を中国原潜の聖域(戦略原潜を深海に沈めて敵から発見できない場所)にすることに成功した場合、北朝鮮の潜水艦もここを聖域にすることを許容するなどということも考られます

あるいは、元々北朝鮮という国をつくったソ連の後継国であるロシアが、深い海域が存在するオホーツク海を北朝鮮の潜水艦の聖域にすることを許容するなどということも全くあり得ない話ではありません。

もし、そのようなことがおこることが事前に察知できた場合には、日本としては北朝鮮の潜水艦を撃沈することも視野にいれておかなければなりません。

イスラエルは、過去にイラクの原子力施設を破壊したことがあります。これは、イラク原子炉爆破事件として有名です。

建設中に破壊されたイラク・「オシラク原子炉」
イラク原子炉爆撃事件は、イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を、バビロン作戦(別名オペラ作戦)の作戦名で1981年6月7日に攻撃した武力行使事件です。

これはイラクが核兵器を持つ危険性があるとして、イスラエルが「先制的自衛」目的を理由にイラクに先制攻撃を行ったものです。この攻撃に対して国際連合安全保障理事会決議487(英語版)がなされ、イスラエルは非難されました。

バビロン作戦における戦闘爆撃機の飛行進路
しかし、これはイラクの原子力施設が必ずしも核兵器につながるとはいえないにも関わらず、先制攻撃したため非難されたものです。しかし、結果としてイスラエルはイラクの原子力施設を破壊して、イラクの核の脅威を葬り去ったのです。

日本の場合は、北朝鮮が日本に攻撃すると威嚇し、実際にミサイルの発射実験を行ったり、核実験を行っているし現実に北朝鮮は日本にミサイルを発射することができるわけです。北朝鮮の報道官が、今年8月9日に「日本列島を瞬時に焦土化できる」と警告する声明を発表しました。日本が北朝鮮を先制攻撃をして、核施設やミサイル施設を破壊したとしても、イスラエルのように非難されることはありません。

当の北朝鮮や、中国やロシアなどは非難するかもしれませんが、国際連合安全保障理事会決議により、非難されるということにはなりません。他の国々は最初から非難することもないでしょう。

なぜなら、国連憲章でも独立国の自衛戦争は認めらているからです。独立国であれば、自国が他国に攻撃されることがあらかじめわかっている時に自衛のために他国を攻撃することは自然権であるという認識は、世界の常識です。その常識が日本にだけ通用しません。

日本も、この自衛戦争は、憲法改正でも良いし、憲法解釈の改変でも良いのでできるようにしておくべきです。

仮に日本が北朝鮮を先制攻撃しても、世界から非難されることはないのに、日本国内で非難されるという、この奇妙な現実は変えなければなりません。

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2017年11月16日木曜日

トランプ氏の「インド太平洋」発言、対中外交戦略の大きな成果に 北朝鮮への対応でも議論進む―【私の論評】トランプ外交を補完した安倍総理の見事な手腕(゚д゚)!

トランプ氏の「インド太平洋」発言、対中外交戦略の大きな成果に 北朝鮮への対応でも議論進む

東京・米軍横田基地で演説したトランプ米大統領
 11月10、11日に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議では、北朝鮮問題はどのような構図で話し合われたのか。そして日本にとって成果は見いだせたのだろうか。

 トランプ米大統領のアジア歴訪は、日本からスタートした。大統領専用機が米軍横田基地を使ったことについて、外交上問題があるという指摘が一部の左派系論者からあった。筆者が出演した関西のテレビ番組でもそうした意見が出ていた。

 これに対して、筆者は異論を唱えた。横田基地への到着、その後のゴルフ場や都心へのヘリ移動、そして横田基地からの離日というトランプ氏の行程は、すべて「横田空域」の中である。平時であれば、このような行動はないだろうが、今は「準戦時体制」と思ったほうがいい。北朝鮮からの対話を引き出すために、最大限の圧力をかけるときである。

 そのためには、北朝鮮がトランプ氏に対して一切挑発できない状態にすることが望ましい。これは外交上の圧力にもなる。

 このトランプ氏の姿勢は、韓国でも同様で、真っ先に訪れたのは在韓米軍だった。

 米軍がこの時期に日本海で空母3隻を配備したのも、北朝鮮への圧力である。

 これは、過去に米国が軍事行動をとった際と同じ程度だ。1986年のリビア攻撃の時は空母3隻、2001年のアフガニスタン空爆の時は空母4隻が出撃している。今回、米軍の空母3隻は、日本の海上自衛隊の艦船との共同訓練も行った。

 トランプ氏は中国を訪問した際、習近平主席とも北朝鮮問題を話し合ったはずだ。トランプ氏はツイッターで「中国の習主席が対北朝鮮制裁を強化すると述べた。彼らの非核化を望んでいると言っていた。進展している」と記している。

 APECでは、トランプ氏とロシアのプーチン大統領の間で非公式な会合があり、シリア問題について話し合ったようだ。

 安倍晋三首相もAPECをうまく使った。中国、ロシア、カナダ、メキシコ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、インドネシア、マレーシアの各国と2国間で首脳会談を行った。中国とは、安倍首相の訪中や習主席の来日といった外交日程のみならず、朝鮮半島の非核化や国連安保理決議の完全な履行についての連携など、北朝鮮問題についても話し合っている。

 ロシアとは、北方領土問題で双方の法的立場を害さない形で来春に向けてプロジェクトを具体化するための検討の加速に加えて、対中国と同じく朝鮮半島の非核化や国連安保理決議の完全な履行への連携など北朝鮮問題も議論した。

 安倍首相は、インド太平洋での自由貿易圏という構想を持っていたが、トランプ氏は完全にそれに乗っている。アジア歴訪の中で、「インド太平洋」との言葉を頻出させ、APECでの演説でも使った。

 日本は北朝鮮問題への対応と、インド太平洋で中国への対抗という大きな成果を得た。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】トランプ外交を補完した安倍総理の見事な手腕(゚д゚)!

12日間に及ぶアジア歴訪の成果を自画自賛したトランプ大統領。北朝鮮の核問題や貿易不均衡の是正で成果があったといいます。またアメリカ国民が負担してきた共同防衛の費用を日本に受け持たせて雇用を生み出すと強調しました。

一方、安倍総理はきょう、ハリスアメリカ太平洋軍司令官と会談、北朝鮮への対応について協議しました。ハリス司令官は海上自衛隊とアメリカ海軍空母の共同訓練を評価、有事の際に向け連携強化に期待を示しました。安倍総理も一連の外交を終え、成果として日米の連携強化を最大限にアピールしています。

表敬訪問したハリス米太平洋軍司令官(左)と握手する安倍晋三首相=16日午前、首相官邸
今回の安倍総理の外交の真骨頂は、トランプ大統領の「商談外交」の欠陥を補完して、北朝鮮に対する国際世論を盛り上げ、包囲網実現へとつなげたということだと思います。

トランプ大統領は外交・国際政治の未経験という弱点を露呈しました。疲弊したのでしょうか、トランプ大統領は最重要会議である東アジアサミット(ESA)を欠席して帰国、アジア諸国首脳らの落胆とひんしゅくを買いました。

トランプ大統領は、複雑な利害の錯綜するアジア外交への対応能力の限界を見せたということだと思います。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「トランプ氏が中国による重商主義拡大を米国の犠牲の下に放任した」と警鐘を鳴らしました。

これとは対照的に、安倍総理の活躍が目立ちました。安倍総理の基本戦略はまずトランプ大統領の訪日で、核・ミサイル開発に専念する北に対する圧力を最大限に高め、日米共同歩調を確認することでした。

その上でトランプ大統領に中国を説得させて北への圧力を強化させ。次いで東南アジア諸国への働きかけで国際世論を盛り上げる目論見でした。ところが肝心のトランプ大統領が中国で習近平の手のひらで踊ってしまいました。

2500億ドル(28兆円)の「商談」で舞上がって、対北問題をお座なりにしてしまったのです。一応は北への圧力を最大限高める方針を主張したのですが、習近平は国連決議の履行以上の言質を与えず、軽くいなされてしまいました。

効果への疑問が指摘されている2500億ドルの「商談」に目がくらんで、毎年2700億ドル規模の対中貿易赤字が発生している問題などは素通りしてしまったのです。私自身は、貿易赤字そのものはさほど問題ではないと思うのですが、それにしても、その赤字の中身が問題であり、中国のブラック産業的なものの米国への輸出自体にはかなり問題があると思います。

まともな先進国同士の輸出、輸入であれば、貿易赤字そのものではなく、その中身を分析(たとえば経済成長が続くと、外国からの輸入が増えるが、これによる赤字は健全)ということになりますが、中国国内の非近代的な産業構造、低賃金労働、劣悪な労働条件による低価格化による米国の輸出は、いわば中国によるブラック的なものを米国に輸出していることにもなり、それが米国産業の毀損にもつながります。

これが問題の本質であって、単純に貿易赤字やその額そのものを問題にするトランプ大統領にはこのことに気づいて欲しいものです。気づいていたにしても、それをはっきりと他の国々にもわかるように主張して欲しいものです。

習近平主席とトランプ大統領会談
一方安倍総理は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国首脳と精力的な会談を行い、北朝鮮問題の実情を説明しました。これが14日の首脳会議に結実した。ほとんどの首脳が北の核・ミサイル開発に対する懸念を表明するとともに、国連安保理決議違反を指摘しました。

これにより、北朝鮮包囲網がかなり強化されました。さらに重要なのは多くの首脳から中国が実効支配を進める南シナ海の問題に関して「航行の自由に抵触しかねない」などの懸念や指摘が出されたことです。

東アジアサミットは議長声明で北朝鮮による核・化学兵器など大量破壊兵器やミサイル開発を非難し、核・ミサイル技術の放棄を要求するに至りました。これは北朝鮮の兄貴分である中国ならびにロシアをけん制するものでもあります。

一方でトランプ大統領は、米政府がこれまで中国の人工島造成による軍事拠点化に、「待った」をかける役割を果たしてきたことなど念頭になかったようです。結局南シナ海問題で中国への強い姿勢を打ち出せないままとなり、強い指導力を発揮させることは出来ませんでした。

トランプ大統領は、オバマは無論のこと、歴代大統領が打ち出し続けてきたインド太平洋地域に関する自らのビジョンを示さないで歴訪を終わらせてしまいました。15日付読売によるとベトナム外交筋は「米国が南シナ海問題で抑制的に対応する間にも、中国は軍事拠点化を着実に進める。遠くない将来、中国の南シナ海支配を追認せざるを得ない時が来るのではないか」と述べているといいます。

ASEAN首脳会議の開幕式で、壇上でドゥテルテ大統領(右)と握手するドナルド・トランプ
米大統領。トランプ氏の左隣はベトナムのグエン・スアン・フック首相、左端はロシアの
ドミトリー・メドベージェフ首相=12日、フィリピン・マニラの文化センター
経済問題でもトランプ大統領は「インド太平洋地域のいかなる国とも2国間貿易協定を結ぶ。われわれは、主権放棄につながる大きな協定にはもう参加しない」と発言しました。

これは米国が戦後作り上げた多国間貿易システムを否定し、輸出のための市場を自ら閉ざすことを意味します。なぜなら、TPPの離脱で米国の輸出業者はGDPで世界の16%を占める市場で不利な立場におかれるからです。

トランプ大統領はいまや2国間協定で米国が個別に圧力をかけようとしても、貿易構造の多様化で多くの国が痛痒を感じない状況であることを分かっていないようです。

WSJ紙は「米国の最大の敗者になるのは、農業州と中西部にいる大統領支持者だろう。TPPは米国にとって、アジアの成長から恩恵を得られる絶好のチャンスであり、トランプ大統領の抱く不満の種を是正する部分が少なくない」と批判しています。

しかし、かたくななまでに2国間貿易に固執するトランプの方針は覆りそうもなく、世界は次の政権を待つしかすべがないというのが実情でしょう。こうしてトランプのアジア歴訪の旅は、指導力を発揮するどころか、事態をますます流動的なものにしてしまったようです。

一方、TPP11が日本の主導により大筋合意に達しました。カナダ及びメキシコからは不協和音が聞こえるものの、米国が撤退したにも関わらず、日本が主導して合意に漕ぎつけたことは日本外交の大きな一歩です。

11日までベトナム・ダナンで開催された、米国を除くTPP参加11カ国の閣僚会合
更に、APECの場に於いてトランプ大統領が、安倍首相が2016年TICADに於いて提唱した「インド太平洋構想」を「自らの案」として提案したことも、同じく日本外交の大きな一歩です。

その演説の中で“中国の不公正な貿易と巨大な貿易赤字"を取り上げ、“政府の計画立案者ではなく、民間産業が、投資を先導すべきである"と述べ、“経済的な安全保障と国家の安全保障は同等のものである"と言い切ったことは、中国の掲げる「一帯一路構想」と対峙する姿勢を鮮明にしたものであり、中国に飲み込まれんとするアジア諸国にとっても少なくともアジアにおける「米国のプレゼンス」を確認できたことは朗報であったといえます。

トランプ大統領の今回のアジア歴訪で、得た唯一の本当の成果はこれだけかもしれません。もし安倍総理が、インド太平洋での自由貿易圏という構想をだしていなかったら、これもなかったかもしれません。

一方、共産党大会で独裁体制を確立した「習近平の強さが浮き彫り」(ワシントンポスト紙)になった形となりました。しかし、安倍総理は、トランプ大統領の商談外交を補い、この習近平の強さも、打ち消された形になりました。

トランプ大統領は、元々政治家ではなく、実業界で名を挙げた人であり、外交に疎いのは仕方ないことです。今回のアジア歴訪も、初めての本格的な外交としては、及第というところだと思います。そうして、その背景には安倍総理の外交努力がありました。

このブログでは、安倍総理はトランプ大統領には外交でかなりあてにされているということを掲載したことがあります。 

なぜそのようことになったかといえば、安倍総理の外交努力によって安倍総理は、ASEANやインドと関係が深いため、これらの諸国とトランプ氏と仲介役をしたところ、米国とこれらの国々の関係が飛躍的に良くなったという経緯があるからです。 

まさに今回の一連の日米のアジア地域の外交においても、安倍総理は経験の少ないトランプ大統領を補完して、総体としては日米に有利になるように、事を運びました。

もし、安倍総理が旧来の総理大臣ように、米国に追随するばかりで主体的な行動しなかったとしたら、日米両国とも今回の外交でも、さしたる効果を挙げられないどころか、より一層、中露に水を開けられ、日米ともにアジアでの影響力を失っていたことでしょう。

トランプ大統領は今後ますます、安倍総理に対して全幅の信頼を寄せることになったと思います。

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2017年11月15日水曜日

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」―【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

トランプ氏、正恩氏に亡命促す? 異例ツイートで“真意”注目、識者「行き着く先はロシアのプーチン大統領」

トランプ氏と正恩氏は水面下で「ディール」を続けているのか? 写真はブログ管理人挿入以下同じ
 ドナルド・トランプ米大統領の“真意”が注目されている。国際社会の警告を無視して「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に、原子力空母3隻を集結させる「最大限の圧力」をかける一方で、ツイッターに「友人になれるよう懸命に努力する」と投稿したのだ。米朝による水面下接触のサインなのか、軍事行動前に外交努力をした実績づくりなのか…。関係者の中には、正恩氏の「亡命」を推察する声もあり、具体的国名まで指摘されている。

トランプ大統領のツイート

 日米中露など18カ国が参加する東アジアサミット(EAS)を含む、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議が14日、フィリピン・マニラで開かれた。「核・ミサイル開発」で暴走する北朝鮮をめぐる情勢や、南シナ海問題への対処が主な議題となる。

 ASEAN首脳会議の議長声明案では、北朝鮮の「核・ミサイル開発」について「挑発的で脅迫的な行動」と批判。北朝鮮に一連の行動をやめるよう求め、「完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化」への支持を再確認している。

 議長声明では、北朝鮮の行動について「重大な懸念」を表明する見通し。

 軍事的圧力も強まっている。

 世界最強の米軍が誇る原子力空母3隻が11日から、日本海で合同軍事演習を実施した。トランプ氏の「北朝鮮の核・ミサイル保有は許さない」という強い決意の表れに他ならない。

 こうした朝鮮半島の緊張状態と、トランプ氏が12日に投稿したツイッターの内容は相反している。これまで正恩氏を「リトル・ロケットマン」と嘲笑し、強く非難してきたが突然、友人関係を求めたのだ。

 北朝鮮にも変化が見られる。9月15日に北海道上空を通過した弾道ミサイル発射以降、軍事的威嚇を行っていない。

 日米情報当局関係者は「北朝鮮の『核・ミサイル』実験などの中止は、正恩氏が『いま動いたら殺される』『軍事行動の大義にされる』と確信したからだろう。米国としては、北朝鮮が米本土を狙う核ミサイルを持つことは認められない。甚大な被害が出かねない第2次朝鮮戦争も、できれば避けたい」と話した。

 こうしたなか、注目されるのが、米国と中国が8月、「事実上の往復書簡」で交わしたとされる“暗黙の了解”だ。

 往復書簡とは、中国共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」の社説と、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」に、レックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官の連名寄稿を指したもの。

 前出の日米情報当局関係者は「米中は『北朝鮮という国家は(緩衝地帯として)残す』『正恩氏は排除し、核・ミサイルを放棄させる』『米中戦争にはさせない』という暗黙の了解をしたと受け止められている。トランプ氏は中国訪問(8~10日)で、これを確認したのではないか」と語る。

 北朝鮮を残したままでの「正恩氏の排除」となれば、「暗殺」か「亡命」が考えられる。この延長線上で、トランプ氏の異例のツイートが注目されるのだ。

 日米情報当局関係者は「外交の駆け引きは字面だけで判断できない。ツイートの背景としては、(1)米朝の水面下接触が進んでいる(2)軍事行動前に『外交努力をしたが、北朝鮮が蹴った』という実績づくりのため(3)正恩氏に亡命を促すメッセージ-などが考えられる」と分析する。

 現実として、正恩氏が亡命するような事態が起こり得るのか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「金王朝が滅びることになれば亡命せざるを得なくなるだろう。例えば、米軍機に北朝鮮がミサイルを撃ち、米朝の緊張が高まり、中国人民解放軍が北朝鮮に入ってくるような大混乱となれば、正恩氏は国内を統制できなくなるかもしれない。中国共産党の息のかかった連中がクーデターをやる可能性もある。北朝鮮が体制崩壊となった場合、正恩氏が一番頼りにしているのは、ロシアのプーチン大統領だ。正恩氏の亡命先はロシアしかないだろう」と語る。

 朝鮮半島情勢は、どう展開していくのか。

【私の論評】金ファミリーの亡命も選択肢の一つ(゚д゚)!

いまの北朝鮮は、言ってみれば「プーチンランド」と化しています。ディズニーランドに行けばミッキーマウスに会えますが、北朝鮮に行けば、随所にロシアの「痕跡」が見られます。もはや金正恩政権は、ロシアの傀儡政権と言っても過言ではありません。

北朝鮮のロシア人ツアー客。ロシアでは7月1日から、「オールインクルーシブ」プラン
での5日間の観光ツアーで北朝鮮を訪れることができるようになった
解放記念日(8月15日)の『労働新聞』に、金正恩委員長がプーチン大統領を称えた書簡が大きく掲載されていました。

ロシアの有力紙『モスコフスキー・コムソモーレツ』(9月7日付)には、17kmあるロ朝国境近くに位置するハサン村のルポが掲載されており、村の事務所には、金日成・金正日・プーチンの3人の写真が、並んで掲げられていたのです。

これは、平壌最大の目抜き通り「栄光通り」が、「スターリン大通り」と呼ばれていた時代を髣髴させます。そもそもソ連極東軍88旅団所属の金成柱を、ソ連が「金日成将軍」に仕立て上げて平壌に連れてきたのが、北朝鮮の始まりでした。

現在の北朝鮮は、それから70年近く経て、またもとに戻りつつあるようです。ロシアの最新の世論調査によれば、米朝対立の原因が北朝鮮にあるという回答は、わずか12%。ロシアは北朝鮮の味方です。

9月3日の北朝鮮による水爆実験にも、プーチン政権の影を感じられます。なぜなら5日前の8月29日に、ロシア政府がハサン村の住人約1500人に突然、避難命令を出していたのです。

羅先とウラジオストクを結ぶ北朝鮮の貨客船『万景峰号』も、8月24日に突然、運航中止となりました。

日本のメディアは、「北朝鮮がウラジオストクの港湾使用料を未払いだったため、ロシア側が停泊を拒否した」と報じていましたが、これはとんでもない誤解です。あれも水爆実験の被害を避けようとした措置であるとみられています。

ちなみに実験場所からわずか100kmしか離れていない中国には、事前通告さえなかったそうです。だからこそ、あの水爆実験は、北朝鮮とロシアによる「合作」であるとみなすべきなのです。

そもそも、広島型原爆の10倍規模の威力もある高度な水爆技術を、北朝鮮がこれほど短期間で独自に持てるはずはないです。

カギを握るのは、ウラジオストクに本社がある「ロシア極東山岳建設」という会社です。元はソ連の国土交通省の一組織で、プーチンが大統領になって平壌を訪問した2000年に民営化された「プーチン系」企業です。

ウラジオストックのメインストリート・スヴェトランスカヤ通り
この会社が、北朝鮮のインフラ整備にフル稼働しています。中でも、最も得意とするのが山岳地帯のトンネル建設であり、豊渓里の核実験場の工事を請け負ったのではないかとされています。

これは、坑道を800mも掘ったり、人間の大腸のような複雑な構造にしたりして、放射能漏れを防いでいます。とても北朝鮮の技術とは思えません。

このロシア極東山岳建設は、坑道建設ばかりか、羅先-ハサン間54kmのロ朝間の鉄道建設も請け負っています。

この鉄路建設は、先代の金正日総書記が、'01年から'02年にかけて2年連続でロシアを訪問する中で決めたものです。

その後、建設が延期され、'08年に、ロシアが羅津港を49年間、租借することと引き換えに着工。'13年9月に、羅津港で開通式が行われました。

ロシア極東沿海地方のハサンと北朝鮮北東部・羅先経済特区の羅津港を結ぶ
鉄道区間の改修に伴って実施された列車の試験運行。(2011年10月12日)
開通式には、ロシア鉄道のヤクーニン社長も、モスクワから駆け付けました。その際、一つ不可解なことがありました。計画から着工まで7年もかかったのは、北朝鮮側が建設費用の負担を渋ったからでした。かつて100億ドルも北朝鮮に債務不履行されたロシアが、二の足を踏んだようです。

ところが、着工から竣工までも、丸5年もかかっているのです。もともと植民地時代に日本が敷いた鉄路があり、しかもわずか54kmにもかかわらず、この工事期間は、あまりに長いです。

ロシア極東山岳建設の最も得意な分野は、地下トンネルの建設です。おそらくこの鉄路の地下に、有事の際、金正恩一族が亡命するためのトンネルを建設したのではないかと推察されます。

加えて、両国を結ぶ鉄道建設という名目なので、アメリカのスパイ衛星も警戒心を抱かないです。この鉄路によってロシアとの貿易が急増すると同時に、トップの身の安全も図れるのです。北朝鮮にとっては、まさに一石二鳥です。

これも金正日総書記時代の話ですが、ある高位の亡命者が有事の際の金ファミリーの亡命ルートを告白したということがありました。

その亡命者によれば、平壌の金正日官邸の地下から、黄海の南浦まで、60km近く秘密の地下道が繋がっているそうです。南浦からは空路か海路で中国に亡命すると聞きました。

しかし、いまや習近平政権は、犬猿の仲の金正恩ファミリーを受け入れるはずもないので、このルートは使えません。それでロシアルートを作ったのでしょう。

アメリカから攻撃されて、金ファミリーが、羅先から地下トンネルを伝ってハサンまで逃げたとします。そこから一路、軍港があるウラジオストクまで行くに違いないです。

しかし極東にいたのでは、いつアメリカ軍に襲われるか気が気でないはずです。ロシアとしても、独裁者を匿っていると国際社会から非難を浴びることになります。

実は中国政府も、かつて金正日ファミリーの亡命について、密かに内部で検討したことがありました。'02年にブッシュJr.大統領が、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難して、米朝関係が悪化した頃です。

その時の結論は、「ファン・ジャンヨプ方式にする」というものでした。北朝鮮の序列26位だったファン・ジャンヨプ書記が、'97年に北京の韓国領事館に亡命を申請した時、中国政府は、3ヵ月以内に出国することと、米韓以外の第三国に向かうことを条件に、身の安全を保障しました。

同様に金正日ファミリーに対しても「3ヵ月以内の滞在」しか認めないようです。ロシアもそのあたりは熟考したはずです。

それでロシアの結論は、金正恩ファミリーを、ウラジオストクから北極海に面したムルマンスク軍港まで軍用機で運び、そこから約1000km離れたスヴァールバル諸島に、亡命先を用意することです。

この任務を担うロシア保安庁(旧KGB)の特殊部隊RSBが、すでに金ファミリーのボディガードを務めています。

スヴァールバル諸島とは、北極海に浮かぶ群島です。第一次世界大戦の頃、ロシア、ノルウェーなど、多くの国が領有権を争ったため、大戦終結後のパリ講和会議で、スヴァールバル諸島を、永久非武装地帯としました。以下にその位置を地図で示します。


このスヴァールバル条約には、ロシアやアメリカなど40ヵ国以上が加盟していますが、島内にはロシア人居住地区があり、ロシアの法律が適用されています。ここには、世界でもっとも北端に位置するレーニン像があります。

スヴァールバル諸島の面積は、ちょうど九州と四国を足し上げたくらいの大きさです。夏は4〜6度くらいまで気温が上がりますが、冬は-12〜-16度にもなる極寒の島です。

大部分の島が永久凍土に閉ざされ、人が住める島は1つのみ。植物はほとんど生えていません。

「スヴァールバル条約」を批准している国の国民であれば、スヴァールバル諸島に「ビザなし」で住め、しかも「外国人の戸籍のまま商売」ができます。ちなみに、日本もこの条約を批准しています。

2012年時点で、2642人が島で暮らしています。大部分がノルウェー人ですが外国人も暮らしていて、439人のロシア人、10人のポーランド人、その他タイ、デンマーク、スウェーデンの人が暮らしています。

この条約は、今から100年近く前の条約ですが、1920年代から'30年代にかけて各国が加盟しました。ところが昨年になって突然、このスヴァールバル条約に、ロシアの後押しを受けて、北極海になど、何の縁もない北朝鮮が加盟したのです。これは朝鮮人労働者の受け入れの他は、金ファミリーの亡命目的以外には考えにくいです。

しかも現在、島内のロシア人居住地区で、大邸宅の建設が始まっていることまで分かっています。

スヴァールバルはスピッツベルゲン島という名前でも知られている。
今でもロシア人が生活している唯一のバレンツブルクという集落
これを知れば、なぜ金正恩委員長があそこまで強気でいられるのか、その理由が理解できます。いざとなればロシアが逃がしてくれるという「保険」があるのです。

プーチン政権は、核の技術もミサイルの技術も提供したあげく、亡命先まで用意したのです。金正恩にとってこれほど頼もしい庇護者はいません。

しかもプーチン政権には、シリアがあれほど激烈な内戦のさなかにあっても、6年半にわたってアサド政権を守り続けてきたという実績があります。

プーチン政権がそこまで金正恩政権に肩入れする理由としては、やはり極東におけるアメリカと中国という両大国への剥き出しの牽制だと考えられます。

米中露「3大国」とは言うものの、ロシアの経済力は米中に較べて圧倒的に脆弱です。ロシアの現在のGDPは日本の1/5程度です。ロシアの人口は日本よりわずかに多い、1億4千万人、そうして極東には600万人くらいしかロシア人が住んでおらず、強い危機意識を抱いています。だから「東アジアのシリア」を作りたいのです。

もう一つは、天然ガスのパイプラインを、韓国まで引きたいという野望があります。9月6日、7日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムに、プーチン大統領と韓国の文在寅大統領が揃って参加し、この話を詰めています。気をよくした文在寅大統領は、北朝鮮に800万ドルの人道支援を表明しました。

これも、人道支援を大義名分にしてシリアを支配したプーチン大統領の入れ知恵でしょう。

プーチンロシア大統領
ロシアから韓国に天然ガスのパイプラインを引く計画は、'08年に李明博大統領がロシアを訪問した際に盛り上がった話です。ロシアのハバロフスク、ハサンから北朝鮮の元山を経て、韓国の仁川まで約2000kmを結ぶ壮大な計画です。

北朝鮮にはパイプラインの通行料として年間1億ドルを支払う予定でしたが、韓国の命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算になりました。


2011年10月3日のボイスオブロシアによれば、ロシアのウラジーミル・プーチン首相は、ロシアの半国営の天然ガス:PNG独占企業であるガスプロム Gazpromに対して、日本、韓国と中国などとの協力発展についての拡大的な提案を準備するよう指示したとあります。

つまり、プーチンの頭の中には、日本、韓国、中国を巻き込んだ「国家成長プログラム」が出来上がったと言う事でした。

東北の大震災直後、当時民主党政権だった、日本政府は将来のエネルギー不足を見越してロシアの天然ガス取得に対して積極策に出ることをロシアに伝え、ロシアはこれを受け、一連の開発を前倒しにし、同時に韓国、中国への供給も早める対応を取りました。

これには、当時次期大統領を着々と狙う、プーチン首相の思惑が働いたとみるべきでしょう。恐らく彼は、日本の大震災を好機と取ったはずです。

すでに、サハリン州の天然ガス田から日本海側の港湾都市ウラジオストクを結ぶ全長約1820キロのパイプラインの完成式典が2011年9月8日ウラジオストクVladivostokで行われ、プーチン氏も参加しました。

次はこれを北朝鮮経由で韓国に送り込む事(2017年稼動予定で、その際には経由する北朝鮮内700kmに1億ドルの収入が見込まれる)の実現で、2011年8月、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が9年ぶりに訪露し、協議の場でロシアは、北朝鮮の協力に対し食糧援助を約束し、これをロシアは2011年9月末に完了しました。

全ては着々と進行し、全てが完成したときに、ロシアは日中韓の経済を握るとの目論見だったのでしょう。しかし、この計画は日本では、民主党政権の崩壊とともに潰え、韓国でも、命脈を北朝鮮に握られるという懸念からご破算となりました。

その計画を、9年ぶりにロシアと韓国、北朝鮮で復活させようというわけです。そんな「密談」が進んでいるところに、安倍首相が出かけて行って、プーチン大統領に「北朝鮮への圧力」を説いたのです。

これを考えると、文在寅の最近の不可解な動きも理解できます。米国は朝鮮半島周辺海域に、原子力空母3隻を集め、11~14日に米日韓3カ国の合同軍事演習を行い、北朝鮮に圧力をかける予定でした。ところが、韓国が突然『日本とやるのは嫌だ』と言い出し、米日、米韓とバラバラになったのです。北朝鮮やロシアは大喜びでしょう。

文在寅は、中国に踊らされただけではなく、裏ではロシアにも踊らされたというわけです。最近、米国のWSJ紙が韓国に対して痛烈な批判を行いましたが、背景にはこのようなこともあったのです。

文在寅とプーチン
さて、いざとなれば、ロシアが金ファミリーを亡命させるという選択肢があるということは、我々も認識しておくべきです。

これに関しては、当然のことながら、トランプ大統領、安倍総理、習近平も知っていることでしょう。その上で、ポスト北朝鮮危機後の世界をなるべく自分たちに有利になるように立ち回っているというのが、実体でしょう。

ブログ冒頭の記事にある、トランプ大統領のツイートは、やはり金ファミリーの亡命を示唆したものであると考えられます。トランプ大統領としては、金ファミリーが亡命し、北朝鮮の体制が変わることを望んているのだと思います。そうなれば、金ファミリーの命は、助けるという意思表示であると考えられます。

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