2022年1月19日水曜日

不安な政府のオミクロン対策…「柔軟な対応」強調するが、先読まず場当たり対応目立つ 菅政権より仕事をしていない―【私の論評】岸田政権は「日米中の正三角形政策」を捨て去り、「日米中二等辺三角形政策」を志向すべき(゚д゚)!

日本の解き方


岸田首相

 岸田文雄政権は、新型コロナウイルスの感染者の濃厚接触者について、待機期間を短縮するなど「柔軟な対応」を強調している。一方でワクチンの3回目接種は進まず、米軍基地の感染でも米国との交渉は遅きに失したとの見方もある。政府のオミクロン株対策は十分なのだろうか。

 新型コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に引き下げることについて、岸田首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類にいったん変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。

 このような変更の決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。ワクチンの3回目接種も在庫があったにもかかわらず、やらなかった。そのため、沖縄県では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波が静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れで、手順が前後していると言わざるを得ない。

 今後変異があるから変更すると大問題を起こすので対応できないというロジックもおかしい。これは、やらないことを正当化する「官僚答弁」である。

 一般論であるが、ウイルスは変異するたびに感染力は強くなるが弱毒化していく傾向がある。当てはまらない場合も少ない確率であり得るが、そのときには再び分類を変更すればいい。「柔軟に対応」と岸田首相は言うが、こうした柔軟性をもってもいいだろう。変異があるからこそ迅速に対応すべきだ。

 こうしてみると、岸田政権と菅義偉政権の差が著しい。菅前首相は昨年、厚生労働省に任せていたらワクチン接種は11月までかかるといわれたので、河野太郎氏をワクチン担当相に任命し、実務主体を厚労省だけではなく総務省を加えて地方自治体が動きやすいように工夫したという。その結果、驚異的なスピードでワクチン接種が可能になった。

 ワクチンの調達でも、菅前首相は、バイデン米大統領と西側諸国で初の対面での首脳会談を行った。合わせてファイザー社のCEOとも会談し、日本にとって有利なワクチン調達に成功した。

 岸田政権では、堀内詔子ワクチン担当相の存在感が小さく、実務対応力はかなり貧弱になっている。岸田首相はいまだに対面での日米首脳会談が開催できない異常事態だ。ファイザー社を含めてワクチン調達では対面のトップ会談が行えていないので、スムーズな関係とはとても言えない。現場の医療関係者からも、菅政権のときのほうがやりやすかったという声もある。

 岸田政権は、先手、先手と口では言うが、先を読まずに、場当たり対応しているだけのようにみえる。しかも、本コラムで書いたように、官僚を後ろから撃つようなこともしているので、ますます官僚の初動が鈍くなっている。国民に対して仕事するという観点からみれば、岸田政権は菅政権と比較して仕事をしていない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】岸田政権は「日米中の正三角形政策」を捨て去り、「日米中二等辺三角形政策」を志向すべき(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事では、岸田首相のオミクロンへの対応の貧弱さを語っていますし、それについては上の記事で十分に語り尽くされているので、以下では主に岸田政権の外交の貧弱さについて述べようと思います。

岸田首相は12月6日召集予定の臨時国会前に訪米し、バイデン大統領との首脳会談を調整していました。しかし、訪米は先送りになりました。米国内の事情があるにせよ、対中外交での歩調が日米間で合わなかったことが不安視されたことも仕切り直しの理由と言われています。

林外相は「米中両方とも話ができるのが日本の強み」と語っていましたが、この発想は鳩山政権時代の「日米中正三角形」論を思い出させるものです。


日米中が「正三角形」に近づいていくということは、日米同盟の距離を広げ、日中関係の距離を縮めるということです。

産経新聞は「日米中正三角形論は、中国の覇権主義戦略であり「日米分断の論理」だと論じています(2006年7月5日)。

正三角形論の歴史は古いです。1982年に中国の趙紫陽首相(当時)が打ち出した新外交路線に端を発するものです。当時は中ソ関係が 悪化しており、趙氏は「中米日の3国は互いに親密な三角形であるべきだ」と述べ、ソ連を牽制したのです。

この論は、冷戦が崩壊した90年代初めに脚光を浴び、その後、影を潜めたものの、その後左翼・リベラル系学者や評論家にもてはやされるようになった時期がありました。

しかし、正三角形論は、中国の一貫した外交方針であり、日米分断の論理に過ぎません。そして、このような虚構の論理を説く政治家は、党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、
北京と特殊の関係ができたか、と勘ぐらざるを得ないです。

そもそも、これまでの「日米中二等辺三角形論」は、
(1)自由主義陣営vs共産主義陣営という政治体制の違い、
(2)中国の覇権主義(急激な軍拡)に対して、日米軍事同盟によって防波堤を築く、
(3)全体主義国家、一党独裁国家、周辺国への侵略と弾圧・虐殺、人権蹂躙国家に対する牽制という意味合いがありました。
この三つの意味合いは、現在でも全く変わっていません。

自民党政権の対米関係を批判した鳩山政権はアジア外交強化を唱え、民主党の小沢一郎幹事長や山岡賢次国対委員長らが日米中3カ国を等距離とするスタンスをとったことがあります。小沢氏率いる総勢約500人の大訪中団は中国で厚遇されましたが、鳩山首相の対米外交はギクシャクし、米軍普天間飛行場移設問題で迷走の末に辞任を余儀なくされました。

当時「正三角形論」を説いた小沢幹事長は、「党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、北京と特殊の関係ができたか」という両者が的中していると言わざるを得ません。その小沢氏はどうなったかといえば、昨年の衆院選において岩手3区で、無敗を誇ってきた立憲民主党の大ベテランであるにもかかわらず落選しました。

岩手政に絶大な影響力を持ち、「小沢王国」に君臨してきた「帝王」の選挙区敗北は、最早小沢氏は過去の人になったという象徴でもあると思います。

鳩山政権の外交を岸田首相や林外相も批判していたはずですが、 岸田、林両氏は自民党内のリベラル派、ハト派(穏健派)を代表する宏池会に所属しています。そもそも「日米中正三角形」論は宏池会の先輩も語っていたことであり、その考えは骨の髄まで2人に染みついているのでしょう。

岸田氏の近著『岸田ビジョン 分断から協調へ』には、宮澤喜一元首相ともう一人、宏池会(現・岸田派)の会長を務めた人物が取り上げられています。それは加藤紘一元幹事長であり、彼こそが「日米中正三角形」論を元々主張していました。

岸田氏の近著『岸田ビジョン』

岸田氏は9月の記者会見で「権威主義的・独裁主義的体制が拡大している」と中国を批判し、「言うべきことは言う」とも強調してきました。自民党総裁選で掲げた公約通り、人権問題を担当する首相補佐官を新設し、人権問題をめぐり制裁を科せるようにする「日本版マグニツキ―法」(人権侵害制裁法)などの必要性を訴えてきた中谷元衆院議員を起用しました。

ところが、その中谷氏は11月24日のBS番組で「制裁を伴ってどういうことが起こるか、しっかりと検証しないといけない」などと慎重な姿勢に変わり、岸田政権は同法制定を見送る方針とも報じられました。

近著で「外交・安全保障の分野では、私以上に経験豊かな政治家はあまり見当たらないと自負しています」とつづっている岸田首相のスタンスが中谷氏を抑えているのは明らかでしょう。

米国や英国は来年2月の北京冬季五輪への政府高官派遣を行わない「外交ボイコット」を早々ときめましたが、岸田首相は「それぞれの国において、それぞれの立場があり、考えがあると思う。日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と曖昧な言葉に終始していました。

それでも岸田文雄首相は先月24日、来年2月の北京冬季五輪・パラリンピックに、閣僚や政府高官ら政府関係者を派遣しない方針を正式に表明しました。日本オリンピック委員会の山下泰裕会長と参院議員で東京大会組織委員会の橋本聖子会長は、現地で開かれる国際オリンピック委員会の総会に合わせて出席するとしました。

ただ岸田首相をはしめ岸田政権の閣僚ぱ、「外交的ボイコット」と名言していません。それに、現職議員でもある橋本聖子JOC会長の出席を認めています。マスコミなどは、「実質的な外交的ボイコット」などと報道しています。

今年迎える日中国交正常化50周年を前に日中間で摩擦が生じることは避けたいとの思惑も透けて見えました。欧米と足並みをそろえられずに孤立していくとの不安は消えないです。

それでも、米ホワイトハウスは16日、岸田文雄首相とバイデン大統領が今月21日にオンライン形式で協議すると発表しました。16日の声明で、日米同盟を強化する方針を確認し「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンを推進する」と記しました。中国の脅威を念頭に抑止力を高める安全保障協力も話し合う見通しです。

岸田政権も総選挙で勝利したものの、これから新型コロナウイルスの感染拡大が再び始まれば、オミクロン株への対応、外交、経済なとでお粗末な対応をこれからも継続していけば、支持率が徐々に削られていくことになるでしょう。

自民党総裁選の決選投票では支持してくれたとはいえ、安倍晋三元首相がどこまで岸田首相を支えるのかも定かではありません。今年夏には参院選も控えています。自民党は16年夏の参院選で大勝しており、来夏の参院選での議席維持のハードルは高いです。

参院選で敗北すれば、政権が一気に傾く可能性もあります。こうした不安が一層、貧弱ぶりに拍車をかけているのかもしれません。「何とか、経済でも、コロナ対策でも、外交でも強い岸田政権をアピールしなければ」という焦りにが、岸田政権の貧弱ぶりに繋がっているのかもしれません。

こういうときには、菅前首相のように、腹をくくって安倍政権を継承したように、岸田政権も安倍・菅路線を継承し、その上で両政権の懸案事項でありながら、できなかったことを実施し、その後に岸田カラーを打ち出すのが政権を安定させるためには、最も良い行き方ではないかと思います。

特に中国政策ではそうです。岸田氏と比較するとバイデン米大統領は、対照的です。中国に対して、厳しいという点では、バイデン大統領は、トランプ政権を継承しています。

これは、もちろんすでに米国議会が超党派で、中国に対して厳しいからでしょう。バイデン政権が、中国に厳しい議会に引っ張られていく流れは続くでしょう。特に今年は議会の中間選挙があります。議会の誰もが、中国に甘いと思われたくないでしょう。そうしてバイデン政権が議会を怒らせるリスクを冒すとは思えません。

中国に対して厳しい姿勢を堅持するバイデン米大統領

トランプ大統領やポンペオ国務長官らが次々と厳しい姿勢を打ち出していった前政権と比べるとバイデン政権の「顔」は見えにくいところがあります。しかしバイデン政権の米国はワシントン全体の空気を反映しながら、徐々に中国への圧力を強めています。いまのところこの流れを変える要素は出てきていません。

にもかかわらず中国に配慮をみせる岸田首相に、バイデン大統領が距離を置くのは当然です。せっかく厳しい対中政策を打ち出しているのに、岸田氏と親しい関係を構築すれば、議会やマスコミなどからも批判される隙を与え、中間選挙に悪影響を与えかねません。

米国のピューリサーチセンターの調査では、日米とも中国に対して負の感情を持っている人が圧倒的に多いことが指摘されています。

岸田政権は「日米中の正三角形」を捨て去り、「日米中二等辺三角形」を志向すべきでしょう。そうしなければ、岸田政権は国内保守派からも、バイデン政権や米議会からも、国民からも見放され、鳩山政権のように徐々に弱体化していくだけになるでしょう。

そうして、民主党が政権交代をしたときには、こぞって民主党を応援したマスコミやリベラル左派も、さすがに末期の鳩山政権は批判したように、いまのところ表立って岸田政権を批判しないマスコミも、いずれ批判攻勢に転じることになるでしょう。

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2022年1月18日火曜日

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策―【私の論評】中国は台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策

岡崎研究所

 リチャード・ハース米外交問題評議会会長及びデイヴィッド・サックス同研究フェローが連名で、2021年12月13日付のフォーリン・アフェアーズ誌に、台湾に対する米国の戦略的曖昧さはその使命を終えたとして戦略的明快さに転換すべきことを論じている。


 この長文の論文を読むと論点は言い尽くされている。このまま戦略的曖昧政策を継続することは中国の計算違いを招く可能性があるという意味で危険であり、米国は戦略的明快さに転換すべきものと思う。

 その政策は台湾に対する直接的な侵略およびその他海上封鎖のような間接的な侵略に対して米国が台湾を防衛するとの意思を明確にすることを必要とする。もとより、張子の虎であることは許されず、台湾防衛を最重要課題と位置付ける米国の軍事力強化が必要であることは論を俟たない。

 問題は、戦略的明快さの政策自体の問題と言うよりは、むしろ政策転換のプロセスの管理の問題にあるのではないかと思われる。即ち、この政策転換が中国に対して挑発的と映ることは出来る限り避けるべきことである。挑発的と映れば、台湾とその周辺の情勢の不安定性を増幅する恐れがあるであろう。

 1947年3月、トルーマン大統領が議会で演説して、ギリシャとトルコを共産主義の脅威から守るために両国の経済と軍に対する支援を表明したが、台湾を巡る情勢が現在よりも更に切迫し一刻の猶予も許さない状況となれば、このトルーマン・ドクトリン演説の例に倣うことも考えられようが、そういう事態ではない――ということは戦略的明快さへの最適の転換時期如何という別の論点を提起するかも知れないが。従って、何等かの工夫が必要ではないかと思われる。

 挑発的であることを避けるという意味では、この論文にも言及があるが、中国に一定の保証を与えることは考慮の必要があろう。しかし、「台湾の独立を支持しない」という言い方には疑問がある――いわゆる「一つの中国」政策を誓約した米中の共同コミュニケの文言を繰り返し「両岸問題の平和的解決を促す」(4月16日の日米首脳共同声明)ことにとどめるべきものと思われる。

日本は米国の軍事オプションへの留意を

 工夫としてどういうことがあり得るか分からないが、例えば、議会で大統領に台湾有事の際の軍事力行使の権限を与える超党派の法案を成立せしめ、その機会を捉え、大統領が戦略的明快さを内容とする声明を発出することも検討に値しよう。

 この政策転換の反対論として説得的な議論を目にしないが、台湾の政策・行動がどうであれ無条件に安全保障のコミットメントを提供することを疑問視する見解がある。しかし、それは戦略的明快さの内容次第であり、一切の政策判断を排除する必要はないように思われる。

 バイデン政権が戦略的明快さを追求すると否とにかかわらず、台湾侵略に対し、米国がこれに対抗することに失敗すれば、この地域の秩序は修復不能なまでに損なわれるであろう。この論文はその末段で、米国の軍事オプションを可能とする前提条件は地域の諸国に米国と共に中国の侵略に抵抗する用意があることにあると指摘しているが、それが厳然たる実態であり、そのことに日本は留意せねばならない。

【私の論評】中国には台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

昨年4月15-18日当時の菅総理訪米の際に、4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と、台湾という語が明記されました。


これは、日米首脳の共同声明としては、1969年の佐藤・ニクソン会談以来のことであり、日本国内では大きく報じられました。この他にもバイデン政権は、4月9日に国務省が、米台当局者の接触についてのガイドラインを改定し、台湾との接触の制限を緩和することを明らかにするなど、トランプ政権の路線を変えず台湾支援を強化しています。

「戦略的曖昧さ」とは、台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、米国がこれにどう対応するか明言しないでおくという政策です。中国を挑発せず、他方で、台湾が独立を宣言し、中国の台湾進攻につながることを避けることを意図しています。

3月9日には、インド太平洋軍のデイビッドソン司令官(当時)が、上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると指摘したうえで、「戦略的曖昧さ」を見直すよう明言した。

一方米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は3日、中国が台湾を侵攻する可能性は当面は低いとの考えを改めて示しました。米シンクタンク、アスペン研究所のフォーラムで「中国は近い将来、台湾へ行動を起こそうと準備しているか」と問われ「私の分析によれば半年や1、2年という近い将来に起こり得るとは思わない」と否定しました。

このブログでも、中国による台湾侵攻は、海上輸送力の脆弱さによる不可能であることを何度か掲載しています。それに中国が台湾に侵攻するとすれば、台湾を併合するためであり、台湾を破壊することが目的ではありません。併合するのは、実はかなり難しいです。

台湾を破壊することだけが目的であれば、台湾に核ミサイルを数発発射するだけでよいですが、武力で侵攻して併合するとなると、そのような単純なことではすみません。攻撃して撃破して、捕虜を捉えて、拘禁し、さらに大兵力を進駐させて、台湾を統治しなくてはならなくなります。

昔から知られている軍事法則の中に、攻撃三倍の法則があります。戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となる、とする考え方です。攻者が勝利すると言われる攻者と防者の兵力比率が三対一であるために、三対一の法則とも言われます。

ただ、この考えは、現在は当てはまらない場合も多いとはされていますが、それにしても台湾は島嶼であり、西側に平野が広がり、東側は山岳地帯です。上陸の主力部隊は西側から上陸するでしょう。台湾は東側にはあまり力を割くこと無く西側に集中できます。

台湾地図

それに、台湾は攻撃力の高い、対艦ミサイルも装備しています。無論、対空ミサイルも、中長距離ミサイルも装備しています。これらにより、中国の艦艇、航空機等が破壊されるでしょうし、場合によっては本土も攻撃にさらされることになります。これらを考慮に入れると、やはり三対一の法則に近いことになりそうです。

台湾陸軍は10万人ですから、中国軍が確実に勝利するためには、陸上兵力を30万人は送り込まなければならないことになります。しかし、中国人民解放軍がいくら精強な着上陸部隊を整備しても、上陸地点まで輸送する手段がなければ意味がありません。中国海軍の近代化の過程で、揚陸艦は最優先の整備対象ではなく、輸送能力は現在のところ台湾本土への侵攻には不十分とされています。

中国研究誌「中共研究」の14年5月の論文は、中国の揚陸艦艇を約230隻と推計し、約2万6000人と戦闘車両1530両が輸送可能としています。現在は、さらに増強されたと仮定して、2倍の輸送力になっていたとしても、これでは30万人は到底不可能です。この状況では、中国による台湾武力侵攻はないとみるのが、普通だと思います。

このようなことを述べると、空挺部隊やフェリーなども使えば良いではないかという人もいるかもしれません。しかし、中国の空挺部隊に所属するのは30,000人です。フェリーなどは、補助的に使えるかもしれませんが、軍事作戦には向きません。

そうなると、中国による台湾武力侵攻はあり得ないので、これでめでたしということで、戦略的曖昧政策で良いということになるでしょうか。

私は、そうは思いません。中国による台湾による武力侵攻がないからこそ、「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきなのです。

私が懸念するのは、中国による台湾への武力侵攻ではありません。中国による台湾への武力以外による浸透です。

最近報道されたように、中国共産党による、英国内での工作活動の一端が明らかになっています。英メディアによると、外国スパイの摘発や、国家機密の漏洩(ろうえい)阻止などの防諜活動を行う情報機関「情報局保安部(MI5)」は、中国共産党の女性工作員が、英議員らに献金を通じて「政治的な介入」を行っていると、議会に異例の警告を発したといいます。専門家は、日本国内でも同様の工作活動が広がっている危険性を指摘しました。

MI5によると、クリスティン・チン・クイ・リーという名の女性が中国共産党のために、現職の英下院議員と下院議員を目指す人との「つながりを確立」していたという。

蔡英文総統の民主進歩党が政権の座についてから、台湾では中国の影響力はかなり低下しました。ただ、中国は台湾に対して浸透工作をこれからも強めるでしょう。それだけではなく、さらに中国は台湾を国際的に孤立させたり威信を低下させる挙にでるでしょう。経済的に不利益を被るように仕掛けるでしょう。

この浸透工作、台湾の国際的地位低下工作によって、台湾に親中政権ができたとしたら、どうなるでしょうか。しかも、その親中政権が中国の傀儡政権に近いものだった場合どうなるでしょう。

中国はある程度時間をかけて、少しずつ中国に人民解放軍を上陸させるでしょう。場合によっては、目立たないように、民間人を装って入国させるかもしれません。仮に30万人以上も上陸させてしまったとしたら、時すでに遅しです。台湾は事実上、中国領になってしまいます。それも、合法的にそうなるのです。

そうして、いずれ台湾は正式に中国の省になるか、あるいは対岸の福建省に取り込まれてしまうでしょう。

これを取り戻すには、米軍にとっても大変なことです。傀儡政権が出来上ってから、米国がこれに対応すれば、ベトナム戦争のように泥沼化する可能性もあります。

そうなる前に、対処すべきです。そのためには、今から「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきです。

そうして、中国が非合法なやりかたで、台湾の政治などに介入した場合は、制裁を加えるべきでしょう。さらに、非合法な手段で傀儡政権を樹立して、軍隊を派遣しようとしたときには、これを阻止する構えをみせるべきでしょう。

日本も、昨年4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とあるのですから、積極的な役割を果たすべきです。

日本は冷戦期にソ連SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)封じ込めに極めて重要な役割を果たしていました。特に対潜哨戒により、結果としてソ連原潜の行動を封じ込めたことで、多大な成果をあげました。この日本の貢献は、西側全体にとっても対ソ戦略上極めて重要な価値を有していました。

特に、日本が対潜哨戒機を多数導入して、オホーツク海において大々的な対潜哨戒活動に踏み切ったことは特筆に値します。これには、軍事費を膨大に投じる必要もありましたし、要員の訓練に時間を要します。これを最初に提案した米国の官僚は後に「まさか、日本がこの要求を飲むとは思わなかった」と述懐しています。

オホーツク海上を哨戒飛行するP3C

このときの、経験がもとになり、日本の対潜哨戒能力は世界のトップクラスになりました。日本は、冷戦期において米国をはじめとする西側諸国に対して、大きな貢献をしたのです。

その後冷戦は、西側諸国が勝利して、日本は冷戦勝利国になりました。日本ではあまり意識されていませんが、日本は冷戦戦勝国であり、しかも巷でいわれているように、基地を米国に提供しただけではなく、積極的にソ連の原潜の行動を把握し、その情報を米国などの西側諸国と共有することによって、結果としてソ連原潜の封じ込めに成功し、大きな貢献をしたのです。

だからこそ、安倍元総理大臣が、「インド太平洋戦略」や「QUAD」を提案して、米国などの西側諸国等に受け入れられたのです。

今回との中国との新冷戦でも、日本は冷戦時と同じような貢献ができるはずです。日本には、現在でも世界トップクラスの対潜哨戒能力を有しており、さらにステルス性の高い通常型潜水艦を有しています。そうして、潜水艦22隻体制がまもなく達成できます。(本当はできていたが、昨年の事故で1隻が就航不能になっています)

これを有効に用いて、新冷戦でも冷戦時と同等もしくはそれ以上の貢献ができます。昨年7月中国が台湾に侵攻した場合の対応について、麻生副総理兼財務大臣は、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。

これをさらに一歩すすめて、中国が台湾に軍隊を送る場合は、戦争であろうとなかろうと「存立危機事態」とみなすと台湾とともに宣言すれば良いのです。日本も曖昧なことをいうのをやめて、戦略的明快さに転換すべきなのです。

それとともに、冷戦時のように東シナ海、台湾海峡においても無論台湾の許可を得た形で、哨戒活動にあたり、結果としてしてかつて日本が、ソ連の潜水艦を封じ込めたように、中国海軍を封じ込めれば良いのです。

岸田政権には、このようなことは考えも及びつかないようです。そもそも、日本は冷戦戦勝国であり、中露北朝鮮は敗戦国だという認識もないようです。米国にはこれを見透かされ、日米首脳会談すらまだ開催されていません。これは異例中の異例です。

日本の安全保障に関しては、岸防衛大臣が頑張っています。しかし、それにも限界があるでしょう。自民党は岸田政権は短期で終わらせて、新たな総裁がのもとで、安全保障を見直すべきです。軍事侵攻ではなくても、台湾が中国の手のうちにおちれば、日本は根底から戦略を見直さなければならなくなります。

人材がいないというのであれば、短期的でも良いので、安倍元総理大臣に返り咲いていただき、道筋をつけてもらうというのもありだと思います。

日本が新冷戦に勝利した暁には、国外では日本の貢献は冷戦時から十分認識されていますから、国内で国民に対して広くこの意味合いを啓蒙すべきでしょう。そうして、今度こそ安倍元総理が語っていたように「戦後レジームからの脱却」を果たすべきです。

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2022年1月17日月曜日

もう手遅れ!岸田政権の「オミクロン対策」と「増税論」は根本的に間違っている―【私の論評】岸政権のお粗末ぶりが、誰にでもわかるように顕在化してからではすべてが手遅れに(゚д゚)!

もう手遅れ!岸田政権の「オミクロン対策」と「増税論」は根本的に間違っている

「場当たり対応」でどこまで持つのか

なぜ10~11月に手を打たなかったのか

 岸田政権がオミクロン対策で苦慮している。濃厚接触者の待機期間を短縮するなど「柔軟な対応」を強調しているが、一方でワクチンの3回目接種は進まず、米軍基地での感染拡大問題でも米国との交渉は遅きに失したとの見方もある。政府の対策が十分なのか。

 新型コロナの感染症法上の分類について、安倍元首相や維新の松井大阪市長、さらには小池都知事からも2類相当から5類への引き下げする案が出ている。しかし岸田文雄首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類に一旦変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。

  5類への引き下げ決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。ワクチンの3回目接種は、在庫があったその時期に手を打たなかった。そのため沖縄では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れだが、手順を間違えたと言わざるを得ない。

  筆者の見立てでは、第6波では一日あたりの感染者数はこれまで最高になるだろうが、死亡率は第5波より小さくなるとみている。せいぜい0.2%程度であり、ひょっとしたらインフレエンザ並み(0.1%程度)になる可能性もある。

岸田政権の「場当たり対応」の罪

 また、岸田首相の「今後変異があるから、変更すると大問題を起こすので対応できない」というロジックもおかしい。これはやらないことをいう「官僚答弁」である。

  一般論として、ウイルスは変異するたびに感染力は強くなるが弱毒化していく傾向がある。もちろんその一般論に当てはまらないことも少ない確率であり得るが、そのときには再び分類を変更すればいい。「柔軟に対応する」と岸田首相は言うが、こうした柔軟性こそ持つべきだ。変異があるからこそ、迅速に対応すべきなのだ。

  こうしてみると、菅政権時代との差は著しい。菅前首相は、厚労省に任せていたところ「ワクチン接種は11月までかかる」と言われたので、河野太郎氏をワクチン接種担当大臣に任命し、実務主体に厚労省だけではなく総務省を加えて地方自治体が動きやすいように工夫したという。その結果、1日100万本という、メディアからは無謀と言われた目標を驚異的なスピードでクリアし、ワクチン接種は先進国でトップレベルになった。

菅前総理

  ワクチンの調達に関しても、菅前首相は、バイデン大統領と西側諸国ではじめての対面での首脳会談を行い、それと合わせてファイザー社社長とも交渉し、日本として有利なワクチン調達を行った。

  ひるがえって岸田政権では、堀内ワクチン接種担当大臣の存在感もなく、実務対応力はかなり貧弱になっている。ワクチンの3回目接種は先進国間で比べれば信じられないくらいにスピードが遅い。岸田首相は未だに日米首脳会談も開催できていないため、ファイザー社を含めてワクチン調達でトップ会談が行えていない。現場の医療関係者からも、「菅政権のときのほうがやりやすかったと」いう声が挙がる。

  岸田政権は「先手、先手」と口では言うが、実際は、先を読まずに、場当たり対応しているだけだ。しかも、本コラムで書いたように、官僚を後ろから撃つようなこともしているので、ますます官僚の初動が鈍くなっている。「国民に対して仕事をする」という観点から見れば、岸田政権は菅政権と比較して仕事をしていないのだ。

相変わらずPBに固執して「増税」へ

 その一方で、増税への布石は着々と進んでいるようだ。1月14日、今年最初の経済財政諮問会議を開催し、岸田首相は、国と地方合わせた基礎的財政収支(PB)を2025年度に黒字化する目標を維持する考え方を示した。諮問会議で示された中期財政試算を容認した形だ。

  筆者は、1月3日付本コラム『「日本は借金で破綻する」は本当か? 財務官僚の大嘘を暴く グロス債務だけ見るのは笑止千万』において、「今の片手落ちのPB目標による経済運営」は、基本的に政府のグロス債務残高をコントロールするための指標なので不十分と断言し、統合政府でのネット債務残高を財政健全化に使うべきとしている。

  しかし、政府では相変わらずPBに固執している。先日のコラムで数式を出さなかったが、以下のとおりだ。


  要するに、PB対GDP比とともに、マネタリーベース増対GDP比も加味して見なければ、本当の財政健全化の指標になり得ない。

財政健全化にもつながらない

 政府のPBは地方政府も含んでいるが、国だけとしても2020年度PB対GDP比は▲9.3%と大きい。それを2025年度に黒字化しようとするのは、大増税を唱えているのに等しい。

  しかし、本当の財政状況である統合政府のネット債務対GDP比はほぼゼロである。しかも、2020年度のPB対GDP比▲9.3%としても、マネタリーベース増対GDP比は19.6%だったので、これらを合計すれば10.3%(前期債務残高対GDP比、前期マネタリーベース対GDP比、成長率、金利も影響があるが、今の時点でこれらの影響は少ないので無視)。これは実質的なPBは実は黒字化していることを意味している。そのため、統合政府ベースのネット債務残高は減少し、ほぼゼロになっているのだ。

財務省

  PB対GDP比が▲9.3%で黒字化するなら大変だろうが、実は+10.3%ならもっと赤字でもいいことになる。

  そもそも政府のグロス財務残高に着目するのは会計的にも誤りだし、その間違ったPB黒字化に向けて増税することは、かえって政府全体の財政健全化にならない。

  今国会が今日1月17日から始まるが、国会で財政健全化議論をしっかりやってほしい。特に、グロス債務残高だけで議論する財務省やマスコミの欺瞞を糺すべきだ。そのグロス債務残高から出てくるのが、PB黒字化だ。

  はっきり言おう。政府のPB黒字化目標は、会計的にもファイナンス論からも、完全な誤りである。

【私の論評】岸政権のお粗末ぶりが、誰にでもわかるように顕在化してからではすべてが手遅れに(゚д゚)!

上の記事をみていると、岸政権のお粗末ぶりが誰にでもわかるようにはっきり健在化してからでは、すべてが手遅れになりそうです。

岸田政権には、外交・安保も経済も、何も期待できないようです。

まずは外交面では、岸田首相は昨年12月24日、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を受けて、やっと北京冬季五輪への政府代表の派遣見送りを表明しました。

ジョー・バイデン米大統領が「外交的ボイコット」を明言したのは同6日でした。それから、岸田首相は「適切な時期に」「わが国の国益に照らして」などと、のらりくらりを繰り返ました。

では、逆に「我が国は閣僚を北京五輪に覇権する」といえるだけの、胆力や、国民の理解をえられるだけの理念でもあるのかといえば、そのようなこともないようです。


「人権」は、人類にとって普遍的価値であるはずです。岸田首相は何を伝えたいのか、まったく理解に苦しむ対応であり、結果として中国を利しただけです。

一部では、岸田首相とバイデン大統領の、初の対面での日米首脳会談がセットされないのは、米国が「岸田政権の対中姿勢」に不信感を持っているためと伝えられています。

日本の外相は「政界屈指の親中派」とされる林芳正氏です。この人は、過去には年に中国に7回も行ったことがあるそうです。しかも、外務大臣になったとたんに、中国からの招待があったことを明かすなど、外交儀礼も知らないような振る舞いをみせました。

バイデン政権が、この人事に不信感を持つのは当然といえます。「外交的ボイコット」をめぐる対応も加えて、米国の怒りを買った可能性が十分あります。

この人に期待しても無理なのかもしれませんが、日本は外交面で、明確な立場を表明すべきです。

明確な立場とは、外交・安全保障分野では、日本が東アジアにおけるリーダーシップを発揮することです。日本と米国、日米豪印による戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の関係強化や、自衛隊と欧米各国の軍との共同訓練の増加など、着実に進めるべきです。

2022年度の予算案で防衛費は前年度比1・1%増の5兆4005億ですが、1%程度の増加では米国は「誤差の範囲」としか評価しないでしょう。憲法改正のための具体的な議論の進展も米国は注視しています。


経済もほとんど期待できないようです。先進各国でCPI(消費者物価)が大きく上昇するなかで、日本のエネルギー除いたベースのCPIコアは前年比-0.6%(2021年11月)です。携帯電話料金の引き下げで押し下げられているので、これを除けばエネルギー除くCPIコアはプラスにはなりますが、それでも1%未満あたりでしょう。

米国とは異なり、日本ではインフレ率が依然として低すぎるので、今後の政策対応次第ではデフレに陥るリスクを回避する必要があります。そのため、必要な政策対応も米国とは大きく異なでしょう。

 2021年の米国で見られたように、効果的で十分な財政政策がしっかりと実現されていれば、日本でも経済成長が上振れ同時に2%に近づくインフレ上昇が起きていた可能性もあったかもしれません。

実際には2021年1-3月からは経済成長が止まり、ほぼゼロ成長で停滞したことで、CPIはわずかなプラスにとどまったのです。最大の要因は、米欧対比では規模が小さいコロナ感染拡大に対して、医療資源が早々に逼迫したことにあります。 

このため、緊急事態宣言が長きにわたり発動され、民間の経済活動が抑制されてしまいました。医療機関に対して危機時のガバナンスが行われた米欧のように医療資源が機能していれば、2021年に日本でも経済成長率は上振れになった可能性があります。 

その上で米国同様に、経済成長押し上げに直結する大規模な給付金などで家計の支出が刺激されれば、米国と同程度の高成長が起きたに違いありません。そうなれば、日本で最大の問題であった低インフレから脱却して、米欧と肩を並べるようなインフレ率の大幅な上昇の可能性があったのではないかと思います。

2022年早々に日本でもオミクロン変異株の広がりで感染者は増えていますが、治療効果が高い経口薬が広がれば、新型コロナの状況は大きく変わる可能性があります。新型コロナが経済成長を抑制しなければ、日銀の金融緩和政策の効果が強まり、米欧に追いつく格好で日本のインフレ率も2%に近づくシナリオにも期待できるでしょう。 

このブログにも掲載したように、11月の企業物価指数は前年同月比9・0%上昇の108・7で、伸び率は比較可能な1981年1月以降で最大、指数は85年12月以来、約35年11カ月ぶりの高い水準となっています。ここで岸田政権が、積極財政を打ち出していれば、物価目標を達成できる可能性もでてきます。

岸田政権がしっかりとコロナ対応を繰り出し、成長を高める経済政策を行う可能性は低いようです。むしろ、アベノミクス路線からの転換につながりそうな、「新しい資本主義構想」が具体化する中で、脱デフレの前に経済成長を抑制する可能性が高いと思います。 

「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズを打ち出し増税政策に邁進して、官僚に金融政策を任せた、かつての民主党政権の失敗を繰り返す可能性すらあります。 

民主党が支持率の高い人気政党だった頃に東京の地下鉄で掲載された広告

また、2021年の日本の経済成長を抑えた医療体制逼迫に関して、これを回避する十分な対応ができていない可能性があります。外国での先例からすれば、オミクロン株の感染者は、昨年半ばのデルタ株感染者拡大時よりも大きく増える可能性が高いです。

感染者が増えても弱毒化したと見られる変異株に応じた適切な対応が行われれば良いですが、今後もコロナは2類感染症として原則対応されるのですから、感染者数が増えれば病床使用率も上昇するでしょう。 

岸田政権は、病床確保のための「見える化」のシステム整備を行っていますが、病院間の情報共有が進んでいない事例がみられます。また、病床と医療人材の双方を増やすインセンティブを高める充分な予算措置、そして医療機関へのガバナンスを効かせる法的措置が行われていません。

実際岸田政権は病床確保強化のための感染症法改正案について国会への提出を見送っています。先日もこのブログで示したように、次の国会で岸田政権が提出する法案はほとんどないようです。夏場の参議院選挙を控えて、資源を選挙に回すために危機に備えた対応強化を控えたいのでしょうか。 

また、諸外国ではブースターワクチンの接種が相当に進んでいますが、日本でのブースター摂取率は1月7日時点で75万人と、諸外国対比で圧倒的に低いです。オミクロン変異株の重症化を防ぐためにワクチン接種は必要だろうが、ブースター接種の遅れも、事態が流動的に動く中で日本の保健行政が依然として十分機能してない可能性を示してます。 

2021年同様に米欧対比で少ない感染拡大であっても病床使用率が上昇すれば、再び経済活動自粛が強要されます。日本は、ゼロコロナを目指して厳しい経済統制が行われる中国とは異なりますが、強い同調圧力によって似たような経済停滞が起きてしまう可能性があります。デフレ克服の機会を、2022年も再度逸することになりそうです。

私は、安倍政権だったときも、菅政権だったときも、是々非々で批判すべきところは、批判し、評価すべきところは評価してきました。菅政権は、コロナが収束していない状況では、そのまま継続すべきとこのブログで主張しました。しかし、岸田政権になってからは、批判ばかりです。菅政権が今も継続されていたとすれば、現在の岸田政権よりは、はるかにマシだったと思います。

甘利氏が幹事長から外れたにしても、岸田政権の体たらくは酷いものです。このままだと、民主党政権とあまり変わらないようになってしまうかもしれません。

岸田首相はこのまま夏の参院選まで、明確な立場を示さないつもりかもしれないです。それでは、岸田政権に期待することも、支持することもできないです。これほど酷いとは、誰も思っていないかったのではないでしょうか。

今後岸田政権が、良い法に方向転換することは期待できないようです。であれば、自民党としては新たな総裁のもとで、やりなおされた方が良いのではないでしょうか。

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2022年1月16日日曜日

トンガ噴火で気候変動に懸念 SNSで「令和の米騒動」不安視する声―【私の論評】本当の大問題は、中国経済の低迷とトンガ噴火による寒冷化の悪影響が重なるかもしれないこと(゚д゚)!

トンガ噴火で気候変動に懸念 SNSで「令和の米騒動」不安視する声

トンガ沖海底火山噴火の様子

 南太平洋のトンガ沖で発生した海底火山噴火で、気候変動や穀物生産への影響を心配する声がSNS(ネット交流サービス)上で相次いでいる。1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火が原因になった日本のコメ大凶作「平成の米騒動」を引き合いに、「令和の米騒動」が起きるかもしれないと不安視する声もあり、懸念が広がっている。


 <平成の米騒動って、覚えていますか(略)あの時、初めてタイ米食べたわ 今回はそれ以上の、世界的な気候変動がありそう>  ツイッターに投稿された「平成の米騒動」を引き合いに出すこの投稿は、16日正午現在で1万3000件以上リツイートされている。

  平成の米騒動は、93年に起きた深刻なコメ不足だ。80年ぶりとなる記録的な冷夏で日本全国のコメが不作に。コメの全国作況指数は74と戦後最悪で、国の備蓄も底を突いた。国はタイ米を緊急輸入し、コメを販売する店には長蛇の列ができるなど、大騒ぎになった。

  この原因になったのが、20世紀最大級とされる91年のピナツボ火山の巨大噴火だ。噴出物が成層圏に大量に放出され、地球全体の平均気温が最大約0・5度下がるなど、世界の気候に影響を及ぼした。 

 今回のトンガ噴火も、噴火の規模がピナツボ火山と同程度の可能性がある。ツイッター上では、ピナツボ火山と同様、気候変動や穀物生産への影響を懸念する声が相次いでいる。<噴火の粒子で日光が遮られて農作物生産に影響でたら目も当てられないんだけど、どうなるか……>

  中には、平成の米騒動にちなんだ「令和の米騒動」という言葉をツイートする投稿も。<さて…今年は冷夏と厳しい冬になりそうですね……令和の米騒動にならなきゃ良いけど><トンガの大噴火で令和の米騒動が起こりうるのか……津波だけの問題じゃないし対岸の火事でもない>

  一方で、<当時とは気候も栽培環境も違っている。同じ事が起こるとは思えない>、など、大規模な影響を否定する意見もあった。【山下智恵/デジタル報道センター】

【私の論評】本当の大問題は、中国経済の低迷とトンガ噴火による寒冷化の悪影響が重なるかもしれないこと(゚д゚)!

大規模な海底火山噴火から30時間以上が経過したトンガの詳しい情報は依然分かっていません。一方、津波は南北アメリカ大陸にも到達しています。

 ニュージーランドのアーダーン首相は、

 「沿岸部では商店などの建物に被害があり、大がかりな撤去作業が必要です。首都ヌクアロファは厚い火山灰に覆われているが状況は安定しています」

こう述べたうえで17日に軍の偵察機を派遣するとしています。被害が最小限に留められることを祈るばかりです。日本も、トンガに対してできるだけの支援をすべきと思います。

これだけ大きな噴火となると、日本にも何らかの形で大きな影響がでるかもしれません。

確かに、上の記事でも指摘されているように、日照不足で冷夏だった1993年は東北や関東の太平洋側を中心にコメを中心に農業被害が相次ぎ、タイや米国などからコメを輸入して「平成の米騒動」ともいわれました。

私は、この頃には函館に転勤になったばかりの頃でした。確か8月になっても、18度くらいの天候が続き、涼しいというより寒いという感じでした。セブンイレブンの前に、たたずむライダーが厚手の革ジャンをまとったままだったのを記憶しています。


今回のトンガ噴火では、コメ不足への不安はさほど深刻にはならないように思います。それにはいくつかの理由があります。

1つが品種改良の進歩です。当時、冷害の被害が特に大きかった品種が宮城県を中心に栽培されていた「ササニシキ」でした。「コシヒカリ」に次ぐ、全国2位の作付面積を誇ったほどの銘柄米だったのですが、寒さには弱かったのです。ササニシキを中心に作付けしていた宮城県では、93年の水稲の収穫量が19万1100トンと前の年に比べ62%も減ったほどでした。

これを機会にササニシキは急速に作付面積を減らしていきましたた。代わりに伸びたのが、ササニシキより寒冷地に強い品種として作られた「ひとめぼれ」でした。ひとめぼれの全国の作付面積に対する割合は18年産で9.2%とコシヒカリの35%に次ぐ2位になっています。

寒冷地に強いコメ作りが進んだ結果、産地がさらに北に進んだというのが2つ目の理由です。亜熱帯が原産のイネですが、今では北海道が日本で第2位の大産地となっています。けん引役となっているのが全国5位の作付面積を誇る「ななつぼし」です。

ひとめぼれ系列の品種に、耐冷性に優れた品種を掛け合わせており、いっそう寒さに強いです。梅雨のない北海道のなかでも温暖とされる道央の日本海側を主な産地としており、冷夏の原因とされるオホーツク海高気圧の影響は比較的受けにくい地域とされます。

日本では、米の作付けが始まるまでには、まだ間があります。冷夏が予想される場合は、冷夏に強い米の作付けが強化される可能性もあります。

さらに日本人の食生活の変化も見逃せないです。農林水産省によるとコメの総需要量は93年度の971万トンから17年度には824万トンと15%減りました。家庭におけるコメの購入量はパンや麺類の購入に比べても減少のペースが大きいです。「コメがなければパンを食べればいい」。そんな実態に日本人の食生活が近づいているといえます。

ただ、今回のトンガ沖の海底火山の大爆発は、南半球で発生しており、南半球のブラジルやオーストラリアの秋小麦の収穫が噴煙で大被害を受ける可能性があります。大豆、とうもろこし、小麦、それを餌とする畜産物含め輸入食糧価格が高騰するおそれもあります。現在の日本は、こちらのほうが脅威かもしれません。

さらに、その後も噴煙が漂い続け、北半球にも悪影響を及ぼし続ける可能性もあります。そうなると、全世界的に経済か落ち込む可能性もあります。

年明けに、このブログではユーラシアグルーブによる、今年の10大リスクを掲載しました。最大のリスクは中国のゼロコロナ政策の失敗です。さらに、4位には「中国の内政」が上げられていました。習政権に対するチェック機能が働かず、中国経済の停滞など政策を誤るや恐れが指摘されていました。

私自身は、オミクロン株が流行仕出してから、コロナの脅威はかなり減り、全世界的に収束にむかいつつあることから、習近平政権は、結局コロナ対策を間違えたにしても、強権政策で乗り切り結局は中国でも近日中にはコロナは収束に向かうのではないかと考えています。

それよりも、中国経済が停滞するのは間違いないと思います。それについては、先日もこのブログに掲載しましたので、その記事を参照していただきたいと思います。


問題は、中国経済の低迷の悪影響と、トンガの海底沖火山の噴火による寒冷化の影響が重なるかもしれないということです。

この両方は、今後少なくと2年くらいは続きそうです。このダブルパンチにより、世界経済は悪影響を受ける可能性があります。

これについては、ある程度はっきりするのは1〜2ヶ月後になると思われます。その後も岸田政権がもたついて、これに対する対策として、積極財政や量的金融緩和を迅速にしなければ、政権支持率が落ちることが考えられます。

元岸田政権の現在のグタグタぶりは、以下の動画をご覧いただければ、おわかりいただけるものと思います。


岸田政権にとっては、トンガ噴火で夏の参院選に向けて、大きな不確定要素を抱えることになるでしょう。ただ、反応の鈍い岸田政権では、大きな不確定要素を抱えていることも気づかないかもしれません。

なぜなら、立憲民主党をはじめ、最近では全部の野党がグタグタ感を醸し出しているからです。これについては、長くなってしまうので、また別の記事にまとめようと思います。

そのため、岸田政権は参院選でも圧倒的勝利というわけにはいなかいまでも、なんとか体面を保つ程度には勝利できるかもしれません。

しかし、中国経済の低迷と、トンガの海底沖火山の噴火による寒冷化の影響が今後2年くらい続くとなると、岸田政権の経済政策では、乗り切るのが難しくなる可能性が高くなります。

そのときに岸田政権がどのような行動をするか、もっと大きなくくりで自民党がどのような動きをするかによって、大きな政局含みの展開となるかもしれません。

最後に、トンガは2011年の東日本大震災の時、「トンガより愛を込めて」のメッセージとともに里芋などを日本に届けた親日国であるとともに、複数のラグビー日本代表選手の母国でもあることを述べてきおきます。

トンガは、ラグビーがさかんで、日本代表のバル・アサエリ愛、中島イシレリの両選手らの母国です。トンガ代表が試合前に披露する戦いの踊り「シピタウ」も有名です。

トンガ代表が試合前に披露する戦いの踊り「シピタウ」

1人当たりの国民総所得(GNI)は日本の4万1500ドルに対し、トンガは4300ドル(19年)。主にマグロやカボチャを日本に輸出しています。輸出額は約3800万円(20年度)です。

日本は「草の根・人間の安全保障無償協力」を通じ、学校や診療所の建設、給水施設の整備などを支援しています。青年海外協力隊による日本語、そろばん教育も20年以上続いています。

南太平洋唯一の王国として知られるトンガの王室は長年、日本の皇室と親密な交流を重ねています。東日本大震災の際は、義援金20万パアンガ(約900万円)を寄せ、11年4月には里芋などを届けてくれました。

外務省ウェブサイトには、この時、里芋生産者の代表が「トンガと日本の人々の愛であふれた里芋は、被災者にとってどのような味がするでしょうか。被災者が一日も早く元気を取り戻すことを願っています」と述べたことが掲載されています。

トンガの被災者が一日でも早く元気を取りどすことを願います。

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2022年1月15日土曜日

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合―【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合

日銀黒田総裁

 日本銀行は17、18日に金融政策決定会合を開き、四半期に一度公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、令和4年度の消費者物価上昇率の見通しを引き上げる方向で検討する。昨年10月の前回リポートで示した0・9%から1%台前半にするとの見方が有力だ。原材料価格の高騰などを受け値上げの動きが出ているためだが、日銀が目標とする物価上昇率2%を達成する状況ではなく、大規模な金融緩和策は維持される方向だ。

 背景にあるのが原油高や円安の進行などによる企業の輸入コストの上昇だ。企業同士の取引価格を示す国内企業物価指数は昨年11月に前年同月比の伸び率が比較可能な昭和56年以降で最大の9・2%を記録し、12月も8・5%(速報)で過去2番目の大きさだった。

 こうした輸入コスト高を販売価格に反映する動きが食品業界などで相次いでおり、12月の日銀企業短期経済観測調査(短観)では、販売価格が「上昇」したと答えた割合から「下落」の割合を差し引いた指数が大企業の製造業でプラス16と6ポイント上昇、非製造業でプラス10と4ポイント上昇した。

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は今月12日の支店長会議で、物価の先行きに関して「徐々に上昇率を高めていく」との見通しを示した。日銀はこれまでの展望リポートで物価動向について「下振れリスクが大きい」と評価してきたが、今回の会合では今後の物価上昇を見据え表現を改める可能性がある。

 ただ、岸田文雄政権が求める企業の賃上げが進まなければ値上げの動きも広がりを欠き、市場では物価上昇率が2%になる状況には当面ならないとの見方が強い。このため、日銀は短期金利をマイナス0・1%とし、長期金利を0%程度に誘導する金融緩和政策を維持する見通し。

【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

日銀は5日、2021年末の国債保有残高が20年末と比べて約14兆円少ない約521兆円だったと発表しました。前年末比で国債の保有残高が減少するのは、08年以来13年ぶりです。日銀は2%の物価上昇目標の達成に向けて大規模な金融緩和を続ける姿勢を崩していないが、金融市場では「事実上の量的緩和の縮小」(エコノミスト)との受け止めもあります。

日銀は13~20年の8年間で国債保有を421兆円増やし、全体の国債発行額に占める保有比率は4割を超えた。日銀は20年の新型コロナウイルス禍など非常時には購入量を増やす一方、平時は購入を減らしてきました。


21年3月には日本株に連動する上場投資信託(ETF)の購入方針も市場が動揺したときに大規模に買う方向へと改めました。21年末の残高(購入簿価)は36兆3400億円で、前年からの増加額は1兆400億円となり、20年の年間増加額(7兆500億円)から急減しました。

この状況は、白川日銀前総裁以来です。白川氏といえば、日銀はインフレをコンロールできないという、「日銀理論」の論者で、インフレ目標に頑強に反対してきました。

過去の日銀の金融政策の間違いは、まずは06年3月の福井俊彦元総裁時代に株価・地下は上がってはいたものの、一般物価は量的緩和停止を実施したことにはじまりました。

それに続き白川日銀時代には、日銀が保有する長期国債の残高を銀行券の発行残高の範囲内とする「銀行券ルール」に縛られ、結果として国債購入ができず、マネタリーベース(銀行券+当座預金)の拡大をしなかったことです。

2014年に黒田氏が日銀総裁になってから、2016年までの日銀は異次元の緩和を実施していましたがが2016年にイールドカープ・コントロールを導入して以来中途半端な緩和に転じてしまいました。

13年4月から16年9月までのマネタリーベース対前年同月比の平均は37%増ですですが、それ以降は11%増にとどまっています。直近の状態は10%にも達していないです。

「銀行券ルール」で縛られた白川日銀は、マネタリーベースを増加させるために、国債購入ではなく金融機関への貸出増加を行いました。ピーク時には、貸出のマネタリーベースに占める割合は4割程度でしたが、十分なマネタリーベース増はありませんでした。

黒田日銀は、国債増によってマネタリーベース増を行ったので、貸出はマネタリーベースの1割程度と安定していました。しかし、20年のコロナ危機以降、貸出は増加し、今や2割程度まで上昇しています。

政府の国債発行量が多くないので、マネタリーベース増を維持するために、コロナ危機を契機に貸出増となった事情もあるとは思います。

黒田総裁が大規模な金融緩和を始めてから9年近くとなりますが、早期達成するとしていた2%の物価目標はいまも「相当遠い」(黒田総裁)状況が続いています。この状況なら、本来ならさらに量的・質的金融緩和を拡大して継続すべきです。

政府が国債発行量をさらに少なくして、日銀がさらに量的緩和の縮小をするようなことにでもなれば、また日本は深刻なデフレに見舞われなかねません。

過去の深刻なデフレの期間に何が起こっていたかといえば、自殺者の増加です。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【正論】「欲ない、夢ない、やる気ない」……現代日本の最大の危機はこの「3Y」にある 作家・堺屋太一―【私の論評】団塊の世代以上の世代には想像もつかない現代の若者の窮状(゚д゚)!
堺屋太一氏

堺屋太一氏は、2019年に他界されましたが、この記事は2016年のもので、まだご存命のときです。この当時は、日銀は異次元の緩和から、イールドカーブ・コントロールで緩和を手控える直前でした。異次元の緩和で、雇用情勢が劇的に変わっている最中でしたが、それにしても、酷いデフレと、就職氷河期の記憶が生々しく残っている時期でした。

この記事は、結果として堺屋氏を批判することにもなっていますが、その批判の矛先は、主に過去の政府や日銀による政策に向けられたものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
自殺者数と景気は相関が高いことが知られていますが、この数年間の経済状況の改善と、さらに自殺対策にここ数年経費を増加させていく方針を採用していることもあり最近は自殺者数が減っています。類似の事例はホームレス対策にもいえ、ホームレス数は景気要因に関わらず対策費の増加に合わせて減少しています。

自殺者数の減少については、マクロ(景気)とミクロ(自殺対策関連予算の増加スタンス)の両方が功を奏していると考えられます。

自殺対策関連予算の推移はまとまったデータがないので拾い集めてみると

平成19年 247億円 平成20年 144億円 平成21年 136億 平成22年 140億 平成23年 150億 平成24年 326億 平成25年 340億 平成26年 361億 となってます。

以下に、失業率と自殺者数の推移のグラフを掲載しておきます。
日本がデフレに突入した、97年あたりからそれまで、2万台であった自殺者数が、一挙に3万人台になっています。このグラフをみただけでも、経済政策の失敗は自殺者数を増やすということがいえそうです。
経済政策の失敗は自殺者を増やすであろうことは、容易に想像できます。私は、2000年代に会社で人事を担当していたことがありましたが、そのあたりに採用した新人から、様々な話をきき、その当時の若者はとてつもない状況におかれていたことを肌身で感じたことがあります。

とくにかく、就職が悪夢のようになかなか決まらないこと、国立大学を卒業しやはり国立の大学院に行った女性の新人が卒業と同時に奨学金などの名目で数百万円の借金を抱えていることや、その当時の学生たちの極めて質素な生活ぶりなどを聞き、これはただ事ではないと、ひしひしと感じていました。

だからこそ、自殺者の推移に関しても、他人事ではなく、身近に感じられたのだと思います。

ただ、当然のことながら、採用は極めてやりやすく、逆に不気味さを感じたことを覚えています。その当時は、多くの企業が採用を手控え、採用するにしても能力などは二の次にして、いわゆるコミュニケーション能力を重視していました。

ただ、このコミュニケーションという言葉が曲者で、要するに「調整型」の人材を採用したいのですが、「調整型」というのでは、格好が悪いので「コミュニケーション」という言葉を用いていたようです。

実際、当時「コミュニケーション能力重視」というキャッコピーを用いていた企業の採用担当者に「御社におけるコミュニケーション能力」とは何かという質問をしてみたところ、「報・連・相」重視などと答え、コミュニケーションの本質に迫るような答をした人はいませんでした。

そうして、この記事では、『経済政策で人は死ぬか』という書籍を紹介していますが、この書籍でははソ連が崩壊した直後のロシアで男性の平均寿命が自殺や病気で60歳未満になった事例などを丹念に分析し、経済政策のまずさが自殺者を増やす可能性がかなり高いことを示しています。

経済政策が極端にまずく、特に失業者が増えるような政策をしてしまえば、自殺者が増えるのは当然のことだと思います。それに、若者のやる気を削ぐことにもつなかります。これに思いが至らないひとは、想像力が欠如しているのではないかと思います。

現状では、オミクロン株の脅威がメディアで盛んに喧伝されていますが、感染者は増えたものの、死者はほとんど出ていません。

私は、経済政策の不味さが、自殺者を増やす可能性が高いことを考えると、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしいと思います。白川貧乏神のように、日銀が金融引締に転ずることがあれば、景気が悪くなり、失業者が増え、自殺者が増加する悪夢が再燃しかねません。

企業の採用で再び「コミュニケーション重視」という空疎なキャッチフレーズが目立ってくれば、悪夢の再来かもしれません。

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2022年1月14日金曜日

小池都知事、新型コロナ「5類」引き下げ要請の狙い オミクロン株感染者は若者大半、沖縄「重傷者ゼロ」だが… 岸田首相は〝静観〟―【私の論評】今後個々の政治家のオミクロン株への対応の仕方で、その地金がみえてくる(゚д゚)!

小池都知事、新型コロナ「5類」引き下げ要請の狙い オミクロン株感染者は若者大半、沖縄「重傷者ゼロ」だが… 岸田首相は〝静観〟

東京都のモニタリング会議後、取材に応じる小池百合子知事=13日午後、東京都庁

 新型コロナウイルスのオミクロン株感染が爆発的に増えるなか、東京都の小池百合子知事が、感染症法上の位置付けについて、季節性インフルエンザ相当で危険度が最低の「5類」への引き下げも含め検討するよう国に求めた。東京では月内に新規感染者が1万人を超えるとの予測もあり、病床逼迫(ひっぱく)が懸念される一方、感染の大半が若者で、沖縄県では県基準の重症者が「ゼロ」というのも現実だ。

沖縄では11月あたりから、コロナ感染の死亡者はゼロ人が続いている

 都のモニタリング会議では、直近7日間平均の新規感染者が20日時点で9576人との試算が示され、「1万人を超えることは現実的に起こり得る」との声も出た。

 13日時点の病床使用率は15・1%。都は20%で蔓延(まんえん)防止等重点措置、50%で緊急事態宣言を国に要請するとした。

 一方で小池氏は「感染を止める、社会は止めない」と述べ、5類相当への引き下げを含めて検討を求めた。

 新型コロナウイルスは感染症法上の1~5類とは別の「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、入院勧告や外出自粛の要請など強い措置が可能で医療費が公費負担となる1~2類に近い。5類相当となれば、保健所を介さずに医療機関で対応が可能となるが、入院費が自己負担となる可能性もある。

 安倍晋三元首相や松井一郎大阪市長は5類相当への見直しを検討すべきだとの見解を示すが、岸田文雄首相は13日、新型コロナの感染症法上の分類を当面見直さない考えを示した。

 元厚生労働省医系技官の木村盛世氏は「5類への引き下げによって、企業や組織で感染者が出ても影響は最小限になり、医療従事者や保健所の負担も低減される。一定期間、医療費を公費負担にするなど柔軟な対応も可能ではないか」と語る。

 厚労省によると、最近1週間の感染者のうち、30代以下が全体の71・1%を占め、20代が突出している。

 国立感染症研究所が10日までに厚労省のシステムに登録されたオミクロン株の感染者817人のデータを解析したところ、軽症者は61・7%で中等症は0・7%、人工呼吸器などが必要な重症者はいなかった。

 感染爆発状態の沖縄も県基準の重症者は13日時点で0人。国基準では35人だった。

 国のまとめでは13日時点の全国の重症者は125人で前日から20人増えており油断はできないが、柔軟な対応も求められる。

 前出の木村氏は「今後、国民の半分が感染者、全員が濃厚接触者になる事態も考えられる。現行制度のままではオミクロン株ではなく人災として医療崩壊を招き、経済の息の根を止めることになりかねない」と警告した。

【私の論評】今後個々の政治家のオミクロン株への対応の仕方で、その地金がみえてくる(゚д゚)!

上の記事にも掲載されている、医師で元厚労省医系技官の木村盛世氏は、5日、日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」に出演。新型コロナウイルスのオミクロン株が急拡大していることについて元大阪府知事の橋下徹氏らと議論。「感染を無理に止めない」と発言して、司会の宮根誠司もあわてて「その考えは日本人にはない」と確認する事態となりました。

木村氏は、第5波が急減したことについて、「人流抑制がどの程度効果があったかは分からない」と話し、その上で、現在のオミクロン株への対応について「南アフリカのようにワクチン接種がかなり低いところでも収束してきているわけですから、ワクチンも治療薬もできたなかでは、感染を無理に止めない。医療体制を万全に整えることが私たちがやらなければならないこと」と指摘しました。

これには宮根が「感染を無理に止めないとおっしゃいましたよね?日本人にはその感覚はないんですよ」と目を丸くしたが、木村氏は冷静。「無理に感染する必要はないけど、感染は山を描く。ということは一定程度の感染ができないと、下がってこないということ」と持論を展開した。

木村氏はオミクロン株の感染力が高いことについても「感染力が強くなるということは、変異したウイルスが私たち共存していく絶好の条件を得られたということ。コロナでも変異を繰り返しながら、感染の数は増えながら致死性は減っていて、通常の風邪に近づいていくことになる」と前向きにとらえました。

また「この感染症はある日突然消えてなくなるものではなく、変異する前からほとんどの人にとって、軽症で無症状。にも関わらず、かかったら隔離して、社会活動を止めなければならないこんなバカげたことはない」「効果がどれだけあるか分からない自粛やまん防を繰り返すのは止めた方がいい」などと刺激的な物言いで自説を述べました。

続けて「(コロナの)致死性は、変異が進む前からも多くの人にとっては通常の風邪かインフルエンザ並みで済んでいます。そんな感染症をここまで社会的に重篤に扱われることによって、人為的医療ひっ迫を起こしている」と話し、指定感染症2類相当に扱われている状況から5類相当に引き下げることを提案しました。

木村氏は、同じ「情報ライブ ミヤネ屋」で、さらに率直な意見を述べています。下にその動画を掲載します。


結論からいうと、「コロナはもはや医学の問題では無く、利権と政治パフォーマンスの問題」というのです。

私もそう思います。たとえば、上の記事で、東京都の小池百合子知事が、感染症法上の位置付けについて、季節性インフルエンザ相当で危険度が最低の「5類」の引き下げも含め検討するよう国に求めたとあります。

これは、一見まともな対応をしているようにもみえますが、「検討するよう国に求めた」というところがミソです。

結局小池知事は、現状のままオミクロン株の感染が増えていくと、医療が逼迫するのは目に見えているという危機感を抱いているのでしょうが、それにしても、自分から2類から5類に引き下げるべきとはっきり言ってしまった場合、何か不都合が生じた場合、自らの責任になるかもしれないという危機感も抱いているのでしょう。

政府に対して「5類に下げることを求める」という形にすれば、いずれに転んでも、いざというときには自分ではなく政府のせいにすれば、自らの責任は免れることができます。

そのような保険をかけるために、政府に対してこのような要請ををしたのでしょう。小池東京都知事の過去の行動をつぶさにみていれば、そのくらいのことしか考えていないだろうと考えるのは私だけではないでしょう。

沖縄の玉城デニー知事は、ことさらコロナ感染を煽り、「米軍由来」だと騒ぎ立て反基地運動に利用しようとしているのではと、勘繰りたくもなります。

一方オミクロン株の市中感染拡大が懸念される中、安倍元首相が、現在感染症法で上から2番目の「2類相当」に分類されている新型コロナウイルスの位置付けについて、季節性インフルエンザと同じ「5類」に格下げすることも選択肢との認識を示し、注目を集めつつあります。発言は、読売新聞の3日付朝刊のインタビューで掲載されました。以下にその紙面から一部を引用します。


安倍氏のインタビューは、岸田政権のここまでをテーマにしたもので、ここ最近一部で報じられている岸田首相との「不仲説」を否定。デフレ脱却などの政策面に触れた後のコロナ対策のくだりで、岸田政権の3回目のワクチン接種前倒しを「大いに評価」。さらに「今年はさらに踏み込み、新型コロナの法律上の位置付けを変更してはどうか」と提起しました。

新型コロナは感染症法で現在、ジフテリアや結核、鳥インフルエンザでも病原性の高い「H5N1」型などの「2類」に相当すると特例的に位置付けられていますが、入院治療を原則としているため、病院や保健所への負担が大きく、5類に格下げし、軽症者や無症状については隔離施設や自宅療養とするなど、現場の負担を和らげるべきとの意見が出ています。

安倍氏も同様の考えのようで、「感染の仕組みが次第に解明され、昨年末には飲み薬も承認されました。オミクロン株への警戒は必要ですが、薬やワクチンで重症化を防げるならば、新型コロナを季節性インフルエンザと同じ『5類』として扱う手はあります」と述べました。

安倍氏は20年8月に首相退任を表明した記者会見で、2類相当の運用を見直す方針を示していたのですが、後継の菅政権では専門家などから慎重な意見が強まったこともあり、見送られました。

安倍元首相

自民党の細野豪志衆院議員はツイッターで「読売朝刊で安倍元総理が『新型コロナを季節性インフルエンザと同じ5類として扱う手はあります』と発言。インパクトは大きい。日常を取り戻したいという気持ちはみんな同じ。飲み薬が普及すれば可能性があるが、政府内には慎重な意見が多く、年明け早々大議論になるだろう」との見通しを示していました。

ただ、東京都ではこの日、新規感染者数が3か月ぶりに3桁となる103人に増加。沖縄県でも昨年9月25日以来となる130人にまで急増しました。毎日新聞によると、新規感染者の増加を受けて岸田首相は後藤厚生労働相に対し「臨機応変に対策に取り組まないといけない」と指示を出したといいますが、岸田政権では昨年12月初め、国交省が航空各社に国際線予約停止を要請し、その後、批判が強まったため撤回したばかりです。

安倍氏の提言が受け入れられるかは不透明です。安倍氏は20年8月に首相退任を表明した記者会見で、2類相当の運用を見直す方針を語っていました。

岸田政権は、優柔不断であり、未だ分化会や、官僚の意向などを気にしているのでしょう。

今後、オミクロン株への対応や発言等により、個々の政治家の本質というか、地金がでてくるのではないかと思います。またとない機会となるかもしれません。ただ、いずれにせよ、政治的パフォーマンスや利権は抜きにして、国民とって最も良いと考えられる対応をすべきと思います。

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2022年1月13日木曜日

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断末魔の中国
北京冬季五輪の開会式が行われる通称「鳥の巣」こと国家体育場

 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大が懸念されるなか、北京冬季五輪(2月4~20日)の開催が近づいてきた。中国の習近平国家主席は「われわれには素晴らしい大会を世界にささげる自信と能力がある」と強調するが、相次ぐ選手の感染報告を受けて、強豪スイスの選手団長が「延期検討」に言及するなど、先行きは混沌(こんとん)としている。中国については、自由主義諸国の「外交的ボイコット」につながった新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧だけでなく、経済的危機や米中対立の激化など、問題が山積している。評論家の宮崎正弘氏が、断末魔のうめきを放つ隣国を考察した。


 新型コロナの感染拡大で、中国・西安など多くの都市がロックダウンした。別の伝染病情報もある。オミクロン株の猖獗(しょうけつ=流行)により北京冬季五輪は開催そのものも危ぶまれている。

 中国の伝統的な正月風景も帰省客が激減して寂しく、肝要の北京で五輪ムードが盛り上がっていない。

 欧米各国の「外交的ボイコット」は、中国当局による新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)への外交的制裁だが、感染症や伝染病の再流行となると、次元が異なる。

 そのうえ、度重なる軍事的威嚇で、世界中を見渡しても中国の友人はいなくなった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、対欧米戦略の行き詰まりから、ことさら中国との蜜月を演じているだけである。

 日本経済研究センターの予想では「2033年に中国がGDP(国内総生産)で米国を超える」とか。

 人口が日本の10倍、米国の5倍近いから、単にGDP統計なら、そうしたシミュレーションも成り立つだろう。

 何しろ、80兆円を楽々と越える累積赤字を気にせずに、中国は新幹線を次々と開通させ、昨年末、営業キロが4万キロを突破した。これは国有企業だから赤字でも構わないが、民間企業となると倒産する。中国全土、見渡す限りのゴーストタウンだ。

 習主席が呼号する「共同富裕」の掛け声や良し。皆が一緒に豊かになろうと言うのだから、共産革命の原点に戻るわけだ。実は、この新幹線に戦々恐々なのが不動産を何軒も持つ共産党幹部である。

 「共同富裕」は裏を返すと「共同貧乏」だった毛沢東時代に戻ろうと解釈される。現実には、毎月5000円程度で暮らす人々が多く、その一方で未曽有の金持ちがいる。

 中国のハイテク企業は米ウォール街から追い出され、新規上場もできなくなった。そのうえ、インターネット通販最大手「アリババグループ」などに罰金を科し、予備校、家庭教師、ゲームへの強力な規制をかけた。

 「ハイテクの前進基地」といわれた広東省深圳市では、ビッグテック企業が軒並み「30%レイオフ」「35歳以上は肩たたき」の噂が乱れ飛び、サラリーマンは戦々恐々である。

 米国は、米中対決を戦略レベルで捉えているから、中国の経済力を削ぎ落すことに長期目的を置く。特に、デジタル人民元の普及を脅威視する。戦後のブレトンウッズ体制下の「ドル覇権」が破壊されるかもしれないと恐れているためで、今後も規制は強まるこそすれ、緩和方向へは向かわないだろう。

■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『中国が台湾を侵略する日』(ワック)、『歩いてみて解けた「古事記」の謎』(育鵬社)、『日本の保守』(ビジネス社)など多数。

【私の論評】デジタル人民元の普及が無意味になった中国では、何年も前からいわれてきた断末魔に近づきつつある(゚д゚)!

上の記事で、宮崎氏は、

"日本経済研究センターの予想では「2033年に中国がGDP(国内総生産)で米国を超える」とか。

人口が日本の10倍、米国の5倍近いから、単にGDP統計なら、そうしたシミュレーションも成り立つだろう。"

と述べています。

しかし国民一人当たりのGDPということでは、中国は10,000ドル前後(日本円では、100万円前後)です。2020年の比較では、世界64位に過ぎません。以下にその比較を掲載します。
・世界の1人当たり名目GDP 国際比較統計・ランキングです。
・各国の1人当たり名目GDPと国別順位を掲載しています。
・単位は米ドル。
・IMF統計に基づく名目ベースの人口1人当たり当たりGDP(国内総生産)。
・米ドルへの換算は各年の平均為替レートベース

韓国、台湾はおろか、リトアニアよりも低いのです。そうして、中国経済はこれ以上伸びない可能性が大きいです。

それは、中国が中所得国の罠から抜けられない可能性が高いからです。中所得国の罠とは、発展途上国が経済成長をしても、最初のうちは政府主導で伸びていくのですが、国民一人当たりのGDPが10,000ドルあたりからは伸び悩み、10,000ドルから超えられない現象のことをいいます。

なぜそうなるかといえば、発展途上国のほとんどが民主化されていない事が多く、民主化をすればその後も経済が伸びる傾向になるのですが、結局民主化することができなくて、伸び悩むということのようです。

台湾が一人あたりのGDPが中国よりはるかに高いのは、やはり民主化が中国より進んでいるからでしょう。

民主化が進めば、政治と経済の分離が行われ、法治国家化もすすみます。その結果、多数の中間層が生まれ、彼らが自由に社会経済活動を行うことができ、社会変革を行い、その結果として社会が豊かになり経済が発展するのです。

大陸中国は、民主化が行われてこなかったので、こういうことが起こらず、一人あたりのGDPでは台湾やリトアニアにもはるかに低いのです。以前にもこのブログ述べたように、中東欧諸国は一人ひとりの国民が豊かになることを夢見て、中国の一帯一路に関連する投資を歓迎したのでしょうが、中国にはそのようなノウハウはないのです。

あるとすれば、独裁者とその追随者が儲かるノウハウだけです。中東欧諸国が、中国に失望するのは、時間の問題だったともいえます。

中国は、民主化や資本市場の自由化等をすすめなければ、結局国際金融のトリレンマ(三すくみ状態)から逃れられず、独立した金融政策が行うことができず、これから過去のように経済が飛躍的に伸びることはありません。

日本は、良く一人あたりのGDPが低いといわれ、その主な原因は構造的なものとする人もいますが、それは間違いです。その主な原因は、平成年間のほとんどの期間にわたって、実体経済を無視して、日銀は金融引締政策を続け、財務省にいたっては、現在でも未だに緊縮財政に執着しているからです。

この経済政策の間違いが、一人あたりのGDPを低くしてきたのです、そのためもあって、日本人の賃金は30年近くも上がらなかったのです。いまや日本人の賃金は、OECD諸国の中でも、最低の部類に属します。しかし、日本の一人あたりのGDPの低さは、正しい金融政策や財政政策を行えば、克服することができます。日本は、中国よりは、民主化がはるかに進んでいるからです。

しかし、上の記事でも述べられているように、その中国がデジタル人民元の普及をしようとしています。デジタル人民元にしても、国際金融のトリレンマの状況はかわらず、中国は独立した金融緩和を実施することはできません。

人民元をデジタル化しようが、しまいが、中国は国際金融のトリレンマにはまりこんで、たとえば失業率が著しくあがっても、なかなか金融緩和政策をとることはできません。大規模な金融緩和をしてしまえば、すぐに過度のインフレになってしまいます。だから、やりたくてもできないのです。

その中国がなぜデジタル人民元を普及させようとしているのでしょうか。それは人民元のデジタル化により資本取引を管理したいということだと思います。中国人は政府を信用していないので、お金を国外に持ち出したり、投資したりします。デジタル人民元にすれば、それを全部監視できるます。無論、自分たちにとって都合の悪いことがあれば、すぐにも規制をするでしょう。

ありていにいえば、中国は戦後のブレトンウッズ体制下の「ドル覇権」が破壊するなどのだいそれたことを考えているのではなく、デジタル人民元の普及を資本取引の規制の一環として熱心にやっているのです。

中国人が資産を大量に外に持ち出すことに、中国共産党は睨みを効かせていることを認識させるためでしょう。そうして、あまり派手にやれば、何らかの規制が入ることを認識させるのが狙いでしょう。

「デジタル人民元」とは言っても、他のデジタル通貨と異なり、全部の取引を政府が把握するつもりでしょう。いざ「外に持ち出そう」というときには何らかの規制がかけらるようになるでしょう。

いままではこっそりやることができたのですが、それができなくなるのです。当然のことながら、国内での取引の監視を強化することでしょう。そうなると、習近平の反対勢力の金の流れを詳細にわたって監視することができます。テロリストや政敵などが、どこから資金を得ているのか、詳細に把握することができます。

米国の大学院などでMBAの学位取得のために勉強するとき、大学の教授が口を酸っぱくして言う言葉は"Follow the money"(金の行方を追え)です。ビジネスの現場で取引先と何らかの交渉を行う際、いろんな枠組みでビジネスを行うことになるわけですが、その際お金の流れをきちんと把握して、先方がどこで儲けようとしているのかがわかっていればカモにされることはないですし、すべてのビジネスモデルにおいて、本当はどこで儲けていることが明らかになるからです。



これと同じで、中国共産党がデジタル人民元を普及させることに成功すれば、従来のカメラなどによる監視よりもより間口も広く、奥行きの深い監視ができるわけです。

しかし、国内外で制限があったにせよある程度はできた資本の移動ができなくなれば、まともにビジネスもできなくなります。

デジタル人民元が普及する前に、富裕層は、様々な手段を駆使して、手持ちの資産をドルに変えて、海外に持ち出すことでしょう。それを恐れてか、中共はしばらく前から持ち出しの規制を強化しています。

現状では、中国国内でドルが積み上がっています。前例のない規模の貿易黒字と債券市場への記録的な資金流入が背景にあります。それに、企業ベースでも個人ベースでも、ドルの国外持ち出し規制は厳格化されています。米国の金利が異常なほど低いのは「アジアの貯蓄過剰」が関係しており、これが米国のサブプライム住宅ローン危機をあおったと非難された時代以来見られなかった水準に膨らんでいます。

当時、中国は流入したドルで積極的に米国債を買い入れていました。ところが今は外貨準備高の大きな割合を占める米国債はほぼ横ばい状態。つまり、どこか別の場所でドルが使われていることを意味するのですが、正確にそれがどこかは謎です。

中国に流入したドルの一部は中国の銀行に預金として置かれますが、中国の国際収支における不整合の大きさで実態ははっきりしていません。ただそれでも、不動産開発大手の中国恒大集団など個別企業がドル建て債務の返済に苦しむ中でも、世界経済に将来生じ得るショックに対してこうしたドルが中国にとって重要なクッションとして機能することは確かです。

ドル建て債務の返済に苦しむ恒大集団

早い話が、中国は不動産大手等に公的資金を投入しているのでしょう。これからも、投入を続けるのでしょう。デジタルであろうが、なかろうが人民元は中国がドルや米国債を大量に保有しているからこそ、保証されている面は否めません。

それに、不動産大手がドル建て債務で苦しんでいるということから、やはり中国でも大口の資本取引等は現状でもドル建てで行うのでしょう。それに、人民元を大量に擦り増して投入することになれば、深刻なインフレに見舞われるのでしょう。

現状では、米国が金融緩和の縮小に向かうのに逆行して中国が緩和を進めるとすれば、人民元安を招くでしょう。そうして、中国国内はインフレに見舞われるでしょう。

一方で人民元相場が下落すれば、ドル建ての負債を抱え既に資金難にある中国企業には一段と圧力が加わるとともに、15年の事実上の元切り下げ後と同様の資本流出につながるリスクもあります。

このような状況では、人民元のデジタル化をして監視を強化してもあまり意味がないです。ドルは米国の通貨であり、中国がドルをデジタル化してそれを監視できれば良いのですが、それは不可能です。

一方米国は、ドルのデジタル通貨化はしていませんが、国際取引のほとんどが今なおドルを用いて行われています。そのため、デジタル通貨のように細かな部分まで監視することはできませんが、かなり詳細に世界の金融取引を監視することができます。

この状況では、中国はコストも手間もかかる、人民元デジタル化をすすめることはできないと思います。

そうして、これから中国はドルの流れをさらに規制し、国内から海外に流出することを防ぐでしょう。そうなると、貿易もできず、中国内の外国企業はいままでよりも、海外に資産を持ち出すことができなくなります。ますます、中国でビジネスをする意味が薄れてきます。

何年も前から、中国の断末魔がいわれてきましたが、今度こそ本当にその状況に近づきつつあるようです。それても、中国は国民を弾圧して、国民から富を簒奪すれば、それで当面は維持できるかもしれません。しかし、富を散弾し尽くした後はどうするのでしょうか。それでも、今度は国民すべてを奴隷にして、共産党幹部たちの生活だけは、以前の水準を維持するつもりなのでしょうか。

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2022年1月12日水曜日

景気指数、11月は過去2番目の上昇幅 自動車などの生産改善=内閣府―【私の論評】コロナ感染症に従来と同じ対応をすれば、また景気が落ち込むだけ(゚д゚)!

景気指数、11月は過去2番目の上昇幅 自動車などの生産改善=内閣府

内閣府が11日公表した11月の景気動向指数(速報値、2015年=100)は、指標となる一致指数は前月から3.8ポイント上昇した。写真は都内で昨年1月撮影

内閣府が11日発表した2021年11月の景気動向指数(2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が93.6となった。前月比では3.8ポイント上昇と2カ月連続でプラスとなった。前月比のプラス幅は1985年1月以来、過去2番目の大きさ。

自動車生産回復、基調判断は据え置き

項目別では、耐久消費財出荷や鉱工業生産指数が改善した。部品供給不足が解消しつつある自動車や二輪車などの生産回復がけん引した。自動車用非鉄・鋼材の生産拡大も寄与した。

数カ月後の景気を示す先行指数は1.5ポイント上昇の103.0と、前月比で2カ月連続のプラスだった。自動車や化粧品などの出荷拡大により最終需要財在庫率などが改善した。新規求人数や中小企業売上見通しDIなども改善した。一方、新設住宅着工床面積やマネーストックは指数を下押しした。

一致指数の動きから内閣府が機械的に決める景気の基調判断は10月の「足踏みを示している」との表現を据え置いた。判断引き上げには3カ月移動平均の3カ月連続でのプラス継続が必要。11月の3カ月移動平均は5カ月ぶりに前月比プラスに転じたばかり。

【私の論評】コロナ感染症に従来と同じ対応をすれば、また景気が落ち込むだけ(゚д゚)!


プラス幅が、1985年1月以降、2番目の大きさとなったなどと言われると、喜んでしまう人もいるかもしれませんが、と言われると喜んでしまうかも知れませんが、実際はどうなのでしょうか。それは、上のグラフをご覧痛たげれば、おわかりになると思います。

遡ると指数は2020年の最初が高くて、指数95.5でした。それがコロナの影響で2020年5月には73.5まで下がり、そのあと「グッ」と上がったのです。2021年4月には95.0。ほとんど前までと一緒になったわけです。

そのあと2021年9月に半導体不足で88.7まで下がりました。現状はそこからの回復過程なのです。こういう状況を「デッドキャットバウンス」と英語で言いますが、「叩きつけた猫は跳ね上がる」ということです。


何かの理由で下がったものは上がるのです。それは、グラフをご覧いただければ、ご理解いただけると思います。数字的には2020年の最初のときまで戻っていなのです。最低水準から少し上がっただけです。2020年1月というと、コロナ流行の直前にまでは戻っていないのです。

水準的には上がったといえるかもしれませんが、それは「いちばん下の水準から少し上がった」というだけのことです。短い2ヵ月間だけを見て喜ぶわけにはいきません。

本来であれば下がらなくてもいいところが下がっていて、いまはそれが上がったというだけのことです。

半導体不足もあり、8月~9月にはコロナの第5波があって、経済的にも回せる状況ではありませんでした。

今度は第6波です。そのときに過去と同じ政策を取るのか、取らないのかという観点が重要になってきます。同じ政策を取って行動抑制をしたら、また景気が下がります。

新型コロナウイルスは弱毒化しているわけですので。さすがに同じ政策は取れないのではないでしょうか。海外でも同じ政策を取っているところはほとんどありません。

ウイルスが弱毒化しているときには、弱毒化しているなりの政策をしなければいけないはずです。本質的なのは感染症の分類です。新型コロナ感染症の分類は2類相当なのだけれど、これを5類に下げるというのが普通のやり方でしょう。

このブログでも以前述べたように、日本では2016 年にはインフルエンザの感染者数が1週間で200万超となったのですが、インフルエンザは5類相当の扱いなので、行動制限もなく、医療崩壊も経済の落ち込みもありませんでした。2016年当時の動画を以下に再掲します。


コロナ感染症は感染拡大当初は、未知の感染症であり、日本では諸外国と比較すると、感染者数、死者数ともに、かなり低めでしたが、未知の感染症であり、しかもワクチンは普及しておらず、飲薬もない状況でした。

しかし、現在流行しているオミクロン株は、感染力は強いものの、毒性は弱く、現在ではワクチンも飲薬もある状況です。であれは、従来とは異なる対処方法を実行すべきです。コロナ感染症をインフルエンザと同じ分類にして、無症状者は自宅待機、症状の出ている人は、入院はするものの、通常の病棟に入院し、一般人の行動抑制はなしにすべきです。

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2022年1月11日火曜日

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、スマイロフ前第1副首相(写真左)を首相に任命した。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。北京で2019年3月撮影

カザフスタンのトカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明した。

CSTOの平和維持軍の主要任務が無事終了したとしている。撤退は10日間で完了する見通し。

これに先立ち、大統領はスマイロフ前第1副首相を首相に任命。議会下院は直ちに同氏を首相に選出した。

大統領は資産格差の是正を進め、鉱山会社からの税収を増やすと表明。政府調達で不正をなくす意向も示した。

【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

今回の騒乱の背景にあるのは、燃料価格の値上げなどといった単純な経済問題ではないようです。1991年にカザフスタンが旧ソ連から独立した時から2019年3月まで、28年にわたって初代大統領を務めてきたヌルスルタン・ナザルバエフと、2代目のトカエフ現大統領との雌雄を決する権力闘争とみるべきでしょう。

ヌルスルタン・ナザルバエフ氏

土着派で剛腕なナザルバエフ前大統領と、国際派でインテリのトカエフ大統領は、元々馬があわず、この3年近く、両者はつばぜり合いを続けてきました。ナザルバエフはそもそも、トカエフを後継者にしたくなかったようです。ところが、トカエフはロシアと中国の後ろ盾を得て、大統領の座を射止めたようです。

今回の騒乱に乗じて、トカエフ大統領は、ナザルバエフ派を一掃しようとしているのでしょう。1月5日、トカエフ大統領はテレビで国民向けに演説し、ナザルバエフの国家安全保障会議の終身議長職を解き、自らが議長に就任したと発表しました。おそらく、これから起こるのは、ナザルバエフ前大統領の身柄拘束だとみられます。

今回の騒乱が起きるや、トカエフ大統領は8日には情報機関の国家保安委員会が、ナザルバエフ氏の最側近、カリム・マシモフ前委員長を国家反逆罪で拘束したと発表しました。さらに、マシモフ氏の元側近で国家保安委員会のマラト・オシポフ副議長とダウレト・エルゴジン副議長を共に解任したと明らかにしました。これは前述のように、いずれナザルバエフ逮捕まで持って行こうとしていると見るべきでしょう。

トカエフ氏は旧ソ連時代に、モスクワ国際関係大学で中国語を専攻しています。その後、ソ連外務省に入省、1983年に北京語言大学に留学しています。1984年からソ連が崩壊する1991年まで、中国のソ連大使館で外交官を務めていました。中国語は流暢で、後にCCTV(中国中央広播電視総台)のインタビューを、通訳なしで受けたこともあります。

トカエフ氏は1992年に、独立した母国カザフスタンの外務次官になり、1994年には外務大臣になりました。外務大臣は、1994年から1999年までと、2002年から2007年まで、計10年も務めています。その間、中露とのパイプ作りに励み、2013年に上院議長に就任しました。

トカエフ大統領

ロシアのプーチン政権は、トカエフ大統領に与したようです。ナザルバエフ等よりも、元ソ連
外務省の外交官であるトカエフの方が、よほど信頼できるからでしょう。だからこそ、初めてCSTOを派遣したのでしょう。

ロシア軍は8日、20機以上の大型輸送機イリューシン76を使い、ロシア西部イワノボ州から兵士をカザフに輸送し始めたと発表した。これに先立ち、急襲を得意とする精鋭の空挺くうてい部隊を送り込んでいました。CSTOからカザフに派遣された兵士の総数はベラルーシやタジキスタンを含む5カ国の約2500人ですが、大部分はロシア兵です。

空挺部隊というと、以前にもこのブログに掲載したように、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。しかも、今回は空挺師団ではなく、あくまで空挺部隊で総勢2500人です。

ロシアのTVの画面などでは、多数の装甲車が並んだ画像やイリューシンなどを写してさも、大部隊を投入するようにみせかけていましたが、これはロシアのプロパガンダに過ぎません。そもそも、2500人の兵しか送らないということは、カザフスタンで本気で戦争をしようなどとは、鼻から考えていなという証拠です。本気で戦争をする気であれば、今頃後続部隊が陸路でカザフスタンに向かっているはずです。

大型輸送機イリューシン76に乗り込む空挺部隊

それができない理由がロシアにはあります。まずは、現状ではウクライナ問題があります。現状では、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回るロシアは、ウクライナとカザフスタンの両方で同時に、大規模な作戦を行うだけの力はありません。

だからといって、優れた軍事技術を持ち、旧ソ連の核兵器を継承するロシアを侮ることはできません。現在でも、全世界を破壊してもまだ、ありはまるだけの核兵器を有しているのです。しかし、軍事力で外国に攻め込むとか、外国を制圧するということになれば、話は別です。その力はほとんどありません。自国の長大な国境線を守ることすら難しいです。

プーチン大統領は10日、ロシアが主導する旧ソ連諸国の集団安全保障条約機構(CSTO)の首脳会議で、政府に対する抗議デモが発生したカザフスタンを外国が後ろ盾するテロリストから守ることができたとして勝利を宣言しました。同時に、他の旧ソ連諸国もCSTOが守ると表明しました。

カザフスタンの抗議デモについては「破壊的な内外の勢力が状況を利用した」との見方を示し、「政権を揺るがす試みは許さない」と述べました。ただ、内外の勢力について、具体的には述べませんでした。

中国も基本的にはロシアと同様の姿勢でしょう。第一に、2月4日に北京冬季オリンピックの開幕を控えています。そんな時、隣国で内乱など起こってほしくないでしょう。第二に、あのような暴動が、国境を挟んだ新疆ウイグル自治区で起こってほしくないでしょう。

トカエフ政権が国民にあまり無慈悲なことをすると、今度は新疆ウイグル自治区の150万人のカザフ族が黙っていないでしょう。ともかく、一刻も早く騒動が収まってほしいと願っているでしょう。

習主席は7日、トカエフ大統領へのメッセージで、「大統領は重要な時に思い切って強力な措置を取り事態を速やかに沈静化させた」と評価したうえで、「政治家としての責任を示した」と強調していました。

中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。

カザフスタン情勢は、プーチンや習近平にとって、鬼門ともいって良いような、恐るべき地政学上の脅威です。

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