2022年2月17日木曜日

自民・高市氏、外相対応に懸念 日ロ経済協力会合めぐり―【私の論評】露がどちらに転んでも非常に分が悪いシナリオを米英が描いていることを理解しない能天気な林外相(゚д゚)!

自民・高市氏、外相対応に懸念 日ロ経済協力会合めぐり

自民党の高市早苗政調会長

 自民党の高市早苗政調会長は17日の党会合で、ウクライナ侵攻の可能性が取り沙汰されるロシアとの間で経済協力に関する閣僚会合を開いた林芳正外相の対応を批判した。政府が先進7カ国(G7)各国と連携し、侵攻した場合の制裁発動を検討中だとして「G7の結束を乱そうとするロシアを利することになる。大変強い懸念を覚えた」と述べた。

 外務省側が、閣僚会合を開いたのは事前に予定されていたためだと説明したと言及。高市氏は「臨機応変に会談を延期するなど、いろいろな方法があった」と指摘した。

【私の論評】露がどちらに転んでも非常に分が悪いシナリオを米英が描いていることを理解しない能天気な林外相(゚д゚)!

日ロ両政府は15日、林芳正外相とレシェトニコフ経済発展相が共同議長を務める「貿易経済政府間委員会」をテレビ会議形式で開きました。閣僚レベルで両国の経済関係全般について協議するのが目的。ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が強まり、対ロ経済制裁が議論されるタイミングでの開催を疑問視する声もありました。

テレビ会議形式で開いた、日ロ貿易経済政府間委員会の共同議長間会合に臨む林外相=15日午後

政府間委員会は1994年に両国が設置で大筋合意しました。共同議長間会合は2020年12月以来。林氏はロシアとの対話の継続に言及する一方、「現下のウクライナ情勢に重大な懸念を持って注視している」と伝達。緊張を緩和し、外交的解決を追求するよう求めました。レシェトニコフ氏はウクライナには触れず、新型コロナウイルス禍にあっても両国の経済関係は進展しているとして「さらに協力を進めたい」と語りました。

高市政調会長の主張は、当然であり、高市氏のほうがまともな外交感覚を持っていると思います。林外相は完璧に外交感覚がずれているとしか言いようがありません。

自民党外交部会の佐藤正久部会長は16日午前に党本部で開かれた会合で、ウクライナ情勢をめぐる政府の対応について「外務省のチグハグ感と当事者意識のなさが半端ないと言わざるを得ない。この2カ月間、たったの一度も林芳正外相と欧州の外相の会談は開かれていない」と批判しました。

佐藤氏はまた、15日に岸田文雄首相がウクライナのゼレンスキー大統領、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長と電話会談した一方、林氏がロシアのレシェトニコフ経済発展相とのテレビ電話形式の会議に出席したことについて「首脳会談の裏で、制裁を検討している相手に対しなぜ経済協力なのか。このチグハグ感は批判されてもしようがない」と述べました。

岸田政権は何をしているのか、本当に理解しているのでしょうか。今話すべきは、ロシアに対する制裁をどうするかであって、経済協力ではないはずです。

このずれまくりでは、ウクライナ情勢を本当に理解しているのか、心配になってきました。

このブログにも過去に示してきたとおり、現在ロシアはウクライナに侵攻して、ウクライナを屈服させて、ロシアの思い通りにさせることは不可能です。できるのは、たとえハイブリット戦を駆使したとしても、ウクライナの東のいくつかの州、それも州全部ではなく、一部しか占拠できないでしょう。

プーチンは、2000年の就任演説以降「大国ロシア」という言葉を頻繁に使用してきましたが、現在もそうして将来も「大国ロシア」になる可能性はほとんどありません。現在のロシアは、NATOと正面から対峙する力もありません。NATOとロシアが戦争になれば、ロシアには全く勝ち目はありません。

昨年6月22日対ドイツ戦争の開始から80年を迎えたことを受け、モスクワのクレムリン宮殿脇にある戦没兵士をまつる「永遠の炎」に献花し「ロシアは偉大で強力な大国であり続ける」と表明した。 

にもかかわらず、バイデン米大統領やボリス・ジョンソン英首相が、ロシアが今すぐにでもウクライナに侵攻すると煽っています。

これはなぜかといえば、まずはロシアがハイブリット戦を駆使して、本格的な軍事侵攻をせずにウクライナの一部をかすめ取ることに対する危惧でしょう。実際、ロシアはクリミアを独立させたという前科があります。こういうことを中国が得意のサラミ戦術のように何度も繰り返せば、やがてウクライナの大きな部分が、ロシアの手に落ちることも十分に考えられます。

それだけは、絶対に許さないぞという強い決意を示すために、バイデンやジョンソンがロシア侵攻を煽っているという側面は否定できないでしょう。

戦争を回避できれば、それは粘り強い交渉で平和をもたらしたという米やNATOの功績となります。そうなれば、バイデンにとってはアフガン撤退の失敗等の失地回復につながることになります。それで、秋の中間選挙が少しは有利になるかもしれません。

英国では、昨年12月16日にボリス・ジョンソン首相に近い与党・保守党の下院議員が議会規則に違反するロビー活動で辞職した問題で、空席になった議席の補欠選挙が行われ、保守党は200年近く維持してきた牙城ノース・シュロップシャー選挙区の議席を争い、野党・自由民主党に敗れました。

さらに、英国の首相官邸で新型コロナウイルス対策の行動規制下にあった時期にパーティーが開かれていた不祥事をめぐり、ジョンソン首相が窮地に立たされています。新疑惑の発覚がとどまらず、自身の参加も認めて謝罪しました。ところが、有権者は、厳しい規制を求めてきた政府の規則違反に不満を高め、与党・保守党内で首相の進退を問う声が強まってきています。

ジョンソン首相も、戦争が回避できれば、失地を回復できるチャンスがあります。

     主要7カ国(G7)首脳会議が開かれる英南西部コーンウォールで、
     ボリス・ジョンソン英首相とジョー・バイデン米大統領が初めて対面

一方、内政面では年金改革、人口減少、平均寿命の 引き上げ、出生率の減少、フルシチョフ時代に建てられた住宅(フルシチョフカ)修繕問題、 地方と都心との格差や貧困問題などの問題を抱えているプーチンはさらに支持率の低下に悩むことになるでしょう。

一方、ロシアが耐え切れずに開戦に踏み切れば、それはロシアにとって自殺行為となるでしょう。バイデン氏やジョンソン氏は、何のためらいもなく、ロシアに対する厳しい制裁を発動するでしょう。現在予想されるのは、ドル・ポンドとルーブルの交換停止です。

そうして、EUもすぐにこれに追随して、ユーロとルーブルの交換停止に踏み切るでしょう。こういうことを言うと、ロシアの資源量が圧倒的なのに対し、EUはエネルギー資源に乏しく、そEUはロシアの強引な天然ガスを利用した外交攻勢や価格引き上げ構成に悩まされるから、EUは対ロ経済制裁に慎重にならざるを得ないという人もいるでしょう。

しかし、現実の天然ガスの長距離パイプラインによるビジネスでは、供給国と需要国の間で、一方的な立場の有利、不利は存在しません。パイプラインでの取引では、物理的に取引相手を変えられないからです。

その一方で、天然ガスは石油・石炭・原子力・新エネルギーでいつでも代替可能なものであり、供給国が人為的に価格を引き上げたりすると、たちまちに需要不振になってしまいます。なによりも、供給カットなどを行うと、供給国は国際社会での信頼を一挙に失ってしまいます。

要するに、ロシアなど供給国が、需要国に対して価格引き上げや供給カットで外交攻勢をかけることは事実上不可能なのです。現実の天然ガスビジネスでは、供給国と需要国の交渉力は、ほぼ対等の関係にあるのです。

そのため、EUも米国、英国に続いてユーロとルーブルの交換停止に踏み切るでしょう。ドイツと日本も、マルク・円とルーブル交換の停止に踏み切るでしょう。これですべての基軸通貨とルーブルの交換が禁止され、ロシアは貿易がかなりしにくい状況に追い込まれます。

どちらにしても、ロシアにとって非常に分が悪いシナリオが描かれているようにしか見えません。

ロシアが弱体化すれば、領土問題はかなり交渉しやすくなります。先日も述べたように、ロシアが戦争に踏切り、厳しい制裁を受ければ、今でも韓国なみのGDPしかないロシアが、北朝鮮なみになることも十分に考えられます。そうなれば、ロシアは北朝鮮のようにミサイルを発射し続けるようになるかもしれません。しかし、現在の領土を守り抜くのは困難になるでしょう。

その時には、北方領土が日本に帰ってくる可能性はかなり高くなるはずです。日本としても、ロシアに対してどのような制裁を課すのが北方領土返還に有利なるかを考えるのが、いまやるべきことです。

このような時期に、日本の外務大臣が、ロシアとの間で経済協力に関する閣僚会合を開くなど、林芳正外相と外務省には本当に外交センスがあるのか本当に疑わしいくなってきました。いや、外務省には元々外交センスがないのがわかっていましたが、林外相にもそれがないことが明らかになったと思います。

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2022年2月16日水曜日

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ロシア、一部部隊が基地帰還開始と発表-NATO事務総長は慎重

「慎重ながら楽観的になる根拠」だが撤退の証拠待ちたい-事務総長
ベラルーシと黒海での軍事演習は20日終了の予定

ロシアとベラルーシの軍事演習

 ロシアはウクライナ国境付近での軍事演習が終了し、一部の部隊が所属基地に帰還し始めたと15日に発表した。米国と欧州諸国は、ロシア軍がウクライナに侵攻する可能性を警戒してきた。

  市場はロシア側による今回の動きを危機緩和の兆しと受け止めて好感した。ここへきて外交的解決を追求する動きが活発化しており、ロシアのプーチン大統領も西側との協議継続を支持した。ロシア側は一貫して侵攻の意図を否定している。

 米国と北大西洋条約機構(NATO)はロシアが約13万人の兵士をウクライナ国境付近に集結させたとし、侵攻の可能性を指摘し撤退を要求していた。ロシア側は自国内の軍の移動は内政問題だと主張した。

 ロシアは隣国ベラルーシで数年ぶりの大規模演習を実施しているほか、黒海で海軍演習を行っている。これらは20日に終了する予定だ。

 プーチン大統領は米国およびその同盟国に対し、一段のNATO拡大禁止を含む安全保障についての包括的な保証を求めていたが、米国側はこれを拒否。他の安全保障問題について協議を提案した。ロシアのラブロフ外相は14日、米国側の提案について「建設的」だとしてプーチン大統領に対話継続を提言した。

 NATOのストルテンベルグ事務総長は15日、ブリュッセルで記者団に対し、ロシア軍の一部部隊撤退の発表について「慎重ながら楽観的になる根拠」を与えるものだと発言。その上で「今のところ緊張緩和に向けた兆しは見えない」とし、ロシア部隊撤退の証拠を待ちたいとの考えを示した。

原題:Russia Says Some Troops Are Returning to Base After Drills (1)(抜粋)、NATO Awaits Evidence of Pullback Russia Flagged: Ukraine Update(抜粋)

【私の論評】ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国による末恐ろしい制裁が待っている(゚д゚)!

ロシア国防省は一部の部隊がウクライナとの国境付近での軍事演習を終え、基地に帰還しつつあると明らかにした。インタファクス通信が15日報じました。ロシアと米欧の緊張が緩和する可能性があります。

 報道によると、大規模な演習は続いていますが、南部と西部管区の一部部隊は訓練を終え、基地に向かっているといいます。 英国のトラス外相は、ロシア軍がウクライナとの国境から全面的に撤収するのを確認するまでウクライナ侵攻の意思がないと信じることはできないと述べました。

   ロシア南部での訓練終了後、鉄道の輸送貨車に積載される
   ロシア軍の戦車。2月15日にロシア国防省が提供した

 国営ロシア通信(RIA)が公開した国防省提供のビデオ映像には、戦車などの装甲車が貨車に積み込まれる様子が映っています。 国防省は一部装備品の輸送にはトラックを使用し、一部の部隊は徒歩で基地に戻るとしました。 ロシア軍は10万人以上の部隊をウクライナ国境周辺に配置。10日から20日までベラルーシと合同演習を行っています。 国防省の発表を受けてルーブルは1.5%高となりました。

今後どうなるかは、ウクライナ次第であり、どうなるかは現時点ではまだわかりません。以下の動画をみていただけると、ロシアがウクライナに侵攻するしないはウクライナ次第であることと、もしロシアがウクライナに侵攻した場合、ロシアにとっては天地がひっくりかえるようなとてつもない制裁が待っていることがわかります。


詳細は、この動画をご覧いただくものとして、この動画では、ウクライナ問題の本質は、NATOにウクライナが入るか入らないかであり、これを巡って米国・NATOとロシアが争っているということです。

以下にウクライナ周辺の地図を掲載します。これをみれば、ウクライナがNATOに入ることは、ロシアにとってNATOとの大きな緩衝地帯をなくすことになります。


NATOの加盟国は現在以下30カ国です。アイスランド、アメリカ合衆国、イタリア、英国、オランダ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク(以上原加盟国)、ギリシャ、トルコ(以上1952年2月)、ドイツ(1955年5月当時「西ドイツ」)、スペイン(1982年5月)、チェコ、ハンガリー、ポーランド(以上1999年3月)、エストニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア(以上2004年3月)、アルバニア、クロアチア(以上2009年4月)、モンテネグロ(2017年6月)北マケドニア(2020年3月)

ウクライナがNAOTに加盟すると、グルジアも入る可能性もあります。そうなるとロシアの安全保障は大きく脅かされることになります。

だからこそ、ロシアとしてはウクライナには是が非でも、NATOに入ってもらいたくないのです。そのため、ロシアがウクライナに侵攻した場合は、

そうして、上の髙橋洋一氏の動画にありますが、米国はロシアがウクライナに侵攻した場合は、ルーブルと基軸通貨(ドル、ユーロ、ポンド、円)の交換禁止を発動するつもりのようです。

そうなった場合、ロシアは貿易があまりできなくなります。そうなると、経済がかなり悪くなります。交換禁止の期間がどのくらいになるかにもよりますが、20年も継続された場合、現在韓国並のGDPが北朝鮮なみになるかもしれません。本当に恐ろしい制裁です。

米中の争いは関税によるものが多いですが、これも元と基軸通貨の交換を禁止してしまえば、中国はあまり貿易がてきなくなり、最も効果があると考えられますが、そうなると米国、EU、イギリス、日本なども中国と経済的な結びつきが多いため、こちらがわも結構被害を被ってしまうため、実施しないのでしょう。

ただ、米国と中国の経済のデカップリングが進めば、米国の被害は少なくなるのて、実施する可能性があります。

ロシアの場合は、元々ロシアの経済が現在では、GDPが韓国並ということと、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回る状況ですから、通貨交換を停止しても、米国にはさほど大きな影響はありません。

ドイツ北東部を走る、ロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」

ただ、EUはロシアの天然ガスに依存しているところがあるので、厳しいでしょう。そのため、米国はまずはドルとルーブルの交換停止しつつ、EUのエネルギー問題を解消し、解消でき次第ユーロとの交換停止ということに踏み切るでしょう。ポンドや円も続くことになるでしょう。

これを実行されると、ロシアはウクライナどころでなくなります。国民から大きな反発をくらい、プーチン政権は崩壊するかもしれません。

そもそも、先日もこのブログで示したように、現在でもロシア経済は決して良いとはいえませんし、天然ガスや原油の生産も原産傾向です、人口も減少も日本よりも酷い状況にあります。

そこにこのような過酷な制裁が課されれば、ロシアはとてつもないことになります。長期間この制裁が続けば、先程述べたように、ロシアの経済は北朝鮮なみになるかもしれません。その時にはロシアは国防すらおぼつかなくなります。北朝鮮のように定期的に核ミサイルを発射するようになるかもしれません。それにしても、国土を守り切るのは相当難しくなるでしょう。

私には、そこまでの覚悟がプーチンにあるとは思えません。だから、いずれ引くのではないかと思います。ただ、プーチンとしては、NATOがさらに東に拡大すれば、かなり面倒なことになることをNATO加盟諸国やウクライナに思い知らせたかったのでしょう。

その目的は達成できたと思います。あとはウクライナがどのように動くか次第のところありますが、プーチンが今後ゴネつづけても良いことはないと思います。

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2022年2月15日火曜日

ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海―【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

ロシア艦艇24隻を確認 日本海・オホーツク海

海上自衛隊が確認したロシア艦艇。手前から商船の砕氷艦、「グリシャV級フリゲート艦」
「マルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦」と続き、一番奥は「ロプチャーI級戦車揚陸艦」


 防衛省は15日、今月1日以降、日本海とオホーツク海南部の海域で活動するロシア海軍の「ウダロイ級駆逐艦」など艦艇計24隻を確認したと発表した。岸信夫防衛相は同日の記者会見で「ウクライナでの動きと呼応する形で東西で活動を活発化させている」との認識を明らかにした。

 ロシア海軍の艦艇24隻には駆逐艦のほか、フリゲート艦やミサイル護衛哨戒艇、潜水艦、揚陸艦、さらに補給艦や病院船なども含まれていた。それぞれの目的や狙いは不明だが、日本海やオホーツク海南部を航行。中には商船の砕氷艦とともに隊列を組んでいたケースもあった。

 海上自衛隊は護衛艦「しらぬい」や哨戒機「P3C」が情報収集や警戒監視に当たった。日本への領海侵犯などはなかった。

 岸氏は会見で「全艦艇によるこの時期の軍事演習は異例」とした上で「ロシア軍が東西で活動し得る能力を誇示するため、オホーツク海などでも活動を活発化させている」と述べた。

 ロシア側は1月20日、地中海や北海、オホーツク海などで1~2月、艦艇計140隻以上が参加する演習を行うと発表。目的は「海からの軍事的脅威への対抗」などとしていた。

【私の論評】バイデン政権に完璧に無視されたロシア太平洋艦隊(゚д゚)!

この24隻の艦艇のほとんどは、ロシアの太平洋艦隊に所属していると思います。そうして、ロシア太平洋艦隊はこのところ、今回に限らず最近活動を活発化させているようです。

たとえば、このブログにも掲載したように、中国海軍とロシア海軍の艦艇計10隻が10月18日に津軽海峡を通過した。この艦隊はその後太平洋を南下、さらに鹿児島県の大隅海峡を通過しました。

さらに、昨年10月下旬ロシア国防省は軍事演習の異例の公開をしたり、潜水艦基地や最新鋭艦も披露し、ロシア極東戦力の一端を明らかにしました。

極東に新しく配属されたボレイ型原子力潜水艦「ウラジーミル・モノマフ

このロシア海軍の行動については、日米とも政府が公表したり、マスコミで報道されたりしていますが、ホワイトハウスはどう見ているのでしょうか。

実はその回答が最近だされています。それについては、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米バイデン政権が「インド太平洋戦略」を発表 「台湾侵攻の抑止」明記 高まる日本の重要性―【私の論評】現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処しているが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにした(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではアメリカのバイデン政権は11日、最重要と位置づけるインド太平洋地域での外交や安全保障、経済政策の指針となる「インド太平洋戦略」を発表しました。中国に対抗する姿勢を強調し、台湾への軍事侵攻を抑止する方針も明記されていることを掲載しました。

この戦略は、上記で述べたロシア海軍の行動の後に出されていることに注目していただきたいです。

あれだけロシアが存在価値を示すようことを繰り返し行ったにもかかわらす、この戦略にはロシアのことは一言も述べられていないのです。ロシアは、極東に太平洋艦隊を配置しています。にもかかわらず、一言も触れていないのです。これに関する部分をこの記事から引用します。
米国が現状のように、ロシアによるウクライナ侵攻の危機が叫ばれている時にこのような戦略を公表する意図は何なのでしょうか。ちなみに、バイデン政権のこの戦略の中には、ロシアもウクライナも一切でてきません。

インド太平洋戦略について述べているわけですから、出てこないのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれませんが、それにしても、インド・太平洋地域というと、ロシアもオホーツク海を介して太平洋と繋がっているのですから、何らかの影響力があれば、言及されるはずです。

米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。

そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。

以下に結論部分を引用します。

現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処はしていますが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにしたというのが、今の時期にわざわざ「インド太平洋戦略」を公表したことの背景にあるのは間違いないでしょう。

バイデン政権としては、旧ソ連の核や軍事技術を継承しているロシアは決して侮ることはできないものの、今や一人あたりGDPが韓国を大幅に下回るロシアに、振り回されることなく、インド太平洋地域の戦略を第一義に考えていることをアピールするという目的もあったのではないかと思います。

そうしなければ、マスコミはウクライナ問題ばかり報道し、バイデン政権はウクライナ問題に忙殺されているように国民から受け取られ、同盟国からもインド太平洋地域を軽視していると受け取られかねません、それだけは避けたかったのでしょう。 

バイデン政権としては、もはや強敵とはいえないロシアに振り回されて、インド太平洋地域を疎かにしてしまえば、それこそ今秋の中間選挙に向けて、共和党から批判され支持率がさらに低下するのは目に見えています。

また、中国の脅威にさらされている、日本、台湾、オーストラリア、ASEAN諸国からも不満の声があがりかねません。

だからこそ、インド太平洋地域の安定こそが最優先であることを、はっきりさせておく必要があったのでしょう。

そうして、実際米国としてはロシア太平洋艦隊にはあまり脅威を感じていないのでしょう。そうして、その背景には日本の存在があります。これについても、以前のブログで解説しましたので、そこから一部を引用します。
(米国は)ロシアは旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承しており、決して侮れる相手ではないものの、インド太平洋地域においては当面大きな脅威になるとはみなしていないのでしょう。そんなことよりも、この地域への中国の浸透のほうが、かなり大きく深刻であると判断しているのでしょう。

ロシアの動き封じるという意味では、日本は新冷戦においても冷戦時に旧ソ連を封じ込めたのと同じくロシアをオホーツク海で封じ込めています。さらに東シナ海、南シナ海でも米軍に協力し西側諸国に大きく貢献しているといえます。
日本の潜水艦はこの付近の海域を巡航しており、当然のことながら今回のロシア海軍の動きを察知していたことでしょう。しかし、ロシア側には、日本の艦艇や哨戒機の行動は探知できても、ステル性に優れた日本潜水艦の動きは探知できません。

日本の潜水艦はこの付近の海域で情報収集にあたっているでしょうし、ロシア海軍が異常な行動を起こせば米軍に知らせる体制は出来上がっているでしょう。それに米原潜も哨戒活動にあたっているでしょう。米国にとっては、この海域においてロシアの不意打ちを警戒する必要はないのでしょう。

このあたりは、以前にも述べたように潜水艦の行動は極秘中の秘なので、公表はされませんが、日米ともに、ロシアの動きを監視しているのは間違いないでしょう。実際先日も、ロシアがクリル諸島付近の海域を領海侵犯したと公表しています。

米国はこれを否定していますが、領海近くで哨戒活動にあたっていたのは間違いないと思います。日本も哨戒活動にあっていた可能性もありますが、それはロシア側が発見できないでしょうから、なんともいえません。

ただ、ソースが明らかになっていないので、事実かどうかは確認できないですが、韓国中央日報に以下のような記事が掲載されています。
【コラム】周辺国に大きく遅れた韓国の潜水艦戦力 補完が至急
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
日本は冷戦時代、北海道とサハリンの間の宗谷海峡に2隻、北海道と本島の間の津軽海峡に2隻、大韓海峡(日本名・対馬海峡)に2隻の潜水艦を配置した。潜水艦隊司令官を務めた小林正男提督は「米国の要請でロシアのウラジオストクから太平洋に向かう旧ソ連の潜水艦を監視しなければならなかった。そのためには3つの海峡にそれぞれ2隻を配置する戦略に基づき、交代・整備などを考慮して16隻体制という潜水艦保有戦略が構築された」と述べた。

日本はさらに毎年1隻を退役させ、新しく1隻を建造している。このため潜水艦技術も毎年発展し、艦齢が平均8年にもならない先端潜水艦で武装、非原子力潜水艦で世界最高と評価されている。2011年からは米国の要請で東シナ海と南シナ海に抜ける2カ所に計8隻の潜水艦を常時配置し、22隻体制に変わった。毎年1隻ずつ退役させるが解体はせず、演習艦という名目で保存しているため、運用可能な潜水艦は計30隻ほどと推定される。
この記事が正確なものかどうかはわかりませんが、それにしてもこれに近いことが行われているのは間違いないでしょう。日本は潜水艦22隻体制をとっていますから、この潜水艦隊は日本近かくの海域に潜んでいることは間違いなく、現在でもオホーツク海のいずれかの海域に潜んでいるでしょう。

2018年函館に寄港した潜水艦「なるしお」

さらに、このブログにも掲載したことがあるように、旧ソ連軍は最盛期の時であってさえ海上輸送能力が十分ではなく北海道に侵攻できるだけの力はありませんでした。現在のロシア軍はそれ以下です。

そういうこともあって、米国はオホーツク海や太平洋でのロシアの動きにはあまり脅威を感じないのでしょう。

それにしても、最新の「インド太平洋戦略」にロシアという文言が一言もないというのが、現在のバイデン政権の考えを雄弁に語っていると思います。いくらプーチンが去勢をはってみたところで、いまや一人あたりのGDPが韓国に大幅に下回るロシアにできることは限られています。インド太平洋地域におけるバイデン政権の最優先課題はやはり、中国なのです。

そうして、この戦略には「日本」という言葉は2度でてきます。以下にその部分だけを引用します。
  • オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。
  • 拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
バイデン政権としては、日本をはじめとする同盟国等も米国が中国と対峙するための支援を惜しまないでほしいと願っているのでしょう。

こうした中で、ロシアを囲い込みに協力している日本は、米国に対してかなり貢献しているといえるでしょう。その安心感もあって、戦略のなかに「ロシア」という文言は一言も出さなかったのでしょう。冷戦時と比べれば、隔世の感があります。

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2022年2月14日月曜日

原発が最もクリーンで経済的なエネルギー―【私の論評】小型原発と核融合炉で日本の未来を切り拓け(゚д゚)!

原発が最もクリーンで経済的なエネルギー

岡崎研究所

 ロバート・ハーグレイヴス(ThorCon International共同創立者)が、1月26日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)に、「もしきれいな電力が欲しいのなら、核分裂を利用せよ。核事故は起こるが、害のリスクは極めて小さい」との論説を寄せ、原子力発電を推奨している。


 この論説の筆者はダートマス大学で教えている人物で、原子力エンジニアリング会社、ThorCon Internationalの創立者である。そういう彼の立場からの論説と言えるが、同時に原発の利用を推奨して、それなりに説得力のある論を展開していると言える。

 地球温暖化と、それに伴う気候変動は、すでに台風やハリケーン・サイクロンの巨大化、山火事の多発と巨大化などで、人類に大きな災害をもたらしている。多くの死者も出ている。

 これから脱炭素社会を作っていく必要ははっきりしているが、その中で、「(火力のように二酸化炭素を排出しない)クリーンで(再生可能エネルギーより)経済的な」原子力発電を重視していく事が必要であろう。再生可能エネルギーで世界のエネルギー需要をまかなえればそれでもいいが、今後も増え続ける発電の断続性など、克服すべき課題は多い。これに対し、原発は既に確証された技術である。事故が起きたときに、被害を限定するために原子炉の小型化、地下への設置などの方策も考えられるだろう。

 世界的には、ハーグレイヴスが言うように、原発をさらに作る方向が、EUでの原発のグリーン認定の動きや中国の原子炉建設計画などで出てきている。世界では、現在、57の原発が建設中であるという。

 欧州では、英国のジョンソン首相、フランスのマクロン大統領が国内での新しい原発の建設を承認した。中国は1年当たり10基の原発を約束しているというし、中東等でも原発建設が予定されている。

 ドイツの原発ゼロ政策はこの動きに反するが、気候変動への懸念が広がるにつれ、原発は増える方向にあると判断される。

日本も科学的、建設的な議論を

 日本に関しては、2011年の東日本大震災による福島原発の事故により、それまで54基あった原発はほとんどが稼働停止となった。10年経った21年3月現在で、定期検査中も含めて稼働中のものは9基のみである。また、21基につては既に廃炉することが決まっている。今後、現在停止中の原発をどのように再稼働して行くのか、廃炉の決まった原子炉の放射能物質の処理をどうするのか、具体的道筋がまだ見えて来ない。

 日本の中長期的エネルギー政策をどうするか、脱炭素社会の経済構造をどうするかなど、感情的短絡的議論ではなく、より冷静で科学的、建設的かつ世界的視野をもった論議を期待したい。

 21年夏には、持続的エネルギーとされている太陽光パネル設置の土地開発で、水害による人的被害が大きくなったという指摘もあった。ただ、論説でも指摘された通り、事故があったから使用ゼロではなく、事故の再発防止を徹底して行く方向で、技術が人間の生活にもたらす恩恵には真摯に向き合って行く姿勢が大事ではないだろうか。飛行機にしても、車の交通事故、ロケットなどにしても、そうして継続されているのだろう。

【私の論評】小型原発と核融合炉で日本の未来を切り拓け(゚д゚)!

原発を巡っては現在主に2つの動きがあります。

一つは上の記事にもある通り、小型化です。

ざっくりと言ってしまうと、小型原発は、従来の原理の原発を小型化したものです。従来の出力100万キロワット超の原子力発電所と異なり、1基当たりの出力が小さい原子炉のことです。大型の原子炉に比べ冷却しやすく、安全性が高いとされます。

2011年の東京電力福島第1原子力発電所の事故をきっかけに欧米を中心に「原発離れ」が進みました。しかし脱炭素の機運が高まる中、温暖化ガスをほぼ出さず、大型炉よりも安全で低コストの小型炉に注目が集まっています。小型原発は規模が小さいがゆえに、たとえ電源がなくても、冷却ができるため、より安全とされています。

これは、従来の原発より出力が小さい「小型モジュール炉(SMR)」として、脱炭素社会に適した次世代技術として注目を集めています。米国など主要国の後押しを受け、メーカーが開発を加速。発電量が天候に左右される風力、太陽光など再生可能エネルギーの弱点を補う「安定性と柔軟性」(米企業)に期待が高まる一方、コスト面から専門家の間には商用化に慎重な見方もあります。

1年の多くが氷で閉ざされるロシア北東のチュコト自治管区ぺベクの港に、全長144メートルの巨大な「船」が停泊している。船内では小型原発2基(出力計7万キロワット)が稼働し、地域の電力源を担う。開発したロシア国営企業ロスアトムは、既存の火力発電所などに取って代わることで「年間5万トンの二酸化炭素(CO2)排出を削減できる」と説明しています。

ロシア国営企業ロスアトムが開発した小型モジュール炉を搭載した船

SMRは、脱炭素の機運が急速に高まる中で、小回りの利く安定電源の候補として浮上しました。米国やカナダ、英国が開発資金を拠出しているほか、昨年10月にはフランスのマクロン大統領も巨額投資の方針を打ち出しました。日本でも萩生田光一経済産業相が今月6日、SMR開発をめぐる国際連携に政府が協力する方針を明らかにしました。

開発を競うメーカーで、商用化に最も近いと目されるのが米新興企業ニュースケール・パワーです。出力7.7万キロワットのSMRは米当局の許認可手続きで先行し、2027年の稼働開始を目指します。同社は「需要に合わせて供給量を調整できる」と、発電量が不安定な自然エネルギーの補完的役割を強調。外部電源や注水に頼らず、原子炉を自然冷却する「これまでにない性能」を持つと安全性をうたいます。

半面、原発が避けて通れない核廃棄物の処理問題や、事故のリスクは解消されていません。SMRは安全性やセキュリティー面を考慮すると、発電コストが割高になり、商用化のハードルはかなり高くなる可能性も指摘する識者もいます。

ニュースケール社が設計したSMRの上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

もう一つの動きは、核融合炉です。これは、原子核融合反応を利用した、原子炉の一種です。発電の手段として2022年時点では開発段階であり、21世紀前半における実用化が期待される未来技術の一つです。

これに関しては、「核大国」米国の現状を把握しておくべきでしょう。 米国は原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできないデッドロックに直面していました。ところが 豪州に対する原潜の技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、デッドロックから脱出する道筋が見えてきたのです。

それは原子力関連の技術維持にも役立ちます。 米国の国益にとって決定的なブレイクスルーであり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言えます。 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はありません。

米国は上記でも述べたように、部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられます。

一方核融合は水素などの軽い原子核どうしが融合して新しい原子核になる反応で、太陽など恒星の中心部で生み出される膨大なエネルギーの源。発電にあたり温室効果ガスや、高レベル放射性廃棄物を排出しないことから、エネルギー問題や環境問題の解決につながるとして期待がかかります。

核融合炉の詳細については、以下を御覧ください。


核融合炉の利点・欠点は以下のようなものです。

〈利点〉
  • 核分裂による原子力発電と同様、温暖化ガスである二酸化炭素の排出がない。
  • 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じない。
  • 水素など、普遍的に存在する資源を利用できる。
  • 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が継続的にはあまり生じない(もっとも古くなって交換されるダイバータやブランケットといったプラズマ対向機器は高い放射能を持つことになる。ただし開発が進められている低放射化材料を炉壁に利用することにより、放射性廃棄物の浅地処分やリサイクリングが可能となる)。
  • 従来型原子炉での運転休止中の残留熱除去系のエネルギー損失や、その機能喪失時の炉心溶融リスクがない。
〈欠点〉
  • 超高温で超高真空という物理的な条件により、実験段階から実用段階に至る全てが巨大施設を必要とするため、莫大な予算がかかる。
  • 炉壁などの放射化への問題解決が求められる(後述)。
核融合関連の技術開発に取り組む京都大発のベンチャー、京都フュージョニアリング(KF社、東京)は2月2日までに、核融合発電の実証実験プラントの建設を計画していることを明らかにしました。2023年中にも着工し、核融合反応で生じたエネルギーを発電用に転換する技術開発を進めます。同社によると、核融合を想定した発電プロセスの実証施設は世界でも例がないといいます。


核融合炉内の反応で生み出されるエネルギーはそのままでは発電に使えず、転換には特有の技術が必要とされます。

計画するプラントでは、核融合反応でエネルギーが放出される状況を疑似的に再現し、同社が開発する装置で熱エネルギーに変換。さらに発電装置を駆動することで、実際に電気を起こします。プラントは十数メートル四方に収まる規模で、想定している発電能力も数十キロワットとごく小規模といいます。

核融合発電を巡っては、現在、実用化できる規模の反応を安定的に維持するための開発競争が繰り広げられています。KF社は、こうした技術的ハードルが近い将来に克服されることを見越し、さらにその先の技術を確立させることでスムーズな実用化につなげます。長尾昂社長は「核融合発電を実用化するにあたって将来、避けては通れない部分。知見を重ねて技術的に先行したい」といいます。

同社は2日、三井住友銀行や三菱UFJ銀行といった大手金融機関やベンチャーキャピタルから総額約20億円の資金を調達すると発表。技術開発の加速や人員体制の強化などに充てるとしている。

プラントは23年中の着工を目指し、現在、建設候補地の検討を進めています。実証プラントに設置する装置の製造は国内のメーカーに依頼する方針といい、国内で技術やノウハウを蓄積することで、将来的な国際的競争力も確保します。

小型原発も、核融合炉も日本も手がけており、日本でも将来的には両方とも実用化される可能性は高いです。まさに、日本は小型原発と核融合炉で日本の未来を切り開きつつあるといえます。

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2022年2月13日日曜日

ロシア「米潜水艦が領海侵入」 米軍は否定―【私の論評】日本は新冷戦においても冷戦時と同じくロシアを封じ込め、東・南シナ海で米軍に協力し、西側諸国に大きく貢献している(゚д゚)!

ロシア「米潜水艦が領海侵入」 米軍は否定


 ロシア国防省は12日、クリル諸島(北方四島と千島列島)近くのロシア「領海」で米海軍の潜水艦を探知したと発表した。ロシアのインタファクス通信などが報じた。米軍はロシアの発表を否定し、米ロ対立がインド太平洋地域でも改めて浮き彫りになった。

 ロシア国防省によると、同国の太平洋艦隊が軍事演習を実施していたクリル諸島近くの海域で米海軍の攻撃型原子力潜水艦を探知したという。ロシアは「しかるべき措置」を講じたところ、潜水艦が領海内から出たと主張した。

 米国のインド太平洋軍の報道担当者は12日の声明で「ロシアの領海で我々が活動していたという主張は真実ではない」と反論した。「潜水艦の正確な位置についてコメントはしないが、我々は国際水域で安全に飛行し、航行し、活動している」と強調した。

 米国とロシアはウクライナ情勢をめぐり対立を深めている。バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領は12日に電話協議したが、米政府高官は記者団に対し「数週間前からの状況に根本的な変化はなかった」と説明した。米政権はロシアがウクライナに侵攻すると懸念し、ロシアは否定している。

【私の論評】日本は新冷戦においても冷戦時と同じくロシアを封じ込め、東・南シナ海で米軍に協力し、西側諸国に大きく貢献している(゚д゚)!

ロシア側は、どのような報道をしているかは、以下のリンクをご覧ください。

https://ja.topwar.ru/192232-istochnik-raskryl-podrobnosti-obnaruzhenija-amerikanskoj-podlodki-v-rajone-kurilskih-ostrovov.html

これは、ロシア語のソースを機械翻訳をしたもののようで、ロシアのどの艦艇がどの潜水艦(バージニア型)を発見したかなどの詳細は記述されているものの、大筋では上の記事で示されている内容と同じであり、ここでは特に内容を掲載はしません。

米バージニア型原潜

潜水艦の行動は、各国海軍とも極秘だ。米国大統領でも、米原子力潜水艦の動きは知らさていません。これは、世界共通です。日本も例外ではありません。

ただ、日本でも例外はあります。

それは、このブログにも掲載したことがあります。海上幕僚監部は2020年9月15日、当時実施中の「2020(令和2)年度インド太平洋方面派遣訓練」に、潜水艦1隻を追加派遣すると発表しました。

潜水艦の行動は先にものべたように、「極秘中の極秘」であり、この公表は極めて異例でした。同盟国・米国も了解しているとみられます。国際法を無視して、南シナ海の岩礁を軍事基地化している中国への牽制とともに、中国の具体的行動への“警告”と分析する関係者もいました。

米中貿易戦争が激化するなか、中国の軍事的挑発を阻止する狙いだったのでしょうか。中国は反発しましたが、動揺を隠しきれないようでした。

海自の「そうりゅう型」潜水艦

当時安倍晋三首相は同年9月17日夜、テレビ朝日系「報道ステーション」に生出演した際、「自衛隊の訓練は、練度を向上させるためで、どこか特定の国を想定したものではない。南シナ海における潜水艦の訓練は15年前から行い、昨年も一昨年もしている」と説明しました。

重ねて、当時の安倍首相は「事実上、そうした訓練は(近隣国である)相手方も、十分に承知していることが多い」とも述べており、中国を意識したメッセージであることは、間違いありませんでた。

中国は南シナ海のほぼ全域に歴史的権利があると主張し、独自の境界線「九段線」を引いています。

国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は2016年、こうした主張を否定したにもかかわらず、中国は、スプラトリー(中国名・南沙)諸島の岩礁を勝手に埋め立てた人工島に滑走路やレーダーを建設したほか、パラセル(同・西沙)諸島に地対艦ミサイルを配備し、軍事拠点化を進めています。

当時防衛省がリスクを侵してまで潜水艦派遣公表したのには意図があったと考えられます。これはあくまで推測ですが、中国が南シナ海で何らかの許容できない行動をしたのではないでしょうか。

中国は現状を少しずつ変更して、軍事的覇権を強める戦術を取っています。自衛隊がそれを察知し、米国と情報共有したうえで、中国側にメッセージを伝えたとみるのが自然でしょう。

自衛隊の哨戒能力は世界最高です。日本周辺で各国艦船や潜水艦の動向をリアルタイムで把握しています。当時の中国の抑制的な反応を見る限り、日本のメッセージは伝わったのではないでしょうか。

これについて解説した私のブログではこのメッセージについて、「海洋戦術・戦略においては、中国は日米に到底及ばないことを誇示するため」のものとしました。これは図星でしょう。

中国がいくら艦艇数を増やしてみたところで、現代の海戦の主役は潜水艦です。水上に浮かぶ艦艇は、今やミサイルや魚雷で破壊される標的にすぎません。

中国は無論攻撃型原潜や、通常型潜水艦も建造していますが、それでも日米の世界トップクラスの哨戒能力で中国の潜水艦の行動は逐一日米に把握されてしまいますが、日米の潜水艦の行動、特にステルス性に優れた日本の潜水艦の行動は全く把握できていません。

ASW(対潜水艦戦闘力)では、日米に到底及ばない中国は、海洋戦においては日米に勝つことはできません。実際に日米あるいは、日本と単独とでも真っ向から海戦になった場合には、中国は勝てません。

だからこそ、防衛省は上記のようなメッセージを発信したのでしょう。そうして、この強いメッセージに対しても、中国は抑制的な反応しかしませんでした。これは、日本を下手に刺激すると、日本がさらに南シナ海に多数潜水艦等を派遣して、中国海軍の動きを完璧に封じる挙に出ることを恐れたためと考えられます。

そうして、ロシアが今回「米潜水艦が領海侵入」を公表したことにも何らかのメッセージが込められていると受け取るのが普通でしょう。

それは無論のこと、米国に対する牽制でしょう。実際米国は現在アジア太平洋地域に空母3隻のほか2隻の強襲揚陸艦も派遣しており、これはベトナム戦争以降最大数の派遣です。

これについても以前このブログに掲載したことがあります。以下に一部を引用します。
米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。
実際、ロシアは広大な国土を守備しなければならず、国土の東側の部分で日米が大々的に軍事演習などを実施されると、こちら側にも兵力を割かなければならなくなります。

ロシアはこうした動きを牽制するためにも、「米潜水艦が領海侵入」 したことを公表したのでしょう。

ただ、昨日このブログに掲載したように、バイデン政権はインド太平洋戦略をホワイトハウスのサイトに公表しましたが、その中でロシアについては一言も言及していません。

新たにインド太平洋戦略を公表したバイデン政権

昨日のブログでは、このあたりについて以下のように言及しました。
米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。

そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。
実際、上の記事にもあるとおり、米国のインド太平洋軍の報道担当者は12日の声明で「ロシアの領海で我々が活動していたという主張は真実ではない」と反論したのみです。

ロシアに関しては、冷戦中に日本がそうしたように、日本の優れた対潜哨戒能力で、ロシア海軍特に、潜水艦の動きを封じ込めるだろうと考えており、さらには今や一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回るロシアにできることは限られているので、特に脅威とはみなしていないのでょう。

日本の対潜戦闘力(ASW)は、はやばやと潜水艦22隻体制を整えるとともに、日本独自の新型哨戒機P1も多数導入したうえ、対潜ヘリコプター搭載護衛艦を各種導入し、冷戦時よりもさらに強化されており、当然のことながら中国とともにロシアの動きも監視しており、米国としてはインド太平洋地域でのロシアの動きはさほど脅威とは感じていないのでしょう。

ただ、だからといって、ロシアは旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承しており、決して侮れる相手ではないものの、インド太平洋地域においては当面大きな脅威になるとはみなしていないのでしょう。そんなことよりも、この地域への中国の浸透のほうが、かなり大きく深刻であると判断しているのでしょう。

ロシアの動き封じるという意味では、日本は新冷戦においても冷戦時に旧ソ連を封じ込めたのと同じくロシアをオホーツク海で封じ込めています。さらに東シナ海、南シナ海でも米軍に協力し西側諸国に大きく貢献しているといえます。

ただ、軍事に疎いマスコミがこれを報道しないのと、先に潜水艦の行動は「極秘中の極秘」であり、政府も防衛省もほとんど公表しないので、あまり注目されないだけです。

日本はこうした動きを継続拡大し、新冷戦でも西側諸国にさらに貢献すべきです。これには、岸田政権そのものにはあまり期待できそうもありませんが、岸防衛大臣には期待できそうです。そうして、新冷戦に日本が勝利すれば、日本の国際的地位は飛躍的に高まり、国内でもこれを評価しないわけにはいかなくなるでしょう。

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2022年2月12日土曜日

米バイデン政権が「インド太平洋戦略」を発表 「台湾侵攻の抑止」明記 高まる日本の重要性―【私の論評】現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処しているが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにした(゚д゚)!

米バイデン政権が「インド太平洋戦略」を発表 「台湾侵攻の抑止」明記 高まる日本の重要性

バイデン大統領

 アメリカのバイデン政権は11日、最重要と位置づけるインド太平洋地域での外交や安全保障、経済政策の指針となる「インド太平洋戦略」を発表しました。中国に対抗する姿勢を強調し、台湾への軍事侵攻を抑止する方針も明記されています。

■中国の台頭へ警戒感 同盟国と連携強化

 「インド太平洋戦略」では、バイデン政権が「唯一の競争相手」と位置づける中国について、「経済、外交、軍事、技術力を結集して、世界で最も影響力のある大国になろうとしている」と指摘。「今後10年間のアメリカの努力次第で、中国が現在のルールや規範を変えてしまうかどうかが決まる」として、アメリカがインド太平洋地域への関与を強める方針を明確にしました。

 そのために、日本とアメリカ、オーストラリア、インドの枠組み、いわゆる「クアッド」や、ASEAN(=東南アジア諸国連合)などとの関係を強化し、地域の様々な問題に、各国が共同で対処する能力を高めることが重要だとしています。

■「台湾海峡の平和・安定維持」明記 日韓関係の改善も促す

 安全保障面では、「台湾海峡の平和と安定」を維持し、「台湾海峡を含むアメリカや同盟国などへの軍事侵攻を抑止する」ことが明記されました。また経済面では、バイデン政権が打ち出したインド太平洋地域の「新たな経済枠組み」を、今年の早いうちに立ち上げるとしています。

 一方、地域内外の連携構築の重要性にも触れ、日本と韓国を名指しして「互いに関係を強化するべきだ」と指摘。冷え込みが続く日韓関係の改善も促しています。

■日本への言及増加 専門家の見方は

 米中関係に詳しいCSIS(=戦略国際問題研究所)のマシュー・グッドマン上級副所長は、今回の戦略で同盟国などとの協力強化が強調されていることについて、「気候変動や新型コロナ対応など、この地域の重要な課題への対応には、各国の助けが必要だというメッセージだ」と分析しています。

 さらに、日本や「クアッド」への言及が多く、アメリカにとっての重要性が増していると指摘。「サイバーセキュリティーや、重要技術の保護など対中国のあらゆる分野でアメリカは日本に支援してほしいと考えている」と指摘しています。

【私の論評】現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処しているが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにした(゚д゚)!

バイデン政権が公表したインド太平洋戦略の5本柱は以下のようなものです。


この戦略は、ホワイトハウスのサイトに掲載されています。そのリンクを以下に掲載します。

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2022/02/11/fact-sheet-indo-pacific-strategy-of-the-united-states/

以下に、日本語の機械翻訳を掲載します。翻訳は、Deeple translatorを用いました。一部、手直しをいれています。

ファクトシート: 米国のインド太平洋戦略

「私たちは、開かれた、つながった、繁栄した、弾力性のある、安全なインド太平洋を思い描いており、その実現のために皆さんと協力する用意があります」。
ジョー・バイデン大統領
            東アジアサミット
2021年10月27日

バイデン=ハリス政権は、インド太平洋における米国のリーダーシップを回復し、その役割を21世紀に適合させるために、歴史的な前進を遂げました。昨年、米国は、中国との競争から気候変動、パンデミックに至るまで、緊急の課題に対応するため、長年の同盟関係を近代化し、新興のパートナーシップを強化し、その間に革新的なつながりを構築した。世界中の同盟国やパートナーがインド太平洋地域への関与をますます強めており、米国議会でも米国が関与すべきとの超党派の幅広い合意が得られているときに、米国はこれを実現したのである。インド太平洋は世界で最もダイナミックな地域であり、その将来は世界中の人々に影響を与える。

この現実が、米国のインド太平洋戦略の基礎となっている。この戦略は、インド太平洋において米国をより強固に位置づけ、その過程でこの地域を強化するというバイデン大統領のビジョンを概説するものである。その中心的な焦点は、地域内外の同盟国、パートナー、機関との持続的かつ創造的な協力関係である。

米国は、次のようなインド太平洋地域を追求する。

1.自由で開かれた地域

私たちの死活的利益と最も近いパートナーの利益は、自由で開かれたインド太平洋を必要とする。自由で開かれたインド太平洋には、政府が独自の選択をすることができ、共有領域が合法的に統治されることが必要である。我々の戦略は、米国で行ってきたように個々の国の中でも、国同士の間でも、弾力性を強化することから始まる。我々は、以下を含む、自由で開かれた地域を推進する。

・民主的な制度、自由な報道機関、活気ある市民社会に投資する。

・インド太平洋地域の財政の透明性を高め、汚職を明らかにし、改革を推進する。

・この地域の海や空は、国際法に従って管理され、利用されるようにする。 
・重要な新興技術、インターネット、サイバー空間に対する共通のアプローチを推進する。
2. 地域内のつながり

自由で開かれたインド太平洋は、新しい時代のための集団的能力を構築してこそ実現できるものです。米国とそのパートナーが構築に寄与してきた同盟、組織、規則を適応させなければならない。われわれは、この地域の内外で、次のような方法で集団的能力を構築する。

オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、およびタイとの 5 つの地域条約同盟をさらに深める。

・インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ベトナム、太平洋諸島など、地域の有力なパートナーとの関係を強化する。

・パワーアップした統一ASEANへの貢献 
・クアッドの強化と公約の実現
・インドの継続的な発展と地域のリーダーシップを支援する 
・太平洋諸島のレジリエンス(回復力)構築のための提携 
・インド太平洋地域と大西洋地域の結びつきを強化する。 
・インド太平洋地域、特に東南アジアと太平洋諸島における米国の外交プレゼンスを拡大する。

3.地域の繁栄

毎日のアメリカ人の繁栄は、インド太平洋とつながっています。この事実は、イノベーションを奨励し、経済競争力を強化し、高賃金の仕事を生み出し、サプライチェーンを再構築し、中流家庭のための経済機会を拡大するための投資を必要とする。インド太平洋地域では、この10年間で15億人が世界の中産階級の仲間入りをすることになる。我々は、以下を含め、インド太平洋の繁栄を推進する。

・インド太平洋の経済的枠組みを提案し、これを通じて以下を行う。
高い労働・環境基準を満たす貿易への新たなアプローチを開発する。
新しいデジタル経済の枠組みを含め、オープンな原則に従って、デジタル経済と国境を越えたデータの流れを管理する。
多様で、オープンで予測可能な、弾力的で安全なサプライチェーンの推進
脱炭素化、クリーンエネルギーへの共同投資
・2023年の開催年を含め、アジア太平洋経済協力(APEC)を通じて、自由、公正、かつ開かれた貿易・投資を促進する。
・G7パートナーとのBuild Back Better Worldを通じて、地域のインフラギャップを解消する。

4. 安全保障

米国は75年間、地域の平和、安全、安定、繁栄を支えるために必要な、強力で一貫した防衛プレゼンスを維持してきた。我々は、その役割を拡大、近代化し、我々の利益を守り、米国の領土や同盟国、パートナーに対する侵略を抑止する能力を高めている。我々は、侵略を抑止し、強制に対抗するために、以下を含むあらゆる力の手段を駆使して、インド太平洋の安全保障を強化する。

・統合的抑止の推進 
・同盟国・パートナーとの協力関係の深化と相互運用性の向上
・台湾海峡の平和と安定の維 
・宇宙、サイバースペース、重要技術・新興技術分野など、急速に進化する脅威環境において活動するための技術革新。 
・拡大抑止と韓国・日本の同盟国との連携の強化、朝鮮半島の完全な非核化の追求 
・AUKUSの継続的な実現 
・米国沿岸警備隊のプレゼンスとその他の国境を越える脅威に対する協力の拡大 
・太平洋抑止イニシアティブと海上安全保障イニシアティブに資金を提供するため、議会と協力すること。

5. 対応力強化

インド太平洋地域は国境を越えた大きな課題に直面している。気候変動は、南アジアの氷河が溶け、太平洋諸島が海面上昇という存亡にかかわる問題に直面する中で、かつてないほど深刻さを増している。COVID-19の大流行は、この地域全体に人的・経済的損害を与え続けている。そして、インド太平洋地域の政府は、自然災害、資源不足、内戦、ガバナンスの課題に取り組んでいる。こうした力を放置すれば、この地域は不安定化する恐れがある。我々は、21世紀の国境を越える脅威に対する地域の回復力を、以下を含む方法で構築する。

・同盟国やパートナーと協力して、2030年および2050年の目標、戦略、計画、政策を策定し、世界の気温上昇を1.5℃に抑制する。

・気候変動や環境悪化の影響に対する地域の脆弱性を低減する。

・COVID-19の流行に終止符を打ち、世界の健康安全保障を強化する。

###
米国が現状のように、ロシアによるウクライナ侵攻の危機が叫ばれている時にこのような戦略を公表する意図は何なのでしょうか。ちなみに、バイデン政権のこの戦略の中には、ロシアもウクライナも一切でてきません。

インド太平洋戦略について述べているわけですから、出てこないのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれませんが、それにしても、インド・太平洋地域というと、ロシアもオホーツク海を介して太平洋と繋がっているのですから、何らかの影響力があれば、言及されるはずです。

米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。

そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。

これについては、バイデン政権がこのような戦略を改めて打ち出さなくても、ある程度は認識することができました。それについては、このブログでもすでに述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
海自艦が米軍と共同訓練 ウクライナ危機と台湾有事の連動警戒 台湾「米国含む価値観が近い国々とパートナーシップ関係を深める」―【私の論評】インド太平洋地域と地中海への米艦隊の派遣の比較から見る、米国の真意(゚д゚)!

  共同訓練を行う、米原子力空母「エーブラハム・リンカーン」(中央)と、
  海自護衛艦「こんごう」(左から5番目)など(海自提供)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

ロシアは戦争を起こしたとしても、クリミアのときのように短期で局所戦のみでしょうが、中国は現在はともかく将来は長期的な総力戦も遂行できるようになる可能性があります。米国もこれには、長期に渡る対応が必要になります。

バイデン政権か優先しているは、やはり中国への対峙なのでしょう。インド太平洋地域にベトナム戦争意向最大数の空母などを結集させていることがそれを示しています。そうして、日本の海自もこれらと行動をともにしているのです。直近の2回の日米合同演習がそれを示していると思います。

これは米国が日米の協同が、中国対応への一つの鍵だとみている証拠です。日本は米国に頼りにされているのです。日本のマスコミはこれを報道しませんが、日本としてはこれをしっかり認識すべきです。重い責任を担うことにもなりますが、日本の存在価値を高めるチャンスでもあるととらえるべきです。
私は、これがバイデン政権の本音であり、それがバイデンの「インド太平洋戦略」にも色濃く反映されていると思います。

最近マスコミでは、ロシアによるウクライナ侵攻ばかりがクローズアップされており、それを裏付けるように、米国防総省のカービー報道官は9日の記者会見で、ロシアによるウクライナ侵攻に備え、米軍がウクライナに駐在する米国人の退避支援を検討していると明らかにしたことが報道されています。

米軍の大規模部隊が6日、ポーランドの空港に到着した

米メディアによると、バイデン大統領が支援計画を承認しました。米国が増派した隣国ポーランドの国境近くに一時的に避難所を設けて対応するとしています。

これでマスコミなどは、ロシアによるウクライナ侵攻をさらに煽るのでしょうが、米国としてはロシアがウクライナに本当に侵攻するしないは別にして、退避勧告をしたり、退避支援を検討するのは当たり前のことでしょう。

しかし、米国のこうした対応には、隠された意図があるかもしれません。

2020年1月19日付朝日新聞デジタル版は、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返していた2017年の秋、アメリカ政府が日韓に在住する米市民の退避を真剣に検討していたとしています。

その内容を明かしたのは、退避が検討されていた当時に在韓米軍司令官であったビンセント・ブルックス元陸軍大将です。

記事によると数十万人規模の退避計画で、「早期退避」を目的としていたそうです。つまり、北朝鮮が攻撃を仕掛ける前に、あるいはその気配が濃厚になる前に退避させるというものでした。これに対して当時のブルックス氏は、この計画が実施に移された場合には、北朝鮮側が状況を読み間違えて戦争につながる恐れがあるとして反対したというのです。

ブルックス氏は実際の早期退避行動を行うためには、①敵意から身体に危害を加える状況へと変わっている②北朝鮮への戦略的圧力として効果がある――のいずれかが必要だと考えていたといいます。検討の結果、いずれの条件も満たされていないうえ、退避行動を行えば北朝鮮が「米国が開戦準備をしている」と受け止め、「読み違えによって容易に戦争が起こり得る」と判断し、実施に反対したというのです。

今回のロシアへの対応では、ロシアによる「読み違え」をあまり意識していないように見えます。ロシアのウクライナ方面での行動に関しても、米国のコントロール下にあると考えているのかもしれません。

米国からすれば、ロシアはウクライナに侵攻しないだろうし、侵攻したとしても部分的であり、大戦争にはならないと見ているのでしょう。さらに侵攻すれば、それを理由にし、ウクライナをNATOに編入して、ウクライナにNATO軍を進駐させたり、中短距離ミサイルを配備できるようになるとみているのでしょう。

これは、憶測ですが、これが当たっていようがいまいが、現在バイデン政権は、ウクライナ問題に対処はしていますが、最優先はインド太平洋地域の安定であることを、改めて明らかにしたというのが、今の時期にわざわざ「インド太平洋戦略」を公表したことの背景にあるのは間違いないでしょう。

バイデン政権としては、旧ソ連の核や軍事技術を継承しているロシアは決して侮ることはできないものの、今や一人あたりGDPが韓国を大幅に下回るロシアに、振り回されることなく、インド太平洋地域の戦略を第一義に考えていることをアピールするという目的もあったのではないかと思います。

そうしなければ、マスコミはウクライナ問題ばかり報道し、バイデン政権はウクライナ問題に忙殺されているように国民から受け取られ、同盟国からもインド太平洋地域を軽視していると受け取られかねません、それだけは避けたかったのでしょう。

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2022年2月11日金曜日

AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

AUKUSで検討されている新戦略

岡崎研究所

 1月21日付のASPI(豪戦略政策研究所)Strategistで、元豪州国防省戦略担当副長官のピーター・ジェニングスが、AUKUS(豪英米軍事同盟) による豪州の原潜調達がうまく行かない可能性がある、その場合の代替案としてB-21長距離爆撃機の調達を検討すべきだと述べている。
 

 ジェニングスは、元米国防次官補のシュライバーが「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べたことを紹介し、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張する。

 B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するという。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意はジェニングスが前提にするほど簡単ではないであろう。

 大きな驚きはない。昨年9月15日、AUKUSは良い意図をもって作られ、豪州が英国または米国製造の原潜8隻を購入、運用することに合意したが、契約済みの仏通常推進潜水艦購入計画を破棄し、米国の同盟国であるフランスを激怒させた。

 更に原潜の技術移転や必要なインフラ整備、人員の訓練、財政負担、就役予定、運用方針など莫大な問題が残っており、全体としてやや拙速に進められた感は免れなかった。国際原子力機関(IAEA)のセーフガード適用も厄介な問題として残っている。更にジェニングスが指摘する米国海軍の反対や米豪英3カ国の指導者交替などは、原潜の成否に大いに関係するであろう。

 インド太平洋の戦略情勢に大きな影響を与えるこのプロジェクトの進捗を注意深くフォローしていく必要がある。

豪州に原潜は来ないかもしれないという警告

 この論説の契機になったのは、シュライバーの見解を報道した1月16日付オーストラリアン紙記事(「元トランプ政権高官、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告」)と思われる。同記事の主要点は次の通り。

 (1)シュライバーは、米国海軍の反対や米豪両国の政治的交替を含め「双方にある多くの潜在的障害」のために8隻の原潜の豪州供与は実現しないかもしれないと述べるとともに、「(原潜計画への)両国政治指導者の大きなコミットメントが必要であり、それがないと豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた。

 (2)先月米国大統領府は、豪州への原潜の「できるだけ早期の」供与は順調に進んでいるとの声明を出し、原潜展開は想定より遅くなり、コストも仏通常潜水艦購入に比べ一層大きくなるとの推測を打ち消そうとした。

 (3)シュライバーは、「インド太平洋におけるフランスとの関係を修復する必要がある。フランスは当該地域で英国よりも大きい安全保障上、人口上の存在である」と述べるとともに、ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」、「その場合、米国の船員も乗船するか、米国が原潜につき究極的なコントロールをすることが必要になろう」と述べた。

 (4)昨年9月のAUKUS発表では、原潜技術を英米のどちらが供与するのか、如何なるコストがかかるのか、いつ原潜建造が完了するのか、どの部分が南豪州で製造されるのかなどについては明らかにされていない。

 (5)戦略国際問題研究所(CSIS)のエデルは、大統領府が海軍の反対を抑えない限りAUKUS の原潜は「実現する可能性は少ない」と述べ、「米国海軍は最重要の技術の共有には極めて慎重、理由は技術の安全保障上の懸念と共に安全上の懸念にある」と述べた。

【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論はあってしかるべき(゚д゚)!

豪州に原潜は来ないというのは明らかな事実です。少なくとも、2040年までは来ません。実は米英の技術提供の下で豪で製造される潜水艦は原子力潜水艦で完成は2040年になってしまうからです。2040年というと、18年後です。約20年後です。

昨年9月16日のAP通信が“Australia: Strategic shifts led it to acquire nuclear subs”(オーストラリア:戦略的転換により原子力潜水艦を保有することになった)というタイトルで、オーストラリアのモリソン首相の言葉として伝えています。

AUKUS結成を伝える豪モリソン首相

報道によればモリソン首相は「オーストラリアの都市アデレードに建設される予定の原子力潜水艦の1号機は、2040年までには建造されるだろうと期待している」と語ったといいます。

なぜオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないかといえば、やはり人材の欠如でしょう。日本などは、原潜を製造した経験こそないものの、原子炉や通常型潜水艦の技術はあり人材も存在しますから、日本が米英からでも技術供与をうけながら、原潜開発ということになれば、10年以内にできるでしょうが、オーストラリアには原発も潜水艦製造の技術もありません。

そもそも、オーストラリアには原発がありませんし、通常型潜水艦は他国から導入(コリンズ型はスウェーデンから)したものです。

オーストラリアにとって、原潜を製造することは、何もないところから一つの巨大産業を起こすようなものであり、それには膨大な労力と、経費と時間がかかるのです。

そうはいっても、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならず無意味です。

2040年と言えば、マスコミなどによれば中国のGDPはとっくに米国を抜いているとされる時期です。ただ私自身は、このブログで何度か述べているるように、中国の一人あたりのGDPは一万ドルくらいになったため、今後は中所得国の罠にはまり経済が伸びることなく、そうなるとは思いませんが、それにしても20年後というと隔世の感があります。生まれたばかり赤ん坊が、成人するまでの時間です。

私は、この頃には、米国による制裁や、中国自身の問題で、中国の将来は見通せる状況になっており、さほど危険な国ではなくなっている可能性が大きいと思います。そもそも、現体制がそのまま続いているかどうかさえ疑問です。その頃になって、はじめてオーストラリアが原潜を持ったにしても、ほとんど意味がなくなっている可能性すらあります。

20年も経つうちにはオーストラリアの首相は何代も代わっているでしょうし、国内世論もどうなっているか分からないです。

オーストラリアは元々は「反原発」の国なので、そもそも国民が受け入れるのか否かという面もあり、2040年までの政権交代の中で廃案になっている可能性すらあります。

そうなると、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

原潜が製造できるようになるまで、オーストラリアが何もしないというのでは、AUKUS結成の意味がなくなります。

上の記事で、シュライバー氏は、「原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)」としていますが、オーストラリアが原潜を製造できるようになるまでには、20年かかるというのですから、原潜計画が旨くいこうがいくまいが、当面のプランは当然に必要になると思います。

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

オーストラリアがB-21長距爆撃機を所有するというのも一つの案だと思います。上の記事にもあように、「ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」と思います。

実際米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントに登場したアボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と語り注目を集めました。

米英と締結した地域安全保障条約(AUKUS)に基づく原潜導入を発表したオーストラリアはその後18ヶ月間の時間を費やし「どんな原潜をどのような手順で何時までに導入するのか」を決定するため、現時点では「原潜を導入」としか分かっていないですが、新たな国が「第3ヶ国の支援を受けて原潜を調達する」というプロセスは非常に稀(ブラジルのみ)なため世界中が注目をしており、この話題に触れるオーストラリアの政治的指導者も多いです。

アボット元豪首相もその一人で米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントで「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と独自の考えを語り注目を集めました。

アボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得し、オーストラリア海軍の指揮下で運用することは可能だろうか?私がもしロンドンにいれば英国に同じような提案をするだろう」と語りました。

さらに、訓練目的で取得するロサンゼルス級原潜は「必要に応じて西太平洋での戦力増強に貢献することもできる」と独自の原潜導入アプローチを披露しましたが、米メディアのTheDriveはアボット元豪首相の提案は「米国の政治的指導者の決断がなければ実現が難しい」と見ているのが興味深いです。

真珠湾に入港するロサンゼルス級原潜

TheDriveは「2015年まで首相を務めたアボット氏はモリソン政権に参加していないが依然として自由党の一員であり、元豪首相という立場で原潜導入に関する発言を行った裏には豪外務・国防省からの非公式の依頼か承認があったはずだ=事実上モリソン政権の意向という意味」と指摘した上で「控えめに言っても興味をそそられる」と言っています。

ただ、退役するロサンゼルス級原潜をオーストラリアに移転するには核燃料の補給とオーバーホールが必要で潜水艦自体の寿命延長プログラムも行わなければならず、原潜を第3国に移転するためのルール整備も手つかずの「未知の領域」だと主張しました。

しかしオーストラリアが原潜を製造できるようになるまで、オーストラリアがAUKUS内で何もしないということはありえませんから、これとは別に、オーストラリアが戦略爆撃機を運用できるようにしたり、退役する米原潜を運用できるようにするなどのこともすべきでしょう。あるいは、通常型潜水艦をレンタルするというのもありだと思います。

そうして、オーストラリアによるロサンゼルス級の取得はバイデン大統領の鶴の一声で政治的に実現する可能性も十分にあります。

AUKUSで検討されている新戦略とは、まさに直近でオーストラリアは対中国で何をすべきかという課題の検討ということだと思いますし、これはなされてしかるべきものだと思います。


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2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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