クリエーティブさは、一般には好ましいものと捉えられているが、そうではないらしい |
これを発表したのはジャック・ゴンカロ氏をはじめとする研究者たちで、彼らはペンシルベニア大学で計200人以上を対象に行われた2つの実験をもとに「人は自分たちの安定・安全を脅かす(おびやかす)クリエイティブ性を嫌う」という結論に至った。
その実験のなかで全体的に被験者たちは、足の温度を下げ、まめを防ぐというナノテクノロジーを使った、従来の靴より明らかに利点のある新しい靴にネガティブな反応を示しており、これが意識レベルで人がクリエイティブ性を嫌っている根拠となった。
そして無意識レベルの調査では、自称クリエイティブなもの好きの人たちが、実はそういった独創的なアイデアを「嘔吐(おうと)」、「苦痛」、「毒」というネガティブな言葉と関連付けていることが分かり、人間の創造性嫌いが意識、無意識レベルの両方で浮き彫りとなった。
研究者によるとこれは、人間が「クリエイティブなことをすることは、安全な領域から出ることだ」と考えていることに起因しているらしく、その自身の創造性を嫌う性質に気付いている人はほとんどいないとのこと。そして研究者たちは、今後私たちが行っていくべきこととして、次のようなことを語っている。
「創造性を嫌う人間の性質を見れば、本人たちがそう望んでいなくとも、なぜ人々がクリエイティブなアイデア、科学的進歩を拒むのか理解できると思います。これから創造性を考えていく上で、私たちはどうしたらもっとクリエイティブなアイデアを生み出せるのかを考えるのではなく、どうしたら革新的な機関に独創性を認識させ、受け入れてもらえるのかを考えていくべきです」
普段「欲しい、欲しい!」と言っておきながら、本当は心の奥底で拒絶していたクリエイティブ性。みなさんにとって創造力とは何なのだろうか? ぜひこの機会に見つめ直してみて、自分が本当に望むものを見つけてほしい。
【私の論評】ドラッカーは、このことを昔から知っていた?!!
私は、良くドラッカーの書籍を読むことは、このブログにもよく書いていますので、ご存知の方も多いと思います。上記の記事の内容、ドラッカーは昔か知っていたように思います。おそらく、様々な企業を指導してきた結果、特に上のような心理学実験などしなくても、そのことを熟知していたのだと思います。
ドラッカーは、そのいろいろな著書で、天才的な「ひらめき」を否定しています。特に、起業家の「ひらめき」を否定しています。一般に、クリエーティヴ性といえば、この「ひらめき」が湯水のように湧きい出てくるようなことを指すのではないかと思います。以下にドラッカーの著書からの引用とそれに関する今回の文脈での解説などを掲載します。
起業家精神というと、巷では、100人に1人が持つという感覚である。100人に1人の気質、100人に1人の才能としかねない。しかし、この考えそのものが、間違いである。それは、気質でも才能でもない。ただし、一つだけ起業家精神に向かない気質がある。それは、何事にも、確実性を旨とする気質である。それはそれで立派な気質であり役に立つものだが、起業家には向かない。
しかし、ごく普通の気質を持ち、意思決定を行なうことができるならば、学習を通して、起業家的に行動することができるようになる。起業家精神とは、気質ではなく、行動であり、同時に姿勢だからである。
イノベーションは、才能とも関係がない。起業家精神の才能などはなく、方法論が必要なだけなのである。それが今、ようやく各所で認識され実行されるようになりつつある。起業家精神はインスピレーションとも、ほとんどあるいはまったく関係ない。逆にそれは、厳しく、組織的な作業である。
起業家に天才的なひらめきがあるというのは、神話にすぎない。多くの人は、勘違いをしている。大企業はイノベーティブではないといいます。中小企業こそ、イノベーティブであり、実際に多くの新技術や、新部品を開発しているといいます。確かにそうです。しかし、現実には、大企業のほうがイノベーティブです。
たとえば、最初はガレージ産業から発祥し、今や世界の大企業であるあのアップルがイノベーティブな企業であることを誰もが否定はしないでしょう。アップルは、今年、他社を追い抜いて、世界一の時価総額を誇るまでに成長しました。あのアップルのiPadや、iPhoneの中には、日本や、韓国の部品メーカーによる、部品が多数使われています、無論、アップルが独自で開発した、部品もありますし、他にもOSなどはその典型です。
しかし、それと他の部品を一つにまとめて、新たなデバイスを作り出し、それだけではなく、というより、それに先立ってアプリの流通の変革、音楽配信の革新、そのたもろもろの革新と、それによる、いわゆるビジネス・プラットフォームを築いたのはアップルです。このビジネスプラットフォームの概念が先にあって、その後に、もろもろを築き、最終的にプラットフォームにまで高めて、いわゆる新たなiPhoneや、iPadを使うことを前提としたものにしたのは、アップルが最初であり、独壇場の様相を呈しています。ガレージ産業のままのアップルであれば先進的なパソコンをつくることはできても、ここまではできなかったでしょう。
実際、最近アップルのCEOを退いたスティーブ・ジョブスも、ひらめきというより、様々な戦略を立案して成功してきました。彼の卓越した、プレゼンテーション能力も、決して天才のひらめきから生まれてものではありません。あのプレゼンテーションも彼にとっては、すべて予定調和であり、自らの戦略の一環です。
あのエジソンは、天才的なひらめきで、次々と発明を行い、発明王といわれましたが、起業家としては失格でした。あの電話を発明した、アレクサンダー・グラハム・ベルも、起業家としての道を歩むことはできずに、その生涯を通じて、科学振興および聾者教育に尽力しました。このような例は、インターネットなどで調べれば、はいて捨てるほどあり、天才的ひらめきのみに頼ったものは、例外なく敗退しています。日本の例としては、たとえば、あのGayoの、宇野さんです。私自身も、自分の会社の会長をはじめとして、様々な起業家を知っています。
実際に、ここ20年で、ベンチャーを立ち上げた人もいれば、社内起業家もいました。有名商社を辞職して独立した人もいました。道庁や、北海道電力を退社して独立した人もいました。自営業をやっていたのですが、中小企業診断士の資格を取得して、コンサルタントの事務所を開設した人もいました。どの人も働き者でした。しかし、天才的なひらめきを当てにするような人は、ひらめきのように消えていきました。
大部分のイノベーションは、変化を利用することによって成功するのであって、変化をもたらそうとすることによって成功するのではない。ということは、変化を当然のこととして受け止めることが起業家にもっとも必要な能力ということです。これは、日本人にとっては、諸行無常を旨とする、なじんだ考え方です。要するに、起業家精神とは、一般に思われているような、クリエーティブ性、天才的なひらめきなどではなく、「変化を当然とする」態度・行動のことであり、変化を前提として行動する精神のことであるということです。
そうして、起業家として、イノベーティブになるためには、「変化を当然として受け止める」能力が最も重要であり、さらに、原理・原則があるとして、解説しています。しかし、この部分に関しては、本日のブログの趣旨とは外れるので、ここでは詳細を解説しません。興味のある方は、是非ドラッカーの書籍たてば、「イノベーションと起業家精神」などの書籍をご覧になってください。
それに、ドラッカーは、イノベーティブな企業になることの前提として、従業員がクリエーティブになることを推奨したりはしません。その前提として、あげたのは、このブログでも一昨日あげた、「体系的廃棄」を推奨しています。
これに関しては、当該ブログを読んでいただければもっとも理解しやすいと思いますが、以下にその核心部分だけ、コピペしておきます。なお、この記事は、最近のGoogleの10にも及ぶ、製品・サービスの廃止に関するものでした。
「長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる」(『乱気流時代の経営』)
あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならない。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要である。
なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからである。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからである。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言う。廃棄せずして、新しいことは始められない。
ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていない。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていない。
自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかない。そのためには人材がいる。その人材はどこで手に入れるか。外から探してくるのでは遅い。ドラッカー自身は、上記のことを他の著書では、「体系的廃棄」として、2~3年一度、定期的に行うべきことを推奨しています。これは、本当に大事なことだと思います。
そうして、上の記事でいう、「創造性を嫌う人間の性質」があるからこそ、体系的に意図して、意識して、原理・原則に従ってイノベーションを実行せずに、個々人のひらめきやクリエーティブ性に任せておけば、イノベーションは実現できないのだと思います。
たとえ、一時、ひらめきやクリエーティブ性で、新たな発見や、新たなものを作っても、「創造性を嫌う人間の性質」が、そこから先に行くことを妨げるのだと思います。だからこそ、体系的に、組織だっておこなわなければ、起業家精神を発揮する事はできないのだと思います。
上の記事では、「創造性を嫌う人間の性質を見れば、本人たちがそう望んでいなくとも、なぜ人々がクリエイティブなアイデア、科学的進歩を拒むのか理解できると思います。これから創造性を考えていく上で、私たちはどうしたらもっとクリエイティブなアイデアを生み出せるのかを考えるのではなく、どうしたら革新的な機関に独創性を認識させ、受け入れてもらえるのかを考えていくべきです」として、結論めいたものにしています。
私は、上記のような革新的機関こそが、たとえば、アッブルのような創造的な企業であり、このような企業は、組織的・体系的に、「体系的廃棄」を行ない、従業員に独創性を認識させ、受け入れてもらえるのかを考えさせるのではなく、従業員に独創的あることを要求し、提供することを義務としているのだと思います。こうして、戦略的に意図して、意識して、イノベーションを実現しているのだと思います。決して、経営者や、従業員のクリエーティブ性や、ひらめきだけに頼っているのではないと思います。そうして、そのような組織をつくることが、起業家の重要な責務だと思います。
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