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2020年5月10日日曜日

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論―【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論

<引用元:デイリー・コーラー 2020.5.9

中国の習近平主席は自ら、コロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた、とドイツ情報機関は結論付けた。

独シュピーゲル誌によると、習はWHOのテドロス事務局長と1月21日に面談し、ヒト・ヒト感染に関する情報を伏せ、世界的パンデミックの宣言を遅らせるよう求めた。中国はパンデミックに経済的な責任を負うべき、という意見が高まる中でのニュースだ。

1月21日に面談したWHOのテドロス事務局長(左)と、習近平

「BND(ドイツ連邦情報局)が下した裁決は厳しいものだ。ウイルスとの戦いにおける北京の情報政策において、6週間とまではいかなくても少なくとも4週間が失われたとしている」とシュピーゲルは報じた。

独情報機関による進展は、同様に中国のコロナウイルス対応を調査する米国政治家の注目を集めた。

「我々はまだこの報道の確認作業中だ。だがもし事実であると分かれば、テドロス事務局長が中国共産党の隠蔽で彼らと共謀したことを示す一層の証拠となり、WHOのトップには不適格ということになる」と、テキサス州の共和党下院議員で、下院中国タスクフォース委員長を務めるマイケル・マコールは本紙に語った。

BNDは連邦情報局を意味するドイツ語の頭文字だ。3月初めに発表されたある研究によると、4週間から6週間の追加準備期間があれば、世界的なパンデミックを完全に回避できた可能性がある。サウサンプトン大学の研究者は、中国がわずか3週間だけ早く行動を起こして情報を公表していれば、感染拡大を95パーセントは縮小できていたことを発見した。

米情報機関は同様に、中国が武漢や他の場所でのコロナウイルス発生において感染者数と死者数の両方を改ざんしたという結論を3月中旬までに出した。

中国政府の公式集計では、武漢での死者数をおよそ3,500人としているが、本当の数字は4万人であることを示す証拠がある

ドナルド・トランプ大統領の政権は、中国のパンデミック対応を痛烈に批判しており、「認識しながら」コロナウイルス拡大の一因となっていたことが分れば、処罰を受けるべきだとしている。

ホワイトハウスは本紙からのコメントの要求に直ちに回答しなかった。

【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

1月21日の習近平とテドロスの面談については、当初から「習近平がコロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた」のではないかという疑惑がありました。

今回は、BNDが実際そうであったと、結論付けたわけです。今後もこのような調査は、米国をはじめあらゆる世界の国々の情報機関が調査を継続し、同じような結論達すると考えられます。

そうなるとどうなるかといえば、WHOのような国際機関を中国が意のままに動かせることが明らかになったのですから、世界はグローバリズム一辺倒というか、グローバリズム=善という単純な考えは、間違いであり、ナショナリズム的な考え方が、強くなっていくことが予想できます。

「ナショナリズム」というものを定義することは、われわれの想像以上になかなか難しいことのようです。アーネスト・ゲルナーはナショナリズムを「実際のところ近代世界でしか優勢とならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」と述べています(『民族とナショナリズム』岩波書店)。エリ・ケドゥーリーは「ナショナリズムは19世紀初頭にヨーロッパで作り出された教義である」と述べました(『ナショナリズム』学文社)。

ナショナリズムとは何かということについては、「自分たち国民、民族を重視する考え」ということの他は、多くの議論があり、なかなかその本質をつかまえることはできないようです。

ナショナリズムは、自給自足が基本の農耕社会から、現代のような産業社会へと移行するうえで必然的に産まれたもの、と考えているのがゲルナーという人です。産業社会の進展は市場を広げ、閉鎖的な「むら」からできていた「くに」を、国民による1つの「国民国家」に変えていきました。

国家の産業を発展させるためには、文化、特に言語の統一が必要です。話し言葉がばらばらでは効率性はあがりませんからね。なかにはイギリスのようにわりと自然に統一されていった国もありましたが、日本のように「富国強兵」「殖産産業」をスローガンに、国家をあげて中央集権的な教育を行い、文化・言語の統一を行っていった国も少なくありませんでした。

こういうなかでナショナリズムが育まれていったというのがゲルナーの基本的な考えです。実際、ナショナリズムによって国民の団結、教育の発達が生まれ、産業化が進んだ例は、日本をはじめ多くの国であることでした。

『五箇条の御誓文』(明治元年3月14日に明治天皇が天地神明に誓約する形式で、公卿や諸侯などに
 示した明治政府の基本方針には、天皇を中心とする国民国家を目指すことが示されている

50年間で2度の世界大戦を経験した欧米諸国を中心に、現代世界の軸足はナショナリズムから、脱ナショナリズム、すなわち「トランス・ナショナリズム」へと移行しつつあるといわれました。

その象徴がEU(欧州連合)です。13の国で共通の通貨・ユーロが流通していますが、近代国家にとって通貨はネーションを象徴するものの1つだったはずです。そういった意味でEUはネーションを越えたトランス・ナショナリズム、あるいは「スープラ・ナショナリズム(超国家主義)」を体現しています。
しかし、この状況は変わりつつありました。イギリスのEU脱退や、米国でトランプ氏による「米国第一主義」の標榜などでした。そうして、現状では、コロナ感染がさらに、ナショナリズムに拍車をかけつつあります。

ここで、最近の興味深い記事を掲載させていただきます。その記事では、米国の戦略家、ルトワック氏が、新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」であり、EUが機能しないこと、イタリアの無秩序ぶり、中国は虚言の国であることも暴き白日の下にさらしたとしています。

ルトワック氏は、コロナ危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

エドワード・ルトワック

【コロナ 知は語る】多国間協調が機能不全 国民国家の責任増す-エドワード・ルトワック氏 - 産経ニュース

2020.5.9
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は第二次世界大戦以来の危機と形容される。世界はどこへ向かうのか。戦略論研究の世界的権威として知られる米歴史学者のエドワード・ルトワック氏は危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言した。 
 --新型コロナが世界に与えた地政学上の影響は 
 「第一は、欧州における(政治的な流れの)断絶だ。欧州連合(EU)は欧州諸国間の戦争を予防するために設立されたが、EUが直面した初の戦争並みの不慮の事態である新型コロナへの対応に失敗した。共有された医療情報や共通の医療戦略は存在せず、被害の少ない国が被害の多い国を助けるなどの相互支援もあまりなかった」 
 「EUの連携した外交政策も皆無だった。例えばイタリアは中国からの支援を喜んで受け入れた。他方、ドイツやスウェーデン、オランダなど他の欧州諸国は中国の支援を拒絶した。融合を目指したEUは役割を見失った。今後は英国に続き、多くの加盟国が静かに脱退していくはずだ」 
 「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は『パンダ・ハガー』(媚中派)に席巻されていた。違っていたのは国防総省だけだ。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させるだろう。誰もがウイルスが中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ」 
 --米中による「大国間競争」はどうなる 
 「トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ」
 「一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」 
 --製造業のサプライチェーン(調達・供給網)への影響は 
 「日本政府は企業が中国の拠点を国内に回帰させるか、第三国に移転させるのを後押しする費用として総額2435憶円を緊急経済対策に盛り込んだ。他国の企業も、自国政府の支援の有無とは無関係に、中国との縁を完全に切りたい思惑から脱出を進めている。中国の実業界も同様だ。彼らは資産をニューヨークに移そうと血眼になっている」 
 --国際機関や多国間枠組みの役割はどうなる 
 新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」だ。EUが機能しないことを暴き、多数の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国とは違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた」 
 「新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」 
<中略>

 「グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権限を欧州委員会に移管するものだ。欧州中央銀行(ECB)の運営も非民主的だ。欧州諸国の民主体制が弱体化したのも、各国の権力が(EUという)非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化によって民主主義が損なわれることはない」(聞き手 ワシントン=黒瀬悦成)
中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化しました。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示したのですが、世界各地で拒絶されています。

日本でもマスクや医療用品、自動車部品、トイレなどの住宅建築用品などの中国への依存度の高さが露呈し、安全への危惧が高まり、脱中国・チャイナプラスワン、国内回帰が検討され始め政府の支援策も出されています。

いずれにせよ、これらの動きは、脱グローバル化、ナショナリズムへの回帰への前兆です。国民国家の安全保障は、国家存亡に関わる産業を支えるための最低限の製造供給能力を推し量って非常時への備えをすることから始まります。

ところが、日本では多くの財務官僚等のエリートや企業経営者の頭の中身が、この未曾有の惨禍でも未だに平時の思考のままです。コロナ禍で判ったことは、真の非常時には自国のみで生き抜いていくリソースと能力=技術力を平時から備える計画立案であることです。

産業界においては欧米風の「MBA」を崇めてその言説に囚われ、日経ビジネス電子版の「逆・タイムマシン経営論」で指摘されているような「トラップ」が我国の優位性をことごとく踏み潰してきました。

米国MBA卒のエリートらが80年代から盛んに主張し、必ず推奨したアウトソーシング戦略は、多くの大企業経営者が無思考的に採用してしまいました。エンロン問題で破綻したアーサー・アンダーセン(AA)は、自社生産は止めて外注への転換一点張りでした。自社の内製技術ノウハウ、サプライチェーン保全など、無視されました。

AAのにとっては、商品は中身の優劣ではなくマーケティングでしかありませんでした。BCP(事業継続計画=Business Continuity Plan)は生産を複数・多国にして凌げば良いという論理でした。

今回のコロナ禍で中国が露骨に示した西側諸国に対する「潰し戦略」はかなり前から行われていました。その一例としてマグネシウム産業をあげます。

マグネシウムは精錬に高度な技術を要するのですが軽量かつ他の金属の改質に重要な元素なので、航空宇宙を始めとした国防先端産業用部品から日常生活にわたり重要です。

日本マグネシウム協会(2017)まとめでは、マグネシウムインゴット生産の85%が中国、以下、米国6%、ロシア5%、イスラエル2%です。



1980年以前は日本を含めた西側諸国とソ連で生産されていたのですが、中国はコピペ工場で市場価格より30%安い価格、実質ダンピングで市場供給を開始しました。

当然、西側諸国メーカーは赤字になり淘汰されました。米露イスラエルは市場価格に見合わないにもかかわらず、国防上の理由から各1社ずつ保有しています。

我国ではマグネシウム合金を大量に製造しているのですが、インゴット95%と大量の合金を中国から輸入しています。この輸入品が無いと自動車も作れません。

更に、肥料に添加するマグネシウム塩類、食品加工用(例えばニガリ)、薬品、難燃剤など、マグネシウムは生活の隅々まで入り込んでいる元素です。

つまり、中国と対峙しようとすると、武器弾薬から豆腐カニカマに至るまで製造できなくなるのです。「マスクが足らない」どころの騒ぎでは済まないのです。戦う前から負けなのです。

コロナ禍以前から鳩山元総理大臣の様に中国と東アジア経済共同体を目指す人々が多数います。友好善隣は絶え間ない努力が必要であることは自明です。

しかし、首に縄をかけられた状態で対等の外交などありえないです。だから、彼らは矛盾しています。中国共産党との友好的関係を保ちたいなら、まず、国家の安全保障の足枷となる材料と技術のサプライチェーンの再構築を検討すべきなのです。

日経新聞を始めとする経済関係論議ではコロナ禍後の世界経済について種々意見が喧しくなってきました。多くは株価を議論しますが、平時の感覚でコロナ禍以前の世界秩序に戻ることを考えているようです。

しかし、株価ではなく本当の国家の足腰強さは重要物資を自前で供給できることに依存します。コロナ禍後に向けて小手先のBCP(事業継続計画)を体裁よく作るのではなく、前例踏襲を止めて、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直すことが必要です。

以上はマグネシュウム産業についてですが、日本は自力でできるものまで、価格が安い等の理由だけで、中国に安易に依存している産業が他にも多くあります。これらについては、自国で生産するのか、あるいは信頼できる同盟国から輸入するかを検討すべきです。

現在の世界は、ナショナリズムが強まっていますが、一度グローバリズムの良さを知った世界は、完璧にナショナリズムにもどる ことはないと思います。同じルールで貿易ができる国々同士では、これからも自由貿易を続けていくでしょう。

ただし、先進国は従来のように安易にルールを守れそうもない体制の国々まで、同じルールで貿易をしようとする従来のグローバリズムに戻ることはないでしょう。

【関連記事】

2019年6月7日金曜日

ついに「在韓米軍」撤収の号砲が鳴る 米国が北朝鮮を先行攻撃できる体制は整った―【私の論評】日本はこれからは、米韓同盟が存在しないことを前提にしなければならない(゚д゚)!


鄭景斗・韓国国防部長官とシャナハン・米国防長官代行(韓国国防部公式より)

「在韓米軍撤収」の号砲が鳴った。米軍人その家族が半島から引き上げれば、米国は心おきなく北朝鮮を先制攻撃できる。(鈴置高史/韓国観察者)

司令部も家族も「ソウル脱出」

 米国のシャナハン国防長官代行は6月3日、韓国で鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防部長官と、米韓連合司令部をソウルから南方の京畿道・平沢(ピョンテク)の米軍基地キャンプ・ハンフリーに移転することで合意した。

 これにより、米軍の司令部や第1線部隊はソウル市内を流れる漢江の北からほぼ姿を消す。移転先のキャンプ・ハンフリーには国連軍司令部や在韓米軍司令部、歩兵2個旅団などが集結済みだ。

米韓連合司令部はソウル、ヨンサン区からピョンテク市に移動

 ソウルの北の京畿道・東豆川(キョンギド・トンドゥチョン)には米砲兵旅団が駐屯するものの、いずれ兵器を韓国軍に引き渡して兵員は米本土に撤収する計画と報じられている。

 米韓同盟に自動介入条項はない。北朝鮮軍が侵攻してきた場合、米地上部隊と兵火を交えない限り米国は本格的な軍事介入をためらう、と韓国人は恐れてきた。

 ことにイラク戦争以降、被害の大きい地上部隊の投入を米国は極度に嫌うようになった。防衛線となる漢江以北から米軍人とその家族が姿を消せば、北朝鮮の「奇襲攻撃でソウルの北半分を占領したうえ、韓国と停戦する」との作戦が現実味を帯びる。

 保守系紙、朝鮮日報は「韓米連合司令部が平沢に、米軍の仕掛け線は南下」(6月4日、韓国語版)で、朴元坤(パク・ウォンゴン)韓東大教授の談話を紹介した。以下である。

《平沢基地に行くというのは結局、米国は(軍事介入の引き金となる)仕掛け線たる陸軍を引き抜き、有事の際も空・海軍依存の「適当な」支援をする、ということだ》

 同じ6月3日、ソウルの米軍基地内にあった米国人学校が閉校し60年の歴史を終えた。在校生は今後、キャンプ・ハンフリー内の米国人学校などで学ぶことになる。

韓国人が在韓米軍を指揮

 では、米陸軍は漢江の南には残るのだろうか。専門家はそれにも首を傾げる。6月3日のシャナハン国防長官代行と鄭景斗国防部長官の会談で、米韓連合司令部のトップを韓国側が務めることでも合意したからだ。

 韓国軍の戦時の作戦統制権は米国が握っている。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は韓国に引き渡すよう要求、米国も応じていた。それに伴い、連合司令官も韓国側から出すことを今回、正式に決めたのだ。

 韓国人の連合司令官の誕生は、在韓米陸軍の撤収に直結する。米国は一定以上の規模の部隊の指揮を外国人に任せない。米軍人が副司令官を務めるといっても、在韓米軍の3万人弱の米兵士が韓国人の指揮を受けるのは米国の基本原則に反する。在韓米陸軍の人員が大きく削減されると見るのが自然である。

 そうなれば、あるいは米陸軍が韓国から撤収すれば、連合司令部は有名無実の存在となる。米国は韓国に海軍と海兵隊の実戦部隊を配備していない。在韓米空軍はハワイの太平洋空軍司令部の指揮下にある。

 連合司令部が指揮する米国軍が、ほとんど存在しなくなるのだ。米国にすれば、有名無実の連合司令部のトップなら韓国人に任せても実害はない、ということだろう。

 6月2日、シャナハン国防長官代行がソウルに向かう飛行機の中で、記者団に「米韓合同軍事演習を再開する必要はない」と語ったことも、在韓米陸軍の撤収を予感させた。もし陸軍兵力を残すのなら、韓国軍との合同演習が不可欠だからだ。

寝耳に水の南方移転

 米韓連合司令部の平沢移転は、韓国政府・軍にとって寝耳に水だった。在韓米軍司令部などが平沢に移っても、米韓連合司令部だけはソウルに残ると米国は約束してきた。

 首都ソウルに米国の高級軍人と家族が残る、という事実こそが、韓国人に大きな安心感を与えるからだ。だが5月16日、中央日報が特ダネとして「米軍が最近、連合司令部の移転を要請してきた」と報じて1か月もしないうちに、それが実現した。米国はよほどの決意を固めたのだろう。

 2017年にスタートした米韓の両政権ともに、同盟を重荷に感じていた。トランプ大統領はカネがかかる在韓米軍の存在に疑問を抱き「今すぐではないが朝鮮半島の米軍兵士を故郷に戻す」と約束した(拙著「米韓同盟消滅」(新潮新書)第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 一方、文在寅政権の中枢は「民族内部の対立を煽る米帝国主義こそが真の敵」と固く信じる親北反米派が固めている(拙著「米韓同盟消滅」(新潮新書)第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

中国の脅しに屈した韓国

 米韓の間の溝は深まるばかりだ。米国や日本は経済制裁により北朝鮮に核を手放させようとしている。というのに、韓国は露骨にそれを邪魔する。

 世界の朝鮮半島専門家の多くが、文在寅大統領は金正恩(キム・ジョンウン)委員長の使い走りと見なすようになった。

 6月5日にも、文在寅政権は北朝鮮への支援用として800万ドルを国連に拠出することを決めた。人道援助の名目だが、国際社会はそのカネで購った食糧が軍に回るのではないかと懸念する(デイリー新潮「文在寅は金正恩の使い走り、北朝鮮のミサイル発射で韓国が食糧支援という猿芝居」参照)

 北朝鮮との緊張が高まった2017年3月、米国は慶尚北道・星州(キョンサンプクト・ソンジュ)にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を持ち込んだ。韓国と在韓米軍を北朝鮮のミサイル攻撃から守るためだ。

 だが、韓国政府は2年以上たった今も、配備を正式に許可していない。表向き環境影響評価に時間がかかると説明しているが、中国が怖いからだとは誰もが知っている。配備の場所が韓国南東部で中国から離れているのも、中国への忖度からとされる。

 中国は、韓国配備のTHAADの高性能レーダーが米国に向けて発射した自身のICBM(大陸間弾道弾)の検知に利用されると懸念する。

 2017年10月には「これ以上のTHAAD配備には応じない」との一札を韓国から取り上げた(拙著「米韓同盟消滅」(新潮新書)第2章第2節「どうせ属国だったのだ……」参照)。

 今年6月1日にシンガポールで開いた中韓国防相会談でも、中国はTHAADの話題を持ち出し、韓国を圧迫した模様だ。韓国政府は隠していたが記者の追及で明らかとなった。

「市民」がTHAAD基地を包囲

 親北反米派の「市民」はTHAAD基地の周辺道路を封鎖しているが、韓国政府は放置している。米軍はやむなく、食糧や燃料、交代要員を基地まで空輸している。

 米軍の度重なる要請を受け、2019年3月になって韓国政府は一般環境評価に重い腰を上げた。だが、今後も政府の時間稼ぎは続くと見られ「正式配備を認めるかどうか、結論を下すのに1年はかかるだろう」と韓国メディアは報じている。

 米議会調査局は5月20日に発表した「South Korea: Background and U.S. Relations」で「米韓の協力関係は、ことに北朝鮮に関しては、亀裂が深まる一方で先行きは予測しがたい」と断じた。

 中立的な議会調査局までが「米韓同盟はいつまで持つか分からない」と言い出したのだ。そんな空気が広がるワシントンにとって、米陸軍の韓国からの撤収は、当然、通るべき一里塚である。

 米下院軍事委員会は2020年度の国防授権法の草案から「在韓米軍の兵力の下限」を定めた条項を削除した。2019年度の同法は2万2000人と定めていた。

 なお、上院の軍事委員会は2020年度も2万8500人を下限とする草案を固めた。この条項は上下両院で調整することになるとVOAは「米下院、国防授権法草案公開…『韓国と情報共有強化』」(6月5日、韓国版)で報じた。

「先制攻撃は北に通報」

 急に現実味を帯びた在韓米軍の削減――。北朝鮮は喜んでいるのだろうか。確かに北朝鮮にとって、安全保障上の脅威である米軍の兵力削減は願ってもないことだ。米韓同盟の解体にもつながる話だから、普通なら大喜びするところだ。

 ただ良く考えれば、北朝鮮が攻め込まない限り、在韓米陸軍は脅威ではない。それどころか、北朝鮮のミサイルやロケット攻撃の人質にとれる。

 そして今は、先制攻撃も念頭に米国が核放棄を迫って来る最中なのだ。陸軍やその家族が引き揚げた後、米軍は思う存分、北朝鮮を空から叩けることになる。

 もちろん、在韓米空軍は特性を生かして、日本に瞬時に後退できる。そもそも韓国の空軍基地は使いにくい。そこから先制攻撃に動けば、文在寅政権が金正恩政権に直ちに知らせるのは間違いないからだ。

 文在寅氏は大統領選挙の最中の2017年4月13日、「米国が北朝鮮を攻撃しようとしたらどうするか」と聞かれ、「米国を止める。北朝鮮にも、先制攻撃の口実となる挑発をやめるよう要請する」と答えている(拙著「米韓同盟消滅」(新潮新書)第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

加賀とワスプ

 米国は北朝鮮の核施設への先制攻撃を、日本、グアム、海上から実施する。韓国の基地が使いにくい以上、北朝鮮に最も近い日本の基地が極めて重要になる。

 北朝鮮は「第2次朝鮮戦争に巻き込まれるな」との声が起きるよう、日本の左派陣営を煽ってきた。その意味で金正恩委員長は、トランプ大統領の5月25日からの3泊4日の訪日に、大きなショックを受けたに違いない。

 トランプ大統領とその夫人は、皇居で天皇陛下やご家族と親しく交わった。横須賀では、安倍晋三首相夫妻と海上自衛隊の空母型護衛艦「かが」に乗艦。その後、大統領夫妻は米海軍の強襲揚陸艦「ワスプ(Wasp)」にヘリコプターで移動した。

天皇陛下とトランプ大統領

 太平洋戦争で空母「加賀」は真珠湾攻撃に参加し、ミッドウェー海戦で米海軍の急降下爆撃機によって沈められた。先々代の米正規空母「ワスプ」は第2次ソロモン海戦で伊19潜水艦の雷撃を受けて大火災を起こし、総員退艦後に自沈した。

 太平洋の覇権をかけ死に物狂いで戦った2つの海洋国家が、固く結束し共通の敵に立ち向かう意思を表明したのだ。もちろん「共通の敵」の第1候補は北朝鮮である。

 在韓米軍撤収の号砲が、日米の運命的な結束誇示の直後に始まったことも、金正恩委員長の目には、さぞ不気味に映っていることだろう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集


【私の論評】日本はこれからは、米韓同盟が存在しないことを前提にしなければならない(゚д゚)!

上の鈴置氏の記事の中で、トランプ大統領の日本訪問の意義の大きさを指摘していますが、私もそう思います。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安倍総理が米国でゴルフをしたときは、トランプ大統領がカートを運転したので、今回は安倍首相が
運転するのが当たり前だが、多くマスコミはトランプの運転手安倍総理ということで揶揄していた
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、今回の日米会談の意義に関する部分をこの記事から引用します。


様々な背景を知った上で、トランプ大統領のこれら一連の行動は何を意味するのかは、明らかです。それは、戦後はじめて、米国の大統領が大東亜戦争(米では太平洋戦争)の清算を日本で行ったということです。


そうして、これは大東亜戦争のわだかまりを捨てた日米関係のさらなる強化を意味します。そうして、これは中国・北・韓国にとって、大きな脅威です。
中国は貿易問題で米国と激しく対立しています。トランプ政権の制裁強化に対し、中国はすぐさま報復に出ましたが、どう見ても中国に勝ち目はないです。そもそも、中国の米国からの輸入量が米国の輸入量に比べて4分の1程度しかないのに加えて、米国からみれば、多くの中国製品は他国製品で代替可能だからです。 
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は先月、年内に「3回目の米朝首脳会談に応じる用意がある」との声明を出しました。ところが、一方で5月に入ると、短距離の弾道ミサイルを2度、発射しました。

それだけでは、国内強行派をなだめることがでなかったのか、2月の米朝首脳会談が物別れに終わった責任を問い、金革哲(キム・ヒョクチョル)対米特別代表、および事務レベルの交渉を行った複数の外務省担当者を処刑したとの報道もされています。

金革哲(キム・ヒョクチョル)氏

しかしこれでは、米国は痛くもかゆくもないです。国内の強硬派をなだめるために、何かせざるを得ないが、「これくらいなら大統領を怒らせないだろう」という中途半端な中途半端な短距離弾道ミサイルの発射です。逆に言えば「私も困っている。どうか、私ともう一度会ってください」というラブコールにほかならならなかったようです。

それでも、国内強行派はおさまらず、金革哲氏らを処刑せざるを得なかったのでしょう。米国との交渉の顔だった金革哲氏のような人々を処刑あるいは完全に排除することは、協議したことの全面否定を示唆することにもなり、米国に非常に悪いシグナルを送ることになりかねません。それでも、処刑せざるを得ないかったのは、金正恩がかなり追い詰められているということです。

一言で言えば、中国も北朝鮮も「八方塞がり」に陥っているのです。トランプ政権は相手が制裁に音を上げて動くのを待っていればいいだけです。北朝鮮による日本人拉致問題では、安倍首相も相手の出方待ちでしょう。無条件で正恩氏との会談に応じる姿勢を示しているのは、呼び水です
日米首脳会談により双方が基本認識を確認したので、中国と北朝鮮に対して、「ボールはそちら側にある」と対応を迫るかたちなりました。

本当は、中国の干渉を嫌う北朝鮮に籠絡された上、中国に従属しようとする韓国も、中国や北よりもさらに、「八方塞がり」に陥っています。文在寅は、米国と中国のバランスをとっているつもりのようですが、結果として、米国からも中国からも見放されています。

マスコミは、以上のような状況に全く対処できないのでしょう。これが、習近平や文在寅、金正恩などが来日して、首脳会談をして大歓迎ということであれば、大絶賛したのでしょう。なにやら、見出しが踊るのが目に見えるようです。残念ながら、そのような機会は永遠に来ないでしょう。ご愁傷様といいたいです。
 金革哲(キム・ヒョクチョル)対米特別代表の処刑に関しては、トランプ大統領自身は否定しています。これが事実かどうかは、まだはっきりしないところがありますが、このような噂が乱れ飛ぶくらいですから、金正恩が相当追い詰められていることには変わりはないです。

米軍は、今春になり韓国との大規模合同軍事演習をすべて打ち切りました。停止ではなく廃止です。ただし、大隊レベルの小規模合同演習は当面継続しています。トランプ大統領は盛んに「経費節減」を打ち上げ、米国防総省は「外交を後押しするための打ち切り」という側面を強調していますが、理由はそれだけではないでしょう。

より大きな戦略的判断が背後にあることを見落としてはならないてしょう。

第一に、もはや米国は、韓国を守るため、すなわち北の対南侵攻部隊を撃退するために自国兵士の血を流す気はないです。文在寅政権が対北宥和に汲々とし、自ら武装解除を進める以上、当然です。

また北への反攻に当たっても米側は基本的に地上軍を投入するつもりはないです。海空軍力による北の指令系統中枢や軍の拠点への攻撃は行っても、地上戦はもっぱら韓国軍の責任という仕切りになるでしょう。

従って、韓国領土の防衛および韓国領からの北進を想定した従来型の大規模合同演習は存在の意味を失ったのです。

一般的な現代同盟のあり方を考えても、これは自然な流れです。例えば日本領土に外国軍が侵攻した場合、地上で撃退に当たるのは日本の陸上自衛隊であり、米軍はそもそも地上戦闘部隊を日本に駐留させていないです。米軍は専ら「槍」の役割、すなわち海空軍力を用いた敵の拠点攻撃の役割を担うことになるでしょう。

一方、在韓米軍2万8500名の内訳は、目下、陸軍1万8500名、空軍8000名、海軍・海兵隊併せて2000名と「陸」偏重が明らかです。

従来のように北が異常に危険な存在という認識に立てば、「異常な」戦力配置も正当化されますが、韓国政府自らが北は「主敵」ではなく「気の合うパートナー」との認識に転換した以上、米軍が特異な配置を続ける理由はなくなりました。

米韓同盟が続くとしても、米軍は海空軍力による「槍」の役割に特化する方向に動くでしょう。その場合、敵の短中距離ミサイルの射程内にある韓国に基地を置く必然性はないどころか置かない方がより安全に攻撃態勢を取れます。

米韓合同軍事演習が廃止に至ったもう一つ見逃せない理由は、このブログでも以前掲載したように、情報漏れの阻止です。

米軍が現状の韓国と合同演習を行うと、機微な軍事情報が北朝鮮に筒抜けになると見ておかねばならないです。情報が伝わる先は北に留まらないです。北は南から得た情報を、中国、ロシア、イラン、キューバ等に適宜与え、代わりに別の秘密情報や禁輸物資を得ようとするでしょう。韓国と実戦に近い演習をすればするほど、米軍はより重要な作戦情報を世界中の反米勢力に知られかねないのです。

日本としては、38度線はすでに対馬にまで降りてきたと考え、これに対する準備をすべきでしょう。韓国からの軍事攻撃は滅多なことではないとは思いますが、いざというときには韓国から大量の難民が押し寄せることもありえます。さらには、北のテロリストが難民に紛れて入ってくる可能性は否定できません。

この状況に、日本は米韓同盟が存在しないことを前提で対処しなければならないのです。

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2018年6月3日日曜日

働き方改革論争、野党のなかでどこが一番「マシ」だったか―【私の論評】現代社会は数十年前と全く異なることを前提にしない守旧派は社会を破壊する(゚д゚)!

働き方改革論争、野党のなかでどこが一番「マシ」だったか

足並みが、そろっていないが…

https://youtu.be/B4ENQJjA4aA

まともな修正案もださずに

「働き方改革」における与野党合意が進められているが、肝心の野党間での認識にズレが生じているようだ。

5月21日、自民、公明両党と日本維新の会、希望の党はいわゆる「働き方改革関連法案」の修正について大筋で合意した。

与党は野党の一部の賛同を取りつけることで今国会中の法案成立を目指しているが、立憲民主党、国民民主党および共産党は「長時間労働を助長する」として批判を続けるなど、野党間の足並みはそろっていない。

このことは、仮にも労働者のためにあるはずの国民民主党や立憲民主党に、働き方改革をリードする政策能力がないことを裏付けてしまったともいえる。

どういうことか。当初、政府与党が目指した働き方改革は、(1)残業上限時間の設定、(2)高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)の設置、(3)裁量労働制拡大の3本柱だった。

(1)は過労死対策なので、与野党ともに異論はなかった。問題は(2)と(3)で、(2)は一定の年収以上であれば残業時間の制限などがなくなるものだが、労働基準法の適用除外が拡大するとの懸念があり、(3)は残業代の頭打ちにつながるとして、野党はそれらの削除を要求していた。

また、(3)については、労働時間に関する調査データの不備が見つかり、政府与党は今年の3月に取り下げた。

残る争点は(2)の高プロ制度の設置である。

政府与党は、その対象者として、「年収1075万円以上」を打ち出した。だが、世論の過労死問題への関心の高まりを受け、野党はこの適用除外を「過労死法案」「残業代ゼロ」として批判。野党側からすれば、やがて「年収1075万円」という基準が引き下げられ、ほとんどの労働者に労働時間の適用除外が拡大するとの見立てがあったのだろう。

しかし、ここで流れを変えたのが、日本維新の会の修正案だ。もともと高プロ制度は労働者の同意を必要とするものであるが、適用後に本人が考えなおしたとき、適用を解除できるようにした。これは労働者に寄り添った修正案といえよう。

今年4月から5月にかけて、立憲民主党、国民民主党や共産党は、森友問題などを理由に国会を「18連休」した。その間、働き方改革についてまともな修正案を出すこともなかったために、国民には野党がただ国会をサボっているようにしかみえなかった。一方、審議拒否しなかった維新は、法案を研究してしっかりと審議の成果を示せたわけだ。

たしかに高プロ制度に労働者側の逃げ道がなければ、不当な処遇を受ける人も出てくるかもしれない。だがこの制度に「出入り自由な道」があればロジカル的にも破綻はなくなる。

そこで今回のような、与野党の弾力的な合意が生まれたのだ。このような急展開に際し、「18連休」を終えた立憲民主党、国民民主党や共産党は対応が間に合わず、蚊帳の外になってしまった。

欧米でも高プロ制度のような労働規制の適用除外がある。欧米における適用除外対象者の労働者に対する割合は、米国で2割、フランスで1割、ドイツで2%程度だ。日本で「年収1075万円」以上は4%程度というから、高プロ制度の導入は世界から見れば当たり前で、むしろ遅すぎたくらいだ。

『週刊現代』2018年6月9日号より

【私の論評】現代社会は数十年前と全く異なることを前提にしない守旧派は社会を破壊する(゚д゚)!


働き方改革」はこれから重要になるテーマです。最近までの日本は、デフレで雇用状況も悪く、とにかく雇用が確保されていれば良いというような状況でしたが、皆さんもご存知のように、安倍政権の金融緩和政策によって、雇用情勢がかなり良くなったので、次の段階では「働き方改革」が重要になりつつあります。

現在「働き方改革」をしようという動きは、まさに時宜にかなっているといえます。雇用情勢が良くなっているということ自体が「働き方改革」をすすめるのに良い機会になっているともいえます。雇用情勢が悪いときには、「働き方改革」をすすめようにも、ななかなか進まないでしょう。

雇用情勢が良い状況なら、そもそも雇用環境が悪いブラック企業になど、そもそも新規で雇用される人がいなくなるし、そこで働いていた人も辞めて他の企業に移るようになり淘汰されるか、まとも企業に生まれ変わるしかありません。

さらに、まともな企業でも「働き方改革」を推進して働きやすい環境をつくっている企業と、そうではない企業にも差がつきます。当然のことながら、「働き方改革」を推進している企業のほうが、魅力があり、そのような企業のほうに多くの人が集まるようになります。

そのようなことを、野党は全く理解できないのでしょう。いわゆる野党6党は、前代未聞「18連休」もの職場放棄を続けたあげく、先月8日午後の衆院本会議から審議に復帰しました。

復帰条件としていた「麻生太郎副総理兼財務相の辞任」などは通らず、成果「ゼロ」の惨敗というほかないです。「審議拒否はズル休み」との世論の逆風に耐えかねて、最後は大島理森衆院議長に泣きついたかたちでした。野党に優しい朝日新聞をはじめ、メディアは一様に、戦略なき欠席戦術を厳しく批判しました。

国会議員の歳費、つまり給料は法律で決まっています。 その月額は129万4000円。 このほかにいわゆるボーナスである期末手当が約635万円支給されますので、年収ベースの総額は2200万円ほどとなります。 これが本来の国会議員の給料です。

さらに国から政党交付金として議員一人当たり年間約4000万円、立法事務費として月額65万円が会派に支払われます。報道をみるとここに誤解が多いのですが、このお金のほとんどは政党が使い、議員個人に支給されるわけではありません。しかし、政党によって異なりますが、政党交付金の一部、年間数百万円から1000万円程度は各議員に支給されています。

こうした経費を含めると、仮に政党交付金が年間1000万円だとして、年間4400万円ほどのお金が議員本人の口座や政党支部の口座に分けられて振り込まれます。


にもかかわらず、国会で審議拒否をする、すなわち一般の会社員ならば、会社を休むのと同じようなことをしても、歳費などか減額されることもありません。

このような野党の議員には、さらに理解不能なこともあります。それは現在は高度な知識社会になっているという認識です。知識社会とは、富の源泉が知識となった社会のことです。

一昔まえの富の源泉は「ヒト・モノ・カネ」といわれましたが、現在ではこれらがあっても高度な知識がないとか、新たな高度な知識をつくり出せないことには、富を生み出すことはできません。無論昔のタイプの産業も生き残ってはいますが、それが次世代を切り拓く産業になるかといえば、そんなことはありません。

現代の労働のほとんどには知識労働的な要素が含まれています。工場で働くにしても、様々な管理システムを効率的に管理するには様々な知識が必要です。工事現場で働くにしても、今や昔のようにスコップ一丁で、汗塗れになって土を掘り返すような労働ではありません。そのような仕事のほとんどは重機がこなします。現場では様々な新しい工法が実施されています。これらを実行するには様々な知識が必要とされます。

陸上自衛隊でも、スコップ一丁で塹壕を堀り、小銃を構えるなどという戦法など過去のものです。無論、そのよう場面が全くないということはないですが、それが主流ではありません。様々な情報を駆使して、最新鋭のミサイルを発射するなどの戦法がとられています。やはり、ここでも知識が重要なのです。

旧日本軍の塹壕戦

野党の面々は、このようなことを理解していないので、安全保障に関しても、時代遅れで頓珍漢な認識しかしておらず、数十年前から一歩も進んでいないようです。

現在では知識労働が全くない労働は存在しませんが、知識労働の比重が高い労働者から比較的低い労働者が存在します。その中でも、知識労働が労働のほとんど占める労働者を知識労働者と定義します。

野党の面々は、知識労働者の存在を無視しているため、彼らをどうやって動機づけるかについても全く無頓着です。

経営学の大家ドラッカーは、知識労働者の動機づけについて以下のように述べています。

「知識労働者の動機づけに必要なものは成果である」(『断絶の時代』)

肉体労働については、よい仕事に対するよい賃金でよいです。知識労働については、すごい仕事に対するすごい報酬でなければならないです。知識労働者が求めるものは、肉体労働者よりもはるかに大きい。異質でさえあります。

知識労働者は生計の資だけの仕事では満足できないのです。彼らの意欲と自負は、知識人としての専門家のものです。

知識労働者は知識をもって何事かを成し遂げることを欲します。したがって、知識労働者には挑戦の機会を与えなければならないのです。知識労働者に成果を上げさせるべくマネジメントすることは、社会や経済にとってだけでなく、彼ら本人のために不可欠なのです。

知識労働者は、自らがなすべきことは上司ではなく知識によって、人によってではなく目的によって規定されることを要求します。

知識には上級も下級もありません。関係のある知識とない知識があるだけです。したがって知識労働はチームとして組織されます。仕事の論理が、仕事の中身、担当する者、期間を決めるのです。これは、知識労働者の本質的な仕事のほとんどがルーチンなものではなく、プロジェクトで実行されることをみても明らかです。
有能なだけの仕事と卓越した仕事の差は大きい。そこには職人と親方の違い以上のものがある。知識労働ではこれが顕著に現われる。知識労働は一流を目指さなければならない。無難では役に立たない。このことがマネジメント上重大な意味をもつとともに、知識労働者自身にとっても重大な意味をもつ。(『断絶の時代』)
これは、IT業界などみているとわかりやすいです。IT業界の人々は、他者よりも卓越した仕事をすることが求められています。そうして、卓越した仕事の実績が彼らにとって成果であり、動機づけなのです。


無論、給料も良くなければならないですが、しかし、それよりは、卓越した仕事ができるということ自体が彼らの動機づけになるのです。

このような仕事をしているとき、残業がどうのなどということはさほど大きな問題にはならないのです。そんなことよりも、短期間に時間に関係なく仕事ができ、ブロジェクトが終われば長期の休みがとれるというような環境が彼らにとっては一番馴染むのです。

通常のサラリーマンのように、朝9時〜夕方5時まで、毎日決まって働くという働きかたでは、そもそも知識労働者にはなじまないのです。そのような働き方は、知識労働の度合いの低い労働ではなんとかなりますが、知識労働者には向きません。

また、ドラッカー氏は知識労働者は全員エグゼクティブでなくてはならないとしています。
今日の組織では、自らの知識や地位のゆえに組織の活動と業績に実質的な貢献を果たす知識労働者は、すべてエグゼクティブである。(『経営者の条件』)
組織の活動と業績とは、企業であれば優れた製品を出すことであり、病院であれば優れた医療を提供することです。

そのために知識労働者は意思決定をしなければならないです。自らの貢献について責任を負わなければならないのです。自らが責任を負うものについては、他の誰よりも適切に仕事をしなければならないです。

現代社会では、すべての者がエグゼクティブであるとドラッカーは言います。仕事の目標、基準、貢献は自らの手にあります。したがって、物事をなすべき者は皆、エグゼクティブなのです。

知識による権威は、地位による権威と同じように正当かつ必然のものです。彼らの決定は、本質的にトップの決定と変わらないのです。

研究者ならばプロジェクトを続行するか中止するかを決めることによって、販売部門の経営管理者ならば最高のセールスマンにどの地域を担当させるかを決めることによって、企業としての意思決定を行なっているのです。
もし企業が起業家活動の中心であるとするならば、そこに働く知識労働者はすべて起業家として行動しなければならない。知識が中心的な資源になっている今日においては、トップマネジメントだけで成功をもたらすことはできない。(『創造する経営者』)
むろん、ここでドラッカー氏は知識労働者の働き方の理想を語っているわけですが、とはいいながら、現代ではますます知識労働者の割合が増えていきますし、過去には肉体労働とみなされていた労働の中にも知識労働の割合がますます増えていきます。

このようなことに対応していこうというのが我が国の「働き方改革」でもあります。そうして、その中でも、高度プロフェッショナル制度は象徴的です。まずは、実施してみてから暫時変更して、より良い制度にしていくべきです。野党のようにただ反対しているだけでは、何も進歩はありません。


そのような時代に、野党のように労働といえば、一昔まえの肉体労働のようにとらえ、残業がどうのこうのとばかり言って、新たな知識労働のトレンドに目を向けようとしないのであれば、これからの時代の働き方には対応できません。

過去の日本は、デフレ・スパイラルのどん底に沈んで、知識労働に対する対応が遅れてしまいました。しかし、現状ではもう日本を含めて、先進国のほとんどは知識社会に突入しました。

もう、すでに私達の社会は数十年前の社会と全く異なるのです。私達も、そのことを理解しなければ、変革を妨げ、数十年前の考えから一歩も出られない、野党の面々と同じく、守旧派の頑迷固陋な老人のような存在に成り果て、これからは社会を破壊することになります。

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