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2020年5月30日土曜日

トランプ氏、香港の優遇措置見直し WHOと「断絶」も―【私の論評】日欧は香港問題で八方美人外交を続ければ、英米加豪に相手にされなくなる(゚д゚)!


対中国の制裁措置を発表するトランプ米大統領=29日

 トランプ米大統領は29日、ホワイトハウスで記者会見し、中国が香港に国家安全法の導入を決めたことに関し「香港の高度な自治は保証されなくなった」と述べ、米国が香港に対し認めている優遇措置を見直す手続きに着手すると表明した。トランプ氏はまた、世界保健機関(WHO)について、新型コロナウイルスをめぐって中国寄りの対応をとったとして「関係を断絶する」と述べ、脱退を表明した。

 新型コロナ危機に乗じて香港などに対する強権姿勢や南シナ海などで覇権的行動を打ち出す中国に、米国が正面から対決していく立場を鮮明にしたもので、米中の対立が一層激化していくのは確実だ。

 トランプ氏は、中国の全国人民代表大会(全人代)が香港に国家安全法を導入する「決定」を採択したことに関し、「中国は香港に約束していた『一国二制度』を『一国一制度』に変えた」と非難した。優遇措置の見直しの対象は、関税や査証(ビザ)発給など「ごく一部を除き全面的なものになる」としている。

5月27日、香港立法会の本会議に出席した民主派の陳淑荘議員

 トランプ氏はまた、「香港の自由の圧殺」に関与した中国や香港の当局者に制裁を科すと表明した。

 米国務省の香港に対する渡航勧告も中国と同等とし、滞在中に「監視を受ける危険が増大する」との文言を明記するとした。

 新型コロナへの中国の対応に関しても、中国が忌避する「武漢ウイルス」の用語をあえて使用し、「中国がウイルスを隠蔽(いんぺい)したせいで感染が世界に拡大し、米国でも10万人以上が死亡した」と訴えた。

 WHOに関しては「中国に牛耳られている」「米国の組織改革の要求に応えていない」などと批判。年間4億5千万ドル(約480億円)規模とされるWHOに対する米国の拠出金については「他の保健衛生関連の国際組織に振り向ける」とした。トランプ氏は今月18日、WHO事務局長に「30日以内に組織を改革しなければ米国は資金拠出を恒久停止する」と警告していた。

 またトランプ氏は会見で、米株式市場に上場している中国企業の透明性向上に向け「特異な行為」をしていないか作業部会で検証すると語った。

 さらに、中国人の学生らが米国内の大学や研究機関で技術窃取を繰り返してきたと非難。記者会見後は、中国人民解放軍に連なる研究機関に所属する大学院生の米国への入国を禁じる大統領布告に署名した。

【私の論評】日欧は香港問題で八方美人外交を続ければ、英米加豪に相手にされなくなる(゚д゚)!

一国二制度の破壊で香港は中国の一地方都市となったのですから、特別優遇の廃止は当然のことです。しかし、それでは中国は、国際金融と貿易における香港の特別地位を失って経済が沈没するのは必至です。中国は、資金調達と対外貿易の重要な窓口を失うことになります。いつものことだが、習近平の愚挙は、結局自分たちの首を絞めることになるだけです。

トランプ米大統領が29日の、声明要旨は次の通りです。

■新型コロナの情報隠蔽

米国は中国との開かれた、建設的な関係を望んでいるが、その関係を実現するには米国の国益を精力的に守る必要がある。中国政府は米国や他の多くの国々への約束を破り続けてきた。中国による「武漢ウイルス」の隠蔽により、疾病は世界中に拡散した。世界的な大流行を引き起こし、10万人以上の米国民、世界中で100万人以上の命が失われた。

■WHOとの関係断絶へ

中国は世界保健機関(WHO)を完全に支配している。彼らは我々が要請した必要な改革を実施しなかったため、本日、WHOとの関係を断絶する。資金の拠出先は世界的でふさわしい、他の差し迫った公衆衛生ニーズに振り替える。

■産業機密保護へ入国制限

中国政府は長年にわたり、米国の産業機密を盗む違法なスパイ活動を行ってきた。本日、私は米国の極めて重要な大学の研究成果を保護するため、潜在的な安全リスクとみなす者の中国からの入国を停止する布告を出す。

■中国上場企業の慣行調査

さらに米国の金融システムの健全性を守る措置を取る。金融市場に関するワーキンググループに対し、米国の市場に上場している中国企業の慣行を調査するよう指示する。

今週、中国は香港の安全に一方的な統制をかけた。これは、1984年の宣言で英国と結んだ条約に対する、中国政府による明確な義務違反だ。

■香港の自治侵害は条約違反

中国による最近の侵害と、香港の自由を悪化させたその他の出来事をみれば、中国への返還以来、米国が香港に与えてきた優遇措置を続けるための正当な根拠となる自治がないのは明らかだ。

中国は、約束した「1国2制度」方式を「1国1制度」に置き換えた。このため私は米政権に、香港を特別扱いしてきた政策をやめるプロセスを始めるよう指示する。本日の私の発表は、犯罪人引き渡し条約から軍民両用技術の輸出規制まで全ての範囲の合意に影響する。

香港への渡航勧告についても、中国治安当局による刑罰や監視の危険の増加を反映して見直す。

■関税など優遇措置を撤廃

関税や渡航の地域としての優遇措置も取り消す。香港の自治侵害と、自由の抑圧に直接的または間接的に関与した中国と香港の当局者に制裁を科すのに必要な措置を取る。

香港の人々は、中国が活動的で輝く香港の街のようになることを望んでいた。世界は、香港が中国の未来像の一端であるとの楽観的な思いに打たれたのであり、香港が中国の過去の姿を映すことを期待したのではなかった。

以上

国連安全保障理事会は29日、中国政府が香港に「国家安全法」を導入する方針を決めたことを受け、米英両国の提起で香港情勢について非公式に協議しました。米国は中国に方針転換を求め、全ての国連加盟国に米国に同調するよう要請。猛反発した中国が内政干渉の即時中止を米英に要求し、議論は平行線に終わりました。

米英中の各国連代表部は協議後、それぞれ声明を発表。それによると、クラフト米国連大使は、安保理理事国に「中国共産党が国際法に違反し、香港の人々に考えを押し付けることを許すのか」と問い掛けました。

アレン英国連臨時代理大使は、「中国が立ち止まり、香港や世界が抱いている深刻かつ正当な懸念について省察するよう期待する」と求めました。

これに対し中国の張軍国連大使は、「香港問題は純粋な中国の内政問題であり、外国の干渉は認められない」と強調。29日の討議に関しても安保理として「正式」に協議を行ったわけではないとくぎを刺し、「香港を使って中国に内政干渉しようとするいかなる試みも失敗する運命にある」と主張しました。

中国の張軍国連大使

新型コロナウイルスの世界的流行をめぐり深まっていた米中対立は、香港問題を受け一段と悪化しました。ともに常任理事国である米中間の亀裂により、安保理が具体的行動を取るのは困難な情勢です。

このような情勢はなぜか日本では、あまり深刻に受け止められていないようです。

日本には「中国に制裁をほのめかして、この立法を阻止しなければならない」と主張するような政治家はいないのでしょうか。今回の一連の出来事は、米中新冷戦が熱戦(直接的な武力行使)の入り口に近づくくらいのインパクトがあるものと受け止めるべきです。

中国に帰属する自由都市・香港は、長らく西側の自由主義社会と中華全体主義社会をつなぐ回廊の役割を果たしてきました。多くの金と人が香港を通じて行き来していました。
その香港を潰すということは、中国は西側社会との決別を決心したということです。日本やEU諸国の出方はまだ不明ですが、本当に香港に対するビザや関税の優遇が取り消され、中国への経済制裁が行われることになれば、次に起こりうるのは冷戦ではなく熱戦の可能性もあります。
中国党内には、最近、トランプが中国に戦争を仕掛けてくる、という危機論があるようです。日本に真珠湾攻撃をさせたように、巧妙な情報戦で中国を追い詰め、戦争を仕掛けさせるつもりだ、といった意見を語る人間もいる程です。

台湾への米国の急接近もその文脈で説明する人がいます。だから挑発に乗らないようにしよう、という話にはならず、そうなら米国から先に手を出させてやる、と言わんばかりの「戦狼外交」(挑発的、恫喝的、攻撃的な敵対外交を指す)で対抗するのが今の習近平政権です。

こういう局面で、今や世界は一寸先は霧の中に入ったといっても過言ではありません。

香港国安法が制定されば香港はどうなるでしょうか。「香港暴動」が仕立て上げられて、軍出動となるかもしれないし、そうならないかもしれないです。ただし、中国唯一の国際金融市場が消滅するのは確かです。多くの香港知識人や社会運動家やメディア人や宗教家が政治犯として逮捕の危機にさらされ、政治難民が大量に出るでしょう。

香港の旺角地区で、民主派デモ隊による道路封鎖を阻止する警官隊(2020年5月27日)
米英が香港国安法を批判するのは、中国の国家安全部が、これから、徹底的に香港民主派市民を人権も無視して弾圧することを知っているからです。中国は、香港問題は中国の内政問題と主張しています。

しかし国際法では、人権問題に絡む干渉などは内政干渉ではないとされています。ただし、国際法をこれまでも無視してきた中国にとっては、トランプの今回の声明は、内政干渉以外のなにものでもないようです。

台湾蔡英文政権は、それを見越して、政治難民の受け入れも想定した「可能な人道的援助」に言及しています。今年1月に再選を果たしてから、新型コロナ感染対応を経て、自信をつけた、蔡英文は見違えるほど頼もしくなりました。言うべきときに言うべきメッセージを国際社会に発しています。

つい先日もこのブログで主張したように、日米をはじめとする先進国は、台湾が香港を吸収する形で香港の国際金融都市としての役割を肩代わりできるようにすべきです。また、全体主義国家が常任理事国として名をつなれているような、国際連合(連合国)などは、捨て去り、新たな国際組織を設置すべきです。

従来は主に米中の戦いとみられていた米中冷戦ですが、香港情勢等を巡って徐々に対立軸がはっきりして来ています。今まで英国は、はっきり態度を表明していませんでしたが、さすがに香港の事になると、英国も銭より価値観を選ばざるを得なくなったようです。

英米加豪は対中国でまとまったので、後はEUと日本はどうするかという状況になってきました。日本とEUは、八方美人外交を続ければ、英米加豪に相手にされなくなる覚悟を決める時がやってきたようです。

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2020年5月18日月曜日

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由 ―【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由
「コロナ対策の優等生」参加を阻む中台関係

劉 彦甫 : 東洋経済 記者 

台湾の蔡英文総統(左)とWHOのテドロス・アダノム事務局長

 「武漢肺炎」――。台湾では新型コロナウイルスをこう呼び続けている。

 世界保健機関(WHO)は差別につながる恐れから、地名や国名を病名に付けることを避けるよう指針を出している。世界各国の報道機関はWHOが定めた正式名称の「COVID-19」や「コロナウイルス」を呼称として用い、差別的言動を助長しないように配慮する方針も示している。

 ただ、台湾がWHOの方針に従っていないことを責められない面もある。台湾はWHOに加盟していない。WHO自身が台湾を排除しているからだ。

WHO総会に参加できない台湾

 5月18日からWHO年次総会の開催が予定されている。新型コロナウイルスが流行している影響で今年の総会はテレビ電話形式で開かれる。新型コロナ対策も重要な議題にのぼるが、開催が迫る5月16日現在でも台湾が総会へオブザーバー参加できる見通しは立っていない。

 台湾は早期に新型コロナウイルスの感染を封じ込めたことで知られる。5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまる。帰国者などを除く国内の感染例は1カ月以上確認されておらず、世界各国から注目が集まる。防疫において国際的な協力が必要とされるなか、台湾を排除することで「地理的な空白が生まれるのはいいことではない」と日本の茂木敏充外相は指摘したうえで、「国際社会やWHOが学ぶべきことは非常に大きい」と訴える。

 アメリカのポンペオ国務長官やニュージーランドの複数の閣僚も台湾の総会への参加を支持。15日にはドイツ外務省が「(総会)参加に国としての地位は必要ない」として、WHOに台湾を招待するよう求める書簡を他の賛同国と送ったと明らかにした。

 しかし、WHOは台湾の参加問題に消極的だ。5月11日の記者会見でWHOのテドロス・アダノム事務局長は台湾の総会参加について「判断する権限はない」と回答を避け、法務責任者のスティーブン・ソロモン氏が「総会に参加する国は参加国のみが決定できる」と述べた。

 台湾は対中関係が良好だった2009~16年にWHOの総会にオブザーバーとして参加していたが、中国が台湾独立派とみなす蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が就任してからは参加が認められていない。WHOは新型コロナ発生後も今年1月に行われた緊急委員会に台湾を招待しなかったほか、4月にはテドロス氏が人種差別的な攻撃を台湾から受けていると名指しで批判するなどぎくしゃくした関係が続く。

台湾の参加を阻む最大の障壁は中国

 台湾の総会参加を阻んでいるのが、中国との関係だ。台湾の大手紙「自由時報」によれば台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、5月11日に立法院(国会相当)で中国政府とWHO事務局との間に「秘密のメモ」が存在しており、それが台湾の参加可否に影響していると言及した。

 台湾外交部によれば備忘録には台湾がWHOの活動に参加する場合は5週間前に申請する必要があり、中国の同意も必要と定められているという。中国外務省はメモの存在自体は認めているが、その内容については説明していない。アメリカが「WHOは中国寄りだ」として、資金拠出を停止する意向を示したのに対し、中国が追加で資金拠出をするなどWHOへの中国の影響力は高まっているとみられる。

 5月15日には中国外務省が、「規則の中に主権国家の1地区(台湾のこと)がオブザーバーとして参加する根拠はない」として、台湾の総会への参加に反対すると改めて強調した。

 中国政府が台湾のWHO参加を認めないのは台湾が自国の一部とする「一つの中国」原則を堅持しており、台湾については中国が代表して責任を持つとの立場にあるからだ。だが、直近は新型コロナ対策で脚光を浴び、国際的な存在感を高める台湾との確執が深まってきている。

 台湾は新型コロナウイルス発生直後から検疫体制の強化や感染症対策の緊急指令センターを設置して対策をとったほか、マスクの生産増強や流通管理も徹底した。先手の対応で蔡英文政権は高い評価を獲得し、2年前には2割台に落ち込んでいだ政権支持率が6割以上に回復。対外的にも各国の保健当局に助言しているほか、日米欧にマスクの寄付や輸出を行っており、日本を含む台湾と外交関係がない国から感謝の意が表明された。

 中国は蔡英文政権の一連の動きを「以疫謀独」(防疫対策を利用して、独立を謀っている)と批判する。また民主社会の台湾が積極的な情報公開を行って感染症対策に成功していることも、ロックダウンなどで感染封じ込めを行った中国とは対照的だ。対外的に自国の制度の優越性をアピールするうえで、中国にとって台湾の存在が矛盾を抱える。
波乱含みの中台関係

 5月20日には1月に行われた総統選で再選した蔡英文総統が2期目の任期をスタートさせる。中国はWHOからの台湾排除だけでなく、4月以降は台湾周辺で海上軍事演習や偵察機を台湾の防空識別圏内に侵入させるなど威嚇を続ける。5月14日にはアメリカ太平洋艦隊のミサイル駆逐艦が台湾海峡を通過。米中台の緊張が高まるなか、蔡政権の2期目は中台関係が改善する見込みが少ない状態で始まることになる。
中国軍が東沙諸島の奪取演習計画 南シナ海で、台湾実効支配の要衝

 そもそも蔡英文総統再選の背景にも中台関係がある。2019年初に中国の習近平国家主席が台湾について一国二制度による統一を強調する演説を行ったほか、一国二制度のもとにある香港で2019年半ばから顕著になった抗議デモに対して、香港や中国当局が弾圧を加えた。中国による高圧的な態度は台湾社会での対中警戒心を高めた。

 新型コロナウイルスへの対策に台湾がいち早く動けた背景には高まっていた対中警戒感や情報を隠匿する中国への不信もあった。新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と呼び続けているように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられる。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるだろう。台湾をめぐる国際的な緊張が高まり続けるのか、WHO総会後も見通しは明るくない。

【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

中国は、台湾を叩きつつ逆に結果として敵に塩を送るようなことを繰り返してきました。その最たるものは、中国から台湾への個人旅行を禁止したことでした。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
大陸客の個人旅行禁止から2週間強、それでもあわてぬ台湾―【私の論評】反日の韓国より、台湾に行く日本人が増えている(゚д゚)!
台湾の有名ビーチ「墾丁・白沙灣 (White Sand Bay)」
 
この記事は、2019年8月25日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものといて、以下に一部を引用します。
中国政府が8月1日に中国大陸から台湾への個人旅行を停止してから半月あまりが経過した。台湾メディアによれば、足元では、中国個人客が1日単位で貸し切ることの多い観光タクシーの利用に落ち込みが目立っているとのことだが、ホテルや飲食店などへの影響はなお未知数のようだ。 
今回の中国政府の動きには2020年1月に実施予定の台湾総統選が背景にあると考えられている。「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権に圧力をかけることで、彼女の再選を阻止しようとする狙いがあると言われている。また7月に蔡総統がカリブ海諸国への外遊の途中、米ニューヨークに長期滞在したり、米国から武器を購入したりと、米トランプ政権と親密な関係をアピールする動きも、中国の強硬姿勢につながった。 
加えて、多くの台湾メディアが、香港の民主派市民のデモとの関係を報じている。中国大陸から台湾に渡航すると、本土では流れていない香港デモの情報に接する機会が多くなる。情報統制の観点から自由な渡航を制限しようとする意図があるとの見方だ。
昨年の8月時点で、中国は中国人の台湾への個人渡航を禁止していたわけですが、今年の1月24からの春節の時期にも、中国人は台湾を訪れていないでしょう。

もし、中国が中国人の台湾訪問を禁じていなかったとすれば、武漢などからも大勢が台湾を訪ね、台湾でも中国ウイルス禍はもつと深刻になっていた可能性があります。

台湾で中国ウイルスによる被害が少なかったのは、中国からの個人旅行客がいなかったことも大きく寄与していると思います。無論、これに加えて、台湾政府の中国ウイルス対策が優れていたからこそ、5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまっているものと考えられます。

これは、中国側からいえば、台湾に対して塩を送ったような結果になってしまいました。なぜかといえば、今回の中国ウイルス禍で、台湾がウイルスの封じ込めに成功したことは、台湾国内のみではなく、世界に対して大きな貢献になったからです。

もし、台湾が封じ込めに失敗し、中国に助けられるような事態になっていれば、そうして日本も大失敗していれば、何しろ、現状では米国が深刻な感染に悩まされている状況ですから、中国はアジアで大攻勢にでて、中国ウイルス後の新たな世界秩序は大きく中国側に有利なものに傾く可能性がありました。

中国としては、台湾が中国ウイルス封じ込めに失敗していれば、中国がイタリアなどのEU諸国に対して実施している、マスクや医療機器の提供や、医療チームの派遣などで微笑外交を台湾に対しても実行したことでしょう。

これにより、中国は今年1月の台湾総統選での蔡英文氏の再選により、失った台湾での失地回復を行うことができたかもしれません。

そうして、中国ウイルスが終息した後には、甚大な被害を受けた台湾に対して、莫大な経済的援助をすることになったと思います。

そうなると、台湾独立派が台頭した台湾を馬英九政権時代のように、親中派を増やすことができたかもしれません。

考えてみると、中国は昨年11月には、香港区議会議員選挙で親中派が敗北しています。今年1月には、台湾選挙で蔡英文総統が再選されています。いわば連敗続きでした。

中国ウイルスに関しては、韓国は当初は対策に失敗しましたが、最近では収束に向かっています。日本も、感染者が増えつつはありますが、それでも死者は相対的に少なく、米国、EU諸国に比較すれば、中国ウイルス封じ込めには成功しています。

香港の対応も素早いものでこれも封じ込めに成功しています。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。

もし、台湾、韓国、香港そうして日本が、中国ウイルス封じ込めに失敗していたとしたら、中国は東アジアでマスク外交や、その後の経済支援などで、東アジアで経済的にも軍事的にも、大攻勢に出て、中国ウイルス後のアジアの中国にとって都合の良い新たな秩序を打ち立てることができたかもしれません。

これは、完璧に頓挫しました。今後、上の記事にもあるように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられます。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるでしょう。

しかし、中国の台湾政策は、また今回の中国ウイルスのように、結果として台湾に塩を送ることになるかもしれません。


台湾をWHOに参加させないということで、逆に日米英印欧豪と台湾の絆は深まることになるでしょう。それでもさらに中国がゴリ押しを続けると、日米英欧印豪、台湾等を中心とした国々は、WHOに変わる新たな組織をつくることになるかもしれません。そのような動きはすでにあります。

WHOと中国の結びつきが強い現状では、多くの国が、再度中国ウイルス惨禍に見舞われる可能性は否定できません。そのため、新WHOは実際にあり得るシナリオだと思います。

中国が台湾に対して武力で圧力をかけ続ければ、日米英印欧豪などの国々は、台湾海峡等の台湾の周辺に艦艇を派遣することになるかもしれません。そうなると、中国はうかつに台湾に手をだすことはできなくなります。

このように、中国の台湾政策は結果として、台湾に塩を贈り続けることになるかもしれません。

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2020年5月10日日曜日

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論―【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

中国はWHOにコロナウイルス隠蔽の協力を求めた、と独情報機関が結論

<引用元:デイリー・コーラー 2020.5.9

中国の習近平主席は自ら、コロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた、とドイツ情報機関は結論付けた。

独シュピーゲル誌によると、習はWHOのテドロス事務局長と1月21日に面談し、ヒト・ヒト感染に関する情報を伏せ、世界的パンデミックの宣言を遅らせるよう求めた。中国はパンデミックに経済的な責任を負うべき、という意見が高まる中でのニュースだ。

1月21日に面談したWHOのテドロス事務局長(左)と、習近平

「BND(ドイツ連邦情報局)が下した裁決は厳しいものだ。ウイルスとの戦いにおける北京の情報政策において、6週間とまではいかなくても少なくとも4週間が失われたとしている」とシュピーゲルは報じた。

独情報機関による進展は、同様に中国のコロナウイルス対応を調査する米国政治家の注目を集めた。

「我々はまだこの報道の確認作業中だ。だがもし事実であると分かれば、テドロス事務局長が中国共産党の隠蔽で彼らと共謀したことを示す一層の証拠となり、WHOのトップには不適格ということになる」と、テキサス州の共和党下院議員で、下院中国タスクフォース委員長を務めるマイケル・マコールは本紙に語った。

BNDは連邦情報局を意味するドイツ語の頭文字だ。3月初めに発表されたある研究によると、4週間から6週間の追加準備期間があれば、世界的なパンデミックを完全に回避できた可能性がある。サウサンプトン大学の研究者は、中国がわずか3週間だけ早く行動を起こして情報を公表していれば、感染拡大を95パーセントは縮小できていたことを発見した。

米情報機関は同様に、中国が武漢や他の場所でのコロナウイルス発生において感染者数と死者数の両方を改ざんしたという結論を3月中旬までに出した。

中国政府の公式集計では、武漢での死者数をおよそ3,500人としているが、本当の数字は4万人であることを示す証拠がある

ドナルド・トランプ大統領の政権は、中国のパンデミック対応を痛烈に批判しており、「認識しながら」コロナウイルス拡大の一因となっていたことが分れば、処罰を受けるべきだとしている。

ホワイトハウスは本紙からのコメントの要求に直ちに回答しなかった。

【私の論評】コロナ禍を奇貨に日本は、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直せ(゚д゚)!

1月21日の習近平とテドロスの面談については、当初から「習近平がコロナウイルス発生に関する重大情報の公開を遅らせるようWHOに求めた」のではないかという疑惑がありました。

今回は、BNDが実際そうであったと、結論付けたわけです。今後もこのような調査は、米国をはじめあらゆる世界の国々の情報機関が調査を継続し、同じような結論達すると考えられます。

そうなるとどうなるかといえば、WHOのような国際機関を中国が意のままに動かせることが明らかになったのですから、世界はグローバリズム一辺倒というか、グローバリズム=善という単純な考えは、間違いであり、ナショナリズム的な考え方が、強くなっていくことが予想できます。

「ナショナリズム」というものを定義することは、われわれの想像以上になかなか難しいことのようです。アーネスト・ゲルナーはナショナリズムを「実際のところ近代世界でしか優勢とならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」と述べています(『民族とナショナリズム』岩波書店)。エリ・ケドゥーリーは「ナショナリズムは19世紀初頭にヨーロッパで作り出された教義である」と述べました(『ナショナリズム』学文社)。

ナショナリズムとは何かということについては、「自分たち国民、民族を重視する考え」ということの他は、多くの議論があり、なかなかその本質をつかまえることはできないようです。

ナショナリズムは、自給自足が基本の農耕社会から、現代のような産業社会へと移行するうえで必然的に産まれたもの、と考えているのがゲルナーという人です。産業社会の進展は市場を広げ、閉鎖的な「むら」からできていた「くに」を、国民による1つの「国民国家」に変えていきました。

国家の産業を発展させるためには、文化、特に言語の統一が必要です。話し言葉がばらばらでは効率性はあがりませんからね。なかにはイギリスのようにわりと自然に統一されていった国もありましたが、日本のように「富国強兵」「殖産産業」をスローガンに、国家をあげて中央集権的な教育を行い、文化・言語の統一を行っていった国も少なくありませんでした。

こういうなかでナショナリズムが育まれていったというのがゲルナーの基本的な考えです。実際、ナショナリズムによって国民の団結、教育の発達が生まれ、産業化が進んだ例は、日本をはじめ多くの国であることでした。

『五箇条の御誓文』(明治元年3月14日に明治天皇が天地神明に誓約する形式で、公卿や諸侯などに
 示した明治政府の基本方針には、天皇を中心とする国民国家を目指すことが示されている

50年間で2度の世界大戦を経験した欧米諸国を中心に、現代世界の軸足はナショナリズムから、脱ナショナリズム、すなわち「トランス・ナショナリズム」へと移行しつつあるといわれました。

その象徴がEU(欧州連合)です。13の国で共通の通貨・ユーロが流通していますが、近代国家にとって通貨はネーションを象徴するものの1つだったはずです。そういった意味でEUはネーションを越えたトランス・ナショナリズム、あるいは「スープラ・ナショナリズム(超国家主義)」を体現しています。
しかし、この状況は変わりつつありました。イギリスのEU脱退や、米国でトランプ氏による「米国第一主義」の標榜などでした。そうして、現状では、コロナ感染がさらに、ナショナリズムに拍車をかけつつあります。

ここで、最近の興味深い記事を掲載させていただきます。その記事では、米国の戦略家、ルトワック氏が、新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」であり、EUが機能しないこと、イタリアの無秩序ぶり、中国は虚言の国であることも暴き白日の下にさらしたとしています。

ルトワック氏は、コロナ危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

エドワード・ルトワック

【コロナ 知は語る】多国間協調が機能不全 国民国家の責任増す-エドワード・ルトワック氏 - 産経ニュース

2020.5.9
 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は第二次世界大戦以来の危機と形容される。世界はどこへ向かうのか。戦略論研究の世界的権威として知られる米歴史学者のエドワード・ルトワック氏は危機が「世界の真実」を暴いたとし、国際秩序は多国間枠組みの機能不全を受け、「国民国家の責任」が増す時代に回帰すると予言した。 
 --新型コロナが世界に与えた地政学上の影響は 
 「第一は、欧州における(政治的な流れの)断絶だ。欧州連合(EU)は欧州諸国間の戦争を予防するために設立されたが、EUが直面した初の戦争並みの不慮の事態である新型コロナへの対応に失敗した。共有された医療情報や共通の医療戦略は存在せず、被害の少ない国が被害の多い国を助けるなどの相互支援もあまりなかった」 
 「EUの連携した外交政策も皆無だった。例えばイタリアは中国からの支援を喜んで受け入れた。他方、ドイツやスウェーデン、オランダなど他の欧州諸国は中国の支援を拒絶した。融合を目指したEUは役割を見失った。今後は英国に続き、多くの加盟国が静かに脱退していくはずだ」 
 「米中関係は悪化の一途をたどり続けるという意味で一貫している。わずか十数年前、米国は『パンダ・ハガー』(媚中派)に席巻されていた。違っていたのは国防総省だけだ。風潮は変わりつつあるが、新型コロナが人々の対中意識の変化を加速させるだろう。誰もがウイルスが中国由来であり、中国当局が対応を誤ったことを知っているからだ」 
 --米中による「大国間競争」はどうなる 
 「トランプ米政権に有利に働くだろう。これは、米国の(自由民主主義的な)政治制度と中国を統治する(共産党独裁)体制とのせめぎ合いだが、中国の同盟国はパキスタンとイランの2カ国だけ。イタリアも中国に征服された。イタリアは歴史上、間違った側について、後から態度を変えることで有名だ」
 「一方、他の国々は中国に背を向け、米国に付いている。ラーブ英外相が4月16日、『対中関係を全面的に見直すべきだ』と語っているのが良い例だ。中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化する。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示すが、世界各地で拒絶されている」 
 --製造業のサプライチェーン(調達・供給網)への影響は 
 「日本政府は企業が中国の拠点を国内に回帰させるか、第三国に移転させるのを後押しする費用として総額2435憶円を緊急経済対策に盛り込んだ。他国の企業も、自国政府の支援の有無とは無関係に、中国との縁を完全に切りたい思惑から脱出を進めている。中国の実業界も同様だ。彼らは資産をニューヨークに移そうと血眼になっている」 
 --国際機関や多国間枠組みの役割はどうなる 
 新型コロナはいわば「真実を暴くウイルス」だ。EUが機能しないことを暴き、多数の死者を出したイタリアの無秩序ぶりを暴いた。中国は虚言の国であることも白日の下にさらした。日本については『日本は中国とは違うから安全』といった意識が間違っていたことを思い知らせた」 
 「新型コロナ危機を受けて起きているのは、グローバル化の揺り戻しとしての『脱グローバル化』だ。グローバル化は国際機関の台頭と連動してきた。EUや世界保健機関(WHO)などの機能不全が明白となったことで、世界はグローバル化や多国間枠組みから後退し、国民国家が責任をもって自国民を守る方向に回帰するだろう」 
<中略>

 「グローバル化が独裁制と親和性が高いのは、国際機関が非民主的だからでもある。EUとは選挙で選ばれた各国政府の権限を欧州委員会に移管するものだ。欧州中央銀行(ECB)の運営も非民主的だ。欧州諸国の民主体制が弱体化したのも、各国の権力が(EUという)非民主的な体制に移されたせいだ。グローバル化が民主主義に何ら寄与しなかった以上、脱グローバル化によって民主主義が損なわれることはない」(聞き手 ワシントン=黒瀬悦成)
中国の習近平国家主席は、ウイルスなど全ての事態への対処には独裁制が適していると主張して強権手法を正当化しました。さらには世界を率いる指導者になる用意があるとの立場を示したのですが、世界各地で拒絶されています。

日本でもマスクや医療用品、自動車部品、トイレなどの住宅建築用品などの中国への依存度の高さが露呈し、安全への危惧が高まり、脱中国・チャイナプラスワン、国内回帰が検討され始め政府の支援策も出されています。

いずれにせよ、これらの動きは、脱グローバル化、ナショナリズムへの回帰への前兆です。国民国家の安全保障は、国家存亡に関わる産業を支えるための最低限の製造供給能力を推し量って非常時への備えをすることから始まります。

ところが、日本では多くの財務官僚等のエリートや企業経営者の頭の中身が、この未曾有の惨禍でも未だに平時の思考のままです。コロナ禍で判ったことは、真の非常時には自国のみで生き抜いていくリソースと能力=技術力を平時から備える計画立案であることです。

産業界においては欧米風の「MBA」を崇めてその言説に囚われ、日経ビジネス電子版の「逆・タイムマシン経営論」で指摘されているような「トラップ」が我国の優位性をことごとく踏み潰してきました。

米国MBA卒のエリートらが80年代から盛んに主張し、必ず推奨したアウトソーシング戦略は、多くの大企業経営者が無思考的に採用してしまいました。エンロン問題で破綻したアーサー・アンダーセン(AA)は、自社生産は止めて外注への転換一点張りでした。自社の内製技術ノウハウ、サプライチェーン保全など、無視されました。

AAのにとっては、商品は中身の優劣ではなくマーケティングでしかありませんでした。BCP(事業継続計画=Business Continuity Plan)は生産を複数・多国にして凌げば良いという論理でした。

今回のコロナ禍で中国が露骨に示した西側諸国に対する「潰し戦略」はかなり前から行われていました。その一例としてマグネシウム産業をあげます。

マグネシウムは精錬に高度な技術を要するのですが軽量かつ他の金属の改質に重要な元素なので、航空宇宙を始めとした国防先端産業用部品から日常生活にわたり重要です。

日本マグネシウム協会(2017)まとめでは、マグネシウムインゴット生産の85%が中国、以下、米国6%、ロシア5%、イスラエル2%です。



1980年以前は日本を含めた西側諸国とソ連で生産されていたのですが、中国はコピペ工場で市場価格より30%安い価格、実質ダンピングで市場供給を開始しました。

当然、西側諸国メーカーは赤字になり淘汰されました。米露イスラエルは市場価格に見合わないにもかかわらず、国防上の理由から各1社ずつ保有しています。

我国ではマグネシウム合金を大量に製造しているのですが、インゴット95%と大量の合金を中国から輸入しています。この輸入品が無いと自動車も作れません。

更に、肥料に添加するマグネシウム塩類、食品加工用(例えばニガリ)、薬品、難燃剤など、マグネシウムは生活の隅々まで入り込んでいる元素です。

つまり、中国と対峙しようとすると、武器弾薬から豆腐カニカマに至るまで製造できなくなるのです。「マスクが足らない」どころの騒ぎでは済まないのです。戦う前から負けなのです。

コロナ禍以前から鳩山元総理大臣の様に中国と東アジア経済共同体を目指す人々が多数います。友好善隣は絶え間ない努力が必要であることは自明です。

しかし、首に縄をかけられた状態で対等の外交などありえないです。だから、彼らは矛盾しています。中国共産党との友好的関係を保ちたいなら、まず、国家の安全保障の足枷となる材料と技術のサプライチェーンの再構築を検討すべきなのです。

日経新聞を始めとする経済関係論議ではコロナ禍後の世界経済について種々意見が喧しくなってきました。多くは株価を議論しますが、平時の感覚でコロナ禍以前の世界秩序に戻ることを考えているようです。

しかし、株価ではなく本当の国家の足腰強さは重要物資を自前で供給できることに依存します。コロナ禍後に向けて小手先のBCP(事業継続計画)を体裁よく作るのではなく、前例踏襲を止めて、侵略されかねない隣人がいることを前提として非常時の対策を練り直すことが必要です。

以上はマグネシュウム産業についてですが、日本は自力でできるものまで、価格が安い等の理由だけで、中国に安易に依存している産業が他にも多くあります。これらについては、自国で生産するのか、あるいは信頼できる同盟国から輸入するかを検討すべきです。

現在の世界は、ナショナリズムが強まっていますが、一度グローバリズムの良さを知った世界は、完璧にナショナリズムにもどる ことはないと思います。同じルールで貿易ができる国々同士では、これからも自由貿易を続けていくでしょう。

ただし、先進国は従来のように安易にルールを守れそうもない体制の国々まで、同じルールで貿易をしようとする従来のグローバリズムに戻ることはないでしょう。

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2020年4月25日土曜日

WHO・テドロス事務局長に辞任要求署名「100万人」 米の拠出金停止で日本に泣きつき… 識者「日本も資金を停止すべき」―【私の論評】中国ウイルスの終息後の新世界秩序樹立により、日本は戦後レジームから脱却する(゚д゚)!

WHO・テドロス事務局長に辞任要求署名「100万人」 米の拠出金停止で日本に泣きつき… 識者「日本も資金を停止すべき」

テドロス氏の辞任を求める声は世界中から集まっている

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)をめぐり、責任を免れないのが世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長だ。中国寄りの姿勢や記者会見での暴言、妄言が物議を醸し、辞任要求署名は約100万人に達した。米国も拠出金停止を打ち出すが、テドロス氏は居座りを決め込み、あろうことか日本に泣きつこうとしている。識者からは日本も米国と歩調を合わせて資金を停止すべきだとの強硬論も出ている。


 マイク・ポンペオ米国務長官は22日夜のFOXニュースで、新型コロナウイルスへの対応を巡り「中国には必要な透明性がない。それを実現するのはWHOの責任だ」と指摘。ドナルド・トランプ大統領の拠出停止の決定について「完全に適切だ。WHOの構造的な改善が必要だ」と訴えた。

 さらに「米国は(資金を拠出する立場に)戻らない場合があるかもしれない」と強調。「それ以上に大胆な変化が必要かもしれない」と述べた。

 不満を持つのは政治家だけではない。署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で1月末に始まった辞任要求の署名数は、テドロス氏が記者会見で妄言を吐くたびに増えていった。


 新型コロナウイルスについては1月下旬の時点で中国による隠蔽(いんぺい)疑惑が取り沙汰されるなか、テドロス氏は、中国の迅速な対応ぶりを強調、「内外に完全な透明性を約束した」と称賛した。

中国のほか、韓国やイラン、医療崩壊に至ったイタリアにも感染が拡大した2月下旬にも、「パンデミックという言葉は事実に即さない」と述べていたが、3月上旬に一転、「パンデミックと表現できるとの判断に至った」と声明を出した。すでに100の国・地域に感染が拡大するなか、25日には「われわれは最初の機会を無駄にした」と、当事者とは思えない発言で世界をあきれさせた。

 テドロス氏をトップにいただくWHOの国際機関としての役割に疑問を持つ声も挙がっている。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は、「WHOを情報の集約機関として重要視する向きもあるが、感染者数で速やかに正確な情報を出し、メディアも引用しているのは米ジョンズ・ホプキンス大のデータだ」と指摘する。

 世界最大の感染国となった米国は、トランプ大統領が拠出金の停止をぶち上げたのに続き、米下院外交委員会の共和党議員17人は今月16日、拠出再開の条件としてテドロス氏の辞任を求めた。

 島田氏は「予算の承認権を持つ米議会で動きがあるのは大きい」としたうえで、「WHOへの拠出金の大半は運営資金に消えており、実際の医療援助にあたるNGO(非政府組織)からも『援助貴族』との評価もある。米国でも直接、NGOに資金を渡す方が効率的との見方が強まっている」と語る。

 WHOが頼みとしているのが日本だ。テドロス氏は先月13日の会見で、日本による155億円を拠出に感謝を述べ、同30日には、安倍晋三首相と約45分間にわたり電話会談。直後にツイッターを更新し、「非常に生産的な電話」「彼に感謝しました」とする賛辞を投稿した。

さらに米国が「反WHO」の姿勢を明確にしたことで、日本頼みの姿勢が強まっているようだ。安倍首相はトランプ氏と関係が近いことも無関係ではない。

 島田氏は「WHO幹部らが日本に米国の穴埋めを求めているようだが、資金を止めることが最も効果があるので、日本の議員も米国のように声を上げるべきだ」と語る。

 安倍首相は今月17日の会見で、WHOの対応について「問題点や課題もある」との指摘、事態収束後に機能を検証すべきだとの認識を示した一方、「日本が分担金を削ることは全く考えていない」と述べた。「現場で支援を実施する知見を有するWHOの協力は、コロナとの闘いで不可欠だ」と訴えている。

 米国が拠出金を打ち切った場合、中国が発言権をますます強めるだけだという反対論も根強い。

 前出の島田氏は「官僚が事実上の天下りで国際機関に入るケースもあり、『資金を提供することで発言権を確保できる』などと説得するのだが、現に発言権は高まっていない。政治のリーダーシップで官僚の現状維持派をいかに押さえ込めるかが大事だ」と力説した。

【私の論評】中国ウイルスの終息後の新世界秩序樹立により、日本は戦後レジームから脱却する(゚д゚)!

戦後、「国際の平和と安全を維持すること」を目的として創られた国際連合。日本国内では、「愛」や「正義」を体現しているかのように思われてきた国際組織ですが、新型コロナウィルスの感染拡大を通して、その姿勢への不信感が強まっています。

かつて米国は、国連内で大きな力を持っていました。しかし、トランプ米大統領が国連から一定の距離を置く今、影響力を強めているのが中国です。

現在、15ある国連の専門機関のうち、国連食糧農業機関(FAO)、国連工業開発機関(UNIDO)、国際民間航空機関(ICAO)、国際電気通信連合(ITU)の4つの機関で、中国出身者がトップを務めています。

案の定と言うべきか、それらの機関からは、中国の利益を考えているような動きが垣間見える。

例えば、ICAOの柳芳(リウ・ファン)氏がトップになると、中国と反目する台湾の総会参加を認めなくなりました。さらにICAOは、台湾の参加を認めるよう声を上げた有識者らのツイッターをブロックしました。

WHOだけではない、中共に浸透された国際専門機関

また、ITUの趙厚麟(ジャオ・ホウリン)事務局長も、中国の経済圏構想「一帯一路」との連携を主張するほか、中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)を援護する発言を繰り返しています。

中国は国際機関への影響力を強めることで世界からの批判をかわし、より"スムーズ"に覇権を広げようしています。

中国が影響力を強める国際機関に期待するのは難しいでしょう。日本は、国際機関の公平さを"絶対視"する考えから抜け出さなくてはならないです。

国連は中国の軍事拡張を放置し、世界に正義を発信できていない上に、「米国や中国といった利害が対立しがちな国が常任理事国に入っているため、そもそも機能していない」という構造的な問題もあります。

世界にはさまざまな文化や価値観、宗教観を持った国が存在します。善悪がない交ぜになり、価値観が多様化する中、今の国連は"本当の正義"を地に降ろすことができていません。

中国に対して強硬姿勢をとる米国と歩調を合わせ、日本は、世界正義を発信できる新しい国連の再構築に貢献していく使命があります。

それは同時に、新たな世界の秩序を形成する道筋でもあります。中国ウイルス感染直前の世界は、トランプ米大統領の怒り、プーチン・ロシア大統領の歴史修正主義、習近平・中国国家主席の野望……これらによって時代が形成される中、戦後世界を支えてきた国際秩序は混乱し、危険とさえいえる状況になってきていました。なぜ、こんなことになったのでしょうか。

第2次世界大戦後の世界は、最近まで寛容かつ自由な国際協調(ただし連合国強調)の時代でした。その基礎が築かれたのは1941年、フランクリン・ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相が、大西洋憲章を起草したときでした。二人はナチス・ドイツの打倒にとどまらず、連合国の平和と民主主義の未来に向けた土台を本気で作ろうとしていました。

その成果は、両人の想像を超えるものだったに違いないです。大西洋憲章に続いて、国際連合やブレトンウッズ体制、国際貿易システム、世界人権宣言が生まれたからです。その一方、国連憲章の旧敵国条項(第五十三条、第百七条)は正式には国連憲章からは削除されておらず、日本とドイツは敵国のままです。

1990年代初頭、中国が改革・開放を加速し、ソビエト連邦が崩壊しました。それからの四半世紀は、世界が真の意味で進歩したすばらしい時代でした。大国間で大きな戦争はなく、貿易の拡大によって経済成長は加速。世界の貧困は半減しました。科学技術における進歩の恩恵は世界の隅々に及んだのです。

ところが、この数年で世界は新たな時代に突入しました。中国が戦後の世界秩序に変わり、新たな秩序を作り出すことに挑戦しはじめたからです。

2015年3月8日の中国の王毅外相の8日の記者会見で目立ったのは、戦後70年という節目の今年になって強調し始めた「新型国際関係」という新たなキーワードです。中国が大国としての責任を果たし、米国一極支配を念頭に「これまでの国際秩序を改善」し、「協力と互恵に基づく新たな関係」を目指すとしました。

「戦後70年で国際的な枠組みも大きな変化が生じている」。王外相は米国を念頭に「1騎で戦う古いやり方、勝者総取りの古い考え方は捨て去るべきだ」と指摘し、「これまでの秩序を刷新・改善するための改革」が必要だと訴えました。

そうして、中国は世界の新たな秩序形成への意欲を新たにしました。中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言したのです。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえます。

習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道されました。同報道によると、習近平氏は2018年6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したされています。

この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていません。

この会議には、中国共産党政治局常務委員7人の全員のほか、王岐山国家副主席や人民解放軍、党中央宣伝部、商務省の最高幹部らも出席しました。出席者には中国の米国駐在大使も含まれており、超大国の米国を強く意識した会議であることをうかがわせます。

これに関しては、このブログでも以前解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!
ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、米国政府は中国に対してそれまで、警戒や懸念を表明してきいました。ところが、習近平政権はその米国の懸念に対して、正面から答えることがなかったのですが、今回の対外戦略の総括は、その初めての回答とも呼べそうです。

つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。その後米国と中国はますます対立を険しくして今日に至っています。

そうして、現在中国ウイルスが世界に蔓延したのです。健在の世界は、中国ウイルスへの対処で精一杯であり、新秩序の形成にまでは考えが及ばないようです。

しかし、過去の歴史をみても、パンデミック後には世界秩序が変わっています。今回も、元々世界秩序の変化があったところに加えて、パンデミックがあったわけですから、世界秩序の変革は相当はやまることになりそうです。

パンデミックがない場合には、世界秩序の変化は緩慢に進み、10年〜20年、もしくは50年もかかって変わったかもしれません。

しかし、パンデミックという不測の事態が加わり、10年以内もしくは数年で変化が起こる可能性が強まりました。

今後、米国はWHOへの拠出金停止を皮切りに、中国の浸透がすすむ、国際連合(United Nation=連合国)に見切りをつけるかもしれません。

米国が本気で世界の新しい秩序を樹立する場合には、中国に対して体制変換を迫り、中国がそれを実行しない場合は、中国の米国およびその関連金融機関において、中国の資産凍結を実施するでしょう。さらには、米ドルと元との交換停止などの過激な手段に打ってでることも十分考えられます。

その上で、新たに国際連合のような新しい組織をつくることになるでしょう。その際には、米国が中心となりその設置を強力に推し進めると、米国に反感を感じる勢力も世界には多いですから、おそらく暗礁に乗り上げることになるでしょう。

その時こそが、日本の出番です。米国と各国との橋渡し役を実行するのです。これまで、国際紛争に直接関わってこなかった日本の役割です。そうして、新たな世界秩序ができあがるときに、安倍総理もかつて主張した戦後レジームからの脱却がはじめ成就するのです。

その意味では、まさに中国ウイルスのパンデミックはまさに旧世界における第三次世界大戦のような役割を果たすことになるかもしれません。

その機会を失わないためにも、日米ともに、まずは中国ウイルスの封じ込めと、経済の早期回復を実現しなければなないのです。

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中国人が世界知的所有権機関のトップに?―【私の論評】日米とその同盟国は、火事場泥棒に意図的かつ慎重に圧力をかけよ(゚д゚)!

2020年1月27日月曜日

習近平「新型肺炎対策」の責任逃れと権謀術数―【私の論評】SARSに続き、今回も似たようなことを繰り返したWHOと中国は、世界から糾弾されて当然(゚д゚)!


中国で新型ウイルス肺炎拡大 各国で警戒

<新型肺炎の被害拡大を防ぐため、共産党政権は対策本部を急きょ設立した。だが、そのメンバー人事は予想外のものだった>

1月25日、中国共産党政治局常務委員会は新型肺炎に関する対策会議を開いた。昨年12月8日に新型肺炎が武漢で発見されて拡散して以来、共産党最高指導部がようやく開いた最初の対策会議なので、その中身が当然注目された。

まず今後の対策について、新華社通信が配信した対策会議の正式発表は冒頭からこう述べる。

「1月25日、中共中央政治局常務委員会は会議を開き、新型肺炎への対策に関する報告を聴取。疫情(疫病情況)の(拡大)防止・コントロール、特に患者の治療についての再研究・再手配・再動員を行なった」

つまり会議は、今後における新型肺炎の拡散防止と治療について、どういう措置をとるのかを研究し、実行のための手配や動員を行なった。ここで注目すべきなのは、「再研究・再手配・再動員」における「再」という言葉の連発である。

その意味するところは、共産党政治局常務委員会が事実上、今までの研究と手配と動員は不十分であることを認めた点にある。今までのやり方は不十分だったからこそ、「再研究・再手配・再動員」が必要となったのであろう。つまり政治局常務委員会は、今までの不手際を間接に認めた上で、対策の見直しや態勢の立て直しを図ろうとしている。

そこで態勢立て直しのためにとった重要な措置の1つが、党中央の「疫情対策指導小組」の設置である。

新型肺炎を防ぐ「指導小組」の疑問点

どういう組織なのかを理解するため、まず「小組」という言葉の意味を簡単に説明しておこう。中国共産党の中央指導部には多くの「小組」が設置されている。日本で言えば「統括本部」あるいは「対策本部」のようなものである。例えば「中央財経指導小組」は党と政府による経済運営・財政運営の統括本部であり、「中央外事工作指導小組」は即ち外交政策とその運営を統括する中国外交の最高司令塔である。

上述の「疫情対策指導小組」は、すなわち党中央新設の「新型肺炎対策本部」であり、党と政府と軍の全力を動員して疫病拡散の阻止や治療を行うという危機対策の司令塔なのである。

今になっての「対策本部」の設置はどう考えても遅すぎた感があるが、設置したこと自体は評価できよう。しかし、発表された「疫情対策指導小組」の中身やその布陣を見ていると、この「指導小組」は果たして、危機対策の司令塔の役割を果たせるのか、かなり疑問だ。

まず一つ不思議なことに、25日に新華社通信に配信された上述の共産党政治局常務委員会の正式発表は、「疫情対策指導小組」の設置を伝えたものの、誰かがこの「小組」の「組長」となっているかに一切言及してない。

何かの対策本部の設置を決めれば、同時にその長となる人事を発表するのは普通だ。事態が緊急である場合はなおさらである。しかし政治局常務委員会はどうやら、「疫情対策指導小組」の設置を決めておきながら、そのトップとなる人選を直ちに決められなかったようである。

「組長人事」はどうして迅速に決められなかったのか。考えられる理由の一つは、習近平国家主席自身を含めて中央指導部の誰もその役割を引き受けたくなかった、ということだ。

本来なら、習自身が「組長」の最適な人選である。国家の一大事への対処に当たって、共産党総書記・国家主席・軍事委員会主席として党国家の最高指導者・軍の最高司令官である彼こそ危機対策の司令塔の司令になるべきであろう。

実際、習は今まで前述の「中央財経指導小組」組長、「中央外事工作指導小組」組長のほかに十数の「組長」を兼任している。組長になることがこれほど好きな彼が今回の「疫情対策指導小組」の組長にならないのは、むしろ異例で筋が通らない。そして最高指導者の彼が進んで組長になろうとすれば、それを止める人も反対する人もいないはずである。しかし最高指導者の習は国家が存亡の危機に直面しているこの肝心な時に、先頭に立つことも全責任を負うことも拒否した模様である。

対策本部トップを引き受けた人物

最高指導者がこの有様では、共産党政権の新型肺炎対策はどこまで機能するか疑問だが、翌日の26日になると、疫情対策指導小組の組長人事がやっと判明した。李克強首相がそれを引き受けたのである。その日、李が組長として「疫情対策指導小組」の第1回目の会議を開いたと伝えられている。

新型肺炎対策本部のトップを押し付けつけられた?李首相(右)と押し付けた?習主席

この人事は普段なら「これでも良い」と思われようが、現在の重大なる緊急事態への対処に当たって決して強力な人事とは言えない。中国の場合、首相とはいっても、党総書記・国家主席・軍事委員会主席という三位一体の最高権力者よりはずっと弱い存在である。ましてや、「習近平一強」「習近平個人独裁」が確立されている現在、李が存在感の薄く権力も小さい、弱い首相であることは周知のとおりである。

この李が組長になっても、危機対策の司令塔としての役割を果たして果たせるかどうかは覚束ない。習ではなく李が組長となった時点で、疫情対策指導小組が強力な指導力を発揮することはもはや期待できなくなった、と言ってもいい。

これだけではない。さらに驚いたのは、李以外の疫情対策指導小組の布陣である。

まず、李の補佐役として指導小組の副組長となっているのは、政治局常務委員の王滬寧である。筆者はこの人事を人民日報で知ったとき、まさに狐に包まれたような異様な感じを受けた。

王は今、党内きっての理論家としてイデオロギーや宣伝を担当している。しかし、学者出身の彼は、地方や中央で政治の実務を担当した経験は一度もない。はっきり言って、理論家の王に今の危機で何らかの問題処理能力を果たすことは全く期待できない。副組長として実務面で李をサポートするはまずあり得ないが、その一方で政治局常務委員として、そして党内のイデオロギーの担当として、李の仕事に余計な口出しをしてくるのは必至だろう。王が副組長となったことで、ただでさえ無力な李はなおさら手足を縛られてしまう。

王を副組長に任命するこの人事を主導したのは当然李ではなく、王に近い習その人であると思われる。つまり習は、李に組長の大役を頼んでおきながら、安心して李に任せるのではなく、王を使って李首相を牽制したいのであろう。

副組長人事だけでなく、指導小組のメンバーの人選にも習の思惑が反映されている。

保健衛生の専門家がいない

新華社通信の発表で判明した指導小組の主要メンバーのうち、党中央弁公室主任の丁薛祥、党中央宣伝部長の黄坤明、北京市党委員会書記の蔡奇の3人がいずれも習の腹心の中の腹心であることは中国政界の常識である。上述の王滬寧を入れると、主要メンバーの半数が習近平派によって固められていることが分かる。

さらに奇妙なことに、主要メンバーには公安部長の趙克志や国務院秘書長の肖捷が入っているが、彼らと同じ大臣(閣僚)クラスの国家衛生健康委員会主任の馬暁偉や、衛生部長の陳竺の名前が見当たらない。

こうしてみると、危機の緊急対策本部としての疫情対策指導小組の人選は、実務重視・実行能力重視の視点から選ばれたわけでは決してなく、むしろ李への牽制という習の政治的思惑からの人事であることが一目瞭然である。

つまり習は国家の緊急事態に際し、自ら先頭に立って危機に当たる勇気もなければ責任感もなく、その責任を首相の李に押し付けてしまった。一方で、李に全権を委ねて李が思う存分仕事できる環境を作ってあげるのでもなく、逆に側近人事を行って李の仕事を牽制し、その手足を縛ろうとしている。

習のリーダーシップはもはや最悪と言うしかなく、この無責任さといい加減さで当面の危機を乗り越えられるわけはない。貧乏くじの役割を引き受けた李も要所要所で習の牽制を受け、きちんとしたリーダーシップを発揮できない。

このような指導体制で、今回の新型肺炎の事態収拾と危機克服は期待できそうもない。状況はまさに絶望的である。

【私の論評】SARSに続き、今回も似たようなことを繰り返したWHOと中国は、世界から糾弾されて当然(゚д゚)!

新型肺炎に関して、WHO(世界保健機構)が非常事態宣言を出さなかった事が激しく糾弾されることになるでしょう。習近平は事態を把握できていなかった可能性もあります。

WHOが大スポンサーの中国共産党を忖度した事が裏目に出たばかりか、台湾の締め出しも非難されることになるでしょう。日本としては世界の先頭に立って台湾のWHO加盟を訴えるべきです。

WHOが大スポンサーの中国共産党を忖度した事については、以下の記事が詳しいです。
「空白の8時間」は何を意味するのか?――習近平の保身が招くパンデミック
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より、結論部分のみ引用します。
 たとえ「緊急事態宣言」を受けたとしても、パンデミックを起こさないことの方が遥かに重要だと思うが、それを選択できないところに中国の欺瞞的な構造がある。地方政府の危なさと共に、こういった所に「ポキッと折れるかもしれない」中国の脆弱性が潜んでいるのである。 
 このような国の国家主席と「責任を共にすると誓い」、国賓として来日させようとしているのが日本の安倍内閣だ。天皇陛下と握手する場面を全世界にばらまかせることによって、習近平政権のやり方に正当性を与えようとしている。 
 このような状況にあってもなお、習近平を国賓として招聘するなどということが、どれほど恐ろしい未来を日本にそして全世界にもたらすか、安倍内閣は真相を見る目を持つべきだ。 
 野党も何をしているのか。習近平の国賓来日が、どれほど危険な将来をもたらすか、そのことにも目を向けた大局的な国会議論を望む。
日本では、新型のコロナウイルスによる肺炎について、安倍総理大臣は衆議院予算委員会で28日の閣議で、国内で感染が確認された場合、法律に基づいて強制的な入院などの措置を取ることができる「指定感染症」にする方針を明らかにしました。

     新型のコロナウイルスによる肺炎について、衆議院予算委員会で
    「指定感染症」にする方針を明らかにした安倍総理

この中で、安倍総理大臣は「政府としては、感染拡大が進んでいることを踏まえ、これまでに関係閣僚会議を開催し、水際対策のいっそうの徹底、検査体制の整備、国民に対する迅速かつ的確な情報提供、日本人渡航者や滞在者の安全確保などについて関係省庁で連携して、万全の対応をとるよう指示を行った」と述べました。

そのうえで、安倍総理大臣は「感染者に対する入院措置や、公費による適切な医療等を可能とするため、今般の新型コロナウイルスに関する感染症を感染症法上の『指定感染症』などにあすの閣議で指定する方針だ」と述べ、今回の肺炎について、28日の閣議で、国内で感染が確認された場合、法律に基づいて強制的な入院などの措置を取ることができる「指定感染症」にする方針を明らかにしました。

また、安倍総理大臣は中国政府との調整を加速させ、民間のチャーター機などあらゆる手段を通じて現地に滞在する日本人の希望者全員を速やかに帰国させる方針を重ねて明らかにしました。

新型コロナウイルスによる肺炎が「指定感染症」に含まれると、国内で感染が確認された場合、感染症法に基づいて強制的な措置をとることができます。

具体的には、都道府県知事が患者に対して感染症の対策が整った医療機関への入院を勧告し、従わない場合は強制的に入院させられるほか、患者が一定期間、仕事を休むよう指示できるようになります。入院などでかかる医療費は公費で負担されます。

指定の期間は原則1年間で、さらに最大で1年延長することができます。

指定感染症にはこれまでに平成15年に重症急性呼吸器症侯群「SARS」、平成25年にH7N9型の鳥インフルエンザなどが指定され、今回の肺炎が指定されれば平成26年の中東呼吸器症候群「MERS」以来、5例目となります。

指定までにかかる期間について厚生労働省は「過去には、2週間ほどかかった例もあったが、今回はそれよりも早く指定できるようにしたい」としています。

厚生労働省によりますと新型コロナウイルスによる肺炎については、指定感染症だけでなく検疫感染症にも指定される見通しです。

検疫感染症に指定されると、空港や港などの検疫所で感染が疑われる人が見つかった場合、法律に基づいて検査や診察を指示できるようになります。

具体的には、空港や港などで入国者に症状が出ていないかを質問し、感染が疑われる症状があった場合は検査や診察を受けるよう指示できます。

さらに、入国時に感染の疑いがある人については、一定期間、健康状態について報告を求めることができます。

これらに従わない場合は罰則を課すことができます。

日本としては、WHOが非常事態宣言を考慮したのか、新型肺炎に関して対応が鈍かったようですが、ようやく動きはじめました。

            スイス・ジュネーブのWHO本部で開かれた新型コロナウイルスによる肺炎感染に
            関する記者会見で発言するテドロス事務局長(2020年1月22日)

WHOをが非常事態宣言を出さなかったことに考慮したとしても、万が一国内で、新型肺炎が蔓延するようなことにでもなれば、多くの人命が失われたり、経済活動もままなくなるのは明らかなので、このような措置に踏み切ったのでしょう。

2020年に入ってからの27日間で世界は中東戦争の危機、オーストラリアの山火事による大量絶命の危機、新型肺炎によりグローバルパンデミックの危機に直面しているのに、習近平は自らの保身に走ることで、本当に新型肺炎に対処しようとしてるのか、はなはだ疑問です。現在のWHOも自らの使命を果たすつもりがあるのか、疑問です。

世界中の他の国々も続々と、日本政府のような措置をすでにとったか、とりつつあります。WHOの緊急事態宣言がない中で、世界中の国々がこうした措置をとっているのですから、WHOと中国の動きはなんともお粗末というか、現実を直視せず、中国人民に対してだけではなく、他の国々に対する裏切り行為でもあります。

現在は、我が国をはじめ、世界の国々は当面はパンデミックを封じ込めることに集中すべきですが、これが収束した場合には、WHOや中国を徹底的に糾弾すべきです。糾弾するだけではなく、制裁すべきです。

SARS続き、今回も似たようなことを繰り返したWHOと中国は糾弾されて当然です。それでも改めなければ、対中冷戦に本気で取り組んでいる米国のように、他国も中国に対して厳しい制裁を課すべきです。そうして、WHOにも厳しい措置をとるべきです。

中国とWHOがまともにならなければ、世界にはいつまでもパンデミックの危機を拭い去ることはできません。頭が19世紀か、もしかすると18世紀であるかのような両者をこのまま捨置くわけには絶対にいきません。両者とも、本当にかなり痛い目に合わせないと、いつまでも同じことを繰り返すことになるだけです。

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