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2020年7月26日日曜日

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点— 【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点

米中間に「トゥキディデスの罠」が当てはまらない理由

中国、北京の道路

(平井 和也:翻訳者、海外ニュースライター)

 近年、米中対立が激しさを増している中で、国際政治の専門家の間で米中間の「トゥキディデスの罠」という考え方が浮上している。トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉だ。ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が古代ギリシャの歴史家トゥキディデスにちなんで提唱した概念として注目されている。

 アリソン教授は、東京新聞のインタビュー記事(2019年12月2日)の中で「トゥキディデスの罠に米中が陥り、全面戦争に発展する可能性は高まっているのか」という問いかけに対して、「もしトゥキディデスが今の米中関係、特に中国の国益を追求する姿を見ていたら、新興国(中国)と覇権国(米国)は、衝突する方向に明らかに加速している、と言うだろう」と答えている。

 この米中のトゥキディデスの罠について、米ジオポリティカル・フューチャーズ(GPF)の創設者であり、世界的なインテリジェンス企業ストラトフォーを創設したことでも知られている未来学者・地政学アナリストのジョージ・フリードマン氏が、7月14日にGPFのサイトに一読の価値がある論考を発表した。

 フリードマン氏はこの論考で、「中国の台頭」にまつわる言説には誤解があると指摘し、米中間に「トゥキディデスの罠」は当てはまらないと述べる。中国には経済面、軍事面で「弱点」があり、依然として米国には対抗できないというのだ。以下では、フリードマン氏の論考の概要を紹介したい。

「台頭する中国」は誤認

 記事の冒頭でフリードマン氏は、アテネとスパルタの間で戦われたペロポネソス戦争から数千年後に、評論家たちは「この戦争が、権威主義的な政府は民主的な政府を打ち破るだろうということを示した」と論じたとし、この考え方は第2次世界大戦の初期段階に広く唱えられ、冷戦の間も繰り返し唱えられたと述べている。

 ただしフリードマン氏は、「実際には、民主主義国と圧政的な体制についてトゥキディデスが言ったことは、敗北主義者が引き合いに出す単純なスローガンよりもはるかに洗練されて、複雑なものなのだ」と指摘する。

 トゥキディデスの罠が持ち出される言説には、しばしばいくつかの間違っている点があるという。フリードマン氏は次のように述べている。

 「間違っているのは、中国が台頭する大国だという考え方だ。中国は毛沢東の死後から急激に盛り上がったという意味で台頭という言葉を使っているのだとしたら、それは正しい。しかし、中国が米国に挑戦することができるくらいまで台頭したと言われているのは、誤認に基づいた言説だ。米国が過剰反応するかもしれないという議論は、この間違った認識に基づいている。米国は中国に強い圧力をかけるという戦術を選んでいるが、そのリスクは低い」

中国の輸出依存体質

 フリードマン氏によると、中国に関して最も重要な点は、中国の国内市場が、工場で作られた製品を資金的に消費できないことである。

 「中国は確かに成長したが、その成長ゆえに海外の顧客に囚われの身となってしまったのだ。中国の国内総生産(GDP)の20%は輸出によって生み出されており、輸出の5%を買っているのは、中国にとって最大の顧客である米国だ。長期的に見て中国経済を約20%減少させる可能性があるのは、このどうしようもない脆弱性だ。新型コロナウイルスが今後も多くの国を傷つけ続けるだろうが、中国にとっては、国際的な貿易が崩壊すれば、国内消費の減少が海外市場の損失の上に現われることになる」

 「中国は米国からの非軍事的な脅威にさらされている。米国はそのGDPの1%のわずか半分を中国からの輸出に依存しているにすぎない。米国は中国製品の購入を減らすだけで、中国にダメージを与えることができる。中国が台頭する大国だとしても、その台頭は非軍事的な非常に滑りやすい傾斜の上に成り立っている」
 加えてフリードマン氏は、米国にはさらに軍事的な破壊的なオプションがあるとしている。

 「中国は、大きく依存している世界市場に、東海岸の港からアクセスしなければならない。そのため、南シナ海は中国にとって特別な利益を握る境界だ。

 中国は海洋にアクセスするために少なくとも1カ所の出口から通商航路をコントロールしなければならない。しかし、米国はこれらの通商航路をコントロールする必要はなく、中国に航路を与えなければいいだけの話だ。この違いには極めて大きな意味がある。中国はアクセスを確保するために、米国を深くまで後退させる必要があるが、米国は、巡航ミサイルを発射するか、または地雷を設置するための適所にいるだけでいいのだ」

中国が太刀打ちできない洗練された同盟システム

 さらにフリードマン氏は、米国の同盟システムの有効性について述べている。

 「米国海軍は、アリューシャン列島から日本、朝鮮、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアに至るまでの太平洋をコントロール下に置いており、中国が太刀打ちできないような洗練された同盟システムを持っている。

 同盟国を持たないということは、紛争時に他の国を巻き込む戦略的なオプションを持たないということだ。中国は周辺の1カ国と同盟関係を結ぶだけで、戦略的な問題は解決するかもしれない。同盟国を獲得できないことは、中国の力と信用を地域的に評価する上での指標となる。中国の戦略的な問題には、中国の国益に対して敵対的なベトナムやインドといった国と国境を接しているという面もある」

 「仮想的には、中国はロシアと同盟関係を構築できるかもしれない。だが問題は、ロシアが西方とコーカサス地方に注力しなければならないという点にある。ロシアには中国に貸せるような陸軍はなく、太平洋の作戦で決定的な意味を持つような海軍も持っていない。ロシアによる西方からの、そして中国による東方からの同時攻撃は、一見すると興味深いものに思えるが、米国と同盟国を分断するには至らず、中国に対する圧力を排除でき
ない」

輸出依存のままで戦争を始めるのは無理な話

 次にフリードマン氏は、中国の輸出依存体質について再度強調する。つまりグローバルな貿易システムに組み込まれた中国の脆弱性について、である。

 「中国が台頭する大国であることは確かだが、前述のとおり、中国は毛沢東時代から台頭している。中国は相当程度の軍隊を持っているが、その軍事力は輸出依存という脆弱性が排除されない限り、縛られたままだ。このような状況では、戦争を始めるなどというのは無理な話だ。中国はたぶん世界のどこの国よりも、グローバルな貿易システムを破綻させるようなリスクを冒すことができない国だ」

 「米国は西太平洋での戦争には興味がない。西太平洋の現状は満足のいく状況であり、紛争を起こしても、何も得るものはない。ただ、米国は太平洋をあきらめてはおらず、これまでにも太平洋を維持するために、第2次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争を戦ってきた。米国は中国大陸を侵略したり征服したりすることはできないし、巨大な中国陸軍に対して軍を差し向けることもできない。その意味で、中国は安全だ。中国が恐れているのは、世界市場からの孤立という海洋にある」
トゥキディデスの罠は米中には当てはまらない

 軍事力そのものに関しても、米国は今なお中国に対して圧倒的に優勢だという。フリードマン氏は以下のように述べる。

 「戦争に勝つためには、経験豊富な人員と、勇敢でモチベーションの高い軍隊、へまをしない工場が必要だ。工学技術は戦争の一部だが、その本質ではない。もちろん、テクノロジーは重要だが、それは実戦経験を積んだ人々の手の中にあって初めて決定的な意味を持つ。

 しかし、中国はそれを欠いている。ハードウェアとテクノロジーを持っているとは言っても、中国は1895年以来、海戦を戦っていない。中国は陸上での戦闘経験と比べて、海戦の伝統がない。それに対して、米国は、航空機で陸上の標的に対抗したり、対潜水艦調査を実施したり、実戦環境で艦隊用の防空システムを運用したりしてきた豊富な経験がある」

 「私が誤認した識者の意見に反対するのは、この点においてである。彼らは、米国が追いついていないテクノロジー面での優勢に着目して、中国は台頭していると考えている。たぶんその通りだと思うが、米国は依然として経済的な優勢、地理的な優勢、同盟関係における政治的な優勢、海と空、宇宙における経験の優勢を誇っている。テクノロジーは、これらの点における不足を相殺するだけだ」

 以上のような考察からフリードマン氏は、「トゥキディデスの罠という概念は米中には当てはまらない、と私は考えている。中国はいかなる側面においても、米国を追い詰めてはいない」と結論づける。米国は実戦経験など様々な分野において依然として圧倒的な優勢を誇っているため、トゥキディデスの罠の理論は米中には通用しない、というわけである。
【私の論評】中共は米国に総力戦を挑むことはないが、国内で統治の正当性を強調するため、世界各地で局地戦を起こす可能性大!(◎_◎;)
私は、フリードマン氏の主張には全面的に賛成です。なぜかについては、もうすでにこのブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
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習近平とオバマ


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではそもそも中国は超大国ではないし、超大国になる見込みもないことから、米中はトゥキディディスの罠に嵌って、総力戦をすることはないが、米軍が南シナ海の中国軍基地を爆撃するなどの、局地戦はあり得ることを掲載しました。

上の記事で、フリードマン氏は指摘はしていませんでしたが、いわずもがなの、米ドルは基軸通貨でありながら、人民元はそうではないということも、中国にとって徹底的に不利です。

何しろ、元々人民元は、中国が多数の米ドルや米国債を所有していることにより、保証されているわけです。

そもそも、米国が中国による米ドルの使用禁止を実施したり、中国米国債の無効化をしてしまえば、人民元は紙切れになる可能性もあります。

そうして、それ以前に、国際貿易のほとんどが、ドル決済されているため、中国は貿易ができなくなります。

このような状況では、中国が米国に対して戦争を挑むようなことは到底考えられません。

トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉ですが、中国が米国にとってかわろうことなど到底できません。

にも関わらず、中国はなぜ、戦浪外交を展開するのでしょうか。それには、二つの可能性があります。一つは、先にリンクを掲載した当ブログ記事の記事にもあるとおり。中国もしくは習近平の妄想によるものです。

この記事では、以下のように掲載しました。いかに一部を引用します。
2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会いました。オバマは、中国の台頭が構造的ストレスを生み出してきたが、「両国は意見の不一致を管理できる」と強調しました。また両者の間で「大国が戦略的判断ミスを繰り返せば、みずからこの罠にはまることになる、と確認した」と習は明らかにしています。
以下に、これに関連する部分をさらに引用します。
私自身は、2015年の米中首脳会談で、バラク・オバマ米大統領と中国の習近平国家主席はトゥキディデスの罠についてじっくり話し会ったことが、習近平に勘違いをさせたのではないかと思います。
オバマ大統領、本来ならば、中国は超大国米国には、到底及ばないことを習近平にはっきりと言うべきだったと思います。軍事力でも、技術力でも、金融の面でも、遠く及ばないことを自覚させるべきでした。米国にたてつけば、石器時代に戻してやるくらいの脅しをかけるくらいでも良かったと思います。
妄想ではあっても、中国がその妄想を実現すべく邁進しているわけですから、当然米国は、これに対峙せざるを得ないのです。
パラク・オバマは、習近平の妄想を最終的に、後押ししただけで、それ以前からこのような論調は、ありました。

最近、私は英語の読解力を上昇させようとして、”速読速聴・英単語 Advanced 1100 ver.4”という教材を読んでいます。本日で61回目の読み込みに入ったのですが、この教材の中に、”China’s biggest exports growing nicely”(The Sydney Morning Herald, June 21. 2012)という記事が掲載されていました。

オーストラリアは今でこそ、中国に対して厳しい態度をとっていますが、2012年あたりだと、政権そのものが親中的でした。 この記事の中に、以下のような記載がありました。(日本語訳の方を掲載します)
彼ら(ブログ管理人注:中国のこと)は、2017年に世界最大の経済国として米国を追い越す過程にあるに違いないのだから、消費をあおるプロセスの中で投資と建築はそのコアメンバーとともに重要な要素なのである。 
現在、オーストラリアが中国に依存しているほど、中国はヨーロッパ経済に依存してはいない。したがって、準備銀行取締役会の議事録における我々の最大の貿易相手国に関する残りの段落がとりわけ重要なのである。
現在では、中国に対して厳しい態度をとっている、米英豪加、あたりでもこのような見方をしている人は大勢いました。

2012年というと、このブログでは、すでに中国経済の脆弱性や、他の様々な問題について論じていました。それどころか、中国の崩壊に関することも論じていました。

しかし、当時は、米国でもパンダハガー(親中派)が主流でした。米国在住のある日本の国際政治学者 は、米国では中国に対するエンゲージメント(関与)派が米国エスタブリッシュメント(支配層)の主流を占めているので、米国の親中国的姿勢はこれからも続くとしていました。

結局、多くの国々が通商により、あらゆる面で伸びゆく中国と取引をして金儲けのビジネスをしようとしていたので、つい数年前までは、中国に対して親和的的でした。それが、中国を増長させて、特に習近平を増長させて。超大国幻想を助長した面は否めません。この超大国幻想が、現在の中国の戦浪外交を後押ししている可能性が大です。

もう一つの見方としては、習近平は、建国の父毛沢東や、経済改革をして今日の中国の経済の基礎を作った鄧小平などと比較すると、誇るべき実績がなく、自らの統治の正当性を強く主張できないという状況にあることです。

中国には、選挙はありませんが、それでも全人代で幹部に指名されたり、幹部になった後に自分の思い通りに国を動かすには、強力に統治の正当性を主張する必要があります。特に、共産党幹部や長老たちを納得させなければなりません。そうでなければ、権力闘争が凄まじくなります。

この側面から見ると、習近平には誰をも納得させる実績が全くと言って良いほどありません。だからこそ、党内でも諸外国に対しても、弱みを見せられないのです。だからこそ、外国に対して戦狼外交を展開しているのです。

この二つの見方のいずれが正しいのか、あるいは、両方とも正しいのかもしれません。しかし、今のところははっきりとはしません。いずれ、わかる時期が来ると思います。

しかし、厄介なのは、いずれの場合であったにしても、中国は米国と総力戦に入ることはありませんが、三戦などを駆使しつつ、南シナ海や東シナ海、台湾、あるいはインドやロシアとの国境で、あるいは全く思いがけないところで、局地戦を起こす可能性が高いということです。下表に、中国による日本に対する「三戦」で想定されるものを掲載します。


これらのいずれかの戦争を起こし、プーチンがクリミア併合を成し遂げたように、勝利を収めれば、プーチンがそうだったように、習近平は国内で統治の正当性高めることになるからです。中国の場合は、中国共産党の統治の正当性も大いに高めることになるからです。

中国に対峙する我々自由主義陣営の国々は、米中が総力戦に入ることはないと見て良いですが、局地戦ありうるとの認識のものと、対抗策を講じるべきです。そうして、局地戦が起こった場合には、必ずこれを勝利に導くべきです。

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2020年7月16日木曜日

米国が一線越えの果たし状、風雲急を告げる南シナ海— 【私の論評】尖閣諸島すら自ら守れないようでは、日本は中共なき後の新世界秩序づくり参加できなくなる!(◎_◎;)

米国が一線越えの果たし状、風雲急を告げる南シナ海

中国の領有権主張に、ついに堪忍袋の緒が切れた米国

         マイク・ポンペオ米国務長官。2020年7月13日、中国の南シナ海
         領有権主張に対する米国の立場を公式文書で表明した
(北村 淳:軍事社会学者)

 アメリカ政府は、これまで永年にわたってアメリカ外交の伝統の1つとしてきた鉄則からついに一歩を踏み出した。南シナ海での中国の領域主張を否定するだけでなく、中国と領域紛争中の諸国側を支持する立場を明確に表明したのである。

アメリカ外交の鉄則とは

 アメリカは第三国間の領域紛争には中立的立場を貫くことを外交の鉄則としてきた。

 様々な手段を用いて、“味方をする”側を実質的に支援することも少なくなかった。しかしながら、そのような場合でも表面上は中立を保っていた。すなわち、アメリカ政府として領域紛争当事者の一方の主張を公式に否定し、他方の主張を支持するという、外交的立場を明確にすることは断固として避け続けてきたのである。

その鉄則は、南シナ海全域で中国が強大な海洋戦力を振りかざして近隣諸国を威嚇し、南シナ海全域に対する中国の軍事的支配を確立しつつある状況に対しても適用されてきた。アメリカ政府はこれまで懸念を表明し続けてはいるものの、中国政府の主張を完全に否定して、中国と紛争中のフィリピン、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、台湾などの主張を明確に支持するという立場を明確かつ公式に表明することは避けていた。

 中国に対して融和的であったオバマ政権はもちろんのこと、トランプ政権といえども、これまでは南シナ海領域紛争に関する明確な立場を表明してはこなかった。

外交の鉄則に制約されてきたFONOP

 ただし、アメリカがまったく無策でいたわけでない。中国が南沙諸島に人工島まで建設し始めると、オバマ政権は中国に対して懸念を表明した。そして、南シナ海に軍艦を派遣して公海自由航行維持のための作戦(FONOP)を実施し、アメリカの威信を示して同盟国や友好国の信頼をつなぎ止めておこうとした。

 だが、オバマ大統領はFONOP(南シナ海での、以下同じ)にそれほど積極的ではなく、オバマ政権下でのFONOPは数カ月に一度のペースで極めて散発的に行われたにすぎなかった。

 トランプ大統領も就任直後は習近平主席との関係が悪くなかったため、FONOP実施のペースは若干上がった程度に留まっていた。しかし、米中関係がギクシャクし始めると、昨年(2019年)初頭あたりからのFONOPのペースは目に見えて上がってきている。

 FONOP実施の真意は、中国が南シナ海の大部分を中国の主権的海域であると主張している状況に対する牽制にある。とはいえアメリカは、第三国間の領域紛争には中立的立場を貫くという鉄則から逸脱することはできない。そこで、あくまでFONOPは「南沙諸島や西沙諸島などの周辺海域で領域紛争中諸国の双方の主張は、公海における自由航行を妨げる恐れがあるので、双方ともに必要以上の主張をせず、トラブルを生ぜしめないよう」という警告を発するための軍艦派遣である、という名目で実施されてきた。

 つまり、軍艦を派遣しても、中国に対して露骨に軍事的威圧を加えるような行動は極力とらない。たとえば中国が中国領と主張している人工島などの沿海域を通航するときは、国際法上認められている無害通航原則に従って、直線的針路を可及的速やかに通過する。途中停船させたり、射撃レーダー波を発したり、艦載機(ヘリコプターやドローン)を飛ばしたり、といった軍事的行動は封じ込めてきた。

 その結果、FONOPの米駆逐艦が、中国が中国領と主張している島嶼環礁に接近してくると、中国軍艦が接近してきて追尾を開始し、米軍艦がそれらの島嶼環礁から遠ざかるまで並走するという場面が繰り返された。

 そして中国当局はその都度、「中国の主権を踏みにじり、中国の主権的海域に侵入して軍事的威嚇を加えてきたアメリカ軍艦を、中国海軍が駆逐した」といった声明を発していた(中国は国内法で、あらゆる外国船舶艦艇は中国領海に接近通過するときは中国当局に対して事前に通告しなければならない、と規定している)。

 このようにしてFONOPは、形骸化した行事のようなものになってしまっていた。

新たな局面を迎える南シナ海

 オバマ政権が渋々FONOP実施を認めた当初から、米海軍や米海兵隊などの間には、「何らの軍事的威嚇にならない無害通航原則に従うだけのFONOPでは、中国の人工島建設をはじめとする南シナ海の軍事化を牽制する効果は全く期待できない」「アメリカは、領有権紛争で劣勢に立っている同盟国や友好国を明確に支持する立場を表明しなければならない」と主張する対中強硬論が存在していた。

 7月13日、それらの強硬論がようやく日の目を見ることになった。

 マイク・ポンペオ国務長官が、「南シナ海における中国による全ての主権的主張は国際法上認められるものではなく完全に違法である」「アメリカ政府はフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイの排他的経済水域や島嶼に関する領有権の主張などを支持する」との立場を明記した公式声明を発したのである(「U.S. Position on Maritime Claims in the South China Sea」)。

 アメリカ外交当局は、これまでの外交鉄則を大きく変針した。これにより、FONOPも含めてアメリカ海軍や空軍による南シナ海での対中軍事牽制行動も新たな局面を迎えることになるのは確実である。

次は尖閣問題について立場を表明か

 トランプ政権がさらに対中強硬姿勢を強めるであろう次のステップは東シナ海だ。これまで永年にわたってアメリカ政府は尖閣諸島の領有権紛争に関しても中立的立場を貫いてきた。

 日本政府高官は、米側高官たちが「尖閣諸島に対して日本が施政権を行使していると認識している」と表明すると、あたかも日本の主張を支持しているかのように手前勝手に解釈して胸をなで下ろす。しかし、アメリカ政府は「日本が尖閣諸島の領有権を保持している」あるいは「中国による尖閣諸島の領有権の主張は認められない」といった領有権に関する公的コメントを発することを避け続けてきている。

 だが、数年前から米軍関係者などの間では、アメリカ政府として公的に「尖閣諸島の領有権は日本にある」といった明確な立場を表明すべきであり、そうしなければ南シナ海のように東シナ海での中国の軍事的優勢が確立してしまう、と警告を発する者も少なくない。

 トランプ政権がそのような主張に従い、尖閣諸島をめぐる領有権紛争に関して「中国の領有権主張は、アメリカ政府としては認められない」という立場を示すならば(ただし台湾も領有権を主張しているため、そう単純にはいかないのだが)、極めて強力な対中強硬姿勢を明示することになる。

 もちろん我々としては、尖閣諸島に対する日本の領有権を確保するのはアメリカではなく日本自身であることを忘れてはならない。

【私の論評】尖閣諸島すら自ら守れないようでは、日本は中共なき後の新世界秩序づくり参加できなくなる!(◎_◎;)

このブログにもよく登場する米国の戦略家ルトワック氏は、2018年12月28日の産経新聞のインタビューに応えて、以下のような発言をしています。

エドワード・ルトワック氏
 ルトワック氏は現在の中国との「冷戦」の本質は、本来は「ランドパワー(陸上勢力)」である中国が「シーパワー(海洋勢力)」としても影響力の拡大を図ったことで米国や周辺諸国と衝突する「地政学上の争い」に加え、経済・貿易などをめぐる「地経学」、そして先端技術をめぐる争いだと指摘した。 
 特に先端技術分野では、中国はこれまで米欧などの先端技術をスパイ行為によって「好き勝手に盗んできた」とした上で、トランプ政権が今年10月に米航空産業へのスパイ行為に関与した疑いのある中国情報部員をベルギー当局の協力で逮捕し米国内で起訴するなど、この分野で「米中全面戦争の火ぶたを切った」と強調した。 
 一方、中国が南シナ海の軍事拠点化を進めている問題に関しては、トランプ政権が積極的に推進する「航行の自由」作戦で「中国による主権の主張は全面否定された。中国は面目をつぶされた」と強調。中国の軍事拠点については「無防備な前哨基地にすぎず、軍事衝突になれば5分で吹き飛ばせる。象徴的価値しかない」と指摘した。



であれは、米国としては今後もFONOPを実施するにしても、実際に南シナ海の中国軍の基地を叩くまでのことはしないと考えられます。

ただし、一つ懸念があります。それは、中国が南シナ海を中国の原潜の聖域とすることです。

中国が南シナ海で従来から、外国の軍事活動を許さないとの強硬姿勢を取っているのは、領土問題もあるでしょうが、本当の理由は、南シナ海を中国の戦略原潜の基地に接続する原潜の展開水域として確保したいから、ということは以前もこのブログでも述べています

どういうことかといえば、南シナ海は海南島の三亜を基地とする中国の戦略原潜の展開水域なのですが、中国は、対潜水艦兵器や海洋調査船を展開している米国と、インド・太平洋地域の米国の同盟国網によって、第一列島線の中に閉じこまれかねないと感じているのです。



そうして紛争の際には、戦略原潜が第一列島線の外に出る前に、米海軍に発見され、無力化されてしまうのではないかと懸念しているのです。

中国が南シナ海で外国の軍事活動にますます不寛容になっているのは、この懸念のためでしょう。

中国は南シナ海での外国の軍事活動に対して、公には領土問題の観点から抗議していますが、中国の為政者たちは内々には戦略原潜が基本であり、いかに将来の原潜による抑止を守るかが重要な関心事である、従来から述べています。

冷戦中、ソ連の戦略原潜は遠隔のバレンツ海やオホーツク海を基地としていましたが、中国が原潜の基地として選んだのは世界で最も重要なシーレーンの真っ只中に位置しています。

中国の原潜は新型の「晋」級戦略原潜に、射程距離4600マイルの弾道ミサイルを搭載するものと見られ、この原潜は現在海南島を基地としていると見られています。ただし、中国の原潜は未だ、ステルス制に劣り、先日も日本の海自に、日本近海での行動を暴露されてしまいました。

中国の南シナ海における強硬姿勢が、単なる領土主権の主張に留まらず、戦略原潜展開の必要性に基づくものであるとの見解は、第一列島線、第二列島線の概念を中心とする中国の海洋戦略、そして戦略ミサイル搭載原潜という大きな抑止力を持つ対米核抑止戦略に照らせば、当然のものでしょう。

このような見解は、私をはじめ日本でも述べられてきています。中国は南シナ海を、かつてソ連が冷戦中に対米核戦略の拠点としたオホーツク海のようにしようとしている、あるいは南シナ海を、中国の戦略原潜のための「聖域」としようとしている、といった見解です。

今のところ、中国の南シナ海の軍事基地のいずれかを、中国原潜の基地にしようという動きは見られません。しかし、そのような動きが見られた場合は、米国は躊躇わず、原潜基地を5分で吹き飛ばす可能性は十分にあります。

さて、一方尖閣諸島についてはどうでしょうか。米国では超党派の米上院議員グループが5月23日、南シナ海と東シナ海における中国政府の活動に関与した中国人や団体に対して、米国政府が制裁を科せるようにする法案を改めて提出しました。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)とトム・コットン上院議員(アーカンソー州)、および民主党のベン・カーディン上院議員(メリーランド州)が提出した「南シナ海・東シナ海制裁法案」は、中国に圧力をかけ、中国が領有権を主張する中国沖の海域の実効支配をやめさせることを目的としていると、香港紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は伝えています。

この「南シナ海・東シナ海制裁法案」は未だ審議中ですが、いずれ成立するするのは間違いないです。だからこそ、7月13日、マイク・ポンペオ国務長官は、「南シナ海における中国による全ての主権的主張は国際法上認められるものではなく完全に違法である」「アメリカ政府はフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイの排他的経済水域や島嶼に関する領有権の主張などを支持する」との立場を明記した公式声明を発したのでしょう。

東シナ海の尖閣諸島については、上にもあるように、中国だけではなく、台湾も領有権を主張しているため、日本と台湾などと調整しなければならず、13日のポンペオ長官の公式声明には、盛り込まれなかったのでしょう。

ただし、尖閣諸島については、台湾の領有権は正統性に乏しく、しかも蔡英文政権が主張し始めたものではなく、国民党政権時代から主張されたものです。

これは、米国の後押しなどで、台湾と日本の間で漁業権問題などが平和的に解消できれば、十分に解決できるものと考えられます。

となると、いずれポンペオ長官は、「東シナ海における中国による尖閣諸島の主権的主張は国際法上認められるものではなく完全に違法である」「米国政府は日本の排他的経済水域や尖閣諸島に関する領有権の主張などを支持する」と声明を発表することになるでしょう。


ただし、尖閣諸島は日本の領土であるため、その防衛は日本が担うべき筋のものです。現状を打破するためには、まずは日本が独力で、尖閣周辺に海自の艦艇などを派遣して、中国の艦艇などを排除すべきです。

このような行動は、以前だとある程度の危険がありましたが、米国が日本の尖閣諸島領有をはっきり認めた後には、かなり実施しやすくなります。

私としては、これを実施するのは当然と思います。流石に、日本国内の勢力を排除するというのですから、これは現行の憲法の範囲でも十分にできそうです。

少なくとも米国はそう思うでしょう。それに関しては、このブログでも従来から述べているように、現状の自衛隊の能力でも、それは十分にできます。

ただし、現行法では、難しい点もあります。まずは、現行法を、平時の自衛権を発動できるような法律に変えていくべきです。この努力をすぐに始めなければ、米国から日本は自衛するつもりがあるのか、米国から疑われてしまうことでしょう。

以前からこのブログで述べているように、現在は自由主義陣営と、中国の全体主義との戦いの真っ最中であり、日本もこれに向けて、自由主義陣営に貢献しなければ、中共敗戦の後の、新世界秩序作りに日本は参加できなくなるかもしれません。

日本は、新たな理念を提唱できる可能性が大です。しかし、尖閣諸島すら自ら守れないようでは、その機会は訪れないかもしれません。

それどころか、日本は戦後レジームから逃れられなかったように、新世界秩序の中でも、一人前に扱われず、半人前の地位に甘んずることになりかねません。

それだけは、避けたいものです。

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傲慢な中国は世界の嫌われ者— 【私の論評】米国による中国への本格的な金融制裁実施は時間の問題になってきた!(◎_◎;)

傲慢な中国は世界の嫌われ者

ブラマ・チェラニ(インド・政策研究センター戦略問題専門家)



<初動ミスへの批判に耳を貸さず、強硬姿勢で国際社会の信頼を失い孤立の道へ。本誌「中国マスク外交」特集より>

このところ世界中で中国批判の大合唱が起きている。新型コロナウイルス発生初期における情報隠しがパンデミック(世界的大流行)を招いたとして中国の責任が問われているのだ。だが中国は批判に耳を貸さず、香港への締め付けを強めるなど強硬姿勢一点張りで、火に油を注いでいる。

他国にマスクや防護服を提供し、暗黙のうちに政治的な見返りを求める、ウイルスの発生源に関する調査をかたくなに拒んだ揚げ句、国際世論の圧力に負けて渋々受け入れる──習近平(シー・チンピン)国家主席率いる中国政府のこうした迷走ぶりは信頼を失墜させ、自国を孤立に追い込むばかりだ。

習に良識があれば、中国はパンデミックで低下したイメージを立て直せたはずだ。破綻寸前に陥った「一帯一路」の参加国に債務の返済を免除するなり、貧困国に見返りを求めずに医療援助を行うなり、大国にふさわしい寛大さを示せばよかった。だが習政権にそんな度量はなかった。

けんか腰の外交姿勢にせよ、周辺地域での拡張主義的な活動にせよ、中国のやり方に世界は警戒を募らせている。にもかかわらず習は今の危機を覇権拡大の好機と見なしている。

実際、中国はパンデミックを最大限利用しようとした。1月時点で防護服などを買い占め、その後に価格をつり上げて暴利を得た。欠陥品のマスクや検査キットを売り付けたことも国際社会の怒りを買った。

習のワンマン支配の危うさ

世界がコロナ禍と闘っている隙に、中国軍は国境地帯でインド軍に小競り合いを仕掛け、尖閣諸島周辺の海域で日本の漁船を追尾するなど挑発行為を繰り返している。南シナ海の島々を管轄する行政区を新たに2つ設定し、この海域の支配を既成事実化する動きも関係国の神経を逆なでした。

オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源に関する調査を呼び掛けると、中国はこれに猛反発。オーストラリア産の大麦に高関税をかけるなど報復措置に出て、両国の関係は急速に悪化した。

中国のかたくなな調査拒否は、2011年の東日本大震災で起きた福島第1原子力発電所の事故に関するIAEA(国際原子力機関)の調査を躊躇なく受け入れた日本とは対照的だ。それでもWHO(世界保健機関)の総会で調査を求める決議案が採択される形勢になると、習はメンツを失うまいとして土壇場で調査受け入れに転じた。

コロナ後の世界は元の姿には戻らない。国際政治の在り方も変わるし、経済も変わる。危機をきっかけに世界は中国頼みのサプライチェーンの危うさに気付き、既に生産拠点の分散化に着手している。

サプライチェーンの一極集中もさることながら、コロナ禍が浮き彫りにしたより根本的な問題は習のワンマン支配の危うさだ。中国は初動対応についての批判をかわそうと事実をごまかし、外交攻勢や情報操作で大国の面目を保とうとした。対外的な隠蔽工作や他国に対する恫喝といった習政権の恥知らずなやり方は今に始まったものではないが、今回ばかりはそれが全て裏目に出たようだ。

アメリカの世論は今、中国とその指導層にかつてなく厳しい見方をしている。日米など主要国は製造業の「脱中国」を促すため、生産拠点を中国から移す企業に補助金を出す意向だ。インドは中国からの直接投資を事前に政府が審査する制度を初めて導入した。

1970年代末の改革開放以降、今ほど中国に対する世界の風当たりが強まったことはない。習の過剰な支配欲はブーメランのように自国に跳ね返ってきた。中国発のパンデミックが国際社会における中国の地位低下を招き、将来の成長を阻む事態はもはや避けられそうにない。

©Project Syndicate

<2020年6月30日号「中国マスク外交」特集より>

【私の論評】米国による中国への本格的な金融制裁実施は時間の問題になってきた!(◎_◎;)

中国の風当たりが強くなるくらいなら、鉄面皮の習近平は何も気にせず、これからも傲慢な態度を改めないでょう。

しかし、米国においては、詰将棋のように対中政策を次から次へと厳しくしています。その際タイルものは、ファーウエイ潰しでしょう。現状では、ファーウエイは、半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能になっています。



それでも、なんとか新しいスマホを開発をしていますが、現状では基本的にはアンドロイでありながら、Googleからソフトの供給が絶たれ、Googleなしのスマホを開発しています。いずれは、アンドロイドとは一線を画したスマホを開発するつもりなのかもしれません。

現在、半導体生産はファブレスの設計会社とファウンドリ(受託生産会社)による分業が進んでいます。また、設計に関しても、アームなどのCPUの基本回路、半導体版CADに該当するシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスのアメリカ3社の協力なしでは、新規の開発はできません。

また、設計だけでなく、TSMCなどからの半導体の販売を禁止することで製造の部分も押さえているため、ファーウェイは最先端プロセスでの半導体が手に入らなくなりました。これに対応するために、中国は中芯国際集成電路製造(SMIC)にオランダのASMLの半導体製造装置の輸入を画策していたのですが、これも米国に止められています。そのため、現行の14nmプロセスが最新ということになるわけですが、これでは低消費電力と小型化が求められる5G対応の最新スマートフォンなどに使用することはできません。

その上で、米国の規制を破った企業にはドル決済禁止や巨額の罰金などの厳しい制裁が課されることになっており、それは企業の倒産を招くことになります。中国は巨額の報酬で人を集めていますが、これは製品販売だけでなく技術移転の禁止でもあるため、人も制裁対象になります。

そうして、制裁の対象になった人は、得た利益と個人資産を没収され、長期の懲役刑が待っています。外国であっても、犯罪人引き渡し条約があれば米国に身柄が引き渡されることになり、同時に米国ドルは基軸通貨になっていることもあり、米国は世界中の銀行口座を監視できるため、外国資産であっても凍結や没収の対象になります。

さらに、米国の大学内では“スパイ狩り”が始まっています。中国は「千人計画」の名のもとに世界中の研究者に資金援助を行い、技術移転を求めてきたのですが、これは本来、米当局への許可や報告が伴わなくてはならないものです。現状では、最先端分野の研究に関して許可が下りる可能性はないに等しく、多くは無許可無報告で行われていたわけです。これに対して、順次調査が進んでおり、摘発が相次いでいます。

また、米国は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国に滞在する約7万人の自国民に帰国命令を出しましたが、そのほとんどがホワイトカラーであり、技術者や研究者です。

通信業界では、NTTが主導する形で2025年に5.5G、30年に6Gの採用が始まる予定になっていて、日本の通信および半導体メーカー復活に向けての希望となっています。そうして、これはインテルやマイクロソフトなど米企業との協力と連携によるものであり、日米両政府が支援するプロジェクトです。必然的に、この枠組みからファーウェイをはじめとする中国企業が外されることは必至です。

米国の一連のファーウェイ対応は、まるで詰将棋を見ているかのようです。

さらに、米国はコロナ以前から、様々な対中国関連の法律を施行させていましが、コロナ禍の最中においても、「ウイグル人権法」を施行しました。

6月17日トランプ大統領は、中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、法律が成立しました。

「ウイグル人権法」は、中国の新疆ウイグル自治区で、大勢のウイグル族の人たちが不当に拘束されているとして、アメリカ政府に対しウイグル族の人権侵害に関わった中国の当局者に制裁を科すよう求める内容で、先にアメリカ議会の上下両院で可決されていました。

これは、よりわかりやすくいうと、ウィグルの迫害に関連した、中国の政府高官の資産を凍結したり、米国への入国を禁止するものです。

この動きはますます加速しています。たとえば、

「日本の尖閣諸島への中国の領有権を認めてはならない」「中国の尖閣海域への侵入には制裁を加えるべきだ」

このような強硬な見解が米国議会で超党派の主張として改めて注目され始めたのです

尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関して、これまで米国政府は「領有権の争いには中立を保つ」という立場を保ってきました。ところが、中国が米国にとって最大の脅威となったことで、東シナ海での膨張も米国は阻止すべきだとする意見が米国議会で広まってきたのです。

尖閣諸島 手前航空機は海自P3C哨戒機

2019年5月に、ミット・ロムニー(共和党)、マルコ・ルビオ(共和党)、ティム・ケイン(民主党)、ベン・カーディン(民主党)など超党派の14議員が「南シナ海・東シナ海制裁法案」を上院に提出しました。

同年6月には、下院のマイク・ギャラガー議員(共和党)とジミー・パネッタ議員(民主党)が同じ法案を下院本会議に提出しました。今回の下院共和党研究委員会の報告書は、その法案に米国議会の立場が表明されているとして、法案への支持を明確にしました。

なお上院でも下院でも法案は関連の委員会に付託されましたが、まだ本格的な審議は始まっていません。今回、下院共和党研究委員会は改めてこの法案の重要性を提起して、その趣旨への賛同と同法案の可決を促したのです。

今回、新たな光を浴びた「南シナ海・東シナ海制裁法案」の骨子は以下のとおりです。
・中国の南シナ海と東シナ海での軍事攻勢と膨張は、国際的な合意や規範に違反する不当な行動であり、関係諸国を軍事的、経済的、政治的に威嚇している。 
・中国は、日本が施政権を保持する尖閣諸島への領有権を主張して、軍事がらみの侵略的な侵入を続けている。この動きは東シナ海の平和と安定を崩す行動であり、米国は反対する。 
・米国政府は、南シナ海、東シナ海でのこうした不当な活動に加わる中国側の組織や個人に制裁を科す。その制裁は、それら組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体とする。
同法案は、中国に対する経済制裁措置の実行を米国政府に義務付けようとしています。つまり、米国は尖閣諸島に対する中国の領有権も施政権も否定するということです。米国政府は、中国当局の東シナ海での行動は、米国の規準でも国際的な基準でも不当だとする見解をとり、従来の「他の諸外国の領有権紛争には立場をとらない」という方針を変更することになります。

「ウイグル人権法案」も「南シナ海・東シナ海制裁法案」もその制裁は、当該法案に抵触した組織や個人の米国内での資産の没収や凍結、さらには米国への入国の禁止を主体としています。

今後米国は、ありとあらゆる中国の個人や、組織を対象にして、資産凍結や入国禁止の措置が取れるようにし、実行していくことになります。

最初は、共産党幹部から始まり、もっと下の層や、地方の幹部にまで制裁が及ぶ可能性があります。

「中国当局者の資産凍結」や「渡航制限」以外にも、「査証の取り消し」「中国人に対する学生査証の発給停止」「米金融機関による中国企業への融資制限」「中国企業の米証券取引所への上場禁止」などもあります。

この制裁に中国は耐えられるのでしょうか。たとえ、耐えたとしても、さらに厳しい制裁もあり得ます。それは、本格的な金融制裁です。

トランプ大統領

トランプ大統領は関税戦争以来、米国と中国の隔離を進めてきたといえます。モノ、人、金の相互依存を引き離すべく、米国企業に中国を去るよう勧めてきました。トランプ大統領は2020 年の大統領選挙への関心のあまり、ニューヨークの株価が気になりすぎていると批判されていますが、関税賦課については、米国経済への悪影響を最小限にしながら、2018 年から、2 年をかけて行ってきたとも言えます。

金融制裁については、大統領も議会も米中間の金融分離が十 分進んで米国への被害が少な区なる状況を待っているようです。大統領は米国企業に中国から離れろと言い続けています。まず、米国の中国への資金貸与を制約するでしょう。さらなる関税賦課も在中米国企業を中国のサプライチェーンから外す効果はあります。あとは時期を待ち、正当な理由を見つけることです。

最近の武官ウイルスにの隠蔽や、ウイグルでの人権非難や香港での弾圧事件、南シナ海や台湾海峡、尖閣諸島での事件は、金融制裁の十分な口実となります。

上の記事でも指摘されているように、最近の傲慢不遜な態度ばかりとる中国は、米国に金融制裁をされても、他国はそれを真っ向から批判するということはないでしょう。

コロナ禍が、全ての国際情勢の変化を促進しています。もう時間の問題でしょう。

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2020年6月2日火曜日

米国の研究機関に堂々と巣食う中国のスパイたち―【私の論評】コロナが変えた世界では、5年〜10年で起こる変化が1年〜2年になる(゚д゚)!

米国の研究機関に堂々と巣食う中国のスパイたち

   2018年11月1日、米国司法省は、米半導体大手「マイクロン・テクノロジー」のDRAM技術を狙った
   スパイ活動を行ったとして、中国の国有企業を連邦大陪審が起訴したと発表。この日、ジェフ・
   セッションズ司法長官は、中国による情報窃取や経済スパイ活動に対処していく「チャイナ・イニシア
   チブ」を発表した。

  最近、米国の大学や研究機関で「中国絡み」のトラブルが頻発している。

 2020年1月28日、米マサチューセッツ州の名門大学であるハーバード大学で、化学・化学生物学部長のチャールズ・リーバー教授(60)がFBI(連邦捜査局)によって逮捕された。ナノサイエンスの分野における世界的権威であるリーバーの逮捕容疑は、中国の武漢理工大学で研究所を設立するとして中国政府から約150万ドルを受け取っていた上に、毎月5万ドルの支払いを中国から受け取っていたこと。これらは当局へ報告の義務があるが、リーバーは捜査員に虚偽の説明をしたことで逮捕された。

チャールズ・リーバー容疑者

  さらに5月には、オハイオ州のクリーブランド・クリニックで研究者をしていた中国系アメリカ人チン・ワンが、中国政府から研究助成金を受けて中国の研究施設で役職をもっていることを米国で虚偽申告したとして逮捕されている。

 ■ 中国政府が推し進める「千人計画」 

 実はこの2人、中国政府が国策として海外の優秀な人材を支援する「千人計画」に参加していた。のちに詳しく見るが、この「千人計画」に関与している米国内の科学者たちはかなりの人数に上り、彼らを米国当局は「中国政府のスパイ行為に協力している」と睨んでいる。上述の摘発もその流れの中で実施されているのである。

  その動きが最近の米中関係の悪化にともない、より強化されている。いま米国政府は、新型コロナウィルスの責任問題や貿易不均衡問題、また中国の通信機器大手ファーウェイなどとの取引をめぐる争いに加えて、こうした米国内で中国政府につながりのある学者や中国人留学生などに対する締め付けを厳しくしているのだ。

 2018年11月から、米国司法省は、冒頭のリーバーやワンの事件で取り沙汰された千人計画など中国側と関与している者たちによるスパイ活動の取り締まりや重要インフラのサイバー攻撃からの保護などを含む「チャイナ・イニシアチブ」を始動した。この時、当時のジェフ・セッションズ司法長官は中国政府のスパイ活動に「もううんざりだ」と吐き捨てた。ちなみにFBIでは、その2年前から千人計画を捜査し、関係各所には注意を促していたが、“スパイ活動”が鳴りを潜めることはなかった。

 ■ 「千人計画」にすでに1万人以上が参加

  中国で2008年にはじまった「千人計画」は、中国興隆のために国外にいる中国人科学者などを中心に人材を確保することを目的としている。米情報当局者がメディアに語ったところによると「すでに1万人以上が参加しており、参加者は本職でもらっている給料の3~4倍の給料が提供される」という。

  特に米国が警戒しているのは、生物科学医学の分野などでの研究開発の情報や知的財産に関するスパイ活動で、米当局は昨年から180件に及ぶ調査を行なっている。その過程で、世界的にも知られるような主要な研究所などほとんどすべてでこうした疑いのあるケースが浮上しているという。「共同研究」などの名目で知的財産を盗まれ、中国で勝手に特許が取られている場合もあり、米当局は中国政府とつながりのある研究者や学生などが研究所などから情報を盗む「スパイ工作」に関与していると見ている。

  2019年にも、米カンザス大学で中国系の准教授が中国の大学との関係を隠していたとして起訴されている。これまでも中国は同様の手口で情報を盗んできているし、サイバー攻撃でハッキングを行なって米重要機関から知的財産や機密情報を盗んでいる。だからこそ米当局は厳しい取り締まりに乗り出している。

  中国政府に繋がっている「協力者」は、大学や研究機関のみならず、民間企業にも潜んでおり、その数は600人ほど確認されているという。うちの4分の1はバイオテクノロジー系の企業にいるらしい。 

 こうした中国政府の関与が疑われる「スパイ工作」は米中貿易交渉の中でも議題に挙がるほど深刻になっている。

 米国による締め付け強化は、科学者だけでなく、中国からの留学生に対しても行われている。トランプ政権はつい最近、中国から留学している人民解放軍とつながりのある大学院生などの入国拒否や制限を実施すると発表した。これにより3000人ほどの留学生や研究員に影響が及ぶことになる。

■ 軍人が学生を装い米国留学 

 米政府関係者がメディアに語ったところによれば、「中国政府は、軍とつながりのある大学から海外に留学する学生の選別に関与しており、学生の中には留学先の学費を免除する代わりに情報収集をするという条件で留学の許可を得ている者もいる」という。

  実際に1月には、人民解放軍の傘下にある国防科学技術大学と関係がある29歳の女性軍人が、学生を装ってボストン大学に留学し、2年近くにわたって物理学や医用生体工学の学部に出入りして情報を中国に送っていたとしてFBIに指名手配されている。 


 また2019年12月には、ハーバード大学に留学していた中国人のがん研究者ジェン・ザオソンががん細胞の入った生物試料の瓶を21本も隠し持って中国に帰国しようとしたところ、ボストン空港で逮捕された。

  こうした事態を踏まえて米国務省は、2018年から中国人研究者らに対し、センシティブな情報や研究を行う大学や研究機関への留学ビザの期間を1年に短縮(1年ごとに更新可能)した。一方で、留学生がもたらす学費などのビジネスは莫大で、2019年は450億ドル(全留学生)のカネが米国もたらされていることから、学部生については引き続き留学を許可している。

 締め付けがどんどん厳しくなる中国人留学生に対する態度は、大学によっても差があるようだ。

  筆者は米マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学していたが、その際に、大学側と知的財産の所在を明確にして大学から無断で持ち出さないと合意する文書にサインをさせられた。米国の名門大学や大学の研究機関などでも大学院生や研究者などに対するそうしたルールは徹底している。特にマサチューセッツ州のボストン近郊には名門大学が近くにいくつもあり、どこも大学の研究の扱いは厳しいはずで、実際にMITなどでは中国人留学生や教員が摘発さえるケースは聞かない。それどころか、研究協力をしていた中国のAI関連企業が中国国内でウイグル族などへの監視に関与しているとして、研究関係を直ちに解消している。それだけにハーバードの教授の逮捕は衝撃的だった。

  もっともハーバードは中国政府と関係は悪くない。そのため逮捕された教授以外でも、中国共産党の息のかかった教授などが暴露されている。有能な人材を多数輩出しているだけに、そうした外国からの影響にも人々は注目している。

 ■ 日本だって当然中国スパイの標的 

 筆者は少し前に、イスラエルの元情報機関関係者と話をしていて、中国の対外工作について見解を聞いたことがある。

  「中国人の裏の活動は私たちも注視しています。サイバー攻撃で知的財産を盗もうとしてくることも把握しています。イスラエルでも米国でも、中国からの留学生は警戒が必要です。なぜなら、彼らの家族は中国国内にいて、言わば人質のようなものです。家族が人質なら、指示されたことはやらざるを得ない。それが情報を盗むというスパイ工作に繋がるのは当然でしょう」

  誤解ないようにはっきりしておくが、すべての中国人留学生や研究者がスパイだと言っているのではない。ただよからぬ目的を持っていたり、中国共産党から指示を受けたりして動いている人たちが中にいることは米国の例からも明らかである。 

 もちろん、これは米国だけの話ではない。「中国人スパイ」は、世界各地で様々な手を尽くして組織的に情報を盗もうとしている。日本でも最近、三菱電機が中国政府系ハッカーらによって8000人以上の人事情報や機密情報が盗まれたと話題になっていた。

  日本の政府機関や研究機関、民間企業が、中国だけでなく世界中の情報機関やハッカー集団から「おいしい標的」として目をつけられているのは事実だ。米国並み、とは言わないが、外国からの公然・非公然のスパイ活動に対し、もっと警戒レベルを挙げておく必要があるのではないだろうか。

山田 敏弘

【私の論評】コロナが変えた世界では、5年〜10年で起こる変化が1年〜2年になる(゚д゚)!

中国の千人計画については、このブログでも過去に掲載して、警鐘を鳴らしたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【瓦解!習近平の夢】「千人計画」は知的財産泥棒? “超ハイレベル人材”で科学的発展目論むも… 米は違反者摘発へ本腰―【私の論評】トランプ政権の“泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機(゚д゚)!

千人計画」のロゴ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

この記事は、2018年11月14日のものです。この頃から、中国の「千人計画」や、それ以前から稼働していた「外専千人計画」等が知られていました。

無論、その頃から米国は、この「千人計画」等にかかわる、米国内のスパイを摘発していました。日本でも報道されたので、ご存知の方々も多いと思います。

ただし、その規模や奥行きは、米国内でも考えもおばなかった規模のようです。

実際2019年11月にもそれについて米国内で報告がなされてました。

中国の国外で研究を行っている研究者らを中国政府が募集する人材募集プログラムにより、米国政府の研究資金と民間部門の技術が中国の軍事力と経済力を強化するために使われており、その対策は遅れている、と米国議会上院の小委員会が2019年11月に公表した報告書が指摘しました。

報告書は、上院国土安全保障政府問題委員会調査小委員会(委員長Rob Portman;共和党所属、オハイオ州選出)が超党派報告としてまとめ、公表しました。

Rob Portman

報告書の調査は、米国の連邦捜査局(FBI)、全米科学財団(NSF)、国立衛生研究所(NIH)、エネルギー省、国務省、商務省、ホワイトハウス科学技術政策室の7つの組織を対象に8カ月間かけて行われました。同小委員会は2019年11月19日、この報告に関する公聴会を開き、議論しました。

報告書などによると、中国は2050年までに科学技術における世界のリーダーになることを目指しているそうです。中国政府は1990年代後半から、海外の研究者を募集して国内の研究を促進しており、そうした人材募集プログラムは現在、約200あります。その中で最も有名なものが、「海外高層次人才引進計画」(千人計画、Thousand Talents Program)です。報告は千人計画を詳しく分析しています。

千人計画は2008年に始まり、2017年までに7000人の研究者を集めたとされる。ボーナスや諸手当や研究資金が用意され、対象は中国系の研究者とそれ以外の場合の両方がある。Portmanは、千人計画の契約の実例のいくつかの規定を取り上げた。契約は、参加する科学者たちに、中国のために働くこと、契約を秘密にし、ポスドクを募集し、スポンサーになる中国の研究機関に全ての知的財産権を譲り渡すことを求めている。

さらに契約は、科学者たちが米国で行っている研究を忠実にまねた「影の研究室」を中国に設立することを奨励している。NIHの副所長Michael Lauerは、「中国は、影の研究室のおかげで米国で何が進んでいるかを世界に先駆けて知ることができます」と議員たちに説明した。「NIHが、影の研究室の存在を米国の研究機関に知らせると驚かれることがしばしばで、多くの研究機関は職員が中国に研究室を持っていることを知りませんでした」とLauerは話した。

報告書によると、エネルギー省の調査では、米国立研究所に所属していたあるポスドク研究員は、千人計画に選ばれて中国で教授職を得、中国に戻る前にこの研究所から機密扱いではない3万件の電子ファイルを持ち去ったといいます。この研究員は中国の研究機関に対し、米国での自分の研究分野は高度な防衛力を持つために重要なものだと話し、中国の防衛力の近代化を支援する研究を計画していたといいます。

こうした中国のプログラムに対し、FBIや米国の研究機関の対応は非常に遅く、研究機関は米国の研究を守るための取り組みを組織しなければならない、とPortmanは指摘しました。「私たちは、もっと素早く行動しなければなりません」と彼は話しました。

報告書は、外国の人材募集プログラムに参加している研究者には、その契約条件などの完全な開示なしに米国の研究資金を得られないようにすべき、などと提言しています。また、基礎研究で得られる成果には可能な限り制約をかけないという、米国政府が1985年から採用してきた基本方針の再検討を求めています。Portmanらは対策の立法化にも言及しています。

この問題の調査で、中国系の研究者たちが不公平に標的にされているという懸念も生じています。報告書は、米国政府出資の研究を守ることと国際協力を両立させることは今後も必要だとしています。

米国大学協会(ワシントンDC)の政策担当副会長のTobin Smithは、「報告は、人材募集プログラムの契約内容を徹底的に調べることにより、この問題を生々しく伝えています。大学教員たちに、こうした人材募集プログラムに加わる場合は注意しなければならないことを気付かせるには、この報告が役立つはずです」と話したとされています。

2018年時点でも、「千人計画」などについては、その脅威が認識されていたにも関わらず、2019年時点でも、塀国内ではまだ取り組みが遅れていたようです。

それが、今年の1月には米マサチューセッツ州の名門大学であるハーバード大学で、化学・化学生物学部長が逮捕されたというのですから、米国でもようやっと取り組みが本格化してきたようです。

そうして、この動きは加速するでしょう。なぜなら、現在はコロナウイルスの蔓延による影響が世界を覆っており、コロナが変えてしまった世界は過去とは異なるものになるからです。

特に、米中対立は世界経済をどう変えるのでしょうか。リスク分析を専門とするアメリカの国際政治学者、イアン・ブレマー氏は本日の「Newsモーニングサテライト」テレビ東京に出演して以下のようなことを語っていました。

コロナ危機は少なくとも3年は続き、世界経済は10%以上縮小するだろう。 
最大の懸念はどれほど多くの職が失われるかだ。最も心配しているのは米中の対立だ。今は米中の相互依存が薄れ、技術をめぐる冷戦が起きている。 
米中は互いの技術に投資せず、互いに介入を許さない状況だ。米中の溝は深まり、その影響は経済の他の分野にも広がるだろう。 
米中間の不信が強まる中で、両国で人件費は上昇している。米中にまたがっていたサプライチェーンを国内に戻す動きが強まるだろう。
グローバル化からの急激な逆行は世界の姿を変えるとブレマー氏は指摘しています。ブレマー氏は「10年かけて起こるような変化が1~2年の間に起きるだろう。破壊的なことで、世界の地政学を変えてしまう。民主主義や自由市場の有効性や正当性も変えてしまうだろう。世界を緊張が覆うことになる。」などと述べました。

私もイアン・ブレマー氏の指摘は正しいと思います。米中対立が先鋭化しつつある現在、米国の研究機関に堂々と巣食う中国のスパイたちも、コロナ以前であれば、5年〜10年かけて摘発が行われだのでしょうか、今後は1年〜2年にスビードアップされることになるでしょう。

先に掲載したリンク先の記事の結論部分を掲載します。
日本と米国は同盟関係にあります。だから、日本には米国の情報もかなり蓄積しています。これが、中国に盗まれるということもあります。これは、明らかに米国にとって大きな不利益です。 
さらに、米国の技術ではなくても、日本の技術が中国に盗まれ、「中国製造2025」に大きく寄与することになれば、これも米国は自国にとって不利益とみなすことでしょう。 
このように、日本経由で中国に米国の不利益になる形で、情報が漏れれば、米国は黙っていないでしょう。それこそ、日本に対して制裁を課すということにもなりかねません。 
トランプ政権の“知的財産泥棒狩り”は、日本にとっても他人事どころか今そこにある危機なのです。
この記事を書いた、2018年11月14日時点では、日本の本格的な危機に対処するには、なんとなく5年から10年と思っていました。しかし、コロナによって変わった世界においては、1〜2年で、そのような脅威に日本が見舞われるかもしれません。

今のところ、政府はコロナ対策で目いっぱいのところがあると思いますが、こうしたコロナによって変わった世界にを目を配り対策を立てておくべきと思います。特に中国への対応は、旗幟を鮮明にすべきです。

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中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に―【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!





2020年5月26日火曜日

香港は米中通貨戦争の主戦場 習政権、強権支配は経済自爆への引き金 ―【私の論評】国際金融市場をカジノにたとえると、中国は1プレイヤーに過ぎないが、米国は胴元(゚д゚)!

ビジネスアイコラム
香港は米中通貨戦争の主戦場 習政権、強権支配は経済自爆への引き金 



   米中対立はコロナを挟んで冷戦を通り越して熱戦に転じかねない。1月に米中貿易第1段階合意で米中貿易戦争が休止となったのもつかの間、新型コロナウイルス発生時の情報を隠蔽(いんぺい)した中国の習近平政権に対するトランプ米政権の怒りが爆発している。対する北京の方は激しく反発すると同時に、香港に対して国家安全法制定を強要して、「一国二制度」を骨抜きにする挙に出ている。ワシントンはこれに対し、対中制裁を辞さない構えだ。

 こうした一連の米中激突の表層は政治劇だが、根底は米中通貨戦争である。トランプ政権は2018年に米中貿易戦争を仕掛けて以来、中国にハイテクと並んでドルを渡さない決意を日々刻々強めている。ドル依存こそは北京の最大の弱みであり、習政権はだからこそドル流入の玄関である香港を強権支配しようとする。それが「香港国家安全法」の真の意味である。

 だが、トランプ政権には切り札がある。ワシントンが昨秋制定した「香港人権民主法」である。トランプ氏は同法によりいつでも習氏の喉元に刃を突き付けられる。

 同法は、香港が中国政府から十分に独立した立場にあり、優遇措置適用に値するかを国務長官が毎年評価するよう義務付けている。米国は、香港で人権侵害を行った個人に対する制裁や渡航制限を課すことができる、というのが一般的に報じられている概要だ。

 同法の条文に目をこらすと、メガトン級破壊兵器の起爆装置が仕込まれていることに気付く。起爆装置とは「1992年香港政策法」修正条項である。香港政策法とは97年7月の英国による香港返還に合わせて92年に成立した米国法で、香港の高度な自治の維持を条件に、香港に対する貿易や金融の特別優遇措置を対中国政策とは切り離して適用することになっている。

 優遇措置は通常の国・地域向けの場合、貿易、投資、人的交流が柱になり、香港も例外ではないのだが、ただ一つ、香港特有の項目がある。それは「香港ドルと米ドルの自由な交換を認める」となっていることだ。香港人権民主法に関連付けた「92年香港政策法」の修正条項によって、米政府は香港の自治、人権・民主主義の状況によっては「通貨交換を含む米国と香港間の公的取り決め」も見直し対象にできるようになった。

米ドルに対するカレンシーボード制を採用している香港ドル

 香港の通貨金融制度は「カレンシーボード」で、香港金融管理局が香港ドルの対米ドル・レートを固定し、英国系の香港上海銀行、スタンダードチャータード銀行と中国国有商業銀行の中国銀行の3行が手持ちの米ドル資産に見合う香港ドルを発行する。つまり、香港ドルを米ドルに自由に交換できることが前提となっている。

 中国本土への海外からの対中直接投資や本土からの対外直接投資の6割以上は香港経由である。香港ドルが米ドルとのリンクを失えば、香港は国際金融センターではなくなる。香港に拠点を置く日米欧の企業、銀行にとっても打撃になるが、同時にそれは習政権にとっては、中国経済自爆の引き金になりかねない。

 習政権が香港国家安全法を強行するかどうかは米中通貨戦争ばかりでなく、自国経済、さらに習近平体制の命運に関わるだろう。(産経新聞特別記者 田村秀男)

【私の論評】国際金融市場をカジノにたとえると、中国は1プレイヤーに過ぎないが、米国は胴元(゚д゚)!

中国は単純な理屈を理解していないようです。国際金融市場をカジノにたとえると、米国はカジノのハウス側であり、中国は単なるプレイヤーに過ぎないです。いくら金を持っていたとしても、ハウスのルールは変えられません。ハウス側である米国は、中国を出禁にできます。

カジノでいえば、中国は壱プレイヤーにすぎないのだが、米国は胴元である

無論ハウス側も、自分だけが儲かるようなことをしていれば、お客は集まりまりません。お客にとって、信頼できる、まともな規則や規制や管理手法でカジノを運営しなければならくなります。

現在の国際金融市場には、多くの国々が参加しているわけですから、カジノでいえば、たくさんの客が集まる優良カジノということができると思います。

だから、米国が中国に注文をつけるのも、米国のみの利益を代表しているのではなく、世界中の多くの国々を代表して言っているわけです。無論、イランや北朝鮮などの国々はその中には入らないでしょうが、多くのまともな国々の考えは代表しています。そこを中国は勘違いしていると思います。

かといって、中国が今更新たなカジノ(国際金融市場を作ろうとしても)を作ろうとしても、そのようなノウハウもないし信用もないわけです。もし、中国が独自の国際金融市場をつくったとしても、加入するのは中国、北朝鮮、イラン、その他アフリカや経済的には無価値な国々しかないでしょう。

ただし、中国の国際金融市場に入った国々でさえ、米国の国際金融市場も利用するでしょう。使い勝手の悪い、カジノからお客が抜け出すように、いずれ他の国も抜け出し、中国だけが残るかもしれません。

米国側は、場合によっては、香港ドルを紙くずにする可能性も出てきて、そうなれば、中国は破滅への一歩を踏み出すことになるわけです。

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は24日、NBCテレビに出演し、香港の統制強化を定めた「国家安全法」が成立すれば、中国に制裁を科す可能性を示唆しました。

オブライエン米大統領補佐官

その上で「香港がアジアの金融センターとしてとどまると考えるのは難しい」と警告したました。

先程のカジノのたとえでいえば、香港はカジノで特別なお客として、自由に香港ドルをドルというチップに交換できたのですが、その特別待遇を剥奪されることもあり得る事態となったのです。

香港問題が米中対立の新たな火種に浮上しています。オブライエン氏は、昨年11月に成立した「香港人権・民主主義法」に基づく制裁を示唆した格好です。

同法は「一国二制度」に基づく香港の「高度な自治」が機能しているかどうか検証する年次報告書の提出を国務省に義務付けています。米国が香港に認めてきた関税などの優遇措置の是非を判断するほか、人権侵害に関わった中国当局者への制裁も可能にしました。

ドルと香港ドルが換金できなくなれば、人民元の価値もかなり落ちます。人民元は香港ドルに換金しないと他国から、輸入ができなくなります。

それでも中国は、香港に対して国家安全法制定を強要して、米国の怒りを買い、国際金融市場から放逐されたいのでしょうか。そうなれば、このブログでも何度か主張しているように、中国は石器時代に戻りかねないです。

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2020年5月20日水曜日

コロナの裏で進められる中国の香港支配―【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!


 国際社会は目下、新型コロナウイルス(COVID-19)への対応で精一杯であるが、この機会に乗じたような形で、中国政府は香港への締め付け強化に乗り出した。香港警察は、4月18日、民主派主要メンバー15人を一斉摘発した。この中には、現職の立法会議員である梁耀忠氏や「民主の父」と呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)元議員、民主化運動支持のメディア、蘋果日報(アップル・デーリー)の創設者である黎智英(ジミー・ライ)氏も含まれる。


 また、香港政府は、4月19日、「香港基本法」(ミニ憲法と呼ばれるもの)の解釈を変更し、中国による香港への事実上の介入を合法化した。

 4月18日付の台湾の英字紙タイペイ・タイムズ紙は、社説で、中国政府がCOVID-19 に関するプロパガンダを世界に拡散させている陰で、香港の司法の独立を破壊する企てを進めていることを警告している。このような香港での動きの背後にある中国の介入意図に対して、警戒を怠るべきではないと呼び掛けている。もっともな内容である。

 香港では、昨年6月に、民主派諸勢力による反政府デモが本格化して以降、今回の摘発は最大の規模に当たる。民主派諸勢力は新型コロナウイルスへの対策もあり、デモの際には、5人以上が1か所に集まることがないように、香港政府や中国共産党に対するデモを自粛してきた。その間隙に乗じるような形で、今回の民主派主要メンバー15人の摘発行為が行われた。

 さらに、中国及び香港政府側は、この摘発行為の直後に唐突な形で、「香港基本法」の解釈を変更した。「香港基本法」第22条には、「中国政府所属の各部門は香港特別行政区が管理する事務に干渉できない」と規定されている。ところが4月17日、突如として、中央政府駐香港連絡弁公室等は、従来の解釈を変更し、「自分たちは中国政府所属の各部門ではない」と主張しはじめた。

 そして、4月19日には、香港政府もこの主張を追認し、事実上、中国政府が合法的に香港の問題に介入することができる道が開かれた。そして、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、香港の民主化運動を「国家安全保障への脅威」と位置付けた。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

 中国共産党は、昨年11月の香港区議会議員選挙における民主派勢力の圧倒的勝利に危機意識を募らせていたが、本年9月に予定されている立法院(議会)選挙を控え、香港基本法の解釈を変えてでも、民主化運動を阻止することを決めたのであろう。

 このようにして、事実上、香港における「一国二制度」の法的運用は挫折し、中国共産党の言う「法の支配」は空念仏に終わることとなった。

 昨年までの香港の大規模デモなどの動きを考えれば、香港での民主化運動がこれで直ちに終止符を打つとは考え難い。香港民主派諸勢力は、本年7月には大規模デモを行うことを準備しているとも伝えられるが、中国・香港をめぐる緊張関係は今後一層強まるものと見るべきだろう。

 4月18日の香港の民主派逮捕等に関しては、ポンペオ国務長官が声明を出し、中国共産党政府は、香港返還後も高度な自治を保障し、法の支配と透明性を確保するとの中英共同宣言のコミットメントに反する行為であると非難した。マッコネル上院院内総務も、中国共産党が新型コロナウィルスを利用して平和裡に抗議する民主派を逮捕することは許されない、我々は香港と共にある(We stand with Hong Kong)とツイートした。

 香港問題は、今後も、香港内の対立を生むばかりでなく、米中対立の1つの火種にもなるだろう。

【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!

台湾のコロナ対策については、このブログでも何度か掲載しました。昨年夏に中国政府が発表した台湾への個人旅行禁止令。台湾の香港デモ支持や蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の訪米などに対する仕返しと考えられ、台湾経済に大きな打撃を与えていたが、結局はそれで台湾人の命が救われました。「人間万事塞翁馬」という言葉そのものでした。

ただし、台湾政府の反応も素早いものでした。今年1月23日に武漢が封鎖されると、台湾は2月6日に中国人の入境を全面禁止しました。台湾は中国の隠蔽体質をよく知っていて、公表されたデータを決して信じないので、迷わず決断しました。ちなみにもう1つ、どこよりも早く中国人の入国を禁止した国がある。中国の最も親しい兄弟と称する北朝鮮です。

香港の対応も素早いものでした。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的でした。

そうして、その背後には日本人の活躍もあります。それは、香港大学公共衛生学院の福田敬二院長です。福田氏は、東京生まれです。幼少期の頃に医師だった父の仕事の関係でアメリカで育ちました。

香港大学公共衛生学院の福田敬二院長
バーモント大学で医師の資格を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で公衆衛生の修士号を取得。その後、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)で疫学の専門家としてインフルエンザ局疫学部長を務めたほか、世界保健機関(WHO)の事務局長補などの要職を歴任し、2016年12月から現職です。

1997年に鳥インフルエンザA(N5N1)が広がった際、CDCのメンバーとして来港したほか、重症急性呼吸器症候群(SARS)の時にも香港を訪れてアドバイスしています。エボラ出血熱などでも手腕を発揮するなど疫学の世界的権威の1人です。

香港では、福田敬二氏の指導により、欧米のようにロックダウンをせず、外出も認めています。一方、レストランは総座席数の50%しか利用させないなどの制限付きの営業活動を認め、経済にも配慮しつつ感染爆発を防ぎました。市民一人ひとりにソーシャルディスタンスを呼び掛けるだけではなく、意図的に作り出したのです。

その香港では、大学入試で出された歴史の問題をめぐり、中国側が「日本の侵略を美化するものだ」と取り消しを要求、民主派や教師が中国の介入に反発を強めています。

批判されているのは、14日に行われた統一試験の歴史の設問。(1)1905年に清国側の要望で日本の法政大に1年の速成課程が設置されることが記された文書(2)12年に中華民国臨時政府が日本側に支援を求めた書簡-を資料として挙げた上で、「1900~45年の間に日本は弊害よりも多くの利益を中国にもたらした」とする説について、どう考えるかを問うものでした。

大学入試問題に日中の歴史が出題されたことを伝える香港の新聞

試験後、中国系香港紙や中国外務省の香港出先機関が「日本の弊害を示す資料が提示されていない」「中国国民の感情を著しく害する設問だ」などと非難。香港政府の楊潤雄教育局長は「(日本の侵略が)有害無益だったことは議論の余地がない」として、入試を担当する独立機関に対し、設問を無効とするよう求める異例の事態に発展しました。

中国国営の新華社通信も15日、「設問を取り消さなければ、中国人の憤怒は収まらない」と強く反発し、「香港の教育は学生に毒をばらまいている。根治させよ」と香港政府に要求する論評を配信した。

これに対し、教育界選出の香港立法会(議会)議員(民主派)である葉建源氏は、「設問は学生に同意を求めているのではなく、分析能力を問うものだ」として、香港・中国当局の過剰な反応を批判しています。

香港は41年から45年まで日本の支配を受けた歴史があり、香港政府や中国の見解を支持する声もあります。一方で当局の激しい批判をめぐり、「青少年の自由な思考を抑圧するものだ。文化大革命を想起させる」(高校教師)との懸念も出ています。

民主派寄りの香港紙、蘋果日報は、毛沢東が生前、日本軍が中国の大半を占領しなければ中国共産党は強大になれなかったとして、「日本軍閥に感謝しなければならない」と述べていたことを紹介、設問を問題視する当局を揶揄(やゆ)しています。

さて、香港は日本人にとって人気の渡航先の1つで、2018年に香港を訪問した日本人の数は128万7800人に上りました。距離も近く、美食も豊富で、アジアと欧米の文化の交差点ともいえる香港は独特の魅力であふれています。

日本が好きな香港人も少なくなく、英語が通じる利点もあります。中国メディアの百度家は15日、香港は日本人旅行者を歓迎するのに、中国人はさほど歓迎されていないと不満を示す記事を掲載しました。

どんなところに、日本人と中国からの旅行者に対する対応の違いを感じるのでしょうか。記事は、「滞在できる期間が全然違う」と伝えています。中国からの旅行者は、「わずか7日」しか滞在できないのに、日本人は90日も滞在できることを強調しました。

記事は、この理由について「中国から人が流入しすぎた」ことにあると分析。香港は世界でもまれにみる超過密地域で、極めて小さなエリアに700万人以上がひしめき合って暮らしています。そのため、住宅と交通に深刻なひずみが出ているが、記事はそうなってしまったのはひとえに香港の進んだ経済・生活・教育に引き寄せられて移住してきた中国からの流入者のためだとしています。

記事では指摘していないですが、中国から越境して香港で出産しようとする女性もいるため、妊婦の入境にも厳しいです。香港政府はこれ以上の流入を抑えようとしているようです。

それに引き換え、日本からの旅行客は移住が目的ではなく短期旅行者です。そのため、香港にとっては「経済を回してくれる」貴重な存在で、むしろ「長期滞在して欲しい」くらいだ、と差別的に感じる香港政府の対応には理由があると伝えています。

香港は訪日旅行者の多い地域でもあります。2018年には人口が700万の香港から220万人もの香港人が日本を訪問しており、その多くがリピート客だったと言われています。今は日本も香港も、双方が旅行客を受け入れられない状態が続いていますが、早く以前のように旅行者が行き来できるようになってほしいものです。


日本人が、香港のコロナ禍の封じ込めに寄与したこと、コロナ以前には、互いの交流が盛んだったことを考えると、日本と香港は良好な関係にあると言って良いでしょう。

ただ、残念なのは、米国のように香港を支援する動きが日本ではあまりないことです。米国では法的措置をとってまで、香港を支持する姿勢を明確にしています。

世界が香港情勢を注視するなかにあって、香港人の苦悩にとりわけ心を寄せ、支援を行ってきたのが、台湾の人びとです。蔡英文総統は国際社会に対して香港の自由と法治のための行動を呼びかけました。

桃園市のような地方レベルでも香港からの移民支援に関する議論が始まっています。大学でも、香港からの学生の短期受け入れが積極的に行われています。

市民レベルでの支援も活発です。昨年6月以来、台湾各地では、香港に連帯する集会やデモが頻繁に行われていました。大学の構内には、学生たちが香港への連帯の言葉を綴った紙をびっしり貼り付けた「レノンウォール」が出現し、教会は、カンパを集めて防毒マスクやヘルメットをデモ隊に送り届ける地下チャネルの窓口となりました。

最近では、逮捕のリスクにさらされる香港の若者たちを台湾へ逃亡させる地下ネットワークが立ち上がり、牧師、漁民、富裕な資金援助者といった支援者たちが協力して、200人以上の香港の若者を台湾に逃したことが報じられています。

昨年の、香港の抗議活動の特徴は、破壊行動も辞さない過激派と、平和な集会やデモを行う穏健派のあいだの連帯が一貫して保たれていることにありました。両者の団結が、デモ発生前の香港社会の状況と抗議活動の展開のなかから創り出された「連帯の倫理(ethic of solidarity)」――仲間割れを避け、団結を維持しようとする精神――に支えられているこようです。

台湾の香港に対する精神的支援も、この「連帯の倫理」に貫かれています。台湾の学生や知識人たちの多くは、香港の穏健派がそうであるように、過激派の破壊活動を非難するのではなく、彼らをそのような行動に追い詰める香港の政府・警察の対応、そして中国政府の姿勢を強く問題視しています。

台湾の人びとは、2019年の香港人の苦難に、自らの歴史を重ねて深い同情を寄せています。台湾は、1947年の「二二八事件」とそれに続く白色テロの時代に、多くの有為の若者を失いました。これによって国民党政権と台湾の本省人社会の間に生まれた不信感と社会の亀裂は、何十年にもわたって続き、今なお完全に癒えてはいません。

香港の一部の若者たちの破壊行動に対して、年配者を含む台湾の人びとが「連帯の倫理」を発揮するのは、若者たちが払いつつある犠牲の大きさと社会の傷の深さを、台湾の人びとが我がこととして深く理解しているからであるように思われます。

日本でも、市民ベースで、「連帯の倫理」で台湾・香港の人々との絆を深めるとともに、日本政府としても、香港支援の具体的な動きをしてほしいものです。

コロナ禍に乗じて世界への覇権を強め、あわよくば、世界秩序を中国にとって都合の良いものに作り変えようとする、中国の野心はあからさまになりました。

これに対して、米国をはじめとして、世界中の国々が中国に対抗しようとしている現状で日本だけがこの動きに乗り遅れているようです。

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2020年4月5日日曜日

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情―【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情
両党の認識の齟齬が初動の遅れを招いた

アメリカで新型コロナウイルス対策の初動が遅れた理由は

2月29日、ワシントン州でコロナウイルス(COVID-19)によるアメリカ初の死亡例が公表された。それ以降、このウイルスはアメリカ各州に広がり、感染者21万人以上、死者は5000人近くに上る。

 3月13日には国家非常事態宣言が出され、多数の商店やレストランが閉鎖された。また、さらなるウイルス感染拡大のリスクを最小限にとどめるため、一部の知事や市長は住民に自宅待機を求める「ロックダウン(都市封鎖)」を発令した。

3月初旬には共和党、民主党で認識に大きな違い

 3月のはじめ、アメリカで「あなたの地域におけるコロナウイルスの感染拡大についてどの程度心配しているか」と質問したところ、共和党員の40%以上は「まったく心配していない」と答えたのに対し、民主党員で同じ答えは5%未満と、35%の開きがあった。

 しかし3週間後の3月21日になると、共和党員による同回答は40%から18%にまで急激に減少し、民主党員の回答も5%から2%に下落した。3月はじめにおける共和党員と民主党員の間の35%というこの差は、政党間の分断を反映したものと言える。

 しかしながら、このように3週間で両党の差が35%から16%に縮まったということは、この危機に対し両党の認識が近づいているということなのかもしれない。とは言え、共和党員と民主党員の間で脅威の認識にこのような乖離が生じるのはなぜなのだろうか。

 1つめの理由として、指導者たちが国民に向けて相反するメッセージを発していたということがある。アメリカの情報機関は、1月初めには中国でコロナウイルスの感染が拡大していること、そしてそれが世界的パンデミックにつながりうることをドナルド・トランプ大統領に説明していたが、大統領がその問題を真剣に受け止め、国家非常事態宣言が必要であるとの結論に至るまでには1カ月以上かかった。2月27日になっても、トランプ大統領は「今は15人だが、この15人も数日以内にほぼゼロになるだろう」と力説していたのである。

 同じ頃、国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・フォーシは、「来週、あるいは2、3週間のうちに、われわれは地域のあちらこちらで多数の症例を目にすることになるだろう」と警告していた。そしてその後まもなく、民主党の州知事であるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事などは、それぞれの州でロックダウンを発令し、不要不急の企業活動の休止や住民の自宅待機を促した。

 2つめの理由として、情報源の二極化がある。調査によると、共和党員のテレビ視聴者に人気のFOXニュースと、民主党員の多くが視聴するMSNBCでは、コロナウイルスについての報道がまったく異なっており、保守陣営の中には、民主党が意図的に「11月の大統領再選にダメージを与えようとコロナウイルスの感染拡大を「でっちあげ」ているのだ」と非難する者すらいる。

 また、共和党のSNSユーザーの多くは、主に保守系情報源を利用し、民主党SNSユーザーの多くが主に進歩系情報源を利用しているために、両者は互いに異なった、ときとして互いに理解不能な世界を作り出しているのである。

地理的な事情も影響した

 3つめの理由として、地理的な政治要因がある。東海岸および西海岸の高人口密度地域(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル)や、アメリカ中西部の大都市(シカゴ、デトロイト)は、特に感染者が多い場所である。そしてこれらは民主党が強い地域でもある。

 これに対し、感染者数が比較的少ない中西部や南部は共和党の牙城である。従って、共和党員の間でコロナウイルスに対する危機感が弱いのは、彼らの生活圏が大都市に比べて感染拡大による影響が少ない地域だからということも考えられるのである。

 コロナウイルスに対する危機認識は共和党員と民主党員の間で収束しつつあるが、この危機に対するトランプ政権の対応については、依然として党派間で意見が両極端に分かれている。

 3月初め、アメリカで「コロナウイルス発生に対する米国政府の現在の対応にどの程度満足しているか」という調査を行なったところ、共和党員では50%が「完全に満足している」と答え、「全く満足していない」と答えたのはわずか4%であった。

 これに対し、民主党の回答者のうち「全く満足していない」と答えたのは61%、「完全に満足している」と答えたのはわずか3%であった。3月21日の調査では、民主党員は64%が「全く満足していない」と答え、「完全に満足している」と答えたのはわずか2%。共和党員の回答者のうち、「完全に満足している」と答えたのは46%、「全く満足していない」と答えたのは5%だった。

 つまり、共和党員の間で危機認識が高まりはしたものの、トランプ政権のコロナウイルス危機への対応についての評価には、党派間の溝が依然として存在するのである。しかし、こうした党派間の分断にもかかわらず、党派的ないざこざの後、コロナウイルスによる経済的損害の緩和に向けた2兆ドルの法案を、3月25日に上院で可決できたことは心強い。

 おそらくこれは、誤魔化しが効く政治的危機とは対照的に、具体的に死者がでている現実的な危機的状況においては、党派の主義主張よりも事実が勝るということを示しているのではないだろうか。

統一的対応の欠如は中国の存在感を高めることに

 つい最近までは、トランプ大統領が3月24日に「4月12日のイースターまでに経済活動を再開したい」という意向を示したことをめぐり、新たな論争が勃発し始めた。大統領は、「ちょうどいい時期だし、ちょうどいいタイミングだと思った」のだという。

 しかし、公衆衛生の専門家から「その期限はあまりにも時期尚早であり、コロナウイルスの克服という見地から見て悲惨な結末につながる」と非難されたため、3月29日、大統領はこの目標を撤回した。

 世界的パンデミックの中心地はこの2カ月間で中国からイタリアへと移動し、そして今やアメリカがその中心地である。トランプ政権は、「武漢ウイルス」や「チャイナウイルス」などとレッテルを貼り、中国がパンデミックの発生源であると非難しているが、国内における両党派の対立や世界におけるアメリカの統一的な対応の欠如は、最終的には中国の存在感を高めることにつながる可能性が高い。なぜなら、現実はさておき、中国には国内における危機の克服と他国に対する支援の両面で明確な戦略があったからである。

 国内だけでなく、世界においても、党派間の対立を克服し、科学、エビデンス、透明性、そして真実に基づくリーダーシップをアメリカが発揮できるようになることを期待したい。

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【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国では、経済対策は電光石火のごとく、挙党一致で動き、素早い対応がみられました。

トランプ米大統領は先月27日、中国ウイルスの感染拡大を受けた2兆ドル(約220兆円:GDPの10%)の経済対策法案に署名し、同法は成立しました。トランプ氏はまた、米自動車大手ゼネラル・モーターズに人工呼吸器を製造するよう命令しました。

与野党は1週間に及んだ攻防の末に同法案を支持し、法案は大統領が署名する数時間前に下院で可決されていました。経済対策では平均的な4人家族に最大3400ドル(約37万4000円)を給付します。

トランプ大統領は「民主党議員と共和党議員が協力し、米国を第一に考えてくれたことに感謝したい」と述べました。

トランプ氏はまた、国防生産法を発動し、人工呼吸器の迅速な製造をGMに命じました。人工呼吸器は新型コロナウイルス感染症の重症患者の生命維持に必要ですが、不足しています。

さらに、このブログでも掲載したように、米連邦準備制度理事会(FRB)は先月3日、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)を定例会合の17、18日を待たずに緊急開催し、政策金利0・5%の引き下げを行いました。

このように、財政・金融政策では、米国は申し分のない対策を行っています。日本も見習うべきです。そのため、上で述べているように、防疫体制に問題があったにしても、一旦武漢ウイルスの蔓延が終息すれば、米国経済は比較的短期に回復する可能性が大きいです。

しかし、防疫体制には問題がありすぎました。

米国では、一月下旬に国内最初の感染者がワシントン州で確認されました。これを受けて、地域の感染症専門家とその研究チームがインフルエンザ検査を転用して、コロナウイルス検査を実施する方法を提言し、何度も連邦政府に協力を求めたが拒否され続けて何週間も経ってしまいました。彼らは二月下旬に入って、これ以上は待てないと政府の承認なしにウイルス検査の実施を敢行しました。

ところが、この研究チームは独自の検査を即時ストップすることを求められたのです。

連邦政府が彼らの要請を拒否し、検査を中止させた理由は、この研究チームの研究対象がインフルエンザであり、それをコロナウイルスに変えての検査の転用は許可できないということと、医療行為に直接関わる許可を得ていないということでした。つまり、研究倫理に関する規制を優先した結果、感染状況を早期に把握することに失敗してしまったのです。

また、ほかの専門家も二月中旬頃から初動の重要性、検査の重要性を訴え続けていたのですが、米国は中国からの入国禁止措置で稼いだ時間を事実上、無駄にしてしまいました。民間の研究機関が独自に検査を開発できるようにしようという声もあったのですが、米国食品医薬品局(FDA)がそれを許可することはありませんでした。

日本では、感染蔓延当初、感染症対策には優れた機関であると見なされていた、CDCに至っては、独自検査の開発にこだわった結果、最初に開発された検査キットが失敗作でした。

米国疾病予防センター(CDC)

現在では、トランプ大統領もCDCも、国内で感染が広がった原因は広範な検査を早期実施することに失敗したせいであるということを認めています。

いかに柔軟に規制を緩和し柔軟に対応できるかが、緊急事態における国家の対応力を左右するといえるでしょう。

日本では、米国に比較すると現状では、感染者も死者も少ない状況です。なぜそうなったかとえば、何と言っても「クラスター戦略」つまり「感染の連鎖を見える形にして、その先への感染を抑え込む」という方法論が成功したためです。

この方法論を主唱して実戦の指揮を事実上取っているのが、東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授と言われています。

ここ数週間は、孤発例(こはつれい)つまり感染経路をたどれない陽性患者が多く発見され、特に東京では感染拡大の懸念が高まっています。ですが、こうした状況においても厚生労働省のクラスター対策班は、コツコツとクラスターの「見える化」つまり感染者の濃厚接触者のフォローと、感染経路のさかのぼりといった調査を続けています。

その結果として、例えば中国との往来などを原因とした「第1波」の中では、

▼ダイヤモンド・プリンセス下船者からのクラスター発生の阻止
▼武漢からのチャーター機での帰国者からのクラスター発生の阻止
▼東京の屋形船クラスター
▼愛知のクラスター
▼和歌山のクラスター
▼北海道における北見と札幌のクラスター
▼大阪におけるライブハウスのクラスター

などは、感染経路を「見える化」すると同時に、更に感染の連鎖が続くことをほぼ抑え込んでいます。

一方で、3月中旬以降始まった「第2波」においても、多くのクラスターが続々見つかっています。例えば、京都の大学にしても、東京の繁華街にしても、最初は「孤発例」だったのが、クラスター対策班の努力で連鎖が発見できており、「第1波」と同じように封じ込めを目指した努力がされているのです。

もちろん、このアプローチには限界があります。クラスターをたどれない「孤発例」がどんどん増えていく一方で、全く「見える化」されない形で、大きなクラスターができていき、ある日突然その中から多数の重症者が病院に殺到する、つまり欧米で現在起きているような「感染爆発」が起こる可能性はゼロではありません。

しかしながら、「第2波」についても、何とか追跡ができつつあるという状況だと考えられます。4月1日から2日にかけて明らかとなった、大阪のショーパブにしても、北九州と福岡にしても、まだ油断できない状況ですが、仮にクラスターの全体像が「見える化」できれば感染の連鎖は抑え込むことは可能なはずです。

一方で、「接触の削減」については欧米ほどではないものの、一斉休校や外出自粛などの対策が強化されつつあります。これは、相当数あると思われる「見えない感染者」からの感染拡大を低減するには、必要な対策です。日本でも、一旦「クラスターが追えない」というフェーズに入ってしまうと、欧米のような事態に陥る可能性はゼロではないからです。

反対に、対策の結果として、孤発例が減少していき、「見えないクラスター」の存在する可能性が消えていく、その上で「見える化」されたクラスターを全部「潰す」ことができれば、感染の暫定的な収束に持っていくことは可能です。これが現在の日本の状況だと考えられます。

感染爆発が起こってしまった米国等においては、もうすでに「クラスター戦略」は有効ではありません。だから、米国等の国々が日本のやり方を踏襲することはできません。残念なことです。ただし、感染者数が比較的少ない中西部や南部ではまだ有効かもしれません。

私は、「クラスター戦略」を主唱して実戦の指揮を事実上取っている東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授および、彼らをサポートするおそらく、少人数のチームの人々に多くの人々が感謝とともに、協力すべきと思います。以降これらの人々を「クラスター戦略チーム」と呼びます。

この「クラスター戦略チーム」どのくらいの人数なのかは、わかりませんが、おそらく米国のCDCと比較すれば、本当に少ない人数だと思います。

無論私達の大部分は、感染症の専門家ではないので、彼らを直接サポートすることはできません。しかし、彼らに対して協力にサポートすることはできます。

それは、私達自身がなるべく感染しないようにすることです。これから、感染者がどんどん増えていけば、ましてや指数関数的に増えれば、さすがに「クラスター戦略チーム」もクラスターを追跡するのは不可能になります。

そうならないように、少しでも感染を減らして、彼らがクラスターを追跡できるように、時間的な余裕を提供するのです。

私は、彼らの献身的な地味な努力は、人々の目に見えないところで実施されているので、多くの人が意識していないようですが、彼らは、一人でも多くの人々の命を助けたいという使命感に突き動かされているのだと思います。

彼らの努力がなければ、今頃日本は、他国のようにすでに爆発的な感染で多くの人々が亡くなっていたでしょう。

私は、彼らの貢献を見て、歴史上のある言葉を思い出しました。それは、第二次高い大戦中の英国が、ドイツと空の戦い「バトル・オブ・ブリテン」を戦った最中のチャーチルの演説です。
人類の歴史の中で、かくも少ない人が、かくも多数の人を守ったことはない。— イギリス首相ウィンストン・チャーチル、1940年8月20日 下院スピーチ

バトル・オブ・ブリテンの期間中、ドイツ軍は絶え間なく沿岸沿いの飛行場や工場を爆撃した。

日本では、大昔から国難に至ると、必ずといって良いほど、英雄が出てきて国難が回避されてきました。

近いところでは、あの福島原発事故において、我が身の危険も顧みず、原発事故に立ち向かった「FUKUSHIMA50」です。これは、最近映画化されたので、多くの人達が知っていることでしょう。 たった50人があの未曾有の災害に立ち向かったのです。


私は、「クラスター戦略チーム」も日本の国難を救う英雄だと思います。

彼らの努力を無にしないため、各自治体や国の感染症対策への要望や、これから出されるであろう緊急事態宣言により、さらなる要望がでてくると思いますが、私達はそれによる、不自由や不便等は甘んじて受け、「クラスター戦略チーム」を応援しようではありませんか。

そうして、政府としては、せっかく「クラスター戦略チーム」が多くの人々を救ったにしても、その後の経済がなかなか回復しなければ、とんでもないことになりかねないですから、米国に匹敵するような経済対策を実行していただきたいものです。

そうして、忘れてならないのは、現場の医療関係者です。彼らがいなければ、感染者を救うことはできません。彼らも英雄なのです。

現在実施している施策は、第一段として、第二段、第三段と、効果のある経済対策を実施していただきたいです。それでもだめなら、10段でも20段でも実行していただきたいです。それに日銀も、異次元の緩和の姿勢に戻るべきです。

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