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2025年9月2日火曜日

伝統を守る改革か、世襲に縛られる衰退か――日英の明暗


まとめ
  • 英国の最近の政治改革は、爵位を理由に自動的に議席を継承する制度を廃止したもので、親が議員だから政治家になれないという差別的制度ではない。
  • 貴族院は13世紀以来、爵位で議席を得られる伝統が21世紀まで存続していたことは驚きであり、今回の改革はその歴史を断ち切りつつ議会制度を現代化した。
  • ドラッカーの「改革の原理としての保守主義」は未来志向と現実主義を基盤にし、理念先行の改革を戒める思想である。
  • 英国は貴族院改革で成功した一方、移民・エネルギー政策では失敗を重ねた。この対比が「改革哲学の重要性」を示す。
  • 石破茂氏は典型的エリート政治家であり、その低迷は日本政治の構造的停滞を象徴している。英国の経験は日本に大きな教訓を与える。
🔳英国貴族院改革の本質と驚きの歴史的背景
 
英国政治に激震が走った。今年、政府は新たな世襲貴族の任命を全面的に禁止し、議員退職制度を導入するという歴史的改革に踏み切った。ただし、この「世襲貴族任命禁止」は、親が議員であるからといって政治家になる権利を奪うものではない。これはあくまで、爵位を理由に自動的に上院議席を継承する特権を廃止することを意味し、血統主義を改め、民主主義を強化するための改革である。

英国貴族院

驚くべきは、この特権的慣習が長らく英国に根付いていたことだ。13世紀に王の諮問機関として始まった貴族院は、長らく貴族と聖職者の支配の象徴であり、爵位を持つ者が選挙を経ずに議席を得る制度は、21世紀に入っても一部で存続していた。この「自動議席継承」は1999年の改革でも92議席が残され、制度疲労の象徴となっていたが、今回ついに終止符が打たれた。

重要なのは、この改革が伝統を破壊せず、議会の歴史的価値を尊重した点である。貴族院は英国政治文化の基盤であり、熟議を重んじる上院の機能を保ちつつ、特権を撤廃した。この決断は、歴史を重んじながら時代に合わせて制度を改める英国の強さを象徴するものであり、伝統と改革の調和を体現している。

🔳ドラッカーが説く「改革の原理」と英国政治の思想的成熟
 

ピーター・ドラッカーは『産業人の未来』で、真に成功する改革は「保守主義」の原理に従うべきだと断言した。ここでの保守主義は過去を美化する懐古主義ではない。むしろ未来を見据え、社会を健全に機能させ続けるための哲学だ。ドラッカーは、大設計や万能薬に頼る改革は必ず失敗し、社会を混乱させると警告し、改革は理想の青写真を描くことではなく、現実の課題を一つずつ解決する地道な作業であると説いた。そして、そのためには歴史の中で実証済みの制度や慣行を最大限活用することが欠かせないと指摘した。

英国の貴族院改革は、この思想を忠実に反映している。特権的な制度を見直しつつも、貴族院という歴史の象徴を廃止することはせず、漸進的な改革によって社会の安定と信頼を保った。英国政治には、まさにドラッカーが説いた「改革の原理としての保守主義」が息づいている。一方で、英国の移民政策やエネルギー政策は理念先行の急進的改革が裏目に出て社会の分断やエネルギー危機を招き、哲学なき改革がいかに危険かを示す教訓となった。英国にも政治的混乱はあるが、それにしても今の日本ほど酷くはない。選挙で負けた首相が居座ったことは一度もない。英国の成功と失敗は、改革の命運を分けるのは思想と原理であることを物語っている。

🔳日本政治の世襲構造と石破茂の象徴性

石破茂氏が衆院選に初当選した時のテレビのインタビュー

日本政治は世襲議員の比率が高く、衆議院議員の約3割、自民党内では約4割が世襲出身である。選挙基盤や後援会を受け継ぐ仕組みは権力の固定化を生み、政治文化を硬直化させてきた。石破茂首相はその典型例である。父・石破二朗氏(元自治大臣・鳥取県知事)の地盤を継ぎ、慶應義塾大学法学部を卒業後、銀行勤務を経て政界に進出した。強固な慶應三田会ネットワークを背景に、若くから名門の文化と人脈の中で育った典型的エリート政治家だ。

高校時代は体育会ゴルフ部に所属し、多くの部員が大学でもゴルフ部に進む中で「スコア100を切ったことはない」と語ったエピソードも残る。スポーツの実績は平凡でも、名門校文化の中で築いた人脈や学歴・家系・組織力の三拍子は、まさにエリート政治家の典型だ。しかし、石破氏の低迷する支持率は旧来型政治の求心力が失われたことを示し、エリートモデルの限界を浮き彫りにしている。

英国は貴族院改革で伝統を尊重しながら制度疲労を取り除き、漸進改革によって信頼を築いた。一方で移民やエネルギー政策では理念先行の失敗が社会を混乱させた。この対比は「改革には哲学が必要」というドラッカーの思想を裏付ける。日本は世襲と旧派閥のしがらみで停滞しており、石破氏は旧来型政治の象徴である。英国の経験は「伝統を守りながら変わる」というモデルの重要性を日本に示すものである。

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2025年8月23日土曜日

釧路湿原の危機:理念先行の再エネ政策が未来世代に残す「目を覆う結果」


まとめ

釧路湿原は日本最大の湿地であり、未来世代に残すべき貴重な自然資本だ。しかし、その現場では政治の誤りや制度の欠陥が絡み合い、深刻な危機が進行している。
  • 小泉進次郎氏の再エネ推進や民主党政権の政策迷走が湿原の保護体制を弱め、開発圧力を高めた。
  • メガソーラー施設は2014年の数件から2023年には621件に急増し、規制や環境アセスメントの対象外で被害が拡大。
  • 河川直線化などで湿原の生態系は非可逆的変化を遂げ、人口減少や空き家問題など都市基盤の脆弱化も進む。
  • 再エネ賦課金は家庭に年間約1万9000円の負担を強い、中国製パネル依存や強制労働疑惑も懸念材料。
  • ドラッカーの保守主義の原理に反し、理念先行の政策が自然という社会資本を破壊し、未来世代への責任を放棄している。
🔳政治の誤算と環境政策の迷走
 
釧路湿原は日本最大の湿地であり、1980年には国内で初めてラムサール条約の登録湿地となった。世界的に価値ある自然環境として知られ、日本の象徴ともいえる存在だ。しかしその美しい景観の裏で、自然破壊の危機が静かに進行している。制度の欠陥、政治判断の誤り、国民負担の仕組み、安全保障や人権を脅かす構造が絡み合い、この湿原は今や我が国の環境とエネルギー政策の縮図となっている。
2020年、環境大臣だった小泉進次郎氏は国立公園内での再生可能エネルギー導入を推進する方針を打ち出し、規制を緩和した。理念を掲げながら現場を顧みないその政策は、釧路湿原の開発圧力を一気に高め、「最後の聖域を崩す愚策」として批判を浴びた。さらに2009年から2012年の民主党政権下では、エネルギー政策の迷走や優先順位の欠如、政治不信が地方行政や環境保全体制を弱体化させたと指摘される。釧路市政でも前市長の蝦名大也氏はメガソーラー規制に消極的で、条例制定は後手に回った。こうした政治の迷走が今日の危機を招いたのである。

湿原の周辺では、ここ10年で大規模太陽光発電施設、いわゆるメガソーラーが急増した。2014年には数件に過ぎなかった施設は2023年には621件にまで増え、釧路町や標茶町、鶴居村を含む周辺自治体でも50件から301件にまで急増した。「パシクル沼」周辺では330ヘクタールに及ぶ敷地で12万枚のパネルを設置する計画が進んでおり、湿原の景観と生態系は壊滅的な危険にさらされている。
 
🔳経済負担、安全保障、人権問題
 
農村部や国立公園外では太陽光パネルは「建物」と見なされず、建築規制の対象外であり、多くの事業が環境アセスメント義務からも外れている。積み重なる環境負荷が十分に評価されないまま、開発は加速している。釧路市は2023年に「建設不適切区域ガイドライン」を策定し、2025年には「ノーモア・メガソーラー宣言」を掲げ、10キロワット以上の事業を許可制とする条例を施行予定だが、施行前の駆け込み建設が続き、実効性には疑問符がつく。

湿原の生態系は一度壊れれば元には戻らない。戦後の治水事業や河川直線化で地下水位は下がり、土砂が堆積した結果、湿原はヨシやスゲの草地からハンノキ林へと変貌した。環境庁や研究者は河道の蛇行を復元し、AI解析で地下水位の回復を確認したが、植生は元に戻らず、湿原の変化は非可逆的であることが示された。釧路湿原の保全の難しさを象徴する事例だ。
再エネ賦課金は全世帯に毎月課されている 上は電気量の使用料明細

この現実を直視すれば、理念先行の政策の危うさは明らかだ。再エネ普及を名目に導入された「再生可能エネルギー発電促進賦課金」、いわゆる再エネ賦課金はFIT(固定価格買取制度)の財源となり、2025年度には3.98円/kWh、家庭の負担は年間約1万9000円に達する。だがこの仕組みは結果的に自然破壊を伴う開発にも資金を流し、国民は知らぬ間に破壊的プロジェクトの費用を背負わされているのだ。電気料金の高騰と相まって、この現実は国民の怒りを増幅させている。

さらに、太陽光パネルの大半が中国製であることも重大な懸念だ。パネルにはサイバー攻撃や情報流出の危険が指摘され、エネルギーインフラが外国依存となる安全保障上のリスクを抱える。加えて、多くのパネルが新疆ウイグル自治区での強制労働によって製造されているという国際的な告発もあり、人権問題としても看過できない。
 
🔳ドラッカーの警鐘と未来への責任
 
ここで、経営学の大家ピーター・ドラッカーの『産業人の未来』で説かれた「改革の原理としての保守主義」を思い起こす必要がある。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。」

釧路湿原の現状は、この原理を真っ向から踏みにじっている。自然という社会資本を守る責任を放棄し、未来への遺産を理念と短期利益で犠牲にしているのだ。これは保守主義の理念からかけ離れ、破壊的な冒険主義と呼ぶのに相応しい蛮行である。

野口健氏

一方で、希望の兆しもある。登山家で環境活動家の野口健氏は釧路湿原のメガソーラー計画に反対し、「犠牲が大きすぎる」と訴えた。彼の発信は全国で数千万件の閲覧を集め、著名人や文化人を巻き込んだ署名活動や抗議運動が広がった。釧路湿原の危機は今や国民的な議論となりつつある。

釧路湿原は単なる観光地でも教育素材でもない。国家の基盤をなす自然資本であり、我々の歴史と文化そのものである。この湿原を未来に残すか否かは、いまの判断にかかっている。政治も社会も「守るべきものを守る」という保守主義の真髄を取り戻さねばならない。

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ドラッカーの保守主義の本質を整理し、釧路湿原を巡る政策批判の思想的基盤を示す。

2025年6月7日土曜日

夫婦別姓反対!日本の家族と文化を守る保守派の闘い

まとめ

  • われわれ保守派の反対:選択的夫婦別姓は日本の伝統と家族観を脅かす。われわれ保守派は家族の一体感と文化を守るため断固反対。
  • 法務委員会の議論:2025年6月6日、立憲・国民が別姓導入法案、維新が旧姓使用拡大法案を提出。自民は親子別姓の懸念で早期採決を拒否。
  • 法的基盤:2015年最高裁は夫婦同姓を合憲とし、民法750条で姓の選択自由を保証。2020年法務省調査で同姓支持が約60%。
  • 文化的基盤:夫婦同姓は2000年の「氏姓制度」に根ざす日本の独自文化。儒教圏とは異なり、レヴィ=ストロースやハンチントンがその独自性を指摘。
  • 新たな反対視点:「選択的夫婦別姓」は問題をぼかす策略。デジタル効率(総務省2023年)、心理的結束(2019年日本家族社会学会)、文化ブランド(2023年観光庁)から反対。選択的夫婦別姓をめぐる議論は、家族観と文化の核心を突く問題だ。われわれ保守派はこれを日本の伝統と未来への挑戦とみなし、断固反対する。最新の議論、法的・文化的基盤、新たな反対理由を整理し、現代的で斬新な視点を加えて提示する。

最新の法務委員会:別姓導入をめぐる攻防


2025年6月6日の衆議院法務委員会では、立憲民主党と国民民主党が夫婦別姓導入を目指す民法改正案を、日本維新の会が旧姓の通称使用拡大を目的とした法案を提出した。自民党の山下貴司氏は、親子が異なる姓になることで家族の一体感が損なわれると懸念。旧姓の通称使用拡大で対応可能とし、早期採決を拒否した。

立憲民主党の米山隆一氏は、別姓を選んでも家族の絆は同姓夫婦と変わらないと反論し、家族内に単一の「家族姓」は存在しないと説明した。公明党の大森江里子氏は、現行法の改姓強制に人権問題を認めつつ、慎重な議論を求めた。

6月10日の次回委員会では参考人質疑が予定される。立憲は来週中の採決を狙うが、自民は徹底した議論を主張し、調整が続く。石破茂首相は党議拘束について、過去の脳死関連法案での détachment例を挙げ、今回は価値観の根幹に関わらないとして慎重だ。森山幹事長は党の一致を強調。共産党の山添政策委員長は、拙速な採決のリスクを避け、継続審議も視野に入れる。

法的・社会的基盤:夫婦同姓の意義と策略の言葉


最高裁大法廷は2015年12月16日、夫婦同姓を「合憲」と断じ、氏の統一が家族の一体感と社会の秩序を支えると明言した。現行の民法750条は、結婚時に夫婦が夫または妻の姓を自由に選べる仕組みだ。2020年の法務省統計によれば、96%の夫婦が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶ選択肢も存在する。制度の欠陥を訴えるのは的外れだ。夫婦の話し合いで姓を決められる日本に、別姓を押し込む必要はない。

野党の一部は夫婦別姓を「進歩的トレンド」と持ち上げるが、われわれ保守派はこれを日本の伝統の軽視と断じる。「選択的夫婦別姓」という言葉は、別姓導入による家族の一体感への懸念を薄める策略だ。1996年の法務省法制審議会がこの言葉を打ち出した時、伝統を重んじる層の反発を和らげようとした意図は明らかだ。われわれ保守派は、この言葉が問題の本質をぼかすと警戒する。

夫婦同姓で500年後は「全員佐藤さん」という主張もある。これは、東北大学の2022年シミュレーションに基づくが、非現実的な前提(出生率や結婚パターンの不変性)を無視する。2023年厚生労働省データでは、国際結婚が年間約2万件(全結婚の約4%)で、外国姓の導入が進む。民法750条は夫婦が夫または妻の姓を自由に選べ、2020年法務省統計で96%が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶケースが佐藤姓の独占を抑える。2022年内閣府「地域コミュニティ調査」では、地方で姓の多様性が維持されている。過去50年でも佐藤姓は1.6%(1980年)から1.5%(2020年)とほぼ横ばいだ。この誇張された主張は、別姓導入の根拠として弱い。


デジタル社会では、姓の統一が行政の効率性を支える。総務省の2023年「マイナンバー制度の運用状況報告」では、家族情報の統合が姓の統一を前提に効率化されていると推測される。別姓導入はデータベースの複雑化とコスト増を招く可能性がある。米国では、別姓による家族情報の不一致が税務申告のエラーを生む例が報告されている(2021年IRS「Taxpayer Advocate Service Annual Report」)。この視点は、伝統論に現代の技術的現実を加えた新たな反対理由だ。

日本の文化と新たな反対視点:伝統と現代の融合

日本の夫婦同姓は、2000年以上の歴史に裏打ちされた文化の結晶だ。奈良時代から続く「氏姓制度」は、家族の連続性を重んじ、『日本書紀』や『続日本紀』にその記録が刻まれる。「夫婦同姓は明治になってからの伝統」という意見は、これを無視し、歴史を矮小化したものにすぎない。

儒教文化圏の中国や韓国では、宋代以降、男性中心の家系継承が女性の姓の保持を強いた。韓国では2008年まで夫婦同姓の選択肢がなく、今も別姓が標準で、女性は男性の姓を名乗れない。日本は夫婦が自由に姓を選べる「選択的夫婦同姓」の国だ。文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』(1962年)で、日本の家族構造が血縁より社会的な結びつきを重視すると論じた。サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(1996年)で、日本が儒教とは異なる文明圏を築いたと指摘した。

社会心理学では、姓の共有が家族の集団アイデンティティを強化する。2019年の日本家族社会学会調査(『家族社会学研究』Vol.31, No.2)では、同姓の夫婦が強い家族の一体感を感じ、子どもの社会的適応や自己認識に間接的な好影響を与えると報告された。別姓は子どもの社会的適応に微妙な影響を及ぼすリスクがある。

グローバル化の文脈では、夫婦同姓は日本の文化ブランドだ。2023年の観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、訪日外国人の30%以上が日本文化全般に魅力を感じるとされ、家族文化はその一部と推測される。別姓導入は、この独自性を薄め、グローバルな均質化に流される危険をはらむ。2020年の法務省調査で、夫婦同姓を支持する声は約60%を占める。最高裁の判決と日本の歴史を顧みれば、夫婦別姓を「進歩」と呼ぶのは誤りだ。

われわれ保守派は、家族の絆、行政の効率、文化の独自性を守るため、別姓導入に断固反対する。これは単なる制度の話ではない。日本という国の魂をめぐる闘いだ。

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2025年6月4日水曜日

AIを装った人力詐欺:Builder.aiの破綻と技術の虚偽が暴く政治の闇

まとめ
  • 技術の虚偽による破綻:Builder.aiはAIを装った人力作業で売上水増しが発覚、2025年に破産。東芝やJDIも技術・財務の虚偽で危機に陥った。
  • 政治利用の暗部:DeepSeekはデータ送信疑惑で信頼を失い、中国の監視体制と結びつく。石破首相の消費税減税「1年」発言は誇張と批判され、財政優先の意図が疑われる。
  • 過去の類似事例:Cambridge Analytica、Theranos、ドットコムバブルのPets.comやWebvan、AIスタートアップのOlive AIなどが、技術誇張で失敗。
  • 対策の鉄則:個人は情報源検証、技術学習、批判的思考、迅速な対応を。企業は監査、透明性、専門家雇用、リスク管理を徹底。ドラッカーの「覚醒のショック」で他者を真実に導く。
  • 教訓:技術の虚偽は商業的・政治的不信を招く。歴史は繰り返す。真実を見抜くには検証と行動が不可欠だ。
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技術の虚偽が招く破綻
英AIスタートアップBuilder.aiは、Microsoftやカタール投資庁から4億4500万ドル以上を集め、2023年に15億ドルの評価額を誇った。しかし、2025年5月、破産申請に追い込まれた。AIでアプリを自動開発する「Natasha」を謳ったが、実際はインドとウクライナの700人以上のエンジニアが手作業でコードを書き、AIは表向きの看板にすぎなかった。2019年のウォール・ストリート・ジャーナルがこの「AIウォッシング」を暴き、批判が殺到した。2024年の売上高は2億2000万ドルと予測されたが、実際は5500万ドル。300%の水増しだ。債権者のViola Creditが3700万ドルを差し押さえ、残高500万ドルでは運営が続かず、600人近い従業員の8割を解雇。米国司法省とSECが証券詐欺の疑いで調査を開始した。元従業員の告発や顧客の怒り(「65,000ドルを無駄にした」との声)が、信頼の崩壊を加速させた。

人力AIのイメージ AI生成画像

日本の事例も衝撃的だ。2015年、東芝は1520億円の利益水増しが発覚。PCや半導体事業の損失を隠し、監査法人と癒着していた。株価は暴落、経営陣は辞任に追い込まれた。ジャパンディスプレイ(JDI)は、Apple向けディスプレイ技術を誇張し、政府系ファンドから巨額の資金を得たが、技術の遅れで2019年から経営危機に陥った。これらは、技術の誇張と不透明なビジネスモデルの危険性を突きつける。
政治利用の闇
テクノロジーの虚偽は政治にも及ぶ。2016年のCambridge Analyticaはデータ分析を誇張し、選挙操作を謳った。2023年には、ディープフェイクが米国選挙で偽動画を拡散。中国のDeepSeekは、2025年に生成AIの低価格モデルで注目されたが、データプライバシーの疑惑が噴出。米ABC(2025年2月4日)は、コードに中国移動通信のサーバーへ個人情報を送信する機能が隠されていたと報じた。台湾は著作権違反や思想検閲のリスクで全面禁止を決定(ロイター、2025年2月5日)。韓国も外務省や銀行が接続を遮断(朝鮮日報、2025年2月8日)。OpenAIからのデータ不正入手疑惑も浮上(ブルームバーグ、2025年1月30日)。中国の社会信用システムは「公共の安全」を名目に市民監視を強化。DeepSeekの疑惑は、国家によるデータ悪用の危険性を示す。

日本でも、2025年5月21日、石破茂首相が党首討論で「消費税減税にはレジシステム変更に1年かかる」と発言。減税を避ける姿勢が透ける。しかし、産経新聞(2025年5月30日)は、小売店経営者が中小では「1日でできる」大手で「3カ月で対応可能」と反論したと報じた。コロナ禍でドイツなど30カ国が迅速に減税した事実とも矛盾する。朝日新聞(2025年5月31日)は「ほぼ正確」と擁護したが、産経新聞(2025年6月1日)は「事実と乖離し、国民の不信を招く」と批判。財政健全化を優先する政治的意図が疑われる。

石破首相はとにかく消費税減税したくないようだ

2000年のドットコムバブルでは、Pets.comが3億ドルを溶かし、Webvanが8億ドルを無駄にした。2010年代のTheranosは血液検査技術を偽り、9億ドルを集めたが2018年に解散。米国のOlive AIは医療AIを謳い10億ドルを集めたが、効果の乏しさで2023年に事業停止。Inflection AIは生成AIで15億ドルを調達したが、独自技術の不足で2024年に崩壊。Ghost Autonomyは自動運転AIで2億2000万ドルを得たが、非現実的な計画で2024年に終焉。
騙されないための鉄則
虚偽に騙されない方法は明確だ。個人は、情報源を多角的に検証する。海外メディアや産経新聞を参照し、Builder.aiやDeepSeekの疑惑を見抜く。AIやシステムの基本を学び(例:CourseraのAI講座)、石破発言のような誇張を判断する。批判的思考を磨き、「革新的」との主張に根拠を求める。Redditで専門家の意見を聞く。迅速な対応も不可欠だ。明らかな間違いには、細かな検証を後回しにしても即座に対処する。DeepSeekの禁止措置は、台湾や韓国が迅速に行動した好例だ。

「デューデリジェンス」は日本語で「適正評価」や「事前調査」と訳される。文脈によっては「詳細な調査」や「リスク評価」とも表現される。

企業は、デューデリジェンスを徹底し、技術や財務の第三者監査を要求。透明性を確保し、専門家を雇い、リスク管理を強化する。東芝やJDIの失敗は、こうした対策の欠如が招いた。他者が虚偽に騙されている場合、ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、「覚醒のためのショック」が必要だ。ドラッカーは、誤った前提に囚われた者には、場合によっては劇的な事実やショックが意識を変えると説いた(『マネジメント』)。Builder.aiの破綻やTheranosの詐欺を周囲に伝え、過剰な期待を打ち砕く。時には、内部告発者のように勇気ある行動が真実を浮き彫りにする。

Builder.aiの人力AI詐欺、DeepSeek、石破発言は、技術に関する誇張がもたらす危険を突きつける。ドットコムバブルからAIブームまで、歴史は繰り返す。目を覚まし、検証を怠るな。それが、真実を見抜く唯一の道だ。

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2025年4月26日土曜日

英紙の視点「トランプ関税によって日本が持つ圧倒的な“生存本能”が試されている」—【私の論評】トランプ関税に挑む日本の魂:フィナンシャル・タイムズの浅薄な幻想

英紙の視点「トランプ関税によって日本が持つ圧倒的な“生存本能”が試されている」

まとめ
  • グローバル化の危機: トランプ2期目の保護主義政策(関税重視、移民批判)やHSBC会長の「グローバル化終焉」発言により、世界経済を支えたグローバル化が揺らぎ、歴史的転換期を迎えている。
  • 日本のグローバル化による成長: 日本は戦後約80年間、グローバル化の恩恵で経済大国に躍進(1960年代後半に世界2位)、海外展開で企業収益を拡大し、世界経済と連動した成長を遂げた。
  • 平和と貿易の戦略: 資源不足を貿易で克服し、米軍の保護下で平和主義的な起業家精神を発揮、「沈まない空母」として地政学的地位を確立し、文化大国としての富を築いた。
  • トランプ政権の影響: 関税政策や日米安保への疑念が日本に経済的・地政学的打撃を与える可能性が高く、関税免除失敗などで国内の不安が増大している。
  • 日本の生存本能: 明治維新や戦後復興で示した適応力とプラグマティズム(イデオロギーを捨て生存優先)を発揮し、過去の迅速な戦略(例:天安門事件後の中国進出)を活かして危機を乗り越える可能性がある。

トランプ2期目の発足により、世界経済を支えてきたグローバル化が深刻な危機に瀕している。英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は、明治維新と戦後復興という二つの歴史的転換期を乗り越えた日本の「生存本能」に注目し、この激動の時代を生き抜くヒントがあると論じる。グローバル化は長年、政治指導者や企業経営者、歴史家に支持され、世界に安定と繁栄をもたらしてきたが、トランプ大統領の関税重視政策や副大統領J・D・バンスの移民批判、さらにはHSBC会長の「グローバル化終焉」発言により、その基盤が揺らいでいる。

日本は戦後約80年間、グローバル化の恩恵を最大限に受け、1960年代後半には世界第2位の経済大国に躍進。バブル崩壊で中国に抜かれた後も、企業の海外展開を加速させ、売上高は1991年比で約3倍に成長した。CLSA証券のストラテジストは、日本企業の収益が世界経済の動向と密接に連動していると指摘。平和主義的な起業家精神と貿易で天然資源不足を克服し、米軍の保護下で「沈まない空母」として地政学的地位を確立、文化大国としての富と国際的影響力を築いた。

しかし、トランプ政権の保護主義や日米安保への疑念は、日本に経済的・社会的な打撃を与える可能性が高い。2月の石破茂首相の訪米は成功とされたが、関税免除の約束を取り付けられなかったことで国内の不安が高まる。それでも日本は、過去の適応力とプラグマティズムで知られ、1989年の天安門事件後の中国進出のような迅速な戦略でグローバル化を活用してきた。明治維新や戦後復興期に示した「イデオロギーを捨て生存を優先する」姿勢は、少子高齢化や人口減少に直面する現代でも有効だ。日本の比類なき生存本能が、トランプ政権下の新時代でどのように発揮され、危機を乗り越えるのか、その展開が大いに注目される。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】トランプ関税に挑む日本の魂:フィナンシャル・タイムズの浅薄な幻想

まとめ
  • 天皇を中心とする霊性の文化の重要性:日本の真の力は、天皇を頂点とする霊性の文化に根ざし、これは日本人の魂の基盤であり、捨てれば日本のアイデンティティが失われる。
  • フィナンシャル・タイムズの誤った分析:記事は明治維新や戦後復興の適応力を称えるが、霊性の文化を無視し、グローバル化の終焉やトランプの脅威を誇張、プラグマティズムを過剰に礼賛する。
  • 明治維新の成功とドラッカーの洞察:ドラッカーは、明治維新が「和魂洋才」で天皇の文化を守りつつ西洋技術を融合させたため成功したと評価、世界が日本に学ぶべきだと説く。
  • 中国国交回復の誤り:1972年の中国との国交回復は、霊性の文化を軽視した近視眼的判断であり、中国の台頭とサプライチェーンの脆弱性を招いた失敗。
  • 現代日本の試練と使命:少子高齢化や技術遅れに直面する日本は、天皇の霊性の文化を保持しつつ、新たな戦略で人口減少や技術の壁を克服する必要がある。
 関税男(tarrif man)を自認するトランプ大統領

トランプの関税が世界を揺らし、日本の真価が試されている。英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は、明治維新や戦後復興の適応力を称えるが、その目は曇っている。日本を動かすのは、天皇を頂点とする霊性の文化だ。これは単なる観念ではない。日本人の魂の根底に流れる、生きる力そのものだ。これを捨てれば、日本は消える。ピーター・ドラッカーは、明治維新の奇跡をこの文化の力に帰し、世界が日本に学ぶべきだと断言する。フィナンシャル・タイムズは、この真実を見ず、浅薄な危機論と空疎な楽観論に溺れる。その誤りを、暴く。

グローバル化の終焉? 日本の不屈の力

フィナンシャル・タイムズは、トランプの保護主義やHSBC会長の言葉を振りかざし、「グローバル化の終焉」を騒ぐ。だが、これは誇張だ。世界貿易機関(WTO)の2024年データでは、世界貿易量は3.2%増と堅調だ(WTO推計)。日本企業の海外売上高は1991年比3倍に跳ね上がり、グローバル化の力を証明する(JETROデータ)。トランプの関税は自動車産業を苦しめるが、ASEANへのサプライチェーン移行やデジタル経済が新たな道を切り開く。記事は、この現実を無視し、終焉の幻想に囚われる。

日本の戦後成長をグローバル化と米国の庇護だけに帰するのも的外れだ。1960年代の高度成長は、内需とインフラ投資が牽引し、輸出はGDPの10%未満だった(経済企画庁データ)。土地改革、財閥解体、教育投資、通産省の産業政策が経済を鍛えた。ソニーやトヨタの技術、アニメやJ-POPの文化が世界を魅了した。日本の強さは、天皇を中心とする霊性の文化に根ざす。記事は、この魂の力を軽んじ、表層的な物語に逃げる。

トランプの影と日本の底力

下関戦争の写真

記事は、トランプの関税や日米安保への疑念が日本を「経済的・地政学的に叩きのめす」と煽る。笑止千万だ。日本の経済は多角化し、2024年の輸出先は米国(18%)、中国(17%)、ASEAN(15%)が拮抗する(JETROデータ)。関税の衝撃は限られ、円安(2025年4月時点で1ドル=150円)が輸出を後押しする。観光業や半導体の内需も盾となる。日米安保への疑念はトランプの虚勢に過ぎず、米国のアジア戦略における日本の価値は不動だ。記事は、日本の底力を侮る。

「圧倒的なプラグマティズム」を礼賛するが、その中身は空疎だ。幕末の尊皇攘夷は、単なる打算ではない。天皇を頂点とする霊性の文化が、外国への抵抗(長州藩の攘夷決行)や国家観を燃やした。薩摩や長州が開国に転じたのは、武士の内紛や欧米の軍事力(1863年の薩英戦争)との対峙が生んだ苦渋の選択だ。明治維新を打算の勝利と飾る記事は、尊皇攘夷の魂を見ない。ドラッカーは、明治維新の成功を、天皇中心の文化を守ったことに帰す。日本の適応力は、霊性と現実の融合にある。記事はこの真実を踏みにじる。

霊性の魂と未来への挑戦


記事が掲げる「イデオロギーを捨てろ」は、日本の魂を切り裂く暴論だ。天皇を頂点とする霊性の文化は、神道や仏教に根ざし、日本人の心を結ぶ。これは観念ではない。生きる力の源だ。尊皇攘夷、明治維新の神道復興(1868年の神仏分離令)、 当時世界的に見ても先進的だった大日本帝国憲法、伝統文化(茶道、能)の保護は、この霊性が導いた。

ドラッカーは、明治維新が「和魂洋才」で西洋技術を日本の魂に溶かし込んだからこそ、非西欧で唯一の成功例となったと喝破する。インドやペルシャが西洋化で躓いた時、日本は天皇の文化を守った。ドラッカーは、グローバル化と文化の衝突を乗り越えるには、「変わるもの」(技術革新)と「変わらないもの」(天皇の霊性の文化)の調和が必要だと説く。天皇は、この「変わらないもの」の守護者として、戦乱やコロナ禍でも日本を支えた。記事は、この魂を無視し、打算に話をすり替える。

この打算の過信は、1972年の中国との国交回復にも表れる。これは明らかに間違いだった。日本の指導者は、経済的利益と国際的調和を期待し、中国共産党との関係を急いだが、これは日本の霊性の文化を軽視した近視眼的判断だ。中国は、その後の経済的台頭(2024年GDPは米国に次ぐ2位)と軍事的膨張(南シナ海の領有権主張)で、アジアの安定を脅かす。

日本企業は中国市場に依存し、サプライチェーンの脆弱性を露呈した(2024年、半導体供給網の混乱)。国交回復は、短期的な利益を追い、天皇中心の価値観や地政学的慎重さを蔑ろにした失敗だ。記事が称える「プラグマティズム」は、こうした歴史的誤りを正当化する危険な幻想である。

現代日本の試練は重い。少子高齢化(2025年で人口の29%が65歳以上)、労働力不足、官僚の硬直性が足枷だ。1989年の中国進出は輝いたが、米中対立と中国の減速(2024年GDP成長率4.5%)下では危険だ。エネルギー高騰やサプライチェーンの混乱も重荷だ。記事はこれを軽視し、「生存本能」と曖昧に逃げる。明治維新や戦後復興は、伊藤博文や吉田茂の外交手腕、若年人口の活力と国際環境に恵まれたが、今は違う。原発再稼働の遅れやデジタル化の停滞が、打算の限界を晒す。トランプ関税への具体策(FTA拡大、産業再編)も示さず、記事は空虚だ。

結論

フィナンシャル・タイムズは、トランプ関税が日本の力を試すと見抜くが、肝心な点で躓く。「圧倒的なプラグマティズム」は中身がなく、尊皇攘夷の魂、天皇を頂点とする霊性の文化を見ず。この文化は観念ではなく、日本人の魂の基盤だ。これを捨てれば、日本は消える。1972年の中国国交回復は、打算の過信が招いた誤りだ。

ドラッカーは、明治維新の奇跡を天皇の文化の力に帰し、世界が学ぶべきだと叫ぶ。記事は、グローバル化の終焉やトランプの脅威を誇張し、高齢化や技術の遅れの試練を軽んじる。その分析は、薄っぺらい危機論と楽観論の寄せ集めだ。日本の使命は、天皇の霊性の文化を守り、人口減少や技術の壁を打ち破る新たな道を切り開くことだ。トランプの嵐など、日本の魂の前では、ただの風だ。

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2025年4月20日日曜日

金子洋一氏Xにポスト 「子孫のツケ」論が招く貧困➖【私の論評】経済政策の勝敗を決める直感と暗黙知:高橋是清の成功の教訓

 金子洋一氏Xにポスト 「子孫のツケ」論が招く貧困




【私の論評】経済政策の勝敗を決める直感と暗黙知:高橋是清の成功の教訓

まとめ
  • 直感に基づく経済政策の成否は暗黙知に依存する。高橋是清の関東大震災復興(1923年)と積極財政(1930年代)は、暗黙知に支えられた直感が現実の問題を捉え、国債活用で成功した。
  • 高橋の暗黙知は、財政・金融の実務経験から生まれた「経済停滞の解決策」の直観であり、ケインズ理論(1936年)以前にその実践がケインズの形式知の礎となった。
  • 失敗例(1987年の日本リゾート法、2022年のトラス減税)は、暗黙知の欠如で経済の複雑さや制約を見誤り、信頼を失い混乱を招いた。
  • 金子洋一氏の語る「r<gなら債務の重みは低下」は、暗黙知と結びつくと国債の有効性を示すが、暗黙知がなければ形式知は空回りする。
  • 成功には暗黙知で現実を捉え、国債で負担を分散し、信頼を保つことが不可欠。トランプ関税のような外部ショックへの対応も、暗黙知と形式知の融合が効果を上げる。

高橋是清(中央の人物)
直感に基づく経済政策が成功するか失敗するかは、何が決めるのか。金子洋一氏は「政府債務のコストは国債利子率r-名目経済成長率gで決まる。r<gなら債務の重みは低下する」と喝破する。これは正しい。米国や日本のような国では、この法則が債務の負担を軽くする。

トランプ関税のような外部ショックが襲えば、誰もが「国内の景気を下支えしよう」と考える。それが直感だ。この直感が、経済政策を動かす鍵となる。だが、直感は時に大成功を呼び、時に大失敗を招く。その差は何か。歴史の事例を紐解き、高橋是清の鉄橋と暗黙知の力を軸に、その核心に迫る。

まず、成功の物語だ。1930年代、世界恐慌で日本はデフレと失業に喘いでいた。高橋是清蔵相は「経済にお金を流せば動く」と直感し、緊縮財政を捨てた。公共事業と軍事支出を増やし、日銀に国債を引き受けさせて通貨供給を拡大。円安で輸出を刺激し、1930年から1935年で工業生産は80%も増えた。工場が動き、雇用が戻り、街に活気が蘇った。国民は「経済が動き出した」と実感した。

これはケインズ理論の登場(1936年)より前だ。高橋には理論的裏付けなどなかった。蔵相や日銀副総裁の経験から生まれた現実感覚が、彼を突き動かした。この直感は、ケインズが有効需要の理論を形式知としてまとめる礎となり、彼の実践が後の経済学に影響を与えた。

高橋の直感は、1923年の関東大震災復興でも輝いた。東京や横浜が壊滅し、江東地区の木造橋が焼失。蔵相として復興を主導した高橋は、税金だけで賄えば現世代が貧困に沈むと直感。国債を発行し、資金を調達した。頑丈な鉄橋や道路を建設し、コストを将来に分散。現世代と将来世代の負担を公平にしたのだ。

これらの鉄橋は、1945年の東京大空襲で避難路となり、多くの命を救った。戦後80年経ても、たとえば江東新橋は今も経済活動を支え、ドラマの舞台にもなる。もし税金だけで賄っていたら、当時の日本は貧困に喘ぎ、その後の世代は鉄橋の便益も十分活かせなかっただろう。この成功体験が、1930年代の積極財政を後押しした。国債で長期プロジェクトを賄う鉄橋の歴史は、その正しさを雄弁に物語る。

江東新橋
では、失敗はどうか。1987年の日本、リゾート法は「観光で地方を活性化する」と直感したが、過剰融資と投機で土地価格が急騰。日銀は物価が安定しているのに金融引き締めに踏み切り、バブル崩壊を加速させた。
不良債権は80兆円に膨らみ、地方経済は苦しんだ。2022年の英国では、リズ・トラス首相が「減税で即成長」と直感。財源の裏付けなく大規模減税を発表し、市場がパニックに。ポンドは急落、国債利回りが急騰、年金基金が危機に瀕した。数週間でトラスは辞任。経済は混乱した。これらの失敗は、直感が経済の複雑さや現実の制約を見誤り、信頼を失った結果だ。
成功と失敗の分岐点は、暗黙知にある。本ブログ記事(2025年4月19日)では、暗黙知を「経験や観察から得た、言葉にしにくい知識」と定義するとした。高橋の暗黙知は、財政・金融の実務で磨かれた「経済停滞の原因と解決策」の直観だ。震災復興では、国債で負担を分散すれば現世代の貧困を防ぎ、将来に便益を残せると見抜いた。
1930年代では、需要不足を財政と金融で解消できると確信した。この暗黙知が、金子氏の「r<gなら債務の重みは低下」という形式知を活かした。暗黙知があれば、r<gは国債が経済成長で債務負担を軽減することを明確に示す。高橋はr<gの状況を直感的に理解し、国債を効果的に使った。

昨年破綻したリゾート運営会社

逆に、暗黙知が欠如すると、r<gの形式知は意味をなさない。リゾート法はバブルの過熱を見誤り、日銀の引き締めは物価の現実を無視。トラスは市場の反応を読み切れなかった。暗黙知がないと、形式知は空回りし、経済の複雑さに対応できない。

直感は、暗黙知に支えられて初めて力を発揮する。暗黙知があれば、トランプ関税のような外部ショックへの景気下支えも効果を上げる。r<gの形式知は、暗黙知と結びついて国債の有効性を示す。暗黙知の支えがない人にとっては、それが現実と結びつかず、単なる数式にすぎない。高橋の鉄橋と積極財政は、暗黙知が直感を成功に導き、ケインズの形式知の礎となった。

そうして、今では暗黙知のあるなしにかかわらず形式知によって財政政策の方向性は誰が実施しても、間違いがないようになっている。にもかかわらず、なぜ日本の財政政策は間違い続けてきたのだろうか。

日本では、1997年や2014年の消費税増税はデフレ下で消費を冷やし、GDPを押し下げた。財務省の「財政健全化」はr<gを無視。1987年のリゾート法はバブルを過熱させ、日銀の誤った引き締めで不良債権80兆円に。政治家や官僚は形式知を装った、財務省の嘘の論理に流され、現場の暗黙知を磨かず、コロナ禍の追加給付も見送り消費回復を遅らせた。

失敗は、暗黙知の欠如で現実を見誤り、信頼を失うことから生じる。高橋の成功は、暗黙知の力を証明する。経済政策の未来は、暗黙知と形式知の融合にかかっている。都内の丈夫な鉄橋をはじめとして、形式知の正しさを裏付ける暗黙知の見本は、古今東西を見回せばいくらでもある、それを漫然と見過ごすか、見過ごさないかで、大きな違いが出てくるようだ。

暗黙知に裏付けられた、形式知はほど強いもはない。私は、これを見過ごさなかったのが、高橋是清であり安倍晋三という政治家だったのだと思う。だかこそ、高橋は直感で、勇気を持って当時は多くの人に理解されなかった政策を行い日本経済を立て直し、安倍は貿易面で筋を通して、トランプ大統領に現実を認識させ、説得できたのだと思う。

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2025年4月19日土曜日

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自民党は「野党に転落」する…! 自民党が「派閥解消」で”自爆”へ、参議院選挙で「自民党大敗」の「ヤバすぎる事情」

まとめ

  • 「背骨勉強会」の問題点: 自民党が派閥解消後に設立した「背骨勉強会」は、座学中心のアプローチで政治を教えようとするが、政治に必要な「実践知」を軽視しており、滑稽だと批判されている。
  • オークショットの理論: マイケル・オークショットは、知識を「技術知」(明示的・伝達可能)と「実践知」(経験や人間関係で育まれる暗黙の知性)に分け、政治は実践知が中心だと強調。派閥は実践知を養う場だった。
  • 自民党の危機: 派閥を廃し、座学に頼る自民党は、先人たちの築いた人間性や実践知の伝統を軽視。岩田温氏の著書は、この誤りが自民党の衰退や野党転落を招くと警告。

自民党が派閥解消後に新人議員や立候補予定者の教育を目的として設立した「背骨勉強会」は、座学中心の取り組みが政治に不可欠な「実践知」を軽視しているとして、永田町で物議を醸している。

政治哲学者マイケル・オークショットは、知識を「技術知」(明示的で体系化され、伝達可能な知識、例: マニュアルや手順)と「実践知」(経験や文脈に根ざし、言語化が難しい暗黙の知性、例: 対人関係の機微や状況判断)に分類し、政治においては実践知がより重要だと説く。

たとえば、2024年秋の自民党総裁選に出馬した元大蔵官僚の小林鷹之氏は、派閥で酒席での上下関係や人間性を学ぶことで実践知を磨いたと語り、こうした知性は実践の場でのみ養われると指摘。

派閥は、政策だけでなく人間性や政治的直感を鍛える教育機関としての役割を果たしてきた。しかし、自民党は派閥を解消し、座学による「技術知」の習得に頼る方向にシフト。岩田温氏の著書『自民党が消滅する日』は、先人たちが築いた実践知の伝統を軽視し、人間性を育む機会を失ったこの誤った姿勢が、自民党の衰退を加速させ、野党転落やさらなる危機を招くと鋭く警告している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】自民党「背骨勉強会」の失敗を暴く!暗黙知とドラッカーが示す政治の危機

まとめ
  • 背骨勉強会の限界:自民党の「背骨勉強会」は座学中心で、オークショットの「技術知」に偏り、「実践知」を軽視。派閥が担った政治的センスや人間性の育成が欠如。
  • 暗黙知の欠如:野中郁次郎のSECIモデルに基づく暗黙知の社会化・外化が不足。派閥の対話や実践の場がなく、勉強会は形式知の注入に終始。
  • ドラッカーの視点:ドラッカーの「実践を通じた知識の適用」や「顧客の創造(政治では国民への価値提供」が欠け、勉強会は国民への価値提供や信頼回復につながらない。
  • 組織学習の停滞:SECIモデルでは知識は個人から組織へ拡大するが、勉強会は党全体の学習や政治文化の変革を促せず、適応力が低下。
  • 自民党の危機:政治資金収支報告書不記載問題や支持率低下(20%台、2024年5月)の背景に、暗黙知の更新不足と成果志向の欠如がある。対話と実践が必要、そのための場としての派閥も必要
自民党の「背骨勉強会」をめぐる議論が熱を帯びている。マイケル・オークショットの「技術知」と「実践知」の枠組みでその限界を鋭く批判する上の記事を、経営学の「暗黙知」と「形式知」、ピーター・ドラッカーの視点、そして野中郁次郎のSECIモデルの観点から見直す。新たな光が当たる。派閥を失った自民党の教育体制は、なぜ機能しないのか。2024年夏の参議院選挙を前に「自民大敗」の声が高まる中、その答えを探る。

背骨勉強会の限界:技術知への偏重

マイケル・ジョセフ・オークショット

「背骨勉強会」は、派閥解消後の自民党が新人や中堅議員を鍛えるために2024年3月から6月まで7回開催した講義プログラムである。対象は当選4回以下の衆院議員、当選2回以下の参院議員、立候補予定の新人や元職。約80~94人が参加し、戦前史や国家観、保守思想を学んだ(産経新聞、2024年3月)。だが、上の記事はこれを痛烈に批判する。

オークショットの「技術知」、つまり明示的でルール化された知識に偏り、政治に不可欠な「実践知」、すなわち経験や人間関係で磨かれる暗黙の知性を軽視している、と。派閥は酒席での上下関係や人間性を鍛える場だった。それを捨て、座学で政治を教え込もうとする自民党は、衰退の道を突き進む。2024年夏の参院選を前に「自民大敗」の予測が飛び交うのも、こうした教育の失敗が背景にある(朝日新聞世論調査、2024年5月)。

経営学の「暗黙知」と「形式知」の視点で見ると、勉強会の欠陥が浮き彫りになる。形式知は文書やデータで共有可能な知識だ。勉強会の講義、たとえば日本国中の解説や保守思想の歴史はこれに当たる。伊藤哲夫氏(日本政策研究センター代表)の戦後レジーム分析は、データと理論に基づく形式知である(自民党公式サイト、2024年3月)。これはオークショットの技術知と重なり、政策や歴史の理解に役立つ。

だが、野中郁次郎のSECIモデルは、知識創造には形式知と暗黙知(言語化しにくい個人内在の知識)の相互変換が必要だと説く。SECIモデルは、知識創造を4つのプロセスで説明する。社会化(暗黙知の共有)、外化(暗黙知の形式知化)、結合(形式知の統合)、内化(形式知の実践化)だ。このサイクルが個人から組織へと知識を広げ、イノベーションを生む(『知識創造企業』、1995年)。

勉強会は結合や内化に偏り、社会化や外化が欠けている。派閥では、ベテラン議員が若手に酒席で政治の「空気」を教え、暗黙知を共有した。ある若手議員は「先輩の交渉のタイミングを見て学んだ」と振り返る(匿名インタビュー、2024年)。だが、勉強会は一方的な講義だ。参加者間の対話や実践を通じた暗黙知の共有はない。参加者の一人は「講義は勉強になったが、現場でどう活かすかわからない」と漏らした(読売新聞、2024年6月)。これは政治的センスや実践力を育む機会の喪失である。

派閥の価値と暗黙知の力
野中郁次郎

暗黙知の視点は、派閥の価値をさらに明らかにする。上の記事では、2024年総裁選候補の小林鷹之氏が「派閥で酒席の上下関係を学んだ」と語り、実践知の重要性を強調する。暗黙知の観点では、これは政治家としての思考のフレームや人間関係のコツを築くプロセスだ。野中は、こうした暗黙知は対話やメタファーで形式知化できると指摘する。

トヨタの生産方式では、職人の暗黙知(例:機械の音の違いを聞き分ける感覚)をOJTで共有し、作業手順書に変換する。「カイゼン会議」で作業員が経験を語り、暗黙知を外化するのだ(野中・竹内、1995年)。勉強会にはこうした場がない。参加者は講師の形式知を受け取るだけで、自身の経験や直感を共有できない。政治の「肌感覚」を磨く機会が失われている。

ドラッカーの視点は、勉強会の構造的欠陥をさらに暴く。ドラッカーは『マネジメント』(1973年)で、知識社会の組織は知識労働者の自律性と継続的学習に支えられると説く。知識は実践で初めて意味を持つ。勉強会の講義形式は、ドラッカーが嫌う「情報偏重」に近い。

受動的な学習で終わり、参加者が自身の暗黙知を振り返り、判断力を磨く機会がない。ドラッカーは知識労働者に「強みを活かし、自己開発を続ける」ことを求める。GEのCEOジャック・ウェルチは部下との対話で経営の暗黙知を磨き、組織を変革した(『ポスト資本主義社会』、1993年)。勉強会にはこうした実践が欠ける。

さらに、ドラッカーは組織の目的を「顧客の創造」と定義する。政治なら国民への価値提供だ。だが、勉強会は内向きの教育に終始する。2024年の政治資金収支報告書不記載問題で自民党の支持率は20%台に落ち、国民の不信感が広がる(朝日新聞、2024年5月)。勉強会は信頼回復や政策成果に結びつかない。ドラッカーの言葉を借りれば、「効率は高いが、効果はゼロ」だ。

自民党の危機:組織学習の欠如

ドラッカー

暗黙知・形式知の視点は、組織学習の欠如を浮き彫りにする。SECIモデルでは、知識創造は個人から組織へと広がる。だが、勉強会は個人への知識注入で終わり、党全体の学習やイノベーションにつながらない。派閥は若手がベテランの暗黙知を吸収し、党の政治文化を継承する場だった。安倍晋三氏は若手時代、派閥の会合で先輩の交渉術を学び、後に外交で活かした(『安倍晋三回顧録』、2023年)。

派閥解消後、この機能は失われた。勉強会は代替にならない。政治評論家の田崎史郎氏は、2024年の政治資金収支報告書不記載問題を背景に「自民党の政治文化が見直されるべき」と指摘する(日本テレビ『スッキリ』、2024年2月)。暗黙知の視点では、「永田町の論理」といった暗黙の慣習が問題の根源だ。勉強会が若手に形式知を押し付けるだけでは、党の暗黙知や倫理観は変わらない。組織としての適応力は落ちる一方だ。

暗黙知の伝承には時間と対話が必要だ。だが、勉強会は7回で終了し、継続的なメンタリングや実践の場がない。野中は、暗黙知の社会化には「フェイス・トゥ・フェイスの対話」が欠かせず、異なる視点の交差がイノベーションを生むと説く。

アップルのスティーブ・ジョブズは、チームの対話で暗黙知を共有し、iPhoneのデザインを生み出した(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』、2011年)。勉強会は、保守系議員の批判(例:青山繁晴氏の「背骨は自主憲法制定」発言、ニコニコ生放送、2024年4月)を受け、議論の場として一部機能したが、党全体の暗黙知を更新するには不十分だ。さらなる対話と実践が必要である。

オークショットの批判は、勉強会の技術知偏重が政治の複雑さを無視すると訴える。だが、暗黙知・形式知とドラッカーの視点は、もっと深い問題を突く。知識の流れが止まっている。組織学習が機能していない。国民への成果が欠如している。勉強会は形式知に偏り、派閥の暗黙知の共有機能を代替できない。党の政治文化を変革し、適応力を高める力はない。

ドラッカーの視点では、議員の強みを活かす仕組みや国民への価値提供が欠けている。自民党が政治資金収支報告書不記載問題や信頼喪失を乗り越えるには、座学だけではなく、対話と実践で暗黙知を磨き、ドラッカーの言う「成果」を追う仕組みが必要だ。オークショットの警告を超え、組織の知識創造と目的の欠如を突きつけるこの視点は、自民党の危機の本質を明らかにする。

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