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2024年11月6日水曜日

「斎藤元知事のまさかの当選は」兵庫県知事選の現状と見通しについて―【私の論評】斎藤元彦氏の失職の背景と日本の伝統的コミュニケーションの重要性

「斎藤元知事のまさかの当選は」兵庫県知事選の現状と見通しについて

まとめ
  • 兵庫県知事選には過去最多の7人が立候補し、斎藤元彦氏の失職が背景にある。
  • 県議会の不信任決議を受け、斎藤氏は失職し、再選を目指して選挙に臨む。
  • 現在の情勢調査では、前尼崎市長の稲村和美氏がトップ、斎藤氏が2番手とされ、清水貴之氏は苦戦している。
  • 斎藤氏のパワハラやおねだりの噂が報じられ、県政の混乱を招いたが、彼の支持者も一定数存在する。
  • 投票態度を決めていない有権者が多く、情勢は流動的で、斎藤氏の巻き返しの可能性も残されている。



 兵庫県知事選挙が10月31日に告示され、11月17日に投開票される。この選挙には過去最多の7人が立候補し、注目されているのは失職した斎藤元彦氏の再選を目指す姿勢である。彼はパワハラや公金不正支出の疑惑を受け、県議会が全会一致で不信任決議を下した結果、知事の職を辞することとなった。

 立候補者には、前尼崎市長の稲村和美氏がトップ候補とされ、前参議院議員の清水貴之氏や、共産党推薦の医師、大澤芳清氏も名を連ねている。稲村氏は自民党や立憲民主党からの支援を受けており、これまでの政治対立を超えた異例の連携が見られる。斎藤氏は失職後も積極的に街頭活動を行い、支持回復に努めているが、彼に対する逆風は依然として強い。

 特に、斎藤氏の失職には「既得権益」をめぐる争いが影響していると言われている。彼は、県政に長年携わってきた元知事らが築いてきた既得権益に手を出した結果、政敵からの攻撃を受け、「虎の尾を踏んだ」との声も上がっている。この背景には、斎藤氏が実施した施策や行動が、既存の権益を損なう可能性があったことがある。

 また、斎藤氏に対する疑惑の発端となったのは、西播磨県民局長の告発であり、彼の告発文がメディアや県議に広まったことで騒動が拡大した。これにより、斎藤氏はメディアから厳しい scrutiny を受け、失職に追い込まれた。

 投票の態度を決めていない有権者が多く、情勢は不透明であるが、稲村氏が既得権益の代弁者と見なされるようになれば、斎藤氏にも再びチャンスが生まれるかもしれない。果たして、斎藤氏の「まさかの逆転」が実現するのか、投開票日が注目されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】斎藤元彦氏の失職の背景と日本の伝統的コミュニケーションの重要性

まとめ
  • 斎藤元彦氏にはパワハラの噂があるが、具体的な証拠はないため、信憑性に疑問が残る。
  • 2017年の豊田真由子氏問題のように明確な証拠がないにもかかわらず、斎藤氏への批判はメディアの報道に基づいて広がっている。
  • 斎藤氏の改革により、公共事業、土地利用、補助金配分で既得権益勢力から強い反発を受けた可能性がある。
  • 反対派には兵庫県を良くしたいという共通の思いはあるが、個人利益を優先する勢力もいる。
  • 日本の伝統的なコミュニケーションの価値が薄れつつあり、互いを理解し合う姿勢が薄れた日本に危機感を感じる。
兵庫県は百条委員会を開催したが・・・・・

斎藤元彦氏が失職に至った背景に、彼がパワハラや「おねだり」をしたとする噂がある。しかし、現時点で具体的な動画や録音といった証拠は一切存在しない。このブログでも、証拠がないためにこれらの噂を取り上げることは避けてきた。今の時代、誰もがスマホを持ち歩き、何かあれば即SNSで広がる。斎藤氏が本当に頻繁にパワハラをしていたなら、動画が出回り、百条委員会でも取り上げられていたはずだが、そのような事実は見当たらない。

例えば、2017年の豊田真由子氏の例を振り返ってみよう。彼女は秘書に「このハゲー」と罵倒する録音が公開され、社会的批判を浴びた結果、議員辞職に追い込まれた。あの録音が示したのは、単なるパワハラではなく、明確で強烈な証拠であった。しかし、斎藤氏にはそのような具体的な証拠は存在せず、メディアの報道や告発文をもとに話が広まったに過ぎない。

それでも彼は知事職を辞し、再び選挙に挑むという決断を下した。この背景には、反対勢力が根強く絡む既得権益の存在が囁かれている。まず、公共事業の受注に関する権益が挙げられる。兵庫県内のインフラ整備で特定の建設会社が優先的に受注する構造があり、斎藤氏がそれを改めようとしたことが、既存の業者からの反発を招いたのだ。また、土地利用に関する権利も争点となった。斎藤氏が新たな開発を試みるたびに、既存の権利を守ろうとする団体が強く反発したのである。

さらに、補助金や助成金の配分においても、長年支援を受けてきた業界や団体が斎藤氏の改革姿勢に反発した。兵庫県内には強固な政治ネットワークが根を張り、その恩恵に預かる勢力が、斎藤氏の行動に猛反発したわけである。この複雑に絡み合う既得権益が、彼の失職へとつながっていった。

豊田真由子氏の件を思い出すと、当時このブログでも、彼女のパワハラをドラッカーのコミュニケーション論から分析した。ドラッカーは、コミュニケーションを単なる情報のやり取りではなく、互いが理解し合うプロセスとして捉えた。コミュニケーションとは、「私たち」の中の一人からもう一人に伝わるものとしている。


豊田氏の場合、秘書との間に「私たち」といえる関係が成り立っていなかった。単なる指示や罵声が響くだけで、真のコミュニケーションはなかったのだ。彼女は「このハゲー」というショックで自分の要求を通そうとしたが、結果は無残なもので、元秘書はそれを暴言と捉えたのだ。

斎藤元彦氏についてはどうか。彼と反対派が「私たち」として関係を築くことは難しいかもしれないが、彼らが兵庫県を良くしたいという思いを抱えている点は共通しているだろう。だが、反対派の中には既得権益に執着し、個人の利益を優先する者もいるかもしれない。結局、この戦いに結論を下すのは、兵庫県民でしかない。選挙を通じ、県民が誰を選ぶかで未来が決まるのだ。


それにしても、最近の日本は、コミュニケーションが疎かになってきたと感じる。現政権内ですら、そのような傾向が見られる。最近ではコミュ障なる得体の知れない言葉が独り歩きしている。わざわざドラッカーのコミュニケーションの原則を持ち出さなくても、一昔前の日本人なら、敵対していても言葉を通じて互いを理解し合えたものだ。

惻隠の情や和、気配り、信義仁礼知忠恕といった古き良き価値観を、今の日本は忘れつつあるのではないだろうか。日本に根ざした本来のコミュニケーションのあり方を振り返り、他者と誠実に向き合うことの重要性を再認識すべきだと、保守派として私は強く訴えたい。

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2024年10月7日月曜日

自民に激震「比例重複認めず」 非公認対象広がる 党勢後退すれば首相の責任問題も―【私の論評】安倍晋三 vs. 石破茂:リーダーシップの対比と高市現象の必然

自民に激震「比例重複認めず」 非公認対象広がる 党勢後退すれば首相の責任問題も

まとめ
  • 石破首相の方針: 政治資金収支報告書に不記載の自民党議員を公認しても、比例代表との重複立候補を認めず、非公認の対象が拡大する。
  • 旧安倍派の影響と党内対立: 不記載事件に関与した旧安倍派の議員が狙い撃ちされ、党内の対立が深刻化する見込み。
  • 選挙戦の厳しさと責任問題: 非公認となる議員は選挙戦で厳しい状況に直面し、落選が続けば首相自身が責任を問われる可能性がある。
パーティー収入不記載事件に関係する議員の衆院選公認を巡る方針を発表する石破茂首相=6日午後、党本部

石破茂首相は、政治資金収支報告書に不記載が確認された自民党議員を次期衆院選で公認しても、比例代表との重複立候補を認めない方針を固めた。これにより非公認対象が広がり、有権者の不満を抑える狙いがあるが、選挙での当選確率が下がるため、自民党内に動揺が広がっている。

特に旧安倍派議員への影響が大きく、安倍晋三元首相との距離を理由に狙い撃ちと見られている。非公認によって厳しい選挙戦が予想され、衆院選で落選する議員が続出した場合には、首相自身が責任を問われる可能性もある。

自民党内では、首相の決断が党勢後退を招くのではないかと懸念する声も強まっており、刺客を送り込まない現状では議席数の減少が避けられないとの意見も出ている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】安倍晋三 vs. 石破茂:リーダーシップの対比と高市現象の必然

まとめ
  •  石破茂は心のなが見通せるという意味では「正直者」だが、彼の行動は復讐心から来ており、あからさまな「報復人事」を実行した。
  • 石破は安倍派の議員を冷遇し、彼らを選挙でも追い詰める厳しい選挙戦略を採用している。
  • 高市早苗の人気は、グローバリズムに対する反動であり、国際的な自国第一主義と共鳴している。
  • リーダーは自己を超越し、組織の成功を重視するべきで、石破は自己中心的な振る舞いに陥っている。
石破茂、彼を語るにはまず「正直者」という言葉が浮かぶ。だが、その正直さが単なる無骨さに過ぎないのか、あるいは冷酷なまでに計算された策略の一環なのか、その真意を見極めるのは容易ではない。政治の舞台において、冷や飯を食わされ続けた男が復讐を遂げる瞬間——その劇場の幕が上がった。

報復人事は労基法では禁じられているが、閣僚人事、自民党役員の人事などは適用外

まず、石破茂が登場する舞台、それは人事の世界だ。企業でも官庁でも、人事は組織の成長を左右する最重要課題であり、それを司るのは一握りのエリートたち。彼らは組織を陰で動かし、成功に導く黒幕でもある。しかし、永田町の世界では、人事は一人の権力者の手中にある。

権力の源を握った者だけが人事を操り、己の敵を討ち、味方を引き上げる。その冷厳たるリアリズムこそが政治の本質である。石破はまさにその権力を手にした瞬間、冷や飯を食わされてきた自らの境遇に報いるかのように、絵に描いたような「報復人事」を炸裂させた。

彼は安倍氏を「国賊」として謗った村上誠一郎を重要ポストに抜擢し、一方で、かつて安倍晋三の手下として勢いを振るった旧安倍派を徹底的に冷遇した。そのあからさまな動きは、まるで復讐劇の幕開けを告げるかのようだった。旧安倍派の議員たちが次々とその牙城を崩される様は、かつて彼らが安倍晋三の陰で糧を得ていた日々を思い出させずにはいられない。彼のやり方は実にあからさまで、その復讐の矛先は誰の目にも明らかだった。

旧安倍派幹部

さらに、石破茂の真骨頂はその選挙戦略にあった。彼は、政治資金収支報告書に不記載が発覚した議員たちに対して、比例代表との重複立候補を認めないという厳しい方針を打ち出した。この決断は、ただ単に選挙の公平性や透明性を守るためのものではなく、むしろ旧安倍派有力者たちを狙い撃ちにするためのものだった。彼らが選挙で苦境に立たされるよう仕向けることこそが、石破の狙いであったのだ。

これにより、比例代表というセーフティネットを失った彼らは、個別選挙区での勝負を強いられることとなった。安倍派の中堅議員たちは「これでは政権を支え続ける気力が失せる」と憤りを隠さなかった。石破の選挙戦略は、まさに自らの敵を選挙の場で追い詰めるための策略であり、その冷酷さに驚きを禁じ得ない。

ここで、リーダーシップの本質について考えてみよう。このブロクでも過去に掲載した経営学の大家ドラッカー氏による、真のリーダーの定義とは、仕事そのものに自らを捧げ、己を捨ててでも組織を前進させる者のことである。安倍晋三はまさにその資質を持ったリーダーであった。彼は石破茂をあえて幹事長に据え、表向きは協調路線を演出しながら、徐々に石破の影響力を削ぎ取っていった。その巧妙な手腕は「悪党政治家」と呼ぶにふさわしく、まさに百戦錬磨の政治家たる由縁であった。ここでいう悪党とは、政治家としては、むしろ褒め言葉である。

安倍の冷静さと計画性、それに比べて石破の自己中心的な振る舞いは、政治家としての資質の違いを如実に表している。安倍が持っていたのは、あくまで組織のため、仕事のためという強い信念と覚悟であり、それが彼をして「悪党」としての道を歩ませた。しかし、石破にはそれがなかった。彼の動きはあまりにも感情的で、復讐心に満ちている。虚栄心に支配され、自らの感情をあらわにして報復に走った彼の行動は、リーダーとしての冷静さを欠いている。

リーダーシップとは、自己を超越した存在であり、組織の成功を第一に考えるものでなければならない。チャーチルが後進の育成を最後まで続けたように、真のリーダーは自らを越える者たちを支援し、その育成を惜しまないのだ。石破茂の行動はその逆を行き、自らの敵に対して怨念を燃やし、組織を分断させることになるだろう。

自民党総裁選の決選投票を前に演説する高市早苗氏

そうして「高市現象」は単なる国内政治の一部ではなく、国際的な流れの一部なのだ。グローバリズムの影響で広がる社会の分断と、それに反発する動きの象徴として、高市早苗の主張が多くの国民に支持されている。日本もまた、自国第一主義の時代(これは単なるモンロー主義などとは異なる、ただ長くなるのでここでは説明しない)に向かいつつあり、それが新しい政治の形を生み出そうとしている。これは「時代が求める強きリーダー像」への希求であり、世界が新しい形のリーダーシップを渇望している証拠なのだ。

結局のところ、石破茂と安倍晋三、そして高市早苗——彼らの違いはどこにあるのか。それは、リーダーとしての資質と覚悟、そして組織を超えた目的意識にある。石破は、自己の怨念を晴らすために動き、安倍は冷徹に組織を強化するために行動した。

そして高市早苗は、時代の要求に応えるために立ち上がった。これこそがリーダーシップの本質であり、石破茂にはそれが足りなかったと言わざるを得ない。最後に残るのは、リーダーとしての覚悟の違いが、彼らの運命を大きく分けることになるだろうとの結論である。

以下に総裁選で高市氏に投票した議員そうでいない議員のリストを掲載します。

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2024年10月2日水曜日

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まとめ
  • 石破茂新総裁が衆参両院の本会議で102代首相に指名され、石破内閣が発足。閣僚は石破氏に近い議員が重用され、旧安倍派からは誰も入閣しなかった。
  • 閣僚人事に対する批判:石破氏の人事は他の派閥に譲る姿勢が欠けており、自民党内での不評や反発が強いことが報じられた。
  • 政治評論家の見解:田崎氏が旧安倍派を干しているとの見解を示し、これが安倍元首相への恨みを象徴しているとの発言があった。

 自民党の石破茂氏が第102代首相に選ばれ、石破内閣が発足した。閣僚には石破氏に近い議員が多く、麻生派、旧茂木派、旧二階派からはそれぞれ2人が入閣したが、旧安倍派からは1人も選ばれなかったことが大きな話題となった。

 総務相に起用された村上誠一郎氏は、安倍晋三元首相の国葬を「国賊」と表現したことで党役職停止処分を受けており、この人事に対して高市早苗氏の陣営からは批判が噴出しているという。田崎史郎氏は、石破氏が旧安倍派を冷遇する人事を行ったことに党内でも不満があり、「恨みがあったのでは」とも分析している。

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【私の論評】安倍首相、石破首相との比較から見る長期政権を支えた唯一の資質とは

まとめ
  • 安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」は、日本経済の復活を目指して大胆に推進され、デフレ脱却と成長を目標に真摯に取り組んだ。
  • 外交政策においても、東南アジア諸国やアメリカのトランプ大統領との強固な信頼関係を築くなど、国際社会で日本の地位向上に真摯に取り組んだ。
  • 安全保障の改革では、国家安全保障会議(NSC)の設立や安保法制の改正を通じ、日本の安全と抑止力強化に真摯に対応した。
  • 安倍氏の政策立案や実行力、真摯な態度が石破氏の政策の具体性不足と対照的だった。
  • 真摯さは、リーダーの資質として唯一認められるものであり、安倍氏の政策立案や実行力は真摯さに裏打ちされていたことは論を待たない。

安倍晋三元首相は、憲政史上最長となる在職日数2,887日、約8年に及ぶ長期政権を築き上げました。この驚異的な政権運営は、安倍氏の卓越した政治手腕と深い知識、そして豊富な経験に裏打ちされたものでした。

安倍氏は経済政策を最優先課題とし、アベノミクスと呼ばれる大胆な金融緩和政策を実施しました。その結果、デフレ脱却に向けて大きな前進を遂げ、GDP600兆円という野心的な目標を掲げるまでに至りました。また、外交面でも積極的な姿勢を見せ、就任直後から東南アジア諸国を訪問し、各国首脳との個人的信頼関係を深めました。これは、祖父である岸信介元首相の外交手法を踏襲したものであり、安倍氏の政治的洞察力の深さを示しています。

さらに、安全保障面では日本版NSCの設置を実現し、外交・安全保障政策の一元化と迅速な意思決定を可能にしました。これは第一次安倍内閣時からの懸案事項であり、安倍氏の粘り強さと政策実現能力を示す好例です。

一方、石破茂氏の政策立案能力や専門知識は、安倍氏と比較すると不足していると言わざるを得ません。例えば、2015年の安全保障関連法案の審議において、石破氏は「存立危機事態」の定義について明確な説明ができず、国会で混乱を招きました。また、経済政策においても、石破氏のアベノミクス批判は具体性に欠け、代替案の提示も不十分でした。

2018年の自民党総裁選では、石破氏は「地方創生」を掲げましたが、その具体的な施策や財源について明確な説明ができませんでした。これは、安倍氏が掲げた「GDP600兆円」や「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」といった具体的な数値目標と対照的です。

また、憲法改正に関しても、安倍氏が自衛隊明記を含む改正案を積極的に推進したのに対し、石破氏は慎重な姿勢を示しました。しかし、石破氏の憲法解釈に関する発言は時に矛盾を含み、専門家からの批判を受けることもありました。

安倍氏の長期政権を支えた要因の一つに、人事面での手腕があります。第二次安倍内閣では、麻生副総理と菅官房長官、二階自民党幹事長などを礎石に据え、安定した政権運営を実現しました。これは、第一次政権での経験から学んだ結果であり、安倍氏の政治的成長を示しています。

さらに、安倍氏は国際舞台でも存在感を示し、特にトランプ大統領との個人的な関係構築に成功しました。ゴルフを通じて率直に意見交換できる関係を築いたことは、安倍氏の外交手腕の高さを示しています。

これらの事実は、安倍氏の政治家としての能力と経験が、石破氏を大きく上回っていることを明確に示しています。安倍氏が築いた長期政権は、その政策立案能力、実行力、そして外交手腕の賜物であり、石破氏との能力差は明らかです。この差は、最終的に石破氏の政治的立場を弱め、党内での影響力低下につながったと考えられます。

以上から考えると、旧安倍派の冷遇は、会社の人事であれば報復人事とも受け取られないかねない人事です。たた、この人事の元となったのは、やはり石破氏やその取り巻きが安倍晋三氏を理解できないというところがあるのかもしれません。

そもそも、安倍晋三氏は特異な政治家でした。その特異さ故、これを総理大臣はもとより政治家のスタンダートとすることには無理があると考えられます。無論これは、安倍晋三氏を否定するものではないので、最後まで私のつたない文章を読んで頂きたいです。

高橋洋一氏は、安倍晋三元首相を特異な政治家だったと評価しており、以下のようなエビデンスを挙げています。

金融政策への関心について、高橋氏は、安倍氏が官房副長官時代から金融政策について質問してきた初めての政治家だったと述べています。当時、ほとんどの政治家が金融政策を役所に任せきりにしていた中で、安倍氏は「ゼロ金利解除はいいのか」と高橋氏に質問しました。これは、安倍氏の経済政策への深い関心を示しています。

専門外の分野への理解に関しては、安倍氏は元々厚労族でしたが、金融政策という全く異なる分野に関心を持ち、理解を深めようとしていました。高橋氏は、これを「例外的な政治家」の特徴として挙げています。

経済財政諮問会議への参加については、安倍氏は官房副長官時代に、経済財政諮問会議にオブザーバーとして参加し、金融政策の議論に関心を持っていました。これは、安倍氏が幅広い政策分野に精通しようとしていたことを示しています。

専門家の意見への関心として、高橋氏は、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンからのメール(ゼロ金利解除は失敗だったという内容)を安倍氏に見せたことがあると述べています。これは、安倍氏が専門家の意見を重視し、政策立案に活かそうとしていたことを示唆しています。

これらのエビデンスから、高橋氏は安倍氏を、通常の政治家とは異なる幅広い関心と理解力を持ち、専門家の意見を積極的に取り入れようとする特異な政治家として評価していたことがわかります。

さらに、安倍氏の特異性は、政策立案への関与の仕方にも表れていました。高橋氏によれば、他の総理大臣、例えば小泉純一郎氏などは、政策案を提示されると「よしわかった。任せる」と言って、詳細には立ち入らないことが多かったそうです。しかし、安倍氏は例外的な存在でした。安倍氏は政策案を提示されても、その内容について詳細に質問し、理解しようとする姿勢を見せました。時には、政策の細部にまで踏み込んで議論を行うこともあったといいます。

衆院を解散し記者会見する小泉首相(2005年8月)

このような安倍氏の姿勢は、単に政策を承認するだけでなく、その背景や影響を深く理解しようとする姿勢の表れでした。これは、安倍氏が政策立案プロセスに積極的に関与し、自身の考えを反映させようとしていたことを示しています。

安倍氏のこうした特異性は、彼が長期政権を築き上げ、アベノミクスなどの大規模な経済政策を実行に移すことができた要因の一つだと考えられます。政策への深い理解と積極的な関与が、安倍氏の政治手腕を支える重要な要素となっていたのです。

これらの特徴は、安倍氏が単なる政策の承認者ではなく、積極的な政策立案者としての役割を果たしていたことを示しています。このような姿勢は、日本の政治において新しい形のリーダーシップを示すものであり、安倍氏の政治家としての特異性を際立たせる要因となっていたと言えるでしょう。

しかし、すべての日本の総理に安倍氏のような資質を求めるのには、無理があります。私は、菅氏、岸田氏などは安倍氏と直接比較されたため、低く評価された部分があったといえると思います。石破氏もこれから安倍氏に比較され低く評価される可能性があると思います。

ただ、私は安倍氏について特異な政治家であったあったことの他に、優秀な政治家であったことを際立たせるものが他にもあると考えています。それは、真摯さ(integrity)です。

これは、このブログにも過去に何度が述べてきましたが、ドラッカーがリーダーに求める唯一の資質ともいえます。実際ドラッカーは優秀なリーダーの資質は多様であって、特定の資質はないと断言しています。ただ、一つだけ譲れないのが、真摯さ(integrity)であると主張しています。これについて再度以下に掲載します。
日頃言っていることを昇格人事に反映させなければ、優れた組織をつくることはできない。本気なことを示す決定打は、人事において、断固、人格的な真摯さを評価することである。なぜなら、リーダーシップが発揮されるのは、人格においてだからである。(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])
ドラッカーによれば、人間のすばらしさは、強みと弱みを含め、多様性(これは現代のリベラル派が主張する多様性とは根本的な異なるもので、人の強み、弱みにもとづく もの)にある。同時に、組織のすばらしさは、その多様な人間一人ひとりの強みをフルに発揮させ、弱みを意味のないものにするところにある。

だからドラッカーは、弱みは気にしません。山あれば谷あり。むしろ、まん丸の人間には魅力を感じないようです。ところが、一つだけ気にせざるをえない弱みというものがあります。それが、真摯さの欠如です。真摯さが欠如した者だけは高い地位につけてはならないという。ドラッカーは、この点に関しては恐ろしく具体的です。

人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならないのです。人のできることはなにも見ず、できないことはすべて知っているという者は組織の文化を損なうことなります。何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならないのです。仕事よりも人を問題にすることは堕落であるとしています。

真摯さよりも、頭脳を重視する者を昇進させてはならない。そのような者は未熟なのです。有能な部下を恐れる者を昇進させてもならない。そのような者は弱いのです。

仕事に高い基準を設けない者も昇進させてはなりません。仕事や能力に対する侮りの風潮を招くことになるからです。

判断力が不足していても、害をもたらさないことはあります。しかし、真摯さに欠けていたのでは、いかに知識があり、才能があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させ、業績を低下させるのです。
真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、あとで身につけることはできない。真摯さはごまかしがきかない。一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない。(『現代の経営』[上])
ドラッカーは真摯さを非常に重要な資質と位置づけており、特にマネジメントやリーダーにとって欠かせない要素としています。彼は真摯さには「仕事上の真摯さ」と「人間としての真摯さ」の二つの側面があり、後天的に習得できるものではないと指摘しています。

真摯さは、自分の役割について考える能力として表れ、他者との信頼関係を築く基盤となります。ドラッカーは、真摯さを持つ人間かどうかを判断するための質問として、「自分の子供をその人の下で働かせたいと思うか」を挙げており、責任感と信頼に裏打ちされたものであることを強調しています。

ドラッカー氏

安倍晋三首相が安全保障法制の改正に取り組んだ姿勢は、彼の政治家としての真摯さを如実に示しています。2015年9月に成立した安保法制は、戦後70年にわたる日本の防衛安全保障政策の大きな転換点となりました。この法制は、集団的自衛権の限定的な行使を可能にし、日本の抑止力を向上させることを目的としていました。

安倍首相は、この法制改正の必要性を、中国の海洋進出や軍事費の増大、北朝鮮の核・ミサイル開発など、東アジアを中心とする安全保障環境の変化に求めていました。しかし、この法制改正は国内で大きな議論を巻き起こし、多くの反対の声が上がりました。国会周辺では連日のようにデモが行われ、「戦争法案」だとする批判も強まりました。

にもかかわらず、安倍首相は自身の信念に基づき、この法制改正を推し進めました。世論調査では「政府の説明は分かりにくい」との声が過半数を超え続け、政権支持率の低下も避けられない状況でした。ただ、これは今から振り返ると、政府の説明が分かりにくいというよりは、政府の説明をメディアがまともに報道しなかったためとみられます。しかし、安倍首相は国民の理解を得るべく、国会での説明を重ね、法案の必要性を訴え続けました。

この姿勢こそが、安倍首相の真摯さの真骨頂と言えるでしょう。政権支持率の低下という政治的リスクを承知の上で、国家の安全保障という重要課題に取り組んだことは、彼の政治家としての責任感と真摯な態度を示しています。安倍首相は、目先の人気や支持率にとらわれることなく、自身が国家にとって国民にとって必要だと信じる政策を推し進める強い意志を持っていたのです。

さらに、安倍首相は法制改正の過程で、与党内の調整や野党との議論にも真摯に取り組みました。特に、連立与党である公明党との調整には多くの時間を費やし、慎重に合意形成を図りました。これは、単に自身の考えを押し通すのではなく、民主主義のプロセスを尊重する姿勢の表れと言えます。

また、安倍首相は国際社会における日本の役割についても深く考慮していました。「積極的平和主義」を掲げ、世界の平和と安定に貢献する日本の姿勢を示そうとしたのです。これは、単に国内の安全保障だけでなく、国際社会における日本の責任を果たそうとする真摯な態度の表れと言えるでしょう。

このように、安倍首相が政権支持率の低下という困難な状況下でも安保法制の改正に取り組んだことは、彼の政治家としての真摯さと信念の強さを示す重要なエビデンスとなっています。それは、短期的な政治的利益よりも国家の長期的な安全と繁栄を優先する姿勢であり、まさに安倍首相の真摯さの真骨頂と言えるものです。

さて、私は石破氏の能力の低さ高さ、見かけ、語り口などは問題にしません。ただ、真摯さについてはこれからじっくり注視していきます。そうして、はやければ今月中になるとみこまれる、総選挙の判断材料にします。

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2024年9月21日土曜日

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか―【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

3位転落 小泉進次郎の「誤算」、自民党総裁選の終盤情勢は?「高市総理」誕生なるか

まとめ
  • 自民党総裁選は2024年9月27日に投開票予定で、候補者は9人。小泉進次郎氏の支持が伸び悩む中、高市早苗氏が勢いを増している。
  • 各種世論調査では、石破茂氏、高市氏、小泉氏が上位3位にランクインしており、高市氏の支持が特に強い。
  • 国会議員票の行方が重要で、小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない。
  • 決選投票では高市氏と石破氏が進む可能性が高く、政策を明確に打ち出す候補が有利になる傾向がある。
  • 各メディアの調査結果では、候補者間での支持率に差が見られ、総裁選の行方は依然として不透明である。

小泉進次郎氏

自民党総裁選は2024年9月27日に投開票が予定されており、9人の候補者による論戦が繰り広げられている。当初、有力視されていた小泉進次郎氏の支持が伸び悩む一方で、高市早苗氏が勢いを増しており、石破茂氏も有力候補として注目されている。小泉氏は改革派として、国政選挙において「改革といえば自民」というイメージを掲げ、迅速な変革を進めることを主張している。

世論調査の結果では、石破氏、高市氏、小泉氏が上位3位を占めることが多く、自民党支持層では高市氏の支持が強い傾向がある。地方党員票では石破氏と高市氏が優位に立ち、国会議員票の行方が重要な要素となっている。小泉氏は約50票を確保しているが、目標には届いていない状況だ。多くの議員がまだ態度を決めかねているため、選挙戦は流動的だ。

今後の展開として、高市氏と石破氏が決選投票に進む可能性が高いとの見方があります。決選投票では国会議員の動向が鍵を握り、政策を明確に打ち出す候補が票を伸ばす傾向にあるため、高市氏に有利な局面も考えられます。

各種調査結果の現状は以下の通り:

●共同通信(9月15~16日)
1位 高市早苗氏 27.7%
2位 石破茂氏  23.7%
3位 小泉進次郎氏 19.9%

●朝日新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 32%
2位 小泉進次郎氏 24%
3位 高市早苗氏 17%

●読売新聞(9月14~15日)
1位 石破茂氏 26%
2位 高市早苗氏 25%
3位 小泉進次郎氏 24.1%

●産経新聞(9月14~15日)
1位 小泉進次郎氏 29.4%
2位 石破茂氏 24.1%
3位 高市早苗氏 16.3%

●日経新聞(9月13~15日)
1位 石破茂氏 25%
2位 高市早苗氏 22%
3位 小泉進次郎氏 21%

総裁選の行方は依然として不透明であり、上位3候補による激戦が続いている状況だ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】高市早苗氏の支持急増と派閥政治への影響:保守主義と急進改革の対立

まとめ
  • 高市早苗氏の支持率上昇は、自民党内の主要派閥に危機感を与え、従来の派閥政治の構図を揺るがす可能性がある。
  • 高市氏の支持が急増している理由は、経済安全保障政策の実績や保守的な国家観、経済成長を重視する政策によるもの。
  • 高市氏の政策は、戦略的な財政出動や既存の制度を基盤とした着実な改革を強調し、企業からの支持も集めている。
  • ドラッカーの保守主義を例に、高市氏の漸進的な改革が予測可能で実現可能なアプローチと評価できる一方、小泉進次郎氏の急進的な改革はリスクを伴う可能性が大きい。
  • 小泉氏の急進的な改革路線は、自民党の保守的支持層には危険と映る可能性があり、それに対して高市氏の保守的な政策が支持を集めている。

高市早苗氏

高市早苗氏の支持率上昇と勢いの増加は、自民党内に大きな波紋を広げています。当初は泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏ですが、最近では急速に支持を集めており、この状況は一部の派閥にパニックを引き起こしています。

特に旧岸田派、麻生派、旧二階派などの主要派閥は、高市氏の台頭に危機感を抱いているとされています。これらの派閥は従来の派閥政治の枠組みの中で影響力を維持してきましたが、高市氏の支持拡大により、その構図が崩れる可能性が出てきたためです。

高市氏の支持が急増している理由として、経済安全保障担当大臣としての実績や、明確な国家観と経済政策の主張が挙げられます。彼女は経済や国防に関して保守的な立場を示しており、一部の支持層から強い支持を得ています。

また、高市氏は「子育て支援金制度」について、「社会保険料で財源を生み出すことになると、実質的に増税と同じだ」と述べています。さらに、「特に子育て世代の生活を圧迫することになり、やるべきではない」と明確に否定的な立場を示しています。

代替案として、「所得が増えれば歳入は2倍から3倍に増える。まずはいかに所得を増やすか、GDPを大きくしていくかということで成長戦略を訴えている」と述べ、経済成長を通じた財源確保を主張しています。

さらに、高市氏は成長分野や危機管理分野への戦略的な財政出動を主張しており、これが企業からの支持を集めている可能性があります。「明確な国家観を持ち、国家経営理念をしっかり打ち出せる人」という姿勢を強調する彼女のアプローチは、従来の派閥政治とは異なる動きを生み出しています。

この状況は、自民党内の力学や総裁選の行方に大きな影響を与える可能性があり、今後の展開が注目されています。特に、岸田派や麻生派、二階派などの主要派閥が高市氏の台頭にどのように対応するかが、総裁選の結果を左右する重要な要素となるでしょう。

麻生太郎氏

麻生派が高市早苗氏を支持する可能性は十分に考えられます。まず、河野太郎氏の支持が伸び悩んでいる現状があり、麻生派としても期待通りの展開にはなっていません。また、麻生派内には石破茂氏に対して否定的な感情を持つ議員が多く、小泉進次郎氏が菅義偉元首相の後ろ盾を得ていることから、麻生派にとって小泉氏を支持することは難しい状況です。

高市氏の経済安全保障政策や保守的な姿勢は麻生派の政策方針と比較的近く、決選投票で高市氏と石破氏、または高市氏と小泉氏という構図になった場合、麻生派にとって高市氏を支持することが戦略的に有利な選択肢となる可能性があります。麻生氏が派閥内で柔軟な対応を取る余地を示唆していることも、高市氏への支持につながる要因となるでしょう。

当初、泡沫候補に近い扱いを受けていた高市氏がここまで勢いを増したことは驚くべきことです。一方で、当初は有望視されていた小泉進次郎氏が勢いを落としたことも、同様に注目すべき点です。

これは、小泉氏が改革推進派である一方、高市氏が保守派であるという立場の違いの結果かもしれません。ただし、保守主義については多くの人に誤解があるように思われます。保守主義とは、政治上の立場ではないことをこのブログでは過去に掲載しました。どちらかというと、日本語でいうところの中庸に近いものです。

経営学の大家ドラッカーは保守主義について次のように明確に述べています。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会を保つための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していく原理である。これ以外の原理はすべて破綻を招く」(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)。

ドラッカーが提唱する保守主義は、過去を懐かしむものではなく、未来志向のもとで現実的な問題解決を目指すものです。この考え方には、未来志向であること、現実的な問題解決を重視すること、既存の知識や方法を活用することという3つの特徴があります。

ドラッカーは「過去は復活しえない」「青写真や万能薬をあきらめ、目前の問題に対して有効な解決策を見つける」「使えるものはすでに手元にあるものだけである」と述べ、既存の制度や知識を基盤とした漸進的な改革を重視しています。

彼は、急激な変化が社会に不安定をもたらす可能性があるため、予測可能で実現可能な改革を推奨しています。また、漸進的な改革は広範な合意を得やすく、社会の分断を防ぐ効果もあります。

ドラッカー

一方で、小泉進次郎氏の改革路線は、より急進的で大胆な政策を打ち出しています。彼は「聖域なき構造改革」を掲げ、選択的夫婦別姓やライドシェアの全面解禁、解雇規制の緩和などを提案しています。こうした改革は革新的と評価される一方、急激な変革が社会に混乱をもたらすリスクも指摘されています。特に労働市場改革などの敏感な分野では、慎重なアプローチが求められるべきです。

2023年6月に成立したLGBT理解増進法は、急進的改革の一例として挙げられます。この法律は性的マイノリティへの理解を促進するものですが、その成立過程や内容は、ドラッカーの保守主義的アプローチとは異なり、急進的な側面が目立ちました。拙速な成立には疑問が呈されており、急進的な改革には予期せぬ結果が生じる可能性もあることを認識する必要があります。

こうした背景から、小泉進次郎氏の急進的な改革路線が、保守的な自民党の支持層には危険と映った可能性があります。小泉氏が総理となり、改革を実行すれば、自民党の保守岩盤支持層がさらに離れるという危機感を抱いているのかもしれません。

これは必ずしも上で述べた理路整然としたドラッカーの保守主義の認識に基づくものではなく、肌で感じ取った危機感や地頭での判断かもしれません。しかし、従来の派閥の論理からは離れた動きとして注目すべきと思います。

一方で、高市氏は急激な変革よりも既存の制度や価値観を基盤とした政策を重視しており、それが支持を集める要因となっていると考えられます。彼女の政策や行動を過激と見なす人もいますが、歴史的および国際的な視点から見ると、高市氏の政策等は保守本道を着実に進めているに過ぎないと言えるでしょう。

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2024年9月14日土曜日

中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和―【私の論評】日・米・中の定年制度比較と小泉進次郎氏のビジョン欠如が招く日本の雇用環境破壊

中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和

まとめ
  • 中国全国人民代表大会は法定退職年齢を段階的に引き上げる草案を承認し、男性は63歳、女性は58歳または55歳に設定される。
  • 平均寿命が延びる中、労働人口の減少が懸念されており、定年引き上げは年金財政の改善に寄与する可能性がある。
  • 専門家は、長期的には労働力不足を回避し、生産性の安定に役立つと指摘している。
中国全国人民代表大会常務委員会

 中国全国人民代表大会常務委員会は、退職年齢引き上げの草案を承認した。現在の退職年齢は男性が60歳、女性はホワイトカラーで55歳、工場労働者で50歳と低く、年金財政の逼迫を緩和するために段階的に引き上げる。

 2024年から実施され、最終的に男性は63歳、女性はホワイトカラーで58歳、工場労働者で55歳となる。退職年齢の引き上げは15年かけて行い、労働者は早期退職や延長を選べるようにする。

 年金財政の問題は深刻で、さらなる改革がなければ、2035年までに制度が資金不足に陥る可能性があると指摘されている。労働力人口の減少や平均寿命の延びが背景にある。

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【私の論評】日・米・中の定年制度比較と小泉進次郎氏のビジョン欠如が招く日本の雇用環境破壊

まとめ
  • 中国の定年年齢はかなり低く、定年引き上げは平均寿命の延長に伴う当然の措置といえる。
  • 米国には定年制度がなく、年齢に関わらず個人の意思で退職時期を決定できるが、能力低下での解雇は可能。
  • 米国の定年制度のメリットはキャリアの柔軟性が高いことだが、若年層の雇用機会が制限される可能性もある。
  • 小泉進次郎氏が「解雇規制の見直し」を提案しているが、米国と雇用慣行と異なる日本でこれを実施すれば、雇用の不安定化や企業競争力の低下などの懸念がある。
  • 小泉氏や中国共産党の政策は、将来の雇用環境に対する明確なビジョンが欠けている。
上のニュースを見て、中国にも定年制があることは知っていましたが、その定年年齢が非常に低いことには驚きました。中国人の平均寿命は過去数十年で大幅に伸び、現在は78歳前後となっています。さらに今後も寿命が延びると予測されており、今回の退職年齢の引き上げは当然のことといえるでしょう。

中国の定年退職者

一方、米国には「定年」という制度が存在しません。定年がないと聞くと、死ぬまで働かされるのかと思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。退職年齢はあくまで個人の判断に委ねられているのです。

米国では、1967年に制定された「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」により、40歳以上の労働者に対する年齢差別が禁止されており、定年制度は事実上廃止されています。そのため、企業が特定の年齢に達した従業員を強制的に退職させることはできません。この法律は採用においても適用され、求人広告や面接で年齢に関する質問をしたり、特定の年齢層を対象にした募集を行うことも禁止されています。

また、履歴書に生年月日の記載を求めることも避けられています。一部の職種(パイロットや公共交通機関の運転手など)では、安全性の観点から年齢制限が設けられることがありますが、一般的には個人の意思に基づいて退職時期を決めることが可能です。

ただし、年齢に関係なく、体力や能力の低下で業務が遂行できなくなった場合には解雇の対象となります。米国では、従業員の業務遂行能力が低下し、職務を適切にこなせない場合、解雇される可能性があります。ADEAは40歳以上の労働者を保護していますが、業務遂行能力に基づく雇用判断は許可されています。

雇用主は、解雇が年齢ではなく、業務遂行能力の低下に基づくものであることを証明する必要があります。また、解雇前に従業員に改善の機会を与えることが推奨されています。このように、年齢そのものを理由にした解雇は禁じられていますが、能力低下が証明されれば解雇が可能です。

米国では年齢を理由とした賃金カットや差別的待遇も厳しく規制されており、労働者の権利が法的に保護されています。ただし、能力や実績に基づく待遇差は認められています。

2021年の調査によれば、米国の平均的な退職予定年齢は64歳です。社会保障給付は62歳から受け取ることができ、65〜67歳で満額受給が可能です。これらが実質的な退職年齢の目安とされています。このように、米国では年齢を理由にした強制退職は認められておらず、個人の選択によって働き続けることが可能です。

日本や中国のように定年制がある国と、米国のように定年がない国とでは、労働者にとってどちらが望ましいのでしょうか。

定年制は雇用の安定性を提供し、定年までの雇用が保証される一方で、米国では年齢に関係なく能力に基づいて評価されるため、高齢者でも働き続ける可能性があります。

このため、日本や中国では新卒定期採用が一般的ですが、米国にはそのような制度がありません。キャリアのない新卒者は労働市場で不利になることが多く、人員整理の際にも新卒者が最初に対象になりやすいです。

一方、米国の制度はキャリアの柔軟性を高め、新しい挑戦をしやすくする利点がありますが、定年制がある国では年金受給開始年齢と連動して退職後の生活設計がしやすいというメリットもあります。また、米国の制度は年齢差別を防ぐ一方で、高齢者が長く働くことで若年層の雇用機会が制限される可能性も指摘されています。

定年がある日本ではバイデンの年齢が問題にされたが、定年がない米国では認知能力が問題とされた

どちらの制度が良いかは、一概には言えません。個人の価値観、キャリア目標、健康状態、経済状況によって、適した制度は異なります。理想的には、個人が選択肢を持ち、年齢に関係なく能力を発揮できる環境を提供しつつ、社会保障制度とのバランスを取ることが望ましいでしょう。

ところで、雇用というと、小泉進次郎氏は9月6日の総裁選出馬会見で、首相として1年以内に解雇規制の見直しを断行する意向を表明していました。現行の解雇規制について「大企業は解雇が困難で、配置転換が促進されている」と指摘し、特に「解雇回避の努力」を見直す方針を示しました。

小泉氏が言及している「4要件」とは、日本の労働法に基づく「整理解雇の4要件」のことです。これは企業が経済的理由で従業員を解雇する際に満たすべき条件として確立されたものです。

整理解雇の4要件は以下の通りです。

1. 人員整理の必要性:企業に経済的な人員削減の必要があること。
2. 解雇回避の努力義務:配置転換や希望退職の募集など、解雇を回避するための努力が行われたこと。
3. 被解雇者選定の合理性:解雇対象者の選定が合理的かつ公平な基準に基づいていること。
4. 手続きの妥当性:労働組合や従業員との協議が適切に行われたこと。小泉氏は、特に2番目の「解雇回避の努力義務」の見直しに意欲を示し、現行規制が大企業の解雇を難しくし、配置転換を促していると述べています。彼の提案は、これらの要件を緩和し、企業が人員整理をより柔軟に行えるようにすることを目指しています。

もし日本が米国のような雇用慣行を採用しているなら、小泉氏の主張にも一定の理解ができるかもしれませんが、現状では「解雇回避の努力義務」を軽減することは日本の雇用環境にいくつかのデメリットをもたらす恐れがあります。

まず、雇用の不安定化が進み、労働者の生活基盤が脅かされる可能性があります。また、企業が容易に従業員を解雇できるようになると、長期的な人材育成や技能の継承が困難になり、企業の競争力が低下するかもしれません。

さらに、解雇が容易になることで労使関係が悪化し、労働争議が増えることも考えられます。これにより企業の生産性が低下し、イメージも損なわれる恐れがあります。加えて、雇用不安が消費意欲を減退させ、内需が低迷するリスクもあります。

失業者が増えることで、社会保障制度への負担が増し、企業の社会的責任が軽視される可能性もあります。結果として、正規雇用の減少や非正規雇用の増加が進み、所得格差が拡大する懸念があります。これらの点を考慮すると、日本の雇用環境に適した改革を慎重に進めるべきです。

小泉氏の発言は、これらの影響を十分に考慮しておらず、しかも1年間で断行するというのですから、拙速であるといわざるを得ません。

小泉進次郎氏

中国共産党ですら、定年引き上げという雇用環境に大きな影響を与える改革を15年かけて段階的に進めようとしています。それにもかかわらず、小泉氏は1年以内に雇用環境に大きな変化をもたらす可能性のある改革を実行すると語っており、これは暴挙と言えるでしょう。

さらに、小泉氏と中国共産党には共通点があります。それは、両者ともビジョンのない政策を提案していることです。雇用環境を大きく変える可能性のある政策を掲げているものの、将来的にどのような雇用環境を目指すのかというビジョンが欠けています。

ビジョンのない政策は短期的な対応に終始し、長期的な発展には繋がりにくいものです。一貫性が欠如し、政策の効果が相殺される恐れがあります。また、限られた資源が非効率に使われ、無駄な投資が増える可能性もあります。さらに、短期的な利益に基づく政策が優先されることで、社会の分断が深まり、国際競争力が低下する恐れもあります。

このような背景を踏まえれば、小泉氏の主張は政治的センスを欠いており、総裁選への出馬は再考すべきではないかと感じます。

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自民党総裁選、高市氏の「勝機」は キングメーカー争いの裏に可能性あり 高橋洋一―【私の論評】自民党総裁選で高市早苗氏が勝利を目指すための戦略と差別化ポイント 2024年9月8日



2024年9月8日日曜日

自民党総裁選、高市氏の「勝機」は キングメーカー争いの裏に可能性あり 高橋洋一―【私の論評】自民党総裁選で高市早苗氏が勝利を目指すための戦略と差別化ポイント


まとめ
  • 高市早苗経済安保相は自民党総裁選に出馬表明を予定しており、世論調査では小泉進次郎氏、石破茂氏に次ぐ3位となっている。
  • 党員票が重要な鍵を握る中、討論会などでの支持の変動が期待され、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えている。
  • 総裁選は菅義偉前首相と麻生太郎党副総裁の影響力争いであり、小泉氏と石破氏が上位に立つといずれが勝利しても菅氏の勝利となる。それを阻止するため麻生氏が高市氏を支持にまわる可能性がある。

 高市早苗経済安保相は、9月9日に自民党総裁選への出馬を表明する方針だ。現在の世論調査では、小泉進次郎氏や石破茂氏に次いで3位となっている。総裁選では、12日の告示日には6~8人程度が立候補する見込みで、国会議員票は367票だが、候補者には各々推薦人20人が必要なので、国会議員票は分散化し、第1回の投票では国会議員票で大きな差が付きにくい。となると、党員票がカギを分ける。

 世論調査によれば、自民党支持層では小泉氏が1位、石破氏が2位、高市氏が3位となっており、現状では高市氏が決選投票に進めない可能性もある。しかし、総裁選はまだ始まっておらず、討論会などで各候補者の支持が変動する可能性がある。小泉氏には勢いがあるが、石破氏はやや停滞しており、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えている。

 また、今回の総裁選は、二人のキングメーカー菅義偉前首相と麻生太郎党副総裁の影響力争いとも見られている。小泉氏と石破氏が上位2人になると、菅氏の勝利となり、麻生氏は高市氏を支持する可能性もある。決選投票では、小泉氏が過半数を取る可能性もあるが、高市氏が支持を伸ばせば情勢が変わるかもしれません。小泉氏の経験不足が弱点となる一方で、高市氏は新鮮味と経験を兼ね備えており、そこに勝機がある。

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【私の論評】自民党総裁選で高市早苗氏が勝利を目指すための戦略と差別化ポイント

まとめ
  • 自民党の総裁選では、議員や党員が次の衆院選での勝利や自身の当選可能性を最優先に考えて候補者を選ぶ傾向が従来より強い傾向にある。
  • 国会議員票の比重が高く、一般党員票も決選投票に勝ち残る鍵となるため、双方の票の獲得が重要。
  • 主要派閥の解消により、議員たちは従来の派閥論理ではなく個人的な判断で候補者を選ぶ傾向が強まっている。
  • 高市氏は次の衆院選での勝利をもたらすリーダーとしての資質をアピールし、国会議員票と一般党員票の両方の獲得を目指すべき。
  • 高市氏は経験、新鮮さ、政策の具体性、経済安全保障の専門性、保守層へのアピールなどで他の候補者との差別化を図ることが重要。

自民党総裁選ポスター

自民党の総裁選において、議員や党員が次の衆院選での勝利を最優先に考えている傾向が顕著に見られます。今回の総裁選では現在のところ7〜10名程度が立候補する見通しで、これは多くの議員が自身の当選可能性を高めるリーダーを探っていることを示唆しています。

また、国会議員票の分散が予想されるため、一般党員票が決選投票に勝ち残るための重要な鍵となると指摘されています。これは、党員が自民党の選挙での勝利を見据えて投票する可能性が高いことを示しています。

総裁選後、10月上旬に臨時国会が召集され、首班指名が行われた後、早い段階で衆議院が解散される可能性が指摘されています。この状況下で、議員や党員は次の衆院選での勝利を見据えた候補者選びをより重視せざるを得ません。

麻生派を除き主要派閥が解消に向かったことで、議員たちは従来の派閥の論理ではなく、より個人的な判断で次の選挙での当選可能性を高める候補者を選ぶ傾向が強まっていると考えられます。ただし、派閥の影響力が完全に消失したわけではなく、特に決選投票では国会議員票の比重が大きくなるため、組織力が重要となる可能性も残されています。


具体的には、決選投票では国会議員が1人1票の382票と各都道府県連に1票ずつ割り振られた47票のあわせて429票で争われます。このとき、国会議員票が全体の約89%を占め、その影響力が極めて大きくなります。各都道府県連の1票は党員投票の結果に基づき自動的に決まるため、国会議員の判断が決選投票の結果を左右する可能性が高くなります。このため、決選投票に向けては、依然として国会議員の組織化や説得が重要な戦略となり得ます。

これらの状況から、自民党の総裁選において、議員や党員は派閥や政策論争よりも、次の衆院選での勝利や個人の当選可能性を最優先に考えて候補者を選んでいる傾向が強いと言えます。特に、早期の衆議院解散の可能性が指摘されている中で、この傾向はより顕著になっていると考えられます。

なお、選挙制度改革の影響も無視できません。小選挙区制の導入により、議員たちは個人的な選挙戦略をより重視するようになっており、これが派閥の影響力低下と相まって、総裁選における議員の行動にも影響を与えていると考えられます。

このような状況において、高市早苗氏が総裁選で勝機を高めるためには、以下のような戦略を展開すべきです。

まず、次の衆院選での勝利をもたらす総裁としての自身の資質をアピールすることが重要です。議員たちは自身の当選可能性を高めるリーダーを求めているため、高市氏は自身の政策や経験が党の選挙戦略にどのように貢献できるかを明確に示す必要があります。

次に、国会議員票の獲得に注力する必要があります。特に決選投票では国会議員票の比重が約89%と極めて大きくなるため、個々の議員への働きかけが重要となります。ただし、派閥が解消されつつある現状を踏まえ、従来の派閥の論理ではなく、個々の議員の利害に訴えかける戦略が効果的でしょう。

さらに、麻生太郎氏の支持獲得が鍵となる可能性もあります。過去の安倍晋三氏の総裁選での戦略を参考に、麻生氏に直接働きかけるだけでなく、麻生氏に影響力のある人物を通じて間接的にアプローチすることも有効かもしれません。

麻生太郎氏

また、一般党員票の獲得も重要です。党員が自民党の選挙での勝利を見据えて投票する傾向があることを踏まえ、高市氏は自身が党を勝利に導く最適な候補者であることを訴える必要があります。

加えて、早期の衆議院解散の可能性を念頭に置いた戦略も必要です。高市氏は、自身が総裁に選出された場合の具体的な選挙戦略や勝利のシナリオを提示することで、議員たちの支持を集められる可能性が高いです。

最後に、小選挙区制の導入により議員たちが個人的な選挙戦略をより重視するようになっていることを踏まえ、高市氏は各議員の選挙区事情に配慮した政策や支援策を提示することも効果的でしょう。

これらの戦略に加えて、高市氏は他の候補者との差別化を図ることが重要です。具体的には以下のような方策が考えられます。
1. 経験と新鮮さの両立:高市氏は豊富な政治経験を持ちながら、女性候補者としての新鮮さも兼ね備えています。この独自の立ち位置を強調することで、他の候補者との差別化を図れます。

2. 政策の具体性:他の候補者が抽象的な政策を掲げる中で、高市氏は具体的かつ実行可能な政策を提示することで、実務能力の高さをアピールできます。

3. 経済安全保障の専門性:高市氏の経済安全保障担当大臣としての経験を活かし、この分野での専門性を強調することで、他の候補者との差別化を図れます。

4. 保守層へのアピール:高市氏は保守派として知られており、この立場を明確にすることで、保守層からの支持を固めつつ、他の候補者との違いを際立たせることができます。

5. 国際的な視野:高市氏の国際的な人脈や経験を強調し、グローバルな課題に対する対応力をアピールすることで、他の候補者との差別化を図れます。
これらの戦略を総合的に展開し、他の候補者との差別化を図ることで、高市早苗氏は総裁選での勝機を高めることができるでしょう。

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2024年9月7日土曜日

小泉進次郎氏、未熟さ指摘され…「肝に銘じる」「過去同様の質問記者は花束くれる関係に」―【私の論評】小泉進次郎氏の政策を統治論から評価:ドラッカーの教えに学ぶリーダーシップの真髄


まとめ
  • 小泉進次郎元環境相は、自民党総裁選への立候補を表明し、自身の経験不足を認めつつ、チーム作りでそれを補うと述べました。
  • 会見では、年配のフリーランス記者からの挑発的な質問に対しても、成長を誓い、過去の環境相在任時の評価を引き合いに出しました。
  • 小泉氏は、政治の刷新を求める党内の空気を反映し、若さと改革の象徴として立候補を決意しました。


 小泉進次郎元環境相は、自民党総裁選への立候補を正式に表明しました。彼の会見では、自身の経験不足や未熟さを指摘する声に対して、チーム作りでそれを補完する考えを示しました。また、年配のフリーランス記者からの挑発的な質問に対しても、自身の成長を誓い、過去の環境相在任時と同様に評価を得られるよう努力する意向を述べました。

 小泉氏は、政治の刷新を求める党内の空気を意識し、43歳という若さをアピールしつつ、「改革」を56回も連呼しました。これは、古い自民党からの脱却を目指す姿勢を強調したものです。彼の政策には、解雇規制の緩和、ライドシェアの全面解禁、選択的夫婦別姓の法案提出、憲法改正による自衛隊明記、政策活動費の廃止などが含まれています。

 また、小泉氏は総理となった場合、早期の衆議院解散を示唆し、国民の信を問う意向を明らかにしました。これらの政策や行動は、彼が「時代の変化に取り残された日本の政治を変えたい」という強い意志を示すものであり、父である小泉純一郎元総理の「郵政民営化」に倣った「農政」への改革も示唆しています。

 このような背景から、彼の立候補は、若さと改革の象徴として注目を集めています。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】小泉進次郎氏の政策を統治論から評価:ドラッカーの教えに学ぶリーダーシップの真髄

まとめ
  • 統治の重要性:政府の役割は社会の方向を示し、全体のビジョンを持って統治することにあるが、現代の政府は実行に偏りがちであり、統治の役割が曖昧になっている。
  • ドラッカーの統治論:統治と実行は両立せず、政府は統治に専念すべきである。
  • 小泉進次郎氏の政策評価:小泉氏の政策は具体性と実行力を強調しているが、統治にかかわる国家のビジョンや国民との対話、政策の長期的影響についての洞察が不足している。
  • 真の統治者の条件:統治者はビジョンを示し、国民との対話を通じて合意を形成し、政策の公正さを保証する必要がある。
  • リーダーシップと真摯さ:リーダーとして重要なのは経験や能力よりも「真摯さ」であり、会見における記者はこれに関する質問をすべきであった。
上記の記事は、小泉進次郎氏が自民党総裁選への立候補の意向を表明した会見の報道です。これは、日本のメディア報道の典型例といえるでしょう。無論他の報道では、政策も示されていますが、重点は、このようなことに置かれている記事が多いです。この種の報道を見るたびに、私は違和感を覚えます。

自民党の総裁になることは、通常、内閣総理大臣に就任することを意味します。内閣総理大臣は政府のトップであり、政府の役割は日本国の統治です。これはどう考えても正しいことです。

しかし、「統治」という言葉の意味があまり理解されていないように思います。統治は英語でガバナンスといいますが、日本でも一時期ガバナンス論が盛んに議論されていました。それにもかかわらず、統治という言葉の意味は曖昧なまま使用されることが多いようです。

政府の統治に関しては、このブログでも何度か紹介したドラッカー氏(写真下)の定義が最も分かりやすいと思います。


経営学の大家であるドラッカー氏は、政府の役割について次のように述べています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うこと、社会のエネルギーを結集すること、問題を浮かび上がらせること、選択肢を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)。
ドラッカー氏はこれらの役割を体系化し、政府が行うべき「統治」と位置付けましたが、同時に実行とは両立しないと述べています。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。そもそも関心が薄い。
としています。ここでいう実行とは、現在各省庁やその委託先などが行っている統治に関わる事柄以外のすべてを指します。現状では、政府は中途半端に実行に関わっており、各省庁などは中途半端に統治に関わっています。これが、政府の統治能力を著しく低下させています。

統治とは細部にこだわるのではなく、全体の流れや大きな目標を設定し、それに向かって社会全体を導くことです。これは、大船団の船団長が船団の進む方向を決め、個々の船の船長や乗組員がその方向に向かって進むように力を合わせることと似ています。

各々の船は、指定された方向に向かうだけでなく、他の船とぶつからないようにしなければなりません。自らの操船を優先して、他の船の航行を邪魔することはできません。また、自分の船だけが速度をはやめて、目的地に速くつくのではなく、許容の範囲で足並みを揃えなければなりません。

これは、個々の船が操船して、勝手に目的地に付けば良いというものではなく、船団の航行には目的や目標があり、そのために各々船や、その乗組員は協力しあわなければなりません。しかし、そもそも船団の目的地や航路がはっきりしていなければ、船団は大混乱に至ることになります。この船団長の役割のように、国家や社会全体をリードする役割を果たすのが統治です。

連合艦隊を再現したCG

かつての政府は「小さな政府」として統治に専念せざるを得ませんでした。たとえば、リンカーン政権は閣僚と通信士を合わせてわずか7人だったと言われています。この小さな政府でリンカーンは統治に専念し、実行は他の組織に任せ、多くのことを成し遂げたのです。

このように、かつての政府は小さく、統治に専念していました。実行は政府以外の組織に任せ、それにより多くのことを成し遂げることができたのです。そうした政府の効率性を注目し、巨大化した民間企業も取り入れ始めました。最初に大々的に取り入れたのはオランダの東インド会社でした。

多くの国々で植民地経営は失敗しましたが、オランダだけは例外でした。しかし後にオランダも東インド会社を政府に取り込み、植民地経営も失敗することになりました。ただし、民間巨大企業はその後も統治機構を本社・本部に作り、成功を収めています。

しかし、現代の政府は肥大化し、統治よりも実行に関わる役割が増大しています。今日、政府は民間企業のように統治に専念する体制を作り出すべきです。

そうして、日本国の統治の責任者が日本国総理大臣なのです。ここで、小泉進次郎氏の会見の内容を振り返ってみましょう。

小泉進次郎議員は自民党総裁選に出馬し、総理となった場合、速やかに解散総選挙を行うと表明しました。彼の政策要点は以下の通りです:
  • 政治資金規正法の改革:政策活動費や調査研究広報滞在費の使途を即時公開。
  • 裏金議員の公認審査:新執行部が審査。
  • 実力主義:いかなるグループからの推薦も受け付けない。
  • 官僚の国会張り付きの廃止:質問提出期限の厳守と深夜残業の減少。
  • 新産業創出:自動車一本足打法からの脱却。
  • 解雇規制の改革:企業に職業訓練や再就職支援を義務付ける。
  • ライドシェアの全面解禁。
  • 年収の壁の撤廃。
  • 労働時間規制の見直し:残業時間の柔軟化。
  • 選択的夫婦別姓の導入。
  • 憲法改正:自衛隊明記、緊急事態条項を含む国民投票の実施。
また、中長期的な課題として、国際環境への対応、教育改革、低所得者支援、防衛力強化、日米関係の強化、経済安全保障の強化、中国や北朝鮮との対話、拉致問題の解決を掲げています。

さて、これらの政策を「統治」の観点から評価してみます。

小泉進次郎氏の政策は、具体的な施策や改革への強い意志を示しています。しかし、その背後にある国家のビジョンや目指すべき社会像が明確に描かれていません。先ほどの船団の例でいえば、各々の船はどのように動くべきかにかかわることは語っても、船団自体がどこに向かうのかは語っていません。具体的な政策を述べる前に、国家としての方向性を明らかにすべきです。

これは、政策が国民の未来像や価値観とどう結びつくのかが不明確であることを意味します。また、政策決定における国民参加や合意形成のプロセスが十分ではないようです。特に困難な問題に対して、国民との対話や理解を得るための努力が不足しています。

さらに、政策の具体性と革新性においても、その実行が社会全体の公正さや安定にどのように寄与するのか、またどのようなリスクを孕むのかについての深い洞察が欠けているようです。これらは、政策がどのように機能し、どのような影響を及ぼすかを考慮する統治の側面を無視していることを示しています。

ドラッカーの哲学に基づけば、統治とは単に政策を実行することではなく、国民の幸福と貢献を目指すものです。そのため、小泉氏は自身の政策がどのように「人間の幸せ」と「貢献」に繋がるかを明確にする必要があります。これにより、政策が単なる手段ではなく、国家の方向性や価値観を反映するものであることを示すことができます。

以上の観点から、小泉進次郎氏の政策は、実行力と革新性を強調し、それ自体を何のためらいもなく「善」として表明しているようですが、統治の観点から見ると、「どこへ向かうべきか」「国民とどう向き合うべきか」という根本的な問いに対する答えが不足していることが浮き彫りになっています。

これらの要素を無視することで、政策は一時的な変革をもたらすかもしれませんが、長期的な国家の安定や国民の信頼を築く基盤を揺るがす可能性があります。真の統治者は、ビジョンを示し、国民との対話を通じて合意を形成し、政策の実効性と公正さを保証する必要があります。

統治という観点から見ると、ビジョンや国民との対話、政策の実効性と公正さの保証が欠けている点は、他の自民党総裁選候補者にも共通しています。例外は高市早苗氏と青山繁晴氏、過去においては安倍晋三氏くらいです。

自民党、あるいは日本の政治家は、政府の役割について一度真剣に考えていただきたいものです。

最後に、小泉氏は会見で「経験不足や未熟さ」を指摘されていますが、ドラッカーはこれに関して次のように述べています。「真摯さはごまかせない。共に働く者、特に部下は、上司が真摯であるかどうかを数週間で見抜く。無能、無知、頼りなさ、態度の悪さには寛大かもしれないが、真摯さの欠如は許されない。このことは特にトップに当てはまる。組織の精神はトップから生まれるからである」(『マネジメント』)。

真摯さ:誰も見ていない時に正しいことをする

真摯さとは、英語の「integrity」を日本語に訳したもので、ドラッカーは次のように述べています。「真摯さを定義することは難しい。しかし、真摯さの欠如は、マネジメントの地位にあることを不適とするほどに重大である。人の強みよりも弱みに目がいく者をマネジメントの地位につけてはならない」(『マネジメント』)。

リーダーとして、無能や無知、頼りなさ、態度の悪さはさほど問題ではありません。小泉氏の「経験不足や未熟さ」も同様です。それよりも「真摯さ」こそが重要です。しかし、ドラッカーも語るように「真摯さ」の定義は難しいものです。

ただし、統治に関わる「ビジョン」や「国民との対話」、「政策の実効性と公正さの保証」に関する議論には、真摯さを垣間見るヒントが含まれているはずです。新聞記者らは、小泉氏に対して、これらに関連する質問をもっとすべきだったと思います。

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2024年8月29日木曜日

日中関係の再考その9 反日は中国の国是か―【私の論評】中国共産党の統治の正当性の脆弱性と日本の戦略上の強み

日中関係の再考その9 反日は中国の国是か

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」
【まとめ】
  • 中国では、継続的に抗日宣伝が行われている。
  • これは日本軍への抗戦を主導したことが、中国共産党の統治の正当性であるため。
  • 日本側がいくら友好の言動をとり、中国側に同様の対応を願っても無理だという悲しい真実を認識すべき。
中国の反日デモは放置しておくといつの間にか反日デモになるため2013年頃には姿を消した

 私が産経新聞中国総局長として北京に赴任し、生活を始めた頃中国で日本に対する否定的な見方が深く定着していることに驚きを隠せなかった。中国のメディアや教育システムを通じて、日中戦争時の日本軍の残虐行為が継続的に強調され、「反日」キャンペーンが絶え間なく展開されていることを目の当たりにした。特に、テレビや映画、新聞などのメディアでは、「南京大虐殺」や「731部隊」などの話題が頻繁に取り上げられ、まるで現在進行形の事件のように報道されていた。

 さらに、教育面でも同様の傾向が見られた。中学・高校の歴史教科書や小学校の副読本にも、日本軍の残虐行為に関する生々しい描写や写真が多数掲載されていた。これらの教材を通じて、若い世代にも反日感情が植え付けられていく様子が窺える。

 著者は当初、このような反日的な言論は日本側の特定の発言に対する反応だと考えていたが、実際には日本側の動きに関係なく、継続的に展開されているキャンペーンであることを認識した。

 この状況の背景には、中国共産党の統治正当性を支える戦略があるようだ。共産党は抗日戦争での勝利を自らの統治の根拠としており、日本を永遠の「悪役」として位置づけることで、党の存在意義を強調し続けている。つまり、反日感情を煽ることが、共産党の一党支配を正当化する手段となっている。

 さらに、この反日政策は経済的にも成功している。日本からの投資や観光、援助は続いており、中国にとって不利益がないため、この戦略を変更する動機がないのだ。中国は日本を「決して贖罪を果たしえない罪人」として扱い続けることで、経済的利益を得続けている。

 また、中国国民の多くが日本の戦後の謝罪や平和主義的な姿勢について正確な情報を得ていないことも問題だ。中国側のメディアや教育システムが、意図的に日本の戦後の変化や謝罪の事実を無視し、過去の負の側面のみを強調し続けている。

 結論として、日本側がいくら友好的な姿勢を示しても、中国側の対応は変わらない可能性が高いという厳しい現実を認識すべきだ。この「反日」政策が中国共産党の統治戦略の一部である以上、簡単には変更されないであろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたいかたは、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国共産党の統治の正当性の脆弱性と日本の戦略上の強み

まとめ
  • 経営学の大家ドラッカーの統治の正当性に関する思想は、企業と政府の両方に適用可能な普遍的原則を提示しており、多元主義の尊重や権力の制限、社会への貢献を重視している。
  • 中国共産党の統治の正当性は脆弱であり、その要因として経済成長の鈍化、社会問題の顕在化、政治参加の制限、多元主義の欠如、特に歴史の歪曲と反日教育による外部の敵の創出が挙げられる。
  • 中国共産党による反日教育を通じた正当性の補強は、逆に統治基盤の脆弱性を示しており、これは日本にとって戦略的な強みとなり得る。
  • 日本は中国の反日政策に対して毅然とした態度を取り、国際社会に問題点を周知させることで、中国の統治の正当性の脆弱性を露呈させることができる。
  • 日本は台湾や東南アジア諸国との関係強化、日米同盟を基軸とした安全保障協力を通じて中国に対する抑止力を高めつつ、技術力や文化的影響力を活かして国際社会における地位向上と影響力の拡大を図るべきである。
「中国共産党の統治の正当性」という言葉は、過去においてはこのブログで何度か掲載してきました。最近は、これに言及することがしばらくなかったので、本日は久しぶりに取り上げさせていただきます。

晩年のドラッカー

統治の正当性というと、私が真っ先に思い浮かぶのは、経営学の泰斗ピーター・ドラッカーのことです。彼の統治の正当性に関する見解は、企業や組織のみならず、政府にも適用可能な広範な思想を展開しています。ドラッカーは、いかなる権力も正当性なくしては永続しないという基本原則を掲げ、この考えを企業経営から政府の統治まで幅広く適用しました。

企業の文脈では、ドラッカーは単なる経済的管理者としての経営者だけでは正当な統治者とはなりえないと主張しました。この考えは、1940年代にドラッカーがゼネラル・モーターズ(GM)の内部調査を行った際に具体化されました。GMの分権化された組織構造が効果的な統治をもたらしていると評価し、各事業部門に自治権を与えることで企業全体の正当性が高まることを示しました。

ドラッカーは「正当的統治者」の必要性を強調し、これが企業の社会的構造における自治の確立と、その自治機関と経営者の連合によって成立すると考えました。この思想は、日本企業の経営手法にも見出されます。例えば、松下幸之助の「水道哲学」、つまり製品を水道水のように安価で豊富に提供するという考え方は、社会貢献を通じて企業の正当性を確立する好例でした。

政府の統治に関しては、ドラッカーは社会全体の包摂の重要性を強調しています。彼は、いかなる社会も全ての成員を組み入れなければ機能しないと述べ、これは政府の正当性が社会の全成員を包摂する能力に依存することを示唆しています。この観点から、ドラッカーはアメリカの非営利組織の役割を高く評価しました。ガールスカウトやボーイスカウトのような組織が、市民社会の形成に大きく貢献し、政府の正当性を補完する役割を果たしていると考えました。

ドラッカーの思想の根底には、「人間として何が正しいか」という正当性の概念があります。彼は、リーダー(企業の経営者や政府の指導者を含む)は正しいことを行うべきだと考え、人の強みを活かし、高い目標に向かって人々を導くことが重要だと主張しました。この考えは、1960年代のIBMの事例に見ることができます。

トーマス・ワトソン・ジュニアが従業員の多様性を重視する方針を打ち出したことは、単なる道徳的判断ではなく、多様な人材を活用することで企業の競争力を高めるという戦略的判断でした。ドラッカーはこの取り組みを、企業の社会的責任と経済的成功を両立させる模範的な例として評価しました。

さらに、ドラッカーはリーダーシップにおける人格の重要性を強調し、「真摯さ(integrity)」という根本的な資質が必要だと考えました。この真摯さは、人間として誠実で信頼できるという意味を持ち、リーダーの正当性の基盤となります。ドラッカー自身の教育者としての活動も、この思想を実践した例といえます。クレアモント大学院大学で教鞭を取る中で、ドラッカーは学生たちに「自己管理」の重要性を説きました。これは個人レベルでの「正当な統治」の実践であり、組織や社会の正当性の基礎となるものでした。

ドラッカーの思想を政府の文脈に適用すると、政府の統治の正当性は社会全体の包摂、正しい行動と倫理的な統治、社会への貢献と有益な結果の創出、長期的・未来志向的な政策、そして効果的な統治能力と市民の権利・福祉の保護に基づくと考えられます。これらの要素を満たすことで、政府は持続可能な正当性を獲得し維持できるのです。

結論として、ドラッカーの統治の正当性に関する思想は、企業と政府の両方に適用可能な普遍的な原則を提示しています。それは、社会全体の利益を考慮し、倫理的で効果的な統治を行い、長期的な視点を持って社会に貢献することの重要性を強調するものです。GM、松下電器、IBM、そして非営利組織の事例は、これらの原則が実際の企業経営や社会の中で実践され、検証されてきたことを示しています。ドラッカーの思想は、現代の複雑な社会における統治の課題に対して、重要な洞察を提供し続けているのです。

中国共産党は2016年「社会主義核心価値観」なるスローガンを打ち出したが・・・

一方、現代中国の政治体制に目を向けると、中国共産党は「科学発展観」や「和諧社会」といった概念を打ち出し、経済発展と社会の安定を両立させることで、その統治の正当性を強化しようとしています。これは、ドラッカーが主張した「社会への貢献と有益な結果の創出」という正当性の要素に部分的に合致します。

しかし、中国共産党の正当性維持戦略には、日本の過去の戦争行為、特に日中戦争時の残虐行為を継続的に強調するという要素も含まれています。この戦略は、ドラッカーの理論にはないものですが、中国の文脈では非常に重要な役割を果たしています。

この戦略は、実はその統治の正当性が脆弱であることの証左であると考えられます。歴史の利用、経済成長の鈍化、社会問題の顕在化、政治参加の制限、制度化の後退といった要因が、中国共産党の統治基盤の脆弱性を示唆しています。これらの要因は、ドラッカーが提唱した正当性の要素、特に「多元主義の尊重」や「権力の制限」といった点と相反するものです。

中国共産党が主張する「旧日本軍から中国を解放し新中国を建国した」という歴史認識は、実際の歴史とは異なります。日中戦争期(1937-1945)に日本軍が主に戦ったのは、当時の中国の正統政府であった中国国民党軍でした。

この歴史的事実を踏まえると、中国共産党が現在主張している「抗日戦争の主力」としての自己イメージは、実際の歴史とは乖離があることが分かります。これは、ドラッカーが重視した統治の正当性における「真実性」や「誠実さ」の要素と相反するものであり、中国共産党の統治の正当性の脆弱性を示す一つの例と考えられます。

さらに、中国の組織的・体系的な反日教育は、1990年代に江沢民によって開始されたものであり、それが今なお継続していることは、中国共産党の統治の正当性が依然として脆弱であることを示しています。

1989年の天安門事件後、マルクス主義や社会主義イデオロギーの求心力が低下したことを受け、江沢民は国内の政治的不満を逸らし、新たな統合イデオロギーとして反日教育を利用し始めました。1994年に「愛国主義教育実施綱要」が制定され、教科書における日本の侵略に関する記述が大幅に増加しました。

この教育方針は、単なる歴史教育の枠を超え、テレビ、新聞、映画などあらゆるメディアを通じて展開されるようになりました。この反日教育の継続は、中国共産党が自らの統治の正当性を、外部の敵(この場合は日本)を作り出すことで補強しようとしている証左と言えます。

1998年日本記者クラブでの江沢民

ドラッカーの理論に照らせば、真に強固な統治の正当性は、多元主義の尊重や権力の制限、社会への貢献と有益な結果の創出などに基づくべきです。外部の敵を利用して国内の団結を図る手法は、これらの要素とは相反するものであり、これらはむしろ統治基盤の脆弱性を示唆しています。

中国共産党の反日教育の継続は、その統治の正当性が現状でも脆弱であることを示しています。これを示す事実もあります。かつて中国は「愛国無罪」というキャッチフレーズのもと、反日サイトの存在を放置してきました。しかし、放置しておくと、いつの間にか「反政府サイト」になってしまうため、これを閉鎖するようになりました。また、SNSでも反日発言を許容しているといつの間にか反政府発言にすり替わっているということも頻発しているので、これも厳しく取り締まるようになりました。

また、「反日デモ」も「愛国無罪」と言う理屈で放置され、放置するどころか「官制デモ」といわれるように、政府が主導したと思われる反日デモも増えていたのですが、これも放置を続けるといつの間にか「反政府デモ」になってしまうので、これも取り締まるようになり、2013年頃には姿を消し現在でも反日デモはありません。

中国では、建国以来毎年2万件の暴動が起こったとされていますが、その後も増え続け、2010年あたりには、政府は暴動の数を公表しなくなりました。

この状況は日本にとって戦略的に重要な要素であり、この脆弱性を適切に認識し活用すべきです。この脆弱性は裏返せば、中国共産党は、日本にかなり影響を受けやすいということです。

現在日本が初めて中国軍機に領空を侵犯されたというタイミングで、二階氏をはじめとする日中友好議連が中国を訪問しています。このような行動は、日本の国益を損なう可能性があるため、避けるべきです。

日本は、中国の反日政策に対して毅然とした態度で臨み、国際社会に中国の行動の問題点を周知させるべきです。同時に、日本の歴史認識や立場を明確に示し、領土・主権に関わる事案では一切の妥協を許さない姿勢を貫くことが重要です。

また、台湾や東南アジア諸国との関係強化、日米同盟を基軸とした安全保障協力の深化を通じて、中国に対する外交的・経済的レバレッジと抑止力を高めるべきです。日本は技術力、ソフトパワー、国際的信頼性などの面で強みを持っており、これらを活かして中国に対する優位性を発揮すべきです。

先端技術分野での優位性維持、自由で開かれたインド太平洋構想の推進、文化的影響力の活用、国際機関での積極的な発言などを通じて、日本の地位向上と影響力の拡大を図ることが重要です。

結論として、中国共産党の反日政策に対しては、対話と協力を模索するのではなく、日本の国益を守るための明確な戦略を持ち、毅然とした態度で臨むべきです。同時に、日本の強みを最大限に活かし、国際社会における日本の地位向上と影響力の拡大を図ることが重要です。このアプローチにより、日本は中国に対して実質的な優位性を確立し、より安定した国際環境の構築に貢献することができるでしょう。

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2024年7月15日月曜日

都知事選予測が的中 石丸氏の浮動票は驚くようなことではない 前例に東国原氏 高橋洋一―【私の論評】高橋洋一氏の驚異的な選挙予測と石丸伸二氏の政治家適性:為替アナリストの経歴が政治にもたらす影響

都知事選予測が的中 石丸氏の浮動票は驚くようなことではない 前例に東国原氏 高橋洋一

日本の解き方

まとめ
  • 小池百合子氏が3選を果たし、SNSで知名度を上げた石丸伸二氏が2位、蓮舫氏が3位となった。高橋洋一氏は、小池氏の浮動票が石丸氏に流れたと分析し、選挙結果をほぼ正確に予測した。
  • 高橋氏の予測方法は、投票率の推計と候補者ごとの票の性質(基礎票・浮動票)分析に基づいていた。
  • SNSを活用した若者層への浸透戦略は効果的だが、それだけでは都知事選勝利には不十分。
  • 若者層の支持が自民党から離れている中、石丸氏はその層をうまく取り込んだが、選挙後の対応で支持を失う可能性がある。

 小池百合子氏は3選を果たし、62のすべての自治体で他の候補を上回る票を獲得した。NHKの出口調査によると、小池氏の都政運営に対する評価は肯定的で、67%が「大いに評価する」または「ある程度評価する」と回答している。小池氏は自民党、公明党、都民ファーストの会の支持層を固めつつ、無党派層の30%以上からも支持を得た。特に40代以上の年齢層で強い支持を集めた。

 石丸伸二氏は2位となり、特に世田谷区、渋谷区、中央区などで27%以上の得票率を記録した。朝日新聞の出口調査によると、石丸氏は無党派層から36%の支持を得て、候補者中最多だった。また、維新支持層の41%、国民民主支持層の約4割からも支持を集めた。

 蓮舫氏は3位に終わったが、128万3262票(得票率18.81%)を獲得し、前回2020年の都知事選と比較して得票数で1.52倍、得票率で5.05ポイント増加した。蓮舫氏は武蔵野市、国立市、多摩市などで20%を超える得票率を記録した。

 選挙戦では、小池氏の2期8年の都政運営の評価が主な争点の一つとなった。石丸氏は「既存の政党に属さない人間が東京の知事になれば世界が一変する」と訴え、若者層を中心に支持を集めた。蓮舫氏は市民と野党の共同候補として戦い、共産党を含む多くの支援を得たことを「財産」と評価している。

 この選挙結果を受けて、立憲民主党と連合の幹部が会談し、蓮舫氏が3位に終わったことについて敗因分析を行うことになった。今回の都知事選は、既存政党や今後の国政選挙にも影響を与える可能性があり、特にSNSを活用した選挙戦略や無党派層の動向が注目されている。

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【私の論評】高橋洋一氏の驚異的な選挙予測と石丸伸二氏の政治家適性:為替アナリストの経歴が政治にもたらす影響

まとめ
  • 高橋洋一氏の東京都知事選予測は、投票率の正確な推計と候補者ごとの票の性質分析に基づき、驚くべき正確さを示した。
  • 石丸伸二氏は三菱UFJ銀行の為替アナリストとしての経歴を持つが、為替アナリストの短期的予測業務は博打的性質を持つと高橋氏は指摘している。
  • 政治家が博打的な思考や行動をとることは、国民の利益を損なう危険性があり、政治家としての信頼性や責任に反する。
  • 石丸氏の発言や行動には、為替アナリスト時代の博打的な考えが影響している可能性があり、政治家としてふさわしくない面がある。
  • 政治家には長期的視野、公正さ、信頼性、法令遵守の精神が求められ、博打的要素はこれらを損なう可能性が高いため、石丸氏の政治家としての適性に疑問が残る。
高橋洋一氏

高橋洋一氏の東京都知事選の結果予測は驚くべき正確さを示しました。その予測方法の核心は、まず投票率を正確に推計することにありました。高橋氏は期日前投票が有権者の約20%であることを踏まえつつ、投票日当日の天候などの要因も考慮して、全体の投票率を61%と予測しました。実際の投票率が60.62%だったことを考えると、この予測はかなり的確だったと言えます。

次に、高橋氏は候補者ごとに票の性質を分析しました。小池氏については基礎票と浮動票の両方を持つと考え、石丸氏は主に浮動票を、蓮舫氏は基礎票を中心に獲得すると予測しました。この分類に基づいてモデルを構築し、計算を行ったのです。

公選法の規定を考慮し、高橋氏は直接的な予測公表を避ける工夫をしました。投票前にX(旧Twitter)で「珍しい4つの素数」として11、13、17、29を投稿したのですが、これらの数字は実際には予想得票数(単位:10万人)を示していました。この暗号的な手法は、法的問題を回避しつつ予測を公表する巧妙な方法でした。

結果として、高橋氏の予測は実際の投票結果と非常に近いものとなりました。小池氏については予測290万票に対し実際291万票、石丸氏は予測170万票に対し実際165万票、蓮舫氏は予測130万票に対し実際128万票、その他は予測100万票に対し実際102万票となり、いずれも誤差は小さいものでした。

高橋氏の予測方法の特徴は、投票率の正確な推計、候補者ごとの票の性質(基礎票か浮動票か)の綿密な分析、そして過去の選挙データや現在の政治状況の詳細な検討にあると考えられます。特に小池氏と蓮舫氏の得票数予測が非常に正確であり、全体としても高い精度を示しています。この予測手法は、選挙分析や世論調査の分野で注目に値する成果であり、今後の選挙予測にも大きな影響を与える可能性があります。

石丸伸二氏は三菱UFJ銀行で為替アナリストとして働いていました。彼は2014年に初代ニューヨーク駐在員として赴任し、アメリカ大陸の主要9か国25都市で活動していました。その後、広島県安芸高田市長に選出され、政治家としても活躍しました。

石丸伸二氏

ただ、私自身は石丸氏の過去の経歴からみても政治家にはふさわしくないと思います。

長期的な為替レートは「世界に流通している円全体の価額 ÷ 世界に流通しているドル全体の価額」(円/ドル)という式で決まるとされています。しかし、中・短期的には様々な要因が絡み合うため、為替レートの予測は非常に困難です。

高橋氏は為替レートの短期的な予測を「競馬と同じ」と表現しており、予測の不確実性を強調しています。この見解に従えば、為替アナリストが行う短期的な為替予測は、実質的に博打と同様の性質を持つと言えます。アナリストは様々なデータや情報を分析しますが、予測不可能な要素が多いため、その予測は確実性に欠けます。

結果として、為替アナリストの短期的な予測は、情報に基づいた推測にすぎず、博打打ちの行為と本質的に変わらない可能性があります。したがって、高橋氏の見解に基づけば、為替アナリストの短期的な予測業務は、高度な分析を行っているように見えても、実質的には博打と同様の不確実性を持つ活動だと解釈できます。

ただし、長期的なトレンド分析や経済指標の解説など、より確実性の高い情報提供については、依然として意義があると考えられます。

しかし、中短期的な為替の予測をなりわいとする為替アナリストは、博打打ちといってもよく、政治家が博打的な思考や行動をとれば、国民の財産や生活に直結する政策決定において、不確実性の高い選択をしてしまう危険性があります。石丸氏にもこうした為替アナリスト時代の習慣や感覚が身についている可能性は高いです。

安芸高田市や選挙中や選挙後の石丸氏の発言は、とうてい常人の考えも及ばないところがあます。それは、博打打ち的な考えに石丸氏が支配されている可能性を示していると思います。


また、博打的な考え方をすることにより、政治家個人の金銭的な問題や倫理的な問題を引き起こす可能性もあります。これらは政治家としての信頼性を大きく損なう要因となります。さらに、政治家には長期的な視野で国や地域の発展を考える責任があります。

博打的な思考は短期的な利益を追求しがちで、この責任と相反します。また、政治家は法律を作る立場にあるため、博打的な考え方をすることは、法治国家の理念にも反します。したがって、博打打ちの性質や行動は、政治家に求められる公正さ、信頼性、長期的視野、法令遵守の精神と相容れません。政治家には冷静な判断力と高い倫理観が求められ、博打的な要素はそれらを損なう可能性が高いため、ふさわしくないと言えます。

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