2019年12月30日月曜日

2019年の日本経済、やっぱり「消費増税」は最悪の選択―【私の論評】「もりかけ桜」では揺るがなかったが、経済の悪化が安倍政権の政権土台を揺るがすことになる(゚д゚)!

2019年の日本経済、やっぱり「消費増税」は最悪の選択だったしかし、やってしまったものは仕方ない

「デフレ脱却」はあえなく潰えた

今年は新元号・令和のスタートの年だった。1年間の景気や物価、雇用はどうだったのか。景気を左右した要因は何だったのか。振り返ってみよう。

日本全体の経済(マクロ経済)を見るとき、重要なのは雇用、景気と物価である。

まず雇用について、総務省の失業率で見ると2019年1〜10月で2.2〜2.5%、就業者数では6665〜6758万人だった。失業率は低位安定、就業者数は上昇傾向で、雇用は相変わらず良かった。


景気について、内閣府の景気動向指数の一致指数で見ると、95.3〜102.1。なお、昨年末から低下傾向であり、そのころに景気の山を迎えていた可能性がある。それ以降景気は下向きであるが、10月の消費増税がそれをさらに加速し、後押ししたようだ。


物価はどうだったのか。総務省の消費者物価指数総合(除く生鮮食品)の対前年同月比でみると、1~11月で0.3~0.9%だったが、年前半より後半のほうが伸び悩んでいる。特に、10月の消費増税の影響が出た10月と11月は、0.4%と0.5%。

今回の消費増税により、消費者物価は形式的にプラスの効果となり、その影響は0.7%程度だ。しかし、同時に幼児教育・保育の無償化が実施されている。これは物価にマイナスの効果となるが、その影響は▲0.5%程度だ。これらプラス、マイナスの結果をあわせると、10月以降の消費増税の影響は0.2%程度になる。

これを考慮すると、10月・11月とほとんど物価が上がっていない。消費増税により、「2019年内のデフレ脱却」という目標はあえなく潰えた。


総じて、2019年を振り返ると、景気や物価は徐々に悪くなりつつあるが、雇用は相変わらずよかったという評価だ。もっとも、雇用は景気に遅れる遅行指数であるので、今後の先行きは暗い。

増税分を吐き出す景気対策が必要

ちなみに、内閣府の景気動向指数の先行指数でみると、1月の96.3から始まり10月の91.6までほぼ一貫して下降している。これも、来年の景気の先行きを不安視させる数字だ。

本コラムでは以前にも言及したが、景気足踏みや後退傾向は、2018年から見られていた。しかも、日本だけでなく世界経済の環境も、米中貿易戦争、ブレグジットの混迷などマイナスが多かったので、日本への悪影響が懸念されていたところだ。その中で、10月の消費増税は最悪のタイミングであった。

しかし、やってしまったものは仕方がない。消費増税分を吐き出すような景気対策が必要だ。

幸いにも、来年1月からの通常国会では、冒頭で補正予算が審議される。総額4.5兆円のうち、経済対策は(1)災害からの復旧・復興と安全・安心の確保2.3兆円、(2)経済の下振れリスクへの備え0.9兆円、(3)未来への投資など1.1兆円で合計4.3兆円だ。これは、消費増税による増収額(平年ベース)とほぼ見合っており、消費増税を吐き出すものだといえる。これ1回きりではなく、来年度でもあと1、2回の景気対策が必要になるだろう。

さらに、来2020年度予算をみてみよう。2020年度当初予算案の一般会計総額については、102兆6580億円と、2019年度当初予算と比べて1兆2009億円の増加となった。マスコミは「過去最大」と、拡大に否定的なトーンで報じている。

例えば、NHKでは「来年度予算案 過去最大の102兆円超 歳出膨張に歯止めかからず」としている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191221/k10012223561000.html

新聞各紙の社説でも、同じような報道である。
朝日新聞「100兆円超予算 健全化遠い実態直視を」(https://www.asahi.com/articles/DA3S14302417.html毎日新聞「過去最大の102兆円予算 『身の丈』に合わぬ放漫さ」(https://mainichi.jp/articles/20191221/ddm/005/070/093000c読売新聞「20年度予算案 『100兆円』は持続可能なのか」(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20191220-OYT1T50394/日経新聞「財政の持続性に不安残す来年度予算案」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53620900Q9A221C1SHF000/産経新聞「来年度予算案 歳出の改革は置き去りか」(https://www.sankei.com/column/news/191221/clm1912210003-n1.html

筆者が大蔵官僚の時代には、来年度予算について課長補佐クラスか課長クラスが各紙の論説委員のところに、エンバーゴ(情報解禁日時)付きの資料をもって事前に説明に行っていた。

その後、各社の社説が出ると、大蔵省幹部が説明した課長補佐クラスか課長クラスを全員集めて、各社の社説を論評したものだ。「この社説はよく書けているな、この社説はダメだ」。もちろん、大蔵省の意向に沿っている社説が「よく書けている」と評価されるわけだが、同時に課長補佐・課長クラスが、どこまでマスコミを丸め込めたかという「仕事ぶり」も評価されているのだ。

おそらく今でも、財務官僚は似たような方法でマスコミに対して事前レクをしているのではないか。だとすれば、各紙の論調が似ているのは事前レクのためではないかと邪推してしまう。その際、「予算の膨張や財政再建の遅れを批判してもかまわない」と財務官僚が説明したら、各紙はそのように社説を書くのではないだろうか。

「過去最高の予算額」は悪いことなのか

しかし、過去最高の予算額は悪いことなのか。予算額は、いうまでもなく名目値である。名目値の経済統計数字は、年々増加し大きくなるのが通例だ。だから、それが過去最高になるのは当然であり、前年を下回っているほうが、むしろ問題だろう。「過去最高」を問題視するのは、デフレ思考そのものであり、それこそが問題だ。

ちなみに、名目GDPと一般会計歳出総額を比較すると、一般会計総額の方が名目GDPより伸びが低い。つまり、安倍政権において年々緊縮度合が高まっている。過去最大の予算が問題なのではなく、名目GDPに対して一般会計総額が相対的に縮小していることのほうが問題だ。


各紙ともに財政再建を気にしているのもおかしい。筆者は、国のバランスシートが健全であることや国の倒産確率が無視できるほど小さいことから、これまで本コラムで何度も、財政再建の必要が乏しいことを書いてきている。各紙はそうした合理的な主張を無視して、財務省の言い分を無批判に信じているかのようだ。

新聞各紙は、軽減税率の恩恵を受けられるので、消費増税に賛成する立場だ。2019年10月の消費増税の結果、来年度予算の歳入では、史上初めて消費税による税収が最も多い税目となった。

消費増税を悲願としてきた財務省にとっては喜ばしいことだろうが、そのせいで景気は落ち込んでおり、景気対策も必要になっている。いったい何のための消費増税だったのか。

「臨時・特別の措置」の意味

来年度予算の歳出総額は102兆6580億円であるが、そのうち、「臨時・特別の措置」1兆7788億円が含まれている。「臨時・特別の措置」とは、消費増税対策でもあるキャッシュレス・ポイント還元事業の2020年度分2703億円や、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(2018年12月14日閣議決定)の2020年度実施分1兆1432億円などが含まれる。

つまり、「臨時・特別の措置」の残りの部分100兆8792億円は「通常分」というわけだ。財務省としては、「臨時・特別の措置」は2020年度限りのものであり、2021年度ではなくなる。そうして財務省は、緊縮財政の姿勢を示しているのだ。

それが色濃く出ているのが、公共事業費だ。2020年度の公共事業費は6兆8571億円だが、その中に、「臨時・特別の措置」7902億円が含まれている。「通常分」は6兆0669億円で、前年から1%程度減っている。

要するに財務省としては、「公共事業費を減額したが、2020年度は『臨時・特別の措置』で膨らんだ」という説明なのだ。

このように「臨時・特別の措置」というのは、財務省が緊縮財政姿勢を示そうとするときに、よく用いられる手法である。

本来であれば、マイナス金利か極めて低い金利環境を反映して、公共事業の採択基準の際の割引率を見直し、公共事業の大幅増を行うのが筋だ。

なにしろ割引率はここ15年も4%で据え置かれており、誰の目から見てもおかしい。現在の金利環境で見直せば、割引率は0.5~1%程度になるので、採択可能な公共事業を3倍増させることも可能だが、来年度当初予算は古い公共投資の採択基準のままなので、公共事業費は伸びていない。

15年も割引率を見直さない奇妙さ

ちなみに、アメリカではこの割引率は毎年見直されており、年末に予算管理局が機械的にアップデートしている。2020年度の想定国債実質金利は3年、5年、7年までマイナス金利、10年はゼロ金利である(https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2019/12/M-20-07.pdf)。

実は、筆者は18年前に国交省に出向していたとき、各国の費用分析を比較・調査するために海外出張したことがある。そのとき訪れた各国でも、割引率は随時見直すと言っていた。国交省が15年にわたって割引率を見直さないのは、必要な公共事業を行わなかったという意味で罪深いものだ。

いずれにしても財務省は、割引率の見直しをせずに、「臨時・特別の措置」として公共投資増を計上しただけだ。この意味で、今回の予算案は本質的な仕事になっていない。

文教・科学振興費も若干のマイナスになっている。公共事業費とともに、これらはモノとヒトに対する将来投資である。現在は国債がマイナス金利または超低金利なので増額する絶好のチャンスであるが、その良好な環境を活用しているとは言い難い。

【私の論評】「もりかけ桜」では揺るがなかったが、経済の悪化が安倍政権の政権土台を揺るがすことになる(゚д゚)!
冒頭の記事にもあるとおり、2020年度の歳出総額は102兆6000億円ですが、2019年度予算が101兆4000億円なので前年から約1.2%の増額予算です。まず、政府歳出が経済成長に及ぼす影響をみるために、名目GDP(国内総生産)と比較した伸び率を比較する観点があります。

2013~2018年度の名目GDPは平均約プラス1.8%、そして政府は2020年度約プラス2%の名目経済成長を想定しており、ほぼ変わらないです。2020年度の歳出の伸びが名目経済成長率より低いので、政府歳出は経済成長率を抑制する方向に作用する可能性が高いです。

より厳密に見るために、政府の税収の伸びと歳出の伸びを考えます。2013~2017年度の名目GDPは平均約プラス2.1%、同期間に2014年度の消費税率引き上げ(5%から8%)の影響を除いて税収は平均約3.4%増えました。経済成長率よりも税収の増減率が大きくなるため、2020年度が政府の想定通りの経済成長率なら10月からの消費増税がなくても税収は3%以上増えます。

少なくとも税収(2017年実績106兆8000億円、地方を含めた国全体ベース)がプラス3%以上増え、政府歳出(同121兆8000億円)がプラス1%程度であれば財政収支は改善します。これは、家計・企業などの民間部門から政府に対する支払いが増える緊縮財政です。


2020年度予算案は一般会計の歳出規模が2年連続で100兆円を
                 超えることになったが、この財政政策は実は緊縮財政

さらに2019年10月からの消費増税によって、教育費無償化などの家計への恩恵を含めても恒久的に家計に2~3兆円負担が増えると考えられます。このため、2020年度の税収はさらに1~2%ポイント上乗せされます。この結果、税収と歳出のバランスでみると、2020年度はかなりの緊縮財政になるでしょう。ただ、消費増税で経済成長率がゼロ%前後に落ち込むとみられ、実際の税収の伸びはプラス3%を大きく下回るでしょう。

このため、2020年度予算では、歳出が抑制される中で増税が行われるので緊縮財政が続くと見るのがより正確でしょう。つまり、「過去最大規模」「100兆円」という2つのワードを強調するメディアは的外れです。

12月初旬に政府が発表した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」において公的支出は13兆円の規模ですが、これが日本の経済成長率を高める可能性は極めて低いです。実際、同様の大規模対策となった2016年8月の経済対策によって、その後の政府支出の伸びが全く高まりませんでした。


こうなる理由の一つは、補正予算で事業規模が増えても、その影響で当初予算ベースの歳出が減ることです。

さらに、12月の経済対策で公共投資が上積みとなったため、2020年度の予算では公共工事関係費は前年から減額になりました。なお、消費増税によって家計の実質所得が目減りする個人消費への悪影響を、建設業などに恩恵が偏る歳出拡大で対応する政策は資源配分を歪める弊害が大きいです。

このため、当初予算で公共投資を減らすことは問題ではないとしても、個人消費の落ち込みへの手当として、低所得者向けの社会保障関連などの歳出を拡大させる余地が大きいです。

いずれにしても、大規模な経済対策を発表しても、政府による歳出上乗せが実現しなければ、先に述べたとおり2020年は増税によって緊縮財政となります。2%インフレの早期実現のために、金融財政双方において景気刺激的な運営が求められるとすれば、これは大きな問題です。

米国では、著名経済学者であるラリー・サマーズ教授が2013年に長期停滞論を唱え始め、政府による歳出拡大の必要性を訴えています。長期停滞論そのものに対しては懐疑的なところもあります。

ただし、同氏が2013年に主張した後、先進国の中で経済正常化が最も進んだ米国でも、極めて低い金利とインフレ率が長期化したままです。同氏が主張する拡張財政政策には説得力があり、その慧眼に感服せざるを得ないです。

さらに、米国の大物経済学者であるオリビエ・ブランシャール元IMFチーフエコノミストは、国債金利が名目経済成長率を下回る場合に、総需要を増やす財政政策が必要であり、特に日本は長期停滞に陥っているため金融・財政政策でテコ入れする必要がある、と主張しています。

オリビエ・ブランシャール氏

これら米国の一流の経済学者の提言は、日本の経済政策運営には残念ながらほとんど生かされていません。標準的経済理論を軽視した政策運営が続くため、オリンピック・パラリンピックを迎える2020年の日本経済は長期停滞から脱することは極めて難しいでしょう。

そして、従来からこのブログでも指摘していますが、現在の経済政策運営が安倍政権の政治的土台を揺るがすリスクが高まることになるでしょう。

「もりかけ桜」では、結局安倍政権の政治的土台を揺るがされることはありませんでした。特に、「桜を見る会問題」で内閣総辞職になるなどということはあり得ません。しかし経済の悪化は確実に政権土台を揺るがすことになるでしょう。

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2019年12月29日日曜日

2020年、ついに財務省の「景気対策のウソ」がバレる可能性―【私の論評】マイナス金利国債を大量に刷り増せば政府は大儲けできるのに、なぜ増税をしたのか(゚д゚)!


攻防の一年

2019年は財務省にとって、消費増税の「悲願」達成の一年だったと言えるだろうが、2020年にはどう動いてくるのか。

結論から言ってしまえば、財務省にとっての'20年は、防戦メインの一年になると予想される。

懸案事項であった消費増税はクリアしたものの、11月以降、財務省は自民党と公明党からの大型補正予算の要求に苦慮していた。景気対策などを盛り込んだ大型補正予算は'20年1月20日から始まる通常国会で審議に入る。

国会

'19年度の補正予算は約4・5兆円で閣議決定した。すったもんだの議論があったが、考えてみれば補正予算は、消費増税による景気落ち込みを防ぐために組まれたものだ。増税を煽ってきた財務省からすれば、「身から出たサビ」と言えるだろう。

もともと、世界経済が不安定な時期に消費増税したのが間違いだった。本コラムでたびたび指摘しているとおり、景気落ち込みの対策には、マイナス金利を活用した公共投資を増やすのがセオリーだ。

国交省の公共投資の採択基準が市場の金利と合わなくなり、結果的に行うべき事業をまったく進められていないのが、景気落ち込みとそれに伴う大型補正予算の拠出の原因になっている。

市場的には「攻め時」であるにもかかわらず、財務省はそれを受け入れられず、防戦一方の姿勢を貫いている。この傾向は、'20年に突入してからも変わらないだろう。

いかなる経済理論においても、マイナス金利下では、国債の大量発行が正当化される。政府にとって「借金」としての負担にならないからだ。ところが財務省は、国債について「将来世代に負担をかけるもの」「財政の硬直化を招くもの」と、絶対悪のように主張し続けてきた。

だが、安倍政権の在任が歴代最長となり、アベノミクスとマイナス金利が長期化するなかで、先の財務省の主張は徐々にウソだとバレ始めている。しかし、プライドの高い財務省官僚は表立ってそれを言うことができない。

'19年度補正予算、そして約102兆円に膨れ上がった'20年度当初予算では、大量国債発行を回避した。この点について財務省は胸をなで下ろしているだろう。ただ、「経済対策にはマイナス金利を利用すべし」ということに他省庁やマスコミが気づくことを恐れている。

適当な財政ネタでマスコミを陽動し、金融機関の疲弊など、マイナス金利に関する弊害情報で誤魔化そうとする。

それに加えて、お決まりの「増税やむなし論」を流すことも忘れない。

国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、日本の消費税率について「'30年までに15%、'50年までに20%へ増税する必要がある」との見解を示した。こうしたIMFの発言は、財務省から出向した人間が理事に言わせていることもある。

ちなみに、日本のマスコミが同基金のニュースを流すときは、ほとんどIMF理事室がソースだ。ここでの日本語対応でも財務省からの出向者が活躍しており、この意味では、中立的な国際機関と思わないほうがいい。

増税による景気落ち込みのしわ寄せ、そしてこれまで主張してきた理論の矛盾を追及されないための工作で、'20年の財務省は守りを決め込むだろう。

『週刊現代』2019年12月28日・2020年1月4日号より

【私の論評】マイナス金利国債を大量に刷り増せば政府は大儲けできるのに、なぜ増税をしたのか(゚д゚)!

日本がマイナス金利政策なのは有名ですが、実は日本国債の利回りもマイナスになっていいます。国債の利回りがマイナスということは、購入する側からすると買って満期まで持っていると、払った金額よりも受け取れる金額が小さいということです。
これを売る政府の立場からみると、買い手に売って満期まで待っていると、書い手が払った金額よりも返す金額が少なくてすむということです。マイナス金利分は、政府の丸儲けです。
それにしても、なぜ利回りがマイナスなのに、日本国債は買われるのでしょうか。これについては、以前もこのブログで理由を掲載しました。
結論から言ってしまえば、「他の選択肢よりはマシだから」「長期的には不安だけれど短期的には安心だから」ということだからなのです。
「とりあえず、今日から明日までの運用を考えよう。明日以降のことは明日考えよう」と投資家が考えたとします。「明日までに日本政府が破綻する可能性は非常に小さい」一方で「明日までに円高ドル安で損するリスクは小さくない」ということならば、「とりあえず明日までは国債で運用しよう」ということになりそうです。

明日以降も全く同じことが繰り返されれば、日本人投資家はずっと日本国債を持ち続けることになるでしょう。「長期的には不安だけれど、短期的には安心だ」ということで短期の投資が繰り返され、結果として長期間にわたって投資が続くことになります。
さらに、日本人投資家から見ると、日本国債は「信用リスクはあるが、為替リスクがないので、相対的に安全な資産だ」と言えるわけですが、外国人から見ると違います。彼らにとっては日本国債は「信用リスクも為替リスクもある、相対的にリスクの大きい資産だ。しかも金利も低い」ということになるからです。
以上のようなことから、日本の機関投資家は、たとえ金利がマイナスであっても、日本国債を買い続けるのです。
そうして、金利がマイナスということはどういうことかといえば、これはもう小学生でもわかることです。

政府の立場からすれば、国債を大量に刷ったにしても、金利がマイナスであれば、買い手に売って満期まで待っていると、買い手が払った金額よりも返す金額が少なくてすむということです。要するに、マイナス金利分丸儲けということになります。
このような理屈は、小学生にかかわらず、マクロ経済などにかな疎い人でもほとんどの人が理解できるでしょう。
マイナス金利の国債を大量に政府が販売すれば、マイナス金利の分は政府が丸儲けということになります。であれば、大量に国債を発行しても、赤字になるはずもくなく、将来世代に付になることもないということは誰でも理解できます。
しかし、緊縮脳におかされた人々は、これでも大量の国債を発行すれば、これを家計と同じ用に考えて、金利分は確かに政府の儲けだが、元金分は政府の借金であると、言うかもしれません。 
サイトでみつけた緊縮、反緊縮派の分類

こういう人緊縮派の人には、いくら説明してもわからないので、絶望的になります。しかし、良く考えてみてください、もし国債を外国から買ってもらうと、すればそれは確かにすぐに国民の借金となり、将来世代への付ともなります。しかし、現在の日本国債のようにそのほとんどが日本国内の機関投資家が購入するのですから、それは決して将来世代への付にはなりません。
国内で購入される国債は、国内で国債を大量に買うことのできる、機関が購入し、政府にそのお金が渡っているということです。政府はそのお金を元手に様々な事業を行うわけです。
それでも、緊縮派の人たちは、「いや、政府が事業を実施してしまえば、それでお金は消える」と考えるかもしれません。しかし、そうでしょうか、政府が事業を行えば、そのお金が市場に出回り、また税金として政府に戻ってくるのです。ここが、根本的に家計とは異なります。このお金は、日本国内を循環しているだけです。消えることはありません。
これでもわからない人もいるようです。しかし、もう一度考えてみてください。もし、政府がマイナス金利になろうが、なるまいが、国債を一切発行しなかった場合どうなるのか。
日本国内の機関投資家は、日本国内の国債を買えなければ、お金をそのまま溜め込むか、海外に投資することになります。そうなると、日本国内ではその分のお金は循環しなくなるだけの話です。であれば、特にマイナス金利のとき、デフレ気味のときには、政府は大量に国債を発行して、日本国内でお金を循環させたほうが良いという結論になります。ましてや現在の日本は、デフレから脱却しきれていませんし、増税でデフレに舞い戻る可能性が大いにあります。
そうして、国債が将来世代への付になるということはありません。これについては、さらに詳しく、以前のこのブログに掲載したので、その記事のリンクを以下に掲載します。
政府、赤字国債3年ぶり増発へ 10兆補正求める与党も容認見込み―【私の論評】マイナス金利の現時点で、赤字国債発行をためらうな!発行しまくって100兆円基金を創設せよ(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、2つの条件、(1.国債が、国内で販売されていること、2.不完全雇用経済であること)を満たしていれば、国債を発行しても将来世代への付にはならないことと、その理由について掲載しました。

そうして、現在の日本は、この2つの条件を満たしており、たとえ国債の金利がマイナスでなくても、国債を発行しても将来世代への付になることはないのです。さらに国債の金利はマイナスなのです。


これは、まさに現状は国債を大量に刷り増すべきであることを示しています。まさに、上の記事でも主張されているように、「市場的には『攻め時』であるにもかかわらず、財務省はそれを受け入れられず、防戦一方の姿勢を貫いている。この傾向は、'20年に突入してからも変わらないだろう」という状況なのです。

仮に、現在のマイナスの国債を、金利がゼロになるまで、刷り続けるとどのくらい国債を刷ることができるのかという高橋洋一氏が試算しています。その試算結果を以下に掲載します。
仮に8年国債で国が資金調達する場合、金利が同じであれば、100兆円調達で年間3000億円、8年で2兆4000億円儲かる。これは8年国債を100兆円発行すると、102兆4000億円の当初資金を調達できることを意味する。このうち100兆円は金庫に入れ、残りの2兆4000億円を使っても何の支障もない。
それにしても、これだけ、大量に国債を刷り増すことが可能なら、なぜ増税をしたのかということに、多くの人が気づくはずです。

しかし、見方を変えると、これは財務省にとっても良い話であると思います。仮に、8年国債を100兆円発行し、102兆4000億円の当初資金を調達し、100兆円は金庫に入れ、残りの2兆4000億円を使い。金庫に入れた,100兆円を特別会計にでも入れれば、財務省としてはこの100兆円を財務省に省益につかえるかもしれません。

無論そこまで、露骨なことをすれば、さすがに政治家や他省庁から苦情がでるかもしれませんが、それにしても、この100兆円の一部は、いわゆる財務省の埋蔵金にできる可能性があります。さらには、経済対策にも使えるのです。やはり、無繆性をモットーとする愚かな役人根性がなせる技なのでしょうか。

それこそ、消費税を増税しなくても、桁外れの埋蔵金を蓄えられる大きなチャンスであるにもかかわらず、財務省がこのようなことをせずに、防戦一方に回っているというのですから、本当に不思議です。

このような姿勢の財務省は、ブログ冒頭の記事にもあるように、増税による景気落ち込みのしわ寄せ、そしてこれまで主張してきた理論の矛盾を追及されないための工作で、'20年の財務省は守りを決め込むのでしょうが、これは逆に言うと、来年は財務省は、増税による景気落ち込みのしわ寄せ、そしてこれまで主張してきた理論の矛盾を追及されることになるということです。

さすがに、国債のマイナス金利については、何を意味するのか、小学生でも理解できることですから、多くの政治家が理解できないはずはありません。来年は、財務省はこれで、かなり叩かれることになるでしよう。これで、財務省は身を滅ぼすことになるかもしれません。

それが、日本でも機動的財政政策ができるようになるきっかけになることを期待したいです。

ちなみに、ここで機動的財政政策とは、景気が悪くなれば、積極財政を実施し、景気が加熱すれば、緊縮財政をするという当たり前の財政政策をするという意味です。

さらに、一つ付け加えると、日本で機動的財政政策ができるようになったとしても、日銀がまともな金融政策を実行しなければ、日本経済はまともになりません。

日銀、景気が悪くなれは、金融緩和をすべきですし、景気が加熱すれば、金融緩和をすべきなのです。

景気が悪いときに、政府がせっかく積極財政を打ったとしても、日銀が金融引き締めをすれば、全く意味がないです。何のために、積極財政をするかといえば、お金の循環を良くするためです、そのときに日銀が通貨領を減らす金融引き締め政策をすれば、逆効果になるのは当然のことです。

平成年間は、デフレであるにもかかわらず、政府は増税などで、緊縮財政を実施し続け、日銀は金融引き締め政策を継続し続けました。

平成年間で、まともな経済対策ができたのは、安倍政権が成立した直後の2013年4月から、8%増税をする直前の2014年3月までのわずか1年間だけでした。

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2019年12月28日土曜日

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【日本の解き方】令和元年の日本経済を冷やした“最悪のタイミング”での消費増税 景気対策は1度では済まない

2019年元旦 初滑り 写真はブログ管理人挿入

 2019年は、新しい元号の令和になり、そのスタートの年だった。平成は経済停滞が続いた年代だったが、令和元年の経済はどうだったのだろうか。

 筆者が重視している雇用について、総務省の失業率で見ると今年1~10月で2・2~2・5%となった。就業者数は6665万~6758万人だった。失業率は低位安定、就業者数は上昇傾向で、雇用は相変わらず良かった。

 景気について、内閣府の景気動向指数の一致指数で見ると、95・3~102・1だった。昨年末から低下傾向であり、そのころに景気の山を迎えていた可能性がある。それ以降は下向きであるが、10月の消費増税はそれをさらに加速させたようだ。

 物価はどうだったのか。総務省の消費者物価指数総合(除く生鮮食品)の対前年同月比は、1~11月で0・3~0・9%だったが、年前半より後半のほうが伸び悩んでいる。特に消費増税の影響が出た10月と11月は0・4%と0・5%だった。

 今回の消費増税は、形式的には消費者物価にプラスの効果となり、その影響は0・7%程度だ。ただ、同時に幼児教育・保育無償化が実施され、物価への影響はマイナス0・5%程度だ。そのプラス、マイナスの結果、10月以降、消費増税の影響は0・2%程度になる。

 これを考慮すると、10月、11月とほとんど物価が上がっておらず、消費増税により19年中のデフレ脱却はあえなく潰れた。

 19年を振り返ると、景気や物価は徐々に悪くなりつつあるが、雇用は相変わらず良かったという評価だ。もっとも雇用は景気に遅れる遅行指数であるので、今後の先行きは暗い。

 ちなみに、内閣府の景気動向指数の先行指数でみると、1月の96・3から始まり、10月の91・6までほぼ一貫して下降している。これも、来年の景気の先行きを不安視するものだ。

 前にも言及したが、この1年の景気足踏みや後退傾向は昨年から見られていたものだ。しかも、日本だけでなく世界経済の環境も、米中貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱の混迷など、景気に対するマイナス面が多かったので、日本への悪影響も懸念されていた。その中で10月に消費増税が最悪のタイミングで実施された。

 いまさらやってしまったものは仕方ない。消費増税分を吐き出すような景気対策が必要になるだけだ。

 幸いにも、20年1月からの通常国会では冒頭で補正予算が審議される。その経済対策は、(1)災害からの復旧・復興と安全・安心の確保2・3兆円(2)経済の下振れリスクを乗り越えようとする者への重点支援0・9兆円(3)未来への投資等1・1兆円で、合計4・3兆円だ。

 これは、消費増税による増収額(平年ベース)とほぼ見合っており、消費増税分を吐き出したともいえる。今回1回きりではなく、来年度もあと1、2回の景気対策が必要になるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】すでにあらゆる数値が悪化!政府の景気対策は明らかに後手にまわり、手遅れに(゚д゚)!

令和もいよいよ2年目へ。おそらく、民間企業ではすでに仕事納め、明日29日には官公庁も仕事納めです。今頃、新春ムードに浮かれている人も多いかもしれません。しかし、残念ながら、その新春ムードをぶち壊すことになりそうです。

浅草仲見世通りはもう新春ムードだが・・・・・

なぜなら、20年の景気は一層冷え込むことになるからです。この重大事を海外メデイアは一部報道しているところもあるのに、現在日本のメディアは、IR疑惑報道等なでかき消されてしまったのかほとんど報道しません。これは、10月に実施された消費増税の影響があまりに大きく、冒頭の記事で高橋氏が予想するように、来年からの景気の冷え込みは確実なのです。

経産省が11月末に発表した10月の商業動態統計では小売・卸売業が悲惨な状況にあることも明らかになっています。10月の小売業販売額は前年同月比7.1%減で、’14年増税時(4.3%減)のマイナス幅を大きく上回ったのです。

財務省が毎月発表している貿易統計でも、10月の輸出が前年同月比9.2%減、輸入が同14.8%減と大きく低下。11月の速報値でも輸出が7.9%減で輸入が15.7%減と大幅なマイナスです。特に、2か月連続で2桁減を記録している輸入額からは国内需要が大きく低下していることがうかがえます。

経産省が発表した10月の鉱工業生産指数も前月比4.2%減で、3年5か月ぶりの低水準。10月の台風被害で操業停止に追い込まれた工場があった影響もあるでしょうが、日本も含めて世界的に需要が落ち込んでいることを如実に示しています。


前回増税は3%分で今回は2%分のため、単純計算で景気の落ち込みは前回の3分2程度にとどまるだろうと予想する人もいましたが、実際には前回増税時を上回る落ち込みをみせているのです。

12月6日に発表された総務省の家計調査によると、10月の消費支出は物価変動を除いた実質ベースで前年同月比5.1%減と大きく下落しました。大型台風の影響があったとはいえ、’14年の5%から8%への引き上げ時よりも大きな下落率です。軽減税率の導入やキャッシュレス決済時のポイント還元制度を導入することで、駆け込み需要からの反動減を抑制しておきながら、この水準です。

ポイント還元制度は複雑で手間のかかるものだった・・・・


さらに内閣府が発表した景気動向指数では、景気の現状を示す一致指数が前月比5.6ポイントも下落と、8年7か月ぶりの大きさを記録しています。消費増税の悪影響が想像以上のものだったと言わざるをえません。

一方日経平均株価は9月初めには2万円台で停滞していましたが、12月には2万4,000円台まで大幅高となりました。その要因は、米欧株の主要株価指数が最高値を更新する中で、日本や新興国も含めて世界的な株高となったためです。

過去3ヵ月余りの日経平均株価の大幅高を受けて、バブルではないかとの見方も聞かれます。しかし、2020年も米国を中心に株高トレンドは崩れなければ、バブルの領域まで日本株が上昇しているとは言えないでしょう。

ただ2020年の日本経済は、消費増税による緊縮財政政策の強化によって、ほぼゼロ成長に停滞すると予想します。オリンピック開催で東京を中心に雰囲気は明るくなるかもしれませんが、すでに最近の経済減速の余波で求人数がやや減少するなど、2018年まで好調だった労働市場の減速が始まっています。

2020年は海外からの追い風で株式市場は底堅いでしょうが、家計所得と個人消費の失速によって、景気回復の実感が多くの国民に広がることはないでしょう。経済政策の失敗によって、安倍政権の政治的な求心力がさらに低下し、2019年までは世界で最も安定していたと言える日本の政治情勢が不安定化する展開があるかもしれません。

2020年は海外からの追い風で株式市場は底堅いだろうが・・・・

前回の増税と単純比較はできません。2014年4月の増税は、アベノミクスが始まった直後のことです。これに対して、今回は米中貿易戦争などで世界的に先行き不透明感が強まった時期での増税です。無論、前回のときも世界情勢に関して懸念材料はありましたが、今回ほどではありませんでした。

いまだ政府は景気の基調判断を「緩やかに回復している」として、’12年12月から始まった戦後最長の景気回復は継続中であるとの判断を維持していますが、多くの景気指標を見ると’18年10月にピークをつけていたことがわかります。


実際、この12月に内閣府から発表された’18年度GDP確報値は、速報値の0.7%から0.3%に大幅に下方修正されています。さらに、多くの人が見落としているのがGNI(国民総所得)。こちらは速報値の0.2%から一転してマイナス0.2%に下方修正されているのです。

GNIは文字どおり、国民が1年間に得た所得の合計を示す数値。つまり、’18年度には早くも日本の所得水準は低下に転じて、そこに世界的な景気減速が重なるという最悪のタイミングで増税が実施されてしまったのです。

’20年度の新卒求人倍率は8年ぶりに低下しており、安倍政権がアピールし続けた雇用環境の改善も頭打ちの状況。もはや、緩やかに回復している』と言える材料は尽きているといって良いです。

問題なのは、このような経済環境にありながらまともな経済対策を講じていない点にあります。

12月13日に’19年度補正予算案を臨時閣議決定しましたが、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」と名づけながら、経済の下振れリスクに対処するための重点支援策への投入資金は9000億円どまり、10 月の消費増税では軽減税率や教育無償化に伴う財源を差し引いて、恒久的に2.5兆円の家計負担増になると試算できるのに、まったくその穴埋めができていません。

そもそも補正予算の成立が遅すぎるのです。増税に伴う景気減速が目に見えていたにもかかわらず、10~12月の臨時国会での補正予算成立を目指さず、政府は1月20日に召集される通常国会での早期成立を目指す姿勢です。

仮に1月中に補正予算が成立しても、実際に予算が執行されるのは年度末の3月になってしまいます。つまり、増税から半年も追加対策を打てぬまま時間が過ぎてしまうわけです。

高橋洋一氏が冒頭の記事で主張するように、景気対策を一度で済ますことなく、来年度(’20年度)の補正もすぐさま打たないと景気の下支えは難しいです。政府の対策が後手に回っているのは明らかです。

’20年はオリンピックイヤー。東京五輪直前にテレビをはじめ、家電の駆け込み需要が発生する可能性もありますが、「6月にはキャッシュレス決済のポイント還元制度が終了して消費の落ち込みが一層激しくなり、さらに五輪後にはインバウンド需要が急速に萎むでしょう。

そうして、本格的な景気後退局面入りになるのは明らかです。果たして、いつまで安倍政権は「緩やかに回復している」と言い続けられるのでしょうか。 令和2年の日本は、いまののままでは、経済がかなり落ち込むことを覚悟をすべきです。

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2019年12月27日金曜日

ロシアが独自の内部インターネットのテストを開始―【私の論評】インターネット遮断で疲弊する中露(゚д゚)!



ロシア国内のニュース報道によれば、ロシアは世界的なウェブの代替として機能する、国家規模のインターネットシステムのテストを開始した。ロシアがどの段階に達したかは明確ではないが、障害回復力が高く、そして恐らくはより簡単にコントロールできるインターネットが追求されていることは確かだ。

もちろんインターネットというものは、物理的に、仮想的に、そしてますます政治的にインターフェイスしなければならない接続する国同士の世界的なインフラストラクチャの連携網で構成されている。中国など一部の国は、そのインターフェースのローカル側からアクセスできるウェブサイト、アプリ、およびサービスを制御することで、そのインターフェイスを極めて慎重に規制している。

ロシアも徐々にそのアプローチに傾いていて、今年始めにプーチン大統領はRunet(ロシアのインターネット)に関する法律に署名している。Runetは上記のような規制が必要になった場合(あるいは都合が良くなった場合)に、分離された内部インターネットを維持するために必要なインフラストラクチャを構築するためのものだ。

関連記事:暗号化電子メールのプロバイダ、ProtonMailをブロックするロシア

プーチン大統領は今週初めに国営の報道機関であるタス通信に対して、これは純粋に防衛的な措置であると説明した。

その説明によれば、Runetは「主に海外から管理されているグローバルネットワークからの、世界的規模の切断の悪影響を防ぐことのみを目的としています。インターネットから切断されないようにオンにできる自分たちのリソースを持つこと、これがポイントで、主権というものなのです」ということだ。

BBCによって伝えられた、タスとプラウダからのより新しい報告によれば、この動きが理論上のものから実践的なものになったことを示している。いわゆるモノのインターネット(IoT)の脆弱性に関するテストも行われた。もしロシアのIoTデバイスのセキュリティ慣行が米国同様にお粗末なものるなら、それは残念なことだったに違いない。また、ローカルネットが、どのようなものであれ「外部の負の影響」に立ち向かうことができるかどうかも調査された。

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ロシアがここで試みていることは、小規模な仕事ではない。表向きは主権と堅牢なインフラストラクチャについての話だが、米国、ロシア、中国、北朝鮮、および高度なサイバー戦争能力を持つ他の国々との間の緊張関係も間違いなくその一部だ。

世界から切り離されたロシアのインターネットは、現段階ではおそらくほとんど機能しないだろう。ロシアは他の国と同様、常に世界のどこか別の場所にある資源に依存しており、もし国が何らかの理由で殻に閉じこもってしまった場合、インターネットが通常通りに機能するためには、そうした資源の多くを複製する必要があるだろう。

国の一部から他の場所に直接接続する物理インフラストラクチャと同様に、現在は国際接続を介して接続する必要があるDNSも別個のシステムが必要になるだろう。そして、それは単に、ロシアのイントラネットを機能させる基本的な可能性を生み出すために行われる。

堅固な「主権インターネット」が必要になる、という考えに反対するのは難しいが、それは国家インフラへの単純な投資というよりは、紛争への準備だと考えざるを得ない。

とは言うものの、Runetがどのように成長し、どのように使用されるかは、その機能と意図された目的に関するより具体的なレポートを受け取るまでは、推測の範囲を越えることはない。

【私の論評】インターネット遮断で疲弊する中露(゚д゚)!

ロシアは以前から自国のインターネットを海外から独立させる動きを強めており、実際に国全体を海外のインターネットから一時的に遮断する実験を検討中との報道もありました。しかし、こうした「インターネット鎖国」はロシアのインターネットを不便かつ脆弱するだけでなく、国外にも影響を及ぼす可能性があります。

ロシア国旗のビキニ


インターネットインフラには、中央権力と呼べるものがありません。インターネットを機能させるには、全員が相互扶助するしかないのです。結果として海底ケーブルや衛星がパッチワーク状になり、国境を無視して世界全体をつなげています。それゆえ多くの国は、オンラインでいるために自国のコントロールの及ばない国外の設備に頼るほかなくなります。

それでも、国家が自国のインターネット環境に大きな干渉を試みることはたびたびあります。そして、こうした試みがインターネットの遮断につながることも多いです。

例えば、2019年1月に実施されたコンゴ民主共和国の大統領選では、政府が選挙期間中にインターネット通信の遮断に踏み切りました。そしてロシアも国全体を海外のインターネットから一時的に遮断する実験を行なったようです。

大統領選挙で勝利した最大野党のUDPS党首、チセケディ氏

ロシアの国土は広大であるうえ、ネットインフラの高度さもコンゴの比ではありません。インターネットを遮断するとなれば膨大な労力を要すること、そして実行すれば無数の予期せぬ結果につながることも容易に想像がつきます。

ロシア国内のメディアの報道によると、インターネット遮断実験は昨年12月に提出された新法案によるもののようです。この法案は国内の各インターネットサーヴィスプロヴァイダー(ISP)に対して、ロシアのインターネット、すなわちルネット(Runet)の独立性の保障を求めるものです。

規制はロシア国内のISPに対してふたつのことを命じています。ひとつは世界との通信を遮断するための技術を確立すること。もうひとつは、インターネットの通信経路をロシア連邦通信局(Roskomnadzor)の管轄するルーティングポイントを経由するものに組み替えられるようにすることです。

インターネットは米国で発明されました。現在、世界のネットインフラの大部分は米国の企業によって管理されています。

そんななかで、ロシアは単にルネットの独立性を高めようとしているだけかもしれないですが、プーチン大統領がサイバー戦争に向けた「軍拡」をもくろんでいる可能性もあります。あるいは、国民がインターネットを通じて入手する情報を統制しようとしている可能性も否定できません。

詳しい動機はいまだ不明ですが、ロシアが数年にわたってインターネット上での独立性を高めようと準備を進めていることは確かです。実際、ロシアは2014年にはグローバルインターネットから独立する姿勢を表明していました。

しかし、実現に向けた課題はいまだに解決していません。ロシア当局がしなくてはならないことは、大きくふたつです。ひとつは、ロシア国民がロシア内のコンテンツにしかアクセスできないようにすること。もうひとつは、あらゆる接続ポイントをロシア国内に置き、通信経路を国内に限定することです。

ロシアはここ数年、実際にこのふたつに取り組んでいます。2014年には、企業がロシア国民の個人情報を集める際には、データをロシア国内に保存することを要求する法律が制定されました。LinkedInのように、これを拒んだサイトにはロシア国内からアクセスできなくなりました。さらに、ロシアは独自のドメインネームシステム(DNS)を開発したとも報じられています。

しかし、いくら入念に準備を重ねたとしても、世界をつなぐインターネットから実際に独立しようすれば、ほぼ確実に想定外の問題が起こるでしょう。

インターネットプロヴァイダーが、国外のネットインフラすべての信頼性を詳細に把握するのは困難です。プロトコルスタックはすべての階層が複雑な構造をしているため、どこかしらに致命的な問題が発生する可能性があります。

金融機関、医療機関、航空機関などがネット接続不能になるなどの大問題が発生しなかったとしても、多くのウェブサイトが機能を停止する可能性があります。ほとんどのウェブページは複数のサーヴァーに依存して機能しており、これらのサーヴァーは世界中に散らばっている場合もあるからです。

例えば、ニュースサイトのなかにはアマゾン ウェブ サービス(AWS)が提供するクラウドサーヴァーや、グーグルのトラッキングソフトウェア、フェイスブックのコメント用プラグインを利用するものがあります。もちろん、これらのサーヴィスはすべてロシア国外から提供されています。

それぞれが異なる膨大な数のものが集まって、ひとつのウェブページを構成しています。ロシアでウェブサイトを運営しようと考えるなら、その構成要素の所在地をすべて把握する必要があります。

ロシア国外ではどういう影響があるでしょうか。ロシアがグローバルインターネットから分離したとしても、米国が影響を受ける可能性は低いです。しかし、ロシアを経由する通信網を利用している国では問題が起こる可能性があります。ロシア国内を経由する接続はできなくなるかもしれないです。

完全に独立したインターネットを構築しようという試みは、事実上、既存のものよりも脆いインターネットを構築することになってしまうのです。

現行のグローバルインターネットは、通信経路が無数に用意されているため、移動している情報を完全に遮断するのは難しいです。例えば、欧州と米国を結ぶ海底ケーブルが破損したとしても、別の経路を通って米国からフランスへとメールやアプリのメッセージを送信することができます。一方でロシアがつくりあげたいのは、すべての経路を把握し、意のままに遮断できるようなシステムなのです。

そのようなシステムはネットワークの欠陥になります。新しいシステムは、インターネット上でロシアが占める領域の信頼性を損なうものになります。遮断可能なインターネットシステムを構築するということは、意図せず遮断されうるインターネットシステムを導入するのと同じことです。

ロシア政府はこれまで、インターネット上で起こることを国家管理下に置く「インターネット主権」を目指してきました(通信省の実験でも「主権」という言葉が用いられたことに注意)。

その究極形と言える形態が中国の運用する「金盾」であり、実際にロシア政府の最終目標はこうした「壁」を目指していると指摘する識者もいます。

    金盾の概要を解説するダイアグラム 中国のインターネット取締警察官は
    2005年時点で3万人を超えたとされている

もっとも、ロシアのインターネットをグローバル・インターネットから遮断することは上でも述べたように並大抵のことでありません。

たとえ一時期のことであってもロシアの国民生活や経済に与える影響は甚大なものとなるだろうし、平時からトラフィックやインフラを「ロシア化」し、完全管理するとなればインターネット事業者の負担は激増します。

実際、こうした理由からインターネットの「ロシア化」などは不可能だと指摘する専門家は多いです。

こうした事情もあってか、2016年末に通信省が公表した新たな「情報化社会発展戦略」の改定案からは「情報及び通信技術の領域におけるロシア連邦の技術的独立性の達成」という目標が削除されました。

資金不足が理由とされていますが、要するにとても経済的合理性にそぐわないということでしょう。

しかし、私はロシアはこれを強力に推し進めるべきだと思います。なぜなら、これを強力に推し進めれば、時間と労力と資金力がかなり必要になり、ロシアがその分疲弊するからです。

そのため、ロシアがこの度国家規模のインターネットシステムのテストを実施したことは、まことに喜ばしいことです。

中国もこらからさらに金盾をより洗練されたものにすべきです。金盾の運用は、かなりの労力と時間と資金力が必要でしょう。

これからも、インターネットの技術革新は、続きます。それに対して、中国とロシアは莫大なエネルギーと資金をさいてこれらに対応するため、金盾やRunetをアップデートしていかなければならないのてす。

これに比べて、日米欧などでは、インターネットを海外から独立させるなどという馬鹿げたことには、一切労力を使わず、ただし中露のサイバー攻撃には備える体制を整え、ますまますインターネットの技術革新を実行して、中露を疲弊させれば良いのです。

これは、軍拡、宇宙開発でも同じことがいえます。対中露ということで、日米欧等は同盟関係を強化し、それぞれの国の得意分野で中露を出し抜くようにして、同盟全体で中露に脅威を与えつつ、両国を疲弊させるのです。

たとえば、日本が低予算で、月の裏に宇宙船を派遣すれば、中国はこれに対抗するため、大予算で、月の裏にあまり意味のない軍事基地を構築するかもしれません。そうなれば、とてつもなく金食い虫になることでしょう。

米国が、最新鋭空母を構築して、南シナ海に派遣したり、イギリスが空母クイーンエリザベスを南シナ海に派遣すれば、それに対抗して中国もさらに新たな空母を構築するかもしれません。こういうことが、ますます中国を疲弊させます。

このような経済的疲弊が旧ソ連を崩壊に導いた大きな原因の一つともいえます。

そうなれば、今や韓国なみの経済力しかない、ロシアは日米欧側につくようになるかもしれません。そうなれば、中国の壊滅はかなりはやまるかもしれません。

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2019年12月26日木曜日

秋元議員逮捕 300万円、解散当日に直接受け取りか 贈賄側一部は「完落ち」の可能性―【私の論評】IR疑惑は、二階幹事長脅迫事件が発端か?


テレビで報道されたIR疑惑

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件で、東京地検特捜部は25日、収賄容疑で、IR担当の内閣府副大臣だった衆院議員、秋元司容疑者(48)=東京15区=を逮捕した。秋元容疑者は、IR事業への参入を狙う中国企業側から、2017年9月の衆院解散当日、選挙の「陣中見舞い」名目で、議員会館の事務所で現金300万円を直接受け取っていた疑いがあることが分かった。

 秋元容疑者は逮捕直前、ツイッターで「不正には一切関与しておりません」とコメント。報道機関の取材にも「そんな、はした金もらわねえ」「特捜部と戦うしかねえ」などと、べらんめえ調で否定していた。25日、自民党を離党した。

 特捜部は同日、贈賄容疑で、中国企業「500ドットコム」顧問の紺野昌彦(48)と、同顧問の仲里勝憲(47)、同社日本法人元役員の鄭希ことジェン・シー(37)の3容疑者も逮捕した。

鄭希容疑者 中央

 紺野容疑者は、企業側と秋元容疑者や自治体などを結ぶ役割を務めており、「疑惑のキーマン」とみられている。

 関係者によると、特捜部の調べに対し、贈賄側の容疑者の一部は、秋元容疑者への利益供与を認めているという。司法取引などで「完落ち」した可能性もある。

 また、特捜部は同日、事件の関係先として、自民党の白須賀(しらすか)貴樹衆院議員(44)=千葉13区=の地元事務所(千葉県印西市)と、勝沼栄明(しげあき)前衆院議員(45)の事務所(宮城県石巻市)の家宅捜索にも踏み切った。

 2人は17年12月、秋元容疑者とともに中国・深●(=土へんに川)(しんせん)にある「500」社の本社を訪問しており、訪問の経緯を調べる。

 IR事業は、安倍晋三政権が「成長戦略の目玉」と位置付けており、秋元氏らの逮捕は政権・与党に打撃となりそうだ。

 一方、野党側は首相主催の「桜を見る会」の疑惑に続き、政権与党への攻撃材料を得た、と勢いづく。年明けの通常国会では「カジノ禁止法案」を左派野党で共同提出する構えを見せている。

【私の論評】IR疑惑は、二階幹事長脅迫事件が発端か?
最初にこのニュースを知った直後に、脳裏をかすめたのが、このブログにも掲載した二階幹事長が、中国人ビジネスマンに脅された事件です。その記事のリンクを以下に掲載します。
絶望的な日本。自民・二階幹事長を反米媚中にした中国の浸透工作―【私の論評】日本も、米国のように超党派で中国に対抗する体制を整えるべき(゚д゚)!
二階幹事長
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事には二階俊博・自民党幹事長が中国人ビジネスマンに脅されていたという週刊誌の記事を引用しています。

その内容を簡単に以下にまとめます。

二階俊博氏が大物中国人経営者に脅されていたようだと週刊ポストが報じました。ちなみにこの記事は、2017年のものです。この中国人ビジネスマンは、二階派の経理資料などダンボール40箱分の資料を入手しそれをもとに「流せば大変なことになる」などと脅したそうです。この経営者は9月末に逮捕されたのですが、10月に示談となって釈放されています。

事件が弾けたのは2017年9月26日、折しも衆院解散の2日前で、小池百合子・東京都知事の「希望の党」結党宣言で政界に激震が走り、国民もメディアに視線を釘付けにされていたタイミングでした。

その日、警視庁捜査一課の捜査員10数人が中国籍の会社経営者・王俊彦氏の自宅や関係先に捜査に入り、王氏を逮捕しました。

さて、今回のIR疑惑で、中国企業から賄賂を受け取っていた疑いで逮捕された、秋元司容疑者(48)が賄賂を受け取った日付は、衆議院解散当日の9月28日でした。この2つを結びつける情報は今のところないのですが、それにしても何やらきな臭いです。

警視庁としては、この当時王俊彦氏の自宅や関係先に捜査に入り、王氏を逮捕したことから、資料そのものは入手しなかったものの、王氏を逮捕して事情聴取はしています。

この事情聴取には、中国によるIR工作に関するものがあったかどうか、今のところわかりませんが、その可能性はあります。東京地検特捜部としては、この情報ももとに、秋山氏などを内偵して可能性は十分にあると思います。

これが事実であろうが、なかろうが、これらの資料には二階氏自身や、二階派議員と、中国との不穏当な情報が含まれていた可能性があります。そうでなければ、大物中国人経営者が二階氏を脅したり、あるいは警察に一度は逮捕されながら、示談となって釈放されることもないと思います。二階氏側には、示談としなければならなかった何らかの事情があったものと考えられます。

そうして、二階氏の脅迫事件や、今回のIR疑惑に関しても、中国企業が関わっていますが、中国企業は日本等の自由主義の国々との企業とは異なり、国営企業は無論のこと、民間企業であっても中国共産党政府の傘下にあることを忘れてはいけません。

二階幹事長への脅しや、今回のIR疑惑は、中国企業による意思だけではなく、中国共産党の意思でもある可能性が高いのです。

私自身は、中国による日本の国会議員への賄賂など以前から、当然あるものと思っていました。ただし、それを明確に示す証拠は今まで存在しませんでした。しかし、今回それが東京地検特捜部によって明らかになりつつあります。

私自身は、中国共産党は、当然のことながら、与党に限らず、野党議員にも様々な工作を実施していると思います。東京地検特捜部は、このあたりも含めて全貌を明らかにしていただきたいと思います。

秋元議員事務所を捜査する東京地検

私自身は、今回東京地検特捜部は、意図的に与党の議員から逮捕し始めたのだと思います。もし、野党の議員を最初に逮捕し始めると、野党は「国策捜査だ」と騒ぎまくり、国会は収拾がつかなくなり、マスコミもそれに乗って「国策捜査だ」と報道しまくり、捜査に支障をきたすことも懸念されるので、与党議員の捜査、逮捕からはじめたのだと思います。

いずれ、捜査の手は、野党議員、官僚、企業経営者、マスコミ関係者等にも伸びる大事件に発展していく可能性もあると思います。チャイナマーを受け取った方々は、心配で心配で、夜も眠れないことでしょう。

このような、国会議員と中国企業との不明朗な関係があるからこそ、日本は米国のように挙党一致で、中国に対峙することができないのかもしれません。

米国の場合は、オバマ政権からトランプ政権に変わってから、野党である民主党の中にあった、中国に対する不満が顕になり、現在では超党派で中国に対峙する状況になっています。

日本もはやくそうなって欲しいです。

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2019年12月25日水曜日

あまりに酷い中国のウイグル政策に米国が人権法案可決―【私の論評】日本も国会で超党派での「香港、ウイグル対中非難決議」で中国共産党に対抗するべき(゚д゚)!


岡崎研究所

 今年1年を通じて、米国第116回議会では、「2019年ウイグル人権政策法案」が審議されてきた。法案の正式名は、「新疆におけるトルク族ムスリムの人達に対する酷い人権侵害を非難し中国内外でのこれらの人達への恣意的な拘留、拷問及びハラスメントを止めさせることを訴える法案」である。1月17日にマルコ・ルビオ上院議員(共和党、フロリダ選出)より提案され、上院外交委員会や下院では外交委員会、情報委員会及び司法委員会で審議がなされてきた。9月11日、上院では、全会一致で可決され、下院ではより強硬な法案として12月3日に407対1で可決した。同法案は、米国政府の様々な省庁に対して、中国の新疆における再教育センター(強制収容所)を含むウイグル人の状況を報告し、必要な措置を講じるよう求めている。



 12月3日の可決を前にして、米ワシントン・ポスト紙の論説委員長ともいうべきFred Hyattが、12月2日付の同紙に、中国共産党習近平政権が新疆ウイグル地区で、ウイグル人に対して行っている政策を、「今世紀最大の人道に対する罪が中国北西部で行われている」と断定する論説を寄せた。

 先般流出した中国共産党のウイグル人対策に関する内部文書などを読んだうえで書かれた論説であると思われるが、過激派のテロを防ぐために100万人以上を強制収容するということは、「鶏を裂くに牛刀をもってする」ようなもので、目的と手段が著しく不均衡である。ウイグル人のアイデンティティを根絶しようとする暴挙といってよい。

 先般の中国共産党内部文書によると、このキャンペーンは習近平の号令で行われているという。こういうひどいことをして、習近平主席が国際社会で尊敬される立場にいることは不可能であろう。

 12月2日、遼寧省瀋陽市の中級人民法院は、ウイグル自治区主席を務めたウイグル族のヌル・ベクリ元国家発展改革委員会副主任に汚職の罪で無期懲役を言い渡した。ヌル・べクリはウイグル人としては異例の出世をした人であるが、ウイグル人から見ると、この判決は反ウイグルキャンペーンの1つと見られるおそれがある。 

ヌル・ベクリ氏

ウイグル弾圧は、イスラム諸国からはイスラム弾圧と思われる危険があるし、欧米からは、人権侵害、人道に対する罪とみなされている。この中国のウイグル政策はテロをなくすどころか、テロを挑発する可能性が大きいと思われる。中国の不安定化につながるだろう。


 中国は正しいことをしているのならば、新疆での状況をオープンにして、赤十字による現地視察、国際的調査視察団の受け入れをすべきである。これだけ国際的な問題になっていることを秘密のベールで包み隠すことは国際的に認められないことであろう。

 米国議会が「香港民主主義・人権法」を通過させ、今回、「ウイグル人権政策法案」を可決したことに、中国は猛反発している。ただ、この件とは別個に、米中は、12月13日、貿易交渉において第一段階の合意に達した。中国が年間500億ドルとも言われる大量の米国の農産物を輸入するかわりに、米国は対中関税の一部を15%から7.5%に引き下げることで話はまとまった。が、今後も、米中間では、人権や技術問題、安全保障等では対立することが予想される。来年は米国大統領選挙もあり、当分、米中関係は紆余曲折を経ることになろう。

【私の論評】日本の国会も超党派での「香港、ウイグル対中非難決議」で中国共産党に対抗するべき(゚д゚)!


中国は二度と 新疆ウイグル自治区(ウイグル族 は東トルキスタンと呼ぶ)で犯した罪を隠蔽することはできません。数か月間にわたり、活動家、NGO、国際組織などからの激しい糾弾が続いた後、米国の上院を『ウイグル人権政策法案』(S.178)が通過したことで、先に進むしかない段階まで到達したのです。

9月11日、上院では、全会一致で可決され、下院ではより強硬な法案として12月3日に407対1で可決しました。かなり大きな動きです。両党全会一致で可決したのですが、そのような法案としては世界初であることが、何よりも重要です。実に初めて、主権国家の立法府がウイグル族ムスリムに対する虐待を非難し、行動をよびかけているのです。

それだけでありません。この法案は文字通り、「新疆のチュルク系ムスリムの重大な 人権 侵害を非難し、中国内外の当該コミュニティの恣意的な拘束、拷問、嫌がらせの中止を要請する」ために作られたのです。

これは、米国上院が承認した法案は以下の事柄を認めたことを意味します。

第一に、ウイグル族だけでなく(悪名高い 「教育による改心」のための強制収容所 に最大300万人が拘束されている)、カザフ族、ウズベク族、キルギス族、トルクメン族、タタール族やその他(何千人も)のチュルク系少数民族のすべてが中国で迫害されていること。

第二に、これらのチュルク系の人々をムスリムとして特定し、彼らが信仰を理由に迫害されていること。第三に新彊で迫害されているチュルク系ムスリムの人々は中国の国境外でも迫害を受けており、それは国際的にも違法行為であること。

有能な連邦議会議員であり、「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)」共同議長も兼ねるマルコ・ルビオ(Marco Rubio)上院議員(共和党、フロリダ州選出)、は、これらの虐待を非難するときには率直に中国を「全体主義(中略)政府」と呼んでいます。

マルコ・ルビオ(Marco Rubio)上院議員(共和党、フロリダ州選出)

なぜなら「広範囲に及ぶおぞましい人権侵害」と「米国本土で米国市民と合法的永住者に対して、脅迫、恫喝」を行っているからです。

これは前例のない出来事です。実質的には、この法案によって、国家情報長官が国務省と連携して報告書の公布を実行に移し、「新疆各地の取り締まりによって引き起こされた国家と地域の安全保障上の脅威、中央アジア、東南アジア政府がチュルク系ムスリムの難民と亡命申請者を強制的に送還する頻度、予測警備や大規模データ収集と分析など、中華人民共和国政府が使用しているチュルク系ムスリムの大規模拘留と監視を容易にする技術の移送と開発状況を査定すること」が可能になるのです。

この報告書には「政治的『再教育収容所』に拘束された個人の数および拷問、信仰の放棄の強制などの虐待の有無を含む新疆地方の収容所拘束者の状態」、「強制収容所の地理的位置の可能な限りの記述、当該施設に拘束されている人々の数の推定」、また「中華人民共和国の『再教育』の責任所在機関のみならず、中華人民共和国当局がウイグル族の拘束者を『再教育』する際に用いた手段を可能な限り記述」、そして「拘置所や刑務所をはじめとする施設に恣意的に拘束された個人の数の査定」などが盛り込まれます。

さらに、「新疆各地で『政治的再教育』収容所の建設と運営、監視技術や運用組織の提供と運用に携わった全中国企業の一覧の付記を含む」。そして「『政治的再教育』収容所への送還の危機にさらされた状態で収容所と地域の工場で行われた低賃金の強制労働」から「利益を得た中国企業と業界のリスト」も盛り込まれます。

「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が新疆の衝撃的な状況に関して綿密かつ正確な報道を行っていることを理由に、その従業員を脅迫している中国の動きを非難する一方、法案は国務長官に対し、「国務省内に新たな職位として『新疆担当米国特別調整官』を設立し、外交、政治、広報外交、経済支援、制裁、テロ対策、安全保障資源を行うほか、米国政府内で議会報告を義務付け、広く認知されている新疆地区の重大な人権侵害に対応する」ことも検討するよう嘆願しています。

最後に、9月11日に米国の議員が承認した文書は「人権の包括的責任に関するマグニツキー法」(『ロシア及びモルドバ、ジャクソン=バニク除外およびセルゲイ・マグニツキー説明責任法』)の適用を要請しています。この法律により、2016年から米国政府は、世界のどこかで人権侵害に関与した外国当局に制裁を加えることができるようになっています。

そして、2016年の『フランク・ウルフ国際信教の自由法』の徹底的な施行も求めています。フランク・ウルフ(Frank Wolf)元下院議員(共和党、ヴァージニア州選出)の名を冠するこの法律は、米国が外交の強化、教育、対テロ対策、外国支援を通して世界の信教の自由を促進する能力を向上させようとするものです。

これからが、米国議会の両院を通過した現在、新疆で違法に拘束され、嫌がらせ、虐待、拷問を受けている数百万の罪のない人々の苦しみが終わりの始まりを迎えるでしょう。長い道のりであることは間違いないですが、最初の一歩なくしては、何も成し遂げられません。

中国共産党は監視の行き届いた社会をつくることを目指しています。ウイグルのみならず、人権弁護士など民主化を推進する人を弾圧するなど圧政を行っています。中国は経済力でも軍事力でも米国と肩を並べるような国を目指しているのですが、こういう圧政をしていては、とても世界の指導国にはなれないし、すべきではありません。


米国アニメの #サウスパーク がこのほど配信した『band in China』(バンド・イン・チャイナ)が、言論の自由や人権に関する敏感な内容で中国を風刺したため、中国から視聴できなくなっています。この件について、主な国際社会は中国共産党を邪悪であると認識し、その認識は大きく変わったと考える人もいます。 

米国の成人向けアニメ「サウスパーク」は、ブラックユーモアで時世を風刺することで知られ、1997年に初配信されてから現在までに数々の賞を受賞しています。米ニュース雑誌『タイム』は同番組を「米国の過去数十年の中で最も鋭い風刺作品」と称賛しています。


こういう弾圧、圧政をしている背景は何なのでしょうか。それは、彼らが自らの統治の正統性に自信を持っておらず、共産党統治が一寸油断するとひっくり返されかねないとの恐怖におののいているからだと考えられます。

そもそも、中国共産党による政権は、選挙で選ばれた政治家ではなく、その正当性を主張できない、指名という手順で選ばれた人間によって運営されています。これは、政治家というよりも、官僚に近いというか官僚そのものです。このような体制が建国以来70年も続いてきたことが、奇跡に近いです。

天安門事件についての報道を今なおブラックアウトし、報道規制をしているのは、それが再び起こりかねない「悪夢」になっているからではないでしょうか。

国連の第3委員会や人権理事会で、ウイグル問題について考え方を同じくする国と共同で、中国の説明を求めるなどやるべきことは多いです。それがウイグル人のためにも中国人民のためにもなります。イスラム諸国会議にも役割がありえます。

そうして、無論日本にも役割があります。それは、習近平国賓訪日という最大の外交失政は防ぐことです。もし、日本が習近平一旦国賓待遇で招聘した場合、政府がこれを取り消すことは難しいです。

これに対し、国会としては、超党派での「香港、ウイグル対中非難決議」で対抗するべです。

もしこれが可決したなら、恐らく訪日は取り消しか延期となるでしょうが、仮に訪日すれば政府から面前で改善申し入れを行う事を定めて置くことにより、外交上の最大の失政を致命傷にすることだけは辛うじて避けられるでしょう。

外交の要諦は、「国際的大義を伴う長期的国益の追求」に他ならないです。

今回の習氏国賓訪日は、人権無視という面で国際的大義を、領土問題や経済的メリット等という面でも長期的国益を著しく毀損します。経団連会員企業の経営者任期に見合う程度のメリットはあるのかもしれませんが、そのような短期のメリットを優先すべきではないのです。


彼らの大半そうして、彼らの後ろ盾になる政治家などは、後10年、長くても20年すれば、確実にこの世にいません。そのような彼らのメリットよりも、現在の若者、子供たちのことを優先すべきです。そうして、無論弾圧・迫害を受けているウイグル人を優先すべきです。

与野党有志の決起を期したいです。


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