2020年9月19日土曜日

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立


 中国の投資会社が今月、ウクライナの航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の株式の過半数を取得しながら同国政府の妨害で経営に関与できず巨額の損害を被ったとして、同国政府に賠償を求める訴訟を起こすと警告した。中国は同社の軍用エンジン技術の取得を目指しているとされ、米国はウクライナに技術流出への懸念を伝達。事態は中国の軍事技術獲得へのこだわりと、激化する米中対立を浮き彫りにした。

  ウクライナ最大の民間通信社ウニアンが18日までに報じた。同国政府に訴訟を警告したのは中国企業「北京天驕航空産業投資有限公司」(スカイリゾン)。同社の王靖代表は中国共産党や人民解放軍に近いとされる。警告で同社は、ウクライナ政府の妨害で議決権が行使できず経営に障害が生じ、35億ドル(約3700億円)超の損害を被ったと主張。事態解決のための交渉を同国政府に要求し、応じない場合は賠償請求訴訟を起こすと警告した。提訴先の裁判所や請求額などは明らかになっていない。

  モトール・シーチはウクライナを代表する大企業で、旧ソ連時代からソ連と後継国ロシアに軍用機やヘリコプターのエンジンを供給。しかし2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合でロシアとの取引が困難となり、経営が悪化した同社は17年、中国企業と合弁工場の設立計画に合意するなど中国との取引を拡大させていた。

  ウクライナ治安当局は同時期、モトール・シーチと中国の関係について捜査に着手。その結果、同社株式の計56%がスカイリゾンなど複数の中国企業に取得されていたことが判明した。治安当局は国家の安全保障リスクを理由に、取得された株式に基づく議決権の一時凍結などを同国の裁判所に請求し、認められた。 

 一連のウクライナの動きの背後には、ウクライナが対ロシアの後ろ盾とする米国の意向がある。昨年8月に同国を訪問したボルトン米大統領補佐官(当時)は「中国との取引には技術流出のリスクがある」と懸念を表明。ポンペオ国務長官も8月末、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で「モトール・シーチ獲得への努力を含む、中国によるウクライナ投資に懸念を提起した」と発表した。

  中国は活発な軍用機開発を進めているが、エンジン技術に課題を抱えるとされ、過去にも輸入したロシアの戦闘機エンジンの盗用などが指摘された。モトール・シーチの技術を獲得した場合、中国のエンジン技術の向上は確実とされる。

  モトール・シーチをめぐっては現在、ウクライナ政府が買収を阻止する方策を検討している。ただ、株取引自体は成立済みで、取引の無効化は法的に困難とみられている。仮に取引を無効化した場合でも、中国側からさらなる賠償を請求される可能性が高い。

  事態を報じた露経済紙ベドモスチは「ウクライナは米国の不興を買うか、中国に巨額賠償を支払うか二択にさらされた」と伝えた。

【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国は、以前から独力ではまともなジエット・エンジンを製造できないと言われていましたが、改めてそれ事実が暴露されたともいえます。

中国は2016年10月、ロシアから戦闘機用エンジン「AL-31」と、爆撃機や輸送機用エンジン「D-30」を輸入しました。総額10億ドル(約1150億円)に上る契約を締結しました。この契約で、中国は3年以内に、ロシアから合計約100台のエンジンを入手することになりました。

中国は10年から、D-30エンジンを調達していて、人民解放軍の「轟-6」爆撃機や、「運-20」輸送機に搭載しています。

また、1990年代から、AL-31エンジンを搭載した「Su-27(スホーイ27)戦闘機」「Su-30(スホーイ30)戦闘機」を輸入してきました。2000年代からは「殲-10(J-10)」(=イスラエルの支援を得て開発した国産戦闘機)や、「殲-11(J-11)」(=Su-27をライセンス生産した戦闘機)にも、AL-31が搭載されるようになりました。

中国は、国産エンジン「WS-10」の開発を進めてきたのですが、期待通りの性能を達成できず、ロシア製のAL-31を使わざるを得ない現状がありました。一方で、WS-10の後継であるWS-15の開発を進めていて、国産エンジン開発に執着していました。

中国は「WS-10」国産エンジンを「J-15」戦闘機に搭載したが、まともに使えなかった

2018年には、元米上院外交顧問が、ウクライナによる中国への軍用ジェットエンジンの供与について、「背信行為」だとして抗議しています。

8月14日に中国国営メディアが、中国の新型ジェット練習機「洪都 JL―10」の公開を報じました。JL―10練習機は、中国海軍の空母パイロットの訓練に使用されると公式に中国軍が発言しています。

ワシントンタイムズ紙(2018年8月15日付)によると、中国政府が発行する英字メディア・チャイナデイリー(中国日報)には、最初の12機のJL―10練習機がウクライナのジェットエンジンを使用していることがご都合主義で書かれていないとしました。

中国の軍用ジェットエンジン技術は、ここ約十年にわたって中国軍の大きな弱点のひとつと言われてきた分野です。

現在はそこまで酷くはないでしょうが、2016年あたりまでは、中国の戦闘機の稼働率は20%ともいわれていました。国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちでこのようなことになっていたと思われます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【緊迫・南シナ海】ベトナムが中国・人工島射程にスプラトリー諸島でロケット弾を配備 インドからミサイル購入も―【私の論評】日本の備えはベトナムよりはるかに強固、戦えば中国海軍は崩壊(゚д゚)!

中国j11戦闘機

この記事は、2016年8月11日木曜日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、稼働率が20%とは何を意味したのか、その部分のみを以下に掲載します。
保有していても稼動しないのは飛べないので、存在しないのと同じです。航空自衛隊の稼働率90%、従って実数は315機です。中国空軍の稼働率推定20%、従って実数は50機です。

日本と中国が尖閣諸島で戦う時には、日本の315機が中国の50機の戦闘機と戦う事になるのです。これも、中国が本格的に尖閣に攻めて来ない理由なのです。

しかしながら、日本は中国機のスクランブルできりきり舞いさせられているということも報道されています。あれは、いつどこに来るか前もってわからないことと、中国は戦力外といいながらも多数の戦闘機を持っているからです。 

当時、中国は1450機の戦闘機・攻撃機を有しているといわれてましたが、旧式の戦力外の戦闘機を除外すると、当時は実際に稼働できる機体は50機程度と考えられました。これに対して、日本の航空自衛隊の戦闘機の実数は少ないですが、稼働率が90%なので315機が実働していたのです。

この状況は現在では、改善されてはいるでしょうが、稼働率はあいかわらず低いでしょう。なぜなら、国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちと言う現実はそう簡単に改善はできないからです。

この状況をなくすためにも、中国はモトール・シーチを何としても手に入れたいのでしょう。

しかし、米国もこれについては以前から反対していました。ワシントンタイムズ紙によると、2016年に中国の12機のJL―10練習機のために、ウクライナは20基のエンジンを販売しました。同紙によると、トランプ政権がウクライナに圧力をかけて、他の軍用製品の譲渡と同様に、中国へのエンジンの販売をやめさせるべきだと批評家たちが主張していたといいます。

中国のジェットエンジン生産問題を解決するためウクライナが支援している、と米国の中国専門家で元アメリカ合衆国上院外交顧問のウィリアム・トリプレットは抗議しています。

「中国海軍のパイロットが空母への着艦を学ぶペースを加速度的に早くする手助けをすることを、米国は望まない」とトリプレットは不満を述べています。ウクライナのエンジンで飛行する空母パイロット用中国ジェット練習機が公開されたのは、米国国防総省がウクライナ軍を援助するために2億ドルを提供すると発表してから、わずか1カ月後のことでした。

一方、環球網(2018年8月20日付)によると、ウクライナ急進党党首オレグ・リャシコ議員が、批判に対して反論しています。リャシコ議員はフェイスブックで次のように発言しました。

「ウクライナのモトール・シーチ社の航空機エンジンが中国に売られるのを、米国人が批判している。けれども、ウクライナが中国に航空機エンジンを売るのを米国人が嫌がるのなら、米国がウクライナの航空機エンジンを買うべきだ。ウクライナが中国に売ることを禁止しながら、米国が買わないのなら、モトール・シーチ社は破産するしかなく、高度な技術を持つ数千人のウクライナ人が失業することになる」。

かつて、ウクライナはソビエト連邦の一部として、多くの軍需にかかわる製品を製造していまし。しかし、ソ連が崩壊し、ウクライナの軍需産業はソ連という最も重要な顧客を失いました。

ソ連崩壊後に至っても、多くの軍需品をウクライナはロシアに供給していたのですが、2014年のロシアによるクリミア併合ではじまったウクライナ危機で、ウクライナとロシアとの軍事産業分野での断絶は決定的なものとなりました。内需の少ないウクライナの軍需産業は、製品の販売先の大部分を海外の顧客に頼っていました。

ロシア軍事アナリスト小泉悠氏は、日本語ウェブメディアJBpress(2014年4月24日付)『ウクライナで軍事技術流出の危機』で、次のように書いています。「ロシアがウクライナに依存していたのと同様、ウクライナもまた、ロシアに大きく依存していたわけだが、両国の断交が今後も続けば、ウクライナ軍需産業がたちまち苦境に陥るであろうことは容易に想像がつく。(中略)そこで懸念されるのが、技術流出である」。

ウクライナの中国への軍需品の提供は多岐にわたっています。ウクライナから製品そのもの、もしくはライセンス生産などで中国に提供された軍需品としては、航空機や軍用ヘリコプター用のエンジン、戦車用ディーゼルエンジン、軍艦用のガスタービンエンジンをはじめ、その他多くのものが存在します。

 世界最大のウクライナ製貨物輸送機「アントノフ An-225 ムリーヤ」。モトール・シーチのエンジンを
 6発搭載し、サイズはジャンボジエットの倍。元々はソ連製スペース・シャトル運搬用に作られたという

中国の空母である「遼寧」は、元はソ連の未完成空母「ヴァリャーグ」だったのは、よく知られているところです。ヴァリヤーグはウクライナの造船所で建造されていました。ソ連が崩壊すると、ヴァリヤーグは完成に至らず放置されていたのですが、それをスクラップとして中国が購入し、完成させたのが現在の中国空母遼寧です。

多維新聞(2017年9月4日付)によると、ウクライナの技師バレリー・バビッチ氏が、中国の空母遼寧の再生・建造においてコンサルタントをしたといいます。バレリー・バビッチ氏は、ウクライナの造船事業で働いていた設計技師です。

しかも、遼寧の前身である空母ヴァリヤーグの建造においては、バビッチ氏は同空母の設計技師長を勤めていたといいます。バレリー・バビッチ氏はソ連時代の数多くの空母や巡洋艦の設計・建造のブレインとして高く評価されていた人物です。

日本としては、この出来事を対岸の火事とみるべきでしょうか。私はそうは思いません。他山の石と見るべきと思います。

現在、日本の技術は中国をはじめとして、世界中で使われています。たとえば、工作機械などは、日本とドイツの機械が世界のシェアのほとんどを占めています。ただし、日本の工作機械のほうが、故障も少なく小回りが効き使いやすく、この点に関しては日本の工作機械は独壇場と言っても良いです。

これがなければ、中国もロシアも他の世界中の国々も、半導体は無論のこと、高度な航空機や船舶、乗用車、戦車などや、その部品を等を作成することが困難になります。

これがなければ、おそらくロシアも中国もまともに戦闘機を含めた、軍需品などを工作できなくなるでしょう。そうなると、米国は軍事的にかなり有利になります。

ただ、現状では、米国が中国に対して冷戦を挑んでいるとはいえ、米中のデカップリングがまだ進んでいない部分も多く、また日本も日本の高度な技術の詰まった機器などを中国だけではなく、世界中に供給しているので、米国等も日本がこれらを中国に輸出していることを批判したり、やめさせようとはしていません。

しかし、米中デカップリングが進んだときに、日独が中国への製品輸出をやめなければ、中国を利するとして、現在ウクライナが米国の不興を買いつつあるような事態に追い込まれることも十分に考えられます。そのような事態になる時期は、意外と近いかもしれません。

ただし、ウクライナの輸出先は、元々ロシア向けがほとんどだったことと、最近は中国にシフトしていたということで、元々世界中に輸出していた日独が、ウクライナのような危機に至ることはないでしょうが、それにしても日本はウクライナを他山の石として、いまから米中デカップリングに備えるべきです。

2020年9月18日金曜日

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観―【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観

岡崎研究所

 Zhou Bo(清華大学国際安全保障・戦略センター上級フェロー)が、8月25日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に「中米軍事紛争のリスクは憂慮すべきほど高い。米国と中国は南シナ海でその面子を保つ軍事行動のパターンに落ちいっている」との論説を寄せ、中米軍事衝突のリスクを警告している。


 筆者のZhou Boは、中国国防部の国際安全保障協力部長、中国軍事科学院の米中防衛関係室の名誉フェロー等もしている人民解放軍の高官である。英語圏での滞在歴もあり、英語に堪能で、国際会議等にもよく出席する。彼の論説は中国の考え方を説明したものであり、参考になる。ただ、中国が国際法を無視して、南シナ海を自己の領域のように考え、好き勝手に行動しようとしていることを明らかにしたものであり、読んでの感想は、米中の軍事衝突の可能性は論説の筆者が言うようにかなり高いと思われるということである。

 南シナ海の人工島について、ボウは次のように主張する。「これら(人工島)は中国が拡大することを選択した自然な中国の領土であり、埋め立て前に名前があったことはそれが人工的ではない証拠である。中国の法律の下で、外国の軍事船の領海への進入には政府の許可が必要である。」これについて、国際法の観点からいくつかコメントする。まず、名前を付けたから人工島が領土になるわけではない。満潮時に海上に陸上部分が出ていること、それが人間が居住しうる大きさを持つことが島になる要件である。名前をつけるか否かではない。

 次に、領海については、国際法上無害通航権がある。それを、中国の国内法で一方的に中国政府の許可に掛からしめるのは国際法違反である。海洋法条約第58条の解釈も間違っている。中国が米軍の自由航行作戦を挑発であると言っているが、正当な国際法上の権利の行使を挑発などと言う国とは話し合う意味もないかもしれない。

 国際政治上の情勢判断については、これも間違っているように思う。中国の近くの米国の同盟諸国は、米中対決の中で、中国の核や中国との貿易に鑑みて米国の味方はしないだろうとボウは主張する。が、多分そうはならないだろう。それに、核兵器で非核兵器国を脅すなど、とんでもない発想をしている。日本に関しては、米国の側に立つことは明らかであるし、豪州についてもそうであろう。ASEAN諸国は割れるだろうが、ベトナムやインドネシアが米国側につく可能性は高い。

 中国がこういう国際法違反行為をしていることには、多くの関係国を糾合し、中国の9段線による囲い込み主張は国際法上違法であると言うことを明確に言い、中国を孤立化させることが重要であると考える。日本は率先してそういう働きかけをすべきであり、それが南シナ海での平和を守ることになるだろう。グアムでの河野=エスパー日米防衛相会談はそういう方向に向けての一歩になったのではないかと思われる。

 8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射したが、自己の力を過信しているきらいがある。危険な状況をさらに危険にしている。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見える。

【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

多くの国・地域に囲まれた南シナ海に、中国は「九段線」と呼ぶ独自の境界線を設定し、広大な海域の大半が自らの主権の範囲内にあると主張してきました。こうした動きに対しベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾がそれぞれ自らの領有権を訴え論争になっています。

 中国が九段線を言い始めたのは1950年ごろからです。軍事力を使い、徐々に実効支配の範囲を南へと広げてきました。ベトナムとは1974年と88年の2度、軍事衝突を起こしています。近年は埋め立てや軍事施設の建設、示威活動を続けています。 

南シナ海は、世界の貨物の3分の1が行き交うという海上輸送の大動脈です。漁獲量は1割超を占め、石油・天然ガスを含めた天然資源も豊富です。中国は力ずくで自国の支配下に置こうとしています。

中国は「南シナ海の島々は歴史的に中国固有の領土である」と主張してきました。ところがフィリピンからの提訴を受けたオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、九段線には国際法上の根拠がないと断定しました。

 仲裁裁が論拠としたのは、1994年に発効した国連海洋法条約です。中国も締結国のひとつで、判決に従う義務があります。ところが中国は判決を「紙くず」と呼んで無視を決め込み、むしろ実効支配を加速しました力によって国際法の秩序に挑戦する行動が、周辺諸国の強い警戒を引き起こしてきたのです。

この南シナ海でなぜいま、さらに緊張が高まったかといえば、7月半ば、米国が中国の言い分を「完全に違法」と断じたからです。中国の強引な進出をけん制しつつも、中立的な立場から当事者に平和的な解決を促してきた姿勢を、完璧に転換したのです。

背景には中国が4月以降、南シナ海での示威行為をエスカレートさせたことがあります。巡視船がベトナム漁船に体当たりして沈没させたり、マレーシアの国営石油会社が資源開発する海域に調査船を派遣し、探査の動きをみせたりしました。 

世界が新型コロナウイルスへの対応に追われるなか、支配を既成事実化しようとする中国の手法に、米国は危機感を強めました。貿易戦争から始まった米中対立が南シナ海にも波及したといえます。 

東南アジア各国は米国の肩入れを無条件には歓迎していません。中国に経済面で依存している国が多く「米中どちらか」の選択は避けたいのが本音です。米国の同盟国であり、仲裁裁への提訴の原告だったフィリピンが、米中両国と一定の距離をとる構えをみせているのが象徴的です。

米国は中国の主張を完全否定した後、原子力空母2隻を南シナ海へ派遣して軍事演習を重ね、中国をけん制しています。負けじと中国も、同じ海域で実弾演習を実施しました。互いが対抗措置を競うなかで、偶発的な衝突が起きる可能性は否定できません。

 一方で中国は東南アジア各国と、南シナ海での各国の活動を法的に規制する「行動規範(COC)」の策定作業を急いでいます。外交筋によれば、中国はCOCについて

(1)海洋法条約の適用外とする
(2)域外国との合同軍事演習に関係国の事前同意を義務付ける
(3)資源開発を域外国とは行わない。

といった条項を盛り込むよう迫っています。 日本にとっても南シナ海は中東からの原油輸入の通り道であり、中国が沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張するなか、人ごとではありません。各国と連携し、中国に強く自制を求めていく必要性がますます高まっています。

南シナ海を巡る米中のけん制合戦は一段とエスカレートしています。8月26日、中国が同海域へ弾道ミサイルを発射したのに対し、米国は軍事施設の建設に関わった中国企業に禁輸措置を発動しました。

片や軍事的な示威、片や経済制裁の応酬の先に、軍事衝突の懸念は高まりつつあるようにみえます。 フィリピンなどが最も恐れるのは、自国の「庭先」で米中が戦争を始める事態です。それを防ごうと、中国とのCOC交渉で妥協し、締結を優先する展開もあり得ます。米国は対中圧力を強めるだけでなく、東南アジア各国をどう味方につけるかが肝要です。

そのためには、米国はASEAN諸国に以下の二つのことを納得させるべきです。

まず第一に、タイの運河ができれば、この地域の地政学的状況が一変し、タイがこれに苦しむことになるのは、目に見えています。中国による東シナ海の領有を認めるようなことをした場合、この地域の地政学的な状況が一変し、そのことがASEAN諸国を長年にわたって苦しめることになることを認識してもらうべきです。

タイ運河については、最近もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の海洋進出を容易にするタイ運河建設計画―【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。

ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。

近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。

パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。
今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。

タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。
ASEANが中国による南シナ海の支配を認めてしまえば、タイの運河どころの話ではなく、南シナ海の地政学的な状況は一変します。

中国は、自国に対して親和的な国々に対しては、この地域、特にマラッカ海峡などの通行を認めるものの、そうではない国に対しては認めなくなる可能性もあります。そうなれば、日本も多いに影響を受けます。

さらに、中国は本格的にASEAN諸国に介入をするでしょう。貧困国からはじまり、比較的裕福なシンガポールにまで介入して、南シナ海全体とその近隣諸国を自国の覇権が及ぶ地域としてしまうことでしょう。

こうなると、ASEAN諸国は完璧に中国の傘下に入り、現在のように中国との交渉の余地などなくなり、中国は我が者顔で、この地域の富を簒奪したり、中国が儲かる形で様様な開発をするでしょう。ASEAN諸国は苦しむことになります。

端的にいえば、それこそ現在の香港や、ウイグル、内蒙古のようにされ、これらの地域に中国の工場をたてて、地元民を安い賃金でこき使い、南シナ海の近隣諸国に輸出を始めるかもしれません。抵抗すれば、徹底的に弾圧され、この地域の政権はすべて中国の傀儡政権になり、注語に都合の良い政策ばかりを打ち出すようになるかもしれません。

第二に、このブログでも何度か強調してきたように海軍力においては米中を比較すると、海洋国国家の米軍のほうが圧倒的に優れていて陸上国家の中国には全く歯がたたないことを、米国はASEAN諸国に理解させるべきです。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍機が台湾侵入!防空識別圏内に 米中対立激化のなか、露骨な挑発続ける中国 日米の“政治空白”も懸念―【私の論評】すでに米軍は、台湾海峡と南シナ海、東シナ海での中国軍との対峙には準備万端(゚д゚)!

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

海中の領域、つまり潜水艦による水中の戦いは今でも米軍が絶対優位を維持している分野です。私は米軍は、まだ公にしていないものの、根本的に戦略を変えていると思います。緒戦において米軍は、潜水艦を多様するものと思います。

軍事評論家の中には、このことを無視して、米軍は南シナ海で負けるとする人もいますが、そのようなことはないと思います。かつて米軍は、日本が空母を建造して、優位性を発揮し、真珠湾で大敗を喫した後にすぐに海軍の戦術を変えて、空母を用いるようにしました。

日本軍が、多数の南太平洋の島々に迅速に上陸した有様を研究して、海兵隊の戦法をすぐにかえました。現在では米中は戦争に突入してはいないものの、中国海軍の様子をみて、戦略を変える時間はいままでも十分にありました。おそらく戦術上も戦略上も有利なほうに迅速にシフトするのは今でも変わりないでしょう。

かつて、朝鮮有事が懸念された2017年に、トランプ大統はFOXビジネスネットワークの番組、「モーニングス・ウィズ・マリア」で朝鮮半島付近への、自ら空母派遣について言及しました。

トランプ大統領は、この番組の中で対北朝鮮問題にふれ「我々は無敵艦隊(カール・ヴィンソン打撃群)を送りつつある。とても強力だ。我々は潜水艦も保有している。大変強力で空母よりももっと強力なものだ。それが私の言えることだ」と発言しています。これこそが、私は米国の戦略の転換を示していたと考えています。

しかし、米軍は未だに潜水艦を多様する戦術・戦略を発表していません。それは、もちろん極秘中の極秘だからでしょう。

トランプ大統領が具体的に何を言っていたのか断定はできませんが、たとえばアメリカ海軍は4隻、太平洋側と大西洋側に2隻ずつ改良型オハイオ級巡航ミサイル潜水艦を持っています。他の潜水かもあわせると70隻の潜水艦を所有しています。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、何をいいたかったかというと、 米中の原潜と他対潜哨戒能力を比較すると、米君は潜水艦の静寂性や攻撃力にはるかに優れ、対潜哨戒能力では米軍は世界一であるのに比較して、中国の能力現在でもかなり低く、米軍のほうが圧倒的に勝っているといるということです。

具体的にどうなるかといえば、この海域で中国海軍は、米国の原潜を探そうとオタオタしているうちに、ほとんどが米国の原潜の魚雷などによって撃沈されてしまうということです。

上の記事にもある通り、8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射しましたが、自己の力を過信しているきらいがあります。危険な状況をさらに危険にしています。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見えます。

確かに、空母キラーと言われる「DF21D」は米国の空母を撃沈できるかもしれません。しかし、海中に潜む米軍の原潜に対しては、そもそも中国はそれを発見する能力がかなり低いので、手を下すことはできません。

米原潜は中国に発見される可能性が低いので、中国の港の近くどころか、港の中を航行している可能性すらあります。第二次世界大戦中の米軍の潜水艦は、日本の潜水艦と比較すると小さく、技術的にも劣る面がありましたが、米軍は活用方法には秀でていて東京湾の中にまで侵入して偵察行動をしていたといわれてます。米軍が中国と南シナ海で戦争をしようと決意した場合、最初は中国のミサイル発射基地を原潜で破壊するということも十分に考えられます。

そうでなくても、米軍は緒戦で、空母や強襲揚陸艦を南シナ海に派遣し、最初にこれらを中国側に叩かせるなどという馬鹿真似はしないでしょう。最初に原潜で脅威となる中国のミサイル基地をたたくか、ミサイル発射の兆候があればすぐに破壊できるようにしておき、その上で南シナ海の中国軍基地に補給をしようと艦艇や航空機が近づけば、それを排除するなどのことをするでしょう。

これは、兵糧攻めであり、南シナ海の中国軍基地の要因は、戦うことなく手をあげるしかしかたなくなるような状況に追い込まれます。この戦法なら犠牲者もあまり出ず、米軍もかなり実行しやすいです。

この圧倒的な優位性があるうちには、中国がいくら優れた対艦ミサイルを開発しようが、宇宙の軍事利用をすすめようが、サイバー攻撃をしようが、米国の原潜を発見できないので海の戦いで勝つことはできません。

この圧倒的優位性を背景としてでしょうか、米国の有名な戦略化ルトワック氏は「南シナ海の中国軍基地は象徴的なものに過ぎず、米軍なら5分で吹き飛ばせる」と語っています。

潜水艦の行動に関しては、隠密を旨とするため、いずれの国も第二次世界大戦から公表することはほとんどありませんでした。そのため、ASEAN諸国は無論のこと、世界中の国々に、米軍の空母の恐ろしさは伝わっていないところがあります。

日本の河野前防衛大臣は、今年の6月中国の潜水艦が奄美大島接続水域を航行した事実を公表しました。これは、通常はありえないことですが、河野前大臣としては、日本も中国よりもはるかに対潜哨戒能力が段違いですぐれていることから、中国側に警告を発したものと思われます。

おそらく、中国側は、中国としては静寂性に優れた潜水艦が日本に発見されるかどうか試してみたのでしょうが、すぐに発見されてしまったわけです。この状況では、未だ尖閣を奪取するのは、かなり困難であると中国側も再認識したことでしょう。

何しろ、現在の最新鋭の日本の潜水艦は、リチュウム電池で駆動し、ほとんど無音で航行できます。このような日本の潜水艦は、対潜哨戒能力の低い中国には探知できませんし、対潜哨戒能力に優れた米軍でもほとんど不可能です。

そうなると、当然のことながら、東シナ海に潜んでいる日本の潜水艦を中国は発見できず、仮に中国が尖閣を奪取したとしても、日本の潜水艦に包囲されてしまえば、中国は艦艇や航空機で、補給しようとしても、それを絶たれる可能性が大です。それでは、全く無意味どころか、大恥をかくだけです。

米国も、このような中国に対する優位性を公表するまでのことをする必要はないとは思いますが、少なくともASEAN諸国のリーダーたちには理解してもらうことなどが、かなり有効な手段となると考えられます。

軍事機密というもの特に優位性に関するものは、完璧に隠していれば、抑止力にはなりません。さしつかえない範囲で、ある程度公開してはじめて抑止力になります。

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2020年9月17日木曜日

「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由―【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

 「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由

                           

岸信夫氏

 アンシンフ――この日本人の名前に、早くも「中南海」(北京の中国最高幹部の職住地)がザワついている。昨日発足した菅義偉新政権で、新たに防衛大臣を拝命した岸信夫氏(61歳)、安倍晋三前首相の実弟である。

 中国最大の国際紙『環球時報』(9月17日付)は、岸防衛大臣に関する長文の記事を発表した。そこでは、生まれて間もなく岸家に養子に出された岸信夫氏の数奇な半生を詳述した上で、次のように記している。

 <岸信夫は、二つの点において注目に値する。第一に、岸信夫は日本の政界において著名な「親台派」である。現在まで、岸信夫は日本の国会議員の親台団体である「日華議員懇談会」の幹事長を務めている。第二に、岸信夫は何度も靖国神社を参拝している。2013年10月19日、岸信夫は靖国神社を参拝したが、これは兄(安倍首相)の代理で参拝したと見られている。安倍晋三本人も、2013年12月26日に参拝している>

 このように、中国は警戒感を隠せない様子なのだ。

当初、「菅政権」を楽観視していた中国だったが・・・

 今月の自民党総裁選の最中、ある中国の外交関係者は、私にこう述べていた。

 「菅義偉新首相が誕生しそうだということよりも、その際に二階俊博幹事長が留任するだろうことが大きい。極論すれば、日本の次の首相が誰になろうと、二階幹事長さえ留任してくれればよいのだ。

 二階幹事長は、日本政界の親中派筆頭で、わが王毅国務委員兼外交部長(外相)も、二階幹事長と会った時だけは、まるで旧友と再会した時のように両手を差し出し、相好を崩すほどだ。習近平国家主席にも面会してもらっている。

 安倍首相は、二階幹事長の進言を聞かず、対中強硬外交に走った。だが菅新首相は、『後見人』の二階幹事長の声を無視するわけにはいかないだろう」

 このように中国政府は当初、菅新政権を「楽観視」していた。だが「岸信夫新防衛大臣」の発表は、冷や水を浴びせられたような恰好なのだ。

 実際、岸防衛大臣は、中国政府が「民族の三逆賊」と呼ぶ台湾の政治家(李登輝元総統、陳水扁元総統、蔡英文現総統)のうち、少なくとも二人と親友だ。李登輝氏とは長年にわたって親交があり、8月9日には、森喜朗元首相とともに、李元総統の弔問のため、台北を訪れた。

  その際、蔡英文総統にも面会している。蔡総統に関しては、総統就任直前の2015年10月に日本に招待し、自分と安倍首相の故郷である山口県下関市まで、わざわざ案内している。

 安倍政権下では「中国担当は兄、台湾担当は弟」で役割分担 

 この時、ある首相官邸関係者はこう述べていた。

  「蔡英文氏の宿泊先を、首相官邸から一番近いザ・キャピトルホテル東急に決めたのも岸信夫氏だった。10月8日昼、ホテル特別室のランチの場に、岸氏は安倍首相を連れてきた。日台合わせて10数人のランチだったが、安倍首相が自分がいかに台湾ファンかを熱く語ったりして、大変盛り上がった。

  だがこのランチは、安倍首相の首相動静からは削除され、日本側も台湾側も、一切極秘とした。それは、中国政府に配慮したからだった」 

 このように、安倍政権の7年8カ月、安倍首相が中国を担当し、弟の信夫氏が台湾を担当するという役割分担をしてきた。だが菅新政権になって、「台湾担当者」が表舞台に登壇したのである。しかもその役職は、中国政府が最も敏感な防衛大臣とあっては、中国側が穏やかでないのもむべなるかなだ。

  一方、台湾(中華民国)総統府は、日本の国会で菅氏が首相に選出されるや、直ちに祝賀コメントを発表した。

  <日本では今日、臨時国会が開かれ、自民党党首に選出された菅義偉官房長官を、第99代首相に選出した。これに対し、総統府の張惇涵報道官は、蔡総統はわが国の政府と国民を代表して、菅義偉首相に祝賀を表し、合わせて日本政府が菅首相のリーダーシップのもとで、順調に各種の国政を進め、国家が発展繁栄していくことを祝う。

  張惇涵報道官はこう述べた。「菅首相は過去に複数回、わが国公開の場で支持している。そして双方が、自由、民主、人権、法治などの基本的価値を共有していると認めている。また、わが国が国際組織に加盟することへの支持を唱えており、台湾にとって重要な海外の友人と言える。

  かつ日本と台湾との往来は密接で、日本はわが国の重要なパートナーだ。わが国はこれからも継続して、日本と多様な協力を進めていき、台日友好のパートナーシップ関係を深化させていく。それによって両国の国民の福祉を共同で推進し、地域の繁栄と発展、平和と安定を維持、保護していく> 

 このように、「岸信夫新防衛大臣」には触れていないが、菅新政権を手放しで歓迎するムードである。

岸氏の防衛相起用は「安倍政権の継承」の証 

 菅新首相が、岸氏を防衛大臣に抜擢した理由は何だったのか?  安倍政権時代の官邸関係者に聞くと、こう答えた。

 「それは、安倍前首相に気を遣うと同時に、同盟国アメリカのトランプ政権に、『安倍政権の継承』を示すためだ。このところのトランプ政権は、『台湾シフト』を鮮明にしており、今後は日本にも役割を求めてくる。そうした日米台の連携に、最もふさわしいのが岸氏の起用だったというわけだ」  当の岸防衛大臣は、16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べた。

 「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を守り抜く方策を検討していきたいと思います」

 「11日の総理談話」とは、次のようなものだ。

 <迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>

 いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」である。「敵」とは表向きは北朝鮮だが、実際には中国だろう。

 「米台vs中国」――岸防衛大臣の就任で、この米中新冷戦の「断面」に、日本も組み込まれつつある。「まずはコロナウイルスの防止に全力を尽くす」と述べた菅新首相だが、その先には、大きな地政学的リスクが横たわっている。

近藤 大介

【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

中国の習近平国家主席は16日、菅義偉新首相に祝電を送り、「中日は友好的な隣国で、長期的な(関係の)安定発展は両国人民の根本的な利益にかなう」と述べ、関係強化を呼び掛けました。これは、異例なことです。李克強首相も祝電を発出。日本の新首相への国家主席と首相による祝電は「珍しい対応」(外交筋)で、習指導部は日本重視の姿勢を鮮明にしました。

汪文斌外務省副報道局長は記者会見で「菅氏が中国と安定した外交関係を構築すると表明していることを高く評価する」と強調しました。

菅首相が7年8カ月にわたり安倍晋三前首相の下で官房長官を務めたことから、中国では「中国に一定の配慮を見せた安倍氏の路線を受け継ぐ」(日本専門家)という見方が強いです。15日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で「(新政権は)日米同盟を基軸として中国との関係も発展させ、利益の最大化を図る」と予想しました。

一方で、沖縄県・尖閣諸島をめぐる問題などで、日中の立場の隔たりは大きいです。中国は、安倍前首相の実弟で、台湾との関係が深い岸信夫防衛相を警戒しています。汪氏は会見で、岸氏について「防衛部門の交流を強化し、『一つの中国』原則を守り、いかなる形でも台湾との公式往来を避けるように希望する」と語りました。

産経新聞社が発行する雑誌「正論」1月号増刊には岸氏は「日米台の安全保障対話を」と題した文章を寄せました。蔡氏が日本との安保対話を呼び掛けたことに言及し、「日台の安保対話はぜひ進めていくべき」と言明。それには米国の関与が重要だとし、日米台で安保対話ができるようにしていくべきだとの考えを示しました。

台湾への訪問を重ねてきた岸氏。今年1月の総統選で蔡氏が再選を果たした翌日の12日には、台北市の公邸を訪れ蔡氏と面会しました。日本は台湾や米国と同様、自由で民主的なインド太平洋戦略に着目しているとの考えを示し、台湾が「日本との関係をより緊密にし、共に地域の平和と安定を維持していけることを期待する」と述べていました。

岸信夫氏(左)と蔡英文台湾総統(右)

一方米有力シンクタンク、ヘリテージ財団が16日に開催した日本の安全保障を巡るオンライン会合で、米識者から菅政権の閣僚起用法に疑念を示す意見が出ました。岸信夫防衛相は「初心者だ」として、敵基地攻撃能力保有の是非や軍事力を強める中国への対応など課題が山積する中、厳しく評価されました。

米軍が創設に関わり安全保障分野の研究に定評があるシンクタンク、ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員は岸氏は新参者や未熟者などを意味する「ノービス」だと指摘。その上で「菅政権が敵基地攻撃能力など微妙な問題のある安保分野で大胆な措置を取るとは思えない」との見方を示しました。

安倍氏の下で、7年8カ月間、官房長官を務めた菅氏は、就任前から「安倍政権継承」を旗印に掲げていました。日本では、今回の岸入閣はこのような意志を示すものという見方があります。

安倍氏は辞任を控えて防衛政策関連の談話を発表するなど意欲を見せていました。岸氏を防衛相に起用することによって『敵地攻撃能力』など、安倍氏が完遂できなかった政策を最後まで成しとげるというメッセージを伝えようとしたとの見方です。

 米国は短期間に終わる可能性がある菅義偉体制にまだ信頼を持てずにいると思います。そうした中岸氏を防衛相に据えたことは、安倍氏の下の日本の安全保障路線、強力な日米同盟を継承していくというメッセージとみることができます。

 岸氏は上でも述べたように、「日本・台湾 経済文化交流を促進する若手議員の会」を率い、台湾関係法を推進するなど議会内の「親台湾派」としても知られています。

安全保障と軍事は、イコールではありません。それは、石破氏をみていればわかります。石破氏は軍事オタクではありますが、安全保障に関しては現実的には素人以下だったかもしれません。

朝日新聞などのオールドメディアで「国民世論第1位」と紹介されていた石破茂氏は得票数がなんと最下位で終わりました。結局オールドメディアは事前に調査等せずに、印象や願望で報道するということが暴露されたと思います。

この石破氏の転機は、集団的自衛権の限定行使を容認した、いわゆる安全保障法制を巡る氏の対応だったと思います。

集団的自衛権の限定行使で戦争になると安保法制改正に反対する人々

石破氏は安倍首相から安全保障法制担当大臣の就任を要請されながらも、これを辞退しました。

氏は安全保障政策に精通し国会答弁能力も高く、過去に防衛庁長官として有事法制の成立に尽力しました。日本の安全保障政策は国会審議で停滞、混乱するのが常でしたから石破氏の国会答弁能力の高さは貴重でした。

だから安倍首相による安全保障法制担当大臣への就任要請も政局的要素が皆無とは言えないですがやはり石破氏の能力を評価しての話ではなかったと思います。

ご存知のとおり安全保障法制の国会審議は大変、混乱しました。混乱の直接的原因は自民党による参考人の人選ミスでしたが、これを差し引いても「石破安全保障法制担当大臣」ならば国会審議も大分落ちついただろうし、変わらず混乱したとしても石破氏の政治的威信は著しく高まったでしょう。

そしてこの政治的威信を背景に自民党が大敗した2017年の都議選直後に安倍首相に辞任を迫ることもできたかもしれませんし、同年9月に起きた民進党の分裂騒動にも多大な影響を与えることもできたかもしれません。

この「石破安全保障法制担当大臣」という「歴史のif」は色々な想像を掻き立ててくれます。

石破氏の表す言葉として「軍事オタク」があります。否定的なニュアンスも含む言葉だと思いますが氏自身は、まんざらでもなかったように思えます。

総裁選で地方遊説をした石破氏

軍事オタクという言葉に動揺しない石破氏の姿は正真正銘の政治家でした。「自分は知識をひけらかすだけで終わっていない」という自信がみえました。実際、氏は防衛庁長官として活躍しました。

しかし、安全保障法制を巡る氏の対応はリスクを避け知識をひけらかすだけの軍事オタクでした。そして今なお軍事オタクの状態にあります。

だから自民党総裁選に出馬した石破茂とは政治家ではなくただの軍事オタクだったのです。ただの軍事オタクが政党代表、内閣総理大臣になれないのは当然です。

端的に言えば石破茂氏は勝負所を間違えました、彼にとって勝負所は最大の総裁選ではなく安全保障法制だったのです。

石破は政治家にとって「決断」がいかに重要なのか身をもって証明したと言えます。もちろん、歴史に彼の名は残らないでしょう。

一方、安倍総理とともに歩んだ岸信夫氏は、少なくとも軍事オタクではありません。福田改造内閣~麻生内閣では防衛大臣政務官、第2次安倍内閣では、衆院外務委員長、外務副大臣、衆院安全保障委員長などを歴任しました。

岸氏は、沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、那覇地検が船長を「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮して」釈放した問題で、当時の民主党政権の対応の不十分さをたびたび非難しています。例えば10年10月8日の参院本会議では、

 「中国が反応してくることが容易に想像できたにもかかわらず、すべてを地検に押し付けた形にして、自ら前向きに対処しようという気構えが全く見られない。むしろ早く厄介払いしたかったようにしか思えない」 

「この度の尖閣諸島での漁船衝突は、その間隙(編注;岸氏は演説の中で、基地問題の迷走が日米同盟を危うくさせたと主張)をついて中国が仕掛けてきた海洋進出の結果じゃないですか」

 「後々、中国の圧力に屈し我が国の領土、領海について日本が譲歩したことが日本外交最大の敗北の日として歴史に残るかもしれない」 などと述べています。

岸氏は、国会で中台関係に言及したこともあります。日米安全保障協議委員会が05年2月に発表した共同声明で「地域における共通の戦略目標」のひとつとして「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」ことを挙げ、中国が反発した問題です。

岸氏は05年3月16日の参院予算委員会で、 「我が国と米国が台湾問題に関して平和的解決を促して、また中国の軍事分野における透明性を高めることを通して中国がアジアの、アジア太平洋地域で責任ある役割を果たしていくよう求めることは、これは我が国としても当然のことだと思う」 などと述べています。

岸氏は、現在のところは、確かに純粋な軍事面では素人に近いかもしれません。しかし安全保障については素人ではないし、確たる信念を持っているようです。軍事面に関しては、これから学んでいけば良いことだと思います。

信念がなく、オタクになる政治家には明日はありません。

そうして、政治家は何と言っても結果を出せなければ、無意味です。岸信夫氏が防衛大臣として立派な成果を残されることに期待したいです。

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2020年9月16日水曜日

中国の海洋進出を容易にするタイ運河建設計画―【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!

中国の海洋進出を容易にするタイ運河建設計画

岡崎研究所


 中国はインドとの対立やアフリカ、中東、地中海などに対する戦略的野心を抱えながらインド洋への進出を強めている。その際の最大の弱みはマラッカ海峡である。海峡は中国の海上貿易の生命線であり、中国海軍の東南アジアそしてさらに西への進出の通路であるが、「マラッカのジレンマ」という言葉がある通り、中国としては、一つの狭い難所への依存を減らすことが重要である。こうした文脈において、一帯一路の野心的なプロジェクトとして出ているのが、マレー半島で最も狭いタイ南部のクラ地峡に運河を建設し、中国からインド洋への第二の海路を開く計画である。この運河ができれば、インド洋、アフリカ、中東などねへの中国の軍事的進出を容易にし、中国にとって戦略的に重要な資産になる。

 タイではアンダマン海とシャム湾を結ぶ運河の計画は昔からしばしば議論されており、1677年に初めて運河建設が言及されて以降、1793年にはラーマ1世の弟が一時アンダマン海側のタイの防衛強化の観点から計画し、1882年にはスエズ運河の建設者レセップスが地域を訪問している。1973年には米国、フランス、日本、タイの4か国が合同で平和的核爆発を用いた運河建設を提案したが実現しなかった。

 最近のタイ国内の動きを見ると、タイの政治指導者の間で運河計画への支持が広まっているようである。プラユット首相は、建設の是非は次期政権にゆだねると述べていたが、国家安全保障会議などに内々に事業可能性に関する調査を指示したと報じられている。政治的関心の有無にかかわらず実際に建設計画を推し進めてきたのは「タイ運河協会」で、協会は主に退役軍人を中心に組織され、南部の住民に対して啓発活動をするとともに、政府にロビー活動をしているとのことである。

 タイで運河計画が現実味を帯びてきたのは、マラッカ海峡が扱える船舶量が限界に近づきつつあるからである。それに、タイ運河ができれば、航行距離が1000キロ以上短くなり、航行運賃がそれだけ安くなる。これはマラッカ海峡に頼らざるを得ない日本などにとっても朗報である。タイとしては、運河が建設されれば、通行料が入るほかに経済的効果が期待できると考えている。具体的には運河の両端に工業団地や物流の拠点を建設する計画がある。タイ経済の新しい起爆剤にしようとの思惑があるようである。

 中国にとっては航路が短くなる経済上のメリットの他に、上述の通り、戦略上のメリットが大きい。タイ運河が完成すれば、中国海軍がインド洋、アフリカ、中東などへ進出しやすくなり、インドとの対決で有利になると同時に、中国の軍事的存在感を高めることになる。

 タイが中国によるタイ運河建設に前向きなのは建設費を負担してもらえることが期待できるからである。運河の建設費は一応300億ドル前後と見積もられているようであるが、実際はもっとかかるだろう。それを中国が出してくれればタイは財政的に大いに助かる。しかし、中国が建設費を負担すれば、当然のことながら中国のタイに対する発言権は強まる。最近、タイの中国傾斜は高まっている。やはり、中国のすぐ近くに位置するタイとしては、中国傾斜はやむを得ない面があるのだろう。

 タイの運河が建設され、中国のインド洋などへの進出が強まってもインドはアンダマン・ニコバル諸島の基地を強化することで対抗できるのではないかとの指摘もある。しかし、運河が完成すれば、中国の「真珠の首飾り」によるインド包囲網は強化されるわけであり、中国によるタイ運河の建設はインドにとって戦略的に受け身に立たされるのは間違いない。

【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!

マラッカ海峡は、昔からグローバルな通商の重要な回廊でした。イタリアの冒険家マルコ・ポーロは、1292年に中国(元朝)から海路帰郷するときここを通りました。1400年代には、中国(明朝)の武将・鄭和がここを通って南海遠征を進めました。


現在の中国にとっての海上交通路とチョークポイントに関係してくる問題を考えると、彼らにとっての最大の懸念として挙げられるのは「マラッカ・ジレンマ」です。

このジレンマとは、中国が経済的に発展して国力が高まると、米国(とシンガポール)に対する脆弱性が高まってしまうというものです。経済発展するとエネルギーの需要が高まり、中東からの石油の輸入に頼らざるを得なくなります。

その際の海上交通路のチョークポイントは、マラッカ海峡(中国が輸入する原油の80%がここを通過)です。したがって同海峡を管理する米国(とシンガポール)との関係が重要になります。

当然ながら中国には、このジレンマを解消しようという動機が働きます。その解決策として北京は現在、3つの計画を進めていると言われています。

第1がパキスタンのグワダル港と新疆ウイグル自治区のウルムチまで、パイプラインを結ぶ計画です。グワダル港はイランとの国境のすぐ東にある。インド洋に向かって開けている砂漠の南端にある良港です。


最近の「一帯一路」につながる「中パ経済回廊」というスローガンの下で、中国政府がすでに大規模な投資を行っています。今後さらに深海港化――大型の船を着岸できるようにするため浚渫(しゅんせつ)工事を行ったり港湾施設の拡充を行う方針をパキスタン政府と決定しています。

ただし、プロジェクト全体の実現性が疑問視されている面もあります。グワダル港周辺に住む民族(バルチ人)は、パキスタンの首都イスラマバード周辺に住む民族(パンジャブ人)と対立関係にあって、分離独立の機運もあります。

もし中国のパイプラインがグワダルまで延長されれば、イスラマバードに対抗するために「パイプラインを破壊し、中国人労働者を殺害する」と明言する独立運動側のリーダーもいます。また、北から吹く風が砂漠から運んでくる大量の砂によって港が埋まってしまう問題も抱えています。

第2がミャンマーへのパイプラインです。これは中国南部の昆明からチャウッピュー港まですでに伸びていて、2018の2月の時点で完成したと言われています。

これはまさに戦前の「援蒋ルート」の再現です。連合軍側が戦時中に、中国内の日本軍に対抗すべく整えた物資補給路が、現代において、マラッカ海峡をバイパスするための中国自身のための原油ルートとして復活したことになります。ところが、北京政府が同時に敷設する予定だった鉄道のほうは、地元住民の反対などもあって中止している模様です。

第3が冒頭の記事にもある「クラ運河」です。マラッカ海峡をバイパスする形で、マレー半島を横断して太平洋 (タイ湾)とインド洋(アンダマン海)の間の44キロを結ぶ運河の建設です。2018年、中国とタイの企業が計画を発表したのですが、こちらも、その実現性に疑問符がついています。報道が錯綜しており、タイ政府側はこの計画の存在自体を否定したという情報もあります。

いずれにせよ、中国側はマラッカ海峡という自らが権限をもたないチョークポイントを回避するため、新たな陸上ルートを開発する計画を次々に打ち出そうとしています。

マハンの頃から、まるで「太平洋を握るものは世界を制する」とでも言うべき現象が国際政治の場に現れています。第二次世界大戦では、この海域の覇権を巡って日米が激突しました。日本の敗戦後は、米国がここの覇権を握った状態が続いています。言い換えれば、1945年以降、米国は太平洋を「内海化」しているのです。

ところが2000年代に入ってから、中国がこの覇権に異を唱え始めました。2006年にキーティング米太平洋艦隊司令官(当時)に対して中国海軍の司令官が「太平洋を2分割しよう」と提案したという逸話があります。

習近平国家主席が2013年夏の米中首脳会談以来、「新型の大国関係」を唱え始めました。「G2論」の派生版です。この頃から「広い太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」というフレーズを使い始めました。2018年にも北京で米国の当時のケリー国務長官に対して同様の言葉を発しています。

つまり中国は、太平洋において米国が覇権を握っている状態をよしとしていないのです。そこに国力に見合った自分たちの影響圏を確保し、覇権とは言わないまでも、米国と太平洋を分割し、できれば共存したいという意図を持っていると解釈できます。

かつては、「米中は太平洋において共存できる」という楽観論も持ち上がりました。米ボストン・カレッジ大学のロバート・ロス教授は、1999年に書いた論文の中で、このように主張しました(ロス教授は後に考えを修正)。

しかし、南シナ海の状況と現在の米中冷戦が激化するにおよんで、米中が共存関係に向かっていると楽観的に判断する人々はすっかり姿を消しました。現状変更を積極的に進めようという中国の意図があまりにも明々白々だからです。

米国は本気で中国が体制を変えるか、中国共産党が崩壊するまで制裁を強化します。米国は、基軸通貨ドルを背景に、世界中のドルの取引を把握しています。この情報に加え、世界金融市場を支配しています。強大な軍事力の他にこのような強力なパワーを持っているわけですから、中国には全く勝ち目はありません。

このような中で、日本が考えるべきは、米国の同盟国として、中国への冷戦に参戦し、いかに相対的に存在感を向上させるかです。選択の余地はないでしょう。もし、そうしなければ、日本も中国と同じように制裁の対象となり、とんでもないことになります。

中国共産党はいずれ崩壊するか、崩壊しなければ、中国経済は確実に崩壊し、日本は第二の経済大国に返り咲くことになります。香港で一国二制度が消え、ロンドンはブレグジットで金融都市としての地位を低下させています。シンガポールも世界的な貿易摩擦の打撃を受けて地位を低下させています。昨年の第2・四半期の成長率は、前年同期比わずかプラス0.5%だった香港をも下回りました。

日本はコロナ禍もうまくかわし、1億人以上の人口を抱える国の中では、一番感染の蔓延を封じ込めることに成功しています。

日本が米国の同盟国として、中国との対峙を強化すれば、いずれ日本は世界で第二パワーとして、存在感を増します。そうして、中国共産党が崩壊もしくは、中国が経済的に意味を持たない国になった後には、大東亜戦争後の敗戦国の地位から開放され、名実ともに完璧な独立国になる機会が訪れます。

金融でも経済でも、過去のようにこれから政策を間違えさえしなければ、過去数十年も間違い続けてきただけに、どの国よりもこれから伸びる伸びしろが大きいです。今世界の中で、コロナ後に伸びる伸びしろの大きい国は日本をおいて他にありません。

それをものにするか否かは、無論多くの日本国民の考え一つです。いつまでも、まともな財政政策、金融政策ができない状況を継続するのか、それとも第二次補正予算のときのように、政府と日銀の連合軍で、財務省の圧力をはねかえすのか?

いつまでも、米国などに依存して生き続けるのか、米国等との同盟関係を続けながらも、少なくとも自国の防衛は自国で行うようにして、真の独立国の地位を勝ち得るか、まさに日本の分水嶺が訪れることになります。

マラッカ海峡 狭いところは海峡というより巨大な川のよう

現在のマラッカ海峡は、中東の石油を東アジアにもたらし、アジアの工業製品をヨーロッパや中東にもたらす船が年間8万隻以上通過します。現在のシンガポールの繁栄は、この海峡の南端に位置することによって得られたものです。

タイ運河があれば、タイもその繁栄の一部にあずかることができます。タイ運河協会はそう主張しています。運河の東西の玄関には工業団地やロジスティクスのハブを建設して、アジア最大の海運の大動脈をつくるのです。

その主張には一定の合理性があります。現在の海運業界の運賃や燃費を考えると、タイ運河の建設は経済的に割に合わないと指摘する声もありますが、安全面から考えて、マラッカ海峡の通航量が限界に達しつつあるのは事実です。

タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。

ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。

近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。

パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。

1869年に開通したスエズ運河も、1956年にエジプトが国有化を断行するまで、イギリスとフランスの利権をめぐる軍事介入が絶えませんでした。そうしてエジプト政府は今、運河の向こう側に広がるシナイ半島で、イスラム反体制派の活動に苦慮しています。

今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。

中国は、カンボジア南西部のシアヌークビルと、ミャンマーのチャウピューの港湾整備計画と合わせて、タイ運河を「真珠の首飾り」の一部をなす戦略的水路と見なすでしょう。もしタイに反中政権が誕生して、首飾りを壊すようなことがあれば、中国が最南部の分離独立運動を支援して、軍事介入に踏み切り、運河の支配権を握る可能性も排除できないです。ここでもパナマが参考になります。

こうしたリスクに気付いたのか、タイのサクサヤム・チドチョブ運輸相は最近、運河ではなく鉄道や高速道路を建設するほうが望ましいと語りました、地峡の両端に港を建設する計画と、陸橋を建設する計画の調査予算を確保したことも明らかにしました。

タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。

マラッカ海峡がシンガポールを豊かにしたのは、シンガポールが外国の影響を比較的受けないオープンな経済を持っているからです。タイは、中国に危険な賭けを始める前に、その教訓を慎重に検討する必要があります。

マラッカ海峡は、日本にとっても重要な拠点です。ここの平和が脅かされれば、日本も直接悪影響を受けます。この地域の安全保障について、日本も真剣に考えるべき時がきたようです。

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2020年9月15日火曜日

菅政権の政策シナリオを完全予想!改革を実現するために最も必要なこととは?―【私の論評】菅総理の政策は、継続と改革!半端な政治家・官僚・マスコミには理解できない(゚д゚)!

 菅政権の政策シナリオを完全予想!改革を実現するために最も必要なこととは?

安倍政権のレガシーを活かせるか

菅総理

9月8日に自民党の総裁選が告示されました。主要派閥から幅広く推薦人を集め、更に世論調査でも高い支持を示している菅官房長官が総裁選で勝利し、9月16日には菅政権が誕生する見込みです。

安倍政権の継続を強く打ち出しているため、菅政権は経済政策の多くの部分を継承するでしょう。メディアのインタビュー記事において、菅氏は、日本銀行の黒田総裁について「手腕を大変評価している」と述べました。当面、黒田総裁に金融政策を任せるとともに、金融緩和の徹底が次期政権でも重視されるでしょう。

安倍政権で日本経済が回復した理由

2013年から、安倍首相によって任命された黒田総裁らが率いる日本銀行が、米連邦準備理事会(FRB)など海外中銀と同様に、明確な2%インフレ目標にコミットして緩和強化を徹底しました。これが2013年以降の日本経済の復調や失業率の低下などの、経済正常化の最大の原動力になりました。

そして経済改善が実現したからこそ、安倍政権は6度の国政選挙で勝利し憲政史上最長となる政権運営が可能になりました。金融政策の転換によって大きな政治的資源を安倍政権が得たわけですが、官房長官として安倍首相を支えてきた菅氏は、他の政治家などよりもこの経緯を深く理解していると見られます。

なぜ安倍政権において、日本銀行の金融緩和強化が実現したのか。安倍政権以前の日本銀行の金融政策運営においては、偏った経済思想にとらわれた官僚の理屈が重視されていたと筆者は考えています。これが長年問題とされていたデフレと経済の停滞を招いたと、首相官邸がはっきり理解したことが安倍政権において政策転換が実現した大きな理由だったでしょう。

菅政権でも金融政策への同じスタンスが引き継がれるとすれば、コロナ後の日本経済は正常化に向かう可能性が高まるでしょう。このため、日本の株式市場も、米国とそん色ない程度には期待できる投資先になりうると筆者は予想しています。ただ、このシナリオが実現するためにも、安倍政権が残した遺産(レガシー)を活かしながら、菅政権が長期政権となるかどうかが重要になります。

財政政策を拡張に転換するのはいつか

一方、マクロ安定化政策のもう一つのツールであり、金融政策をサポートする財政政策を菅政権はどう運営するのでしょうか。菅氏は、9月3日の記者会見で、消費減税に関して「消費税は社会保障のために必要なものだ」と言及、メディアでは「消費減税に否定的な見解」と伝えました。

実際には、この菅氏の発言は、高校無償化などの社会保障充実と同時に、消費税を引き上げた安倍政権の政策を、正当化する意味合いが大きいと考えられます。2014年に消費税を引き上げてから2019年までの約5年にわたり、安倍政権は緊縮的な財政政策をほぼ一貫して続けてきました。そして、コロナへの対応で大規模な所得補償などで2020年には財政政策は拡張財政政策に転じました。

当面は、コロナ感染状況、経済動向、そして総選挙を控えた政治情勢、などを勘案して柔軟に財政政策が運営されると筆者は予想しています。コロナの感染抑制が必要な現在の状況では、これまでのような所得補償政策による財政政策発動が主たる対応になるでしょう。

そして、コロナ感染リスクが和らぐと期待される2021年以降は、再度のデフレ脱却を確かにするため、財政政策の役割が総需要を刺激するツールに代わる局面にシフトするでしょう。そうした局面になれば、菅政権は、減税などの財政政策を総需要を高める手段として使うかどうかの判断を下すと筆者は予想します。

2%インフレと経済安定を実現する最大のツールは金融政策ですが、2016年以降は、政府が決める国債発行残高で、日本銀行による資産買い入れ金額が事実上規定された状態にあります。2020年になってから、政府の国債発行によって日銀による国債購入金額が増加に転じましたが、コロナ対応の非常時の後も、拡張的な財政政策を継続すれば金融財政政策が一体となり、2%インフレを目指す政策枠組みがより強固になります。そうなれば、安倍政権が完全には実現できなかった、脱デフレと経済正常化が達成される可能性が格段に高まると筆者は考えます。

安倍政権下で総じて緊縮的だった財政政策が拡張方向に転じるかタイミングは、コロナ後の財政政策スタンスが決まる2021年でしょう。そしてこれが実現するか否かは、来週明らかになる財務大臣などの主要な経済閣僚人事によって、ある程度判明すると筆者は注目しています。
菅政権が抱えるリスクとは

マクロ安定化政策を十分行使して経済の安定成長をもたらすことは、日本の政治基盤を強める最低条件と言えます。安倍政権同様に政治基盤が強まれば、菅氏が意気込みを見せる、規制改革そしてデジタル庁創設を含めた公的部門の組織改革の実現可能性は高まるでしょう。

例えば、総じて高い支持率を保った安倍政権において、加計学園問題が大きな政治問題になりました。岩盤規制を崩す一貫として行われた獣医学部新設に絡んで既得権益者が政争に関わり、そして安倍政権に批判的なメディアを巻き込んだことが加計学園問題の本質だったと筆者は理解しています。権益の政治的な抵抗の強さを示す一端でしょうが、菅氏が言及する規制緩和等を実現するには、大きな政治資源が必要でしょう。

また、菅氏が言及している携帯電話の通信料金引き下げについては、料金が通信会社の寡占によって高止まっているとすれば、これを是正して一律の通信料金低下が起きれば、家計全体にとって減税と同じ効果が及びます。また、軽減税率を適用されている大手新聞などを含めた既存メディア等への競争促進なども、大多数の国民に恩恵が及ぶでしょう。

ただ、これらの規制見直しを実現するには、経済全体の安定成長そして雇用の機会を増やして世論の支持を得なければ、大きな抵抗に直面して実現が難しくなります。菅政権が、規制緩和をスムーズに実現するために、当面は、コロナ禍の後の経済状況をしっかり立て直して、2%インフレを実現させて経済活動正常化を最優先にすることが必要と筆者は考えます。

このため、菅政権が長期政権になるかどうかは、今後繰り出す政策の優先順位、そして繰り出すタイミングや順番が重要でしょう。仮に経済安定化政策が不十分にしか行われず失業率が高止まる経済状況が長期化すれば、世論の支持を失い政権基盤が弱まるので、政治的な抵抗によって目指す改革の実現が困難になります。

筆者は、菅政権に対しては安倍政権以上に期待している部分があります。ただ、優先する政策の順番を間違えたり、財政政策を柔軟に行使せず経済安定化政策が不十分に留まれば、大手メディアや多くの政治家の背後にいる権益者の抵抗がより強まり、そうした中で改革を断行すると政権基盤が大きく揺らぐでしょう。これが、改革を志す菅政権が抱えるリスクシナリオだと筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

【私の論評】菅総理の政策は、継続と改革!半端な政治家・官僚・マスコミには理解できない(゚д゚)!

13日FNNで放送した「日曜報道THE PRIME」の中で菅氏は、「官僚の忖度を生む要因」と指摘されている内閣人事局について聞かれると、「見直すべき点は無い」と言い切りました。

また、政権の決めた政策の方向性に反対する官僚幹部は、「異動してもらう」と明言しました。

7年半にわたって菅氏は霞が関の官僚を震え上がらせてきました。ただし、これは正しいことであって、先日も述べたとおり民間企業では、本部執行部が各部署の幹部の人事を決定し、取締役会がそれを承認します。官僚の人事だけが、時代遅れの異常な状態だったのです。

菅氏の「官僚操作術」とは何か?その答えは菅氏が2012年に出版した著書『政治家の覚悟―官僚を動かせ』にあります。



この本が出版された2012年3月、民主党政権は2年が経過し、自民党は野党でした。

本の「はじめに」にはこう書かれてあります。

「真の政治主導とは、官僚を使いこなしながら、国民の声を国会に反映させつつ、国益を最大限、増大させることです」

続けて菅氏は、民主党政権を「官僚との距離を完全に見誤りました」と批判し、「政治家は、官僚のやる気を引き出し、潜在能力を発揮させなくてはならない」と記しました。

また官僚について菅氏は、「前例や局益や省益に縛られる習性をただし、克服させていくのは当然のこと」だと強調しています。

この本は4章からなっていますが、第1章の「大臣の絶大なる権限と政治主導」が7割を占めています。章の冒頭にあるのは、そのものずばり「官僚組織を動かすために」です。

まず菅氏は、政治家と官僚の関係は「政治家が政策の方向性を示し、官僚はそれに基づいて情報や具体的な処理案を提供」であるべきだとしています。

また官僚の習性を、前例主義で変革を嫌う、所属する組織体制への忠誠心が強い、法を盾に行動し、恐ろしく保守的で融通のきかない、などと列挙しています。

こうした官僚と対峙する時、政治家に求められる能力は何でしょうか。菅氏は師と仰いだ故・梶山静六氏の言葉を引用しています。

「官僚は説明の天才であるから、政治家はすぐに丸め込まれる。お前には、おれが学者、経済人、マスコミを紹介してやる。その人たちの意見を聞いた上で、官僚の説明を聞き、自分で判断できるようにしろ」

菅氏はこの言葉を胸に、判断力を身につけるよう心掛けてきたと語っています。

さらに菅氏は、官僚が本能的に政治家を観察し、信頼できるかどうか観ているので、責任は政治家がすべて負うという姿勢を強く示すことが重要だと語っています。

こうした官僚とのやり取りについて、菅氏は選挙戦で自らの実績としてアピールした「ふるさと納税」導入についてこんなエピソードを語っています。


「官僚にこの構想をもちかけたところ、こぞって大反対でした。検討の余地すらなし、という態度でした。官僚は『できない』理由ばかりを並べます」

そして菅氏はこう続けます。

「私は『ぜったいにやるぞ』と決意を示し、協力を求めました。官僚というのは前例のない事柄を、初めは何とかして思い留まらせようとしますが、面白いもので、それでもやらざるを得ないとなると、今度は一転して推進のための強力な味方になります。そこまでが勝負でした」

ここで菅氏は、政策に反対する官僚を味方につけるタイミングを披露しています。

菅氏は13日、政権の決めた政策に反対する官僚幹部は「異動してもらう」と明言しました。一部メディアではこの発言が大きく取り上げられています、これは菅氏のかねてからの持論であることが本を読めば明らかです。

「『伝家の宝刀』人事権」と題された1節には、「人事権は大臣に与えられた大きな権限です」として、総務相時代に自身の政策に異を唱えた官僚を更迭した理由をこう述べています。

「人事によって、大臣の考えや目指す方針が組織の内外にメッセージとして伝わります。効果的に使えば、組織を引き締めて一体感を高めることができます。とりわけ官僚は『人事』に敏感で、そこから大臣の意思を強く察知します」

この中の「大臣」を「政府」に置き換えると、菅氏がいま官邸から霞が関をコントロールしている姿と重なります。

人事には鞭もあれば飴もあります。菅氏は人事についてノンキャリアを抜擢したケースを挙げて、こうも語っています。

「私は人事を重視する官僚の習性に着目し、慣例をあえて破り、周囲から認められる人物を抜擢しました。人事は、官僚のやる気を引き出すための効果的なメッセージを、省内に発する重要な手段となるのです」

菅総理の語っていたことは、正しいです。経営学の大家ドラッカー氏も、人事こそ他のコントロール手段と比較して、組織において最も効果のある真のコントロール手段であるとしています。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。それは当然です。いかに数値などによる精緻なコントロールシステムを構築したとしても、人事によるコントロールにまさるものはありません。

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ています。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。この組織では、上司に気に入られることが大事なのか、それとも真に組織に貢献することを求められているのか。

“業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”(平たくいえば各部の昇進)の決定において、真摯さとともに、経済的な業績(民間企業の場合)、を上げる能力を重視しなければならないのです。

一方ドラッカー氏は、政府の役割について、以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」というのです。

しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知りました。現在の上場企業等は、両者が分離されているのが普通です。たとえば、財務部と経理部は分離されているのが普通です。

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。

実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、トップが決定と方向付けに専念できるようにします。この企業で得られた原則を国に適用するなら、実行の任に当たる者は、政府以外の組織でなければならないことになります。

政府の仕事について、これほど簡単な原則はありません。しかし、これは、これまでの政治理論の下に政府が行ってきた仕事とは大いに異なります。

これまでの理論では、政府は唯一無二の絶対の存在でした。しかも、社会の外の存在でした。ところが、この原則の下においては、政府は社会の中の存在とならなければならないのです。ただし、中心的な存在とならなければならないのです。

おまけに今日では、不得手な実行を政府に任せられるほどの財政的な余裕はありません。時間の余裕も人手の余裕もありません。それは、日本も同じことです。
この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する。一方において、企業、大学、病院など非政府の組織が、成果を上げるための機関となる。他方において、政府が、社会の諸目的を決定するための機関となる。そして多様な組織の指揮者となる。(『断絶の時代』)

 政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことなのですから、日本でいえば、最終的には各省庁の仕事は政府の外に置かなければならないのです。

ただし、このような改革はすぐにはできません。それにしても、日本の政治組織をドラッカー氏が主張する通りにするとすれば、まずは内閣は、統治の中心とならなけばならないです。それは内閣に所属する大臣などだけでは不可能ですから、やはり内閣府が補佐をするという形になるのは当然です。これを実現するためにも、各省庁の幹部の人事は内閣人事局において行い、閣議で承認を得るという形式になるのは当然のことです。

そうして、現状で、各省庁によって統治と実行が行われているのですが、統治に関わる事務等は内閣府に移すべきです。そうして、最終的な意思決定は閣議でするようにすべきです。無論官邸官僚が意思決定をすることがあってはならないです。意思決定するのは閣議です。

そうして、いずれ各省庁の統治を除いた部分は、民間企業や社会事業に委ねるというのが、ドラッカーの理想とするあるべき姿です。政府に属する諸官庁が、日本では統治と実行の両立をあいまいなまま実行しているという現状は、早急に改めなければなりません。

話を再度、組織の人事について戻します。致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれなければならないのです。
重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
将来的に、政府の官庁のほとんどが、内閣府などを残して、ど外部に移管されたとしても、各組織の重要な人事(各組織のトップなどの幹部の人事)はやはり内閣府が実行し閣議で承認すべきでしょう。そうでないと、真のコントロールができないからです。ただし、各省庁が政府の直轄組織であれば不可能だった、どうしようもない組織は切り離して、他の組織に代替するということも容易にできます。

選挙戦で菅氏は、安倍政権の「継続」をアピールしてきました。

しかし菅氏支持を表明した小泉進次郎環境相は、菅氏のことをこう語りました。

「私が期待しているのは世の中でいわれている安定、継続というよりも、思い切った改革を断行していただく。そして菅官房長官は改革の人だと私は思っている」

果たして菅氏は、世間一般でいわれる「継続の人」なのでしょうか。それとも「改革の人」なのでしょうか。

本の中には、菅氏が朝鮮総連から地方公務員まで、聖域なくメスを入れてきたエピソードが紹介されています。また当時から菅氏が問題視しているのが大手携帯電話会社です。

菅氏は13日、持論である携帯電話料金の値下げについて、あらためて必要性を強調しましたが、実は本の中で菅氏は、総務副大臣の頃からICT産業に着目してきたと述べています。

「携帯電話などのICT分野において日本の技術は世界最高水準にあります。ところが、これを産業としてとらえた場合、国際競争力は極めて低いのです。国際競争で水をあけられた原因には、『ガラパゴス化』を生み出すほどの企業の国内市場偏重などが指摘されていました」

菅氏は総務相時代、携帯電話を含むICT産業の国際展開を政府として後押ししました。しかしいまだ寡占体質が変わらない携帯電話に、菅氏はいよいよ宣戦布告したといえます。

この本の「おわりに」には、菅氏が初当選の際、故・梶山静六氏から贈られた叱咤激励の言葉が記されています。

「お前は大変な時代に政治家になった。これからは人口が減少して、それだけでデフレになる。国民に負担を強いる政策が必要になってくる。国民からは政治に対する厳しい批判も出てくるだろう。だからといって問題解決を先送りしていたら、この国はつぶれてしまう。これからの政治家には覚悟が必要だ。頑張れ」

ここにある「政治家」を「総理」に置き換えると、いまあらためて梶山氏から菅氏に贈られる言葉になるのでしょう。

               梶山静六元官房長官(左)と菅義偉氏。菅氏は硬軟併せ持った
               梶山氏の政治手腕に強い影響を受けた =平成10年

ただ、梶山静六氏の言葉には大きな間違いがあります。それは、「これからは人口が減少して、それだけでデフレになる」という言葉です。人口減少とデフレは直接関係ないです。デフレやインフレは純粋に通貨量の問題です。それは、少し考えれば、わかります。

人口が減り、その他の条件が何も変わらず、産業活動が減ったならば、それに対応して日銀が適正な通貨量を精査して、通貨量減らすということをしなければ、デフレではなくインフレになります。そもそも、インフレ、デフレは、通貨量の問題であって、人口の多い、少ない、人口が増加する減少することとは全く関係ありません。梶山氏はこの点では、当時の日銀官僚にまるめこまれていたのでしょう。当時の日銀総裁はあの貧乏神の白川でした。

残念ながら、日本の政治家には、財政や金融、経済に対して疎い人が多いです。若手のたとえば小泉進次郎氏から、重鎮まで自民党の政治家のほとんどは、財政、金融政策に関して、かなり疎いです。野党も同じです。

安倍前総理や菅現総理、財務省を「狼少年」と揶揄した最近の麻生財務大臣など一部を除いては、自民党の政治家のほとんどが、そもそもマクロ経済音痴であり、その時々でどのような財政、金融政策をすべきかということに関して疎いです。野党も、多少の例外があるとしても、ほとんどがそうです。これは、本当に困ったことです。

梶山氏が語ったように「官僚は説明の天才であるから、政治家はすぐに丸め込まれる」のです。ただ、そのことを認識した菅総理は、第二次安倍内閣の官房長官として、梶山氏のような優秀な政治家でさえ、日銀官僚に丸め込まれていたことを理解したでしょうから、安倍前総理がいかに財務・日銀官僚と対峙してきたか、その意味合いはどういうものなのか、その内容を全部理解していると思います。

今後菅氏は、人事という強力な真のコントロール手段を用い、官僚たちに何が一番重要なことなのかを周知徹底し、報いるべき官僚には報い、排除すべき官僚は排除し、安倍前総理が志半ばでできなかった様々な改革に取り組んでいくことでしょう。これは、継続であると同時に、革新でもあります。このようなことは、半端な政治家・官僚・マスコミには理解できないでしょう。

そうして、現状では、これができるのは、菅総理以外にいません。菅総理が誕生して本当に良かったです。

そうして、安倍第二次政権を支えてきた菅総理なら、冒頭の村上氏が指摘しているように、政策の順番を間違えることはないでしょう。最初は経済を良くすることに専念するでしょう。それができないとすれば、何らかの原因があって、財務官僚などの反対勢力の力が強まったとみるべきでしょう。

それによって、多少順番が違っても、菅政権は、継続と改革を実行することでしょう。

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2020年9月14日月曜日

【独話回覧】外貨流出で追い込まれる中国・習政権 コロナ禍でも金融引き締めの“異常事態”に カネ刷らずに景気拡大できるか―【私の論評】中国経済はいずれ毛沢東時代に戻る!外国企業はすべからく、逃避せよ(゚д゚)!

 【独話回覧】外貨流出で追い込まれる中国・習政権 コロナ禍でも金融引き締めの“異常事態”に カネ刷らずに景気拡大できるか

トランプ米大統領(左)と対立する中国の習主席だが、金融面では苦しい立場か

 夕刊フジの別の拙コラム「『お金』は知っている」(10日発行)で、中国の習近平政権が党の機関メディアを使って、トランプ米政権に対して「米国債を売るぞ」という脅しをかけていることを明らかにしたが、実のところ、金融面で追い込まれているのは習政権のほうである。

 グラフは人民元発券銀行である中国人民銀行の人民元資金量の前年同期比増減率と、人民元発行高に対する外貨資産の比率の推移である。


 事実上の「ドル本位制」をとっている人民銀行は、外貨すなわち、国有商業銀行などからのドル買い上げを通じて人民元を発行する。

 人民元は一定比率以上のドルの裏付けがあるという建前にして通貨価値の信用を保つという中国ならではの通貨制度である。買い上げた外貨は外貨準備または人民銀行資産として計上される。

 党幹部を含め、中国の既得権者や富裕層に「愛国者」はおらず、ドル準備がなければ人民元は単なる紙切れとみなしてしまいかねない。人民銀行が人民元の対ドル相場を切り下げようとしたり、人民元安が進行しようものなら、人民元をドルに換えて国外に持ち出してしまう。それが「資本逃避」と呼ばれ、仮想通貨ビットコイン取引や香港経由の裏ルートが使われる。

 習政権は数年前にビットコインを全面禁止したが、香港ルートについては塞ぐことに失敗した揚げ句に香港に「香港国家安全維持法」を強制適用し、監視を強化した。それでも資本逃避は年間2000億ドル(約21兆円)ペースで続いている。

 外準の大幅な減少が続くと、外貨危機になりかねないので、対外債務を増やすことで急場をしのぐという綱渡りにより、3兆ドルの外準水準を死守しているのが現状だ。

 グラフが示すように、2010年当時、130%に達していた外貨資産比率は下がり続け、18年からは7割ラインを維持するのが精いっぱいである。外準が増えない中でこれ以上の外貨資産比率を下げないためには、分母である人民元発行量を抑え込むしかない。

 その結果、人民元発行高の前年比は18年にはマイナスとなった。中央銀行による資金追加発行はどの国でも、経済成長を支えるために欠かせないのだが、中国は金融の量的引き締めに転じた。

 そして、武漢市発で新型コロナウイルス・ショックが勃発した今年でも、景気てこ入れに必要な人民元資金発行を増やさず、逆に金融引き締め策をとる異常ぶりだ。外貨資産7割ラインの保持が最優先するのだ。

 習政権はそれだけ、外貨難に苦しんでいるわけで、冒頭に挙げた米国債売却は、自身のフトコロ具合から来るとみてよさそうだ。保有米国債は外準の運用手段であり、米国債売却は現金化のためなのだ。

 ところが、中国共産党機関英文ネット・メディア「グローバル・タイムズ」はそんな窮状をおくびにも出さず、7月30日付で、以下のように開き直った。

 「中国を含む世界の中央銀行は(コロナ恐慌を受けた)経済刺激のために米国がとっている攻撃的な金融政策には熱心ではない。中国人民銀行はドル資産の裏付けを必要とする金融の量的拡大を選ばない代わりに、中国は慎重かつ柔軟な金融政策を通じて国内市場の拡大を図る」と。

 へーえっ、カネを全く刷らずに国内景気を良くできるとは、新実験だ。

 もっとも、党による強権、全体主義体制という異形の市場経済システムならではの離れ業なのだろう。無理強いされるのは、日本などの外国企業で、いずれも利益を上げても本国送金を止められ、さらに追加投資を強要されるだろう。

 ■田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞社特別記者。1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後の70年日本経済新聞社入社。ワシントン特派員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級研究員、日経香港支局長などを経て2006年産経新聞社に移籍した。近著に『検証 米中貿易戦争』(ML新書)、『消費増税の黒いシナリオ デフレ脱却はなぜ挫折するのか』(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。

【私の論評】中国経済はいずれ毛沢東時代に戻る!外国企業はすべからく、逃避せよ(゚д゚)!

中国がなぜ金融緩和したくてもできなくなるのか、上の記事にはある程度説明されていますが、それは現状がどうなっいるのかを説明しているのであって、金融緩和がなぜできないのかの根本要因については説明していません。

それは、一言でいえば、国際金融のトリレンマによるものです。これは、過去にも何度かこのブログでとりあげています。

先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるというものです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。

これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となっています。



もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、こうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。

ただ中国の通貨である人民元は、2005年から「管理変動相場制」を採用しています。毎営業日の10時15分に、中国の中央銀行に当たる人民銀行が当日の基準レートを公表し、その日の人民元の取引は、基準レートから上下2%の範囲内での変動が許容されるという仕組みになっています。とはいいながら、これは固定相場制よりは変動相場制に一歩近づいたというだけで、固定相場制であることには変わりありません。

これにより、中国当局の意向をなわせレートに反映させ、人民元の価値をある程度コントロールすることを可能にしました。

しかし、この管理変動相場制は、米ドルやユーロ、日本円のように自由に取引できない「不便な通貨」であることも意味しています。さらに、人民元の取引には管理相場性以外にも色々と制約が課され、中国経済の成長と規模拡大に比較すると、人民元取引の規模は国際金融市場において乏しいという状況が長らく続いていました。

そこで、中国当局は国有市場の開放を進め、2010年7月に香港において新たな人民元の取引市場を立ち上げ、これまでの市場はオンショア市場(CNY)、新しい市場はオフショア市場(CNH)と呼ばれるようになりました。そのため、人民元は二つのし上が併存する形になっていました。

しかし、ご存知のように香港の一国二制度は、中国によって一方的に破棄され、CNHは崩壊に向かいつつあります。

香港は例外だったのですが、中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはできません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できますが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるをえなくなったのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなるのです。そのため、中国は量的緩和を使えなくなってしまったのです。

そもそも、国内で金融緩和政策すらできない国の、通貨が本格的に国際化できるはずもありません。何か国際金融において、大きな問題が起こったにしても、金融緩和できないのであれば、その問題にまともに対処することすらできません。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や世界第2位の経済大国であり、こうした 国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の 高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないです。

移 行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルがさらに膨らむおそれがあります。一方で、 拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。まさに、現在の中国の状況はこの状況なのです。

何より金融緩和ができないという状況は、最悪です。なぜなら、マクロ経済上の常識である、金融政策=雇用政策という事実から、中国では雇用を創造することができないからです。中国は今後一層難 しい舵取りを迫られることになったのです。

文化大革命期の紅衛兵

現在まで、人為的に経済を統制してきたことが、今回の事態を招いたのです。今後も固定相場制に拘泥すれば、金融緩和ができず、雇用がさらに悪化して、ますます外貨準備高が減少し、行き着く先は満足に貿易もできない状況になるでしょう。特に中国の新しい産業である、5Gなどは、半導体を自由に調達できず頓挫せざるを得なくなります。

このままの状態が続けば、5Gだけではなく、あらゆる産業が機能不全に至ることになります。中国が現在の体制を維持しつつ、中国が打開策を行使するには、外国企業が頼みの綱で、いずれ利益を上げても本国送金を止められ、さらに追加投資を強要されるということになります。

中国の外国企業はすべて中国から逃避すべきでしょう。外国企業がすべて逃避し外貨準備がゼロになった中国は、また一昔前の、毛沢東時代の経済に戻るだけです。

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