2025年8月27日水曜日

ナイジェリア誤発表騒動が突きつけた現実──移民政策の影で国民軽視、緊縮財政の呪縛を断ち切り減税で日本再生を


まとめ

  • ナイジェリア政府の誤発表は、移民政策への不安を映す象徴的事件であり、地方では外国人比率が20〜30%に達する地域もある。
  • ビザ緩和の事実はなかったが、誤解が拡散し国民の政治不信を深めた。
  • 欧米は国境管理強化や減税を進め、国民優先政策に回帰している。
  • IMF・OECDは減税の効果を1円で1.3〜1.6円のGDP押上げとし、消費税増税時の急落もその証左。
  • 財務省主導の緊縮策が停滞を招き、日本保守党は減税と国内投資での成長戦略を訴えている。

🔳外国人急増と「誤解騒動」が示した国民の不安
 
ナイジェリア政府が「日本がナイジェリア人向け特別ビザを設ける」と発表し、後に撤回した騒動は、単なる外交上のミスでは済まされない。これは今の日本が抱える移民問題や政治への不信、社会の不安心理を象徴する出来事である。

地方では外国人住民の急増が目立つ。北海道占冠村では住民の三分の一以上が外国籍で、赤井川村も28.5%に達する。群馬県大泉町や大阪市生野区など、20%前後の外国人比率を抱える地域も少なくない。かつての日本では想像できなかった変化が進行しているのだ。


こうした中で「特別ビザ」という言葉が出れば、国民が敏感に反応するのは当然だ。SNSでは「移民流入が加速する」との不安が瞬く間に広がり、自治体への問い合わせも殺到した。この騒動は、日本社会に広がる根深い不安の表れである。

発端となった「JICA Africa Hometown」構想は、アフリカ諸国との地域交流を目的としたもので、移民政策とは無関係だ。しかし、ナイジェリア政府の誤解を招く発表と「ホームタウン」という表現が火種となり、国民の疑念を増幅させた。日本政府とJICAは声明削除を要請し、ビザ緩和や移住政策は検討していないと明言したが、不安の解消には至っていない。

外国人増加、物価高、増税。これらが重なり、国民の怒りは静かに膨れ上がっている。参院選での与党敗北もこうした空気を反映しているが、石破政権は外国人受け入れを推し進めようとし、国民の警戒心は強まる一方だ。この騒動は、社会にくすぶる不信感の前兆であり、政府の無関心が事態を悪化させていることを示している。
 
🔳欧米の「国民優先」への回帰と日本の遅れ
 
参政党の「日本人ファースト」というスローガンは排外主義ではない。国家の第一義的使命は自国民を守ることにあり、これは欧米諸国でも当然の原則である。アメリカでは公共サービスや福祉は国民・永住者が対象であり、イギリスやドイツも同様だ。

しかし欧米では、移民政策を急速に推し進めた左派政権が社会不安を拡大させた。フランスやスウェーデンでは治安の悪化や社会保障の逼迫が現実化し、ドイツの難民政策は国内分断を深めた。イギリスがEU離脱を決めた背景にも移民問題への不満があった。

トランプ米大統領はUSAIDを実質廃止

アメリカはさらに鮮明な政策転換を行った。トランプ政権はUSAID(米国国際開発庁)の実質廃止や国境管理の強化、ビザ発給制限などを断行し、法人税減税や規制緩和で景気を刺激した。コロナ前には雇用拡大を実現し、イギリスも社会保障制度を国民優先に再構築した。欧米は「国民を守る」という国家の根本理念に回帰しつつあるのだ。
 
🔳減税の効果と政治の責任
 
日本では減税の議論になると、必ず「財源はどうするのか」という声が上がる。だが、海外援助や外国人政策に巨額の予算を投じても同じ批判はほとんど聞かれない。この二重基準に国民は気付き始めている。

IMFやOECDの研究は明快だ。景気後退期に行う所得税や消費税の減税は、1円の投入で1.3〜1.6円のGDPを押し上げる。減税は単なる景気対策ではない。投資・雇用・所得を底上げし、税収を増やす「利益を生む政策」なのだ。

一方、政府モデルは現実と乖離している。内閣府は「消費税を1%上げればGDPは0.2%下がる」と見積もるが、2014年の5%→8%増税ではGDPは年率▲6.8%、2019年の8%→10%でも▲6.3%と急落した。実際の衝撃は想定の何倍も大きかった。IMFも「不況期には財政政策の効果は平時より大きい」と指摘している。


日本保守党は「減税は成長のエンジンであり、財源は成長が生む」と訴えている。これは欧米の政策転換や国際機関の研究とも一致する主張だ。緊縮一辺倒の財務省路線と日銀の金融引き締めが30年以上の停滞を生んだ現実を、多くの国民は既に見抜いている。財務省、日銀の言いなりの政治家は、移民と経済政策の不味さで日本毀損するというそこはかない脅威に目覚めている。

今回の騒動や参政党のスローガンは単なる移民拒否ではない。政治が国民生活から乖離していることへの警告だ。欧米が国民国家の原則に立ち返る中、日本だけが遅れれば国家の基盤が崩れる。今こそ政府は国民の声に向き合い、減税と国内投資に舵を切るべきである。

【関連記事】

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識” 2025年7月25日
「減税と積極財政の併用は常識」という視点で、実例を交えた力強い論説。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証 2025年6月19日
消費税・ガソリン税の減税効果をデータで説明し、政策の転換を強く訴える記事。

移民大量受け入れが招く公共負担の増大――商品券配布と国民信頼の断絶 2025年3月16日
移民政策と税負担への懸念を絡め、政治責任を問いかける視点。

「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む 2025年4月6日
グローバル経済の混乱と日本の政策判断を多角的に分析した経済記事。

トランプの政策には“移民対策”が含まれる──アメリカ国民国家への回帰 2025年1月18日
米国の国民優先政策と移民抑制を語る論説。日本の文脈にもつながる視点。

2025年8月26日火曜日

日本よ目を覚ませ──潜水艦こそインド太平洋の覇権を左右する“静かなる刃”だ

まとめ

  • 米CSISのデンマーク上級研究員は、AUKUSを潜水艦開発協力にとどめず、中国有事を想定した共同作戦計画に格上げすべきだと提言し、抑止力の維持と米豪英同盟の信頼性確保を強調した。
  • 中国は80隻体制を目指し無人潜航艇も開発、ロシアはボレイ級・アルクトゥルス級で核抑止力を強化。台湾は「海鯤」級を国産建造中で2027年までに2隻配備予定、インドも「プロジェクト75」で6隻の国産潜水艦建造を開始した。
  • 日本の「たいげい型」潜水艦はリチウムイオン電池や新型魚雷で性能が向上し、全8隻体制を整備中で静粛性や水中持続力は世界最高水準にある。
  • SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を含め、潜水艦は“報復の最後の砦”として核抑止を支え、情報戦・シーレーン防衛・抑止力の中核的存在となっている。
  • 日本は潜水艦技術をさらに強化し、米英豪・台湾・インドとの情報共有や共同演習を深化させ、AUKUSへの技術協力を通じてインド太平洋の秩序を主導する立場を確立する必要がある。

🔳AUKUSへの提言と国際安全保障の転換点
   
米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のアブラハム・デンマーク上級研究員

米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のアブラハム・デンマーク上級研究員は、2025年8月25日前後に発表した報告書で、米・英・豪の安全保障枠組みAUKUSを「潜水艦の共同開発」にとどめるのではなく、「中国との有事を見据えた共同作戦計画」に格上げすべきだと強く訴えた。デンマーク氏はバイデン政権下で国防総省のAUKUS担当上級顧問を務めた経験がある。同報告書は、オーストラリアのマルズ国防相が訪米していた時期に公表されたもので、米豪英三カ国の戦略議論に直接的な影響を与える意図があったと考えられる。

彼が強調するのは、台湾や南シナ海で衝突が起きた場合に備え、米英豪が統合作戦計画を事前に策定することの必要性である。計画の存在が即応力と抑止力を両立させ、さらには中国への政治的メッセージとなりうる。また、米国内政治の混乱が同盟の信頼性を揺るがす危険を軽減する効果も期待できる。背景にはオーストラリアの中国依存による軍事関与への慎重姿勢、米国の二正面作戦への対応負担、中国の軍拡が日米安保やクアッドの枠を超える脅威となっている現状がある。

日本にとってもこれは対岸の火事ではない。日本はAUKUSの正式メンバーではないが、量子・AI・サイバーなど先端分野で協力する余地がある。台湾有事の最前線にある以上、米英豪と綿密に調整しなければ自衛隊の作戦は成立しない。石破政権のNATO欠席の経緯を考えれば、日本が西側戦略にどう位置づけられるかは喫緊の課題である。
 
🔳世界各国の潜水艦強化とインド太平洋の変動
 
インドの潜水艦の進水式

ここ3日間にも、潜水艦に関する重要な動きが報じられた。CSIS報告書は、AUKUS潜水艦計画の中止が米国の信頼性と抑止力を大きく損なうと警告し、課題は多いが継続は不可欠であると結論づけた。インドでは、マザゴン・ドック・シップビルダーズ社(インドの造船会社)を中心に、総額約7兆ルピー(約2.4兆円)の「プロジェクト75」が始動。6隻の潜水艦を国産で建造する計画は、インドの造船技術の飛躍を象徴している。インドは原潜・通常動力型ともに国内造船所での建造能力を確立しつつあり、すでに自前の潜水艦を就役させており、戦略的自立を目指している。

現代戦において潜水艦の価値はますます高まっている。静粛性を備え敵の目をかいくぐる潜水艦は、情報収集・長距離ミサイル攻撃・特殊部隊輸送など多様な任務に対応可能だ。原子力潜水艦は長期間の潜航が可能で、補給線・シーレーンへの“見えざる刃”として機能する。弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Submarine-launched Ballistic Missile Nuclear-powered)は、核兵器を搭載した弾道ミサイルを発射できる潜水艦であり、“報復の最後の砦”として核抑止における心理的抑止力の中核をなす。水上艦や航空戦力が衛星やレーダーで追跡されやすい現代において、潜水艦こそが戦略的優位の象徴となりつつある。

中国は2025年までにディーゼル型と原子力型合わせて約65隻、2035年には80隻体制を目指し、「商級(Shang級、Type093B)」や次世代「095型」の建造を加速している。加えて大型無人潜航艇(XLUUV)の開発にも注力し、海底作戦能力の強化に動いている。ロシアも「ボレイ級」SSBNを複数就役させ、「ボレイA型」、次世代「ボレイB型」の建造を進めており、2037年以降には最新の高ステルス型「アルクトゥルス級」の就役も計画されており、核抑止力の増強が着実に進行している。

台湾では「海鯤(ハイクン)」による自国建造プログラムが進行中だ。CSBCが建造した「海鯤」は2023年に進水し、2025年6月に主要システムの海上試験を完了した。2027年までに2隻配備を目標に、米英の最新技術を取り入れた設計は中国への有力な抑止となる。

日本の動きも着実である。「そうりゅう型」の後継、「たいげい型」は全8隻の配備を計画中で、「たいげい」「はくげい」「じんげい」「らいげい」がすでに就役。「ちょうげい」は2024年進水、2026年配備予定だ。リチウムイオン電池の採用で静粛性と水中持続力が飛躍的に向上し、新型魚雷「18式魚雷」、垂直発射装置(VLS)、スタンドオフ巡航ミサイルの搭載も進んでいる。
 
🔳日本が果たすべき役割と戦略的選択
 
AUKUSの戦略議論、インドの自国建造計画、台湾の独自計画、中国・ロシアの軍拡、そして日本の技術革新──インド太平洋は潜水艦を軸に勢力図が激しく変動している。潜水艦は単なる兵器ではなく、国家の抑止力と戦略的信頼を象徴する存在である。

日本の潜水艦隊

では、日本はこの潮流の中で何をすべきか。第一に、世界でもトップクラスにある潜水艦技術をさらに磨き、海上自衛隊の抑止力を質・量ともに向上させることが不可欠だ。海中監視網と情報戦の強化も急務であり、米英豪あるいは台湾、インドとの情報共有および共同演習を深化させるべきだ。また、造船技術やリチウムイオン電池といった日本の技術をAUKUSの技術協力に積極的に反映させ、地域全体の安全保障基盤を強固にすべきである。

シーレーン防衛は日本経済の生命線であり、潜水艦戦力は軍事的意味だけでなく外交上のメッセージとしても圧倒的な力を持つ。今こそ、日本は「静かだが決定的な抑止力」としての潜水艦戦力を中心に、インド太平洋の秩序を主導する国家としての地位を確立すべき時である。

【関連記事】

潜水艦とAWACS:米軍装備の“危機”と日本の優位性 2025年5月12日
米海軍の潜水艦・AWACS戦力の老朽化を指摘しつつ、日本の航空・潜水艦戦力がいかに信頼できるかを際立たせた考察記事。

米ヴァージニア級原潜「ミネソタ」のグアム派遣、域内抑止力を強化 2024年11月28日
アメリカ海軍がグアムに最新鋭の原潜を配備し、インド太平洋の海上抑止体制を強化した動向を解説。

新型潜水艦「たいげい」型が日本の専守防衛を飛躍させる 2024年3月17日
世界初のリチウムイオン電池搭載潜水艦「たいげい型」により、日本の潜航力・静粛性・火力が飛躍した背景を分析。

P-1哨戒機による対潜訓練を初公開、テレビで見た日本のASW力 2023年1月15日
P-1哨戒機の潜水艦捜索・魚雷攻撃訓練を通じて日本の対潜能力を紹介。テレビ初取材で判明した実力を解説。

音響測定艦「ひびき」「はりま」が守る日本の“潜水艦の耳” 2016年8月3日
海上自衛隊が極秘運用する音響測定艦での音紋収集の実態を追い、日本の潜水艦対策の強さを示した記事。

2025年8月25日月曜日

石破政権は三度の選挙で国民に拒絶された──それでも総裁選で延命を図る危険とナチス悪魔化の教訓

夜の国会議事堂

まとめ

  • 選挙は民主主義の根幹であり、国民の審判を軽視すれば政治は正統性を失う。歴代総理は選挙敗北を受けて辞任してきたが、石破政権は三度の敗北にも関わらず延命を図り、世論調査でその流れを覆そうとしている。
  • 党内総裁選による権力維持は、国民の意思を無視した危険な手段である。総裁選は政党内の権力闘争に過ぎず、国民の信任を代替できない。過去にも党員投票省略などで正統性が疑問視された例がある。
  • ナチスの台頭は、制度の形を保ちながら自由を奪う危険性を示した。ナチスは選挙で絶対多数を得られなかったにもかかわらず、緊急令や全権委任法、同調化政策で権力を掌握し、独裁体制を築いた。
  • 戦後ドイツは「ナチス悪魔化」で国民の加担責任を曖昧にし、現在も過去を盾に言論を封じている。歴史家の異論は封殺され、AfDへの批判も「ナチスの亡霊」とレッテル貼りされるなど、民主主義の議論が阻害されている。
  • 日本は虚像のドイツ像を模範と誤解し、自虐史観で自らを過剰に断罪してきた。帝国時代の文明的貢献や教育政策を評価せず、自己否定を続けてきた結果、国家の誇りを失い民主主義を弱体化させている。
🔳選挙こそ民主主義の礎

衆院選にて石破茂総裁を中心に当選者にバラを付ける執行部

民主主義の本質は、選挙にある。国民の一票こそが政治の正統性を支え、為政者の去就を決める絶対の審判である。この重みを軽視し、権力に固執すれば、民主主義は形骸化し、国は衰退の道を歩むしかない。歴代総理が選挙敗北を受けて退陣してきたのは、日本がまだその原理を理解していた証であった。麻生太郎元首相が2009年の衆院選惨敗で退いたのも、宇野宗佑元首相が1989年参院選の結果を受けて辞任したのも、すべて国民の審判に従ったからである。

石破政権は、すでに衆院選、都議選、参院選で三度の敗北を喫した。これは一時的な人気の揺らぎではない。熟慮を重ねた国民の拒絶の意思である。それにもかかわらず、メディアは「支持率回復」という見出しを掲げ、政権延命の空気を演出している。だが世論調査は回答率が3割前後に過ぎず、高齢層に偏ったサンプルで結果は容易に歪む。NHKの調査では70歳以上の回答者が全体の4割を超え、30代以下はわずか1割という偏りが指摘されている。こうした数字で、選挙という最高の民意を覆すことは許されない。

さらに重大なのは、この状況下で党内総裁選を開き、石破氏が出馬を画策していることだ。総裁選は政党内部の代表者を決める手続きにすぎず、国民の信任を代替するものではない。過去には党員投票を省略し議員票を優先した総裁選が批判を浴びたこともある。党内の論理だけで権力にしがみつこうとすれば、民主主義の根本理念と正面から衝突する。国民の信任を欠いた指導者が内外で信頼を失い、政治を混乱に陥れることは歴史が証明している。
 
🔳ナチス台頭の教訓と「悪魔化」の欺瞞

ヒトラー

この危険を象徴するのがナチスの台頭だ。1933年3月のドイツ国会選挙でナチス党は43.9%の得票で第一党にはなったが、絶対多数には届かなかった。合法性の仮面をかぶった権力掌握はそこから始まった。同年2月の国会議事堂放火事件を口実に発令された「国会議事堂火災令」で言論・集会・報道などの基本的自由は停止され、共産党員ら反対派は大量逮捕された。続く3月の「全権委任法」は、議員への威圧や共産党議員の排除によって成立し、議会は骨抜きにされた。さらに「グライヒシャルトゥング(同調化)」政策により地方自治、司法、教育、文化、報道までもが徹底的に掌握され、独裁体制が築かれた。形式的な選挙や法の手続きを保ちながら自由を失っていった過程は、制度の脆弱さを如実に物語る。

戦後ドイツは、この歴史と「真剣に向き合った」と世界から称賛されてきた。しかし現実は違う。ドイツは「ナチス」という絶対悪を作り上げ、国民の加担責任を巧妙に隠した。数百万の国民が選挙でナチスを選び、熱狂し、戦争を支えた歴史は曖昧にされたままだ。歴史家エルンスト・ノルテがナチスの暴政をスターリン体制など他の全体主義と比較して理解すべきだと論じた際、彼は「修正主義者」と糾弾され、学界から追放同然の扱いを受けた。現代でもAfD(ドイツのための選択肢)が移民政策やEUの矛盾を指摘すれば「ナチスの再来」と決めつけられる。過去を盾にして国民の異議申し立てを封じるやり方は、自由主義を装った抑圧である。
 
🔳日本の自虐史観と民主主義の危機

日本統治時代、京城(現在のソウル)に置かれた朝鮮総督府の建物

日本もまた、この虚像の影響を強く受けた。ドイツが自国民の責任を覆い隠した一方で、日本は自らを過剰に断罪し、帝国時代の文明的功績や教育政策をほとんど語らなくなった。台湾や朝鮮に帝国大学を設け、現地の若者に高等教育の門戸を開いた事実や、当時の朝鮮地方議会で多数の朝鮮人議員が活動していた歴史、鉄道や上下水道の整備、医療や法制度の導入なども同様である。これらは支配の一側面ではあったが、同時に文明共有の試みであった。しかし戦後日本は「ドイツは謝罪した、日本はしていない」という虚像に縛られ、自らを叩き続けてきた。その自虐史観は国家の誇りを失わせ、国民の精神を弱らせている。

歴史は過去を利用して現在を縛るための道具ではない。真実を直視し、未来を築くための礎であるべきだ。ナチスの暴政は「悪魔の所業」として切り離された結果、ドイツ国民自身の責任は曖昧にされた。そして日本はその手法を模範と誤解し、自らを叩き続けた。こうした歴史観は民主主義を守る力を奪う。
 
現在の日本政治において、選挙の結果を軽視し、世論調査や党内権力闘争で政権を延命する発想は、ヴァイマル崩壊の再演になりかねない。三度の選挙で拒絶された政権は潔く退くべきである。それを報道や世論のムードで覆せば、民主主義は空洞化し、国民の自由は脅かされる。歴史は何度もこの危険を警告してきた。日本は虚像や空気に惑わされず、選挙という最高の民意を尊重し続ける国家でなければならない。

【関連記事】

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図 2025年8月24日
参院過半数割れと前倒し総裁選のいまを検証。エネルギー安全保障を軸に、LNG→SMR→核融合の三層戦略と保守再結集の筋道を示す。

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 2025年8月22日
外交の視点から石破政権の戦略的脆弱性を浮き彫りにした記事。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日
党内勢力構造と総裁選の裏側、保守派再結集の構図を整理した興味深い論考。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
現政権の選挙敗北と保守再編の潮流が鮮明に描かれた分析記事。

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 2025年3月29日
商品券問題や政権延命の構図に対する野党の動きを鋭く指摘している。

2025年8月24日日曜日

参院過半数割れ・前倒し総裁選のいま――エネルギーを制する者が政局を制す:保守再結集の設計図


まとめ

  • 自民党は参院で過半数を失い求心力が低下したが、綱領に「保守」「改憲」を明記する本来の保守政党であり、保守系は“ガス抜き要員”ではないという立場を再確認した。総裁選は推薦人20人が必要で、運用次第で政局は大きく動く。
  • 現状打開には、自民党内保守×参政党の保守的潮流×日本保守党×草の根・保守メディア・論壇を横断連結して結束を固めることが要諦だ。
  • 国家運営の土台はエネルギーであるとの前提に立ち、短中期はLNGで安定を確保しつつ既存原発を活用、並行してSMRを立ち上げ、長期は核融合へ投資する「多層戦略」を採る。家計・企業負担となる再エネ賦課金は見直し(縮減・廃止)を争点化する。
  • 技術ロードマップは、SMRの国際連携・国内整備を進めつつ、核融合はJT-60SAで運転知見を蓄積し、ITERの工程(D-T運転の段階的開始見通し)と接続して2030年代の発電実証、2040年代の商用化を狙う。
  • 象徴的リーダーには高市早苗氏が最適と評価する。政・官・党の実務経験(経済安保担当相、総務相、政調会長)、安保・外交での一貫性、エネルギー戦略との整合性、世論調査での競争力という点で条件を最も満たす。
🔳いま何が起きているのか――政局の骨格
 

石破茂内閣は昨年秋に発足し、今年7月20日の参院選で与党(自民・公明)が過半数を割り、政権は上下両院で“少数与党”となった。総裁である石破首相が続投表明をしつつも、党内外から責任論と路線論が交錯する構図だ(選挙の結果と与党の過半数割れは nippon.comの選挙分析(日本語)同(英語) 参照)。

自民党のルール面を押さえる。総裁選は党則と「総裁公選規程」に基づき、立候補には国会議員20人の推薦が必要である。運営の細目は執行部の裁量余地が小さくないが、規程が示す枠(推薦人要件、投票主体など)が基盤である点は変わらない。自民党は「立党宣言・綱領」に保守政党であること、そして「憲法改正を目指す」ことを明記してきた事実も確認しておくべきだ。
 
🔳自民保守は“ガス抜き”ではない――勢力図と再結集
 
SNSの保守層が自民は「所詮ガス抜き」と辛らつな反応が目立つように

「自民党保守系は党のガス抜き要員にすぎない」という揶揄がある。だがこれは間違いだ。第一に、綱領上の自己規定は保守であり、改憲推進を掲げるという“党の芯”がある(前掲の綱領・改憲特設サイト 自民党 憲法改正実現本部 参照)。第二に、数の上でも保守色を持つ議員層が最大であることは衆目の一致である。確かに派閥資金問題を経て派閥は形式的に解体・縮小し(派閥解体の難しさを解説する論考 参照)、旧来型の“締め付け”は弱まった。だが、だからこそ理念軸での結束が効く。左派リベラル・対中融和的な結束の強さに押され、総裁選の力学で主導権を奪われたという反省は重い。ここからの反転には、保守が“同盟”を組むしかない。自民党内保守、日本保守党、参政党の保守層、他党保守系、草の根・メディア・論壇まで、横串に束ねる発想である。象徴としての人選は効果が大きい。たとえば高市早苗氏のように、改憲・安保・エネルギーに明快な旗を立てられる総裁像を担ぎ、以後は“数の力”を健全に回しながら、保守内部で政権交代が起こり得る仕組み(政策競争の土俵)を整えるべきだ、という提案である。

新勢力の動きも直視する。参政党は党員主導・草の根色の濃い“参加型”の運営を打ち出しており(公式の政策ページ)、保守層を含む大衆政党志向が強い。他方、日本保守党は綱領・政策の明確さが前面に出る“理念先導型”の保守政党で、エネルギー・税・移民などで明瞭な選好を提示している(党公式サイト /政策詳細は後述リンク)。7月の参院選で日本保守党は比例で議席を得て国政政党としての足場を固め、存在感を一気に増した(例:比例上位候補の当選報道として 毎日新聞の速報)。“破竹”の言を控えても、短期間での到達点としては十分に大きい。支持層の細かなデモグラフィックについては、公的な大規模データの公開がまだ限定的であるため、確定的断言は避ける。
 
🔳なぜエネルギーを最優先に据えるのか――安保・外交・改憲を支える土台
 
安保、外交、そして改憲。三つの論点はいずれも国家の大黒柱だ。だが、それらを支える“根太”がエネルギーである。供給が揺らげば、防衛生産も外交交渉力も財政運営も脆くなる。中東有事とホルムズ海峡への依存はアジアの急所であり、日本の脆弱性は繰り返し指摘されてきた(APの分析記事)。ゆえに、当面は安価で機動的な“つなぎ”のエネルギーとして、天然ガス(LNG)へのフォーカスを強めるべきだ。

そのうえで、中長期の“勝ち筋”を二本柱で描く。第一がSMR(小型モジュール炉)、第二が核融合だ。SMRは工場モジュール化で建設リスクを抑え、系統安定と産業熱供給の両面で使い勝手がよい。政府は国際連携で「2030年前後の技術実証」をめざす方針を示してきた(政策枠組みの一端は 経産省資料(英)資源エネ庁の解説記事(英)2025年版エネルギー白書・原子力章 参照)。規制は、推進(経産省・資源エネ庁)と規制(原子力規制委員会)の分離が前提で、独立性の高い三条委員会体制が安全確保の要である(原子力規制委の位置づけ解説)。

出典)© 2021 Joint Special Design Team for Fusion DEMO All Rights Reserved.(原型炉設計合同特別チーム)

核融合は「日本が勝ちにいける」戦略分野だ。国内では、JT-60SAが世界最大級の超伝導トカマクとして2023年10月に初プラズマ達成、統合試運転を重ねている(QSTのリリースFusion for Energyの発表)。国際協力の要であるITERは、2024年の「In a Few Lines」で工程を見直し、D-T運転開始は2039年見通しを公表した(ITER公式の要約ページマックスプランクIPPの解説)。日本政府も「2030年代の発電実証」に向け明確化を進める方向を示した(内閣府・フュージョン戦略(改定素案)文科省・委員会サイト)。

ここで再エネ賦課金だ。家計・企業コストの観点からは、電気料金の構造的圧力になっている。2025年度の標準的な賦課金単価は3.98円/kWhと公表されている(資源エネルギー庁の発表(英))。負担の見直し、とくに景気と産業競争力を重視する立場からは、賦課金の段階的縮減や廃止を求める声が強い。さらに、最近では国立公園内の釧路湿原にメガソーラを設置しようという動きすらあり、国民の多くが怒っている。日本保守党は政策として「再エネ賦課金の廃止」を明記しており、保守連合の共通公約に据えやすい論点である。

さらにガソリン税問題は単なる税制議論ではなく、日本のエネルギー安全保障や国家戦略の入口だ。本来、価格高騰時に税を止める「トリガー条項」は国民を守る仕組みだが、長年凍結され政治の怠慢を象徴している。

今こそ税制見直しを突破口に、石油依存の脆弱性や再エネの限界、原子力の現実的運用を含むエネルギー政策全体を再構築すべきだ。筆者の結論は明快だ。短中期は天然ガスを基軸に電力安定を確保しつつ、SMRを最速で立ち上げ、核融合は国家総力戦で前倒しする。その“橋”としての化石燃料重視は現実主義であり、安保・外交・改憲のいずれを進めるにも不可欠の土台である。

最後に、政局への帰結をもう一度明確にする。自民党は“左派リベラル・親中”に乗っ取られたという憤懣が保守層に強いのは事実だが、これは見方の問題でもある。派閥解体後の“自由化”で思惑が表に出やすくなり、結果として結束で劣った――それが敗因の核心である。ここからの挽回は、理念で束ねる横断連携と、象徴的リーダーの下で“勝てる政策”(とくにエネルギー)に集中投資することだ。保守はもう“ガス抜き”ではない。国家の屋台骨をもう一度組み上げる当事者である。
 
🔳象徴的リーダー――なぜ高市早苗氏なのか
 
高市早苗氏

結論から言う。現状で象徴的リーダーに最も相応しいのは高市早苗氏だ。理由は四つある。

第一に、経験と実績だ。高市氏は岸田内閣で「経済安全保障担当相」を務め、内政・技術・安全保障が交差する最前線で意思決定を担った。過去には総務相を歴任し、党内では政調会長も務めた(自民党公式プロフィール)。この“政・官・党”の三面経験は、エネルギー・半導体・安全保障が一体化する時代に強い武器である。

第二に、安保・外交での骨の通った姿勢だ。高市氏は保守色が明確で、歴史認識や安全保障で一貫していることは国内外メディアも繰り返し報じてきた(ロイターの人物紹介)。また、今年8月には台湾の頼清徳総統と会談し、供給網・新技術・防衛協力などで「価値観を同じくする国々の連携」を強調した(台湾総統府・英語リリース)。地域秩序の核心である台湾海峡と経済安全保障を一体で語れる政治家は、いまの日本に多くない。

第三に、エネルギー政策との整合性だ。自民党総裁選における原子力の扱いは常に争点だが、近年は「脱原発一辺倒」から現実路線への回帰が進み、候補者群の中で原子力を一定の役割として認める機運が強まっている(Japan Timesの総裁選と原子力を巡る分析同・原子力への姿勢の変化)。高市氏は経済安保の現場と接点が深く、LNG・既存原発・SMR・核融合という多層戦略を政治的に束ねる「顔」になり得る。

第四に、勝てる可能性だ。直近の報道ベースでも、高市氏は保守系の中核として世論調査で上位に位置づけられてきた(例:読売の支持率データを引く ロイターのまとめ記事)。もちろん、最終的な勝敗は派閥力学と都道府県連の動きに左右される。だが、保守を横断で束ねる“象徴”としての条件を最も満たしているのは高市氏である。

要するに、理念の明確さ、実務の厚み、外交安保の発信力、エネルギー戦略との整合性、そして選挙戦での実効性。この五点が合わさった政治家は希少だ。高市氏は“旗”を立てられる人材であり、保守再結集の号令役として最適任だと判断する。

参考・根拠(主だったもの)
(注)本文の主張のうち、価値判断・将来提案に属する部分は筆者の分析であり、事実部分は上掲の一次・準一次情報で検証可能である。リンクはすべて辿れる公開情報のみを用いた。

【関連記事】

釧路湿原の危機:理念先行の再エネ政策が未来世代に残す「目を覆う結果」 2025年8月23日 —— メガソーラー乱開発と賦課金負担の実相から、エネルギーと環境の両立の欠落を指摘。

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然 2025年8月18日 —— 石破総裁誕生の裏側と派閥力学を整理し、保守再結集と制度改革の必要性を論じる。

落選に終わった小野寺勝が切り拓いた「保守の選挙区戦」──地方から始まる政党の構図変化 2025年7月21日 —— 日本保守党の地方区挑戦の意味と、参政党との差異から見える新しい保守地図。

参政党・神谷宗幣の安全保障論:在日米軍依存の減少は現実的か?暴かれるドローンの落とし穴 2025年7月9日 —— 安保論の実務性を検証し、保守政策の“勝てる現実路線”を探る。

参政党の急躍進と日本保守党の台頭:2025年参院選で保守層の選択肢が激変 2025年7月6日 —— 参院選を起点に、保守票の行き先と自民への影響を概観。

2025年8月23日土曜日

釧路湿原の危機:理念先行の再エネ政策が未来世代に残す「目を覆う結果」


まとめ

釧路湿原は日本最大の湿地であり、未来世代に残すべき貴重な自然資本だ。しかし、その現場では政治の誤りや制度の欠陥が絡み合い、深刻な危機が進行している。
  • 小泉進次郎氏の再エネ推進や民主党政権の政策迷走が湿原の保護体制を弱め、開発圧力を高めた。
  • メガソーラー施設は2014年の数件から2023年には621件に急増し、規制や環境アセスメントの対象外で被害が拡大。
  • 河川直線化などで湿原の生態系は非可逆的変化を遂げ、人口減少や空き家問題など都市基盤の脆弱化も進む。
  • 再エネ賦課金は家庭に年間約1万9000円の負担を強い、中国製パネル依存や強制労働疑惑も懸念材料。
  • ドラッカーの保守主義の原理に反し、理念先行の政策が自然という社会資本を破壊し、未来世代への責任を放棄している。
🔳政治の誤算と環境政策の迷走
 
釧路湿原は日本最大の湿地であり、1980年には国内で初めてラムサール条約の登録湿地となった。世界的に価値ある自然環境として知られ、日本の象徴ともいえる存在だ。しかしその美しい景観の裏で、自然破壊の危機が静かに進行している。制度の欠陥、政治判断の誤り、国民負担の仕組み、安全保障や人権を脅かす構造が絡み合い、この湿原は今や我が国の環境とエネルギー政策の縮図となっている。
2020年、環境大臣だった小泉進次郎氏は国立公園内での再生可能エネルギー導入を推進する方針を打ち出し、規制を緩和した。理念を掲げながら現場を顧みないその政策は、釧路湿原の開発圧力を一気に高め、「最後の聖域を崩す愚策」として批判を浴びた。さらに2009年から2012年の民主党政権下では、エネルギー政策の迷走や優先順位の欠如、政治不信が地方行政や環境保全体制を弱体化させたと指摘される。釧路市政でも前市長の蝦名大也氏はメガソーラー規制に消極的で、条例制定は後手に回った。こうした政治の迷走が今日の危機を招いたのである。

湿原の周辺では、ここ10年で大規模太陽光発電施設、いわゆるメガソーラーが急増した。2014年には数件に過ぎなかった施設は2023年には621件にまで増え、釧路町や標茶町、鶴居村を含む周辺自治体でも50件から301件にまで急増した。「パシクル沼」周辺では330ヘクタールに及ぶ敷地で12万枚のパネルを設置する計画が進んでおり、湿原の景観と生態系は壊滅的な危険にさらされている。
 
🔳経済負担、安全保障、人権問題
 
農村部や国立公園外では太陽光パネルは「建物」と見なされず、建築規制の対象外であり、多くの事業が環境アセスメント義務からも外れている。積み重なる環境負荷が十分に評価されないまま、開発は加速している。釧路市は2023年に「建設不適切区域ガイドライン」を策定し、2025年には「ノーモア・メガソーラー宣言」を掲げ、10キロワット以上の事業を許可制とする条例を施行予定だが、施行前の駆け込み建設が続き、実効性には疑問符がつく。

湿原の生態系は一度壊れれば元には戻らない。戦後の治水事業や河川直線化で地下水位は下がり、土砂が堆積した結果、湿原はヨシやスゲの草地からハンノキ林へと変貌した。環境庁や研究者は河道の蛇行を復元し、AI解析で地下水位の回復を確認したが、植生は元に戻らず、湿原の変化は非可逆的であることが示された。釧路湿原の保全の難しさを象徴する事例だ。
再エネ賦課金は全世帯に毎月課されている 上は電気量の使用料明細

この現実を直視すれば、理念先行の政策の危うさは明らかだ。再エネ普及を名目に導入された「再生可能エネルギー発電促進賦課金」、いわゆる再エネ賦課金はFIT(固定価格買取制度)の財源となり、2025年度には3.98円/kWh、家庭の負担は年間約1万9000円に達する。だがこの仕組みは結果的に自然破壊を伴う開発にも資金を流し、国民は知らぬ間に破壊的プロジェクトの費用を背負わされているのだ。電気料金の高騰と相まって、この現実は国民の怒りを増幅させている。

さらに、太陽光パネルの大半が中国製であることも重大な懸念だ。パネルにはサイバー攻撃や情報流出の危険が指摘され、エネルギーインフラが外国依存となる安全保障上のリスクを抱える。加えて、多くのパネルが新疆ウイグル自治区での強制労働によって製造されているという国際的な告発もあり、人権問題としても看過できない。
 
🔳ドラッカーの警鐘と未来への責任
 
ここで、経営学の大家ピーター・ドラッカーの『産業人の未来』で説かれた「改革の原理としての保守主義」を思い起こす必要がある。

「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。」

釧路湿原の現状は、この原理を真っ向から踏みにじっている。自然という社会資本を守る責任を放棄し、未来への遺産を理念と短期利益で犠牲にしているのだ。これは保守主義の理念からかけ離れ、破壊的な冒険主義と呼ぶのに相応しい蛮行である。

野口健氏

一方で、希望の兆しもある。登山家で環境活動家の野口健氏は釧路湿原のメガソーラー計画に反対し、「犠牲が大きすぎる」と訴えた。彼の発信は全国で数千万件の閲覧を集め、著名人や文化人を巻き込んだ署名活動や抗議運動が広がった。釧路湿原の危機は今や国民的な議論となりつつある。

釧路湿原は単なる観光地でも教育素材でもない。国家の基盤をなす自然資本であり、我々の歴史と文化そのものである。この湿原を未来に残すか否かは、いまの判断にかかっている。政治も社会も「守るべきものを守る」という保守主義の真髄を取り戻さねばならない。

【関連記事】

日本弱くし隣国富ませる「再エネ賦課金」即廃止せよ  2024年3月29日
再エネ賦課金の問題点を鮮烈に批判し、専門家不在の政策決定や自治体トラブルの実態を指摘。

太陽光パネルはほとんどが中国製 製造時に大量CO₂…  2023年11月28日
製造時のCO₂負荷やリサイクル問題、森林破壊の懸念を解説し、再エネの盲点を突く。

ドイツの脱原発政策の「欺瞞」…日本は〝反面教師〟とすべきだ  2023年4月23日
エネルギー政策の理念と現実の乖離をドイツの事例で示し、日本が学ぶべき教訓を論じる。

評論家の石平氏…進次郎環境相の太陽光パネル義務化発言は「立派な憲法違反」 2021年4月18日
小泉進次郎氏の発言をきっかけに、法的観点から政策の拙速さと問題点を批判。

ドラッカーの言う「改革の原理としての保守主義」とは何か  2013年10月15日
ドラッカーの保守主義の本質を整理し、釧路湿原を巡る政策批判の思想的基盤を示す。

2025年8月22日金曜日

安倍のインド太平洋戦略と石破の『インド洋–アフリカ経済圏』構想 ― 我が国外交の戦略的優先順位


まとめ

  • 安倍のインド太平洋戦略は米・豪・印との協力で中国抑止を現実化し、米国に採用された国際秩序の柱となった。
  • 石破の「インド洋–アフリカ経済圏」構想は戦略的裏付けを欠き、外交資源を分散させインド太平洋戦略を弱めかねない。
  • 安倍は「安全保障のダイヤモンド」でQuadを実現したが、石破には国際的な知的発信の実績がない。
  • 外交には優先順位が不可欠であり、課題を並列処理すれば「モグラ叩き」に終わる。
  • 日本にとって最優先は中国抑止であり、インド太平洋戦略に注力すれば他の課題も整理される。
我が国の外交において、いま改めて問われるべきは「何を優先すべきか」という戦略的視点である。安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」は、国際社会において高い評価を受け、米国をはじめ主要国の政策にも取り込まれた。対して、石破首相が打ち出した「インド洋–アフリカ経済圏」構想は、一見すると壮大に聞こえるが、現実的な安全保障の裏付けを欠き、外交の優先順位を見失わせかねない。いま必要なのは、新しいスローガンではなく、安倍路線を冷静に再評価し、我が国外交の戦略的集中を見極めることである。
 
🔳石破政権の「インド洋–アフリカ経済圏」構想の危うさ
 

石破首相が打ち出した「インド洋–アフリカ経済圏」構想は、一見すれば新たな国際ビジョンのように映る。しかし実態は戦略的裏付けを欠いた空虚なスローガンにすぎない。むしろアフリカに重点を移すことで外交資源を分散させ、インド太平洋戦略の比重を意図的に薄めようとしている可能性すらある。

現実には、アフリカはすでに中国の「一帯一路」に深く浸透されている。日本が後追いで経済圏を打ち出しても大勢を覆すことは困難だ。結果として、東アジアでの抑止力を弱め、米国・インド・豪州との連携を緩める危険すらある。
 
🔳安倍晋三氏「安全保障のダイヤモンド」との比較
 
project Sydicateでは安倍氏のインド太平洋戦略に関する功績を解説している

決定的な差は、戦略の知的基盤にある。安倍晋三氏は2012年、国際論壇「Project Syndicate」に寄稿した論文「Asia’s Democratic Security Diamond(安全保障のダイヤモンド)」で、日本・米国・インド・オーストラリアの連携こそが海洋の自由と安定を守る要であると訴えた。

この論文はやがてクアッド(Quad)の枠組みへと結実し、米国が採用するインド太平洋戦略の布石となった。世界の世論を動かす力を持ち、自由主義陣営の安全保障の礎を築いたといえる。

石破氏にはこうした知的発信の実績が見られない。彼が「Project Syndicate」や国際論壇に寄稿し、世界の知識層を動かした事実は確認されていない。理念を掲げても国際的裏付けを欠けば、それは単なる看板倒れに終わる。安倍と石破の差はここに尽きる。
 
🔳安全保障上のリスクと優先順位の原則


外交・安全保障政策において最も恐ろしいのは、課題を無秩序に並べ、同時に処理しようとする姿勢だ。それはモグラ叩きに似ており、結局どの課題も解決しない。

最優先課題に集中し、これを突破すれば、二番目・三番目の課題も自動的に片付くことが多い。現状を見れば、日本にとって最優先すべきはインド太平洋戦略であり、中国の拡張を抑えることである。ここに全力を注げば、他の地域での問題も自然と整理されていく。

インド洋やアフリカへの関与を否定するものではない。実際インド太平洋戦略においても、アフリカを無視しているわけではない。それは、上のイメージでも明らかである。しかし、それは中国抑止の次に来るべき課題である。そのことを安倍ははっきりと示した。優先順位を誤れば、資源は浪費され、抑止力は失われ、同盟国の信頼も揺らぐだろう。外交の道は、スローガンを競うことではなく、現実の優先順位を見極め、そこに国家資源を集中させることに尽きる。

【関連記事】

米露会談の裏に潜む『力の空白』—インド太平洋を揺るがす静かな地政学リスク 2025年8月16日
欧州発の「力の空白」がアジアに波及し、日本の対中抑止やFOIPの運用に直結するリスクを分析。

日印が結んだE10系高速鉄道の同盟効果──中国『一帯一路』に対抗する新たな戦略軸 2025年8月13日
インフラ協力を軸にした日印連携の実利と、対中牽制としての安全保障的意味合いを整理。 (

中国が「すずつき」に警告射撃──本当に守りたかったのは領海か、それとも軍事機密か 2025年8月11日
対中最前線の緊張事例から、海洋抑止とエスカレーション管理の要点を読み解く。 

「石破vs保守本流」勃発!自民党を揺るがす構造的党内抗争と参院選の衝撃シナリオ 2025年7月17日
石破路線とFOIP継承派の対立構図を整理し、外交優先順位の含意を示す。 

2025年参院選と自民党の危機:石破首相の試練と麻生・高市の逆襲 2025年6月25日
与党内力学とFOIP戦略本部の始動を手掛かりに、日本外交の舵取りを展望。 

2025年8月21日木曜日

製造業PMI49.9の真実──外部環境ではなく政策の誤りが経済を蝕む


まとめ

  • 製造業PMIが49.9となり、2カ月連続で縮小。輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈み、世界経済の減速や円高、コスト高が重なり製造業を直撃している。
  • 外部要因以上に国内政策が深刻。日銀は金利を高止まりさせ円高を招き、銀行はリスクを避けて中小企業や新産業への資金供給を怠り、低金利でも資金が実体経済に届かない。
  • 財政政策も失策。防衛費や社会保障に偏重し、成長を支える公共投資や法人減税は後回し。消費税・社会保険料の重負担が内需を冷やし、研究開発支援も不足している。
  • エネルギー政策の迷走。再エネ偏重投資と原発再稼働の遅れで電力コストが高騰し、企業は国内投資を避けて海外へ拠点を移し、産業空洞化を招いている。
  • 安倍政権期との差が決定的。異次元緩和や公共投資、法人減税で外部ショックを和らげた当時とは対照的に、現政権は外部要因を逆に増幅させ、経済の体力を奪っている。

🔳製造業PMI49.9が突きつけた現実
 

2025年8月、日本の製造業活動を示すPMI(購買担当者景気指数)の速報値は49.9となった。50を下回れば縮小を意味する。二カ月連続の縮小であり、景況感が悪化していることは明白だ。

直近のPMI推移を見ると、2025年春先には急落した後、持ち直しつつも依然として50を下回る局面が続いていることが分かる。7月に一時50.0まで回復したものの、8月には再び49.9へと縮小領域に戻った。つまり、日本の製造業は「底打ち感が出ては後退する」という不安定な状態にあり、構造的な弱さが数字に現れている。

今回の数字で際立つのは輸出の落ち込みだ。新規輸出受注は17カ月ぶりの低水準に沈んだ。背景には世界経済の減速がある。アメリカや欧州で需要が鈍り、日本の主力輸出品である自動車や電子部品に冷たい風が吹いている。そこへ追い打ちをかけるのがトランプ政権による通商政策の不透明さであり、さらに円高傾向が輸出採算を直撃している。加えて原材料費や人件費の高騰、物流の混乱といった国内要因が企業の体力を削っている。

製造業は日本経済の柱である。その縮小が続けば、設備投資は鈍り、雇用は減少し、景気全体を押し下げる。もはや単なる統計数字ではなく、日本経済の行方を左右する危険信号である。

🔳外部要因以上に深刻な国内政策の失敗
 
ただし問題の核心は、外部環境よりも国内の政策にある。日銀は「物価安定」を掲げながら金利を高めに維持し、円高を招いている。欧米が景気減速に合わせて緩和的な政策をとるなか、日本だけが逆行している。これでは輸出依存度の高い製造業が打撃を受けるのは当然だ。


さらに問題なのは、低金利の環境にあるはずなのに企業への資金供給が滞っている点だ。銀行は自己資本規制に縛られリスクを取らず、国債や大企業向け融資に偏重する。新規事業や中小企業への融資は後回しにされ、ベンチャー企業や成長産業には資金が流れない。低金利でも資金が回らなければ、設備投資も研究開発も停滞する。日銀の金融政策は「蛇口を開いたのに水が流れない」状態に陥っており、実体経済に届かないのだ。

財政政策も同様だ。防衛費や社会保障費が膨張する一方、成長を下支えする投資や法人減税は後回しにされてきた。その結果、製造業は研究開発支援も税制優遇も十分に受けられない。消費税や社会保険料の重荷は内需を冷やし、国内市場までも痩せ細らせている。

エネルギー政策の迷走も深刻だ。再生可能エネルギーに偏重投資しながら、採算性も安定供給力もないまま進めた結果、電力コストは高止まりしている。さらに原発再稼働は政治的理由で遅れ、安定した電源が確保できない。エネルギーが不安定で高コストであれば、企業は国内投資をためらい、生産拠点を海外に移すのは当然だ。これが日本の産業基盤を空洞化させている。

AIや半導体、そしてエネルギー産業といった国家の未来を担う分野への投資も不十分であり、日本は世界の成長潮流に取り残されつつある。PMI49.9という数字は、こうした政策の失敗が積み重なった帰結にほかならない。

🔳安倍政権との比較と「数字を複数で読む」視点

思い起こされるのは安倍政権時代だ。2014年から2016年にかけて、世界経済の減速と原油安で輸出は停滞し、PMIが50を割る場面もあった。だが当時は「異次元緩和」と呼ばれる金融政策を展開し、量的・質的緩和やマイナス金利政策によって長期金利を押し下げた。結果として円は1ドル=80円台から120円台へと進み、輸出企業の収益を支えた。さらに公共投資や法人減税も実施され、政策が外部ショックを緩和する役割を果たした。

日銀黒田総裁と安倍首相(当時)

ところが現在の石破政権下では逆の構図になっている。金利は相対的に高止まりし、円は強含みで、輸出企業の競争力を削いでいる。財政も防衛費と社会保障費に偏り、成長分野への投資は置き去りにされたままだ。外的要因を和らげるどころか、逆に増幅させているのである。

ここで忘れてはならないのは「数字を一つだけ見てはいけない」ということだ。マスコミはPMI49.9という数値を取り上げ、「縮小だ」とだけ報じる。しかし実態を知るには複数の数字を合わせて見る必要がある。新規輸出受注が17カ月ぶりの低水準に落ち込んでいること、円相場が円高に振れていること、企業物価指数(PPI)が高止まりし、消費者物価指数(CPI)が家計を圧迫していること。これらを突き合わせると、単なる景況感の悪化ではなく、政策の誤りが外部ショックを拡大させている姿が浮かび上がる。

結論は明快である。今回のPMI49.9は「外部要因の影響を受けた一時的な落ち込み」ではない。国内の金融・財政政策の失敗が、日本経済の体力を奪い、外的ショックを深刻化させているのである。安倍政権時代に可能だった「政策で緩衝材を作る」という発想は今や影も形もない。数字を複数組み合わせて読むことで、その深刻さは誰の目にも明らかだ。

【関連記事】

今回のPMI低迷の背景には、金融政策や財政運営の誤り、通商交渉の失策、そしてエネルギー政策の迷走が絡み合っています。より深い理解のために、以下の記事もぜひご覧ください。

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識”  2025年7月25日
拡張的財政政策の歴史的根拠を示し、今の日本が取るべき方向性を説いています。

景気を殺して国が守れるか──日銀の愚策を許すな  2025年8月12日
日銀の金融政策が景気を冷やす構造的問題を明らかにし、政策転換の必要性を訴えています。

日米関税交渉親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊  2025年8月8日
通商交渉の弱体化が製造業を直撃するリスクを分析しています。

トランプ半導体300%関税の衝撃、日本が学ぶべき『荒療治』 2025年8月4日
米国の通商政策の転換点と、それにどう対応すべきかを論じています。

日本経済を救う鍵は消費税減税! 石破首相の給付金政策を徹底検証  2025年6月19日
財政刺激策の比較を通じて、消費税減税の効果を検証しています。

2025年8月20日水曜日

殉職した消防士の犠牲を忘れるな――命を懸ける職業を見殺しにするな

まとめ

  • 道頓堀火災で消防司令・森貴志さん(55歳)、消防士・長友光成さん(22歳)が殉職し、他に消防隊員や市民も負傷した。勇敢な献身に深い敬意と追悼を捧げる。
  • 現場のビルは過去に消防法違反を指摘されながら是正されず、構造的欠陥と杜撰な管理が被害拡大を招いた。
  • 新宿・歌舞伎町火災や京都アニメーション放火事件など国内の事例、ロンドン・グレンフェル火災やフィリピン工場火災など海外の事例と同じく、「避難経路の脆弱さ」「規制の甘さ」「管理不備」が共通している。
  • 我が国は短期的に「完了確認制度」の徹底、避難訓練の強化、消防ドローン導入など緊急対応が必要である。
  • 中長期的には建材不燃化の徹底、防火通路確保を前提とした都市再開発、「防災コミュニティ」の制度化を進め、都市防災を抜本的に強化すべきである

まずは、道頓堀の火災で殉職した消防司令・森貴志さん、消防士・長友光成さんのお二人に、心からの追悼を捧げたい。お二人は市民の命を守るため、まさに命を懸けて炎に立ち向かった。その献身と勇気は尊い犠牲となり、ご遺族の無念を思うと胸が張り裂ける思いである。また、負傷された消防隊員や市民の方の一日も早い回復を祈らずにはいられない。

そして忘れてはならないのは、我が国には常に命を賭して国民を守る人々がいるという事実だ。消防士だけではない。自衛隊、海上保安庁、そして警察。彼らが昼夜を問わず、危険を顧みず任務にあたっているからこそ、我々は安心して暮らすことができる。今回の惨事は、その存在の尊さを改めて突きつけた。
 
🔳道頓堀火災の全貌


火災が発生したのは2025年8月18日午前9時50分、大阪・道頓堀の繁華街にある雑居ビルだった。戎橋からほど近く、人通りの絶えない観光の中心地である。火は発報からわずか2分で猛烈に燃え広がり、黒煙が川沿いの街を覆った。炎は隣の建物にも延焼し、最終的に約100平方メートルが焼け、鎮火までに9時間を要した。

この消火活動の最中、悲劇が起きた。森司令(55歳)と長友消防士(22歳)が6階で倒れているのが見つかった。死因は酸素欠乏による窒息である。天井の崩落によって退路を断たれたとみられる。彼らは3人1組で建物に進入したが、脱出できたのは1人だけだった。さらに消防隊員4人と市民1人が負傷し、病院に搬送された。命に別状はなかったが、現場がいかに苛烈であったかは想像に難くない。

このビルは以前から問題を抱えていた。2023年の立ち入り検査で、火災報知機の不備や避難訓練の未実施など6項目の消防法違反が指摘されていたのである。そのうち4項目は改善されないまま放置されていた。狭い道路と川沿いという立地も災いし、はしご車が使えない。雑居ビル特有の構造的欠陥と、杜撰な管理体制が重なり、被害を大きくしたのは明らかだ。

横山市長は「建物の崩落により避難中に命を落とした可能性がある」と述べ、大阪市消防局は事故調査委員会を設置して原因究明と再発防止にあたる方針を示した。だが、これは単なる一火災の話ではない。繁華街に密集する雑居ビルが抱える危険を白日の下にさらした事件なのである。
 
🔳国内外の火災が示す教訓

過去を振り返れば、同じような悲劇は繰り返されてきた。2001年の新宿・歌舞伎町の雑居ビル火災では44人が死亡し、避難経路の欠陥と法令違反が指摘された。2019年の京都アニメーション放火事件では、逃げ道の脆弱さが被害を拡大させた。複雑な構造と防火設備の欠如――今回の道頓堀火災もその延長線上にある。

2017年のロンドン・グレンフェル・タワー火災

世界を見れば、我が国だけの問題でないことは明らかだ。2017年のロンドン・グレンフェル・タワー火災では、外壁材の可燃性パネルが炎をビル全体に広げ、72人が死亡した。2015年のフィリピン・靴工場火災では、施錠された脱出口が労働者の命を奪い、70人以上が犠牲となった。共通点は「逃げ道の脆弱さ」「規制の甘さ」「管理体制の放置」である。道頓堀の火災も同じ構図だ。

雑居ビル火災は国や地域を問わず、法令違反と管理不備が悲劇を生むという普遍的な構造を持つ。だからこそ我が国も規制強化と監督の徹底を避けて通ることはできない。

🔳我が国の都市防災に求められる改革

では、我が国は何をすべきか。まず短期的には、違反是正が完了するまで営業を許さない「完了確認制度」の徹底が急務だ。さらに繁華街のビルに対する緊急避難訓練を義務化し、利用者を巻き込んだ実戦的な訓練を年数回行うべきである。加えて、消防用ドローンや小型無人偵察機を導入し、狭隘地での初動対応を迅速化する。これらはすぐにでも実行可能な施策だ。

避難訓練

一方で中長期的には、建築基準法や消防法を改正し、建材の不燃化を徹底することが不可欠だ。ロンドンの悲劇が示したように、資材規制の厳格化は急務である。また、繁華街再開発の際には防火通路を確保する「都市防災リデザイン」が求められる。そして地域ごとに「防災コミュニティ」を制度化し、自治体・事業者・住民が一体となって平時から訓練を重ねる体制を築かねばならない。

短期施策と長期改革を両輪として進めることで、道頓堀火災の悲劇を真の教訓にできる。我が国の都市防災を進化させることができるかどうか――今こそ政治と行政に決断が求められている。

【関連記事】

国家の危機管理体制や法整備の脆弱さを告発する内容。火災対応に必要な制度整備の必要性とも合致。

減税と積極財政は国家を救う──歴史が語る“経済の常識” 2025年7月25日
経済政策と危機対応の両立が防災政策の継続可能性を支えるという観点で、都市基盤の強化にも通じる議論を展開。

東日本大震災14年 教訓を次に生かす決意を 早期避難が津波防災の鉄則だ 2025年3月11日
震災の記憶が風化しつつある現実に警鐘を鳴らし、耐震基準の強化や避難施設の整備、迅速な避難の重要性を説く。
緊急時に現場の声をどう政策に反映させるか、文民統制と危機対応力の関係にも通じる示唆を含む内容。

火災の海自掃海艇が転覆 沈没の恐れも、乗組員1人不明―【私の論評】日本の海上自衛隊が国を守る!掃海艇の重要性と安全保障の最前線 2024年11月
海自掃海艇の火災・転覆事故を通じて、最前線で国を守る海上自衛隊の重要性と危機管理の現実を論じた記事。

2025年8月19日火曜日

秘密は守れてもスパイは捕まえられない――対中・対露に無防備な日本の法的欠陥


まとめ
  • 2025年8月15日、政府は閣議で答弁書を決定し、日本が「スパイ天国」と呼ばれているとの見方を否定した。
  • れいわ新選組の山本太郎代表が提出した質問主意書に対し、政府は「情報収集・分析体制の強化」や「違法行為の取り締まり」を理由に挙げた。
  • しかし、日本に存在するのは特定秘密保護法や国家公務員法などの守秘義務を課す法律にとどまり、外国のスパイ活動そのものを処罰する法律は存在しない。
  • そのため、政府が答弁で強調した「違法行為の取り締まり」は実際には空虚であり、スパイ活動の未然防止や摘発はほとんど不可能な状態が続いている。
  • 英国や米国、ドイツ、フランス、オーストラリアではスパイ行為を明確に犯罪化し、外国勢力の影響活動についても登録や監視の制度を導入しているのに比べ、日本は法的に無防備であり、早急に実効性あるスパイ防止法を整える必要がある。
政府は8月15日、れいわ新選組の山本太郎代表の質問主意書に対する答弁書を閣議決定した。その中で日本について「スパイ天国」との評価を否定し、「情報収集・分析体制の充実強化」や「違法行為の取り締まりの徹底」に努めていると強調したのである。

山本氏の質問主意書は、国会の公式文書として参議院のサイトに公開されている。件名は「『日本はスパイ天国』という評価及び『スパイ防止法』制定に関する質問主意書」。令和七年八月一日に提出され、同月十五日に答弁書が出された。本文では、国会でたびたび指摘されてきた「スパイ天国」という言葉や「抑止力が全くない」との発言を引用し、政府の認識とその根拠を問う内容となっている。
 
🔳「違法行為の取り締まり」は空文にすぎない
 
閣議に臨む石破首相

確かに日本はここ十年、防衛省や警察庁を中心にインテリジェンス体制を拡充してきた。その点をもって「情報収集・分析体制の強化」は事実と言える。しかし問題は「違法行為の取り締まり」である。政府はあたかもスパイ行為を取り締まる法が存在するかのように答弁しているが、実際にはその根拠法は存在しない。

日本にあるのは、国家公務員法や自衛隊法による守秘義務、そして特定秘密保護法といった「秘密を守らせる」法律だけだ。外国の指示で情報を収集する行為そのものは、犯罪として規定されていない。したがって逮捕や勾留の根拠がなく、現行法では重大な既遂事態、たとえば外患誘致や国家転覆に至らなければ動けない。これは取り締まりとは言えず、事後処罰にすぎない。
 
🔳他国の制度との圧倒的な差
 
こうした現実を踏まえれば、「日本にはスパイ防止法は不要」という見解は完全に的外れである。秘密を守る法はあっても、スパイを捕まえる法が欠けているのだから抑止力など生まれない。だからこそ、外国スパイにとって日本は格好の活動拠点となっているのである。

英国の対外諜報機関である秘密情報部(Secret Intelligence ServiceSIS)通称MI6の建物


他国はどうか。英国は2023年の国家安全保障法で、スパイ行為や外国勢力の干渉を包括的に犯罪化し、外国影響活動の登録制度を導入した。米国は1917年のスパイ防止法を基盤に経済スパイ法や外国代理人登録法を重ね、刑罰と透明化の両面で抑止を強めている。ドイツは刑法で外国情報機関の活動を独立の犯罪として規定し、国外犯にも管轄を及ぼす。フランスは「国家の基本的利益」を守る概念を中核に据え、平時からスパイ行為を広く処罰できる。オーストラリアは2018年の改正で準備行為まで処罰対象とし、外国影響活動を登録させる仕組みも導入した。いずれも犯罪化と透明化、そして監視体制を組み合わせている。

🔳日本が直視すべき現実

かつて日本に滞在し米国に亡命したレクチェンコ氏は日本をスパイ天国と証言(写真はレクチェンコの外国記者証)

これに比べれば、日本はあまりに無防備だ。山本氏の質問主意書は、その空白を浮き彫りにした。政府は「スパイ天国ではない」と強弁するが、根拠法が欠けている以上、言葉遊びにすぎない。必要なのは、スパイ行為そのものを定義し、準備段階から処罰できる刑事法制である。加えて、外国勢力の影響活動を登録させる透明化の仕組みを整え、同時に乱用を防ぐため司法審査や国会報告、公益目的の活動に対する明確な除外規定を置くことが欠かせない。

要するに、日本には「秘密を守る法」はあるが「スパイを捕まえる法」がない。この核心的な欠陥を放置したままでは、同盟国との信頼も揺らぎ、わが国は諜報戦の時代に取り残される。山本太郎氏の質問主意書は、その事実を突きつけたのである。今必要なのは、答弁の言葉ではなく、実効性あるスパイ防止法を一刻も早く整備することだ。

【関連記事】

国家の内側から崩れる音が聞こえる──冤罪・暗殺・腐敗が… 2025年8月4日
日本が先進国で唯一「包括的なスパイ防止法を持たない」現実を指摘し、制度の空白がどのように諜報活動や国家転覆に悪用されてきたかを鋭く論じた記事です。法制度の欠如が国家の脆弱性につながる構造を提示しています。

次世代電池技術、機微情報が中国に流出か 潜水艦搭載を検討中 経産相「調査したい」―【私の論評】…スパイ防止法を制定すべきである 2025年3月2日
先端技術の流出という安全保障と直結するテーマから、スパイ防止法の整備が必要である理由を具体的に示す記事です。

中国で拘束の大手製薬会社の日本人社員 起訴―【私の論評】スパイ防止法の必要性と中国の改正反スパイ法に対する企業・政府の対策 2024年9月9日
国家間の諜報・情報収集を巡る事例を通じ、日本の制度的対応の遅れを指摘した内容。スパイ防止法の必要性を具体例と共に論じています。

日本の基地に配属の米海軍兵、スパイ罪で起訴―【私の論評】スパイ防止法制定を、日本の安全を守るために 2024年4月2日
日本がスパイ行為への法的対応に遅れをとっている現状を、米国との比較も交えて論じた記事。制度整備の遅れがいかにリスクを高めるかが示されています。

産総研の中国籍研究員を逮捕 中国企業への技術漏洩容疑―【私の論評】LGBT理解増進法よりも、スパイ防止法を早急に成立させるべき 2023年6月15日
具体的スパイ事件を通じて、日本にはスパイ取り締まりの根拠法がなく、制度的脆弱性を露呈している点を訴える力強い内容です。

2025年8月18日月曜日

選挙互助会化した自民・立憲―制度疲労が示す『政治再編』の必然

 まとめ

  • 石破総裁誕生の裏側には「高市早苗だけは総理にしない」という派閥横断の一致があり、保守派は数の力に慢心して油断した。
  • 2024年6月に自民党公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が設立され、安倍派系議員が外交・安全保障で具体的提言を始めている。
  • 高市排除の動きは橋下徹氏の発言にも現れており、保守派こそ党内に残るべきで、リベラル左派や親中派が党を出て行くべきだ。
  • 官僚機構は政治理念ではなく天下り利権のために政治へ不当介入し、その結果、我が国の混乱が周辺国を利している。
  • 自民党や立憲民主党の「選挙互助会」的体質は制度疲労を起こしており、政治家は信条ごとに再編し、官僚支配を排して政治改革を急がねばならない。
🔳石破総裁誕生の裏側と保守派の油断


安倍派潰しは石破政権から始まったのではない。発端は岸田政権であり、石破政権はそれをさらに徹底・強化したのである。裏金問題は検察が不起訴としたにもかかわらず、マスコミと連携して巨悪のごとく描き出し、党内手続きの誘導──たとえば次の選挙での公認取り消しなど──にまで利用した。これは「高市早苗だけは総理にさせない」という思惑と直結していた。

総裁選の裏側では、さまざまな旧派閥にまたがる一派が、徹底して高市排除に動いた。メディアを使ったイメージ操作、党内人事を利用した圧力、さらには資金問題を口実にした議員への恫喝。あらゆる手段が総動員され、「高市だけは阻止する」という一点で一致団結したのである。その結果、石破総裁が誕生した。一方で、自民党内で最大の数を誇った保守派は、数の力に慢心し、結束を欠いた。この油断こそが致命傷となった。
 
🔳 保守派の反撃と「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」

しかし保守派は反撃を試みている。2024年6月に設立された「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」は、自民党の公式組織であり、安倍派系議員を中心に立ち上げられた。この組織は、他の類似団体とは異なり、党の正式な枠組みに位置づけられ、外交・安全保障政策で具体的な提言を繰り返している。最近では、南西諸島防衛の強化や日米豪印の連携深化に関する政策提案を行い、党内に一定の存在感を示している。

そこまで言って委員会NP「迷言・暴言」で上半期を大総括!石破総理編も
 
この流れの中で、2025年8月10日放送の読売テレビ『そこまで言って委員会NP』で、橋下徹氏が「自民党が割れるのは大賛成」「高市氏が覚悟を持って割って出られるか」といった趣旨の発言をした。高市早苗氏は8月12日にXでこれへ反論。これは、発言の是非は別にして、いかに自民党内で高市排除が進められているかを象徴する発言である。

しかし自民党の党綱領には「保守政党であること」「憲法改正を目指すこと」が明記されている。ならば、出ていくべきは保守派ではなく、リベラル左派や親中派である。小沢一郎氏には数々の問題があるにせよ、自民党を飛び出し自らの信条を掲げたという一点では、岸田や石破より筋が通っていた。自民党内のリベラルや親中派もまた、小沢氏にならい、自らの旗を掲げて出て行くべきだ。
 
🔳官僚機構の暗躍と政治改革の急務


看過できないのは、官僚機構の暗躍である。財務省や日銀をはじめとする官僚は、政治理念からではなく、天下り先でのリッチな生活を望むという低俗な動機で、政治に不当に介入している。官僚の利権支配は、財政政策や金融政策の停滞を招き、国内の混乱を深める一方で、中国、北朝鮮、ロシア、韓国といった我が国を取り巻く国家を利する結果となっている。

いまや自民党も立憲民主党も、保守からリベラル、左派、親中派までが同居する「選挙互助会」に堕している。この制度疲労を抱えたスタイルは、もはや時代遅れだ。政局の動きは、保守、リベラル、親中、反中といった信条ごとに政党を再編すべき時代の到来を示している。そして政治家は、この混乱を一刻も早く乗り越え、真の政治改革を断行しなければならない。さもなければ、我が国は再び官僚と外国勢力に蹂躙されることになる。

【関連記事】

【日米関税交渉】親中の末路は韓国の二の舞──石破政権の保守派排除が招く交渉崩壊 2025年8月8日
通商交渉における専門性の欠如から国益を損ねる危険性を論じた。

石破茂「戦後80年見解」は、ドン・キホーテの夢──世界が望む“強い日本”と真逆を行く愚策 2025年8月6日
「80年談話構想」の思想的偏向と保守派排除としての政治的意味に切り込む。

安倍暗殺から始まった日本政治の漂流──石破政権の暴走と保守再結集への狼煙 2025年8月2日
総裁選の裏側(高市排除の構図)や保守再結集の流れを深掘り。

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来 2025年6月8日
選挙を契機にした保守派の再編が具体的に描かれており、再編の必然性を示す。

与党過半数割れで少数与党か石破退陣か連立再編か…まさかの政権交代も 衆院選開票後のシナリオは―【私の論評】高市早苗の離党戦略:三木武夫の手法に学ぶ権力闘争のもう一つのシナリオ 2024年10月28日
高市氏の戦略的離党の構想を論じ、反高市包囲の構図と保守派が取るべき戦略を展開。


2025年8月17日日曜日

トランプ半導体300%関税の衝撃、日本が学ぶべき「荒療治」


まとめ

  • グローバリズムの幻想:自由貿易と国境なき経済は理想ではなく幻想であり、米国産業を衰退させ、中国を肥大化させる仕組みとなった。
  • グローバリズムが生んだ中国の台頭:WTO加盟を機に中国は国際市場で支配力を強め、知財流出や技術吸収を進め、米国企業も短期利益に溺れた。
  • トランプの荒療治と反グローバリズム:最大300%の半導体関税は、グローバリズムを撃ち抜く象徴であり、経済政策と政治戦術の両面を兼ねる。
  • 日本の失策とグローバリズムの影響:内需大国でありながら、日銀ショックで自ら経済を縛り、外需依存の幻想に囚われた。
  • 結論と政策提言:日米両国がグローバリズムの呪縛から脱し、内需大国としての潜在力を取り戻すことが、自由世界の安定を支える決定的な一手となる。そのために日本では金融・財政政策の立て直しと官僚機構の刷新が不可欠。
🔳グローバリズムという呪文とその帰結
 
20世紀終盤グローバリズムこそ正義という無邪気な熱病が世界を支配した

20世紀の終盤、世界は「グローバリズム」という名の呪文に酔いしれた。国境をなくせば経済は活性化し、すべての国が豊かになると喧伝された。米国はその先頭に立ち、自国の製造業を海外へ移すことを繰り返した。なぜそんな暴挙を許したのか。それは「金融業さえ残れば米国は繁栄できる」という幻想があったからだ。

この政策が最も恩恵をもたらしたのは中国である。2001年、米国が強力に後押しして中国をWTO加盟へ導いたことは歴史的転換点だった。以来、中国は国際ルールの隙を突き、国際市場に浸透し、製造業をのみ込み、利益を吸い上げた。米国企業も短期的利益に目がくらみ、積極的に中国へ投資した。だがその裏で、中国は国家的規模の工作を展開し、先端技術の吸収、知的財産の奪取、影響力拡大を進めた。

つまり、グローバリズムは美辞麗句の陰で米国の産業を衰退させ、中国の台頭を許す最大の仕組みとなったのである。
 
🔳トランプの「300%関税」と日本に刻まれた日銀ショック
 
エアフォースワンから降り立ったトランプ大統領

こうした幻想を真っ向から叩き壊したのがトランプ大統領である。彼は「アメリカ第一」を掲げ、グローバリズムの果実ではなく、その副作用に光を当てた。そうして、それは米国の内需を拡大することをも意味する。米国の輸出がGDPに占める割合は、戦後長らく輸出がGDPの7%以下(1950年代~60年代)にとどまっていた。それが今日では、10%以上になっている。トランプはこれを元に戻そうとしている。その象徴が「最大300%の半導体関税」だ。2025年8月15日、トランプ氏はエアフォースワン機内で記者団に「来週か再来週にも関税を設定する」と宣言した。導入は段階的で、まずは低率から始め、最終的に200〜300%にまで引き上げる構想を示した。

ここで重要なのは、これは単なる経済政策ではなく政治戦術でもあるという点だ。国内向けには「雇用を守る最後の砦」というメッセージを放ち、支持層を固める。国際的には交渉カードとして機能し、中国や同盟国との駆け引きに使われる。まさに経済と政治を重ねた「爆弾」である。

一方、日本はどうか。日本は米国の過去と同じく、本来「内需大国」であった。輸出依存度は1980〜90年代でも8%前後の一桁台にとどまり、国内市場の力だけで経済を回す潜在力を持っていた。1990年代初頭、バブル経済が崩壊したとされるが、実際の物価指数を見ると必ずしも過熱ではなかった。にもかかわらず日銀は急激な金融引き締めに踏み切り、資産市場と実体経済を同時に冷却した。これこそバブル崩壊ではなく、「日銀ショック」である。さらに追い討ちをかけるように、財務省は、緊縮財政に走った。日本は自らの内需を縛り付け、衰退を招いたのだ。

つまり、日米両国は本来「内需大国」として自立した経済構造を築いていたのである。日本の貿易立国は、幻想に過ぎない。日米ともに内需を伸ばして経済を拡大した国なのである。これは、両国の経済を調べれば、認識できる事実である。
 
🔳グローバリズムを超える内需大国の逆襲

今日、真の内需大国は日米しか存在しない。2010年代後半から2020年代初頭にかけて、EC諸国は「非市場リスク」に限定した規制を導入した。これは過度な輸出支援が市場歪曲を招くことへの警戒からであり、その内容は環境基準を満たさない製品の輸出制限、労働条件が不適切な環境で生産された製品の輸入制限、さらには消費者保護の観点から安全基準を欠いた製品やデータ保護規制に違反した企業のデータ国外持ち出しの制限などを含んでいた。しかし、欧州主要国や中国・韓国は輸出依存度が高く、現状では外需が止まれば経済が停滞する。だからこそ、日米がグローバリズムの呪縛から脱し、内需主導の成長モデルへと舵を切ることが、自由世界の安定を支える決定的な一手となる。

トランプの300%関税は、その荒々しさゆえに副作用を伴うだろう。しかしその背景には、グローバリズムがもはや幻想にすぎないという冷厳な現実がある。日本もまた「外需頼み」という思考停止から抜け出し、内需の潜在力を信じて政策を組み立て直すべきである。

潜在能力に満ちた日本

そして何より、内需拡大は「規制緩和」「技術投資」「国土再開発」といった表層的スローガンだけでは達成できない。第一にマクロ経済政策、すなわち金融・財政政策の立て直しが不可欠だ。そのためには財務官僚や日銀官僚の硬直した思考を改めさせるか、それが不可能なら新たな人材に入れ替えるしかない。ここにおいて日本は、トランプの荒療治から学ぶべきだ。

グローバリズムの呪文に踊らされた時代は終わった。グローバリズム反対を陰謀論とする時代は、終わった。21世紀後半の秩序を決めるのは、内需を覚醒させられる国家である。日米がその道を選ぶか否か——特に日本がそれを選択するかどうかが自由世界の未来を決するのである。

【関連記事】

財務省職員の飲酒後ミスが引き起こした危機:機密文書紛失と国際薬物捜査への影響 2025年6月27日
官僚機構の劣化が国益を揺るがす事例。日本の「官僚刷新」の必要性を説いた本記事の問題意識と強く結びつきます。

高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は … 2025年4月15日
米中の関税応酬を分析しつつ、雇用回復と消費拡大を導いた「内需回帰」の効果を論じた記事。トランプの荒療治と直接リンクします。

米国売り止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む 2025年4月13日
米国の財政・通貨政策が内需とグローバリズムの板挟みにある現実を描写。自由世界経済の持続性という観点で重要。

「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権 2025年4月9日
製造業回帰を通じた内需拡大の象徴。グローバリズム依存からの脱却を掲げる政策の典型例で、日本への示唆が大きい。

習近平の中国で「消費崩壊」の驚くべき実態…!上海、北京ですら 2024年9月2日
「内需を軽視した国の末路」を映し出す好例。日本にとっても教訓的で、本記事の「内需立国復帰」の主張と相互補完的です。

マクロン訪中──フランス外交の老獪さと中国の未熟・粗暴外交、日本に訪れる“好機”と“危険な後退”

まとめ 今回のポイントは、マクロン訪中を“中仏の短期利益”で片づけるマスコミなどの浅い理解を超え、実はフランスの“数百年の老獪な伝統外交”と、中国の“建国70年の未熟・粗暴外交”が激突し、文明の断層が露わになりつつある点にある。 日本にとっての利益は、仮に欧州が中国へ傾けば“経済...