2022年8月16日火曜日

FBI家宅捜索に新展開:トランプには持ち帰った文書を機密解除する「内務規定」があった―【私の論評】 背景には「トランプに弱みを握られた」かもしれない有力者の不安がある(゚д゚)!

FBI家宅捜索に新展開:トランプには持ち帰った文書を機密解除する「内務規定」があった

<引用元:JustTheNews 2022.8.13
トランプ前大統領事務所が、マーアラゴの機密文書につながったこれまで申告されなかった手続きを説明

 
ドナルド・トランプ事務所は12日、FBIがマーアラゴの邸宅から押収した機密文書は、大統領在任中に夜も継続して作業するためにホワイトハウスの住居への持ち込みを許可した「内務規定」の下で、機密解除されていたと本紙に述べた。

公式声明は、FBIとバイデン政権司法省が、トランプが大統領記録法が適用される記録を盗んだかスパイ防止法において機密文書の取り扱いを誤ったかを捜査する中で、前大統領の弁護の焦点となる可能性がある。それらの容疑は12日にフロリダ州連邦裁判所によって公開された捜査令状に含まれたものだ。

大統領の弁護は、大統領と副大統領には米国政府の究極的な機密解除権限があり、もっとも最近ではジョージ・W・ブッシュが2003年に、バラク・オバマが2009年に出した大統領令によって、大統領と副大統領は他の連邦機関や当局者が従わなければならない厳重な機密解除手続きに従うことを特別に免除されるという法的な原則に根差している。

トランプは数週間の間、退任後に保有していた機密印のある文書は全てこれまでに機密解除されたものだと主張してきた。12日夜、本紙に提出された声明では、トランプの記憶でその機密解除が一体どのように行われたかを説明していた。

これらの文書がマーアラゴに存在していたという事実こそ、機密であるはずがなかったいう意味だ、と前大統領の事務所は述べた。「誰もが共感できるように、自宅に仕事を持ち帰らなければならないことは誰でも時として起こることです。アメリカ大統領も全く同じです。トランプ大統領は、次の日の仕事の準備をするために、大統領執務室から自宅に機密文書を含む文書を持ち帰ることがしばしばありました」

声明は続く。「大統領執務室から住居へと持ち去られた文書は機密解除されたと見なされるという内務規定がありました。文書を機密化したり機密解除したりする権限は、もっぱら合衆国大統領にあります。大統領が委任した機密権限を持つ一部の事務手続きを行う官僚が機密解除を承認する必要があるという考えは、ばかげています」

政権の後半でトランプのために働いた2人の元側近は、トランプが日常的に文書を提出した秘書官や情報局員に返さずに住居に持ち帰っていたことに気付いていたと述べた。内務規定があったかという質問に対してある元職員は「それに異議を唱える者も、異議を唱えることも知りません」と答えた。

通常大統領が機密解除した文書はその後、回収されてからそれまでの機密の印に取り消し線が引かれて機密解除の印がつけられる。だが大統領の元高官は、大統領の機密解除権限は絶対的であり、機密解除の決断が即座に下されることもあったことを認めた。

ある元政権高官は、外国の首脳との会談中に大統領が極秘情報をその首脳に与え、極秘とマークされた文書で見た情報を単に伝えるだけで機密解除した例について語った。別の高官は、大統領が会議中に極秘の文書を受け取ったが、ある高官は機密レベルが低かったために退席しなければならなかったという例について語った。

「大統領は即座にその職員が留まって極秘の情報を知ることを許可しました。その時点でそれが大統領の職務にプラスになったからです」とその人物は本紙に語った。

議会、司法省、そしてインテリジェンス・コミュニティで前大統領をけなす人々は、前大統領の主張に異議を唱えるだろう。だが国家安全保障法に詳しい高官は、大統領の機密解除権限は広範囲であり、そのプロセスはブッシュとオバマの2003年と2009年の大統領令が明確にしたように、偶発的である場合が多いと裁判所は通常考えてきたと述べた。

2009年に出されたオバマの大統領令第13526号は、あらゆる連邦政府高官と機関が機密解除のために従う必要のある厳しい手続きを提示したが、在職中の大統領と副大統領をそうした手続きに従うことから明確に免除した。

「現職大統領や副大統領、現職大統領のホワイトハウス職員や現職副大統領の職員、現職大統領の任命した委員会、委任者、役員、また現職大統領にもっぱら助言と補佐を行う大統領府の他の存在から生じた情報は、本条の項(a)の適用から除外される」とオバマの大統領令には書かれている。

FBIはトランプの声明にある「内務規定」があったことを知るか認めることができる高官や証人を見つけようとするだろうと高官は述べた。だが結局のところ、大統領の機密解除権限は広範囲であり、裁判所からはそのように見なされるだろうと高官は述べた。

【私の論評】 背景には「トランプに弱みを握られた」かもしれない有力者の不安がある(゚д゚)!


そもそも機密文書というものは、大統領権限等によって解除されるものです。それにほとんどの機密文書は、いずれは機密解除されるものです。機密にしておくべき期間が長いか、短いかの違いはあるものの、いわゆる当初機密文書された文書が、未来永劫にわたって機密にされれば、誰も真実を知ることができなくなります。

はっきりいえば、機密文書なるものは、いずれ公表されることを予期しつつ、作成されるものです。本当に機密にしたいものなど、文書にするはずがありません。文書にせず心に刻みこみ、大統領など関係者は墓場まで持っていくべきものです。民主国家においては、そのようなことは極わずかだと思います。中露などの全体主義国家ではその割合はかなり大きいでしょう。

多くの人が、真実を知ることができなければ、国政でも外交でも支障が生じます。これは、企業などでも同じです。たとえば、ある企業が大々的なキャンペーンをする場合、ライバル会社に知られないようにするために、その内容は当初は機密です。

しかし、大々的なキャンペーンをするとなれば、かなり多くの人々を動かさなければなりません。そこで一部機密は解除されることになります。そうして、直前には正社員はもちろん、パート・アルバイトまで知ることになります。そうでないとキャンペーンは実施できません。

さらに、キャンペーン期間中は逆に、お客様を含め多くの人々に知ってもらうようにします。そうでないとキャンペーンの意味がありません。このあたりを理解せずに、とにかく機密主義で、本当に直前になってからしか開示しなければ、キャンペーンは大失敗します。

公文書も同じことであり、一時発信された、機密文書が未来永劫にわたって機密でありつづけるとすれば、国政も何もできません。それに、国民も政府が正しく行政を行っているのか確かめることもできません。だからこそ、中露、北朝鮮などの国は別にして、多くの民主国家では一定の手続きに従い情報開示がされています。

そうして、機密解除された文書は多くの人が閲覧できます。

日本では、国立文書館で閲覧できます。これは、Webでも閲覧できます。


米国の公文書も閲覧できます。


現在では誰でも閲覧できる過去の機密文書 クリックすると拡大します

では、なぜ機密文書の扱いが問題になっているのでしょうか。

米国政府のもつ数多くの機密情報、トランプは大統領として知り得る立場にありました。

CIAの中南米での非人道的行為、ロッキードマーチン社とアフリカ独裁者との関係、中国に買収されていた有力政治家等など、国益の観点から未だ開示されていないかなり多くの機密情報があるはずです。

しかし、どのような機密情報があるかわからないわけですから、実際に保管されている情報以上に関係者は心配しているでしょう。

「我々の恥部であるX情報も保管されているかもしれない、もしそうなら絶対公開されては困る」と思っている有力機関、個人は多いでしょう。そして彼らは「トランプにそれを見られたかもしれない」と恐れているはずです。

今回の強制捜査で、どういった機密資料をトランプの自宅から押収したかを大雑把にでも公表されれば「少なくとも我々はトランプの関心事ではなかったようだ」と多くの有力関係者は安心できるでしょう。

その意味で、このFBIの強制捜査は機密の暴露を心配する関係者の要望にも沿うものと言えます。

また、こういった「トランプに弱みを握られた可能性がある」と思う人達が、トランプは嘘つきであると言う印象を世界中に与え、発表する手段を奪う事を画策することも十分にありえます。

彼らが意図して意識して、そうしたかどうかは別にしても実際にそうなっています。

彼らが大手のマスコミに影響を与えて反トランプのキャンペーンをしているのかもしれません。トランプを恐れる有力機関の力が自然に結集されているようです。これをトランプは「ディープ・ステート」と呼んでいるようです。

トランプ氏は、政治界の部外者の身として、政府の汚職をなくすことを国民に約束し、それを比喩した「Drain the swamp.(沼地のヘドロ水を抜く)」は選挙時のスローガンでした。

「ディープ・ステート」というと、何やら陰謀論めいた響きがありますが、米国にはいわゆるエスタブリッシュメントといわれる、ほんの一部の支配層が支配する国であることが広く知られています。私は、トランプ氏は、このエスタブリッシュメントのことを「ディープ・ステート」と呼んでいるだと思います。

そのエスタブリッシュメントのうちの多数派の中国に対するエンゲージメント派は、いずれ中国は民主化するであろうと見ていたようで、中国は将来的に米国にとって自分たちが御せる良い市場になると信じていたようです。

米国には親中派のエンゲージメント派と中国反対派のコンテインメント(封じ込め)派が存在しており、アメリカの富の大きな部分を握ってるわずか上位0.1%エスタブリッシュメントの多くがエンゲージメント派であったため、米国の中国に対する態度は、将来も変わらないだろうと見られていました。

そうして、この0.1% のエスタブリッシュメント派の富により、米国の政治がかなり左右されてきました。これは、陰謀論でもなんでもなく、多くの米国人が認めるところです。そもそも、大統領など彼らの操り人形にすぎないと揶揄されてきました。

ところが、エスタブリッシュメント派とは全く関係ない、トランプが大統領になったわけですから、彼らの心は穏やかではないでしょう。

これは、マスメディアが想像していた以上に米国民の既存のエスタブリッシュメントの影響が大きい政治体制 への不満と怒りが大きく、 トランプ候補に賭けるリスクを冒してでも変化を求めた帰結であったといえます。

そうして、このトランプ大統領は、中国は米国に対して「地政学的戦い」を挑んでいることをはっきりと認識した初の米国大統領になりました。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

そうして、中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。この点については、エスタブリッシュメントの、完全敗北であり、彼らの権威もかなり落ちたでしょうし、この点だけでも、彼らにとっては脅威に感じられたでしょう。

トランプ大統領のこの認識は、まともなものです。それ以外問題についてもたとえば、移民政策についても、国境の壁などについて馬鹿げたもののように報道されていましたが、実は極まともな主張をしていますし、さらにトランプ減税で米国の雇用はかなり良くなり、投資の国内回帰も顕著になり、雇用も格段に良くなりました。それが米国の一般市民の心を動かしました。

このトランプ氏が大統領時代にエスタブリッシュメントの様々な秘密を掴んでいて、いずれそれを根拠に自分たちを攻撃してくるのではないかという恐れを抱くのは、当然のことだと思います。そもそも、トランプ氏はそれ以前の、エスタブリッシュメントの影響下にある大統領ではなく、彼らからすれば、何をするか予想もつかないのです。私は、今回のFBI家宅捜索には、このことが背後にあると思っています。

そうして、日本では上記で述べたような、トランプの業績や立場を報道機関は報道していません。トランプは貧乏な白人を騙しているといった解説ばかりが目につきました。

現在でもバイデンは中国に対して厳しい姿勢を維持しています。エスタブリッシュメントの中国ビジネスの夢は絶たれてしまいました。

テキサス州知事は、バイデンの人権的な国境政策に強固に反対しており、トランプの政策を支持しています。史上最大の不法移民が押し寄せているからです。

テキサス州知事は独自にトランプの壁の建造を続け、捕まえた不法移民をホワイトハウスのあるワシントンDCに航空機なども用いて搬送して釈放しています。バイデン大統領への警告であり露骨な嫌がらせです。

しかし、これらを日本のTV局や新聞はほとんど報道していません。不思議な事です。

さらには、亡くなった安倍元総理に対しても生前から執拗な攻撃や、安倍元総理に対しては、何を言っても良いという雰囲気をつくりあげてきました。亡くなってからもまだ、続いていましす。インド太平洋戦略に関して、安倍総理が大きな役割を果たし、実質的に世界の構造を変えてしまったたことも報道されていません。

そもそも、中国は日本を含む西側諸国に対して「地政学的戦い」を挑んでいることをはっきりと認識したのは安倍元総理が最初です。それは、2012年の第2次安倍政権発足直後、首相名で発表されたチェコ・プラハに所在地がある言論サイト「ブロジェクト・シンジケート」の英文の論文「アジア民主主義防護のダイアモンド」構想をみてもはっきりしています。

安倍元総理と親交があったために、トランプ氏はそれをしっかりと認識することできたのだと思います。

トランプ大統領と安倍総理

このようなことがほとんど報道されないため、多くの国民は、安倍総理の海外からの評価が高いことを安倍総理が亡くなってはじめて知ったようです。ただ、未だになぜそうなのかというその本質は、一部の人が知っているだけのようです。

米国では、主要新聞はすべてリベラル派に占められています、大手テレビ局は、保守系のFOXTVを除いてすべてリベラルです。さらに、当然のことながら、エスタブリッシュメントの影響や圧力も強いでしょう。

日本では、マスコミのほとんど全部がリベラルです。大手新聞の産経新聞のみが保守系という状況です。日本には、米国のようなエスタブリッシュメントが存在するかどうかわかりませんが、左翼・リベラルは少数派のはずなのに、かなり強い影響力を行使しています。

日米ともに安倍・トランプ報道はまともに受け取るべきではありません。ただ、安倍報道に関しては、最近の米国の安倍元首相に関する報道はまともです。それに比較すると、日本の報道は、たとえは、朝日新聞の川柳などに象徴されるように、常軌を逸したものが目立ちます。

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2022年8月15日月曜日

こんな馬鹿馬鹿しい内閣改造があるか?岸田氏が断行した「脱安倍」昭和人事で防衛も経済も危ない―【私の論評】組閣の大失敗で、岸田政権は短期政権に(゚д゚)!

こんな馬鹿馬鹿しい内閣改造があるか?岸田氏が断行した「脱安倍」昭和人事で防衛も経済も危ない






折り鶴を手に持ち国連で演説する岸田首相


改造のせいでNSCの開催を忘れた?

 8月10日、自民党役員人事と内閣改造人事が行われた。

 それに至る経緯を振り返っておこう。自民党内では、改造は故安倍元首相の四十九日を経たお盆明けに行われるという見方が多かった。

 だが6日、岸田首相が10日に党役員人事・内閣改造を行うと発表したので、党内は驚いた。実をいうと、10日に改造するという首相の意向は、党内根回しをしていたことから、5日の段階で広がっていた。

 内閣改造人事は、衆院解散と並んで、首相の専権事項だ。岸田首相が改造人事を考えたのは4日以前のことだろう。

 4日は大変なことが起こっていた。2日から3日にかけてのペロシ下院議長の訪台日程が終わると、4日の午後以降、中国は台湾の「海上封鎖」ともいえる軍事演習を行った。

 4日午後には、日本のEEZ(排他的経済水域)に中国の弾道ミサイル5発が着弾した。中国側が「予定通り標的に着弾した」と言っている以上、狙って行ったものだ。国際法上、EEZ内で軍事演習を禁止する条項はないが、日本への迷惑行為であり、EEZの趣旨に反し国際法上限りなく危険な行為だ。

 これに対して日本は電話抗議をしたというが、それで十分だったのだろうか。北朝鮮の弾道ミサイルが日本のEEZ内に着弾したときはNSC(国家安全保障会議)を開いている。今回、中国の暴挙は初めてであったにもかかわらず、岸田首相がNSCを召集しなかったのはまったく不可解だ。

 5日午前中、訪日したペロシ氏と岸田首相は会談をしている。4日午後または5日午前中にNSCを召集したうえ、中国にはしっかりと抗議すべきだった。

 以上、10日改造までの経緯を4日午後のEEZへの着弾から考えてみると、筆者は、10日改造が頭にあったので、NSC開催の手順が抜けたのではないかと邪推している。

すべてが根回しの「オレ流」

 いずれにしても、日本がNSCを開催しなかった結果、EEZへミサイルを5発くらい打ち込んでもいいというメッセージを中国側に与えてしまった。しかも、中国は日本のEEZなど存在しないと言い放っている。これを許せば、そのうち日本の領海、領空、領土など存在しないとも言いだしかねない。

 NSCを開催しなかったことと内閣改造の因果関係は、岸田首相しか分からない。だが両者は同時期の話だ。マスコミは内閣改造の話が出ると、それにばかり関心が向く。NSCを開催しなかったことを見過ごしたマスコミは、日本をとりまく安全保障がかなり危機的になっていることへの意識も希薄だ。

 これで分かるように、岸田政権は危機感にまったく欠けていると言っていい。それは、改造人事の結果にも現れている。岸田首相の意図は何か、安全保障や経済・財政政策の方向性はどうなるのかを考えてみよう。

 率直にいって今回の人事は、「岸田首相の『オレ流』脱安倍・昭和人事」だ。

 改造の前日に人事はすべて明らかになったが、これは各方面にしっかりとした根回しの結果だ。2001年の小泉政権以前にみられた、古き良き時代のやり方だ。

 「骨格は残す」と、外相・財務相・国交相・官房長官の留任を決めたが、外相の留任は即中国にも配慮するとのメッセージになった。岸田首相にとって、気を遣う「各方面」には、中国も含まれていたのだろう。財務相の留任は、財務官僚にこれまで通りに緊縮財政でやれとの指示にもなっている。

 政局的な面でいえば、高市早苗氏を経済安全相に、河野太郎氏をデジタル相につけたことがポイントだ。総裁選で戦った両氏を党から閣内に戻し、それぞれ内閣府大臣という官僚の人事権のない軽量ポストにつけた。軽量とはいえ閣僚なので、独自の意見を言えば閣内不一致になる以上、二人への牽制にもなる。

 安全保障では、林外相は留任したが、防衛相は故安倍元首相の実弟の岸信夫氏から元防衛相の浜田靖一氏へ変わった。中国にとっては歓迎だろう。浜田氏は防衛族であるが、石破茂氏に近いといわれている。

 防衛費の増額は、自民党の選挙公約にもなっていた。その手段として、安倍元首相は「防衛国債」を主張していたが、今回の人事でそれが実現する可能性はかなり少なくなっただろう。「防衛」増税を前提とする「つなぎ国債」であればその可能性は大いにある。

安倍氏の抗議も「反故」に

 安全保障では、「防衛国債」以外にも脱安倍の動きが出ていた。内閣改造に先立つ官僚人事で防衛事務次官や海上保安庁の交代で脱安倍の流れがはっきり出ていたが、今回の内閣改造はその仕上げといっていい。

 その証拠に、浜田防衛相は初仕事として、島田前防衛次官の大臣政策参与職を解いた。今年6月、島田氏が防衛次官を退任する人事に対し、安倍元首相が岸田首相に直接抗議した。その結果、事務次官は退任するが政策参与として残るという妥協策が示された。

 ところが、わずか1ヵ月足らずで浜田防衛相はそれを反故にしたわけだ。島田氏が「防衛国債」を主張したらマズいと考えたのだろう。

安倍元総理

 経済・財政政策でも、脱安倍だ。高市氏が党政調会長から閣内に回ったが、党の方が安倍流の反緊縮のメッセージが出しやすかった。閣内では所管外で発言は制約されることになるだろう。

 秋の補正予算で、どの程度財政支出を出せるかどうか。今回の改造人事によって、財務省は政治的な圧力を心配せずに、緊縮的な補正予算と来年度予算編成の態勢ができたことだろう。

 来年春の日銀人事でも、緊縮的な人事が予想される。直ちに金融引き締めに転じないが、流れは変わるだろう。昭和のあと、平成デフレに突入したが、それが繰り返されるのだろうか。

 実際、内閣改造後に政権支持率が下がっている。マスコミはこれを旧統一教会と自民党との不透明な関係のためというが、はたしてそうなのか。報道だけをみると、そうした印象操作の影響を受けるかもしれない。だが一定の人を岸田政権から排除するために、旧統一教会が持ちだされたと見えなくもない。

 派閥均衡の話など、議論するのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの酷い改造である。このような危機意識の欠如した内閣改造をやれば、政権支持率が下がるのは当然ともいえる。ひょっとすると、マスコミは故安倍元首相をもう叩けないから、岸田政権叩きに転じたのかもしれない。
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髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】組閣の大失敗で、岸田政権は短期政権に(゚д゚)!

上の記事で高橋洋一氏は、「派閥均衡の話など、議論するのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの酷い改造である。このような危機意識の欠如した内閣改造をやれば、政権支持率が下がるのは当然ともいえる」としていますが、そのとおりです。

そうして、有権者は実は大方の政治家などが考えているより、賢いと思います。参院選前までは、参院選で自民党か惨敗してしまえば、捻じれ状況が起きたり、まかり間違って野党が躍進して、政権交代への道筋をつけることになっては大変なことになると考えた多数の有権者が参院選までは、岸田政権を支持したのでしょう。

岸田政権には不満もあるのですが、それにしても野党よりは随分ましだと思っていたのでしょう。ただ、参院選で自民党が勝ったということで、しかも今後は「黄金の3年」ということで、しばらく選挙はないということで、今度は岸田政権への不満が表に出てきたのだと思います。

この動きは、岸田首相が何かを変えない限り続くと思います。安倍元総理を支持してきた、保守の岩盤支持層はすでに、岸田政権からは心が離れているでしょう。

読売新聞世帯調査

読売新聞世論調査では、岸田内閣を「支持する」と答えた人は51%で、8月5日から7日に行った前回の調査に比べ6ポイント下がり、政権発足以来、最低となりました。

7月11日から12日に行った調査では、「支持する」が65%だったので、およそ1か月で14ポイント下がりました。

「支持しない」と答えた人は34%で、発足以来、最も高い数値となりました。読売新聞の調査では、保守岩盤層などの分析を行っていないのが残念なところですが、たとえば、「安倍政権を支持していた人」という項目で調査すれば、保守岩盤層の離反がはっきり見えたのではないかと思います。

この調査は、他はあまり参考になるものはありませんでしたが、一番最後の項目だけ以下にあげておきます。


やはり、多くの人は、景気や物価対策に関心があるようです。それは、そうです。安倍政権が最長の政権となったのは、日銀が金融緩和を継続した結果、雇用が格段に良くなったからであり、もしこれがなければ、安倍政権はあのように長期政権にはならなかったでしょう。

上の記事で、高橋洋一氏は懸念を表明しています。
 秋の補正予算で、どの程度財政支出を出せるかどうか。今回の改造人事によって、財務省は政治的な圧力を心配せずに、緊縮的な補正予算と来年度予算編成の態勢ができたことだろう。

 来年春の日銀人事でも、緊縮的な人事が予想される。直ちに金融引き締めに転じないが、流れは変わるだろう。昭和のあと、平成デフレに突入したが、それが繰り返されるのだろうか。

この懸念は当然のことだと思います。私も以前このブログでそれを表明していました。

今後現状のまま、まともな経済対策をせず、しかも来年4月の黒田総裁の辞任にともない日銀総裁に、いわゆる反リフレ派の人間を据え、日銀が再度金融引締路線に戻れば、秋には失業率が本格的にあがりはじめますし、経済も本格的に悪くなります。そうなれば、内閣支持率はかなり低下するでしょう。

この内閣の陣容をみていると、あらためて「マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになる」ことになりそうです。来年の秋ころには、自民党内に「岸田バッシング」の声が沸き起こりそうてす。 

現状では、有権者のうち保守岩盤層はすでに岸田政権から離反したようですが、岸田政権が財政で緊縮路線に走れば、支持率はさらにおちます。さらに日銀総裁人事で金融引締派を総裁に据えれば、雇用もみるみる悪化して、支持率はかなり落ちて、来秋あたりには30%を切るとなどという事態にもなりかねません。

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岸田派は自民党内では、第五派閥にすぎません。最大は、安倍派です。そうして、今回の人事では、安倍元首相の政策の継承者である菅前総理大臣を閣内に取り込まなかったことは大失敗でした。

菅氏を取り込めば、安倍元総理の政策をある程度は取り込まなければならなくなりますし、そうすれば、そういう方向性であることを表明することにもなりましたが、そうしなかったので自民党内の保守派は、いつ離反してもおかしくないと思います。

これから岸田首相は、安倍氏がいかに党内の不満や反発のマトになってくれていたかを実感することになるでしょう。今後も、岸田政権が何らの抜本的な手を打たなければ、景気は悪化しつづけるでしょう。

菅前首相は、岸田政権では無役ですが、わずか1年の首相時代に、新型コロナワクチンの確保と接種に心血を注ぎ、東京五輪・パラリンピック開催、携帯電話料金の値下げ、デジタル庁創設など、数々の成果を挙げた手腕は高く評価されています。

また、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題など、沖縄の基地負担軽減と振興政策には、今も強い関心を寄せています。県知事選(25日告示、9月11日投開票)を控えた沖縄県は、菅氏への期待が大きいといわれます。

 昨年の衆院選、先の参院選とも、菅氏の人気は衰えず応援演説に全国を回りました。 菅氏は、盟友である安倍氏から引き継ぐべきことについて、大手新聞の取材に次のように語っています。

「経済や安全保障は、自民党としてきっちりやっていかないといけない。2012年衆院選で訴えた『日本を、取り戻す』という原点を忘れないようにしなければいけない」(読売新聞8月3日付) 

「今回の事件で、我が国が安倍さんを失った損失は計り知れない。(中略)安倍さんは日本の進むべき道筋を残してくれました。(中略)その道筋から外れてしまわぬよう、安倍さんの遺志を継いでゆく責務があると思っています」(週刊新潮8月11・18日号)

 岸田首相には内閣改造で、「菅氏の副総理案」があったといわれます。政権の後ろ盾だった安倍氏亡きいま、麻生太郎副総裁と、菅氏の副総理が実現すれば、党と政府の強力な両輪となり、政権の安定感は増すとみられました。

 しかし、菅氏は立場に縛られるより、目の前の政治課題に自由な立場で柔軟に対応し、安倍氏の遺志を継いでゆくことが責務と考えているようにも見えます。

 こうしたなか、菅氏と緊密な人間関係を持つ森山裕氏が、選対委員長として党4役に入ったことは注目です。 菅氏はこれを機に、岸田首相と距離を置く、二階俊博元幹事長ら長老・実力者とのパイプ役として政権に協力することで、安倍氏の遺志を継いでいくのでしょうか。

それとも、岸田首相が日本の進むべき道から外れないよう、対峙(たいじ)・牽制(けんせい)することで、安倍氏の「日本を、取り戻す」という遺志を継ぐ覚悟なのでしょうか。

この10年、自民党は安倍という偉大な人物を戴いて安定を保ってきました。しかし凡人の岸田氏に、安倍のような箍(たが)の役割が果たせるとは考えらません。安倍派が瓦解すれば、自民党全体の空中分解をも招きかねないです。

安倍元首相の国葬が終了するまでは、あまり大きな動きはないでしょう。私は、たとえば安倍派と菅元総理が協力関係に入るなどの、大きなサプライズが、年内に起こるのではないかと思います。そうして来年に向けて、政局が動いていくのではないかと思います。

今後の推移をみる必要があるとは思いますが、岸田内閣は今回の人事の大失敗で、短期政権になる可能性が高まったと思います。

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2022年8月14日日曜日

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トランプ前大統領に〝スパイ容疑〟機密文書11件を押収 「捜査は不当」と大激怒 「共和党潰し」の声も 「韓国のようで、異例ずくめ」

マルアラーゴ

 ドナルド・トランプ前米大統領に、スパイ法違反容疑が直撃している。米連邦捜査局(FBI)は、トランプ氏が退任時に重要な国家機密を持ち出した容疑で、フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、11件もの機密文書を押収していたという。FBIによる、前大統領への強制捜査は極めて異例で、2024年の次期大統領選への出馬に意欲を示しているトランプ氏は捜査は不当だなどと激怒している。まるで隣国のような騒動だが、一体何が起きているのか。


 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)や、米紙ワシントン・ポスト(同)などの報道によると、FBIは8日、フロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、11点の書類などを押収した。捜索時は、トランプ氏は不在だったという。

 容疑は、国立公文書館(NARA)に引き渡すことが義務付けられている大統領在任中の機密文書を、トランプ氏側が保管しているというもの。フロリダ州の連邦裁判所が、捜索令状や付属文書を公開した。

 約20箱分の押収物品には、米国の最高機密文書にあたる文書も含まれているといい、押収品のリストには、写真がまとめられたバインダー、手書きのメモなどのほか、フランス大統領に関する情報と分類されたものもあった。

 トランプ氏は家宅捜索を受け、「すべて機密解除された文書だ」と反論する声明を発表した。「(マールアラーゴは)現在、包囲され、捜索され、占拠されている」「関連する政府機関と協力しており、この抜き打ちの家宅捜索は必要でも適切でもなかった」と、怒りをぶちまけた。

 ワシントン・ポストは、今回の捜索について、核兵器に関連する機密文書を捜すためだったが、実際に押収したかは不明だと報じている。

 核兵器に関する機微な情報が含まれる文書は、限られた政府関係者しか触れることができない。もし、トランプ氏が外部に持ち出して機密漏洩(ろうえい)があれば、敵対国を利するうえ、他国の不安も招くという指摘がある。

 こうしたなか、メリック・ガーランド司法長官は11日の記者会見で、「捜索令状を申請する決定は、私自身が承認した」と明言した。容疑については明かさなかったが、「前大統領が捜索を公に認めたことや、公益性」を考慮して、捜査状況を公表したと説明した。

 今回の捜索をめぐっては、支持率低下が著しいジョー・バイデン大統領(民主党)の政権側が、11月の中間選挙や次期大統領選を見据えながら、「トランプ潰し」「共和党潰し」を狙ったとの指摘もある。バイデン氏は2020年の大統領選で、共和党候補のトランプ氏を接戦の末、破った。

 共和党の一部や、トランプ支持者は「FBIの政治利用」と猛烈に批判しているが、ガーランド氏は先の会見で、「司法省がこのような決定を軽々しく行うことはない」と強調した。

 トランプ支持者とみられる人物の過激事件も発生した。

 米中西部オハイオ州シンシナティのFBI事務所に11日、武装した男が侵入を試みて逃走、警察との銃撃戦の末、射殺された。男はトランプ氏の熱烈な支持者だったとみられる。

■島田教授「政争の一面」

 トランプ氏は、大統領在任中も過激な言動で注目を集め、熱狂的な支持者らが連邦議会議事堂に乱入する事件も起きている。今回のFBIの捜索への報復を叫ぶ声も一部で強まっており、緊張が高まっている。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「今回の捜査は、政争の一面がある。背景には、バイデン氏の次男、ハンター氏が役員を務めていたウクライナ企業などから得た報酬をめぐる疑惑がある。米議会では、共和党がハンター疑惑を徹底追及する構えで、その前にバイデン氏側が政敵に攻撃を仕掛けたかたちだ。大統領が退任時に文書を持ち出すことは過去にもあり、さまざまな手続きで適正な管理が行われてきた。捜査の是非で米国世論が分断され、党派で激しく対立している。辞めた大統領を捜査する動きは、さながら韓国のようで、異例ずくめだ」と語っている。

【私の論評】米民主党はトランプ弾劾に続き、スパイ容疑でトランプ氏を貶めようとしたが、失敗に終わる(゚д゚)!


米連邦捜査局(FBI)が8日、ドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州パームビーチ「マールアラーゴ」別荘を家宅捜索したのに続き、10日(現地時間)には検察がトランプ氏を呼んで捜査しました。

そもそも、自分が大統領時代の公文書を、退任してからも、一定期間保管しているというのは、トランプ氏だけではなく、自らが関わった外交上の問題などについて曖昧な部分を確認して、何か新たな問題が発生したとき備え等や、将来の回想録などの準備として、歴代の大統領が実施してきたことです。オバマ氏もそうしていました。

今回のこのような暴挙によって246年の米国史上初めて元大統領が刑事起訴される可能性が高まり、マールアラーゴとニューヨークのトランプタワーなどではバイデン大統領の支持者とトランプ氏の支持者がそれぞれ賛否デモを行いました。

FBIによる強制捜査を受けて、トランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」には複数の支持者が集まった。8日

ニューヨークタイムズ(NYT)・CNBCなどによると、トランプ氏はこの日、ニューヨーク州の検察当局で行われた約6時間ほど調査で「自身の証人になることを強要されてはならない」という修正憲法第5条を根拠に黙秘権を行使しました。トランプ氏はすべての質問に「同じ(Same Answer)」という言葉を440回以上繰り返したといいます。

トランプ氏は調査前に立場を表明し「人種差別論者のニューヨーク州司法長官に会うことになった」とし「米国史上最大の魔女狩りの一環」と主張しました。民主党支持者の黒人女性レティシア・ジェームズ・ニューヨーク州司法長官が政治的な理由で自身を標的捜査するという意味です。

ニューヨーク州の検察当局は、トランプ一家が保有不動産の資産価値を脱税のために縮小し、銀行の融資を受ける過程では膨らませたという容疑を過去3年間にわたり捜査してきました。

捜査をめぐり米メディアの意見も分かれました。ワシントンポストのコラムニスト、イシャン・サルア氏は9日、「米国、元指導者を捜査する民主国家に合流」というコラムで「米国に前例がないだけで、健全な民主主義国家が元指導者を調査して有罪で収監するのは正常」とし「誰も法の上に存在しないというのは民主主義国家の基本」と指摘しました。

続いて韓国の李明博(イ・ミョンバク)朴槿恵(パク・クネ)元大統領に対する処罰に言及しながら「韓国は米国のように政治的に二極化したが、元大統領に対する怒りを眠らせ、保守から進歩、また保守への平和で民主的な政権交代を成し遂げた」とし「米国人はこれに注目すべき」と強調しました。ブルームバーグ通信のコッシュ氏は「元国家首班が法の審判台に立つのは民主主義の尺度になる」と評価しました。

李明博元大統領(左)と朴槿恵元大統領

一方、ウォールストリートジャーナル(WSJ)はこの日、[FBIの危険なトランプ捜索」と題した社説で「家宅捜索が11月の中間選挙を約90日後に控えて行われ、政治的な目的が疑われる」とし「ガーランド司法長官が米国を危険な道に導いている」と批判しました。

WSJは「トランプ氏が容疑を晴らすことになれば『殉教者』のイメージで2024年の大統領選挙に出馬し、自身に否定的だった共和党員の支持まで受けることができるだろう」と予想しました。NYTも「トランプ氏が『魔女狩りされた殉教者』イメージを固めるかもしれない」とし「今回の捜査が『弱者』である前大統領に対する政治報復として映り、支持層結集の好材料になる可能性がある」と指摘しました。

今年の米中間選挙は11月8日に行われ、連邦議会の選挙では上院の100議席のうち35議席と下院の435議席すべてが改選される予定で、現在、上下両院ともに主導権を握る与党・民主党が議席を維持できるかが最大の焦点です。

ただ、バイデン大統領の支持率は今月4日時点の各種世論調査の平均で39.6%と、アメリカ国内で続く記録的なインフレなどを背景に低迷しています。


中間選挙は歴史的に政権与党に厳しい結果になることが多く、今回も与党・民主党の苦戦を予想する見方が広がっています。

米国では物価の高騰が市民生活を直撃し、国民の不満がバイデン政権に向かっていて、特定の支持政党がないいわゆる無党派層や民主党支持層の間でも支持が揺らいでいます。

中間選挙で与党・民主党の苦戦を予想する見方が広がるなか、攻勢を強めているのが共和党のトランプ前大統領です。

220人以上の候補者に推薦を出して勢力を広めつつ、共和党内の「反トランプ派」には「刺客候補」をぶつけて再選を阻んできました。近く、2年後の大統領選に向けた出馬宣言をするかどうかも注目されています。

 「また1人、弾劾(だんがい)者を倒した」。今月10日、トランプ氏は祝福の言葉をSNSに投稿しました。

ワシントン州における下院議員候補を決める予備選で、7選を狙った共和党のボイトラー下院議員が敗れたためだ。代わって当選したのは、トランプ氏が送り込んだ「刺客候補」でした。

昨年1月の議会襲撃事件を受け、民主党はトランプ氏の弾劾(だんがい)訴追を提案しました。これに共和党から賛成した下院議員が10人。これらの議員が「裏切り者」として狙い撃ちにされているのです。

10人のうち、予備選を勝ち抜いて11月の中間選挙に出馬できる議員は2人にとどまります。3人は予備選で「刺客」に敗れ、4人は不出馬を決めました。

そして最後の1人が、リズ・チェイニー下院議員だ。ブッシュ(子)政権の副大統領だったディック・チェイニー氏を父に持ち、自らも過去3回の選挙で圧勝してきました。

ところがトランプ氏を批判したことで状況は一変しました。16日に投開票されるワイオミング州予備選に向けて、世論調査では「刺客候補」にリードを許す苦しい展開となっています。

リズ・チェイニー氏

中間選挙をめぐり、トランプ氏は刺客候補を含む220人以上(上下院、州知事選など)の候補者たちに推薦を出してきました。

このようなトランプ氏の動きに、脅威をいだき、とにかくトランプ大統領再選絶対阻止の構えのなかで、今回のスパイ法違反容疑の件が浮上してきています。これは、露骨なトランプ叩きの一環と断言しても良いでしょう。

民主党のどのレベルがこのようなことを実行する決定をしたのか、わかりませんか、相当ハイレベルなところでの決定であることは間違いなです。そうでないと、FBIや司法省を動かすことはできません。

しかし、このようなことをしても、トランプ氏をスパイ容疑で逮捕するのは、かなり難しいでしょう。なにしろ、トランプ氏は大統領のときに、スパイなどの取締を強化した張本人です。そのような人物を、スパイ容疑で逮捕するのは至難の業でしょう。

ただ、民主党はそれを認識した上で、そのようなことをした可能性が高いです。このブログでも指摘したように、民主党はそのようなことは不可能と知った上で、トランプ氏を弾劾しようとしました。これは、当然のことながら失敗しました。

そのようなことをなぜしたのかとえば、弾劾できるできないは別にして、トランプ氏にマイナスのイメージを植え付けようとしたのでしょう。とにかく、トランプ氏大統領再選の芽を摘んでおきたいというのが本音でしょう。

民主党は、トランプ氏を本気でスパイ容疑で逮捕させようとしているわけではないのでしょう。本気だとすれば、弾劾の時のように相当いかれていると言わざるを得ません。これも、やはりトランプ氏にマイナスのイメージを植え付ける一環だと考えられます。

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2022年8月13日土曜日

オリビア・ニュートン・ジョンさん、豪州で国葬 遺族が申し入れ受け入れる―【私の論評】世界標準では、国葬に対して異議を唱えることかできるのは遺族のみ(゚д゚)!

オリビア・ニュートン・ジョンさん、豪州で国葬 遺族が申し入れ受け入れる

在りし日のオリビア・ニュートン・ジョンさん

 オーストラリアで故オリビア・ニュートン・ジョンさんの国葬が執り行われることが明らかになった。73歳で帰らぬ人となった世界的歌手の遺族が、国葬の申し入れを承諾したという。

  甥のトッティ・ゴールドスミスさんは、同国の報道番組に「私達はそれを受け入れます。私達の家族に代わってだけでなく、オーストラリアもそれを必要としていると思います。彼女はとても愛されていましたから」「私達の国がそれを必要としていることから、私達はそれを受け入れることにしました」と話している。

 日時や会場など詳細については明らかにされていないが、遺族とビクトリア州のダニエル・アンドリュース首相や関係部署の間で話し合いが続いているという。

  アンドリュース首相は先日、公式な追悼式典を行うことを発表していた。

【私の論評】世界標準では、国葬に対して異議を唱えることかできるのは遺族のみ(゚д゚)!

オリビア・ニュートン・ジョンさんは、「カントリー・ロード」など日本でも大ヒットを飛ばし、2021年には日本の勲章の一つ「旭日小綬章」を授与されていました。

追悼の意味も含めて、以下にオリビア・ニュートン・ジョンさんの動画を掲載させていただきます。本当に懐かしいです。あらためて、ご冥福をお祈りさせていただきます。


上の記事で国葬について、遺族の語ったところがあります。
甥のトッティ・ゴールドスミスさんは、同国の報道番組に「私達はそれを受け入れます。私達の家族に代わってだけでなく、オーストラリアもそれを必要としていると思います。彼女はとても愛されていましたから」「私達の国がそれを必要としていることから、私達はそれを受け入れることにしました」と話している。

これからもわかると思いますが、普通国葬に意義を唱えることができるのは、遺族だということです。そうして、おそらく、国葬を中止するには、一人や二人の遺族ではなく、圧倒的多数の遺族が反対する場合に限ると思います。それも、何か特殊な場合に限ると思います。これは社会常識だと思います。

岸田首相は記者会見(7月14日)で、国葬儀について以下のように述べています。
国葬儀、いわゆる国葬についてですが、これは、費用負担については国の儀式として実施するものであり、その全額が国費による支弁となるものであると考えています。 
そして、国会の審議等が必要なのかという質問につきましては、国の儀式を内閣が行うことについては、平成13年1月6日施行の内閣府設置法において、内閣府の所掌事務として、国の儀式に関する事務に関すること、これが明記されています。 
よって、国の儀式として行う国葬儀については、閣議決定を根拠として、行政が国を代表して行い得るものであると考えます。これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております。
アンドリュース首相が、オリビア・ニュートン・ジョンさんの公式な追悼式典を実施すると述べていたように、国葬儀はあくまでも政府による公式な追悼式典であり、これには内閣設置法という明確な法的根拠があります。

これは追悼式典であり、お葬式ではありません。安倍元首相の場合は、すでに葬式は終わっています。オリビア・ニュートン・ジョンさんもすでに終了しているでしょう。

安倍元総理の追悼式典を実施することには、明確な法的根拠もあり、遺族の反対もないということであれば、これに反対する意味など全くありません。というより、遺族以外の人がこれに反対するなどということは、お過度違いというか無礼です。

このあたりの背景について、以下の動画で高橋洋一氏が語っています。


来月27日に行われる安倍元総理大臣の「国葬」に反対する市民グループが、予算の執行などをさせないよう求めた仮処分の申し立てについて、東京地方裁判所は「『国葬』によって思想や良心の自由が侵害されるとはいえない」として、退ける決定をしました。

当然といえば、当然です。仮にオーストラリアで、ニュートンジョンさんの遺族でもない人が、国葬反対などと叫んでみても、誰にも相手にされないでしょう。

それは、日本でも同じことです。安倍元総理の遺族でもない人が、国葬反対などと叫んでみても、本来誰にも相手にされないのが、世界標準なのです。

このようなことを言うと反発する人もいるかもしれませんが、たとえば社葬を例にとると理解しやすいと思います。

これについては詳細は以下の記事をご覧になってください。
社葬とは?社葬の種類・個人葬との違い・税法上の取り扱いなど
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
社葬とは、会社が運営主体となって執り行われる葬儀のことです。社葬と聞くと大きな会社が執り行うイメージがありますが、社葬には税制上のメリットなどもあり、中小企業や自営業の方にもおすすめの形式です。
一般葬も社葬も、故人の死を悼み、遺族の悲しみを慰めるという目的は同じですが、社葬を執り行うことにはそのほかにも大切な目的があります。

社葬は、社内外に故人の功績を称え、故人の会社に対する想いを引き継いでいく意思をアピールする場でもあります。また、代表者が亡くなった場合は、後継者が取引先や社員など、関係者に対して事業の承継を宣言する場でもあります。

今後の体制が盤石であるということを示すためにも、社葬を滞りなく運営することが重要です。社葬が、今後の会社のイメージを左右することもあります。
ますば、社葬に関して、社外の人が反対するのは変ですし、会社内では、最終意思決定は取締役会などで決められると思います。これに対して、異議を申し立てる人がいるとすれば、遺族くらいしかいないと思います。社員で異議を唱える風変わりな人などは、いないのが普通だと思います。

それに、中小企業などは別にして、大企業の場合は、遺族による葬儀が終わったあとに、社葬が行われるのが普通です。

チエル株式会社の社葬の看板

日本は、民主国家であるため、国葬儀に絶対反対というのであれば、それを阻止する方法はあります。裁判に訴えようとする人もいますが、政府の式典に関する法的根拠は内閣府設置法に定めてあるので、この内閣設置法に明らかに反していない限り、それは司法が関与すべきではないと判断するのが普通です。

それでも絶対反対というのであれば阻止する方法はあります。国葬に反対する国会議員を4分の1以上集め国会を召集し、議員の過半数を固め内閣不信任を成立させ解散に追い込みます。その後、反対する野党で政権交代を果たします。その後に、新政権で中止の閣議決定をします。そうすば、阻止できますが、まずは無理でしょう。

私自身は、安倍元総理の国葬儀は、オリンピックと同じようなことになると思います。オリンピックの開催には反対意見も多かったのですが、実際に観客なしという変則的な形であっても開催されてしまうと、テレビは普通に報道しましたし、ほとんどの人がそれなりにテレビなどで観戦していました。

開催された後でも声高に反対を叫ぶ人はあまりいませんでした。

安倍元総理の国葬儀も同じことだと思います。多くの国々からハイクラスの弔問客が訪れれば、これはテレビなどでも普通に報道されるでしょう。これは、世界中のマスメディアがとりあげるでしょう。日本のメディアも熱心にとりあげることになるでしょう。

ハイレベルの弔問客の多さに、多くの人は改めて、安倍元総理の業績の大きさに気付かされるでしょう。さらに、岸田政権と他国のハイレベル弔問客との会談が催されるでしょう。あるいは、弔問客同士の会議も開催されるかもしれません。これが良い結果を生み出せば、これも報道されることになるでしょう。

このような中、反対の声を上げ続ける人も一部いるでしょうが、なにやら場違い感を与えるだけになるでしょう。

安倍元総理を極悪人だと思っていた、ワイドーショー民である老人たちも、考えを改めるかもしれないとも思ったのですが、これは無理でしょう。

ワイドーショーでは、国葬が執り行わている間でも「安倍批判」「統一教会批判」を行うコメンテーターも存在するでしょう。

ますますワイドショーにのめりこみ、テレビや新聞の情報操作により歪められた現実の妄想世界に没入し、「アベガー、アベガー」と叫び、認知症を悪化させることになるかもしれません。こういう人たちにつける薬はないのかもしれません。

岸田政権としては、この機会を逃さず、せっかく安倍元総理が築いた各国との良い関係を継続できるように努力していただきたいものです。

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2022年8月12日金曜日

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く―【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

エストニアとラトビア、中国との経済枠組みを離脱 リトアニアに続く

バルト三国

バルト3国のエストニアとラトビアは11日、中国との経済的な協力枠組みからの離脱を決めたと発表した。枠組みにはかつて中東欧などの17カ国と中国が参加していたが、リトアニアが昨年離脱を宣言しており、これでバルト3国全てが離脱することになった。

 枠組みは2012年に始まり、巨大経済圏構想に関する経済協力などを掲げていた。エストニアとラトビアの外務省は「中国とは今後、国際ルールに基づく秩序と人権を尊重した協力を通じ、建設的で実利的な関係を築く努力を続ける」との声明を出した。ラトビアは「現在の外交、通商政策の優先順位を考慮して決定した」としている。

【私の論評】国内投資で失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきっていた(゚д゚)!

昨年リトアニアが、中国との経済枠組から離脱したことは、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
リトアニアでも動き出した台湾の国際的地位向上―【私の論評】国際社会からの共感とNATOによる兵力配備がリトアニアの安全保障の根幹(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からリトアニアが離脱した経緯に関わる部分を引用します。

リトアニアは先にも掲載したように、2012年に開始された「中・東欧サミット」、いわゆる「17+1」の参加国でした。同サミットは、EU加盟国のポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア、スロベニア、リトアニア、ラトビア、エストニアの11か国とEU非加盟国のセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、アルバニア、モンテネグロの5か国の合計16か国でスタートし、2019年にギリシアが加わり17か国となりました。

中国が一帯一路の一環として、これら諸国との貿易、投資を増大させることが期待されていました。しかしながら、今年5月にリトアニアは、「期待していたほどの経済的メリットを得られない」として、「17+1」の枠組みからの離脱を明らかにしました。台湾代表処の設置は、これに引き続くものであり、単純に、台湾からの経済メリットのほうが中国より大きいと判断したかのように見えますがそうではありません。

リトアニア国防省は、今後10年間を対象とする「脅威評価2019」という文書を公表しています。旧ソビエト連邦の共和国として、長年独立運動を実施していた歴史から、脅威評価のほとんどはロシアで占められています。

しかしながら、脅威として名指しされていた国は、ロシアの他は中国のみです。ロシアの脅威が政治、経済、軍事と幅広く述べられているのに対し、中国からの脅威は、情報活動の拡大ででした。中国は、香港や台湾に対する中国の主張を正当化する勢力の拡大を図っており、今後このような活動がリトアニアを含むEU諸国で広がってくるであろうという評価です。

「17+1」が経済的繁栄を目指すものではなく、中国の影響力拡大に使われているというのがリトアニアの見方です。今年5月リトアニア議会は中国のウィグル人に対する扱いを「ジェノサイド」として、国連の調査を要求する決議を行いました。リトアニアでは1990年の独立に際し、ソ連軍により市民が虐殺されるという事件が起こっており、共産党に対する嫌悪感も相まって、反中国に傾いたという事ができます。
今回は、リトアニアに続き、エストニアとラトビアも離脱ということで、全バルト三国が離脱したのです。

リトアニアの首都ヴィリニュス ゴシック建築と近代的ビルが混在して立ち並ぶ

こうした背景には、上で述べたようなものもありますが、それ以外にもやはり経済的な背景もあると考えられます。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!
世界各国地域の一人当たりGDPのトップ30を見ると、米国は約6.3万ドルで世界第9位、西側に属した日本は約3.9万ドルで第26位、同じくドイツは第18位、フランスは第21位、英国は第22位、イタリアは第27位、カナダも第20位と、米ソ冷戦で資本主義陣営(西側)に属した主要先進国(G7)はすべて30位以内にランクインしています。

一方、米ソ冷戦で共産主義陣営(東側)の盟主だったロシアは約1.1万ドルで第65位、東側に属していたハンガリーは約1.6万ドルで第54位、ポーランドは約1.5万ドルで第59位とランク外に甘んじている。また、世界第2位の経済大国である中国は約9,600ドルで第72位に位置しており、人口が13億人を超える巨大なインドも約2,000ドルで第144位に留まっています。

中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

「16+1」は、中国と中東欧の16ヵ国の対話・協調を促進するための枠組みであり、年に1度の首脳会合を通じて様々な合意を生み出すものとされていました。元々は「17+1」でした。ギリシャは遅れて入ったので、「+1」されています。後にチェコが離脱したので現在は「16+1」とされています。
しかし「16+1」を通じた中国の対中・東欧投資は、多額のコミットがなされたものの、その多くが実現されず、実現されても大幅に遅れたり、当初の想定を遙かに超える莫大な費用がかかることが明らかとなったりしてきました。

インフラ工事のための労働力も全て中国から調達したため、中・東欧現地の雇用も促進されませんでした。「16+1」の枠組みを用いて中国と協議を行い、中国の市場開放を促すことを試みていたバルト諸国なども、頑なに市場開放に応じない中国の態度に失望を隠さなくなりました。
そもそも、一人あたりのGDPの低く国際投資のノウハウに乏しい中国が、中国よりは一人あたりのGDPが高いバルト三国に投資したとしても、バルト三国の国民が豊になることなどありません。

ちなみに、以下に中国とバルト三国の一人あたりのGDP の比較を掲載します。単位はドルです。
中国 12,359 ラトビア 20,581 エストニア 27,282     リトアニア 23,473
中国というと経済大国というイメージが強いですが、一人あたりのGDPではこの程度(世界65位)なのです。人口が 14億人もいるので、国単位としては、大きい経済であるというだけです。

中央東欧諸国では、一人あたりのGDPでは、中国を凌ぐ国も多くあります。このような国々では、  今後もバルト三国のように枠組みから抜ける国も続くでしょう。

今後は、中東欧だけではなく、世界中の中国から投資を受けている国のうち、まずは一人あたりのGDPが中国との経済枠組みから抜け出ていくことでしょう。

そうなると、いわゆる貧乏国だけが、一帯一路などの枠組みに残ることになります。そうなると、中国は投資をしても、元をとることすらできなくなる可能性があります。

中国は、国内投資でも失敗続きです。不動産バブルの崩壊はすでに報じられているところですが、高速鉄道の投資においても、大失敗しています。

2月に開かれた北京冬季五輪のために中国が整備した高速鉄道(中国版新幹線)の新路線が、需要不足で1日1往復だけの運行になっています。駅前の商業施設は閉鎖中。国家の威信をかけたプロジェクトが有効活用されていません。

 中国は北京と河北省張家口に分散する五輪会場を約1時間で結ぶ新路線を建設。中国メディアによると総投資額は580億元(約1兆2千億円)。「万里の長城」の地下深くを通る全長約12キロのトンネルを貫通させ、「ハイテク五輪」の象徴として自動運転システムも導入しました。

 大会中は1日17往復ほど運行。最高時速350キロで大会関係者や報道陣を運び、国際的に注目されました。

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまりません。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だというのです。

ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達しました。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられます。

中国の高速鉄道の借金が120兆円を超える!事業は赤字続き

さらに恐ろしいのは、これが高速鉄道ばかりでなく、高速道路や国際空港でも同じように債務を増やしていることです。
 
中国の道路は、一般道はもちろん高速道路が実に立派です。貧困地域である河南、貴州や、人より羊が圧倒的に多いウイグルであっても片側3車線という立派さです。

また、発着が1日に1便のみだったり、人影さえ見ない国際空港が300を超えるとも言われています。その1つは、江沢民元国家主席が妾に会うために建設させたと噂になっているものまであります。それぐらい、中国は“隠れ不良債権”が山となっているのが実情です。

中国の「過剰債務」が表ざたになれば、世界経済はパニックを起こしかねないです。

巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念があります。

国内投資でも失敗続きの中国が、国際投資の離れ業などできないことは、最初からわかりきったことだったといえると思います。


巨額貸し倒れリスクに怯える中国、これが「第二のスリランカ候補国リスト」だ―【私の論評】中国は民主化しなければ、閉塞感に苛まされるだけになる(゚д゚)!


2022年8月11日木曜日

内閣改造でなぜロシア協力相を続ける必要があるのか―【私の論評】岸田政権が派閥力学と財務省との関係性だけで動けば来年秋ころには、自民党内で「岸田バッシング」の声が沸き起こる(゚д゚)!

内閣改造でなぜロシア協力相を続ける必要があるのか

樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

内閣改造でも「ロシア経済分野協力担当相」ポストが存続した

 侵略国との経済協力をまだ継続するのか。

 10日に行われた内閣改造で、「ロシア経済分野協力担当相」ポストの存続が明らかになった。日本はロシアのウクライナ侵入を受けて強い制裁を課し、共同経済活動も見合わせている。その一方で、「協力」を推進するというのだから、矛盾はなはだしいというほかはない。

 ロシアからは足元を見られ、 連携してきた主要7カ国(G7)からは疑念の目を向けられるだろう。 懸念されていた対露制裁からの日本の落伍が現実になるのだろうか。
ロシアを刺激したくなかった?

 松野博一官房長官が10日午後、新しい閣僚名簿を読み上げた。西村康稔経済産業相のくだりで、他の兼任ポストとともに、「ロシア経済分野協力担当」と明確に述べた。過去の資料でも誤って読み上げたのかとも思ったが、訂正されることはなかった。

 同日午後にアップされた時事ドットコムは、サハリン2からの日本向け天然ガス供給をめぐって、「ロシアが日本に揺さぶりをかけており、先方を刺激するのは得策ではないと判断した」と報じた。

 この方針について、同日夕に記者会見した岸田文雄首相の口から何の説明もなく、メディア側から質問もでなかった。官邸詰めの記者は不思議に感じなかったようだ。

 同日夜、就任会見した西村新経産相は、冒頭発言でこのポストに触れ「ウクライナ情勢を踏まえた日露経済分野における協力プランに参加した企業への対応」と述べたにとどまった。

経済協力見合わせなのに何を担当?

 ロシア経済分野協力担当相は2016年9月に新設された。この年5月、安倍晋三首相(当時)がプーチン大統領に、エネルギー開発、医療・など8項目の経済協力を提案、合意した経緯があり、これら事業を促進することが目的だった。

 同年12月には、安倍首相の地元、山口・長門で行われた日露首脳会談で、北方領土での風力発電、養殖漁業など5項目の共同経済活動開始でも合意した。安倍政権が、ロシアとの経済協力に前のめりになった年であり、北方領土交渉を促進するという思惑からだった。

 しかし、ロシアとの経済協力に慎重な意見が国内にあり、北方領土での共同事業にしても、日本固有の領土であるにもかかわらず、いずれの法律を適用すべきかなどで対立、進展を見ていなかった。そうした中で、ことし2月、ロシアのウクライナ侵略が始まった。

 その直後、の3月2日、岸田首相が参院予算委で「ロシアとの経済分野の協力に関する政府事業は当面見合わせることを基本とする」と表明。松野官房長官も同月11日の衆院内閣委で、「幅広い分野で関係全体を発展させるよう粘り強く平和条約交渉を進めてきたが、ウクライナ情勢を踏まえれば、これまで通りはできない。8項目を含む協力事業は当面見合わせる」と説明した。

 見合わせている事業のために担当相を存続させて何をさせようというのだろう。兼任とはいえ理解不能だ。「見合わせ」は一時的であり、時機を見て復活させようという思惑なのか。

これまでは、強い制裁を課してきたが

 今回のロシアによるウクライナ侵略を受けて日本は当初から、対露制裁、ウクライナ支援でG7各国とよく協調してきた。

 ウクライナに対して、食糧、シェルターなど2億ドルにのぼる人道支援、3億ドルの円借款に加え、防衛装備品の供与を断行。防弾チョッキ、ドローン 防衛装備品にヘルメット、双眼鏡など攻撃用武器との境界が微妙な物品も含まれた。

 ロシアに対しては、最恵国待遇除外、プーチン大統領らロシア要人の資産凍結など矢継ぎ早に行い、もっとも強い手段として、東京のロシア大使館員8人を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからぬ人物」として追放した。ロシア外交官を日本政府が一挙に8人もの多数を、しかも、制裁の一環として追放するのははじめてだった。 

 ロシアの侵略直後、日本はどの程度の制裁を打ち出せるか懸念する向きが少なくなかった。

 というのも、2014年、ロシアがクリミアを併合したときの日本の制裁は、ビザ発給緩和の停止、関係者23人へのビザ停止など軽微な内容だったからだ。しかし、日本がとった措置は、こうした懸念を払しょくするに十分だった。

 それだけに、今回の「ロシア経済分野協力担当相」の存続は、「やはり」という疑念を再び呼ぶことになるだろう。

サハリン1、2の権益維持も念頭か?

 日本政府は石油などロシア極東の資源開発事業「サハリン1」、天然ガス開発事業「サハリン2」について、従来通り堅持したい方針を示している。これに対し、プーチン大統領は制裁への報復として、サハリン1の株式取引を禁じ、サハリン2をロシアの新会社に譲渡するよう命じた。

 萩生田光一経産相(当時)は8月8日、サハリン1について、「われわれはいままでの方針を維持する」と述べ、サハリン2については、日本の商社に対して、ロシアが設立したあらたな運営会社に出資継続を求めた。

 担当相ポストの継続は、こうした方針とも関係があるのかもしれない。西村経産相は就任会見で、同様に権益維持の方針を表明したが、冒頭に「参加した企業への対応」と述べたのは、商社への働きかけを指しているとみられる。

 しかし、日本が事業を継続した場合、各国からの非難は免れないだろう。ロシアのウクライナ侵略直後、米国のエクソンモービル、英国石油大手のシェルがそれぞれ「サハリン1」、「サハリン2」からの撤退を決めている経緯からだ。

 日本国内でも侵略開始の翌日の2月25日、自民党の佐藤正久外交部会長が党内の会合で「片方で制裁と言いながら、片方で共同経済活動を続けたら、各国は日本をもう信用しない」と強い調子で中止を主張、与党内で同調が広がっていた。

再び制裁の「弱い部分」になるのか

 1989年の中国の天安門事件をめぐって各国は強い制裁を課した。日本も同調したが、日中国交正常化20年の1992年、天皇(現上皇)の訪中を契機に制裁解除の先鞭をつけた。中国とは地政学的に各国と異なる立場にある日本独自の判断だった。

 当時、中国外相だった銭其琛氏は回想録の中で、西側の制裁の輪の中でもっとも弱かったのは日本であり、そこに狙いをつけたと告白。結果的に利用された日本側は悔しさを隠せなかった。

 日本は今度は対露制裁で「もっとも弱い部分」になるのだろうか。銭其琛氏の回想をよもや忘れまい。

【私の論評】岸田政権が派閥力学と財務省との関係性だけで動けば来年秋ころには、自民党内で「岸田バッシング」の声が沸き起こる(゚д゚)!

高市早苗氏が、経済安全保障担当大臣になったこと、 第2次岸田改造内閣の閣僚応接室での席次が10日、決まり「ナンバー2」とされる岸田首相の左隣には、首相と昨年の総裁選で争った高市経済安全保障相が座ることになったことをもって、日本のロシアや中国、北朝鮮、韓国などに対する制裁等が厳しくなると考える人もいるようですが、どうもそうとはいえないようです。

第2次岸田改造内閣が発足し、初めての閣議に臨む岸田首相(中央)ら(10日夜、首相官邸で)
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岸田総理大臣は昨日の内閣改造・党役員人事で、浜田靖一元防衛大臣を再起用する方針を固めました。

正式決定は昨日の午後のはずなのですが、午前中にすでにこれはもう公表されていました。 従来は、「本当にくるのかこないのか」ということで、閣僚候補者は電話の前で待機し、スーツを用意するかしないかと大騒ぎでした。実際、サプライズがあったり、番狂わせのようなことがありました。これは小泉政権の2001年くらいからそのような感じでした。

なにやら、今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようです。しかし今回は派閥均衡により、随分前から決まっていたのでしょう。

高市早苗氏

高市早苗政調会長を経済安全保障担当大臣に、河野太郎広報本部長をデジタル大臣に充てました。また、寺田稔総理補佐官を総務大臣として初入閣させています。加藤勝信前官房長官は厚生労働大臣に、西村康稔前経済再生担当大臣は経済産業大臣として再入閣しました。 留任は松野博一官房長官、鈴木俊一財務大臣、林芳正外務大臣、斉藤鉄夫国土交通大臣、山際大志郎経済再生担当大臣です。

経済安全保障担当大臣や、デジタル大臣は、内閣府大臣というものです。少子化や経済安保、地方創生など。内閣府大臣は通常の大臣とは少し違うと考えるべきです。名称は、同じ大臣なのですが、実内閣府大臣には人事権がないのです。だから 内閣府特命担当などとも呼ばれるのです。 特命担当の大臣には人事権はなく、それを誰が持っているかと言うと、官房長官なのです。

すると役人は、「この大臣は人事を行う人ではない」という対処するのです。だから、そこに骨を埋めるつもりの人はまずいません。

人事はまったく別系統なので、高市さんと、自分の人事には直接関係ないのです。役人は、自分が出世するのかどうか、自分の人事を中心に、それを目標にする人が多いのです。  ですから、この大臣にいくら言っても人事は関係ないと思うと、それなりの扱いをするのです。

もともと総務大臣などの省庁の大臣をしていた、高市氏や河野氏のよう人が、内閣府担当大臣になるのは実質的な格下げと言って良いです。省庁大臣というのは、総務省や防衛省など、人事ができる大臣なのです。

このブログでも述べてきたように、組織において最大のコントロール手段は人事なのです。人事ができるから、組織の人間をコントロールできるのです。そういう大臣を務めていた人に内閣府大臣を担当させるということは、閣内に入れたとは言っても、手足を取ってしまったということです。

そのまま一議員としてではなく、閣内で反旗を翻すわけにはいかなくなります。 おまけに周りに手下がいません。いない状態にさせるには内閣府大臣が適当なのです。はっきり言ってしまえば、飼い殺しの状態です。この難局に高市氏や河野氏をこうした状態に追いやっておいてよいのでしょうか。 

現在日本を取り巻く環境が厳しいなかで、外交安全保障が気になるところですが。外務・防衛閣僚協議(2プラス2)などにおいて、外務大臣と防衛大臣は重要なのですが、外務大臣は生え抜きの親中派の林外務大臣でそのままです。

岸首相自身は、台湾派であり、第一次岸田内閣においては、親中派の林外務大臣と親台湾の岸防衛大臣とでバランスが取れていたとも言えるのですが、今回はそれが崩れて防衛大臣は浜田靖一氏です。

浜田靖一防衛大臣

浜田氏は、浜田幸一さんの息子さんですが、浜田幸一さんのようなイメージはまったくなく、温厚で穏やかな方です。どちらかと言うと、この方は石破茂さんに近いです。

参院選自民党の公約です、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ防衛費は北大西洋条約機構(NATO)諸国が掲げる国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に置くと明記しましたが、これに財源論の話が出てきていて、「何らかの税金で手当てしない限りはできない」ということが骨太の方針にも載せるべきという議論がありました。

また、国債にすべきという議論もありましたが、財源については秋に議論を深めるということになりました。

 国債ということになると、現在の枠組みでは、海上保安庁の船は建設国債が使えます。しかし、海上自衛隊には使えないのです。どうして使えないのか意味不明です。 耐用年数が海上保安庁の方は長いから、耐用年数があって資産としてあるからということで、海上保安庁の船は建設国債を使ってもいいというロジックのようです。

しかし、有事になった場合、海上自衛隊と海上保安庁の艦艇のどちらが先に攻撃を受ける可能性が高いかといえば、最初に攻撃を受けるのは、前線に出ている海上保安庁なのです。

尖閣諸島などで、最前線の現場に出ているのが海上保安庁の艦艇であり、背後にいるのが海上自衛隊の艦艇です。有事になったとき、海上保安庁の船が速やかにどこかへ退出できるとは思えません。

既に、来年度予算をどうするのかという概算要求の話も出ていますが、自民党国防部会によれば、防衛費の予算要求5.5兆円などと従来とほとんど変わっていないではない数字が出ています。 

それでは防衛費をGDP比2%まで増やすことはできないでしょう。防衛費2%の議論においては、財務省が怪しげな手を使ってきているのですが、これは北大西洋条約機構(NATO)基準というもので、入れるときに海上保安庁の予算を一緒に加えて計算するのです。

こういうときに海上保安庁に関しては、適当に数字をかさ上げして入れたりするのです。本来海上保安庁の予算と、防衛省の予算は別の扱いでしたが、財務省はこのような操作を平気でやってのけるのです。

財務省からはこれから、そのような紛らわしい数字が多数出てくることが予想されますので、惑わされないようにすべきです。

ただ、今回のような閣僚人事だと、防衛省の方からもそういうものが出てきそうで、本当に困ったものです。今回防衛大臣人が変わったことで事務次官も変わりました。 

事務次官については防衛省側は、今年(2022年)は安保3文書(「国家安全保障戦略(国家安保戦略)」「防衛計画の大綱(防衛大綱)」「中期防衛力整備計画(中期防)」<国家安全保障会議(NSC)・閣議決定文書)の改訂があるから、「それまでは同じ人でやりたいのです」と言っていたのを、内閣人事局が変えたとされています。 

海上保安庁も菅政権までは、3代続けて制服組が長官だったのですが。 今回は国交省の事務キャリアである背広組です。

先の今回の組閣の公表は、20年以上前の組閣のようだと述べましたが、それだけではなくまるですべてが一昔に戻ったようです。

先の、話のなかで海保の予算が優遇されているかというと、まったくそんなことはなく、「海上保安庁は国交省のなかだから、国交省の予算でやってくださいね」ということになりそうです。そうすると旧建設、旧運輸の予算の取り合いのなかで、「そこまでは予算を削れませんよ」というようなことで、海保に十分な予算が割かれないということにもなりかねません。

 財務省は、国内総生産(GDP)を計算するときに上乗せしたり、様々な操作をするでしょう。都合よく数字を変えるのが財務省のテクニックなのです。 

財務省においては、ダブルスタンダード、トリプルスタンダードが平気でまかり通っています。 それをマスコミの人がわからずに騙され、それをそのままオウム返しのように報道します。

財務省は「防衛費は、5.5兆円ですが、海保の分を入れると実は6兆円に近いです」とか、「GDPの数字上からすれば、防衛費2%に向けて順調にいっています」などというようなトリックを用いることになるでしょう。

米国の定評あるビューリサーチセンターの調査では、9割近くの日本国民が中国の印象について好ましくない答えており、岸田政権があくまで親中路線を貫くというのなら、多くの有権者が離反することになるでしょう。

それに、米国は超党派で中国に対峙する体制になっていますから、米国も良い顔はしないでしよう。あまりに、岸田政権が親中派的な行動をすれば、日本の個人や組織にセカンダリー・サンクション(二次制裁)を課すことになるかもしれません。そうなれば、せっかく安倍元総理が築いた、世界における日本の存在感を毀損することになります。

さらに、昨日も述べたように、今後現状のまま、まともな経済対策をせず、しかも来年4月の黒田総裁の辞任にともない日銀総裁に、いわゆる反リフレ派の人間を据え、日銀が再度金融引締路線に戻れば、秋には失業率が本格的にあがりはじめますし、経済も本格的に悪くなります。そうなれば、内閣指示率はかなり低下するでしょう。

この内閣の陣容をみていると、あらためて昨日この記事に書いた結論である「マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになる」ことになりそうです。来年の秋ころには、自民党内に「岸田バッシング」の声が沸き起こりそうてす。

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2022年8月10日水曜日

給与引き上げは「夢のまた夢」...最低賃金31円増が「上げすぎ」である理由―【私の論評】アベノミクスを踏襲せず、派閥の力学だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊する(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
給与引き上げは「夢のまた夢」...最低賃金31円増が「上げすぎ」である理由

岸田文雄首相

  最低賃金は過去最大の31円引き上げとなった。それに対し、日本商工会議所の三村明夫会頭は、「企業物価の高騰を十分に価格転嫁出来ていない企業にとっては、非常に厳しい結果」とした。

最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決

 最低賃金については、どのような伸び率にするか、マクロ経済雇用の観点から合理的に考えられる。マクロ経済で総供給と総需要の差であるGDPギャップが分かれば、その半年先の失業率はある程度予測できる。失業率が分かれば、雇用状況を反映した賃金も分かる。こうした関係を整理すると、最低賃金の上昇率は、5.5%から前年の失業率を差し引いた程度だ。

 これで分かると思うが、最低賃金を上げるには、まず雇用の確保が先決だ。雇用の確保のためには、GDPギャップを縮小させなければいけない。これがマクロ経済学からの基本である。

 旧民主党政権は最低賃金で失敗した。2010年の最低賃金は引き上げるべきでなかったが、左派政権であることの気負いと経済政策音痴から、引き上げ額17円、前年比で2.4%も最低賃金を引き上げてしまった。前年の失業率が5.1%だったので、それから導かれる無理のない引き上げ率はせいぜい0.4%程度だった。

 今回はどうか。2021年の失業率は2.8%、これを単純に当てはめると、最低賃金は2.7%増、金額では25円引き上げがギリギリのところだ。

 しかも、失業率2.8%は実力より低い可能性がある。というのは、コロナ対策で雇用の確保を最優先したため、雇用調整助成金を充実させたので本来の失業率はもっと高い可能性もある。となると、20円程度の引き上げなので、今回は上げすぎだ。

雇用確保し、経済成長に比し相対的に人手不足になってから賃金上昇

 まず最低賃金を政策的に引き上げて、全体の賃金引き上げに繋げるというのは、政策的に間違いだ。雇用の確保を行った後、経済成長に比し相対的に人手不足になってから、賃金は上昇していくものだ。

 学者の中には、労働生産性を上げることが賃金上昇という人もいるが、それはミクロ的な見方だ。相対的に労働生産性の高い人ほど高い賃金が得られるが、マクロとして全体の底上げにならず、マクロ経済成長の下で人手不足が賃上げには必要だ。これは、いわゆる「合成の誤謬」と言われるもので、ミクロでは正しいが、マクロでは思わぬ逆効果をもたらすものだ。

 いずれにしても、岸田政権はマクロ経済の意識が欠けていて、最低賃金を実力以上に引き上げた。適切な補正予算を打たずにGDPギャップを放置しているのは、ウクライナ情勢を受けてのエネルギー価格や原材料価格の転嫁もできず、賃上げに向けての大きな懸念だ。これでは、成長も不十分で雇用の確保もまともにできず、ひいては給与の引き上げは夢のまた夢の話だ。

 冒頭に述べたが、三村会頭は、政府に環境整備を要請している。それは秋の大型補正だが、岸田政権でできるだろうか。それが出来れば、多くが好転する。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。

【私の論評】アベノミクスを踏襲せず、派閥の力学だけで動けば岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊する(゚д゚)!

7/8、安倍元首相が暗殺者の放った凶弾に倒れました。安倍元首相は2012年に「大胆な金融政策」、「機動的な財政出動」、「民間投資を喚起する成長戦略」を3本の矢とする経済政策「アベノミクス」を打ち出し、日本経済の再建に貢献しました。第2次安倍内閣の期間中(2012/12/26~20/9/16)に日経平均株価は129.4%上昇し中曽根内閣(1982/11/27~87/11/6)の187.2%以来の上昇率を記録しました。


首相退任後も自民党内での影響力を保持し、2021/11に自民党内の最大派閥の清和政策研究会の会長に就任。岸田首相に対し、「アベノミクス」の根幹を成す積極的な財政出動や防衛費の大幅増を主張するなど存在感がありました。安倍元首相の死は、経済政策にどのような影響を与えるでしょうか。

現在、自民党内では、財政政策を巡る路線対立があります。その中で安倍元首相は財政政策検討本部の最高顧問に就任。積極財政派のキーパーソンでした。骨太の方針を巡っても積極財政の立場から注文をつけていたようです。今回の内閣改造・党役員人事で安倍元首相が後ろ盾だったとされる積極財政派の高市政調会長は経済安保相に起用されたものの、萩生田氏が政調会長に起用されました。このことや、その後の財政政策検討本部の扱い等から方向性を探ってみます。

地元で演説する在りし日の安倍元首相

一方、金融政策では岸田首相自身が金融緩和策維持を示唆する発言をしており、早々に方針転換する可能性は低いと見られます。ただ岸田政権はリフレ派の片岡審議委員の後任に非リフレ派の高田氏を当てており、2023/4に任期終了の黒田総裁の後任に非リフレ派がなり、金融緩和策の維持が危ぶまれることも十分に考えられます。

とは言いながら、緊縮財政と金融引締めを同時に実施した場合、深刻な景気後退は避けられず、岸田派が最大派閥でないこともあり、支持率低下等が岸田政権の基盤を直撃する可能性もありそうです。

その為、岸田政権が財政再建を志向する場合、過去の消費税導入や引上げの前例に習い、金融政策による支援と一時的な財政支出により、好景気を演出した後に増税への準備に移ると考えます。岸田政権は財政出動に比較的消極的な点がリスクですが、岸田首相による前例踏襲に期待したいです。

第二次岸田政権の内外の懸案は山積みになっていますが、最初にクリアしなければならないのは、2022年度第2次補正予算の編成です。直近の日本経済は、物価高で実質所得が前年比マイナスに転落し、個人消費の先行きは決して明るくないです。

また、世界景気の減速から後退への懸念がマーケットでささやかれる中で、日本の外需が成長をけん引する姿も描きにくい。そこで需給ギャップのマイナスを一気に埋めるべきだと自民党内の財政拡張派のメンバーは強く主張しています。20兆円規模の「真水」が必要という声が一定の支持を得ています。

これは、内閣府が計算したもので、上の高橋洋一氏の30兆よりは少ないです。これについては、内閣府はGDPが最大のところを少し低めに見積もっているのです。内閣府の推計だと、失業が多い時点でのGDPを基準として推計しているようです。コロナ前の景気が良いときは、日本のGDP550兆くらいでしたから、本来はこれを基準とすべきです。

しかし、内閣府はそうではなく、失業率が少し高いところを基準としているため、需給ギャップは少なくなります。

そのため、過去には実績値が、内閣府の推計値を上回れば普通、物価が上がるはずなに物価が上がらないという状況になったのです。

すぐに「これは想定しているところが低過ぎる」とわかります。高橋洋一氏はそれを補正して計算したとしています。そうすると35兆円くらいになるのです。

コロナが万円し始めた頃から、菅政権が終わるまでの間、合計で100兆円の補正予算を打ちました。これは、受給ギャップに見合う予算であったためと雇用調整助成金制度により、安倍・菅両政権のときには、他の先進国がかなり失業率が増えたにもかかわらず、2%台で失業率が水居ました。

それは現在の岸田政権でも続いています。ただし、これは岸田政権の成果というよりは、菅政権の成果です。なぜそのようなことをはっきり言えるかといえば、失業率は典型的な遅行指標であり、現在の雇用政策が効果がみえてくるのは、半年後だからです。

岸田政権が成立したばかりのころにも、需給ギャップが存在しており、本来これにみあった対策をしていれば、経済が伸びていた可能性があります。

ところが、安倍・菅政権において行われた大規模な財政支出により失業率を低く抑えてきたことなど理解せず、岸田政権発足後にすぐに大型の経済対策を打たなかったことなど忘れ、過去の大規模な財政支出が、日本の潜在成長率の引き上げに結びついて来なかったことに対し、疑念を持つという「鳥頭」のマクロ経済音痴議員が多数自民党内には存在します。

こういう議員たちは、足元の潜在成長率は0.1─0.2%に低下しており、岸田政権が大規模な財政支出を未だ実行していなことを忘れ、従来と同様の財政支出を繰り返しても同じ結果になりかねないと考えているようです。大馬鹿です。

岸田首相は経済成長と財政再建の両立に理解を示しており、補正予算編成でも、財政赤字の急膨張につながるような増刷しても赤字になるはずもない国債の大増発にはくみしていないようです。

萩生田光一政調会長

そこで注目されるのが、政調会長に就任した萩生田氏の存在です。萩生田氏が岸田首相の意をくんで財政支出の大膨張に異を唱えれば、補正予算は小規模規模に収まることになるでしょう。そうではなく、安倍・菅路線を踏襲するのであれば、少なくとも、内閣府の試算による受給ギャップ20兆円の補正にこだわるでしょう。

20兆円は少ないですが、真水の20兆円ならば見込みはあります。来春にでもまた、15兆円程度の真水の補正予算を組めば何とかなります。萩生田光一政調会長は10日の記者会見で、自身の強みについて「総裁にならって『聞く力』を発揮し、ときには『聞かない力』も発揮しながら方向性を決めていく。結果を出すことに全力を尽くしたい。胆力があると自分でも思っているので、我慢して仕事に没頭していきたい」と述べました。

萩生田政調会長がマクロ経済政策の原則を重視して動けば、今秋の補正予算はまともになる可能性がでてくると思います。

ただし、今秋10兆円程度で着地する結果になれば、今回の人事は財務省の圧力が岸田首相の行動をかなり制御できることになったとみるべきです。

そうなれば、今後経済は伸びず、まもなく失業率が上がり始めるでしょう。さらに、来春黒田総裁の退任にともない、岸田政権が反リフレ派の総裁を任命して、日銀が金融引締に転じることになれば、失業率はさらにあがり、経済もマイナスに転じ、岸田政権の支持率はかなり下がることになるでしょう。

それでも、マクロ経済政策の姿勢を改めなければ、経済は落ち込み続け、失業率もあがり、岸田政権の支持率は下がり続け、岸田政権は2年目を迎えることなく、崩壊することになるでしょう。

マクロ経済の原則を理解せず、派閥の力学と財務省との関係性だけで動けばそうなります。派閥の力学と財務省との関係性だけでは、マクロ経済は変えられません。ただし、マクロ経済音痴の岸田首相にあっても、政治家の勘にある程度は期待できるかもしれません。

岸田首相の勘により官僚的な前例踏襲主義に重きをおき、アベノミクスを踏襲するであろう萩生田政調会長に経済運営を託すようにすれば、岸田長期政権の道が開かれる可能性もあります。

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2022年8月9日火曜日

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ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)




【まとめ】
  • 「台湾関係法」によって米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。
  • 現時点で中国の戦闘機や空母などが臨時転用や機動展開の能力に欠けているので、米軍と対抗するのは難しい。
  • ペロシ議長が台湾訪問後の実弾演習はあくまでも習政権が“面子”を保つための行動。

今年(2022年)8月2日、ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。ペロシ議長の訪台に関しては様々な議論がある。同2日付『ワシントン・ポスト』紙に、議長本人が自らの信念を吐露(a)しているので、一部紹介したい。

(「台湾関係法」によって)米国は台湾の防衛を支持するという厳粛な誓いを立てた。私達は、弾力性のある島、台湾の側に立たなければならない。台湾は現在、新型コロナのパンデミックに対処し、環境保全と気候変動を擁護するリーダーである。また、台湾は平和、安全保障、経済的ダイナミズムのリーダーであるし、台湾は、起業家精神、革新の文化、そして世界が羨む技術力を持っている。

以上のように、台湾を持ち上げた。けれども、周知の如く、ペロシ訪台は、中国側の反発を招く結果となった。

ここでは、軍事的観点から、その訪台を考えてみよう。最近、『中国瞭望』に掲載された沈舟の論考(b)が優れているので、大雑把に抄訳する。

今回、ペロシ訪台の際、米軍が護衛する動きを見せた。そこで、台湾海峡で、米中間に緊張状態が生じている。

7月28日、中国国防部報道官は、記者会見で(ペロシ訪台を)「絶対に容認せず、断固として反対する」などと話した。この発言を聞く限り、中国軍には十分な対応時間があったと思われる。極端な話、中国戦闘機が台湾海峡「中央線」を越えてペロシ機を迎撃することも、“理論上”可能だった。

8月2日、中国軍は主に第4.5世代戦闘機「J-16」(第4世代「J-15」の改良型)等21機を投入し台湾西南防空識別圏に進入したが、「中央線」を越えていない。ペロシ機は台北松山空港に着陸予定だったので、もし中国戦闘機が本当に同機を迎撃するつもりなら、あるいは、少なくとも接近するつもりなら、台湾東部の台北付近の空域か、台湾北部の空域に現れるはずだった。しかし、中国戦闘機は台湾の同空域を封鎖するような動きを見せていない。

実際、東部戦区の安徽省蕪湖市には、第5世代戦闘機「J-20」が駐留している。だが、台湾海峡方面への移動が間に合わなかったという。これは中国軍の同戦闘機が、臨時転用や機動展開の能力に欠けていることを反映しているのかもしれない。

また、8月2日までに、空母2隻、遼寧号が青島港を、山東号が三亜港を出港したと伝えられた。ところが、台湾海峡到達に間に合わなかったのである。こちらは、中国海軍が空母を迅速に展開できないことを示す象徴的な出来事となった。

中国初の空母「遼寧号」

一方、米軽空母トリポリは、第5世代戦闘機「F-35B」を搭載して日本の周辺部から南下し、沖縄、宮古海峡、台湾北東部の空域を制圧した。中国軍の第4.5世代戦闘機「J-16」等では、米軍の「F-35B」に対抗するのは難しいだろう。

また、米原子力空母ロナルド・レーガンは南シナ海からフィリピン海に入り、台湾南東部の海域と空域を制圧している(ただし、ひょっとして、7月28日の米中首脳会議で、ペロシ訪台の際、解放軍は一切、手を出さないという“合意”がなされていた可能性も捨て切れない)。

さて、8月2日、新華社は、突然、台湾周辺6地域を区切り、中国軍が8月4日から7日まで、これらの海域と空域で実弾演習を行うと発表した。しかし、ペロシ議長は8月3日、すでに台湾訪問を終えている。これは、あくまでも習政権が“面子”を保つための行動だろう(なお、その軍事演習については別稿に譲りたい)。

中国は極超音速中距離ミサイル「東風17号」等、台湾海峡周辺でミサイル試射の準備を進めている。だが、今度の海峡危機で、中国軍は自らの軍事能力を露呈してしまった感は否めない。

ところで、近頃、中国の短編動画プラットフォームで、ある動画が流れた(c)。この映像は、ペロシ議長が無事、台湾を訪問したが、中国軍機が同行しなかった事について、中国軍関係者が解説したモノとされる。

実は、ペロシ議長機が無事に台北松山空港に到着した時、中国軍の(第5世代戦闘機)「Su-35」は離陸したばかりだったという。

実際、中国戦闘機が台湾付近上空を飛行している間、台湾はペロシ議長の到着を生中継していた。これも米軍の強力な電子対策能力を証明するものだろう。

軍事筋によると、台湾はペロシ機の機種、位置、人員をあえて世界に発信した。台湾は電子遮蔽、電子対決能力が極めて高く、中国軍では敵わないという事を示している。

他方、米空母等から発する電磁波が、中国の「北斗衛星導航系統」(中国が独自に展開している衛星測位システム)を撃破したという。

結局、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したと言えるかもしれない。

〔注〕

(a)「オピニオン ナンシー·ペロシ: 議会代表団を率いて台湾に行く理由」
(https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/08/02/nancy-pelosi-taiwan-visit-op-ed/)。

(b)「ペロシの台湾訪問が、中国軍の正体を暴露する」(2022年8月2日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/02/2511135.html)。

(c)『万維読者網』
「中国、米中電子戦の敗北 ペロシが無事に到着した理由は」(2022年8月4日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/08/04/2511560.html)。


【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

先日は、このブログで、中国の台湾周辺での軍事演習に反応して、多くの国々がこれを脅威に感じ、これに備えようとし、大国は小国に勝てないというパラドックスの新たな事例がまた生み出されていくことになるであろうと主張したばかりです。

上の記事によれば、今度の台湾海峡危機で、中国軍は米軍に“敗北”したといっても良い状況であり、中国にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの様相を呈してきたようです。

この事実を反映してか、米国防次官は、台湾侵攻「2年以内はない」の評価維持すると表明しています。


「今、我々にとって重要なことは、中国政府に理解させることです。米軍は国際水域のどこでも飛行・航行し、それには台湾海峡も含まれます」 

カール国防次官は8日、会見で数週間以内にアメリカ軍が台湾海峡を通過するとの見通しを明らかにしました。そして、中国軍の多数の航空機や艦艇が台湾海峡の中間線を越えていることについて、台湾支配という目標に向け、少しずつ現状を変える「サラミ戦術だ」と警戒感を示しました。

 一方で、中国による台湾侵攻の可能性を「今後2年はない」としてきたアメリカ軍の見通しについて、「変更はない」としています。

台湾は世界の半導体供給の最重要拠点であり、中国が演習を継続すれば「台湾だけでなく世界経済に影響を及ぼす時期がありうる」とも指摘。「米国の政策は『自由で開かれたインド太平洋』の現状を堅持すること」とし、「航行の自由作戦」で台湾海峡の艦船通過を今後も継続すると強調しました。

バイデン米大統領も8日、中国が台湾周辺の軍事演習を継続している状況を「懸念している」と述べました。

中国軍が4日から台湾近海で実施していた「重要軍事演習」は7日に最終日を迎え、爆撃機や地上部隊などが連携し、対地攻撃や長距離対空攻撃を行う訓練を実施しました。中国軍は8日も引き続き、台湾周辺の海空域で実戦に向けた統合演習を実施したと発表し、早くも台湾周辺での演習の常態化を進めている。

中国軍で台湾を担当する「東部戦区」によると、7日には爆撃機などが地上のミサイル部隊と連携。対空迎撃訓練や、一斉発射で迎撃を難しくする飽和攻撃を多種類のミサイルで行う精密打撃訓練を実施しました。8日には海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったといいます。有事の際に台湾周辺海域に集結する米軍潜水艦への対処を念頭に置いている可能性があります。

ここで、軍事筋が注目するのは、やはり対潜訓練でしょう。このブログでは、現在の海戦の主役は潜水艦であることを述べてきました。

米国の著名な戦略家ルトワック氏も引用しているように、昔から「艦艇には2種類しかない、一つは水上艦艇であり、もう一つは潜水艦である。水上艦艇は現在ではミサイル等の標的でしかないが、潜水艦は違う、現代の海戦の主役は潜水艦である」と言われています。

台湾近海に米軍が巨大攻撃型原潜を潜ませていれば、中国にとってはかなりの脅威です。この一隻で米国は台湾海峡危機を勝利に結びつけることができます。

オハイオ級であれば、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

オハイオ級攻撃型原潜 ミサイル発射口 中国のサイトより 一部秘密保持のめ米国側のぼかしが入っている

これが一斉に中国の軍のレーダー施設、監視衛星の地上施設にめがけて、発射され破壊れば中国軍は米軍の位置を確認できなくなります。米軍はインテリジェンスにより、これらの位置を把握しているものとみられます。

さらに攻撃型原潜は今や水中のミサイル基地と言ってもよいくらいで、これに続き対艦ミサイルを打ち込めば、中国海軍は崩壊します。

実際、ルトワック氏は台湾危機には、このような原潜を2〜3隻派遣すれば十分に対応できるとしています。実際は1隻でもできるのでしょうが、24時間体制で監視し確実に攻撃をする体制にするには余裕をみて2〜3隻派遣しなければならないという意味なのだと思います。

中国軍はこのような脅威についても当然認識していると思われます。ただ、中国海軍のASW(対潜戦)能力は米国に比較して、かなり劣っていますから、これに有効に対応することはできません。

ペロシ訪台中に米軍は当然のことながら、攻撃型原潜を台湾海峡のいずれかに潜ませていたでしょうが、中国としては中国軍が目立った動きをすれば、米国側を刺激することになりかねず、ペロシが台湾を去ってから数日後の8日になって、しかも予定では7日で終わるはずたったものを8日になってようやっと海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったのです。

これは、米国を刺激したくないか、あるいは米国側に中国のASWが未だに弱いことを再確認されたくないという考えの現れであるとも解釈できます。もし、中国側がASWに自信があるといのなら、もっと早い時点で実施して、米側にこれみよがしに見せつけたと考えられます。

いやそれどころか、すでに台湾や尖閣に侵攻どころか、第二列島線を確保していたかもしれません。それが未だにできない中国には、何か弱点があるのであり、それがASWであると考えられます。

このあたりは、潜水艦の行動はいずれの国も隠すのが普通なので、表にはでてきませんが、私は米軍は当然のことながら、台湾付近で攻撃型原潜が監視にあたっていたものと推察します。

そうして、ペロシ訪台の陰で海中の戦いでも中国は米国に“敗北”していたと推察します。

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