2017年1月22日日曜日

【トランプ大統領始動】「地球上で最も不誠実な輩」とさっそくメディア批判 トランプ氏、就任から一夜明け―【私の論評】分断されていた米社会、トランプ大統領登場で統合への対話が始まる(゚д゚)!

【トランプ大統領始動】「地球上で最も不誠実な輩」とさっそくメディア批判 トランプ氏、就任から一夜明け

21日、米バージニア州ラングレーのCIAで演説
するトランプ大統領 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
トランプ米大統領は就任から一夜明けた21日朝、メラニア夫人やペンス副大統領とともにワシントン大聖堂での礼拝に参加した後、中央情報局(CIA)で職員を前に演説し、メディア批判を展開した。首都ワシントンやニューヨークなど全米各地では女性を中心とした大規模なデモが行われて数百万人が参加。トランプ氏の差別的な発言に対して抗議の声を上げた。

 トランプ氏はワシントン近郊にあるCIA本部を訪れ、「私とメディアは戦争状態にある。彼らは地球上で最も不誠実な輩だ」と述べる一方で、CIA職員を「1000%支持する」と語った。就任前、トランプ氏はロシア政府が自らの不都合な個人情報を持っているという内容を米情報機関がマスコミに漏らしたとし、「それはナチス・ドイツがやるようなことだ」と批判していた。

 メディア批判でトランプ氏が問題視したのは米情報機関との確執や、就任式行事への参加者数をめぐる報道。トランプ氏はCIAでの演説で聴衆が25万人にとどまったとする報道があったと指摘し、「嘘だ」と断言。「演説をしたときに見たが、100万人か150万人はいるようようだった」と述べた。

 オバマ前大統領の就任式には過去最高の約180万人が参加。今回の就任式には70万~90万人が訪れると見込まれていた。

ワシントン記念碑から見たトランプ氏の大統領就任式の写真(左)と2009年のオバマ氏の就任式の写真
 スパイサー大統領報道官も21日、ホワイトハウスで就任後初の記者会見を開き、「最大規模の観衆が就任式を目撃した。以上だ」と述べた。式典会場を管理する国立公園局が未集計のため「誰にも人数は分からない」として、メディアを非難。質問を受け付けずに記者会見を打ち切った。

「女性の行進」に向かってトランプ氏支持のタオルを振る女性(21日)
 ワシントンで21日に開かれた「女性の行進」には数十万人が参加した。

【私の論評】分断されていた米社会、トランプ大統領登場で統合への対話が始まる(゚д゚)!

トランプ氏は、ブログ冒頭の記事で、「私とメディアは戦争状態にある。彼らは地球上で最も不誠実な輩だ」と述べていますが、これは本心でしょう。

日本のメデイアでは、あたかもトランプ大統領の登場によって、アメリカ社会が分断されたかのように報道しています。しかし、これは真っ赤な大嘘です。

アメリカ社会はトランプ氏の最近の台頭よりはるか以前から分断されていました。どのように分断されていたかというと、リベラル・左派と保守派の2つに大きく分断されてきました。正確な統計などはないのでわかりませんが、実数でも大きく半分にわかれていたと思われます。

アメリカ大統領選挙の結果 赤がトランプ氏が勝利を収めた州

しかし、今回の選挙の前までは、この事実が埋もれていて、一部の人を除きアメリカでも多くの人に知られることはありませんでした。

なぜ、そのようなことになったかといえば、このブログでも過去に何度か掲載してきたように、アメリカのメディアの9割は、リベラル・左派によって占められており、保守は1割程度に過ぎないため、保守派の人々が声をあげても、それはリベラル・左派のメディアには取り上げられることはほとんどなく、取り上げるのはほとんど全部がリベラル・左派の考えや主張だからです。

これを日本にたとえると、大手新聞なら産経新聞は存在せず、朝日新聞や毎日新聞のようなメディアだけが存在している状況です。テレビ局では、フォックスTVのみが保守系で、あとはすべてがリベラル・左派メディアです。

このような状況ですから、保守の声はかき消され、リベラル・左派の声ばかりが報道されるという状況なのです。

米メデイアはほとんどがリベラル・左派であり著しく偏っている
メディアがそのような状況ですので、学校や、企業などにおいても、リベラル・左派の考えが主流であり、保守系の考えはなきがごとくにみなされてきました。

アメリカの保守派は、ルースベルト大統領はソ連と手を結び、共産主義と対峙していた日本と戦争をした愚かな大統領として批判する人々も多いのですが、リベラル・左派の考えでは、ニューディール政策でアメリカ経済を建て直し、第二次世界体制を勝利に導いた英雄という見方をしています。

そのせいでしょうか、たとえば米国歴史学界においては、ルーズベルトを礼賛しないと学界にはとどまってはいられないそうです。そのため、まともな歴史研究をするためには、保守系のシンクタンクや、軍の研究機関に入るしかありません。

さて分断といえば、マイノリティとマジョリティによる分断、あるいは1%の富豪とそれ以外の分断、さらには白人と黒人の分断、いくらでもあります。アメリカ社会は、戦後ずっと分断され続けてきたのです。そうして、その中でも最大のものが、リベラル・左派と保守の分断でした。そうして、この分断はまるで存在しないかのような扱いを長い間受けてきました。

これに対して異議を申し立てたのがトランプ氏とトランプ支持者なのです。

トランプ支持者を一刀両断的に「プアーホワイト」のひと言で片づける論調もありましたが、決してそうではなかったことが今回の大統領選挙で明らかになったのです。アメリカ人のなかでも心ある人は、声に出さなくともトランプ氏の言葉に共感しています。今までのアメリカ大統領候補は「アメリカを否定」してきたからです。 

リベラル・左派は結果としてアメリカの国民のことは考えていませんでした。代わりにアメリカの富豪による世界戦略を考えてきたのです。

アメリカでのトランプ台頭について「ヨーロッパにおける醜い民族主義」などと評されることがありました。

「ヨーロッパで今台頭している醜い民族主義とアメリカのトランプ氏の主張は、どちらもポピュリズムであり、同じものである」という主旨です。私もトランプ現象とヨーロッパで起きていることは底流で結びつくものであるとは思います。

しかし、それは醜い民族主義でも不健全なポピュリズムでもありません。むしろ健全だと思います。

トランプ氏の主張はポピュリズムではない
無論、トランプ氏自身の言葉に現われている過激な側面を礼賛しているわけではありませんし、もちろん、トランプ氏を支持しているアメリカ人が不健全ということでもありません。また、大量の移民受け入れに反対しているヨーロッパの人たちが醜い民族主義者であるともまったく思いません。

しかし、世界のメディア、あるいは言論界、無論日米のそれもたいていこのような観点から見ているのです。彼らはずっと無条件で移民受け入れが良いことであると言い続けてきました。さらに移民に対して無条件に賛成しない人たちやそれを支持する人々をポピュリズムだと決めつけ、保守派の大衆を見下してきました。私たちはそういうメディア、またメディアに巣食う知識人の「きれいごと」に洗脳されてきたのです。

例えば「人権を守らなければならない、人種差別をすべきではない、性差別をすべきではない」という言い方があります。こうした意見に対しては誰も反対できません。しかし、こういうきれいごとと、アメリカやヨーロッパの現実には大きな乖離があります。

こうした乖離について内外の言論人はほとんど取り上げませんでした。だからこそトランプ氏の発言に支持が集まったのです。

移民の問題については、非常にわかりやすいのと、時宜にあっているので、述べましたが、ご存知のようにリベラル・左派と保守の間には他にも、改革をするための進め方や手続き、伝統的な価値観、世界観、安全保障の面でも大きな隔たりがあります。

私たちが注意しなければならないのは、現在のリベラル・左派の「頭のなかで考えていることが、現場の現実とは乖離している」ということです。そうして、問題は「ポピュリズム」まったくのレッテル貼りであるということです。大衆迎合的ということは、すでに価値判断が入ってしまっているということです。迎合という言葉も、大衆という言葉も“上から目線”になっているのです。

米国では上から目線のリベラル・左派の考えが主流だった
この上から目線というのは、移民やその他マイノリティーを守ること、伝統的価値観を捨てて、新しい価値観を受け入れることが、現場の現実からかけ離れていることもあるのに、それを絶対善として、疑問の余地がなく全く正しいものとみなすという偽善的、独善的態度のことです。

無論、リベラル・左派の考え方が何もかも間違いなどというつもりも毛頭ありません。そういう言い方をしてしまえば、現在のリベラル・左派の上から目線と同じことになってしまいます。それは決して生産的なことではありません。

しかし、ここ数十年においては、あまりにリベラル・左派の考え方が、特に米国では強くなりすぎました。あまりに強くなりすぎれば、揺り戻しがあるのは当然です。この揺り戻しが、現在米国で起こっていることなのです。

その揺り戻しのを象徴するのが、今回の米国の大統領選の結果なのです。この背景を理解していなければ、これからのアメリカの政治・経済そうして社会の変化は、全く理解できません。

さて、アメリカ大統領選挙において、トランプ氏が勝利したため、アメリカの人口の半分くらいは存在する保守派の存在が明らかになったと思います。

しかし、これは選挙でそういう結果が出たというだけであって、現在の時点ではまだまだ、アメリカではリベラル・左派の考えが主流です。

アメリカの国民の半分を占める保守派の声は、現在のアメリカ社会ではまだ浸透していません。職場でも、学校でも、メディアの世界でもリベラル・左派的な考え方が主流です。

ただ、政治の世界だけが、大統領がリベラル・左派のオバマ氏から保守派のトランプ氏に変わります。議会も、概ね保守派の共和党が主流派になります。ただし、共和党が全部保守というわけでもありません。それは、日本の自民党の中も保守だけではなく、リベラル・左派の議員も存在するのと同じです。

そういう状況の中では、保守派でトランプ支持派の人々も、自分の職場や学校などの周りの人に配慮して、自分は保守派で、トランプ氏支持派であるとは、面と向かって言い難い雰囲気があるのだと思います。

だからこそ、トランプ氏の就任演説のときの聴衆はオバマ氏のときと比較して少ないのでしょう。

「LOVE TRUMPS HATE」と書かれたTシャツを着た選挙当日のガガ
また、このような変化を理解できない人々が、トランプ大統領反対デモを開催したり、それに参加したりするのです。そうしていわゆるセレブの反トランプデモですが、それをやるなら自分の収入の大半を経済的困窮者に寄附せよと言いたくなります。これは、日本国内での自称インテリが一銭も金を出さずに「文楽を守れ!」と口だけでカッコつけていたのとよく似ています。空虚な言葉より行動をという、トランプ大統領の就任演説の言葉が身に染みます。

しかし、トランプ大統領が登場して時がたてば、まずはマスコミが報道姿勢を変えざるを得なくなります。なぜなら、トランプ大統領の考えは保守的であり、それを報道しなければ、報道機関としてまともに機能しているとはいえません。

そうして、現在米国ではトランプ氏のツイッター発信にメディアが大慌をしています。なぜならオバマ氏とメディアのリベラル・左派同士の協調関係がなくなり、これからは取材力・評論力による完全実力競争時代に突入するからです。以前のように上から目線の取材ではトランプ大統領は納得しないでしよう。ある程度以上の力がなければ記事を作れなくなるのです。

米国メディアは、これからは変わらざるをえないでしょう。米国保守を無視した報道はできなくなります。また、米国の保守は、リベラル・左派の失敗を繰り返すべきではありません。右だろうが、左だろうが、その時々において、良いものは良いし、悪いものは悪いのです。また、良いものが永遠に良いはずもなく、その逆に悪いものが、永遠に悪いものであり続けるということもないのです。

そうなると、一般社会も保守派の考え方にも耳を傾け、良いもの、まともなものは受け入れられるようになると思います。これから、本当の対話が始まるのです。トランプ大統領の登場により、分断したアメリカは、はじめて対話の緒をつかむことができたのです。もしトランプ大統領が登場しなければ、そのような機会はさらに遠のいたことでしょう。

リベラル・左派の人々も、トランプ登場をそのように考え、自分たちの考え方だけが、絶対善であるというような考え方はやめて、保守の人々とまともに対話をすべきです。そうでなければ、この変化についていくことはできません。態度を変えなければ、変化についていくことの出来ないただの認知症で妄想を信じる老人と同じです。

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2017年1月21日土曜日

【トランプ大統領始動】就任演説・英文全文(演説動画付き)―【私の論評】翻訳・解説付き:アメリカ第一をシンプルに訴えたトランプ新大統領(゚д゚)!

【トランプ大統領始動】就任演説・英文全文(演説動画付き)


トランプ大統領の就任演説
以下の英文の太青文字になっている部分は、下で説明を加えています。

Chief Justice Roberts, President Carter, President Clinton, President Bush, President Obama, fellow Americans, and people of the world:

thank you.

We, the citizens of America, are now joined in a great national effort to rebuild our country and to restore its promise for all of our people.

Together, we will determine the course of America and the world for years to come.

We will face challenges. We will confront hardships. But we will get the job done.Every four years, we gather on these steps to carry out the orderly and peaceful transfer of power, and we are grateful to President Obama and First Lady Michelle Obama for their gracious aid throughout this transition. They have been magnificent.

Today's ceremony, however, has very special meaning. Because today we are not merely transferring power from one Administration to another,or from one party to another - but we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the American People.

For too long, a small group in our nation's Capital has reaped the rewards of government while the people have borne the cost.

Washington flourished-but the people did not share in its wealth.Politicians prospered - but the jobs left, and the factories closed.The establishment protected itself, but not the citizens of our country.

Their victories have not been your victories; their triumphs have notbeen your triumphs; and while they celebrated in our nation's Capital,there was little to celebrate for struggling families all across our land.

That all changes - starting right here, and right now, because this moment is your moment: it belongs to you.

It belongs to everyone gathered here today and everyone watching all across America.This is your day. This is your celebration.

And this, the United States of America, is your country. What truly matters is not which party controls our government, but whether our government is controlled by the people.

January 20th 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again.The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer.



Everyone is listening to you now.You came by the tens of millions to become part of a historic movement the likes of which the world has never seen before. At the center of this movement is a crucial conviction: that a nation exists to serve its citizens.

Americans want great schools for their children, safe neighborhoods for their families, and good jobs for themselves.These are the just and reasonable demands of a righteous public.

But for too many of our citizens, a different reality exists: Mothers and children trapped in poverty in our inner cities; rusted-out factories scattered like tombstones across the landscape of our nation; an education system, flush with cash, but which leaves our young and beautiful students deprived of knowledge; and the crime and gangs and drugs that have stolen too many lives and robbed our country of so much unrealized potential.

This American carnage stops right here and stops right now. We are one nation - and their pain is our pain. Their dreams are our dreams; and their success will be our success. We share one heart,one home, and one glorious destiny.

The oath of office I take today is an oath of allegiance to all Americans. For many decades, we've enriched foreign industry at the expense of American industry; Subsidized the armies of other countries while allowing for the very sad depletion of our military; We've defended other nation's borders while refusing to defend our own; And spent trillions of dollars overseas while America's infrastructure has fallen into disrepair and decay.

We've made other countries rich while the wealth, strength, and confidence of our country has disappeared over the horizon. One by one, the factories shuttered and left our shores, with not even a thought about the millions upon millions of American workers left behind.

The wealth of our middle class has been ripped from their homes and then redistributed across the entire world. But that is the past. And now we are looking only to the future. We assembled here today are issuing a new decree to be heard in every city, in every foreign capital, and in every hall of power. From this day forward, a new vision will govern our land.

From this moment on, it's going to be America First. Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs. Protection will lead to great prosperity and strength. I will fight for you with every breath in my body - and I will never,ever let you down.



America will start winning again, winning like never before.We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation.

We will get our people off of welfare and back to work - rebuilding our country with American hands and American labor. We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.We will seek friendship and goodwill with the nations of the world -but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first.

We do not seek to impose our way of life on anyone, but rather to let it shine as an example for everyone to follow.

We will reinforce old alliances and form new ones - and unite the civilized world against Radical Islamic Terrorism, which we will eradicate completely from the face of the Earth.

At the bedrock of our politics will be a total allegiance to the United States of America, and through our loyalty to our country, we will rediscover our loyalty to each other. When you open your heart to patriotism, there is no room for prejudice.

The Bible tells us, “how good and pleasant it is when God's people live together in unity." We must speak our minds openly, debate our disagreements honestly, but always pursue solidarity. When America is united, America is totally unstoppable.

There should be no fear - we are protected, and we will always be protected. We will be protected by the great men and women of our military and law enforcement and, most importantly, we are protected by God.



Finally, we must think big and dream even bigger. In America, we understand that a nation is only living as long as it is striving. We will no longer accept politicians who are all talk and no action constantly complaining but never doing anything about it. The time for empty talk is over.

Now arrives the hour of action. Do not let anyone tell you it cannot be done. No challenge can match the heart and fight and spirit of America. We will not fail. Our country will thrive and prosper again.We stand at the birth of a new millennium, ready to unlock the mysteries of space, to free the Earth from the miseries of disease,and to harness the energies, industries and technologies of tomorrow. A new national pride will stir our souls, lift our sights, and heal our divisions.

It is time to remember that old wisdom our soldiers will never forget: that whether we are black or brown or white, we all bleed the same red blood of patriots, we all enjoy the same glorious freedoms, and we all salute the same great American Flag.And whether a child is born in the urban sprawl of Detroit or the windswept plains of Nebraska, they look up at the same night sky, they fill their heart with the same dreams, and they are infused with the breath of life by the same almighty Creator.

So to all Americans, in every city near and far, small and large, from mountain to mountain, and from ocean to ocean, hear these words: You will never be ignored again.Your voice, your hopes, and your dreams, will define our American destiny. And your courage and goodness and love will forever guide us along the way.

Together, We Will Make America Strong Again.We Will Make America Wealthy Again.We Will Make America Proud Again.We Will Make America Safe Again. And, Yes, Together, We Will Make America Great Again. Thank you, God Bless You, And God Bless America.

【私の論評】翻訳・解説付き:アメリカ第一をシンプルに訴えたトランプ新大統領(゚д゚)!

以下に、就任演説の日本語訳を掲載し、その後で私の論評を掲載します。

トランプ大統領の就任演説の日本語訳

ロバーツ最高裁判所長官、カーター元大統領、クリントン元大統領、ブッシュ元大統領、オバマ大統領、そしてアメリカ国民の皆さん、世界の皆さん、ありがとう。私たちアメリカ国民はきょう、アメリカを再建し、国民のための約束を守るための、国家的な努力に加わりました。私たちはともに、アメリカと世界が今後数年間進む道を決めます。私たちは課題や困難に直面するでしょう。しかし、私たちはやり遂げます。私たちは4年ごとに、秩序だち、平和的な政権移行のために集結します。私たちは政権移行中の、オバマ大統領、そしてファーストレディーのミシェル夫人からの寛大な支援に感謝します。彼らは本当にすばらしかったです。


しかし、きょうの就任式はとても特別な意味を持ちます。なぜなら、きょう、私たちは単に、1つの政権から次の政権に、あるいは、1つの政党から別の政党に移行するだけでなく、権限を首都ワシントンの政治からアメリカ国民に返すからです。

あまりにも長い間、ワシントンの小さなグループが政府の恩恵にあずかる一方で、アメリカ国民が代償を払ってきました。ワシントンは栄えてきましたが、人々はその富を共有していません。政治家は繁栄してきましたが、仕事はなくなり、工場は閉鎖されてきました。既存の勢力は自分たちを守ってきましたが、国民のことは守ってきませんでした。彼らの勝利は皆さんの勝利ではありませんでした。彼らが首都で祝っている一方で、闘っている国中の家族たちを祝うことはほとんどありませんでした。すべてが変わります。いま、ここから始まります。なぜなら、この瞬間は皆さんの瞬間だからです。皆さんのものだからです。ここに集まっている皆さんの、そして、アメリカ国内で演説を見ている皆さんのものだからです。きょうという日は、皆さんの日です。皆さんへのお祝いです。そして、このアメリカ合衆国は、皆さんの国なのです。本当に大切なことは、どちらの政党が政権を握るかではなく、私たちの政府が国民によって統治されているかどうかということなのです。

2017年1月20日は、国民が再び国の統治者になった日として記憶されるでしょう。忘れられていた国民は、もう忘れられることはありません。皆があなたたちの声を聞いています。世界がこれまで見たことのない歴史的な運動の一部を担う、数百万もの瞬間に出会うでしょう。この運動の中心には、重要な信念があります。それは、国は国民のために奉仕するというものです。アメリカ国民は、子どもたちのためにすばらしい学校を、家族のために安全な地域を、そして自分たちのためによい仕事を望んでいます。これらは、高潔な皆さんが持つ、当然の要求です。しかし、あまりにも多くの国民が、違う現実に直面しています。母親と子どもたちは貧困にあえぎ、国中に、さびついた工場が墓石のように散らばっています。教育は金がかかり、若く輝かしい生徒たちは知識を得られていません。そして犯罪やギャング、薬物があまりに多くの命を奪い、可能性を奪っています。このアメリカの殺りくは、いま、ここで、終わります。私たちは1つの国であり、彼らの苦痛は私たちの苦痛です。彼らの夢は私たちの夢です。そして、彼らの成功は私たちの成功です。私たちは、1つの心、1つの故郷、そしてひとつの輝かしい運命を共有しています。

きょうの私の宣誓は、すべてのアメリカ国民に対する忠誠の宣誓です。何十年もの間、私たちは、アメリカの産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきました。ほかの国の軍隊を支援する一方で、非常に悲しいことに、われわれの軍を犠牲にしました。ほかの国の国境を守る一方で、自分たちの国境を守ることを拒んできました。そして、何兆ドルも海外で使う一方で、アメリカの産業は荒廃し衰退してきました。私たちが他の国を豊かにする一方で、われわれの国の富と強さ、そして自信は地平線のかなたに消えていきました。取り残される何百万人ものアメリカの労働者のことを考えもせず、1つまた1つと、工場は閉鎖し、この国をあとにしていきました。中間層の富は、彼らの家庭から奪われ、世界中で再分配されてきました。しかし、それは過去のことです。いま、私たちは未来だけに目を向けています。きょうここに集まった私たちは、新たな命令を発します。すべての都市、すべての外国の首都、そして権力が集まるすべての場所で、知られることになるでしょう。この日以降、新たなビジョンがわれわれの国を統治するでしょう。


この瞬間から、アメリカ第一となります。貿易、税、移民、外交問題に関するすべての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するために下されます。ほかの国々が、われわれの製品を作り、われわれの企業を奪い取り、われわれの雇用を破壊するという略奪から、われわれの国を守らなければなりません。わたしは全力で皆さんのために戦います。何があっても皆さんを失望させません。アメリカは再び勝ち始めるでしょう、かつて無いほど勝つでしょう。私たちは雇用を取り戻します。私たちは国境を取り戻します。私たちは富を取り戻します。そして、私たちの夢を取り戻します。

私たちは、新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、そして鉄道を、このすばらしい国の至る所につくるでしょう。私たちは、人々を生活保護から切り離し、再び仕事につかせるでしょう。アメリカ人の手によって、アメリカの労働者によって、われわれの国を再建します。私たちは2つの簡単なルールを守ります。アメリカのものを買い、アメリカ人を雇用します。私たちは、世界の国々に、友情と親善を求めるでしょう。しかし、そうしながらも、すべての国々に、自分たちの利益を最優先にする権利があることを理解しています。私たちは、自分の生き方を他の人たちに押しつけるのではなく、自分たちの生き方が輝くことによって、他の人たちの手本となるようにします。

私たちは古い同盟関係を強化し、新たな同盟を作ります。そして、文明社会を結束させ、イスラム過激主義を地球から完全に根絶します。私たちの政治の根本にあるのは、アメリカに対する完全な忠誠心です。そして、国への忠誠心を通して、私たちはお互いに対する誠実さを再発見することになります。もし愛国心に心を開けば、偏見が生まれる余地はありません。聖書は「神の民が団結して生きていることができたら、どれほどすばらしいことでしょうか」と私たちに伝えています。私たちは心を開いて語り合い、意見が合わないことについては率直に議論をし、しかし、常に団結することを追い求めなければなりません。アメリカが団結すれば、誰も、アメリカが前に進むことを止めることはできないでしょう。そこにおそれがあってはなりません。私たちは守られ、そして守られ続けます。私たちは、すばらしい軍隊、そして、法の執行機関で働くすばらしい男性、女性に、守られています。そして最も大切なことですが、私たちは神によって守られています。


最後に、私たちは大きく考え、大きな夢を見るべきです。アメリカの人々は、努力をしているからこそ、国が存在し続けていけるということを理解しています。私たちは、話すだけで常に不満を述べ、行動を起こさず、問題に対応しようとしない政治家を受け入れる余地はありません。空虚な話をする時間は終わりました。行動を起こすときが来たのです。できないことを話すのはもうやめましょう。アメリカの心、闘争心、魂を打ち負かすような課題は、存在しません。私たちが失敗することはありません。私たちは再び栄え、繁栄するでしょう。私たちはこの新世紀のはじめに、宇宙の謎を解き明かし、地球を病から解放し、明日のエネルギーや産業、そして技術を、利用しようとしています。新しい国の誇りは私たちの魂を呼び覚まし、新しい視野を与え、分断を癒やすことになるでしょう。

私たちの兵士が決して忘れなかった、古くからの知恵を思い起こすときです。それは私たちが黒い肌であろうと、褐色の肌であろうと、白い肌であろうと、私たちは同じ愛国者の赤い血を流し、偉大な自由を享受し、そして、偉大なアメリカ国旗をたたえるということです。そしてデトロイトの郊外で生まれた子どもたちも、風に吹きさらされたネブラスカで生まれた子どもたちも、同じ夜空を見て、同じ夢で心を満たし、同じ全知全能の創造者によって命を与えられています。だからこそアメリカ人の皆さん、近い街にいる人も、遠い街にいる人も、小さな村にいる人も、大きな村にいる人も、山から山へ、海から海へと、この言葉を伝えます。

あなたたちは二度と無視されることはありません。あなたの声、希望、夢はアメリカの運命を決定づけます。そしてあなたの勇気、善良さ、愛は私たちの歩む道を導きます。ともに、私たちはアメリカを再び強くします。私たちはアメリカを再び豊かにします。私たちはアメリカを再び誇り高い国にします。私たちはアメリカを再び安全な国にします。そして、ともに、私たちはアメリカを再び偉大にします。ありがとうございます。神の祝福が皆様にありますように。神がアメリカを祝福しますように。

【論評】

この演説は非常に平易な英語を使用しているため、わかりやすいです。多くの英語学習者が、辞書などひかずに聴いてほとんどが理解できることと思います。

これは、選挙戦のとききからのトランプ氏の方針のようです。ヒラリー氏は、候補者に語りかけるとき、小学校6年生程度の英語を使用していたそうですが、トランプ氏は小学校4年生程度の英語を用いていたそうです。

そうして、America First だけを主なコンセプトにした理解しやすい演説です。さずが政治家のスピーチ。なにか哲学的な話を付け加えようとしたり、そこが欠如しているといいたい方もいるでしょうが、政治に関する演説はこのようなシンプルなものが良いです。これは、英語教材としても使えると思います。

就任演説のポイントは3つです。1.アメリカ第一主義、2.口ではなく行動重視、3. 既得権の打破 です。

寒空でほとんどきが起立して聞いている大勢の人々にとってはこれだけで十分です。政治家は文学者でも、評論家でも、哲学者でもありません。内容の賛否はともかく政治家は大きな方向性を示すことが全てです。いわゆる、専門家が今回の演説をもっとらしく分析したとしても全く無意味です。

格調を気にした小難しい表現の演説は、自称インテリの評価を気にしたものです。トランプ氏演説は、一般の多くの国民向けのものです。いわゆる、自称インテリは完璧に無視したものです。トランプ氏の演説がレベルが低いと言う人がいるとすれば、その人こそレベルが低いのです。

本当に心に響く演説とは、今回のトランプ氏の演説のようなものです。小難しい言葉を使う演説では、人の心の琴線に触れることはないのです。

さて、非常に平易な言葉で語られている、トランプ氏の演説ですが、平易な言葉であっても、使われいる言葉の背景を知っていなければなかなか理解できないこともあります。以下にそのようなキーワードを含む14のセンテンスをあげ解説します。

【14のセンテンス】

Chief Justice Roberts, President Carter, President Clinton, President Bush, President Obama, fellow Americans, and people of the world:
トランプ氏は演説の冒頭で、宣誓を執り行ったロバーツ最高裁長官のほか、出席していた大統領経験者のカーター、クリントン、ブッシュ、オバマ各氏に謝意を述べた。しかし、大統領選を自身と争い、元ファーストレディーとして壇上に立っていたヒラリー・クリントン氏には言葉を向けませんでした。2001年の就任式でブッシュ氏が、選挙の相手でやはり壇上にいたゴア元副大統領に感謝したのとは対照的でした。 
また、ワシントン初代大統領以来、多くの大統領が使ってきた「Fellow Citizens」(我が同胞市民)という言葉を使わず、「世界の人々」に感謝したのも特徴的でした。
we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the American People. 
トランプ氏は演説で、一貫して「ワシントン」と「アメリカ国民」を対比させ、権力を「国民」に戻すと主張しました。レーガン元大統領が1981年の就任式で「あなたたちの夢、あなたたちの希望、あなたたちの目標がこの政権の夢、希望、目標となる」と語った言葉と通じ合う部分がありますが、トランプ氏の方が「ワシントン」と「国民」を対立させました。 
米メディアによると、トランプ氏は起草にあたって、レーガン氏とケネディ元大統領の就任演説を参考にしていると周囲に語っていました。
The establishment protected itself, but not the citizens of our country
「establishment」は昨年の大統領選を象徴する言葉の一つで、「既成勢力」や「既得権層」などを意味します。トランプ氏は演説でも用いて、こうした層が「自分たちだけを守ってきた」と主張しました。
 This American carnage stops right here and stops right now. 
「carnage」は「殺戮(さつりく)の後の惨状」といった意味で、「死屍累々(ししるいるい)」に近い。戦場などの表現に使われる極めて強い言葉。トランプ氏は直前に都市部の貧困や、犯罪・麻薬の蔓延(まんえん)に触れ、「悲惨な状況にある米国」を描いた。今回の演説を象徴する言葉として、米メディアも注目している。
 We assembled here today are issuing a new decree to be heard in every city, in every foreign capital, and in every hall of power.
トランプ氏は「すべての都市、すべての外国の首都、すべての権力層に向けて、「新しい宣言をする」と述べました。米メディアの間では、ケネディ氏が1961年の就任演説で「今この時、この場所から、友人に対しても敵に対しても、次の言葉を伝えよう」と語った部分と似ているとの指摘が出ています。ただ、ケネディ氏は「新しい世代にたいまつが継がれた」と続け、世界各国で人権を守ると語ったのに対し、トランプ氏の宣言は「この日から、(ビジョンは)『米国第一』だけになる」と語っています。
From this day forward, it's going to be only America First, America First
「米国第一」は、選挙期間中からトランプ氏が強調してきました。歴史的には、第2次世界大戦の前に孤立主義を唱え、「米国が欧州の戦争に加わるべきではない」などと主張したチャールズ・リンドバーグ氏らが使った言葉です。差別に通じるなどとして、ユダヤ系団体が使わないよう求めてきたのですが、就任演説でも中心的な言葉となりました。
We must protect our borders from the ravages of other countries
「ravages」は他国が米国を荒らし、侵害しているという意味です。「carnage」と並んで、米国が悲惨な状況に陥っていると強調するフレーズでした。
shine as an example. We will shine for everyone to follow
トランプ氏が他国に向けて「模範として光を放つ」と語った部分も、レーガン氏の1981年の「我が国は再び自由の模範となり、自由を得ていない人々にとって希望の灯となる」という言葉と重なります。
unite the civilized world against radical Islamic terrorism, which we will eradicate from the face of the Earth
トランプ氏は以前から、オバマ氏が「Radical Islamic Terrorism(過激なイスラムのテロリズム)」という言葉を使わないと批判し、テロが続く一因となっていると主張してきました。就任演説ではあえてこの言葉を使い、「地球上から撲滅する」と宣言しました。
how good and pleasant it is when God's people live together in unity
旧約聖書詩編133からの引用。「見よ、兄弟が共に座っている。なんという恵み、なんという喜び」(日本聖書協会訳)
politicians who are all talk and no action, constantly complaining, but never doing anything about it
トランプ氏は就任式を前に、公民権運動の英雄であるジョン・ルイス下院議員から「正統な大統領と思っていない」と批判された際、「言葉だけで行動が伴わない」と返していました。演説でも同じフレーズを使い、「何も行動しない政治家」は必要ないと訴えました。
whether we are black or brown or white, we all bleed the same red blood of patriots
トランプ氏は演説の中で「愛国主義に心を開けば、偏見の入る余地はなくなる」とも述べ、「米国民」としてまとまることの大切さを説きました。ここでは人種問題に触れ、肌の色が異なっても「愛国者の同じ赤い血が流れている」と語りました
We Will Make America Strong Again. We Will Make America Wealthy Again. We Will Make America Proud Again. We Will Make America Safe Again. And Yes, Together We Will Make America Great Again
選挙スローガンの「アメリカを再び偉大にする」で演説を締めくくるのは、昨年7月の党大会とほぼ同じでした。就任演説では「アメリカを再び裕福にする」という一文が加わりました。
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2017年1月20日金曜日

アパホテルに「情報物の撤去」要望 冬季アジア大会めぐる「着地点」とは―【私の論評】習近平の妄言に振り回される必要性は全くない(゚д゚)!

アパホテルに「情報物の撤去」要望 冬季アジア大会めぐる「着地点」とは

札幌市などで2017年2月19日に開幕する冬季アジア大会で、選手村の一部にアパホテルが利用されることになった。アパホテルは、「南京大虐殺」を「支那側のでっちあげ」などとする書籍を客室に置いていたとして支那から非難を受けている。

このほど、大会の事務局からアパホテル側へ、書籍を含む「客室内のすべての情報物の撤去」の要望があったという。アパホテルは、どう対応するのか。

アパホテルの客室に置かれている書籍は「撤去」しないが、要望に応じて
「フロントでお預かりする」という(画像はネット上に投稿された動画より)
 「正式な要請があった場合には、個別に対応を検討」

アパホテルの客室に設置された書籍をめぐっては、1月15日、支那のSNS「微博(ウェイボー)」に書籍の内容を指摘する動画が投稿されて主に支那国内で批判が広がった。これに対してアパホテルは1月17日夕方、「書籍を客室から撤去することは考えておりません」などとするコメントを発表していた。

選手村として利用されるのは、「アパホテル&リゾート〈札幌〉」(札幌市南区)。アパホテルを運営するアパグループが1月20日に明らかにしたところによると、選手村として利用することについての打診があった段階で、大会事務担当者から口頭で書籍以外にも「客室内のすべての情報物の撤去」の要望を受けたといい、
「今後、正式な要請があった場合には、個別に対応を検討いたします」
としている。

 「撤去する考えはありませんが...」

具体的な対応方針については、
「言論の自由があり、批判を受けたことを以って書籍を客室から撤去する考えはありませんが、ホテル業として個別のお客様からのご要望に対してはできるだけお応えするべきであると考えますので、個別には書籍をフロントでお預かりすることを含めて対応いたします」
と説明。「撤去」はしないが、要望に応じて「フロントで預かる」というわけだ。アパグループでは
「特別な措置ではなく、ホテル業として当然のことだと考えます」
と、一般的な対応方針であることを強調していた。

【私の問題】習近平の妄言に振り回される必要性は全くない(゚д゚)!

アパホテル 札幌すすきの駅前
この問題については、昨日もこのブログに掲載したばかりです。その後もいろいろな余波があったので本日も掲載することにしました。

ところで、この問題に関する昨日のブログの結論部分は以下のようなものでした。
トランプ氏が新大統領となる前の、昨年のオバマ政権の末期の時期に、習近平政権は、これだけのこと(ブログ管理人注:約1.5万字ある党章と、あまたの習近平講話を、全党員が年末までに手書きで書き写すという習近平からの党幹部への指令)をしなければならないくらいにタガが緩んでいてどうしようもないような状態になっていたことです。
そうして、今年習近平はトランプ氏の仕掛ける「貿易戦争」「南シナ海の対決」、「台湾問題の争点化」という3つの戦いに挑まなければならないのです。

こう考えると、習近平の焦りは手に取るように理解できると思います。だからこそ、通常ならあり得ない日本の一民間企業に過ぎないアパホテルを批判するというような、とんでもない行動に出たのです。そうして、これは何も偶発的に起こったことではなく、すべて習近平が企んだやらせでしょう。 
まさに、今習近平は、不可避の隘路に直面しているのです。今年は、習近平が失脚するか、少なくとも失脚への道筋が明らかにになることでしょう。
簡単言ってしまえば、この問題は、習近平自己都合による政治利用以外の何ものでもありませんし、これは言論の自由への挑戦です。しかも、外国である日本への挑戦です。支那国内でならまだしも、日本の一民間企業に対する批判は全くの筋違いであり、見当はずれです。

世界中のほとんどの人にとって、自分の国が他国の一民間企業に対して、このような批判をすることは、自国の権威を貶めるものとして、忌避されるべきものとうつることでしょう。

さて、昨日の記事には、支那のアパホテルへの批判への対処方法については、述べませんでした。それは、この結論を読んでいただければ、十分にご理解いただけるものと考えたからです。

私が望ましいと考える対処方法は、無論「完全無視」です。そもそも、一民間企業の実施していること、しかも外国のそれに対して、国レベルで批判をするというのは全く異様なことです。このようなことに、まともに対応する必要性など全くありません。アパホテルの対応は、妥当なものだと思います。

そもそも、民間企業が例え会社がどうなろうと自分のイデオロギーを通したいなら、それは全くの自由であるべきであり、政府も北海道も口を出すべき問題ではありません。 

しかし、この問題に関して、北海道の高橋はるみ知事がとんでもない反応を示しています。以下に、その反応を掲載します。

高橋はるみ北海道知事
高橋はるみ北海道知事は20日の定例記者会見で、アパホテルが客室に南京事件を否定する内容の書籍を置いているとして支那で反発が強まっていることに関して「いろいろな議論があることについて、相手国の方々に不快な思いを持たれるのはどうなのかなと率直に思う」と、ホテルの対応に疑問を呈した。
一方で高橋知事は「(行政としてホテル側への)強制手段はないので、今後の対応を見守りたい」と述べた。
そもそも、このようなことを自分自身から言い出したというのであれば、全く見当違いですし、たとえ記者から質問があったにしても、「一民間企業の実施していることに対して、返答するべき立場にありません」などとつっぱねるべきだったでしょう。

この問題に関して、全く支那側の見当違いの筋違いの批判なのですから、マスコミがその事実を報道したりするのは良いですが、それに関してマスコミも知識人も、政治家も、一般の人も完全無視で良いです。

支那の習近平の妄言にいちいち振り回される必要性は、全くありません。

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2017年1月19日木曜日

アパホテル批判で愛国心あおる支那 国家としての制裁82・9%支持というアンケート結果も―【私の論評】不可避の隘路に直面した習近平(゚д゚)!

アパホテル批判で愛国心あおる支那 国家としての制裁82・9%支持というアンケート結果も

アパホテルの各室に置かれてある書籍 今回支那が問題にしたのは右側の書籍

 ■党大会控え活発化

 【支那総局】「南京大虐殺」「慰安婦の強制連行」を否定する書籍を客室に備えたとして支那外務省が日本のアパホテルを批判した問題で、支那国内ではホテルを運営するアパグループへの反発が高まっている。一方、日本国内では「本を撤去しない」としたホテル側の姿勢に賛同する声が多く寄せられている。

 アパホテルの客室におかれた書籍をめぐり、支那外務省の報道官が日本国内の言論に対して異例の批判に踏み切った。今秋に5年に1度の中国共産党大会を控え、国内では歴史問題を前面に出した愛国キャンペーンで党や指導部の求心力を高めようとする兆しもある。

 これまで支那外務省は日本の靖国神社について「戦争を美化している」と決めつけながらも、一般国民の参拝には反対しない立場を示すなど、歴史問題に関しては政府や政治家と国民の間で一定の線引きをしてきた。

 この問題をめぐっては中国共産党機関紙、人民日報系でタカ派の論調で知られる環球時報が連日報道し、外務省報道官のコメントも同紙の記者の質問に答えたものだ。

 同紙が17日、ネット上で「支那による国家としてのアパグループ制裁を支持するか」とのアンケートを実施したところ、3万3千人以上が参加し、うち82・9%が支持を表明したという。

 支那では海外への旅行者も多い27日からの春節休暇を前に、複数の予約サイトでアパホテルの予約ができなくなっている。同サイト「携程」では18日現在、アパホテルを検索しても表示されない状態だ。(北京 西見由章)

                   ◇

 東京都内にあるアパホテルは「システムエラーにより、数日前から(宿泊予約などの)Webサイトへアクセスができなくなっている。原因は不明。復旧のメドは立っていない」と話している。

【用語解説】「本当の日本の歴史 理論近現代史学II」

 書籍のタイトルは「本当の日本の歴史 理論近現代史学II」。元谷外志雄代表が「藤誠志」のペンネームで月刊誌「Apple Town」に連載している社会時評エッセーをまとめたもので、英訳も付いている。

 書籍では南京大虐殺について、「(日本軍の)攻略時の南京の人口が20万人、一カ月後の人口が25万人という記録から考えても、あり得ない」などと否定。さらに上海大学教授の指摘を引用し、「いわゆる南京大虐殺の被害者名簿というものは、ただの一人分も存在していない」と記している。

【私の論評】不可避の隘路に直面した習近平(゚д゚)!

APAホテルに上記のような書籍が置かれているのは、特に保守界隈では10年以上前から常識です。何しろAPAグループはいわば、保守論客としての田母神俊雄氏の生みの親です。

2008年10月31日、田母神氏は、アパグループ主催の第1回『「真の近現代史観」懸賞論文』に応募した「日本は侵略国家であったのか」が最優秀藤誠志賞を受賞しています。ところが、同論文が政府見解と異なる主張であるとして問題視され、航空幕僚長の職を解かれ航空幕僚監部付となりました。同日付で「航空幕僚長たる空将」でなくなったことにより、一般の空将と同様の60歳定年が適用され6ヶ月の定年延長が発令され、定年延長が11月3日までとされ、同日をもって定年退職しました。

田母神俊雄氏
いままでAPAホテルに何万、何十万人という外国人が泊まってきたはずです。しかも、ご丁寧に元谷外志雄氏(APA総帥)の英訳も掲載して室内に置いていた南京虐殺否定の小冊子は、10年以上にわたってつい最近まで何の問題にもなりませんでした。

しかし、今になってなぜ、問題になり、支那外務省の報道官が日本国内の言論に対して異例の批判に踏み切ったのでしょうか。これは本当に不思議です。

本日は、その背景について、私の思うところを掲載したいと思います。

まずは、最近の支那共産党の状況についてふりかえっておきます。それについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載しておきます。
南シナ海で横暴の支那に米空母で鉄槌か 演習実施で牽制―【私の論評】トランプ新大統領による対支那強硬策で習近平失脚は確実(゚д゚)!
カールビンソン
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に現状の中国共産党、その中でも権力闘争に関するる部分を引用します。
習近平にとっては、オバマが大統領だったときの米国は、かなり御しやすかったと思います。支那という国は、ほとんどが自国内部の都合で動く国です。外交も自国内部の都合にかなり左右されます。というより、最初に自国の都合があって、その後に外交があるというとんでもない国です。

オバマが大統領だったときは、習近平はまず支那国内を優先して、国内対応を中心として動いていたものと思います。習近平にとっては、オバマは国内の習近平反対派の、胡錦涛派(共青団)の李克強氏、上海閥と太子党の江沢民派のほうが、余程大きな存在だったに違いありません。
胡錦濤(左)と江沢民(右)
オバマ大統領は、習近平にとっては、胡錦濤や江沢民のほうが余程大きな存在であったに違いありません。

しかし、トランプ氏が大統領になれば、胡錦濤や江沢民よりも、トランプ氏のほうがはるかに大きな存在になるに違いありません。

今までは、習近平は、中国国内の胡錦濤派と江沢民派と腐敗撲滅運動という名の下での権力闘争を繰り広げて、時折米国対応をしていれば、比較的楽に権力闘争を戦えたのですが、トランプ大統領になれば、そのようなわけにはいかなくなります。

そうして、反習近平派はここぞとばかり、権力闘争を強めてくるに違いありません。習近平としては、今までは2つの派閥にプラスアルファ程度で戦ってこられたのが、派閥が3つに増え、しかも増えた派閥が、それまでの派閥よりはるかに強力になったというような状況になります。
さて、このような状況に追い込まれた習近平です。トランプ氏の対中国攻勢は今までにはない強力なものになりそうです。

これについては、石平氏の論評が参考になります。石兵氏の論評のリンクを以下に掲載します。
「黒船」トランプが支那・習近平政権に仕掛ける、3つの最終戦争
石平氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に要約を掲載します。

中国に3つの戦いを挑むトランプ新大統領
習近平政権を襲うトランプ政権という「黒船」 3つの戦い…負ければ政権崩壊も中国の習近平政権にとって2017年は文字通り、内憂外患の年となりそうだ。 
トランプ氏は日本の安倍晋三首相と親しく会談して同盟関係を固めた一方、ロシアのプーチン大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領とも電話会談し、オバマ政権下で悪化した両国との関係の改善に乗り出した。見方によっては、それらの挙動はすべて、来るべき「中国との対決のための布石と理解できよう。 
そして昨年12月初旬、トランプ氏は米国外交の長年のタブーを破って台湾の蔡英文総統との電話会談を敢行し、中国の「一つの中国の原則」へ挑戦状をたたき付けた。対中外交戦の外堀を周到に埋めたトランプ氏はいきなり北京の急所をついて本丸へと攻め込もうとする構えを見せたのである。 
人事面では、トランプ氏は新設の国家通商会議委員長と米通商代表部代表のそれぞれに、対中強硬派の面々を任命して対中国貿易戦の準備を整えた一方、国防長官のポストには強硬派軍人のマティス元中央軍司令官を起用した。南シナ海での中国の軍事拡大を断固として封じ込める姿勢を示したのである。  
一方の習近平政権は、情勢の激変に心の準備も戦略上の布陣もできていないまま、退路のない「背水の陣」を強いられる羽目になっている。 
貿易戦争の展開によって中国の対米貿易が大きく後退すれば、輸出こそが命綱の中国経済は深刻な打撃を受け、既に危険水域にある経済の衰退にさらなる拍車をかけることとなろう。 
そして南シナ海では、今まで「有言不実行」のオバマ政権の生ぬるさを幸いに中国の軍事拡大がやすやすと進んできたが、トランプ政権と米海軍が中国の封じ込めに本気になって当たれば、習政権の拡大戦略は頓挫し立ち往生してしまう可能性も十分にあろう。 
習政権にとって政治的リスクが最も高いのは台湾問題への対処だ。ニクソン訪中以来、対米外交を含めた中国外交の土台は台湾というれっきとした国を国として認めない虚構の上に成り立っている。 
結局、トランプ政権が仕掛けてくる「貿易戦争」「南シナ海の対決」、そして「台湾問題の争点化」という3つの戦いに、習政権は今後、いや応なく応戦していくしかない。 
習近平は、トランプ新大統領と「貿易戦争」「南シナ海の対決」そうして、「台湾問題の争点化」という3つの戦いに応戦しなければならないのです。

そうして、国内では上記に加えて尖閣問題の未解決、AIIBの有名無実化、一帯一路構想の事実上の頓挫などによって、これから経済が短期に回復する見込みもなく、軍事的にもめぼしい成果をあげることもできず、まさに、習近平としては何をどうして良いのかわからないような状況に陥っています。

そうして、ブログ冒頭の記事にもある通り、今秋には、5年に1度の中国共産党大会を控えています。習近平としては、わらにもすがる思いで、権力闘争に利用できるものは何でも利用して自らの立場を有利にしようと躍起になっていることでしょう。

その中には、通常の神経からすると理解に苦しむものがあります。その一つが、アパホテルの客室におかれた書籍をめぐり、支那外務省の報道官が日本国内の言論に対して異例の批判並びに環球時報によるアンケートです。

日本の一民間企業の経営者の書籍に関して、このようなことをするというのは本当に異常としか言いようがありません。

これと同程度もしく、それを上回るような異常事態もありました。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平総書記 共産党員に1.5万字の「習語」書き写し指令―【私の論評】司馬遷を妄用しないと統治の正当性を保てない断末魔の習近平(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、習近平政権の最近の異常ぶりを掲載しました。

それは、以下の二点です。

まず第一に、習近平総書記の最側近で、中国共産党内では事実上のナンバー2といえる王岐山・中央紀律検査委員会書記長が、2015年4月23日習近平総書記の母校・清華大学での講演のため訪中したフランシス・フクヤマSAIS(ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院)教授、青木昌彦スタンフォード大学名誉教授らと面会し、習近平政治について、以下のように講釈したというのです。
 「中国において皇帝というのは、『天子』と呼ばれる神なのだ。中国はいまでも神が統治するから、司法は必ず、中国共産党の指導のもとに行動しなければならない。 
 各国の最高法である憲法は、人間の手によって書かれた紙きれにすぎない。だから憲法が定める最高権力者の大統領は、神ではない。また、日本には天皇がいて、英国には女王がいるが、天皇も女王も神ではない。神がいるのは中国だけだ」 
 王書記は、大胆不敵にも「習近平=神」論をブチ上げたのである。
これは、支那古代の歴史家司馬遷の歴史観そのままです。そうして、習近平総書記に対する神格化は、2016年になって本格化しました。2月28日、習近平総書記は党中央弁公庁を通して、「両学一做」(党章・習近平講話を学習し、党員として合格する)運動を、8779万共産党員に向けて発布したのです。

これは、約1.5万字ある党章と、あまたの習近平講話を、全党員が年末までに手書きで書き写すという指令でした。かつて毛沢東が「毛沢東語録」によって国民を洗脳したように、「習語」(習近平語録)で洗脳し始めたのです。

トランプ氏が新大統領となる前の、昨年のオバマ政権の末期の時期に、習近平政権は、これだけのことをしなければならないくらいにタガが緩んでいてどうしようもないような状態になっていたことです。

そうして、今年習近平はトランプ氏の仕掛ける貿易戦争」「南シナ海の対決」、「台湾問題の争点化」という3つの戦いに挑まなければならないのです。

こう考えると、習近平の焦りは手に取るように理解できると思います。だからこそ、通常ならあり得ない日本の一民間企業に過ぎないアパホテルを批判するというような、とんでもない行動に出たのです。そうして、これは何も偶発的に起こったことではなく、すべて習近平が企んだやらせでしょう。

まさに、今習近平は、不可避の隘路に直面しているのです。今年は、習近平が失脚するか、少なくとも失脚への道筋が明らかにになることでしょう。

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2017年1月18日水曜日

「賃金上昇でも消費伸びない」 経団連見解は消費増税スルー…財務省路線に乗り続けるのか―【私の論評】スロートレードの現状では企業にとって内需拡大が望ましいはず(゚д゚)!

「賃金上昇でも消費伸びない」 経団連見解は消費増税スルー…財務省路線に乗り続けるのか

経団連の榊原定征会長 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 経団連の榊原定征会長は5日の記者会見で、「過去3年、賃金引き上げを続けているにもかかわらず、個人消費が伸びていない」と話したという。

 経団連は、今年の春季労使交渉における経営側の基本姿勢として、将来不安を解消するため、社会保障制度改革の推進や教育費の負担軽減策などを盛り込んだ「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を17日に正式決定、政府に要望する。

 これまで経団連は、法人税の減税などを政府に働きかけ、実現させている。法人税減税と同時に消費税増税も主張してきた。大企業中心の圧力団体として自己の利益に沿った提言を行っており、法人減税と規制緩和が提言の柱である。

 ここで残念なのは、法人減税に関する理論武装がまったくないことだ。理論的には、法人税は二重課税の典型なので、個人段階で税の捕捉が十分にできれば、法人税は不要であるという基本から提言すればいい。そうなると、個人所得の捕捉のために、マイナンバー制や歳入庁創設が必要だということにつながるだろう。

 ところが、経団連傘下の大企業は、租税特別措置による恩恵も大きく、財務省には頭が上がらないようだ。そのためか、こうした「王道」の提言にはあまり積極的ではなく、財務省が唱える財源論に乗っかり、消費増税を主張してきた。ただし、法人減税と消費増税がバーターというのではさすがに国民の批判を浴びるので、社会保障改革として消費増税を主張してきたようにみえる。

 そうした経団連の「努力」もあってか、2014年4月から消費増税は実施された。ところが、「消費増税しても景気は悪くならない」という財務省の主張はウソであり、実際に14年4月以降、景気は落ち込んでいる。

経団連ビル
 「賃上げをしても消費が伸びない」というのは、経団連も主張してきた消費増税には触れずに、消費低迷に言及したもので、なかなか滑稽な話だ。標準的な経済理論によれば、消費が伸びていないのは可処分所得が伸びていないからであり、可処分所得が伸びないのは、消費増税に加えて、賃金の上昇が不十分なためだ。

 そうであれば、消費を伸ばすために消費減税や消費増税の凍結を主張してもいいはずだが、「民僚」ともいわれる経団連は自らの政策提言の失敗を認めず、消費増税路線のままだろう。経労委報告の提言でも社会保障制度改革の推進が掲げられているからだ。

 経団連は、賃金の上昇を恐れており、これ以上の金融緩和も望まないのだろう。追加緩和で完全雇用が実現すれば賃金上昇が本格化するからだ。一方で財務省の路線に乗って緊縮財政と消費増税の旗も降ろさない。

 となると、残るのは規制緩和、構造改革によって消費増加という、ちょっと不可解な方向性だ。未来への投資として、教育・科学技術を国債発行で賄う案でも出せばいいと思うのだが…。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】スロートレードの現状では企業にとって内需拡大が望ましいはず(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事で解説していたように、経団連は、結局のところ自分たちに都合が良い政策をしてもらうための、圧力団体であるという側面があることは否めません。つい最近までは、日本の一番強力な圧力団体というと、農協と創価学会体でした。しかし、農協は自民党との不和によってその地位を失いました。

そうして、経団連や日本医師会もそれに次ぐ圧力団体といえると思います。現実には、法人減税と消費増税がバーターということで、消費増税を主張してきたのが事実です。

8%消費税を導入して消費が伸びなくなるのは当たり前です。そうして、増税後に消費が低迷しているのは、明確な事実です。それについては、以前もこのブログに何度か掲載しています。その記事の典型的なものを以下に掲載します。
日本の景気は良くなったのか 消費弱くデフレ突入の瀬戸際 財政と金融の再稼働が必要だ―【私の論評】何としてでも、個人消費を改善しなければ、景気は良くならない(゚д゚)!
この記事より、消費税増税の悪影響に関する部分を以下に掲載します。
消費増税の悪影響を如実に示すグラフを以下に掲載します。

この統計は、総務省「家計調査」のなかの一つです。この統計は、全国約9000世帯を対象に、家計簿と同じように購入した品目、値段を詳細に記入させ、毎月集めて集計したものです。


増税から一年半以上たっても消費税引き上げ直後の“反動減”の時期に当たる4月95.5、5月92.5とほとんど変わらない数字です。特に2015年11月は91.8と増税後最悪を更新しました。 
増税前後のグラフを見ていただければ、L字型となっていて、数値が底ばい状態であることが判ります。これは反動減などではなく、構造的な減少です。現時点でも、2015年の平均を100とした指数で90台の後半をさまよい続けています。データでみれば一向に個人の消費が上向く兆しはありません。 
この構造的な個人消費の低下は、当然のことながら平成14年4月からの消費税増税によるのです。 
平成14年3月までは、105円出して買えていたものが増税で108円出さなければ買えなくなりました。その一方で、多くの消費者の給料は消費税増税分をまかなえるほど上昇していません。それは以下のグラフをみてもわかります。
名目賃金は、2013年あたりで下げ止まり、若干上昇傾向です。実質賃金は、2015年あたりで下げ止まり16年からは上昇傾向にはあります。ただし、実質賃金は日銀の金融緩和政策によって、雇用状況が改善して、パート・アルバイトや正社員であっても、比較的賃金の低い若年層が多く雇用されると、一時的に下がります。このグラフだけ見ていていては、現実を認識できません。

そこで、例を挙げると、たとえば昨年2015年の春闘で、日産自動車は大手製造業最高の賃上げを記録しました。そのベースアップ(基本給の賃上げ分)を含む1人当たり平均賃金改定額は1万1千円、年収増加率は3・6%。しかしベースアップ分だけなら、月5千円で、2%を切ります。他にも物価上昇が起きている中で、これでは消費増税増加分すらまかなえません。日産という自動車大手最高の賃上げでもこういう状況でした。

日本中のサラリーマンの給料が実質的に目減りをしたのです。これが2014年4月から続く「消費不況」の大きな原因です。
上の消費支出のグラフは2015年までしか掲載されていないので、以下にその続きも含んだグラフを掲載します。


消費税増税直後よりは、良いですが、それでも2016年の8月は前年同月比で-4.6%ですから、どうみても悪いとしか言いようがありません。この傾向は、現在も続いています。

やはり、2014年4月からの消費増税の影響はかなりなくなってきているのですが、消費の力強さがないために、景気回復はまだしっかりしていない。そうなってくると、企業の設備投資にも慎重になるのはやむをえず、昨年はGDPの伸びが横ばいにとどまったのです。

これは、日本のGDPに占める個人消費の割合が60%であり、最大であるということを考えると当然といえば当然です。消費が伸びていないのは可処分所得が伸びていないからであり、可処分所得が伸びないのは、消費増税に加えて、賃金の上昇が不十分なためです。これは、上のグラフにより、明白です。

これらの事実があるにもかかわらず、「賃上げをしても消費が伸びない」という榊原定征氏の発言は、経団連も主張してきた消費増税には触れずに、消費低迷に言及したものであり、ブログ冒頭の記事で、高橋氏が言及しているように、滑稽といわざるをえません。

経団連(日本経済団体連合会)は昨年6月2日、定時総会を開催しました。2期3年目となる榊原定征会長はその総会で挨拶に立ち、「首相の決定を尊重したい」と安倍政権による消費増税延期を支持していました。さらに、「政権と経済界は車の両輪」と発言し、安倍政権との「蜜月」をアピールして見せました。

しかし、今年の5日の記者会見での榊原定征会長の「過去3年、賃金引き上げを続けているにもかかわらず、個人消費が伸びていない」という発言は、やはり財務省を意識したものでしょう。

やはり、財務省があの手この手で、攻勢をかけた結果として、榊原会長は再度財務省側についたか、官邸と、財務省の間で揺り動いているのかもしれません。

ちなみに、経団連の他の商工会議所も経済同友会も財務省よりです。これらの団体も消費増税すべきとの考えです。

経団連に所属する企業は、大企業であり、輸出をしている企業も多いです。そうして、この「輸出」をめぐっては、過去にはなかった大きな世界的な変化があります。それは、現在の世界が「スロー・トレード」の時代に突入しているという現実です。

スロー・トレードとは、「実質GDPが成長しても貿易量が増えない」現象のことです。IMF(国際通貨基金)のデータによると、1990年代は世界の実質GDP成長率が平均3.1%だったのに対し、貿易量は6.6%も拡大した。貿易の成長率が、実質GDPの2倍以上に達していたのです。

それが、2000年から2011年までは、GDP4%成長に対し、貿易量が5.8%成長と倍率が下がりました。そして、2012年から2015年を見ると、GDP3.3%成長に対し、貿易量は3.2%となっているのです。ついに貿易量の成長率が、GDP成長率を下回ってしまったのです。


この原因は様々な要因があるとは思いますが、まずは世界貿易を牽引する役割を担ってきた新興国の自立ということがあると思います。

少し前までの新興国では資源などを先進国に輸出し、それで得た外貨で先進国から製造品を輸入する構図がありました。成長著しい新興国は、こうして経済を発展させました。しかし経済規模が大きくなると、製造品を自国で作り、自国で消費する方が効率的となります。

自動車やスマホなどを見ても、中国や台湾、インドなどの新興国メーカーが台頭してきている背景はそれが理由です。
こうして新興国が自立し、「自国生産・自国消費」を進めることが貿易量の低下の原因となっている面は否めません。

そうして、もう一つは、反グローバル主義の台頭あります。これまで世界は、貿易量の増加でグローバル化が進みました。

先進国ではこのグローバル化によって、雇用や生産を新興国に奪われていると考えています。
そこで台頭してきたのが、反グローバル主義です。アメリカでは反グローバル主義のトランプ氏が大統領選に勝利し、国内での製造への転換を図ろうとしています。

WTOの発表でも08年以降G20で導入された関税引き上げなどの措置は1671件にのぼり、撤廃は408件を大きく上回っています。

このスロートレード、長引くのか、あるいは収束するのか、今のところは判断が難しいです。

スロートレードが長引くと、世界経済の減速につながるのは確かです。なぜなら、各国得意分野と不得意分野があるからです。人間と同じように、不得意分野を補い合うことで効率が高まり、世界規模で生産性が上がる。それに歯止めがかかるということです。
このスロートレードが長引かないことを祈るばかりですが、これからも続くことも考えられるし、景気循環的に定期的にやってくるようになるのかもしれません。

これを前提とすれば、やはり日本も含めて、世界中の国々がまずは自国の内需を高めることが望ましいはずです。

日本は、貿易立国だなどとする人々もいますが、それは事実ではありません。実際、20年ほど前までは、日本のGDPに占める割合は8%に過ぎませんでした。現在は、11%程度です。

日本は、昔から内需大国だったのです。スロートレードの現在、大企業は輸出の伸びはあまり期待できないわけですから、日本の内需が拡大したほうが良いはずです。

中小企業も、財務省からの補助金があったにせよ、まずは内需が伸びないようでは死活問題です。補助金があっても、内需が低迷すれば、中小企業は成り立ちません。

増税すれば、個人消費が低迷して内需は低迷します。これは、決してすべての企業にとって良いはずはありません。

これを考えれば、経団連などの企業の団体こそ、消費税延期、消費税減税、さらなる量的金融緩和を主張すべきです。とにかく、日本国内の内需を拡大する方向にもっていくべきであると主張するのが当然です。ましてや、デフレを放置したり、デフレスパラルにどっぷりと再びはまることになる消費税増税などとんでもないです。

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アベノミクスの破綻を煽る「金融岩石理論」は簡単に論破できる―【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!


2017年1月17日火曜日

アベノミクスの破綻を煽る「金融岩石理論」は簡単に論破できる―【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!


田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

日本にはさまざまな経済上の「逆神」たちがいる。株価や為替レートの予想をすると、まったく真逆の方向に相場が振れるエコノミストや経済学者たちのことだ。もちろん毎回逆神たちの予測が正しい(予測をした本人たちにとっては間違いなのだが)のかどうかを実証した研究者は知らない。

晴れ着姿の女性が見守る中でスタートした東京株式市場 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 ところで世界経済、日本経済の予測もやはり難しい。昨年だけみても、イギリスのEU離脱やトランプ氏の大統領当選による世界経済へのショックをいい意味でも悪い意味でも正確に言い当てたエコノミストや経済学者はほとんどいない。それに予測が当たったとしても「まぐれ当たり」ということもある。

 筆者もリーマン・ショックの後に、この種の「(世界経済危機の)まぐれ当たり」で知名度をあげた何人かのエコノミストについて、マスコミや一般の方々から意見を求められたことがある。残念ながら、「それは(運がよくて)すごいですねえ」と言うしかできなかった。本当にそう思う。常に経済を「バブル」「危機的な状況」であるといい続けて、それが数年、10年、いや20年という時間の中で「的中」しても、あまり筆者には感心するところはないからだ。

 さてこのような「逆神」たちと同じかどうかは、筆者には判断がつかないのだが、現在の日本の経済政策-特に日本銀行の金融政策-を批判する人たちの中に、「金融岩石論者」とでもいうべき人たちがいる。これはなにか。

 坂に岩石があり、びくともしない。だがこれをいったん動かすと、猛烈な勢いで坂を転がりだしてしまう。これと同じで、日銀がマネーをどんどん増やしても物価はまったくあがらない。しかしいったん上がりだすと、どんどん物価は上昇してハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になってしまう、という理論である。

 この金融岩石理論の主張者は実に多い。特に同じ「種族」なのだが、日本国債の岩石理論も支持者に困らない。日本の財政は危機的な状況だ、いまは国債価格が安定しているように思えても、少しだけでも国債利子率が上昇(すなわち少しだけでも国債価格が低下)すれば、あれよあれよと国債価格は暴落し、日本の財政は破綻してしまう、というものだ。このハイパーインフレと財政破綻のふたつの岩石理論は、ほとんど表裏一体化しているので、両方とも主張する人が多い。

 例えば、前回この連載でも登場した朝日新聞編集委員の原真人氏の新刊『日本「一発屋」論』(朝日新書)はその典型である。安倍政権の経済政策は、金融と財政の一体化という名目での「財政ファイナンス」であり、「意図的にバブルを起こそうとする試み」である。低成長が常態になった日本経済で、日銀によってマネーでじゃぶじゃぶにする政策を行えば、バブルが生じてしまう。そしてバブルはやがて破裂するので、経済への反動は深刻化する、だろうというものだ。バブルの破裂を、原氏の著作ではハイパーインフレや財政破綻などとしても表現されている。

 この原氏と同様の意見を、経済学者の浜矩子氏と評論家の佐高信氏がその対談『どアホノミクスの正体』(講談社+α新書)の中で語っている。その対談の一部はネットでも読める。
浜矩子 アベノミクスは、すでにして行き詰まっていると言えます。屋上屋を重ねるように場当たり的な金融政策を続けているわけですが、いつそれが崩壊してもおかしくない。「アホノミクス」、いや「どアホノミクス」と言うべき状況です。
浜氏によれば、アベノミクス(日銀の金融政策)は、極端な国債の買い取りによりマネーを無制限に供給する政策である。この無責任な政策は、実体経済と乖離したバブルを生み出し、やがて破綻することが目に見えているものだという。

 浜氏は経済評論家の高橋乗宣氏と共著で、21世紀に入ってから(リーマンショックが起きた2008年以外)毎年のように、世界や日本の経済危機を予測する書籍を出していることでも著名だ。今年(2017年)の経済危機を予測する高橋氏との共著はまだ出されていないのが、筆者の少し心配するところではある。それだけの人気経済学者でもある。

浜矩子氏の昨年年頭の株価予想
さて原氏も浜氏も、それぞれ「金融岩石理論」的な主張だといって差し支えないだろう。この「金融岩石理論」が、理論的にも実証的にも成立しがたいことを、丁寧に解説した良書が出版された。原田泰・片岡剛士・吉松崇編著『アベノミクスは進化する』(中央経済社)がそれだ。

 現在の先進国(日本、ユーロ圏、イギリス、アメリカ)は、それぞれインフレ目標を設定していて、その目標値を大きく上回るようなインフレになれば、積極的に金融引き締めにコミットするように公約している。どんなに経済が過熱してもその結果としてインフレが目標値以上に高騰すれば、やがて中央銀行が金融引き締めに転じるであろうと、多くの市場関係者たちが予測し、またはすぐに予測できなくても次第に学習することで、自分たちの経済上のポジションを金融引き締めに適合したものに変更する。これによって自己実現的に経済は金融引き締め型に転換していく、というのがインフレ目標の重要なポイントだ。

 簡単に言うと、人々の予測をコントロールしていく政策である。人々の多くは、ときにヘンテコな予測をする人がいても、よほど非合理的な思考に陥る人でもないかぎり、時間をかければほとんどの人が経済の状況(ここでは中央銀行の引き締めスタンスの予測)を正確に把握するだろう。中央銀行がインフレ目標から乖離したら引き締めるといっているのは嘘だ、と思い込む人は極めて少数だ、という意味である。

 さてこのようなインフレ目標を採用していなかった時代、1970年代は年率数十パーセントのような高いインフレに見舞われた。日本でも第一次石油ショックの後の「狂乱物価」が代表的だ。『アベノミクスは進化する』の編著者のひとり、現在の日銀政策委員である原田泰氏は、1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる、ことを指摘している。このことから、中央銀行はインフレ目標を設定することで、物価が上昇し始めても十分にインフレを抑制することが可能だ、ということになる。

原田泰氏
日本がデフレを継続してきたのは、90年代から2012年までのインフレ目標なき時代の日銀による政策運営の時期にちょうど該当する。インフレ目標は上限も定めるが、デフレに陥らないようにできるだけ目標値に近い水準を目指して経済を運営するのが、いまの中央銀行の標準であり、日本もそうだ。しかし、このインフレ目標のない時代があまりにも長すぎて、マネーと物価(デフレ)は、21世紀に入る頃には連動しなくなってしまった。この時期に何が起きていたのだろうか。

 当時の日銀(そしてその時々の政府、第一次安倍政権も含む)は、インフレ目標の導入や積極的な金融緩和を拒否する一方で、「デフレ脱却に努力する」と空手形を出し続けてきた。その10年以上に及ぶ「ウソ」の累積によって、人々は日銀と政府の「デフレ脱却」を信じなくなってしまったのだ。

 これはこれで実に合理的な態度であるが、このデフレ予想が固着してしまったことの弊害は深刻である。マネーをどんなに供給してもそれがいつか縮小するのではないか、(デフレ脱却には)不十分なままで終わるのではないか、と人々が予測することで、物価とマネーの連動が壊れてしまったからだ。

 いわば十数年かけて、日銀は人々の物価とマネーの連関を見事に破壊してしまったのである。これを再度、連動するような正常な状態に戻すことを、いまの日銀は最終的な目標にしてはいる。ただしまだデフレ脱却の途中であり、過去のしがらみ(デフレ予測)はかなり強靭である。

 では、デフレ予想のしがらみが一気になくなるとしたら、どうなるか。これはこれでインフレ目標政策がしっかりと有効になるということなので、高率のインフレがいきなり出現するわけではない。先のインフレ目標政策の効果から自明である。

 原田氏らはこのような事例をふんだんに先の著作の中で示し、金融岩石理論を理論的にも実証的にも論破している。ちなみに、原氏などの懸念とは真逆に、積極的な金融緩和政策をすることで、政府の財政は大きく改善することも同書では実証的に示されている。むしろ財政危機は、経済の停滞を自明としてしまい、経済停滞の中で緊縮政策(財政再建政策という名前の政府支出減少や増税)で生じてしまうことも明らかにされている。

 まだ一年が始まったばかりである。安易に危機を煽る本よりも、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている。

【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事のように、金融岩石論とは、日銀が国債の購入を増やすなど、量的緩和を強化した場合、その結果は、効果がゼロか、ハイパーインフレが発生するかどちらかであり、適度のインフレが発生することは有り得ない、という考え方です。

こうした考えを持つ人は多いのですが、その根拠となる理論構成は、あまりはっきりしていません。私は、説得力のある理論構成に、まだ出会ったことはありません。

なぜこのように呼称することになったかとえば、岩を押しても全く動かないが、一旦、動き始めると、崖から急に転がる様に落ちて行き、止めることができない状況になるのと似ているかららしいです。

黒田総裁の前の日銀総裁白川氏もこの金融岩石論者の考えに近かったと思います。実際白川氏は、2012年5月24日には、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる、のれんに腕押しの状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない」と発言していましたし、同4月21日には、「中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです」と発言していました。

日銀前総裁白川氏
資金を大量に供給した場合は、白川氏はハイパーインフレになると考えていたのです。そして、財政ファイナンスという政策が、量的緩和の効果をゼロからハイパーインフレへと非連続的に転換させる、誤った政策である、と考えていたようです。
さて、金融岩石論とは異なる、金融政策の粘着理論があります。

金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがあるが、効果は少しずつ表れるというのが金融政策の粘着理論です。

この理論の詳細については、以下のリンクをご覧になって下さい。
金融政策の岩石理論と粘着理論
あるいは、書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になって下さい。

上の記事で、原田泰氏は、「1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる」ことを指摘しているとあります。

原田氏は金融政策の粘着理論を正しいものとしています。2013年4月から、黒田体制の日銀はそれまでの白川体制の日銀の金融引き締め一辺倒の金融政策から、異次元の包括的金融緩和に転じました。以下に、当時の金融緩和政策について振り返っておきます。以下にチャートを掲載します。



その時から、この包括的金融緩和により、金融岩石論ではなく、金融粘着理論に従い日本経済は以下のような段階を踏むはずでした。
1.日銀がマネタリーベースを増やす
2.予想インフレ率が約半年かけて徐々に上昇し、実質金利が下がる
3.消費と投資が徐々に増える
4.外為市場で円安が起こり、徐々に輸出が増える
5.約2年~をかけて、徐々にGDPが増え、失業率が下がり、賃金が上がり、インフレ率も上昇する。その過程で株価も上がる。
金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがありますから、上記のように綺麗に段階を踏むというわけではなく、ある項目のほうが進んだり、あるいは遅れたりしつつ、効果は少しずつ現れたはずです。しかし、これを4、5年も継続していれば、上記すべての項目について達成できたに違いありません。

ところが、ここで番狂わせが生じてしまいました。その番狂わせとは、2014年4月からの消費税増税でした。もし、消費税増税をしていなければ、金融緩和に転じてから4年を過ぎた今頃には、完璧に上の5段階まで到達していたことでしょう。

しかし、経済上の「逆神」たちは、これを無視してアベノミクスは失敗だったとして、ブログ冒頭の田中秀臣氏が指摘するように、岩石理論を主張しているのです。

そうして、今までの推移からでも、岩石理論は完全に間違いだったことがはっきりしています。結局のところ、金融緩和をしてもハイパーインフレには見舞われていません。

それよりも、粘着理論のほうがあてはまっていることがわかります。たとえば、昨年は雇用状況がかなり改善され、その象徴的な出来事として、昨年春の大卒、高卒の就職率は、記録を初めて以来最高となりました。

さらに、金融緩和をはじめたばかりの頃には、これは当然のことなのですが、実質賃金が下がりました。これは、雇用が改善しはじめると、まずはアルバイト・パートや、新人を新たなに雇い入れるため、全体では賃金が下がるのが普通なのですが、経済の「逆神」たちは、「実質賃金がー」と大騒ぎしました。

これも、一昨年あたりからは徐々にあがりはじめています。これは、どう考えても粘着論のほうがあてはまっています。

そうして、物価目標2%は未だに達成されていません。これに関しては、日本の構造的不況はおそらく2.7%以下であるのに、現状では失業率が3%を切っていないので、量的緩和がまだ不十分であると考えられるということを主張しました。

やはり、追加緩和を行い、早期に失業率を3%を切るようにし、物価目標を一日でもはやく達成すべきです。

しかし、金融政策粘着論からいえば、追加金融緩和をしても、緩和した直後に失業率が3%を切り、さらに物価目標をすぐに達成できるわけではありません。少なくとも2年くらいはみるべきでしょう。

それにしても、日本の経済の「逆神」たちは、金融政策の粘着理論を全く理解していないようです。

金融政策の粘着理論の理論的背景などについては、それこそ書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になるのが良いとは思いますが、これは、常識的に考えてもわかります。

企業を例にとると、会社の業績が悪くなったときに、業績を改善するには、何か手を打ったとして、即座に良くなるわけではありません。会社の規模にもよりますが、3年から5年はかかるとみるべきではないでしょうか。無論、あまり時間をかけてしまえば、業績が悪くなり過ぎて会社が潰れてしまいますからそんなに時間をかけることはできません。

業績を回復させるために、手っ取り早くまずは、銀行からお金を借りることができれば、そのお金をつかって設備投資や人材の雇用などをすれば、それで短期的に効果があげられ、業績が回復するかもしれません。これは、マクロ経済対策でいえば、財政政策に相当すると思います。

しかし、時流にあったまともなマーケティングやイノベーションをするとなると、それだけではすみません。ただ、設備投資をしたり、人材を採用すれば良いというわけではありません。企業の人々の心をそれ以前と比較して、根本的に変えなければならないわけです。これには、ある程度時間がかかります。これを実施することが、マクロ経済政策でいえば、金融政策にあたるのだと思います。デフレ予想をインフレ予想に変えるにも時間がかかるのです。

このように考えれば、金融政策の粘着性などかなり理解しやすいです。やはり、経済の「逆神」は常識はずれということなのだと思います。

田中秀臣氏は、「こういう人たちの本を読むくらいなら、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている」と上の記事を締めくくっています。

そうて、田中氏はご自身のブログで"[経済]お正月特別企画:2016年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)"という記事を掲載されています。

以下に、その記事のリンクを掲載します。


私も、金融岩石理論のはまらないように、これらの書籍のうち、まだ読んでないものも読んでみようと思いまます。

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