2020年9月26日土曜日

“忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的―【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

 “忍者ミサイル”で過激派幹部を暗殺、米特殊作戦軍、アルカイダを標的

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 ニューヨーク・タイムズ(9月24日付)などによると、米統合特殊作戦軍はこのほど、国際テロ組織アルカイダのシリア分派「フラス・アルディン」の幹部をドローン搭載の通称“忍者ミサイル”で暗殺した。このミサイルは爆弾の代わりに長い回転刃で標的を切り刻むという特殊兵器。米軍はテロリストとの「影の戦争」に新兵器を本格投入し始めた。

ドローン リッパー

6枚の回転刃を放出

 同紙の報道について、国防総省スポークスマンは攻撃が9月14日にシリア北西部イドリブ近くで実施されたことを確認した。米国の対テロ当局者や現地の人権監視団体などによると、殺害されたのは「フラス・アルディン」幹部のサイヤフ・チュンシというチュニジア出身のテロリストで、西側への攻撃計画の首謀者とされる。

 米軍のドローン「リーパー(死神)」が「R9X」と命名されたヘルファイア・ミサイルを発射し、殺害した。通常のヘルファイア・ミサイルには弾頭に約9キロの爆薬が装着されているが、「R9X」は弾頭を爆発させる代わりに、6枚の回転刃が付いた金属物体を放出、これによって標的はズタズタに切り刻まれる仕組みだ。

 この兵器はほぼ10年前に開発され、今回は最近の3カ月間で2度目の使用。1度目は6月に同組織の事実上の指導者だったハリド・アルアルリをシリアで殺害した。この他、これまでに統合特殊作戦軍と中央情報局(CIA)がイエメンやシリアで過激派の暗殺に使ったが、実戦に投入された回数は6度ほどにとどまっている。

 残虐とも思われるこの兵器は米軍の過激派攻撃で民間人の死傷者が増えたため、オバマ前大統領が民間人の巻き添えを最小限に食い止める兵器の開発を指示して生まれた。一般的に多数の過激派を一挙に掃討する場合は通常のヘルファイア・ミサイルが使われ、少数を標的にするケースに通称“忍者ミサイル”の「R9X」が使用されるという。

 統合特殊作戦軍は今後も、シリア、アフガニスタン、イエメン、イラクなどの過激派殺害に「R9X」を使用すると見られているが、最近アフリカ軍がケニアでのドローン攻撃を容認するよう、国防長官とトランプ大統領に要求していると伝えられており、同ミサイルの使用頻度が増える可能性がある。ケニアには隣国のアルカイダ系過激派「アルシャバーブ」が越境テロを繰り返し、1月には米国人3人が殺害された。

西側テロを画策する最凶組織

 殺害された幹部が属している「フラス・アルディン」は米国が最凶のテロ組織として狙い続けてきたグループだ。同組織は元々、アフガニスタンに潜伏していると見られるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリが西側権益を攻撃させるためシリアに設置させたもので、当初は「ホラサン・グループ」と呼ばれた。

 シリアのアルカイダ分派だった旧ヌスラ戦線(現シリア解放委員会)がアルカイダと決別宣言した後、過激な思想を持つ面々が集まって2018年、「ホラサン・グループ」の後継組織として「フラス・アルディン」を立ち上げた。その後、米国の空爆によって大きな打撃を受けたものの、現在はイドリブ県に約2000人の戦闘員が残っているといわれる。シリア北西部はロシアが制空権を握っているため、米国の空爆に抑制が掛かったおかげで生き延びたようだ。

 同組織の存在が知られるところとなったのは昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者だったバグダディが米軍の急襲によりイドリブ県で殺害された時だ。バグダディに隠れ家を提供していたのが「フラス・アルディン」の司令官だったからだ。ISとは犬猿の仲だっただけに、バグダディから用心棒代を受け取って匿っていたことに、世界中のテロ専門家らが仰天した。

 イドリブ県はシリア内戦で残った反体制派の最後の拠点だ。現在は全土制圧を目指すアサド・シリア政権軍がロシア軍機の支援で、同県への攻勢の機会をうかがっているが、トルコ軍がシリアに侵攻し、にらみを利かせているためアサド政権、ロシア、トルコが三すくみのような膠着状態が続いている。

 県内に立てこもる最大勢力はアルカイダとの関係を切ったと主張する「シリア解放委員会」で、その勢力は約3万人。またトルコが支援する反体制派「国家解放戦線」も同程度の勢力規模だといわれる。「シリア解放委員会」は自分たちの占領地域をISと同様に「国家」と呼び、同県の支配体制の強化を図っている。最近では、外国人の過激派追放に乗り出し、「フラス・アルディン」との間で交戦に発展、緊張が高まっている。

 シリアでは、内戦で家を失った難民が人口の半分以上の1400万人にも達し、イドリブ県の住民300万人のうち、100万人が難民化している悲惨な状況だ。だが、各勢力がそれぞれの権益確保に狂奔している現状では和平の展望は暗い。なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい。

【私の論評】中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつある(゚д゚)!

今回の「R9X」は、ドローンそのものではなくドローンから発射されるミサイルです。以下にわかりやすいイメージを掲載します。

ドローンの翼の下に装着された「R9X」

「RX9X」のイメージ  6ft.は6フィートで、約180cm
このミサイルの全長は身長180cmの人の肩辺りまでです

さて、冒頭の記事では、結論部分で「なによりも、中東に介入し続け、現在の混乱の原因の一端を作った米国が逃げにかかっているのは無責任以外のなにものでもないだろう。米国にはテロリストの掃討と同じように、シリアの平和実現に傾注してもらいたい」と締めくくっていますが、この考えはどうなのでしょうか。

私自身は、この考えは正しいようで間違いでもあると思います。現時点では、いずれが正しいかははっきりとはいえません。ただいえるのは、米国が中途半端に中東に関与するのは、決して良い結果をうまないであろうということです。

米国の戦略家ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』平和と戦争について以下のよう語っています。
平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まる。また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとする。

しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていく。人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるというわけだ。 
あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結する。破れた側に闘う力が残されていないためだ。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならない。つまり戦争が平和を生むのだ。

特に欧米の先進国が行う中途半端な人道支援という介入は戦争で疲弊する前に戦闘状態を一時的に終わらせてしまう。つまり両勢力が戦いに倦む前に戦争状態を凍結してしまう。この状態では遺恨や野心が疲弊に取って代わる事が無く、いつまでも紛争国の人々間で燻り続け、本当の意味での戦後復興も行われない。

そのためにかえって状態の不安定化や長期間の小さな衝突と流血が続いてしまう。朝鮮半島やサラエボなどがその格好の事例だ。特にユーゴスラビアではドイツが何の責任も引き受けることなく内戦に介入した。米国も無責任な軍事介入を繰り返した。

国連やNGOの難民支援をそうである。歴史的に見て戦火から逃れた難民の多くは大変な苦労を経験しつつも、逃れた先で土着化しその国の民として同化していく。そうする事で難民達は新たな人生のページを開き、子や孫の世代にまで紛争を引き継ぐ必要がなくなるのだ。個人的に見ても、戦略的に見てもその方が安定と平和を得る事ができる。

これと逆の行いをしているのが国連パレスチナ難民救済事業機関だ。彼らはパレスチナ難民をイスラエル国境近くに人工的に留め置き、二度と帰れる可能性の無い故郷に、いつか帰れるのではという希望を与えている。

若い難民達の殆どは難民キャンプで生まれそこで育っている。これは結局のところ難民の永続化である。彼らの一部は国連パレスチナ難民救済機関の食料を食べて育ち、イスラエルへの敵意をみなぎらせ、一度も見たことの無い故郷を取り戻すためにハマスのメンバーとなり、新たな紛争の火種となっている。
日常を生きる私たちは、戦争で血を流す人々を見れば、同情したくなるし、血を流す当事者も苦痛に満ちた思いをする。これを国際社会の介入で終わらせようとするのは当然の感情かもしれない。しかし、中途半端な介入は悲劇を招くだけだ。

この考えは、多くの日本人には受け入れらないところがあるかもしれません。しかし、現実は現実です。現状の米国はどうなかというと、最大の火種は中国です。現在の米国は、中国との冷戦、場合によっては部分的な熱戦(戦争)も覚悟しなければならないからです。

それを考えると、米国の中東への関与は、どうしても中途半端になります。であれば、米国は中東からの関与をやめるのが妥当です。

ただし、すぐに全面的に手を引けば、さらに混乱が高まるおそれがあります。そのため、現実的な観点から徐々に、手をひきつつあるようです。 

実際、今年8月半ばには、アラブ首長国連邦(UAE)がイスラエルとの国交正常化に合意しました。

米国のドナルド・トランプ大統領は今月11日、イスラエルと中東バーレーンが国交正常化に合意したと発表しました。

これらの合意は、米国の仲介があったことは間違いないです。

トランプ大統領はツイッターに、「過去30日間でイスラエルと和平合意した2番目のアラブ国だ」と書きました。

中東諸国は何十年もの間、パレスチナ問題が解決するまではイスラエルと国交を樹立しない姿勢を貫いてきましたが、これが米国の仲介によって、変わりつつあるのです。

これらは、マスコミでは「大統領選挙目当て」などと批判するむきもありますが、中東和平に結びつくのは間違いないです。トランプ大統領としては、(イラン)対(アラブ諸国+イスラエル)という対立軸を作ろうとしているようですが、これがうまく拮抗すれば、従来の大混乱よりははるかにましです。

トランプとしては、このような対立軸ができた後には、米中央軍を大幅に削減して、アジアに移す心づもりなのだと思います。

ただ、トランプの足を引っ張る勢力もあります。それは、中国であり、ロシアです。両国とも中東に足場を築きつつあります。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍が中東に基地を構える日――中国は「第二のアメリカ」になるか— 【私の論評】中共が力を分散すれば、対中勢力にとってますます有利になる!(◎_◎;)

訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、最近の中国の動きをこの記事から引用します。
  • 中国は中東イランのキーシュ島を25年間租借する権利を得て、ここに軍事基地を構えようとしていると報じられている
  • 事実なら、中国はアジア、中東、アフリカを結ぶ海上ルートを確立しつつあるといえる
  • ただし、イランに軍事基地を構えた場合、中国自身も大きなリスクを背負うことになる
以下にこの記事の結論部分を掲載します。
これからも、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとし、それだけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。今のままだと、中国も同じ運命を辿りそうです。

中国の力の分散は、日米にとっては歓迎すべきことかもしれませんが、米国と本格的に対峙しようとしている中国が中途半端に中東に関与すれば、さらに中東情勢を混乱させるだけです

ロシアの中東関与についても、このブログに掲載したことがあります。

【米イラン緊迫】開戦回避でロシアは安堵 「漁夫の利」得るとの見方も―【私の論評】近年ロシアは、中東でプレゼンス高めたが、その限界は正しく認識されるべき(゚д゚)!
年末恒例の記者会見を行うロシアのプーチン大統領=昨年12月19日、モスクワ

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分だけ引用します。
米国が中東へのコミットメントを低下させるなか、ロシアが米国に代わる新たな「警察官」になりつつあるとの論調が国内外には見られますが、これは明らかに過大評価であると言わざるを得ないです。

そのような限界のなかでロシアが何をしようとしており、どこまでできるのか。中東に復帰してきたロシアの役割を見通す上で必要なのは、こうした過不足ない等身大のロシア像だと思います。

近年ロシアは中東でプレゼンス高めたことは事実ですが、その限界は正しく認識されるべきだと思います。
現在のロシアのGDPは、日本の東京都なみです。東京都が軍備をして、中東で何かをしようとしても限界があるのは目に見えています。ロシアにできることには限界があり、中東に関与すれば中途半端にならざるを得ず、関与し続ければ必ず中東に混乱をもたらします。

ルトワックは『戦争にチャンスを与えよ』で、関わるなら正規軍を50年くらいは派遣して、秩序をつくりかえるくらいの気構えが必要であって、中途半端に関わるのは混乱を増すだけだと言っています。

中東に関しては、米国は徐々に関与を無くす方向ですすんでいますが、中国とロシアは中途半端に関与しようとしています。

中露は中途半端な関与により、中東に新たな火種をつくりつつあるといえます。中東の石油に依存する日本にとっては、この動きは望ましいものではありません。

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2020年9月25日金曜日

TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か―【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

 TikTokめぐり米国に反撃、技術競争では中国有利か

岡崎研究所

 9月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハーは、中国がTikTokの技術を輸出規制の対象とする決定をしたことを捉え、中国も技術のデカップリングに動いていること、差し当たり技術の競争の面で中国の方が少々有利と見られることを論じている。


 8月3日、トランプ大統領は、中国製アプリTikTokの9月中旬以降における米国での使用を禁止するとともに、TikTokの米国事業の米国企業への売却を求める方針を打ち出した。TikTokは、Huaweiとは異なり、戦略的な資産ではなく、TikTokの一件のみをもって一戦を交える用意は中国にはないであろうと思っていたが、案に相違して中国は反撃に出た。

 8月28日、中国商務省は、その輸出規制を改定して複数の技術を規制対象に追加した。これには TikTokの「personalized recommendation engine」を指すと思われる技術が含まれている。これこそが利用者の好みに合わせて動画を配信出来るTikTok独自のアルゴリズムだという。8月29日、新華社はこの新規則により、TikTokを運営する ByteDanceは、中国政府の許可を得ないとTikTokを売却出来なくなるであろうと報道した。ByteDance は新規則に従うと早速表明している。

 TikTokの米国事業の売却は、MicrosoftおよびOracleとそれぞれ交渉中であるが、中国がこの輸出規制の権限を使って売却を阻止出来るのか、あるいは阻止する積りがあるのかは良く分からない。阻止してみたところで、米国でのビジネスが出来ないのであれば、意味はないが、トランプが閉店安売りを強いることを阻止する代償として中国(および ByteDance)が受け容れる用意があるのかは不明である。

 中国として、トランプ政権がTikTokだけでなくTencentのWeChatなど今後も標的を増やすことを睨んで牽制の意味も込めて打った一手であろう。

 フォルーハーの論説は、中国が技術の輸出規制に動いたことは、中国も技術のデカップリング(米国との切り離し)に動いていることの証と捉えている。それは、米国の動きに触発された最初の一手ということであろうが、中国は受けて立つ積りである。デカップリングが進行する世界での両国の技術に係わる力関係は、国内の製造業の基盤および輸出市場の観点からも中国に有利に展開すると、フォルーハーは見ているようである。

 換言すれば、米国が中国にデカップリングを強いるには時期を失している。中国は既に強くなり過ぎていて中国もデカップリングを強い得る立場に立とうとしている、ということではないかと思われる。もしそうであるならば、米国市場から中国企業を手当たり次第排除するだけでは中国に勝てないであろう。

 中国が市場、人口、面積のみならず、技術的優位を獲得し、それを武器に世界戦略に出てきた現実は、大国米国でも、なかなか手に負えない状況になってきたようである。IT技術、宇宙開発、海洋進出、核開発等、いずれの分野でも中国は一国主義を取っている。米ソ冷戦時代でさえ、宇宙協力や核軍縮協定等が存在したが、中国と世界との貿易上の相互依存は深まっても、重要な戦略分野での協力が難しい。協力どころか、もはや切り離しや対立傾向がみられる。

 米国が中国を警戒するのは、中国は、IT技術等を、純粋に経済利用するのではなく、中国の独裁共産主義体制や人権弾圧等、米国が最も重視している民主主義、個人の尊厳と反対の目的のために利用しているからである。これが続く限り、経済とイデオロギーが相まって、米中対立は長期化するのだろう。

【私の論評】米中デカップリングが進めば、軍事でもAIでも中国の歪さが目立つようになる(゚д゚)!

上の記事は、英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのラナ・フォルーハー氏の論説に基づいて、中国に有利としているようですが、その根拠は薄弱です。これに似たような論調で、軍事的にも中国が有利とする説があります。

その根拠となっているのは、DF-17ミサイルの弾頭部のHGV(極超音速滑空兵器)です。極超音速のミサイルであり、米国はこれを撃ち落とせず、よって空母もすぐに撃沈されるので、米軍は負けるというものです。

超音速ミサイルなどについては、ここでは詳細は述べません。それについて知りたい方は、以下の記事などにあたってください。
迫り来る極超音速ミサイルの脅威  現状では迎撃不可能?
これに関しては、脅威であることには違いないですが、だからといって米軍が負けると結論を出すのははやすぎです。

なぜ、そうなのかといえば、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。それは、中国の軍事技術が発展していることは事実ですが、その発展の仕方があまりに歪だからです。

決定的なのは、中国の対潜哨戒能力が米国に比較すると極度に劣っていることです。さらに、原潜の攻撃能力などもかなり劣っているところがあるということです。

日米に比較するとかなり能力が劣る中国のY8型哨戒機

そのため、米軍の原潜(米国は原潜しかない)は中国側に発見されることなく、自由に航行できるのに対して、中国の原潜および通常型の潜水艦は米国に簡単に探知されてしまいます。そうして、魚雷などで撃沈されてしまいます。

そうなると、他の中国の空母などの艦艇や航空機などもすぐに撃沈、撃破されてしまいます。仮に超音速ミサイルで攻撃しようにも、中国は原潜を探知できないのですから、攻撃のしようがありません。

これは、最初からわかりきっていることなので、もし米軍がたとえば、南シナ海で中国と本気で事を構えようとした場合、南シナ海にすぐに超音速ミサイルルで撃破されることが予め予期される、空母打撃群や強襲揚陸艦を最初に派遣し戦端を開くことなど考えられません。

米軍が艦艇や空母打撃群を南シナ海に派遣しているうちは、本気で戦争する気はないとみるべきでしょう。本当に戦争になる場合は、まずは空母、艦艇を引きあげさせるでしょう。

そうして、まずは原潜を派遣(軍事機密なので公表されていませんが、私はもうすでに派遣していると思いますます、実行するしないは別の話)して、南シナ海の中国軍基地を取り囲み、南シナ海に中国の潜水艦や艦艇、航空機が近づけないようにするでしょう。また、中国の沿岸などに、原潜を派遣して、中国の超音速ミサイルの基地を叩くでしょう。

後は、原潜で南シナ海の中国の基地を包囲すれば、補給がたたれ、中国側はお手上げになるはずです。その後必要があれば、米軍は空母打撃群や強襲揚陸艦を派遣して、中国の残存兵力を無効化し、占領するかもしれませんが、私自身は、南シナ海の中国軍基地など、米国にとってはあまり意味のないものなので、そこまではしないだろうと思います。ただ、破壊するか、元の環礁にできるだけ近いかたちで原状復帰をすることになるかもしれません。

米海軍のCVN-73ジョージ・ワシントンとCVN-74ジョン・C・ステニス空母打撃群

中国の技術水準はかなり歪です。次世代通信システム機器5G 通信機器では既に中国は世界のトップの水準になっています。かなり技術を盗んでいるとはいえ、量子コンピュータ、AI技術、宇宙機器のレーダー、電磁波技術、AI技術、クラウド・ビッグデータ、自動運転技術、サイバー技術などで、米国に肉薄するか、米国より優勢になってきているものもあります。

ところが、航空機や高速鉄道などのボルトを製造できません。先日もこのブログに掲載したように、航空機のエンジンもまともに製造できません。

なぜこのようになるかといえば、自由主義諸国に比較して、技術の裾のが広くないからでしょう。中国の場合は、ロシアから導入された技術と、他国から盗んだ技術を基盤にしています。

ロシアというか、ソ連の技術は第二次世界大戦終了後にドイツの科学技術者を大勢連れてきて、様々な技術を発展させ、その後は他国から盗んだものを基盤にしています。ロシアは、ソ連の頃から対潜哨戒能力はかなり劣り、現在も劣っています。

だから、中国のそれも未だに劣っているのでしょう。それに、これは最高機密に属するので、他国から盗むのも困難です。だから、今でもロシア・中国ともにかなり劣っているのでしょう。

これは、軍事技術のほんの一部であり、他にも劣るところは、かなりあります。

これと同じようなことが、ITについてもいえるでしょう。

中国のAI技術が急速に伸びてきていると言われますが、果たして今現在どこまで伸びてきているのでしょうか。米著名シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年10月に開いたパネル討論会で、中国のAI技術の現状に関する一般的な誤解が幾つか明らかになりました。

登壇した専門家によると、中国はAI技術で世界一になるために政府主導のもと官民が足並みをそろえて邁進しているわけではなく、また膨大なデータ量で米国を凌駕しているわけでもないといいます。

これについては、以下の記事が参考になります。
「AI大国、中国脅威論」の5つの誤解 米戦略国際問題研究所のパネル討論会から
この内容は、中国のAIの問題点をあまり突いてはいないと思います。しかし、技術競争では中国有利などとは単純にはいえないことが、何となく理解できます。

一方、アルゴリズムの研究の停滞は、中国のAIのボトルネックとなるかもしれません。

昨年上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっています。

昨年4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」としました。


「アルゴリズム」とは、簡単に言うと「手順や計算方法」のことです。さらにざっくりとした言い方をすれば「やり方」とも言えるでしょう。

そもそもコンピュータは日本語に訳すと「電子計算機」となります。つまりコンピュータは、人の手では時間がかかりすぎたり、面倒だったりする計算を代わりにやってもらうためにあるのです。

そのときコンピュータにさせる「計算の手順、やり方」こそが「アルゴリズム」である、というわけです。

重要なのは、ある結果にたどり着くためのやり方(アルゴリズム)はたくさんあることです。

いくつかのアルゴリズムがある場合、より効率よく計算できるアルゴリズムのほうが優れていることになります。


さて、中国のアルゴリズム研究はどの程度なのかといえば、その尺度としては、数学のノーベル賞ともいわれるフィールズ賞が一応の目安となりそうです。

フィールズ賞(フィールズしょう)は、若い数学者のすぐれた業績を顕彰し、その後の研究を励ますことを目的に、カナダ人数学者ジョン・チャールズ・フィールズ (John Charles Fields, 1863–1932) の提唱によって1936年に作られた賞のことです。以下に国別の受賞者数の表を掲載します。

この表を見ると、米国は13人受賞、中国は0人です。日本は3人です。ロシア(ソ連時代含む)は9人です。

AIを発展させるためには、アルゴリズムも発展させる必要があります。

現状では、中国は確立されたアルゴリズムのもとで様々な開発を行っているものと思われます。

既存の方法でも、新たな方法でも、アルゴリズムが効率的なければ、システムも効率の良いものにはならないです。

そうして、アルゴリズムの研究は、やりはじめて、すぐに成果があがるものではありません。長い時間がかかります。金を投資して、掛け声をかければ、すぐにできるようなものではありません。

奥行きも、間口の広さでも、現在中国は米国に遠く及ばないと言って良いでしょう。

上の記事にもあるように、AIに関しては、小手先の目先の技術については、中国が進んでいるところがあるのかもしれませんが、アルゴリズムに関しては、米国が圧倒的にすすんでいます。

やはり、軍事でみてきたように、AIでも中国の発展は歪です。

現在はまだ目立ちませんが、米中のデカップリングがすすめば、AIでも軍事技術にみられるような、中国の歪さが目立つようになると思います。

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2020年9月24日木曜日

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?―【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

経済でトランプ氏がバイデン氏をリード 民主党政権になると実は「見えない税金」が貧困層を直撃する!?


《本記事のポイント》
  • トランプ大統領、世論調査では経済政策の面でバイデンを抜く
  • 規制は「目に見えない税金」
  • 菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

「民主党は黒人の暴動ばかり論じていて、経済について語っていない。これではトランプが勝利してしまう──」。CNNのインタビューに答えたある黒人男性は、こう語った。

米フォックスニュースが9月中旬に行った世論調査では、経済政策ではバイデン元副大統領の支持率が46%であるのに対して、トランプ大統領は51%と、5ポイントも差をつけてリードしている。

しかも「失業」「新型コロナウィルス」「暴動」の3つのうち、何が最も心配かという質問に対して、「失業」と答えた人は、10人中9人にも上った。全体としてはバイデン氏がリードしているが、コロナで失業問題を心配する国民にとって、経済で実績のある大統領を求める声は根強くあるというこ とを示す世論調査となった。

オバマ時代より所得の増額分は50%も増えた

トランプ政権下では、具体的にどのような実績があったのか。9月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙が詳細に報じているので、確認しておきたい。

まず所得である。昨年のアメリカの平均世帯の収入は4379ドル(約45万5416円)上がって、6万8709ドル(約714万5736円)になったという。この増加額は8年間のオバマ政権より、50%も増えたことになる。

とりわけ中・低所得者の所得上昇率は高い。その数値は人種別に見た場合、白人が5.7%であるのに対し、ヒスパニックは7.9%、黒人は7.9%、アジア人は10.6%にも上る。その理由は、教育レベルの低い人々がより多く働くようになったからである。

ジェンダー別に見た時の数値も注目に値する。男性の中間所得者の賃金の伸び率は2.5%であるのに対して、女性は7.8%アップした。

面白いのが、失業手当の給付による経済効果である。

2008年から2009年のリーマンショック後、政府は99週間の失業手当を給付したが、これによって、アメリカ人の働くインセンティブが低下。25歳から52歳の労働参加率も、82.7%から80.7%と2%も低下した。一方で、トランプ政権になってブルーカラーの仕事の賃金が上昇したため、労働参加率は、2020年の第一四半期までに82.9%に戻った。

その結果、貧困層の割合は1.3%下がり、10.5%となった。この数字は1959年から最も低い数字である。子供の貧困率は、オバマ政権時代と比べると2倍も下がる。

給付金が増えるにしたがって貧困層は増大した

しかも2012年に政府が給付金の額を増やしたのにもかかわらず、所得は減り続け貧困層が増えた。政府による所得移転は、一時的には景気低迷時の減給分を相殺するよう提供されるが、多くのアメリカ人が働かなくてもお金がもらえるので、給付金に依存するようになったのだ。それは2015年に政府が給付金の額を引き締めた後に、アメリカ国民は働き始め世帯所得は上昇を始めたという統計結果にも表れている。

オバマ政権は取り憑かれたようにバラマキ政策や規制の導入をしていたが、経済成長や投資を阻害し、低成長をもたらした。一方、トランプ政権の規制緩和と2017年末の大型減税は起業家の旺盛な投資活動や企業活動を刺激した。新規事業登録の申請件数だけでも、オバマ政権の最後の2年間の2倍になったのだ。その結果、人手不足に陥り、障害者や低学歴の層の雇用が増えただけでなく、犯罪歴のある者まで雇われるようになった。

規制によるコストは「見えない税金」

バイデン氏の政策は、オバマ政権の政策を引き継ぐものとなる。看過できないのは「規制によるコスト」である。

この「見えない税金」のコストを考慮しなければならないと説くのは、2018年から2019年までホワイト・ハウスの経済諮問委員会のトップを務め、現在はシカゴ大学教授であるケイシー・B. ムリガン氏である。ムリガン氏は9月17日付のWSJ氏に寄稿した「バイデンのプランの本当のコスト(The Real Cost of Biden's Plan)」の中で、以下の趣旨を述べている。

バイデン氏は確かに40万ドル(約4000万円)以下の所得者には、増税はないと断言する。だがクリーン・エネルギー政策を推進するバイデン氏の政策は、「見えない税金」で満載だ。

車一つ買うにしても、数千ドル(数十万円)も高くつくようになる。

またバイデン氏は「2035年までに100%クリーン・エネルギーにする」政策を掲げている。それに伴いアメリカの石油の採掘を禁じれば、電気代などに跳ね返ってくる。

私(ムリガン氏)の計算によると、一番下の所得層は、規制によって所得の15.3%にもあたる「見えない税金」を払わなくてはならない(所得が300万だとしたら、45万円にも上る)。これに対し、高所得者にとって、「見えない税金」は所得の2.2%しか占めない。

環境規制は、貧しい人たちを直撃することになる。そんな大事なことを有権者に伝えないのが、民主党政権である。

トランプ政権が続けば、減税や好景気で所得が上昇するだろう。一方、バイデン政権が誕生すれば、2017年の大型減税政策もなくなるだけでなく、電気代などのために支払うコストや、生活必需品の車を買うにも高いコストを強いられる。

「再配分」と「規制大国」を目指したオバマ政権は、結局、低成長だけでなく不平等を助長した。経済成長を目指したトランプの一期目の政策は、すべての人の賃金を押し上げ、不平等を是正したと言えるのだ。

菅首相の構造改革と最低賃金は矛盾 あべこべな政策では経済の浮上は期待できない

一方、日本では菅義偉首相が「構造改革」を掲げる。アベノミクスでは、金融面や財政面での景気の浮上を狙った政策に特化され、当初、第三の矢として掲げられていた「規制緩和・構造改革」は、結局ほとんど実行されなかった。

80年代のレーガン政権に行われた規制緩和が、アメリカの長期的繁栄を築いたように、サプライサイド(供給面)の制度・規制改革に着手するのは、非常に重要である。日本が規制大国から抜け出すためにも、一刻も早い構造改革が期待される。

一方で菅氏は、「最低賃金」のさらなる引き上げに取り組むという。賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令すべきものではない。このような「あべこべ」な政策で、経済は浮上するのか。冒頭で紹介したように、国民からトランプ氏は経済面で信頼が厚い。そのあたりの事情をつぶさに学ばなければならないのではないか。

(長華子)

【私の論評】菅政権は現在のトランプの経済政策と、高橋是清の昭和恐慌時の政策を模範例とせよ(゚д゚)!

トランプとバイデンの経済対策を比較すると、総じてトランプの政策が正しいことは、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンは異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!
ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、バイデン氏の政策の間違いの部分について以下に引用します。
バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。
これは、明らかに緊縮策であり、来年の米国経済はコロナ禍からまだ十分に立ち直っていないでしょうから、明らかな間違いです。実施すべきは、トランプ氏のように減税と、そうして金融緩和です。

この記事では、以下のようなことも掲載しました。
トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。

これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。

 これに対して、マンデル・フレミング効果の観点から、私は以下のように結論を出しました。

8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。

であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。

上の記事では、オバマの給付金政策の失敗についても触れられています。給付金を出し続けるという政策はかえって、雇用を阻害する面あるということです。であれば、さらにFRBがさらに高い目標を設定するほうが、はるかに効果があると思います。

さて、この記事では、日本は今はまだ準備段階と結論を出しましたが、まさにそのような状況です。

確かに、菅総理大臣は自民党の総裁選挙にあたって公表した政策のなかで、地方を活性化するため最低賃金の全国的な引き上げを掲げていました。

梶山経済産業大臣は、これに関連して、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

これに関連して梶山経済産業大臣は閣議のあとの記者会見で、「引き上げありきではなく、上げられる環境作りが第一だ」と述べました。

そのうえで、「コロナ禍で落ち込んだ企業の業績を引き上げ、生産性を上げていくために、さまざまな制度を使って会社のスキルや能力をあげることが重要だ。そういう環境があれば、しっかりと最低賃金を上げていくということになるのでどういう流れになるか考えながらしっかり取り組んでいきたい」と述べました。

菅総理大臣も、梶山経産大臣も、なにやらマクロ経済的にみると、不可思議なことを言っています。

まずは菅総理の賃金をあげるという発言は、上の記事にもある通り、確かに賃金は市場で決まるもので、社会主義的に国家が命令してできるものではありません。それに、これを実行して失敗した国がすでにあります。

それは、韓国です。韓国では機械的に最低賃金を上げた後どうなったかといえば、雇用が激減して大変なことになりました。しかし、これは当然といえば、当然です。マクロ経済的には最初から予想できたことです。

マクロ経済的な観点からは、最初に金融緩和をして、雇用を安定させるべきでした。そのうえで、人手不足気味になれば、そもそも企業が自主的に賃金をあげるので、様子をみながら徐々に最低賃金もあげるべきです。最低賃金を機械的にあげるのは間違いです。

梶山氏も間違えているところがあります。他の条件が変わらず、多くの中小企業の会社のスキルだけがあがっても、それだけでは何も変わらないです。無論スキルが上がること自体は歓迎すべきことですが、それ以前にまずは、マクロ的な対策が必須です。順番を間違えています。

それは何かといえば、積極財政と金融緩和策を同時に行うことです。これに関しては、米国は先んじて実行して成功しています。最近の例では、サブプライムローンによる不況と、リーマンショックによる不況への対応でした。

米国はこの二度の不況に対して、積極財政と金融緩和を同時に実行することにより、不況から抜け出すことに成功しました。特に、リーマンショックにおいては、サブプライムローンでの経験もあったため、すみやかに積極財政と金融緩和を実行して、素早く不況から抜け出すことに成功しました。

一方当時の日本は、日銀は大規模な金融緩和をせず、政府は積極財政どころが、緊縮財政をしたので、デフレと超円高に陥り、震源地の米国や、悪影響に直撃された英国が素早く不況から脱したにも関わらず、日本だけが世界の中で一人負けの状態になりました。

日本は、こうした米英の、不況に陥ったときには、金融緩和と積極財政で素早く不況から抜け出すという米英の方式を真摯に学ぶべきです。まず、これを素早く実施し、しばらく継続しつづければ、雇用が改善され最初は実質賃金が落ちても、その後に賃金は間違いなく上がることになります。これなしに、最低賃金を上げるようなことをしてしまえば、韓国の惨状を繰り返すことになるだけです。

ただ、現在の日本は米英の方式を見習うべきですが、過去の日本では、それを自ら実践しています。それは昭和恐慌からの脱出です。

昭和恐慌は、1930年から31年にかけて起こった戦前日本の最も深刻な恐慌で、第一次世界大戦による戦時バブルの崩壊を契機としています。20年代、世界の主要国は金本位制へ復帰していましたが、今ではその結果として20年代末期から世界大恐慌が起こったと分析されています。

このような状況下、29年7月に成立した立憲民政党の濱口雄幸内閣は、金解禁・緊縮財政と軍縮促進を掲げました。

当時、金本位制に復帰することは現在でいえば金融引き締めであり、緊縮財政とセットで国民を「シバキ上げ」る政策は、失業を増加させマクロ経済運営としては、非常に問題にある政策でした。

このマクロ政策としては、間違った金融引き締めと緊縮財政政策は政変によって終わりました。31年12月、立憲政友会の犬養毅内閣となったのですが、高橋是清蔵相はただちに金輸出を再禁止し金本位制から離脱、積極財政に転じました。

積極財政では日銀引受を伴い、同時に金融緩和も実施され、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換した「リフレ」政策となりました。その結果、先進国の中でも、恐慌から比較的早く脱出した。

日本では、ニュディール政策によって、米国は素早く不況から脱却したと思われているようですが、現実には米国はこの転換がなかなかできず、恐慌から抜け出たのは、第二次成果大戦の最中でした。ニューディール政策のような財政政策だけでは、不況からなかなか脱却できないという格好の事例になりました。

日本では、高橋是清の今で言う「リフレ政策」は、あまり評価されていないどころか、知らない人も多いですが、これは正しく評価されてしかるべきです。

昭和恐慌は、世界恐慌とともに需要ショックによって引き起こされました。それは、日銀引受を伴う金融緩和と積極財政が最も有効な処方箋です。

コロナ・ショックも、世界的なサプライチェーンの寸断という供給ショックもありますが、人の移動制限の伴うビジネス停止により一気に需要が喪失する需要ショックの面が強く、昭和恐慌と同様の経済対策が必要です。

今回のコロナ・ショックは12年前のリーマン・ショックを超えるようです。


今回の悪化判断の起点は昨年夏からです。国内の景気はコロナ禍に直面する前から低迷期にさしかかっていました。米中貿易摩擦と消費税率引き上げに、今年に入って新型コロナが加わりました。複数のショックが続いて起こり、景気の悪化がリーマン時より長引くのは確実です。

リーマン時に比べ、今回のほうが景気の弱さは際立ちます。一致指数の水準をみると、08年6月の102.1に対し、19年8月は98.4。この時点で景況感判断の目安である100を割り込んでいた。輸出や生産に関する指標は18年初めをピークに低下傾向にあり、内閣府の景気動向指数は19年3~4月にも一時「悪化」判断を示しました。

コロナの影響があきらかになった今年3月以降、日本は輸出や生産に加え、個人消費も急減した。小売販売額は前年同月比で4月に13.9%減、5月に12.5%減と2カ月連続で2桁減となりました。リーマン時には最大でも5%程度の落ち込みでした。

コロナショックで外需・内需が総崩れとなった結果、今年4月に一致指数は前月比10.5ポイント低下し、低下幅は比較可能な1985年1月以降で最大となりました。

リーマン・ショック時は金融緩和と積極財政が不十分でしたが、今度こそ米国や、昭和恐慌を模範例として、不況から速やかに脱却すべきです。

特にすみやかに消費減税は実行すべきでしょう。特に昨今では、持続化給付金の詐欺が目立ちます。おそらく、沖縄だけではなく、全国に拡大するでしょう。消費税減税は詐欺の標的にはなりませんし、役所などにも負担がかかりません。

私としては、積極財政の手段としては、トランプのように大規模な減税を行いつつ、様子をみて先の制限なしの個人向けの給付金を、数回実施するのが当面最も効果があると思います。そうして、給付金に雇用促進の効果がみられなくなった場合には、トランプのようにやめれば良いのです。

そうして、昭和恐慌や現在の第二次補正のときのように、政府と日銀の連合軍をさらに強化し、政府が大量の国際を発行し、日銀がそれを買い取るという政策を継続拡大すべきです。

現状では、これを実行継続してもデフレなので、何の問題はありません。将来世代への付けなどにもなりません。デフレから完璧に脱却してインフレが進行するまで継続すべきです。止め時は簡単に知ることができます。それは、物価が上がり続けるのに、雇用が全く改善しなくなったときです。この見極めは、さほど難しくないし、多少間違えたとしてもほとんど問題ありません。デフレよりはるかにましです。

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2020年9月23日水曜日

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ―【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ

岡崎研究所

 今年のG20首脳会議は11月21、22日にサウジのリヤドで開催されることになっている。サウジの実質的な統治者である皇太子のムハンマド・ビン・サルマンはその会議の主宰者になるが、その会議の成功を強く望んでいる。しかし、サウジは、イエメンへの軍事介入における文民をターゲットとした攻撃、国内での反対派の弾圧などにより、国際的に「のけ者」となっている。


 そして、2018年10月にサウジ人ジャーナリストのジャマール・カショギが殺害された事件がある。本件について、9月7日にリヤドの裁判所は、8人の容疑者に有罪判決を言い渡し、この事件に一つの区切りをつけた。これも、11月のG20首脳会議をにらんでのことであると思われる。ただ、言い渡された判決は透明性に欠け、かつ、この犯罪の首謀者を無罪にするもので、国際社会を納得させるものではない。

 9月9日付けのワシントン・ポスト紙社説‘The Khashoggi verdict is meant to provide a fig leaf. Democratic leaders shouldn’t take it.’は、「リヤドの裁判所の判決は全く透明性を欠いている。有罪とされた人の氏名は報道されておらず、彼らの犯罪の詳細は述べられていない」と述べ、国連の報告者アグネス・カマードが判決について、「法的或いは道徳的正統性をもたない」「正義のパロディ」である、なぜならばこの処刑を組織し行った高官は「最初から自由に歩き回っているからである」とツイートしたことを紹介している。社説は、サウジの判決をメルケル、マクロン、ジョンソンなどが受け入れるべきでない、と論じているが、当然彼らは受け入れないだろう。トルコのエルドアンもG20に参加するが、トルコも、当然サウジの裁判所の判決を受け入れないだろう。したがってカショギ事件についてのサウジへの追及は今後も続くし、またそうあるべきであると思われる。

 G20は世界の金融経済問題を扱うフォーラムであり、世界経済で主要な役割を果たす国々が参加している。たまたま今年の開催場所がリヤドということであるが、それだからといって参加を躊躇する理由はない。

 世界経済についても、金融についても、コロナで大きな打撃を受けており、これからの対応についてG20で話し合うべきことは多い。カショギと世界金融・経済問題は分けて対応するのが正解と思われる。政治的な問題はプーチンのナヴァルヌイ問題、習近平のウイグル問題や香港問題、エルドアンの東地中海問題などなど枚挙にいとまがない。諸問題の関連を考えることも時には重要であるが、諸問題を分けて考える方が実り多い結果につながると思われる。

【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

20カ国・地域(G20)の議長国を務めるサウジアラビアは、11月に予定されている首脳会議(サミット)の開催を12月に延期することを次期議長国であるイタリアに非公式に打診した。サウジ政府の協議に詳しい当局者2人が明らかにしています。

G20サミットはサウジの首都リヤドで11月21、22両日に開催が予定されています。協議内容が非公開だとして匿名を条件に述べた同当局者によると、サミットを延期すれば、12月1日に予定するイタリアの議長国開始も後ずれすることになります。

ただし、現在のところ中止という話はないので、いずれ開催されることを前提に話をすすめます。

サウジアラビア人記者 故カッショギ氏

上の記事では、カショギと世界金融・経済問題は、分けて考えるべきとしていますが、まさにそのとおりだと思います。分けて考えるとともに、優先順位と劣後順位をはっきり決めるべきです。世界中の問題をあれこれと少しずつ噛じるように手をつけることは、いたずらにエネルキーを無駄にするだけです。

そもそも、米国にとっては中東はさほど重要ではありません。それを示すデータなどを以下に掲載します。以下に中東の名目GDPを掲載します。


中東においてはサウジアラビアGDPがトップであり、石油で儲けた王族などがイメージされ、さもありなんと思いがちですが、サウジアラビアのGDPは、世界で18番目に過ぎません。中東の全部のGDPをあわせたにしても、世界の4.3%に過ぎないのです。

サウジアラビアのGDPは、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。さらに、最近の米国は自国内で石油を生産できるようになっています。

ちなみに、サウジアラビアのGDPの規模は日本の県と比較すると、ほぼ福岡県相当です。

無論、経済の大きさだけで、米国にとっての中東の重要度を推し量ることはできませんが、それにしてもこの程度ということを認識しておくべきです。ただし、日本にとっては、中東は石油の最大の輸入先です。日本は米国のようには中東を軽視することはできないでしょう。ただし、石油価格がかつてないほどに低下しているというのも事実です。

世界には、まだまだ様々な問題があります。これに優先順位をつけないで取り組めば、混乱するばかりです。無論政府という組織の性質上、国際問題でも国内問題でも、優先順位の高いものだけに集中して、それ以外は一切てをつけないというわけにはいかないですが、そのためにこそ官僚などが存在するわけですから、やはり政治家は優先順位、劣後順位をつけるべきなのです。

経営学の大家ドラッカー氏は、優先順位と劣後順位について以下のように述べています。

いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)

誰にとっても優先順位の決定は難しくありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)

以上は、企業でまともに、マネジメントをして成功した経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。政治家出身ではない、米トランプ大統領はこのことを良く理解しているようです。 そのトランプ氏の最優先課題は、中国問題です。今回のG20でも、コロナ問題と中国問題を最優先するでしょう。一方、中東の諸問題などは中国と対峙する上での制約条件に過ぎないとみているでしょう。

G7もそうすべきです。コロナ問題と、中国問題に集中すれば、それにつれて国際関係も変化していき、他の問題も自動的に解決するか、解決の機運が高まることになります。カジョキ氏の問題は、現状では幕引きにさえしなければ良いでしょう。

そのようなことよりも、コロナと中国の問題に集中すべきです。

トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、この原則が骨身に染みているでしょう。それに、選挙で勝利するためにも、優先順位をつけなければ、失敗することも十分理解しているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということがほとんどです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚です。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

先進国の水準では、政治家ではなく官僚である習近平

民間企業であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位や劣後順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。ただし、共産党内での熾烈な権力闘争はありますが、権力闘争と政策は直接は関係ありません。

中共は、権力闘争には熱心ですが、人民のことなど二の次です。国際関係も二の次です。中国は国際的にも自分の都合で動く国です。

そうして、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとしただけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。G20でも、トラン不大統領は、中国に対して予期せぬ相当厳しい要求をつきつけ、習近平はきりきり舞いさせられるでしょう。今のままだと、中国もかつてのソ連同じ運命を辿ることになります。

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2020年9月22日火曜日

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る―【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る

中央日報/中央日報日本語版

  

 日本企業が中国から大挙撤退し中国を困惑させている。17日に中国環球時報は「1700社余の日本企業が相次ぎ中国から撤退することに対する真相」という記事を掲載した。

今月初めに日本経済新聞が報道した、日本企業が相次いで中国から撤退しているという内容の記事が中国人民に否定的な認識を持たせかねないとの判断から釈明に出た様相だ。

日経の9日の報道によると、中国に進出した日本企業90社が6月末までに中国からの撤退を申請した。続けて7月末までにさらに1670社の日本企業が中国撤退を申請し1700社を超える日本企業が中国を離れることにしたのだ。

こうした日本企業の中国撤退は日本政府が主導している。3月5日に当時の安倍晋三首相は、中国に対する依存を減らすとの趣旨から日本企業に中国から撤退し日本に戻るか、そうでなければ東南アジアに生産施設を移転するよう求めた。

安倍政権は1カ月後の4月7日には新型コロナウイルス流行と関連した緊急経済対策をまとめ、サプライチェーン改革の一環として中国から撤退して帰ってくる日本企業に対して一定の補助金を支給することにした。

これに伴い、6月末まで90社の日本企業が中国撤退を申請し、このうち87社が日本政府の補助金の恩恵を受けることになったという。また、7月末までに1670社の日本企業が中国撤退を決めたのだ。

ここに安倍氏に続き16日に就任した菅義偉首相も官房長官在職中の5日に日経とのインタビューで、日本企業の中国撤退を経済安保的な次元から継続して推進するという意向を明らかにした。

こうした状況は中国人には日本企業が大挙中国から脱出しているという印象を与えるのに十分だ。これを受け環球時報など中国メディアが鎮火に乗り出した。環球時報はまず中国から撤退する日本企業の数が多いのではないと主張した。

現在中国に進出した日本企業は3万5000社に達しており、1700社は5%にも満たない。一般的な状況で5~10%程度の企業が経営環境変化や自社の問題のため中国市場から撤収するため1700社の日本企業撤退は正常という状況に属するということだ。

また、現在中国を離れる日本企業の大多数は中小企業であり、中国の低賃金を狙った労働集約型産業に従事した企業のため中国経済に及ぼす影響は大きくないとした。自動車や健康衛生など日本の主力企業は中国市場を離れる計画がない。

したがって日本企業が相次いで中国を離れているという表現は誇張されているという主張だ。環球時報はまた、日本は2008年の金融危機後に海外進出企業に中国以外に東南アジアなど別の所に生産基地をもうひとつ構築するいわゆる「中国+1」戦略を要求してきたという。

このため今回の撤退はそれほど目新しいことではないという話だ。特に日本貿易振興機構(JETRO)のアンケート調査によると、中国進出日本企業のうち90%以上が現状維持や拡大を試みており、日本企業が大挙中国を離れる現象はないだろうと主張した。

しかしこうした中国メディアの説明にもかかわらず、1700社を超える日本企業が6~7月に中国市場から撤退することにしたという事実は、中国とのデカップリング(脱同調化)を試みる米国の戦略とかみ合わさり中国に大きな懸念を抱かせるのに十分にみえる。

【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

2020年4月7日、日本政府は「2020年度予算補正予算案」を決定しました。その内容は新型コロナウイルスの感染拡大を受けての経済対策的な意味合いが色濃く、そのなかに「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」として235億円を計上しています。

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これらは新型コロナウイルスの感染拡大で、主に中国などに依存していたマスクや医療品、部品や素材などの供給が滞ったことを受けて、既存の生産拠点を国内に回帰したり(こちらが2200億円)、アジア諸国に分散(こちらが235億円)しようというものです。

もっとわかりやすく言うと、日本国内に工場をUターンさせたり、指定した東南アジアに海外拠点の工場を移転したら補助金を出しますよということです。

つまりはサプライチェーン(部品供給網)の〝脱中国〟を意図したわけです。

これまでも世界的に〝中国頼り〟という状況を懸念する声はありましたが、日本では中国に対して弱腰ということもあって楽観的な姿勢を見せていました。しかし、新型コロナウイルスという予想外の事態に直面して、ついに「これは危機的な状況だ」と思ったのではないでしょうか。

この動きに対して、中国側は余裕の姿勢を見せていました。「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月14日付の『補助金で日本企業の中国撤退を支援?「いえ、遠慮します」』という記事では、日本政府が国内回帰する企業に補助金を出すことについて、「日本企業の大規模な国内回帰、もしくは東南アジアへの移転が生じる可能性は低いと分析されている」と紹介しました。

トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が「中国で製造を継続する意向を示した」としています。中国としては、ここであわてれば、事態をさらに悪化させると考えたのでしょうか。

日中両国の思惑が錯綜するなか、7月17日には日本の経済産業省から「補助金」の第1弾について発表がなされました。それについて「共同通信」が報じていて、「山陽新聞朝刊」2020年7月18日では『国内供給網強化 マスク生産など574億円を補助 経産省、第1弾』という記事を掲載しました。

経産省が発表した補助金の採択事業について、「生活用品大手のアイリスオーヤマのマスク生産など57件に計574億円を補助する」とし、「供給網の分散化を進めるための支援事業についても30件を採択したと公表。20年度補正予算で計上した235億円のうち、半額程度が支払われる見通し」と紹介しています。

また、「読売新聞 東京朝刊」2020年7月18日でも『生産「国内回帰」57件補助 国、総額574億円 東南ア移転も支援』という記事で追随しています。補助金を受けた件数や金額についてはほぼ同じ内容で、補助金を受けた企業については「アイリスオーヤマのマスク工場をはじめ、医療機器や医薬品など医療関連が多数を占めていました。


アイリスオオヤマのマスク工場

航空機や自動車、電子機器の関連部品の工場も対象」と紹介。支援事業については「東南アジアに拠点を作る企業では、タイやベトナムへの移設が多かった。マスクやガウンなど医療物資のメーカーが大半を占めた。ハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)の関連企業もあった」としています。

企業が、中国大陸に進出する際には、色々な優遇措置があり、大宴会で歓迎されたりもします。しかし、いざ撤退するとなると「万里の長城」のようなハードルが待ち構えています。一言で言えば「有り金を全部おいて、さらに追い銭を払わないとここから出さないよ」という仕組みなのです。

また、中国大陸から退却しようとする企業の社長や幹部が従業員に監禁されるという事件も起こっています。

中国に進出した企業は現在「行くは地獄、帰るも地獄」の状態に追い込まれているようです。

また、もともと中国大陸で稼いだ利益(人民元)の海外への持ち出しには厳しい制限があります。儲かっているように見えても、その儲けは中国大陸で再投資するくらいしか使い道がないのです。

そのため、現金ではなく商品として利益を持ち込み、その商品を日本で換金して円を手に入れるという手法を使っている企業もあります。

物事が追い風の時には「なんとかなる」と甘い考えでやってきたことが、現在のような向かい風の状況では、重い足かせとなります。

結局、中国大陸からの撤退はすべてを失うだけではなく、追い銭を払うことにもなりかねないです。

しかし、それでも従業員の「安心・安全・生命」におけるリスクを軽減できるし、撤退以降はさらなる追い銭を払う必要もないです。

投資には「見切り千両」という有名な言葉がある。判断を間違えたときでも少ない額で損切りをして莫大な損失から逃れることができれば、その見切りという行動には千両の価値があるということです。

確かに、現在の中国大陸からの撤退は損切りになる場合が多いでしょうが、それでもそれ以上の莫大な損失と、モンゴル・チベットそうして最近では内蒙古を迫害した人類の敵中共と取引したという「黒歴史」を背負うよりははるかにましです。

中国からは、昨年から日本人経営の飲食店が脱出していました。

マレーシアの首都クアラルンプールでは、近年日本人が経営する飲食店の新規開業が相次いでいます。これらの飲食店の中には、中国での経営に見切りをつけた"中国脱出組"が少なくありません。

クアラルンプールの日本人が経営するラーメン店


振り返れば、2010年代に入った頃から、徐々にその動きは始まっていました。2012年の反日デモが、一部の日系製造業に撤退決断の契機をもたらしたのですが、コスト上昇で上海経営のうまみが薄れつつあった一部の日系飲食業界でも“撤退作戦”がささやかれるようになっていました。

2000年代に入って中国がWTOに加盟すると、日本から企業がどっと上海に進出。2010年には上海万博が開催され、日系企業の進出がさらに加速しました。日本料理店は日本人駐在員にとっての息抜きの場ともなり、日本飲食店は繁盛しているようにみえました。

しかし、内実はそうではなかったようです。2010年代に入ると、従業員の賃金は一昔前の700元から5倍に、能力のある社員は10倍に跳ね上がりました。食材も日本並みに上がるどころか、テナント料もすでに東京の水準を上回るものになりました。

多くの飲食店経営の日本人仲間が街の再開発とともに立ち退きを迫られ、店を転々とさせられたのもこの時代でした。

この頃から、上海で経営する一部の日本料理店オーナーの間で、“上海脱出”が話題に上るようになったという。彼らが注目したのはマレーシア等の東南アジアでした。賃料、人件費などの固定費が上海の約半分で済むことと、政府の政策に安定性があることが、日本人オーナーたちの関心をひいたようです。

「商機あり」と日本中が注目したのも今は昔。2000年代の魅力は薄れ、2010年代には視界の悪ささえも出てきた上海に、「ここが潮時」と腹を決めた飲食店オーナーは多かったようです。日本-中国-東南アジア。日本人オーナーたちの移動を追うと、市場の変遷と時代感が見えてきます。

先に掲載したように、トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が中国で製造を継続する意向を示したそうですが、これらの大企業は中国での製造は全体の一部にすぎないので、そのまま継続しても中国経済が今後かなり悪化したとしても、損害は一部に過ぎないので、製造を続ける意向なのでしょう。

これから中国がどうなったにしても、現在中国と呼ばれる地域には、14億人の人々が生活しているわけですから、一時とんでもないことになって経済が落ち込んだにしても、日々食べたり、何かを消費しないと生きていけないわけですし、現体制が崩れたにしても、必ず統治の正当性を持った新たな体制がたちあがるはずです。そうして、いずれ商機は必ずでてくるわけです。

大企業なら、そのような商機を逃さないため、中国にとどまり続けるということもできますが、中企業以下の企業はそうもいかないですから、ここは撤退すべきです。

ただ、恐ろしいのは、中国共産党がたとえ経済が悪化しても、しぶとく生き残った場合です。そうして、長い間中国を統治し続けた場合です。その場合は、中国は経済的には落ち込んだまま、他国に影響を及ぼすことができない、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。

そうなれば、富裕層でさえの生活水準が落ち込み毛沢東時代のような経済状況が長く続くことになるというか、それが中国の新たな常態となるわけです。そのときには、中国は中進国どころか、発展途上国に舞い戻るわけです。

その時でも、トヨタなどの大企業が中国で製造を続けていて、意味があるかどうかはわかりません。そうして、米国の対中制裁の最近の苛烈さと、両国とも本格的な戦争に踏み切るつもりはないようなので、どうもそうなる可能性が高いように思います。大企業としても、現状では見極めが難しいところです。

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2020年9月21日月曜日

ロシアの毒殺未遂に対し求められる西側諸国の団結―【私の論評】かつてないほど脆弱化したプーチン!日本も制裁に参加を!その先に日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてくる(゚д゚)!

ロシアの毒殺未遂に対し求められる西側諸国の団結
岡崎研究所

 ロシアの野党指導者アレクセイ・ナヴァルヌイは8月20日、シベリア西部の都市トムスクからモスクワに向かう航空機の機中で突然苦しみだし、航空機はオムスクに緊急着陸した。ナヴァルヌイはオムスク緊急病院No1に意識不明のまま運び込まれた。その後、8月22日、ドイツに移送された。オムスクの病院は容態が不安定であるとして、移送を8月22日まで遅らせたが、これは体内から毒物が検出されなくなるまで、移送を引き延ばしたと疑われている。オムスクの病院は移送の前にナヴァルヌイの体内には毒物の痕跡はないと発表している。


 ところが8月30日、ドイツはナヴァルヌイにはノヴィチョクが使われたことが「疑いの余地なく明らかになった」と発表した。

 ノヴィチョックは軍用に開発された神経剤であり、KGB、今のFSBのような治安機関や軍にしかないはずである。国家機関がナヴァルヌイを毒殺しようとしたことはほぼ確実とみてよい。プーチンの特別命令で行われたのか、あるいはプーチンの意図を忖度した下僚の行為かはわからないが、ロシア政府は調査を拒否し、証拠を疑問視し、ロシアに対する「情報キャンペーン」を非難している。

 9月4日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Putin’s poison’は、こういうことが繰り返されないように西側はきちんとした対応をすべしと論じている。具体的には、(1)ロシアと欧州を結ぶノルドストリーム2パイプライン計画の見直し、(2)ロシアの国際的な「クラブ」のメンバーシップの制限、特にG7にロシアを復帰させないこと、(3)「汚い」ロシアのお金の流れと影響力拡大工作を抑えることを挙げ、こうしたことについて西側は協調して取り組むよう主張している。

 当然、同社説の言うようにすべきである。そうでないと、プーチンはこういう事件を繰り返し起こす恐れがある。

 ロシアをG7に復帰させるなど論外であるし、ロシアのエネルギーへのEU依存も見直されるべきであろう。人権侵害に対しビザ発給禁止や資産凍結などを科すマグニツキー法に基づく制裁も考えたらよい。プーチンはどうしようもない「ならず者」であるという認識で対応すべきであろう。トランプが対ロ制裁には消極的で、「証拠を見たい」などと言っているが、奇怪である。

 プーチンとその政権がなぜこれほどまでにナヴァルヌイを敵視し、警戒するするのか。ナヴァルヌイは9月中旬に行われるロシアの地方選挙で野党勢力を応援するために東部に行っていた。プーチンとその政権は改憲後、盤石な政権基盤を持つように見えるが、プーチンの認識ではそうでもないということだろう。恐怖政治を行う独裁者は自らも恐怖の中で生きていると言われるが、プーチンの常軌を逸した行動は、彼の恐怖心の反映かも知れない。ナヴァルヌイはある刑事裁判で有罪判決を受けており、プーチンに対抗して大統領選には出られないが、それでもプーチンは心配しているのであろう。

【私の論評】かつてないほど脆弱化したプーチン!日本も制裁に参加を!その先に日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてくる(゚д゚)!

原油安と新型コロナのパンデミック(世界的大流行)悪化でロシア経済は崩壊に向かいつつあります。

プーチン氏に対抗する者はいないですが、かつてなかったほど脆弱(ぜいじゃく)になったと見受けられます。

かつてないほど脆弱化したプーチン
パンデミックの対処に苦しんでいるのは世界のどの政府も同じですが、ロシア政府は三つの戦いに直面しています。

一つは他国同様、急速に広がるウイルスによる直接的な医療や経済面の影響への対処。

二つ目は記録的な原油安。

最後にプーチン氏が2024年以降も大統領にとどまるための憲法改正を諮る全国投票を成功させなければならないです。

この3つを首尾よくこなすことは、実行力のある指導者として自らを描いてきたプーチン氏にとっても荷が重そうに見えます。

ロシア経済はソ連崩壊以来の深刻なリセッション(景気後退)に陥りつつあります。セルゲイ・グリエフ氏らエコノミストの試算によると、ロシアの今年の国内総生産(GDP)は最大9%ないし10%縮小する見通しで、落ち込みは09年の金融危機をはるかに上回ります。

セルゲイ・グリコフ氏
ロシア高等経済学院の調査によると、3月に収入は変わっていないと回答したロシア国民は約60%でしたのですが、4月にはそれが20%程度に低下しました。失業者は急増する見込みです。

パンデミックの管理が計画されることはなく、ロシアの感染者数はいまや111万人で、世界第四位です。不正確な検査からベッドの不足まで、新型コロナはロシアの医療制度の惨状を浮き彫りにしています。

ただ、死者数が比較的少ないようですが、それはロシアではコロナ死者数に含めるのは、コロナのみで死亡した人以外は、コロナ死者数に含めない(コロナ罹患者ががん患者だった場合には、がんで死亡すする)ことや、ソ連が崩壊してロシアに変わったときに、平均寿命がかなり下がり、他国に比較すると老人が少ないことなども影響しているようです。

そのため、死者が少ないとはいっても現実にはかなり被害は大きいものとみるべきです。

20年にわたり最高権力者として君臨するプーチン氏にとっては、最大の政治危機が訪れています。新型コロナと原油安の対策ではトップダウンの強みを示すチャンスでもあったのですが、代わりに明らかにされたのは行政機構の空洞化でした。

プーチン氏はこれまでも統治の核心部分には入り込みたがらなかったのですが、自らが掌握できそうにない今回の危機から、いつも以上に距離を置いています。大統領報道官はプーチン氏が地下壕(ごう)に隠れているとのうわさを否定しなければならなかったほどです。

独立系調査機関のレバダによると、新型コロナ感染拡大以前からプーチン氏の支持率は14年のクリミア併合前以来の水準に低下していました。ところが、さらに下がったように思われます。

国営の全ロシア世論調査センター(VTsIOM)が先週発表した調査結果では、信頼できる政治家としてプーチン氏を挙げたのはわずか28%にとどまりました。

プーチンがナヴァルヌイ氏を敵視し、警戒するにはプーチンがかつてなかったほど脆弱になったことも絡んでいるでしょう。もしそうでなければ、ナヴァルヌイ氏を警戒したり、ましさや毒殺を試みるなどのことは必要ないはずです。

現在の脆弱なプーチンには、さらに西側諸国が結束して、制裁を強化すれば、かなりこたえるのは間違いないです。

毎年9月に露極東ウラジオストクで開催され、安倍晋三首相も2016年以降参加を続けてきた「東方経済フォーラム」が、今年は新型コロナウイルスの影響で中止されました。外資の導入による極東振興を狙うプーチン露大統領の肝いりで15年から毎年行われてきた同イベントだが、そもそも、巨額の投資に似合う成果が得られていなかったとの批判が露国内で出ていました。

2017年「東方フォーラム」 安倍総理とプーチン大統領

ロシアでビジネスを手掛ける日本企業の間でも「会社の幹部を連れてくるだけのメリットがない」などとして、関与を縮小させる動きが出ているといいます。

「フォーラムで発表されている経済合意の一部は実行されていない上、新型コロナの影響、欧米による経済制裁、また割に合わないとして、投資家が“危険な計画”を避けた事例もあったとされている」

露地方政治・経済成長センターのグラシェンコフ代表は記者の書面インタビューで、フォーラムの現状をそう指摘しました。

東方経済フォーラムは、人口減少と経済の衰退が続くロシア極東の振興策として、プーチン氏が15年5月に大統領令で実施を決めた同国最大級の経済イベントです。プーチン氏は第1回会合で、「ビジネスのために最高の環境を整える」と豪語。

以後、日本や中国、韓国、その他アジアの首脳らが毎年出席し、それに随行して企業関係者による大規模な投資ミッションが現地を訪れるのが通例となっていました。

ただ、域内人口がわずか600万人(そもそもロシアの人口は、1億4千万人であり、日本とあまり変わらない、ちなみに北海道の人口は500万人台)規模とされる極東地域でビジネスを展開することは、エネルギーや水産業など1次産業を除けば、至難の業です。主催者は「270件、3.4兆ルーブル規模の合意がなされた」「国内外から1200人超のメディア関係者が参加した」などと成果を強調しますが、グラシェンコフ氏は「主要な経済合意は全て東方経済フォーラムより前になされているもので、フォーラムはそれを追認する場にすぎない」と断じています。

さらにフォーラム開催に、巨額の予算が費やされている実態などにも批判の声が上がっています。 とはいいながら、これは日本でいうと、都道府県に対する予算同程度のものであり、日本レベルでは元々、たいしたものではないのですが、そもそもロシアのGDPは東京都と同程度であり、ロシアにとってはかなり大きなもののようです。

露極東の通信社、デイタ・ルーは6月、フォーラムが膨大な支出で成り立っている一方で、開催手法は時代遅れで、参加する外国人のレベルも年々低下しているなどと指摘した。報道によれば、昨年のフォーラムでは、使い捨ての展示物に数千万ルーブルが費やされていた実態が明るみに出て、「極東地方の住民に衝撃を与えた」といいます。

露政府の巨額投資(日本では通常レベル)にもかかわらず、極東の経済成長は順調とは言い難いです。フォーラムの開催地であるウラジオストクは堅調とされますが、周辺地域では停滞が目立つといいます。

ハバロフスクでは知事の拘束を発端に、7月11日から長期の反政権デモが発生したのですが、露極東連邦大学のアルチョム・ルキン准教授は「ハバロフスク地方の住民が、経済の停滞にも強い不満を抱いていることは疑いようがない」と指摘します。

極東の現状は、安倍首相と同行する形でフォーラムに参加してきた日本企業にも影響を及ぼしています。

ある関係者は「ホテルや交通手段が脆弱(ぜいじゃく)なウラジオストクでのフォーラムの参加には相当額の費用がかかる。現地の政権幹部との会合アレンジなどに失敗すれば、担当者の評価も下がるため、年々参加規模が縮小する傾向にある」と明かしています。

ロシアとの関係強化に注力した安倍政権が終わるのを受け、日本が今後、どのような形でフォーラムに関与するかも注目されます。

焦点の北方領土問題をめぐっては、日本政府が8項目の対露経済協力などを打ち出すなど二国間関係の改善に尽力したものの、進展しなかったのが実情です。そのため日本政府が今後、フォーラム参加を含めて従来通りに露極東の経済プロジェクトに関与し続けるかには疑問が残ります。

ルキン氏は「日本企業の極東への関心が薄まっている事実は明らかだ」とし、「来年、日本の首相がフォーラムに参加することはないだろう」と予測しています。

菅総理は、これからフォーラムに参加しないほうが良いでしょう。それよりも、日本もEUや米国と歩調をあわせ制裁を強化していくべきでしょう。そうすれば、ロシア経済はますます脆弱化していき、プーチンもますます脆弱化していきます。
その先に、日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてきます。

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2020年9月20日日曜日

【新聞に喝!】安倍政権支えた「若者の勝利」 作家・ジャーナリスト・門田隆将―【私の論評】ドラッカー流の"体系的廃棄"をしなければ、新聞はいきづまる(゚д゚)!

 【新聞に喝!】安倍政権支えた「若者の勝利」 作家・ジャーナリスト・門田隆将

  安倍政権の7年8カ月は、新聞や地上波という“オールドメディア”による印象操作報道との闘いでもあった。その意味でマスコミに対して全面戦争を厭(いと)わなかった政権という見方もできるだろう。

 それをあと押ししたのは、ネットの発達だ。マスコミの印象操作の手法は次々とネットで明らかにされ、安倍政権には大きな助けとなった。だが“敵”も最後までその攻撃を止めることはなかった。

 代表格である朝日新聞が12日付で〈若者が見た安倍さんの7年8カ月〉という興味深い記事を掲載した。ネットといえば若者。安倍政権の政権支持率は平均で44%。だが、18~29歳男性の支持率に限ると実に57%だった。まさに安倍政権を支えたのは、若者層だったのだ。その最大支持層の話を集めた記事である。記者はモリカケ・桜への批判を若者から聞き出そうとするが、ほとんど出てこない。

 それはそうだろう。ネットでは多くの証拠が提示され、事実無視の単なる印象操作記事は糾弾対象になってきたからだ。若者は世論誘導に騙(だま)され易(やす)い“情報弱者”たちと一線を画していたのだ。

 だが朝日は〈モリカケや桜を見る会の問題は「国家予算からしたら大きな話ではない」としか思えない〉と、本当は悪いが若者は金銭的な比較で「問題にしていない」と、ここでも印象操作を忘れない。それでも「小中学生のころは、首相がコロコロと交代していた印象がある。在任7年8カ月は長いと思うけど、安倍さんは外交などで行動力もあって信頼していた」と記者の誘導に負けない若者たちの話は頼もしい。いくら“操作”しようとしても、それが通じない層によって安倍政権は支えられたことが分かる。

 記事は「ここ5、6年は特に、学生が妙に大人びていてまじめ」との大学教授のコメントを紹介し、東日本大震災の影響などで、若者は将来の生活や経済に不安を感じており、〈変化を求めず、与党である自民党を支持する学生が多い〉とし、〈若さゆえに政治についての自分の意見が未熟なのは、いまも昔も変わらない〉と締めくくった。とてもこのネット時代には通じない“定番”の終わり方だ。

 朝日は翌13日付で、編集委員による〈またも言葉を光らせられぬ首相を選ぶ。ピンチの温床まるごと継承。すがすがしいほどおめでたい〉との悔しさ満杯のコラムを掲載した。

政権発足前から実に250万部以上も部数を激減(ABC公査)させた朝日。軍配(ぐんぱい)は明確に安倍首相と若者の側に上がったのである。

                 ◇

【プロフィル】門田隆将(かどた・りゅうしょう) 作家・ジャーナリスト。昭和33年、高知県出身。中央大法卒。新刊は『疫病2020』。

【私の論評】ドラッカー流の"体系的廃棄"をしなければ、新聞は必ずいきづまる(゚д゚)!

門田氏の主張することは、数字上でも如実に示されています。

日本ABC協会のまとめによりますと、朝日新聞の8月の販売部数は499万1642部で、前月比2万1千部、前年同月比43万部の減少となりました。朝日新聞の販売部数は1980年代末から2009年にかけて800万部台を誇っていましたが、14年12月に700万部を割り、18年2月には600万部を下回りました。10年ほどで300万部も失った上、減少の速度は増しています。

新聞業界全体で見てもこの20年ほど減少傾向が続いていますが、朝日新聞の場合、14年8月の慰安婦誤報問題や同9月の東京電力福島第1原発事故に関する「吉田調書」問題などで長年のコアの読者が離れたという事情が重なったとみられます。

朝日新聞関係者らによると、販売店の現場では500万部割れには関心が薄いといいます。コロナウイルスの影響で販売店の経営が困難さを増しているため「それどころではない」という気持ちが強い上、販売部数から販売店が注文する以上の分を押し付けられる押し紙の数を引いた実売部数ではとうの昔に500万部を割っているからです。

全国紙などの販売局・販売店関係者の話を総合すると、全国紙の押し紙の割合は販売部数の3~4割を占めるといいます。朝日新聞の場合、押し紙が3割だとすると8月時点での実売部数は約350万部となります。

同新聞の「販売局有志」が16年に出した内部告発文書では同年の押し紙の割合は「32%」と記されており、これを当てはめると、実売部数は約339万部と推測できます。販売関係者の間では300万部は維持しているものの350万部よりは少ないとの見方が強いです。

有力紙の販売局関係者は「(朝日新聞だけでなく)新聞全体の部数減は今後ますます加速していく」と語ります。上述の内部告発文書は、22年には朝日新聞の販売部数は378万部(実売部数は264万部)と400万部を下回り、24年には292万部(同204万部)と300万部を割ると予測しています。

以下に昨年の新聞に関するグラフを二つ掲載します。


昨年もこの状況ですから、今年の販売部数が経つているのは、コロナ禍による一時的なものではないのは明らかです。

この状況を書く新聞社はどのように捉えているのでしょうか。

ドラッカー氏は、昨日を切り捨て廃棄することで新しいことを始めるべきことを主張しています。

長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』)

船底にこびりついた貝と海藻 定期的に除去しないとこうなる

あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならないのです。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そうして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカー氏は、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言うのです。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いのです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。

 乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
『乱気流時代の経営』初版本 表紙

『乱気流時代の経営』の日本での初版は1980年です。40年も前からドラッカー氏はこのような主張をしていたのです。

日本のまともな大企業は、ドラッカーの主張をとりあげたのかどうかは知りませんが、昔から少しずつでも、体系的な廃棄を実践してきました。だからこそ、今日の姿があるのでしょう。

しかし、新聞業界はそうではありませんでした。こうしたことからも今日の新聞社は危機的な状況にあるのです。

大手新聞はいますぐに、まずは印象操作をやめること、それに財務省など官庁の発表をそのまま報道するのではなく、きちんと吟味してから、報道するなどのことをすへきです。

デジタル化なども推進すべきですが、その前にまず体質を改めなければ、せっかくのデジタル化投資も無駄になるでしょう。

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