2024年3月20日水曜日

マイナス金利解除に2人反対=審議委員の中村、野口氏―日銀―【私の論評】金融政策の効果発現に時間はかかる - 日本経済の過ちと教訓

マイナス金利解除に2人反対=審議委員の中村、野口氏―日銀

日銀

 日銀は19日、大規模金融緩和策の大幅修正を決めた同日までの金融政策決定会合で、投票権を持つ9人の政策委員のうち、審議委員の中村豊明、野口旭の両氏がマイナス金利の解除に反対したと公表した。

 日銀の公表文によると、中村氏は「業績回復が遅れている中小企業の賃上げ余力が高まる蓋然(がいぜん)性を確認するまで継続すべきだ」と主張。野口氏は「賃金と物価の好循環を慎重に見極めるとともに、金融環境に不連続な変化をもたらすリスクを避ける観点」から、長短金利操作とマイナス金利の同時撤廃に反対した。

 中村氏は日立製作所出身。野口氏は積極緩和論者「リフレ派」として知られる。 

【私の論評】金融政策の効果発現に時間はかかる - 日本経済の過ちと教訓

まとめ
  • 金融政策の効果発現には通常1年半~2年の時間遅れがある 
  • 誤った金融政策の悪影響も同様に時間を経てから現れる 
  • マスコミは金融政策の影響が出る頃には別の問題に注目が移すことになり、過去もそうであったように本質が見失われる可能性がある。
  • 日本は過去、この時間の遅れを考慮せずに政策判断を誤り続けてきた。だからこそ、日本人の賃金は過去30年にもわたりあがることがなかった。 
  • 金融・財政出動すべきときに、構造改革や生産性の問題にすり変えられ、長い間間違いを繰り返してきた。これを繰り返すべきではない。
過去にこのブログでは、先進国のエネルギーと食糧品を除いた消費者物価指数(コアコアCPI)の推移と日米のその対比から、マイナス金利解除(利上げ)の必要性はないことを主張してきました。

その主張の要旨を以下に再掲します。

まずは、先進国の比較の表を以下に掲載します。
2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI

国名2020年2021年2022年2023年2024年予想
アメリカ1.40%2.30%4.70%3.90%3.40%
日本0.00%0.10%0.60%0.70%0.80%
ドイツ0.70%1.90%3.30%2.60%2.30%
イギリス1.20%2.10%5.90%4.10%3.60%
フランス0.50%1.60%2.80%2.20%1.80%
イタリア0.00%1.20%3.80%3.10%2.80%
カナダ1.70%2.20%4.30%3.70%3.20%

参考資料:

上の表からは、日本のコアコアCPIの伸び率が2020年から2024年予想まで、ほとんどの年でアメリカやユーロ圏、カナダなどの主要国に比べて大幅に低い水準にあることが分かります。確かに現状では物価高ではあるのですが、それは海外から輸入するエネルギーや資源が値上がりしてそれが物価をおしあげているのであり、それを除いた日本国内では物価は低水準にあるといえます。

これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。

以下に日米コアコアCPI比較と米国の金利政策を併記した表を掲載します。

日米の四半期毎の失業率とコアコアCPIの推移 (前年比)

四半期米国 失業率日本 失業率米国 コアコアCPI日本 コアコアCPI米国 金利政策
201913.70%2.30%2.30%0.50%-
23.60%2.20%2.10%0.40%-
33.50%2.10%2.00%0.30%7月:0.25%↓
43.50%2.10%2.10%0.40%9月:0.25%↓
202013.50%2.20%2.00%0.50%11月:0.25%↓
214.70%2.60%1.20%0.20%-
37.90%3.00%1.70%0.20%-
46.70%2.90%1.30%0.10%-
202116.30%2.80%1.50%0.00%-
26.00%2.70%2.10%0.10%-
35.40%2.80%3.10%0.20%-
44.20%2.90%4.10%0.30%-
202213.80%2.70%6.00%0.40%3月:0.25%↑
23.60%2.60%7.00%0.50%5月:0.50%↑
33.50%2.50%8.20%0.60%7月:0.75%↑
43.70%2.50%7.10%0.70%9月:0.75%↑
202313.90%2.40%6.50%0.80%11月:0.50%↑
23.80%2.30%6.20%0.70%12月:0.50%↑
33.60%2.20%5.90%0.60%-
43.50%2.10%5.70%0.50%-
202413.40%2.00%5.60%0.40%-

情報源

失業率

  • 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 雇用統計 
  • 日本: 総務省統計局 - 労働力調査 ([無効な URL を削除しました])

コアコアCPI

  • 米国: 米国労働統計局 (BLS) - 消費者物価指数 
  • 日本: 総務省統計局 - 家計調査 

その他

  • 国際通貨基金 (IMF) 
2024年度1期目は予測値。
米国が、2019年に利下げを行ったのは、コロナ禍のため、失業率が上がることが予め予想されたからだとみられます。失業率は典型的な遅行指標であり、現在の失業率の数値は、数ヶ月から1年前の政策に結果とみなされます。逆にいえば、現在の政策は数ヶ月から1年後に現れるということになります。

米国の失業率は、2020年第二期には、14.7%となりましたが、2022年第一期で3.8%ととなり、安定しました。コアコアCPIが4%台から、6%台になった2022年の第一期ではじめて利上げに踏み切っています。

日本の失業率が米国より若干低めということを考慮しても、2023年4期目で、失業率が2.1%、コアコアCPIが0.5%の日本が、近日中にマイナス金利解除(実質上の利上げ)などする必要性がないことは明らかです。
物価上昇率が低水準 2023年1-2月の消費者物価指数は3.8%と高水準ですが、食料品とエネルギーを除くコア指数は上でも述べたように低水準です。日銀の物価目標2%に届いていません。

賃金上昇率が低迷 2022年の実質賃金は0.8%減少しています。企業は人件費抑制を続けており、賃金の伸び悩みが物価上昇を押し上げる前に解消される可能性は低いでしょう。

円安による物価押し上げ圧力 円安は輸入品価格を押し上げ、家計や企業のコストプッシュ圧力になっています。しかし、これは一時的な要因であり、根本的な需給ギャップを反映したものではありません。

成長減速リスク 世界経済の減速が輸出や設備投資を抑え、国内需要の下押し要因になるリスクがあります。金融引き締めがこのリスクをさらに高める可能性があります。

以上から、日本経済にはデフレ脱却や2%の物価安定目標達成に向けて、金融緩和政策を継続する必要性が依然としてあると考えられます。マイナス金利解除は時期尚早です。

株価が最高値を更新したことは歓迎すべき出来事ではあるものの、バブル期の水準から見れば現在の株価はまだ低水準にあると言えます。本来なら、10万円になっていても良いくらいです。株価上昇が所得や雇用の改善につながるまでには時間がかかることを考えると、現状は依然として力強い景気回復とは言い難い状況にあります。

一方で、政府による不適切な財政出動や金融当局の過剰な金融引き締めがあれば、この勢いすら失われかねません。昨年の所得減税の遅れや、能登半島地震への対応で補正予算を組まずに予備費で対応するという手落ち、そして最近の日銀のマイナス金利解除は、そうした景気下押しリスクの具体例と言えるでしょう。

特に金利引き上げについては、「Behind the Curve」と呼ばれるインフレ亢進に後れを取って利上げをするとのが通常の方法ですが、日銀は早々と利上げする過ちを冒している可能性があります。銀行などの金融機関は金利引き上げを歓迎するでしょうが、現下の低消費・低賃金環境下では景気減速を招きかねません。

日銀植田総裁

日銀の動きには、金融緩和政策からの早期解除を求める財界やマスコミ、財務省などの影響に加え、民間にいたときからマイナス金利の弊害を主張していた植田総裁の個人的思い込み等で国民経済を犠牲にするべきではありません。

デフレ脱却への道のりは平坦ではありませんが、政府・日銀には着実な進展を妨げるような政策決定は慎むべきです。専門家の力強い批判を念頭に置き、機動的な対応を期待したいところです。

金融政策の実体経済への影響が現れるまでには、おおむね1年半から2年程度の時間を要します。例えば利上げの場合、住宅ローン金利の上昇から不動産市況の冷え込み、雇用・所得環境の悪化へと波及していくためです。一方で、金融緩和策の効果が賃金や消費に現れるまでも同程度の時間がかかります。つまり、金融政策の影響には相当の時間遅れが存在するのです。

過去の日本は、間違った金融政策の悪影響が現れたときには、それが金融引締の悪影響であると気付かないマスコミや、政治家などにより、金融政策の失敗という事実が認識されず、批判もされず、他の構造問題や生産性の問題にすり替えられ、長い間誤った金融政策が正されることがありませんでした。そのため、日本人の賃金は過去30年上昇しませんでした。

過去の轍を踏まぬため、今こそ我々は、日銀の政策の間違いを指摘し続けるべきです。さらに、金融・財政出動との有機的な連携を期すべきです。経済の復活には個々人の努力も必要ですが、金融・財政政策は個々人の力の結集ではどうにもできません。水漏れがあるときに、個人の努力で水を汲み上げたとしても、元栓が閉まっていなければ水は溢れ続けます。まず、元栓をとめるしかないのです。それから、パイプを取り替えるなどのことをすべきなのです。

水漏れを元栓を止めることなく、必死で水を汲み出して対処しようとする人々 AI生成画像

金融・財政政策も同じことです。まずは、優れた政策と言う前に、間違った政策をしないことが肝要です。特に金融政策が優れていなくても、間違った政策さえしなければ、経済はいずれ正常な軌道にのります。正常とは、デフレでないということです。デフレは、正常な経済循環(好景気、不景気の繰り返し)を逸脱した、経済の異常な状態です。

一朝一夕には景気は変わりませんが、着実な政策運営こそが経済再生への確かな一歩となり得るはずです。そのことを多くの政治家に認識していただきたいものです。そうして、これこそが政治家の大きな仕事の一つであることを認識していただきたいものです。


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2024年3月19日火曜日

中国経済の悲惨な実態…「デカップリング」を「デリスキング」と言い換えても“世界経済からの切り離し”は止まらない―【私の論評】中国経済減速で外資流入減 急速に発展する東南アジアに投資機会

中国経済の悲惨な実態…「デカップリング」を「デリスキング」と言い換えても“世界経済からの切り離し”は止まらない

まとめ
  • 西側諸国と中国との経済的結びつきが急速に弱まっている。中国からの輸出が主要国で大幅減少している。
  • 中国への外国からの投資や人的交流が大きく減少し、新規投資がなくなっている。
  • 金融機関は中国よりも東南アジア市場にシフトしており、中国経済の勢いの低下を示している。
  • 中国の公式発表データは信用できず、実態は内外から極めて深刻な経済危機に瀕していると考えられる。
  • 中国経済の世界経済におけるプレゼンスは今後さらに低下していく見通しである。

 西側諸国と中国との経済的な結びつきが、想像以上の速さで弱まっている。中国からの輸出は全体で4.6%減少したが、アメリカ、EU、日本などの主要西側国に対する輸出は10%前後も落ち込んでいる。台湾、フィリピン、カナダ、ニュージーランドなど中進国向けの輸出も大幅に減少した。対照的にロシアへの輸出は46.9%も増加しているが、これはウクライナ侵攻で西側の制裁を受けたロシアが中国に依存せざるを得なくなったためだ。

 外国から中国への直接投資額も2022年第1四半期の10億ドル超の資金流入から、2023年第3四半期には1億ドル超の資金流出に転じた。2023年通年でも前年比82%減少している。中国専門のプライベートエクイティファンドへの新規組入れ額も97%減少するなど、人やカネの流れが激減している。

 このトレンドは一時的なものではなく、今後も中国経済の世界経済におけるプレゼンスが年々低下していくと見込まれる。ゴールドマン・サックスの責任者は中国への投資を避ける考えを示し、不動産開発、インフラ開発、輸出というこれまでの成長の3本柱が弱体化して10年は苦戦が続くと指摘した。中国のGDP統計の信頼性にも疑問を呈している。

 実際、東南アジア市場から得られる収益が中国市場を上回るなど、金融機関は中国よりも東南アジアにシフトしつつある。中国の不動産バブル崩壊や地方財政の破綻など国内問題に加え、習近平政権による外資規制強化で、世界経済からの中国の切り離しが加速している。

 中国政府の発表データは信用できず、民間企業は既に自主的に中国離れを進めている。内外から極めて深刻な危機にさらされている中国経済の実態を認識する必要がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国経済減速で外資流入減 急速に発展する東南アジアに投資機会

まとめ
  • 外国からの中国への直接投資が大幅に減少している一方、東南アジアへの投資は増加傾向にある。
  • 日本からも中国への直接投資は減少基調だが、東南アジアへの投資は増加している。
  • 中国経済の減速や米中対立が、中国への投資を手控える要因となっている可能性がある。
  • 今後、デジタル関連や成長を支えるインフラ分野などへの東南アジア向け投資が有望視されている。
  • 一方、中国に対しては投資を抑制する要因が継続すると見られ、投資額は当面横ばい或いは減少が予想される。

外国から、中国へと東南アジアの直接投資の推移を一覧表にまとめました。以下がその表です。
外国から中国への直接投資
外国から東南アジアへの直接投資
直接投資額(億米ドル)前年比増減率直接投資額(億米ドル)前年比増減率
2010106.115.70%201070.118.50%
2011124.317.10%201193.233.00%
2012127.72.70%2012117.225.70%
2013123.5-3.30%2013128.59.60%
2014128.54.00%2014134.24.40%
2015135.65.50%2015132.4-1.30%
2016128.9-4.90%2016117.5-11.20%
2017126.3-2.00%2017129.510.20%
20181357.00%2018139.27.50%
2019140.44.00%2019146.35.10%
202092-34.50%2020107.8-26.30%
2021115.926.00%2021133.724.10%
2022179.154.40%2022167.225.10%
2023330-81.70%20231722.90%

参考情報

中国国家外貨管理局 https://www.safe.gov.cn/big5/
ジェトロ https://www.jetro.go.jp/
ASEAN Secretariat https://www.asean.org

こうして、一覧表にまとめてみると、確かに、外国からの中国への直接投資の激減ぶりは、衝撃的です。

以下に日本から東南アジアと中国への直接投資の推移を一覧表にまとめたものを掲載します。

日本から東南アジアへの直接投資
日本から中国への直接投資
直接投資額(億米ドル)前年比増減率直接投資額(億米ドル)前年比増減率
201013.216.50%20107.110.20%
201116.424.20%20119.229.60%
201219.317.70%201210.716.30%
201318.2-5.70%201310-6.50%
201418.1-0.50%201410.55.00%
201517-6.10%20159.8-6.70%
201615.4-9.40%20168.7-11.20%
201717.111.00%20179.36.90%
201818.910.50%201810.512.90%
201920.79.50%201911.26.70%
202013.4-35.30%20205.9-47.30%
202116.825.40%20217.832.20%
202220.421.50%202211.446.20%
202320.82.00%20239.8-14.00%

参考情報

2023年、日本から東南アジアへの直接投資は2年連続で増加した一方、中国への投資は2年ぶりに減少しました。中国経済の減速や米中対立の影響が中国への投資を手控える要因となっている可能性があります。

今後の見通しとして、特に若年人口が多く経済成長が見込まれるインドネシア、ベトナム、フィリピンなどへの投資機会が有望視されています。デジタル化の進展や成長を支えるインフラ需要が、主な投資先分野となると考えられます。

一方、中国に対しては成長鈍化や対米関係の緊張など投資を抑制する要因が継続すると見られ、当面は投資額が横ばいまたは減少基調が続くと予想されます。

つまり、日本企業の海外直接投資の重心が、リスクの高まる中国から有望な東南アジア市場にシフトする動きが今後も加速していくと考えられます。

いまのままだと、過去にこのブログでも述べたように、中国は図体が大きいだけの凡庸なアジアの独裁国家になってしまうのではないでしようか。

中国が今後、そうなるかどうかは、いくつかの要因次第だと思われます。

一つ目は、経済発展の行方です。確かに現在は減速が見られますが、中国経済の潜在力は大きく、適切な改革ができれば再び成長軌道に乗る可能性があります。しかし、そうならなければ、単なる人口の多い発展途上国にとどまる可能性があります。

二つ目は、政治体制の行方です。現在の一党独裁体制が長期化すれば、先進国入りは難しくなります。しかし、将来的に開放的で自由な社会への移行ができれば、先進国の仲間入りも夢ではありません。

三つ目は、イノベーション力の行方です。中国はAI、5G、量子コンピューティングなど先端技術の研究開発に力を入れています。この分野で高い成果を上げられれば、単なる製造大国から脱却できるかもしれません。

つまり、経済改革、政治改革、技術革新の三つの課題をどう乗り越えられるかにかかっているといえます。

デカップリング AI生成画像

習近平体制が長期化すれば、中国が凡庸な独裁国家に陥る可能性が高くなると考えられます。その根拠は以下の通りです。

経済改革の停滞 
習近平政権は国営企業の改革を遅らせ、国家資本主義的な方針を強めています。民間企業への締め付けも強まっており、経済の活力が阻害されかねません。経済と政治を分離するなどの、経済改革が停滞すれば、中国経済の高度化は難しくなります。
政治的自由の後退 
習政権は言論・報道の自由を弾圧し、反体制派への監視・拘束を強化しています。さらに権力の一極集中が進んでいます。これによる法治国家化の遅れによる政治的自由の後退は、創造性と革新性を阻害する要因となり得ます。
対外孤立の深刻化
人権問題や軍事的な威嚇的姿勢から、欧米諸国からの非難が高まっています。対外的な孤立が深刻化すれば、先端技術の取得や人材の確保が困難になり、イノベーション力が低下する恐れがあります。
民主化の遅れ
習政権は一党支配体制を維持し、権力の世代交代も遅れています。民主化に向けた改革が進まなければ、経済活性化や創造性の発揮が制限されかねません。
このように、習近平体制が続けば、経済改革の停滞、政治的自由の後退、対外孤立、民主化の遅れなどから、中国が凡庸な独裁国家に陥るリスクが高まると考えられます。

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