まとめ釧路湿原は日本最大の湿地であり、未来世代に残すべき貴重な自然資本だ。しかし、その現場では政治の誤りや制度の欠陥が絡み合い、深刻な危機が進行している。
- 小泉進次郎氏の再エネ推進や民主党政権の政策迷走が湿原の保護体制を弱め、開発圧力を高めた。
- メガソーラー施設は2014年の数件から2023年には621件に急増し、規制や環境アセスメントの対象外で被害が拡大。
- 河川直線化などで湿原の生態系は非可逆的変化を遂げ、人口減少や空き家問題など都市基盤の脆弱化も進む。
- 再エネ賦課金は家庭に年間約1万9000円の負担を強い、中国製パネル依存や強制労働疑惑も懸念材料。
- ドラッカーの保守主義の原理に反し、理念先行の政策が自然という社会資本を破壊し、未来世代への責任を放棄している。
釧路湿原は日本最大の湿地であり、1980年には国内で初めてラムサール条約の登録湿地となった。世界的に価値ある自然環境として知られ、日本の象徴ともいえる存在だ。しかしその美しい景観の裏で、自然破壊の危機が静かに進行している。制度の欠陥、政治判断の誤り、国民負担の仕組み、安全保障や人権を脅かす構造が絡み合い、この湿原は今や我が国の環境とエネルギー政策の縮図となっている。
湿原の周辺では、ここ10年で大規模太陽光発電施設、いわゆるメガソーラーが急増した。2014年には数件に過ぎなかった施設は2023年には621件にまで増え、釧路町や標茶町、鶴居村を含む周辺自治体でも50件から301件にまで急増した。「パシクル沼」周辺では330ヘクタールに及ぶ敷地で12万枚のパネルを設置する計画が進んでおり、湿原の景観と生態系は壊滅的な危険にさらされている。
🔳経済負担、安全保障、人権問題
農村部や国立公園外では太陽光パネルは「建物」と見なされず、建築規制の対象外であり、多くの事業が環境アセスメント義務からも外れている。積み重なる環境負荷が十分に評価されないまま、開発は加速している。釧路市は2023年に「建設不適切区域ガイドライン」を策定し、2025年には「ノーモア・メガソーラー宣言」を掲げ、10キロワット以上の事業を許可制とする条例を施行予定だが、施行前の駆け込み建設が続き、実効性には疑問符がつく。
湿原の生態系は一度壊れれば元には戻らない。戦後の治水事業や河川直線化で地下水位は下がり、土砂が堆積した結果、湿原はヨシやスゲの草地からハンノキ林へと変貌した。環境庁や研究者は河道の蛇行を復元し、AI解析で地下水位の回復を確認したが、植生は元に戻らず、湿原の変化は非可逆的であることが示された。釧路湿原の保全の難しさを象徴する事例だ。
再エネ賦課金は全世帯に毎月課されている 上は電気量の使用料明細 |
この現実を直視すれば、理念先行の政策の危うさは明らかだ。再エネ普及を名目に導入された「再生可能エネルギー発電促進賦課金」、いわゆる再エネ賦課金はFIT(固定価格買取制度)の財源となり、2025年度には3.98円/kWh、家庭の負担は年間約1万9000円に達する。だがこの仕組みは結果的に自然破壊を伴う開発にも資金を流し、国民は知らぬ間に破壊的プロジェクトの費用を背負わされているのだ。電気料金の高騰と相まって、この現実は国民の怒りを増幅させている。
さらに、太陽光パネルの大半が中国製であることも重大な懸念だ。パネルにはサイバー攻撃や情報流出の危険が指摘され、エネルギーインフラが外国依存となる安全保障上のリスクを抱える。加えて、多くのパネルが新疆ウイグル自治区での強制労働によって製造されているという国際的な告発もあり、人権問題としても看過できない。
🔳ドラッカーの警鐘と未来への責任
ここで、経営学の大家ピーター・ドラッカーの『産業人の未来』で説かれた「改革の原理としての保守主義」を思い起こす必要がある。
「保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。」
釧路湿原の現状は、この原理を真っ向から踏みにじっている。自然という社会資本を守る責任を放棄し、未来への遺産を理念と短期利益で犠牲にしているのだ。これは保守主義の理念からかけ離れ、破壊的な冒険主義と呼ぶのに相応しい蛮行である。
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