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米軍、中東のテロ対策から対中戦略へ本格シフト
3月19日、ハワイのフォート・シャフター陸軍基地で開かれた会議で、米太平洋軍司令官のロバート・ブラウン陸軍大将が中国に対抗するため、本土から数千から万単位の兵士をアジアに配備する用意があると述べたのだ。
米太平洋軍司令官のロバート・ブラウン陸軍大将 |
「南シナ海で問題(有事)が起きた時には陸海空および海兵隊の兵力が協力し合って対処していくことになります」
この発言が海軍大将ではなく陸軍大将から出たところに注目したい。
中国が南シナ海で人工島を造成し、軍事基地化を進めている中で、ブラウン大将は陸軍の出動も念頭に入れているということだ。
米軍準機関紙『星条旗新聞』によると、実際の有事になった時にはハワイ州、ワシントン州、アラスカ州などから陸軍兵士を短期間、アジアに配備することになるという。
同大将は具体的な兵数を口にしていないが、準備を整えている。
「誰も紛争を望んでいません。我々も望みませんが、有事の際にはどんなシナリオにも対応できる体制を整える必要があります」
海洋でも最終的には陸軍の出動が必要になるとの見方だ。さらにブラウン大将は同会議で「最優先は中国です」と明言した。
これは過去20年ほど、米軍が第一義として精力を注いできた中東でのテロリズムとの戦いから、対中政策へと戦略がシフトしてきたということでもある。
特にイラクとアフガニスタンに派遣していた兵力を世界の別地域に向かわせる中で、中国がプライオリティーになったのだ。
B52戦略爆撃機 |
今月に入ってから、米軍は南シナ海上空に「B52」戦略爆撃機を3回も飛行させている。
「定例訓練」であるが、米軍はわざわざ公表する義務がない。しかし3回とも公式発表している。
最初は3月4日で、2機が米領グアムのアンダーセン空軍基地を飛び立ち、1機は南シナ海上空を「定例訓練」し、もう1機は航空自衛隊と共同訓練をして帰還した。
14日にも2機のB52戦略爆撃機が、さらに19日にも同様に2機を飛ばしている。
米太平洋軍報道官は「米航空機は同盟国や友好国、さらに自由で開かれたインド・太平洋地域を守るために恒常的に同地域で作戦行動を行う」と述べて、南シナ海での中国の行動をけん制した。
さらに米第7艦隊は11日、イージス駆逐艦「スプルーアンス」と「プレブル」を南シナ海に派遣。これは「航行の自由」作戦の一環で、今後も定期的に行っていく予定である。
作戦の目的は中国が南沙(スプラトリー)諸島で過度な海洋進出をしていることへの「異議申し立てと国際法に準拠した航路を維持するため」だ。
今月の米軍によるこうした動きを見ると、前述したブラウン大将の「陸海空および海兵隊の兵力が協力し合って対処する」プランは着実に前に進んでいるかにみえる。
米軍のこうした行動に中国はすぐに反発。
外務省報道官は米イージス駆逐艦の派遣直後、「米軍艦が中国の許可なく海域に進入したことは中国の主権を侵す行為」と嫌悪感を露わにした。
さらに「米国は南シナ海で挑発し、緊張を生み出し、平和と安定を脅かしている」と挑発した。
しかし中国こそが挑発を繰り返す平和と安定の破壊者であるとの見方は、米国では広く支持されている。
首都ワシントンにある新アメリカ安全保障センターのイーリー・ラトナー副所長は、米国が南シナ海を含めたインド太平洋地域で効果的な防衛体制を維持することは中国の拡張をけん制する意味で重要であると説く。
「米国の抑止力が同地域でなくなったら、台湾をはじめとする所地域に政治的不安定がもたらされることになる」
いますぐに南シナ海で有事が勃発する可能性は低いが、文字どおり万難を排して準備しておく必要性は高い。
ただやっかいなことは、中国は南沙諸島の人工島を軍事基地だけでなく非軍事基地としても使用する意図がある点だ。
民生基地としての併用であれば、米軍は民間人をむやみに殺傷できないとの思惑がある。
南シナ海は地政学的に重要な場所であると同時に、海洋資源の宝庫であることは広く知られている。
中国の貿易額の64%の貨物は南シナ海を通過しているし、南シナ海経由の原油のうち23%は日本にも来ている。
海洋資源という点に目を向けると、原油と天然ガスの埋蔵量が豊富である。
米エネルギー情報局(EIA)の調査によると、原油の未発見埋蔵量は112億バレル。ところが中国政府が見積もる埋蔵量はさらに多い。
中国海洋石油総公司が算出した埋蔵量は、EIAの10倍以上にあたる1250億バレルに達する。
また天然ガスの埋蔵量はEIAの調査では190兆立方フィート。一方の中国海洋石油総公司の見積もりは500兆立方フィートで、やはり中国の方が2倍以上も多い。
埋蔵量を正確に算出することは難しいが、大量の天然資源が埋もれているとことは間違いない。
世界の他地域と比較しても、原油と天然ガスは中東、ロシアの埋蔵量にはかなわないが、天然資源の宝庫と呼んで差し支えない。
中国政府がそれを狙わないわけがない。地政学的、資源的、軍事的に南シナ海を内海したいとの野心は強まる一方なのだ。
米専門家からは、南シナ海が「中国のクリミア半島」になりつつあると危惧が聞こえてくる。
ロシアが2014年、力ずくでクリミア半島を併合した手法を中国は手本にしているとの見方だ。
中国による明らかな国際法違反を、米国だけでなく関係国がともに異議として唱えると同時に、圧力を加えていく必要がある。
前出のブラウン陸軍大将は「すべての領域でいいポジショニングを得るために、陸軍が果たす役割もある」と、米軍はすでに普段から南シナ海を眺め、陸海空および海兵隊が総合的に対中国戦略を練っていることを示唆した。
フィリピン・マニラで同国のテオドロ・ロクシン外相(左)と握手するマイク・ポンペオ米国務長官 |
ポンペオ米国務長官は、中国の南シナ海への覇権拡張をけん制するために、南シナ海におけるフィリピン軍等への攻撃が米比相互防衛条約の対象になると明言し、以下のように述べました。
島国としてフィリピンは、自由な海洋へのアクセスに依存している。南シナ海における中国の人工島建設と軍事活動は、米国だけでなく貴国の主権、安全、したがって経済的活動に脅威を与えている。南シナ海は太平洋の一部をなしているので、同海域におけるフィリピンの軍、航空機、公船に対する如何なる攻撃も、米比相互防衛条約第4条の相互防衛義務発動の引き金となる。
2017年末に発表された国家安全保障戦略(NSS)、2018年の8月に成立した国防権限法でもフィリピンや台湾防衛の強化が謳われており、既定路線だったと言えます。また昨年のマイク・ペンス副大統領の東アジア首脳会議(EAS)で、「中国による南シナ海の軍事化と領土拡張は違法で危険だ」との発言を一層具体化するものとなりました。
なぜポンペオ氏はこうした発言をしたのでしょうか。
米比相互防衛条約第4条では、「各締約国が太平洋地域におけるいずれか一方の締約国に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続きに従って、共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定しています。
これまでは南シナ海が「太平洋地域」に入るのかどうかが不明であったため、「南シナ海は太平洋の一部である」と発言することで、その曖昧さを払拭したのです。これによって、以前もこのブログで掲載したように、南シナ海問題、米国とフィリピンの「温度差」を解消しようとしているのでしょう。
米国の政府高官がこうした発言をしたのは数十年ぶりです。オバマ政権下では、同種の規定のある日米安保条約が尖閣に対して適用されるという宣言があった一方で、米比相互防衛条約の適用は注意深く避けられてきました。つまり中国が着々と南シナ海において、人工島を造り、軍事基地化していた時期にこのような発言はなかったため、フィリピンの米国に対する不信は募っていました。
もし、米国が日本に与えたのと同じような確証を私達にも与えてくれるなら、フィリピンは米国に頼ることができ、ドゥテルテ大統領は、中国に対して独自の外交政策を進めようとは思わなかったでしょう。
しかし、フィリピンはすでに、2つの島を失っています。その時米国は、フィリピンを助けに行きませんでした。米国は、国際法のもとで解決されると考えており、領土問題でフィリピンの味方はしませんでした。
もし、米国が日本に与えたのと同じような確証を私達にも与えてくれるなら、フィリピンは米国に頼ることができ、ドゥテルテ大統領は、中国に対して独自の外交政策を進めようとは思わなかったでしょう。
しかし、フィリピンはすでに、2つの島を失っています。その時米国は、フィリピンを助けに行きませんでした。米国は、国際法のもとで解決されると考えており、領土問題でフィリピンの味方はしませんでした。
中国に対して独自の外交政策をすすめてきたドゥテルテ大統領 |
一方、米国が4条の適用を宣言してこなかったのは、その適用を宣言すれば、アメリカが望まない戦争に巻き込まれる危険や、中国がアメリカの「レッドライン」を試す可能性が高まるからです。
それにもかかわらず、米比相互防衛条約の適用を宣言したのは、着々と進む南シナ海の中国の内海化の動きです。
中国は、東シナ海、南シナ海を聖域化していく方針で、中国は2010年代半ばに南シナ海を「核心的利益」と呼び、戦争をも辞さないという姿勢を示しています。
この方針は、1989年から1997年まで中国共産党中央軍事委員会副主席であり、人民解放軍海軍の司令官であった劉華清氏(1916~2011)によって出されたものです。
劉氏は、中国の軍隊が陸軍中心に編成されていることに不満を持ち、近代的な海軍を保有するよう主張。中国は1992年に「領海法」を施行し、海洋での資源や戦略拠点といった海洋権益の確保が、中国の安全保障にとって死活的に重要だと規定しました。
その中で中国は、東シナ海、南シナ海、南沙諸島を自国の領土だと一方的に宣言しています。つまり第一列島線から南シナ海を中国の内海として支配することを決めたのです。
それにもかかわらず、米比相互防衛条約の適用を宣言したのは、着々と進む南シナ海の中国の内海化の動きです。
中国は、東シナ海、南シナ海を聖域化していく方針で、中国は2010年代半ばに南シナ海を「核心的利益」と呼び、戦争をも辞さないという姿勢を示しています。
この方針は、1989年から1997年まで中国共産党中央軍事委員会副主席であり、人民解放軍海軍の司令官であった劉華清氏(1916~2011)によって出されたものです。
劉氏は、中国の軍隊が陸軍中心に編成されていることに不満を持ち、近代的な海軍を保有するよう主張。中国は1992年に「領海法」を施行し、海洋での資源や戦略拠点といった海洋権益の確保が、中国の安全保障にとって死活的に重要だと規定しました。
その中で中国は、東シナ海、南シナ海、南沙諸島を自国の領土だと一方的に宣言しています。つまり第一列島線から南シナ海を中国の内海として支配することを決めたのです。
中国は南シナ海を中国原潜の聖域にすることを狙っている |
中国はすでに西沙諸島や南沙諸島において岩礁等を埋め立てて人工島を造り、軍事基地化しています。さらにフィリピンの隣に位置するスカボロー礁の埋め立てを完成すれば、戦略的トライアングルができ、南シナ海の内海化が完成します。
南シナ海は水深が深いため、ここに中国の原子力潜水艦が潜み、海南島の三亜海軍基地から南シナ海を通り、バシー海峡から太平洋に出ていくことができれば、アメリカ本土に核弾頭を打ち込むことができるようになります。
つまり米国に王手を打つことができるわけです。それは、米国が世界の警察官から撤退することを意味し、日本がアメリカの核の傘を失う時でもあるのです。
米比相互条約の適用について、「取引(deal)」が得意なトランプ大統領も、何のディールも持ち出していません。フィリピン防衛の表明は、アメリカは「覇権から降りない」という意志の表明そのものでもあるためでしょう。
南シナ海は、日本に輸送される石油の9割がこの海域を通過するなど、日本にとっても生命線ともいえる海域です。
この海域を護るために、日本は現在2つのことをしています。1つは、フィリピンやベトナムといった沿岸国に教育訓練を施したり、防衛装備を供与したりすることであり、もう1つは、南シナ海で潜水艦が訓練し港に寄港するなど、訓練と寄港で「中国の自由にさせない」というプレゼンスを示しています。
しかし、南シナ海に戦力を投じれば、東シナ海が手薄になるため、いずもを空母化したり、シーパワーを増やしていかないと、これ以上のことはできないでしょう。
政治とは未来を変えるために現在意思決定をすることです。海軍力の増強には時間がかかるため、日本も海軍力の増強に本腰を入れるとともに、米、英、仏とともに海洋の自由を守ることが不可欠となってきています。
このような準備をすすめる一方で、現在米国が行っている対中国冷戦も大きな意味を持ちます。これによって、中国共産党一党支配をやめ、中国が民主化、政治と経済の分離、法治国家し体制を変えるならば、新中国は国際法を遵守することになり、問題は解決します。
もし、中国が体制を変えないというなら、経済冷戦をさらに強め、米国のみならず世界の先進国がこれに協力し、中国経済を弱体化させ、その後自滅を待つか、軍事的に弱体化したとき、米国およびその他同盟国は、南シナ海の海域で何らかの軍事行動を起こすことになるでしょう。
中国は、現在の体制と、南シナ海の軍事基地をなんとしても守り抜くことになるでしょうから、米国は中国が他国に影響力を行使できなくなるくらいまで、経済を弱体化させ、軍事行動にでることになるでしょう。それは、いますぐということではなく、はやくても10年後くらいになることでしょう。
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