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2019年6月26日水曜日

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか―【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか


サミット会場近くで警備をする警官

28、29日に大阪で20カ国・地域首脳会合(G20サミット)が開かれる。中心となる議題やG20に合わせて開かれる予定の米中首脳会談などの注目点、議長国である日本の役割について考えてみたい。

 G20は、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダおよび欧州連合(EU)の「G7メンバー」に、ロシア、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えたものだ。

 国際通貨基金(IMF)が4月9日に公表した世界経済見通しは、2019年の成長率予測を3・3%とし、前回1月の見通しから0・2ポイント引き下げた。米中貿易戦争や中国経済の減速、英国のEU離脱問題が引き続き懸念材料だからだ。

 世界中が注目している米中貿易戦争では、G20の場で米中首脳会談が開かれることが決まった。このニュースで米国株などが上昇する場面もあった。

 もっとも、今回の米中首脳会談で、すべてが解決するとは多くの人が思っていない。よくて部分的な解決であり、最終的な解決には時間を要するというのが一般的な見方だ。

 英国のEU離脱(ブレグジット)も大きな問題だ。メイ首相は来日するかもしれないが、すでに保守党党首は辞任しており、もはやレームダック状態だ。ブレグジットは英国の国内問題にとどまらず、欧州経済にすでに悪影響を与えている。メイ首相の政治力があれば日英間で貿易問題を話し合い、日英経済連携協定(EPA)や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への英国加盟などの可能性があったが、これらの問題は次期首相の手に委ねられる。

 香港の「逃亡犯条例改正」審議が、大衆デモによりに延期となったが、これについて英国は、香港返還の経緯などを国際社会に説明する必要がある。「一国二制度」がすでに形骸化しており、今回の事件もそれが顕在化したにすぎない。G20では、香港の人権問題を扱ってもいいはずだが、はたしてどこまで議論できるのだろうか。もっとも米中首脳会談において、トランプ米大統領が中国に対して人権問題として取り上げるかもしれない。

 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、G20に対し、世界的な経済成長へのリスクを和らげるため貿易摩擦の解決を最優先課題とするよう求めている。

 ただし、米中貿易戦争は、単に経済の問題だけではない。知的財産権の強制移転や盗用という安全保障面での問題もある。議長国の日本としては、経済問題と安全保障問題のバランスをとりながら、当面の解決策を求めていく必要がある。

 資本取引の自由という西側資本主義ロジックと、生産手段の私有を制限するために資本取引制限のある東側社会主義ロジックとの間の調和・調整が問題解決に求められている。

 また、人権や環境にも配慮し、地球規模問題の解決を図る必要もある。国際社会において名誉ある地位を占めるのは、言うは易く行うは難しだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

夏の参院選を控え、G20サミットで議長を務める首相にとっては、外交手腕を示す格好の場となりそうです。一方、韓国大統領府高官は25日、G20サミットに合わせ、首相と文在寅大統領との日韓首脳会談について「開かれない」と記者団に語りました。高官は「われわれは会う準備ができていると伝えたが、あちら(日本)から何の反応もなかった」と説明。一方で、その場で日本から要請があれば、「いつでも会える」と述べ、会談への未練をにじませました。

安倍総理と、トランプ米大統領との会談は今回のサミットで12回目を数えます。4、5月に続く3カ月連続の相互往来で、強固な日米同盟を世界に示します。非核化をめぐる米朝協議など最新の情報を共有し、北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動を示さない限り、国連安全保障理事会の決めた経済制裁は解除しない方針も再確認します。

また首相は、今月のイラン訪問の詳細をトランプ氏に伝えます。イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡付近での米軍無人機撃墜などで米イランの対立は激化しており、首相は衝突回避の重要性を働きかける意向です。

中国の習近平国家主席は、2013年の国家主席就任後初の来日となります。首相との会談では、米中貿易摩擦が世界経済最大のリスクとなっていることから、通商問題で意見を交わします。20~21日の中朝首脳会談を踏まえ、北朝鮮情勢も協議します。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案撤廃をめぐる香港の混乱について、首相がどう提起するかにも関心が集まるところです。

26回目となるプーチン大統領との会談は、協議が停滞している日露平和条約交渉の取り扱いが焦点です。昨年11月、日露両首脳は1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に条約交渉を加速させることで合意しましたが、プーチン氏は北方領土の引き渡しに関し「計画はない」と明言するなど、局面打開は難しい情勢です。

一方、G20サミットの全体会議では、世界経済、イノベーション、格差・インフラ、気候変動の計4分野が主要議題となります。

トランプ米大統領が今回のG20首脳会議で目指すのは、中国との貿易摩擦、ロシアとの核軍縮、イラン核問題など米国が抱える懸案に関し、「米国第一」の立場から自国に有利な展開を引き出すことです。

トランプ大統領

G20などの多国間会議の場で設定される首脳会談は外交儀礼上、必ずしも正式な会談に位置づけられるわけではないです。

しかし、主要国などの首脳が一堂に会する多国間会議は、複数の国の首脳とそれぞれ効率的に意見を交わす一方、利害が多国間にまたがる特定の懸案については会議の場で合意形成を図れるという利点があります。

トランプ大統領も中国問題については今回、首脳会議ではサイバー攻撃などによる情報窃取、技術移転の強制、関税や非関税障壁などに関し「不公正な貿易慣行」の排除に向けた各国と認識をすり合わせつつ、習近平国家主席との直談判で具体的合意にこぎ着けたい考えです。

ただ、G20首脳会議の枠組みそのものは既に形骸化が明白となっており、米政権としてはさほど重要視していないのも事実です。

2008年に当時深刻化していた世界金融危機に対応するためにワシントンで始まったG20首脳会議は、世界経済が回復軌道に乗った09年にピッツバーグで開かれた第3回首脳会議の時点で、本来の役割は終了したとの指摘は多いです。

ピッツバーグサミット

その第3回会議でも、メディアに最も注目されたのはイランが当時、秘密の核施設の存在を明らかにしたことに対して米英仏の首脳が抗議の合同記者会見を開いたことで、形骸化の萌芽は既に現れていました。

今回もG20自体は米中の直接対決を前に存在がかすみがちになるのは確実とみられます。

そうした中で、安倍総理にとってG20を活用する方法として、やはり増税凍結もしくは見送りの地ならしです。

これについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【G20大阪サミット】大阪から世界が動く 米中貿易摩擦で歩み寄り焦点 日本、初の議長国―【私の論評】G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになる(゚д゚)!
詳細は、この記事をごらんいただくもとして、以下に増税見送りに関する部分のみ引用します。
経済協力開発機構(OECD)は5月21日、世界全体の実質GDP成長率が2018年から縮小し、19年は3.2%、20年は3.4%との経済見通しを発表しました。日本については、19年と20年のGDP成長率をそれぞれ0.7%、0.6%とし、3月の前回予測から0.1ポイントずつ下方修正しました。米中貿易摩擦の影響が大きく、OECDは「持続可能な成長を取り戻すべく、各国政府は共に行動しなければならない」と強調しました。 
そのような中、日本が初めて議長国を務めるG20サミットが開かれます。日本は議長国として、機動的な財政政策などを各国に呼びかける可能性が高いです。それにもかかわらず、日本のみが増税すれば、日本発の経済不況が世界を覆うことになる可能性を指摘されることにもなりかねません。 
平成28年5月下旬、三重県で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット、G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進め、直後に延期を正式表明しました。
伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の危機を強調した安倍総理

果たして、G20はG7の再来となるのでしょうか。もし今回増税すれば、日本経済は再びデフレスパイラルの底に沈み、内閣支持率がかなり落ちるのは目に見えています。 
それでも、増税を実施した場合、安倍政権は憲法改正どころではなくなります。それどころか、野党はもとより与党内からも安倍おろしの嵐が吹き荒れレームダックになりかねません。 
まさに、G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになります。
 さて、増税見送りということでは、当初永田町では、衆院解散のタイミングは6月から7月初頭の間に断行して今夏の参院選との同日選に持ち込む案(この場合、投票日は8月4日とするとの説があった)と、今夏は参院選単独で行っておいて今秋から暮れにかけて衆院選を行う「時間差ダブル選挙」とする案がありました。

現状では、衆参同時選挙の芽はなくなってしまったようですが、全くないということでもないと思います。さらに、今秋に増税凍結を公約として衆院選挙という手は未だ否定しきれないところがあると思います。暮ということでは、増税延期には間に合わないので、今秋衆院選は未だにありえる選択肢です。

現在、政争の道具にするには、全く不利で実際他国ではほとんど政争の道具にされていない年金問題で野党は政府を追求しようとしています。この試みは、「もりかけ」問題と同じく野党にとって全く不毛な結果に終わることでしょう。

しかし、現実には与党の支持率は落ちています。とはいいながら、野党に支持率はあがっていません。この状況ですからから秋に衆院選をすることにし、それまでの間に年金問題に関して国民にわかりやすく説明していくことなどの戦略は十分に考えられます。

いずれにしても、伊勢志摩サミット(G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進めたように、G20でもそれを安倍総理が実行するかどうか、見逃せないところです。

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2019年6月1日土曜日

【日本の解き方】著名エコノミストが主張する日本の「基礎的財政赤字拡大論」 財政より経済を優先すべきだ ―【私の論評】増税で自ら手足を縛り荒波に飛び込もうとする現世代に、令和年間を担う将来世代を巻き込むのだけは避けよ(゚д゚)!


オリビエ・ブランシャール氏

 元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏が、日本の財政政策について、プライマリーバランス(基礎的財政収支)赤字を拡大すべきだというツイートを日本語で行ったことが話題になっている。

 ブランシャール氏と田代毅氏の連名によるペーパーも日本語で読める。筆者は田代氏と面識はないが、経済産業省の官僚という経歴のようだ。

 そのペーパーでは、「現在の日本の環境では、プライマリーバランス赤字を継続し、おそらくはプライマリーバランス赤字を拡大し、国債の増加を受け入れることが求められています。プライマリーバランス赤字は、需要と産出を支え、金融政策への負担を和らげ、将来の経済成長を促進するものです。要するに、プライマリーバランス赤字によるコストは小さく、高水準の国債によるリスクは低いのです」との結論が書かれている。

 そこでは、中央銀行を含めた「統合政府」による分析がなされており、「総債務ではなく純債務が正しい概念です(少なくとも良い概念です)」との前提なので、財政省がしばしば行っている総債務について狭義の政府の分析から導き出す結論より筆者にとっては信頼できる。

 その内容も、筆者がかねてより主張している財政政策と金融政策の一体運用に基づいて、まだ財政政策の余地があるというもので、おおよその方向性について異論はない。

 インフレ目標に達していないという現実については、金融政策でまだ余地があるとともに、財政政策でも余地がある。というのは、インフレ目標は、新たな財政規律としての意味があるからだ。

 統合政府では、政府が発行した国債を中央銀行が購入するのは、統合政府の負債として国債とマネタリーベース(中央銀行が供給するお金)の交換でしかない。ここで、マネタリーベースは基本的には無利息無償還である。この場合、国債発行がやりすぎかどうかはインフレ率に出てくる。インフレ目標が財政規律になりうるのだ。

 日本では、こうした政府と中央銀行の連携を、「財政ファイナンス」として、禁じ手だと断定するが、あまりに不勉強だ。インフレ目標の範囲であれば、実体経済に弊害はなく、否定する理由もない。現状の日本経済を考えると、プライマリーバランス赤字を過度に恐れる必要はなく、それによる成長の成果を目指したほうが、結果として、経済やその一部である財政にとっても好影響になると思う。

 こうしてみると、財務省を中心にマスコミや一般国民に垂れ流された考え方は、「財政再建至上主義」ともいえることがわかる。財政が経済を動かすという世界観で、プライマリーバランスの均衡化が最優先になる。

 一方、ブランシャール氏らの議論は、財政は経済の一部であり、マクロ経済学の基本に基づいて経済運営すれば、財政はおのずと後からついてくるという経済主義だ。このため、日本経済にとっては一時的なプライマリーバランス赤字は問題ではなく、経済再建のほうが優先される。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】増税で自ら手足を縛り荒波に飛び込もうとする現世代に、令和年間を担う将来世代を巻き込むのだけは避けよ(゚д゚)!

オリヴィエ・ブランシャール氏 についてWikipediaでは「現在はIMFとのチーフエコノミストとして活躍している」とありますが、 2015年10月に退任しているようです。ブランシャール氏については、池田信夫氏が「超低金利では政府債務のコストは小さい」と主張していると紹介しており、あの池田氏も同様の主張を最近はしています。そのブランシャール氏の主張を、IMFが批判しています。
IMFはブランシャールの財政赤字提言を「危険なステップ」と批判。「低金利がいつまでも続く保証はない」。IMF warns nations to limit public debt | Financial Times http://ow.ly/6HNd30oueUM 


記事では、ポルトガルの経済学者でIMF財政局代表のVítor Gaspar氏が「財政赤字の拡大に警告(IMF warns nations to limit public debt)」しています。

要するに、低金利がいつまで続くか分からない。金融危機を起こす要因は複数あり、そのときに備えて「今は財政赤字は拡大すべきではない」ということのようです。そのときとは、リーマンショックのような世界的な金融危機のことを想定しているのだと思います。

記事中にもあるように、IMFは伝統的に正統派の財政政策を支持してきており、それを踏襲した発言のようです。世界経済の権威であるブランシャール氏や、最近話題になっている「財政赤字の提言」には反対の立場をIMFとしては取らざるを得ないのでしょう。

ところでブランシャール氏は、2016年時点では日本の財政へ警笛を鳴らしていました。



【新着記事】小黒 一正: オリヴィエ・ブランシャール教授の日本財政への警鐘 http://agora-web.jp/archives/2019301.html 

しかしながら、ブランシャール氏は今や立場をかえました。これに関しては、以下の2つの記事を読むとよくわかります。

長期停滞の時代には財政赤字が必要だ(池田氏ブログより)
マクロ経済政策再考(田中秀臣氏ブログより)

ブランシャール氏は「日本は今後もプライマリー赤字を続けることが望ましい」といいます。したがって今の日本で消費税を増税することは望ましくないということになります。

経済に関しては、大雑把に緊縮派、反緊縮派と別れていますが、 ブランシャール氏やリフレ派の主張するところの「金利/インフレ率が過度に上昇しなければ、財政赤字は問題ない」というコンセンサスはとれていると思います。

そうなった場合の問題は、本当に低金利、低インフレ率が今後も続くかどうかに絞られます。個人的には、先進国では史上最低水準の金利、インフレ率のときに暴騰するリスクを叫ぶのはいかがなのかと思います。それより、「人々がどうすればより豊かなで幸せな人生を送れるのか」に集中すべきときなのではないでしょうか。

ブランシャール氏の主張する、財政より経済を優先すべきとは、現実の世界では、財政が赤字になることをおそれるがため、緊縮財政や金融引き締めなどをしないで、まずは積極財政や金融緩和をして、経済を良くすべきだということです。

その結果経済が良くなれば、税収が増えて、財政赤字も自ずと解消されるということです。しかし、平成年間の日本はその逆ばかりやってきました。特に財政では、消費増税と復興税など緊縮財政ばかりやってきました。

一昨日は、国債の金利が極端にあがったりしない限り、財政破綻などすることはないことを日本国を4人の家族にたとえて解説しました。政府の信用がなくなれば、国債の金利が極端にあがって、財政破綻する可能性もでてきます。

では、実際の国債の長期金利はどのような推移をしているのか以下にグラフを掲載します。


このような状況では、どう考えてみても財政破綻などありえないです。ただし、「日本の国債発行残高はGDPの200%を超えており、破綻の危機にある」と危機を煽る人々も多いです。昨日の記事をご覧いたたげれば、そのようなことはないことがご理解いただけるものと思います。

しかし、現実に市場は10年先の国債を金利がほぼつかない状態でも買いたがっています。どうして破綻が危惧されているはずの国債が買われるのかを、メディアが報じないのかが大きな問題だと思います。

バブル崩壊後、日銀の金融緩和のあるなしに関わらず、金利は右肩下がりに低下してきました。その理由は簡単で、民間に資金需要がないため、銀行は国債でしか有り余る銀行預金を運用できないからです。いくら政府債務が膨らもうとも、株や外貨、外国の国債より日本の国債の方が相対的に安全性が高いと市場はみているのです。

昨年の最後の取引となった28日の東京債券市場で、長期金利の指標である10年物国債の流通利回りがマイナス0.010%に低下(債券価格は上昇)しました。これは、2017年9月8日以来、約1年3カ月ぶりの低い水準でした。

この長期国債のマイナス金利も、日本の株価が大幅に下がったことも影響しています。株価が下がれば、株式市場から逃げるお金がどこか別の投資先を求めることになります。高い利率が魅力の新興国に向かうお金もあるし、リスクを避け絶対に破綻などあり得ない米国国債や日本国債も買われます。

米中貿易戦争による景気減速が株下落の主因のように報じられていましたが、米国債の利上げも株から国債へお金を流入させる要因になっていました。それは、米国の株価と国債金利の動きをみれば明らかです。


国債金利の推移をみるだけで、「日本は財政危機にある」との認識がどれほど間違っているのかが理解できるはずです。それなのに、SNSでは「日本は終わった」と思っている人の多さに驚きます。有効な手段があるにも関わらず、その手段の有効性を多くの人が理解していないため、政策に結びつかないという馬鹿馬鹿しい状況にあるのが日本の今です。

国民の意見など関係ない一党独裁の中国は、景気の減速に伴い「財政出動」と「減税」という有効で当たり前の手段をとろうとしています。彼らは、日本のバブル崩壊後の失敗から十分学んでいるのです。

ただし、現在の中国はこのブログにも以前掲載したように、国際金融のトリレンマにはまってしまっているため、金融緩和はやりたくてもできない状況にあります。もし、金融緩和ができるなら、彼らは躊躇することなく実行するでしょう。

本当は日本も、彼らのように、デフレを完全脱却するためには、できることはなんでもやるという姿勢でなければならないのです。そうして、現在の日本にはできることはいくらでもあるのに、それをやろうとしていないという奇妙な状況にあるのです。

消費増税により自ら手足を縛り荒波に飛び込もうとしている日本の現世代に、令和年間を担う将来世代を巻き込むのだけは絶対避けなければなりません。

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2019年4月8日月曜日

歴史の法則で浮かんできた、安倍政権「改元後半年で退陣」の可能性―【私の論評】安倍総理の強みは、経済!まともな政策に邁進することで強みが最大限に発揮される(゚д゚)!

歴史の法則で浮かんできた、安倍政権「改元後半年で退陣」の可能性
このまま増税を実施するならば…

大阪の成長は安泰だが、では日本の成長は…?

先週の本コラム「平成は終わるが、大阪の成長を終わらせてはいけない 大阪選挙の論点を11の図表で確認」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63847)では大阪ダブル選挙の情勢について取り上げたが、フタをあけてみれば、大阪ダブル選挙は吉村・松井の維新コンビがそれぞれ府知事・市長に当選した。

これまでの実績が十分にあり、さらに2025年に開催予定の大阪万博と夢洲にIR(統合型リゾート施設)を建設する、という将来への布石も打ってきた維新が負けるはずないと思いながら、選挙は水ものなので、筆者の中にも一抹の不安はあった。

しかし、やはり大阪府・市民は賢明な選択をした。選挙当日、お笑い芸人・ブラックマヨネーズの吉田氏が、ツイッター(https://twitter.com/bmyoshida/status/1114602103056375808)で、

<【大阪】人が必死で考えて、結果まで残して言う意見に対して、「それは違います」と言いきる。背筋を伸ばし首を横に振るだけ。そして、代替案は話し合いが大事だという。いいか?相手の意見を首振って否定する、そんな奴が話し合いで解決できるとか言わないで欲しいんだ。>
とつぶやいたが、これは大阪で維新を支持する一般的な人の、まっとうな感想だろう。
さて、これで2025年万博も夢洲IRも実施に向けて動くことになるので、大阪の成長はひとまず安心である。

一方、日本全体の成長はどうなるか。次の元号が「令和」に決まり、慶賀ムードが高まっているが、「令和」はどのような時代になるのだろうかを予測してみたい。

結論から言えば、それは、今後安倍政権がどこまで続くか、その上でもし安倍政権が続く場合、どのような政策を打つのか、によって大きく異なってくるだろう。

自民党の一部からは、自民党総裁の任期を延長して「安倍四選でいい」という話も出てきているが、これまでの歴史をみると、そう簡単ではないことが分かる。

明治以降、改元があったのは①1912年7月3日(大正元年)、②1926年12月25日(昭和元年)、③1989年1月8日(平成元年)と、今回の④2019年5月1日(令和元年)である。

それぞれ、①は第二次西園寺内閣(1911年8月3日0~1912年12月21日)、②は第一次若槻内閣(1926年1月30日~1927月4月20日)、③は竹下内閣(1987年11月6日~1989年6月3日)の時に起こっている。そして④が第四次安倍内閣(2017年11月1日~)である。

これまでの改元では、改元後半年たらず(ほぼ5カ月後)にその時の内閣が退陣している。①大正後は5カ月18日、②昭和後は4カ月26日、③平成後は4カ月26日で、それぞれ内閣が倒れている。これまでの改元は天皇崩御に伴うもので、今回の譲位はまったく違うものではある。

しかし、それにしても過去3回で改元の5カ月後に内閣が退陣している、というのは不吉な事実である。

改元後、各政権で何が起こったか

①の内閣退陣は、日露戦争後の情勢変化により、当時勢力を強めていた軍部と財政難を理由とする内閣との争いが原因で、1912年12月に、西園寺内閣が総辞職に追い込まれた。

②は、1927年3月の昭和金融恐慌が原因であった。経営危機となった台湾銀行を救済する緊急勅令案発布について、1927月4月に枢密院が否決して若槻内閣が倒れた(枢密院は戦前の天皇の諮問機関であり、戦後は廃止されている)。

③は記憶に新しい。1988年12月24日の消費税導入を柱とする「税制改革法」を竹下内閣は剛腕で成立させた。しかし消費税への反発は強く、そのうえ竹下内閣で不祥事が相次いだこともあり、内閣支持率が低下し、1989年6月に退陣に追い込まれた。

いずれも、今とは時代背景が異なるので、軽々に「歴史は繰り返す」とは断言できない。しかし、若干の示唆もあると筆者は思っている。

①は、国際情勢が大きく変化していたにもかかわらず、それを考慮せずに緊縮財政を言い過ぎた結果といえる。②は、若槻内閣の後を継いだ田中義一内閣の高橋是清蔵相が、モラトリアム(支払猶予令)と大量の日銀券増刷を実施することで昭和金融恐慌がおさまった。裏を返せば、若槻内閣が倒れたのは金融引締政策を行ったためだと解釈できる。③は、いうまでもなく消費税が原因である。

これをあえて、今のマクロ経済政策の財政政策と金融政策に置き直してみると、①と③は財政緊縮政策、②は金融引締政策がそれぞれ原因であると整理できる。

マクロ経済政策という観点から、改元後、半年足らずで安倍内閣退陣が起こりえるのかを考えてみよう。

まず、安倍政権のマクロ経済政策は、アベノミクスの第一の矢である「金融緩和」と第二の矢である「機動的財政」である。2013年からの安倍政権をみると、金融政策では異次元緩和を実施してきたが、2013年から2016年9月までは年80兆円日銀保有国債ペースの金融緩和、2016年9月以降は年20兆円の弱い金融緩和、財政政策では、2013年はまさに積極財政、2014年以降は消費増税を強行した。つまり、「なんちゃって」財政政策というべきもので、これは積極財政とはいいがたい。


こうしたマクロ経済政策の推移をみると、最近の景気動向指数の動きをよく説明できる。
これについては、下図や3月25日付け本コラム<消費増税、予定通り進めれば日本に「リーマン級の危機」到来の可能性>https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63706)を見てもらいたい。

今の状況はどうかというと、安倍政権が実施する金融政策は弱く、財政政策も積極的とはいえない。ということを考えると、実は過去の「改元後退陣内閣」の状況と似ていると言えなくもない。

しかも、今年10月には消費増税を予定している。いくら消費増税を見越して経済対策を行うとはいえ、それが切れたときには消費増税の悪影響をもろに被ることになる。これは、特に③の前例が繰り返されるそれが強い。

参院選、消費増税で敗北すれば…

国際社会からも「このタイミングで消費増税はないだろ…」という常識論がでてきた。3月25日付け本コラムやその他で何度も指摘しているが、中国の経済低迷やイギリスのブレグジットに伴う世界経済の悪化が予想されているが、これらはいわゆる「リーマン・ショック級の出来事」になりうるからだ。

これについて、4月3日のウォール・ストリート・ジャーナルの社説で、日本が今年10月からやろうとしている消費増税は「経済を悪化させるワケのわからない政策だ」と皮肉っている(https://www.wsj.com/articles/land-of-the-rising-unease-11554333457)。

別に米紙にいわれなくても、おかしな政策であることは、例えば、今年6月の大阪G20サミットに参加する中国やオーストラリアが、増税ではなく減税政策をやろうとしていることから、誰でもわかるだろう。G20では世界経済の話も議題として出てくるはずだが、議長国の日本がヘンテコな政策をやろうとしていることが世界に伝われば、恥をさらすことになるだろう。

冒頭の大阪ダブル選挙に戻ると、筆者は大阪の経済を考えれば、維新が勝利してよかったと思っている。このダブル選挙において、反維新勢は自民と公明が中心であった。一方、国政では、維新は今年10月からの消費増税に反対しているが、自民と公明は消費増税を推進している。

官邸はまだ最終的な決断をしていないものの、自民党の大半と公明党はほとんど財務省の追随と言っていいぐらい、増税に傾いている。もし、大阪ダブル選挙で、一つでも反維新が勝利していたら、10月からの消費増税を大阪府市民が望んでいる、という間違ったメッセージを与えかねなかった、と筆者は思っている。

いずれにしても、このまま今年10月からの消費増税を行えば、今年7月の参院選に安倍政権はまともに勝てない可能性がある。そうなると、安倍政権は、四選どころか、即退陣も現実味を帯びてくる。

安倍総裁の四選を、という声が自民党から出てくるのは、安倍総裁下の自民党が選挙に強いからであり、逆に最大の強みである選挙に負ければ退陣を迫られる、ともいえるのだ。実際、第一次安倍政権は2006年9月26日にスタートしたが、2007年7月29日の参院選で自民・公明を合わせて過半数をとれず、9月26日に退陣した。

このときを参考にするなら、参院選で負ければその2カ月後に退陣である。今回の参院選は7月に行われるが、それに負ければ9月に退陣となる。つまり、改元の後、半年ももたずに内閣退陣になり、明治以降の「改元後半年もたたずに内閣退陣」という悲劇が繰り返される可能性があるのだ。

この悪夢を吹っ飛ばすには、「リーマン・ショック級」があり得ることを見越して、今年10月からの消費増税を取りやめにするしかないと筆者は思っている。

【私の論評】安倍総理の強みは、経済!まともな政策に邁進することで強みが最大限に発揮される(゚д゚)!




新元号「令和」に国民の好感が広がっているとみて、安倍政権が安堵(あんど)しています。

内閣支持率も押し上げる結果になり、安倍晋三首相は新時代の象徴として、さらにアピールしていく考えです。過去3回の改元では、立ち会った首相はいずれも半年以内に退陣に追い込まれた。安倍首相がこのジンクスを打ち破れるかも注目です。

「いよいよ令和の時代が始まる」。首相は3日、国家公務員合同初任研修で新人職員約780人を前に訓示。新元号が、万葉集にある梅の花を歌った和歌の序文を引用したことを引き合いに、「それぞれの花を大きく咲かせてほしい」と激励しました。首相は令和時代の政権維持に向け、統一地方選や夏の参院選の勝利に全力を挙げる方針です。

新元号決定をめぐり、首相が心配したのは、事前の情報漏えいに加え、国民の評判でした。首相は1日夜のテレビ番組で「多くの方々が前向きに明るく受け止めていただいて本当にほっとした」と語りました。一部報道機関の世論調査でも令和に好感を持つ人が八割強に上り、内閣支持率も上昇。初めて日本古典を典拠としたことも評価され、政権は自信を深めています。

首相は1日夜、自民党幹部と会食した際、「万葉集がブームになる」と述べるなど上機嫌でした。出席者からは「この勢いで(参院選に合わせた)衆参ダブル選は勘弁してください」との声が上がり、首相は笑って聞いていたといいます。

これまで改元を経験した首相はこの記事の冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるとおり3人。大正(1912年)の西園寺公望首相(当時、以下同)は陸軍2個師団増設問題をめぐる軍部との対立で総辞職。昭和(1926年)の若槻礼次郎首相は金融恐慌によって、平成(1989年)の竹下登首相は消費税への反発とリクルート事件をめぐる疑惑でそれぞれ退陣しました。

ただ、皇位継承に伴う一連の儀式が来春まで続き、国民の祝賀ムードも持続しそうな今回は過去の改元とは状況が違うとの見方が多いです。政府関係者は「当面、自民党は首相を代えられない」と語ったとされています。

今年予定されている儀式

このようなことがあるため、私自身は安倍内閣は仮に消費税増税をしたとしても、参院選で負けることもなく、しばらくは退陣ということにはならないとは思いますが、そのかわり、実質的に増税後は、憲法改正もできずに、レイムダックになり総裁任期の2021年9月までは総理でありつづけるでしょうが、その後の4選の目はでないと思います。

安倍総理が総理大臣になり、他の総理大臣のように劇的に支持率が落下しなかった最大の要因は、やはり経済政策です。その中でも、財政政策は増税により失敗しましたが、金融政策においては、最近は実質上の引き締めに近いところがありますが、それでも過去の政権と比較すれば結果として緩和を実行し続けたことです。

これにより、雇用情勢はかなり良くなっています。これが、安倍内閣の強みの源泉です。これは、理想からいえばは十分とはいえませんが、それにしても、過去の内閣にはない強みです。

さらには、残念ながら自民党の他の幹部や、野党には全くこの金融政策が理解できていません。安倍総理は憲法の改正等その他のことでは、これほどの強みを発揮することはできなかったでしょう。実際、第一次安倍政権はまともなマクロ政策を打ち出すことができず、退陣しました。

やはり、多くの人々は、自分たちや周りの人たちの暮らし向きを最重点に考えるのです。その中でも、雇用は根幹的なものであり、これが確保されなければ、他の経済指標がいくら良くても、政府の経済政策は失敗です。一部の変わり者は別にして、大多数の日々の普通の生活者にとっては、憲法改正など二の次です。まずは、雇用です。

しかし、安倍総理が、10月の消費税増税を実行してしまえば、金融緩和政策の効き目も、完璧に相殺され、安倍総理は強みを失ってしまうことになります。

経営学の大家ドラッカー氏は、強みについて以下のように語っています。
誰でも、自らの強みについてはよくわかっていると思う。だが、たいていは間違っている。わかっているのは、せいぜい弱みである。それさえ間違っていることが多い。しかし、何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かを行うことはできない」(『プロフェッショナルの条件』)
ドラッカーは、この強みを知る方法を教えています。“フィードバック分析”です。なにかまとまったことを手がけるときは、必ず9ヵ月後の目標を定め、メモしておくのです。9ヵ月後に、その目標とそれまでの成果を比較する。目標以上であれば得意なことであるし、目標以下であれば不得意なことです。
ドラッカーは、こうして2~3年のうちに、自らの強みを知ることができるといいます。自らについて知りうることのうちで、この強みこそが最も重要です。
このフィードバック分析から、いくつかの行なうべきことが明らかになります。行なうべきではないことも明らかになります。
もちろん第1は、その明らかになった強みに集中することです。強みがもたらす成果の大きさには、誰もが驚かされるはずです。
第2は、その強みをさらに伸ばすことです。強みを伸ばすことは、至ってやさしいです。ところが誰もが、弱みを並の水準にするために四苦八苦しています。
第3は、その強みならざる分野に敬意を払うことです。不得意なことを負け惜しみで馬鹿にしてはならないです。自らにとって弱みとなるものに対してこそ、敬意を払わなければならないです。
第4は、強みの発揮に邪魔になることはすべてやめることです。強みを発揮できないほどもったいないことはないです。
第5は、人との関係を大事にすることです。そうして初めて強みも発揮できます。
第6は、強みでないことは引き受けないことです。正直に私は得意ではありませんと言うべきなのです。
第7は、強みでないことに時間を使わないことです。いまさら直そうとしても無理です。時間は、強みを発揮することに使うべきなのです。
これからは、誰もが自らをマネジメントしなければならない。自らが最も貢献できる場所に自らを置き、成長していかなければならない。(『プロフェッショナルの条件』)
安倍総理には、自らの強みを最大限に発揮していただき、増税を見送り、現在日本にとって最も重要なマクロ経済政策に邁進していただきたいです。

そうして、それは必ず大多数の国民に支持されることになります。

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2019年2月20日水曜日

米国務省が警笛を鳴らす中国の人権問題―【私の論評】中国を「法治国家化」するには、経済を弱体化させ中共を崩壊させるしかない(゚д゚)!

米国務省が警笛を鳴らす中国の人権問題

岡崎研究所

 2019年1月29日付で、米国務省は、中国の人権派弁護士、王全璋(Wang Quanzhang)氏に対する判決に関して、以下のようなプレス・リリースを発表した。

中国の人権派弁護士、王全璋(Wang Quanzhang)氏

 「1月28日に中国天津で、人権派弁護士の王全璋氏に対して「国家転覆罪」で4年半の禁固刑が言い渡されたことに、米国は深く憂慮している。王氏は、2015年7月9日(「709」)の中国政府による法の支配提唱者や人権擁護者に対する取り締まりによって最初に拘留された者の一人であり、判決を下された最後の者の一人である。

 中国が王氏を判決前に3年半も拘留、監禁し、彼が選定した弁護士は認められず、その弁護士は報復にあったことを、我々は問題視する。

 我々は、王氏が即時に釈放され、彼が家族のもとに戻れることを、中国に要求する。中国において、法の支配、人権及び基本的自由の状況が悪化していることを、我々は憂慮している。そして、中国が国際的人権ルールを守り、法の支配を尊重することを、引き続き要請する。」

参考:Department of State‘Sentencing of Wang Quanzhang’January 29, 2019
https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2019/01/288664.htm

 2015年7月9日に開始された「709」キャンペーンでは、2-3週間の間に、300名もの人権擁護や民主主義、法の支配を訴えていた弁護士や法律顧問等が逮捕、抑留され、弁護士資格を剥奪されたり、仕事を失ったりした。

 この中で、上記に掲げた王氏のほか、少なくとも 4 名が収監された。2016年 8月、周世鋒(Zhou Shifeng)氏と胡石根(Hu Shigen)氏は、それぞれ7年と7 年半の禁固刑を言い渡された。2017年11月には、江天勇(Jiang Tianyong)弁護士が2年の刑に処せられた。その翌月2017年12月には、人権活動家の呉淦(Wu Gan)氏が8 年の刑を言い渡された。

 また、上記のプレス・リリースで指摘されている、王氏の弁護士に関しては、そのうちの一人、余文世(Yu Wensheng)弁護士とは連絡が付かず、 彼は1年以上拘束されているとも言われている。

 なお、この問題に関しては、1月31日付の米ワシントン・ポスト紙が社説で取り上げている。

 中国については、共産党が大きな役割を果たし、はたして市場経済であるのか否かとか、世界標準を外れた行いを中国の特色として正当化する傾向があるとか、いろいろな問題があるが、人権無視の問題はその中でも中国を尊敬できない、恐ろしい国にしている主要な問題である。このことについては、不断に注意喚起をしていく必要がある。

 中国で人権のために勇敢に戦っている人々は、民主主義世界の支持に値する。

 旧ソ連でも、1975年まで人権はひどく無視されていたが、ヘルシンキでの全欧安保会議でヘルシンキ宣言が採択された後、状況は徐々に変わっていった。中国に関しては、もちろんヘルシンキ宣言のようなものはないが、人権規約のうち社会権規約は締結済みであり、自由権規約についても署名済みである。自由権規約の批准、締結を求めていくことが適切である。

 また、中国の人権問題を、ウイグル、チベットの問題を含め問題にしていくことは大切である。それが中国を異形の大国である度合いを低めることになる。国内での法の支配の強化につながるし、国際的な場での法や規則の尊重にもつながると思われる。

 日本の人権活動家も、もっと中国の人権状況に関心を払うべきであろう。

【私の論評】中国を「法治国家化」するには、経済を弱体化させ中共を崩壊させるしかない(゚д゚)!

中国が掲げる「法治」は、共産党独裁を支える強権の追認でしかありません。法治に名を借りた人権弾圧を、決して見過ごしてはならないです。

中国は先進国のように「法治国家」されていません。そもそも、中国では憲法は中国共産党の下に位置づけられており、まさしく共産党は何でも意のままにできるというのが実態です。

法律体系もある程度は整えられているのですが、細かなところはあまり決まっていません。細かなところまで決めてしまうと、これに共産党が足を引っ張られて、意のままに動けないから、決めないのです。

天津の地裁にあたる裁判所は、ブログ冒頭の記事にもでてくるように、人権派弁護士の王全璋(おう・ぜんしょう)氏に懲役4年6月の判決を言い渡した。

「国家政権転覆罪」の適用にあたり裁判所は、家族や支援者らの傍聴すら認めませんでした。王氏が法廷で裁判批判を展開し、傍聴者を通じて王氏の主張が広まることを恐れた措置とみられています。

文化大革命で「反革命犯」とされた共産党の女性幹部、張志新は銃殺前にのどを切り裂かれました。刑場で不都合な言葉を叫ばせないための措置だったといいます。

張志新

裁判所の発想は、文化大革命当時のままではありまんせんか。

支持者の傍聴を認めず、判決理由すら示さない裁判が存在すること自体が現代の奇観です。裁判そのものが不当であり、王氏の即時釈放を強く求めます。

王氏と同じく、人権派弁護士や民主活動家を狙った2015年7月の摘発では、320人以上が連座しました。王氏の拘束は3年半あまりと最長に及びます。王氏が転向を拒み続けたためです。

拘束された者の多くが肉体的、精神的な拷問を受けたとの証言があります。夫との面会を求めた王氏の妻、李文足さんも治安当局の嫌がらせを受け続けました。

権力強化を進める習近平政権には、弁護士らが進める自由民主の価値観や権利意識の広がりが目障りだったのでしょう。改めて、中国共産党とは価値観を共有できないことを印象づけました。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、王氏の裁判そのものを「ひどい茶番」と断じています。

ドイツのメルケル首相は昨年の訪中時に北京で李文足さんと面会し、写真が公表されました。国際社会は中国の人権弾圧を注視しているという重要な取り組みです。

北京で李文足さん(左) と面会したドイツのメルケル首相

習国家主席との米中首脳会談を予定するトランプ大統領も、通商だけではなく中国の人権問題に言及してもらいたいものです。

それにしても、中国がまともに「法治国家化」できないのにはそれなりの理由があります。

先日新聞を読んでいると「中国の農村でも法治が進んだ」という趣旨の記事が目に入りました。大意を記せばこのような話です。

河北省のある農村で土木工事の請負を生業にしている自営業者がいました。2014年に用水路掘削の仕事を受注、完工したのですが、一向に代金が支払われないのです。こうした話は過去にもあり、泣き寝入りのケースも多かったそうです。

そこで自営業者氏は町のゴロツキ連中を雇い、発注者を脅かして一部を取り立てました。しかしその後、この人物は「このやり方は間違っている」と改心し、政府を頼ることにしました。役所の相談窓口に通って法的手続きを申し立て、司法機関の介入の下、見事に工事代金を手に入れたそうです。何事も「法治」で解決することが重要だという内容です。

たわいのない話ではありますが、中国社会で「法治」という言葉がどのような意識で使われているかがうかがわれます。まさに、多くの中国人が、私的な実力で問題を解決するのではなく、公的機関に訴えて自己の利益を守ることが「法治」であると考えているようで、実際政府もそのような行動を奨励しているにです。

もちろんこれらも「法治」の一部には違いないですが、日本をはじめとする先進国などの社会の「法治」の概念とはズレがあります。

私たちが日常的になじんでいる「法治」は「法律という一つの体系の下、社会的地位や属性などに関係なく、すべての参加者が同じルールでプレーすること」という考え方です。一方、中国社会の「法治」は「法律という道具を社会の管理者(権力者、政府)がしっかりと運用し、社会正義を実現すること」という意味合いが強いです。

こうした中国社会の「法治観」には一つの前提があります。それは社会には必ず国民の上に立つ「統治者(権力者、政府)が存在している」ということです。

日本を含むいわゆる議会制民主主義の国々では、社会を管理しているのは国民、つまり私たち自身です。うまく管理できているか否か、その実態はともかく、理屈の上では私たちは自ら代表を選び、その人たちに国の方向づけと管理を行ってもらっているすなわち信任していると考えます。

代表が十分な仕事をしていないと考えれば、人選を変えることができます。つまりこの社会を管理し、社会正義を実行するのは私たち自身の責任である。社会がうまくいかなければ自分たちで何とかするしかない。そういう大原則があります。

ところが中国の社会はそうではありません。現在だけでなく、中華民国時代の短い一時期、国内の一部で議会制民主主義が行われたことがある以外、古代から今に至るまで、中国には常に「支配者」が存在し、実力で世の中を制圧し、民草の意志とは無関係に「自分たちの都合」で統治を行ってきました。

法律とは支配者が「自分たちの都合」を実現するために作るものなのです。これは「良い、悪い」の問題ではなく、天地開闢(てんちかいびゃく)以来の現実としてそうであったし、現在の体制も例外ではないのです。

だから中国社会で暮らす人々にとって統治者の存在は水や空気のように当たり前であり、「自分たちで社会を管理する」という発想はほぼないのです。社会を統制し、「良い」世の中にするのは天から降ってきた「偉い人」の仕事であり、統治者がその仕事をうまくできなければ不満を言うのです。

ただ、あまり強く文句を言うと身に危険が及ぶから、周囲の空気を忖度しながら要求を出したり引っ込めたりするのです。要は「社会を良くする」「社会正義を実現する」のは民草の責任ではなく、統治者の義務であるという点がポイントです。

そして、そのような状態を中国の普通の人々は、「喜んで」ではないのですが、受け入れているのです。それは、そのような状況しか体験したことがないから比較のしようがないこと、さらには統治者に対する不満はあれども、間違いなく「無秩序よりはマシ」だからです。

5年に一度開催される全国人民代表大会。最新のものは2017年に開催された。
その時の写真。習近平が演説している。この大会は最早実社会から乖離している。

そして、統治者が仕事の遂行のために作る道具が「法」であり、それを使って世の中の秩序を維持することが「法治」です。人々は、統治者がそれを実行してくれるが故に、嫌々ながらも「税」という名の対価を払います。そういう構造が明らかに存在しています。

このような考え方を根本から変えなければ、中国は法治国家できません。

ただし、西欧の先進国でも近代になって国民国家が樹立されるまでは似たような考えでした。しかし、いくつかの国がさきがけて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進し、多くの中間層を輩出し、それらが自由な社会経済活動を行い多くの富を生み出し、経済的にも軍事的にも強国になりました。これに負けじと多くの国々がこれを実行して強国になりました。

なぜ、このようなことになったかといえば、自分の国も強国にならなければ、他の強国に潰されてしまい、多くの国民の生命、財産が奪われ、国民も他国に従属せざるをえなくなるという恐怖があったからです。

ただし、中国はこのような体制を整えることなく、海外から多くの資金が流入して、経済だけが発展するという歪な発展を遂げました。先進国は中国が豊かになれば、自然と民主化、政治と経済の分離、法治国家化がすすみ、先進国と同じようになると期待していましたが、その期待はことごとく裏切られ今日に至っています。

今のままであれば、中国が「法治国家」することなど考えられず、人権問題はいつまでも放置されることになるだけです。

やはり、米国等よる経済制裁等で、中国を経済的に弱体化させ、中国共産党を崩壊させ、そこから再構築するしか道はないようです。

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