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2024年11月20日水曜日

<イスラエルによるイラン核施設攻撃の可能性>報復攻撃が見せた重大なインパクト―【私の論評】トランプ政権の影響とハマスの行動がイラン戦略に与える影響、そして中東和平の可能性

<イスラエルによるイラン核施設攻撃の可能性>報復攻撃が見せた重大なインパクト

岡崎研究所

まとめ
  • イスラエルは10月26日にイランの防空能力とミサイル製造インフラに対して精密な攻撃を行い、将来的な核施設への攻撃の可能性を高めた。
  • イランはロシア製のS-300対空ミサイルと長距離レーダーを失い、防空システムが大幅に弱体化した。
  • イスラエルの攻撃により、イランのミサイル製造能力が著しく損なわれ、弾道ミサイルの補充が困難になると見込まれている。
  • イランの代理勢力であるヒズボラやハマスの戦略が揺らぎ、イスラエルに対抗する能力が低下した。
  • イランの最高指導者ハメネイ師は報復を示唆したが、それがイラン自身をさらに脆弱にする可能性がある。

イスラエル空軍のF-35はイラン攻撃にも参加多大な戦果をあげた

イスラエルが10月26日に行ったイランへの攻撃により、イスラエルはイランの防空能力とミサイル製造インフラに重大な損害を与え、将来的な核施設への攻撃の可能性を高めたとされている。

背景として、10月1日にイランがイスラエルに対して181発の弾道ミサイルを発射したことが挙げられる。この出来事を受けて、ネタニヤフ首相やイスラエル空軍の将軍たちは、長年の訓練の成果を発揮する機会を見出した。イスラエルは、イランの核施設に対する攻撃を実行する意図を持ち、10月26日に空軍による精密な攻撃を敢行した。

この攻撃では、約100機の戦闘機がイランの軍事施設を狙い、特にロシア製のS-300対空ミサイルシステムやイラン製の長距離レーダー「Ghadir」が破壊されたとされる。これにより、イランの防空システムは大幅に弱体化し、残されたのは短距離の防空システムのみとなった。また、イスラエルはイランのドローンやミサイル製造施設にも深刻な損害を与え、これによりイランが保有する弾道ミサイルの補充が困難になると見込まれている。さらに、イスラエルのミサイルはTaleghan2として知られる核兵器計画で使われていた爆薬圧縮室があったとされる建物を攻撃したとされる。

さらに、イスラエルの攻撃は、イランの代理勢力であるヒズボラやハマスの戦略にも大きな影響を与えている。これらの組織がイスラエルに対抗する能力は低下し、イランの軍事戦略自体が揺らいでいることが示唆されている。特に、ハマスが独自の論理でイスラエルに挑んだ結果、民兵組織を利用する戦略の欠陥が露呈し、イランの戦略に影響を与える事態となった。

攻撃後、イランの最高指導者ハメネイ師は当初は抑制的な発言をしていたが、その後「米国とイスラエルは壊滅的な反撃を受けるだろう」と強硬な姿勢を示した。報復行動はイラクにいる民兵組織を通じて行われる可能性が高いとされ、これがイラン自身をさらに脆弱な立場に追いやる可能性があると考えられている。

総じて、イスラエルはイランに対してこれまで以上に脆弱な状況を作り出し、将来的な核施設への攻撃の準備を整えたとされる。この状況は、イスラエルとイランの関係において、今後の軍事的緊張を一層高める要因となるだろう。また、イランの反撃がどのような形を取るのか、そしてそれが地域の安全保障に与える影響についても注視が必要である。中東の情勢は依然として不安定であり、今後の展開が懸念される。 

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】トランプ政権の影響とハマスの行動がイラン戦略に与える影響、そして中東和平の可能性

まとめ
  • ハマスが独自の判断でイスラエルに攻撃を仕掛けた結果、イランが依存する民兵組織を利用する戦略の欠陥が浮き彫りになった。
  • ハマスの攻撃は短期的には成功したが、イスラエルの報復を招き、イランの影響力が減少した。
  • イスラエルによる報復攻撃により、イランは長距離防空システムを失い、核の使用や脅しが効果を持たない可能性が高まった。
  • トランプ政権の再誕生は、イランに対する制裁や軍事的圧力を強化し、イランの国内政治や地域での役割を揺るがす恐れがある。
  • トランプ政権時代のアブラハム合意により、イスラエルとアラブ諸国の関係が正常化しており、現在のイランの厳しい状況は、中東に和平をもたらす可能性がある。

ハマス

上の記事には、「ハマスが独自の論理でイスラエルに挑んだ結果、民兵組織を利用する戦略の欠陥が露呈し、イランの戦略に影響を与える事態となった」という一文がある。これについて解説する。

これは、ハマスが独自の判断でイスラエルに挑んだことで、イランが依存している民兵組織を利用する戦略に欠陥が浮き彫りになったことを意味する。まず、ハマスは2023年10月7日に大規模な攻撃を仕掛けた。この攻撃は、ハマスが独自の戦略に基づいて行ったものであり、イランとの連携や事前の合意がなかった可能性が高い。特に、ガザ地区からの攻撃を通じてイスラエルに一時的な成功を収めたが、これはイランの期待に反する行動であった。

イランは、地域の代理勢力、特にハマスやヒズボラを利用してイスラエルに対抗する戦略を採用している。これらの組織は「抵抗の枢軸」として知られ、イランはこれらの勢力を通じてイスラエルに対抗することで、自らの影響力を強化しようとしている。しかし、ハマスが自らの論理で行動した結果、イランの期待するような連携が取れなかった。これにより、イランの立場は弱まり、ハマスの攻撃がイランの戦略に合致しないことが明らかとなった。

さらに、ハマスの攻撃は短期的には成功したものの、結果としてイスラエルの報復を招き、ハマスは重大な損害を受けることとなった。この状況はイランが期待していた戦略的効果を逆転させ、イランが支援する他の民兵組織にも不安をもたらした。これにより、イランの影響力が減少し、民兵組織を利用する戦略の脆弱性が露呈したのである。

国際的な反応も影響を及ぼしている。イランの支援を受けている民兵組織に対する監視が強化され、イランが地域での影響力を維持する手段が制約される可能性が高まった。このような状況は、イランの軍事戦略全体を見直す必要に迫るものであり、ハマスの独自の行動がイランの戦略に与えた影響は決して小さくない。

総じて、ハマスの行動がイランの期待を裏切り、民兵組織を利用する戦略の脆弱性を露呈させたことは、地域の安全保障における重要な転換点となる。今後、イランはこの経験を踏まえて戦略を再考せざるを得ない状況に直面している。特に、抵抗の枢軸としての役割を果たすハマスの行動が、イラン全体の戦略にどのように影響を及ぼすのかは、今後の地域情勢において重要なポイントとなるであろう。

イランの最高指導者アリー・ハーメネイー(第2代)

現状のイランは、「抵抗の枢軸」を自らの戦略に明確に位置づけできなくなっており、さらにイスラエルによって長距離防空システムが破壊されてしまった。この状況は、イランの軍事的選択肢を大幅に制限している。特に、最後の頼みの綱である「核」の使用、もしくはそれによる脅しを行った場合でも、イスラエルのTaleghan2の破壊により、その抑止力が無効化される可能性が高まっている。

イランの核開発は、長年にわたりイスラエルや国際社会にとっての懸念材料であった。イランが核兵器を保有することで、地域のパワーバランスが崩れ、イスラエルにとっての脅威が増大することが予想される。しかし、今回の攻撃によって、イスラエルはイランの核施設に対する攻撃能力を示し、イランの核兵器に対する抑止力は大きく減少したと考えられる。

要するに、現在のイランは対イスラエル戦略において八方塞がりの状況にあると言える。イランは、長距離防空システムの破壊によって自国の防衛能力が低下し、また、核の使用やその脅しが効果を持たない可能性が高くなっている。このような状況の中で、トランプ政権が再び誕生することは、イランをますます窮地に追い込む要因となる可能性がある。

トランプ政権は、過去にイランに対して厳しい制裁を課し、核合意からの離脱を決定した。このような政策はイラン経済に深刻な打撃を与え、国際的な孤立を一層深める結果となった。再びトランプ政権が誕生すれば、イランに対する軍事的圧力が増し、さらなる制裁や軍事行動が強化されることが予想される。これにより、イランは経済的、軍事的にますます困難な状況に直面し、抵抗の枢軸としての役割を果たすことも難しくなるだろう。

加えて、トランプ政権が再びイランに対して強硬な姿勢を取ることで、イラン国内の政治的安定も揺らぐ可能性がある。経済的な困難が続けば、国内の不満が高まり、政権への支持が低下する恐れがある。このような状況は、イランが地域の安全保障において果たす役割をさらに制限し、結果としてイランの影響力を一層減少させることにつながる。

トランプ大統領

以上の状況は、中東に和平をもたらす可能性がある。イランが直面する圧力と孤立は、地域のパワーバランスに変化をもたらし、イランが戦略を見直すきっかけとなるだろう。特に、経済的な困難が国民の不満を高め、過激な行動を控える方向に進む可能性がある。

トランプ政権時代にアブラハム合意により、イスラエルとアラブ諸国の関係が正常化した。この合意は、トランプ政権の外交的功績として評価されており、地域の安定に貢献している。トランプ政権はイランに対する厳しい制裁を強化しながらも、アラブ諸国との関係構築を進め、和平の基盤を築いたのだ。

さらに、国際社会がイランとの対話を促進することで、イランに和平の選択肢を与える可能性もある。イランの影響力が低下する中で、地域の安定に向けた協力が進むことにより、中東全体の安全保障環境が改善されることが期待される。これにより、和平プロセスが進展する可能性が高まるのだ。 

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2024年9月19日木曜日

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も―【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

今度はヒズボラの無線機が爆発、500人弱死傷 あわてて電池を取り外す戦闘員の姿も

まとめ
  • 18日にヒズボラの携帯無線機が爆発し、14人が死亡、450人が負傷。前日にはポケベルの爆発で12人が死亡、3000人近くが負傷。
  • ヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆。
  • 米国務長官とUN事務総長が事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を警告。
  • イスラエルは北部国境に部隊を増派し、対立が激化する可能性が高まっている。

レバノンで起きたヒズボラの通信機器の連続爆発事件が、中東地域の緊張を高めています。18日には携帯無線機の爆発で14人が死亡、450人が負傷し、前日のポケベル爆発では12人が死亡、3000人近くが負傷しました。

これを受けてヒズボラ幹部が報復を宣言し、レバノン当局はイスラエルのモサドの関与を示唆しています。米国務長官とUN事務総長は事態悪化への懸念を表明し、外交努力への影響を懸念しています。

一方、イスラエルは北部国境に部隊を増派し、両者の対立が激化する可能性が高まっています。この一連の出来事は、中東地域の不安定さをさらに増大させ、平和への取り組みを複雑にする恐れがあります。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東情勢最新動向:イスラエルとヒズボラの緊張激化、米大統領選の影響と地域安定への懸念

まとめ
  • ヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持ち、イスラエルにとってより深刻な脅威となっている。
  • イスラエルとヒズボラの間で低強度の戦闘が続いており、2024年8月には大規模な衝突が発生した。
  • 米国を含む国際社会は事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けている。
  • トランプ政権によるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えている。
  • 米大統領選挙の影響で、イスラエルは警戒を高めており、今回のポケベルやトランシーバーへの攻撃はその一環である可能性がある。
2023年6月21日、レバノン南部ジェジーヌ地区のアラムタ村で訓練を受けるヒズボラ戦闘員

ヒズボラやハマスはテロリストとして知られています。テロリストというと、日本では武装をした暴力団というようなイメージでしょうが、その軍事力だけをみれば軍隊と行っても良いような規模です。

そのなかでもヒズボラはハマスよりも強力な軍事力を持っており、イスラエルにとってより深刻な脅威となっています。具体的には以下の点でヒズボラの軍事力がハマスを上回っています。

1. ミサイル保有数:ヒズボラは12万~20万発の短距離ロケット弾やミサイルを保有しているとされ、これはイスラエル全土を射程に収めています。一方、ハマスは約2万発の中・長距離ミサイルを保有しているとされています。

2. 戦闘員数:ヒズボラは予備役を含めて約5万人の戦闘員を有しているのに対し、ハマスは約3万人の戦闘員を有しています[1]。

3. 戦闘経験:ヒズボラの戦闘員の中には、シリア内戦に参加した経験豊富なエリート特殊部隊約7000人が含まれています。この実戦経験がヒズボラの軍事力を高めています。

4. 装備と訓練:ヒズボラの戦闘員はハマスよりも訓練が行き届いており、装備も優れているとされています。

5. 地理的優位性:ヒズボラはレバノン南部を拠点としており、イスラエル北部に隣接しています。この地理的な近さが、イスラエルにとって即時的な脅威となっています。

これらの要因により、ヒズボラとの大規模衝突が発生した場合、イスラエルは甚大な被害を被る可能性があります。そのため、イスラエルはヒズボラに対してより慎重な対応を取らざるを得ない状況にあります。

レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは最近、イスラエルとの間で低強度の戦闘を続けています。両者の間で攻撃の応酬が続いており、特にレバノンとイスラエルの国境地帯で緊張が高まっています。2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射し、イスラエル軍も約100機の戦闘機でレバノン南部を空爆するなど、大規模な衝突が発生しました。

この衝突の背景には、2024年7月にイスラエル軍がヒズボラの幹部サーレハ・アールーリーをベイルートで暗殺したことへの報復があるとされています。また、イスラエル軍はガザ地区でのハマスへの攻撃を継続しており、ヒズボラはハマスに連帯を示す形で攻撃を行っています。

2024年8月25日には、ヒズボラがイスラエル北部に対して320発以上のロケット弾を発射

イスラエル側の対応としては、ガラント国防相が「戦争を望んではいないが、準備はできている」と発言し、ヒズボラをけん制しています。また、イスラエル軍はレバノンでの地上作戦を想定した訓練も実施しており、事態の悪化を防ぐことが焦点となっています。

一方、国際社会の動きとしては、米国が事態の悪化を防ぐため外交努力を行っています。2024年9月16日には、アメリカの特使がイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相らとヒズボラへの対応について協議すると報じられました。また、米国のブリンケン国務長官は、ガザ地区での戦闘を激化させ、戦闘を拡大させるような措置を避けることが重要だと強調しています。

イランはヒズボラの後ろ盾となっており、イスラエルとの対立においてヒズボラを支持しています。イランの国連代表部は、イスラエルが本格的な攻撃に踏み切れば、中東各地の親イランの武装組織がイスラエルに対する戦闘に加わる可能性を示唆し、警告しています。

この状況は、パレスチナ問題やイランの核問題など、中東地域の他の課題とも密接に関連しており、地域全体の安定に影響を与える可能性があります。米国を含む国際社会は、事態の沈静化と紛争の拡大防止に向けて外交努力を続けていますが、依然として緊張状態が続いています。

アブラハム合意

米トランプ政権におけるアラブ諸国とイスラエルの関係改善は、ハマスやヒズボラの存在意義に深刻な影響を与えました。これらの組織は、イスラエルとの対立を核心に据えているため、アラブ諸国がイスラエルと和解すれば、その政治的正当性が大きく損なわれます。

また、支援の減少、交渉力の低下、イデオロギー的基盤の弱体化、地域的影響力の低下といった問題に直面する可能性が高まります。2020年のトランプ政権の仲介によるアブラハム合意に対する強い反発は、この存在意義の危機を反映しています。

このような状況下で、ハマスやヒズボラは自らの存在意義を維持するために、より過激な行動に出る可能性があり、2023年10月のハマスによるイスラエル襲撃もこの文脈で理解できます。つまり、アラブ諸国とイスラエルの関係改善は、これらの組織の存在意義を脅かす重大な要因となっており、彼らの行動に大きな影響を与えていると言えるでしょう。

米大統領選挙の最中、イスラエルが警戒を高めている可能性は十分にあります。選挙結果によって米国の中東政策が大きく変わるため、イスラエルはその不確実性に備えていると考えられます。また、大統領候補者たちがイスラエル支持を強調することで、敵対勢力を刺激する恐れがあります。

さらに、テロ組織が米国の関心を利用して攻撃を仕掛ける可能性もあり、イスラエルはこれに対処するため警戒を強化しているでしょう。選挙期間中の米国の外交的空白を利用した地域の不安定化も懸念されます。このような状況から、イスラエルが警戒を高めるのは自然な流れと言えるでしょう。

今回のポケベルや、トランシーバーへの攻撃はその一環かもしれません。ただし、そうだとすれば、この攻撃にはリスクも伴います。地域の緊張を高め、報復攻撃を誘発する可能性があるため、イスラエルはこの決定を慎重に検討したことでしょう。

ただ、今回の通信機器への攻撃は、中東地域の出来事にとどまらず、世界中の戦争行為に影響を与える可能性を秘めており、まさにイスラエルはパンドラの箱を開けてしまったかもしれません。これについては、昨日の記事で詳しく解説しました。こちらもあわせて、ご覧になって下さい。

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米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識―【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

米国、イランによるイスラエル攻撃の可能性一段と高まったと認識

まとめ
  • 米と同盟国は攻撃の可能性に備える必要-米NSCのカービー氏
  • 同盟国は全面戦争回避に努める、米は中東への軍展開を強化
米カービー戦略広報調整官

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっており、米国を中心とした国際社会が緊張を強めている。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は12日、イランやその支援を受ける組織が早ければ今週中にも報復攻撃を行う可能性があると警告した。この懸念は、先月イランの首都テヘランでハマスの前最高幹部ハニーヤ氏が殺害されたことに端を発している。
米国は事態の深刻さを認識し、オースティン国防長官が中東地域に追加の空母打撃群の派遣を指示するなど、軍事態勢の強化を進めている。同時に、バイデン大統領はイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの首脳と電話会談を行い、共同声明を発表してイランに自制を求めた。

一方で、イスラエルのガラント国防相は米国防長官との電話会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えている。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しているとされている。

この緊張状態は、今月15日に予定されているガザ地区での停戦交渉にも影響を与える可能性がある。国際社会は、全面的な戦争への発展を懸念しており、外交努力と軍事的抑止の両面から事態の沈静化を図ろうとしている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】イランの攻撃準備が引き起こす第5次中東戦争の脅威:日本経済と日銀政策の岐路

まとめ
  •  イランがイスラエルに対する大規模な攻撃を準備している兆候があり、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性がある。
  • 現在、第5次中東戦争の可能性が高まっている。イスラエルによるハマス指導者の殺害が背景にある。
  • 中東戦争が勃発した場合、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰や経済への打撃、金融市場への影響が懸念される。
  • 円高が進行する可能性が高く、世界的な危機時には「質への逃避」が観察される。これにより、日本経済や金融市場に大きな影響が及ぶ可能性がある。
  • 日銀の金融政策: 日銀は2024年に利上げを実施したが、戦争が勃発した場合、これらの措置を見直し、再び金融緩和策に転じるべきである。
イランによるイスラエル攻撃の可能性

イランによるイスラエル攻撃の可能性が高まっています。イスラエルのガラント国防相は、米国防長官との会談で、イランが大規模な攻撃を準備している兆候があると伝えました。イスラエルの情報機関は、イランが数日以内に直接攻撃を実行する可能性があると分析しており、この見方は米国の警告とも一致しています。

カービー大統領補佐官は、イランだけでなく「イランの支援を受ける組織」も攻撃に関与する可能性があると述べており、これはレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など、イランの影響下にある武装組織を指すと考えられます。米当局者は「一連の重大な攻撃」に備える必要があると強調しており、複数の組織による同時多発的な攻撃の可能性も示唆しています。このような状況は、イスラエルとイランの直接対決にとどまらず、中東地域全体の安定に影響を与える可能性があります。

第5次中東戦争の可能性と歴史的背景

現在、第5次中東戦争の可能性が高まっています。過去の中東戦争を振り返ると、第一次中東戦争(1948-1949年)はイスラエル建国直後にアラブ諸国がイスラエルを攻撃したことで始まりました。第二次中東戦争(1956年)はエジプトによるスエズ運河国有化を契機に勃発し、第三次中東戦争(1967年)は六日間戦争とも呼ばれ、イスラエルが周辺アラブ諸国を急襲して勝利しました。第四次中東戦争(1973年)はヨム・キプール戦争として知られ、エジプトとシリアがイスラエルを奇襲攻撃しましたが、最終的にイスラエルが勝利しています。

イスマイル・ハニャ氏

今回の危機の背景には、イスラエルによるハマス政治指導者イスマイル・ハニヤ氏の殺害があります。イランはこれをイスラエルの「重大な失敗」とし、報復を公言しています。これらの状況は、国際社会にとっても深刻な懸念材料であり、さらなる緊張を引き起こす要因となっています。

日本への影響と対応

第五次中東戦争が勃発した場合、日本はさまざまな重大な影響を受ける可能性があります。中東は世界有数の石油産出地域であり、戦争によって原油の供給が不安定になる恐れがあります。

これにより、日本のエネルギー安全保障が脅かされ、原油価格の高騰が懸念されます。原油価格の上昇は、日本の製造業やサービス業に打撃を与え、物価上昇や景気後退のリスクが高まります。過去の中東戦争時に起きた石油ショックのような事態が再現される可能性があります。

このような状況下では、日本のエネルギー政策の見直しが求められ、再生可能エネルギーへの転換や原子力発電の再評価が必要になるかもしれません。地政学的リスクの高まりにより、金融市場にも影響が及ぶでしょう。株式市場が大きく下落する可能性があり、円高ドル安の進行や、安全資産とされる円や金への逃避が予想されます。

この現象は「質への逃避」と呼ばれ、経済不安や市場の混乱時に投資家がリスクの低い、安全性の高い資産を求める行動を指します。具体的には、株式や高リスクの債券から、国債や金、そして日本円のような安全とされる通貨へと資金が流れる傾向があります。

新一万円札

さらに、中東地域との貿易が滞る可能性があり、特にエネルギー関連の輸入に支障が出る恐れがあります。スエズ運河などの重要な海上交通路が影響を受けることも考えられます。外交的な観点からも影響が出るでしょう。日本は中東諸国との関係を重視しており、戦争の勃発によって外交的な立場が難しくなる可能性があります。

また、国際社会での平和維持活動への参加要請が高まることが予想されます。日本政府は、国連安全保障理事会での議論に積極的に参加したり、中東地域の安定化に向けた外交努力を強化うべきです。

日本の中東における権益や在留邦人の安全確保も課題となります。難民問題など、間接的な影響も考慮しなければなりません。これらの影響を最小限に抑えるために、日本政府は状況を注視し、エネルギー安全保障の強化や経済対策の準備、外交努力の継続など、多面的な対応を迫られるでしょう。また、企業や投資家も、リスク管理や投資戦略の見直しが必要になります。

日銀の金融政策対応

日本銀行は2024年3月に0.1%のプラス金利を導入し、7月には0.25%に引き上げました。しかし、第五次中東戦争が勃発した場合、これらの利上げ措置を取り消し、再び大規模な金融緩和策に転じる必要性が出てくる可能性があります。

具体的には、政策金利の再引き下げや国債買い入れの増額、株式ETFの買い入れ再開などが検討されるでしょう。これらの措置は、急激な円高による輸出企業への打撃を緩和し、経済の下支えを図るためです。急激な円高は日本の輸出企業の競争力を低下させ、経済成長を鈍化させる可能性があります。また、デフレ圧力を強め、日銀の物価目標達成を困難にする恐れもあります。

為替市場と「質への逃避」

世界的な危機時には「有事の円買い」や「質への逃避」と呼ばれる現象が観察されます。過去の事例(2008年の世界金融危機、2011年の東日本大震災後など)では、円が急激に買われ、大幅な円高が進行しました。円は長年にわたり、安定した経済と政治システム、そして大規模な対外純資産を持つ日本の通貨として、安全資産の地位を維持してきました。


このような円高の背景と世界的危機時の円買い現象は、為替市場の動向を理解し予測する上で重要な要素となります。第五次中東戦争が勃発した場合、これらの要因が複合的に作用し、日本経済や金融市場に大きな影響を与える可能性があります。

結論

第五次中東戦争のような危機的状況下では、日本の金融政策は複雑な課題に直面します。政府や日銀は、国内経済の安定と国際金融市場の動向のバランスを取りながら、適切な政策対応を行う必要があります。エネルギー安全保障、為替市場の安定、経済成長の維持など、多面的な課題に対して迅速かつ柔軟な対応が求められるでしょう。これにより、日本は国際的な不安定要因に対処し、持続可能な経済成長を確保することが可能となります。

結局は、第五次中東戦争が起こらないことにこしたことはないですし、そうなる可能性もかなりあります。それでもその不安が、円買を加速可能性は十分にあり得ることです。これに日本は、備えるべきでしょう。さらに、南海トラフ地震のような大きな地震がっても、円買いが進む可能性があります。以上のような不安要素が複数あるときに、わざわざ利上げをして、それを維持する必要性など全くありません。

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2024年5月30日木曜日

<米国・サウジの安全保障条約の機運高まる?>その背景と、実現阻み続ける多くの壁―【私の論評】安保条約締結による中東情勢の変化と日本へのプラス効果

<米国・サウジの安全保障条約の機運高まる?>その背景と、実現阻み続ける多くの壁

岡崎研究所

まとめ
  • 米国とサウジアラビアは安全保障条約の締結に向けて協議を進めている。当初は、サウジ・イスラエル間の国交正常化とパッケージにする構想があったが、ガザの衝突後、サウジの要求がイスラエルに受け入れられる状況ではなくなった。
  • サウジとの単独の安全保障条約では上院の支持を得られないと判断し、イスラエルとの関係正常化をパッケージにすることで上院の支持を得られると米国は考えていた。
  • しかし、米国・サウジ関係をさらに複雑化させるリスクがあるため、安全保障条約にイスラエル関係を絡めるべきではないとみられる。
  • 中東からの米軍撤退の中で、イランの脅威に対してGCC諸国の不安が高まり、サウジは米国との公式の安全保障条約を求めている。
  • 原油価格の高騰、中国への対抗、イランの核開発疑念などから、米国はサウジとの安全保障条約締結に前向きな雰囲気がある。

サウジアラビアを訪問したバイデン米大統領(左)。ムハマンド・ビン・サルマン皇太子(右)

 米国とサウジアラビアは、両国間の安全保障条約締結に向けて協議を進めている。当初は、この条約にサウジとイスラエルの国交正常化をパッケージングする構想があった。なぜなら、米国側はサウジとの単独の安全保障条約では上院の3分の2の支持を得られないと判断していたからだ。しかし、イスラエル・パレスチナ間のガザ地区での衝突後、サウジ側がイスラエルに求める要求事項がイスラエル側に受け入れられるものではなくなってしまった。

 この状況を受け、Foreign Policy誌のコラムニストは、米国がサウジとの安全保障条約締結の条件としてイスラエルとの関係正常化を要求すれば、既に複雑な米サウジ関係をさらに難しくしてしまう恐れがあると警告している。例えば、サウジがイランとの関係で微妙な対応をすればイスラエルを怒らせかねず、問題が生じる可能性がある。コラムニストは、条約締結にイスラエル問題を絡めるべきではないと主張する。

 一方で、中東からの米軍撤退が進む中、イランの脅威に曝されているGCC諸国(Gulf Cooperation Council”の略で、日本語では「湾岸協力会議」と呼ばれ、1981年5月に設立された、中東・アラビア湾岸地域における地域協力機構をいう。現在、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの6カ国が参加している)の不安が高まっている。

 特にサウジは、米国との公式な安全保障条約締結を強く求めている。サウジ側の懸念として、2019年にフーシー派から攻撃を受けた際、トランプ前政権が適切に対応してくれなかったことが挙げられる。また、原油価格の高騰、中国の台頭への対抗、イランの核開発の疑念なども、米国がサウジとの安全保障条約締結に前のめりになっている要因だろう。バイデン政権は当初、イラン核合意の復活を目指していたが、イラン側にその意思がないと判断し、イランを封じ込める方針に転換したようだ。

 さらに米国とサウジは、原子力協力の分野でも協定締結に向け協議を進めているが、サウジの要求がサウジによる核武装につながる可能性があり、警戒が必要とされている。全体として、地政学的な駆け引きの中で、米サウジ両国の安全保障上の利害が一致し、条約締結に向けた機運が高まっていると言えるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安保条約締結による中東情勢の変化と日本へのプラス効果

まとめ
  • 米国とサウジアラビアの安全保障条約は、イランの影響力抑制や核開発阻止に重要な役割を果たす。
  • サウジはOPECの中心国であり、エネルギー安全保障のために米国と緊密な関係を維持する必要がある。
  • サウジとの同盟強化は、中国やロシアの中東での影響力低下につながる。
  • 同盟により、米国は中東でのプレゼンスを強化し、地域の勢力均衡を保つことができる。
  • 日本にとって、エネルギー供給の安定化や中東での発言力強化というメリットがあり、米サウジ安保条約はプラスの影響をもたらす。


サウジ・イスラエル国交正常化をパッケージに含まなくても、米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結することには大きな意義があります。

なぜなら、イランの影響力を抑制し核開発を阻止する上で、サウジアラビアは地理的にも政治的にも重要な役割を担っているためです。サウジとの同盟関係を公式化し、中東地域の勢力均衡を維持することが不可欠だからです。

さらに、サウジはOPECの中核国であり、米国のエネルギー安全保障を確保する上で緊密な関係を持つ必要があります。加えて、中国の中東における影響力拡大に対抗するため、米国がサウジとの同盟を強化することは戦略的に重要です。

また、同盟国サウジに軍事施設を置くことで、米国は中東地域でのプレゼンスを維持できます。このように、イスラエル関係を含まなくても、サウジとの安全保障条約締結により、米国は中東政策を礎づけ、様々な戦略的利益を得ることができるのです。

米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結すれば、中東地域の地政学的バランスに大きな影響を及ぼすことになります。

まずサウジはイランの長年のライバル国であり、米国がサウジと公式に安全保障同盟を結べば、イランはより一層孤立無援の状況に追い込まれ、米国の対イラン圧力が強まる可能性があります。

一方でサウジはパレスチナ問題をめぐりイスラエルとの確執があるため、サウジが事実上米イスラエル陣営に加わることで、イスラエルとの緊張がさらに高まるリスクがあります。

また、サウジはGCC(湾岸協力会議)の中核国であり、米国とサウジが安保同盟を結べば、GCC諸国の求心力が高まり、米国の影響力が中東で増大する可能性があります。

GCC諸国位置関係

さらに、サウジはロシアや中国とも一定の関係を持っていますが、米国との安保条約締結でその関係が希薄化すれば、中東におけるロシア・中国の発言力が相対的に低下するでしょう。そして何より、米サウジvs.イランという構図が鮮明になれば、中東情勢がさらに二極化し、緊張が高まる恐れがあり、中東和平にも影響が出るかもしれません。

このように米サウジ安保条約は、中東の勢力バランスに大きな変化をもたらし、新たな緊張関係を生む可能性があります。

米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結すれば、中東地域の地政学的な緊張関係の構図に大きな変化がもたらされるでしょう。現状でもイランをめぐる緊張は高まっていますが、サウジがより公式に米国の同盟国となれば、米国対イラン、サウジ対イランという緊張の軸が一層鮮明になります。

一方で、イスラエルとの関係においては、従来サウジはパレスチナ問題で確執があり緊張関係にありましたが、米国の同盟国となれば、サウジはイスラエルとの緊張を避ける必要に迫られるかもしれません。

なぜなら、安保条約によりサウジ側にとってイスラエルとの関係正常化は中東の新たな安定した秩序構築に貢献できる現実的な選択肢となるからです。また、サウジとイスラエルの共通の懸念事項であるイランの影響力拡大に対して、安保条約を拠り所にイスラエルとの関係改善を通じてイランへの圧力を強めることができます。

さらに、米国がサウジの同盟国となれば、国交正常化に向けた仲介の地位が確かなものになり、サウジの安全保障上の懸念も払拭しやすくなるでしょう。加えて、親米路線が確実になれば、サウジ国内の反イスラエル空気が和らぎ、正常化への機運が高まる可能性があります。ただし、パレスチナ問題の溝は根深いため、国交正常化に直ちにつながるかは不透明ですが、安保条約はそうした動きを後押しする好材料になり得るでしょう。

このように緊張の構造や質それ自体が変化する中で、サウジがGCC諸国の求心力を高め、結果として米国の中東における影響力が増大する可能性があります。また、サウジがロシアや中国との関係を切り離されれば、中東における両国の発言力は相対的に低下するでしょう。

条約締結によって、緊張状況の程度自体は必ずしも現状を上回るわけではありませんが、その緊張の構造や質が米国や同盟国にとって有利な形に変化する可能性があると言えるでしょう。緊張を完全に解消することはできなくとも、望ましい方向へとコントロールできる素地は生まれる可能性は高いです。

護衛艦「あけぼの」とEU会場部隊との共同訓練 アデン湾

そうして、米サウジ安保条約の締結は日本にとって望ましいプラスの出来事であるといえます。

その理由は、第一に中東情勢が安定化し、エネルギー安全保障における最重要国サウジからの原油供給が持続できることです。日本にとってエネルギー安全保障は最重要課題の一つであり、この点では大きなメリットがあります。

第二に、日本は伝統的にアラブ諸国との関係を重視してきましたが、同時にイランにも一定の影響力を持っています。サウジとの関係強化によってイランへの牽制力が高まれば、中東における日本の発言力が保たれることになります。

一方で、パレスチナ問題への配慮や、治安面でのリスク増大など一部デメリットもありますが、日本はこれまでもそうした懸念材料を抱えながらも中東進出を続けてきました。サウジとの安保条約があれば、そうしたリスクへの対処が一層容易になると考えられます。

したがって、日本の立場から総合的に判断すれば、米サウジ安保条約締結はエネルギー安全保障と中東におけるプレゼンスの維持・強化につながり、プラスの効果が上回ると評価できます。

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ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発―【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く、 国際刑事裁判所の偏り

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米など猛反発

まとめ
  • ICCのカーン主任検察官がガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ハマスの幹部3人に対する逮捕状を請求。
  • ネタニヤフ首相はICCの決定に強く反発し、米国や英国からも批判が出ている。
  • ICCはイスラエルがパレスチナ民間人に対する広範な攻撃と必要物資の組織的な奪取を行った証拠を示し、戦争犯罪の責任を問う。
  • 米国と英国はICCの行動を批判し、逮捕状請求の正当性と影響に疑問を呈した。
  • 南アフリカはICCの逮捕状請求を支持し、国際法の遵守を強調。
国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察

 国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ガザでの戦闘に関連して、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、ならびにハマスの幹部3人に対する戦争犯罪および人道に対する罪の疑いで逮捕状を請求した。これに対し、ネタニヤフ首相は強く反発し、米国や英国からも批判が相次いだ。逮捕状発行の決定は今後予審裁判部が判断する。

 カーン氏は、イスラエルが国際人道法を順守せず、パレスチナ民間人への攻撃を行い、必要な物資を奪ったことにより、ネタニヤフ首相らが戦争犯罪に関与したと指摘した。一方、ハマスの幹部は逮捕状請求を批判し、取り消しを求めた。

 ネタニヤフ首相はICCの決定を「新たな反ユダヤ主義」と非難し、イスラエルとハマスを同一視することは不合理だと述べた。イスラエルのヘルツォグ大統領も、テロリストとイスラエル政府を同等に扱うことに強く反対した。

 米国と英国もICCの行動を批判し、バイデン米大統領は逮捕状請求を「言語道断」と非難した。ブリンケン国務長官は、ICCの管轄権に疑問を呈し、交渉への悪影響を懸念した。英国のスナク首相の報道官も同様の見解を示した。

 一方、南アフリカは逮捕状請求を支持し、国際法の支配を守るために法の平等な適用を訴えた。南アフリカはイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】テロ組織ハマスを、民主国家イスラエルと同列に置く 国際刑事裁判所の偏り

まとめ
  • ハマスはテロ組織であり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人虐殺を目的としている
  •  ハマスは無辜の民間人を虐殺してきた経緯があり、民主主義国家のイスラエルと同列に置くべきではない 
  • ハマスは2016年のパレスチナでの選挙での勝利を、自らの過激路線の正当性が承認されたと主張し、これを武装闘争継続の口実としている 
  • 国際刑事裁判所(ICC)はイスラエルを不当に標的化する一方、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた 
  • ICCの活動は政治的思惑の影響を受けやすく、「国際」機関だからと公平中立を期待するのは危険
これは、ハマスとイスラエル国家の本質を誤って理解している典型例といえます。ハマスはテロ組織そのものであり、イスラエル国家の破壊とユダヤ人の虐殺を目的としていることを明確にすべきです。ハマスは、無辜の民間人の血に手を染めてきました。民主的で法の支配を重んじる国家であるイスラエルと同列に置くことは全く的外れとしかいいようがありません。

ハマスの戦闘員の子ども

ハマスは2006年のパレスチナ自治政府の議会選挙で過半数を獲得し、事実上パレスチナ自治政府を掌握したため、パレスチナ人民の自らに対する正当な支持と、イスラエルへの抵抗の正当性が認められた証左だと位置づけています。

具体的には、ハマスの指導者たちは次のように述べています:

「われわれは民主的な選挙を通じて正統な権力を手にした。パレスチナ人民は武装闘争路線を支持した」(イスマイル・ハニーヤ元首相)

「選挙勝利でわれわれの闘争が正当なものと承認された。これは武装闘争の継続を意味する」(ハマス政治局長ハーレド・マシャール)

つまり、ハマス自身は選挙勝利を、イスラエルへの武装抵抗とイスラエル占領の排除という自らの過激路線の正当性が民主的に承認されたと主張しています。

しかし、選挙はテロリスト集団を一夜にして正統な政権に置き換える魔法の杖ではありません。さらに、今年は2024年であり、2016年から8年経過しています。あれから世界情勢もかなり変化しています。

現在では、米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているといいます。この合意が成立すれば、中東は一変する可能性があります。

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

これが、成立すればハマスなどのテロ組織は存在意義を失う可能性もありますし、これには反対する国々も多いです。

真の民主主義とは選挙の実施以上のものであり、法の支配、人権尊重、近隣国との平和共存を旨とするべきなのです。ハマスはこれらの原則を無視し続けてきました。

国際刑事裁判所もイスラエルや民主主義の味方とは言い難いところがあります。世界中の独裁国家やテロリスト集団の遥かに残虐な蛮行は見過ごしながら、イスラエルのみを繰り返し標的にしてきたところがあります。ハマスの無言の挑発によるロケット攻撃やトンネル工作から自国を守ったイスラエル指導者を訴追しようというのは正義の判断とは言い難いです。

国際刑事裁判所(ICC)がイスラエルを不当に標的にしてきた一方で、他の深刻な人権侵害事例を見過ごしてきた具体例をいくつか挙げます。

シリア内戦における アサド政権による市民虐殺 

シリア政権軍はシリア内戦で何十万人ものシリア市民を殺害し、化学兵器さえ使用したが、ICCは訴追をしていない。
ミャンマ―のロヒンギャ迫害

ミャンマー軍はイスラム教少数民族ロヒンギャに対する虐殺、強姦、焼き討ちなどの蛮行を繰り返したが、ICCはミャンマーに対する捜査を実施していない。
イェメン内戦における民間人虐殺 

サウジアラビア主導の有志連合(アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、エジプト、モロッコ、ヨルダン、スーダン、セネガル)は、イェメン内戦で無差別爆撃を行い、1万人を超えるとされる多数の民間人を殺害しましたが、ICCはこれを追及していません。
中国の新疆ウイグル人強制収容

 中国政府は100万人以上のウイグル人をキャンプに強制収容しているが、ICCはこの深刻な人権侵害に全く着手していません。
一方で、ICCがイスラエルを不当に標的化しているとの批判の具体例として挙げられているのが、2015年から進めている「状況についての予備的検討」です。

この捜査の対象となっているのは、以下の2点です。
  • 2014年の第3次ガザ紛争(いわゆるガザ地区での戦闘)におけるイスラエル軍とハマスの双方による可能性のある戦争犯罪行為
  • イスラエルによる西岸地区での入植活動の適法性
特にイスラエルによる西岸地区入植活動については、ICCがパレスチナ側の要請を受けて捜査に乗り出したことで、イスラエルからは強く反発されています。

イスラエルはICCの管轄権を認めていないため、ICCの一方的な捜査自体に疑問を呈しています。また、パレスチナ自治政府をあくまで「観察体制実体」と見なすイスラエルは、ICCがパレスチナを国家として扱うことに反対の立場です。

「観察体制実体」というのは、国連総会が1998年に定めた用語です。

具体的には、「パレスチナ人民の権利の行使のための暫定的措置」と呼ばれるもので、パレスチナ解放機構(PLO)に対し、国連における一定の権利と特権を与えるものです。

つまり、パレスチナには国家として完全な資格はないものの、国連の場においては「準国家的」な立場が認められているということです。

国連での発言権、議案・決議への参加資格、国連機関への参加資格などが認められています。しかし、国連加盟国としての完全な地位は与えられていません。

イスラエルは、パレスチナにこうした「準国家的」地位さえ与えることに反対しており、あくまでも「観察体制実体」にすぎないと主張しています。

つまり、イスラエルはパレスチナを主権国家とは認めていないため、ICCがパレスチナを「国家」と見なして捜査を行うことに強く反発しているのです。この点が、ICCの捜査をめぐる大きな争点の1つとなっています。

国際刑事裁判所

このように、ICCがイスラエル批判に終始する一方で、シリアやイエメンなど他の深刻な人道問題を見過ごしていることから、多くの専門家はICCに偏りがあると指摘しているのが実情です。

パレスチナ自治区に関する捜査に乗り出すなど、ICCはイスラエルのみを不当に標的化する偏りがあると指摘されています。多くの専門家から、ICCの公平性と中立性が疑問視されている状況です。

多くの日本人は「国際司法裁判所」など「国際」と名前がついている組織は無条件に公正中立であり、「正義」であり「権威」と思ってしまう傾向があるようですが、必ずしもそうではありません。

確かに、国連をはじめとする国際機関は、特定の政治的イデオロギーや勢力から影響を受けやすい側面があります。

例えば、ICCの場合、制裁対象となる国への捜査開始を牽制しようと、中国やロシアなどの権威主義国家が外交的な圧力をかけることが多々あります。自国の利益を損なわぬよう、国際機関が行う捜査や調査の対象を、特定の国や勢力に有利または不利になるよう操ろうとするのです。

一方で、イスラエルに対する偏った批判姿勢は、中東諸国や反米、反イスラエル的な左翼勢力の影響が強いと指摘されています。国連や関連機関に対し、アラブ系や強硬なイスラム過激派系の圧力があるのが実情です。

つまり、国際機関は理想的な正義の実現を目指すというよりも、様々な勢力の政治的思惑や利害が絡む駆け引きの場ととらえた方が現実的であり、単に「国際」の名が付いているからといって、常に公正中立であると考えるのは危険なのです。

今回のICCの動きは、イスラエルの自衛権を切り崩し、その存在意義さえ否定しようとする試みの一環と言えるでしょう。テロリストハマスと国家としてのイスラエルの誤った対等関係に惑わされてはならないです。

私たちはこの動きに強く立ち向かい、イスラエルは中東の民主主義と自由の象徴であり、根拠のないこうした非難があっても味方でありつづけるべきことを明確にしなければならないです。

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2024年5月7日火曜日

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」―【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

ハマス、ガザ停戦案の受け入れ表明 イスラエルは「要求からかけ離れた内容」

まとめ
  • ハマスがカタール・エジプトの仲介による停戦案を受け入れたと表明
  • 段階的な停戦では、第1段階でイスラエル人人質解放と引き換えにパレスチナ人囚人釈放
  • 第2段階でガザ封鎖の完全解除が想定されている
  • イスラエル側は停戦案の内容に難色を示しつつも、交渉は継続する構え
  • 米国もパートナー国と協議し、人質解放の合意に向けた努力を続ける方針
ハマス戦闘員

 パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘の一時停止と、ハマスによる人質確保のイスラエル人の解放に向けた交渉において、イスラム組織ハマスは6日、仲介役のカタールとエジプトから提示された停戦案を受け入れると発表した。

 この停戦案は、段階的に進められるもので、第1段階では、イスラエル軍がガザ地区南部ラファの一部から撤退し、主要ルートからも撤退する一方で、イスラエルの刑務所に収監中のパレスチナ人囚人約50人(終身刑の者も含む)の釈放と引き換えに、ハマスが人質に捉えているイスラエル人女性兵士らを解放することが盛り込まれている。

 第1段階は42日間かけて実施される。さらにその11日後には、家を追われたパレスチナ人のガザ北部への帰還が認められる予定だ。

 第2段階も42日間で、パレスチナ側の高官によると「持続可能な長期的な平穏」とガザの封鎖の完全解除で締めくくられるという。ハマス側は「イスラエルが停戦合意に応じるのか、それとも妨害するのか。ボールは今イスラエル側のコートにある」と語っている。

 一方、イスラエル政府高官はハマスが受け入れたとする提案内容は、エジプトの提案よりも「弱められた」ものでイスラエル側が受け入れられない「広範囲におよぶ決定」が含まれていると指摘。首相官邸は「ハマスの提案がイスラエル側の基本的要求から外れていても、交渉は継続し、イスラエルが受け入れられる条件で合意に達する可能性を追及する」と表明した。

 一方で、戦時内閣ではラファでの軍事作戦の継続も決定しており、ハマスへの軍事的圧力を維持する構えも示した。イスラエル側の目標は、人質解放に加え、ハマスの軍事・統治能力の破壊、そしてガザが将来的にイスラエルの脅威とならないようにすることだという。

 米国務省はハマスの反応を検討し、パートナー国と協議していると語り、「人質解放の合意がイスラエル国民の最善の利益になると信じ続けている」として、引き続き合意実現への努力を続ける方針を示した。

【私の論評】捕虜交換並びに地域のパレスチナ人の安全のための交渉と、和平交渉は全く別物

まとめ
  • 中東情勢は依然として難しく、今回の交渉もその一部。
  • ハマスはテロ組織であり、交渉は悪魔との取引に等しい。
  • 交渉の難航の理由:ハマスの極端な姿勢、イスラエルの安全保障、ガザ封鎖と国際圧力、人質と収監者の問題。
  • 歴史が示す教訓:テロリストとの交渉や妥協は悲劇的な結果を招く。
  • ハマスとの交渉は誤りであり、テロリズムとの闘いにおいて強固な立場を取るべき。
中東情勢は依然として非常に難しく繊細な問題です。今回の交渉も、その長く困難な歴史の最新の一コマに過ぎません。

まず第一に言っておかなければならないのは、ハマスはテロ組織そのものだということです。彼らは凶暴なやくざ集団にすぎず、本質は過激思想と暴力主義にあります。

ハマスはテロ組織

政治的集団や支援団体を装っているだけで、その行動は言葉よりも雄弁に物語っています。このような集団と交渉するのは、悪魔と取引を試みるようなものです。彼らの約束は信用できず、合意も非常に不確かなものになるでしょう。

この交渉が難航している主な理由は以下の通りです。
  • ハマスの極端な姿勢:妥協を拒み、極端な要求を繰り返してきました。彼らの思想の根底にはイスラエル破壊があり、暴力とテロを武器としています。そうした融通が利かず敵対的な相手との交渉は本来困難です。
  • イスラエルの安全保障:イスラエルには自国民の安全を守る当然の権利があります。ハマスのテロ行為を直接経験しており、譲歩の隙を与えればハマスが勢力を取り戻し、更なる攻撃につながると危惧しています。
  • ガザの封鎖と国際圧力:ガザに対する封鎖はハマスに圧力をかけ、武器の流入を防ぐ必要な戦略です。ハマスが求める封鎖解除は、イスラエルの安全保障に深刻な影響があります。
  • 人質と収監者の問題:感情的で複雑な問題です。イスラエルは確かに自国民の解放を望んでいますが、代償が将来の人質確保に繋がれば危険です。
バイデン政権のテロリスト集団ハマスへの対応は妥協に過ぎず、歴史の教訓を忘れています。ハマスはパレスチナ人を代表する適切な当事者でありません。テロリストと交渉すること自体が間違っており、そうすれば彼らを勢いづかせるだけです。

捕虜の交換やハマスとは無関係のパレスチナ人の安全のためにハマスとイスラエルが交渉するのは良いと思いますが、今回イスラエルが中途半端にハマスと停戦合意などすべきではありません。これは、全く別なことです。このあたりが日本では曖昧に報道されているので、誤解する人もでてくるのではいなかと思います。

この問題をもっと一般化すると、非合法の武装暴力団が、ある地域を支配しており、その地域において人質をとっている場合、しかもその人質を奪還するために警察や軍などが強硬手段をとれば、多くの人が巻き込まれことがあらかじめ予想される場合、人質交換や地域の人々の安全のために暴力団と交渉する余地はあるにしても、暴力団と和平交渉して地域の安全・安定を目指すなどということあり得ません。

日本でいえば、指定暴力団がある町や村や、その一部を占拠していると考えてみて下さい。この事例だと誰でも、指定暴力団と政府や県等が和平交渉して、その地域を指定暴力団に統治させるなどのことは到底考えられないでしょう。無論、パレスチナはこのような一般化はできないかもしれませんが、それにしても理論的にはこれに近いものがあります。

無論世界中には事実上そのようになってしまっている地域もありますが、それは真の平和ではなく、偽りの平和です。偽りの平和は束の間であり、すぐに騒乱がはじまり、すぐに消えてなくなります。

歴史は明白に教えてくれています。邪悪な存在とは交渉できないのです。歴史が示すように、テロリストと関与し、彼らの要求に譲歩し懐柔を試みれば、結果としてテロが増長し、彼らの勢力が強まるだけです。

PLO故アラファト議長

たとえば、1970年代、世界はPLOを「パレスチナ人の正当な権利」を主張する組織として認め、交渉を試みました(オスロ合意)。しかし、この判断は誤りでした。PLOはテロリストの集団であり、そうした組織との交渉や妥協は、結果としてテロリストを力づけ、より一層の凶悪な犯行に走らせただけでした。

1970年代のPLOは強力な武装勢力を持ち、中東地域で大きな影響力を持っていました。しかし、レバノン内戦での過酷な戦いやイスラエルとの対立の結果、勢力が大きく削がれました。

また、1980年代後半には第一次パレスチナ人暴動(インティファーダ)の失敗や、オスロ合意を契機とした路線転換の過程で、過激派勢力が分裂していったことも指摘されています。

結局オスロ合意のプロセスは、2000年のキャンプ・デービッドにおけるアメリカを仲介としたバラック・オバマとアラファトPLO議長の会談の失敗と第2次インティファーダの勃発により終了しました。

現在のPLOぱ非暴力路線をとるようになりましたが、これは実際に武力闘争を継続する力(あるいは財力)が、残されていなかったことが大きな要因だったと見られます。テロ行為への関与を事実上、選択肢から外さざるを得なくなったのです。

PLOを承認し、彼らの要求に応えようとしたことで、かえって世界はテロリストの脅威を増長させてしまったのです。そこには、テロリストとの妥協は絶対に許されないという歴史の教訓を無視した過ちがあったと言えるでしょう。

このようにテロリストとの関与は、いつの時代でも悲劇的な結末しか生みませんでした。テロリストに対しては毅然とした姿勢で臨み、一切の妥協を拒絶することが不可欠なのです。この原則を曲げてはなりません。

ハマスに関しても、同じ過ちを繰り返してはならないです。彼らはテロリスト集団そのものなのです。ハマスをパレスチナの統治者として認め、交渉し、妥協すれば、歴史が繰り返されるだけです。ハマスはパレスチナ人を代表していません。彼らはパレスチナ人を人質に取り、人間の盾に利用し、政治的利益のために搾取しているだけです。

テロリストに対処する唯一の方法は、彼らに対して揺るぎなく強く団結することです。誤った交渉の試みで彼らを力づけてはならないです。自由世界は明確なメッセージを送らなければならないです。「テロリズムは決して容認されない。テロに手を染める者は力と決意をもって臨む」と。
岸田首相とバイデン大統領

バイデン政権はテロリズムと戦う最前線の同盟国イスラエルと共に立ち、自由と民主主義を壊そうとするこのようなテロ組織の要求に決して応じてはならないです。これは善悪の戦いであり、バイデン政権は自由を守り抜き、テロリズムを毅然と糾弾し、断固とした決意をもって対峙すべきです。

妥協の偽りの約束に惑わされてはならず、テロリストであるハマスとは捕虜交換や、ハマスに関係ないパレスチナ人の安全を確保するための交渉は別にして、和平交渉自体はすべきでありません。これをすれば、ハマスを国家として認めることとなります。

これに関しては断固拒否し、「要求は絶対に聞き入れない」と明確なメッセージを送るべきです。それこそがバイデン政権のすべきことであり、テロリストに勝利する道といえます。無論、日本もこれに同調すべきです。

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米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開〈'24 5/2〉

2024年5月2日木曜日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も

まとめ
  • 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も
  • 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

 米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているという。

 この協定が実現すれば、中東情勢に大きな影響を与えることが予想される。具体的には、イスラエルとサウジの安全保障が強化され、米国の中東における影響力が高まる一方で、イランや中国の影響力が低下する可能性がある。

 サウジ側は、この協定を通じて、これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の購入が可能になると見られている。その一方で、ムハンマド皇太子は、米国の大規模投資を受け入れる代わりに、国内ネットワークから中国技術を排除し、民生用核プログラムでも米国の支援を仰がなければならない。

 米国は、この協定をイスラエルのネタニヤフ首相に提案する見込みだ。ネタニヤフ首相には、サウジとの正式な外交関係樹立と、この協定への参加か取り残されるかを選択を迫られることになる。ただし、ネタニヤフ首相が協定に参加する重大な条件は、ガザの紛争終結とパレスチナ国家樹立に向けた道筋への合意となるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

まとめ
  • ハマスは、イスラエルとの平和を拒否し、サウジアラビアはファタハを支持する傾向があるため、米国とサウジアラビア間の平和協定に反対している。
  • トランプ政権下での中東政策が平和プロセスの基礎となっている。
  • 米国とサウジアラビアの協定が中東の安定に寄与する可能性がある。
  • この協定により、イランの影響力が減少することが期待される。
  • 中東の将来が明るくなる可能性がある。

ハマス戦闘員

私は、米・サウジアラビアの合意が近づきつつあることを察知したハマス側が、これを妨害しようとして紛争を起こしたのではないかと考えています。その根拠としては、以下のようなことが考えられます。
  • ハマスはイスラム主義過激組織であり、イスラエルの存在自体を認めていません。したがって、イスラエルとの和平合意を受け入れることは組織理念に反します。
  • ハマスはガザ地区を実効支配しており、和平合意が実現すればパレスチナ自治政府の権威が高まり、ハマスの勢力が相対的に失われるおそれがあります。
  • サウジはスンニ派の立場からハマスよりもファタハ(1957年にアラファトが中心となって組織したパレスチナ・ゲリラの武装組織)を支持する傾向にあり、ハマスとの対立構図があります。ハマスはサウジ主導の和平案には強く反発します。
  • サウジがイスラエルと国交を持つことは、イスラム教徒の聖地であるエルサレムの扱いにも影響を及ぼし、ハマスはこれを受け入れがたいと考えています。
  • イランは長年ハマスを支援してきましたが、最近はその軍事支援を控えめにしている模様です。それでもハマスはイランの勢力圏にあり、米主導の和平案には反対の立場です。

このように、ハマスには米・サウジ主導の和平合意に強く反発する理由が複数あり、そうした中で合意が現実味を帯びてきたため、紛争を起こすことでハマス側との交渉の可能性を排除させないようにしたものと考えられます。

このように、交渉の突然の再開や加速、サウジの対米協調路線への転換など、複数の事実が、ハマスの思惑とは反対に、むしろ和平交渉を前進させる契機となったようです。

現在の米国とサウジアラビアによる中東和平の動きは、トランプ前政権の取り組みが大きな礎となっていると考えられます。

具体的には以下の点が、トランプ政権の功績として挙げられるでしょう。

1. エルサレムをイスラエルの首都として認定:この決断は地域の現実を直視したもので、イスラエルとの強力な連携を世界に示しました。

2. イラン核合意への挑戦:オバマ政権による不適切な合意を見直し、イランへの厳格な制裁を実施しました。これにより、イランのテロ資金供給と地域の不安定化の能力が弱まりました。

3. ISISの壊滅:米国とそのパートナーの強力なリーダーシップにより、イラクとシリアでISISを大きく後退させ、いわゆるカリフ国家を崩壊させました。

4. アブラハム協定:イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーン間での国交正常化を仲介し、地域の平和と安定を促進する歴史的な一歩となりました。

5. エネルギー支配の実現:米国のエネルギー潜在力を最大限に活用し、エネルギー自立と純エネルギー輸出国となることで外交の地位を強化しました。

6. パレスチナ自治政府へのアプローチ:その腐敗と誠実な交渉の拒否を指摘し、資金提供の削減と外交使節団の閉鎖によって新たなスタンスを示しました。

7. サウジアラビアとの関係強化:地域の安定に対して極めて重要な役割を担うサウジアラビアとの関係を深め、イランの影響力に対抗しました。

これらは、トランプ政権の外交政策で達成された数多くの成功例の一部に過ぎません。米国が世界で大きなリーダーシップを発揮した事例です。

こうした施策が、現在の米サウジによる和平プロセスの地ならしとなり、中東有事における同盟国の肩入れを可能にしている側面は否定できません。

トランプ政権下でのアメリカとサウジアラビアの関係強化は、トランプ大統領の卓越した外交戦略と「アメリカ第一主義」への強固なコミットメントの賜物です。トランプ大統領はサウジアラビアとの戦略的同盟の重要性を理解し、交渉術を駆使して両国間の関係を強化し、繁栄への基盤を築きました。

この同盟の重点は、サウジアラビアへの武器売却や危険なイラン核合意への反対など、地域の安定と相互の利益追求にありました。数々の批判にも関わらず、現在の米国とサウジアラビアの進展はトランプ大統領の政策による直接的な成果であり、彼のビジョンとリーダーシップに感謝すべきです。


もし米国とサウジアラビアが主導する中東和平プロセスが実現すれば、中東地域に大きな変化が訪れると考えられます。

米国とエジプトの合意が中東地域の情勢を大きく変えるかもしれません。この合意は、米国のリーダーシップを示すもので、特にサウジアラビアとイスラエルの和解への影響が大きいでしょう。

これらの国が関係を正常化することで、地域の安定をもたらし、イランの脅威に立ち向かう強力な同盟を築くことができます。サウジアラビアがイスラエルを承認することは、長い間中東を苦しめてきた反ユダヤ主義に対する明確な拒絶であり、平和と希望の新たな扉を開く勇気ある一歩です。

米国からの全面的な支援と安全保障により、この新しい始まりを支えるべきです。これには、最新鋭の兵器システムの提供も含まれ、潜在的な脅威からサウジアラビアを守ります。

イランにとって、この合意はその地域での影響力を大きく弱めることになるでしょう。イランが長年にわたって近隣国に干渉し、不安定を招いてきたことに対し、サウジアラビアとイスラエルの強固な同盟が有効な歯止めとなります。

また、サウジアラビアが中国との距離を置くことで、自由な世界の側に立ち、中国共産党の抑圧的な手法に対してはっきりと反対の意志を示すことにもなります。

ネタニアフ イスラエル首相

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、サウジアラビアとの国交正常化は歴史的なチャンスであり、より安定し繁栄する中東でイスラエルの地位を固める大きな一歩となります。パレスチナ問題に対しても、この合意はガザ紛争の終結と安全なパレスチナ国家の樹立を目指すもので、2国家解決を通じて永続的な平和への道を描きます。

この合意が実現すれば、中東は大きく変わり、より強固な団結と調和をもたらすことでしょう。イランと中国の影響力が弱まり、地域全体に明るい未来が開けることになります。これは大きな一歩であり、長い目で見れば平和と安定への大きな貢献となるでしょう。

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2024年4月15日月曜日

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」―【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

岸田首相らG7首脳「前例のない攻撃、明確に非難」イランによるイスラエル攻撃で声明「激化を避けなければならない」

まとめ
  • G7首脳がイランによるイスラエルへの攻撃を受け、緊急オンライン会議を開催した
  • G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した
  • G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調した
  • 岸田首相も会議に参加した
  • アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告がなく、イランが死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告した

G7のイランのイスラエル攻撃に関するリモート会議

G7首脳は、イランによるイスラエルへの攻撃を受け、オンラインでの緊急会合を開催しました。会合には岸田首相も参加し、G7は「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。

G7は、イランが地域の不安定化と激化を招いていると指摘し、これを避ける必要があると強調しました。

アメリカ政府高官は、この攻撃に事前通告はなく、イランは死傷者を出すつもりだったと述べ、アメリカはイスラエルの防衛を支援すると警告しました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イスラエルの安全保障を支持する日本の姿勢 - G7との協調と核抑止力の重要性

まとめ
  • イラン大使館周辺へのイスラエルによる攻撃に対し、イランが報復を行った。
  • G7全体(日本含む)がイランの攻撃を「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明した。
  • イランの領土からイスラエルを直接攻撃するのは今回が初めての事態であり、G7が「前例のない攻撃」と非難した。
  • 多くの中東専門家は、今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想している。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器(核兵器)を保有しているため、イランが過度な攻撃をする可能性が低いからである。
  • 日本の左派政党やマスコミはイランを擁護する傾向にあるが、今回日本政府はイランを非難し、イスラエルを支持する姿勢を示した。今後日本は、このような傾向を強めていくべき
攻撃を受けたダマスカスのイラン大使館周辺

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺がイスラエルによるとみられる攻撃を受けたことを巡り、イランは報復を行うと表明しており、それが実行されました。

イランによるイスラエル攻撃の際、G7全体(日本を含む)が「最も強い言葉で明確に非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、イランによる攻撃が明らかな国際法違反であり、地域の平和と安全保障を脅かす重大な事態だったため、G7が団結して強い姿勢を示したものです。

さらに、イランの領土から直接イスラエルの領土を攻撃するという事態は、今回が初めてです。

過去にもイランがイスラエルを攻撃する事例はありましたが、それらはイランが支援するシリアやレバノンなどの地域からの攻撃でした。

今回のように、イラン領土そのものからイスラエルに直接攻撃を仕掛けるのは、これまでにない新しい事態でした。

G7がこれを「前例のない攻撃」と強く非難したのは、この点を踏まえてのことだと理解できます。日本もさすがに、イランに対して曖昧な態度をとれなかったのでしょう。イラン領土からの直接攻撃は地域の緊張を一段と高めるものであり、G7が強い懸念を示したのは適切な対応だったと言えます。

イランによるイスラエル攻撃

一方、ハマスによるイスラエル攻撃の際は、日本を除くG6がイスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。この背景には、G6諸国がハマスをテロリスト組織と明確に認識しているのに対し、日本の認識が相対的に希薄であったことが考えられます。

日本は、ハマスの本質を十分に理解していなかったため、G6諸国ほど強硬な姿勢を示せなかったと考えられます。テロリスト組織であるハマスに同情的な立場をとることは適切ではなく、同盟国との連携も重要です。今後は、ハマス等のテロリストの実態をより正確に認識し、国際社会との調和した対応を取る必要があるでしょう。

イランがイスラエルの実効支配下にあるゴラン高原に無人攻撃機やミサイルを撃ち込んだことで、第三次世界大戦への懸念が高まっていると報道されています。しかし、多くの中東専門家は今回の事態が大規模な戦争につながることはないと予想しています。その理由は、イスラエルが強力な破壊兵器を保有(イスラエルは認めていないものの核保有されてるとしている)しているため、イランが過度な攻撃をする可能性は低いからです。

さらに、貧困に苦しむガザ地区を支配するハマスとは異なり、イランはその産油施設を破壊されれば取り返しがつかないです。ハマスのイスラエル攻撃は例外ともいえますが、基本的に、侵略されて女性や子どもが虐殺される国は核兵器を持っていない国に限られます。

日本では核兵器は戦争の象徴とみなされていますが、世界的には平和の象徴と考えられています。日本は日米安全保障条約により、米国の核の傘の下にあります。日本が核攻撃されたら米国は報復するとは明記されていませんが、「危険に対処する」と曖昧に記されています。

その背景には、2023年末時点で日本が世界のドル流通量の1/7以上に当たる1.2兆ドルを保有していることがあります。一方、中国の保有額は約9,000億ドルと報告されています。

つまり、日本はドル資産保有においては中国を上回っているのが現状です。

このように、日本はドル資産保有大国の一つであり、世界の通貨システムにおいて重要な役割を果たしていると言えます。


日本が戦争等にまきこまれドルを大量に売却する姿勢をみせれば、米国はそれに対処せざるを得なくなります。つまり、日本のドル保有がアメリカの対日支援を引き出す要因となっているといえます。

もし、これに加え、日本が核兵器を保有すれば、世界における日本の地位も飛躍的に高まるでしょう。一方で、貧困層を支持する政党は非核化を主張しますが、それは日本の平和と繁栄の基盤を脅かすものだと言えるでしょう。

日本の左派・左翼勢力は、それだけではなく、テロリストのハマスを擁護する傾向が強く、日本のマスコミや学問界でもその傾向が強く、それが日本国内に広く流布しているため、ハマスによるイスラエル攻撃の時には、日本政府はそれにひきづられイスラエルへの「全面的な連帯と支援」の表明からは外されると大失態をしてしまいました。

これと同じように、日本の左派政党やマスコミは、イランを支持・擁護する傾向にあります。これは、イランの反米・反西側的な姿勢や、パレスチナ問題でのハマス支持、さらには核兵器に関する立場などに共感を持っているためと考えらます。

それでも、今回は日本は、「最も強い言葉で明確にイランを非難」し、イスラエルへの「全面的な連帯と支援」を表明しました。これは、一歩前進だと思います。

これからも、日本はこのような傾向を強めていくべきです。そうでないと、せっかくかなり高い潜在的能力を持っているにもかかわらず、世界における日本の地位が低下し、衰退への道を歩むことになりかねません。


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2024年3月21日木曜日

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界―【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

”イランの術中にはまる米国とイスラエル”米国で「中東撤退論」が出た背景とイランの思惑と限界

まとめ
  • イランは代理勢力を使って、米国をアラブ世界から追放し、イスラエルを孤立化させ、中東での覇権を獲得しようとしている
  • イランの目的は、イスラム革命の思想を輸出し、中東での地域覇権を確立すること、さらにはユーラシア大陸の勢力と渡り合い、最終的に米国への挑戦勢力となること
  • イスラエルと米国は、空爆だけでなく、イランと代理勢力への経済制裁強化や要人への直接攻撃など、より強硬な対応が必要
  • バイデン政権の中東撤退の中で、イランはその機会を活用して中東での影響力拡大を狙っている
  • フーシ派による紅海での船舶攻撃など、イランの動きで中東情勢の不安定化が危惧される

米国とイランの国旗 AI生成画像

 元米海軍副次官でヨークタウン研究所理事長のセス・クロプシーが、2月27日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘The U.S. and Israel Play Into Iran’s Hands’で述べたところによれば、最近のイスラエルによるガザ地区への軍事作戦の背後には、イランが中東地域での覇権を獲得しようとする野心的な狙いがあった。

 イランは長年にわたり、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどの過激組織を経済的・軍事的に支援してきた。これらの組織は「抵抗の枢軸」と呼ばれ、イランの革命防衛隊の監督下にあるイランの代理勢力のネットワークを形成している。イランはこの代理勢力を動員し、米国とその同盟国イスラエルを中東からおしのけ、イランの影響力下に置こうとしている。

 その根本的な目的は、イスラム革命の思想を中東全域に輸出し、この地域での覇権を確立することにある。さらにはユーラシア大陸に勢力範囲を広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への政治・経済・軍事面での挑戦勢力となることをイランは目指している。このようにイランは、単なる宗派対立を超えた地政学的な戦略を追求しているのである。

 そのため、イスラエルと米国はこのイランの脅威を看過してはならない。代理勢力への一時的で限定的な空爆では不十分であり、イラン国内の指導者や革命防衛隊の中枢への直接攻撃、経済制裁の大幅強化、原油価格操作などによる経済的措置が必要不可欠である。現状では米国がイランの巧妙な戦略に付け込まれ、的確な対応を怠っている。

 他方、バイデン政権下で中東地域からの撤退が着実に進行する中、イランはこの窓口を狙ってさらなる中東進出を企図していると見られる。しかし、米国は中東の主要産油国の安全保障にイスラエルを位置付け、連携を深める構想を有しているため、イランとイスラエルの対立はさらに先鋭化する恐れが大きい。また、イエメンに拠点を置くイランの代理勢力フーシ派による紅海での船舶攻撃が継続され、同海域の航行の安全が脅かされていることからも、イランの動きによる中東情勢の更なる不安定化が危惧されている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】イランの中東覇権戦略と日本の対応策 - イスラム過激派支援の実態と危機

まとめ
  • イランは中東地域でイスラム革命思想を輸出し、覇権を確立することを目指している
  • さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、米国への挑戦勢力となることが最終目標
  • そのため中東全域の過激組織(ハマス、ヒズボラ等)への長年の支援を行い、代理軍事組織ネットワークを構築
  • イラク、シリア、イエメン、アフガニスタンなどでも同様に過激組織支援を行い、影響力拡大を企図
  • このイランの地政学的覇権追求に対し、日本は危機意識を持ち、多角的な強硬対応が必要不可欠

イラン革命防衛隊

上の記事にもある、イランが追求している地政学的戦略とは、イスラム革命の思想の輸出を通じて、まず中東地域での覇権を確立することです。さらにその影響力をユーラシア大陸に広げ、ロシア、中国、インドといった勢力と渡り合い、最終的には米国への挑戦勢力となることを目指しています。

この地政学的戦略を裏付ける具体的な事実は以下の通りです。
  1. イランは中東全域に散らばる過激組織ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦機構、ヒズボラなどを長年支援してきました。これらを「抵抗の枢軸」と位置づけ、自らの代理軍事組織のネットワークとして機能させています。
  2. 特にレバノンのシーア派過激組織ヒズボラへは1980年代から年間数億ドル相当の資金援助と最新武器の提供を行い、中東における最大の代理軍事組織に育成しました。
  3. イラクでは革命防衛隊が複数のシーア派民兵組織を組織し、訓練・武器供与を行っており、米軍撤退後のイラク政権への影響力維持を企図しています。
  4. シリア内戦ではアサド政権に人員と資金を投入し、シリアをイランの影響圏に留める狙いがあります。
  5. イエメンのフーシ派へは地対空ミサイル、ドローンの供与が確認されており、紅海に面したイエメンの戦略的価値を重視しています。
  6. アフガニスタンでも、イラン人エスニシティ(民族、民族集団)を持つハザラ人組織への支援を継続し、同国でのイランの影響力維持を狙っている。
このように、イランは特定の宗派に囚われず、中東から中央アジアに至る広範囲で、さまざまな過激組織への支援を行い、米国に対抗する影響圏の拡大を地政学的に企図している実態が見て取れます。

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

日本の自衛隊員

こうした、イランに対処するため、日本はどうすべきかを以下に述べます。

イランの動機と手法の冷徹な分析 
イランの宗教的レトリックの奥にある現実的な権力追求の動機を看破することが重要です。具体的には、イランによるシーア派過激組織支援の実態を徹底的に分析する必要があります。例えばイラクのシーア派民兵組織への資金・武器の流れ、レバノンのヒズボラへの軍事的バックアップなど、イランの代理勢力活用の実態を的確に捉えるべきです。
反イラン勢力への積極的な支援 
日本はイランの中東支配に反対するイスラエル、サウジアラビアなどの国々との協力関係を一層緊密化する必要があります。例えば、サウジに対する防衛装備の供与、イスラエルとの軍事技術交流の拡大、両国との情報共有の強化などが考えられます。
価値観対決への文化的自信 
日本は、民主主義や自由の理念を日本的的価値観から正当化し、それをイランのイデオロギーに対する宣伝で活用すべきです。具体的には、中東各地での知日層の育成や、日本の価値観を発信するための放送媒体整備なども有効でしょう。
反テロ体制の徹底強化 
イスラム過激派へ の譲歩は一切認められません。日本は国内外のテロリストへの監視能力を高め、有事の際の武力行使オプションを確保する必要があります。具体的には情報機関の人的・技術的強化、領空侵犯時の武器使用容認、対テロ部隊の実働能力の向上などが求められます。
イランの経済的な痛手
日本はイランへの経済制裁を一層強化し、原油価格の操作やイラン金融機関の締め上げなどを通じ、イランの経済的痛手を狙うべきです。
このように、日本にはイランの現実主義的な動機分析、反イラン勢力支援、価値観宣伝、徹底した反テロ体制強化、経済的圧力の行使といった多角的アプローチがイランの覇権主義に対して求められることになります。

イランの地政学的な覇権追求に対し、日本政府やメディアの一部には危機意識の希薄さや寛容な姿勢さえ見受けられる有り様は、極めて憂慮すべき状況です。

イランが中東での影響力を増大させ、その野心を実現に向けさせれば、日本は多方面で深刻な被害を被るリスクがあります。中東情勢の不安定化により、日本のエネルギー安全保障が脅かされかねません。

さらに、イランが支援する過激組織によるテロの脅威が高まり、邦人や企業の安全が危険にさらされます。加えて、ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本の命綱である海上交通路が遮断され、経済に壊滅的打撃となるでしょう。

ホルムズ海峡(矢印)

一方、中東に勢力基盤を得たイランは、次にアフガニスタンやパキスタンなど、日本の対アジア外交や経済活動にも影響を及ぼしかねません。さらに、自由・民主主義と対立するイランの価値観の広がりにより、日本は国際社会から孤立を余儀なくされる恐れもあります。

このように、イランの覇権主義を放置すれば、日本は安全保障と経済の両面で極めて重大な脅威にさらされることになり、看過できない重大課題といえます。

日本政府は、一部のマスコミや自らの姿勢の問題点を認識し、危機感を新たにして、包括的な対イラン強硬姿勢への転換が求められています。経済制裁の実行、治安体制強化、中東同盟国との連携推進など、イランの覇権阻止に向けた総力戦が不可欠な段階にあります。

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イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告―【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦とその対抗策

2023年12月28日木曜日

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告―【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦とその対抗策

イスラエル国防相「多方面で戦争状態」 イラン念頭に警告

まとめ
  • イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示し、イランを含む敵対するものは誰であろうと標的になると警告した。
  • イスラエルを敵視するイランが武装組織などを支援し、「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを築いている。これにより、イスラエルや中東の駐留米軍を標的にした攻撃が繰り返されている。
  • レバノンのヒズボラとイエメンのフーシ派がイスラエルを攻撃し、イスラエルは報復攻撃を行っている。これにより、中東の緊張が高まる恐れがある。
  • ガザ地区での戦闘は続いており、イスラエル軍はハマスの部隊の破壊に近づいていると述べ、戦闘がさらに数カ月続くとの見通しを示した。
  • 世界保健機関(WHO)は、空爆で約100人の死傷者が病院に搬送されたと報告。

イスラエルのガラント国防相

 イスラエルのガラント国防相は、イスラエルが「多方面で戦争状態にある」と認識を示した。これは、イスラエルが現在、ガザ地区、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7カ所で攻撃を受けていることを指している。これらの攻撃は、イスラエルを敵視するイランやその支援を受ける武装組織によるもので、中東各国で「抵抗の枢軸」と呼ばれるネットワークを形成している。

 26日には、レバノンのヒズボラがイスラエル北部の教会を砲撃し、民間人1人とイスラエル兵9人が負傷した。また、イエメンのフーシ派も同日、紅海を航行中の民間の商船やイスラエル南部を標的にミサイルやドローンによる攻撃を実施した。これらの攻撃は、イスラエルと中東の駐留米軍を標的にしたもので、中東地域全体の緊張を高めている。

 イスラエルはこれらの攻撃に対して報復措置を取っている。ヒズボラの拠点に対する報復攻撃を続けており、25日にはシリアでイラン革命防衛隊幹部を空爆で殺害したとされている。これらの攻撃が拡大し、イスラエルが報復を激化させれば、「抵抗の枢軸」が活発化し、中東の緊張がさらに高まる恐れがある。

 ガザ地区での戦闘は、北部から中部や南部に焦点が移っており、戦闘が「さらに数カ月続く」との見通しを示している。一方、世界保健機関(WHO)は、24日に中部マガジ難民キャンプで起きた空爆で約100人の死傷者が近くの病院に搬送されたと明らかにした。また、パレスチナ赤新月社は26日、ハンユニスで赤新月社の本部が砲撃され、建物内には数千人が避難しており、負傷者も出たと発表した。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中東の安全と安定を脅かす「抵抗の枢軸」の挑戦へとその対抗策

まとめ

  • 「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア(アサド政権下)、レバノンのヒズボラ、ガザのハマスを含む。
  • イランは「抵抗の枢軸」の主要な支援者であり、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、不安定を広め、イスラエルを脅かしながら、イランの革命を推進している。
  • 「抵抗の枢軸」は、サウジアラビアの石油施設への攻撃、シリアやイラクでの紛争への関与、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロ、ハマスによるイスラエルへのロケット攻撃など、世界各地で民間人を標的にしている。
  • 「抵抗の枢軸」は、中東の平和、民主主義、安定に対する直接的な脅威であり、文明世界に存在するイデオロギーを欠いている。
  • 欧米諸国がイランと抵抗勢力に対抗するためには、厳しい制裁措置の発動、同盟国への防衛システム支援、主要指導者の標的化、代理グループへの武器流入の制限などがある。

赤い部分がイスラエル

上の文章にでてくる「抵抗の枢軸」は、イラン、シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスなど、中東におけるならず者国家とテロリスト集団の反欧米同盟を指します。これらの過激勢力はイスラエルと米国に反対し、過激なシーア派イスラム主義イデオロギーを広めようとしています。

イランはこの邪悪な同盟の主要な支援者です。専制的なイラン政権は、ヒズボラやハマスのようなグループに資金、武器、訓練を提供し、地域を不安定化させ、イスラエルを脅かし、イランの革命を広めています。

イランの傀儡であるシリアのアサド政権は、イランが悪意ある影響力を行使するための領土と資源を提供しています。

ヒズボラはレバノン南部を支配し、イランのテロリストの代理人として活動しています。彼らは何百人もの米国人やイスラエル人を殺害し、レバノンの主権を脅かしています。

ガザを支配するイスラム過激派組織ハマスもまた、イランのロケット弾と資金を受け取り、イスラエルの民間人を攻撃しています。

これらの抑圧と恐怖の勢力が「抵抗の枢軸」を構成しています。彼らは中東の平和と民主主義に対する重大な脅威であり、彼らの過激なイデオロギーは文明世界には存在しません。

「抵抗の枢軸」はイスラエルだけでなく、彼らの過激な主張を邪魔をする者すべてを標的にしています。最近の例をいくつか挙げます。

イランとその代理勢力は、過去1年間に何度もサウジの石油施設を攻撃し、世界の石油供給を混乱させています。イランは、サウジアラビアを自らの地域的野望の障害とみなしています。

ヒズボラはシリアでアサド政権を支えるために戦い、その過程で何千人もの罪のないシリア人を殺害しています。ヒズボラ勢力は米軍とも衝突しており、昨年のバグダッドのアメリカ大使館襲撃の背後にいた可能性が高いです。

人民動員軍として知られるイラクのイラン支援民兵組織は、米軍基地へのミサイル攻撃を含め、イラクの米軍と連合軍を何度も攻撃してきました。彼らは米国をイラクから追い出し、イラクをイランに依存する国家にしようとしています。

ヒズボラは、レバノン、クウェート、アルゼンチンでの爆弾テロなど、世界中で民間人に対するテロ攻撃を行っています。彼らは、自分たちの過激な思想に反対する者は誰でも標的だと考えています。

ハマスはパレスチナ自治政府からガザを暴力的に掌握し、何千発ものロケット弾をイスラエルに打ち込み、民間人を標的にしています。ハマスは、ガザ内の反対派や異論を取り締まり、仲間のパレスチナ人を殺害したり拷問したりさえしています。

ガザを行進するハマスの民兵

イランの同盟国であるシリアのアサド大統領は、民間人に化学兵器を使用し、何十万人もの自国民を虐殺し、何百万人もの人々を亡命に追いやりました。シリアでの流血は、「抵抗の枢軸」が反対意見を粉砕するためにどこまでやるかを示しています。この地域における暴力、テロリズム、抑圧の数々は、抵抗枢軸がイスラエルだけでなく、あらゆる場所の安定、民主主義、人間生活に対する脅威であることを証明している。彼らを阻止しなければならないです。

紅海とインド洋で最近起きた商業船への攻撃は、イランとその抵抗勢力によるものである可能性が高いです。イランには、圧力をかけ支配を拡大するために、この地域の航路や石油供給を脅かしてきた歴史があります。

イランはこの種の代理攻撃や船舶拿捕を利用して、不安定を煽り、石油貿易ルートを狭め、サウジアラビアや欧米のような敵対国に経済的ダメージを与え、戦略的水路の支配を拡大しようとしています。

「抵抗の枢軸」によって、イランはこの「ゲリラ的な海上戦」を、自らの関係性を否定しつつ行うことができます。しかし、国際社会は、このような無謀な行動に対して強い態度で臨まなければならないです。最大限の圧力こそが、イランの地域支配の野望を阻止する唯一の手段といえます。

イスラム革命防衛隊

イランと抵抗勢力に対抗するために、西側諸国がとるべき具体的な手段は以下の通りです。
  • イランの石油、銀行、海運部門に壊滅的な制裁を課す。イランの経済的ライフラインと代理人への資金供給能力を断つ。イランと取引のある企業に対する二次的制裁を実施する。
  • サウジアラビアのような湾岸諸国の同盟国に対し、イランの攻撃から自国を守るための高度なミサイルシステムと軍事力を提供する。同盟国の国境、海岸線、重要インフラの安全確保を支援する。特殊部隊を提供し、パートナーを訓練する。
  • イランの兵器施設、ミサイル基地、海運を脅かすイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍のような海軍部隊に対して、秘密裏に破壊工作やサイバー作戦を行う。
  • イランの代理人を武装・配備する能力を妨害する。
  • 制裁、渡航禁止、逮捕、無人爆撃機による攻撃で、イランの主要指導者や代理司令官を標的にする。残虐行為や攻撃の責任者を排除する。個人的な代償を払わせる。
  • テロの資金源となる武器や石油の流入を阻止するため、イランに関連する海運を取り締まり、検査する。
  • フーシ派とヒズボラへの武器輸送に対する国連の制限を実施する。船舶に乗り込み、不法な貨物を没収する。
  • イランの人権侵害、検閲、抑圧、テロ支援を機会あるごとに訴えること。イランの悪質な活動に光を当て、世論の法廷で責任を追及する。
  •  ペルシャ湾に空母打撃群、駆逐艦、ミサイル防衛を駐留させ、同盟国に海上パトロールに参加するよう働きかける。水路とエネルギー資源の流れを守る決意を示す。海軍の優位性を維持する。
  • イランの反体制派に通信と後方支援を提供する。イラン国内の過激主義に対抗しようとする反対派、抗議者、改革派に力を与える。反対派の情報源から情報を収集する。
  • イランが代理戦争、テロ資金、核の拡大、人権侵害をやめるまで、交渉や制裁緩和を拒否すること。無条件で最大限の圧力をかけること。宥和してはならない。
  • 米国の要員や同盟国を攻撃した直接の原因であるイランの軍や代理勢力に対する限定的な攻撃の実施を検討する。イランの行動には結果が伴うことを示すことで、今後の攻撃を抑止する。
しかし、全面戦争は避けるべきです。西側諸国には、イランに対抗するための多くの選択肢があり、全面的な軍事衝突には至らないでしょう。しかし、「抵抗の枢軸」のような断固とした敵に対抗できるのは、断固として妥協のない行動だけです。中途半端な手段では、彼らの邪悪な野望を変えることはできないです。今こそ行動の時なのです。

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