2018年12月21日金曜日

トランプ氏が“マティス斬り” 軍事シフト加速か 識者「中国の挑発に『やられたらやり返す!』も…」―【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!


ついにマティス氏(左)も辞任へ。トランプ政権はどちらへ進むのか

ドナルド・トランプ米大統領は20日(米国時間)、ジェームズ・マティス国防長官が来年2月末に退任するとツイッターで明らかにした。「狂犬」の異名を持つマティス氏だが、実は国際協調派で、暴走傾向のあるトランプ政権に、外交・安全保障上の安定感を与えてきた。トランプ氏が今後、中国や北朝鮮に対する軍事シフトを加速させる恐れもありそうだ。

 《マティス将軍は、同盟国やほかの国々に対し、軍事的義務を負担させるという面で、大いに私を助けてくれた。新任の国防長官は間もなく指名することになるだろう。私はジムの献身に深く感謝している!》

 トランプ氏は、マティス氏について、ツイッターでこう褒めたたえた。だが、2人の関係は悪化が伝えられていた。

 トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収をめぐっても、「マティス氏が反対していた」と報じられた。マティス氏は20日、トランプ氏に宛てた辞表に、「あなたには、自身の考えに沿った国防長官を任命できる権利がある」と書き記した。抗議の辞任の可能性もある。


 トランプ政権では、これまで、マティス氏に加え、すでに辞任したハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、年末に退任するジョン・ケリー大統領首席補佐官の「将軍3人組」が幹部として影響力を発揮してきた。

 マティス氏が2月末に去ることで、トランプ政権の性質はどう変わるのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「下院の多数派を民主党が握っているため、後任には議会対策ができる人間や、次期大統領選を見据えて政治的動きのできる人間をあてるのではないか。北朝鮮に対する先制攻撃を唱えていたジョン・ボルトン大統領補佐官の影響力が高まることが予想され、北朝鮮に対する抑止力が増すことになるだろう」と話す。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「例えば、南シナ海で中国による挑発的行動があったとき、これまで『重し』となっていたマティス氏の不在というリスクがあるだろう。トランプ氏が感情的に『やられたらやり返す!』的な対応を取る事態が起こり得るのではないか。その矛先は、北朝鮮やロシアを含めて、どこに向かうかは分からない」と語った。
【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!
マティス国防長官


マティス氏の辞任の直接のきっかけは、トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収にあるようです。
マティス氏は20日公表したトランプ氏あての辞表で、「大統領は自身の考えに沿った国防長官を任命する権利があり、私が辞任するのが適切だと判断した」と述べ、トランプ氏との国防政策をめぐる見解の相違を理由とした自発的な辞任だと強調しました。

マティス氏はまた、「米国は他国との共同防衛に全ての力を傾注しなくてはならない。(イスラム教スンニ派過激組織)『イスラム国』(IS)支配の象徴の撲滅に向けた74カ国の連合が証左だ」とし、シリアで米軍が果たした役割の重要性を指摘しました。

米政権高官がロイター通信などに明らかにしたところでは、マティス氏は20日、ホワイトハウスを訪れトランプ氏に辞任の意思を直接伝えました。マティス氏はシリアから米軍を撤収させないようトランプ氏を説得しようとしましたが、同氏は聞き入れなかったといいます。

トランプ氏は20日、ツイッターでシリア駐留米軍(約2600人規模)の撤収に関し「兵士の命を守り、何十億ドルも節約できる。なぜシリアやロシア、イラン、地元勢力のために『イスラム国』を殺害しなくてはならないのか」と主張。また、米メディアは同日、トランプ氏がアフガン駐留米軍(約1万4千人規模)のほぼ半数を撤収させることを本格的に検討していると報じていました。

サンダース大統領報道官は19日に声明を発表し、「アメリカは過激派組織ISIL(アイシル)を打倒した」として、シリア駐留アメリカ軍の撤収を開始したと表明しました。
米国国防総省のホワイト報道官も19日、アメリカ軍の部隊をシリアから帰還させる作業に着手したことを発表しています。

サンダース大統領報道官

これはかなり大きなニュースです。ただし、ISILは確かに打倒されたのかもしれませんが、シリア情勢はますます悪くなって来ています。このなかで、どうしてトランプ政権が2,000人以上の大隊を撤収するのでしょうか。

これを世界がどのように受け止めたのかということになると、トランプ政権はやはりアメリカファーストなのだということなのかもしれません。トランプ氏としては、米国の貴重な戦力を中東のような、トランプ大統領から見るとそれほど決定的な国益が掛かっていない地域には置いておく必要がないということです。

確かに大きな流れでそういうことかもしれませんが、しかし日本や東アジアを含め多くの国々が、米国はこの時期に海外から兵を引くのは無責任ではないかということになってしまいます。

朝鮮半島には在韓米軍がいて、大きな寄りどころになっていますが、ここからも兵を引くのかもしれないです。現にトランプ大統領の選挙戦を通じて、そのことをほのめかしています。一言で言うと、世界はトランプ大統領のダンケルク撤退作戦を恐れていることになります。

ダンケルクから撤退するイギリス軍

ちなみにこれは、第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、ドイツ軍のフランス侵攻の1940年5月24日から6月4日の間に起こった戦闘です。追い詰められた英仏軍は、この戦闘でドイツ軍の攻勢を防ぎながら、輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員して、イギリス本国(グレートブリテン島)に向けて40万人の将兵を脱出させる作戦(ダイナモ作戦)を実行し成功しました。

米国が今の時期にそのようなことをすればどうなるでしょうか。先程、シリア情勢については、楽観できないと述べました。シリアのアサド大統領は化学兵器を自国民に使ったかもしれないと言われていますが、そのアサド政権の背後に誰がいるのかと言うと、強権的なロシアのプーチン政権です。

これだけならまだしも、ロシアのプーチン政権と手を結んでいるのが、核開発の疑惑がある隣国のイランです。イランはシーア派の大国です。

このロシアとイランは、シリア情勢で手を結んでいます。よく「テヘラン・モスクワ枢軸」と言われます。いま中露も接近していますから、これに加えて「テヘラン・モスクワ・北京枢軸」というものがうっすらと見えてすらいます。北朝鮮の影すらあります。このような状況のなかで、明らかにシリアでのプーチン大統領とイランの勢力が強まってしまいます。

ロシアとイランとは、トランプ政権は激しく対立しています。にもかかわらず、米軍がイラクから撤退すれば、発言力が無くなってしまうというようなことが起こり得ます。アメリカファースト、トランプ政権のダンケルク撤退作戦が世界の政局に大きくインパクトを与えるのは、誰が考えてもわかります。

ダンケルク撤退の当時は、陸上の大国だったドイツがどんどん台頭して来るなかで、海洋国家英国が海の外へ引くという作戦だでした。同じように、現在陸上の軍事大国(経済大国ではない)であるロシアがアサド政権と組んで、日米英などの海洋国家と2つに分かれつつあるということなのかもしれません。

現在のように米中、米露の衝突と言われる中で、イラクから米国が実力部隊を退くのが良いのかどうかは判断に苦しむところです。日本では「戦争が起こらなければ良い」と言う論調が大きい思います。

米国では、その世論がさらに強いので、トランプ大統領は、撤兵を単純良いことだと思ってしまったのかもしれません。しかしその結果はやがて日本をはじめとする他国にも押し寄せて来る可能性は否定できません。世界はこれを心配していると思います。

マティス氏は、これをなんとかトランプ大統領に理解してもらおうと思ったのでしょうが、それは叶わなかったのです。

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2018年12月20日木曜日

中国の身勝手な言動を許さないためのスパイ防止法―【私の論評】スパイ防止法を成立させなければ、いずれ中国とともに沈没する日本(゚д゚)!

中国の身勝手な言動を許さないためのスパイ防止法

北朝鮮や中国による拉致・拘束は過去の話ではない

中国でカナダ人実業家「行方不明」、加政府発表
写真はカナダのクリスティア・フリーランド外相
写真はブログ管理人挿入 以下同じ。

華為技術(ファーウェイ)の問題は、米中貿易戦争の一環である。

 同時に中国の覇権確立の道しるべとなる「中国製造2025」の技術がサイバー攻撃で日本を含めた先進国(特に米国)から窃盗したのではないかという疑いから、米国がカナダの協力を得て警告を発したということであろう。

 身柄を一時拘束され、現在は監視付き釈放の身である孟晩舟容疑者は、米加中の諸々の取引に大いに活用されることであろう。

 2015年以降、日本人10人がスパイ活動などに関与したとして拘束され、うち2人は解放されたが、8人が起訴され、すでに4人に対し、5年から12年の実刑判決が下された。

 ほとんどの国ではスパイ防止法などがあり、外国で拘束され刑に服している自国の人間を救出する一助として活用している。

 すなわち、スパイ防止法は機密情報の保護という一面だけでなく、人権擁護の面にも役に立つということである。

 日本にはスパイ防止法がないので、スパイ行為を取り締まれない「スパイ天国」とされている。国益を毀損する情報などが盗まれている点で不名誉この上ない。

 自民党議員が昭和60(1985)年に議員立法で提出したが、野党の反対で廃案になった経緯がある。

 当時、野党は「基本的人権や自由が侵される」として反対したが、拉致事案などは法の不備がもたらした人権被害と言えなくもない。

 また、外国スパイは従来のプロを介する方法も存在し続けるが、留学生・旅行者など広く一般人を使った方法やサイバー攻撃などの高度技術を駆使するなど、形を変えて脅威の度合いを高めている。

 第一には「国益の擁護」上からスパイ防止法が不可欠と思うが、ここでは拉致被害者や被拘束日本人の救出という人道・人権の側面から取り上げてみる。

■ 自国都合で日本人を拉致・拘束する北朝鮮や中国

 北朝鮮に拉致された日本人は、政府が確認している12人のほか、拉致の可能性が否定できないとされる800人前後がいるとみられている。

 しかも、拉致は過去の話ではなく、今日も続いているとさえ言われる。多くの被害日本人を取り返せないだけでなく、なぜそうした横暴を許すのか寒心に堪えない。

 また、中国で拘束された日本人は、日本と中国の友好増進や単なる貿易などに従事する者たちで、理由が公表されず、疑心暗鬼は募るばかりである。

 日本の首相の7年ぶりの訪中(10月25、26日実現)折衝が行われていた7月以降、2人は懲役12年と5年の実刑判決を受けた。首相訪中から1か月半後の最近、別の2人に6年と12年の実刑判決が下された。

 日本人拉致は北朝鮮の都合によるものであるし、北朝鮮の行動は日本の国家主権の侵害である。解決の糸口となる合意を北朝鮮は何度も反古にしてきた。

 他方、中国による日本人の拘束は交渉を有利にするための取引材料として行っているとみられる。中国の行動は普遍的価値観を無視する近代国家にそぐわない行動である。

 先の首脳会談では「前向きの対応」を安倍晋三首相が求めたのに対し、中国は法令に基づき適切に処理したい旨の発言を繰り返した。

 しかし、裁判を公開しないで実刑を科した点からみると、習近平国家主席は聞く耳をもたないと言わざるを得ない。

■ 人権重視の日本が拉致被害者を取り戻せない矛盾

 カナダで拘束された孟晩舟は「イラン制裁違反に絡む金融機関に対する詐欺容疑」がもたれている。

 ファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)とはいえ、明確な容疑が持たれているのであり、無垢な少女が学校からの帰り道に外国人に連れ去られ拉致されたのとはわけが違う。

 しかし、日本人の多くが何と無関心であることか。被害者家族にとっては「日本人である」ことの苦悶や恨みが日夜頭をよぎり、政府も国民も信じることができないのではないだろうか。 

 こうした事象が起きてしまったことについての問題点の指摘はいろいろあるであろう。しかし、現実に、北朝鮮という国家が拉致犯罪をやったという事実が判明した暁には、国家・国民を挙げて救出に立ち上がるべきであった。

 国家・国民を挙げてというのは、場合によっては「“自国民奪還”戦争」になることも覚悟してというほどの強い決意のことである。

 しかし、そうした決意をする時はとうに過ぎてしまった。今では相手は日本を射程に収める核弾頭搭載可能な弾道ミサイルさえ開発して、脅迫もできる状況である。

 日本に決定的な威嚇や対抗手段がなかったし、国家の釈放努力と国民の団結も見られなかったからであろう。

 そうした結果、国民は「国家」の存在も重みも感じないようになり、国家に対する敬意も持ち得ない時代になってしまっている。

 国民の多くが、「いざという時には」自分の身に代えても「国家の防衛」に立ち上がるか、といった類の問いに対する答えでは、消極的な答えや否定的な答えを合わせると80%以上に達し、外国と全く対照的である。

 国家主権があって初めて、自由や民主主義、そして人権や法の支配といった、国民が普遍的価値とみなす諸々の恩恵を享受できている。

 拉致は日本の国家主権が侵害された事態である。そうであるからには、侵害排除の権利が日本にはあり、日本国民は権利を留保するための義務を果たすべきはずであろう。

 「戦争」という過激な行動は良しとしない日本であるが、無辜の拉致被害者を取り戻し、異常行為を中止させるためにも、外国人スパイなどを取り締まる法律を整備すべきであったし、今すぐにも整備すべきではないだろうか。

 米英と中露朝などは、相手国の人物をしばしばスパイ事件に関わったなどとして摘発・拘束することがある。

 最近では米国が北朝鮮に拉致されていた自国民を取り戻したし、米英とロシア間ではしばしば人質交換が行われてきた。

■ 華夷秩序の復活を夢見る中国?

 ファーウェイの副会長がカナダ当局に逮捕されたとき、中国外務省の報道官は「理由を示さないままの拘束は人権侵害だ」と批判したが、中国における日本人拘束では全く理由など示していない。自分のやることと他人に要求することが完全に相反している。

 産経新聞(12月13日付)は「主張」で、「一連の日本人拘束、さらに中国国内での人権弾圧をみれば、どの口で人権を口実に他国を非難するかとあきれるばかりだ」と書いた。

 しかも、カナダは米国の要請で拘束したが、中国は中国で活動するカナダの元外交官と事業家を「国家安全に危害を与える行為にかかわった疑い」で拘束したことを3日後に認めた。

 日本人被拘束者の犯罪内容も裁判状況もほとんど公表しない中国であるが、カナダに対する中国の行為はやはり米国の圧力を間接的ながら感じ取っているからであろう。

 国際社会の普遍的価値観さえ認めようとしない異質・異形の中国であるが、覇権を握っていないゆえに、米加を相手にはとても太刀打ちできないというところか。

 国家間の関係ではウィンウィンが望ましいが、残念ながら弱肉強食の世界である。

 岩倉具視を団長とする遣米欧使節団がプロシアの大宰相ビスマルクから聞いた話も国際法は強者に味方するということから、帰国後の使節団は「富国強兵」を合言葉に国力増大に邁進した。

小中華思想における華夷秩序


 鄧小平の中国が隠忍自重しながら国力増大に邁進してきたことは、「韜光養晦」を掲げてきたことからも伺える。

 明治維新後の日本もそうした立場にあったが、日本は文明国家の証として日清戦争や日露戦争においては国際法の専門家を戦場に同行して、法の支配に従う努力をした。

 ところが、今日の中国は日本を含めた米欧諸国が確立してきた普遍的価値観までも一蹴する強硬姿勢で、有無を言わせぬ頑なな態度を取り続けるようになってきた。

 習近平主席が掲げる「中華民族の偉大な復興」は、漢民族だけでなく中華(帝国)を形成する辺疆国家の民族をも含めた復興を目指すというもので、それはほかでもなく現代版の華夷秩序の形成であり、儒教思想に由来した古典的意識ではないだろうか。

 一帯一路でインフラ建設の恩恵を受けると思い込んでいた国々は、そこに気づき反発を見せるようになっているのであろう。

■ 同胞を取り返す意志を示せ

 中国外務省(陸慷報道局長)は中国(香港)籍の男が靖国神社境内でボヤを起し、建造物侵入容疑で逮捕された事件に関し、「既に日本側に懸念を伝えた。日本がこの件を適切に処理し、関係する人物の合法的な権益を確保するよう要請する」と述べた。

 日本人を何人も拉致していながら、容疑すら明確にしない中国が、日本が逮捕した中国人に対しては、「適切な処理」や「合法的な権益の確保」などとよく言えたものだと思う。

 ともあれ、拘束された後で身に覚えのないような罪状を着せられ、服役する日本人を救出できない日本でいいのか。

 日本以外の国がスパイ行為などで外国人を拘束することは時折起きてきた。その報復行為も当然の様に起きる。

 そして外交交渉で、相互に釈放などが合意される。国家はその大小に関わりなく主権という点では同等であり、内外にウィン・ウィンを見せなければならない。

 ところが日本にはスパイ防止法がない。スパイもどきの行為で嫌疑がかけられても、あっさり逃げられてしまう。

 こうして、日本には拉致被害者を取り戻す材料が外交交渉以外にない。国会でモリ・カケ問題にかけた貴重な時間を、こうした国家主権に関わる拉致被害者や拘束日本人奪還の議論に振り向けないのか。

 この際、日清戦争や日露戦争を思い出して、負け覚悟でもいいから、日本に不法侵入して日本から連れ去った日本人を取り戻す意志表示を同盟国の米国と世界に向かって行ってはどうか。

 北朝鮮の日本人拉致や中国での日本人拘束では、日本に一点の非もないからである。

 日本がその覚悟を闡明にしたならば、いかに同盟国とはいえ米国も戦争はご免であろうから、戦争に至らないあの手この手で日本の側面援助に乗り出さざるを得ないであろう。

 イスラエルを米国が庇わざるを得ないと似たような状況を日本が作為するのである。

 本気度を示す日本の初動をスパイ防止法の制定にするのはいかがであろうか。日本の国益を毀損する活動を行う組織や団体、企業、個人などを対象とするもので、野党がいう人権弾圧でも自由の束縛でもない。

 憲法擁護の政党やデモ行進で「改憲反対!」を叫ぶ日本人諸氏に再考を促したい。

 「平和憲法」と言われて久しいが、拉致被害者も拘束日本人も取り返すことに役立たない憲法である。

 人権を無視し、人道を蔑にし、日本人を骨抜きにしてきただけの無脊椎国家憲法で、スパイ防止法さえ制定できなくしてきたのである。

森 清勇

【私の論評】スパイ防止法を成立させなければ、いずれ中国とともに沈没する日本(゚д゚)!

2015年8月4日秋田市内で行われた社民党支持者中心の
「秋田・戦争をさせない1000人委員会」(代表・山縣稔県教組委員長)の街頭活動

秋田市で2015年8月4日に行われた北朝鮮による拉致被害者家族会の街頭活動中、隣で活動していた安全保障関連法案に反対する社民党系組織のメンバーが「拉致より憲法だ」と発言し、家族会が反発する一幕がありました。増元るみ子さん(64)=拉致当時(24)=の弟で、家族会元事務局長の照明さん(62)は「拉致被害者や家族の実情を考えてほしい」と話していました。

家族会の街頭活動は、秋田竿燈(かんとう)まつりに訪れた観光客らに被害者救出を訴えるため、照明さんのほか、田口八重子さん(62)=拉致当時(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(80)、松本京子さん(69)=同(29)=の兄の孟(はじめ)さん(68)や秋田県内の特定失踪者家族が参加してJR秋田駅前で行われました。

すぐ隣で、社民党支持者が中心の「秋田・戦争をさせない1000人委員会」(代表・山縣稔県教組委員長)が街頭活動を始めたため、救う会秋田メンバーの男性が1000人委員会メンバーの男性に署名を求めたところ、「拉致より憲法だ」と拒否されたというのです。

話を聞いた照明さんは「旧社会党、社民党は拉致問題解決の障害になり、被害者家族の思いを踏みにじってきた」と演説。1000人委員会側に抗議する救う会秋田幹部もいました。

照明さんはその後の県庁での記者会見で「被害者家族の多くは安保法案の議論に違和感を覚えている。約40年前に日本人が北朝鮮に拉致された時点で戦争が始まっている。戦っている被害者を放置している状況が平和なのか」と訴えました。

飯塚さんは「国民にとって重要な問題なのに、署名活動をしても、横目でちらっと見て通り過ぎる人がいるのが気になる。だが、政府と北朝鮮に対するメッセージとして活動を続けていきたい」と述べました。

この出来事、簡単にいえば、拉致被害者家族に面と向かって、「拉致問題より護憲が大切」と言い放ったということです。

憲法とは、国民の命と財産を守るためのものです。土井たか子氏はじめとする旧社会党(現社民党)が北朝鮮のエージェントであったのは、もう明らかですが、この残党にしてまだこのような行動に出るのかと当時は私自身も呆れ返ったものです。

国民の命も守らずに「平和憲法」を守るなどというのはまさに本末転倒です。米国のおかげで幸いおのれがちょ説戦場に行く羽目にならんかっただけで、その間、飛行機で1時間もかからないところに、同胞が40年ほども捕われていう現実があるのです。

現在、日本に敵機が領空に侵入したらどうなるかご存じでしょうか。自衛隊機は当然スクランブル発進します。そして敵機の横で、「領空内だから、でていってね」とお願いするだけなのです。

もし原発を空襲したらどうなるでしょうか。山本太郎氏たまにはいいことをいいます。山本氏の言うとおり通り、自衛隊は見ているだけす。これには、警察が対処せねばならないのです。

自衛隊の行動には閣議による「防衛出動」が決せられる必要があるのです。たとえ、それによって日本が壊滅するとしても、そうなのです。もし、これを無視して自衛隊が迎撃の挙に出た場合は、自衛隊員もしくはその上官が犯罪者になってしまうのです。

そもそも原発は軍隊が守るのが国際常識です。「戦争イヤヤ」と当時デモしていた若者を含めた諸君に言いたいです。君たちが言う前に、戦争は誰でも嫌なのです。

しかしも敵が攻めて来たらどうするのですか。当時のアンケートでは、植民地になってもかまわないと応えた5%以上の阿呆がおったそうですが、ウイグルやチベットで行われている中国による殺戮、ジェノサイドの実体を知らなかったのでしょう。もっと広く世界を知ってほしいものです。

諸君は、やむを得なく敵と中国と交戦せざるを得なくなった場合どうするのでしょうか。まさか米国にお願いするのでしょうか。国連安保理事会に疑義を提出したとしても、常任理事国の中国が拒否権行使することでしょう。

そもそも、戦うのか、戦わないのか、戦うとして同盟国抜きで戦うのか、同盟国と共に戦うのか?それとも中国の植民地になるのでしょうか?

2015年に結局、安保法案は国会で通ったのですが、それにしても、未だ重要な点が議論もされず放置されています。

中国が日本に送り込んでいるスパイは5万人。横浜の中華街で獅子舞いが上がり、旧正月が祝われる

それが、やはりブログ冒頭の記事にもあるように「スパイ防止法」に凝縮されます。「スパイ防止法」がないことにより、拉致被害者などを取り戻す根拠がなくなることは上の記事にも掲載されていましたが、それ以外にも日本が不利益を被ることがあります。それは、日本が「スパイ天国」になってしまうということです

スパイにとっての天国とは次のような状態です。①重要な情報が豊富な国、②捕まりにくく、万一捕まっても重刑を課せられない国のことです。

日本は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報が集まる情報大国でもあります。しかも、日本国内で、工作員がスパイ活動を働いて捕まっても軽微な罪にしか問われません。スパイ活動を自由にできるのが今の日本なのです。つまり、工作員にとっては何の制約も受けない「天国」だということを意味しています。

米国に亡命したソ連KGB(国家保安委員会)少佐レフチェンコが「日本はKGBにとって、最も活動しやすい国だった」と証言しています。ソ連GRU(軍参謀本部情報総局)将校だったスヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎ、スパイにとって地獄だ」と、笑えない冗談まで言っています。日本もなめられたものです。

日本は北朝鮮をはじめとする工作員を逮捕・起訴しても、せいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのです。

中国が得意とするスパイ活動に「ハニー・トラップ(甘い罠)」という手段があります。ハニー・トラップは、女性工作員が狙った男性を誘惑し、性的な関係を利用して、男性を懐柔、もしくは脅迫して機密情報を聞き出す諜報活動のことです。中国にとって、ハニー・トラップはサイバー攻撃と並んで機密情報を奪い取るための重要な手段となっています。

イギリス紙タイムズ(電子版)が2014年11月に報じたところによると、イギリス国防省の諜報機関の上級職員向けに、中国のハニー・トラップ対策マニュアルを策定。マニュアルは中国のハニー・トラップに関して「手法は巧妙かつ長期的。中国人諜報員は食事と酒の有効性を知り尽くしている」としたうえで、「中国の情報に対する貪欲さは広範囲かつ無差別だ」と分析。「中国には諜報員が存在するが、彼らは国の諜報機関の命令によって動く中国人学生、ビジネスマン、企業スタッフの裏に隠れている」と指摘しました。 

また、中国でのイギリス製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)の汚職疑惑に絡んで、同社の中国責任者が自宅で中国人ガールフレンドとセックスしているところを隠し撮りされ、その動画がGSK役員らに送りつけられました。中国のハニー・トラップの標的になるのは、政府や諜報機関の関係者にとどまっていません。

中国人女性工作員の“活躍”はイギリスだけではないです。アメリカ軍の最高レベルの機密情報にアクセスできる立場にあった元陸軍将校が、国際会議で出会った女性と2011年6月から恋愛関係となり、戦略核兵器の配備計画や弾道ミサイルの探知能力、環太平洋地域の早期警戒レーダーの配備計画といった米軍の機密情報を伝えたといいます。この元陸軍将校は国防機密漏洩の罪などで逮捕、刑事訴追されました。

中国人女性工作員は、日本人男性に対しても、ハニー・トラップを仕掛けてきています。中国の公安当局者が、女性問題をネタにして日本の領事に接近。この領事は総領事館と本省との間でやりとりされる暗号通信にたずさわっている電信官で、中国側は日本の最高機密であるこの電信の暗号システムを、領事に強要して手に入れようとしました。

だが、電信官は「自分はどうしても国を売ることはできない」という遺書を残して、平成16(2004)年5月に総領事館内で首吊り自殺をしました。

このようなことがこれから再び日本で起こったにしても、日本ではスパイはスパイ防止法がないので、既存の刑法や民法の範疇でしか、裁くことしかできないのです。

スパイ活動に伴い、重大な犯罪を犯していれば別ですが、軽い刑しか犯していなければ、逮捕されたとしても、すぐに軽い刑で釈放されてしまうのです。これはまさに、スパイ天国です。

拉致被害者をまともに救出することもできず、スパイ天国である日本は、とても平和国家であるとはいえません。

さらに、今後米国の対中経済冷戦が深化していけば、必ず日本の「スパイ天国」は大問題になります。なぜなら、米国がいくら中国に対する情報漏えいに関して、防止措置を講じたとしても、日本からダダ漏れになるということが大いにあり得るからです。

おそらく今でも日本経由で、米国の情報は漏れているでしょう、無論それは日本が意図的に実行しているということではなく、スパイが様々な方法を駆使して実行していることでょう。今は目立ちませんが、米国があらゆる努力をして中国への情報漏えいを防止しても、どこからか漏れているかを調べてみたら日本ということもあり得ることです。

そのようなことになった場合、米国は日本に重要な情報は与えないようになるでしょう。それだけならまだしも、その後でもさらに、日本から中国に対して、米国を不利にし中国に対して有利にするような日本固有の先端技術情報が漏洩し続ければ、どうなることでしょうか。

米国の矛先は、当然のことながら、中国にだけではなく日本にも向くことになります。そうして、日本は中国とともに沈没することになります。

多くの、平和ボケ、お花畑の日本人には、このことの恐ろしさを感知できないようです。はやく多くの日本人がこのことに気づき、「スパイ防止法」の成立をはやめるべきです。

本場アルゼンチンでアルゼンチン・タンゴを踊る昭恵夫人

これを実行しなければ、日本はアルゼンチンのように先進国から発展途上国へと落ちていくことになるでしょう。昨日のブログでも述べたように、アルゼンチンは先進国から発展途上国に落ちた唯一の国です。

その時、日本にはアルゼンチンタンゴのような、哀愁を秘めた新たな音楽が生まれ、それに合わせて多くの日本人が踊ることになるかもしれません。

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2018年12月19日水曜日

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私は11月後半に、ワシントンに戻った。

 “米中対決”は1991年にソ連を崩壊に導いた「東西冷戦」に続く、「米中冷戦」と呼ばれるようになったが、これはドナルド・トランプ政権だけによる決定ではない。

 上から音頭を取ったのではなく、共和、民主両党の議会の総意であり、米国の識者、主要シンクタンク、大手メディアによって、有機的に生まれたコンセンサスである。

 「中国龍」に跨(また)がる習近平国家主席が、中国の力を過信して、米国を見くびって、世界の覇権を握ろうとしているのに対して、「米国鷲」が立ち塞がった。

 習氏は、南シナ海に埋め立てた7つの人工島を「軍事化しない」と、オバマ前大統領に固く約束したのに、ミサイルを配備して、世界の主要な通商路である南シナ海を支配しようとしている。中国からアジアを通ってヨーロッパまでの諸国を取り込む「一帯一路」戦略を露骨に進めている。このため、米国の堪忍袋の緒が切れた。

 米中はすでに関税戦争で火花を散らしているが、11月のアルゼンチンのG20(20カ国・地域)首脳会談において、トランプ大統領が習氏と会談して、米国がさらに対中関税を引きあげるのを、90日間猶予することを約束した。だが、90日間で複雑な交渉が、決着するはずがない。「鷲」と「龍」の格闘劇の、中休みにしかすぎない。

 トランプ政権は、「中国龍」をしつけようとしているだけではない。真意は、中国共産党体制を打倒することを、はかっている。

 米中関税戦争は、序の口でしかないのだ。中国の「華為技術(ファーウェイ)」などの通信企業に対する締め付けも、軍拡競争も、傍役(わきやく)でしかない。

 米中対決の主役は、中国にハイテクノロジー(先端技術)が流れ込むのを断ち切って、枯渇させることだ。「暴れ龍」の血液循環を止めるのだ。

 ホワイトハウスに向かって、左側に「オールド・エグゼクティブ・オフィス」と呼ばれる、煉瓦(れんが)造りの古色蒼然とした建物がある。歴代副大統領の執務室も、ここに置かれている。

 先端技術発達の速度は、いっそう加速化している。トランプ政権が2年前に船出したときには、ハイテクノロジーの担当者は1人しかいなかったが、今では100人以上がワン・フロアを埋めて働いている。

 日本は先端技術競争に、後れをとってはならない。

 ■加瀬英明(かせ・ひであき) 外交評論家。1936年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、エール大学、コロンビア大学に留学。「ブリタニカ百科事典」初代編集長。福田赳夫内閣、中曽根康弘内閣の首相特別顧問を務める。松下政経塾相談役など歴任。著書・共著に『神道が世界を救う』(勉誠出版)、『新・東京裁判論』(産経新聞出版)など多数。

【私の論評】中国の民主化、経済と政治の分離、法治国家化が最終目標(゚д゚)!

上の記事で、『米中対決の主役は、中国にハイテクノロジー(先端技術)が流れ込むのを断ち切って、枯渇させることだ。「暴れ龍」の血液循環を止めること』と加瀬英明氏が述べています。

私は、当面この見方は正しいと思います。当面10年くらいはこの見方でも、良いとは思います。ただしこれは、最終的な目標、目的にはなりえないと思います。なぜなら、先端技術そのものは、何かを達成するための手段であり、目標や目的にはなりえないからです。

これは、「人生の目標、目的は?」と問われて「お金」というのとあまり変わりないです。何かの目的や、目標を達成するために、「お金」が必要というのならわかりますが、「お金」そのものが、目的や目標ということはありえません。

だから、中国に先端技術が流れ込むのを断ち切って、枯渇されせること自体も目的や目標にはなりえないです。

では、米国が中国に求めるものは何なのでしょうか。私自身は、このブログで過去に何度か述べてきているように、中国が日米を含む先進国並みの「民主化、政治と経済の分離、法治国家化」を実現して、まともな国になって、対等な自由貿易ができる相手になってもらいたいというものだと思います。

さて、以下に中国の現状の民主化、政治と経済の分離、法治国家化(この3つを実行することを下では構造改革と呼称します)について掲載していきます。

まずは、民主化です。

中国という国の恐ろしさは、今回のファーウェイの事件でもわかりますが、中国はイランと同じように人質をとって外交取引をしようとするのです。尖閣問題でも中国人船長が捕まると、無関係な日本人が中国で捕まったりします。つまり人質を取るのです。逮捕された人はとんでもない災難です。今回もカナダ人が捕まりました。

これほど国の品位を落とす行為はありませんが、中国政府にはそれが分からないようです。米国人は、中国が経済発展をすれば洗練された民主国家になると考えていたようですが、人質外交を行う中国政府を見ても、とても中国が民主国家になれるとは思えません。

孟晩舟容疑者がパスポートを七冊も持っていること自体が異常です。おそらく、足取りを掴まれないためでしょう。今後カナダ政府がどのような対応をとるか気になりますが、カナダ人は(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)と人質交換にするのでしょうか。日本はかつて赤軍派幹部と日本人旅客と人質交換した実績があります。


人質をとって外交をしていたら、北朝鮮のような鎖国状態になりますが、少なくともカナダ人は中国には行きたがらなくなるでしょう。米中新冷戦も厳しさが増してくれば、米国人は中国に行きたがらなくなり、いつ捕まるかわからないようになります。中国人スパイを米国捕まえるたびに中国は政府米国人の人質をとることにからです。ロシアも同じ事をしています。

これは、ほんの一例ですが、これをもってしても、中国の民主化はほとんど不可能に近いことがわかります。

政治と経済の分離

昨年中国共産党が国内大手企業に対し、経営に影響力を行使できる党組織を社内に作るよう求めました。習近平指導部による企業への露骨な介入です。無論ファーウェイの中にも党組織があります。

対象は国有企業のみならず、地方政府が出資する企業や民間企業にも及ぶといいます。党の判断を優先する経営を徹底させるためです。

これは市場経済化の流れに逆行するばかりか、不透明で恣意的な中国の経済運営を一段と強めるものです。日本などの外資系企業にとっては、中国事業の政治リスクが一段と高まることを意味し、強い懸念を抱かざるを得ないです。

習指導部は、強権による企業支配が中国経済をさらに歪めることを厳しく認識すべきです。



現地のネットメディアによると、党組織の設置は、株主総会などを経て定款に明示するよう3千社以上に求めた。既に数百社がこれに応じているといいます。

もとより、一党独裁体制の中国では経済運営も党が主導します。大手企業が党による企業統治を定款に明文化することで、その傾向に拍車がかかることになるでしょう。

中国の大手企業の多くは香港や上海などの証券市場に上場しており、海外株主もいます。経営の透明性や適切な情報開示が求められるのに、外部から見えない政治判断で経営が左右されるようでは、市場の混乱を招きかねないです。

外資系企業の中国事業では、合弁相手として中国の大手企業と組まされる例も多いです。工場建設や役員人事などの重要な経営判断について党の意向を仰ぐ動きが広がれば、外資のビジネスは今以上の制約を受けることになります。

しかし、中国が本来なすべきなのは、内外企業が市場動向を踏まえた適切な経営判断を行えるよう環境を整える改革であるはずです。

外資への技術移転強要や鉄鋼製品の過剰供給能力など、日米欧が問題視するものの根本には、市場経済を無視した党主導型経済の弊害があります。それを改善するどころか強めるのでは、経済大国の名には値しないです。

法治国家化

先日、新聞を読んでいると「中国の農村でも法治が進んだ」という趣旨の記事が目に入りました。大意を記せばこのような話です。

河北省のある農村で土木工事の請負を生業にしている自営業者がいました。2014年に用水路掘削の仕事を受注、完工したのですが、一向に代金が支払われないのです。こうした話は過去にもあり、泣き寝入りのケースも多かったそうです。

そこで自営業者氏は町のゴロツキ連中を雇い、発注者を脅かして一部を取り立てました。しかしその後、この人物は「このやり方は間違っている」と改心し、政府を頼ることにしました。役所の相談窓口に通って法的手続きを申し立て、司法機関の介入の下、見事に工事代金を手に入れたそうです。何事も「法治」で解決することが重要だという内容です。

たわいのない話ではありますが、中国社会で「法治」という言葉がどのような意識で使われているかがうかがわれます。まさに、多くの中国人が、私的な実力で問題を解決するのではなく、公的機関に訴えて自己の利益を守ることが「法治」であるとかんがえているようで、実際政府もそのような行動を奨励しているにです。

もちろんこれらも「法治」の一部には違いないですが、日本をはじめとする先進国などの社会の「法治」の概念とはズレがあります。

私たちが日常的になじんでいる「法治」は「法律という一つの体系の下、社会的地位や属性などに関係なく、すべての参加者が同じルールでプレーすること」という考え方です。一方、中国社会の「法治」は「法律という道具を社会の管理者(権力者、政府)がしっかりと運用し、社会正義を実現すること」という意味合いが強いです。

こうした中国社会の「法治観」には一つの前提があります。それは社会には必ず国民の上に立つ「統治者(権力者、政府)が存在している」ということです。

日本を含むいわゆる議会制民主主義の国々では、社会を管理しているのは国民、つまり私たち自身です。うまく管理できているか否か、その実態はともかく、理屈の上では私たちは自ら代表を選び、その人たちに国の方向づけと管理を行ってもらっているすなわち信任していると考えます。

代表が十分な仕事をしていないと考えれば、人選を変えることができます。つまりこの社会を管理し、社会正義を実行するのは私たち自身の責任である。社会がうまくいかなければ自分たちで何とかするしかない。そういう大原則があります。

ところが中国の社会はそうではありません。現在だけでなく、中華民国時代の短い一時期、国内の一部で議会制民主主義が行われたことがある以外、古代から今に至るまで、中国には常に「支配者」が存在し、実力で世の中を制圧し、民草の意志とは無関係に「自分たちの都合」で統治を行ってきました。

法律とは支配者が「自分たちの都合」を実現するために作るものなのです。これは「良い、悪い」の問題ではなく、天地開闢(てんちかいびゃく)以来の現実としてそうであったし、現在の体制も例外ではないのです。

だから中国社会で暮らす人々にとって統治者の存在は水や空気のように当たり前であり、「自分たちで社会を管理する」という発想はほぼないのです。社会を統制し、「良い」世の中にするのは天から降ってきた「偉い人」の仕事であり、統治者がその仕事をうまくできなければ不満を言うのです。

ただ、あまり強く文句を言うと身に危険が及ぶから、周囲の空気を忖度しながら要求を出したり引っ込めたりするのです。要は「社会を良くする」「社会正義を実現する」のは民草の責任ではなく、統治者の義務であるという点がポイントです。

そして、そのような状態を中国の普通の人々は、「喜んで」ではないが、受け入れているのです。それは、そのような状況しか体験したことがないから比較のしようがないこと、さらには統治者に対する不満はあれども、間違いなく「無秩序よりはマシ」だからです。

そして、統治者が仕事の遂行のために作る道具が「法」であり、それを使って世の中の秩序を維持することが「法治」です。人々は、統治者がそれを実行してくれるが故に、嫌々ながらも「税」という名の対価を払います。そういう構造が明らかに存在しています。

孟晩舟氏 異母妹のアナベル・ヤオ氏

このように、日米のような先進国と、中国はそもそも、構造改革に関してあまりに差がありすぎます。

この差を埋めるにはあまりに溝が深すぎます。であれば、中国とそれ以外の先進国などとの国々は全く異なる社会を築き、互いに他と直接交わることなく、生活するしかなくなります。

それでも、交易をしたければ、民間が自由にすることなど不可能なので、米中政府(特に米国)が厳しく管理する中でするしかないでしょう。他国との交易も同じことです。

実際、現在のままの中国の体制ならば、そのようにするしかないでしょう。米国はまずそちらの方向に向けて大きく舵を切ったのです。

日米をはじめとする先進国は、いずれ中国が豊かになれば、おのずと、構造改革するであろうと考えてきました。というのも、これをある程度実行しないと、経験上強い国民国家を形成することはできなかったからです。

ところが、先進国の予想に反して、中国はこのようなやり方をしなくても、経済力・軍事力を強める方法を編み出しそれを実行しはじめ、実際にそれが効果を奏して中国は経済大国になりました。日米をはじめとする、先進国がこれを放置できないほどに発展してしまったのです。

ただし、私自身は、やはり先進国の見方が正しく、現在の中国は放置しておいても、経済の発展はとまり、多く発展途上国がそうであったように、ある程度の構造改革をしなければ、中進国の罠にはまりこみそこから一歩もはいあがれなくなると見ています。

実際、多くの発展途上国がそのような状況にあります。唯一の例外は、日本です。日本は、発展途上国から先進国になった唯一の例外です。ただし、日本は明治維新以来、構造改革を熱心にすすめてきました。

他にも、先進国から発展途上国になった事例が一つだけあります。それは、アルゼンチンです。これは、構造改革がいかに難しいのかを物語るものだと思います。

構造改革を先んじて達成した、先進国は、そこから発展途上国に戻るということはないのです。ただし、アルゼンチンではこの構造改革が逆戻りしたのでしょう。

中国もこの構造改革を後回しにすれば、いずれ経済成長は止まり、中進国の罠にはまりこむことになります。

現在は、その一歩手前にあると見て良いです。ただし、そのこと自体に気づいた中国がさらに、先進国の先進技術を盗み出し、そこから這い出そうとしたのです。だからこそ、米国はこれを徹底的に叩き潰そうとしているのです。

ただし、米国は現在の中共が統治の正当性を失い、少なくとも、貿易などは世界的なルールにしたがって実行しようとする勢力が、政権を掌握したときには、その政権が将来、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現することを期待し、援助・支援を行っていくことも視野にあるものと思います。

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2018年12月18日火曜日

中国の微笑外交の限界―【私の論評】微笑外交の裏に日米離反の意図、北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心あり(゚д゚)!

中国の微笑外交の限界

岡崎研究所

ミンシン・ペイ教授

11月19日付のProject Syndicateのサイトに、米国カリフォルニア州にあるクレアモント・マッケナ大学のミンシン・ペイ教授が、「中国の魅力攻勢の限界」と題する論説を寄稿した。その要旨、以下の通り。

・中国は過去10年間、東アジア諸国に対し強い態度で接してきたが、ここ数か月、微笑外交をするようになった。何が変わったのか。

・2013年、中国は日本の尖閣列島を含む東シナ海に一方的に防空識別圏を設定した。翌年には、領有権争いのある南シナ海に人工島を建設した。そして、2016年には、在韓米軍にミサイル防衛システムを設置することに対抗して韓国に制裁を課した。

・しかし、今、様相は変わってきた。先月、安倍総理は、日本の首脳としては7年ぶりに、北京を訪問した。そして、習近平の訪日は来年予定されている。中国首脳の訪日は10年振り以上である。

・先週、中国の李克強首相はシンガポールを訪れ、両国間の新FTAに署名した。中国は、TPPに対抗して、RCEPの署名も望んでいる。

・中国の新たな非対立的アプローチは、中国指導部の心や目的が変わったからではない。それは、地域の地政学的環境の変化による。この6か月間で、米国は40年間の中国関与政策を止め、中国封じ込め戦略に転じた。中国は、米国との競争激化で、地域の友人を得ようと必死である。

・このような中国の微笑外交の中身は明確である。多くのアジア諸国の第1の貿易相手国である中国は、シンガポールとこの程行なったように、魅力的貿易項目を提示する。

・中国のもう一つのやり方は、首脳レベルの外交を展開することである。韓国、インドネシア、ベトナム、日本等地域の主要国に焦点を当てている。11月20-21日には習近平がフィリピンを訪問する。これらを通じて中国は友好ムードを作りたい。その間、宣伝機関には、攻撃的広報を止めさせる。

・一時的に中国は領有権の主張を抑制するかもしれない。例えば、2012年にフィリピンから奪ったスカボロー礁への人工島建設を中断したり、尖閣諸島への船舶派遣を抑えて日本との対立を避けたりするかもしれない。

・東アジア諸国は中国の新外交を今の所プラスに受け止め、中国の攻撃的態度の一時停止を歓迎している。が、だからと言って、これら諸国が米中対立の中で、どちらか一方に付きたがっているわけではない。ただ、中国覇権の蔭にいたいという国はほとんどない。いざ米中対立が激化すれば、日本、韓国、ベトナム、マレイシア、シンガポールは米国を支持するだろう。

・もし中国が頼れる友人を得たいなら、安全保障、特に領土問題で譲歩すべきである。例えば、尖閣問題で、中国が脅威とならないことを日本に理解してもらうとか、南シナ海問題で仲裁裁判所の判決を受諾して東南アジア諸国を安心させるとか、である。

・今のところ、習近平から譲歩の様子は見られない。中国が戦術的アプローチに固執する限り、その程度の果実しか得られないし、米中対立の中では、まだまだ不十分である。

出典:MINXIN PEI ‘The Limits of China’s Charm Offensive’ Project Syndicate, November 19, 2018

 ペイ教授の指摘は、鋭い。米中対立が激化すると、中国は、アジア諸国に対して微笑外交になり、米中が協調しているか米国が強く出ない時は、近隣諸国に対して、強圧的態度で臨む。日本を含むアジア諸国は、米中対立を決して好むわけではないが、中国が脅威となって行動することは困る。ここにジレンマが生じる。

 この中国外交のアプローチの変化には、騙されないことが重要である。ペイ教授も指摘しているように、中国の表面的変化に惑わされるのではなく、真の意図、目的を見失なわないことが重要である。

 実際に、中国の動きを見ていると、微笑外交に転じても、反日教育がなくなったわけでもなければ、尖閣諸島周辺への船舶の出入りが少なくなったわけでもない(この点、ペイ教授の観察は必ずしも正しくない)。

 甘い経済の提案も、いつそれが変化してしまわないか、気を付けながら慎重に進めるべきだろう。

【私の論評】微笑外交の裏に日米離反の意図、北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心あり(゚д゚)!

米国と貿易問題をめぐる対立が深まる中、中国はインドと日本に歩み寄りを見せてきました。習近平国家主席は今年4月、インドのモディ首相と握手し、関係改善を印象付けました。

また、李克強(リー・カーチアン)首相は就任以来初めて、中国の首相としては8年ぶりに今年の5月に日本を訪問しました。10月には、安倍総理は、日本の首脳としては7年ぶりに、北京を訪問しました。

トヨタ自動車北海道の訪問を終え、沿道の同社社員らに
手を振る中国の李克強首相=5月11日、北海道苫小牧市

これは、明らかに米中関係の悪化によるものです。アメリカは昨年末から国防などの安全保障面でも対中強硬策に転じていましたが、さらに対中国貿易戦争を開始しました。

ここで、一見中国の微笑み外交とは関係なくもみえる、北と中国との関係が悪化した要因などを分析します。

2002年9月、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)(元)総書記は、中国遼寧省丹東と隣接する北朝鮮の新義州(シニジュ、しんぎしゅう)を特別行政区(特区)と定めて経済開発を試みようとしました。

それは中国からの「改革開放をしろ」という絶え間ない要求に応じたものでしたが、それでいて「中国外し」のために通貨は米ドルにして、おまけに特区長官の任命に当たり、中国には一切相談せずに、敢えてオランダ籍の中国人(楊斌)を選びました。

楊斌氏

オランダ籍であることから、新義州経済開発特区には、中国以外に西側諸国を招いて、中国が中心にならないように仕掛けをしていたのです。

このことを知った中国は激怒し、楊斌を脱税や収賄など多数の違法行為により逮捕投獄してしまったのです。それにより新義州経済開発特区構想は潰れてしまったのですが、注目しなければならないのは、このとき金正日は日本に対して何をしたかです。

小泉元首相の訪朝を、金正日は受け入れたのです。そして拉致被害者を一部返し、また拉致行為に関しては「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走って日本人を拉致した」と認めて謝罪しました。

ここで重要なのは、北朝鮮の最高人民会議常務委員会が新義州特区設立の政令を発布したのが2002年9月12日で、小泉元首相が平壌(ピョンヤン)を訪問して金正日元総書記に会ったのが2002年9月17日であるという事実です。

つまり、北朝鮮が「中国外し」をするときは、日本に対しては門戸を開こうとするのです。

楊斌が拘束されたのは2002年10月4日で、11月27日には逮捕投獄されました。小泉元首相が訪朝した9月17日には、楊斌が逮捕されるとはまだ思っていなかった金正日は、経済特区を開発するに当たり、「中国外し」をしておいて、対日融和策に出たということになります。

それを知っている中国は、今回もまた北朝鮮が対日融和策を取る可能性があることを見越して、北朝鮮に先手を打たれまいとして「対日融和策」に出ようとしているのです。

事実5月4日、習近平国家主席は安倍首相からの電話会談申し入れを受け入れ、日中首脳としては初めての電話会談を行いました。

電話をする安倍総理

これは5月2日から3日にかけて、王毅外相が訪朝し、金正恩(キム・ジョンイル)委員長と会談したことと深く関係しています。

王毅外相訪朝の真の目的は、あくまでも4月27日の南北首脳会談で採択された板門店(パンムンジョム)宣言の中で謳われた「中国外し」を回避させることにありました。

すなわち宣言では、「南と北は、休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」とある。中国を外す3者会談の可能性を示唆しました。

中国にとって、中国を排除することなど絶対にあってはならないのです。王毅外相は「中国を外すな」と説得するために金正恩委員長に会ったのです。表面上は熱い抱擁を交わし、非核化など、聞こえの良い「きれいごと」に関して意思確認をしたと言っているのですが、実際は違います。

事実、5月3日の聯合ニュースは「訪朝の中国外相 朝鮮半島問題での「中国外し」回避に総力」と報道しており、中国国内でも、板門店宣言以来、「3者会談とは何ごとか」といった趣旨の報道がめだちます。

中国の外交部などを通した発表としては、せいぜい「中国は半島問題の解決に長いこと大きな貢献をしてきた」という類のことしか言ってないですが、中国政府系あるいは中国共産党系メディアは、識者のコメントとして多くのことを書かせていまする。中朝蜜月を披露した手前、政府自身がストレートに北朝鮮を責めるわけにはいかないのです。

そこで、「3者」と言い出したのが北なのか南なのかに注目が集まる中、「北である」という確信を持っている論評を数多く掲載させています。その主たる論拠を以下に列挙します。
1.1984年1月、北朝鮮は中央人民委員会と最高人民常設会議の連合会議を開催し、「朝米韓」3ヵ国による平和体制への移行を協議すべきだと決議した。朝米の間で平和協定締結を論議し、朝韓の間で北南相互不可侵条約を結んだ後に、朝韓が政治協商会議を開催し「高麗連邦国家」建国を論議すべきとしている。 
2.1994年、北朝鮮は中国に対して「軍事停戦委員会」の駐板門店・中国代表が中国に撤退するように要求してきた。北朝鮮は中国が安全保障上北朝鮮に介入する法的地位を保有することを望んでいない((筆者注:1991年12月に旧ソ連が崩壊すると、1992年8月、中国は韓国と国交を樹立。北朝鮮、「戦争中の敵国(韓国)と国交を樹立した」と中国に激怒)。
3.1996年4月、クリントン米大統領と韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が韓国の済州(チェジュ)島で共同声明を発表し、北朝鮮が唱える「3者会談」による平和体制以降を否定し、「中国を入れた4者会談」を提案した。
4.しかし2007年の第2回南北首脳会談において発表された共同声明では、再び「3者または4者による首脳会談を通して休戦体制を平和体制に転換させる」とした。 
5.従って、今般の板門店宣言における「3者会談」の可能性を提起したのは、明らかに北朝鮮側であることが明確である。
以上が、中国政府が識者らに論じさせた根拠の骨格です。

4月29日に韓国政府筋が韓国メディアに一斉に「2007年の南北首脳会談で"3者"を提起したのは金正日」と報道させていました。これは今般の板門店宣言における「3者」提起が、決して韓国側ではないということを韓国政府が中国に知らせたかったためだと考えられます。

ただし、中国はもっと詳細に、「犯人」が北朝鮮であることを十分に分析し、知っていたということができると思います。

そのようなことから、今年3月25日から27日にかけて北京を電撃訪問して中朝蜜月を演じた金正恩に対して、中国は心の奥では不信感を拭えていなかったようです。

金正恩は「朝鮮半島の非核化と平和体制構築のプロセスにおいて、北朝鮮だけでは北朝鮮の自国の利益を保持することはできないので、何としても中国の後ろ盾が必要だ」というせっぱ詰まった気持から習近平に会い、その救いを求めたはずだと中国は言います。だというのに、その一方では、結局金正日以来の北の考え方は変わってはいない、というのが中国の大方の見解です。

何しろ江沢民時代から北朝鮮が表面上見せた中国への熱烈な友好的姿勢は際立っており、最高指導者となってからの金正日は7回にもわたって訪中しています。その間、江沢民や胡錦濤と、どれだけ熱い握手を交わしてきたことでしょう。

だからこそ、金正恩の電撃訪中に当たって、中国は「中国が主導する6者会談」復帰を前提として金正恩に要求したわけです。またもや「3者」に持っていこうとする北朝鮮の策略を防いだはずでした。
しかし金正恩の方が、策略において上手だったことになります。

このようなこともあり、さらに最近の米国による対中政策が厳しさを増してきたことから中国は勢い、日本に本格的に秋波を送るようになったのです。

中国の日本に対する微笑み外交は、すでに昨年から実施されていました。日中両政府は、沖縄県・尖閣諸島のある東シナ海での偶発的な衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」の構築と早期運用に向けて「前向きな進展」があったと発表しました。

「海空連絡メカニズム」とは、自衛隊と中国軍が接近時の連絡方法などをあらかじめ定め、衝突を防ぐ仕組みです。中国・上海で昨年12月5、6日開かれた、日中の外務、防衛、海上保安当局などの高級事務レベル海洋協議で、主要論点がほぼ一致したといいます。

現在習政権と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の関係は上でも述べたように、劣悪で『事実上の敵』といえます。加えて、習氏は2020年以降、本気で台湾を取りに行こうとしています。

こうなると、中国人は『敵の敵は味方』のフリをするモードになります。日本政府や自衛隊に笑顔で接近して、話し合いの環境をつくろうとします。彼らの本音は、日本人を油断させて『日米同盟の分断』と『自衛隊内のシンパ構築』を狙っているのです。

習氏は昨年10月の共産党大会で、「3つの歴史的任務の達成」を宣言しました。この1つに「祖国統一の完成」があり、武力侵攻も含めた「台湾統一」と受け止められています。

「核・ミサイル開発」を強行する北朝鮮に対しては、米国の軍事的制圧も視野に入ってきています。中国は、緊迫する東アジア情勢の中で巧妙に立ち回り、台湾統一の邪魔になる「日米同盟の分断」に着手したのかもしれません。

習氏にとって、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領が体現している『日米同盟の絆』は脅威です。ここにクサビを打ち込もうとしているのです。中国人は『台湾は中国の一部。尖閣諸島は台湾の一部』と考えています。

無人島の尖閣諸島は後回しにして、台湾を先に取ろうと考えているのかもしれません。

このようにみていくと、中国の日本に対する微笑外交の背後には、様々なものが隠されていることがわかります。特に、中国の北朝鮮に対する敵愾心、台湾に対する領土的野心、日米離反の意図を忘れるべきではありません。

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2018年12月17日月曜日

米中両国の戦略から考える「潰し合い」の結末―【私の論評】成熟期を迎えたチャイナではいずれ共産党が崩壊し、米国は経済冷戦に勝利する(゚д゚)!

米中両国の戦略から考える「潰し合い」の結末

対立の本質は「ツキジデスの罠」、休戦はあり得ない

米国と中国の国旗。中国・北京にて

 米中の貿易戦争はいつまで続くのだろうか。このような問いかけは、対立を貿易戦争と見るために出てくるものである。それは意味のある問いかけとは言えない。なぜなら、今回の対立は貿易戦争ではなく、「ツキジデスの罠」(覇権国と挑戦国の争い)であるからだ。貿易戦争ならば休戦もあり得るが、覇権国と挑戦国の雌雄を決する戦いが途中で終わることはない。

 そのため、「いつ終わるか」ではなく、「どちらが勝つか」が重要になる。それでは、どちらが勝つのであろうか。それに答えるためには、両国の戦争目的と戦略を見る必要がある。

攻撃目標は中国の情報・ハイテク産業

 米国の戦争目的と戦略は明快である。戦争目的は挑戦国を叩き潰すこと、21世紀もドル基軸体制を維持することである。そして、米国人が正しいと思うことを世界に押し付ける力を維持し続けることである。英語を共通語として世界中で使わせることも重要になる。国際会議は英語で行わなければならない。

 21世紀になった現在、覇権を維持するために熱い戦争を行う必要はない。ただ、ドル基軸体制を維持するために軍事力の裏付け必要だから、軍事において世界をリードし続けなければならない。

 現在、軍事技術において情報やハイテクに関わる技術はその中核を占める。だから、その分野で、米国に挑戦し始めた中国を許すわけにはいかない。今回の戦いが、ZTEやファーウェイなどを巡って行われていることは、そのことを象徴的に表している。

 米国は中国の情報産業やハイテク産業を叩き潰して、二度と米国に立ち向かえないようにしたい。中国は独自で先端技術を作る出す能力に欠ける。だから、米国から技術を盗み出す経路を潰し、かつ情報やハイテクに関わる産業が中国以外で利益を得る道を潰せば、いずれ衰退して行く。米国は、そうなるまで中国の情報やハイテク産業を執拗に叩き続ける。その戦略は明快である。

 一般の市民も政府を支持している。トランプ大統領は "Make America Great Again" 合言葉に選挙に勝った。彼の支持者は海外での軍事プレゼンスを縮小したがっているが、それは米国が覇権国で無くなることを意味しない。海外での紛争や内戦の仲裁をやめるだけであり、覇権国としての地位は維持したいと思っている。

 一般市民も、ドル基軸体制に象徴される覇権国の地位が“美味しい”ことをよく理解している。だから、一般市民が元基軸体制や世界の公用語が中国語になることを容認することはない。そんな世論を背景に、トランプ大統領よりも議会の方が中国との戦いに熱心である。米国は一丸となって、中国との戦争に臨んでいる。

庶民の不満をそらすための「中国の夢」

 一方、中国は戦争目的も、戦略も、そして市民の支持も極めて曖昧である。習近平政権は中国がハイテク分野で米国を凌ぐとした「中国製造2025年」を打ち出したが、その本気度には疑いがある。

 習近平は政権の座につくと「中国の夢」などと称して、「一帯一路」やAIIBの設立などを推し進めた。また、南シナ海への進出も強化した。この一連の政策は、米国を凌駕することを目的にしたものではない。あくまでも国威発揚であり、国内向けのプロパガンダであった。

 習近平が政権の座についた頃、奇跡の成長は終わり、その一方で、汚職、貧富の格差など成長の負の側面が顕在化してきた。そのような状況の中で、汚職退治はそれなりに行ったが、戸籍制度に代表される都市と農村の格差是正には、全くと言ってよいほど手を付けることができなかった。

 あれほどの不動産バブルが生じているのに、中国には固定資産税も相続税もない。所得税を支払っているのは、全人口の2%にすぎない。税収の多くを国営企業の法人税から得ている。

 国営企業の多くは電気や通信など生活基盤に関連する事業を行っている。それらが支払う税金は、電気や通信の料金に上乗せされている。そうであれば、それは消費税と変わらない。つまり、中国の税制は逆進性が高い。富裕層ほど税率が低い。

 税による所得の再分配を行っても、なお多くの国で格差が問題になっているが、中国は税による所得の再配分すら行っていない。それは、笑い話のように聞こえるが、共産党の有力な支持基盤が都市に住む富裕層やアッパーミドルであるからだ。

 習近平政権は庶民の不満をそらすために、「中国の夢」などといった対外膨張政策を打ち出した。そして、調子に乗って次々と政策を打ち出していたら、米国の逆鱗に触れてしまった。それが、ことの真相だろう。

習近平政権は「中国の夢」を打ち出し、中国の明るい未来を訴えている。上海の繁華街に貼られたポスター

米国が貿易戦争を仕掛ける理由

 習近平政権は貿易戦争に対して明確な戦争目的や戦略を持っていない。そのことは、昨今のオタオタぶりを見てもよく分かる。

 ちょっと知識のある中国人は、習近平の政策が米国との深刻な対立を招いてしまったことをよく理解している。2018年の夏あたりからは、中国共産党の長老までもが習近平の資質に疑問を感じ始めるようになった。夜郎自大的な政策の立案に関わった政治局常務委員の王滬寧は事実上の失脚状態にあるとされる。

 米国はこの辺りの事情をよく理解した上で、中国に貿易戦争を仕掛けている。貿易戦争の真の目的は貿易赤字削減より、貿易に難癖を付けることによって、低下傾向にある中国の経済成長率を一層鈍化させて、それによって不動産バブルを崩壊させることにある。不動産バブルが崩壊すれば、共産党の支持基盤である都市に住む富裕層やアッパーミドルが最も被害を被る。“金の恨み”は恐ろしい。支持層が共産党を憎むようになる。

 そうなれば、かつて日本がそうであったように、政権は不安定化する。共産党が国力を集中して情報やハイテク産業を育成することができなくなる。米国はそれを狙っている。

「あと50年は我慢すべきだった」

 米国の戦争目的、そして戦略は明確であり、それを一般の市民も支持している。一方、中国は“ことの弾み”で戦争に突入してしまった。明確な戦争目的も、戦略も、そして一般の市民の支持もない。ある中国人は、あと50年は我慢(韜光養晦)すべきだったのに、アホな習近平が出てきて、全てを台無しにしてしまったと言っていた。

 中国は世界第2の経済大国である。短時間で勝負がつくことはない。しかし、おそらく数年から10年程度の後に、中国は米国の覇権の下で生きることを認めざるを得なくなるだろう。その時、中国は現在と全く異なる体制になっている可能性が高い。この戦争は米国の勝利で終わる。

【私の論評】成熟期を迎えたチャイナではいずれ共産党が崩壊し、米国は経済冷戦に勝利する(゚д゚)!

ツキジデスの罠については、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ジョセフ・ナイ氏

この記事では、ジョセフ・ナイ氏が、「キンドルバーグの罠」という論文を2017年1月9日に発表していることを掲載しました。この論文には、「ツキジデスの罠」も登場します。ただし、この論文の和訳では「ツキュディデスの罠」となっていますが、同じ内容です。

では、以下のこの論文の要約・和訳を以下に引用します。
キンドルバーグの罠 
トランプ次期大統領が対中政策の方針を準備するにあたって、歴史の教える注意すべき二つの大きな「罠」がある。 
一つ目は、習近平主席も引用した「ツキュディデスの罠」(Thucydides Trap)である。これは古代ギリシャの歴史家が発したとされる「既存の大国(例:米国)が台頭しつつある大国(例:支那)を恐れて破壊的な大戦争が起こる」という警告だ。 
ところがトランプ氏が気をつけなければならない、もう一つの警告がある。それは「キンドルバーガーの罠」(Kindleberger Trap)であり、これはチャイナが見た目よりも弱い場合に発生するものだ。 
チャールズ・キンドルバーガー
 チャールズ・キンドルバーガー(Charles Kindleberger)は「マーシャル・プラン」の知的貢献者の一人であり、後にマサチューセッツ工科大学で教えた人物だ。 
彼は破滅的な1930年代が発生した原因として、アメリカが世界大国の座をイギリスから譲り受けたにもかかわらず、グローバルな「公共財」(public goods)を提供する役割を担うことに失敗したことにあると指摘している。 
その結果が景気後退であり、民族虐殺であり、世界大戦へとつらなる、国際的なシステムの崩壊だというのだ。 
では力を台頭させている今日のチャイナは、グローバルな「公共財」を提供できるのだろうか? 
一般的な国内政治において、政府は国民全員の利益となる「公共財」、つまり警察による治安維持やクリーンな環境を生み出している。 
ところがグローバルなレベルになると、安定した気候や金融・財政、航行の自由のような「公共財」というのは、世界で最も強力な国が率いる同盟関係によって提供されるのだ。 
もちろん小国はそのようなグローバルな「公共財」のために貢献するインセンティブをほとんどもたない。彼らの小さな貢献は、そこから得られる利益の差を生むことはないため、彼らにとっても「タダ乗り」が合理的なものとなるからである。 
ところが最も強力な国は、小国たちの貢献の効果や差を感じることができる。だからこそ最も強力な国々にとって「自ら主導する」のは合理的なことになるのだ。もし彼らが貢献しないとなると「公共財」の生産は落ちてしまう。 
この一例がイギリスである。第一次世界大戦後に彼らがその役割を果たせないほど弱体化した後、孤立主義的なアメリカはそのまま「タダ乗り」を続けたために、破滅的な結果を生んだのだ。 
何人かの専門家は、チャイナは十分な力をつけても(自分たちが創設したわけではない)その国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けると見ている。 
これまでの経過は微妙なところだ。チャイナは国連体制から利益を受けており、たとえば安保理では拒否権を持っている。平和維持軍では第二の勢力となっており、エボラ熱や気候変動の対処のような国連の計画にも参加している。 
また、チャイナは世界貿易機関(WTO)や世界銀行、そしてIMFのような多国的経済制度からも大きな恩恵を得ている。

2015年にはAIIBを創設し、これを世銀の対抗馬にすると見る人もいたが、実際は世銀と協力しながら国際的なルールを遵守している。 
その一方で、去年の南シナ海の領土問題におけるハーグの判決の拒否は、チャイナに対する大きな疑問を投げかけることになった。 
それでもこれまでのチャイナの行動は、自らが恩恵を受けているリベラルな世界秩序をつくりかえようとするものではなく、むしろその中で影響力を増そうというものだ。 
ただしトランプ政権の政策によって追い込まれると、チャイナは世界を「キンドルバーガーの罠」に落とす、破滅的な「タダ乗り」をする国になる可能性が出てくる。 
同時に、トランプはより有名な「ツキュディデスの罠」にも警戒すべきである。つまり弱すぎるチャイナよりも、強すぎるチャイナである。 
現状のチャイナの状況をみていると、まさに米国は キンドルバーグの罠にはまりこもうとしているようです。 

実際、チャイナは十分な力をつけてもそ、自分たちが創設した国際秩序に貢献せずに、「タダ乗り」を続けています。

しかも、チャイナの場合、国際秩序に貢献しないどころか、国際秩序のうち、自分たちにとって都合の良い部分のみを自分たちに都合の良いように、受け入れタダ乗りをしています。明治維新のときの日本のように、すべての面において、列強に追いつき、追い越そうとしたのとは対照的です。

そもそも、チャイナの通貨「元」は、チャイナが多数所要している、ドルや米国債があるから、国際市場で信用を得ています。チャイナ国内からドルが消え失せれば、「元」の価値は地に落ち、紙切れになります。

科学技術においても、現在のチャイナは国際的に何も貢献することなく、一方的に先進国のそれを剥奪して自分の都合の良いように利用しているだけです。

それだけならまだしも、チャイナは国内では民主化、政治と経済の分離、法治国家化がほとんどなされていません。しかも、その国内の状況を海外においても、展開しようとしています。

このようなチャイナが米国が主に築いた現在の国際秩序に挑戦しようとしているのです。チャイナは少なくとも、強いチャイナになることができるまで、待つべきでした。

強くなるためには、日米をはじめとする先進国が、ある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめて、中間層を多数輩出し、それらが自由に社会経済活動ができるようにすべきです。そのようになって本当の意味で、富を生み出し国として成長できるようになるのです。

過去の戦争の大部分は「非人間的な力」ではなく、難しい状況におけるマズい決断によって発生しました。 これこそが、支那の台頭に直面する現在のトランプにとっての課題です。彼は「強すぎる支那」と「弱すぎる支那」に同時に対処しなければならないからです。つまり彼は「キンドルバーガーの罠」と「ツキュディデスの罠」の両方を避けなければならないのです。

究極的にいえば、彼が避けるべきなのは、人類の歴史をむしばんでいる「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」なのです。

しかしながら、今のところ「計算違い」「思い違い」「早とちりの判断」はトランプよりも、習近平のほうがはるかに頻度が高いです。

では、習近平の根本問題は何なのでしょうか。 そう、それは、彼が国家主席になった「時期」です。彼が国家主席になったのは2013年3月。しかし、共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席には、2012年11月になり、この時から実権を握っていました。

ライフサイクルで見ると、彼が国家主席になったのは、チャイナという国の成長期後期です。「成長期後期」の典型的パターンであり、習にはどうすることもできないものです。ただし、本当の意味での変革を行えばその限りではないのですが、現在の中国共産党は、とうの昔から制度疲労を起こしており、これを変えることは不可能といって良いです。

彼が国家主席になった2013年の記事を見てみましょう。

産経新聞2013年8月9日付。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が8日発表した「世界貿易投資報告」によると、今年上期(1~6月)の日本企業の対外直接投資額は、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けが前年同期比55.4%増の102億ドル(約9,800億円)で過去最高を記録、対中国向けの2倍超に膨らんだ。
昨秋以降の日中関係の悪化や人件費の高騰を背景に、中国向け直接投資は31.1%減の49億ドルまで落ち込み、生産拠点の「脱中国」が鮮明になった。(同上)
「昨秋以降の日中関係の悪化」とは、いうまでもなく「尖閣国有化による関係悪化」のことです。
ジェトロの現地調査では、ASEANのうち、上期の日本による対外直接投資が1位だったインドネシアは、自動車メーカーの新工場建設や拡張ラッシュに伴い、部品や素材メーカーの進出が加速しています。
上期投資額で2位のベトナムは、チャイナ・プラス・ワンの有力候補で、現地の日系事務機器メーカーの生産台数が中国を上回ったという。(同上)
これが、5年前に起こっていたことです。まさに、「国家ライフサイクルどおり」といえるでしょう。

これから中国は、「成長期から成熟期の移行にともなう混乱」にむかっていきます。日本の「バブル崩壊」などはるかに上回る危機が訪れ、 さらにもっと大きく、「体制崩壊」まで進むかもしれません。

私は、「体制崩壊」まで進む可能性もあると見ています。中国共産党には、まず「中国全土を統一した」という正統性がありました。その後は、「中国共産党のおかげで、経済成長する」という正統性を確保しました。しかし、経済成長が止まる2020年以降、共産党には、「独裁を正当化する理由」が何もなくなるのです。

2000年2月と2016年7月に撮影された習近平氏

このような状況のもとでは、習近平が「計算違い」や「思い違い」、そして「早とちりの判断」をしても仕方ないところがあるかもしれません。

習近平は、日本のバブル崩壊と、ソ連崩壊を熱心に研究させているそうです。この研究により、崩壊の時期は多少はずれるかもしれません。しかし、「国家ライフサイクル」は変更不可能なのです。

無論米国も「国家ライフサイクル」においては、成熟期にあることは間違いありません。しかし、この成熟期は中国のそれよりも、はるかに安定していて、長く続きそうです。人でたとえると、チャイナは、成人になったばかりで、急に環境が変わり貧困に落ち込む青年のようです。

一方米国は、富や地位を獲得した、壮年から初老の男性のようなものであり、これから大きく成長することはないにしても、しばらくは富と地位と名声を保てそうです。これでは、勝負ははなから決まっているようなものです。

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2018年12月16日日曜日

北漁船が海保巡視船に接触、一部破損―【私の論評】国家機関に属す北・中国の漁船群が日本水域で違法操業をしている事自体、明白な日本侵略である(゚д゚)!

北朝鮮の漁船に放水する海上保安庁の巡視船

 日本の排他的経済水域(EEZ)にある日本海の好漁場「大和堆(やまとたい)」周辺での北朝鮮漁船による違法操業問題で、海上保安庁の巡視船が北朝鮮漁船から接触され、船体の装備が破損していたことが16日、政府関係者への取材で分かった。北朝鮮漁船による巡視船への投石も続いており、海保は抵抗の激化を懸念、来期に向け警戒を強めている。

投石など抵抗激化

 複数の政府関係者によると、北朝鮮漁船による巡視船への船体接触は今秋に発生。巡視船の甲板に取り付けられた「スタンション」と呼ばれる手すり部分が破損した。漁船は、日本海沿岸に漂着が多く確認されている木造船ではなく、大型の鋼船だったという。

 接触された巡視船は、下田海上保安部(静岡県下田市)から大和堆周辺海域に派遣された中型船。機関やかじなどへの重大な損傷ではなく、業務に支障がないとして公務執行妨害容疑などでの摘発は見送った。

 同船は昨年の取り締まりでも北朝鮮漁船から投石を受け、窓ガラスが破損する被害に遭った。海保は派遣した巡視船の窓に金網を取り付けて対応に当たったが、今期も約20件の投石が確認された。

 海保は今年、対応が出遅れ大和堆への入域を許した昨年の教訓からスルメイカ漁期前の5月下旬に巡視船を派遣。大和堆周辺の海域をAから順にアルファベットで区分けし、A、B海域を巡視船が受け持ち、残りは連携する水産庁の漁業取締船が担当した。

警告6900隻

 巡視船と取締船は海域ごとにEEZの境界付近に展開して北朝鮮漁船を監視。警告件数は延べ計約6900隻で、このうち同2600隻に放水し、大和堆への入域を阻止した。

 一方、今年の取り締まりで海保は不測の事態への備えも強化、装備を拡充して臨んだ。使用の機会はなかったとみられるが、強力な光と音を放ち対象船の動きを止める閃光(せんこう)弾をより効果の高いものに切り替えた。

 政府関係者は「スルメイカは不漁が続いているが、漁業を国策とする北朝鮮側は一定の漁獲量を確保するため、来年もなりふり構わぬ操業をするだろう。根気強く取り締まりを続けるしかない」と話した。

【私の論評】国家機関に属す北・中国の漁船群が日本水域で違法操業をしている事自体、明白な日本侵略である(゚д゚)!

北朝鮮の漁船が日本の排他的経済水域で違法操業をするようになったのは、北朝鮮が近海の漁業権を中国に売り渡してしまったためです。北朝鮮の漁民が北朝鮮当局の指示や承認なしに日本列島に接近出来るわけはないですから、北朝鮮が漁民の利益を考えて派遣している側面は否定できないです。

ところが、その漁場が日本の排他的経済水域であるのを知って派遣している以上、これが日本への政治的圧力として作用することも当然認識しているわけです。さらには大量の漁船群の中に工作船を紛れ込ませ、日本への上陸侵入を画策するのは北朝鮮の工作機関としては当然の行為でしょう。

とはいいながら、工作員が上陸するしないにかかわらず、北朝鮮当局が日本の排他的経済水域での違法操業をさせている時点で既に侵略なのであることは、さきに述べた通りです。侵略に対しては自衛としての軍事対応が国際法上認められています。日本には自衛隊という自衛のための軍事組織が存在しています。ならばなぜ、自衛隊が出動しないのでしょうか。

日本では海上警備は一義的に海上保安庁が担当しています。しかし、ここで思い起こされるのは、2014年9月から12月にかけて小笠原・伊豆諸島周辺の日本の排他的経済水域で中国の漁船群が繰り広げた大規模なサンゴ密漁事件です。密漁とはいいながら、200隻以上の漁船が公然と日本のサンゴを略奪していました。

小笠原・伊豆諸島周辺の日本の排他的経済水域で
中国の漁船群が繰り広げた大規模なサンゴ密漁

違法操業をする漁船の数があまりに多かったため、海上保安庁は全体として対処できず密漁事件として一隻一隻を調べて船員を逮捕していく他なかったのです。10月末には警視庁が機動隊員ら28人を小笠原諸島に派遣しました。中国漁民の上陸に備えての派遣でした。もし派遣を怠っていれば、大量の中国の海上民兵に島が占領される危険があったのです。

これについては、海上保安庁は明らかに対応不能でした。海上保安庁が対応できない以上、自衛隊が対処するしかないのは明白です。にもかかわらず、なぜ自衛隊が対処しないのでしょうか。

そもそも事は尖閣における漁船衝突事件にまでさかのぼることができます。2010年9月に尖閣諸島の日本領海内で中国の漁船が海上保安庁の巡視船2隻に体当たりし、対する海上保安庁はこの漁船を捕獲し乗組員を拘束しました。

尖閣諸島沖で巡視船「みずき」に衝突する中国漁船=2010年9月


逆ギレした中国政府は北京、上海などで反日暴動を惹(ひ)き起こし在留邦人を恐怖に陥れたばかりか、日本人社員4人を人質に取りました。さらに日本へのレアアースの輸出を停止し、日本に謝罪と賠償を求めました。

ここで米国政府が「尖閣諸島は日米安保条約の発動対象」と明言したため、事はようやく収まったのであす。つまり中国が尖閣諸島を占領した場合、米軍は中国を攻撃すると宣言し中国が慌てて矛を収めたのです。

しかし、米国としても中国と戦争を望んでおらず、そこで米中間で尖閣諸島での軍事行動を双方が控える旨の合意がなされました。つまり中国が尖閣に軍隊を派遣しない限り、日米も自衛隊や米軍を出動させないという約束です。

これは戦争を回避するための合意ですが、逆に解釈すると中国が海洋警察や海上民兵を軍隊でないと主張して派遣すれば、日本は自衛隊を出動させられないのです。中国はこれに味を占めて海洋警察を毎日のように派遣し、しまいに漁船群が押し掛けるに至り、これに北朝鮮も同調したわけです。

端的にいえば、米中のこの合意が、かえって中国や北朝鮮の対日侵略を助長させているともいえるでしょう。

最近、中国海警局の所属が変わりました。従来の中国海警局は13年7月、中国の行政府である国務院の傘下にあった複数の海上法執行機関が統合されて発足したものです。

その目的は、分散していた海上法執行機関を一元的な指揮命令系統の下に置くことで効率的な運用を可能にすることや、予算や装備、人員などを統一的に管理・整備することで法執行力を大幅に強化することなどにあったと考えられます。

この時期の中国海警局はあくまで国務院の管理の下に置かれた非軍事の行政組織であり、所属船舶は公船と位置付けられまし。

中国の武警は純然たる軍事組織

他方、中国海警局が新たに編入された武警は、人民解放軍および民兵と並んで中国の「武装力量」(軍事力)に位置付けられた明確な軍事組織です。今年に入って武警の大幅な改革が実行され、従来の国務院と共産党中央軍事委員会による二重指導が解消されました。

これによって武警は人民解放軍と同様、中央軍事委員会による統一的かつ集中的な指導の下に置かれることになりました。7月の組織改編では、国境管理や要人警護、消防任務、金鉱探査、水利建設などを担っている非軍事部門が国務院などへ所属替えとなり、国防任務に資源を集中するためのスリム化が図られました。

同時に、国務院に所属していた中国海警局が、「武警海警総隊」として武警に編入され、「海上の権益擁護と法執行」を任務として遂行することになったのです。

日本としては米国に働きかけて、中国が尖閣に軍隊を派遣しない限り、日米も自衛隊や米軍を出動させないという合意を破棄させ日米中における新たな安全保障の枠組みを構築すべきでしょう。

すでに、「海警」は軍事組織なのですから、「海警」対応には当然のことながら、海自もあたるべきなのです。

そうして、これは北朝鮮に対しても同じです。北朝鮮に対しても、日本は大規模なものに対しては海自であたるべきです。

そもそも北朝鮮や中国などの漁船は軍などの国家機関の指揮下にあり、有事には海上民兵として戦闘に参加することを義務付けられています。そうした漁船群が日本の水域で違法操業をしている事自体、すでに明白な日本に対する侵略です。

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