2019年11月11日月曜日

エプスタイン報道を放送しなかった「ABCは他のメディア同様に悪い」とトランプ―【私の論評】米大手メディアは、FOXnews以外はすべてリベラル系であることを再認識すべき(゚д゚)!

エプスタイン報道を放送しなかった「ABCは他のメディア同様に悪い」とトランプ


トランプ大統領

トランプ大統領は10日、ABCニュースがジェフリー・エプスタインの性的虐待に関する報道をもみ消した件についての議論に加わり、「もはや報道の自由が失われている!」と宣言した。

トランプのツイートは、ABCニュースに勤めていた際に録画されていた暴露話をリークしたとされるCBSニュース社員の解雇を受けてのものだ――その問題の若手プロデューサーは涙ながらにその話を否定している。

「ABCは他のメディア同様に悪い。今や報道基準は存在していない。マスコミはあまりにも不正直であるため、もはや報道の自由が失われている!」とトランプはツイートした。

大統領は、プロジェクト・ベリタスの創設者で、自称「ゲリラジャーナリスト」のジェームズ・オキーフのツイートに答えていた。そのプロジェクト・ベリタスがABCニュース司会者のエイミー・ロバックの問題発言の録画を暴露していた。

ビデオの中でロバックは、3年前エプスタインの被害者とされるバージニア・ロバーツ・ジェフリーをインタビューし、エプスタインの性的虐待のネタがあったのに、ABCは放送しなかったと不満を漏らしている。ロバックは疑惑を突き止めていたと話し、ビル・クリントン元大統領、アラン・ダーショウィッツ弁護士、そしてアンドリュー王子の名前を挙げている。

ロバックは、「誰もそれが誰か知らない」ため、また王室が局を脅したために、ABC幹部がエプスタインについての報道を過小に扱ったと不満を漏らしている。

「王室関係者はアンドリュー王子についての彼女の訴えを我々がすべて把握していると知り、ありとあらゆる方法で我々を脅した」と、ロバックはその場で思いを爆発させて語っている。

アンドリュー王子、クリントン、ダーショウィッツは不正の疑惑を全て否定している。

ロバックは、同放送局が意図的にエプスタインの報道を没にしたことはないと声明の中で述べ、録画のことを「個人的な不満の瞬間」と呼んだ。

CBSニュースはその後、25歳のプロデューサー、アシュリー・ビアンコを解雇したが、ABCニュースは彼女が――彼女自身は誤りだと主張しているが――録画のリーク者だと特定していた。

トランプはオキーフの投稿をリツイートしていた。そこには、ABCはエプスタインに対する報道を放送せずに、ブレット・カバノー最高裁判事を性的不品行疑惑で「中傷」した、とFOXニュース司会のジェシー・ワターズが非難しているテレビ番組の場面が含まれていた。

「一体全体ABCの編集基準はどこにあるのか」とオキーフは、ワターズのひとコマを引用してツイートしていた。

【私の論評】米大手メディアは、FOXnews以外はすべてリベラル系であることを再認識すべき(゚д゚)!

ABCは、報道機関に特有の、暴動しない権利を行使したのでしょうか。それにしては、この問題の幅は広く、奥行きは深いです。やはりトランプ大統領のいう「もはや報道の自由が失われている!」とみるのが、妥当なのかもしれません。

エプスタイン事件に関しては、このブログではとりあげたことがなかったので、本日とりあげることにしました。

エプスタインは表向きは金融業界で成功した億万長者でしたが、2005年に自身の所有する大豪邸で少女たちに性行為をしていたことが明らかになりました。彼の犯行は裁判でも確定しています。

ジェフリー・エプスタイン

彼は性犯罪者としてSex offender level 3認定を受けていて、これはもう社会の敵と断定されたのと同じようなものです。

彼が凶悪な性犯罪者だったことは確定した事実なのですが、この他に彼が関係する疑惑が2つありました。
1.各界の有力者たちが使う少女人身売買ネットワークがあったのではないか 
2.人身売買サービスを使った人を脅して金をとっていたのではないか (ここで言う人身売買は少女に対して金を対価に性的行為をすることです)
第1のポイントに関しては、すでに彼の豪邸で複数人を相手に性行為をさせられたと証言する女性たちが出ています。彼が最後に逮捕されたのもその容疑があったからです。

彼の豪邸で少女を買春していた複数の男たちの中には有名な人たちの名前がたくさん上がっていて、特に物議を醸しているのが元大統領のビルクリントンやイギリス王室のアンドリュー王子です。

クリントン元大統領は週末にプライベートジェットでエプスタインの島に頻繁に通っていたこともわかっており、またトランプ大統領も「15年の付き合いがある」と2002年のインタビューで言っています。

イギリス女王の息子アンドリュー王子がエプステインの豪邸にいる写真がすでに出ており、被害女性はその写真が「合成ではない」と証言しています。

先日リークされたABCニュースの動画でも、クリントン元大統領を始めとする人たちがエプスタインと関係していることやエプスタインはBlackmail(情報を人質にした脅迫)をすることで財を成したことの証拠が3年前にはそろっていたとAmy Robachが話しています。

このエプスタイン問題は大手メディア以外では情報が多く出回っていて、秘密でも都市伝説でも何でもありません。複数のジャーナリストが調べた結果を公表しているし、エプスタインの豪邸で働いていた人、エプスタインの島に少女を連れてきていた人の証言が出ています。

ではなぜ今回このリークされた動画が重大かというと、大手ネットワーク(放送局)がエプスタイン関係の情報を出すことを許さなかったと言っているからです。元大統領が少女を買春していたことを、現場の人間たちの証言があっても報道しないというのは異常事態です。

人身売買ネットワークがあるだけで大問題ですが、この問題を重大視している人たちはその先にある問題を見ています。

それが2つ目のポイント、エプスタインのBlackmail(ゆすり、恐喝)の話です。

性犯罪を犯したらどんなひとでも社会的に完全に抹殺されるので、絶対にバレるわけにはいきません。ということは、エプスタインに脅されたら口止め料を払うことになります。彼のところで少女たちと性行為する人たちは皆お金持ちですから、自分の身を守るために大金を払うでしょう。

しかし、お金のために有力者たちを脅迫するのは良い考えでしょうか?

エプスタインの豪邸に行っていたのはただの金持ちではなく、有力者たちです。有力者たちを敵に回すということは、自分が消される可能性があるということです。だから有力者たちを脅迫するためには、更に強力な後ろ盾が必要です。

この後ろ盾がエプスタイン問題の核心なのです。エプスタインは金のためではなく、何らかの組織のために動いていたのではないかという話になっていきます。

そもそもエプスタインは10年以上前に有罪が決まっているのに一度も刑務所に入っていません。それを可能にしていたのが彼の強力な弁護団です。どれぐらい強力だったかというと、大手メディアに圧力をかけてエプスタインに関する情報を報道させないぐらい強力だったのです。

しかし弁護士自体にそんな圧力をかける力はありません。弁護士ができるのは「もし報道したらこんな人たちが出てきますよ」とほかの名前を出すことです。つまりエプスタインを守ろうとする組織の伝達係にしかなりません。

ではどんな組織だったらエプスタインをここまで守ることができるのか?どうしてその組織は彼を守っていたのか?

大手メディアを情報統制して、彼を法権力から逃れさせることがどうしてできたのか?

何らかの組織の存在をちらつかせるもう一つの理由がエプスタインの”自殺”です。検死官は彼の首から他殺で付く跡があると証言しています。

もしも彼の”自殺”が、彼の体を解剖した検死官が言ったように他殺であるとしたら、どうやって刑務所内で彼を殺したのでしょうか。

検死解剖で他殺の痕跡がでたにも関わらず、どうして自殺として処理させることが出来たのでしょうか?

これらの一つとしてお金だけで簡単に出来ることではありません。

現時点でエプスタイン問題の人身売買ネットワーク以外の話は証拠らしきものはありますが、未だ核心がつかめていません。エプスタインの証言が決め手になるはずだったのです。

彼がこれまで刑務所に入らなかったのも、脅迫しながら生きてこれたのも、根回しして大手メディアを情報統制できたのも、刑務所内で殺して足がつかないのもCIAやモサドのような特殊な組織が関わっていないとできないことです。

長年エプスタイン問題を取材してきたジャーナリストの中にはエプスタインがCIAのダブルエージェントだという人たちもいて、その線でも確かにそれらしき情報はあるのですが、まだ決定的なものがありません。

CIAの名前が出たら陰謀論に過ぎないと思ってしまう気持ちはよくわかります。しかし、エプスタインの人身売買ネットワークにはイギリス王室のアンドリュー王子も関わっていた証言+証拠となりうる写真も出ており、国際的に重要な人物たちが人身売買ネットワークで少女に性行為をしていたということになれば大きな国際問題になります。

2001年 ヨーク公爵アンドリュー王子(左端)

容疑がかかっている人たちの地位や、やっていることの規模を考えればCIAのような組織が動く現実的な理由があります。

イギリス王室の次男がいるぐらいだったらほかの国の王室や権力者がいてもおかしくありません。もし人身売買ネットワークを王子が使っていたら、イギリス王室はどうなるのでしょうか?これだけでも世界が動きます。これはイギリス王室の存続にかかわる話です。

ABCのリーク動画では"The Palace found out and threatened us a million different ways" とイギリス王室からエプスタインの件に関して圧力があったという話が出ています。

元大統領すら顧客であると思しき人身売買ネットワークがあったというだけでなく、エプスタインにはCIAやモサドのような組織が深くかかわっている可能性があって、大きな国際問題になるはずの事件なのです。

「誰がエプスタインを殺したのか」「誰がエプスタインを守ってきたのか」のこの2点(答えが同じ可能性が高い)がこの問題の行き先で、これは世界を揺るがす大事件です。

このような大事件をもみ消した、ABCニュースの責任は重大です。このブログでは以前から掲載してきたことですが、米国の大手新聞メディアは、すべてがリベラルです。大手テレビ局は、FOXNEWSを除いてはすべてが、リベラルです。

このようなメディアが、保守系のトランプ大統領をどのように報道するか、日本のメディアの安倍嫌い報道をみていると、想像に難くないと思います。今回は、ABCの深い闇が垣間見れたと思います。

米国のリベラル系メディアの報道だけ、見てトランプ大統領を判断するとということは、日本でいえば、大手新聞の朝日、毎日、読売などの記事だけを読んで、安倍政権を判断するというに等しいです。

それでは、安倍政権の本質がわからなくなると同じく、トランプ氏やトランプ政権の実体がわからなくなります。日本のメディアは米国の大手メディアの報道を鵜呑みにして報道する傾向があるので、まともな国際報道ができません。

日本では唯一NHKだけが、まともな国際報道ができそうですが、残念ながら現状では偏向していると言わざるを得ません。

今回のエプスタイン報道のもみ消しということからも、米大手メディアの報道を鵜呑みするのは、危険だというか、米国の一面のみしか見ていないことがおわかりいただけたと思います。

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2019年11月10日日曜日

GSOMIA「日本との問題」米韓同盟とは無関係と韓国高官―【私の論評】焦土化に突き進むことを止められない韓国(゚д゚)!


10日、ソウルの韓国大統領府で記者団と懇談する(左から)鄭義溶国家安保室長、盧英敏秘書室長

 韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は10日、韓国が破棄を決め、失効が迫る日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について「韓日両国が解決すべき問題で、韓米同盟とは全く関係ない」と強調した。大統領府で記者団と懇談した。

 鄭氏は「韓日関係が正常化されれば延長を検討する用意がある」と述べ、日本側に輸出管理厳格化の撤回を求める立場を表明。一方、失効しても韓国の安全保障への影響は限定的だとの見方も示した。

 協定は23日午前0時(日本時間同)に失効する。エスパー米国防長官が今週訪韓し、韓国政府を説得するとみられるが、奏功するかどうかは一層不透明になった。鄭氏は「韓国の立場から見れば、最近の韓日関係悪化の根本原因は日本がつくった」と強調した。

【私の論評】焦土化に自ら歩むことを止められない韓国(゚д゚)!

韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄によって「コレグジット」が決定的になりました。これは韓国の旧西側諸国(自由主義陣営)からの離脱を意味するもので、「KOREA+EXIT」からなる造語です。

KOREXITについて報道するテレビ番組

昨年から今年にかけて、韓国は元徴用工訴訟や従軍慰安婦問題、海上自衛隊へのレーダー照射問題など、日本に対して嫌がらせともいえる対応を繰り返してきた。そこで、日本政府は戦略を切り替え、これまでの甘い対応から「戦略的放置」に徹してきました。

韓国に対して批判すべき部分は批判するのですが、直接的に対応するのはやめたのです。これは特に首脳外交において顕著であり、韓国側は文在寅大統領が前面に立っていますが、日本側は所轄の大臣どまりの対応を行っています。そして、首相どころか副総理すら前面に出ない戦略をとっています。

たとえば、輸出管理の問題では経済産業大臣が、徴用工訴訟などの外交問題では外務大臣が対応しており、それぞれを個別の問題として扱っていまい。基本的に大臣は省庁の責任者であり、省庁の管轄をまたぐような決定は首相以外はできないことになります。その上で、安倍晋三首相は「約束を守ってほしい」という総括的な発言こそするものの、各省庁の決定には口出ししない方針を堅持しています。

今後、徴用工問題などで日本企業に実害が発生した場合の対応に関しては、麻生太郎財務大臣が「外為法による送金停止もできる」と匂わせましたが、これも一般論として持っているカードを示したにすぎません。

一方、韓国はGSOMIAの破棄について、日本の不誠実な態度が原因だとしています。韓国青瓦台(大統領府)は、光復節の演説で文大統領が日本への対話と協力を求めたことや国際会議の場での対応に関して、「日本の対応は単純な拒否を超え、『国家的自尊心』を喪失させるほど無視した」「外交的な礼を欠いた」と指摘しているのです。これは、日本は何もしていないのに韓国が勝手に自滅していることの表れでしょう。

最近韓国大統領府が公表した安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領による面談の写真(下)は、韓国側が日本側に無断で撮影、公開していたことが判明。両首脳は4日に約10分間、約1年1カ月ぶりに着席で対話。ただし、前準備がなされていなかったため、両国とも英語の通訳を介しての対話であったため、実質5分にも満たない会談だったされます。



これまで、日本は韓国の不当な要求に対して「日本側が折れる」という間違った選択肢をとってきました。一方、韓国はそれを成功体験として捉え、あらゆる問題において「こちらが強く出れば日本側が折れるだろう」という姿勢を示してきました。

しかし、今回ばかりは違ったわけです。いわば、韓国は威嚇のつもりで振り上げた拳を下ろす先を失ってしまい、国民を煽ったために、そのまま振り下ろせば自らに跳ね返るかたちになっています。

GSOMIA の破棄に関しては、米国からも強い圧力がかかっています。韓国政府は事前に米国の合意を得ていると発表しましたが、米側の反応は違っており、国務省と国防総省はそれぞれ強い懸念と失望を表明しています。また、朝鮮日報によると、「米国が理解を示した」という韓国側の説明について米国側が「嘘だ」と否定しており、駐米韓国大使館と韓国外交部に抗議をしました。

そもそも、アメリカは事前に韓国政府抜きで韓国の財界人にGSOMIAの延長を政府に働きかけるよう求めていた。ハリー・ハリス駐韓アメリカ大使が大企業14社の関係者と非公開懇談会を開き、アメリカ側の立場やGSOMIAの重要性について説明した上で、GSOMIAの延長について役割を果たしてほしい旨を伝えたという。

ハリー・ハリス駐韓アメリカ大使

日韓間でもめている輸出管理における米国政府の一番の懸念は、韓国を通じて半導体やバイオテクノロジーなどの先端技術が中国に渡ることです。韓国政府との信頼関係が崩壊しつつある今、米国としては企業側への圧力を強めることで、そうした流出を防ぎたい意向もあるでしょう。

具体的には、まずパテント(特許権)の保有会社をつくらせ、各企業のパテントだけでも米国に移転させることで、米国の輸出管理のネットワークにとどめておくという方策が考えられます。

いずれにしろ、GSOMIAの破棄で日米韓の安全保障上の連携に亀裂を入れた韓国がすり寄るのは、中国や北朝鮮です。しかし、米国は次代の覇権国の地位を狙う中国と貿易や5Gをめぐって激しい衝突を繰り返しています。そのため、中国側についた国の末路がどうなるかということを、世界中に見せつける必要があります。言い換えれば、今後は日米が連動して“韓国潰し”に動くということになるでしょう。

その行き着く先は、このブログにも掲載したように、韓国の経済焦土化ということになるでしょう。

経済を焦土化し、経済的にも金融的にも無価値な国にすることは、日米ならすぐにできることです。日米が韓国に対する様々な恩恵をやめたり、韓国にある資産や技術をひきあげるようにすれば、それですぐに焦土化は可能です。

焦土化された韓国は、経済的にも技術的にも無意味になります。そうなれば、このブログに掲載してきたように、金正恩はもともと韓国との統一を望んでいませんでしたが、ますますその気を失うことでしょう。

それどころか、経済焦土化された韓国から難民などがやってこないように、38度線の警備を強めるでしょう。

さらに韓国は、中国とさらに接近しようとするでしょうが、それも困難でしょう。なぜなら、中国との間には北朝鮮があり、その北朝鮮は中国に干渉されるのを嫌っており、北の核がそれを保証しています。

北朝鮮の核は中国にとっても脅威であり、北朝鮮とその核の存在が、朝鮮半島に中国が浸透するのを防いでいます。北がこの姿勢を崩さない限り、韓国が中国に接近しようとしても、北朝鮮がこれを阻むため、なかなかできないでしょう。

そうなると、韓国は北と中国と接近することはなかなかできません。北は韓国を統一する気はなく、米中冷戦で疲弊しつつある中国は、かつてのように北とともに、韓国に侵攻するなど、思いもよらないことです。無論、GDPが現在の韓国なみのロシアも、北が韓国に侵攻するのを手助けするなどのことも思いもよらないことです。

そうなるとどうなるかといえは、38度線は従来と同じく固定され、韓国は、北も中国も興味のない発展途上国になるだけの話です。

安全保障上は、日米、中露、北があまり関心を持たず、ただそこに空き地として存在していれば良いだけの存在になります。ただし、この空き地を手に入れようとする試みは、日米が排除するでしょう。

この状態が長く保たれる状態になるでしょう。結局、韓国の経済・技術が低迷し、後は何変わらないという状況になるでしょう。今のままだと、そうなります。そのような未来を目指して韓国は自らの歩みを止められないようで、ますます深みにはまりつつあるようです。

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2019年11月9日土曜日

ウォーレンに大統領の資質はあるか?―【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱に(゚д゚)!

ウォーレンに大統領の資質はあるか?

岡崎研究所

 現在、トランプ大統領には、政敵である民主党のバイデン元副大統領のあら捜しをウクライナの大統領に要請し、政治の規範と倫理を犯したとされる「ウクライナ疑惑」が掛けられている。この問題は米国の下院の委員会で議論されており、トランプ大統領の弾劾訴追が米国内の主要議題となっている。下院で過半数を占める民主党が主導している中、共和党の議員たちは、これに反対し、下院の審議が麻痺することも屡(しば)である。

民主党の大統領候補としては、エリザベス・ウォーレン上院議員も有力視されているが・・・・

 また、トランプ大統領は最近、従来の政策を突如覆し、トルコがシリア北東部に軍事侵攻してクルド人勢力を駆逐することをトルコのエルドアン大統領に容認した。この件に対しても非難が起こっており、先例のない失態だったと、与野党問わず言われている。

 10月17日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙コラムニストのデイヴィッド・ブルークス氏は、『トランプ自身が米国にとっての脅威だとして、トランプに大統領を2期やらせてはいけない』と主張している。そこまでの強い口調ではなくても、米国内でトランプ氏の大統領としての資質に疑問を持つ人が、少なからず増えてきているようである。

 果たして、来年の米国大統領選挙の行方はどうなるのだろうか。時期尚早かもしれないが、米国内では来年初めから始まる予備選挙に向けて、既に様々な憶測が飛びかっている。民主党の大統領候補としては、ジョー・バイデン前副大統領の他、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州)とエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチュ―セッツ州)が有力視されている。

 民主党にとっては、バイデンのような穏健派を候補に擁立して、2016年にトランプに奪われたウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの各州の奪還を目指すことが、最も理にかなった選挙戦略だという有力な意見がある。しかし、民主党内の予備選挙は、そうスムーズには進行しない。多数の立候補者が出る民主党の中で、当初は先頭を独走していたバイデン氏であるが、このところ、左派の進歩派ウォーレン氏やサンダース氏が並走するようになり、世論調査によってはウォーレン氏が先頭を行くこともある。そのせいか、10月16日の4回目のテレビ討論では、ウォーレン氏が他の候補者たちの標的にされた。

バイデン氏

 未だ、ウォーレン氏が大統領になることは想像し難い。また、そのことは、甚だしく心配でもある。ウォーレン氏の貿易政策は保護主義だと言われる。彼女は、米国の価値や米国の政策目標――気候変動との戦い、基本的な労働条件の尊重、脱税の取締り――の充足という前提条件が充たされない限り、新たな貿易協定は結ばない、TPP(環太平洋パートナーシップ) には強く反対と述べている。この種の教条主義的な信念を前面に出されると取り付く島もない。

 ウォーレン氏は、10月16日のテレビ討論で「我々は中東から脱出すべきである。中東に兵を置くべきではない」「この地域に軍事的解決はない」と述べた。こういう短絡的な答えしか出来ないのでは落第である。彼女のヘマに気付いた彼女の陣営は、彼女が「兵」と言ったのは「戦闘部隊」のことであるなどと説明を試みたが、彼女が現状を理解し、現状に立脚して政策を語っているようには思われない。カタールの米軍基地を拠点に米軍が行っているのは戦闘作戦である。シリアの部隊はイラクの米軍基地に撤収を始めているが、イラクの駐留はどうするのか。アフガニスタンはどうするのか。彼女には外交と軍事力との関係も理解が希薄のように思われる。

 ウォーレン氏は、これまで対外政策を殆ど語っていない。今後、予備選挙がどう展開するか判らないが、指名獲得を狙うのであれば、対外政策に関するブレーンを整え、真剣に勉強する必要があろう。そうでなければ、大統領の道は遠いだろう。

【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱(゚д゚)!

米国は、二大政党で中道左派の民主党と中道右派の共和党がつばぜり合いをします。大統領も概ねそれぞれの党から交互に出てくることが多く、戦後だけ見れば民主から6人、共和から7人となります。

これを少し乱暴に分類すれば戦後直後は民主、50年代は共和、ベトナム戦争の60年代は民主、70年代はおおむね共和で後半に民主、80年代は共和で90年代は民主、2000年代以降は五分五分の戦いとなっています。

基本的に経済動向とリンクしているともいえ、概ね米国経済が好調な時は共和から、世界景気や世の中の不和(含むベトナム戦争)の時は民主が優勢になりやすい傾向があります。それでも二大政党が拮抗した状態であるのは現在ですら上院、下院の議席がねじれ状態にある点でもお分かりいただけると思います。

よって次期大統領選の予想にはまず、今後1年間の対外環境を概観する必要があります。米国の景気は既に景気拡大期が11年目となり「出来すぎ」の状態になっています。通常の経済学ではなかなか説明しにくいのですが、景気の振幅が以前ほどでなく成熟した国家故のなだらかな景気になっていると考えるべきなのかもしれません。今年もデフレから完全脱却していないにも関わらす、増税するという誤ったマクロ経済政策を取り続けてきた日本とは大違いです。

とすればこの先1年、アメリカが景気を大きく崩す要因は国内に求めるのは難しく、対外的要因や戦争、天変地異という予想不能な事態が発生すること以外にありません。ではトランプ大統領は戦争が好きか、といえば先日もこのブログに掲載したように、NOです。トランプ氏は骨の髄からビジネスマンであり、ディールを好むゲーマーであり、戦争を好む男ではない点がブッシュ父子との大きな違いです。

ここから類推すれば社会環境は共和党に利することになります。

では民主党の3候補です。まず、サンダース氏ですが、個人的には可能性はほないです。その理由は彼の主義主張ではなく年齢と健康状態です。現在78歳、80歳代の大統領を米国が求めるのか、という点と、最近動脈閉鎖の治療を受けるため選挙活動を一時休んでいたこともあり、大統領の激務をこなすという点では現実的ではないです。

次にバイデン氏ですが、ウクライナ問題でトランプ氏弾劾という報道もありますがトランプ氏が弾劾されることは新事実がない限り100%ありません。むしろ、バイデンの息子がウクライナのみならず、中国企業の取締役を務め高額の報酬を得ていたことも明るみになっておりバイデン氏が民主党の支持層にはふさわしくない汚点となっています。

こうなると前回ガラスの天井を破れなかったクリントン氏の雪辱をウォーレン氏に託す可能性は大いにあります。ではウォーレン氏が本当にふさわしいでしょうか?最大のネックは彼女が大学の教授というキャリアであることです。しかもハーバードロースクールです。

弁護士と学者ほど融通が利かない人はいないと言われます。自身の信条が極めて明白な自己論理の中で完結しているためです。トランプ氏がディール巧者であるとすればウォーレン氏はどうやって自身に落としどころを求めていくのかと考えると、ずばり理想主義者ウォーレン大統領の世界では米国は何もできなくなることが想定できます。

来日時に優勝力士に優勝カップを手渡すトランプ大統領

しかも彼女の公約はとてつもないものばかりです。ハイテク企業分割、国民皆保険、シェール採掘禁止、最低賃金2倍、富裕者向け課税引き上げ等々、世論で物議を醸すものばかりです。

むしろ、米国国民に問いたいのは「今日の生活と明日の生活がすっかり変わってよいのかね」ということです。大半の人はNOと答えるでしょう。なぜなら今の景気は悪くないし、トランプ氏は嫌いな人でもトランプ氏はこのところ外交問題、それも中国問題が主体になっているので、挙党一致で中国と対決するようになった現在あまり気にされなくなっているからです。

二大政党が真逆の政策を打ち立てる時代は私から見ると時代錯誤のような気もします。実施することはほぼ同じで、ただ実施方法が異なるというのが、最上だと思います。理想と現実は違います。長期的には理想を実現することは重要だと思いますが、大統領が統治する程度の期間でみれば、実施すべきことは、当然のことながらあまり変わらないはずです。

ただし、米国の二大政党制は、政治の継続性の原則から成り立っているところがあり、政権交代が起きても、あまり混乱しない仕組みになっています。この原則とは、米国ではたとえ政権交代があったにしても、新政権は6割から7割くらいは、前政権の政策を引き継ぎ、残りの4割から、3割で新政権らしい政策を打ち出すというとです。

政権交代しても、前政権の政策の大部分が継続されるので、あまり大きな混乱は起こらないことを保証しているのです。ただし、この原則は法律などに裏付けされるものではなく、あくまで不文律です。

     米国二大政党のシンボル:民主党のシンボル(左)は、ろば大衆に好かれ、常に前進すること
     を意味する。共和党のシンボル(右)は象、力と強さを意味する。

ウォーレン氏が大統領になれば、この政治の継続性の原則は破られることになります。

ウォーレン氏がもっとトランプ政策の穴を埋めるような主義主張、つまり、より中道なポジションを取れば彼女が当選する可能性は出てきます。しかし、それでは今まで彼女を支持してきた人たちには大いなる失望でしょう。

米国の二大政党のそれぞれの主張は国民の深層心理に反応し理想論に突っ走るところが大きく、これが離反する人を増殖し、無党派が増えることになります。政治家は国民から遊離してはいけないのですが、ここがどうも抑えられてないように感じます。

純粋に米国を幸せにできるのか、統治できるのという観点からするとウォーレン氏の目は今のままでは無理です。

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2019年11月8日金曜日

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり―【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり



NBAのバスケット・ボールの試合中にフリー・チベットの活動をする他人事

民主党さえも中国の実態を暴き始めた

 ホワイトハウス国家通商会議ディレクターのピーター・ナヴァロ氏は、米国のTV番組の中で、共産主義中国による知的財産権の侵害を激しく非難。その存在を寄生虫と呼んだ。

米中貿易戦争のウラで、いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」

 ナヴァロ氏は全般的に媚中派と考えられてきた民主党に所属する。同氏は、経済学者・公共政策学者であり、ハーバード大学を卒業している。現在、カリフォルニア大学アーバイン校ポールミラージュ・ビジネススクール教授でもある。

 2017年1月20日にトランプ次期大統領から指名を受け、新設された国家通商会議(=当時、現在は通商製造政策局)のトップに就任している。

 2016年に、ナヴァロ氏はトランプ氏の大統領選キャンペーン政策アドバイザーに就任したのだが、彼が筋金入りの中国脅威論者であることが大きく影響したのではないかと思われる。

 例えば、「中国経済と市場主導の米国経済のモデルは『地球と火星のように離れてる』」と述べ、人工知能やロボット工学などでも脅威になりつつある中国の知的財産権問題など不公正な貿易慣行への対処を主張している。また、軍用ドローンでも中国は市場を奪っているとして米国の輸出規制緩和を推し進めている。

 トランプ政権の通商政策を担う重要部署に、民主党員、かつ破天荒なビジネスマンのトランプ氏とは相性の悪そうな学者が起用されているのは意外かもしれないが、まったく正反対なキャラクターだけに、人生経験豊富なトランプ氏にはかえって扱いやすいのかもしれない。

民主党の共産主義中国離れ

 ウクライナ疑惑は、共産主義中国に忖度(または指示があった? )した民主党のこれまでの主流派が大きく関わっている可能性が高いことは、10月15日の記事「『ウクライナ疑惑』で、トランプの大統領再選は確実になりそうだ」で述べた。

 その民主党の投げたブーメランで、ジョー・バイデン前副大統領が政治的に極めて厳しい状況に追い込まれ、それまで泡沫候補扱いであったエリザベス・ウォーレン氏が民主党大統領候補のトップに躍り出るという事態となった。
エリザベス・ローレン

 ウォーレン氏も、テキサス大学法学部、ペンシルベニア大学法学部、ハーバード・ロー・スクールで教鞭をとったことがある、連邦倒産法を専門とする著名な学者である。さらに、訪問先の中国で、現地の記者団に対して「米国の対中政策は数十年にわたって方向性が間違っており、政策立案者が関係を現在修正している」と述ベている。

 これまで、媚中派が主流であった民主党の中でも、共産主義中国を「寄生虫」と呼ぶかどうかはともかく、「いつかは民主主義国家になる」という甘い幻想は消え去りつつある。

 特に香港騒乱が大きな影響を与えている。

 「自由と民主主義」こそが、建国以来の「米国の核心的利益」であり、左右どちらの政治思想であってもこの「核心的利益」を犯すことはできない。

 したがって、香港騒乱で「共産主義中国が人民を抑圧している」ことがあからさまになってしまったからには、民主党と言えども露骨な媚中行動はできない(10月16日の記事「現代版『ベルリンの壁』…香港の騒乱は『中国崩壊』の序曲か」参照)。

 「ベルリンの壁」ならぬ「香港の壁」の後ろに控える、「共産主義独裁国家」は共和党だけではなく、民主党からも「新・悪の帝国」と糾弾されつつある。

不公正取引で先進諸国に「寄生」した新・悪の帝国

 現在、中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を最大限に受けているのにもかかわらず、国営企業を優遇し、海外のSNSをシャットダウンして国内の言論だけではなく、社会活動や経済活動にも多大な制限を加えている。

 また、知財を盗むコピペ経済でもある。さらには、中国大陸に進出する外資系企業に、厳しい規制を加えるだけではなく、その優越的地位を乱用して「最先端技術を渡せ」などという無理難題を吹っ掛ける。

 たまりかねた米国企業の直訴が、トランプ政権に影響を与えた可能性は高いし、他の国の企業の「積年の恨み」も無視できない。

 それでも彼らが儲かっているうちはまだいいが、利益が薄くなったり、赤字が出るようになれば、これらの企業も共産主義中国の手ごわい敵になる。

 そもそも、中国のWTO加盟交渉は、極めて特殊であった。

 実は、第2次世界大戦の戦勝国である民主主義中国(中華民国、台湾)が、WTOの前身であった関税貿易一般協定(GATT)の原締約国であった。しかし、1949年の共産主義中国の建国とともに中華民国が中国大陸から追放され台湾に移ったことから、1950年にGATTからの脱退を通告している。

 共産主義中国は、「台湾の1950年の脱退は無効である」との立場をとり続けていたが、1986年、「GATT締約国としての地位の回復」を申請した。

 その後、1989年の天安門事件の影響などにより、加盟交渉は難航し、結局GATTには参加できなかった。

 やっと、2001年に、中東・カタールのドーハで開かれたWTO(GATTの流れを継承)第4回閣僚会議において中国の加盟が認められることになったのだから、15年間も交渉したことになる。

 この交渉では、「いつかは共産主義中国も民主主義国家になる」という甘い期待を持っていた米国の後押しも受けた。

 だが、その後の中国共産党の後押しを受けた国営企業などによる不公正貿易の拡大や、知財だけでなく大量の軍事機密を盗み取る行為に米国民の堪忍袋の尾が切れたことを敏感に察知して、誕生したのがトランプ政権である。

 米国の識者たちの多くは、共産主義中国に対して「恩をあだで返された」と感じているであろう。

 したがって、貿易戦争・第2次冷戦など「共産主義中国にやさしくない」政策は、トランプ氏の政治信条というよりも「米国の民意」であり、トランプ氏は民意を先読みし、素早くかつ大胆に行動しているだけに過ぎない。したがって、ビジネスマンのトランプ大統領は、利害関係さえ一致すれば、共産主義中国とも「ディ―ル」を行うことができる。

 ところが、冒頭で述べたナヴァロ氏や、ウォーレン氏の「反中国」は政治信条である。したがって、相手が全面降伏するまで徹底的に戦うはずだ。

 もし、共産主義中国がウクライナ疑惑を仕掛けたとしたのならば、大失敗だ。妥協の余地のない、強烈な反中国派を台頭させたからである。

米国の世論は極端から極端に振れることがある

 別に米国に限ったことではないのだが、世論はしばしば極端から極端に振れる。

 独裁主義国家であれば、国民の世論がどうであろうと、力で押さえつけるであろうし、共産主義中国がその典型だ。

 しかし、米国は民主主義国家であり、世論が政治・社会に与える影響は極めて大きい。

 そこで思い出されるのが、第2次世界大戦をはさんだ、ナチス・ドイツへの米国の態度の変化である。

 今でこそ、ユダヤ人が支配するハリウッドで反ナチ映画がうんざりするほど量産され、「米国にとってナチス・ドイツは『巨悪』とされている」が、少なくともナチス・ドイツがポーランドに侵攻するまでは、米国でも親ナチス派が一般的で多くの実業家がナチスと取引をしていた。

 大空の英雄として有名な、大西洋を初めて単独飛行したチャールズ・リンドバーグもナチスを賛美していた。

 さらには、IBMの実質創業者ワトソン氏(彼の名前がAI〈エキスパートシステム〉につけられている)も、IBMの製品がナチスに貢献したことなどから、叙勲された(後に返還している)。

 別に彼らが特殊であったわけではない。英国も第2次世界大戦が始まる前には、ナチスに融和的なネヴィル・チェンバレンが首相を務めており、そのおかげもあってヒットラーが勢力を拡大した。

 第2次世界大戦が終結し米軍が踏み込むまで、アウシュビッツの状況は、世界には知られていなかったので、米国でもナチスの支持者はそれなりにいた。

 現在、日本企業ではESGが声高に叫ばれ、まったくと言っていいほど根拠がない「人類の排出する二酸化炭素による地球温暖化対策」に、信じられないほど巨額のムダ金が使われているのは、10月9日の記事「『地球温暖化騒動』の『不都合な真実』に目を向けよう」や、10月22日の記事「日本人が知らない『温暖化対策』巨額すぎる無駄なコスト」で述べたとおりである。

 それに対して、香港、チベット、ウイグルなどで「人権侵害」を繰り返す中国共産党の息のかかった企業とは平気で取引をしている。

 ESGの観点から言えば、「人権侵害国家」の企業と取引をしてそれらの国家を結果的にサポートすることは「極めて不適当な行為」であり、行うべきではない。

 もし、何らかの形で、天井の無いアウシュビッツと呼ばれるウイグルやチベットの惨状が赤裸々に暴かれた場合、共産主義中国と取引をしている日本企業は極めて難しい立場に立たされるはずだ。

 ましてや、ウイグルの強制収容所で日本のコンピュータやIT製品・技術などが使われていた場合、致命的な打撃を受けるであろう。

 10月23日には、マイク・ペンス副大統領が「NBAやナイキが自社の利益を追求するために、中国政府の要求に屈服した」と激しく非難している。

 特にNBAに対しては「中国共産党の側に付き、言論の自由を押しとどめ、中国政府直属の支局のように振る舞っている」とまで言っている。

 今や中国に媚びているなどと思われたら、巨大なリスクなのだ。

 米国の世論、さらには政府が明らかに変わりつつある。日本企業はその事実にもっと敏感になるべきである。

大原 浩

【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

ドナルド・トランプ政権の米国で、中国をみる視線はすでに昨年からかなり厳しさを増していました。

それは、関税応酬を引き起こしている多額の対中貿易赤字のみに起因するものではありません。または米朝首脳会談の前後に存在感を増してきた中国の朝鮮半島政策から生まれたものでもありません。

より大きな、対中認識の地殻変動が今、米国でうごめきつつあるのです。

米国政府の政策に、中国への厳しい視線は反映されつつあります。たとえば一昨年末に発表された『国家安全保障戦略』は、中国、ロシアとの競争という世界観が色濃く反映されています。

米国は、中露両国が国際社会に統合されることを前提にした(冷戦終結後の関与政策的な)アプローチから脱却すべきであり、中国はインド太平洋地域から米国を閉め出そうとしていることを認めた上で政策的対応を採るべきとしました。

ヘルシンキ・サミットにもみられたように、トランプ大統領の対ロ認識は混乱しており、また政権内外にはロシアとの接近を対中国のカードとして使う発想もあると言われます。少なくとも、中国に対する警戒心が極めて高まっていることは事実です。

昨年、閣僚の「インド太平洋」をめぐる発言からも、その傾向は確認できました。たとえば、同年6月にシンガポールで行われたシャングリラ・ダイアローグ(第17回IISSアジア安全保障会議)において、ジム・マティス国防長官(当時)は、中国が南シナ海に建設した人工島の軍事拠点化を進めていることを強い言葉で非難しました。

太平洋軍(PACOM)がインド太平洋軍(INDOPACOM)に改名されることも直前に発表されていjましたが、マティス前長官は「自由で開かれたインド太平洋」の重要性をここでも訴えていました。

マイケル・ポンペオ国務長官も続く、同年7月30日、全米商工会議所主催のフォーラムで演説し、米国がアジアのインフラ整備のために資金を用意して積極的に関わると明言しました。

これは「一帯一路」構想をはじめ、経済外交を強める中国政府の動きを牽制するため、代替的な資金調達先を提案するものと考えられています(2017年10月にレックス・ティラーソン前国務長官もそのアイディアには触れていました)。

中国の経済外交は自由民主主義に向かう各国の流れを逆行させ、さらに不透明で、国際基準を満たさない援助と批判されることが多いです。財政の健全性を損なわせるだけでなく、中国による介入を招くこともあるため「債務の罠」と称されています。スリランカやパキスタンなどが例としてあげられています。

そこでポンペオ長官は、「自由」には他国による強制からの保護、良き統治、基本的人権が含まれ、「開放」には海空路のアクセスや紛争の平和的解決、公正で互恵的な貿易、投資、透明性、連結性が含まれると、中国の動きを十分に念頭に置いて「自由で開放的な」インド太平洋構想を描いているのです。

2017年秋のトランプのアジア歴訪では、「自由で開かれたインド太平洋」は言及されたものの煮詰まったものではありませんでした。もちろん現時点でも政策の姿が見え始めたに過ぎないが、「国家安全保障戦略」を経て中国を念頭に置いたアジア政策は徐々に形にされています。

昨年6月には、最先端の技術・知的財産を窃取・侵害したり、合弁企業設置を強制して差し出させたりする振る舞いを厳しく糾弾する報告書もホワイトハウスより公表されています。対応するように、中国の対米投資規制の新たな枠組みも設けられました。

対中貿易赤字削減などで強硬姿勢をとるナバロ大統領補佐官の部局より出されているため経済ナショナリズムの一環ともみられているのですが、他方で投資規制や留学生規制につながるこれらの問題意識は、より広いサークルで共有されています。

中国への警戒心の強さは、日本はじめ本来アメリカの対中政策が手ぬるいのではないかと、オバマ政権以来批判を繰り返してきた同盟国の政策担当者や研究者にも驚きを与えるほどです。

それはトランプ政権に留まりません。

オバマ政権期に国務省でアジア外交を担った元高官2名は昨年春、中国がやがて国際社会にとって望ましい存在になるという前提を捨て去ることが必要だと、自省にも聞こえる一文をフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿しました。

「あらゆる立場からの政策論争が間違っていた。中国が段階的に開放へと向かっていくことを必然とみなした自由貿易論者や金融家、国際コミュニティへのさらなる統合によって北京の野望も穏健化すると主張した(国際システムへの)統合論者、そしてアメリカの揺るぎない優位によって中国のパワーも相対的に弱体化すると信じたタカ派など、 あらゆる立場からのすべての主張が間違っていた。」(カート・キャンベル、イーライ・ラトナー「対中幻想に決別した新アプローチを」『フォーリン・アフェアーズ・レポート』2018年4月号)

カート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補

中国を外から変化させることはできず、むしろ中国は独自の秩序構想に語勢を強め、権威主義的な統治モデルを輸出しようともしています。民主党の政治任用者がその点を正面から認めたことは重要です。

なお、共和党系では、ブッシュJr.政権のホワイトハウスに勤務した経験のあるアーロン・フリードバーグ教授(プリンストン大学)が、そのように中国台頭の本質を分析し、競争を全面に押し出した戦略の必要性を長きにわたり訴えています。

これまでに大きく関心を集めてきたとはいえないテーマに関しても議論は広がっています。例えば、昨年3月の議会下院の公聴会では、気鋭のメディア研究者が、アメリカの映画産業が中国政府を刺激するような表現を自己規制していること、さらに中国の関係者が「望ましい」映画コンテンツのあり方をロサンゼルスでレクチャーしているという生々しい現実を証言しました。

人気を博すエンターテイメント映画では、中国市場での収益がアメリカ市場に並ぶほど大きいという事実が、この背景にあります。(Aynne Kokas, “U.S. Responses to China’s Influence Operations, Testimony at House Foreign Affairs Committee, Subcommittee on Asia and the Pacific, March 21, 2018.)

    2016年配給の「オデッセイ」などハリウッドの大作映画で、中国の
    キャストや風景などの“中国色”が目立つ作品が増えてきた。

さらに、中国が協力者を募り、民主主義社会の内側に入り込もうとしていると、政治ツールへの警戒もありました。一昨年末に公表された全米民主主義基金(NED)の報告書を皮切りに、中国、ロシアが民主主義社会のなかに多様なチャンネルで入り込み、政治家・政党から学者、メディア関係者まで多くの人物が特定国に忖度した発言や行動をとる「シャープ・パワー」という概念も、少なくともワシントンでは人口に膾炙するようになりました。(『中央公論』2018年7月号の特集を参照)

このように例を挙げてみても、中国が投げかける挑戦に、実に多面的に懐疑の目が向けられていることに気づくでしょう。

過去40年にわたるアメリカ・対中関与政策の背景にあった中国への期待は薄れつつあり、中国との来たるべき本格的な競争に、党派を問わず、立場を問わず、多くの米国政府関係者、有識者が備えを本格化させています。

まさに米国の対中政策が2018年を転機に、対決一色になることは、予め予想できたのです。昨年米国では中国に対する批判は一巡し、中国に対抗するのは、米国の意思であるとの確認がされたのです。今年からは実際に逐次中国に対する対抗策を長期にわたって実行し続ける段階に移行したとみるべきです。

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2019年11月7日木曜日

最新鋭潜水艦「とうりゅう」進水 海自、ディーゼル推進で世界最大級―【私の論評】リチュウム乾電池搭載潜水艦で日本は「巡洋艦戦略」を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになる(゚д゚)!


進水する海上自衛隊の最新鋭潜水艦「とうりゅう」=6日午後、神戸市中央区の川崎重工業神戸工場

海上自衛隊の最新鋭潜水艦の進水式が6日、川崎重工業神戸工場(神戸市中央区)で開かれ「とうりゅう」と名付けられた。12隻の配備が計画されている主力潜水艦「そうりゅう型」の12番艦となる。今後、装備の取り付けや試験航行を経て、2021年3月ごろの就役を予定している。

 海自によると、とうりゅうは基準排水量2950トン、全長84メートル、全幅9・1メートルで、ディーゼル潜水艦としては世界最大級となる。乗員数は約65人、水中での最大速力は約20ノット。建造費は約690億円で、配備先は未定としている。

 11番艦の「おうりゅう」に続きリチウムイオン電池を搭載し、従来型より潜行時間が延びた。

 とうりゅうの名前は、奇岩の間を加古川の激流が流れる兵庫県加東市の名勝「闘竜灘」に由来し、荒々しく戦う竜を意味するという。

 式典には防衛省や川崎重工業の関係者ら約380人が参加した。海自トップの山村浩海上幕僚長がロープを切ると、とうりゅうはドックから水上に勢いよく滑り出し、大きな拍手が上がった。

【私の論評】リチュウム乾電池搭載潜水艦で日本は「巡洋艦戦略」を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになる(゚д゚)!

冒頭の記事では、「そうりゅう型」11番艦の「おうりゅう」からリチュウム電池を搭載したことが述べられていますが、本日はこのリチュウム電池搭載の意味や意義などを掲載します。

「そうりゅう型」へのリチウムイオンバッテリーの搭載は、当初は5番艦「ずいりゅう」(2011年進水)から予定されていたのですが、技術開発費不足などから、実現は7年後の11番艦まで待たなければなりませんでした。潜水艦という酷使に耐えなければならない機器に求められるリチウムイオンバッテリー技術の革新は、それだけハードルが高いものだったことが伺えます。

「おうりゅう」以降に搭載されたGSユアサ製バッテリーは画期的な安全性を実現したとされますが、スマートフォンなどの小型家電ですら最近もバッテリーの発火事故が報じられていることからも、全般的には今なお発展途上の技術であるとも言えるでしょう。

GSユアサ制バッテリー(潜水艦搭載型のものではありません)

イスラエルに本社がある軍事用バッテリーメーカー、Epsilorのマーケティング&販売部長のフェルクス・フライシュ氏は、「リチウムイオンバッテリーはあらゆるエレクトロニクス産業に大きな影響を与えているが、防衛産業も今、ドラマチックな変化の時を迎えている」と同社のブログ記事に書いています。

その理由の一つは、リチウムイオンバッテリーのコストが10年ほど前の5分の1程度まで下がっていることです。2022年には、さらに現状の半分まで下がるとみられます。また、安全性・信頼性を含む総合性能が上がり、大型の防衛機器での使用に耐えるものも出てきているのは、「おうりゅう」の登場で証明されたところです。

軍事用でも、無線機、衛星通信機器、熱探知カメラなどのポータブル機器、ECM・ESMなどの電子戦装置などでは、既に10年ほど前からリチウムイオンバッテリーが使われています。フライシュ氏は、一昨年8月の時点で、今後5年間で軍用車両、船舶、シェルター、航空機、ミサイルなどの「酷使に耐えなければならない機材」にも、リチウムイオンバッテリーの使用は広がると予測しています。

フライシュ氏によれば、
現代の戦争は大国同士の軍隊がぶつかり合うものではなく、民間人に紛れた武装勢力やゲリラとの戦闘がほとんどだ。そうしたケースでは、正規軍の方にも隠密行動が求められる。例えば、各国の陸軍を代表する兵器と言えば主力戦車や装輪装甲車だが、これらにも今は潜水艦のような静粛性が求められている。そのため、各国の軍隊で高性能バッテリーの需要が高まっているという。 
特に高性能バッテリーとの関連性が挙げられるのが、 「サイレント・ウォッチ」という夜間監視・偵察活動だ。敵に気づかれないように夜間の警戒任務に当たる戦車や装甲車はエンジンを止め、バッテリーのみで監視装置や武器を使用できるようにしなければならない。鉛蓄電池を8個から10個搭載する現行車両が「サイレント・ウォッチ」任務につけるのはせいぜい4、5時間。例えば中東の夜は10時間から14時間続くが、同等のリチウムイオンバッテリーに置き換えれば12時間程度監視任務を持続できるとされる。つまり、ほぼ夜通しの任務遂行が可能となる。 
現在、アメリカやイスラエルの軍産複合体が「サイレント・ウォッチ」を見据えたリチウムイオンバッテリーを開発中だという。また、デンマーク陸軍は既にリン酸鉄リチウムイオン(LiFePO4)バッテリー搭載型のピラーニャV装輪式兵員輸送車を発注済。イタリア軍が採用しているフレッチャ歩兵戦車、チェンタウロ戦闘偵察車も、次期タイプではリチウムイオンバッテリーを搭載するとみられる。さらに、イスラエルのエイタン装輪装甲車もハイブリッドになると見られ、インド軍も10年以内に2,600両以上のリチウムイオンバッテリーを搭載した歩兵戦闘車を配備しようとしているという。
海自はこのリチウム潜水艦で何をしようとしているのでしょうか。それは、南シナ海でのゲール・デ・クルース(guerre de course)です。旧軍では「巡洋艦戦略」と訳された海軍戦略です。

リチウム化による性能向上、具体的には長距離展開能力、戦域内移動力、接敵能力の強化はそれへの指向を示している。またAIP撤去も従来の待ち伏せ主要からゲリラ戦への変化を示唆しています。

リチウム電池化で得られる諸能力である、長距離展開の実現、戦域内移動力の向上、接敵機会増大により、はじめて海自がゲール・デ・クルース(guerre de course)を可能にしたともいえます。

リチウム化により。海自潜水艦は倍以上も遠くまで進出できます。南シナ海展開は今よりも容易となりました。あるいはマラッカ西口展開も実現性を帯びます。

今日、在来潜水艦も基本的には潜水状態で移動します。水中移動して、ディーゼルで充電を繰り返します。ところが、鉛電池型では最大でも4kt(7km/h)、100時間、400nm(740km)程度だ(ロシア制潜水艦を参照)す。それで電池切れになります。そして充電を完了するまで10時間位はかかります。実際は放電量1/3~1/4で小充電をするのでしょう。ただ能力はその程度です。

それがリチウム化により2-4倍となるのです。電力容量8倍はそれを可能とします。速力2倍で消費電力を4倍としてもなお2倍の時間移動できるのです。8ktで最大200時間、1600nmを移動できるのです。

しかも充電時間は従来のままです。リチウム化で充電速度も約8倍程度に上がります。充電電流量は5倍となり電力量から貯蔵量への変換効率も1.5倍となります。つまり7.5倍です。8倍容量の電池でもほぼ同じ時間で充電できます。

これはゲール・デ・クルースに有利です。より遠方まで進出して潜水艦により脅威を与えられることになります。計算上、鉛電池では呉―バシー間は2週間程度を要します。それがリチウムでは6日半となる。さらには呉から10日で南沙諸島まで展開可能となるのです。

また戦域内移動力も向上します。1隻の潜水艦で南シナ海全体に脅威を与えられます。たとえば台湾海峡で中国艦船を攻撃し、4日間で南沙諸島に移動して再び中国艦船を攻撃し、また3日間で海南島に移動して3たび中国艦船を攻撃するというような行動が可能となります。

その効果は大きいです。中国は南シナ海全体での対潜戦を強要されることになります。たとえば、3海面に対潜部隊を展開するのです。「日本潜水艦はもういない」と判断できるまではそうするのです。

これは中国の対潜努力の強要に向くことになります。「潜水艦は乗員数で400~600倍の敵海軍を拘束する」ともいわれます。乗員65人の海自潜水艦1隻は1海面で中国海軍を3万人づつを拘束する計算となります。3海面並行しての対潜戦なら拘束規模は合計9万人にも及ぶでしょう。


さらに、接敵機会拡大があります。これもリチウム電池による充電高速化の成果です。中国艦船を攻撃可能な位置に収めるチャンスが増えるのです。これもゲール・デ・クルースに資することになります。

短期間で潜水艦脅威を顕在化できるからです。また移動先海面で短期に成果をあげ、すぐに別海面に転進できます。従来の鉛電池潜水艦は低速です。電池容量から接敵速力は上限で8ktでした。戦時には20ktを出す軍艦や平時から15kt付近で航行する商船よりも遅いのです。

そのため接敵・攻撃のチャンスは少なくなります。8ktの潜水艦は20ktで走る軍艦の針路前方47°の範囲にいない限り接敵できません。それがリチウム化で大幅改善します。水中速力12ktあるいはそれ以上も差し支えないのです。それにより攻撃圏は20ktの軍艦の前方74°以上に広がるのです。

リチウム化はゲール・デ・クルースを容易にするということです。そして海自はAIPエンジンを捨てました。水中潜航状態で1週間2週間を待機できる特殊エンジンを廃止したのです。

これは何を意味するのでしょうか。潜水艦運用体制の変化です。冷戦期の待ち伏せから対中対峙におけるゲール・デ・クルースにシフトしたのです。従来は待ち伏せに主軸がおかれていました。

敵軍港前面や重要海峡で待機する。そこを通過する敵潜水艦を攻撃する運用です。そのためAIPエンジンも採用されたのです。その軸足はゲール・デ・クルースに移りつつあります。海自潜水艦の動向、なによりもリチウム化とAIP撤去はそれを示唆しているのです。

進水した「とうりゅう」写真と仮付の艦名プレートの拡大写真

海自はこれにより中国海軍力の分散を目論んでいるようです。潜水艦を広範囲に行動させるのです。南シナ海あるいはマラッカ西方まで展開させるのです。それにより中国に広範囲での潜水艦対応を強要します。また中国に南シナ海防衛を強要し、対日正面戦力の転用・減少を狙う腹積もりなのでしょう。

リチュウム乾電池搭載の潜水艦は、「とうりゅう」でまだ二隻目ですが、これがこれが少なくとも5隻くらいになれば、日本はゲール・デ・クルース(guerre de course)を実施し、中国海軍を大いに悩ませることになるでしょう。

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2019年11月6日水曜日

激化する米議会と中国の台湾外交綱引き―【私の論評】日本がすべきは、習氏を国賓として"おもてなし"することでなく中国の覇権主義に反対の声を上げることだ(゚д゚)!

激化する米議会と中国の台湾外交綱引き

岡崎研究所

 米国と台湾および中国の関係は、1978年12月の米中国交樹立時の「米中共同コミュニケ」さらには、79年4月の米国国内法・「台湾関係法」にさかのぼるものである。以来、米議会議員は、党派に無関係にその時々の米中政府間関係に縛られることなく、台湾を訪問し、台湾の政府関係者とも種々の意見交換を行ってきた。

 しかるに、最近、中国政府は、米議員の訪台に圧力をかけるような挙に出た。米国のショーン・パトリック・マロニー下院議員(民主党)は、10月13日付けのウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿文‘Beijing Tries To Bully Congress’で、中国から如何なる圧力受けたかを告発し、これを厳しく糾弾している。

 マロニー議員の寄稿文の要点は次の通りである。



1.中国は10月初め、米議員たちが中国訪問のあと台湾をも訪問する予定があることを理由に、米訪中団に対しビザを出すことを拒否した。

2.中国当局者はマロニーのスタッフに「台湾訪問をやめるならばビザは認められる」と繰り返し言った。これに対し、「台湾滞在のキャンセルは選択肢にない」と明言したところ、中国側は「一つの中国政策」を支持する声明を出すよう求めた。

3.台湾が中国人による民主主義が繁栄し得ると示していることが、北京の脅威であることは疑いない。

4.従来、中国の当局者は賢明にも、米国が台湾関係法の義務を果たすことを受け入れてきた。今回の議員団が受けたような、拙劣で愚かな圧力キャンペーンは、米議会の台湾支持を活発化させよう。

5.来るべき数か月のうちに、私(マロニー)は、米国の台湾への支持を強化する方策を探る。米国は、中国共産党の攻撃性と権威主義に直面し、民主主義と自由のために立ち上がらなければならない。

 本寄稿文は、今回、米国議員たちが中国訪問のあと、台湾をも訪問する予定があることを理由に、中国が米訪中団に対しビザを出すことを拒否したことに対し、強い抗議の意を示すものとなっている。米国議員として当然の反応といえる。

 本件は、習近平体制下で中国の対台湾姿勢がますます非妥協的、独善的になりつつあることを如実に示すものである。特に、中国が米訪中議員団のスタッフに対し、中国の主張する「一つの中国政策」を支持する旨の声明を発出することを要求したというが、これは今までになかったことであり、注目される。

 台湾が自由で民主主義の定着した場所として繁栄していることが中国にとって「脅威」となっているというマロニーの見方はその通りだろう。そして、今日の時点からみて、香港におけるデモとそれへの的確な対応ができない習近平体制の大きな焦りが、近接する台湾問題への強硬姿勢に結び付いているものと思われる。現在、米議会では「香港人権法」とも呼ばれる法案が審議されている。

 マロニーは、上記寄稿文の中で、中国が2018年の台湾の統一地方選挙に際し、各種の情報操作を行ってプロパガンダやフェイクニュースを流し、親北京の候補者に対して違法献金をして介入したことにも言及している。これは特に新しい指摘ではない。しかし、2020年の来る台湾総統選挙でも、同様のことをしようとする兆候があると本論評は警鐘を鳴らしている。蔡英文政権も中国による総統選挙への種々の介入の可能性に対し、極めて強い警戒感を抱いている。

 このような中国の強硬な対台湾姿勢は、米国議会全体として台湾支持をさらに強化させなければならない、とのマロニーの結論を擁護するものとなるだろう。従って、米国への台湾関与を弱めようとする中国の意図とは正反対の結果をもたらすことになると見て間違いないであろう。9月に台湾はソロモン諸島、キリバスとの外交関係を相次いで失ったが、こうした状況を受け、米議会では、台湾の外交関係を守ることを意図する「台北法案」なるものの審議が進んでいる。

【私の論評】日本がすべきは、習近平を国賓として"おもてなし"することでなく中国の覇権主義に反対の声を上げることだ(゚д゚)!

ショーン・パトリック・マロニー下院議員(民主党)

先週、アメリカ国内で香港における民主化デモに対する支援の声が高まったことを受けて、中国外交部の広報官は、NBAを含むアメリカの企業は中国の世論に従わなければいけないと複数回にわたって語りました:
香港のデモ参加者やウイグルの収容所に強制収容されている人々の評判をおとしめるプロパガンダを発信することで、中国政府はナショナリズムの炎を焚きつけ、中国共産党の路線から果敢にも離脱する米国企業をボイコットするよう呼びかけている。

米の企業は、ますます中国市場に依存するようになっているが、企業の利益と米国の核心的な価値観との間でどちらを選択するのか迫られている。米国企業は、しばしば中国の要求に屈する。先週、アップル社はHKmap.liveというアプリをアップル・ストアから削除する決定を下した。このアプリは、香港の人々が投稿した情報により香港警察の動きをトラッキングし共有することができるものだった。–WSJ
マローニー議員は、中国政府がアメリカの議員を入国禁止にしているのは、中国国内の政治に外国が関与するのを阻止しようとする同国の一連の措置の中でも最新の動きであると確信しています。しかし、米国と台湾の間で継続した強力な関係を構築することを命じる1979年台湾関係法の下で、米国には法的義務があることを鑑みると、中国政府は自国の措置を再検討することが賢明であるとマローニー議員は語っています。

「私の代表団に対して行われたような、不器用で恥もなく強制された圧力キャンペーンは、アメリカ連邦議会による台湾支援に活気をもたらすだろう」とマローニー議員は締めくくっています。

先週、トランプ政権は、中国西部でウイグル族を大規模収容していることに関わった中国政府関係者に対するビザの発給を制限すると発表しました。

マイク・ポンペオ米国務長官

米国務省のマイク・ポンペオ長官は、次の声明を発表しています:
合衆国政府は、中華人民共和国に対して、即刻、新疆において行われている抑圧政策を終わらせることを要求する。独裁的に収容された全ての人々を解放し、外国に居住している中国のイスラム教少数派の人々に対して、どういう運命が待っているかも明確にせず中国へ戻るよう強制させる活動を停止せよ。

先週月曜、米商務省のウィルバー・ロス長官は、新疆における人権侵害に関わっているとして新たに28の中国企業をブラックリストに掲載する発表を行った。米国の企業が、これらブラックリストに掲載されている企業に対していかなる米国製の製品を輸出するためには、特別な許可証を申請する必要がある。この28社には、中国の監視カメラ大手、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)が含まれている
一方、中国政府は、反中国の企業や組織に関わっているアメリカ国民に対して、ビザの制限を厳格化すると発表したと、ブルームバーグ紙が報じています
(新たな)中国のルールでは、米国の軍およびCIAと関係した機関や人権団体のリストを起草し、それらの社員をビザのブラックリストに追加することを命じている。匿名を条件に情報源の人物は語った。

この(ビザの発行)制限を厳格化する措置は、中国政府による懸念が高まっている中で導入された。米国政府とその他諸外国の政府は、このような組織を利用して反中国政府のデモを中国本土と香港の両方で煽り立てていると中国政府は懸念している。また、中国政府がビザ制限を厳格化したことは、アメリカ政府が中国人の研究者や政府関係者達に対してビザの制限を行ったことに対する報復でもある。最初に引用した情報源の人物が語った。–Bloomberg
南太平洋のソロモン諸島とキリバスが先日、台湾との国交を断絶し、中国との外交関係を承認しました。これにより、台湾が外交関係を持つ国は15カ国となり、過去最低の数となりました。

南太平洋は、米国と豪州をつなぐ海上航路に位置します。そのため米国政府内部からは、米軍を置くグアムに近い、南太平洋での中国の軍事活動が活発になることへの懸念が示されています。

安全保障上の問題の他にも、中国が経済力に物を言わせて台湾を国際社会から孤立させようとする動きについても、批判の声が上がっています。

台湾の蔡英文総統が、自国の独立路線を軸にした外交を展開する中、他国との国交断絶が相次いでいる背景には、中国政府による入念な下準備がありました。

2006年4月に開催された第一回の中国・太平洋島嶼国経済開発協力フォーラムで、中国は太平洋諸島諸国に約450億円の借款を表明。第二回では、さらに約1000億円の追加融資を決定しました。

いずれのフォーラムにも当時の首相だった温家宝氏や、副首相の汪洋氏が出席していることから、中国が虎視眈々と南太平洋地域を狙っていたことがうかがえます。

ソロモンを含む太平洋諸島諸国の開発支援は、豪州が伝統的に担っており、貧困問題や経済格差など、国の発展を文字通り「支援」していた。

一方の中国の支援は、インフラ開発を名目とした多額の融資を行います。例えばソロモンの南に位置するバヌアツ共和国では、中国が大規模な港を建設中です。しかし、その過程で相手国に「借金」を負わせ、自国の影響力を増大させています。

こうした経済支援を隠れ蓑にした中国の覇権主義の広げ方は、「債務の罠」と言われ、国際社会で問題視されています。

訪台したプラハ市長ズデニェク・フジブ氏

しかし、中国に対する反発の動きも出始めています。

例えば、チェコ共和国の首都であるプラハの市政府は10月7日、中国・北京市と結んでいた「姉妹都市」関係の解消を決めました。

プラハ市と北京市は、2016年に中国の習近平国家主席がチェコを訪問した際に姉妹都市協定を締結。同協定の第3条には、「台湾は中国の不可分の一部」という中国側の主張が記載されていました。

しかし、民主主義の台湾を支持し、中国共産党による人権侵害を非難してきたズデニェク・フジブ氏が2018年11月、プラハ市長に就任。同氏は今年1月以降、中国当局に対して、台湾を国家として承認しない「一つの中国」に関する項目を削除するよう呼び掛けていました。

これに対し中国は4月、報復措置として、プラハの楽団の中国巡回公演を取り消していました。

中国の圧力により、台湾が国際社会から孤立すれば、沖縄をはじめとした日本への圧力も加速するでしょう。

日本は1972年に中国との国交を樹立した際、台湾と断交しました。しかし、「自由・民主・信仰」という普遍的な価値観を共有する日台が関係を強化することは、中国の覇権主義を抑止することにもつながります。

今の日本がなすべきことは、来日予定の習氏を国賓として"おもてなし"することではありません。プラハの姿勢に学び、中国の覇権主義に反対の声を上げることです。

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2019年11月5日火曜日

RCEP、インドの交渉不参加言及に波紋 離脱なら枠組み瓦解―【私の論評】インド離脱は、新たな自由貿易を目指す日本にとって追い風(゚д゚)!


東アシアサミットに臨む(前列左から)インドのモディ首相,安倍総理ら=4日,バンコク郊外

日本や中国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉をめぐり、インドの当局者が今後の交渉に参加しない可能性に言及したことをめぐり、5日、日本政府内には波紋が広がった。「インドのいないRCEPは考えられない」(交渉筋)との指摘もあり、仮にインドが離脱すればRCEPの枠組み自体が瓦(が)解(かい)する恐れもある。

 「16カ国を併せれば世界最大の経済圏となることから、その戦略的、経済的意義は極めて大きい」。安倍晋三首相は4日、バンコク郊外で開かれたRCEP交渉の首脳会議の席上、16カ国の枠組みの重要性をこう強調した。

 インドの当局者が4日の記者会見で、現在の条件では「RCEPには参加できない」と話したことが伝わると、日本政府内には「対中交渉の駆け引きの一環だろう」(経済官庁幹部)と冷静に受け止める一方で、「真意がわからない」(政府関係者)といった困惑の声も聞かれた。

 4日の首脳会議では来年の協定署名で合意。その上で、関税撤廃などでインドとの交渉を引き続き継続するとした。共同声明では「インドには未解決のまま残されている重要な課題がある」と指摘。妥結はインドにかかっていると明示することで、インドの政治的な決断を促した。

 日本の立場は明確だ。中国がインドを除外した枠組みを参加国に打診した際には、日本は保護主義的な動きが強まる中、市場規模の大きいインドを自由貿易圏に取り込むことの意義を説明。また、インドが抜ければ中国の影響力が強まることへの懸念もあった。

 インドが離脱するようなことがあれば、日本のRCEPへの関心自体が薄まりかねず、交渉が暗礁に乗り上げる恐れがある。

【私の論評】インド離脱は、新たな自由貿易を目指す日本にとって追い風(゚д゚)!

私自身は、RCEPには反対です。日本はこのような貿易協定に労力をさくよりも、TPP拡大に注力すべきです。そのため、RCEPからのインドの離脱は大いに賛成です。これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、RCEPが日本にとっては重要ではなく、TPPこそが本命であることを掲載しました。以下に一部を引用します。
ほとんど関税も削減しない、WTO以上のルールや規律は設定しない、という内容の乏しいFTAでは、いくら参加国のGDPが大きかったとしても現状に大きな変更を加えるものではありません。この意味からもRCEPはまともな協定にならない可能性が高いです。

さらなる問題は、複数のFTAが重複することによって、それぞれの関税、ルール、規則などが複雑に絡み合ったスパゲッティのように錯綜して貿易が混乱するという「スパゲッティボール効果」です。

TPP11と日EUのFTAは対象となる地域が異なるので、このような問題は生じないです。しかし、TPP11とRCEPの参加国には重複があります。スパゲッティボール効果を避けるためには、一つの大きなFTAに関係国すべてが参加することが望ましいです。

自由貿易の推進や新しいルールの設定の両面でレベルの高いTPPに、アジア太平洋地域の経済を統合すべきです。
さらに、そもそも論で、中国は自由な市場経済国ではないですから、最初から自由貿易をリードしていく資格などありません。 自由貿易をリードしたいというのなら、まずは自国の構造改革をすべきです。

特に、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめ、自由貿易ができる体制を整えるべきなのです。しかし、中国ではこれができません。実行すれば、中共政府は統治の正当性を失い崩壊してしまうでしょう。

そのため、中国が主導するRCEPは、ほとんど関税も削減しない、WTO以上のルールや規律は設定しない、という内容の乏しいFTAにならざるを得ないのです。

これまでの貿易の秩序が公平で正しいものだったのかは、甚だ疑問です。特に米国にとってはあらゆる産業が自然に衰えていく傾向を示し潜在敵国の中国には絶好の儲けを提供する仕組みになっていました。米国民は現状が不公平過ぎると感じていたのでしょう。その腹立ちが世界の予想外だったトランプ氏を誕生させました。

世界経済の常識は「金持ちは我慢しろ」という傾向がありましたが、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げて既成の秩序をぶち壊し始めました。米国は、現体制は米国の利益を損なっていると認識したからこそ、根こそぎ破棄し新たな秩序づくりを提唱しているのです。

現状の貿易体制はWTOの精神に裏付けられています。WTOの考え方は自由な取引を推進すれば比較優位の商品が産出されます。言い換えると、どの国も得意なものを作って儲けられるというものです。

ところが、完全な自由貿易を強制すると、ある製品について、1国以外に製造する国がなくなるはずです。もしその国が独占的立場を悪用して、価格を上げるとなると、他に競争する国がないのですから、儲け放題になる。そこで互いに関税をかけて産業を保護するのです。

WTO発足時点の経済情勢に合わせて、各国は関税を設けて公平な競争条件でスタートしました。この条件は年を経れば歪みが出てくるのは当然です。当時、中国は「途上国」という条件で排気ガス規制から逃れる一方、世界銀行から「途上国援助」を受け取っていました。その援助は総額4兆円に近いのですが、「計画が残っている」との名目でいまだに続行されています。

米国の自動車は当時飛び抜けて世界一でしたが、競合国のドイツや日本に攻め立てられています。米国の自動車産業の象徴と言われたGMでさえ倒産しそうになりました。

現在の経済状態に合わせて新しい貿易のルールに作り直す必要があります。そこで新しい貿易ルールを日米で作成に取り掛かっていたのがTPP(環太平洋経済連携協定)でした。そこからトランプ氏は脱退したのですが、新時代に合わせたTPPが必要であることは変わらないです。

安倍晋三首相はトランプ氏が脱退を表明した後、米国抜きの11ヵ国でまとめる意志を表明し、現実に11ヵ国TPPは2018年12月30日発効しました。

一方で日本とEUとの間では新たにEPA(日・EU経済連携協定)を締結しました。TPPもEPAも締結時の関税などを固定するものではありません。現在日本は高級チーズには29.8%の関税をかけていますが、15年後までには、年々削減してゼロにすると約束しています。

日本はTPPと日欧EPAにより現状では世界の自由貿易をリードしているといっても過言ではありません。日本はこれからも、この方面で積極的に行動すべきです。



自由貿易の枠組みの中で競争力を高めてきた日本は、19世紀の英国や20世紀の米国とは異なります。日本が自由貿易を推進するのは、自国にとって有利だからではなく、それがルールに基づく競争の場を提供するということを理解しているからです。

20世紀型自由貿易の出発点となったブレトンウッズ会議に日本は残念ながら参加できなかった。当時日本は米国との戦争を続けていたからだ。これに対して、21世紀型自由貿易はその誕生から日本が関わることができる。米中貿易戦争が続く今の状況が日本にとって大きな試練であることは間違いないが、70年前の無念を晴らす願ってもないチャンスでもあるのです。

ブレトン・ウッズ会議 1944年7月

チャンスをものにするためには、経済大国としての厳しさが求められる。自由貿易を推進するのであれば、競争力の弱い分野を温存するという政策はふさわしくないです。

「競者」の論理に立つならば、高関税や輸入制限によって競争力の弱い産業を保護する政策とは一線を画し、その競争力を高めていく工夫や努力が常に行われているような、活力あるビジネス環境の整備が必要となるでしょう。

無論中国のように、国営企業に補助金を与えるというやり方では、だめです。日本国内で、まともに多くの企業が切磋琢磨できるように、政府は基盤を整備すべきでしょう。その基盤の上で、各企業や様々な組織がプレーヤーとなり対等な立場で競い合うのです。競い合うだけではなく協同しやすい環境も整備するのです。

20世紀型自由貿易の出発点となったブレトンウッズ会議に日本は残念ながら参加できませんでした。当時日本は米国との戦争を続けていたからです。これに対して、21世紀型自由貿易はその誕生から日本が関わることができます。

米中貿易戦争が続く今の状況が日本にとって大きな試練であることは間違いないですが、70年前の無念を晴らす願ってもないチャンスでもあります。

チャンスをものにするためには、経済大国としての厳しさと柔軟性が求められます。自由貿易を推進するのであれば、競争力の弱い分野を温存するという政策はふさわしくないです。

「競者」の論理に立つならば、高関税や輸入制限によって競争力の弱い産業を保護する政策とは一線を画し、その競争力を高めていく工夫や努力が常に行われているような、活力あるビジネス環境の整備が必要となります。

今回のRCEPインド離脱は、まさに日本にとってこのような環境整備への追い風となるかもしれません。

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2019年11月4日月曜日

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中国の李克強首相(右)と握手する安倍首相=4日、バンコク郊外

 安倍晋三首相は中国の李克強首相との4日の会談で、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での中国当局船の活動などを取り上げ、前向きな対応を強く求めた。ただ、李氏の反応は鈍く、状況を改善する考えは示さなかった。首脳の相互往来の活発化で日中関係は改善基調にあるが、東シナ海や人権をめぐる状況はむしろ悪化しており、自民党では習近平国家主席を国賓で迎えることへの疑問の声が強まりつつある。

 「尖閣諸島周辺海域などの東シナ海をはじめとする海洋安全保障問題、邦人拘束事案などにつき、中国側の前向きな対応を引き続き強く求めた」

 約25分間の会談に同席した西村明宏官房副長官は、同行記者団にこう説明した。だが、これらは安倍首相が昨年10月の訪中時にも習氏や李氏らに直接伝えていた懸案で、事態は1年前より悪化している。

 尖閣諸島周辺での中国海警局の船の活動は、今年4月12日から6月14日まで64日間連続で確認され、平成24年9月の尖閣諸島「国有化」以降、最長記録を更新した。最近も、中国の王岐山副主席が参列した10月22日の「即位礼正殿の儀」当日を含め、11月4日まで20日連続で航行が確認された。

 中国での不透明な邦人の拘束も増えた。2015(平成27)年以降、中国当局はスパイ活動への関与などを理由に少なくとも邦人13人を拘束、8人に実刑を言い渡した。さらに9月には北海道大の男性教授が北京で拘束された。理由は明らかになっていない。

 準公務員である国立大の教員が初めて拘束される事態に対し、日本の中国研究者らでつくる「新しい日中関係を考える研究者の会」(代表幹事・天児慧早大名誉教授)は「言葉にし難い衝撃を受けた」として「深い懸念」を表明した。

 自民党の政務三役経験者は取材に「習氏の国賓としての来日に明確に反対する」と述べており、安倍首相の足元からも疑問の声が出ている。(バンコク 原川貴郎)

【私の論評】多様性のある独自の外交路線を模索し始めた日本(゚д゚)!

米中対立の下で、日本の対外政策は一見すると矛盾するさまざまな顔を持っているようにも見えます。日本は、日米首脳間の良好な関係をアピールして日米安保体制の重要性を唱えつつも、その米国が脅かしているとさえ言われる自由な経済秩序の主要な守護者として世界で振る舞っています。

またあるいは、中国に関与する政策を事実上放棄したとも言われる米国とは異なり、中国への一定の「関与」を日本政府は続けています。一方、この東アジアでは、韓国に対して信頼関係の欠如を理由に「ホワイト国」待遇から除外するなど、「トランプ型」とも取れる外交も展開しています。

日本が韓国を「ホワイト国」待遇から除外することを伝えるヤフーファイナンス
この日本外交の多様性をどのように理解すればいいのでしょうか。実のところ、米中対立下で日本は大枠としては米国と歩調を合わせつつも、以前よりも独自の外交路線を追求し始めているのでしょうか、少なくとも結果的にそうなっているのではないでょうか。
しかし、対米共同歩調は、相応に首脳間の個人的な関係に依存している部分があり、またその独自性も米中関係が悪化しているという国際環境の結果である部分があるために、米国の大統領選挙や今後の米中関係の帰趨によっては、さらなる調整を迫られることもありそうです。
トランプ大統領(左) s安倍総理(右)
2019年9月に日米貿易交渉がようやく大枠合意にこぎ着けられそうな見通しになりました。ところが、16年の大統領選以来、トランプ大統領の貿易面などをめぐる日本批判は継続していました。
また、安全保障の面での負担問題もまた、トランプ氏の対日批判の重要な要素でした。しかし、悪化する米中関係を尻目に、日米関係は極めて強固だとの印象を内外に与えてきました。しかし、それはトランプ大統領と安倍晋三首相との間の個人的信頼関係、あるいはその印象に基づいているように思えるほど、首脳間の往来や演出が突出しています。

政策面を見れば、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を日米ともに掲げつつ、実態としては米国が軍事安全保障を重視するのに対して、日本は経済を含めた「法の支配」など、包括的な秩序形成を想定しており、日米間にやや相違が見られます。

対象とする地域も一致していないようです。このFOIPと一帯一路との関係性についても、日本の方が米国よりも柔軟です。経済貿易秩序の面で見ると、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が発効し、また日欧EPAをも軌道に乗せた日本は、多角的でリベラルな貿易枠組みを重視し、WTO改革にも前向きな姿勢を見せています。

それに対して米国は決してそうではありません。この他、ペルシャ湾問題など、さまざまな局面で日米には少なからず相違点が見られます。もちろん、従来から経済外交やアジア外交の面で、日本外交は米国に対して独自性を有していました。

しかし、ここにきてやはりグローバルな経済貿易秩序や地域的な秩序形成の面で、たとえ米国のTPP復帰を望んでいるとはいえ、米国と一致するわけではない姿勢を、反発を買わない範囲で比較的明確に打ち出しています。
しかし、このように日米間に多くの相違点が見られるようになっているからと言って、日中が接近している、というのでもありません。首脳交流が以前よりも頻繁に行われてはいるものの、東シナ海での中国の海警の活動は一層活発になり、また解放軍の動きも従来と同じかそれ以上です。最近では北海道大の男性教授が北京で拘束されるという事件もおきました。
結局、軍事安全保障面での緊張は依然継続しています。しかし、米国との厳しい関係を処理せねばならない中国からすれば、世界第3位の経済大国である日本との関係を悪化させたくはないし、軍事安全保障面でも東アジアで中国への警戒が過度に強まり、日米が一致して対中強硬になることも防ぎたいでしょう。
そのため短期的には日本との関係改善の演出をしているようです。それに対し、日本側としても対米関係で難しいかじ取りを求められる中で、あえて対中関係を「こじらせる」必要もありません。
また、東アジアの地域秩序の面でも、RCEPや日中韓FTAを推進し、自国の国益のために高関税をかける政策が広がらないようにする点では日中の利害は基本的に一致しています。
自由で開かれたインド太平洋地域を標榜する日米

また日韓関係に問題が発生しても、それが長期的には中国に有利ではあるものの、韓国の文在寅政権が中国との関係を「等閑視」していることもあって、特に日中関係に直ちに影響を及ぼすものでもありません。こうした意味では、米中対立だけでなく、他の要素を見ても日中間に関係改善を演出するだけの一定の要素があるとも言えます。
ただ、だからと言って、日中が軍事安全保障面での矛盾も乗り越えて「蜜月」になるのかと言われれば、それも当面はありえないです。
米国でトランプ政権が誕生し、従来とは異なる対外政策を採用し、また中国との対立姿勢を明確にし、他方で東アジアでは各国の対中経済依存もあることから米中対立を懸念する雰囲気が広がりつつ、同時に中国の軍事的な拡大や、新たな中国的な価値観を基礎にした秩序拡大への警戒感が強まっています。
そのために、強固な対米関係を持ち、他の東アジア諸国と同様に中国と深い経済関係を持ちながらも、中国に一定程度「対抗」ができる日本は、従来以上に難しい方程式を解きながら対外政策を考えねばならなくなっています。無論、国内政治も重要な要素です。
日本は米国とは大きな枠組みを共有し、また緊密な首脳間関係を前面に出しながら、個々の案件では独自性を発揮しています。対中関係では軍事安全保障面での「敵対」を大前提にしつつも、二国間関係の関係改善ムードを醸しだし、実際には案件ごとに是々非々で対応して、決して中国のプロジェクトを丸々受け入れたりはしていません。
そうして、グローバルな外交では日本自由な経済貿易秩序や法の支配の擁護者として振る舞い、アジア内部では中国とも協調し、またアメリカ・ファーストを唱える米国との分岐は避けています。
米国が抜けたTPPを発効し、日欧EPAを発効させた日本は世界の自由貿易をリードしている

このようなバランス政策は、同じく米国の同盟国でありながら、過度の米中対立は望まず、他方で自由な経済秩序を維持したい国々、例えばドイツやオーストラリアなどの対外政策とも少なからず重なりを持ちます。
しかし、それぞれの国の個々の案件への対応は多様です。米中それぞれの国内、対外政策も「変数」であり、常に変化します。あるいは、中国よりも米国の方が変数が多いとも言えます。
日本をはじめ多くの先進国は、米中に対する大原則を持ちつつも、情勢を見極めつつ個々の案件ごとに対応するようになりました。これがその対外政策の多様性の背景あるのでしょう。
これを秩序移行期への対応と見るのか、政策が見極めきれないトランプ政権への対応と見るのかについては、もう少し長期的な分析が必要でしょう。私自身は、すでに米国が、挙国一致で対中国冷戦を戦う意思を固めた今日においては、日本の対応は無論秩序移行期への対応であると思います。
特に戦術と戦略にわけて考えるべきでしょう。長期的には、米国と同じく中国の体制が変わるか、変わらないのであれば、経済的に無意味な存在となるまで、経済を弱体化させたいというものでしょう。
ただし、戦術的には中国との関係改善を演出して、短期的に余計な波風をたてないということに注力しているのでしょう。長期的には日本は、米国の対中冷戦を後押しすることになるでしょう。
今後の世界情勢によっては、この多様性の中にある日本の対外政策の独自性が、長期的には新たな展開を見せていく可能性があることを念頭におくべきです。
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