2019年11月14日木曜日

台湾支持を強調するペンス対中演説―【私の論評】今後米国は貿易戦争から、中国共産党を弱体化させることに軸足を移していく(゚д゚)!

台湾支持を強調するペンス対中演説

岡崎研究所

10月24日、ペンス副大統領は、米シンクタンク、ウィルソン・センターで対中政策演説を行い、中国との衝突を望んでいないとしつつ、中国の権威主義的で規範を守らない多くの行動を具体的に指摘しつつ厳しく非難した。ここでは、演説の中で台湾がどのように位置づけられているか見てみる。まず、台湾に触れた個所を2か所紹介する。



1.我々は、中国共産党が中国人民の信教の自由を弾圧していることを指摘してきた。何百万もの民族的・宗教的マイノリティが共産党による宗教的・文化的抹殺と戦っている。

我々は、新疆におけるイスラム少数派の取り扱いにつき北京に説明を求めてきた。9月、トランプ大統領は、ウイグル人その他の中国のイスラム教徒迫害のかどで、共産党幹部にビザ発給制限を課し、20の治安当局と8の中国企業に制裁を科した。

そして、我々は、苦労の末に手に入れた自由を守ろうとしている台湾の味方である。トランプ政権下で、我々は、追加的な武器売却を承認し、世界で最も貿易が盛んな経済体としての台湾、中国の文化と民主主義のかがり火としての台湾をよく認識している。

そして、我々は、何百万もの香港の人々が平和的デモに繰り出すたびに、彼らのために発言してきた。トランプ大統領は、当初から、1984年の中英共同宣言にある通り、香港人の権利を尊重する平和的解決がなければならない、と言ってきた。

2.トランプ政権は「一つの中国」政策の尊重を続けるつもりだが、この1年、中国は札束外交を通じて更に2か国の外交的承認を台湾から中国に替えるように仕向け、台湾の民主主義に対する圧力を強めている。

国際社会は、台湾への関与が平和を脅かすものではないということを決して忘れるべきではない。それは、台湾と地域全体の平和を守ることになるのだ。米国は常に、台湾が民主主義を受容していることは全ての中国人により良い道を示している、と信じている。

参考:‛Remarks by Vice President Pence at the Frederic V. Malek Memorial Lecture’, October 24, 2019

ペンス演説の中核には、中国が自由、人権、民主主義、国際的規範を守らないことへの強い非難がある。演説では、台湾を、そうした中国と対照的な存在として称賛し、強く支持している。

上記で紹介した1か所目では、新疆―台湾―香港が自由をめぐる戦いのラインとして効果的に描かれている。台湾は自由、民主主義、繁栄の象徴である。新疆、台湾、香港は、いずれも中国が「核心的利益」と位置付けている。ペンス演説からは、そういうことは認められないという米国の強い意志が伝わってくる。

2か所目では、台湾の平和と民主主義を守ることが、台湾のみならず地域の平和と安定に資すると、国際社会に強く呼びかけている。これは、最近の蔡英文総統の「自由、人権、民主主義の価値を共有する国々が結束して中国の権威主義に対抗しなければならない」「台湾が中国から受けている嫌がらせや圧力は、明日は他の国にも降りかかり得る」といった主張と軌を一にしている。仮に来年の総統選挙で台湾に、中国との関係を重視する国民党政権が誕生すれば、中国との対決姿勢を辞さない、現在の米国の対中政策とは齟齬をきたす恐れがある。したがって、来年1月の総統選挙は、地域の安定と平和にとり極めて重要である。米国が蔡英文政権に対して事実上の支持を表明するのは自然なことである。

なお、台湾の外交部(外務省)はペンス演説を受け、10月25日、演説に感謝を示すとともに、米国など理念が近い国家との連携を継続し、共に民主主義と国際秩序を守っていく姿勢を、改めて表明している。

【私の論評】今後米国は貿易戦争よりも、中国共産党を弱体化させることに軸足を移していく(゚д゚)!

以下に、まずペンス副大統領のウィルソン・センターで対中政策演説の動画を掲載します。


このブログでは、10月24日のペンス副大統領の演説は断片的には掲載していますが、全体を掲載して解説したことはありません。本日は、全体を要約しつつ解説しようと思います。

なお、このペンス演説の文字おこしは、以下のリンクからご覧になれます。(英文)


では以下に要約と解説を掲載させていただきます。

(1) トランプ大統領は中国の時代を終わらせた

ペンス氏: わずか20年未満の間に「世界史上最大の富の移転」が見られました。過去17年間で、中国の国内総生産(GDP)は9倍以上成長した。世界で2番目に大きな経済国となりました。この成功の多くは、米国から中国への投資によるものです。そうした時代は終わりました。トランプ大統領は、3年未満でその物語を永遠に変えました。

補足解説: 日本も1990年代より一貫して、中国を重要なビジネスパートナーとしてきました。ところがGDPの成長を見れば、中国は儲かり、日本が衰退したことは明らかです。日本の富もまた、米国と同じく、中国に流出しています。貿易は本来、ウィン・ウィンの関係でなければならないはずです。

(2) 米国経済は強くなっている

ペンス氏: 専門家は、「わずか数年で中国経済が米国経済を上回る」と予測していました。しかし、トランプ大統領が進めた大胆な経済政策のおかげで、すべてが変わりました。大統領は、アメリカ史上最大の減税と税制改革に署名しました。結果、米国経済は世界史上最も強くなっています。

補足解説: 対中貿易などの不均衡の是正や、米国史における歴史的な税制改革により、米国は再び力を取り戻しました。そして、中国を引き離していのか。日本は「増税路線」を続けていますが、これが誤りであることを米国は教えてくれています。

(3) 中国は宗教者を苦しめている

ペンス氏: 少数民族や宗教的少数派の数百万人が、宗教的・文化的なアイデンティティーを根絶しようとする、中国共産党の試みに苦しんでいます。中国共産党は、キリスト教の牧師の逮捕や聖書の販売禁止、教会の破壊、100万人以上のイスラム教徒のウイグル人の投獄に及んでいます。

補足解説: 中国は、高度な監視システムなどを通じて、宗教者の自由を著しく侵害しています。これを受けて米国は、中国外交官の米国国内での行動を規制するなど、対抗措置を打ち出しています。

(4) 中国は尖閣諸島などを脅かしている

ペンス氏: この1年間での中国の軍事行動や近隣諸国へのアプローチは、ますます挑発的になりまはた。中国の指導者たちは、2015年に「南シナ海を軍事化するつもりはない」と述べましたが、人工島に対艦ミサイルや防空ミサイルなどを配備しました。

東シナ海では、緊密な同盟国である日本において、中国の挑発に対する緊急発進の回数が今年、過去最多となる見通しです。また中国の沿岸警備隊は、日本に施政権がある尖閣諸島の周辺海域に60日以上連続で艦船を送り込みました。

補足解説: 中国の挑発はエスカレートしています。日本人14人を「反スパイ法」を根拠に逮捕し、すでに9人を起訴するなど、「人質外交」まで展開しています。それにもかかわらず、日本政府は「完全に正常な軌道へと戻った日中関係を新たな段階へと押し上げていく」との立場を示しています。日中関係が正常ではないということは、誰が見ても明らかです。

(5) アメリカは台湾を支持する

ペンス氏: 私たちの政権は、これからも「1つの中国」政策を尊重していきますが、中国はここ数年の小切手外交を通して、台湾を承認している2カ国以上に、中国の承認へと変えるよう仕向け、台湾の民主主義への圧力を強化しています。

補足解説: 台湾との関係を強化することが、中国との約束を反故にすることにはならないと強調しました。ところが、そのような中国は今や、台湾に「一国二制度」を受け入れるように迫り、現状変更を試みています。日本はそれを追認・黙認せず、台湾を強力にサポートすべきです。

(6) アメリカは香港とともにある

ペンス氏: この1年の間で、自由に対する中国共産党の反感を、香港の情勢ほど示したものはないです。トランプ大統領は、「米国が自由を支持する」と明言してきました。(拍手) 私たちは国家の主権を尊重します。

当局が香港の抗議者に対して暴力で訴えれば、米国との貿易交渉を妥結するのは、一層困難になると繰り返し言及してきた。(拍手) 米国は香港の人々を尊重するように中国に促し続けます。そしてここ数カ月、権利を守るために平和的にデモを行ってきた香港の数百万人の人たちと、私たちはともにいます。

補足解説: 米国が改めて、香港をサポートすることを明確にしました。香港の民主活動家をはじめ、デモに参加・賛同する多くの人々が勇気づけられるでしょう。


ちなみに、香港情勢はますます悪化の一途をたどっているようです。以下に本日の香港に関するツイートを掲載します。



(7) 検閲を受け入れる米企業は「非米国的」

ペンス氏: 人権侵害を故意に無視する進歩的な企業文化は、進歩的ではありません。それは抑圧的です。(拍手) 米国の企業、プロスポーツ、プロ選手が検閲を受け入れるならば、それは単なる間違いではなく、非米国的です。米国企業は、国内と世界で米国の価値観のために立ち上がるべきです。

補足解説: ペンス氏は昨年10月の演説で、プライバシーを軽視するグーグルを批判し、行動を改めるように要求しました。根底には、利益追求を第一とする「グローバリズム」への批判があります。日本の一部企業も、中国の経済的利益に誘惑され、中国の要求に屈しています。

演説はアメリカ政府の公式見解

ペンス氏の演説は今年6月から延期され続け、ようやく行われた形です。内容は、昨年の演説に続いて、中国共産党体制を厳しく糾弾するものとなりました。だが前回の演説では、香港情勢への言及はありませんでした。この1年で起きた問題を反映したという意味で、今回の演説は、「最新のアメリカ政府の公式見解」として注目に値します。

日米の演説を見比べると明らかですが、米国の政治が優れている点は、「善悪の価値判断」を明確にすることです。米国は、「自由」「民主」「信仰」といった普遍的な価値観に基づき、我が国はこのような意思決定を行う、ということを明確に示しています。日本の発信力に足りないのは、この点です。

日本は米国の対中国政策と共同歩調をとり、世界の平和に貢献すべきでしょう。

台湾に関しては、このブログでも以前から述べてきたように、本来大陸中国こそ現在の台湾の民主的な制度を参考にしつつ、受け入れるべきなのです。

これは、ベンス副大統領の演説の「米国は常に、台湾が民主主義を受容していることは全ての中国人により良い道を示している、と信じている」という言葉にあるように、米国もそのように考えていることがわかります。

台湾にできたことが、大陸中国ではできないはずはありません。それを阻止しているのが、中国共産党なのです。



このペンス演説に続き、ポンペオ米国務長官は8日、ドイツのベルリンで演説を行い、米中の対立について「米国と中国共産党政権の対立であり、平和を望む世界各国と中国共産党政権による全体主義の戦いである」と強調しました。

今後米国は、対中国冷戦に関しては、単なる「貿易戦争」の次元から、中国共産党を弱体化させることに軸足を移していくことになるでしょう。「貿易戦争」はそのためのツールの一つに過ぎないということになるでしょう。

日本としても、習近平を国賓として招くような真似をすれば、世界、特に米国に誤ったイメージを植え付けかねません。これは取りやめたほうが良いでしょう。そうして、そうすれば、そもそも招くことを最初からしなかったよりも、さらに多くの打撃を習近平と中国共産党に与えることができると思います。

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2019年11月13日水曜日

【国家の流儀】韓国と連動して中国、ロシア、北朝鮮による「日本海」争奪戦が始まる…安倍政権はどう対応するか―【私の論評】二正面作戦不能の現在の米軍では、日本を守りきれないという現実にどう向き合うか(゚д゚)!


海自のイージス艦「あたご」

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、数年前から日本の防衛費を上回る軍拡を推進しており、このままだと対馬海峡をめぐって日韓「紛争」が起こることになりかねない。

 もちろん、同盟国・米国は、韓国の「暴走」を必死で押さえ込もうとしている。日韓が紛争を引き起こせば、北朝鮮や中国、ロシアを喜ばせるだけだからだ。

 しかし、残念ながら文政権は、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定するなど、米韓同盟を空洞化させる方向に進んでいる。しかも厄介なことに、この文政権の背後には中国共産党政権がいる。

 2017年12月に訪中した文氏は、習近平国家主席から、(1)米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備はするな(2)米国のミサイル防衛に参加するな(3)日米韓の安保協力を軍事同盟に発展させるな-の「3つのNO」(三不の誓い)を突き付けられた。この指示通りに、文政権は「離米・反日」を強化しているわけだ。

 この韓国と連動して、今年に入って中国、ロシア、北朝鮮による「日本海」争奪戦が始まった。

 日本海の「大和堆(たい)」という豊かな漁場で違法操業を続けている北朝鮮は、日本の排他的経済水域(EEZ)周辺に連続してミサイルを発射しているが、日本政府は「遺憾の意」を示すだけだ。そうした弱腰に付け込んで、中国やロシアも日本海での活動を活発化させており、7月には中ロ両国の爆撃機が空中集合したうえで、対馬海峡を抜けて東シナ海まで編隊飛行する合同パトロールを実施した。

 東シナ海では、沖縄県・尖閣諸島を含む南西諸島沖に連続で60日以上にわたって、中国海軍の軍艦や海警局の巡視船が出没し、領海「侵入」事件が続いている。中国軍機による挑発行為も深刻で、自衛隊機によるスクランブル発進は過去最多になりそうだ。

 私が知る米軍関係者も「日中両国は、東シナ海で事実上の『戦争状態』にある」と憂慮を隠さない。そうした危機感を背景に、マイク・ペンス米副大統領も10月24日、「米中関係の将来」と題する演説で、東シナ海における「親密な同盟国である日本」に対する中国の軍事的挑発を激しく非難した。

 安倍晋三政権は、海上保安庁第11管区海上保安本部の定員を大幅に増員し、600人を超える「尖閣警備専従部隊」を創設するなど、尖閣を含む東シナ海を必死で守ろうとしているが、劣勢だ。しかも、「紛争」は今年に入って、日本海にも波及しつつあるが、自衛隊と海上保安庁の現有能力で対応できるとはとても思えない。

 南シナ海が奪われ、東シナ海も風前の灯、そして、今度は日本海だ。中国、ロシア、韓国、そして北朝鮮による連携「攻勢」にどう対応するか。大局を見据えた国家戦略の見直しが急務だ。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『天皇家 百五十年の戦い』(ビジネス社)、『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(PHP新書)など多数。

【私の論評】二正面作戦不能の現在の米軍では、日本を守りきれないという現実にどう向き合うか(゚д゚)!

冒頭の記事で、江崎氏が指摘するように、日本海の争奪戦がはじまるかもしれない可能性は確かにありますが、ではすぐにそれが実行されるかといえば、すぐにはないというのが正解だと思います。なぜなら、日本には現在世界で唯一の超大国である、米軍が駐留しているからです。

韓国、中国、ロシア、北朝鮮等が日本海をいずれ我がものしようとしても、米軍が駐留している日本に対しては、挑発くらいしかできません。本格的に奪うことなどできません。

しかし、争奪戦が始まり実際に奪われる可能性も、否定できません。それはどのような場合かといえば、このブログでも以前指摘させていただいたように、中東などで大規模な戦争がはじまり、それに米軍が介入したときなどです。

現在の米軍は、残念ながら世界の警察官として、大規模な二正面、三正面作戦などできません。米国も関与する本格的な戦争が世界で、一箇所にとどまらず二箇所、三箇所と起こってしまえば、米軍は一箇所だけを優先的に選択して戦争するしかなくなります。

米軍の海外配置の状況(グァムは米国領なので含まず)

中東などで米軍が大規模な作戦を遂行しているときに、日本海で同時大規模な作戦を遂行する能力は今の米軍にはありません。

これについては、以前のブログにも掲載したことですが、最近米国のシンクタンクが、これについて研究した結果を発表しています。

中露や中東の軍事的脅威に対応する米軍の能力が「限界」にあるという厳しい評価が下されたのです。これは、米軍事専門シンクタンクによるもので、「現在の姿勢では、米軍は重要な国益を守るとの要求に、わずかしか応えられない」と強調しています。

問題なのは、特に海軍において、この相対的弱体化に即効性のある解決策がないことです。「世界最強」のはずの米軍に何が起こっているのでしょうか。

評価は著名な米保守系シンクタンクのヘリテージ財団によるものです。同財団が10月末に発表した「2020年 米軍の軍事力指標」と題する年次報告書は、米陸海空軍と海兵隊の軍事的対処能力を、非常に強い▽強い▽限界▽弱い▽非常に弱い-の5段階で評価しています。ただ、基準は「2つの主要な戦争を処理する能力」などとしており、2正面作戦を行うにおいての評価であるあたりが超大国米国らしいです。

とはいえ、中東ではイランの核開発、南シナ海では中国の軍事的膨張、さらに北朝鮮の核ミサイル開発と、地域紛争が偶発的に発生しかねない「火薬庫候補」は複数あり、2正面を基準にするのは米国としては当然の条件です。

この5段階で「限界」とは、乱暴な言い方をすれば「戦争になっても勝てるとは言えず、苦い引き分けで終わりかねない」、あるいは「軍事的目標を達成するのは容易ではない」ということです。

同報告書では欧州や中東、アジアの3地域での軍事的環境を分析。例えば中国については「米国が直面する最も包括的な脅威であり、その挑発的な行動は積極的なままであり、軍事的近代化と増強が継続している」などと、それぞれの地域の脅威を明らかにしたうえで、対応する陸海空軍などの米軍の能力を個別評価しています。ところが驚くことに、その内容は、「限界」ばかりなのです。


米陸軍女性兵士

まず陸軍は、昨年に引き続き「限界」のまま。訓練や教育など多大な努力により旅団戦闘団(BCT)の77%が任務に投入できる状態となった点は高く評価されたのですが、兵力を48万人から50万人に増強する過渡期にあり、その準備や訓練に加え、陸軍全体の近代化が課題となっています。

米海軍女性兵士 ネイビー・シールズ隊員

さらに問題なのは海軍です。前年同様「限界」ですが、内容は厳しいです。まず艦艇の数で、「中国海軍300隻と(海軍同様の装備を持つ)175隻の中国沿岸警備隊」(米国海軍協会)に対し米海軍は290隻。トランプ政権は「2030年代までに海軍の保有艦艇を355隻に増やす」との構想を持っています。一部には予算面から、この構想の無謀さを指摘する声があるのですが、本当の問題は355という数字をクリアすることではなく、艦艇の運用面、いわばクリアした後にあるのです。

海軍艦艇は整備と修理や改修、耐用年数延長工事や性能アップのため、定期的にドック入りして「改善」を行う必要があります。一般的に、全艦艇の3分の1はこうした「整備中」にあり、訓練中も含めれば、即時に戦闘行動に投入できるのは半数程度とされます。

ところが米海軍には、大型艦艇に対応するドックが足りないのです。全長300メートルを超える原子力空母ともなれば、ドック入りしなければならないのに他の艦船が入渠(にゅうきょ)しているため、順番待ちが生じている状態なのです。

米国海軍協会などによると、米海軍原子力空母11隻のうち現在、任務として展開しているのはロナルド・レーガン▽ジョン・C・ステニス▽エイブラハム・リンカーン-の3隻のみ。ニミッツをはじめほか8隻はドックで整備や部分故障の対応中といった状態なのです。

しかも空母に限らず米海軍艦艇がドック入りした際の整備の工期は、予定を大幅に超える事態が頻発しているというのです。

過去のオバマ政権時の軍事予算削減が響き、ドックも足りず、整備できる人間の数も足りないのです。このような状況でなお艦艇数を増やしても、整備や修理待ちの列が長くなるだけです。また原子力空母の多くが建造後20年が経つということに代表される、各種艦艇の老朽化、さらには新型艦の不足も海軍を悩ませています。

報告書では「資金不足と利用可能な造船所の一般的な不足により、艦艇のメンテナンスが大幅に滞り、配備可能な船舶と乗組員に追加の負担がかかっている」と指摘されています。

確かに、このような状態で中東と南シナ海、あるいは朝鮮半島で緊迫した事態が発生したらと考えると「限界」の評価はうなずけます。ベトナム戦争の際、米海軍はベトナム近海に常時数隻の空母を展開していたのですが、現状の3隻、訓練中を含めても5~6隻の稼働では「2正面の展開」は困難です。

米空軍女性パイロット

一方で空軍は前年の「弱い」から「限界」にランクアップという、とても素直には喜べない状態です。

戦闘機と攻撃機の数が必要数の8割にとどまっているほか、パイロットの不足などをこの評価の理由にあげています。また海兵隊も「限界」で、近接支援を行う武装ヘリなど海兵隊配備の航空機の維持や保守要員の不足などがマイナスとなりましたた。

報告書は「(米軍は)現在の作戦と準備レベルの維持に人的・物的資源が振り向けられているため、近代化プログラムは苦戦している」としたうえで、「現在の姿勢では、米軍は重要な国益を守るとの要求に、わずかしか応えられない」と結んでいます。

なかでも海軍には「水平線の向こうに警告を示す不吉な雲が見えている」との表現で、“進路”を変えるなら今だとの警鐘を鳴らしていますが、まずはドックから作らねばというのは、「おいしいおにぎりを食べたいから、まず水田を作ろうや」という状態ともとれます。トランプ米大統領が北大西洋条約機構(NATO)や日本に軍事的対処能力の向上を求めるのも当然といえば当然なのです。

このようなお寒い状況では、確かに米軍大規模な二正面作戦などできません。中東で米軍が大規模作戦を実行し始めた場合、日本海で大規模な侵略があった場合、米国はこレに十分に対処できない可能性が大です。

かといって、米国ではシェール・オイルの採掘によって、石油は自国で賄えるようになったため、米軍が中東から引き揚げ、現在中国の台頭に悩まされているアジアに主力を置くようにすれば、日本にとっては一見良いようにみえるかもしれません。それで、今まで通り、日本は米国に守ってもらえると安堵するかもしれません。

しかしそれだけでは、日本自体は、安全が確保されるかもしれません。しかし、米軍が引き揚げた中東は不安定化するでしょう。原油の輸入を頼っている日本とししては、これは死活問題です。中東に原油を頼る、他先進国とも協調しつつ、中東に大規模な軍隊を派遣して、中東の安全保障を確保しなくてはならなくなります。

いずれにしても、日本の安全保障は今のままでは、脅威にさらされることになります。まずは、現行の憲法や法律でできることはすべて実行するべきです。防衛予算は、現行のままでも増やすことはできます。無意味な1%枠など捨て去り、少なくとも2%に増額して、同盟国である米国等とも協調しつつ、アジアと中東の安全を確保すべきです。

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2019年11月12日火曜日

実弾発砲、催涙ガス…香港騒乱さらに泥沼化 中国武装警察も本格介入―【私の論評】香港擾乱は「死のハイウェイ」のインパクトに匹敵!中共は「潮時」をわきまえないと滅びの道を歩むことに(゚д゚)!

実弾発砲、催涙ガス…香港騒乱さらに泥沼化 中国武装警察も本格介入


香港のデモが泥沼化している。「逃亡犯条例」改正案を発端に抗議活動が続くなか、警官が実弾を発砲、21歳の男子学生が重体となった。金融街にも催涙弾の白煙が立ちこめ、香港株は暴落した。専門家は中国の習近平政権の鎮圧が一段と強化されると指摘、武装警察に加え、人民解放軍が介入する恐れもあると警告する。

香港島東部・西湾河の地下鉄駅前で11日、道路に障害物を置くなど抗議活動を行っていた若者と黄色いベストを着用した警官がもみ合いとなり、そこに近づいた黒シャツ、マスク姿の男子学生が、1メートルも満たないような至近距離で警官から発砲を受けた。

撃たれた男性は腹部から流血したが警官は手当てをする様子もなく、荒々しくうつぶせに拘束。別の若者が近づいた際にも2発撃った。

報道によると、男子学生は集中治療室(ICU)に入り、緊急手術を受けた。銃弾は脊髄付近に届き、肝臓や腎臓の一部が傷ついたため切除したという。

発砲による負傷者は10月の2人に続き3人目だが、香港警察は「脅威を感じたため発砲した。事前に警告する時間はなかった」と正当性を主張。林鄭月娥行政長官も「暴力行為を社会全体が厳しく非難すべきだ」と同調し、今後も厳しく取り締まる方針を表明した。

評論家の石平氏は「今月に入って林鄭長官は、習主席と面会し、長官への“信頼”という名の圧力をかけられた。そのため香港に戻った後、鎮圧がエスカレートしている。もはや市民と政府との関係は修復できないだろう」と解説する。

自由経済都市としての香港も失われつつある。銀行や証券会社が集まる金融街セントラル(中環)では白い催涙ガスが立ちこめ、スーツ姿の会社員ら大勢の市民が逃げ惑った。

■香港株は暴落

11日の香港株式市場でハンセン指数は2・62%下落。1日当たりの下げ幅としては過去3カ月で最大となった。

ネット上には、1人の市民を4人ほどの警官が取り囲み、警棒で袋だたきにする様子や、バイクに乗った警官が市民を意図的にはねようとする映像も投稿されている。



前出の石平氏は「習政権の体制維持のために、市民と香港そのものが二重の意味で“殺されている”。中国の武装した公安警察が香港警察に入り込んでおり、今後、鎮圧の規模を拡大させるだろう。それでも国際社会が無視し続けるのならば、最後は人民解放軍が市民を襲う恐れもある」と指摘した。

第二の天安門事件の現実味が日に日に強まっている。

【私の論評】香港擾乱は「死のハイウェイ」のインパクトに匹敵!中共は「潮時」をわきまえないと滅びの道を歩むことに(゚д゚)!



香港の様子は、サイトの動画等で今何が起こっているのかがよくわかります。これらの、動画は世界中に拡散されています。

これによってどのようなことが起こるのか、考えてみたいと思います。これらの動画が与えるインパクトは相当なものです。

私が、これらの動画を見ていて思い出したのは、28年前、戦争史上最悪の大虐殺のひとつと言われた、クウェートの町から32キロ西にあるイラクのハイウェイ80で起きた奇襲攻撃のことです。

多国籍軍が数キロの長さに渡って渋滞に掴まった車両を軍民問わずに爆撃したこの道路は後に「死のハイウェイ」称されました。下にショッキングな写真を掲載します。

死のハイウェイで撮影されたイラク兵の焼死体


この写真は、最初は多くの人々から公表するのは、残酷すぎると見なされていましたが、後に最初の湾岸戦争の最も有名な画像の1つになりました。この写真はケン・ジャレックにより撮影されました。

おそらく、爆撃で焼死したイラク兵だと思われます。非常に残酷で恐ろしい写真ですが、この一枚が湾岸戦争の実体を物語っていると思います。

当時はまだ、サイトや動画などは一般的ではありませんでしたが、それでも多くのテレビ局が連日のように、報道したので、多くの人々が「死のハイウェイ」を視聴したと思います。私が一番印象に残ったのは、この「死のハイウェイ」に、お人形が放置されていた画像でした。その画像を探してみたのですか、みつかりませんでした。あまりに衝撃的だったので、削除されてしまったか、最初からサイトには掲載されていないのだと思います。

湾岸戦争中の1991年2月26日~27日(シリア2月27日午前0時)にかけての夜、一時停戦を受けて多くのイラク兵や民間人がバグダットへ向けて引き揚げていました。ところが、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領が撤退中のイラク軍を徹底的に一掃するよう米軍に命令したのです。

多国籍軍の戦闘機が非武装の車の列を襲撃し、先頭と最後尾を破壊して身動きがとれないようにしました。そこへ長時間にわたって次から次へと空から攻撃を繰り返し、この大虐殺が終わったときは、徹底的に破壊しつくされた2000台の車両と、数万のイラク兵の無残な黒焦げ遺体が何マイルにもわたって残されていました。

死のハイウェイ

のちにここは「死のハイウェイ」として知られるようになりました。バスラに続く別のハイウェイ8号にもさらに数百の残骸が累々としていて、このふたつの道路の惨状は、湾岸戦争のもっとも象徴的なイメージとなりました。

この前日、バグダッドはイラクの外相がロシアの停戦提案を受け入れ、国連の議決案に従って、すべてのイラク軍にクウェートから撤退するよう命令したとラジオで伝えました。

ところが、ブッシュはこれを信じず、イラク軍が撤退している証拠はないと返答し、彼らはまだ戦いを続けているので、戦争を続行するとしました。翌日、イラクのフセイン大統領は自ら、ラジオを通してふたつのハイウェイで撤退は始まっており、この日のうちに完了すると伝えました。それでもブッシュは、フセインのこの声明をまったくのでっちあげだと決めつけました。

イラクの降伏と戦場からの撤退を受け入れるどころか、米国にとって不利になりかねない危険な決定を下しました。ブッシュと米軍は、ただひたすらできるだけ多くのイラク人を殺すという暴挙に出たのです。

爆撃は真夜中近くに始まり、まず、米軍とカナダ軍の戦闘機がイラク軍の車の列の先頭と最後尾を攻撃し、隊列が進むことも引くこともできなくさせておいて、集中的に爆撃を繰り返しました。米中央軍の最高司令官は、ブッシュ陣営からひとりもクウェートから出すなという命令を受けていました。

ハイウェイから逃げ出した車両は、一台残らず執拗に追いかけられて破壊されました。降参して非武装のイラク兵たちですら、砲火を浴び、生き延びることができた者はひとりもいなかったと言われています。

「トラックの運転席は激しい爆撃で地面にめりこんでいた。運転手がいたのかどうかすらわからない。フロントガラスは溶けて、大きな戦車がただの破片と化していた」レバノン系アメリカ人ジャーナリスト、ジョイス・チェディアックは書いています。

「撤退しているイラク軍兵士たちを虐殺したことは、民間人および戦闘行為から離脱した戦闘員や捕虜の保護するために結ばれた1949年のジュネーブ条約に違反している。イラク軍は米軍にクウェートを追い出されたわけではなく、再び武装して戦うために退却していたわけでもない。ただ撤退して、家に帰ろうとしていただけだ。このような状況で、ただ国に帰ろうとしている兵士を攻撃するのは戦争犯罪だ」

「ベトナムでさえ、こんなことは起こらなかった。あまりにもひどい」と言うのは、軍諜報部のボブ・ニュージェント少佐。

「この事件でもっとも醜い面は、これが隠蔽されていたことだ」マルコム・ラガーチェは書いています。このことが『ニュースデイ』(ニューヨークの新聞)にすっぱ抜かれたとき、誰もが驚きました。米上下両院軍事委員会によると、ペンタゴンはこの攻撃の詳細を委員会に秘密にしていたといいます。

ノーマン・シュワルツコフ将軍

メディアにもまったく違う話が伝えられていました。米指揮官はイラク軍は自発的に撤退したのではなく、多国籍軍によって戦場から追い出されたと思わせようとしたのです。4年後、ノーマン・シュワルツコフ将軍は、死のハイウェイで起こったことを正当化しようとしました。

「クウェートから北へ延びるハイウェイを爆撃した第一の理由は、ハイウェイ上に大量の軍装備品があったからだ。わたしはすべての指揮官に、イラクの軍装備をできる限り破壊するよう命令を下した。第二の理由は、この集団は一般庶民が国境を越えてイラクに戻ろうとしていたわけではなく、クウェート市内で暴行や略奪を繰り返していた凶悪犯、殺人者たちだったからだ。彼らは捕まる前に国外へ逃げ出そうとしていたのだ」

しかし、どんな言い訳をしたところで写真に残されたこの惨劇は当時の何がおきたかを赤裸々に物語っています。この爆撃は複数の国連監視団員によって、逃亡中かつ非戦闘中のイラク兵が激しい渋滞に掴っていたハイウェイで広範囲に渡って行われた計画的な爆撃であり、戦争犯罪であるとして引き合いに出されました。

 

ブッシュ(父)大統領は、この「死のハイウエイ」の画像を見て、湾岸戦争を終了させることを決定したと言われています。ブッシュ政権の中には、イラクに侵攻して、フセイン政権を打倒すべきと主張する人々もいましたが、あまりに凄惨な画像に「今が潮時」であると考え、停戦を決めたようです。

もし、米軍が「死のハイウエイ」の後も、戦争を継続していれば、米国に対する他国の非難もかなり高まったことでしょう。ブッシュも、湾岸戦争を遂行した人々も、責任を問われることになっていたかもしれません。

無論、現在の香港の出来事は、湾岸戦争よりは規模が小さく、爆撃や砲撃などが行われているわけでもありません。おびただしい死者がでているわけでもありません。

ただし、一ついえることは、その衝撃性においては、香港の暴動は、湾岸戦争に匹敵するということです。なぜなら、湾岸戦争のときは、ネットも手軽に動画を撮影できるスマホなどが発達していなかったため、今日の香港のようにリアルタイムに近いくらいに、現場を見ることができなかっからです。

「死のハイウェイ」に関しては、たしかに米軍の記録などに残ってはいますが、攻撃を受ける側のものではなく、攻撃する側のものであり、ネットなどで公開されているものも、薄ぼんやりしていて、あまりはっきりしていません。

ところが、今日の香港では、スマホなどでリアルに見ることができます。実際、先の動画にもあるように、若者が撃たれ倒れました。それを立たせようとする警察官の姿がはっきりと写っています。

このような生々しい画像は、湾岸戦争でもあまり見られませんでした。当時のカメラは、フィルム式でしたので、撮影した直後にそれを配信することはできませんでした。しかも、カメラ自体が高価であり、多くの人がそれを所有することはできませんでした。

そのため、当時は「死のハイウェイ」は、爆撃が終了した後ではじめて見ることができるものであり、爆撃を受けている側の視点で、爆撃を受けているまさにその時などは、見ることなどおよびもつきませんでした。

しかし、現在の香港では、多くの人が鮮明な画像・動画を撮影できるスマホを持っています。これらが、どこの現場でも、現場の香港警察の動向を写し、すぐに世界中に配信できるのです。

習近平も、林鄭 月娥(りんてい げつが、キャリー・ラム)も、このことを軽く見ていたかも知れません。

林鄭 月娥(りんてい げつが、キャリー・ラム)(左)と習近平

今までも、香港デモは生々しく全世界に配信されてきましたし、これからも配信され続けるでしょう。そうして今日の、青年を銃で撃ち、それだけではなく、その瀕死の青年を無理やり立たせようした警察官の姿は、多くの人々の心に、焼き付くでしょう。

香港の騒動は本来はもう、ブッシュ(父)が湾岸戦争を終結させるのを決意したときと同じく、「潮時」なのです。しかし、林鄭と習は、そのことに気づいていないようです。

習近平は、中国では建国以来、毎年2万件以上の暴動が発生していましたし、2010年移行は10万件以上も発生しているといわれていて、これらを鎮圧してきた実績があるので、香港もどうにでもなると考えているのでしょう。香港での暴動にも鈍感なのだと思います。それが、習近平や中共の命取りになるかもしれません。

香港には、多数の英国籍の人や外国人が存在します。さらに、表面上は香港人にしかみえず、実は外国籍という人も大勢います。これらの人々が、逐一香港の現在の状況を把握しているのです。そうして、それは無論海外にも拡散されていきます。このあたりが中国本土とは異なるところです。それを習近平はあまり理解していないようです。

林鄭は、習近平と会談して、結果として習近平にプレッシャーをかけられたため、なんとかしなければいけないと考えているのでしょう。

このまま、中国がさらに鎮圧を強化していけば、世界中からますます批判されていき、孤立することになるでしょうし、米国の対中国冷戦を正当化させ、冷戦は中国にとってますます過酷なものになっていくことでょう。

日本の安倍総理も、来年は習近平を国賓として招くとしていますが、これも「潮時」とみて、中止もしくは延期することになるでしょう。安倍総理も、ブッシュ氏と同等以上に「潮時」を心得ているものと私は思います。

ポンペオ米国務長官は8日、ドイツのベルリンで演説を行い、米中の対立について「米国と中国共産党政権の対立であり、平和を望む世界各国と中国共産党政権による全体主義の戦いである」と強調しました。

米国は冷戦の方向を単なる「貿易戦争」ではなく、中国共産党政権に矛先を向け、早期に共産党政権を崩壊させるかもしれません。現在の香港の問題は、それを正当化させるものとなるかもしれません。

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2019年11月11日月曜日

エプスタイン報道を放送しなかった「ABCは他のメディア同様に悪い」とトランプ―【私の論評】米大手メディアは、FOXnews以外はすべてリベラル系であることを再認識すべき(゚д゚)!

エプスタイン報道を放送しなかった「ABCは他のメディア同様に悪い」とトランプ


トランプ大統領

トランプ大統領は10日、ABCニュースがジェフリー・エプスタインの性的虐待に関する報道をもみ消した件についての議論に加わり、「もはや報道の自由が失われている!」と宣言した。

トランプのツイートは、ABCニュースに勤めていた際に録画されていた暴露話をリークしたとされるCBSニュース社員の解雇を受けてのものだ――その問題の若手プロデューサーは涙ながらにその話を否定している。

「ABCは他のメディア同様に悪い。今や報道基準は存在していない。マスコミはあまりにも不正直であるため、もはや報道の自由が失われている!」とトランプはツイートした。

大統領は、プロジェクト・ベリタスの創設者で、自称「ゲリラジャーナリスト」のジェームズ・オキーフのツイートに答えていた。そのプロジェクト・ベリタスがABCニュース司会者のエイミー・ロバックの問題発言の録画を暴露していた。

ビデオの中でロバックは、3年前エプスタインの被害者とされるバージニア・ロバーツ・ジェフリーをインタビューし、エプスタインの性的虐待のネタがあったのに、ABCは放送しなかったと不満を漏らしている。ロバックは疑惑を突き止めていたと話し、ビル・クリントン元大統領、アラン・ダーショウィッツ弁護士、そしてアンドリュー王子の名前を挙げている。

ロバックは、「誰もそれが誰か知らない」ため、また王室が局を脅したために、ABC幹部がエプスタインについての報道を過小に扱ったと不満を漏らしている。

「王室関係者はアンドリュー王子についての彼女の訴えを我々がすべて把握していると知り、ありとあらゆる方法で我々を脅した」と、ロバックはその場で思いを爆発させて語っている。

アンドリュー王子、クリントン、ダーショウィッツは不正の疑惑を全て否定している。

ロバックは、同放送局が意図的にエプスタインの報道を没にしたことはないと声明の中で述べ、録画のことを「個人的な不満の瞬間」と呼んだ。

CBSニュースはその後、25歳のプロデューサー、アシュリー・ビアンコを解雇したが、ABCニュースは彼女が――彼女自身は誤りだと主張しているが――録画のリーク者だと特定していた。

トランプはオキーフの投稿をリツイートしていた。そこには、ABCはエプスタインに対する報道を放送せずに、ブレット・カバノー最高裁判事を性的不品行疑惑で「中傷」した、とFOXニュース司会のジェシー・ワターズが非難しているテレビ番組の場面が含まれていた。

「一体全体ABCの編集基準はどこにあるのか」とオキーフは、ワターズのひとコマを引用してツイートしていた。

【私の論評】米大手メディアは、FOXnews以外はすべてリベラル系であることを再認識すべき(゚д゚)!

ABCは、報道機関に特有の、暴動しない権利を行使したのでしょうか。それにしては、この問題の幅は広く、奥行きは深いです。やはりトランプ大統領のいう「もはや報道の自由が失われている!」とみるのが、妥当なのかもしれません。

エプスタイン事件に関しては、このブログではとりあげたことがなかったので、本日とりあげることにしました。

エプスタインは表向きは金融業界で成功した億万長者でしたが、2005年に自身の所有する大豪邸で少女たちに性行為をしていたことが明らかになりました。彼の犯行は裁判でも確定しています。

ジェフリー・エプスタイン

彼は性犯罪者としてSex offender level 3認定を受けていて、これはもう社会の敵と断定されたのと同じようなものです。

彼が凶悪な性犯罪者だったことは確定した事実なのですが、この他に彼が関係する疑惑が2つありました。
1.各界の有力者たちが使う少女人身売買ネットワークがあったのではないか 
2.人身売買サービスを使った人を脅して金をとっていたのではないか (ここで言う人身売買は少女に対して金を対価に性的行為をすることです)
第1のポイントに関しては、すでに彼の豪邸で複数人を相手に性行為をさせられたと証言する女性たちが出ています。彼が最後に逮捕されたのもその容疑があったからです。

彼の豪邸で少女を買春していた複数の男たちの中には有名な人たちの名前がたくさん上がっていて、特に物議を醸しているのが元大統領のビルクリントンやイギリス王室のアンドリュー王子です。

クリントン元大統領は週末にプライベートジェットでエプスタインの島に頻繁に通っていたこともわかっており、またトランプ大統領も「15年の付き合いがある」と2002年のインタビューで言っています。

イギリス女王の息子アンドリュー王子がエプステインの豪邸にいる写真がすでに出ており、被害女性はその写真が「合成ではない」と証言しています。

先日リークされたABCニュースの動画でも、クリントン元大統領を始めとする人たちがエプスタインと関係していることやエプスタインはBlackmail(情報を人質にした脅迫)をすることで財を成したことの証拠が3年前にはそろっていたとAmy Robachが話しています。

このエプスタイン問題は大手メディア以外では情報が多く出回っていて、秘密でも都市伝説でも何でもありません。複数のジャーナリストが調べた結果を公表しているし、エプスタインの豪邸で働いていた人、エプスタインの島に少女を連れてきていた人の証言が出ています。

ではなぜ今回このリークされた動画が重大かというと、大手ネットワーク(放送局)がエプスタイン関係の情報を出すことを許さなかったと言っているからです。元大統領が少女を買春していたことを、現場の人間たちの証言があっても報道しないというのは異常事態です。

人身売買ネットワークがあるだけで大問題ですが、この問題を重大視している人たちはその先にある問題を見ています。

それが2つ目のポイント、エプスタインのBlackmail(ゆすり、恐喝)の話です。

性犯罪を犯したらどんなひとでも社会的に完全に抹殺されるので、絶対にバレるわけにはいきません。ということは、エプスタインに脅されたら口止め料を払うことになります。彼のところで少女たちと性行為する人たちは皆お金持ちですから、自分の身を守るために大金を払うでしょう。

しかし、お金のために有力者たちを脅迫するのは良い考えでしょうか?

エプスタインの豪邸に行っていたのはただの金持ちではなく、有力者たちです。有力者たちを敵に回すということは、自分が消される可能性があるということです。だから有力者たちを脅迫するためには、更に強力な後ろ盾が必要です。

この後ろ盾がエプスタイン問題の核心なのです。エプスタインは金のためではなく、何らかの組織のために動いていたのではないかという話になっていきます。

そもそもエプスタインは10年以上前に有罪が決まっているのに一度も刑務所に入っていません。それを可能にしていたのが彼の強力な弁護団です。どれぐらい強力だったかというと、大手メディアに圧力をかけてエプスタインに関する情報を報道させないぐらい強力だったのです。

しかし弁護士自体にそんな圧力をかける力はありません。弁護士ができるのは「もし報道したらこんな人たちが出てきますよ」とほかの名前を出すことです。つまりエプスタインを守ろうとする組織の伝達係にしかなりません。

ではどんな組織だったらエプスタインをここまで守ることができるのか?どうしてその組織は彼を守っていたのか?

大手メディアを情報統制して、彼を法権力から逃れさせることがどうしてできたのか?

何らかの組織の存在をちらつかせるもう一つの理由がエプスタインの”自殺”です。検死官は彼の首から他殺で付く跡があると証言しています。

もしも彼の”自殺”が、彼の体を解剖した検死官が言ったように他殺であるとしたら、どうやって刑務所内で彼を殺したのでしょうか。

検死解剖で他殺の痕跡がでたにも関わらず、どうして自殺として処理させることが出来たのでしょうか?

これらの一つとしてお金だけで簡単に出来ることではありません。

現時点でエプスタイン問題の人身売買ネットワーク以外の話は証拠らしきものはありますが、未だ核心がつかめていません。エプスタインの証言が決め手になるはずだったのです。

彼がこれまで刑務所に入らなかったのも、脅迫しながら生きてこれたのも、根回しして大手メディアを情報統制できたのも、刑務所内で殺して足がつかないのもCIAやモサドのような特殊な組織が関わっていないとできないことです。

長年エプスタイン問題を取材してきたジャーナリストの中にはエプスタインがCIAのダブルエージェントだという人たちもいて、その線でも確かにそれらしき情報はあるのですが、まだ決定的なものがありません。

CIAの名前が出たら陰謀論に過ぎないと思ってしまう気持ちはよくわかります。しかし、エプスタインの人身売買ネットワークにはイギリス王室のアンドリュー王子も関わっていた証言+証拠となりうる写真も出ており、国際的に重要な人物たちが人身売買ネットワークで少女に性行為をしていたということになれば大きな国際問題になります。

2001年 ヨーク公爵アンドリュー王子(左端)

容疑がかかっている人たちの地位や、やっていることの規模を考えればCIAのような組織が動く現実的な理由があります。

イギリス王室の次男がいるぐらいだったらほかの国の王室や権力者がいてもおかしくありません。もし人身売買ネットワークを王子が使っていたら、イギリス王室はどうなるのでしょうか?これだけでも世界が動きます。これはイギリス王室の存続にかかわる話です。

ABCのリーク動画では"The Palace found out and threatened us a million different ways" とイギリス王室からエプスタインの件に関して圧力があったという話が出ています。

元大統領すら顧客であると思しき人身売買ネットワークがあったというだけでなく、エプスタインにはCIAやモサドのような組織が深くかかわっている可能性があって、大きな国際問題になるはずの事件なのです。

「誰がエプスタインを殺したのか」「誰がエプスタインを守ってきたのか」のこの2点(答えが同じ可能性が高い)がこの問題の行き先で、これは世界を揺るがす大事件です。

このような大事件をもみ消した、ABCニュースの責任は重大です。このブログでは以前から掲載してきたことですが、米国の大手新聞メディアは、すべてがリベラルです。大手テレビ局は、FOXNEWSを除いてはすべてが、リベラルです。

このようなメディアが、保守系のトランプ大統領をどのように報道するか、日本のメディアの安倍嫌い報道をみていると、想像に難くないと思います。今回は、ABCの深い闇が垣間見れたと思います。

米国のリベラル系メディアの報道だけ、見てトランプ大統領を判断するとということは、日本でいえば、大手新聞の朝日、毎日、読売などの記事だけを読んで、安倍政権を判断するというに等しいです。

それでは、安倍政権の本質がわからなくなると同じく、トランプ氏やトランプ政権の実体がわからなくなります。日本のメディアは米国の大手メディアの報道を鵜呑みにして報道する傾向があるので、まともな国際報道ができません。

日本では唯一NHKだけが、まともな国際報道ができそうですが、残念ながら現状では偏向していると言わざるを得ません。

今回のエプスタイン報道のもみ消しということからも、米大手メディアの報道を鵜呑みするのは、危険だというか、米国の一面のみしか見ていないことがおわかりいただけたと思います。

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2019年11月10日日曜日

GSOMIA「日本との問題」米韓同盟とは無関係と韓国高官―【私の論評】焦土化に突き進むことを止められない韓国(゚д゚)!


10日、ソウルの韓国大統領府で記者団と懇談する(左から)鄭義溶国家安保室長、盧英敏秘書室長

 韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は10日、韓国が破棄を決め、失効が迫る日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)について「韓日両国が解決すべき問題で、韓米同盟とは全く関係ない」と強調した。大統領府で記者団と懇談した。

 鄭氏は「韓日関係が正常化されれば延長を検討する用意がある」と述べ、日本側に輸出管理厳格化の撤回を求める立場を表明。一方、失効しても韓国の安全保障への影響は限定的だとの見方も示した。

 協定は23日午前0時(日本時間同)に失効する。エスパー米国防長官が今週訪韓し、韓国政府を説得するとみられるが、奏功するかどうかは一層不透明になった。鄭氏は「韓国の立場から見れば、最近の韓日関係悪化の根本原因は日本がつくった」と強調した。

【私の論評】焦土化に自ら歩むことを止められない韓国(゚д゚)!

韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄によって「コレグジット」が決定的になりました。これは韓国の旧西側諸国(自由主義陣営)からの離脱を意味するもので、「KOREA+EXIT」からなる造語です。

KOREXITについて報道するテレビ番組

昨年から今年にかけて、韓国は元徴用工訴訟や従軍慰安婦問題、海上自衛隊へのレーダー照射問題など、日本に対して嫌がらせともいえる対応を繰り返してきた。そこで、日本政府は戦略を切り替え、これまでの甘い対応から「戦略的放置」に徹してきました。

韓国に対して批判すべき部分は批判するのですが、直接的に対応するのはやめたのです。これは特に首脳外交において顕著であり、韓国側は文在寅大統領が前面に立っていますが、日本側は所轄の大臣どまりの対応を行っています。そして、首相どころか副総理すら前面に出ない戦略をとっています。

たとえば、輸出管理の問題では経済産業大臣が、徴用工訴訟などの外交問題では外務大臣が対応しており、それぞれを個別の問題として扱っていまい。基本的に大臣は省庁の責任者であり、省庁の管轄をまたぐような決定は首相以外はできないことになります。その上で、安倍晋三首相は「約束を守ってほしい」という総括的な発言こそするものの、各省庁の決定には口出ししない方針を堅持しています。

今後、徴用工問題などで日本企業に実害が発生した場合の対応に関しては、麻生太郎財務大臣が「外為法による送金停止もできる」と匂わせましたが、これも一般論として持っているカードを示したにすぎません。

一方、韓国はGSOMIAの破棄について、日本の不誠実な態度が原因だとしています。韓国青瓦台(大統領府)は、光復節の演説で文大統領が日本への対話と協力を求めたことや国際会議の場での対応に関して、「日本の対応は単純な拒否を超え、『国家的自尊心』を喪失させるほど無視した」「外交的な礼を欠いた」と指摘しているのです。これは、日本は何もしていないのに韓国が勝手に自滅していることの表れでしょう。

最近韓国大統領府が公表した安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領による面談の写真(下)は、韓国側が日本側に無断で撮影、公開していたことが判明。両首脳は4日に約10分間、約1年1カ月ぶりに着席で対話。ただし、前準備がなされていなかったため、両国とも英語の通訳を介しての対話であったため、実質5分にも満たない会談だったされます。



これまで、日本は韓国の不当な要求に対して「日本側が折れる」という間違った選択肢をとってきました。一方、韓国はそれを成功体験として捉え、あらゆる問題において「こちらが強く出れば日本側が折れるだろう」という姿勢を示してきました。

しかし、今回ばかりは違ったわけです。いわば、韓国は威嚇のつもりで振り上げた拳を下ろす先を失ってしまい、国民を煽ったために、そのまま振り下ろせば自らに跳ね返るかたちになっています。

GSOMIA の破棄に関しては、米国からも強い圧力がかかっています。韓国政府は事前に米国の合意を得ていると発表しましたが、米側の反応は違っており、国務省と国防総省はそれぞれ強い懸念と失望を表明しています。また、朝鮮日報によると、「米国が理解を示した」という韓国側の説明について米国側が「嘘だ」と否定しており、駐米韓国大使館と韓国外交部に抗議をしました。

そもそも、アメリカは事前に韓国政府抜きで韓国の財界人にGSOMIAの延長を政府に働きかけるよう求めていた。ハリー・ハリス駐韓アメリカ大使が大企業14社の関係者と非公開懇談会を開き、アメリカ側の立場やGSOMIAの重要性について説明した上で、GSOMIAの延長について役割を果たしてほしい旨を伝えたという。

ハリー・ハリス駐韓アメリカ大使

日韓間でもめている輸出管理における米国政府の一番の懸念は、韓国を通じて半導体やバイオテクノロジーなどの先端技術が中国に渡ることです。韓国政府との信頼関係が崩壊しつつある今、米国としては企業側への圧力を強めることで、そうした流出を防ぎたい意向もあるでしょう。

具体的には、まずパテント(特許権)の保有会社をつくらせ、各企業のパテントだけでも米国に移転させることで、米国の輸出管理のネットワークにとどめておくという方策が考えられます。

いずれにしろ、GSOMIAの破棄で日米韓の安全保障上の連携に亀裂を入れた韓国がすり寄るのは、中国や北朝鮮です。しかし、米国は次代の覇権国の地位を狙う中国と貿易や5Gをめぐって激しい衝突を繰り返しています。そのため、中国側についた国の末路がどうなるかということを、世界中に見せつける必要があります。言い換えれば、今後は日米が連動して“韓国潰し”に動くということになるでしょう。

その行き着く先は、このブログにも掲載したように、韓国の経済焦土化ということになるでしょう。

経済を焦土化し、経済的にも金融的にも無価値な国にすることは、日米ならすぐにできることです。日米が韓国に対する様々な恩恵をやめたり、韓国にある資産や技術をひきあげるようにすれば、それですぐに焦土化は可能です。

焦土化された韓国は、経済的にも技術的にも無意味になります。そうなれば、このブログに掲載してきたように、金正恩はもともと韓国との統一を望んでいませんでしたが、ますますその気を失うことでしょう。

それどころか、経済焦土化された韓国から難民などがやってこないように、38度線の警備を強めるでしょう。

さらに韓国は、中国とさらに接近しようとするでしょうが、それも困難でしょう。なぜなら、中国との間には北朝鮮があり、その北朝鮮は中国に干渉されるのを嫌っており、北の核がそれを保証しています。

北朝鮮の核は中国にとっても脅威であり、北朝鮮とその核の存在が、朝鮮半島に中国が浸透するのを防いでいます。北がこの姿勢を崩さない限り、韓国が中国に接近しようとしても、北朝鮮がこれを阻むため、なかなかできないでしょう。

そうなると、韓国は北と中国と接近することはなかなかできません。北は韓国を統一する気はなく、米中冷戦で疲弊しつつある中国は、かつてのように北とともに、韓国に侵攻するなど、思いもよらないことです。無論、GDPが現在の韓国なみのロシアも、北が韓国に侵攻するのを手助けするなどのことも思いもよらないことです。

そうなるとどうなるかといえは、38度線は従来と同じく固定され、韓国は、北も中国も興味のない発展途上国になるだけの話です。

安全保障上は、日米、中露、北があまり関心を持たず、ただそこに空き地として存在していれば良いだけの存在になります。ただし、この空き地を手に入れようとする試みは、日米が排除するでしょう。

この状態が長く保たれる状態になるでしょう。結局、韓国の経済・技術が低迷し、後は何変わらないという状況になるでしょう。今のままだと、そうなります。そのような未来を目指して韓国は自らの歩みを止められないようで、ますます深みにはまりつつあるようです。

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2019年11月9日土曜日

ウォーレンに大統領の資質はあるか?―【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱に(゚д゚)!

ウォーレンに大統領の資質はあるか?

岡崎研究所

 現在、トランプ大統領には、政敵である民主党のバイデン元副大統領のあら捜しをウクライナの大統領に要請し、政治の規範と倫理を犯したとされる「ウクライナ疑惑」が掛けられている。この問題は米国の下院の委員会で議論されており、トランプ大統領の弾劾訴追が米国内の主要議題となっている。下院で過半数を占める民主党が主導している中、共和党の議員たちは、これに反対し、下院の審議が麻痺することも屡(しば)である。

民主党の大統領候補としては、エリザベス・ウォーレン上院議員も有力視されているが・・・・

 また、トランプ大統領は最近、従来の政策を突如覆し、トルコがシリア北東部に軍事侵攻してクルド人勢力を駆逐することをトルコのエルドアン大統領に容認した。この件に対しても非難が起こっており、先例のない失態だったと、与野党問わず言われている。

 10月17日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙コラムニストのデイヴィッド・ブルークス氏は、『トランプ自身が米国にとっての脅威だとして、トランプに大統領を2期やらせてはいけない』と主張している。そこまでの強い口調ではなくても、米国内でトランプ氏の大統領としての資質に疑問を持つ人が、少なからず増えてきているようである。

 果たして、来年の米国大統領選挙の行方はどうなるのだろうか。時期尚早かもしれないが、米国内では来年初めから始まる予備選挙に向けて、既に様々な憶測が飛びかっている。民主党の大統領候補としては、ジョー・バイデン前副大統領の他、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州)とエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチュ―セッツ州)が有力視されている。

 民主党にとっては、バイデンのような穏健派を候補に擁立して、2016年にトランプに奪われたウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの各州の奪還を目指すことが、最も理にかなった選挙戦略だという有力な意見がある。しかし、民主党内の予備選挙は、そうスムーズには進行しない。多数の立候補者が出る民主党の中で、当初は先頭を独走していたバイデン氏であるが、このところ、左派の進歩派ウォーレン氏やサンダース氏が並走するようになり、世論調査によってはウォーレン氏が先頭を行くこともある。そのせいか、10月16日の4回目のテレビ討論では、ウォーレン氏が他の候補者たちの標的にされた。

バイデン氏

 未だ、ウォーレン氏が大統領になることは想像し難い。また、そのことは、甚だしく心配でもある。ウォーレン氏の貿易政策は保護主義だと言われる。彼女は、米国の価値や米国の政策目標――気候変動との戦い、基本的な労働条件の尊重、脱税の取締り――の充足という前提条件が充たされない限り、新たな貿易協定は結ばない、TPP(環太平洋パートナーシップ) には強く反対と述べている。この種の教条主義的な信念を前面に出されると取り付く島もない。

 ウォーレン氏は、10月16日のテレビ討論で「我々は中東から脱出すべきである。中東に兵を置くべきではない」「この地域に軍事的解決はない」と述べた。こういう短絡的な答えしか出来ないのでは落第である。彼女のヘマに気付いた彼女の陣営は、彼女が「兵」と言ったのは「戦闘部隊」のことであるなどと説明を試みたが、彼女が現状を理解し、現状に立脚して政策を語っているようには思われない。カタールの米軍基地を拠点に米軍が行っているのは戦闘作戦である。シリアの部隊はイラクの米軍基地に撤収を始めているが、イラクの駐留はどうするのか。アフガニスタンはどうするのか。彼女には外交と軍事力との関係も理解が希薄のように思われる。

 ウォーレン氏は、これまで対外政策を殆ど語っていない。今後、予備選挙がどう展開するか判らないが、指名獲得を狙うのであれば、対外政策に関するブレーンを整え、真剣に勉強する必要があろう。そうでなければ、大統領の道は遠いだろう。

【私の論評】ウォーレン氏が大統領になれば、政治の継続性の原則は破られ米国は大混乱(゚д゚)!

米国は、二大政党で中道左派の民主党と中道右派の共和党がつばぜり合いをします。大統領も概ねそれぞれの党から交互に出てくることが多く、戦後だけ見れば民主から6人、共和から7人となります。

これを少し乱暴に分類すれば戦後直後は民主、50年代は共和、ベトナム戦争の60年代は民主、70年代はおおむね共和で後半に民主、80年代は共和で90年代は民主、2000年代以降は五分五分の戦いとなっています。

基本的に経済動向とリンクしているともいえ、概ね米国経済が好調な時は共和から、世界景気や世の中の不和(含むベトナム戦争)の時は民主が優勢になりやすい傾向があります。それでも二大政党が拮抗した状態であるのは現在ですら上院、下院の議席がねじれ状態にある点でもお分かりいただけると思います。

よって次期大統領選の予想にはまず、今後1年間の対外環境を概観する必要があります。米国の景気は既に景気拡大期が11年目となり「出来すぎ」の状態になっています。通常の経済学ではなかなか説明しにくいのですが、景気の振幅が以前ほどでなく成熟した国家故のなだらかな景気になっていると考えるべきなのかもしれません。今年もデフレから完全脱却していないにも関わらす、増税するという誤ったマクロ経済政策を取り続けてきた日本とは大違いです。

とすればこの先1年、アメリカが景気を大きく崩す要因は国内に求めるのは難しく、対外的要因や戦争、天変地異という予想不能な事態が発生すること以外にありません。ではトランプ大統領は戦争が好きか、といえば先日もこのブログに掲載したように、NOです。トランプ氏は骨の髄からビジネスマンであり、ディールを好むゲーマーであり、戦争を好む男ではない点がブッシュ父子との大きな違いです。

ここから類推すれば社会環境は共和党に利することになります。

では民主党の3候補です。まず、サンダース氏ですが、個人的には可能性はほないです。その理由は彼の主義主張ではなく年齢と健康状態です。現在78歳、80歳代の大統領を米国が求めるのか、という点と、最近動脈閉鎖の治療を受けるため選挙活動を一時休んでいたこともあり、大統領の激務をこなすという点では現実的ではないです。

次にバイデン氏ですが、ウクライナ問題でトランプ氏弾劾という報道もありますがトランプ氏が弾劾されることは新事実がない限り100%ありません。むしろ、バイデンの息子がウクライナのみならず、中国企業の取締役を務め高額の報酬を得ていたことも明るみになっておりバイデン氏が民主党の支持層にはふさわしくない汚点となっています。

こうなると前回ガラスの天井を破れなかったクリントン氏の雪辱をウォーレン氏に託す可能性は大いにあります。ではウォーレン氏が本当にふさわしいでしょうか?最大のネックは彼女が大学の教授というキャリアであることです。しかもハーバードロースクールです。

弁護士と学者ほど融通が利かない人はいないと言われます。自身の信条が極めて明白な自己論理の中で完結しているためです。トランプ氏がディール巧者であるとすればウォーレン氏はどうやって自身に落としどころを求めていくのかと考えると、ずばり理想主義者ウォーレン大統領の世界では米国は何もできなくなることが想定できます。

来日時に優勝力士に優勝カップを手渡すトランプ大統領

しかも彼女の公約はとてつもないものばかりです。ハイテク企業分割、国民皆保険、シェール採掘禁止、最低賃金2倍、富裕者向け課税引き上げ等々、世論で物議を醸すものばかりです。

むしろ、米国国民に問いたいのは「今日の生活と明日の生活がすっかり変わってよいのかね」ということです。大半の人はNOと答えるでしょう。なぜなら今の景気は悪くないし、トランプ氏は嫌いな人でもトランプ氏はこのところ外交問題、それも中国問題が主体になっているので、挙党一致で中国と対決するようになった現在あまり気にされなくなっているからです。

二大政党が真逆の政策を打ち立てる時代は私から見ると時代錯誤のような気もします。実施することはほぼ同じで、ただ実施方法が異なるというのが、最上だと思います。理想と現実は違います。長期的には理想を実現することは重要だと思いますが、大統領が統治する程度の期間でみれば、実施すべきことは、当然のことながらあまり変わらないはずです。

ただし、米国の二大政党制は、政治の継続性の原則から成り立っているところがあり、政権交代が起きても、あまり混乱しない仕組みになっています。この原則とは、米国ではたとえ政権交代があったにしても、新政権は6割から7割くらいは、前政権の政策を引き継ぎ、残りの4割から、3割で新政権らしい政策を打ち出すというとです。

政権交代しても、前政権の政策の大部分が継続されるので、あまり大きな混乱は起こらないことを保証しているのです。ただし、この原則は法律などに裏付けされるものではなく、あくまで不文律です。

     米国二大政党のシンボル:民主党のシンボル(左)は、ろば大衆に好かれ、常に前進すること
     を意味する。共和党のシンボル(右)は象、力と強さを意味する。

ウォーレン氏が大統領になれば、この政治の継続性の原則は破られることになります。

ウォーレン氏がもっとトランプ政策の穴を埋めるような主義主張、つまり、より中道なポジションを取れば彼女が当選する可能性は出てきます。しかし、それでは今まで彼女を支持してきた人たちには大いなる失望でしょう。

米国の二大政党のそれぞれの主張は国民の深層心理に反応し理想論に突っ走るところが大きく、これが離反する人を増殖し、無党派が増えることになります。政治家は国民から遊離してはいけないのですが、ここがどうも抑えられてないように感じます。

純粋に米国を幸せにできるのか、統治できるのという観点からするとウォーレン氏の目は今のままでは無理です。

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2019年11月8日金曜日

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり―【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

米国は変わった、とうとう高官が共産主義中国を「寄生虫」呼ばわり



NBAのバスケット・ボールの試合中にフリー・チベットの活動をする他人事

民主党さえも中国の実態を暴き始めた

 ホワイトハウス国家通商会議ディレクターのピーター・ナヴァロ氏は、米国のTV番組の中で、共産主義中国による知的財産権の侵害を激しく非難。その存在を寄生虫と呼んだ。

米中貿易戦争のウラで、いま中国で起きている「ヤバすぎる現実」

 ナヴァロ氏は全般的に媚中派と考えられてきた民主党に所属する。同氏は、経済学者・公共政策学者であり、ハーバード大学を卒業している。現在、カリフォルニア大学アーバイン校ポールミラージュ・ビジネススクール教授でもある。

 2017年1月20日にトランプ次期大統領から指名を受け、新設された国家通商会議(=当時、現在は通商製造政策局)のトップに就任している。

 2016年に、ナヴァロ氏はトランプ氏の大統領選キャンペーン政策アドバイザーに就任したのだが、彼が筋金入りの中国脅威論者であることが大きく影響したのではないかと思われる。

 例えば、「中国経済と市場主導の米国経済のモデルは『地球と火星のように離れてる』」と述べ、人工知能やロボット工学などでも脅威になりつつある中国の知的財産権問題など不公正な貿易慣行への対処を主張している。また、軍用ドローンでも中国は市場を奪っているとして米国の輸出規制緩和を推し進めている。

 トランプ政権の通商政策を担う重要部署に、民主党員、かつ破天荒なビジネスマンのトランプ氏とは相性の悪そうな学者が起用されているのは意外かもしれないが、まったく正反対なキャラクターだけに、人生経験豊富なトランプ氏にはかえって扱いやすいのかもしれない。

民主党の共産主義中国離れ

 ウクライナ疑惑は、共産主義中国に忖度(または指示があった? )した民主党のこれまでの主流派が大きく関わっている可能性が高いことは、10月15日の記事「『ウクライナ疑惑』で、トランプの大統領再選は確実になりそうだ」で述べた。

 その民主党の投げたブーメランで、ジョー・バイデン前副大統領が政治的に極めて厳しい状況に追い込まれ、それまで泡沫候補扱いであったエリザベス・ウォーレン氏が民主党大統領候補のトップに躍り出るという事態となった。
エリザベス・ローレン

 ウォーレン氏も、テキサス大学法学部、ペンシルベニア大学法学部、ハーバード・ロー・スクールで教鞭をとったことがある、連邦倒産法を専門とする著名な学者である。さらに、訪問先の中国で、現地の記者団に対して「米国の対中政策は数十年にわたって方向性が間違っており、政策立案者が関係を現在修正している」と述ベている。

 これまで、媚中派が主流であった民主党の中でも、共産主義中国を「寄生虫」と呼ぶかどうかはともかく、「いつかは民主主義国家になる」という甘い幻想は消え去りつつある。

 特に香港騒乱が大きな影響を与えている。

 「自由と民主主義」こそが、建国以来の「米国の核心的利益」であり、左右どちらの政治思想であってもこの「核心的利益」を犯すことはできない。

 したがって、香港騒乱で「共産主義中国が人民を抑圧している」ことがあからさまになってしまったからには、民主党と言えども露骨な媚中行動はできない(10月16日の記事「現代版『ベルリンの壁』…香港の騒乱は『中国崩壊』の序曲か」参照)。

 「ベルリンの壁」ならぬ「香港の壁」の後ろに控える、「共産主義独裁国家」は共和党だけではなく、民主党からも「新・悪の帝国」と糾弾されつつある。

不公正取引で先進諸国に「寄生」した新・悪の帝国

 現在、中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を最大限に受けているのにもかかわらず、国営企業を優遇し、海外のSNSをシャットダウンして国内の言論だけではなく、社会活動や経済活動にも多大な制限を加えている。

 また、知財を盗むコピペ経済でもある。さらには、中国大陸に進出する外資系企業に、厳しい規制を加えるだけではなく、その優越的地位を乱用して「最先端技術を渡せ」などという無理難題を吹っ掛ける。

 たまりかねた米国企業の直訴が、トランプ政権に影響を与えた可能性は高いし、他の国の企業の「積年の恨み」も無視できない。

 それでも彼らが儲かっているうちはまだいいが、利益が薄くなったり、赤字が出るようになれば、これらの企業も共産主義中国の手ごわい敵になる。

 そもそも、中国のWTO加盟交渉は、極めて特殊であった。

 実は、第2次世界大戦の戦勝国である民主主義中国(中華民国、台湾)が、WTOの前身であった関税貿易一般協定(GATT)の原締約国であった。しかし、1949年の共産主義中国の建国とともに中華民国が中国大陸から追放され台湾に移ったことから、1950年にGATTからの脱退を通告している。

 共産主義中国は、「台湾の1950年の脱退は無効である」との立場をとり続けていたが、1986年、「GATT締約国としての地位の回復」を申請した。

 その後、1989年の天安門事件の影響などにより、加盟交渉は難航し、結局GATTには参加できなかった。

 やっと、2001年に、中東・カタールのドーハで開かれたWTO(GATTの流れを継承)第4回閣僚会議において中国の加盟が認められることになったのだから、15年間も交渉したことになる。

 この交渉では、「いつかは共産主義中国も民主主義国家になる」という甘い期待を持っていた米国の後押しも受けた。

 だが、その後の中国共産党の後押しを受けた国営企業などによる不公正貿易の拡大や、知財だけでなく大量の軍事機密を盗み取る行為に米国民の堪忍袋の尾が切れたことを敏感に察知して、誕生したのがトランプ政権である。

 米国の識者たちの多くは、共産主義中国に対して「恩をあだで返された」と感じているであろう。

 したがって、貿易戦争・第2次冷戦など「共産主義中国にやさしくない」政策は、トランプ氏の政治信条というよりも「米国の民意」であり、トランプ氏は民意を先読みし、素早くかつ大胆に行動しているだけに過ぎない。したがって、ビジネスマンのトランプ大統領は、利害関係さえ一致すれば、共産主義中国とも「ディ―ル」を行うことができる。

 ところが、冒頭で述べたナヴァロ氏や、ウォーレン氏の「反中国」は政治信条である。したがって、相手が全面降伏するまで徹底的に戦うはずだ。

 もし、共産主義中国がウクライナ疑惑を仕掛けたとしたのならば、大失敗だ。妥協の余地のない、強烈な反中国派を台頭させたからである。

米国の世論は極端から極端に振れることがある

 別に米国に限ったことではないのだが、世論はしばしば極端から極端に振れる。

 独裁主義国家であれば、国民の世論がどうであろうと、力で押さえつけるであろうし、共産主義中国がその典型だ。

 しかし、米国は民主主義国家であり、世論が政治・社会に与える影響は極めて大きい。

 そこで思い出されるのが、第2次世界大戦をはさんだ、ナチス・ドイツへの米国の態度の変化である。

 今でこそ、ユダヤ人が支配するハリウッドで反ナチ映画がうんざりするほど量産され、「米国にとってナチス・ドイツは『巨悪』とされている」が、少なくともナチス・ドイツがポーランドに侵攻するまでは、米国でも親ナチス派が一般的で多くの実業家がナチスと取引をしていた。

 大空の英雄として有名な、大西洋を初めて単独飛行したチャールズ・リンドバーグもナチスを賛美していた。

 さらには、IBMの実質創業者ワトソン氏(彼の名前がAI〈エキスパートシステム〉につけられている)も、IBMの製品がナチスに貢献したことなどから、叙勲された(後に返還している)。

 別に彼らが特殊であったわけではない。英国も第2次世界大戦が始まる前には、ナチスに融和的なネヴィル・チェンバレンが首相を務めており、そのおかげもあってヒットラーが勢力を拡大した。

 第2次世界大戦が終結し米軍が踏み込むまで、アウシュビッツの状況は、世界には知られていなかったので、米国でもナチスの支持者はそれなりにいた。

 現在、日本企業ではESGが声高に叫ばれ、まったくと言っていいほど根拠がない「人類の排出する二酸化炭素による地球温暖化対策」に、信じられないほど巨額のムダ金が使われているのは、10月9日の記事「『地球温暖化騒動』の『不都合な真実』に目を向けよう」や、10月22日の記事「日本人が知らない『温暖化対策』巨額すぎる無駄なコスト」で述べたとおりである。

 それに対して、香港、チベット、ウイグルなどで「人権侵害」を繰り返す中国共産党の息のかかった企業とは平気で取引をしている。

 ESGの観点から言えば、「人権侵害国家」の企業と取引をしてそれらの国家を結果的にサポートすることは「極めて不適当な行為」であり、行うべきではない。

 もし、何らかの形で、天井の無いアウシュビッツと呼ばれるウイグルやチベットの惨状が赤裸々に暴かれた場合、共産主義中国と取引をしている日本企業は極めて難しい立場に立たされるはずだ。

 ましてや、ウイグルの強制収容所で日本のコンピュータやIT製品・技術などが使われていた場合、致命的な打撃を受けるであろう。

 10月23日には、マイク・ペンス副大統領が「NBAやナイキが自社の利益を追求するために、中国政府の要求に屈服した」と激しく非難している。

 特にNBAに対しては「中国共産党の側に付き、言論の自由を押しとどめ、中国政府直属の支局のように振る舞っている」とまで言っている。

 今や中国に媚びているなどと思われたら、巨大なリスクなのだ。

 米国の世論、さらには政府が明らかに変わりつつある。日本企業はその事実にもっと敏感になるべきである。

大原 浩

【私の論評】昨年米国では中国批判は一巡し、今年からは逐次対抗策を長期にわたって実施し続ける段階に移行した(゚д゚)!

ドナルド・トランプ政権の米国で、中国をみる視線はすでに昨年からかなり厳しさを増していました。

それは、関税応酬を引き起こしている多額の対中貿易赤字のみに起因するものではありません。または米朝首脳会談の前後に存在感を増してきた中国の朝鮮半島政策から生まれたものでもありません。

より大きな、対中認識の地殻変動が今、米国でうごめきつつあるのです。

米国政府の政策に、中国への厳しい視線は反映されつつあります。たとえば一昨年末に発表された『国家安全保障戦略』は、中国、ロシアとの競争という世界観が色濃く反映されています。

米国は、中露両国が国際社会に統合されることを前提にした(冷戦終結後の関与政策的な)アプローチから脱却すべきであり、中国はインド太平洋地域から米国を閉め出そうとしていることを認めた上で政策的対応を採るべきとしました。

ヘルシンキ・サミットにもみられたように、トランプ大統領の対ロ認識は混乱しており、また政権内外にはロシアとの接近を対中国のカードとして使う発想もあると言われます。少なくとも、中国に対する警戒心が極めて高まっていることは事実です。

昨年、閣僚の「インド太平洋」をめぐる発言からも、その傾向は確認できました。たとえば、同年6月にシンガポールで行われたシャングリラ・ダイアローグ(第17回IISSアジア安全保障会議)において、ジム・マティス国防長官(当時)は、中国が南シナ海に建設した人工島の軍事拠点化を進めていることを強い言葉で非難しました。

太平洋軍(PACOM)がインド太平洋軍(INDOPACOM)に改名されることも直前に発表されていjましたが、マティス前長官は「自由で開かれたインド太平洋」の重要性をここでも訴えていました。

マイケル・ポンペオ国務長官も続く、同年7月30日、全米商工会議所主催のフォーラムで演説し、米国がアジアのインフラ整備のために資金を用意して積極的に関わると明言しました。

これは「一帯一路」構想をはじめ、経済外交を強める中国政府の動きを牽制するため、代替的な資金調達先を提案するものと考えられています(2017年10月にレックス・ティラーソン前国務長官もそのアイディアには触れていました)。

中国の経済外交は自由民主主義に向かう各国の流れを逆行させ、さらに不透明で、国際基準を満たさない援助と批判されることが多いです。財政の健全性を損なわせるだけでなく、中国による介入を招くこともあるため「債務の罠」と称されています。スリランカやパキスタンなどが例としてあげられています。

そこでポンペオ長官は、「自由」には他国による強制からの保護、良き統治、基本的人権が含まれ、「開放」には海空路のアクセスや紛争の平和的解決、公正で互恵的な貿易、投資、透明性、連結性が含まれると、中国の動きを十分に念頭に置いて「自由で開放的な」インド太平洋構想を描いているのです。

2017年秋のトランプのアジア歴訪では、「自由で開かれたインド太平洋」は言及されたものの煮詰まったものではありませんでした。もちろん現時点でも政策の姿が見え始めたに過ぎないが、「国家安全保障戦略」を経て中国を念頭に置いたアジア政策は徐々に形にされています。

昨年6月には、最先端の技術・知的財産を窃取・侵害したり、合弁企業設置を強制して差し出させたりする振る舞いを厳しく糾弾する報告書もホワイトハウスより公表されています。対応するように、中国の対米投資規制の新たな枠組みも設けられました。

対中貿易赤字削減などで強硬姿勢をとるナバロ大統領補佐官の部局より出されているため経済ナショナリズムの一環ともみられているのですが、他方で投資規制や留学生規制につながるこれらの問題意識は、より広いサークルで共有されています。

中国への警戒心の強さは、日本はじめ本来アメリカの対中政策が手ぬるいのではないかと、オバマ政権以来批判を繰り返してきた同盟国の政策担当者や研究者にも驚きを与えるほどです。

それはトランプ政権に留まりません。

オバマ政権期に国務省でアジア外交を担った元高官2名は昨年春、中国がやがて国際社会にとって望ましい存在になるという前提を捨て去ることが必要だと、自省にも聞こえる一文をフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿しました。

「あらゆる立場からの政策論争が間違っていた。中国が段階的に開放へと向かっていくことを必然とみなした自由貿易論者や金融家、国際コミュニティへのさらなる統合によって北京の野望も穏健化すると主張した(国際システムへの)統合論者、そしてアメリカの揺るぎない優位によって中国のパワーも相対的に弱体化すると信じたタカ派など、 あらゆる立場からのすべての主張が間違っていた。」(カート・キャンベル、イーライ・ラトナー「対中幻想に決別した新アプローチを」『フォーリン・アフェアーズ・レポート』2018年4月号)

カート・キャンベル元東アジア・太平洋担当国務次官補

中国を外から変化させることはできず、むしろ中国は独自の秩序構想に語勢を強め、権威主義的な統治モデルを輸出しようともしています。民主党の政治任用者がその点を正面から認めたことは重要です。

なお、共和党系では、ブッシュJr.政権のホワイトハウスに勤務した経験のあるアーロン・フリードバーグ教授(プリンストン大学)が、そのように中国台頭の本質を分析し、競争を全面に押し出した戦略の必要性を長きにわたり訴えています。

これまでに大きく関心を集めてきたとはいえないテーマに関しても議論は広がっています。例えば、昨年3月の議会下院の公聴会では、気鋭のメディア研究者が、アメリカの映画産業が中国政府を刺激するような表現を自己規制していること、さらに中国の関係者が「望ましい」映画コンテンツのあり方をロサンゼルスでレクチャーしているという生々しい現実を証言しました。

人気を博すエンターテイメント映画では、中国市場での収益がアメリカ市場に並ぶほど大きいという事実が、この背景にあります。(Aynne Kokas, “U.S. Responses to China’s Influence Operations, Testimony at House Foreign Affairs Committee, Subcommittee on Asia and the Pacific, March 21, 2018.)

    2016年配給の「オデッセイ」などハリウッドの大作映画で、中国の
    キャストや風景などの“中国色”が目立つ作品が増えてきた。

さらに、中国が協力者を募り、民主主義社会の内側に入り込もうとしていると、政治ツールへの警戒もありました。一昨年末に公表された全米民主主義基金(NED)の報告書を皮切りに、中国、ロシアが民主主義社会のなかに多様なチャンネルで入り込み、政治家・政党から学者、メディア関係者まで多くの人物が特定国に忖度した発言や行動をとる「シャープ・パワー」という概念も、少なくともワシントンでは人口に膾炙するようになりました。(『中央公論』2018年7月号の特集を参照)

このように例を挙げてみても、中国が投げかける挑戦に、実に多面的に懐疑の目が向けられていることに気づくでしょう。

過去40年にわたるアメリカ・対中関与政策の背景にあった中国への期待は薄れつつあり、中国との来たるべき本格的な競争に、党派を問わず、立場を問わず、多くの米国政府関係者、有識者が備えを本格化させています。

まさに米国の対中政策が2018年を転機に、対決一色になることは、予め予想できたのです。昨年米国では中国に対する批判は一巡し、中国に対抗するのは、米国の意思であるとの確認がされたのです。今年からは実際に逐次中国に対する対抗策を長期にわたって実行し続ける段階に移行したとみるべきです。

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