豪州がコロナウイルスの起源を究明する独立した調査を提唱したことを契機に、中国と豪州の関係は急速に悪化しているが、11月26日付けの英フィナンシャル・タイムズ紙が、中国の豪州に対する要求には危険な要求が含まれているとして、民主主義諸国が結束して中国の圧力に対抗すべきことを主張する社説を掲げている。
中国が豪州に対する経済的締め付けを強めている。本年4月中旬、新型コロナウイルスの起源が明らかにされる必要があるとの豪州の閣僚の発言が報じられ始めた。これに対し、4月26日には、駐豪州中国大使のCheng Jingyo(成競業)は雰囲気が悪化すれば、観光客はどうして非友好的な豪州に行く必要があるのかと問う。親は子供を留学させる場所として適当かを問うであろう。国民は何故豪州ワインを飲まねばならないのか、何故豪州の牛肉を食べねばならないのかを問うことになると警告した。大使と外務省幹部との電話会談も行われたが、4月29日、モリソン首相は「新型コロナウイルスは世界で20万の命を奪い、世界経済を停止させた。よって世界で何が起こったのか独立した評価を求めるのは賢明で妥当と思う」と述べた。
今回、引き金を引いたのは新型コロナウイルスの起源の調査の提案であるが、他にもある。Huaweiを5Gネットワークから排除することを早々と決定したこと、南シナ海に関する中国の立場に法的根拠はないと表明して「完全に違法」とするポンペオ国務長官の見解に同調したことなど、中国を怒らせた理由は色々ある。
中国の反発は激烈であった。5月、中国は、豪州からの牛肉の輸入を一部停止し、大麦に 80%の追加関税を決定した。8月にはオーストラリア・ワインのダンピング調査が始まった。当初は法的な正当性の衣をまとうことを試みていたが、最近に至ってその手間は放棄し、税関に輸入の差し止めを非公式に指示するだけで済ましているらしい。順次締め付けは強まり、規制の対象は石炭、砂糖、木材、ロブスター、銅鉱石を含め13品目、対中輸出の3分の1に及ぶという。除外されている主要品目は代替輸入が困難な鉄鉱石及びLNGである。これらの妨害措置はWTOのルールを無視するものであり、恐らくは中国・豪州FTAに違反する行動である。
フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、キャンベラの中国大使館がメディアに手交した苦情のメモが自由な言論を否認するような要求を含んでいることを重大視している。しかし、国内で言論を抑圧している中国に言論を論ずる資格はない。中国大使館のメモは、豪州政府がその政策に反するとの理由でビクトリア州に「一帯一路」への参加を反故にするよう強いていると苦情を述べているが、中国が外国との自由な合意を容認する筈もない。これらは一種の偽善である。いずれにせよ、接受国への苦情のメモをメディアに手交することは礼儀作法にもとるが、宣伝目的のメモの内容にいちいち取り合う必要はない。むしろ、重大視すべきは、豪州の貿易構造の中国に対する脆弱性につけ込んで、中国の意に逆らう豪州を経済的に圧迫する中国の行動である。
ウイルスの問題だけではない。去る9月、新華社は6月に豪州の情報機関が4人の中国人ジャーナリストの捜査に入りコンピューター、スマホ、文書を押収したとされる一件を暴露して豪州を非難する一幕があった。その前日の9月7日、身の危険を感じたABCとAustralian Financial Reviewの中国特派員2人が豪州大使館の介入を得て中国を脱出する一件が発生した。これに伴い中国に豪州の特派員はいなくなった。
豪州は厳しい状況に置かれている。問題解決のための閣僚レベルの電話の要請にも中国は応じていないようである。この種の経済的圧迫は中国の常套手段であり、日本も韓国も経験済みである。チェコの上院議長一行が台湾を訪問した際にはチェコ製ピアノの発注が取り消された。他の民主主義諸国に効果的な手助けの手段があるようには思われないが、何はともあれ、民主主義諸国は豪州との結束を維持してやる必要がある。先日、モリソン首相が来日したが、我が国の政権交代に伴い外国首脳が訪れるのは珍しいことである。これも豪州が置かれた立場を反映しているのであろう。
【私の論評】外国でも独善的な振る舞いをした中国が待つ末路は、毛沢東時代の図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国に戻ること(゚д゚)!
オーストラリア政府は、中国の経済的締め付けを強めつけに対抗する措置を行っています。オーストラリア政府は、中国が大麦に高い追加関税を課し輸入を制限したのは不当だとして、WTOに提訴する方針を明らかにしました。中国政府はオーストラリアの対応を非難しています。
オーストラリアのバーミンガム貿易相は16日、記者会見し、中国がオーストラリア産の大麦に高い追加関税を課し輸入を制限したのは不当だとして、「16日夜、WTOに正式に提訴する方針だ」と述べました。
「オーストラリア政府は中国側の懸念に真剣に対処し、実際に行動を取り、中国企業を差別視するやり方を正すべきだ」(中国外務省 汪文斌報道官)
一方、中国外務省の汪文斌報道官は16日、記者会見でこのように述べ、オーストラリア側の対応を非難しました。
中国は、地元の反感を招くようなことを平気でしています。たとえば、中国の不動産会社「チャイナブルーム」が昨年5月にオーストラリアのクイーンズランド州にある楽園のようなケスウィック島(Keswick)を買収しました。
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ケスウィック島の「立入禁止の看板」と風景(右) |
この島は国立公園に指定され、島の80%を除く残りの20%を州に99年の長期賃貸する方法で契約しました。
しかしこの企業のせいで住民、そして観光客らにとんでもないトラブルが起きたのです。
不動産会社チャイナブルームは、「立入禁止」の看板を立て国立海浜公園に通じる道を封鎖して住民の出入りを遮断しました。従来のボートの傾斜路の利用を禁止した代わりに、めちゃくちゃに設置した新しいボートの傾斜路だけを開放しました。
民間や商業用飛行機の飛行場への出入りも阻止し、島への出入り困難にしました。住民は突然島に閉じ込められた捕虜同然の身になってしまったのです。ある住民は「島に閉じ込められた気分だ。ボートのない住民は往復2600豪州ドル(約20万円)を払い、ヘリコプターに乗らない限り行き来ができない」と訴えました。
それだけでなく、不動産賃貸やairbnb(宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)などを通じた宿泊・共有を禁止し、観光産業も壊滅状態に陥らせたのです。ケスウィック島に住んで15年になるレイナ・アズベリーは「私が知る限りでは昨年9月以降観光客は一人もいなかった」と語りました。
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ケスウィック島の海岸 |
このようなやり方をする中国は、地元民の反感を買うのは当然のことです。日本の北海道あたりでも、中国人による土地買収を好き勝手にやらせておけば、このような事態が起きないとも限りません。
「中国人の心」に対して配慮を欠いたオーストラリアの態度に驚き、中国の外交官たちは自らの言葉がオーストラリア人の心をいかに傷つけるか気づかなかったようです。オーストラリアの政治家や公的機関に尋常でないほど深く浸透しているにもかかわらず、中国の外交官は、民主的な意思決定のダイナミズムを理解できなかったか、その要求に屈することを拒みました。
もし中国が、有能なP R会社等を通じて他の民主国家等と同様の通常の外交を行っていたら、新型コロナウイルスのパンデミックによる関係悪化はごく短期間ですんでいたかもしれないです。
ところが実際には、中国政府が30年間にわたって築き上げたオーストラリアの意思決定に対する影響力があっという間に瓦解しました。ここ数カ月、オーストラリアは中国系企業による豪戦略資産の買収を厳しく規制すると発表、州政府や自治体が認可した買収案件に対し連邦政府が拒否権を発動できる新たな法案を提出しました。
またオーストラリアの大学に対する外国の干渉について議会の調査も開始しました。中国寄りの姿勢を取る政治家は、今ではかなり勇気のある者に限られます。振り子は逆に振れたのです。
この動きは、オーストラリアだけではありません。一国のエリート層を取り込む中国の世界戦略は、民主主義国のほとんどで失敗しました。中国は、外国の内政干渉を食い止めようとするオーストラリアの努力を「ひどく理不尽な態度」と呼びました。
ところが一般市民から見れば、それは常識です。中国が世界の除け者になり、民主国家の政治家は、中国政府幹部と握手する姿は撮られたがらないし、中国にとってぼろい儲け話もなくなるでしょう。
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習近平とともに写真に写る米国民主党関連者の面々 今ではこのような写真はみられたくないだろう |
オーストラリアが中国に背を向けたことで、自由主義や西側同盟を重んじる価値観が再確認されました。他の民主国家もこの例に倣うでしょう。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、香港や新疆ウイグル自治区における中国の人権抑圧を批判しました。
米国では、トランプ大統領が誕生し、中国に厳しい態度をとりはじめました。トランプ政権も米国内のありとあらゆるところに、中国勢の浸透があったことを暴露しています。
大統領選の決着はまだついていませんが、背後には中国の不当な選挙への干渉があったともいわれています。もしそれが明るみに出れば、トランプが再選され、ますます中国に対して厳しい措置をとることになるでしょう。
たとえ疑惑の解明が進まず、バイデン氏が大統領になったにしても、その後疑惑の解明がすすんだ場合、政権スタート当初からレームダックになり、民主党やマスコミ、SNSの権威は失墜し、米国の中国に対する態度はさらに厳しいものになるでしよう。識者の中には、バイデン政権成直後に疑惑解明が苛烈になる可能性があると語っている人もいます。大統領選挙の結果いかんにかかわらず、米国の中国に対する厳しい態度は維持されることになります。
欧州でも、中国の干渉に市民が反発しています。外国からの脅威に対する民主主義国の反応は必ずしも早くないかもしれないですが、最終的には排除されます。それこそ中国が学ぶべき教訓のはずです。
ただ、その中国はその教訓を学ばないかもしれません。中国で来年の経済運営の方針を決める重要会議が開かれ、新たな発展戦略として内需の拡大や国内産業の強化を図る方針が示されました。米国との対立が長期化する可能性を念頭に、国内経済主導への転換を明確にした形です。
中国では来年の経済運営を決めるため、習近平国家主席や李克強首相らが出席して、18日までの3日間「中央経済工作会議」が開かれました。
中国国営の新華社通信によりますと、会議では来年、経済政策の基本方針となる次の「5か年計画」が始まるにあたり、「新たな発展の枠組みを構築し、第一歩を踏み出す必要がある」という認識が示されました。そして、国内産業のサプライチェーンを強化することや、内需の拡大を図る方針が打ち出されました。
これは、米国政府による、中国企業に対する制裁や、経済的なつながりを切り離す「デカップリング」の影響を避けるねらいがあります。
米国で政権交代の動きが進む中でも、誰が大統領になろうとも、米中の対立が長期化する可能性を念頭に、国内経済主導への転換を明確にした形です。
中国としては、現在のやり方をしていれば、デカップリングが進むことは認識しているようです。ただし、内需拡大と気軽に言っていますが、それは今の中国には難しいことです。
なぜなら、このブログでも何度か述べてきたように、本気で内需拡大をするつもりなら、まずは民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめなければならないからです。これこそが、自由主義や西側同盟を重んじる価値観です。
それができれば、星の数ほどの中間層が輩出され、これらが自由に社会経済活動を行い、社会のあらゆる層でそれこそ、立体的にありとあらゆるところで、イノベーションが起こり、富を生み出すことになります。
これが、かつて経済的、軍事的に、強国になるためにいわゆる先進国が通ってきた道であり、この道を通った国だけが、現在先進国になっています。日本もかつて、このような道をたどり、特に戦後は社会のあらゆるところで、イノベーションが起こり、かつて発展途上国であったにもかかわらず先進国の仲間入りができたのです。
中国だけが例外にはなりません。例外になったように見えたのは、世界中から中国に対する投資が増えたためです。国内の非効率・不合理が取り除かれなければ、先進国にはなれません。
現在の中国では共産党主導の点のイノベーションしかおこらず、それでは社会のあらゆるところに非効率・非合理なことが残ってしまい、社会は停滞したままになり経済も発展しません。
これが、いわゆる中進国(国民一人当たりのGDPが100万以下の状態)の罠というものです。デカップリングした中国は、社会の行進性が残ったままであり、中進国にもなれないかもしれません。
国内と同様に、外国でも独善的な振る舞いをした中国が待つ末路は、毛沢東時代の図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国に、戻ることしかできないようです。それでも、中国は14億人の人口があるので、国内だけで何とかやっていけるかもしれません。
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