日本の大手メディアでも大きく報道され注目を集めている中国の「海警法」が全人代(全国人民代表大会)常務委員会で可決され、2月1日から施行される。
この法律は、昨年(2020年)6月に可決した武警法改正と、これから審議される海上交通安全法改正案とセットとなって、おそらく日本の尖閣諸島を含む東シナ海情勢や、南シナ海情勢に絡む米国との関係に大きな影響を与えていくことになろう。この一連の法改正は、中国と海上の島嶼の領有権を巡り対立している諸外国にとって大きな脅威となることは間違いない。
「海警法」成立の最大の意義は、中国海上警察が戦時に「中国第2海軍」としての行動に法的根拠を与えられるということだろう。つまり、戦時には法律に基づいて武装警察部隊系統の中に明確に位置付けられ、中央軍事委員会総指揮部、つまり習近平を頂点とする命令系統の中に組み入られることになる。
そしてその背景にあるのは、習近平政権として、東シナ海、南シナ海における島嶼の主権をめぐる紛争に対してより積極的なアクションを考えている、ということではないだろうか。
2018年からすでに中国人民武装警察部隊海警総隊司令員(中国海警局長)が、人民解放軍海軍出身で、かつて東海艦隊副参謀長を務めた軍人であることは、海警が準軍隊扱いであり、その目標が東シナ海、台湾海峡にあるということを示していた。
尖閣の建造物を強制撤去?
海警法の全文はすでに司法部ホームページなどで公表されている。昨年12月3日まで公表されていた草案は11章88条だったが、可決された法律は11章84条となった。ニュアンスが若干マイルドになった印象もあるが、国際社会が懸念していた内容は大きく変わっていない。
米国や東南アジアの国々にとって気になるのは、第12条2項。重点保護対象として、排他的経済水域、大陸棚の島嶼、人工島嶼が挙げられている。これは南シナ海で中国がフィリピンやベトナムと争って領有を主張する南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島、そして台湾が実効支配する太平島や東沙諸島を想定しての条文だろう。
第21条には、「外国軍用船舶、非商業目的の外国船舶が中国管轄海域で中国の法律に違反する行為を行った場合、海警は必要な警戒と管制措置をとり、これを制止させ、海域からの即時離脱を命じる権利を有する。離脱を拒否し、深刻な損害あるいは脅威を与えるものに対しては、強制駆逐、強制連行などの措置をとることができる」とある。となれば、中国が領有を主張する海域、例えば尖閣諸島周辺で、海上保安庁や海上自衛隊の船が海警船と鉢合わせすれば、どのような衝突が起きても不思議ではない。
第22条では「国家主権、海上における主権と管轄が外国の組織、個人による不法侵入、不法侵害などの緊迫した危機に直面した時、海警は本法およびその他の関連法に基づき、武器使用を含む一切の必要な措置をとって侵害を制止し、危険を排除することができる」とある。つまり、日本側が大人しく海域から離脱しなければ、十分に戦闘は起こりうる、ということになる。
そして第29条は、「違法事実が決定的で、以下の状況のいずれかに当たる場合、海警当局の執行員は現場で罰則を科すことを決定できる。(1)個人に対する500元以下の罰金あるいは警告を課す場合、組織に対する5000元以下の罰金あるいは警告を課す場合。(2)海上で罰則を科すことができず、なお事後処罰が困難な場合。その場で決定した罰則は所属の海警機構に速やかに報告を行う」とある。
第30条では、「現場の罰則は適用されないが、事実がはっきりしており、当人が自ら過ちを認め罰を認めた場合、かつ違反の事実と法律適用に異議のない海上行政案件の場合、海警機構は当人の書面の同意書を得て、簡易の証拠とし、審査・承認して迅速な手続きを行う」としている。
以上の条文を続けて読むと、例えば尖閣諸島周辺で日本人が漁業を行ったり海洋調査を行うには、中国当局の承認と監視が必要で、承認を得ずに漁業や海洋調査を行って海警船に捕まった場合、罰金を支払う、あるいは書面で罪を認めれば、連行されて中国の司法機関で逮捕、起訴されることはないが、日本人が「尖閣諸島は中国の領土である」と認めた証拠は積み上がる、ことになる。
武器の使用規定については第6章にまとめられている。それによると、海警警察官は次のような状況において携行武器を使用できるとしている。
(1)法に従い船に上がり検査する際に妨害されたとき。緊急追尾する船舶の航行を停止させるため
(2)法に基づく強制駆逐、強制連行のとき
(3)法に基づく執行職務の際に妨害、阻害されたとき
(4)現場の違法行為を制止させる必要があるとき
また、次の状況においては警告後に武器を使用できるとしている。
(1)船舶が犯罪被疑者、違法に輸送されている武器、弾薬、国家秘密資料、毒物などを搭載しているという明確な証拠があり、海警の停船命令に従わずに逃亡した場合
(2)中国の管轄海域に進入した外国船舶が違法活動を行い、海警の停船命令に従わず、あるいは臨検を拒否し、その他の措置では違法行為を制止できない場合
さらに次の場合は、個人の武器使用だけでなく艦載武器も使用できるとしている。
(1)海上における対テロ任務
(2)海上における重大な暴力事件への対処
(3)法執行中の海警の船舶、航空機が、武器その他の危険な手段による攻撃を受けた場合
そもそも中国はなぜ今、海警法を制定したのか。米国の政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」に、上海政法学院元教授の独立系国際政治学者、陳道銀氏の次のような気になるコメントが掲載されていた。
「中国海警は将来、さらに重要な影響力を持つようになる」
「目下、中国海軍の主要任務は近海防衛だ。もし戦時状態になれば、海警の法執行パワーはさらに強化される。きっと海軍と同調協力する。南シナ海、台湾海峡、東シナ海などの近海作戦において海上武装衝突が起きる場合、対応するのは海警であろう」
「海警局の法執行の根拠となる法律は今までなかった。中国の目下の建前は法治国家の建設だ。法的根拠を明確にしたことで、少なくとも今後は外部勢力に海警がどのようなことをできるかをわからせようとするだろう」
つまり習近平政権として、海警設立の本来の目的を周辺諸国に見せつける準備がようやく整ったことになる。今後、“近海防衛”における衝突発生の可能性がますます高まるが、中国としては、海洋覇権国家に至るための、たどるべき道をたどったというわけだ。
ただし、この海警法が国際法と整合性があるかというと、きわめてグレーゾーンが大きい。例えば法律にある“管轄海域”と表現されている海域はどう定義されているのか。国際海洋法に基づけば、中国が勝手に人工施設をつくった南シナ海の岩礁は、中国の管轄海域でもないし、尖閣諸島周辺海域も“まだ”中国の管轄海域ではない。
だが、67ミリ砲の艦砲と副砲、2基の対空砲を含む海軍艦船なみの艦載兵器を備えた海警船が目の前に現れ、その照準が自分たちに向けられたとき、漁船や海洋研究船の船員たちは「この海域は中国の管轄海域ではない」と強く言えるだろうか。
世界各国海軍が使用している潜水艦は現在、主要な推進装置に原子力機関を使用するかどうかで、原子力潜水艦と通常動力潜水艦に分類されています。
通常動力は基本的に、水中潜航中は電池で推進モーターを回します。電池がなくなると、ディーゼルエンジンで推進しつつ、電池を充電するため水上に浮上するか、水上に空気吸入用シュノーケルを突き出して水面近くの水中を航行します。
米海軍はかつては通常動力潜水艦を建造し、運用していました。しかし、原子力潜水艦を採用してからは通常動力潜水艦を捨て去り、現在は原子力潜水艦しか運用していません。それに伴い、原子力潜水艦を製造しているアメリカの潜水艦メーカーは、通常動力潜水艦を造る能力を失ってしまっています。
米軍がスウェーデンから借り受けた通常動力AIP潜水艦「ゴトランド」 |
一方、原子力の使用に抵抗感が強い日本では、原子力潜水艦は採用されず、海上自衛隊の潜水艦は全て、通常動力潜水艦です。三菱重工業(神戸)と川崎重工業(神戸)が建造しています。日本技術陣が生み出す海自潜水艦は、世界でも屈指の性能を有していると国際的に評価が高いです。
とりわけ2018年10月4日に進水した「おうりゅう」(三菱重工業が製造中)は画期的な新鋭潜水艦で、アメリカ海軍はじめ、世界各国の海軍関係者の間で注目されている。なお、「おうりゅう」はすでに2020年3月に、就役した。第1潜水隊群第3潜水隊に編入され呉基地に配備されました。
「おうりゅう」が世界中から注目される理由は、世界に先駆けてリチウムイオン電池を採用したことありました。
「おうりゅう」は「そうりゅう」型潜水艦と呼ばれる通常動力潜水艦の11番艦です。それまでの10隻の「そうりゅう」型潜水艦は、スターリングAIP(非大気依存推進)システムとディーゼル・エレクトリックシステムを併用する推進方式でした。
スマートフォンやラップトップコンピューターなどに採用されているリチウムイオン電池は、これまでの潜水艦で用いられてきた鉛電池に比べて充電時間が大幅に短縮できるという、潜水艦にとっては何より望ましい特徴を持ちます。
リチュウム電池化は、他にも多くのメリットをもたらしました。第1次大戦や第2次大戦中の潜水艦は、必要に際して潜航可能な軍艦という位置づけだったが、現代の潜水艦は、水中を潜航して作戦行動をとることが前提となっています。そのため、電池の持続時間を極大化するとともに、電池の充電時間を極小化することは、以前の潜水艦以上に現代の通常動力潜水艦にとっては最大の関心事でした。
さらに、コンパクトで強力なリチウムイオン電池は、鉛電池と同じ容量の場合、発生するエネルギー量は2倍以上といわれていて、潜水艦の水中機動性能を飛躍的に向上させることができます。つまりは潜水艦の作戦能力を強化することを意味します。
また鉛電池は、戦闘中などに潜水艦が激しい動きを余儀なくされた際、内部から酸素が放出されて電池が壊れたり、水素が放出されて電池が爆発したり、電池内に充塡されている硫酸に海水が浸入して有毒ガスを発生したりするといった危険性がありました。しかし、リチウムイオン電池にそのような危険性はありません。
このようにリチウムイオン電池は潜水艦にとって明らかに多くのメリットをもたらします。しかし、かねてよりリチウムイオン電池は何らかの状況下で加熱された場合、温度の急上昇が起こり、発火・爆発する恐れがあると指摘されていました。
2016年発火したサムスンのスマホ。リチュウム電池は中国製だった |
20年に「おうりゅう」が就役し、海上自衛隊によりリチウムイオン電池潜水艦の作戦運用が良好であったため、AIP潜水艦に代わって、リチウムイオン電池潜水艦が通常動力潜水艦の花形的存在となりました。
2010年版『防衛計画の大綱』で述べた、国益の保護と「来たり得る脅威への対処」を理由に、潜水艦の保有数を16隻から22隻に増やす方針を実現しました。
昨年進水した「たいげい」 |
また、従来のディーゼル・エレクトリック方式潜水艦のシステムにあった様々な部品を取り払ったことで、「たいげい」は水中音響学的特徴がさらに減弱し、敵による監視や追跡の難度が高まりました。平たくいえば、いかなる国も「たいげい」を探知することはできないということです。
火力面では、そうりゅう型と同等の武器システムを搭載しています。艦首に533mm魚雷発射管6門を装備し、米国のMk-37魚雷、日本の89式魚雷、AGM-84対艦ミサイル「ハープーン」の発射に用います。搭載弾数は30発です。
近年、日本は自国の潜水艦のアジア太平洋周辺海域における活動状況を控えめにしか公表してないため、日本国内ではその実力がほとんど知られていません。例えば昨年は海上自衛隊の潜水艦とヘリコプター母艦「かが」、護衛艦「いかづち」などによる特別派遣部隊がアジア太平洋の重要海域で合同演習を実施した後、ベトナム・カムラン湾に寄港しました。
日本の主な戦略的企図は、第1に、対潜演習を利用して、アジア太平洋の重要海域における自らのプレゼンスを強化し、空中、水上、水中の「全方位、立体式」介入を可能にする。第2に、米国のインド太平洋戦略と連携して、海洋安全保障が牽引する形で、地域の重要国との防衛協力関係を格上げすることです。