2021年5月1日土曜日

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か―【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること(゚д゚)!

日米共同訓練、空自とB52が中国空母「遼寧」牽制 尖閣諸島周辺接近…日米関係にくさび打ち込む目的か

共同訓練する空自の戦闘機(中央下)と米空軍のB52戦略爆撃機(航空自衛隊提供)

 日米両国が、沖縄県・尖閣諸島を断固死守する構えを見せた。航空自衛隊の戦闘機計15機と、米空軍のB52戦略爆撃機2機が4月27日、東シナ海と日本海で共同訓練を実施したのだ。同日、中国海軍の空母「遼寧」から早期警戒ヘリコプターが発艦し、尖閣諸島・大正島周辺の日本領空に接近していた。日米は、尖閣・台湾周辺で軍事的覇権拡大を進める中国を牽制(けんせい)する狙いがあったようだ。


 空自の発表(4月30日)によると、共同訓練には、千歳(北海道)と、小松(石川)、新田原(宮崎)、那覇(沖縄)各基地のF15戦闘機が13機と、百里基地(茨城)のF2戦闘機が2機。米空軍からは、核兵器搭載可能で「死の鳥」と恐れられる戦略爆撃機B52が2機の計17機が参加した。編隊を組んでの飛行と、相手の航空機を迎え撃つ内容だったという。

 防衛省統合幕僚監部は同月26日、空母「遼寧」など艦艇6隻が、沖縄本島と宮古島の間を抜け、太平洋から東シナ海に入ったのを確認したと発表。27日午前、遼寧からヘリコプター1機が発艦して大正島周辺の領空に近づいたため、空自戦闘機が緊急発進(スクランブル)したと発表していた。

 この後、中国の国営メディア「グローバル・タイムズ」(=環球時報の英語版)は4月28日付の記事で、遼寧などの動きについて、「日本への警告と抑止の役割を果たしている」「人民解放軍は今後の中日関係の状況によって該当海域での活動を定例化するだろう」という、中国軍関係者のコメントを掲載していた。さらに、中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は4月29日、海事当局の権限を強化する海上交通安全法の改正草案を可決した。交通運輸省所属の海事局の権限を強化するもので、海警法施行で、外国船舶への武器使用が認められた海警局と連携する危険性が懸念される。

空母遼寧

 尖閣周辺での、日米と中国のにらみ合いをどう見るか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「東・南シナ海における中国軍の活発化と、米軍の対応を見ると、『台湾有事』はそう遠くない時期にも起こり得るのではないかという印象を受ける。今回、中国軍から日本への圧力とされる動きが続いたのは、米国と良好な関係を築く日本にくさびを打ち込む目的ではないか。中国に強硬な姿勢をとれない韓国は、米国にとっても同盟国という認識が薄まっている。中国は、日本も同じ状態に陥るよう狙っているはずだ」と分析している。

【私の論評】中国が本当に恐れているのは、日本が中距離弾道ミサイルを配備し、中国の海洋進出の野望が打ち砕かれること(゚д゚)!

日米は、上記のように共同訓練をするなどして、中国に対峙しています。日米が本格的に協同して、中国に対峙する体制が整えば、中国は長期にわたって台湾を奪取することができなくなるばかりか、海洋進出の野望が打ち砕かれることになるのです。

このブログでは、中国が圧倒的な軍事力を持つかのような「中国脅威論」は間違いであることを何度か掲載してきました。インドはともあれ、米軍との比較では、中国の軍備ははるかに劣ります。

米有力シンクタンク・戦略国際問題研究所の推定では、中国の防衛予算はおよそ2000億ドルで、米国の予算9340億ドル前後の4分の1にも満たないのです。米国は、中国が攻撃的な姿勢を強める事態を深刻に受け止めていますが、こうした現実を忘れるべきではありません。

 米国にとって中国の軍備が厄介なのは、その規模と能力のためではありません。問題は、米国が「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ中国軍の海上戦略であり、中国周辺の海域への米軍の介入を妨害することを目的としてミサイル・電子兵器を配備していることです。

「接近阻止・領域拒否」概念図

 例えば、中国が沿岸部の基地からミサイルを発射すれば、米軍の艦船が紛争海域に接近することはほぼ不可能になります。中国が台湾に武力行使をちらつかせるなか、この状況は米軍の戦略を深刻に脅かします。

ただし、このブログでも何度か掲載したように、米軍の対潜哨戒能力は世界最高であり、それとは対照的に中国軍のそれは全く及びません。以前にもこのブログに掲載したように、中国は対潜哨戒能力を引き上げなければ、中国の海軍力は軍事力ではなく単なる「政治的メッセージ」にすぎなくなります。

有事となれば、米軍は中国の潜水艦を排除し、米軍の潜水艦を思いのままに自ら配置したいところに配置できます。そこから、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷を発射し、中国の「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ中国軍の海上戦略を破ることができます。また、米軍のステルス戦闘機も、米軍は探知できないため、これも中国軍の海上戦略を破ることができます。

米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。ところが昨年5月太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であること同司令部か明らかにしました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。これは、当時はある空母打撃群がコロナ感染で動けなくなっていたこともありますが、米軍が原潜をそれにかえることができると認識していたと考えられます。

空母打撃群と代替えが効くと、思わせるほどに、米軍の原潜は攻撃力が強いのです。かつて、トランプ元大統領は、「米国には空母打撃群に匹敵する潜水艦がある」と自慢していました。

これには、日本の潜水艦隊も参加すればより効果的です。なぜなら、このブログにでも何度か述べているように、日本の対潜哨戒能力も米国に次ぐほどすぐれており、さらに日本の通常型潜水艦は、ステルス性(静寂性)に優れていて、これを中国側は探知できないからです。

これで一件落着といえそうです。では、米アジア太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官はなぜ「米軍は中国軍より弱いし、中国は6年以内に台湾を武力攻撃する」と言い、米国が、自国軍が弱いと主張したのでしょうか。

これには、よほどの目的があると考えるべきです。

2020年9月1日、アメリカ国防総省(DOD)が「中華人民共和国を含めた軍事・安全保障に関する2020年版報告書」を発表した(DOD Releases 2020 Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China)

報告書はミサイルと造船技術に焦点を当て、ミサイルについては、中国軍が射程500~5500キロメートルの中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていないと指摘しました。米国は元ソ連時代からロシアと締結してきた中距離核戦力(INF)廃棄条約に拘束されてきたからです。

まず昨年の国防総省(ペンタゴン)リポートは、そもそも「議会用」に発表されたものなので、米軍側が「国防費の予算を獲得するために、議会に向けて発信したもの」と解釈することもできます。実際これが主目的なのでしょう。

ただ、今年3月9日6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言したデービッドソン司令官が、公聴会で「(中国が)やろうとしていることの代償は高くつくと中国に知らしめるために、オーストラリアと日本に配備予定のイージス・システムに加え、攻撃兵器に予算をつけるよう議会に求めた」という発言には注目すべきでしょう。

これは、「中距離弾道ミサイルの日本配備」を求めているということに他なりません。

米露間にはINF廃棄条約があったため、中国軍が中距離弾道ミサイルを1250発以上保有しているのに対し、米軍は全く持っていませんでした。そこでトランプ元大統領はINF廃棄条約から脱退し(2019年8月2日)、米国も自由に製造することができるようにして、中距離弾道ミサイルを配備してくれる国を探していました。

韓国の文在寅大統領は習近平に忖度して断ったのですが、オーストラリアの首相は親中派のターンブル氏から嫌中派のモリソン首相に替わったので、候補地としてはオーストラリアと日本ということになったのです。

米軍全体の軍事力は中国軍より強かったとしても、第一列島線の戦闘において中国は、いざとなれば全ての軍事力(中国人民解放軍200万人以上)を投入することができるのに対して、有事の時にアメリカが投入できる軍隊は30万人にも満たないです。

それも在日米軍や在韓米軍および第七艦隊も含めてのことです。これは全米軍の20%程度で、中国が100%の兵力を使えることと、中国には航空母艦からでなく「陸地にあるミサイル全てを使うことができる」というメリットがあることを考えれば、たしかに米軍は弱いことになります。

とはいいながら、米軍は世界最高水準の対潜哨戒能力を用いて、中国の潜水艦を無効化して、強大戦闘能力をもつ攻撃型潜水艦を用いれば、中国の艦艇を大量に沈めて中国軍を無効化することができます。中国国内にある中距離ミサイルも、潜水艦や航空機で叩けば完璧です。

さらに、たとえ中国が尖閣や、台湾に人民解放軍を上陸できたにしても、潜水艦隊でこれを囲み艦船による補給を断ち、ステルス戦闘機で航空機による補給を絶てば、人民解放軍は食糧・水、弾薬が尽きてお手上げになります。

その後に、米軍を送り込めば、最終的には、米軍は勝利を収めることになるでしょう。

さらには、中国に対峙しているのは米軍だけではなく、QUAD諸国が対峙しているという事実も忘れるべきではありません。韓国は全く当てにはならいものの、QUAD諸国は信頼できますし、中国は国境を接しているロシアへの警戒も怠ることはできません。無論、中距離ミサイルを持つ台湾を無視することもできません。

ただ問題は、中国軍が射程500~5500キロメートルの中距離弾道ミサイルを1250発を持っていることを過信して、台湾や尖閣を攻撃する挙に出る可能性は現時点では完全否定はできないということです。

そのときには、日本国内や米軍基地、日米の艦艇も攻撃を受ける可能性もあります。たとえそうなっても、日米の潜水艦隊の多くは無傷で反撃できますし、そうなる前に中国軍を攻撃することも可能です。ただ、今のままだと、中国が過信をして、台湾・尖閣を奪取の挙に出る可能性は否定できないということです。

中国の過信を打ち砕くには、日本にある程度以上の中距離弾道ミサイルを配置する必要があるということです。無論、これは在日米軍が配置するということもあるでしょうが、無論それだけではなく、日本が独自で配備することも念頭に入れているでしょう。

準中距離弾道ミサイル MGM-31 パーシング

日本は、イージス艦8隻体制、潜水艦20隻体制はすでに構築し、中国の野望を挫く体制はかなりできたといえますが、中距離弾道ミサイルを配備すれば完璧となり、中国の台湾・尖閣への武力攻撃を長期にわたって(おそらく数十年)完璧に防ぐことができるのです。

また、米軍としては、日本の潜水艦隊もいざというときには、尖閣防衛や台湾有事に積極的にかかわってほしいと考えていることでしょう。これが、米国潜水艦隊と制約なしに密接に協同すれば、ステルス性に優れ、攻撃力も世界一の世界最強の潜水艦隊ができあがります。

これに対抗する術は、中国どころか、全世界にありません。さらに、日本が中距離弾道ミサイルを配備すれば、まさに、蟻の一穴天下の破れということもなくなるのです。中国の海洋進出の野望が完璧に打ち砕かれるのです。中国が本当に恐れているのはこれなのです。

米アジア太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官としては、日本に対して当事者意識を持ち、中国と対峙するべきとの、強いメッセージを送ったというのが妥当な見方だと思います。何よりも、いざというときには米国に頼るだけではなく日本が矢面で戦う覚悟を持つことを促したといえます。

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2021年4月30日金曜日

中国「食べ残し禁止」法可決 浪費ならごみ処理費負担も―【私の論評】中国農業は、都市化、高齢化、Eコマースによる農家破壊という三重苦にあえいでいる(゚д゚)!

中国「食べ残し禁止」法可決 浪費ならごみ処理費負担も

大食い番組も禁止 違反者に罰金

飲食店に掲げられた食べ残しを防止を呼びかけるスローガン(重慶市)

中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は29日、食品の浪費を禁じる法律を可決した。飲食店は、大量に食べ残すなどした客からごみ処理の費用を徴収できる。暴飲暴食をあおる大食いを売りにした番組や動画の放送、配信も禁じ、違反者には罰金も科す。

即日施行した。草案によると、大食い番組にかかわったテレビ局や動画配信業者に最大10万元(約160万円)の罰金を科す。飲食店が客に過剰な注文を促すことも禁止し、是正の警告を無視した違反者には最大1万元の罰金を科す。中国には宴会の主催者が自らのメンツのために多めに注文する習慣がある。

飲食店のほか、食堂を持つ政府機関や学校、出前アプリを展開するネット企業にも食品の無駄が生じないような対策を要求した。スーパーには賞味期限切れが近い商品の管理を徹底し、まとめて売り出すよう求めた。

法律に事細かい要求や禁止を並べたのは、習近平(シー・ジンピン)国家主席が昨年8月「食糧安全保障には常に危機意識を持たなければならない」と強調したことがきっかけだ。大豆やトウモロコシを輸入する米国との対立が長引くことも視野に、飲食時の浪費を戒める指示を出した。

食べ残しを禁じる法律とは別に、「食糧安全保障法案」も2021年中に審議する方針だ。

政府系シンクタンク、中国社会科学院などの調査では、中国都市部の飲食店で年間1700万~1800万トンの残飯が発生している。3000万~5000万人が1年間に食べる量に相当するという。一方、就農人口の減少で25年に約1億3000万トンの食糧不足に直面しうるとの試算もある。

【私の論評】中国農業は、都市化、高齢化、Eコマースによる農家破壊という三重苦にあえいでいる(゚д゚)!

新型コロナウイルスの世界的流行により、国連の世界食糧計画(WFP)は4月、「各地の食糧不足により、1億3500 万人から2億5000万人が飢餓状態に陥る可能性がある」と 警告しました。

中国政府の発表によると、現在国内で消費される食糧の約3割は輸入に頼っています。中国の外貨準備高は2014年に4兆ドル程度であったものが近年は3兆ドル強になって いるようです。

中国はその外貨を石油や天然ガスなどエネルギー輸入に回さなければならず、食糧輸入に回せる外貨は大幅に減少するものとみられています。さらに新型コロナの影 響で、ロシア、ベトナム、ウクライナなどは食糧輸出を制限しており、今年秋以降は食糧価格が高騰するために、中国の食糧調達がますます困難になるのは必至とみられます。

ロシア農業省は4月26日、6月末まで穀物の輸出を停止すると発表しました。ロシアは4月から6月末までの穀物輸出に割当制を導入していましたが、予定していた700万トンの輸出業者への割り当てが終了したとしています。最大の小麦輸出国であるロシアの輸出停止の決定が国際価格に影響を与えるかどうかが注目されます。

ロシア農業省の美しい建物

ロシアが割当制とした穀物は小麦とライ麦、大麦、トウモロコシ。ロシアが主導する旧ソ連圏の経済協力機構「ユーラシア経済同盟」の域外への輸出を対象としていました。農業省は「国内市場で穀物の必要量を保証し、価格が急上昇しないようにする」と説明していました。

ロシアが予定していた700万トンの割当量は前年同期の輸出実績をわずかに20万トン下回る水準でした。ただ4月に割当制を導入して以降、穀物輸出のペースが速まり、1カ月足らずで割り当てが終了することになりました。

世界市場では穀物の供給量や在庫は十分にあるとみられています。一方、新型コロナウイルスの影響で小麦粉などの需要は高まっています。旧ソ連では今春、ウクライナやカザフスタンも小麦の輸出制限を導入しました。ロシアなどで輸出規制を導入する動きが浮上した3月中旬以降、小麦の国際価格はやや上昇に転じていました。

8月10日 に公表された、中国の7月の食糧価格は12カ月連続で2桁上昇し、8月には穀物価格がさらに上昇しています。このままでは収入の少ない内陸部の住民の生活に重大な影響を及ぼす可能性があるので、中国政府内部では毛沢東時代に使用した食料の配給「糧票」の一部地域限定で復活させることまで検討しているといわれています。

この情報を知った欧米の人権団体が懸念しているのは、「中国政府が食糧の供給を都市部に優先し、外国メディアの目の届かぬ内陸部などで餓死者が大量発生すること」だとされています。これはかつて毛沢東政権下で現実に起こった経緯があります。

現実に、中国の発表では、8月22日時点の新型コロナウイルス感染者は8万5000人で、死者は4700人でしたが、これは欧米の主要国と比べてはるかに少なく、その他の事例でも中国当局発表は他国と比べて異常に少ないことが指摘されています。

このように従来の実績から見て、中国の場合、食糧危機やその被害の実態などが正確に報告されず、実相が隠蔽される可能性があるという問題があります。

2020年8月、中国社会科学院は、第14次五カ年計画(2021−2025年)の終わりには1億3000万トンの食糧不足が発生すると発表して、話題を呼びました。報道ではどうしても「食糧不足」という言葉が先走りしてしまうので、少し詳細にこの報道を読み解いてみます。

まず、中国の食糧(中国語でいう「糧食」)の概念を整理しておきます。食糧はお腹を満たす主食を指し、三大食糧として、小麦、米、トウモロコシがあげられます。中国の場合,これら穀物類をはじめとして、芋類や豆類も含みます。

中国新聞社のインタビューに答えた農村発展研究所の杜志雄氏(中国新聞網2020年8月21日)や他の報道(小白読財経2020年8月24日)を総合すると、この食糧不足の重要な意味は大豆にあるようです。

2012年より8年連続で中国の食糧生産量は6億トンを超えており、一方で中国は毎年1億トン以上の食糧を輸入しているのが現状です。ただ,2000年以降食糧自給率は徐々に下落しており、それをもたらしているのが大豆の輸入です。

大豆の輸入は急激に増加しており、現在大豆の85%~90%(8851万トン~1.1億トン)を輸入に頼っています。ちなみに中国の大豆輸入量は世界輸入量の60%を占めており、ブラジル、米国、アルゼンチンでほぼまかなわれています。

2019年の大豆の輸入は全食糧輸入量の70%を占めているため、食糧不足という現象は、大豆の国内生産の減少が作り上げているといってもよいかもしれません。またそもそも輸入大豆は精油や飼料用であり、口にする食糧自体にすぐに影響がでるわけでもないともいわれています。

とはいいながら、農業を取り巻く環境は今後も厳しいようです(Wang 2020)。一つは都市化です。現在の都市化率は60.6%であり、毎年1%前後のペースで都市化が進んでいます。

中国政府は都市化政策を推進してきたが・・・・・

社会科学院も2025年までに中国の都市化率は65.5%に達すると予測しており、14億人の5%、すなわち約7000万人が都市住民になると考えられます。社会科学院は、今後5年間で8000万人以上の農村人口が都市人口に組み込まれると推定しており、農業労働者の割合は約20%に低下するといいます。

もう一つの問題は高齢化です。2018年現在中国の65歳以上の割合は16.8%(中国統計年鑑2019年版)であり、実は国連の予測よりも7年以上も速いペースで高齢化しています。社会科学院によれば、60歳以上という定義ではあるのですが、これが2025年には農村では25%以上になるとしています。農村では出稼ぎで若者が都市に出てしまうために、とくに高齢化が進みやすいとみて良いでしょう。

農業人口が減少し、農業従事者が高齢化するのは日本でも同じです。中国の場合は、都市化が急速に進んでいるため、農村の農業人口の減少と農業人口の高齢化とが同時に進むことになります。中国の食糧確保は国家安全保障上重要な位置付けにあります。安定した食糧供給のためには、農業の生産性向上が今後必要になっていくでしょう。

さらに、最近ではEコマースによる中国農業への悪影響も指摘されています。Eコマースが農村エリアに移行するにしたがって、従来型の非形式的な販売ネットワークは悪化しています。農業製品は、従来あまり制度化されていないマーケティングネットワークを通し、多種多様な代理店を介して販売されていました。

この販売ネットワークは、個人間の私的な信用と現金経済の上に成り立っており、全ての参加者が共生し、リスクを共有し、各業者が固有の情報優位性により利益を得ることができていました。仲介者がより特権的なポジションを確立していたことは確かですが、彼らは農家の経営が成り立つように、数年に渡りローンを提供するといった動機を持っていたので、農家が潰れることはありませんでした。

このようなバリューチェーンは、小規模な土地所有者と制度化された市場の間のバッファのように機能していました。しかしこれらの非形式的なシステムは現在、Eコマースによって激しい競争にさらされ、都市計画の変化の中で、都市から追い出されてしまっています。都市部の卸売業者と小売店は、中国の都市部から刻々と姿を消しているのが事実なのです。

中国の巨大Eコマースは中国の農家を破壊している・・・・・

Eコマースは農家の衰退を補填することはなく、着実に農村コミュニティを構造的に脆弱な体質へと変化させています。従来の非形式ネットワークは、持続可能で、包括的で、農村コミュニティの回復力を保証していました。権力は比較的分散されていましたし、部分的に何かが崩れても、農家は代替手段を簡単に発見することができたのです。

一方でEコマースは強固に制度化されているため、商取引が一部の目立った成績を持つ農家ばかりをプロモートし、収益が不平等に分配されます。さらに言えば、プラットフォームというのは生来的に独占体質であり、農村は旧来の非形式ネットワークにおける仲買人と違い、プラットフォームと交渉する余地を持ちません。

Eコマースサイトはしばしば、仲介者を排除することを売り文句としますが、実際のところは、新しい類の仲介者を生み出しているだけなのです。CUHK(香港中文大学)人類学博士の Sun Rui 氏のフィールドスタディによれば、ほとんどのオンラインショップは特定企業によって運営されており、e コマースの時代には仲介者としての彼らの立場は、依然として重大なものなのです。

近視眼的なEコマース企業によるマーケティング戦略は、地域の製品評価を破壊しかねないです。数千の競合に勝つことを切望する販売者は、しばしば、非倫理的かつ持続可能性のない宣伝・マーケティングを乱用します。

有名な例で言えば、臨沂市から流通したリンゴによって、山西省ではマーケティングキャンペーン後にウイルスが流行しました。原因は強欲な販売者が、物乞いの人々に対し、既に食べることのできない劣化した商品を大量に販売していたためでした。

広告は消費者の同情心に訴えかけますが、その多くは誇張され、農村の現実から切り離されています。多くの人が、Eコマース企業が同情マーケティングとして同じ老人の農家の写真を何回も使い回している事実に既に気づいているかもしれないです。当然このようなやり口は政府の目にも留まっていて、2018年には、臨沂市政府は、ネガティブかつ近視眼的なマーケティング戦略に対し、公式に非難を行っていました。

このように現在の中国農業は、都市化、農家の高齢化、Eコマースによる農家の破壊という三重苦にあえいでいるといえます。こののままにしておけば、将来は食糧不足が起こる可能性もあります。

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2021年4月29日木曜日

トランプ氏、アリゾナ州知事を批判ーマリコパ郡監査について―【私の論評】日本マスコミには、米国の選挙を報道する能力がなく、予測が度々外れるのは当然(゚д゚)!

トランプ氏、アリゾナ州知事を批判ーマリコパ郡監査について

トランプ前大統領

 数日前から、マリコパ郡では2020年大統領選挙の200万票以上の投票用紙と数十台の電子集計装置の監査が開始されました。

 米ウェブサイト「Gateway Pundit」の26日の報道によると、トランプ氏は同日、声明を発表し、アリゾナ州知事が、同州のマリコパ郡で監査作業を行っている人々に警備をつけないことを批判しました。

 トランプ氏は24日、アリゾナ州のデューシー知事に監査作業者に警備をつけるよう呼びかける声明を発表しました。しかし同知事は警備員を配置しませんでした。これを受け、トランプ氏は26日に声明を発表し、「アリゾナ州のダグ・デューシー知事はアメリカで最悪の知事の一人で、アメリカで2番目に悪い共和党の知事でもある。彼はアリゾナ州の2020年選挙結果の再集計と監査を行っているアメリカの愛国者に安全を提供することを拒否している」と批判しました。

 同報道は「これらの人々には警備員を配置すべきで、彼らはこの監査を実行している間、自分で費用を負担する必要はない。トランプ大統領が正しい、デューシー知事は恐ろしい」と論評しました。

 トランプ氏は27日、新たに声明を発表し、「急進左派の民主党は偉大なるアリゾナ州で今まさに行われている2020年大統領選挙詐欺の法廷監査に対抗して、まさに狂ったようになっている。彼らは100人以上の弁護士チームを派遣し、監査の結果がどうなるかを知っているためそれを阻止しようとしている」と民主党を批判しました。

(新時代Newsより転載)

【私の論評】日本マスコミには、米国の選挙を報道する能力がなく、予測が度々外れるのは当然(゚д゚)!

上のニュースをみた方々は、これは昨年12月か、今年の1月のニュースだと思うかもしれません。それは、無理もないかもしれません。

そもそも日本では、数日前から、アリゾナ州マリコパ郡では2020年大統領選挙の200万票以上の投票用紙と数十台の電子集計装置の監査が開始されていたことは無論のこと、事前にも全く報道されていないからです。

中国系メディア「大紀元」では、このことが事前の3月22日に報道されていました。それをそのまま以下に引用します。(画像をクリックすると拡大します)

画面をクリックすると拡大します

この記事を読んでいれば、わかるように冒頭の記事は、まぎれもなく今月28日のニュースなのです。しかも、他のメディアによれば、このアリゾナ、マリコバ郡だけでなくウイスコンシン、ジョージア、フルトン郡、ペンシルベニア、ネバダ、ミシガンでの投票数え直しの可能性も高いのです。

ちなみに、以下は本日Twitter に掲載されていた、投票数え直しの場面の写真です。


冒頭の記事は、トランプ元大統領が、このアリゾナ州のデューシー知事に監査作業者に警備をつけるよう呼びかける声明を発表したにもかかわらず、同知事は警備員を配置しなかったので、それに対して抗議したという内容です。

日本のメディアは新聞もテレビも、これについて報道はしていませんが、米連邦議会から取材の締め出しを受けたと報じられた、中国の反体制メディア、エポックタイムズの日本版や系列の大紀元時報は、この件もきちんと逐次報道しています。

エポックタイムズは法輪功が運営しているサイトであり、これを胡散臭いとする人も日本では多いですが、日本のメディアも酷いものです。

ただし、今回のような、票の数え直しが行われたとしても、すでに米国の大統領選挙は終了し、上下両院合同会議の手続きが終了しバイデン氏が大統領として就任しましたので、今後これが覆されることはありません。

しかし、無論のこと、このような再集計が行われ、本当はトランプ票がもっと多かったことなどが判明すれば、バイデン大統領を弾劾しようとしたときにかなり有利になります。

ペロシ下院議長は大統領選挙後にトランプ氏の弾劾を推し進めようとしました。結局は弾劾は、されなかったのですが、現職ではない大統領を弾劾するなどは合理的に考えてありえない行動であり、全く理解に苦しむ行動をしました。

これについては、私はこのブログでも述べたように、ペロシ氏は期せずして、バイデン大統領の弾劾の敷居を低くしたと思います。

共和党としては、当然のことながら、現在の票の再集計の結果をみあわせて、バイデン弾劾も視野にいれていると思います。ただし、バイデンに対して弾劾手続きをして、バイデンが弾劾されてしまったとすれば、カマラ・ハリスが大統領になることになります。

そうすると、民主党の極左グループが大喜びするわけで、これは共和党は無論のこと、民主党主流派や良心派も避けたいところでしょう。バイデンを弾劾するというなら、カマラ・ハリスが大統領にならない手立ても考えなければなりません。

ただ、そこまでいかなくても次の中間選挙では、この件が大きな影響を与える可能性が高いです。

共和党が優勢な米南部ジョージア州で郵便投票の抑制などにつながる新法が成立したことをきっかけに、選挙制度改革をめぐる党派争いが米国で激しさを増しています。

手続きの厳格化で不正を防ぐとする共和党に対し、民主党側は同法の影響を受ける黒人の政治参加を制限する動きだと非難。民主党が優勢な各州では「投票の権利」を拡大するためとして手続きを簡素化する法整備が進んでおり、両党とも来年の中間選挙をにらんで有利な状況を作り出そうと躍起です。


来年の中間選挙で政権基盤を強化したいバイデン氏は声明で、ジョージア州などでの動きは「憲法と良心への露骨な攻撃だ」とも指弾しました。就任時にトランプ政権時代に深まった米国の分断を修復するとうたったバイデン氏ですが、現実には強い言葉で共和党を非難し、同党からさらなる反発を買っています。

日本では、郵便投票はできますが、身体障害者手帳や戦傷病者手帳を持っている人のうち一定の障害がある人や、介護保険の被保険者証を持っている人で要介護5の人は、自宅等で郵便等による不在者投票ができますが、それ以外はできません。

なせそのようなことになっているかといえば、やはり郵便投票は不正選挙の温床になるからです。

今回のアリゾナ州マリコパ郡での2020年大統領選挙の200万票以上の再集計は、結果次第で今後の米国の選挙制度に大きな影響を与える可能性は大きいです。

このようなことを全く報道しない日本メディアは、この出来事の意味を全く理解せずニュースバリューがないと考えているか、あるいは悪意があるとしか思えません。私は、前者であると信じたいです。いずれであったにせよ、日本のマスコミは、結果として米国の選挙を報道する能力はないですし、予測が度々外れるのは当然です。

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2021年4月28日水曜日

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 「中国に舐められてる!」トランプ陣営がバイデン政権を辛辣批判

「我々にはこんな態度はとらなかった」とトランプ氏

米国アラスカ州で会談した米中高官(2021年3月18日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国バイデン政権の対中政策は日本にも多大な影響を及ぼす。その政策は一見強硬であり、日本の識者の間では「トランプ前政権の対中政策を継続した」とする見解が広まっている。

 だが、本当にバイデン政権の対中政策はトランプ政権の政策と共通性があるのか?

 それを知る手掛かりの1つとなるのが、バイデン政権の対中政策をトランプ陣営がどのように見て、評価しているか、だろう。

 では、実際にトランプ陣営がどう評価しているのかというと、「バイデン政権の対中政策は軟弱で融和的すぎる」という批判が明確なのだ。

 「我々にはこんな態度はみせなかった」

 まず、トランプ前大統領の最近の発言を紹介しよう。バイデン政権の中国への対処について述べた言葉である。

 周知のようにバイデン政権のブリンケン国務長官らは3月18日、米国のアラスカ州で、中国の共産党政治局員で外交担当の楊潔篪氏らと会談した。会談は冒頭から激論となり、中国側が米側よりずっと長く語り、米国側の「人権弾圧」や「人種差別」を非難した。

  トランプ前大統領は3月下旬、FOXテレビのインタビューで次のように語った。

  「私たちが政権の座にあったとき、中国に対して正しい措置をとった。だが今の状況をみてほしい。つい先週、中国は米国側の代表をどう扱ったか。しかも私たちの領土のアラスカ州で、とてつもなく無礼な言葉をぶつけてきた。中国は私が大統領だったときは米国にこんな態度はみせたことがない」

  トランプ氏は、バイデン政権が中国に甘くみられていること、しかも、米国内で無礼な言葉を吐かれたことへの怒りを露わにした。バイデン政権の対中政策が融和的すぎるという批判である。

  中国政府は今回のアラスカでの米中高官会談を「戦略対話」と呼んでいた。米国のオバマ政権が中国への融和的な姿勢に基づいて推進したのが「対中対話」外交だった。経済、政治、軍事その他、広範な領域で対話の場を設けて、対中関与政策を進め、対中対話の数は40ほどに及んだ。だがその結果、中国は増長し、露骨に覇権主義的な行動をとるようになった。

 トランプ政権は、政権発足当初からこの対中対話を否定した。多数あった対話を次々に中断し、中国との対決姿勢を示したのである。

  バイデン政権下で行われたアラスカでの米中協議は米国側の譲歩だといえた。中国側が「対話」と呼ぶ会合を、米国に中国政府代表を招いて実施したからだ。だからトランプ氏が「中国は我々にこんな態度をみせたことがない」と怒るのも決して事実に反する主張ではないといえる。

  視野が狭く国際的な視点に欠けている 

  バイデン政権を批判する第2のトランプ前政権高官は、元国連大使のニッキー・ヘイリー氏である。  インド系米国人であるヘイリー氏は、サウスカロライナ州の知事として実績を積み、トランプ大統領から国連大使に任命された女性政治家である。保守派として内政、外交の両面で活発な言動をとってきた。

  そのヘイリー氏が、4月中旬にFOXテレビやニューヨーク・ポスト紙とのインタビュ―で、バイデン政権の対中姿勢について以下のように語った。  「バイデン政権は中国に関してナイーブ(単純)すぎる。アラスカでの米中協議でも、中国側から完全に侮辱されながら反撃しない。中国が、反米テロを支援するイランと連携していても抗議をしない」

 「中国はイランだけでなくロシアとも手を組み、米国に対抗しようとしている。中国はさらに北朝鮮とも反米の連携を進めている。だが、バイデン政権は中国のそうした野心的な動きに口を閉ざしたままだ。このままではバイデン政権は中国が危険な新大国となることを座視するだけだろう・・・」 

 ヘイリー氏は米中二国間の問題にとどまらず、中国と他の諸国との連携が今後米国にどんな影響を及ぼしていくかという多角的な問題を提起していた。バイデン政権は視野が狭く国際的な視点に欠けているという批判でもある。

  中国政府の責任を追及しないバイデン政権 

 第3の批判者は、トランプ前政権で国家情報長官を務めたジョン・ラトクリフ氏である。  ラトクリフ氏はテキサス州の連邦検事の出身で、共和党の下院議員を4期務めたベテラン政治家である。国際戦略やインテリジェンスにも詳しく、トランプ大統領から2020年に政府の各種諜報機関を統括する国家情報長官に任じられた。

 バイデン政権は3月下旬、CIA(中央情報局)やNSA(国家安全保障局)からの安全保障やインテリジェンスに関する報告を基に、国際情勢の概要をまとめた報告書を発表した。ラトクリフ氏はその報告書の内容について、FOXテレビのインタビューに応じて次のように語った。

  「バイデン政権のこの報告書は中国の動向も取り上げ、米国にどのような危害や悪影響を及ぼすかという視点から述べている。だが、ひとつ致命的な欠陥がある。それは中国政府が武漢での新型コロナウイルス発生直後から2カ月近くにわたり情報を隠蔽し、正しい情報を伝えようとする現場の医師らを罰し、さらにウイルスに関する虚偽の情報を拡散した事実をまったく伝えていないという点だ」

  以上のようにラトクリフ氏は、米国民を苦しめた新型コロナウイルスに関してバイデン政権が中国政府の責任をまったく追及しないのは不自然であり、中国への融和姿勢を感じさせる、と説いている。

  踏襲されていない対中姿勢 

 こうしてトランプ氏自身をはじめ前政権の中枢幹部だった人物たちが、バイデン政権の対中政策の具体点を挙げて批判を浴びせている。この事実は、バイデン政権の対中政策がトランプ前政権の対中政策と同じだとする主張を否定することになるだろう。  日本にとって米国の政権の中国への姿勢はきわめて大きな意味を持つ。バイデン政権の対中政策の本質はなにか、多角的かつ客観的にみていくことが欠かせないだろう。

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バイデン政権の中国に対する及び腰は、トランプ前大統領と最初に会ったときのことを考えとよりはっきりすると思います。

トランプ前大統領と、習近平が最初に首脳会談をしたのは、2017年の4月6、7日、米フロリダ州パームビーチで開かれました。当時の、最大の焦点は、弾道ミサイルの発射に続き、「6回目の核実験」をチラつかせる、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長率いる北朝鮮への対応でした。

これについては、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中会談、習氏土下座懇願 権力闘争も臨戦態勢 河添恵子氏緊急リポート―【私の論評】米による北の外科手術と正恩斬首を黙認する習近平?

この記事は、2017年4月7日のものです。この記事より一部を以下に引用します。
北朝鮮が5日強行した弾道ミサイルの発射は、米中首脳会談に衝撃を与えました。北朝鮮「単独解決」に傾いている米国と、中国のメンツを省みない北朝鮮の強硬姿勢の間で、習近平国家主席は窮地に立たされ会談に臨みました。

両者は約1時間、双方の夫人と通訳のみで会談した後、夕食会を開きましたた。米政府関係者によると、会談でトランプ氏は習氏に対し、北朝鮮の対外貿易の約9割を占める中国に対し、圧力を強めるよう要求。中国が協力しない場合は、米政府が独自に北朝鮮と取引がある中国企業を制裁対象に加える新たな政策を検討していることを伝えたといいます。

トランプ氏は夕食会の冒頭、習氏のそばで「我々はすでに長く話し合ってきているが、私はまだ何も得ていない。全く何もだ」と強調。トランプ氏の要請に対し、習氏が同調しなかったことにいらだちを見せました。

そうして、米軍のシリアへのミサイル攻撃が、米中首脳の夕食会とほぼ同時に行われたことで、習近平国家主席は、トランプ大統領との会談議題である北朝鮮の核・ミサイル開発阻止をめぐっても、同様の結末が中朝国境を流れる鴨緑江の対岸で現実に起き得ることを認識せざるを得なくなりました。
当時シリア北西部イドリブ県の反政府勢力の支配地域が空爆され、子供を含む80人以上が死亡し、数百人が負傷した事件がありました(2017年4月4日)。

これを受けて、米国のトランプ政権は、シリア領内ヒムス市南東約40キロに位置する政府軍のシャイラート空軍基地に50発以上の巡航ミサイルによる攻撃を敢行したのです。

この攻撃は、同年1月に誕生したトランプ政権が初めて発動した軍事作戦であるだけでなく、シリア紛争が始まった2011年春以降で初めての米国による直接的な軍事介入となりました。

当時のトランプ政権によるシリア攻撃は、様々な思惑があったでしょうが、それにしてもその攻撃を習近平との夕食会と同じタイミングで行ったのですから、習近平も度肝を抜かれたことでしょう。

そうして、習近平はこの攻撃を受けて、トランプ氏は従来型の大統領とはかなり異なった大統領であると受け止めたことでしょう。

そうして、米軍による北朝鮮攻撃も十分にありえると、腹をくくったことでしょう。

その後、トランプ前大統領は、米朝首脳会談を三度にわたって行いました。
第一回目 2018年米朝首脳会談 - 史上初の米朝首脳会談。アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮最高指導者の金正恩2018年6月12日シンガポールにて行なった会談。

第二回目 2019年2月米朝首脳会談 - 2019年2月27日から2月28日にかけてベトナムハノイで開催されました。

(第三回目)2019年6月米朝首脳会談) - 2019年6月30日板門店で行われましたが、米国政府は「首脳会談ではなく両首脳が面会しただけ」と主張し、北朝鮮側も首脳会談としていません。

選挙戦の最終には、「米国ファースト」等と語っていたトランプ氏でしたが、いざ蓋をあけてみると、中国に対して厳しい要求をつきつけたり、制裁を発動するとともに、北朝鮮の金正恩 とはじめて日朝首脳会談を行うなど外交にも力をいれていました。

どうしてこのようなことを始めたかといえば、やはり外交問題を解決しなければ、当然のことながら「米国ファースト」になることはありえず、しかも、その中で最も最優先すべきは中国との対峙であることに気づいたからでしょう。

北朝鮮の問題に関しては、大統領就任の前後では、重要な問題とみなしていたのでしょうが、やはり最重要なのは、中国との対峙であり、その他の問題はこれに勝利するための制約要因にすぎないとみなすようになったのでしょう。

北朝鮮問題のみを単独で解消したとしても、中国の問題は何ら解消できないでしょうが、中国との問題が解消されれば、北朝鮮問題などさしたる問題ではないということに気づいたのでしょう。

さらに、北朝鮮の核ミサイルは米国を狙うだけではなく、無論中国も狙っています。ルトワック氏の語るように、北朝鮮とその核の存在が、中国の朝鮮半島への浸透を防いできたという面は否めません。

良い悪いは別にして、これは事実です。米国が北を単純に軍事的に潰せば、新北、新中的な韓国文政権は一気に、中国に接近し、朝鮮半島全体に中国の覇権が及ぶ状況になったかもしれません。

北朝鮮のミサイルは中国全土を標的にできる

そのようなことは、日米もロシアも到底容認できません。だからこそ、現状維持すべきであるとの認識から、トランプ前大統領は北との接近も一時はかったのでしょうが、北朝鮮が何も良い材料を提供してこなかったので、その後何の進展もありませんでした。

そうして、中国との対決を最優先するように、大きく舵をきったのでしょう。このようなことは、既存の政治家にはなかなかできないことです。

既存型の政治家や、役人は、外交でも、国内政治でもあれもこれもと総合的な政策を実施し、結局何もできないという状況に陥りがちです。

しかし、トランプ氏のような実業家は、物事に優先順位をつけつつ、当面は最優先事項に取り組むのが普通です。なぜなら、どのような企業であっても、たとえ巨大企業であったにしても、使える資源は限られているからです。

世界をみまわしてみると、すでにロシアのGDPは日本の5/1でしかなく、人口も1億4千万人と、日本より2千万人多いていどす。東京都のGDPと同程度です。韓国も同水準です。北朝鮮は韓国、ロシアにはるかに及びません。中東諸国を全部あわせても、日本のGDPにはるかに及ばず、金持ち国だとみらているサウジ・アラビアもGDPでみると日本の福岡県などとあまり変わりません。

しかし、中国は違います。確かに、国民一人当たりのGDPは100万円前後ですが、それにしても人口が14億人と多く、全体ではかなり大きなGDPになります。こうしてみると、米国に対する最大の競争相手は中国です。

だかこそ、実業家であるトランプ氏は中国との対峙を当面の、最優先課題としたのでしょう。そうして、それは正しい選択といえます。なぜなら、今や世界で唯一の超大国である、米国でさえも、使える資源は有限だからです。

トランプ前大統領

このような外交を展開してきたトランプ氏からみれば、確かにバイデン政権のやり方は手ぬるいです。

バイデン米大統領が就任して以来、演説やインタビューで外交政策について発信してきました。中国に対して厳しい姿勢で臨むと語ったことが特徴です。

2月4日の演説では中国を「最も手ごわい競争相手」と位置付け、「米国の繁栄と安全、民主的価値観は中国の直接的な挑戦を受けている」と語りました。同月7日放送の米テレビのインタビューでは、習近平中国国家主席について「彼を形づくるものの中に『民主主義』は含まれていない」と指摘しました。

バイデン政権は、「内政重視」へ偏っていると指摘される点を意識して、外交も重視し、同盟国との協調を目指す姿勢を示すねらいがあったのでしょう。

バイデン氏が中国に対峙すると語り、ブリンケン氏が警告を発し、トランプ前政権と同様に米海軍が台湾海峡や南シナ海で中国ににらみを利かせる構えをとったこと自体はいずれも歓迎できます。

ただし、残念なことですが、バイデン政権の対中姿勢が日本の国益や国際秩序の維持に寄与すると過信はできないです。

バイデン氏は演説で「米国の国益に沿うのであれば(中国と)一緒に取り組む用意がある」とも述べました。気候変動問題などが念頭にあるのでしょう。

ジョン・ケリー気候問題担当特使

ジョン・ケリー気候問題担当特使は、気候変動について中国との協力を推進する取り組みにおいて「人権についての相違」を考慮の対象外とすることにやぶさかではないようです。

フォーリン・ポリシーのラビ・アグラワルは、気候についてのジョー・バイデンの目標と、問題へのグローバルな対応をどのように促進しようと計画しているかについてケリーと対談しました。特に中国とどのように協力するつもりであるか、について対談しました。

「中国について話しましょう。この政権は中国についてかなり厳しい態度を取っています」とアグラワルは強調した。「米国は中国がウイグルに対してジェノサイドを行ったと非難し、台湾を引き込みました・・・しかしこうした中で、バイデン政権は気候変動との戦いで中国の協力を本当に必要としてもいます。あなたはこの1つの課題―気候変動―を他の全ての競争分野とどのように区切りますか?」

ケリーは答えました。「米国は気候問題で中国の協力を得ないことから恩恵を受けません。我々は全く統制されています。経済のルールについて、サイバーについては相違があります。他に人権についても相違があります・・・しかしそうした相違は気候対策ほどの重大なことの妨げとなるべきではありません」

中国は米国その他の国から、ウイグルのイスラム教徒に対してジェノサイドを行ったとして非難を受けています。何万人ものウイグル人が「再教育収容所」に入れられ、そこで数え切れないほどの人権侵害が起きています。人権侵害の例としては、強制労働、レイプ、性的虐待、人工妊娠中絶や避妊手術の強制があります。

ケリーは、中国はすでに「誠意を持って」交渉しており、当初の対話が厳しいものだったにもかかわらず「合意と前進ができる場所と方法を何とか見出した」と述べました。

「中国は、市民が失敗によって大いに影響を受けているため、両国が気候危機を解決することができることに利益があると分かっているという気がします」とケリーは述べました。

さらにケリーは、難点は米国民に気候について何を行う必要があるのかを納得されることにあるのではなく、むしろ何かを実際に行わせるために議会での「政治的意思」を引き出すことにあるのだと述べ、バイデンはもっと多くの先進国に大きな責任を担うよう求める計画を支持するだろうと考えていると付け加えました。

中国は気候変動に影響を及ぼす要素に対する寄与を理由に必然的にそうした計画に加わるでしょう。環境防衛基金によると、中国は世界の汚染の25パーセントを生み出しており、全世界で使用される石炭の約半分を燃やしています。

習近平は昨年、世界最大の温室効果ガス排出国である中国が2030年までに二酸化炭素排出量のピークを迎え、60年までに排出量を実質ゼロにする計画を示しました。

バイデン氏の演説や発言で気にかかるのは、全体主義政権が世界第2位の経済力を持ち、軍事力を急拡大させているという「中国問題」が、米国のみならず世界の自由と繁栄を覆しかねない極めて深刻な問題だという認識が示されておらず、この点ではトランプ前政権とは対照的です。

クリーンな地球環境になったとしても、全体主義が地球にはびこってしまえば、無意味です。無論、クリーンな地球環境の追求は重要なことではありますが、まずは人々の健康や生命を直接脅かす環境問題は、解消しつつも、炭素目標などは全体主義を克服してから行うべきものです。地球温暖化説は、未だ説の一つにすぎないのですが、全体主義の驚異は説ではなく、現実の脅威です。

さらに、エコファシズムという言葉もあるように、環境問題は中国の全体主義の正当化に用いられる可能性すらあります。

「エコファシズム」は、権威主義的な政府が個人に対してその個人的利益を「自然の有機体全体」のために犠牲にするように要求する、理論上の政治モデルの一つです。一部の作家は、環境問題に対処するために極端なまたは「ファシスト」的な政策に頼る可能性のある未来のディストピア政府の架空の危険性を述べるためにこの用語を使用しました。

またほかの作家は、環境問題に焦点を当てた歴史的または現代のファシズム運動を説明するためにこの用語を使用しました。「エコファシズム」の政府は存在した事は無いですが、ナチズムの中心的スローガンの一つである「血と土」には環境主義の側面がみられます。この用語はイングランド・ウェールズ緑の党の中で影響力拡大を図る極右勢力を記述するためにも使用されています。

世界はまずは最初に全体主義の魔の手から、世界中の人々を救うべきです。こちらのほうが、優先順位が高いのは明らかです。

私自身は、中国がまともな国になれば、それだけで環境問題などもかなり改善されると思います。その後に、環境問題に取り組んだとしても遅くはないです。

日本をはじめとする同盟国はバイデン氏に、環境問題よりも、対中抑止を最優先させるように、説くべきです。

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2021年4月27日火曜日

奇妙な3度目の緊急事態宣言 ワクチンの遅れや五輪危機はマスコミが騒いでいるだけだ―【私の論評】マスコミのコロナ報道は「さ・ぎ・し・か・な」で疑え(゚д゚)!

奇妙な3度目の緊急事態宣言 ワクチンの遅れや五輪危機はマスコミが騒いでいるだけだ 

高橋洋一 日本の解き方

3度目の緊急事態宣言発令前日、東京・表参道をマスク姿で歩く人たち=24日午後

 東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象にした新型コロナウイルスの緊急事態宣言は、今回で3度目となる。正直言って辟易(へきえき)している住民も多いのではないか。

 もともと日本には、世界で当たり前の「非常事態宣言(戒厳令)」が存在していないため、個人に対して強制力のある行動制限はできない。このため日本では「緊急事態宣言」にとどまっている。

 日本で「感染第4波」と騒いでいるが、人口当たりの感染率を世界で比較すると、元厚生労働省技官の木村盛世氏は「さざ波」レベルだと指摘している。実際のところ今の日本は、ワクチン接種が進んで収束しつつある英国と同程度の水準だ。

 この意味で、日本の「緊急事態宣言」は、世界からは奇妙に見えるだろう。今回も個人に強制力はないが、その分、飲食店や商業施設、イベントなどの事業者にしわ寄せがある。筆者は本コラムで一貫して書いてきたが、休業要請するなら補償措置は当然である。

 2020年度補正予算では、資金使途自由の地方創生臨時交付金を地方自治体に約4兆5000億円計上したが、ほかにも事業者に対する協力金を地方自治体から給付するため、予備費(協力要請推進枠等)として約3兆3000億円も計上した。

 21年度予算でも、予備費に5兆円計上したので、当面地方自治体が休業補償するには困らないだろう。さらに必要ならば、今年度も補正予算を組むことができる。東京都は他の地方自治体とは異なり、財政余力がたっぷりあるので、独自に休業補償を行えばいい。

 それにしても、新型コロナでのマスコミのあおりはひどい。日本のワクチン接種が遅れている理由は「厚生労働省が副反応の責任を取りたくなくて及び腰だったから」とか、「この状況では東京五輪どころでない」といった意見も少なくない。

 だが、これはミスリーディングだ。日本のワクチン接種率は世界の中でも低いが、それは日本の感染率が低いからだ。感染の度合いを加味して順位を出すと世界の中で平均的になる。

 ワクチンの供給は原則として感染がひどい国・地域から行われている。データ入手可能な世界84カ国で、日本は71位と下位であるが、感染の度合いを加味すると、日本は45位だ。感染が少ないのに、人口の多い日本がワクチンを大量に集めたら、世界から批判を受けてしまうだろう。一刻も早くワクチンを確保してもらいたいのが人情だが、カネにものを言わせず、ワクチン格差に加担しないのは、奥ゆかしい日本らしいスタンスとの見方も可能だ。

 メディアがワクチンの副反応をあおっておいて、「厚労省が及び腰」というのはまさにあおりの典型だ。それを言うなら、マスコミがワクチン副反応をあおったために、日本では集団接種ができなくなって、今回自治体にノウハウがなく困っていると正確に伝えるべきだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が、日本の緊急事態宣言は、感染拡大予防のための措置で五輪の開催に関係ないと言ったのも当然だ。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】マスコミのコロナ報道は「さ・ぎ・し・か・な」で疑え(゚д゚)!

冒頭の記事で、高橋洋一氏が語っている、マスコミのコロナ騒ぎは困ったものです。その中でも、テレビ番組の煽りは酷いものです。どうしてそうなってしまうかといえば、それは検証の困難さにあるのかもしれません。

テレビのコロナ煽りはいつまで続くのか・・・・

新聞・週刊誌・月刊誌の報道については、現物を保存しておけばその内容をいつでも検証することが可能です。

それに対してリアルタイム視聴が前提であるテレビの報道については、特別に録画をしない限り、後に検証できません。多くの人は、録画等しないでしょう。

ただし、最近ではYouTubeなどで、ワイドーショーの明らかに間違った発言の部分を切り抜き、その間違いを指摘しているものもあります。実際、私自身も、ワイドーショーなどで明らかに間違いであると思ったMCなどの発言の切り取りをYouTubeで何度もみたことがあります。

ただ、仮に検証して問題を発見したところで、著作権による保護があり、現物の放送録画を広く国民に示して立証することもできません。放送への苦情や放送倫理の問題に対応する第三者機関を名乗るBPO(放送倫理・番組向上機構)についても、バラエティ番組のやらせを検証することがあっても、日夜デマ報道や問題報道を繰り返し乱発している報道番組を自律的に検証することはほとんどありません。

このように、テレビ・メディアは、国民の電波を独占しているにもかかわらず国民からの検証をほとんど受けることのない極めて優越的で安全な立場にいるといえます。他業種と比べて緊張感のない中で製造された製品に欠陥が多いのはむしろ当然の成り行きです。品質保証の基準が事実上は放送法ではなく「自律」しかない彼らにとっては「ワイド・ショー」ほど素敵な商売はないと言えるかもしれません。

インターネットの登場で、テレビの情報発信力が以前より低下したことは間違いありません。しかし、『報道ステーション』や『サンデーモーニング』といった報道・情報番組は、いまだに10%を超える視聴率を保持し、社会に大きな影響を与えています。特に高齢者層には、未だに大人気です。


今回のコロナ禍でも、この恐怖発生源にゼロリスクの対応が当たり前であるかのよう印象操作されてしまった日本社会には、恐怖が蔓延し、大衆は集団ヒステリーを起こし、一部は自粛警察として暴徒化しました。大衆を一方向に誘導するテレビが発信のインフォデミックは社会に深刻な影響を与えるのです。

ちなみに、インフォデミックとは、英語のインフォーメーション(情報)とエピデミック(ある地域で短期的に感染症が流行すること)の合成語であり、噂やデマも含めて大量の情報が氾濫し、現実社会に影響を及ぼす現象のことです。疫病流行の際には出所不明の情報が広がりやすく、世界保健機関(WHO)も科学的に根拠のない情報を信じないよう、公式サイトで注意を呼びかけています

そんなテレビ報道に対して、数年にわたって収集した実際の報道を示した上で論評したものが本書です。

テレビ報道を録画するきっかけを私に与えてくれたのは、破滅的な政権を生んだ「民主党絶賛報道」と、原発関連死を多数誘発させると同時に日本経済の生産性を破滅的に低下させる原因を作った「原発反対報道」です。いずれもワイドショーを中心とするテレビ報道が一糸乱れぬ偏向報道を連日行い、大衆を特定の思想に誘導しました。

テレビの印象操作は昔からありましたが、記憶に新しいところでは「戦争法案反対報道」「小池劇場」に多くの人々が熱狂し、「モリカケサクラ報道」にハマりました。そして今、恐怖を煽る「コロナ報道」によって、多くの大衆はヒステリックなゼロリスクの追求者に仕立て上げらてしまったようです。

これが、昨年の夏くらいであれば、コロナ感染症の本質が知られていませんでしたから、まだしも、その後もテレビはゼロリスクを煽り続けています。

新型コロナウイルス(COVID-19)は感染者の75%は他の人に感染させていないことが知られています。ただ感染者が3密の状態にいると感染力が18.7倍になるとのデータが出ており、感染拡大の決め手はやはり「3密(密閉、密集、密接)」にいるかどうかということになります。

ウイルスが感染しやすい時期もわかってきました。ウイルス培養(生きているウイルスが検出される)期間は発症後8日まであり。6日が経つと接触者(家庭内接触も含む)であってもほぼ感染しないこともわかってきました。

最も感染しやすい時期は発症0.7日前で、実に44%は発症前に感染させていることがわかっています。だからこそ無症状の人も3密のところではマスクが必要です。症状が治まり、発症後10日(8日+2日間の猶予)が経てば人にうつすことはまずないでしょう。学校への登校、仕事復帰も大丈夫です。

このようなことが、コロナウイルスの発生したばかりのことはわかつていませんでしたが、現在ではそのような知見が得られているのです。

しかし、テレビ主導のインフォデミックが一度発生すると、日本の政治は停滞し、普通の人々が生きていくために必要な経済や安全保障が理不尽に犠牲にされ、生活に苦しむ弱者が決定的な打撃を受けるのです。

インフォデミックを発生させないためには、テレビの視聴者が、テレビのデマ報道や問題報道のやり口を見切って騙されないことが重要であり、騙されないためには、騙しのテクニックを知ることが効果的です。

ワイドショーの扇動報道は、もはや誘導される情報弱者のみの不利益の問題だけではなく、そのヒステリックな感情によって理不尽な被害を連帯して負わされる日本社会全体の深刻な問題になったといえます。

メディア・リテラシーを考える画像

現成では一人でも多くの方々が、メディア・リテラシーを身につけるべきです。リテラシー(英: literacy)とは、原義では「読解記述力」を指します。一昔前に言われた「読み・書き・算盤」です。現代ではインターネットやテレビ、新聞などのメディアを使いこなし、メディアの伝える情報を理解する能力のこと、または、メディアからの情報を見きわめる能力のことです。

メディア・リテラシーは、主に5つの原理によって成り立っています。

第一の原理は、「すべてのメディア・メッセージ」は「構成されている」ということです。
ここでいう「メディア・メッセージ」は、テレビや新聞など大手メディアだけでなく、個人で発信するソーシャルメディアを含みます。

第二の原理は「メディア・メッセージは、創造的な言語とその原理を用いて作られている」ということです。テレビのCMなどを考えるとわかりやすいですが、さまざまなカメラワークや音声などの要素によって、メディア・メッセージは構成されています。

第三の原理は、「メディア・メッセージは、多様な人々によって、多様に感じ取られる」ということです。一つの同じメッセージでも、東京に住むか、沖縄に住むかで、米軍基地問題についてのとらえ方も変わってきます。

第四の原理は、「メディア・メッセージは、価値観と視点を有している」ということです。新聞社や放送局にはそれぞれ「癖」があり、同じニュースを報じるにも、その価値観が反映されがちです。それはソーシャルメディアで個人が発信する際にも、同じことが言えます。

第五の原理は、「ほとんどのメディア・メッセージは、力や利益を得ることを目的として作られている」ことです。メディア企業には公益性もある一方、株式会社である以上、利益を得ることを目的としている面があります。また、クリックすればお金を稼げるような仕組みを利用して、「フェイクニュース」を作る人もいます。利益が目的でなくても、何らかの力(影響力)を得ようとする場合もあります。メディア・メッセージには、必ず目的があるということを頭に置く必要があります。

以上が、国際的にみたメディアリテラシーの基本原則だが、これだと、実際には使いにくいですし、忘れやすいです。法政大学・坂本旬教授は、米国のメディアリテラシー団体であるCenter for Media Literacyの5つのチェックリストを日本語に翻訳し、「さ・ぎ・し・か・な」というわかりやすい標語にしました。

それぞれ、上記の第1から第5の原理に対応しています。
さ:誰がメッセージを作り出したのか(作者の「さ」)
   (Authorship) Who created this message?

ぎ・私たちの注意を引くためにどんな創造的表現技法が使われているか(技法の「ぎ」)
   (Format/Techniques) What techniques are used to attract my attention?

し:他の視聴者は自分と比べてどのように違った理解をするだろうか(視聴者の「し」)
   (Audience) How might others interpret this message differently?

か:どんな価値観やライフスタイル、視点が表現されているか、あるいは排除されているか(価値観の「か」)
   (Content/Framing) What values, lifestyles and points of view are represented in-- or omitted from -- this message?

な:なぜメッセージが送られてきたのか(なぜの「な」)
   (Purpose) Why is this message being sent?

2015年に実施された「第6回世界価値観調査」という国際調査によると、「日本国民の73%が新聞から、94%がテレビから毎日情報を得ていることが判明」、そしていずれも「調査を実施した57カ国中で1位の数字」なのだそうです。ただ、この頃よりは、さすがに、新聞・テレビだけから、情報を得る人は減ったとは思いますが、それでも今でも多いのだと思います。

近年の新聞とテレビはオールドメディアと呼ばれて斜陽産業のレッテルを貼られてきましたが、影響力はいまだ充分に大きいです。コロナ禍でもテレビのワイドショーやニュース番組の情報は視聴者の心情と行動を逐一左右しましたし、見聞きした情報をまっすぐに受け止めてしまう素直な視聴者たちによってトイレットへーパー等の買い占め騒動が起きるなど、国民もどうかしていたのは我々の実感するところです。

去年はトイレットペーパー買い占め騒動があった

ワイドショーやニュース番組が番組カラーとして打ち出す政治色、攻めるコメンテーターの発言に対する生放送ゆえの検証不足、素人発言の確信犯的な利用など、テレビは様々な方法を駆使して、私達を印象操作しようとしている部分は間違いなくあると認識すべきです。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、SNSなどで正しい情報を発信している医師はたくさんいます。

しかしなぜか、テレビ番組に頻繁に出ている人の中に、疑問符がつく人がいます。もちろん、全員とは言いません。

COVID-19患者を1人も診ていない医師がどや顔で最前線の医療従事者を批判したり、新型コロナウイルスのPCR検査について明らかに誤ったコメント(検査を増やせば増やすほどよいと受け取られるような発言等)をしていたり、よくもあそこまで断言できるものだと感心することがありました。

一人の人間として「感想」を述べるのはかまわないと思いますが、「世の中のみなさん、こうですよ」と間違ったことを流してしまうのは、かなりメディアリテラシー上問題があると思います。

COVID-19に関して言えば、Twitterはデマも多いですが、インフルエンサーによる真実の流布も相応に多く、情報を集めるツールとしてはとても良かった思います。特に信頼に値する具体的な数値をもとにしたものは信用できます。しかし、テレビについては、出ているコメンテーターによってはひどいものがありますし、総合得点ではSNSをはるかに下回っています。

今回の騒動により、メディアに対するSNSの下克上が進んでいくのではないでしょうか。ただし、SNSにも明らかなデマも多いので、メディア・リテラシーがますます重要になってくるでしょう。

まともな感染症専門家の、SNS上のコメントだけではなく、そのエビデンスなども含む、添付資料にも目を通す人は、現在のさざなみ程度のコロナ感染症のことを十分熟知しており、マスコミ報道にはうんざりしているのではないかと思います。


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2021年4月26日月曜日

対中同盟の旗印に民主主義を掲げるのは難しい―【私の論評】実は民主化こそが、真の経済発展の鍵であることを中国をはじめとする発展途上国は認識すべき(゚д゚)!

対中同盟の旗印に民主主義を掲げるのは難しい

岡崎研究所

 3月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に、同紙コラムニストのジャナン・ガネシュが、「米国はその同盟国を選り好みできない。中国について心配している国はすべてが模範的な自由な国ではない」との論説を書いている。バイデン政権が対中戦略において仲間を増やしたいならば、あまり民主主義の旗を掲げるのは得策ではない、と説いている。


 このガネシュの論説は今後の米中対立を価値の対立、すなわち民主主義対専制主義の対立として進めていくことについて、いくつかの落とし穴があることを指摘したものであり、それなりに的を射た指摘であると思われる。

 米ソ冷戦はヨーロッパが中心で、西ヨーロッパ諸国には民主主義国が多かったことはその通りである。

 現在は、米中冷戦というか、対立は主としてアジアで繰り広げられることになるが、アジアにおける政治体制は、民主主義が主流であるとは必ずしも言えない。そういう中での民主主義の価値の強調は、米国を中心とする陣営の仲間づくりにマイナスの効果もあることをよく考えておくべきであろう。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)では、ベトナム、インドネシア、フィリピンが重要であり、それぞれ中国との関係で困難な問題を抱えている。これらの国に民主主義としての結束を説いても、すぐ賛同が得られるとも思えない。

 そこで、民主主義というよりも、中国の言動が国際法に反していることを厳しく追及していく方が各国の賛同を得られやすいのではないかと考える。例えば、香港の「一国二制度」の侵害は、英中共同声明という条約、国際法を侵害している事案であって、内政干渉の問題ではないことを強調すべきである。また、南シナ海での行動は、島の造成と軍事化は国際海洋法に反するものであることなどを指摘していき、その是正を求める方が民主主義と専制主義との戦いというより、ずっと進めやすいのではないかと考えている。

 まず第1に、中国の対外活動、海洋進出や外国への経済的圧力に注目していくべきであると思う。人権の問題については、南アフリカのアパルトへイト(人種隔離政策)以来、国内問題ではなく、国際関心事項であることが国際社会で確立してきている。この点も指摘していくべきであろう。

 バイデン大統領は、民主主義の有用性を示していくのが重要といっているが、例えばコロナの制圧において、民主主義と権威主義の体制のどちらがより良い成果を上げたかなどで競争すべきではないと考えている。政治権力は正統性を持たなければならないという問題であって、正統性はutility(効用)で測られる問題ではないだろう。

【私の論評】実は民主化こそが、真の経済発展の鍵であることを中国をはじめとする発展途上国は認識すべき(゚д゚)!

ジャナン・ガネシュ氏の主張は、正しい部分もあれば、明らかに間違いの部分もあると思います。こういう人たちに陥りがちなのが、しっかりとした数値分析です。ただ、私自身は、数値分析至上主義者ではありません。ただ、中国のことについても、ある程度の分析は必要であると考えています。

ジャナン・ガネシュ氏

私自身は、このブログの記事では、経営学の大家ドラッカー氏のことを掲載していますが、最近では米国でドラッカー氏のことが忘れ去られていること、特に経営学会では忘れられていることをを掲載しました。

ドラッカー氏の著作や論文などを読むと、あまり数値は掲げられていません。ドラッカー氏のそれは、叙述的なものが多いのです。そのことが、ドラッカー流マネジメントが特に米国の経営学会で忘れ去られている大きな理由であると、私は考えています。

米国の経営学会ではもう随分前から、因果関係がかなり重要視されていて、米国の現在主流を占める経営学者らは、当然のことながら、因果関係を探るために、分析し、その結果を論文や著作にまとめています。

だから、今日の米国の経営学会では、叙述的なドラッカー流の経営学は、あまりかえりみられなくなってしまったのだと思います。

ただし、ドラッカー氏は、米国の大手優良企業のコンサルタントもしていましたから、当然のことながら、数値分析も行っていたと思います。さらに、ドラッカー氏の書籍や、論文を読んでいると、確かに叙述的な内容が多いのですが、明らかに数値分析もしていることがうかがえます。

ドラッカー氏は自身を社会生態学者と呼んでいましたが、社会を観察するにしても、数値分析をしなければ、最初から見えないものも多くありますし、客観的に社会を見ることもできません。

だから、ドラッカー氏としては、分析はするものの、それは本質ではないと考えていたのでしょう。

実際、ドラッカー氏は、以下のように語っています。
300年前デカルトは、『我思う。ゆえに我あり』と言った。今やわれわれは「我見る。ゆえに我あり」と言わなければならない。(『新しい現実』)
デカルト以来、重点は分析に置かれてきました。ドラッカー氏は、これからは分析と知覚とのバランスが不可欠だといいます。


すでに1890年代、形態心理学は、われわれが理解するのは「C」「A」「T」ではなく、「CAT」であることを明らかにしています。以来、心理学のほとんどの分野が、分析から知覚へと重点を移しました。今日の心理学は、人間の心理過程、つまり衝動ではなく、人間そのものを理解しようとします。

最近、企業や政府の計画立案において、シナリオの果たす役割が大きくなりました。シナリオもまた、知覚的な認識です。

生態系なるものは、すべて分析ではなく、知覚の対象です。全体として観察し理解しなければならないのです。部分の和が全体ではありません。部分は全体との関係において存在するにすぎないのです。

ドラッカーは、今日われわれの眼前にある新しい現実は、すべて形態的であって、それらの問題を扱うには、分析とともに知覚が不可欠だといいます。グローバル経済、途上国問題、地球的環境問題、組織社会、教育問題など、すべてが形態的な問題なのです。
今日の生物的な世界では、中心的な役割を果たすべきは知覚的な認識である。しかも知覚的な認識は、訓練し発達させることが可能である。(『新しい現実』)
中国に関しても、今日われわれの眼前にある新しい現実は、すべて形態的であって、それらの問題を扱うには、分析とともに知覚が不可欠なのです。

中国の分析に関しては、このブログにも掲載したことがあります。特に高橋洋一が中国に関して分析した内容は注目に値します。それは以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!

元記事は、高橋洋一氏の記事です。詳細は、この記事をご覧いただものとして、そこから、一部を引用します。 

開発経済学では「中所得国の罠」というのがしばしば話題になる。一種の経験則であるが、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないのだ。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドルあたりの国をいうことが多い。
これをG20諸国の時系列データで見てみよう。1980年以降、一人あたりGDPがほぼ1万ドルを超えているのは、G7(日、米、加、英、独、仏、伊)とオーストラリアだけだ。
以上のG20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。 
中所得国の罠をクリアするためには、民主主義の度合を高めないといけない。それと同時に、各種の経済構造の転換が必要だといわれる。

その一例として、国有企業改革や対外取引自由化などが必要だが、本コラムで再三強調してきたとおり、一党独裁の共産主義国の中国はそれらができない。

共産主義国家では、資本主義国家とは異なり生産手段の国有が国家運営の大原則であるからだ。アリババへの中国政府の統制をみると、やはりだ。

こう考えると、中国が民主化をしないままでは、中所得国の罠にはまり、これから経済発展する可能性は少ないと筆者は見ている。一時的に1万ドルを突破しても跳ね返され、長期的に1万ドル以上にならない。10年程度で行き詰まりが見えてくるのではないだろうか。

中国はどの程度の民主化をすればいいかというと、民主主義指数6程度の香港並みをせめてやるべきであった。しかし、逆に香港を中国本土並みにしたので、香港の没落も確実だし、中国もダメだろう。

私自身も中国はこれからは経済発展はしないと思います。中国が2028年、米国を抜いて世界トップの経済規模になる――こんな見通しを英民間調査機関「経済・ビジネス研究センター」(CEBR)が昨年の12月26日発表しました。

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)にもかかわらず、当初の見通しより5年早く“世界一”を達成するという見通しです。これはありえないでしょう。

高橋洋一氏は、元記事で以下のようにも述べています。

中所得国の罠をクリアするためには、民主主義の度合を高めないといけない。それと同時に、各種の経済構造の転換が必要だといわれる。

上のグラフで、高橋洋一氏が示したように、民主化ができない国は経済発展しないのです。そうして、高橋洋一の語っている各種の経済構造の転換とは、ざっくり言ってしまうと「経済と政治の分離」「法治国家化」です。

「経済と政治の分離」が行われないと、政治が恣意的に経済に介入して、健全な経済発展を歪めてしまいます。それでは、経済成長はできません。現在の中国はまさに中国共産党により、経済への介入が何度も行われ、結果として中国経済はそうとう歪んでいます。

それを象徴するのが、現在の中国が「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」にはまり込んでしまい、独立した金融政策が実行できない状況になっていることです。

これについては、述べていると長くなってしまうので、以下のリンクを参照してください。

https://yutakarlson.blogspot.com/2021/04/blog-post_9.html

独立した金融政策が実行できないと、雇用対策ができません。一昔前の中国だと、景気が悪くなると、政府は大規模な財政出動をし、人民銀行は大規模な金融緩和を行い、インフレ傾向になれば、それを中止しました。また、景気が悪くなると大規模な財政出動と、金融緩和を行い不況から素早く脱出していました。それによって、「保8」を維持してきました。

「保8」とは、経済成長8%を維持するという意味です。中国は発展途上でだったので、経済成長が最低8%でないと失業が深刻になるので、それを防ぐために経済成長8%を死守するのが中共政府の基本的な経済政策だったのです。

平成年間の日本は、デフレ傾向であっても、緊縮財政、金融引締を行い続け、そのため深刻なデフレと円高に悩まされたのとは対照的でした。

しかし、単純明快ともいえる中国の経済対策は現状できなくなってしまったのです。 「保8」は随分前からできなくなり、独立した金融政策もできなくなりました。

これでは、中国は経済發展できません。そうして、経済発展できない根本要因は中国が民主化されていないからです。

民主化されていなければ、当然のことながら、「政治と経済の分離」も行われません。「法治国家化」も無理です。だからこそ、「民主化」と一人あたりのGDPには相関関係あるのでしょう。

私自身は、「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家化」がある程度以上実施されていない国では、経済発展しないのは当然のことだと思います。

これからがある程度以上実施されていなければ、中国のように富裕層は生まれるかもしれませんが、いわゆる中間層が生まれません。

以下に、分析ではなく私自身の知覚による見方を掲載します。

先進国においては、「民主化」をすすめ、「政治と経済の分離」を行い、「法治国家化」をすすめました。そのため、星の数ほどの多くの中間層が輩出され、これらが自由に社会経済活動を行い、あらゆる地域、あらゆる階層において、イノベーション(技術革新ではありません、社会を変革するものです)が行われ、それによって富が蓄積され、今日先進国になったのです。

「民主化」それに続く「政治と経済の分離」「法治国家化」が行われなければ、多数の中間層が生まれることもなく、今日の中国のように、いくら政府が音頭をとって巨額の投資をして、イノベーションをうながしたとしても、それは地域的にも、階層的にも、点のイノベーションにしかなりえず、一部の富裕層が豊かになるだけです。

そうして、あらゆる地域、あらゆる階層(特に多数の低所得層と数少ない中間層)の社会に非合理、非効率が温存され、旧態依然とした社会が残り、経済発展できないのです。

ジャナン・ガネシュ氏は、バイデン政権が対中戦略において仲間を増やしたいならば、あまり民主主義の旗を掲げるのは得策ではないとしていますが、これは当面は正しいとは思います。ただし、いずれ中国をはじめ多くの国々が、経済発展をしたければ「民主化」は避けて通れないことも周知徹底すべきです。

先進国が、故なく先進国になったのではなくそれにはまず「民主化」をすすめ、その後「政治と経済の分離」「法治国家化」をすすめたからこそ、先進国になったのであり、そうしなければ、「中進国の罠」に阻まれ、先進国になることはなかったのです。

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2021年4月25日日曜日

中国海軍 初の大型強襲揚陸艦など3隻就役 海軍力の増強を誇示―【私の論評】現在の中国海軍は、軍事力というよりは、海洋国に対しては「政治的メッセージ」と呼ぶほうがふさわしい(゚д゚)!

中国海軍 初の大型強襲揚陸艦など3隻就役 海軍力の増強を誇示


中国海軍の新たな軍艦が就役する式典が、習近平国家主席も出席して、南シナ海に面する南部・海南島で行われました。中国軍で初めてとなる大型の強襲揚陸艦など合わせて3隻が一度に就役し、海軍力の急速な増強を誇示した形です。

国営の中国中央テレビは、南部・海南島三亜にある軍港で23日、3隻の軍艦が就役する式典が、習近平国家主席も出席して、行われたと伝えました。

式典で習主席は艦長らに軍旗などを手渡した後、艦内を視察したということです。

中国共産党系のメディア、「環球時報」によりますと、就役したのは中国軍で初めてとなる大型の強襲揚陸艦、大型の駆逐艦、そして、最新鋭の原子力潜水艦の3隻で、いずれも周辺国と領有権の争いがある南シナ海の海域を管轄する艦隊に配備されたということです。

「海洋強国」を目指す中国は、3隻の主力艦を同時に配備することで、海軍力の急速な増強を内外に誇示した形で、南シナ海や台湾周辺などでの活動を一層活発化させていくとみられます。

【私の論評】現在の中国海軍は、軍事力というよりは、海洋国に対しては「政治的メッセージ」と呼ぶほうがふさわしい(゚д゚)!

上の記事のような、中国の軍備の拡張の報道を見ると、とても米国や日米は中国に対抗できないと思い込む人もでてくるのではないかと思います。

しかし、現実は違います。それに関して過去にこのブログにも掲載したことがあります。その記事の代表的なもののリンクを以下に掲載します。
中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか―【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
日本の潜水艦は、このブログにも掲載したように、原潜ではない通常型のものですが静寂性は世界一です。その静寂性を利用すれば、あらゆる海域で中国に発見されず哨戒活動等にあたることができます。無論、これによって得られた情報は米軍と共有することができます。

これでは、中国に勝ち目は全くありません。そのため、中国は台湾に侵攻しても、意味がありません。中国ができるのは、せいぜい台湾海峡等で大規模な軍事演習をして台湾を脅すことくらいでしょう。そのことを理解しているからこそ、中国は三戦に力をいれているのでしょう。

それでも敢えて中国が台湾に侵攻した場合、ますば米国潜水艦隊によりほとんどの中国の艦艇、航空機が破壊されることになります。無論上陸用舟艇なども破壊され、上陸部隊は殲滅されるかもしれません。

それでも、中国軍が無理やり上陸した場合は、米軍は場合によっては、中国本土のミサイル基地等も潜水艦によって破壊するでしょう。そうして、中国の脅威を取り除いた後に、さらに台湾を包囲して、補給を断ち弱らせた後に空母打撃群を派遣して中国陸上部隊を攻撃してさらに弱らせ、最終的に強襲揚陸艦等で米軍を台湾に上陸させ、上陸した中国軍部隊を武装解除して無力化することになるでしょう。

今年4月11日、上海にある造船所の桟橋に係留艤装中だった中国海軍初の
大型強襲揚陸艦「075型」1番艦から出火、未だに中国は公表していない

よく軍事評論家の中にも、空母を派遣しても中国の超音速ミサイルに攻撃されて、米国は負けるなどとする人もいますが、こういう人たちに限って、なぜか潜水艦隊のことをいいません。

今年(ブログ管理人注:2021年)の5月に、太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋派遣されたことをもって、米軍は有事の時には、特に海洋での有事の時には最初に潜水艦隊を用いる戦術に変えたと認識すべきです。私自身は、ずっと前から変えていると思います。海洋で、わざわざ初戦で空母打撃群を派遣して、敵に格好の的を提供する必要性などありません。

ただ、手の内をわざわざバラす必要もないので、黙っていただけだと思います。ただ、コロナ禍に中国につけこまれることを防ぐため、わざわさ公表したということです。この公表の裏には、以上で述べたことを、それとなく中国に伝える目的もあったと思います。

ちなみに、今回就役する大型強襲揚陸艦は、上の記事の写真で示したように、昨年火災にあった「075型」1番艦です。

現状の中国の海軍力は、日米に決定的に劣っている部分があります。それは、哨戒能力です。特にその中でも、対潜哨戒能力(潜水艦を哨戒する能力)が徹底的に劣っています。一方日米の哨戒能力は世界のトップレベルです。

特に対潜哨戒能力は、米国は世界1です。日本は、おそらく2番目でしょう。

そのため、中国の艦艇は、潜水艦を含めて、日米にとっては常時丸裸状態です。中国軍のほとんどすべての艦艇は、港を出た途端に日米の潜水艦等から監視されており、常にその行動を把握されている状態です。

一方中国は、日米の艦艇の行動はある程度把握できますが、日本の潜水艦の行動は把握できません。特に、日本の潜水艦は静寂性(ステルス性)が高いので、その行動を中国は全く把握できません。

良く横須賀の日本の潜水艦隊基地には潜水艦がむき出し状態に置かれているという方もいますが、日本の潜水艦は一度潜水すると、中国側はそれを探知することはできないのです。

おやしお型潜水艦横須賀・楠ヶ浦地区にて

このステルス性には、逸話があります。日米が合同訓練をしているときに、米軍側が日本の潜水艦がどこにいるのかわからないので、「一体どこにいるのだ」と米側が照会すると、日本の潜水艦は米空母のすぐ横に浮上したそうです。これは、日本の潜水艦は米軍にも気が付かれずに、米空母を撃沈できることを意味します。

しかも、これは現在の最新型ではなく古いタイプの潜水艦だったそうです。現在の最新型は、リチュウム乾電池で駆動しており、事実上ほとんど無音です。さらに、潜航時間も思いのほか、長いです、最新型より一つ前の潜水艦では潜航時間は二週間といわれていましたが、最新型ではそれよりはるかに長いそうです。軍事機密なのか、潜航時間が大幅に伸びたとしか公表されていません。

米国の原潜に関しても、原潜そのものが、構造的に騒音が出るので、日本の潜水艦ほどには静寂性はありませんが、それでも、中国のお粗末な対潜哨戒能力ではそれを完全把握することは困難です。

さらに、米原潜の攻撃力は凄まじいものがあります。たとえば、巡航ミサイル原潜オハイオはトマホーク巡航ミサイルを154基搭載しています。巡航ミサイルは、現在は撃ち落とすことが可能になったとはいえ、オハイオから魚雷攻撃や巡航ミサイルによる飽和攻撃を受ければ、中国の空母も、強襲揚陸艦もひとたまりもありません。

トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。
オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる

これでは、中国は現状でいくら海軍力を強化しても無意味です。特に日米が連携して、日本の潜水艦が情報収集をして、攻撃力の優れた米原潜が攻撃にあたるような戦法をとった場合、中国はなすすべがなく、もし本当に戦争状態となれば、中国の艦艇は港を出た途端にすべて撃沈されるでしょう。

これは、潜水艦20隻体制になった現在の日本の潜水艦隊もやるつもりなら、日本が単独でもできるでしょう。無論、尖閣、台湾の守備も可能です。

尖閣や台湾を潜水艦隊で包囲してしまえば、たとえ中国人民解放軍が台湾や尖閣に上陸したとしても、中国は上陸部隊に補給することができなくなり、上陸部隊は弾薬、食料・水が尽きてお手上げになります。

中国海軍がまず最初になすべきは、日米並の哨戒能力を持つことです。これができれば、中国も日米と互角の海洋戦ができます。さらに、日本の潜水艦と同程度のステルス性のある潜水艦を開発することです。これができて、はじめて中国は世界一の海軍になれるかもしれません。

ちなみに、台湾はそれを実行中です。将来は、5隻の新型潜水艦で台湾を守備する計画です。米国の専門家は、台湾がこれに成功すれば、今後数十年間中国の台湾侵攻をとめることができるだろうと予測しています。

これに対して、中国の強大な軍事力を用いれば、中国はなんでもできるように言う方もいますが、目の見えず、耳が聞こえない人が、いくら重機関銃やレーザー銃を手に入れたとしても、たとえ素手であっても目が見える人と戦うことになれば、圧倒的に不利であるのと同じく、中国がどのような破壊力のある艦艇や潜水艦や超音速ミサイルなどを持ったにしても、哨戒能力が低ければ、哨戒能力が格段に高く、攻撃力もある日米に太刀打ちすることできません。

そうして、対潜哨戒装置や潜水艦の静寂性に関する技術は機密中の機密なので、さすがに中国も剽窃などで簡単にその能力を身につけることはできないようです。それにテクノロジーだけではなく、長い間の積み重ねによる、ノウハウもあるようで、この蓄積も中国海軍にはありません。特に中国は対潜哨戒能力はロシアのものを導入しているようですが、そのロシアの哨戒能力が元々格段に低いのです。これが、陸上国の宿命というものなのかもしれません。

低い哨戒能力しかない中国の海軍は、日米のみならず、通常型のステルス性の高い潜水艦を持つフランス、ドイツなどの海軍とも戦えば不利です。戦って、確実に勝利できるのは、発展途上国の海軍です。

これでは、現在の中国海軍は、軍事力というよりは、先進国、特に日米英などの海洋国に対しては「政治的メッセージ」と呼ぶほうがふさわしいかもしれません。

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2021年4月24日土曜日

「SOS」 インドで医療ひっ迫 新規感染、再び最多更新―【私の論評】現状では、深刻な医療崩壊が起こった場合まず陳謝すべきは、当該知事と当該区長市町村長(゚д゚)!

「SOS」 インドで医療ひっ迫 新規感染、再び最多更新

病院に搬送される、新型コロナウイルス感染者とみられる患者=18日、ニューデリー

新型コロナウイルス流行の新たな波に見舞われているインドでは23日、首都ニューデリー各地の病院が医療用酸素の不足を訴えた。同国の新規感染者数は前日に続き世界最多を更新。国内の医療体制はひっ迫している。

インドでの直近24時間の新規感染者は33万人、死者は2000人に上った。以前から資金不足が常態化していたインドの医療機関では現在、流行第2波の発生により医療用酸素や医薬品、病床数が深刻に不足している。

新型コロナウイルス流行の新たな波に見舞われているインドでは23日、首都ニューデリー各地の病院が医療用酸素の不足を訴えた。同国の新規感染者数は前日に続き世界最多を更新。国内の医療体制はひっ迫している。

インドでの直近24時間の新規感染者は33万人、死者は2000人に上った。以前から資金不足が常態化していたインドの医療機関では現在、流行第2波の発生により医療用酸素や医薬品、病床数が深刻に不足している。

【私の論評】現状では、深刻な医療崩壊が起こった場合まず陳謝すべきは、当該市町村長それに知事(゚д゚)!

インドは医療崩壊が始まったようです。英国はギリギリで医療崩壊しませんでした。現在の英国の感染者数はコロナワクチンの早めの接種が功を奏して、かなり感染者数が減ったため、現状では、日本と同じ程度です。その今の日本で医療崩壊が起こるなど、本来ありえないことです。

以下に、インド、日本、英国のコロナ感染者数の推移のグラフを掲載します。

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インドの人口は13億人で、日本は1億2千万人です。英国の人口は6,665万人です。英国は日本の約半分とみて良いです。それを加味しても、インドの感染が凄まじいことがわえります。

また、英国は一時かなりの感染者数が出ていたこととがわかります。日本は、最初から最後まで、一番感染者数が少ないです。英国が医療崩壊しなかったのに、日本が医療崩壊するなどということはないずです。

これは、英国などで取り組まれたような感染対策が日本ではなされていなかったからなのでしょう。

英国政府は、財政支出をし、日本政府は財政支出をしなかったからでしょうか。そのようなことはありません。総額では人口あたりにしても、英国を凌ぐ規模で財政支出をしました。

その中には、地方自治体がコロナ対策で自由につかえるようにした「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」もありました。

交付金についてはYouTubeでも解説されている

内閣府では、新型コロナ対応に奔走する地方公共団体の取組を支援するため、令和2年度第1次補正予算で1兆円、第2次補正予算で2兆円、第3次補正予算で1兆5,000億円の地方創生臨時交付金を確保しました。

地方創生臨時交付金は、コロナ対応のための取組である限り、地方公共団体が自由に使うことができます。第1次補正予算のうち約7,000億円分については令和2年5月までに、第2次補正予算約2兆円分については令和2年9月までに、第1次補正予算の残額分及び第3次補正予算のうち約1兆円分については令和3年2月までに全1,788地方公共団体から実施計画が提出されたそうです。残額分については、令和3年度に、各地方公共団体から実施計画を提出される予定になっているそうです。

残額が出ているというのですから、足りないということはなかったのでしょうか。しかし、これでは辻褄があいません。なぜ今頃医療崩壊が起こるかもしれないという話になるのでしょうか。コロナが発生してから、第一波、第二派、第三派があり、今回は第四派になるかもしれません。

コロナ患者が増えると、病床が足りなくなり医療崩壊が起こるかもしれないことは、昨年の春あたりからいわれていたことです。

二度あることは三度あるとよく言われますが、今度は四波が起こるかもしれないといわれているわけですから、一体どうなっているのかと言わざるを得ません。ベッドだけ備えても、医療従事者がなどと言う識者もいますが、確かに直近ではそうはいえますが、一年もたってからその理屈は通じません。

もし医療崩壊が起こったとすれば、それが起こった都道府県知事知事が真っ先にすべきは謝罪会見だと思います。感染症対策の直接の責任は知事にあり、国はサポートする立場です。政府や国民に責任を押し付けるべきではありません。

無論、政府が十分に財政支出をしていないというなら、政府にも責任があるといえますが、先程述べたように、これからはどうなるかというのは別問題ですが、少なくとも現在までは、世界的にみても、政府は十分にコロナ対策のため財政支出していますし、さらには地方創生臨時交付金として、地方自治体のコロナ対策ための資金を提供しています。そうして、この資金は残額がでているのです。

コロナ対策などに関しては、国が直接的に何かできるわけではなく、災害や疫病の対策は元々都道府県が対応するものです。そのための平時の行動計画であり、病院や避難所などの確保と計画、それを支援するのが国という立て付けです。国は法律と予算面での支援が基本です。

大規模な場合など国からのプッシュ型の支援もしま 直接的な責任者は知事又は政令指定都市の市長です。例えばワクチン 国の役割はワクチン確保と自治体までの供給体制の構築、そして、行動計画の作成です。 実際の接種は都道府県であり、実務は基礎的自治体(市町村など) 都道府県や市町村により、接種体制の構築に大きな差が出ています。これは都道府県及び自治体の体制の問題です。

日本の医療に於いては、感染症のパンデミックが長期間起きていませんでした。結核も死の病ではなくなりました。結核病棟の廃止、縮小と受け入れ体制と保健所機能の縮小再編、これがコロナで問題になりました。自治体により維持している自治体と廃止に動いた自治体があり、差が生じています。

現在の結核病棟 この病棟では患者もwifiも使用できるという

それに医師会の問題もあります。国公立病院以外の一般病院で、コロナ患者を多数受け付けると、病院経営は赤字になるといわれています。さらに、コロナ患者を受け入れると、風評被害にあうというマイナス面もあります。

そのため、開業医が所属する医師会がこれを受け入れたくないというのは、当然といえば、当然です。しかし、たとえば、病床を一床あたり年間1000万円でコロナ病床として買い取るという制度もあり、それを実行している自治体もあると聞いています。1億円で10床確保できます。

このようなことを、地方自治体の長や知事が実行していれば、医療崩壊など起こるはずなどないと思うのですが、それともやはり、それぞれの地方において、医師会の力が強くて、なかなかそのようなことができないのでしょうか。

それに関しては、コロナが収まったあとに今後のことも考えて、都道府県単位で綿密な調査をすべきでしょう。

そのような問題が背景にあるのは確かです。ただし、深刻な医療崩壊が起こった場合に、まず陳謝すべきは、当該知事と当該区長市町村長です。実際もし、そのような事態が生じれば、そうするでしょう。私自身は、医療崩壊が起こるかもしれないと語った知事は、現時点でも陳謝すべきものと思います。

野党マスコミはなんでも政府の責任にしたいようですが、そうではないということを認識すべきものと思います。

無論、これからの話しは別です。もし政府が今後コロナ対策費をケチるようになれば、それは政府の責任ということになります。

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