2022年7月1日金曜日

岸田政権の「財務省色」人事は防衛費増額の壁か 各省に別働部隊、積極財政とはほど遠く 安倍元首相との〝暗闘〟の背後にある存在―【私の論評】政府の本来の仕事は統治、それに専念するためまずは財務省の力を削ぐべきだがそれには妙案が(゚д゚)!

日本の解き方

高橋洋一


 参院選(7月10日投開票)で、物価高など経済対策に並んで有権者の関心が高い争点が外交・安全保障問題だ。中国の日本周辺での威嚇やロシアのウクライナ侵攻で国民の危機意識が高まるなか、岸田文雄首相は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初参加し、「防衛力の5年以内の抜本的強化」を表明した。しかし、これに水を差しかねないのが防衛事務次官人事だと元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は指摘する。岸田首相と安倍晋三元首相の〝暗闘〟も指摘されたが、背後にはあの省庁の存在があるというのだ。


 政府は6月17日、各府省幹部職員の人事を閣議決定した。防衛省では7月1日付で島田和久事務次官が退任し、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てる。

 防衛省は現在、2022年末に向け国家安全保障戦略など3文書の改定作業中であるとともに、防衛費について国内総生産(GDP)比2%超えを目指すという重要な局面だ。そのため、大方の予想は、島田次官の留任というものだった。

 戦後長らく防衛費がGDP比1%程度の低位だったのには理由がある。予算には「要求なくして査定なし」という金言がある。予算額が要求額以上になることはないという意味だ。

 各省の予算要求の要となるのは会計課長だ。予算がなくては政策もできないので、会計課長は出世コースだ。ところが防衛省では、会計課長は財務省からの出向者だ。出向者は親元の省庁を見て仕事をするのが普通だから、まともな予算要求が行われていなかったといわれても仕方がない面もある。

 そこで、安倍政権では、事務次官に安倍氏の秘書官だった島田氏を充てた。続く菅義偉政権では、防衛大臣に安倍氏の実弟、岸信夫氏を充てた。何とか防衛費の確保をしようとした布陣だった。

防衛次官人事をめぐる攻防も指摘された岸田首相と安倍元首相

 ところが、岸田政権は、前述のような次官人事を行った。参院選後、9月にも内閣改造が行われるだろうが、岸防衛相の交代も噂されている。となると、防衛費のGDP比2%超えは、実現に向けてかなり難航することも予想される。

 岸田首相が対外的に防衛費の「相当な増額」と言っているので多少は増やすだろうが、増額幅を抑制したり、増額期間を引き伸ばし、そのうち雲散霧消させたりするのが財務省の戦略だと筆者は考える。岸田政権は財務省の意向が通りやすく、やりたい放題ではないか。

 防衛省は「岸田人事」の典型だといえるが、筆者の見るところ、官邸を含め他の省庁でも同様の状況で、安倍・菅政権で仕事をしていた官僚をラインから外したりしている。その後釜に就くのは財務省の息がかかった人が多い。まるで、財務省の別働部隊がそこかしこにいるようだ。となると、各省から出てくる素案の段階で積極財政とはほど遠い状況になるだろう。

 公共事業の費用と便益を評価する際の重要な前提条件である「社会的割引率」は、2004年以降、4%のままで、見直しの気配もない。安倍政権時に見直し作業がなされたが、岸田政権では頓挫しているようだ。社会的割引率が高いままでは、そもそも投資案件が出てこない。

 岸田首相は、首相として何がやりたいのかと問われて、「人事」と答えたことがある。本来、人事は何かやりたい時の手段である。ところが、今回の岸田人事を見ていると、財務省のいいなりで財務省サイドの官僚が多く選ばれているようだ。これではインフラ投資の増額など全く期待できず、絶好の投資チャンスを生かせない。

 こうした人事は岸田政権を評価する材料だともいえる。有権者は選挙などの機会で、岸田人事への意見を反映させる必要があるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政府の本来の仕事は統治、それに専念するためまずは財務省の力を削ぐべきだがそれには妙案が(゚д゚)!

このブログの読者の方々は、このブログでは折に触れて、経営学の大家ドラッカーのマネジメント上の原理原則を掲載しているのをご存知でしょう。なぜそのようなことをするかといえば、マネジメントには原理原則があって、マネジメント上の問題はこの原理原則に従えば、完璧とはいかなくても、少なくとも方向性は間違わずにすむからです。

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自分の考えだけを掲載というのでは、考え方の幅も奥行きも狭いものになり、このブログを読んでいただいている方々の参考にならないと思うからです。

上の記事で髙橋洋一が指摘するように、「岸田人事」にはかなり問題があります。

そのドラッカー氏は人事に関して、人事こそ組織における最大のコントロール手段であるとしています。コントロールには様々なものがあります。目標や各種数字、叱責や褒めることなど、コントロール手段は、様々ですがその中で最大のものは人事だというのです。

ドラッカー氏は人事について以下のよう語っています。    
日頃言っていることを昇格人事に反映させなければ、 優れた組織をつくることはできない。 本気なことを示す決定打は、人事において、 断固、人格的な真摯さを評価することである。 なぜなら、リーダシップが発揮されるのは、 人格においてだからである」。(ドラッカー名著集②『現代の経営』[上])
田文雄首相は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初参加し、「防衛力の5年以内の抜本的強化」を表明しました。しかし、上の記事にある通り、岸田総理は防衛省人事では7月1日付で島田和久事務次官が退任し、後任に鈴木敦夫防衛装備庁長官を充てるという決定をしています。

これでは、NATOで語ったことが本気であるということを示すことにはなりません。多くの人は「防衛費を上げるつもりはないのではないか」と受け取られても仕方ありません。参院選後に、岸防衛相の交代人事が行われるとすれば、もう、これは決定的であり、誰も防衛費が上がるとは思わなくなるでしょう。

ドラッカーによれば、人間のすばらしさは、 強みと弱みを含め、多様性にある。 同時に、組織のすばらしさは、その多様な人間一人ひとりの強みを フルに発揮させ、弱みを意味のないものにすることにあります。

だから、ドラッカーは、弱みは気にしません。 山あれば谷あり。むしろ、何でもできる人間とは、専門性がなくて、何もできない人間なのです。 ところが、ひとつだけ気にせざるをえない弱みというものがあります。 それが真摯さ(integrity)の欠如です。 真摯さが欠如した者だけは高い地位につけてはならないという。 ドラッカーは、この点に関しては恐ろしく具体的です。
人の強みでなく、弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならない。 人のできることはなにも見ず、できないことはすべて知っているという物は 組織の文化を損なう。 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならない。 仕事よりも人を問題にすることは堕落である。 
真摯さよりも、頭脳を重視する者を昇進させてはならない。 そのような者は未熟である。 有能な部下を恐れる者を昇進させてもならない。 そのような者は弱い。 
仕事に高い基準を設けない者も昇進させてはならない。 仕事や能力に対する侮りの風潮を招く。 
判断力が不足していても、害をもたらさないことはある。 しかし、真摯さに欠けていたのでは、いかに知識があり、 才気があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させ、業績を低下させる。

真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、 あとで身につけることはできない。 真摯さはごまかしがきかない。 一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。 部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、 ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。 そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない。(『現代の経営』[上])  

 防衛費について国内総生産(GDP)比2%超えを目指すのは、たしかに高い目標です。しかし、このような高い目標を基準を設けない者を昇進させてはならないとしています。

何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者も昇格させてはならないとしています。 仕事よりも人を問題にすることは堕落であるとしています。

デフレに対しては何をすべきかということよりも、財務省や日銀官僚の考えこそ、正しいとするよう者は、堕落しているといえます。

国民や政府のことなど度外視し、省益追求のためにもう30年もデフレを放置してきた財務官僚は、もうとっくの前に堕落しているのです。 

このような財務省は潰したほうか良いと思います。それに関しては、以前このブログも掲載したことがあります。それを以下に再掲します。

政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)

この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」といいます。

しかし、ここで企業の経験が役に立つ。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知ったのです。

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではなかった。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。

実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、トップが決定と方向付けに専念できるようにするのです。この企業で得られた原則を国に適用するならば、実行の任に当たる者は、政府以外の組織でなければならないことになります。

下は、ヤマト運輸の組織図ですが、コーポレート本部は統治に専念しているのでしょう。事業本部は、事業に専念し、輸送機能本部などは事業を実施しているのではないものの、事業部組織に組織横断的な実行に関わる部門だと考えられます。

ヤマト運輸株式会社の組織図

政府の仕事について、これほど簡単な原則はありません。しかし、これは、これまでの政治理論の下に政府が行ってきた仕事とは大いに異なります。

これまでの理論では、政府は唯一無二の絶対の存在でしたた。しかも、社会の外の存在でした。ところが、この原則の下においては、政府は社会の中の存在とならなければならないのです。そうして、中心的な存在とならなければならないのです。

おまけに今日では、不得手な実行を政府に任せられるほどの財政的な余裕はありません。時間の余裕も人手の余裕もありません。

この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する。一方において、企業、大学、病院など非政府の組織が、成果を上げるための機関となる。他方において、政府が、社会の諸目的を決定するための機関となる。そして多様な組織の指揮者となる。(『断絶の時代』)

以上を簡単に言うと、政府の仕事を統治のみにして、それ以外の実行部分は全部政府の外に出し、非営利企業などの民間企業に委託するという形にするということです。ただ、政府が統治に集中するとはいっても、ある程度事務作業などはどうしても必要になるでしょうから、内閣府くらいは残すのが良いかもしれません。

これは、民間の大企業ではすでに行われています。持株会社などを本部として、本部がグループ企業の統治を行い、それ以外は事業会社として実行に専念するというものです。これは、世界的な大企業が様々な試行錯誤した上でたどりついた方式です。

大企業がしばしば機能不全に見舞われ、その打開策として考え出され、現在定着したものです。無論、企業でも規模が小さいところでは、そのような必要はありません。しかし、世界的な大企業であれば、このような形にしないと不正や腐敗がはびこり機能不全に至ることから、今日はこのような形が世界中で普通になっています。

政府は大企業よりもさらに規模が大きいのが普通ですから、いずれこのような形にするのが理想と考えられます。

このようにすれば、政府の機能不全も徐々に改善されていくことでしょう。財務省のような省庁が実体経済どんなときにでも、緊縮財政を実行し挙げ句の果に30年も「失われた時代」という経済も成長せず、賃金もあがらないなどというよう馬鹿げたことを防ぐこともできるでしょう。ただ、私も一足とびにこのようなことはできないと思いました。

そう思いつつ、何か途中の形で良いものはないかと思っていたところ、高橋洋一氏が素晴らしい提案をしていました。その動画を以下に掲載します。


詳細は、この動画をご覧いただくものとして、簡単にいうと、各省庁の仕事の分掌を、設置法方法式で行うをやめ、束ね政令方式にするというものです。これは、その時々で政府の政令によって、どの省庁に何をさせるかを定める方式ということです。

海外には政府の各省庁の分掌を設置法で決めているところはなく、概ね束ね政令方式が普通です。財務省(官僚全般)の大弱点は、いまやってる仕事をほかの役所に割り振られることです。そうなると、省益の追求はかなりしにくくなります。

たとえば税部門の仕事を歳入庁をつくって、歳入庁は内閣府の下にするとか。主計局の仕事でも、それを内閣府の下にするという方式です。

ただ、それで固定するというのではなく、その時々で、政令でそれを実行する方式です。

これは、非常に良い考え方だと思います。ただ、財務省はこれに当然反対し、恐ろしい勢いで、政治家を殺す(もちろん本当に殺すわけではなく実質的に政治生命を絶つなどのこと)勢いで挑んでくるのは間違いないので、すぐにできることではないですが、髙橋洋一氏は、今ではないもののいずれ政治家が挑んでも良いのではないかと語っています。

これは、いずれ実行すべきでしょう。そうして、それが終われば、いずれ政府が本来の統治だけを行う方式に移行すべきものと思います。

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2022年6月30日木曜日

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で―【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で


 先日、参院選を控えて、各党党首による政治討論が放映された(フジテレビ)。その中で、原子力潜水艦の保有の是非について、議論があり、筆者がかねて主張しているところから、興味深く視聴した。短い時間制限の中、深い掘り下げた議論には至らなかったが、結論は、維新・国民・NHKの3党が導入・装備に賛成し、自民・公明・立民・共産・社民・れいわの6党が反対した。若干の所見を披露したい。

誤解招く「1隻1兆円」

 岸田文雄首相(自民党総裁)の発言の要旨は、「防衛力強化は行わねばならぬが、いきなり原潜はどうかと思う」「我が国は原子力基本法による平和利用の方針がある」「運用コストが高い」「(中国を念頭に)対応はしっかり整備されている」といったところであるが、現状肯定を金科玉条とする体制側の悪い側面が出た主張で、将来を見越した英明さに欠ける。原子力基本法は、何と70年前の法律である。

 中国は原潜体制を着実に拡大し、その拠点を南太平洋、インド洋に設けようとしている。隣国韓国・北朝鮮も原潜装備を計画中である。QUAD(クアッド)態勢を重視する我が国であるが、インドは原潜(アクラ級2隻)を保有し、今年、豪州も米国からの原潜導入に踏み切った(バージニア級8隻)。このような情勢をどう判断しているのだろうか。新しい技術、国際政治情勢にも拘(かか)わらず、憲法と同様、過去の柵(しがらみ)から脱皮できないようでは、あまりにも情けないと言わざるを得ない。

 経費について、野党党首から「1隻1兆円」の発言があり、調べたところ、調達費・30年間のライフサイクルコストを合計すると1兆円という数値がインターネットで、読み取れる。30年間であるので年割330億円であり、如何(いか)に論戦とはいえ一般国民に誤解を与える数値を政治家たるもの、大いに慎んでほしいものである。因(ちな)みに豪州がフランスと進めていた先進通常潜水艦を米原潜に変更した陰には、性能・価格の高騰問題があるとされており、浅薄な懐勘定はすべきではない。

 ここで、原潜と通常型潜水艦の差異について述べたい。通常型潜水艦は、動力源はディーゼルエンジンであり、これにより搭載電池を充電する。潜航中は電池により、運航・機動・作戦行動に必要な動力すべてを賄う。従って潜航中は、必然的に電池容量を睨(にら)みながらの行動となり、高速での運航は、極端に制限される。ある程度の潜水行動後は、シュノーケル潜度まで浮上し、エンジンによる電池充電が必要である。電池性能は大きく進歩し、最近の潜水艦はリチウム電池の採用(海自たいげい型)に見られる如(ごと)く、かなりの期間、潜水運航が可能である。

海上自衛隊の「はくりゅう」(Wikipediaより)

 他方、原潜は、搭載する原子炉で全ての動力を時間に制限なく自給できることから、大型化(多機能化)、高速、深深度、長期間無寄港運航が可能であり、通常型とは性能のレベルが異なる存在である。先述のテレビ放送で、通常型が比肩できる性能を有し、瞬発力で原潜が勝る程度の解説字幕表示があったが、真に恥ずかしい真偽を問われる内容であると考えている。

 岸田首相の「対応力は整備されている」発言も問題である。現状での潜水艦警戒監視システム、日米共同の情報共有網、探知に有利な我が地勢等の総合力を踏まえての発言であろうが、軽率な発言である。静粛化技術の進歩、欺瞞(ぎまん)装置、無音状態で曳航(えいこう)、大洋適地で自力運航を開始する方法等、平時は「奥の手は見せない」のが、この世界での常識である。甘く見てはならない。

 全般に見て、与党の主張は、現在進めている通常型潜水艦体制の充実・発展に向けた態度が顕著であり、原潜はその次といった方針が見え見えである。新型電池搭載の「たいげい」以下の整備を進めることは大いに結構で反対するものではない。特異な列島地形、緊要な水峡を多数抱える我が国は、他国に無い通常潜の所要があることは十分理解する。

政治家に高い見識期待

 しかし周辺国の情勢は、間違いなく早晩、原潜体制に移行する。こと原潜整備に限れば、我が国の取り組みが最も遅れている現状にあることを承知し、原潜・通常潜の二刀流に取り組むべき時期に来ているのである。原潜保有をテレビ局が取り上げること自体、時代の変化を感じ、結構なことと感じているが、将来を見越した長期的観点と政治家の一層の高い見識を期待する。

(すぎやま・しげる)

【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

上の記事で補足させていただくとすれば、まずは日本の通常型潜水艦は、ステル性(静寂性)に優れていることだと思います。特に最新鋭艦の場合は、無音に近いです。潜水艦の性能の細部などについては各国ともあまり表に出さないので、実際はどうなのかはわかりませんが、おそらく日本の最新鋭の通常型潜水艦のステルス性は世界一だろうとされています。

そうなると、日米海軍と比較すると、格段に劣る中露の対潜哨戒能力ではこれを発見するのはかなり難しいです。

一方、原潜については、補足することはほとんどありませんが、大型化(多機能化)ということでは、米軍の攻撃型原潜の例をださせていただくと理解しやすいと思います。

日本の通常型潜水艦も最近は大型化しています。最新艦の「はくげい」の基準排水量は、3,000トンであり、乗組員数は70名です。

一方米国の攻撃型原潜(核を搭載してない戦略型原潜ではない原潜)のオハイオ級の基準排水量は16,764 トンです。排水量だけて5倍です。乗員は155名です。日本の最新鋭イージス艦「はぐろ」の基準排水量が 8,200 トンですから、オハイオ級は2倍近いです。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とする。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。 

海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

 オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

この他にも、魚雷、対空ミサイル、対艦ミサイルを備えているわけですから、これは艦艇というよりは、水中の武器庫、水中のミサイル基地と言っても良いくらいです。

かつてトランプ氏が大統領だったときに、米国の攻撃型原潜のことを「水中の空母と評しましたが」このことを言いたかったのでしょう。

フランスの空母シャルル・ド・ゴールと並走する英国のコリンズ級原潜

こうした攻撃型原潜ですが、欠点もあります。それは、原子力潜水艦の構造上どうしてもある一体程度の騒音が出て、日本の通常型潜水艦のように無音にすることはできないのです。ただ、日本の技術をもってすれば、かなり静寂性に優れた潜水艦を建造できるだろうとはいわれいるようですが、それでも無音に近くすることは不可能とされています。

ただ、米国の巨大な攻撃型原潜にはこれを補ってあまりあるほどの利点があります。それは、やはり群を抜いた攻撃力と無限ともいえる航続距離を有していることでしょう。

それに、騒音という欠点は、日米であれば、対潜哨戒能力が高いので、十分補うことができます。そのせいもあって、日米は対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warefare)では両国とも世界のトップクラスといわれ、中露をはるかに凌駕しています。

こうしてみていくと、日本のステルス性の高い潜水艦は、あくまで艦艇であり、米国の大型攻撃型原潜のように水中のミサイル基地というわけではありませんが、ステルス性を生かして、敵に脅威を与えたり、情報収集活動には向いていることがわかります。

両者は同じ潜水艦というよりは、別ものと捉えたほうが良いです。日本が、専守防衛だけすると割り切るのであれば、現在の通常型潜水艦でも十分だと思います。ただ、専守防衛とはウクライナの事例でもわかるとおり、ロシア領内からミサイルを打ち込まれれば、国土が破壊され放題になります。

これに対抗するため敵基地攻撃能力も持とうとすれば、米国の大型攻撃型潜水艦のようなもののほうが、有効です。

それに、日本が専守防衛だけではなく、日本のシーレーンの防衛や、インド太平洋地域の安全保障にも関わるつもりであれば、攻撃型原潜は必須です。

両方を持ってれば、これらを有効に使うこともできます。まずは、ステルス性の高い通常型潜水艦で、情報収集活動をしたり、攻撃型原潜を脅かす艦艇・航空機・潜水艦などを攻撃して、これを守り、攻撃型原潜は、通常型潜水艦の情報に基づき、効果的な攻撃をすることができます。

敵基地攻撃は無論のこと、敵レーダー基地や、監視衛星の地上施設などを破壊することができます。

ちなみに、米軍は数十年前から通常型潜水艦の建造をやめ原潜の建造に集中したため、現在その建造能力は失われています。

一方日本は、原潜を建造したことはないものの、原子力産業が存在し、潜水艦建造能力もあることから、原潜の建造はやる気になれぱできます。

日本が、米国並の攻撃型原潜と、ステルス性に優れた潜水艦の両方をある程度以上持って運用することができるようになれば、海戦能力としては世界一になるかもしれません。

なぜなら、日本の最新鋭の通常型潜水艦は、米海軍てもこれを発見するのは難しいからです。そのステルス性に優れた、潜水艦と、攻撃型原潜が協同できるようにし、さらに世界トップクラスの対潜哨戒能力が加われば、これは海軍としてはも向かうところ敵なしということになります。

そうなれば、米国と並び世界トップクラスの海軍になるでしょう。

それは、中露が最も恐れているところだと思います。


横須賀に停泊中の米海軍の攻撃型原潜「イリノイ」を視察する元IEA(国際エネルギー機関)事務局長田中氏

元IEAの事務局長だった田中伸男氏は、以下のように主張しています。
日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。

私もこの意見には賛成です。米国からまず1隻を購入するなり、リースするなりすれば、良いと思います。潜水艦建造能力や原子力産業がある日本が、まず一隻を購入するなりリースするなりした上で原潜建造に取り組めば、オーストラリアより先に原潜を建造できるようになる可能性もあります。

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2022年6月29日水曜日

野党やマスコミがいう「物価高」「インフレ」は本当か 食品とエネルギー高が実態だ 真の問題は消費喚起策の不在―【私の論評】イフンレとはどういう状態なのか、日本ではそれを意識して実体験した人も正しく記憶している人もほとんどいなくなった(゚д゚)!

日本の解き方


 参院選では「物価高」が争点となり、「岸田インフレ」と呼ぶ野党やマスコミもあるが、物価の状況などを踏まえると、日本の現状は「物価高」「インフレ」といえるのだろうか。

 5月の消費者物価指数をみると、総合指数(前年同月比、以下同じ)は2・5%上昇、生鮮食品を除く総合指数は2・1%上昇した。生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数は0・8%上昇だった。4月とほぼ同じ水準だといえる。

 5月の生鮮食品は12・3%上昇、エネルギーは17・1%上昇だった。これらが大きく上がっているので、「総合指数」と「生鮮食品を除く総合指数」がそれぞれ2%超の上昇となった半面、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」は0・8%上昇にとどまったわけだ。

 海外をみると、「食品およびエネルギーを除く総合指数」が4~6%以上の上昇になると「インフレ」と騒ぎ出す。

 この意味で、日本のマスコミが「生鮮食品を除く総合指数」の2・1%上昇をとらえて、「インフレ目標を2カ月続けて超えた」と大騒ぎするのには、かなり違和感がある。

 そもそもインフレ目標は、2%ピタリを目指すものではない。国際的には、目標値のプラスマイナス1%は許容範囲内なので、インフレ目標を超えたという言い方はしないだろう。

 しかも、インフレ率の基調を示す「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」が0・8%の上昇なら、目標をクリアしているかどうかも怪しい。少なくとも長期にわたりクリアしているとはいえない。

 いずれにしても、今の状況で「インフレ」とは言いがたい。

 もっとも、岸田文雄首相が言うように「日本のインフレ率は欧米より低く、物価対策が功を奏している」というのも難しい。インフレ率が低いのは、日本でまだGDPギャップ(総需要と総供給の差)があるからだ。GDPギャップの存在は、まだ完全雇用を達成できていないことを意味する。つまり、補正予算を渋り、失業を容認しているわけで、岸田首相が胸を張って誇れることではない。

 電気・ガス料金や食品価格上昇に対する正統派の政策は、ガソリン税や個別消費税の減税だ。その上で、コロナ禍の行動制限で消費に回らなかった「強制貯蓄」を動かすのがいい。

 4、5月の消費者物価指数を見る限り、「強制貯蓄」はまだ動いていないとみるべきだろう。これは補正予算で、強制貯蓄を動かすための「呼び水」措置を取らなかったからだ。


 補正予算で「Go To トラベル」の再開でもしておけば、夏休みの前倒しにも、旅行需要の喚起策にもなっただろうが、岸田政権は参院選後に先送りした。その不作為が、4、5月で物価統計に変化がなかった大きな要因ではないか。

 ガソリン税や個別消費税の減税、呼び水措置を実施すれば、「生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数」が2~3%上昇というマイルドなインフレになるだろう。これは、同時に完全雇用に近い状況も達成できるので、マクロ経済政策としては合格点だ。

(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】イフンレとはどういう状態なのか、日本ではそれを意識して実体験した人も正しく記憶している人もほとんどいなくなった(゚д゚)!

4月にも掲載しましたが、総務省統計局の消費者物価指数の表を以下に掲載します。

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野党や、マスコミの人は、こういう一次資料にあたる習慣がないようです。インターネットで「物価 5月」などと検索すると、このページすぐでてきます。

これを見れば、「物価(全般)上昇」ではなく「エネルギー価格と一部の品目の価格上昇」が正しい見方といえます。これだけみても、現在日本で実施すべきは、政党を超えて国民生活を考えて「消費減税など財政政策」をするべきであることがわかります。

日本がインフレといういう人は、米国などのインフレの実態を知らないのではないでしょうか。

たとえば、年収を円換算で2000万と言うと日本で暮らす感覚で考えるとすごい豊かな生活と思うかもしれませんが、1〜2年前でもサンフランシスコあたりでは独身で年収800万あってもギリギリ生活です。

ごく普通の2LDKで月家賃が50万近いともいわれています。今の米国の狂乱インフレ下では特に都市部ではもう年収2000万でも生活が苦しいかもしれません。それは下のグラフをみても容易に想像がつきます。


ニュヨークではカリフラワーが1個6ドルです。NYの家賃は今年1月までの1年間で33%もアップし、今年3月までの1年間でアメリカの消費者物価は8.5%上昇、平均時給は5.6%上昇しました。

以下に今年5月の動画を掲載します。


米国は景気が良すぎてインフレで苦しんだからこそ「金利を上げて景気にブレーキ」が必要だったのです。米国では景気後退リスクは予定通りなのですです。 日本の野党が言うように今、日本で「金利を上げて景気にブレーキ」を掛けたら日本はまたデフレスパイラルのどん底に沈むだけです。

日本が米国ほど厳しいインフレになっていないのは、政府の対策が効いているからではなく、経済の実態がデフレだからにすぎないからです。

なぜマスコミや野党の人たちがこんな簡単な理屈も理解出来ないのでしょうか。

それは結局日本では、失われた30年といわれたように、あまりにも長い間デフレが続いてしまい、それが当たり前になってしまったからではないでしょうか。

これは、古今東西で日本だけが経験した異常事態です。デフレを通常の状態と認識するのは異常なことです。デフレと聴いて、景気が悪いくらいに認識している人が多いようですが、デフレとは本来正常な経済循環(景気の良い状態、悪い状態を繰り返すこと)から逸脱した異常な状態です。

若い人はもとより、現在の企業で働く中核になっているような30歳代から50歳代の人までが、インフレを知らないのです。多くの人が恒常的なデフレ状況に慣れ親しみ、それが異常であるという意識は薄れ、当たり前になっているのでしょう。

年配の人なら知っているのかもしれませんが、それにしても60 歳代の人ですら、30年以上前というと、随分昔のことです。若い頃と現在とでは、考え方も価値観も随分変わっていると思います。インフレだった頃のことをはっきり認識している人は少ないと思います。

インフレ、デフレなど経済の状況を逐一数字を見て確認する人もさほど多くないと思います。そういう人が、物価が短期間に2%上昇したなどという報道などをみれば、物価がかなり上がったと認識するのかもしれません。

それ以上の70歳代、80歳代の人の多くは、現役を退いているでしょう。現役だった頃と、引退した後では生活様式が異なるのが当たり前です。そうなると、自分の生活の変化がデフレによるものなのか、インフレによるものなのか、あるいはそのようなことには関係がないのかも区別がつきにくいでしょう。

こうして若い人は、インフレを経験したことがなく、それ以降の世代の人もインフレだったころことは遠い昔の出来事にすぎません。

良いたとえは見つかりませんが、たとえば戦後世代がだんだん少なくなり、あと50年もすれば語り継ぐ人も少くなくなり、戦争の記憶が風化してしまうかもしれません。実体経済に関しては、30年という年月はこれに近い年月なのかもしれません。

戦争の実体験や、超インフレの体験など、誰もがはっきりと認識できるのですが、緩やかなインフレやデフレなどははっきりと認識できないのでしょう。        

デフレに戻らないように、この状況はなんとしてでも是正しなければなりません。そのためにも、インフレがどういものなのか、おりに触れてこのブログでもこれからも、触れていこうと思います。    

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2022年6月28日火曜日

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる

岡崎研究所

 6月9日付のワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」と題する論説を寄せ、ウクライナ戦争でのロシアの敗北が中国に与える影響を論じている。


 ザカリアは、論説の冒頭で、バイデン大統領の次の言葉を引用した。「もしロシアにその行動に重い対価を払わせないならば、それは他の侵略国に彼らも領土を取得し、他国を従属させられるとのメッセージを送るだろう。それは他の平和的民主国の生き残りを危険にさらす。そしてそれは規則に基づく国際秩序の終りを意味し、世界全体に破局的結果をもたらす侵略行為に扉を開く」。

 その上で、論説の最後の方で、今、最善の対中戦略はロシアをウクライナで敗北させることであるとした。それは、ロシアを強く支持した習近平にとって、同盟国ロシアが敗北することは、自らの痛手ともなるからである。逆に、プーチンが生き残れば、習近平も、西側諸国は規則に基づく国際秩序を十分に守れなくなっていると思い、攻撃に出る危険も増すと述べる。

 ザカリアの論説は、良く考えられた的を射た論説である。

 ロシアのウクライナ戦争を失敗に終わらせること、ロシアがこの戦争で弱い国になってしまうことを確保することは、今後の世界情勢がどういうように発展していくかを決めると思われる。

 中国は、米国を主敵と考え、対米関係で対抗的姿勢をとっており、ロシアのウクライナ戦争を非難していない。経済制裁によるロシアの苦境を和らげるように、欧州が輸入することをやめようとしている石油を買っている。

 中国は、ロシアへの武器供与はしていないようであるが、それ以外には総じてロシアと協力的関係を維持している。習近平が個人的にもプーチンを支持しているからであろう。

 ロシアの侵攻前、2月4日、北京五輪開会式の日に行われた習近平とプーチン会談で、プーチンがウクライナ侵攻計画を習近平に話したかどうかについては、断言できない。在ウクライナ・中国大使館は侵攻まで、首都から退避する措置を何らとらなかったからである。

求められる日本の不退転の姿勢

 今はウクライナでのロシアの敗北は、中国に大きな影響を与える。

 ザカリアがロシアのウクライナでの敗北を確実にすることが対中戦略上も決定的重要性を持つというのはその通りであろう。ロシアは衰退しているが、衰退する大国は危険でもあることを第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー帝国を例に指摘しているのもその通りだろう。

 日本は、南を中国、北はロシアと国境を接している。かつて安倍晋三政権時代、日本は、対中戦略において、ロシアと接近することも必要だとした。

 それは、冷戦時代に米国が対ソビエト戦略において中国と接近したのと似ている。しかし、ウクライナへのロシアの侵攻や北朝鮮のミサイル発射に対する中露の協力的姿勢を目の前にした今日、もはや、そのやり方は通用しないことがわかった。

 日本にとっては、より厳しい国際環境にあるが、自国の国防力を強化するとともに、日米同盟の緊密化、さらに価値観を共有する友好国と共に、より協力して行動することが必要だろう。

【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」 という主張には、賛成できる面もありますが、賛成できない面もあります。まずは、どの程度の敗北を想定しているのかはっきりしていない点があります。

無論私自信も、ロシアは敗北させるのは当然のこととは思っています。ただ、どこまで敗北させられるかは未知数の部分もあります。そもそも、ロシアはウクライナに攻め込んでいますが、ロシア自体はウクライナに攻め込まれているわけではありません。また、ウクライナが攻め込むつもりもないでしょう。


また、NATO諸国もロシアがNATO諸国のいずれかの国が侵攻されない限り、ロシアを直接攻撃したり、ロシア領に侵攻することはしないでしょう。

そうなると、ロシアが戦争に負けても、最悪ウクライナから引き上げるだけということになるでしょう。ロシアのモスクワを含む一部の地域にでもNATO等が侵攻していれば、それこそ、第一次世界大戦のドイツに対するような過酷な制裁を課することができるかもしれません。

しかし、ウクライナ戦争の戦後は、そのようなことはできません。ロシアを敗北させるには、限界があるということです。

であれば、敗北させたり、制裁を課したりするだけではなく、他の手立てを考えるべきだと思います。

それは、人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。

そうして、その条件は揃いつつあると思います。まずは、戦争が終了した場合、西側諸国の支援のもとに復興がはじまります。ロシアは戦争に負けても、ウクライナに賠償金支払うつもりは全くないでしょうが、西側諸国が凍結したロシアの私産をすべてウクライナ復興にあてることになるでしょう。

あれだけ国土が痛めつけられたわけですから、これを復興するということになれば、それだけで経済活動はかなり盛んになるはずです。日本も第二次世界大戦では甚大な被害を受けましたが、凄まじい速度で復興しました。インフラが破壊されたということは、別の面からみると、効率が良く、費用対効果が高いインフラに取り替えることができるということです。

さらに、ウクライナはITなども進んでいますから、爆発的な成長が期待できます。軍需産業も存在しますから、軍需と民間の両方で経済を牽引することができるでしょう。

ただ、戦後復興が終了した後に、さらに経済を大きくしようとすれば、西欧諸国なみの民主化は避けて通れないでしょう。実際このブログで過去に紹介したように、経済発展と民主化は不可分です。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
G20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
現状のロシアの一人あたりのGDPは、中国と同程度の1万ドル前後です。中国の人口は14億人で丁度ロシアの人口の十倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの十倍になっていますが、両国とも、バルト三国や台湾よりも一人あたりのGDPは低いのです。

どうして民主化が経済発展に結びつくのかに関してはの論考は、ここで述べると長くなってしまうので、下の記事を参考にしてください。
【日本の解き方】中国共産党100年の功罪と今後 経済世界2位に成長させたが…一党独裁では長期的に停滞へ―【私の論評】中国も、他の発展途上国と同じく中所得国の罠から抜け出せないワケ(゚д゚)!
戦後復興後にウクライナが民主化に取り組み西側諸国のようになれば、 一人あたりのGDPがロシアをはるかに上回るのは、さほど難しいことではないでしょう。

それに、最近ウクライナが本格的に民主化する可能性が高まってきました。それは、ウクライナのEU加盟の可能性です。


ウクライナにとり欧州連合(EU)加盟は念願である一方、EU基準に程遠い制度や体質が改善されず実現は夢のまた夢でした。候補国として一歩を踏み出せた意義は大きいです。ロシアの侵略に対する欧米の「支援疲れ」も叫ばれる中、勇気づけられたことでしょう。

ロシアとの関係を断ち切りたいウクライナにとって、EU加盟で域内諸国との人、物、金の移動が自由になればメリットは大きいです。各国との通商がより活発になり、企業誘致やEUからの助成金も見込めます。外交上もロシアに対抗する後ろ盾ができ、国力の底上げにつながります。

ただ、今回の動きがロシアの侵略で大勢の命が失われた結果であることも忘れてはならないです。EU加盟には法の支配や人権など多くの項目でEU基準をクリアする必要があります。ウクライナは加盟に向けて国内法や規制を変更してきたが、それでも候補国になれていなかったのが実情です。

新興財閥(オリガルヒ)が政権と癒着する、裁判官や検察官の試験に賄賂で合格する、大学教授が授業の単位を金で売るなど、ウクライナは有数の汚職国家といわれてきました。

親露派政権が倒れてクリミア半島が占領された2014年以降、国家汚職対策局を設置するなど汚職排除に努めたましたが、いまだになくならないです。基準があいまいな汚職対策をEUがどう評価するかが、加盟に向けたポイントになります。

EU加盟は社会が変わるということです。汚職や腐敗体質が浸透しているウクライナは、急激な変化が生む負の側面も想定しておかなくてはならないです。

通常、加盟手続きには10年前後かかります。EUも1カ国を特別扱いするわけにいかず、他の候補国よりも先に加盟することはないです。道のりは長いですが、西側諸国の全面的支援もあります。焦らずに課題を着実に解決すれば加盟が早まる可能性もゼロではないです。

そうして、ウクライナがEU諸国並に民主化できれば、さらに経済発展する可能性が高いです。過去の汚職や腐敗にまみれてきた、ウクライナが社会を変えることは難しいかもしれませんが、それでも、民主化してロシアのGDPをはるかに凌駕することを目指すべきです。

そうして、日本のかつての池田内閣の「所得倍増計画」のように、「ウクライナGDPロシア凌駕計画」などと公言したうえで、実際にそれを達成すれば、より効果的でしょう。

また、ウクライナならそれも可能です。すでに一人あたりのGDPがロシアのそれを上回っているバルト三国の人口は、三国合わせても619万人です。これでは、バルト三国全体をあわせても、ロシアのGDPを上回るのは至難の技です。

台湾も一人あたりのGDPでは、中国を上回っていますが、台湾の人口は、2357万人であり、バルト三国などよりは大きいですが、台湾が中国のGDPを上回るのは到底不可能です。

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

日本としては、戦災・震災の復興の経験を生かし、ウクライナに対して資金援助だけではなく、様々なノウハウを提供すべきでしょう。さらには、ロシアに侵攻される直前のウクライナは日本にも似た状況にあったことから、復興し経済成長したウクライナのあり方は、日本にとっても非常に参考になります。

日本は、自らも学ぶという姿勢でウクライナに支援すべきでしょう。

ただし、先程も述べたように、ウクライナが西洋諸国なみの民主化を実現しなければ、これは絵に描いた餅で終わることになります。

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2022年6月27日月曜日

東京・東北・北海道電力 あさって「電力需給ひっ迫準備情報」―【私の論評】GDPギャップを埋めない限り、電力等の物価上昇にみあった賃金上昇は見込めない(゚д゚)!

東京・東北・北海道電力 あさって「電力需給ひっ迫準備情報」


厳しい暑さの影響などで東京電力、東北電力、北海道電力はそれぞれの管内で29日、電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるとして、新たに設けた「電力需給ひっ迫準備情報」を初めて出しました。

各社は家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

東京電力 29日 午後4時半から午後5時 最も需給厳しく

関東地方では29日も厳しい暑さが続き冷房の使用などで電力需要が増えることが見込まれています。

このため東京電力の管内では29日も電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるということです。

具体的には午後4時半から午後5時が最も需給が厳しくなるということです。

このため、東京電力は「電力需給ひっ迫準備情報」を出しました。

準備情報はことし5月に新たに設けられた制度で、これが初めての発表になります。

会社は、家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

東北電力も初の「電力需給ひっ迫準備情報」 29日

全国的に厳しい暑さが続いていて冷房の使用などで電力需要が増えることが見込まれています。

東北電力によりますと、29日東北6県と新潟県で電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるということです。

このため、東北電力は「電力需給ひっ迫準備情報」を出しました。

東北電力の準備情報の発令も、これが初めてです。

東北電力によりますと、使用率のピークは夕方の時間帯とみられていて、あさって午後4時半から午後5時までの予備率は4.1%と、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3%をやや上回るだけの水準となっています。

東北電力は、家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

ただ、猛暑によって熱中症の危険性が高まっているとして、冷房は適切に使用しながら、使わない部屋の電気や空調は切るなど、日常生活に支障がない範囲での節電を求めています。

北海道電力でも初の「電力需給ひっ迫準備情報」

電力需給がひっ迫している本州方面に融通する影響で、北海道電力の管内では29日、電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるとして、北海道電力ネットワークは新たに設けた「電力需給ひっ迫準備情報」を初めて出しました。

【私の論評】GDPギャップを埋めない限り、電力等の物価上昇にみあった賃金上昇は見込めない(゚д゚)!

エネルギーや食料価格の高騰が続くなか、政府は「物価・賃金・生活総合対策本部」の初会合を開き、岸田総理は農産品の価格上昇の抑制や実質的な電気代の負担軽減に向けた対策を行う方針を示しました。

小麦などの食品の原材料や肥料、飼料なども高騰しており、それに対しても対応策を出すとのことです。

個別価格の上昇への対応は、減税でやるか、補助金でやるかということになります。経済学の原理からいくと、見えやすくてわかりやすい減税で行うのが普通です。しかし、なぜか自民党は補助金で対応するということです。

電力ひっ迫や電気料金の高騰を緩和するために、一般家庭の節電に応じてポイントを付与する仕組みをつくるということですが、これは最初は冗談なのかとも思ったのですが、そうではないようです。


これでどのくらい節電できるのかと言うと、年間1000円~2000円の間、1500円程度です。これに対するポイントということは、それより小さいはずなので、「一体何なのか」という感じです。家庭での節電は1世帯で1ヵ月100円程度にしかならないです。これでは全く大した額ではありませんね。

節電効果が大きいのならわかりますが、大したことはありません。そのぐらいの節電でしたら、既存住宅を断熱改修した方が効果があると思います。補助金を付ければ簡単にできてしまうので、ますます不思議で仕方ありません。

「家庭の節電でポイント付与」ということをマスコミは報道しますが、これで「いくらなのか」という報道は、しません。普通に考えれば1年間1000~2000円ぐらいなので、1ヵ月100円程度のレベルです。

これでは、ポイントを付けてもたかが知れているのです。節電効果と同じポイントを付けたとしても、月に100円くらいのレベルなので、1日数円程度で何とかし
ようというのは、間違っているとしか言いようがありません。

企業向けには一定の割合で電力会社が買い取る仕組みの導入を検討するということですが、どこまでできるのか不透明です。

1000億円くらいにでもなれば大きな金額ですが、それでも予算としては小さいです。マスコミは、誰かに調べてもらって「予算規模はいくらですか?」と質問し、その額を報道するべきだと思います。先ほどの節電効果からすれば、それほど大きな予算を付けられるはずがないのです。

省エネ等、それこそ日本はオイルショックのときからやり続けていることでもありますし、断熱改修などをやらないとなると、できることは限られてきます。

断熱改修は各国で行われていて、政府も実施するとは言っているのですが、新築のものに対して実施ということです。しかし、既存のものに対してやらなければあまり意味はないです。

新築に対して、「断熱効果を高めることを義務付ける」という法律は、本国会でも通っています。



それもいいのですが、既存のものは補助金で対応すべきです。

法律のなかでは、既存のものについては「低利で融資する」と書かれています。

ポイントなどもどのくらいできるかということは、最終的には予算規模の問題です。

環境省は、すでに省エネ家電購入などでポイントを付与する事業を行っています。

現金で実施するようにして、そのまま減税するのが最も簡単でいいポイントてず。その方が直接お財布にお金が残ります。

ポイントと言われると規模感がよくわかりません。ポイントであれば、このような話はごまかせるからでしょうか? 

「この事業にいくら予算が付くのか」と、予算については必ず聞くべきです。この質問に答えられないようならおかしいです。マスコミの方にはそういうことを聞いたらいたいです。

今回、環境に配慮した行動に対しポイントを付与する事業には、26団体が参加するのだそうです。多くが参加すると、期限がいつなのかがわからないまま終わってしまうことが、ポイント関連ではよくあります。

結局使えないポイントも多いのではないでしょうか。現金は使わなくても残すことができますが、ポイントには期限があります。

物価高に関して、今回の参院選の争点だとするマスコミも多いです。各党、様々な対策を打ち出してはいますが、どんな処方箋が良いのかという話になります。

逆説的なのですが、現在の物価高は海外要因なので、それを誰が吸収するかという議論なのです。そのようなときには、最終需要を増やすという吸収の手段が最も好ましいのです。ある程度、物価は高くなりますが、「高くなっても補助金が入って懐が痛まない」というのが政策としては最も良いのです。しかし、上がったところでダメという議論になると、最終需要を増やすという政策がやりにくくなります。。

補助金などの対策をしないとなると、転嫁できない可能性が高くなって、のちのち大きく影響することになります。転嫁できないとなると、最終的に雇用に跳ね返ってしまいます。経済政策としてGDPギャップをまず埋めて、簡単に転嫁できるようにすべきです。転嫁はできるけれども、最終的には財政支出ですべて受けてしまうということが筋なのですが、いまの議論ではなかなかそこまではいかないです。

マクロ経済のGDPギャップを意識した政策ができていないと、最終需要者に転嫁できないとなると、輸入業者や企業等が吸収する形になりますが、風上から風下にかけて、どこかで吸収できなくなります。吸収できなくなると、そこで失業率が高まります。失業率は典型的な遅行指標なので、これは半年くらい先の話になるでしょう。

失業率が高いままでは賃金は上がらないです。米国などでは、内需が回っています。そのため雇用など悪化することもありません。それでも米国人は、ガソリン価格が上がっただけでも文句を言うのですが、日本はまだインフレになっていないという状態です。インフレになっている方が雇用が安定するから、まだいいのです。

インフレに対しては、かつてのオイルショックなどに対するイメージの問題だと思うのですが、「即座に対峙するべきだ」というような考え方があります。

数字で捉えると、現在の日本は全体の総合物価指標でせいぜい2%ぐらいです。米国などは8%ぐらいまでいっています。全然違います。日本は生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)で0.8%程度の上昇ということは、ほとんど上がっていないと言えます。

そのため、本来様々な政策を打つ余地はかなりあります。財政出動と金融緩和の両方でとにかくGDPギャップを埋めるべきなのです。そうすることで賃金が上がっていきます。賃金の議論をしているのですが、議論としては全然そこまでいきません。やっている手段が違いかますから、当分の間、賃金の話には波及しないという状況です。

ちなみに、GDPギャップはどの程度なのかというのを示したのが下表です。


内閣府は少し低めに見積もる傾向があると髙橋洋一氏などは指摘していますが、それにして27兆円くらいのギャップがあると内閣府が指摘しているわけですから、岸田政権はすくなくも27 兆円程度の補正予算を組み、経済対策を実行すべきなのです。しかし、今回の補正予算は、2兆7009億円のでした、これでは桁違いです。

企業に賃上げ要請を行うということも、最近ずっと続けてきましたが。これは前政権のときには、失業率を下げてから実施しています。失業率を下げると賃上げができます。

失業率がどのくらいになると、このぐらい賃上げができるということは計算できます。賃上げのためにはまずは、失業率を下げるべきなのです。現在の状況だと、最低賃金は1%も上がれば良いくらいです。失業率をもっと下げなければいけないです。現状では雇用調整助成金で抑えているので、見かけ上は失業率が低いのですが、それがなくなると失業率は高くなります。そう考えると最低賃金はあまり上がりません。

結局現在の物価高に見合った賃金の上昇は期待できないということです。

電力需要のひっぱくには原発の稼働などて対応するとともに、物価上昇には利下げなどの筋悪な対処ではなく、需給ギャップを早急に埋める対策が必要です。

岸田政権は参院選後には、これにすみやかに対処しなければ、半年後くらいから失業率が上昇しはじめ本格的に支持率が低迷することになります。失業率の上昇はさすがに、多くの国民も許容することはなく、これに対処しなければ、三年後の衆院選では自民党が負ける可能性もでてきます。

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2022年6月26日日曜日

<独自>中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ―【私の論評】岡山選挙区が今回の選挙の数少ない一つの見どころとなる理由(゚д゚)!

<独自>中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ


 日本でアルバイトをする中国人留学生に適用されている給与の免税措置の撤廃に向け、政府が日中租税条約の改正を検討していることが25日、分かった。給与の免税措置は留学生の交流促進を図る目的で導入されたが、滞在国で課税を受けるという近年の国際標準に合わせる。複数の政府関係者が明らかにした。

 日中租税条約は1983(昭和58)年に締結された。同条約の21条では、教育を受けるために日本に滞在する中国人留学生が生計や教育のために得る給与を免税扱いにしている。雇用先の企業を通じて必要な届け出をすれば、生活費や学費に充てるためのアルバイト代は源泉徴収の対象とならず、課税されない。

 免税措置は、中国に滞在する日本人留学生にも同様に適用される。ただ、日本で働く中国人留学生に比べ、中国でアルバイトを希望する日本人留学生は限られる。また、日本人留学生が中国で就労許可を受けるハードルも高いとされ、中国人留学生が免税を受けるケースの方が圧倒的に多いとみられる。

 13日の参院決算委員会では、自民党が「アンバランスが生じている」と指摘した。

 近年では留学生が受け取るアルバイト給与について、居住する滞在国で課税を受けることが国際標準となっている。このため政府は米国やシンガポール、マレーシアなどとの租税条約を改正する際に、免税規定を削除してきた。

 一方、中国以外でも韓国やフィリピン、インドネシアなど、免税規定が残る条約もある。政府関係者は「個別の国との接触状況は答えられない」としながらも「関係省庁で連携し、積極的に既存の条約の改正に取り組みたい」と語った。


【私の論評】思いがけず岡山選挙区が今回の選挙の数少ない一つの見どころとなるワケ(゚д゚)!

小野田紀美議員

「中国人留学生は学費のためのバイトには所得税がかからないが日本人学生はかかる」

13日の参議院決算委員会の中で、こう訴えたのは、自由民主党所属の小野田紀美議員。

小野田議員は、国費外国人留学生や留学生のあり方について質問していく中で

「中国人留学生と日本人学生に、ひどいかい離がある」と強く訴えました。

中国人留学生は学費を稼ぐためにアルバイトをしても所得税がかからないが、日本人学生はかかる。これは日中租税協定によるものだが、反対に日本人が中国へ行くと働くことができない。相互、ではないのも問題ではないか、というものです。

これに対し外務省は「租税制度改定の機会に、適切に見直したい」と答弁しました。

小野田議員は以前にも決算で、国費留学問題を取り上げています。平成29年度、外国人留学生に対する国費は180億円、令和4年度は184億円。一方、日本人学生に対しては、平成29年度70億円、令和4年度は1525億円。その点については現在、日本人学生に対する支援が大幅に拡充されています。

7月に行われる参院選挙で、小野田議員が立候補すり岡山選挙区(定数1)が注目されています。今年1月、自民党現職の小野田紀美議員(39)が、公明党の推薦を拒否する内容のツイッターを投稿。怒った公明党は5月26日、中央幹事会で彼女を推薦することをやめ、自主投票とすることを正式に決定しました。自公連立政権の下、前代未聞の出来事に、地元の自民党県連に激震が走りました。 

1月15日、公明党の山口那津男代表が地方組織幹部とのオンライン会議で、参院選の32の改選1人区を中心に自民党候補者への推薦見送りを検討していることを伝えました。自民党は埼玉、神奈川、愛知などの改選複数選挙区で、自民党候補と競合する公明党候補への推薦に難色を示したことが背景にあります。

すると、同日、それに反応するように小野田議員がツイッターにこう投稿したのです。

自公連立政権の下、両党は選挙でも協力関係にある。旧来の自民党票は減る一方で、今や無党派層が勝敗のカギを握ると言われる時代。そのため、多くの自民党国会議員は、公明党・創価学会票を当てにしている。公明党が推薦見送りを検討すると言った段階で、あっさり「それで結構です」と言い出すとは異例の反応です。

小野田議員といえば、二重国籍問題も話題になっていたことがあります。2017年5月18日のツイッターに

「昨年、皆様に大変ご心配をおかけいたしました私の国籍の件につきまして、あらためてご報告申し上げます」

として、

「以前フェイスブックに書かせて頂いた通り、義務である『日本国籍選択と米国籍放棄手続き』については立候補前の平成27年10月に終えておりましたが、努力義務である『外国の法においての国籍離脱』という手続きについては、当時進行中で終了しておりませんでした。大変時間がかかりましたが、この度、アメリカ合衆国から2017年5月2日付での『アメリカ国籍喪失証明書』が届きました」

と記し、原本の写真も添付しました。


二重国籍問題は、父親が台湾人、母親が日本人である民進党の蓮舫代表が2016年10月に日本と台湾の二重国籍状態にあることが分かり、その後、与野党ともに二重国籍状態となっている議員がいることが発覚、小野田氏もその一人でした。

小野田氏は「国政を担う身として、皆様にご不安とご心配をおかけしてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます」と投稿しましたが、ネットでは「小野田さんは潔い」「蓮舫氏はいつになったら国籍問題をはっきりさせるのか」といった投稿が相次ぎました。

小野田氏は2016年10月、自身の戸籍謄本の写真をフェイスブックに公開したが、蓮舫氏は現在に至るまで公開していません。戸籍謄本の写真は上記のようにプライベートにかかわる部分は塗りつぶしても良いわけです。肝心要の国籍の宣言日と名前くらいがわかるだけでも良いと思います。

昨日都内で熱弁する蓮舫氏(右)と辻元氏

ただし、これを偽造すれば明らかに犯罪になります。フェイスブックなどに掲載すれば、役所の目にも触れる機会があると思います。

このような開示もしない蓮舫氏には、開示できないわけがあるとしか思えません。

このような話題満載の小野田氏ですが、今回の参院選で岡山選挙区から立候補します。他には共産党新人の住寄聡美氏(39)、NHK党新人の水田真依子氏(40)、諸派新人の高野由里子氏(46)、無所属新人で立憲民主党と国民民主党推薦で元玉野市長の黒田晋氏(58)の4人が立候補します。

黒田氏は公明党にも推薦を求めたが、断られました。地元では、小野田議員と黒田氏の事実上の一騎打ちと言われています。

過去3回の参院岡山選挙区で、公明党の比例票は12万〜14万でした。ということは、これまで、小野田議員は10万票ほどの公明・学会票をもらっていたことになります。今回の推薦見送りで、どんな影響が出るでしょうか。

今度の参院選では、小野田議員は楽勝と見られていました。前回の参院選では、彼女は民進党の江田五月議員の後継で社民党や共産党が推薦した黒石健太郎氏に10万票以上の差をつけていたからです。ところが公明党の推薦がなくなれば、10万票ほどの公明票がそっくりなくなる可能性があります。厳しい選挙になることは間違いないです。

公明党からの推薦を拒否すれば、その分票が減るのは当然です。彼女なりの計算はあったのでしょうか。

とはいいながら、SNS上で多くの賛同を得ているのは事実です。はたして、どんな選挙結果になるのか。公明党の推薦を表立ってはっきり断った議員は過去におらず、誰も予想がつかないです。

これは、蓋を開けてみなければ誰もわかりません。もし小野田氏が勝てば、保守系の議員はたとえ公明党の比例票がなくても当選する可能性があることを証明することになります。

そうなると、自民党の保守系の議員は公明党の顔色をあまりうかがうことなく行動しやすくなります。

ただ、今回の勝敗は、小野田氏やその支援者の努力だけではどうにもならない部分が多いと思います。無党派層がどう動くかが鍵になると思います。

これは、今回の選挙の数少ない一つの見どころとなるでしょう。

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2022年6月25日土曜日

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立―【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立

 米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は24日、太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げた。米ホワイトハウスが発表した。太平洋の島嶼(とうしょ)国などを民主主義の5カ国が連携して支援。中国への対抗を念頭に、ルールに基づく自由で開かれた地域秩序を後押しする。

 5カ国はPBPを通じ、気候変動や海洋安全保障など地域各国が抱える課題の解決に協力し、外交的な関与を強化する。中国が南太平洋のソロモン諸島と協定を結ぶなど、海洋進出を強めており、地域諸国が過度に中国に傾斜するのを防ぐ狙いもある。

ホワイトハウス

 ホワイトハウスは声明で「太平洋地域の繁栄と強靭(きょうじん)性、安全を支え続ける」と表明し、5カ国の協力強化の重要性を強調した。

 米政府によると、5カ国の高官が23、24両日、米首都ワシントンで太平洋諸国の代表団と会合を開いた。会合にはフランス、欧州連合(EU)もオブザーバー参加した。会合を受けて24日に立ち上げたPBPについて「包摂的で非公式なメカニズム」と位置付けた。

 PBPは「地域主義や主権、透明性、説明責任」を重視するとした。会合では運輸や海洋保護、保健衛生、教育分野も議論した。

 米国の太平洋関与をめぐっては、国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官が23日の講演で、多国間で開放的な「太平洋の地域主義」を支えると表明していた。

 バイデン米大統領が5月下旬に訪日した際には、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合が開かれ、違法漁業を取り締まる新たな仕組みの発足で合意した。中国漁船による乱獲が一部で問題視されていた。

【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

米国家安全保障会議(NSC)報道官は4月19日、NSCのキャンベル・インド太平洋調整官らが同月18日にホノルルで、日本やオーストラリア、ニュージーランド(NZ)の政府高官と会談し、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と締結した安全保障協定について、懸念を共有したと発表しました。

キャンベル・インド太平洋調整官

安保協定をめぐっては、ソロモンでの中国の軍事拠点構築につながるとして、米国や豪州、NZが警戒を強めていました。中国外務省の汪文斌・副報道局長は19日の記者会見で、協定に最近、署名したと発表した。ソロモン側は沈黙していましたが、ロイター通信によると、ソロモンのソガバレ首相も現地時間の20日、国会で追及され、両国外相が協定に調印していたと認めました。

これに先立ち、NSC報道担当官は19日、中国・ソロモン安保協定は「透明性に欠け、性格も不明だ」と懸念を表明しました。地域との協議もほとんどない状態で中国が協定締結を進めたと非難した上で、「この地域との強固な関係に対する米国の関与が変わることはない」と述べ、引き続きソロモンなどとの関係強化を図っていく考えを示しました。

その後中国は、南太平洋を中心にした10カ国との安全保障協定の締結を提案しましたが、反対意見が出て合意に至りませんでした。

ミクロネシアのデイヴィッド・パニュエロ大統領は、中国と南太平洋を中心にした10カ国との外相会議に先立ち、周辺国に書簡を送り、「協定案への反対」を表明していたといいます。

オーストラリアの公共放送ABCによると、中国の王毅国務委員兼外相は先月 30日、訪問先のフィジーで開いた外相会議で、安全保障や警察、貿易、データ通信で協力する新たな協定案を示しました。

習氏も「中国と太平洋島嶼(とうしょ)国の運命共同体を構築したい」という書簡を寄せていたのですが、一部の国の合意を得られず提案をいったん棚上げしました。

フィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相兼外相は会議後の記者会見で、「これまで通り、各国のコンセンサスを最優先する」と述べました。10カ国すべての賛同が得られていないことを示唆しました。


中国外務省の趙立堅報道官は30日、「各国はより多くの共通認識に達することを目指して努力することに同意した」と語りました。今後も協議を継続する意向を示したかたちですが、現実には簡単ではありません。

南太平洋の島嶼国をめぐっては、中国と西側諸国の駆け引きが続いています。

中国は4月にソロモン諸島と、安全保障協力に関する2国間の協定を締結しました。ソロモン政府が要請すれば中国が海軍艦艇を寄港させたり、軍の部隊や警察を派遣したりできる内容です。

これに対し、日本や米国、オーストラリアは「中国の軍事拠点化につながりかねない」と懸念しています。

バイデン氏は訪日中の先月23日、インド太平洋地域で台頭する中国に対抗する、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言しました。フィジーはIPEFへの参加を明らかにしています。

こうしたなか、米国は台湾シフトを強化しています。

ダックワース上院議員が率いる訪問団が先月30日、台湾入りしましまた。蔡英文総統らと31日にも会談しインド太平洋地域の安全保障や経済貿易関係について、話し合いました。

米大使館のSNSによると、ダックワース氏は米陸軍のパイロットとして勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った「イラク戦争の英雄」です。

ダックスワーク氏(左)の表敬訪問を受けた蔡英文相当(右)

米台接近に、中国は軍事的威嚇を仕掛けてきました。

台湾国防部は30日、中国軍の戦闘機「殲16」や早期警戒機「空警500」など軍用機計30機が同日、台湾南西部の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表しました。

南太平洋は、台湾有事の際に、米国とオーストラリアの海軍艦船が通過する重要な地域です。中国はこれを阻止するため、軍事拠点化を狙っていまます。

米国もIPEFで、太平洋島嶼国を自由主義圏の枠組みに入れ、軍事、経済両面でつなぎ留める考えです。今回の協定合意失敗は、中国にブレーキがかかったかたちで、習氏の焦りにつながるでしょう。

ダックワース議員は、アジアや軍事問題にも精通し、民主党内でも影響力もあります。バイデン政権と議会が一致しているという米国意思を示すもので、連動した動きです。中国は今後、島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きは強まるでしょう。警戒を緩めるべきでないです。

だかこそ、今回米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げたのです。

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2022年6月24日金曜日

金融緩和への奇妙な反対論 マスコミではいまだ「日銀理論」の信奉者、デフレの責任回避の背景も―【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

日本の解き方


 デフレ脱却のための金融緩和政策については、かつて日銀内にも否定する声が強くあった。ここにきて「円安の副作用」を批判する声もあるが、こうした反対論は筋が通っているのか。

 かつて日銀内には、いわゆる「日銀理論」があった。これは、1990年代前半の「岩田・翁論争」で明らかになったものだ。当時学者で後に日銀副総裁になった岩田規久男氏と、当時日銀官僚だった翁邦雄氏の間で行われた。

日銀

 岩田氏はマネーサプライ(通貨の供給量)の管理は可能としたのに対し、翁氏は「できない」と主張した。論争は、経済学者の植田和男氏が「短期では難しいが長期では可能」といい、一応収まった。

 2000年代に入ると、日銀はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨量)の量的緩和政策を採用し、リーマン・ショック以降は世界の中央銀行でも量的緩和政策を導入したので、基本的には岩田氏の主張の通りだった。

 日銀は白川方明(まさあき)総裁体制で量的緩和を否定していたが、黒田東彦(はるひこ)総裁体制になって再び量的緩和政策を実施することとなった。そもそも日銀理論は、金利は操作できるが量は操作できないというが、量と金利は裏腹という経済理論から見れば奇妙奇天烈なものだった。

 しかし、日銀理論は形をかえてしぶとく生き延びた。名目金利はゼロ以下にはならないと言い、それで量的緩和を「実施しても効果がない」と主張した。筆者らは、経済理論では「金利」は名目金利から予想インフレ率を引いた実質金利なのでゼロ制約はないとし、各国のデータから量的緩和で実質金利をマイナスにできると指摘した。

 すると、反対派は今度は急に効果があるとし「ハイパーインフレになる」と言い出した。石は普段は動かないが、動き出すと止まらないといういわゆる「岩石理論」だ。筆者らはこれに対し、ハイパーインフレの数量的な定義を持ちだし、実施されている量的緩和からはハイパーインフレが起こらないと再反論をした。

 量的緩和について、「効果がない」から「ハイパーインフレになる」とは、まったくお粗末だが、マスコミは相変わらず、日銀理論を信じている人が少なくないようだ。かつては日銀自身が日銀理論を唱えていたので、日銀に取材しなければ記事を書けない人たちにとっては、日銀理論を否定することは自己否定になるからだろう。

 日銀理論の背景にあるのが、日銀官僚の責任回避だった。量の管理はできないのだから、デフレも日銀の責任ではないというものだ。効果がないとか、効果が出すぎてハイパーインフレになるというのも責任回避の表れだ。量の管理ができないというのは、金融政策ができないというのに等しいが、そこまでして責任回避したいものかと思った。

 官僚制の欠陥は「無謬性(むびゅうせい=間違いを起こさないという考え方)」と「責任回避」であるが、かつての日銀はその典型だった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

上の記事で髙橋氏が語っていることは、意見ではありません。事実というか、原理もしくは原則です。あるいは、そこから導かれた見解です。何やら、日銀官僚等が主張することと違うことをいうと、髙橋氏と日銀官僚の意見が異なり、その時々で金融政策は意見の対立によって決まるのではないかと思ってしまう人もいるかもしれません。

金融政策は「意見」ではなく、原理原則を実体経済に適用すべきものである

そのわかりやすい事例が、財政を巡る自民党内の組織です。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

このような派閥のバトルで財政が決まるというのですから、財政はその時々で、派閥の力が強いほう、すなわち派閥の意見によって決まると思われても仕方ないです。

本来財政も金融政策も、その時々の意見や、派閥力学の均衡で決めるべきものではありません。もっと簡単で誰にでも理解できる原理原則を実体経済に適用することによって現実的に決められるべきものです。そうして、財政政策検討本部に所属している議員らは、そのことは十分承知なのでしょうが、岸田総理がこのような体制にしてしまったので、現状では財政政策検討本部に属しているのでしょう。

一方、財政健全化推進本部に属している議員らは、自分たちの考えも、財政政策検討本部の議員らの考えも意見であり、自分たちの意見を通したいと考えているのでしょう。

財政政策は元来派閥の争いで決めるべきではない

原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これを是正するためには、大規模な積極財政、大規模な金融緩和をして一刻もはやくデフレ状況から抜け出すというのが、これまた原理原則です。

これが、財政政策、金融政策の原理・原則です。これ以外の原理・原則はありません。古今東西いずれの国でも、これを原理・原則としない国はありません。最近の日本などがその例外でしょう。

 ただ、EUなどでも、2010年前後には、景気が悪い時には、景気よりも財政再建すべきなどという論文が出され、それに従う国もありましたが、その論文そのものが間違いであることがわかりましたし、それを適用した国で財政政策が失敗したことが明らかになったたため、景気よりも財政再建を重視する国はすぐになくなりました。固執し続けているのは日本だけです。

以上のような原理原則は、高校の「経済社会」の教科書にも掲載されていることですし、マクロ経済のテキストでも原理・原則として扱われていることです。読めば誰にでも理解できます。

安倍総理が提唱した「アベノミックス」は原理原則に基づいたものであり、当たり前のことを言ったものです。これに対してかつてエコノミストの浜矩子氏は「アベノミックスには新しいものは何もない、アホノミックスだ」と述べました。原理原則といわれるものには、新しいものなどありません。すべて検証されつくして、疑う余地のないものだから、原理原則となっているのです。

浜矩子氏が何を言いたかったのか、理解に苦しみますが、「アベノミックスには新しいものは何もない」という発言自体は正しいです。「アベノミックス」を持ち出すまでもなく、日本では財政政策の原理原則が無視されていることが問題なのです。

無論原理原則だけでは、実際の財政政策、金融緩和政策を行うのは難しいです。財政政策というと、一昔前の政治家、ひょっとすると今でも「公共工事」をすることだと考える政治家も多かったようですが、そのような単純なものではありません。その他にも、減税や給付金制度などもあります。

本来財政政策の目標など政府が定めて、その目標を達成するために財務省が専門家的立場から手段や期間などを選び、実行するというのが、財政政策の原理・原則ですが、日本ではなぜか財務省の財務官僚が政治組織のようにふるまい、財政政策の目標設定も関与し、とにかく隙きあらば緊縮財政、増税をしようとするのですから、異常です。

日銀も同じことです。日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するために、日銀が自由にその方法選んで実行するのが、国際標準の中央銀行の独立性というものです。日本ではこの中央銀行の独立性が間違って認識されているようで、白川総裁までは、上の記事にもあるように、奇妙奇天烈、摩訶不思議な理論で、とくにかく金融引締ばかりを繰り返しました。

財務官僚と、日銀官僚の誤謬によって、日本は平成年間のほとんどの期間が深刻なデフレに見舞われました。

世の中で原理・原則といわれるものを無視すれば、とんでもないことになります。実際日本は、財政・金融政策の原理原則が無視されて、30年以上もデフレが続き、賃金も上がらないというとんでもない状況に見舞われました。


経営学の大家ドラッカー氏は、マネジメントに関する原理原則を語り、それに関する著作を多く残しました。

マネジメントを一言で言い表すならば「人と社会のお役に立つこと」です。ドラッカーはマネジメントの原理原則は「成果を中心に置くということ」としました。マネジメントの原理原則とは、人に指示命令することでもなく、人を支配することでもなく、人を操作することでもなく、「責任が中心に据える」ものなのです。

ドラッカー氏はこれ以外にも様々なマネジメント上の原理・原則を語っています。企業などで、日々起こる事柄のほとんどはこの原理原則を適用できます。適用できないもはごくわずかです。

私は、この原理原則を知って以来、会社のことであまり悩むことはなくなりました。そのようなことよりも、この原理原則をどのように現実問題に適用するかに集中するようになりました。

テレビや新聞などで様々な問題などが日々報道されますが、この原理原則を知っているのとそうでないのとでは随分違うと思います。無論原理原則は、ノウハウなどではないので、すぐに実践できるということはありませんが、ほぼすべての問題に考える緒を与えてくれます。

ドラッカーの人生の原理・原則

この原理原則を知らずに、長時間悩んだりしている人をみると非常に気の毒に感じます。ただ、残念なことに、米国の経営学会ではドラッカーはほとんど忘れられているそうです。現在の経営学の主流は因果関係に力点を置くものがほとんどであり、それが原因で忘れ去られたようです。

しかし、ドラッカーのマネジメント上の原理原則は、原理原則であるがゆえに今でも十分に役立つと思います。考え方や意見などは変わるものですが、原理原則はよほどのことがないと変わりようがないからです。そうして、米国の社会の分断はドラッカー流の見方が忘れ去られことも大きな原因の一つではないかと思います。

多くの人が原理原則に基づいたドラッカー流の見方ができれば、米国ではあのような深刻な根深い分断は起こらないと思います。

日本でも、特に財政・金融政策には原理原則に立ち返り、まともな政策ができるようにすべきです。

そのためには、原理原則をわきまえた有力な人に議員になってもらわなければなりません。参院選では個人を選ぶこともできます。これを活用して、原理原則をわきまえた人に一票を投じるべきと思います。

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