2025年4月13日日曜日

「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む―【私の論評】貿易赤字と内需縮小の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

 「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む

まとめ

  • 米国債売却と長期金利急騰トランプ政権下で米国債の大量売却が続き、10年物利回りが3.9%から4.6%近くまで急上昇、24年ぶりの週間上昇幅を記録。30年債も38年ぶりの上げ幅。相互関税90日間停止でも売りが止まらず、ドル安と米国資産離れが進行。
  • 要因と懸念各国機関投資家や中国の売却、欧州由来の売り圧力が要因とされる。米国債の安全資産としての地位低下が懸念され、市場の動揺が続いている。

大統領専用機内で取材に応じるトランプ米大統領=11日、米ウェスト・パーム・ビーチ

 トランプ米政権下で米国債の売却が止まらず、長期金利が急激に上昇している。9日に相互関税の大部分を90日間停止する措置を発表したが、市場の売り圧力は収まらず、ドル安が急速に進んでいる。投資家の米国資産離れが目立ち、市場に動揺が広がっている。米国債は通常、世界で最も安全な金融資産とされるが、現在の株価乱高下の中でも売られ続け、専門家からは「米国債の安全資産としての地位が揺らぐ」との声が上がっている。

 長期金利の指標である10年物米国債利回りは、週明け7日未明の3.9%前後から8日夜には4.5%付近まで急騰。関税停止で一時低下したものの、11日には4.6%近くに達した。ロイターによると、10年債利回りの週間上昇幅は2001年以来24年ぶりの大きさで、30年債も1987年以来38年ぶりの上昇幅を記録。背景には、機関投資家の売却、中国の報復的売却の臆測、欧州からの売り圧力があり、米国債市場の混乱が続いている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】貿易赤字と内需縮小同一視の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実

まとめ
  • 貿易赤字と内需縮小は別物である。内需が強いと輸入が増え、貿易赤字が拡大することがあり、縮小とは逆の現象だ。為替や国際競争力も赤字に影響し、内需とは直接関係しない。
  • 米国の基軸通貨であるドルは、貿易赤字を維持しやすくする。世界的なドル需要により、米国は内需の強弱に関係なく赤字を続けられ、基軸通貨の特権で縮小を避けられる。
  • 関税は輸入を抑えるが、報復関税や物価上昇で赤字削減や内需拡大の効果は限定的だ。トランプ政権の関税政策は、市場混乱を抑えきれず、限界を示した。
  • トランプは貿易赤字を内需縮小と結びつけ、輸出依存を下げて内需を強化する戦略を持っていた可能性がある。しかし、関税に頼りすぎ、効果を期待できない。
  • 内需拡大には、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が有効だ。これらは国際摩擦や物価上昇を避け、経済を穏やかに成長させる。
  • 安倍晋三元首相は、トランプに内需重視の戦略を伝え、過激な関税を抑えた可
  • 能性がある。日米貿易協定や首脳会談での対話が、保護主義のリスクを軽減した。
貿易赤字と内需の複雑な関係


貿易赤字とは、輸入が輸出を上回る状態だ。消費者が外国製品を買いあさったり、企業が海外から原材料を調達したりすれば、輸入が増え、貿易赤字が膨らむ。一方、内需は、国内の消費、企業の投資、政府の支出など、経済を動かす力の総和である。内需が縮小すれば、消費や投資が減り、経済は停滞する。だが、貿易赤字と内需の縮小が直結すると思うのは早計だ。

経済が好調で、消費者がガンガン買い物をしたり、企業が投資を増やしたりすれば、国内の生産では追いつかず、輸入が急増する。内需が強いからこそ、貿易赤字が拡大するのだ。これは縮小とは真逆の話だ。米国の貿易赤字は、消費者が外国製品を求める強い内需に支えられてきた。

2022年の商務省のデータでは、米国の貿易赤字が9710億ドルに達したが、パンデミック後の消費ブームが輸入を押し上げた結果だ。為替レートや国際競争力も赤字に影響する。ドル高なら輸入品が安くなり、赤字が膨らむが、これは内需の縮小とは無関係だ。2022年にドル指数が20年ぶりの高水準を記録したとき、輸入が加速し、赤字が拡大した。

輸出産業が弱ったり、企業が海外で生産したりすれば、輸出が減り、赤字が増える。これも内需とは別問題だ。内需が縮小しても、海外の需要が落ち込んだり、輸出品の競争力が低下したりすれば、輸入が相対的に多くなり、赤字が続く。

2023年の世界貿易機関の報告では、グローバルな需要減が米国の輸出を圧迫し、赤字を維持したとある。米国の基軸通貨、米ドルがこの構図をさらに複雑にする。ドルは世界の貿易や投資の柱であり、原油や金の取引もドル建てだ。

2022年の国際決済銀行のデータでは、国際取引の88%がドル建てだった。世界中がドルを欲しがるから、米国は貿易赤字を維持しやすい。消費者が外国製品を買い、企業が海外から原材料を輸入すれば、ドルで支払う。ドルはどこでも通用するから、輸入は簡単だ。内需が強ければ輸入が増え、赤字が膨らむ。だが、内需が弱まっても、ドルへの需要は揺るがず、輸入が減りにくい。

関税とトランプの経済戦略


関税も話をややこしくする。関税は輸入品に課す税金で、価格を上げ、輸入を抑える効果がある。2018年、トランプ政権が中国製品に25%の関税をかけたとき、米通商代表部の報告では、対象品の輸入 が一時的に減った。だが、相手国が報復関税を課せば、輸出が減り、赤字が逆に増える。

2019年の米国農務省のデータでは、中国の報復関税で大豆輸出が40%減少し、赤字削減の効果は薄れた。関税は内需にも響く。輸入品の価格が上がれば、消費者が国内製品に目を向けるかもしれないが、物価上昇で財布の紐が固くなり、内需が縮小することもある。2020年の全米経済研究所の研究では、トランプ政権の関税が物価を0.4%押し上げ、消費を冷やしたとされる。

関税を下げれば、輸入品が安くなり、消費が刺激されて内需が拡大するが、輸入が増えるから赤字が膨らむ。為替レートやサプライチェーンの変化も絡むから、関税の効果は一筋縄ではいかない。中国からの輸入が減っても、ベトナムやメキシコからの輸入が増え、2021年の商務省データでは赤字に大差はなかった。記事で、トランプ政権が相互関税を90日間停止したのに、赤字や市場の混乱が収まらなかったとあるのは、関税の限界を示す。

トランプが貿易赤字を内需の縮小と結びつけていた可能性は、彼の発言や政策から読み取れる。彼は赤字を「米国の富が海外に奪われる問題」と捉え、国内経済の弱さと直結させた。2018年3月のツイートで、「莫大な貿易赤字は国にとって良くない。製造業を国内に戻し、雇用を取り戻す」と言い切った。赤字は内需、特に製造業の衰退を意味すると考えていたのだろう。

高関税政策は、輸入を減らし、国内生産を増やして赤字を縮小し、内需を強くする狙いだった。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税の演説で、「関税は米国の工場を再び動かし、労働者を守る」と力説した。だが、関税が内需を大きく押し上げることはなかった。

2020年のピーターソン国際経済研究所の分析では、関税で製造業の雇用が少し増えたが、物価上昇が消費を圧迫し、内需への効果は小さかった。トランプは赤字を「負け」と単純化し、基軸通貨やグローバル経済の複雑さを軽視した節がある。2019年の経済諮問委員会との対話で、「赤字は中国に奪われた雇用だ」と語ったが、経済学者は赤字の多くがドル需要や消費パターンによるものだと指摘した。

過去のこのブログで主張したように、トランプが米国の輸出依存度を下げ、内需を拡大しようとした可能性は十分に感じられる。米国の輸出はGDPの12%(2022年、商務省データ)だが、第二次世界大戦中や戦後は5~8%と低く、国内市場中心の経済だった。トランプの「アメリカ第一主義」は、輸出より国内の生産と消費を優先し、赤字を減らしつつ内需を強くする戦略だったと見える。

2017年の税制改革は、企業や家計の可処分所得を増やし、内需を刺激した。2020年の連邦準備制度のデータでは、税制改革で個人消費が1.1%増えたとされる。だが、関税に頼りすぎたため、物価上昇や報復関税で効果が打ち消された。トランプが内需拡大を真剣に目指したなら、関税より穏やかな方法があった。

インフラ投資はその一つだ。道路や橋、公共交通の整備に大金を投じれば、建設業の雇用が増え、経済が回る。2017年にトランプが提案した1兆ドルのインフラ計画は議会で潰れたが、2021年のバイデン政権のインフラ法(1.2兆ドル)は、2023年にGDPを0.5%押し上げた(商務省試算)。税制の優遇も有効だ。

中小企業や中低所得層の減税を増やせば、消費や投資が伸びる。2020年のピーターソン国際経済研究所の報告では、個人向け減税が消費を直接押し上げるとある。教育や職業訓練への投資もいい。労働者のスキルを上げれば、国内産業の生産性が上がり、輸入依存が減りつつ内需が強まる。2022年の労働統計局のデータでは、技術訓練を受けた労働者の賃金が10~15%高く、消費を支えた。これらの方法は、関税のような国際的な軋轢や物価上昇を避け、経済を滑らかに成長させる。

安倍元首相の影響と経済の未来

安倍総理とトランプ大統領

安倍晋三元首相は、トランプの関税政策を穏やかにしたとみられる。安倍はトランプと個人的な信頼を築き、2017年から2020年まで首脳会談やゴルフ外交で頻繁に対話した。外務省の記録では、2017年から2019年だけで日米首脳会談が10回以上あり、経済や貿易が中心議題だった。安倍は日本の経験を基に、内需主導の経済成長の重要性をトランプに伝えたかもしれない。

安倍政権の経済政策は、内需と輸出のバランスを模索したが、内需主導への転換は道半ばだった。しかし、2013年のアベノミクスは、金融緩和や財政出動で内需を刺激し、2014年にGDP成長率を1.4%押し上げた(内閣府データ)。この成功を、トランプに「関税より内需重視が賢い」と説いた可能性がある。2019年9月の日米貿易協定交渉は、その一例だ。

トランプは当初、自動車など日本製品に高関税をちらつかせたが、安倍は交渉で関税引き上げを回避し、デジタル貿易や農産物の相互開放で合意した。ロイターの2019年9月26日の報道では、安倍が「関税の応酬は両国経済に害」とトランプを説得し、米国の農家支援策を提案して妥協を引き出したとある。この協定は、米国の対日赤字を大きく減らさなかったが、関税戦争の激化を防ぎ、両国の内需への悪影響を抑えた。

安倍のアプローチは、関税より協調的な経済政策が繁栄の鍵との信念に基づいていた。2018年のG7サミットでも、安倍はトランプの保護主義に対し、自由貿易の重要性を説き、米国の内需を傷つけない方法を議論した(日経新聞、2018年6月10日)。2017年の訪米時の演説(2月10日、ホワイトハウス)で、「日米の経済は相互依存であり、開かれた市場が繁栄の鍵」と述べ、保護主義のリスクを牽制した。

安倍の影響は、トランプの関税政策が一部で抑えられた点にも表れている。トランプは2018年に中国に大規模な関税を課したが、日本やEUに対しては全面的な関税戦争を避け、部分的な合意を選んだ。安倍ら同盟国のリーダーが、関税の副作用を警告した結果だ。安倍の助言がなければ、トランプの関税政策は上の記事のような市場の混乱をさらに悪化させ、経済的緊張を高めていたかもしれない。

米国は長年、大きな貿易赤字を抱えている。基軸通貨のドルがこれを支える。消費者が外国製品を買い漁り、内需が強いから、輸入が増えて赤字が膨らむ。ドルは世界中で必要とされるから、赤字が続いても問題が少ない。

上記事では、米国債売却やドル安でドルへの信頼が揺らいだが、赤字が内需縮小と直結せず、関税や市場の動揺が絡む複雑な状況だった。日本のような基軸通貨でない国なら、赤字が通貨安を招き、内需が縮小する。だが、米国は基軸通貨の特権でこれを避けられる。トランプが赤字を内需の縮小と結びつけた可能性は、彼の発言や政策から感じる。

だが、データや分析を見れば、赤字は内需だけでなく、ドル需要やグローバル経済の構造に依存する。彼が内需拡大を目指したなら、関税よりインフラ投資、減税、教育支援が、内需を育て、赤字への依存を減らせた。安倍がこうした戦略を伝え、過激な関税を抑えた可能性は、両者の緊密な対話や日本の経験から納得できる。結局、貿易赤字の拡大は、内需の強さ、為替、国際競争力、基軸通貨、関税など、さまざまな要因で決まる。

米国では、ドルが基軸通貨だから、内需が強くても弱くても赤字を維持でき、縮小に直結しない。関税は輸入や内需に影響するが、報復関税や物価上昇で効果は複雑だ。トランプの視点は赤字を経済の弱さと結びつけたが、現実はもっと複雑だ。しかし、この類の勘違いをする人間は多い。トランプが目立っただけだ。

安倍の知恵がトランプを導き、関税の罠から経済を引き戻したなら、それは歴史に刻むべき功績だ。今回もトランプは、過去の安倍の説得を思い返しており、安倍の説得の正しさを今更ながら噛み締めているだろう。貿易赤字と内需縮小を一緒にするのは、経済の真実を見誤る愚かな過ちである。複雑な仕組みを解き明かし、冷静に未来を切り開くことこそ、今、我々に求められているのだ。世界各国は国内でも、国際的にも経済の真実を握り、揺るぎない一歩を踏み出すべきときが来たのだ。

上の見方は、トランプの考え方そのものが間違いであるとの前提で解説したが、無論未だそれを結論付けることはできない。トランプは上で解説したことを知った上で、関税政策を意図的に実行している可能性もある。それは、今後の推移で見えてくるだろう。そのようなことがあれば、またこの話題について掲載しようと思う。ただ、上の解説をご覧いただくと、貿易赤字と内需縮小を一緒にして経済の真実を見誤る愚かな過ちについてご理解いただけるもの考える。

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2025年4月12日土曜日

与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ―【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル

与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ

まとめ
  • 消費税減税・現金給付:与党は食料品の消費税減税と一律現金給付を検討。公明は2026年度実施を主張、自民は賛否分かれる。給付額は3~10万円、財源に赤字国債も。
  • 経済対策・補正予算:石破首相は2025年度補正予算案を指示、自動車業界助成含む経済対策を今国会で成立目指す。
首相官邸に入る石破首相 4月2日

 自民・公明の与党は、物価高対策として食料品の消費税減税を検討し、実現までの「つなぎ」として一律現金給付を行う方針。石破首相は2025年度補正予算案の編成を指示予定で、今国会での成立を目指す。経済対策にはトランプ政権の自動車関税への対応として自動車業界への助成も含まれる。

 公明の斉藤代表は消費税減税の必要性を強調し、2026年度からの実施を「常識的」と述べた。自民内では減税賛成派もいるが、執行部には社会保障財源を理由に慎重論が強い。現金給付は自民内で3~5万円、公明内で10万円の案があり、財源として赤字国債も検討されている。


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【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル

まとめ
  • 林官房長官の否定発言: 2025年4月11日、林芳正官房長官は現金給付や消費税減税の検討を否定。消費税は社会保障の柱として減税は不適切と断言したが、対応は曖昧に「適切に」とした。
  • 財務省派と反財務省派の対立: 日本の政治は、財政規律を重視する財務省派(加藤勝信、森山裕ら)と、減税・給付を求める反財務省派(斉藤鉄夫、玉木雄一郎ら)の激しい対立に支配される。
  • 反財務省派の積極策: 反財務省派は食料品の消費税減税(2026年度目標)や現金給付(3~10万円)を推進。石破首相は補正予算を指示し、自動車業界支援を含む経済対策を今国会で目指す。
  • 財務省派の抵抗と批判: 財務省派は消費税減税や給付に反対し、財政の安定を優先。2025年2月のデモは、財務省派の硬直した姿勢への国民の不満を反映。
  • マクロ経済的提言: マクロ経済の視点では、デフレ脱却のため5%への時限的消費税減税、低所得者向け給付金、ゼロ金利維持、国債発行による財政拡大を提案。財務省派の緊縮はデフレを長引かせ、債務負担は低金利で軽いと主張。
日本は今、経済の荒波に飲み込まれそうになっている。物価高が国民の暮らしを締め付け、トランプ政権の関税が新たな危機を突きつける。政治の舞台裏では、対立の火花が飛び散り、国民は不安の渦に巻き込まれる。昨日、林芳正官房長官が放った言葉は、そんな混沌を切り裂く一撃だった。「新たな給付金や減税の検討はない」。消費税減税や現金給付を求める声が高まる中、この発言は氷のように冷たく響いた。

林芳正官房長官

新年度予算が固まったばかりであり、消費税は社会保障の柱だから減税は不適切だと林は断言する。だが、適切な対応は取ると付け加えた。この曖昧な一言、国民の心を掴むにはあまりに頼りない。

この発言は、食料品の消費税減税や一律現金給付を進める動きと真っ向から対立する。金額は3~5万円から大胆な10万円まで議論され、石破茂首相は補正予算の編成を指示し、自動車業界への助成も含めた経済対策を今国会で成立させる気だ。2020年の10万円給付や2023年の所得税減税を思えば、この積極姿勢は驚くに値しない。トランプの関税が自動車産業を直撃する危機感も、こうした動きを後押しする。国民の生活を守るため、選挙を前に支持を集めるため、行動は加速する。

だが、林官房長官の否定は、まるで別の世界の話だ。このズレはどこから来るのか。答えは明快だ。日本の政治は、財務省派と反財務省派の激しい綱引きに支配されている。財務省派は、財政規律という鉄の掟を死守し、消費税を社会保障の命綱と信じる。

対する反財務省派は、国民の苦しみを和らげるため、大胆な減税や給付を求める。2025年2月、財務省の硬直した姿勢に抗議するデモが東京で起きた。市民は「国民の生活より数字か」と怒り、財務省の解体を叫んだ。この不満は、財務省派が国民からどれだけ遠いかを物語る。

この綱引きは、複雑な政治の戦場だ。反財務省派は、国民の声を背に、消費税減税や現金給付を強く推す。公明党の斉藤鉄夫代表は「来年度からの減税が常識だ」と言い切り、赤字国債も視野に入れる。

ただし、これは選挙目当ての観点が強いだろう。ただ斉藤代表は2025年4月22日から25日にかけて中国を訪問する予定だ。中国共産党幹部や政府要人と会談し、日中関係の深化や日本産水産物の輸入規制解除などを議題とする見込みだ。これを考えると、斉藤代表は、日本経済を良くして中国からの輸入を増やしたいのかと疑いたくもなる。もし政府が大規模な減税をするとしたらこれを企図している可能性も否定しがたい。ただし、公明党は与党であり、与党政治家がこう語っていること自体は評価したい。

国民民主党の玉木雄一郎代表も、所得税減税や消費税軽減を訴え、国民の側に立つ姿勢を鮮明にする。2024年、国民民主党は非課税所得限度額の引き上げを勝ち取ったが、財務省派の抵抗で中途半端な結果に終わった。この闘争は、短期的な救済を求める声と、長期的な財政責任を優先する考えの激突だ。

公明党の斉藤鉄夫代表

対する財務省派はどうか。財務大臣の加藤勝信は、元官僚の冷徹な論理で動く。2025年2月の衆議院予算委員会で、彼は「財政の安定が最優先」と断言し、減税や追加支出を牽制した。自民党の森山裕幹事長も、消費税減税に否定的だ。「社会保障の財源を削れば、国民に迷惑がかかる」と彼は言う。これが財務省派の鉄壁の論理だ。2024年10月、加藤の財務大臣就任は、財政規律を貫く姿勢の象徴だった。財務省派の影響力は、予算編成や税制改正で動きを縛り、時に「強すぎる」と批判される。

この対立は、2025年初頭に一層鮮明になった。物価高とトランプの関税が経済を直撃し、反財務省派は食料品の消費税減税や現金給付を強く求めた。しかし、財務省派は財政の安定を盾に、これを跳ね返す。国民民主党は、所得税の非課税限度額引き上げを提案したが、財務省派は「経済のバランスが崩れる」と一蹴した。加藤財務大臣は、財政の安定を理由に、慎重な姿勢を崩さない。森山幹事長も、消費税の重要性を説き、減税は社会保障を脅かすと警告した。

だが、反財務省派の声は止まらない。玉木雄一郎は「今、国民が求めているのは即時の支援だ」と訴え、経済の苦境を強調する。斉藤鉄夫も、消費税減税の必要性を力説し、来年度からの実施を現実的な目標に据える。この分裂は、政治の根深い問題を映し出す。長期的な財政責任か、短期的な経済救済か。財務省派の影響力は強いが、批判も多い。2025年2月のデモは、財務省派が国民のニーズを無視しているとの不満が爆発した瞬間だった。


この闘いは、単なる政策論争ではない。日本の未来を左右する戦いだ。反財務省派の積極策は、選挙を意識したものかもしれない。2025年夏の参議院選挙が近づく中、国民の支持をどう集めるかは死活問題だ。2020年の10万円給付金は、国民の記憶に残る成功例だ。一方、財務省派の慎重論は、経済の安定を重視する視点から出ている。林官房長官の「適切な対応」という言葉は、このジレンマの象徴だ。何かを約束するでもなく、何かを否定するでもなく、ただ曖昧に響く。

この対立は、妥協でしか解決しない。過去を振り返れば、2024年の税制改革で、国民民主党は非課税所得限度額の引き上げを求めたが、財務省派の抵抗で中途半端な妥協に終わった。10万円給付案も、3~5万円に落ち着くかもしれない。財務省派は歳入を守るため、減税より限定的な支援を押し通すだろう。選挙前の熱狂と、経済の現実がぶつかり合う中、日本の政治は揺れる。

財務省派と反財務省派の主要人物とその立場
以下は、2025年時点で財務省派と反財務省派に属するとみられる現時点で影響力のある主要人物とその立場だ。なお石破首相の立場は状況に応じて揺れるので除外した。

派閥主要人物立場エビデンス/エピソード
財務省派加藤勝信(財務大臣)財政規律を重視し、減税や追加支出に慎重。消費税は社会保障の柱と強調する。2025年2月の衆議院予算委員会で「財政の安定が最優先」と発言。2024年10月の財務大臣就任で財務省の影響力を強化。
財務省派森山裕(自民党幹事長)消費税減税に否定的。社会保障財源の確保を優先し、財政拡大を牽制する。2025年4月11日の記者会見で「社会保障の財源を削れば国民に迷惑」と強調。
財務省派林芳正(官房長官)財務省の慎重論を代弁し、給付金や減税の検討を否定。財政規律を支持する。2025年4月11日の記者会見で「新たな給付金や減税の検討はない」と発言。
財務省派麻生太郎(自民党副総裁)財政健全化を重視し、過去の税制改正で財務省寄りの姿勢を示す。影響力は依然強い。2024年の自民党総裁選で財政規律派の候補を支持(NHK報道)。
財務省派鈴木俊一(元財務大臣)財務省出身で、財政規律を一貫して主張。減税や給付に慎重な立場を維持。2023年の予算編成で「財政の持続可能性」を強調(日本経済新聞)。
反財務省派斉藤鉄夫(公明党代表)消費税減税を強く主張し、国民の負担軽減を優先。赤字国債も視野に入れる。2025年4月11日の記者会見で「来年度からの減税が常識的」と発言。
反財務省派玉木雄一郎(国民民主党代表)所得税減税や消費税減税を推進。国民の即時支援を求め、財務省の抵抗に反対。2024年12月の税制改正で非課税限度額引き上げを部分実現(FiscalNote)。
反財務省派高市早苗(自民党政調会長)経済活性化を優先し、消費税減税や給付に前向き。財務省の緊縮に批判的。2024年の総裁選で積極財政を主張(産経新聞)。
反財務省派西村康稔(自民党経済産業相)産業支援と経済成長を重視し、減税や給付で需要喚起を支持。財務省に異議。2025年3月の経済対策で自動車産業支援を推進(朝日新聞)。
反財務省派山本幸三(元地方創生相)リフレ派の重鎮で、消費税減税と財政拡大を強く主張。財務省の緊縮を批判。2024年の講演で「消費税は経済のブレーキ」と発言(YouTube講演)。

結論だ。日本経済を現状を認識した上での標準的なマクロ経済の視点(以下マクロ経済の視点とする)に基づけば、答えは明確だ。日本経済は今、デフレの呪縛から抜け切れていない。2025年、物価は上がるが、実質賃金の伸びは鈍く、消費は弱い。マクロ経済の視点からはデフレマインドを打破し、需要を喚起するため、大胆な財政・金融政策が必要だ。

消費税減税・撤廃は、国民の購買力を高め、経済を動かす即効薬だ。消費税撤廃の前にまずは5%への減税なら、歳入への影響を抑えつつ、消費を刺激できる。その後は、様子をみて、減税の幅を増やし、撤廃するしないは様子をみて決めても良いだろう。私としては、経済の実情にあわせて、インフレが亢進した場合は、亢進度合いインフレ要因によって税率を定めて消費税を導入、デフレになれば要因など関係なくすぐに低減・撤廃するなどの柔軟な対応をすべきと思う。柔軟さがマクロ経済の鉄則だ。社会保障の柱とするなどはありえない議論だ。

こうした段階的に措置によって、反財務省派の、消費税の低減・廃止により経済が発展するという理論が実証されるだろう。その方向性に日本が動く姿勢をみせれば、消費税を非関税障壁とみなすトランプも納得するだろう。現金給付も、低所得者向けに絞れば、効率的に需要を押し上げる。日銀の金融緩和はゼロ金利を維持しつつ、国債発行で財政拡大を支えるべきだ。

財務省派の『財政規律』は、まるで経済を縛る鎖だ。マクロ経済の視点では、ケチな締め付けはデフレを長引かせるだけだ。日本の公的債務は確かに大きいが、資産を加味すればカナダ並みに低い。EU流の統合政府で見れば、2019年頃にはすでに財政は黒字だ。低金利の今、債務の重さは大したことない。債務のGDP比を騒ぐ声もあるが、経済を大きくすれば自然と小さくなる。2020年の給付金は、国民の買い物を増やし、経済を支えた実績がある。

今必要なのは、国民の生活を支え、経済に火をつける政策だ。消費税減税と給付金を組み合わせ、自動車産業への補助金も加えれば、トランプ関税の打撃を和らげ、成長のエンジンを回せる。財務省派も反財務省派も、国民の未来を見据え、硬直した論理を捨てて大胆な一歩を踏み出すべきだ。それが、日本を再び輝かせる唯一の道だ。

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2025年4月11日金曜日

未来に生まれた偽の人々が失業給付金を受け取る:DOGE―【私の論評】トランプの「どぶさらい」が暴く550億円詐欺!日本は?

まとめ

  • DOGEにより失業保険詐欺550億円が発覚米政府効率化局(DOGE)が、2020年以降の連邦失業給付金で約382百万ドル(約550億円)の詐欺を確認。2154年生まれの人物が4万1000ドルを請求。
  • 不正受給の内訳115歳以上の2万4500人が59百万ドル、1~5歳の2万8000人が254百万ドルを不正請求。イーロン・マスク氏は「制度にチェックがない」と批判。
  • 今後の対応トランプ政権下で設立されたDOGEが税金回収と再発防止策を検討。制度改革が求められる。
トランプ氏は政府がDOGEと協力し人員削減・部客廃止などをすすめるように大統領令に署名していた

米政府効率化局(DOGE)は10日、2020年以降の連邦失業給付金において、総額約382百万ドル(約550億円、1ドル=145円換算)に上る詐欺的な支払いがあったと発表した。驚くべきことに、15年以上の未来の誕生日を持つ約9700人が69百万ドル(約100億円)を受け取っており、2154年生まれの人物が4万1000ドル(約600万円)を請求したケースも確認された。

DOGEの調査によると、不正受給の内訳は以下の通りだ。115歳以上の2万4500人が59百万ドル(約86億円)、1~5歳の2万8000人が254百万ドル(約370億円)を不正に請求していた。米国の最年長者は114歳とされる中、115歳以上の受給者が多数存在することから、死亡者への支払いも含まれているとみられる。

DOGEの共同リーダーであるイーロン・マスク氏は「失業保険には異常な若さや高齢の人々に対するチェックが全くなかった」と指摘し、制度のずさんさを批判した。マスク氏は「政府の無駄を根絶する」と強調しており、今回の調査はその一環だ。

DOGEはトランプ大統領が今年1月に就任後、政府支出の効率化を目指して設立した組織で、マスク氏とヴィヴェック・ラマスワミ氏が主導する。失業保険制度の脆弱性が露呈した今回の事態を受け、さらなる改革が求められている。政府は不正に使用された税金の回収を進めるとともに、再発防止策を検討する方針だ。


この記事は、米国メデイアSUNの元記事を、要約して、新聞記事風に要約してリライトしたものです。詳細をご覧になりたい方は、元記事(英語)をご覧になってください。

【私の論評】トランプの「どぶさらい」が暴く550億円詐欺!日本は?

まとめ
  • 米国で550億円の失業保険詐欺が発覚:DOGEが暴いた不正は総額550億円。2154年生まれの人物が4万1000ドルを請求するなど、死者や幼児への給付が明らかになり、制度のずさんさが露呈。
  • 米国社会の反応が分かれる:民主党系団体が「弱者への給付制限」と抗議する一方、保守派は「バイデン政権の不正を暴いた」と評価。DOGEスタッフは「年間数百ビリオンドルの詐欺」と主張し、改革の必要性を訴える。
  • 労働省が強い決意:労働省長官ロリ・チャベス・デレマー氏は「盗まれた税金を回収し、詐欺を根絶する」と断言。DOGEと連携し、不正受給の撲滅に本腰を入れると発言。
  • トランプの「どぶさらい」公約:トランプ氏は2016年と2024年の選挙で「どぶさらい」を掲げ、腐敗と無駄遣いの根絶を約束。ノースカロライナやニューハンプシャーでの集会で支持者の熱狂的な支持を得た。
  • 日本も「どぶさらい」が急務:コロナ禍の給付金不正が300億円、高齢者詐欺被害が500億円に上る日本。Transparency Internationalも汚職対策の遅れを指摘。米国のような大胆な改革で税金の不正使用を根絶すべきだ。
死者が受け取る年金? AI生成画像

米国で発覚した失業保険詐欺は衝撃的だ。総額550億円に上る不正が明るみに出たのだ。米「San.com」(2025年4月10日付)が報じたところによれば、トランプ政権下で設立された政府効率化局(DOGE)がこの詐欺を暴いた。驚くべきことに、2154年生まれという未来の人物が4万1000ドルを請求していた。115歳以上の2万4500人が59百万ドル、1~5歳の2万8000人が254百万ドルを不正に受け取っていたことも判明した。米国の最年長者は114歳だ。死者にまで給付金が流れていた事実に、誰もが目を疑う。

この事態に、米国社会は大きく揺れている。米紙「Washington Examiner」(4月10日付)によると、民主党系の団体「MoveOn」や「Indivisible」が全国で抗議活動を展開している。DOGEの調査が政府サービス削減につながり、弱者への給付が制限されると彼らは懸念する。

一方、保守派の反応はまったく異なる。米保守系メディア「PJ Media」(4月10日付)は、「DOGEの調査はバイデン政権下での意図的な不正を暴いた。トランプ政権の効率化努力の成果だ」と高く評価した。イーロン・マスク氏が「政府の無駄遣いを根絶する」と強調した点を称賛し、「これこそ納税者が求める改革だ」と断言している。

Washington Examiner(同日付)も、DOGEスタッフ7人がFox Newsのインタビューで「政府支出の詐欺は年間数百ビリオンドルに上る」と主張し、保守派の間で「DOGEの取り組みは政府の透明性を高める第一歩」との声が広がっていると伝えた。

労働省の対応も注目を集めている。Washington Examiner(同日付)によれば、労働省長官のロリ・チャベス・デレマー氏は強い決意を示した。「DOGEチームの驚くべき発見だ。約400百万ドルの詐欺的な失業保険支払いが見つかった。労働省は盗まれた税金を回収し、悪質な詐欺を根絶するために全力を尽くす。責任は我々に課せられている」。この発言は、労働省がDOGEと連携し、不正受給の根絶に本腰を入れる方針を示すものだ。

労働省長官ロリ・チャベスデリマー氏

トランプ大統領はこの結果を予見していたのかもしれない。彼は2016年の大統領選挙で「どぶさらい(Drain the Swamp)」を掲げ、政府の無駄遣い根絶を約束した。米紙「The Washington Post」(2020年10月24日付)によると、ノースカロライナ州の集会で「ワシントンでどぶさらいをする」と宣言した際、支持者から「Drain the Swamp!」のチャントが沸き起こった。

2024年の選挙キャンペーンでもトランプ氏はこのスローガンを再び強調した。米「The Guardian」(2025年4月10日付)が報じたところでは、2月のニューハンプシャー州の集会で「ワシントンの腐敗を一掃し、再びどぶさらいを実行する」と訴え、支持者から大きな拍手が湧き上がったという。

2016年のトランプの「どぶさらい」を現したイラスト

日本も目を覚ますべきだ。厚生労働省の発表(2023年3月31日付)によれば、コロナ禍での給付金不正受給が全国で約300億円に上り、2022年度だけで約1万件の不正が発覚した。2021年に大阪府で明るみに出た事例では、架空の事業者を装ったグループが持続化給付金約2億円をだまし取り、逮捕者が出る事態となった(朝日新聞デジタル、2021年6月15日付)。

さらに、国民生活センター(2024年10月1日付)が報告したところでは、高齢者を狙った詐欺被害が急増し、2023年度の被害総額が約500億円に達した。国際的な評価も厳しい。こんなのはまた、可愛いものであり、財務省等の省庁が天下りのために実際に何をやっているのか、公金チュウーチュウーや鉄のトライアングルのスキームづくりにどれだけ資金が実際に使われているのか徹底的に「どぶさらい」をすべきだ。

Transparency Internationalの「腐敗認識指数」(2021年1月28日付)では、日本は世界19位(スコア73)と比較的高い評価を得ているが、アジア太平洋地域全体で「汚職対策が進展していない」と指摘されている。政府の不正摘発体制の強化が求められているのだ。日本も米国のような大胆な「どぶさらい」を急ぎ進め、税金の不正使用を根絶する取り組みを本格化させるべきだ。国民の信頼を取り戻すため、今こそ行動する時である。

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2025年4月10日木曜日

米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官―【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

 米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官

まとめ

  • EUの中国へのシフトは「自らの首を絞めるようなもの」
  • ベッセント氏「中国は国際貿易システムにおいて最悪の違反者」
ベッセント米財務長官

 ベッセント米財務長官は9日、同盟国と貿易協定を結び、その基盤を固めた後に、グループとして中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう求める構想を示した。ワシントンでの講演後、同氏は同盟国との合意が実現可能と述べ、経済面での連携強化を強調した。

 一方で、EUが米国から離れ中国に接近することに警告を発し、特にスペインがその動きを支持していると指摘、「自らの首を絞める行為」と批判した。中国を国際貿易システムの「最悪の違反者」と呼び、人民元の連続切り下げに対抗し、世界各国が関税引き上げで影響を相殺せざるを得ないと主張した。また、日米協議が間もなく始まるほか、ベトナム、韓国、インドとの貿易交渉が進行中であることを明らかにした。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来

まとめ
  • 米国の関税戦略と自由貿易の矛盾:米国は2018年に中国や鉄鋼製品に高関税を課し、2025年現在もEUとの報復関税が続くなど保護主義的だが、関税を中国の不公正な貿易慣行(人民元切り下げ、補助金)を是正する交渉ツールとして活用し、自由貿易を模索している。
  • ベッセント氏の構想とTPPの可能性:ベッセント財務長官は同盟国と協定を結び中国に対抗する構想を示し、これは米国主導のTPP(現CPTPP)に似た枠組みを想定しているとみられる。日本主導のCPTPPは高水準なルールで2025年時点で世界GDPの13%を占め、米国の目標と合致する。
  • IPEFの限界:2022年発足の米主導のIPEFは関税削減を含まず、貿易分野の実効性に疑問。インドが2022年に貿易分野への参加を見送った事例は、経済的魅力の薄さを示す。
  • CPTPPの拡大と世界貿易ルール:米国がCPTPPに加入すれば、日本や英国ら同盟国と公正な貿易体制を構築でき、ルールを世界標準に拡大可能。WTOが中国加入(2001年)で失敗した補助金や市場歪曲の是正を繰り返すべきではない。
  • 日本の主導性と柔軟な運用:米国はCPTPP加入後、関税などの必要性があると判断すれば離脱など柔軟な運用が可能だ。しかし米国流の協定に偏るのを防ぐため、日本が主導権を握り米国を引き込むべき。

2018年トランプ大統領は、中国に関税を課した

米国は関税を積極的に課してきた国だ。2018年には中国製品に最大25%の関税を課し、鉄鋼やアルミニウムにも追加関税を導入した。2025年現在、EUが米国製品に210億ユーロの報復関税を承認し、4月中旬から一部が発効する予定だ。一見、自由貿易を推進する姿勢と矛盾しているように見える。しかし、米国は関税を単なる保護主義ではなく、戦略的な交渉ツールとして活用している。

中国の人民元切り下げや補助金政策など、不公正な貿易慣行を是正し、公正な競争環境を作るのが目的だ。ベッセント財務長官は同盟国と貿易協定を結び、集団で中国に対抗する構想を示している。これはかつて米国が主導した「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」に似た形を想定している可能性がある。TPPは2016年に12カ国で署名されたが、2017年にトランプ政権が離脱。現在は日本が主導し、「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」として2018年に発効し、11カ国で運用されている。

2018年TPP発効

一方、米国が2022年に始めた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」もある。14カ国(日本、オーストラリア、インドなど)が参加し、貿易、サプライチェーン、クリーンエネルギー、公正経済の4分野で構成されている。2025年現在、サプライチェーン協定が2023年に署名され、2024年にはクリーン経済協定が発効した。しかし、貿易分野は関税削減を含まず、従来の自由貿易協定とは異なる。

実効性に疑問符がつくのも当然だ。過去のTPPやNAFTAは関税削減で市場を開放し、経済効果を生んできたが、IPEFにはそれがない。参加国にとって経済的魅力が薄いとされ、インドは2022年の発足時に貿易分野への参加を見送り、「具体的な利益が見えない」と表明した。これは関税削減がない枠組みの限界を示している。

対照的に、TPPは米国離脱後、日本が引き継いだ。今のCPTPPは知的財産保護、労働基準、環境規制といった高いルールを備えた最先端の協定だ。日本、英国、オーストラリア、シンガポールなど、米国の主要な同盟国が名を連ね、2025年時点で経済規模は13兆ドル、世界GDPの13%に達する。日本は2017年の米国離脱後、11カ国をまとめ、わずか1年で発効にこぎつけた。英国も2023年に加盟し、CPTPPはアジア太平洋を超えて拡大している。

ここで私の意見だ。米国はCPTPPに加入し、拡大TPPを構築すべきだ。日本や英国といった信頼できる同盟国と組めば、公正な自由貿易の体制を迅速に作れる。CPTPPの高水準なルールは中国を牽制し、補助金で優遇される国有企業への規制はベッセント氏の「不均衡是正」の目標とも一致する。

さらに視野を広げよう。米国が加われば、CPTPPを基盤に貿易ルールを拡大し、実質的な世界標準にできる。これは、条件を満たさない中国を加入させたWTOの失敗を繰り返さないためだ。WTOは1995年に発足し、2001年に中国を受け入れたが、補助金や市場歪曲が是正されず、米中対立の火種となった。2020年のWTO総会で米国が中国の「発展途上国」待遇に異議を唱えたが、改革は進まず、機能不全に陥っている。

2001年 中国のWTO加入 調印式

米国はTPPに加入しつつ、関税を課したくなれば脱退するような柔軟な運用も可能だ。NAFTAからUSMCAへの移行(2018年)や、TPP離脱(2017年)を大統領令で即実行した実績がある。協定を維持しつつ自国優先の政策を進められる。CPTPPに入り、必要なら関税を課し、状況次第で抜ける選択は、ベッセント氏の「米国中心の経済圏」と整合し、既存の枠組みを効率的に使う道だ。

米国は歴史的にGATTやWTOで自由貿易を推進してきたが、農産物補助金で国内を守る二面性も持つ。今の「選択的自由貿易」もその延長だ。しかし、関税の多用は日本やEUの不信を招き、ベッセント氏の「経済面で完璧でない同盟国」という言葉は、その軋轢を認めている。

米国がCPTPPに加入し拡大すれば、こうした衝突を減らし、時間も節約できる。国内の保護主義や「アメリカ第一主義」が壁だが、公正で強固な貿易秩序は米国と同盟国の長期的な利益になる。成功は同盟国との連携と中国の対応にかかっている。だが、黙っていれば米国流の、米国に都合の良い新たな米国主導の協定ができる可能性がある。それではCPTPPの加盟国や加盟を目指す国々が求める公正な貿易ではない。日本よ、動け! 主導権を握り、米国を引き込んでくれ!

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2025年4月9日水曜日

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 「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権


まとめ
  • 米連邦政府報道官キャロライン・リービットは4月8日の記者会見で、Appleが中国で製造するiPhoneを米国で生産可能と述べ、中国への関税引き上げを発表。
  • トランプ大統領は製造業雇用増加と技術・AI分野での主導権を目指し、米国には労働力と資源があるとし、Appleの5000億ドル投資を根拠に製造可能性を強調。

 米連邦政府のキャロライン・リービット報道官は4月8日の記者会見で、Appleが主に中国で製造しているiPhoneを米国で生産可能との見解を示した。中国への関税引き上げが同日24時1分から発表され、トランプ大統領が製造業雇用を増やし、技術・AI分野での主導権を目指していると説明。

 米国にはiPhone製造を移転できる労働力と資源があるとし、Appleの米国への5000億ドル投資を根拠に、製造が不可能ならそのような投資はしないだろうと語った。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの怒りとAppleの野望:米国製造復活の裏で自公政権が仕掛ける親中裏切り劇

まとめ
  • Appleの5000億ドル投資とMac Proの米国生産が、リービット報道官の「iPhoneを米国で製造可能」という主張を裏付ける。トランプ政権はFoxconnのウィスコンシン計画など、製造業復活を目指す動きを見せる。
  • 米国は過去のグローバリズムの失敗を繰り返さず、経済・国家安全保障のために製造力を取り戻しつつある。中国依存は緊急時の弱点となり、Appleの動きはその第一歩だ。
  • 現実には、中国の効率的なサプライチェーンやコスト優位性が壁だが、政策支援があれば中長期的に米国でのiPhone製造は可能。造船業でも設計や新型の研究開発は優れるが大量生産体制が不足。
  • 第二次大戦中の米国は「リバティ船」量産で勝利を掴んだが、今は知識優位でも大量生産が弱い。トランプ政権は関税などでこの危機を打破しようとしている。
  • トランプ氏は日本を「貿易で不当に扱う」と批判し、特に「中国との関係を変えろ」と警告(https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/114296909356614075)。にもかかわらず、公明党代表は首相の親書を携え22日訪中するという。親中姿勢は米国の信頼を裏切り、日本を危険に晒す愚行だ。

アップル本社「アップル・パーク」

Appleの米国への5000億ドル投資が、キャロライン・リービット報道官の言葉を裏付ける決定的な証拠だ。テキサス州で新しいキャンパスを建て、米国の部品業者に発注を増やすなど、その動きは本物だ。2018年、Appleは5年間で3500億ドルを米国に注ぎ込むと宣言し、製造にも一部が使われている。「もし米国でモノが作れないなら、こんな巨額を投じるはずがない」とリービット氏は言い切る。

Appleが本気で米国での製造に乗り気だと誰もが思うだろう。米国には、優れた技術を持つ労働者と、半導体や部品を作る基盤が揃っていると彼女は断言する。事実、Appleは2019年からテキサスでMac Proの一部を組み立てている。これは、iPhoneのような複雑な製品も米国で作れるという証明だ。

トランプ政権下での製造業の復活劇も見逃せない。Foxconnがウィスコンシン州で工場を計画した例は、たとえ規模が縮小したとしても、米国でのモノづくりを本気で取り戻そうとする動きそのものだ。iPhoneだって、政策が後押しすれば米国で作れる。そんな可能性が目の前にある。

テキサス州オースティンでフレックスが運営する工場 マックプロも組み立てている

この考えは、米国がiPhoneを中長期的には自国で組み立てるのが正しい道だという信念に直結する。かつてのグローバリズムの過ち、つまり海外に製造を丸投げしたせいで国が弱体化した現実を、米国はもう繰り返さない。経済効率だけを追い求めるなら、設計やデザイン、新規開発だけやって、製造は中国に任せればいい。

だが、それでは緊急時にモノが作れず、中国の脅しに屈するしかない。経済安全保障も国家安全保障も、米国でのモノづくりなしには守れない。Appleの投資やMac Proの生産実績は、その第一歩だ。リービット氏が胸を張って言う「労働力と資源」が、こうした安保の危機感を支えている。

だが、現実は甘くない。iPhoneの製造は、中国の完璧に整ったサプライチェーンに依存している。労働コストや効率で、米国がすぐに追い抜くのは難しい。Foxconnのウィスコンシン計画が期待外れに終わったように、大きな移転には時間も金もかかる。5000億ドルの投資だって、製造工場に直結するものばかりではなく、研究や小売に流れている可能性もある。それでも、政策の後押しがあれば、iPhoneを米国で作るというリービット氏の主張は現実味を帯びる。完全な移転は簡単ではないが、長い目で見れば、米国の産業を強くする道は開けている。

この発想はiPhoneだけに留まらない。造船業を見れば、その深刻さがよく分かる。かつて海洋を支配した米国の造船力は、今や中国に遠く及ばない。iPhoneと同じだ。新型艦艇の設計や研究では米国が圧倒的に勝るが、大量生産の体制がまるで整っていない。第二次世界大戦中の米国は、今とはまったく違う。最先端の技術と大量生産の力を両立させていた。

例えば、米国は「リバティ船」(貨物船)を2週間足らずで1隻作り、1941年から1945年までに2710隻を量産した。あの製造力こそ、米国を勝利に導いた切り札だった。だが、今の米国は知識では勝っていても、大量生産ができない国に成り下がりつつある。この危機を打破しようと、トランプ政権は動く。アップルも米国内で何も大量生産できないというのであれば、いままではそれが大きな利益を生んでいたが、今後はそうではないことを悟ったのだろう。

リバティ船の1つ「ジョン・W・ブラウン」 戦時仕様のため、船頭と船尾に砲を備えている

米国はたとえ短期的には経済が縮小しても、製造力を取り戻す腹だ。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税は、国内産業を守り、海外依存を減らすための明確な一撃だった。日本は幸いなことに、グローバリズムによって産業構造が歪になった面はあったものの米国ほど製造業の製造基盤が失われることはなかった。しかし、対中依存はかなり強まった。それに産業界は、未だ今後の世界がどうなかについて、見通しを持っていないのだろう。

トランプ氏は日本の動きにも目を光らせている。石破首相との会談後、Truth Social(トランプ氏のSNS)でこう吠えた。「日本は貿易で米国をひどく不当に扱ってきた。彼らは我々の車を受け入れないが、我々は彼らの車を何百万台も受け入れる。農業や他のモノも同じだ。全てを変える必要がある。特に中国との関係は変えなければならないhttps://truthsocial.com/@realDonaldTrump/114296909356614075 

なぜか、太字の部分が、日本の主要メデイアでは、カットされたりその意味あいを報道しない傾向が強いが、これはかなり重要である。日本の親中姿勢への痛烈な警告だからだ。

なのに、日本政府の行動は信じがたい。公明党の斉藤鉄夫代表が4月22日から北京を訪れ、石破首相の親書を習近平に渡すという。中国共産党や政府の要人と会い、経済交流の強化を訴える予定だと報じられている。

トランプ氏の警告を無視し、米国の戦略に真っ向から逆らう愚行だ。日本政府のこの対応は、徹底的に批判されて当然だ。トランプ氏が言うように、その個々の是非はともかく日米の貿易不均衡は長年の問題だ。そうして日本の対中依存は、米国にとって地政学的な脅威そのものだ。米国が中国包囲網を築く中、日本が親中路線を突き進むのは、同盟国への裏切り以外の何物でもない。

石破政権と公明党は、目先の経済的利益に目がくらんでいるのかもしれない。だが、長期的には米国の信頼を失い、日本の安全保障を自ら危険に晒す行為だ。もし米国が日本に経済制裁や関税強化を突きつければ、日本経済は大打撃を受ける。中国との経済交流を深めれば、技術流出や経済的従属が進み、いざという時に日本が自立できなくなる。

第二次大戦時の米国の製造力を目指すトランプ政権の戦略を、日本が無視するのは歴史の教訓を踏みにじる行為だ。造船を含む安保の課題に立ち向かう米国と、Appleの事例をモデルに産業を復活させる動きは、中長期的な製造回帰の正しさを証明している。日本政府は目を覚ますべきだ。米国の同盟を軽視し、中国にすり寄る道は、日本を滅ぼす一歩にしかならない。

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アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断―【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは?

アメリカとの関税交渉担当、赤沢経済再生相に…政府の司令塔として適任と判断


政府は8日、米国による関税措置見直しの対米交渉担当に赤沢経済再生相を任命した。赤沢氏は石破首相の側近で、米国との包括的協議に適任とされる。林官房長官は、首相が赤沢氏の手腕や経験を考慮して決定したと説明。

これまで交渉は武藤経済産業相が担ってきたが、今後は農産品関税など省庁横断的な対応が必要なため、司令塔となる閣僚の設置が求められていた。過去のTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当した前例も理由とされる。赤沢氏は鳥取県選出で当選7回、内閣府副大臣や財務副大臣を歴任。

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【私の論評】石破vsトランプ関税:日本がTPPで逆転勝利を掴む二段構え戦略とは?

まとめ
  • 石破首相は7日、トランプとの電話会談で対立を避け、トランプ関税を批判しつつ、日本が対米投資大国であることを主張し、関係維持に努めたが、具体的な方針や戦略を示さず、丸投げ状態だ。
  • トランプ関税は中露などの貿易ルール無視する国々やこれに追随する国々への対抗策であり、米国は内需強化で対抗する。日本が主導するTPP(CPTPP)は厳格なルールでこれらを締め出し、米国にも利益をもたらすチャンスだ。
  • 日本はTPPを拡大し、2023年に英国加盟で勢力を広げた。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値が上がり、日本は自由貿易のリーダーとして地位を固められる。
  • 短期的には消費税廃止や米国の原潜・企業買収で貿易不均衡を是正し、長期的にはTPPで世界のルールを握る二段構えが有効だ。米国との関係悪化リスクはあるが、実行力次第で勝機がある。
  • 石破の曖昧な対応は問題だ。8日の総合対策本部で赤沢経済再生相を任命したが、明確な戦略がない。成功には石破政権を終わらせ、実行力あるリーダーが必要だ。


石破首相が7日、トランプ大統領と電話会談をした。石破は、対立は避け、双方の利益を第一に考え、具体的な交渉カードは出さなかった。米国の勝手な関税に文句を言いながらも、日本が対米投資の大国であることを主張し、協調こそが正解だと訴えた。会談後、「率直で建設的な話し合いを続ける」とした。政府内ではトランプとの関係をぶち壊すまいと慎重な声が強い。交渉のスタートラインに立てただけで「十分な収穫」と胸を張る。8日には総合対策本部を開き、今後の方針を固めるつもりのようだ。

だが、ここで問題だ。石破はトランプにも、国内にも、何一つハッキリした方針を示していない。包括的な「パッケージ」の話は出たが、それがどんな狙いか、どんな戦略か、全く分からない。細かい中身を今すぐ明かせとは言わない。だが、どんな方向性で米国に差し出すのか、その大枠くらいは示すべきだ。これでは、トランプとの電話も、国内の会議も、ただの丸投げだ。トランプは選挙戦から関税を叫び続けている。大枠の対策を考える時間は山ほどあったはずだ。

一方で、トランプ関税を日本にとって全部悪いと決めつけるのも馬鹿げている。TPPを引っ張る日本にとって、これはまたとないチャンスだ。中国やロシアがWTOの貿易ルールを無視し、他の国もそれに便乗する。そんな無法地帯にトランプが関税で鉄槌を下す。中国はWTOに入っても補助金やパクリをやめず、2023年の報告書でもボロクソに叩かれた。

日本国内でも、いまだにパクリをやっている。ロシアもクリミア併合以来、制裁を出し抜いてきた。米国は2018~19年、2500億ドル分の中国製品に25%の関税をかけ、その結果製造業雇用を1.4%増やした。内需を鍛える作戦だ。

対して、日本が旗振り役をすTPP(今はCPTPP)は貿易ルールがガチガチだ。2018年の発効以来、デジタル貿易や労働基準を厳格に定め、違反したら即アウト。中国やロシアは今のままじゃ入れない。他の国もルールを破れば蹴り出される。TPPが世界のルールになれば、無法者は締め出され、米国も得する。不公平な取引を潰し、関税に頼らず済むからだ。

日本には勝機がある。米国が2017年にTPPを抜けた後、日本はCPTPPを引っ張り、アジア太平洋の貿易を仕切ってきた。2023年には英国が入り、GDP総額は世界の15%近くに膨らんだ。トランプ関税で米国が孤立すれば、CPTPPの価値は跳ね上がる。2022年、ASEANへの輸出は12%増え、米国頼みが減った。中国やロシアが締め出される中、日本は自由貿易のリーダーになれる。

米国は内需で中国と殴り合う。2025年、個人消費はGDPの68%を占め、戦争並みの危機でも耐えられる。1940年代、内需と軍需で経済を回した実績がある。中国とのバトルが過熱しても持ちこたえる。だが、いつまでも続くわけじゃない。冷戦が1989年のベルリン崩壊で終わったように、中国との衝突も終わる。TPPルールが世界の常識になれば、米国は戻ってくるべきだ。2021年、バイデン政権でもTPP復帰の声が上がった。

米国が関税政策をやめて、厳格なルールにのっとった自由貿易体制に戻るには、それなりの時間がかかるだろうが、TPPに加入すれば、それはすぐに実現する。米国にとってもこれは大きな利益になるだろう。そのためにも、日本は加盟国を増やしておくべきだろう。

TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相(中央右 当時)と茂木敏充経済再生担当相(同左)

ただしTPPは長い目で見るべきだ。短期的には大胆に動くべきだ、消費税をぶった切り、内需をぶち上げれば、対米輸入が増える。2019年の試算では、消費税ゼロで家計消費が年4兆円以上跳ねる。米国の攻撃型原潜(1隻35億ドル)を買えば、安全保障の絆が強まる。ハーバード(資産500億ドル)やディズニー(時価総額1800億ドル)を買い取り、日本流に作り直せば、影響力とソフトパワーが手に入り、貿易赤字も減る。

さすがに、ハーバードやディズニーは無理だろうが、米国はこれに準ずる優秀な大学や企業がごまんとある。トランプは、大学、研究機関、エンタメ企業などでも、リベラル系は大嫌いで補助金などをカットしつつあり、経営がなりたたなくなるものも出てくるだろう。トランプは、これらの買収に関してはあまり反対しないだろう。むしろ日本流につくりかえることを歓迎するかもしれない。

日本がデズニーを買収したら和風デズニーランドが・・・・・? AI生成画像

ただ依然としてリスクはある。2023年、対米輸出は1650億ドルだ。関税が自動車や電子機器に食い込めば痛い。日米関係がこじれれば、安全保障も危うい。石破が7日の会談で協調を選んだのは、その火種を消すためだ。交渉の第一歩を「十分」と政府は言う。8日には赤沢経済再生相を対米交渉の担当に据えた。LNG投資、非関税障壁の見直し、農産品関税、防衛費増額がテーブルに乗り、林官房長官は「効果的な策を練る」と意気込む。

赤澤氏はTPPや日米貿易協定交渉で経済再生相を担当したので、今回の交渉には良い人選だとは思う。ただ、石破総理の明確な方針や戦略がない。これでは、赤沢氏もせっかくの経験を活かせないかもしれない。

結論だ。二段構えなら日本は勝てる。短期で消費税廃止や米国資産買収をぶち上げ、不均衡を直す。長期でTPPを広げ、ルールを握る。中国、ロシア、その腰巾着どもを締め出し、米国にも旨味を持たせる。日本はこれをトランプに叩きつけ、交渉を制する。実行力さえあれば、道は開ける。そのためにも、石破政権を終わらせなければならない。

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2025年4月7日月曜日

<主張>中国軍の演習 無謀な台湾封鎖許されぬ―【私の論評】中国の台湾封鎖は夢想!76年経っても統一が実現しない理由と西側の備え

<主張>中国軍の演習 無謀な台湾封鎖許されぬ

まとめ
  • 中国軍が台湾海峡封鎖を想定した大規模演習「海峡雷霆―2025A」を2日連続で実施。空母「山東」や数十隻の艦船、軍用機を動員し、船舶拿捕や港湾攻撃で封鎖能力を検証。台湾に心理的圧力をかけ、トランプ新政権の出方と頼清徳政権を牽制する狙いがある。
  • 北東アジアの平和を乱す行為として、日米が強く反発。米国防長官は「中国の侵略阻止」を掲げ抑止力強化を表明し、米国務省は緊張悪化と地域安全への脅威を非難。日本の石破政権にも厳しい対峙が求められている。
  • 2027年までの台湾侵攻準備を指示し、海上封鎖を鍵とする。軍事侵攻に加え、威圧と米台離反で28年の総統選を影響下に置き、統一を目指すシナリオも追求。今回の演習は侵略への威嚇として警戒が必要だ。


 中国がまた無謀な軍事行動に出た。台湾海峡の封鎖を想定し、2日連続で大規模演習を実施したのだ。台湾国防部によると、空母「山東」や数十隻の軍艦、海警船が台湾を包囲し、軍用機が中間線を越えた。北東アジアの平和を乱す許されざる行為だ。中国軍は「海峡雷霆―2025A」と名付け、船舶拿捕や港湾攻撃で封鎖能力を検証。映像公開で台湾に圧力をかけた。昨秋も似た演習を行い、今回はトランプ新政権下で初の公表だ。頼清徳政権を牽制し、米国の反応を探る狙いがある。

 日米は抑止力強化を打ち出し、米国務省は「中国の攻撃性が地域と世界を危険に晒す」と非難した。習近平は2027年までに台湾侵攻準備を指示し、海上封鎖を鍵とする。米シンクタンクは、軍事侵攻せずとも威圧と離間で統一を狙うシナリオも指摘。28年の台湾総統選を睨んだ心理戦だ。今回の演習は侵略への威嚇であり、警戒が必要だ。中国は日本の懸念に「強烈な不満」を表明したが、石破政権は毅然と対峙すべきだ。

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【私の論評】中国の台湾封鎖は夢想!76年経っても統一が実現しない理由と西側の備え

まとめ
  • 中国の台湾封鎖は「夢想」:台湾の対艦ミサイル(雄風II・III)、潜水艦(海鯤・剣龍級)、米軍の原潜、台湾の空対空(AIM-120等)・地対空ミサイル(天弓III等)と航空戦力、中国の海上輸送力の限界とASWの弱さ、地理的条件(山岳と狭い海峡)が封鎖を困難にする。
  • 核使用の非現実性:核ミサイルで簡単に終わるという考えは夢想。ウクライナ戦争でロシアは核を使わず3年経過し戦況は膠着し、国際的反発(バイデン警告、RAND報告)を恐れた例が証明。大量の通常ミサイルでも降伏は無理。
  • 陸続きでないことが難易度を高める:台湾と中国は海峡で隔てられ、上陸作戦は補給が命。ウクライナ戦争でのロシアと違い陸で兵を送れず、CSIS報告が「史上最大の水陸両用作戦」と失敗リスクを警告。
  • 76年経っても統一できず:1949年から毛沢東が統一を宣言し、76年経過。歴代指導者の試み(1979年、1995-96年、2019年)も失敗。台湾の抵抗と国際圧力が壁。
  • 準備の必要性:封鎖・侵攻は無理でも、追い詰められた中国の予測不能な行動に備え、台湾と西側は政治・軍事的準備を怠れない。ウクライナの教訓から戦争を防ぎ、戦争になつって早期終結を目指すべき。

夢想する習近平 AI生成画像
中国による台湾封鎖は無謀というよりは「中国側の夢想」に過ぎない。台湾の対艦ミサイル、潜水艦、米軍の攻撃型原潜、中国の海上輸送力の限界、台湾の空対空・地対空ミサイルと航空戦力、中国の対潜水艦戦(ASW)の弱さ、台湾の地理的条件からいってそういえる。
軍事に疎い奴が「中国が核ミサイルを数発ぶち込めば終わり」と考えるのも夢想だ。それをウクライナ戦争が証明してるし、台湾と中国が陸続きじゃないことが侵攻をメチャクチャ難しくしてる。そして、中国が台湾統一を言い出してから何十年経ってもできてない。それでも追い詰められた中国は何をしでかすかわからないから、台湾と西側諸国は準備を怠っちゃいけない。これを以下に解説する。
まず、台湾海峡を封鎖するには、中国人民解放軍が海上と航空を押さえる必要がある。しかし、台湾の地理がそれを許さないのだ。島は山だらけで、東側は海岸は切り立った崖。西側には平地もあるが、河川が複雑に入り組んでおり、上陸地点は限られている。このブロクでは何度か指摘してきたことだ。上陸は至難の業だ。
日本より狭い島嶼国の台湾だが、最高峰の玉山は日本の富士山の標高を上回る
さらに、台湾海峡は幅130~180kmと狭く、浅瀬と潮流が複雑。大規模艦隊を動かすには窮屈だ。ここで台湾は「雄風II」「雄風III」対艦ミサイルをぶっ放す。射程は150~400km以上。超音速の雄風IIIは迎撃がほぼ無理だ。2023年の台湾国防部報告でも実戦配備済み。中国の艦艇なんてボロボロになる。
潜水艦もヤバい。台湾は2024年9月に国産「海鯤」を進水させ、2025年には就役済みだ。最新の魚雷と機雷を積み、ディーゼル電気推進で音が静か。中国が探し出すのは無理だ。古いタイプの「剣龍級」も改修済みで、2020年代の台湾海軍発表によれば少数でも侮れない。水中で封鎖艦隊や補給線を狙う。中国の肝が冷える。
中国のASW能力は未だ低い。米軍や日本に比べりゃ子供だ。2023年の米国防総省報告でも、対潜機やソナーが足りず、技術も訓練も追いついてない。台湾海峡の浅瀬は雑音だらけで、潜水艦を見つけるのはお手上げだ。台湾の「海鯤」や米軍の原潜にボロ負けだ。封鎖なんて穴だらけだ。
アメリカも黙っちゃいない。インド太平洋にはバージニア級やロサンゼルス級の攻撃型原潜がうろついてる。射程2500km以上のトマホークミサイルや対艦ミサイルをぶち込む準備ができてる。米軍の潜水艦はいつも哨戒中で、台湾海峡にすぐ飛び込んでくる。米国防総省の報告でも実力は折り紙付きだ。米軍が動けば、封鎖線は一瞬で崩れる。
オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真
中国の海上輸送力もボロボロだ。2023年で輸出額3.5兆ドルを支える商船隊はあるが、軍事用の輸送力は足りない。補給艦は10隻程度。2022年の米国防総省報告では、米軍の30隻には及ばない。民間船を引っ張り出しても改造と訓練に時間がかかる。戦場で台湾のミサイルや潜水艦に補給線を切られたら終わりだ。
台湾の空の力も半端じゃない。F-16戦闘機が140機あって、AIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを300~400発持ってる。射程100~180kmだ。AIM-9XサイドワインダーもF-16Vに載ってる。地対空ミサイルは「天弓III」で射程125マイル。弾道ミサイルも航空機もぶち落とせる。パトリオットPAC-3は射程70km、2025年にはNASAMSが台北を守る。射程20マイルだ。国産F-CK-1経国号は50機あって、雄風IIIや「万剣」巡航ミサイルを積む。射程200~400kmで、海も陸も叩ける。中国の航空優勢なんて夢だ。
軍事に疎い奴が言う。「中国が核ミサイルを数発ぶち込めば終わりだろ」と。笑いものだ。ウクライナ戦争がそれを証明してる。2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻した時、核をちらつかせた。だが、2025年4月時点で3年目だ。ロシアは核を使わず、ウクライナは降伏しない。なぜだ?核を使えば、アメリカやNATOが黙っちゃいないからだ。2022年10月、バイデン大統領が「核使用は壊滅的な結果を招く」と警告した。
ロシアは経済制裁でボロボロだ。中国が台湾に核を撃てば、同じ道だ。アメリカは「台湾関係法」で支援を約束してるし、核戦争に発展すれば中国の都市も灰になる。2023年のRAND研究所の報告でも、核使用は国際的反発と報復を招き、中国の経済と政権が持たないと結論づけてる。核で終わりなんて夢想だ。核以外のミサイルを多数用いて攻撃にしても、それですぐに台湾が降伏するはずもない。実際、ウクライナ戦争であれだけロシアがウクライナを攻撃して破壊しても、ロシアは戦争に勝てず、膠着状態だ。これから戦況がどうなっても、ロシアの完全勝利などない。
しかも、台湾と中国は陸続きじゃない。これが侵攻をメチャクチャ難しくしてる。ロシアはウクライナと国境を接してるから、戦車や兵をガンガン送り込めた。2022年のキエフ攻勢では、数百kmの補給線を陸で確保した。だが、台湾は海を隔ててる。幅180kmの海峡を渡るには、船と飛行機しかない。上陸作戦は補給が命だ。中国の補給艦は10隻しかないし、台湾のミサイルと潜水艦に狙われる。陸続きじゃないから、兵力と物資を運ぶのは悪夢だ。2023年のCSIS報告でも、台湾侵攻は「史上最大の水陸両用作戦」になり、失敗リスクがデカいと警告してる。第二次世界大戦末期にも、米軍は台湾に侵攻しなかった。ノルマンディー上陸作戦を上回る史上最大の軍事作戦になることがわかっていたからだ。
中国が台湾統一を言い出したのは1949年だ。中華人民共和国が建国されてすぐ、毛沢東が「台湾は中国の一部」と宣言した。それから76年経つ。2025年の今でもできてない。1979年の「台湾同胞に告ぐ書」で「平和統一」を打ち出し、鄧小平が「一国二制度」を提案した。それでもダメだ。1995年や1996年の台湾海峡危機でミサイルを撃ち込んで脅した。結果はゼロだ。習近平は2019年に「統一は必然」と演説し、2049年を目標に掲げた。それでも進まない。なぜだ?台湾の抵抗と国際社会の圧力だ。76年経っても夢想のままだ。
中華人民共和国成立を宣言する毛沢東(紙をもっている人物) AIでカラー化したもの
国際社会も中国を見放す。台湾封鎖は日本、韓国、東南アジア、アメリカのシーレーンをぶった切る。アメリカは原潜や空母を繰り出す。2022年のペロシ訪台で中国が喚いた時も、世界は冷ややかだった。中国経済は輸出で食ってる。2023年で3.5兆ドルだ。封鎖で自分の首を絞めるなんてアホだ。

中国の軍事力は伸びている。だが、空母や遠洋作戦はアメリカに比べりゃ子供だ。2023年の国際戦略研究所の分析でも、遠洋補給も対潜能力も貧弱だ。台湾の対艦ミサイル、潜水艦、米軍の原潜、空の戦力、天然の要塞のような地理、中国のASWの弱さに耐えられるわけがない。補給線を保つ力も経験もない。潜水艦戦じゃボロ負けだ。
台湾の地理、対艦ミサイル、空対空・地対空ミサイル、潜水艦、空の戦力、米軍の原潜、中国の輸送力の限界とASWの弱さ、核の夢想、陸続きじゃない現実、76年経っても統一できない事実。これを並べると、封鎖も侵攻も無理ゲーだ。「夢想」以外の何ものでもない。だが、威嚇や心理戦は仕掛けてくるのだ。
それでも、追い詰められた中国は何をしでかすかわからない。経済が傾き、政権が揺らげば、ヤケクソでロシアのように無茶をする可能性はゼロじゃない。ウクライナ戦争は膠着状態にいたり、もはやロシアにもウクライナにも勝利はない。しかし、戦争によって失われた一般市民や軍人の命は戻ってこない。台湾も西側諸国も、中国にそもそも戦争させない、仮に起こったにしても、初戦で木っ端微塵に打ち砕き戦争を早期終了させるようにするために、前もって政治的にも軍事的にも準備を怠ってはないけないのだ。
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  まとめ 中国は統一戦線工作部を通じ、政治・教育・メディアに合法的な形を装って浸透し、他国の世論や政策決定を内部から操ろうとしている。 オーストラリアとアメリカは、外国勢力の影響力を可視化・抑制するための法制度(外国干渉防止法、FARA)を整備し、実際に孔子学院の撤退や外国資本...