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2019年3月6日水曜日

米上院、対北朝鮮制裁強化で「ワームビア法」再発議―【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


決裂した第2回米朝会談

先月ベトナムのハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談が決裂してから米国議会で対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化している。

ロイター通信は5日、北朝鮮と取引するすべての個人と企業にセカンダリーボイコットを義務付ける法案が米上院銀行委員会に再び上程されたと報道した。

報道によると、上院銀行委員会に所属する共和党のパット・トゥーミー上院議員と民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員はこの日、「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」を共同発議した。北朝鮮に抑留されて送還後に死亡した米国人大学生のオットー・ワームビア氏を追慕するためワームビアという名前が付けられた。

ブリンクアクトとも呼ばれるこの法案は北朝鮮の挑発が続いた2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過したが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄された。

バン・ホーレン議員は法案再上程と関連、「北朝鮮が核能力を増やそうとしているという指摘が出続けているが米国がだまっていてはならない。2回目の米朝首脳会談が決裂した状況で議会が線を明確に引く必要性はいつになく重要になった」と明らかにした。

法案は北朝鮮政権と取引するすべての海外金融機関と北朝鮮政権を助力するために制裁を回避する個人にセカンダリーボイコットを義務的に課すことを骨子とする。

具体的には、北朝鮮と金融取引など利害関係がある個人と企業の米国内の外国銀行口座を凍結させ、関連海外金融機関の米国内口座開設を制限する措置が法案に盛り込まれた。

また、北朝鮮と合弁会社を作ったり追加投資を通じた協力プロジェクトを拡大する行為も国連安全保障理事会の承認がなければ禁止するようにした。

ただし2017年に法案が初めて発議された時に含まれた「南北経済協力事業開城(ケソン)工業団地再開反対」の条項は除外された。

ホーレン議員は「北朝鮮の石炭、鉄、繊維取引と、海上運送そして人身売買を手助けするすべての個人と企業に強力な制裁を課すよう義務化することで既存の国際法を効果的に執行させることに焦点を合わせている」と説明した。

ワームビア氏の両親はこの日声明を通じ、「この法案に含まれた制裁は金正恩(キム・ジョンウン)とその政権の行動を変えさせる有用な新たな道具を米国に提供するだろう」としてブリンクアクトの再上程を歓迎した。

【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、17カ月間北朝鮮に抑留されて死亡した米国大学生、オットー・ワームビア氏の名を取った対北制裁案が米下院で可決しされたものです。上の記事にもあるように、 2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過しましたが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄されました。

バージニア州立大3年生だったワームビア氏は2016年1月、観光目的で北朝鮮を訪問して体制宣伝物を盗もうとした容疑で17カ月間抑留されたあげく、北朝鮮の拷問により、意識不明の状態で解放されて6日後に死亡しました。

北朝鮮・平壌で、涙ながらに記者会見する米大学生の
オットー・ワームビア氏。(2016年2月29日)

米議会レベルでの対北制裁法は2017年7月末、米上院が北朝鮮の石油輸入封鎖など全方向での制裁を入れた「北朝鮮・ロシア・イラン制裁パッケージ法」可決(8月2日発効)後、さらに推進されたものでした。

既存法は▼北朝鮮の原油・石油製品の輸入遮断▼北朝鮮労働者の雇用禁止▼北朝鮮の船舶と国連対北朝鮮制裁を拒否する国家船舶の運航禁止▼北朝鮮のオンライン商品の取り引きおよび賭博サイト遮断--など全方向での制裁措置が含まれていました。エド・ロイス下院外交委院長(共和党)が「対北朝鮮遮断および制裁現代化法」で発議しました。

「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、既存法の実効性を高めるために北朝鮮との貿易取り引きを助ける金融分野の制裁に焦点を当てたものです。北朝鮮関連企業と取り引きをする外国金融機関、貿易業者と仲介業者などを米国主導の国際金融システムから排除する「セカンダリーボイコット(二次的制裁)」です。

特に、すべての規制を行政府の義務事項に規定するなど制裁の度合いを最高レベルに引き上げました。この法案によると、海外に派遣されている北朝鮮勤労者を雇用した外国企業も金融制裁の対象になります。国連などによれば、現在約5万人の北朝鮮住民が外貨稼ぎのために海外に派遣されており、金正恩政権は彼らの給与のほとんどを没収して年間3億ドル(約340億円)の収益を得ています。

米政治専門メディア「Washington Examiner」はこの法案が結局、北朝鮮との貿易・金融取り引きが最も多い中国をターゲットにしたものと解釈していました。

ワームビア法は、米議会 北朝鮮と取引する人や団体に対して、セカンダリーボイコット(二次的制裁)を義務付ける法案ということです。 米国大統領が 「制裁出来る」 から 「制裁しなくてはいけない」にかわるという事です。大統領の 裁量権がなくなり、法律違反した個人や組織を制裁しなければならなくなるということです。違反した個人や組織と取引した銀行も処罰の対象であり、最悪破綻することもあり得るということです。

例えば韓国軍が瀬取りに関与していた場合、韓国軍や韓国という国家が制裁対象になるということです。それは、中国も同じことです。中国の制裁破りに政府が関与(ほとんどの場合直接、間接に関与)ていた場合、中国政府も制裁対象になるということです。

スティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表
米国では、「ワームビア法」など対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化していますが、それに加えて軍事オプションを求める声も起きていました。

米国務省のスティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表は2018年11月20日、李ドフン韓半島(朝鮮半島)平和交渉本部長との単独会談を行い米韓ワーキンググループ実務陣との全体会議を進める中で、「米朝交渉の推進派も(米国)国内で政治的に追い込まれているうえに、民主党が下院多数党になり、このように時間が流れることを待っているわけにはいかない」との立場を明らかにし、「(米朝対話の)窓が閉められている」という発言をしました。

「窓が閉められている」との表現は過去に緊迫した状況で使われたことがあります。ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2003年1月28日、米国のジョン・ネグロポンテ国連大使が「外交的解決のために開いていた窓が閉められている」と話したましたが、それから約2カ月後(3月20日)に米国はイラクに侵攻しました。

もちろんトランプ政権が北朝鮮の不誠実な態度に反発して直ちに北朝鮮に対する軍事行動を準備する可能性は低いと思われますが、「機会の窓」発言はトランプ政権内部で強硬圧迫論が頭をもたげていることを示唆するもので注目が必要です。

北朝鮮が対話による「核兵器の完全な廃棄」に応じない場合、制裁強化とともに軍事オプションの復活も否定できないです。しかしそうした行動には文在寅政権が必死に妨害することは明らかです。そのために米国はいま、韓国軍を動員しない方法でのミサイル基地破壊と「金正恩除去(レジームチェンジ)」訓練を強化し始めています。

ミサイル基地破壊訓練としては、11月19日に米国ユタ州ヒル空軍基地で史上初のF35A 60機によるミサイル基地破壊訓練「エレファントウォーク」が実施されました。この訓練は、中国やロシアを想定したものだとしていますが、実は北朝鮮のミサイル基地、特には移動式ミサイル発射台を壊滅する訓練でした。

014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」

金正恩除去作戦も同時に準備されています。在日米軍基地を活用した韓国軍を使わない「斬首作戦体制」の構築です。そのために上陸用強襲揚陸艦「ワプス」(1989年就航、41500トン)を2014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」(44900トン)に交代させます。

「アメリカ艦」は海上上陸作戦用の「ワプス艦」とは違い、特殊部隊含む海兵隊と輸送機オスプレイ、スーパーコブラ戦闘ヘリ、重量輸送ヘリのシー・スタリオン(CH-53)、対潜水艦ヘリ、偵察ヘリ、そしてF35Bステルス戦闘機など、空からの潜入に特化した最新鋭武器を搭載しています。

金正恩にオールインした「仲裁者文在寅大統領」の「北朝鮮非核化交渉」での影響力は低下するでしょう。数々の「ウソ連発」で国内的にはすでにレイムダック化していますが、米国に対しても「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」だと伝え、「金正恩が1年以内に非核化すると約束した」などと吹聴したため、韓国パッシングで米朝交渉から排除される可能性もあります。

韓国の民間シンクタンク、峨山政策研究院は12月19日に「2019年国際情勢展望」と題したリポートで「韓国が来年も北朝鮮問題ばかりに集中すれば、北東アジアのパワーバランスが変化する過程で『コリア・パッシング(韓国外し)』が現実化する恐れがある」と指摘しました。

2019年、韓国は「北朝鮮非核化」をめぐって米国と北朝鮮のどちらの側につくのかの選択を迫られることとなるでしょう。

米国の制裁はますます厳しくなりそうです。このままだと北朝鮮はとんでもないことになります。金正恩委員長が核兵器の申告に踏み出すか否か、トランプ大統領が、これまでの核兵器全面破棄の原則を守れるかどうか、2019年朝鮮半島の行方はこの二人の指導者の決断にゆだねられています。


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2017年6月28日水曜日

米国人青年の悲惨な死が日本人拉致事件に与える影響―【私の論評】我が国は拉致被害者奪還作戦を展開できる国になるべき(゚д゚)!

米国人青年の悲惨な死が日本人拉致事件に与える影響

北朝鮮の非人道的な虐待に全米が怒り心頭

16日、北朝鮮・平壌の最高裁で判決後に法廷から出るオットー・ワームビア氏
北朝鮮による拘束からようやく解放された米国人青年が、帰国して間もなく死亡した。6月19日のことである。

この青年の悲惨な死は北朝鮮政府の非人道的な行いを改めて全世界に見せつけた。とくに米国では、トランプ大統領から一般国民まで北朝鮮に対する激しい怒りが沸き起こった。この事件は、日本人拉致事件にも意外な影響を及ぼしそうである。

   深刻な損傷があったワームビア氏の脳

 米国のバージニア大学の学生、オットー・ワームビア氏(22)は北朝鮮の刑務所から解放され、6月12日に出身地の米国オハイオ州の病院に入院した。だが同19日、その若い命が失われた。

 ワームビア氏は2016年1月、北朝鮮を観光目的で訪れ、出国直前に平壌の滞在先ホテルに貼られた政治ポスターを盗んだとして逮捕され、15年の「労働強化」という懲役刑に処せられた。オバマ政権は、北朝鮮の強制収容所に拘束された同氏の解放を水面下で求め、トランプ政権も要求を続けた。

 この6月に入って、北朝鮮政府はトランプ政権の要求に応じた形で、ワームビア氏を解放する方針を米側に伝えた。そして実際に解放したのだが、同氏はその時点ですでに昏睡状態にあった。北朝鮮側が撮影した映像には、長身の同氏が北朝鮮の係官に両脇を支えられ、やっとのことで歩を進める痛々しい姿が収められていた。

 北朝鮮政府はワームビア氏が昏睡状態にある理由を「ボツリヌス菌の感染」と発表した。ボツリヌス菌とは汚染した土壌や食品から生まれる珍しい毒性のバクテリアで、人間の体内に入ると、けいれんや麻痺の重症を起こすという。

 ところが米国の医療機関がワームビア氏の身体を検査したところ、ボツリヌス菌はまったく発見されなかった。その代わり、同氏の脳には数カ所に深刻な損傷があったという。米国側では、脳損傷の原因は、外部からの打撃、あるいは特殊な薬品の注入だとみている。入院から1週間後の6月19日午後、ワームビア氏は昏睡状態のまま病院で死亡した。

   米国の対北朝鮮政策は一段と強固に

 ワームビア氏が死亡すると、米国では、北朝鮮は自分たちの虐待によってワームビア氏の生命に危険が及んだため、あわてて同氏を解放し、昏睡の原因について虚偽の主張をしたのだとする認識が広まった。同氏の両親が記者会見をして、北朝鮮当局による虐待があったと非難したことも国民の怒りをエスカレートさせた。

 トランプ大統領は「北朝鮮当局の残虐な行為を非難する」という声明を出した。議会でも超党派で「北朝鮮の非人道的行為を許してはならない」(共和党のジョン・マケイン上院議員)という糾弾が表明された。

 米国メディアも、ワームビア氏の衰弱しきった画像を繰り返し流し、北朝鮮の責任を追及する論調を打ち出した。

 これまで米国は 基本的に北朝鮮の核兵器開発、ミサイル開発などを非難の対象としていた。しかし、今回ワームビア氏が死亡したことで、北朝鮮の人権弾圧にも批判の矛先が向けられることは避けられない。トランプ政権の対北朝鮮政策は一段と強固になるだろう。

    WSJが日本人拉致事件を詳しく解説

 米国の国政の場では、北朝鮮に拉致された疑いが濃厚な元米国人学生、デービッド・スネドン氏への関心も改めて高まりつつある。スネドン氏は2004年夏に中国の雲南省で北朝鮮工作員に拉致された可能性が高く、現在は平壌で英語を教えているという情報もある。

 米国議会下院は昨年9月、米政府にスネドン氏の本格的捜索を始めることを求めた決議を採択したが、今回のワームビア氏の悲劇によって、スネドン氏捜索の動きは加速するとみられる。

 同時にワームビア氏の死は、米国で「北朝鮮による日本人拉致事件」への関心も高める結果となった。ワームビア氏を不当に拘留し、虐待し、しかも平然と嘘をつくという北朝鮮のやり口が、日本人拉致事件と同様だからである。

 米国大手紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(6月16日付)は「ワームビア氏は帰国したが、他の人たちはまだ帰ってこない」という見出しの記事で日本人拉致を詳しく解説した。

 この記事は、北朝鮮に拉致されたことが確認されている横田めぐみさんの事例を取り上げ、北朝鮮当局が2004年にめぐみさんの「遺骨」の偽物を送ってきた経緯を報じていた。その際、北朝鮮が日本に報告した虚偽の内容は、今回、ワームビア氏の症状について述べた嘘と同様だという。記事では、めぐみさんの母の横田早紀江さんが「ワームビア氏の悲劇に心から同情します」という趣旨の感想を述べたことも報じられた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの同記事は、今後、米国当局が日本との協力を深めて、外国人拉致を含む北朝鮮の人権弾圧への糾弾を強めることを訴えていた。

 他の米国メディアでも、今回の事件を報じながら日本人拉致事件に言及する報道や評論が少なくなかった。米国人青年のこの悲劇は、北朝鮮に今なお拘束されている米国人や日本人の解放を早める契機となるはずである。

【私の論評】我が国は拉致被害者奪還作戦を展開できる国になるべき(゚д゚)!

本日は、特に分析するようなことはしませんが、この事件に関する事柄を以下にまとめておきます。

北朝鮮外務省の報道官はワームビア氏が死亡した日、「ワームビア氏の送還のために北朝鮮を訪問した(米国)医師が、我々が心臓がほぼ止まったワームビア氏を救って治療したことを認めた」とし「ワームビア氏が死亡したのは労働教化中の拷問と殴打を受けたためという事実無根の世論が広まっていることについて、彼らは話す言葉があるはず」と述べています。

続いて「ワームビア氏が生命指標が正常な状態で米国に戻った後1週間も経たずに急死したのは我々にも謎だ」とし「今回の事件による最大の被害者は我々(北朝鮮)だ」と主張しました。さらに「彼が米国に戻るまで誠意を尽くして治療した」と強調しました。

一方、この日の共同通信によると、チェ・ソンリョン拉致被害者家族会代表が「平壌(ピョンヤン)の消息筋から得た情報」とし「ワームビア氏が出国しようとした日、ホテルの部屋で荷物を整理しながら靴を労働新聞に包んだが、ここに金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の写真が載っていた」と主張しました。チェ代表は「金正恩委員長の写真に土がついたためワームビア氏が拘束されたと聞いた」と話しました。

6月13日にシンシナティ大医療センターに運ばれたワームビアさん。医師らは15日、意識不明の状態で、脳に重い損傷があると発表しました。

北朝鮮が送ってきた脳の画像は昨年4月のもので、損傷はその数週間前に起きた可能性が高いといいます。

北朝鮮側は、ワームビアさんがボツリヌス菌に感染し睡眠薬を服用して、昏睡状態に陥ったと説明。ところが、診断した同医療センターの医師らはボツリヌス菌は検出されなかったと述べました。

父フレッドさんは15日に記者会見で憤りました。「ボツリヌス菌や睡眠薬で昏睡状態になったという説明は信じない。たとえ信じたとしても、どんな文明国家にも、これほど長く息子の容体を隠し、最新の医療を受けさせなかったことに正当な理由はない」

父フレッド・ワームビアさん=6月15日、オハイオ州
19日に家族が発表した声明はこう結ばれています。

「6月13日夜、オットーがシンシナティに戻ったとき、話すことも、見ることも、言葉に反応することもできませんでした。非常に心地が悪いようでした。苦悶しているかのような。息子の声を聞くことはもうありませんが、1日で息子の顔つきは変わったのです。安らかになりました。故郷に戻り、それを感じたのだと思います」

「息子とその家族を思い、祈ってくださった世界中の皆様に感謝いたします。私たちも、ふるさとに心穏やかにおります」

北朝鮮の法定で礼をするワームビア氏
米国の数多くの旅行会社が、北朝鮮旅行の取り扱いを止めたと発表しました。また先月、米国の共和党および民主党議員らは、米国人による観光を目的とした北朝鮮渡航を禁止する法案を提出しました。なぜなら北朝鮮との緊迫した関係により、政治的理由で米国人が拘束される危険性があるからです。

トランプ大統領は就任以来、北朝鮮に対する圧力を強化する意向を何度も表しています。トランプ大統領は、北朝鮮のほぼ全ての貿易額を占める中国に対し、北朝鮮経済へのサポートを拒否するよう呼びかけ、説得しました。なぜならオバマ前政権の「戦略的忍耐」政策は、効果がなかったと考えられているからです。

米国が、北朝鮮観光を手配する個人及び団体に対して再び制裁を発動する可能性も十分あります。なお、法的観点から見てそれは非常に困難であるものの、北朝鮮観光を手配する個人及び団体の多くは中国、英国、米国に拠点を置いています。

一連の専門家らは、対北朝鮮制裁は機能しておらず、北朝鮮がさらに軍備増強と攻撃的な方向へ向かうよう挑発し、状況を悪化させているだけだとの見解を示しています。

在りし日のワームビア氏
北朝鮮で長期間拘束された米国人大学生、オットー・ワームビア氏(22)が死亡した問題で、日本人拉致被害者の家族や関係者からは、米国世論が喚起され北朝鮮への圧力が高まるとの見方が出る一方、「早期解決に直結しない」「最後は日本政府の取り組みが重要だ」との声も上がりました。

救う会」の西岡力会長は、米国では核・ミサイル問題に関心が集中していると指摘。中国で北朝鮮工作員に拉致された疑いがあるデービッド・スネドンさん=失踪当時(24)=の事案もあるが、拉致問題全体への認識は皆無で「米国で関心が高まるきっかけになれば」と語りました。

北朝鮮は最近、人権問題をめぐる国際刑事裁判所への提起など国際的批判に神経をとがらせ、治安当局にも逮捕者の適正な処遇などを周知しているといい、ワームビア氏については「重症化したため、『拷問死』などの批判をかわすため焦って帰した」と分析しています。



また、米国が今回の問題で早期に軍事行動などの強硬手段に出る可能性は低いとした上で、「米国は自国民を救い出したが厳しい結果になった。日本人の被害者にも猶予はない」と救出への取り組み加速を訴えました。

家族会代表で田口八重子さん(61)=拉致当時(22)=の兄、飯塚繁雄さん(79)は「拉致問題で米国が日本とともに具体的行動をすぐ取るとは思えないが、捕らわれた国民がいるという部分で同じだ。進展の可能性があるかもしれない」と話しました。

私として、日本の拉致被害者問題のほうが、今回のワームビア氏の事件よりもより一層深刻だと思っています。

なぜなら、ワームビア氏は自らツアーで北朝鮮に出かけ上で、このような悲惨な目にあっています。しかし、日本の拉致被害者はそうではありません。日本で、普通に暮らしていたにもかかわらず、拉致され北朝鮮に強制的に連行されているのです。

ワームビア氏の場合は、今回のようにはっきりと目にわかる形で北朝鮮から戻ってきて死亡しました。日本の拉致被害者も、北朝鮮でどのような目にあっているかなど全くわかりません。

半島情勢が緊迫する今になっても、拉致被害者・特定失踪者の救出が国家的なテーマになることもありません。彼ら彼女たちは、不法上陸した戦闘工作員に拉致され、30年以上も拘禁状態に置かれているのです。

例え、金正恩が木っ端微塵になり、北の核とミサイルが処理されても、拉致被害者を奪還できなけば、我が国は朝鮮有事で大敗を喫したに等しいです。米国と協力するしないは別にして、少なくとも、我が国は拉致被害者奪還作戦を独力で展開できる国にならなければ、まともな独立国とはいえません。

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2017年11月19日日曜日

【北朝鮮危機】朝鮮半島の最悪シナリオに備えよ 「中国が実質的に支配」なら日本は脅威を直接受けることに―【私の論評】中国が北実効支配なら習近平は寝首をかかれる(゚д゚)!

【北朝鮮危機】朝鮮半島の最悪シナリオに備えよ 「中国が実質的に支配」なら日本は脅威を直接受けることに

米中の「二大大国の覇権争い」で朝鮮半島の危機を考えたとき、日本はどう動くべきか
 朝鮮半島の危機は、単なる日米韓と北朝鮮の枠組みでとらえるのではなく、米国と中国という「二大大国の覇権争い」という構図の中で考えるべきである。例えば、北朝鮮に対する米国の先制攻撃のみならず、中国の先制攻撃の可能性も考える必要がある。

 なぜならば、自国との国境付近で核実験を繰り返し、習近平国家主席の顔に泥を塗る行為を繰り返す北朝鮮に対し、中国は激怒しているはずだ。そして、米軍の攻撃が成功し、その影響力が朝鮮半島全域に及ぶことを、中国は避けたいと思うからだ。

 中国の人民解放軍が北から北朝鮮を攻撃し、南から米韓連合軍が攻撃する案は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を排除する目的のためであれば、米中双方にとって悪い案ではない。今後、朝鮮半島を舞台とした米中の駆け引きが注目される。

 ここで、朝鮮半島をめぐる将来シナリオを列挙してみる。

 (1)現在と変化なく、韓国と北朝鮮が併存する。

 (2)朝鮮半島に統一国家が誕生する。このシナリオには2つのケースがあり、北朝鮮が主導する統一国家が誕生するケースと、韓国が主導する統一国家が誕生するケースだ。両ケースとも、米軍は朝鮮半島から撤退せざるを得ないであろう。

 (3)中国が実質的に朝鮮半島の一部または全域を支配する。このシナリオには2つのケースがある。中国が北朝鮮のみを実質的に支配するケースと、朝鮮半島全域を実質的に支配するケースだ。このシナリオでは人民解放軍がその支配地域に駐留することになる。米軍が韓国に残る場合は「北朝鮮のみを中国が実質的に支配するケース」であり、米軍と人民解放軍が38度線で直接対峙(たいじ)することになる。

(4)米国が朝鮮半島を実質的に支配するシナリオも考えられるが、民主主義国家である米国が採用する案ではないので削除する。

 以上の各シナリオに対し、日本の安全保障はいかにあるべきかを分析すべきだ。最悪のシナリオは「朝鮮半島全域を中国が実質的に支配し、中国の人民解放軍がその支配地域に駐留する」シナリオだ。

 この場合、日本は中国の脅威を直接受けることになり、この脅威に対処するためには、現在の防衛態勢を抜本的に改善する必要がある。

 いずれにしろ、北朝鮮の「核・ミサイル」の脅威は目の前にある現実の脅威であり、これに確実に対処する一方で、朝鮮半島の将来を見据えたシナリオに基づく日本の国家安全保障戦略を構築し、それに基づき防衛態勢を整備することが急務である。

 ■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『米中戦争そのとき日本は』(講談社現代新書)など。

【私の論評】中国が北実効支配なら習近平は寝首をかかれる(゚д゚)!

中国が北朝鮮を攻撃し、中国が実質的に朝鮮半島の一部または全域を支配する可能性については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、正恩氏排除を決断か 人民解放軍が対北参戦の可能性も…軍事ジャーナリスト「黙ってみているはずがない」―【私の論評】中国の北朝鮮への侵攻は新たな火種を生むことに(゚д゚)!
失脚した元人民解放軍トップ郭伯雄氏
この記事を理解するためには、まずは以下のような事実を知っていなければなりません。
人民解放軍は「国家の軍隊」ではなく、共産党の私兵です。そもそも、中国には普通の国でいう、軍隊は存在しないのです。
中国人民解放軍女性兵士?彼女らは、総合商社の一員でもある\(◎o◎)/!
人民解放軍は日本でいえば、商社のような存在であり、実際中国国内外で様々なビジネスを展開しているという事実です。そのような存在でありながら、武装もしており、いわば武装商社のような存在です。そうして中には核武装もしているという異常な組織です。
人民解放軍にはさらなる弱点もあります。中国政府が1970年代から進めた一人っ子政策で誕生した「一人っ子軍人」です。兄弟姉妹のいない環境で過保護に育てられた別名「小皇帝」が軍内部で増加。有事でまともに戦えそうにない“本性”を、災害派遣などの場面でさらしているといわれています。巨大な軍は、実は内部崩壊を招きかねない深刻な事態に直面しているのです。 
さて、このような事実を前提に、この記事にはもし人民解放軍が北朝鮮に侵攻すれば、さらなる火種を生み出すことになることを掲載しました。その部分を以下に引用します。
このような軍とは呼べないような武装組織である、人民解放軍がまともに戦えるとは思えませんが、まかり間違って北朝鮮に攻め込み、北朝鮮に進駐することにでもなれば、それこそ目もあてられない状況になります。北朝鮮は人民解放軍の不正の温床になるだけです。それどころか、金目のものといえば、武器、核兵器、核関連施設だけの北朝鮮と言っても良いくらいなので、これらを海外に売却するということもやりかねません。

かえって、治安を悪化させ、次の戦争の火種を生み出すことになりかねません。米国であろうが、中国であろうが、特に地上戦で北朝鮮を打ち負かした後に、少なくと50年くらい軍隊を進駐させて、民主的な政権を樹立して、自分たちで国を収めることができるように監視を続ける覚悟がなければなりません。

中国の人民解放軍にはそのような覚悟は最初からありませんし、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家化もされていない中国の人民解放軍にはそれはできません。それこそ、腐敗の温床になるだけです。
これをご覧いただければ、北朝鮮に中国が侵攻して、朝鮮半島の一部(現在の北朝鮮に相当する部分)、あるいは朝鮮半島一部に進駐することになれば、とんでもないことになることは明らかです。

一人っ子が多い、武装商社である中国の人民解放軍は、韓国まで攻め込んで一挙に半島を統一して統治するようなことは、ほとんど無理だと思います。しかし、北朝鮮侵攻ということはあり得ない話ではないので、仮に中国が北朝鮮に進駐したとなると、現在の北朝鮮は紛争の絶えない地域になることが考えられます。

まずは、中国が侵攻したことで、北朝鮮の経済も中国のようにある程度は良くなるかもしれません。特に、中国が得意のインフラ整備を行えば、それなりに経済成長するかもしれません。

しかし、中国は他の先進国のように、これをさらになる地域の発展に結びつけるようなことはできず、中国国内のように富裕層だけが潤い、その他大勢の一般の人民は、旧北朝鮮のときと同じ程度の生活水準から抜け出ることはできないでしょう。

これが不満をよび、さらに外国に支配されているということでこれがさらに朝鮮族の不満を呼ぶでしょう。そうして、これから北朝鮮内で紛争が絶えない地域になってしまう事が考えられます。

そうして、この地域に投入される人民解放軍は、大部分は瀋陽に本拠をおく軍制改革後も、《北部戦区》と名前を変えたに過ぎず、今もって「瀋陽軍区」のままの戦区からの人民解放軍ということになると考えられます。この瀋陽軍区にも着目すべきです。



この瀋陽軍区は特に中国人民解放軍の中でも、最精強を誇り、機動力にも優れています。

朝鮮戦争(1950~53年休戦)の戦端が再び開かれる事態への備え+過去に戈を交えた旧ソ連(現ロシア)とも国境を接する領域を担任する旧瀋陽軍区には、軍事費が優遇され、最新兵器が集積されています。

大東亜戦争(1941~45年)以前に大日本帝國陸軍がこの地に関東軍を配置したのも、軍事的要衝だったからです。

習国家主席は、北京より平壌と親しいとされる「瀋陽軍区」によるクーデターを極度に恐れているといわれています。「瀋陽軍区」高官の一族らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しています。

これは、「瀋陽軍区」が密輸支援する武器+エネルギー+食糧+生活必需品や脱北者摘発の見返りです。北朝鮮の軍事パレードで登場するミサイルや戦車の一部も「瀋陽軍区」が貸している、と分析する関係者の話もあります。

もっと恐ろしい「持ちつ持たれつ」関係は核・ミサイル製造です。中国人民解放軍の核管理は《旧・成都軍区=現・西部戦区》が担い「瀋陽軍区」ではありません。「瀋陽軍区」は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいのですが、北京が警戒し許さないのです。

ならば、核実験の原料や核製造技術を北朝鮮に流し、または北の各種技術者を「瀋陽軍区」内で教育・訓練し、「自前」の核戦力完成を目指すということも考えられます。

実際、2016年、中国の公安当局は、瀋陽軍区→北部戦区の管轄・遼寧省を拠点にする女性実業家を逮捕しました。高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリーなど大量の通常兵器の関連部品を北朝鮮に密かに売りつけていたのです。戦略物資の(密輸)重油も押収されました。

しかも、北の核戦力は日米ばかりか北京にも照準を合わせている可能性があります。

その理由は以下のようなものです。
(1)北京が北朝鮮崩壊を誘発させるレベルの対北完全経済制裁に踏み切れば、最精強の「瀋陽軍区」はクーデターを考える。
(2)他戦区の通常戦力では鎮圧できず、北京は旧成都軍区の核戦力で威嚇し恭順させる他ない。
(3)「瀋陽軍区」としては、北朝鮮との連携で核戦力さえ握れば、旧成都軍区の核戦力を封じ、「瀋陽軍区」の権限強化(=対北完全経済制裁の中止)ORクーデターの、二者択一を北京に迫れる。
習国家主席が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れていますが、「瀋陽軍区」を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できぬだけでなく、「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもあります。

「瀋陽軍区」が北朝鮮と北京を半ば無視してよしみを通じる背景にはその出自も関係しています。中国は朝鮮戦争勃発を受けて“義勇軍”を送ったのですが、実はそれは人民解放軍所属の第四野戦軍でした。

朝鮮戦争時に韓国内を侵攻した中国軍
当時、人民解放軍で最強だった第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」だったのです。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人もの朝鮮族が居住します。

いわば、「瀋陽軍区」と北朝鮮の朝鮮人民軍は「血の盟友」として今に至っています。金正日総書記(1941~2011年)も2009年以降、11回も瀋陽軍区を訪れています。

北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するには、北と一蓮托生の「瀋陽軍区」を筆頭とする反習近平派人民解放軍を習近平派人民解放軍が掃討しなければ、決着がつかないことでしょう。

2012年氷点下40度の気温のもとで、演習を実施する瀋陽軍区の高射砲部隊
中国は、国内の内戦の危険を抱えているのです。この内戦で逃げ回るのは、「瀋陽軍区」の猛攻を前に恐れをなす習近平派人民解放軍の役どころかもしれないです。

瀋陽軍区の人民解放軍が北朝鮮に侵攻すれば、金ファミリーは実権を失い以前にもこのブログに掲載したように、ロシアが亡命の手助けをするかもしれません。しかし、朝鮮人民解放軍の組織はそのまま残り、瀋陽軍区と北朝鮮軍により、いずれ中国に反旗を翻すことになりそうです。そうして何よりも、瀋陽軍区は北の核兵器を手に入れるのです。

これを考えると、習近平が自らの私兵である人民解放軍を、北朝鮮に送り込むのはかなり難しいです。もし送りこめめたにしても、瀋陽軍区と北朝鮮軍とに挟まれることになり、中国本土からの供給の道が絶たれ、兵糧攻めで崩壊するかもしれません。

かといつて、瀋陽軍区の人民解放軍を送り込めば、北朝鮮の人民解放軍と結託して、それこそクーデターをおこし、逆に北京に攻め込むということも考えられます。

以上のことから、習近平が北朝鮮に人民解放軍を送り込むことは考えにくいし、送るとすれば、それこそ習近平が命脈がつきかけているというサインかもしれません。

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2019年1月12日土曜日

「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱はやっぱり核―【私の論評】韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲った(゚д゚)!

「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱はやっぱり核

2回目の米朝首脳会談に向けて動き出した米中朝の思惑

中国・北京の人民大会堂で、写真撮影に臨む北朝鮮の
金正恩朝鮮労働党委員長夫妻(左)と習近平国家主席夫妻(右)。

 年明け早々の1月7日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。過去1年間に中朝首脳会談は、①2018年3月26日(北京)、②5月7~8日(北京・大連)、③6月19~20日(北京)に開かれており、今回が4度目である。

 昨年は、6月12日にシンガポールで歴史的な米朝首脳会談が開かれたが、その後半年が経つのに、両国関係に際だった進展がないままである。近いうちに第2回目の首脳会談を開催すべく、アメリカと北朝鮮の間で調整が行われている。今回の金正恩の訪中は、その準備のためのものと考えてよい。

核こそが「金ファミリー体制」保障する最大のカード

 朝鮮半島情勢を長年にわたり観察してきた者としては、半年前の米朝首脳会談を境にして従来とは異なる局面が出てきているように見える。それは、北朝鮮のみならず、アメリカ、中国、韓国、ロシア、日本についてでもある。

 建国以来の北朝鮮の国家戦略を振り返ってみると、最優先課題は「金王朝」の継続である。実際に、金日成→金正日→金正恩と、父から息子への権力継承が行われてきた。この点では、同じ共産党一党独裁体制であっても、ソ連や中国の権力継承のあり方とは大きく異なっている。

 体制の維持という最大の目的を達するための第一の方法は、核のカードの活用である。

 金王朝を崩壊させる能力と意思とを持った国はアメリカである。北朝鮮の後ろ盾には中国とロシア(ソ連)がいるが、彼らには、アメリカの攻撃を受けた北朝鮮を救う力はない。そこで、自らの体制を守ろうとするならば、自らアメリカに反撃できる軍事力を持つべきであり、それは核兵器である。アメリカ本土に到達する核爆弾を一つ持つだけで、その効果は計り知れないものがある。そこで、国民の生活を犠牲にしても核開発に力を注いできたのである。

 実はこの発想、フランスのドゴール大統領に似ている。米ソ冷戦下で、フランスがソ連から核攻撃を受けたら、アメリカはソ連に対して報復の核攻撃を行ってくれるか。ドゴールの答えは、「ノン(否)」である。アメリカはパリのためにワシントンDCを犠牲にはしない。フランスがモスクワに到達する核を持つことによってしか、ソ連の核から身を守ることはできない。それがドゴールの出した結論だった。

 金ファミリーも同様な核思想を持ち、それは期待以上の効果を生んだ。核開発というカードを活用すれば、開発中止の代価として経済協力を得ることができるからである。「米朝枠組み合意」がその典型である。

 北朝鮮は、1993年に核拡散防止条約(NPT)から脱退し、核開発を進めたため、国際社会は何とか話し合いで北の核開発を終わらせようと努力した。その結果、1994年10月21日に米朝間で「米朝枠組み合意」が締結された。北朝鮮は核開発プログラムを凍結する見返りとして、黒鉛減速炉から軽水炉への転換支援と毎年50万トンの重油供給を受けることが決まった。その実行組織として、米韓日などが参加して朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が組織された。その結果、北朝鮮はNPTに残留することを決める。

 しかし、2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮プログラムを進めているという疑惑が浮上し、2003年1月には北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)からの再脱退を決めた。この年12月にはKEDOは軽水炉の建設工事を中断し、2006年5月には軽水炉計画は完全に中止されたのである。

金正恩から見たら「アメリカは約束違反」

 短命に終わったこの「米朝枠組み合意」の歴史は、アメリカにとっても、北朝鮮にとっても快いものではなかった。しかし、「核というカードがいかに有効なものであるか」を北朝鮮は十分に認識したのである。

 そこから、アメリカ本土を核攻撃する能力を持つために、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発に全力をあげる。そして、度重なる実験の結果、その実現間近まで行ったところで、米朝首脳会談という運びになったのである。北朝鮮のような小国が世界一の大国アメリカと対等の立場で首脳会談ができるのは、「核兵器のお陰」なのである。

 したがって、北朝鮮は、然るべき見返りがないかぎり、核開発を容易には放棄することはないと考えたほうがよい。

 体制維持のための第二の方法は、アメリカのみを相手にするということである。中国やロシアは支援してくれる兄貴分であり、日本や韓国はアメリカの手下である。北朝鮮は、アメリカと話をつけることができれば、体制は維持できると考えている。日韓両国は、経済的な協力を得られるかぎりにおいて付き合うが、それ以上に期待することはない。

 祖父や父が推進してきたこの姿勢を金正恩も踏襲しているが、問題なのは、米朝首脳会談を行ったにもかかわらず、1994年の米朝枠組み合意のようなメリットがまだ何も現れてこないことである。

 北朝鮮の最大の不満は、核実験もミサイル発射も中止しているのに、制裁解除がないことである。昨年6月の米朝首脳会談では、アメリカは「一括、即座の非核化」という要求を、北朝鮮に譲歩し「段階的非核化」で決着させた。金正恩にしてみれば、非核化が段階的ならば、制裁解除も段階的でよいはずである。

 米朝首脳会談後の共同声明では、非核化については、「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」と記されている。しかし、アメリカが要求するCVIDのうち、V(検証可能な)やI(非可逆的な)については一切言及がない。しかし、トランプ政権は、CVIDが実現しなければ、制裁解除はないと言い続けている。

 金正恩はこれを約束違反と判断しても不思議ではない。そこで、1日の「新年の辞」で、「制裁を続けるなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と述べて、アメリカを牽制したのである。

新年の辞を伝える北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長

韓国ソウルの鉄道駅のテレビに流れた、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長による新年の辞を伝えるニュース映像(2019年1月1日撮影)。(c)Jung Yeon-je / AFP〔AFPBB News

 昨年6月の共同声明では、「トランプ大統領は、北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束した」とあるが、金正恩は、これで本当に金王朝の継続がアメリカに認められたとは思っていないであろう。

北朝鮮が習近平の「対米交渉カード」になる可能性も

 このような北朝鮮側の不満と不安に対して、来たるべき第2回目の米朝首脳会談でトランプはどこまで金正恩に「お土産」を渡すことができるのであろうか。

 金正恩は、訪中して習近平と会談し、「非核化の立場を引き続き堅持し、対話を通じて問題を解決する。2回目の米朝首脳会談が、国際社会が歓迎する成果が得られるよう努力する」と強調した。これに対して、習近平は、非核化を目指す北朝鮮の立場を支持すると表明した。制裁緩和については、「米朝が歩み寄ることを望む」、「北朝鮮側の合理的な関心事項が当然解決されるべきだ」と述べている。

 しかし、米中は国際社会で熾烈な覇権争いを展開しており、中国がどこまで北朝鮮の後見人として振る舞えるか疑問である。むしろ、米中摩擦の緩和のために、北朝鮮をカードとして使い、金正恩に「見返りなしの非核化」を求める可能性もある。

 アメリカの研究機関は、衛星写真の解析から北朝鮮がウラン濃縮を再開していると判断している。北朝鮮の非核化、経済改革などの目的は、すぐには達成されそうもない。

【私の論評】韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲ってしまった(゚д゚)!

「金王朝」死守したい金正恩の頼みの綱としての核という考えは別にして、北朝鮮国内には非核化に反対する勢力が存在し、金正恩朝鮮労働党委員長が国内の権力闘争に生き残りつつ非核化にこぎ着けるのは「極めて困難」だと考えられます。

そのような勢力は北朝鮮に間違いなく存在します。それを理解するには、北朝鮮経済の現代史や韓国の歴史を知る必要があります。

北朝鮮の経済はかつて、社会主義的な「計画経済」一辺倒でした。国民の生活に必要なモノの種類と量を国家が決定し、工場や農場に生産を指示。出来上がったモノを国民に配給するというものでした。

ところが、このシステムは1990年代に崩壊してしまう。北朝鮮を経済的に支えていた旧ソ連・東欧の社会主義圏が消滅し、さらには数十万単位の人が餓死したと言われ大飢饉「苦難の行軍」に襲われたからです。

中学生くらいの少女が露天の食堂で客の食べ残しに手を伸ばしている。
1999年12月咸鏡北道の清津市にて撮影キム・ホン(アジアプレス)

これにより、国民を養えなくなった国家は、人々がそれまで禁じられていた「商売」に乗り出すのを黙認するようになりました。北朝鮮の人々の生存本能は、金儲けの楽しさを知るのとともに「商魂」へと変じ、国の経済をなし崩し的に資本主義化させてしまったのです。

「苦難の行軍」が発生した当初、人々が売ったのは衣類や家財道具などのなけなしの財産でした。それを売り払ってからは、やむなく売春に走る女性たちもいました。

ところが今では、資本家と呼べる人々まで登場しています。たとえば、中国との小規模な密輸で原資を蓄え、そのカネをエネルギー不足で開店休業状態の国営工場に投資。海外から燃料と発電機、原材料を輸入し、中国企業からの委託生産で大規模な輸出を行う――といったパターンです。

しかしこれも、国家の力が弱まったからこそ可能になったことです。非核化によって経済制裁が解除され、韓国や中国から大規模な経済支援が行われたら金正恩体制がパワーを取り戻し、強力な中央集権に回帰してしまうことになります。

これが、現在の北朝鮮経済で既得権を握る高官や富裕層の心配事なのです。

だからこそ、金正恩はすぐに非核化に走ることができないのです。これを前提として、現状をみまわすと、朝鮮半島の独立を中国からの独立を守っているのは実は北朝鮮の核であり、韓国ではないという皮肉な結果になっています。無論、これは金正恩や、北の高官や富裕層が期せずしてそうなっています。

そうして、これは何も北朝鮮の核保有を認めよなどと言っているわけではありません。しかし、現状、北朝鮮がすぐに非核化をすすめた場合、朝鮮半島は中国に飲み込まれてしまう可能性が大です。

そもそも、韓国は自ら独立を勝ち取った経験などなく、歴史的に中国や日本、米国の支配下に置かれてきた経緯からみても自国の防衛や独立に関心がないです。
中国に抵抗しようという気もありません。

最近の海自哨戒機へのレーダー照射事件をみても、韓国は本気で中国と対峙しようという考えがあるなら、そもそもあのようなことはしないし、したとしても早期に解決したでしょう。韓国は、中国の覇権に対抗するための国際連携の一員に加わることはできません。



もし、韓国が自らの独立に関心があるのであれば、在日米軍基地がある日本に安全保障を全面的に依存しているのに、日本と無用ないさかいを起こしたりはしないはずです。韓国が反日であるということは、韓国が本質的な外交政策に関心がないことを意味するものとみなすべきです。

日本との関係や米韓同盟をないがしろにする形で北朝鮮との融和政策を進める韓国の文在寅政権は、これまで米国に保護されていたのを中国に保護してもらうよう打算的に移行しているにすぎないです。

朴槿恵時代から、中国に急速に接近した韓国は中国の朝鮮半島浸透の防波堤の役割を北に譲ったも同じです。

結果として、北朝鮮の核保有は北朝鮮の独立を保証すると同時に、中国の影響力を朝鮮半島全土に浸透させることも防いでいます。米国にとって、朝鮮半島が南北に分断され、北朝鮮が核を保有している現状が中国をにらみ望みうる最善の状態です。

おそらく、トランプ政権も最近では、そのようにみているのでしょう。ただし、米国が北朝鮮を核保有国として認めることは、永遠にないでしょう。今すぐではないにしても、いずれ非核化したいと望んているのは間違いないです。だからこそ、現在は、この均衡を崩さないようにしつつ、対中国冷戦Ⅱを発動しつつ、北に対する制裁も同時に実行しているのです。

この均衡が崩れるのは、どのような場合かというと、北がまたミサイル発射実験を頻繁に行うようになるか、実際に核兵器を使用してしまうこと、中国が、朝鮮半島を自国に併合するために実行動をすること、その他ロシアや韓国の動きなどが考えられます。

今のところ、このような動きはみられず、現状は絶妙なタイミングで、均衡しています。米国としては、ここしばらくこの均衡を崩さないようにして、様子を見ることでしょう。均衡が敗れれば、米国は何らかの行動をするでしょう。その中には当然のことながら、北朝鮮への武力行使などのオプションも含まれているはずです。

逆にいうと、この均衡が続く限りは、北朝鮮に対して、米国は目立った動きはしないということです。今年はそのような状況が続くかもしれません。

この均衡が続くことを前提として、米国の対中冷戦Ⅱが継続し、中国が体制を変えるか、経済力が現在のロシアなみ(GDPで韓国を若干下回る)に弱った場合、北と米国の本当の交渉が始まることでしょう。その日は、今から10年後かもしれないですし、ひょっとすると20年後かもしれません。

ただし、いずれの国であれ、この均衡を破りそうなときには、軍事オプションを含め、米国は何らかの動きをするのは間違いないでしょう。

金正恩も、当然のことながら、この均衡を崩さないことを前提にしつつ、少しでも自らに有利になるように立ち回ることでしょう。

第二回米朝首脳会談において、その方向性をうかがうことができるかもしれません。

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2022年11月5日土曜日

北朝鮮が黄海へ短距離弾道ミサイル4発、米軍は戦略爆撃機を展開―【私の論評】北が黄海にミサイルを発射したのは、朝鮮半島浸透を狙う中国を牽制するため(゚д゚)!

北朝鮮が黄海へ短距離弾道ミサイル4発、米軍は戦略爆撃機を展開

4月15日、平壌の金日成広場で行われた市民パレードに登場した巨大な北朝鮮国旗

 韓国軍合同参謀本部は5日、北朝鮮が同日午前11時32分~同59分ごろ(日本時間同)、北西部の東林(トンリム)付近から朝鮮半島西側の黄海に向けて短距離弾道ミサイル4発を発射したと発表した。北朝鮮は米韓の軍事訓練に反発し、前例のない頻度で連日、弾道ミサイル発射や砲射撃といった軍事的挑発を繰り返している。

 韓国軍はまた、5日まで米軍と韓国周辺で実施中の合同航空訓練「ビジラント・ストーム」に米空軍の戦略爆撃機B1Bを2機投入したことも明らかにした。B1Bを朝鮮半島周辺に展開させるのは2017年12月以来、約5年ぶり。

 北朝鮮はこれまでも米戦略兵器の展開に強く反発してきており、今回の発射は戦略爆撃機の投入を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

【私の論評】北が黄海にミサイルを発射したのは、朝鮮半島浸透を狙う中国を牽制するため(゚д゚)!

黄海とは具体的にどこなのか、以下に地図を示します。


北朝鮮にとって、黄海の対岸は中国です。黄海に向けて、ミサイルを打つということは中国に向けてミサイルを打つということです。

韓国軍は、北朝鮮が2日午前、東部から日本海に向けて短距離弾道ミサイル3発を発射し、このうち1発が分断後初めて国連軍が設定した海上の境界線を越えて落下したと発表しました。

北朝鮮は、この3発を含めさまざまな種類のミサイル合わせて10発以上を日本海と朝鮮半島西側の黄海に向けて発射しています。何発なのかはわかりませんが、北朝鮮はこの日も黄海に向けてミサイルを発射しているのです。

北朝鮮はロシアに向けてもミサイルを発射したことがあります。今回は、発射はしていないようです。

黄海に向けて、北朝鮮がミサイルを発射することの意味は何なのかということは以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮、SLBM発射兆候も確認“核実験へ向け軍事的挑発の段階高める”との見方も―【私の論評】これから発射されるかもしれない北朝鮮のSLBMのほうが、日本にとってはるかに現実的な脅威に(゚д゚)!

2014年金正恩第1書記が、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)のロメオ級潜水艦を視察

この記事は、10月4日のものです。この記事より一部を引用します。 

北朝鮮の核はSLBMも含めて、北京など中国も標的にしているということです。北朝鮮に核が存在することと、北朝鮮が朝鮮半島に存在するということ自体が、中国が朝鮮半島に浸透することを防いできたという面は否めません。金王朝は明らかに、朝鮮半島が中国に浸透されることを嫌がってきました。中国に近かった金正男氏の暗殺は如実にそれを示しています。

北朝鮮が存在しなければ、中国はずっと以前に、朝鮮半島を中国に併合し、中国の朝鮮省か、自治区にしたことでしょう。少なくとも半島全体に深く浸透していたことでしょう。朝鮮半島に中国傀儡政権が誕生していたかもしれません。

中国は常に北朝鮮の核を「暗黙の了解」で庇ってきました。しかし、庇ってきた背景には、北の核に対する脅威もあったものと考えられます。米国は北核放棄の条件付で韓国、日本、台湾の「核容認外交カード」を対中国外交カードとして交渉するのが望ましい選択肢ではないでしょうか。中国にとって一番怖いのは日本の核武装だからです。
米国は北核放棄の条件付で韓国、日本、台湾の「核容認外交カード」を対中国外交カードとして交渉するのは確かに理想的ではあります。北が核を放棄したとしても、韓国、日本、台湾が核武装すれば、それは中国を牽制し、中国が朝鮮半島に浸透することを牽制できます。

ただ、北朝鮮は簡単には核を放棄しないでしょう。北が民主化すれば、米国は北を守るでしょうが、そうでなければ、守らない可能性のほうが大きいです。だとすれば、金王朝を守ることを使命としている金正恩は、中国の浸透をおそれ、やはり核ミサイル開発を放棄しないでしょう。

国連安全保障理事会は4日、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射を受け、緊急の公開会合を開きました。中国とロシアを除く13カ国が非難や懸念を表明したましたが、中ロは北朝鮮擁護の姿勢を堅持。声明発出など安保理は一致した行動を取れませんでした。

ロシアは、現状ではウクライナで手がいっぱいです。中国も米国との対立や国内の経済の悪化などで、手がいっぱいという状況です。

そのため、北がミサイルの発射をすることを養護していますが、ロシアは軍事的にも経済的にも落ちていく一方ですが、中国はまだ余力があります。

北が核ミサイルを放棄するようなことでもあれば、すぐに北朝鮮への浸透を開始するでしょう。

米国は北は核ミサイルを放棄することはないとみているでしょう。それを承知の上で、空母や攻撃型原潜や死の白鳥とも呼ばれるB1Bを派遣して、北朝鮮を牽制しています。

米国としては、北朝鮮を牽制しているとみせて、中国に対する牽制もしているとみるべきでしょう。

それは、台湾有事もありますが、朝鮮半島への中国の浸透への牽制という意味もあるでしょう。

多くの人は、台湾有事を差し迫ったものと考えているかもしれませんが、私としては、朝鮮半島有事もそれと劣らずあり得る危機だと思います。

米国は、北が核ミサイルをすぐに放棄するようなことがあれば、それこそウクライナにロシアに侵攻したように、北朝鮮も中国に侵攻される可能性があると考えているでしょう。

そうなると、ロシアがウクライナに侵攻して苦戦しているようなことにはならず、中国はすぐにも北を打ち負かすことになるでしょう。そうなれば、朝鮮半島はすぐに中国の手に落ちることになります。

米国は、北に核ミサイルを放棄させるにしても、それによって中国に浸透されないようにするため、ある程度時間が必要だと考えているでしょう。

だとすれば、日本は北の脅威に対して自らも対処できる体制を整えるべきです。すぐに核武装とはいかないまでも、少なくとも長距離ミサイルを配備し、北の脅威に備えるべきです。そうして、それは中国に対する牽制にもなります。

日本は長距離ミサイルを開発する能力はあります。実際に、現行の中距離ミサイルを改良し長距離ミサイル(12式改ミサイル)を開発し実戦配備する計画があります。

10月19日、井野防衛副大臣 は三菱重工業㈱小牧北工場を視察し、12式地対艦誘導弾(12SSM)能力向上型をはじめとする誘導弾の開発・製造の状況を確認しました。

 スタンド・オフ防衛能力や総合ミサイル防空能力の構築・強化に向けて、開発・製造態勢の強化を進めていくことは重要です。


ただこの12式改ミサイルを実践配備するまでには、数年間を要します。そこで、そのブランクを埋めるために米国からトマホークミサイルを輸入しようと考えているようです。

これには、バイデン政権も大賛成のようです。なるべく早く実施すべきです。そうして、いずは自前で長距離ミサイルを配備するようにし、国内の防衛産業を育成していくべきです。

ただ、現在検討されている12式改ミサイルは、威力は十分でないという意見もあります。最初はそうであっても、とにかく開発して、その後さらに改良したり、別のものを開発して、北朝鮮とともに中国も牽制できるものにすべきです。

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2017年12月22日金曜日

北朝鮮「兵士亡命」が招く戦争の危機―【私の論評】北朝鮮有事は最悪、北と韓国による米・中・露の代理戦争になり得る(゚д゚)!


北朝鮮兵士
韓国軍合同参謀本部は21日、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の下級兵士1人が韓国に亡命したと発表した。同日午前8時4分ごろ、軍事境界線中西部の非武装地帯(DMZ)で、韓国軍見張り所に向かってきたという。

先月13日に北朝鮮軍兵士が銃撃を受けながら亡命した事件から間もないだけに、緊張を誘うニュースと言える。

今回は銃撃もなく、その後も北朝鮮側に目立った動きはないというが、このような出来事が続けば不測の事態も起こりかねない。実際、過去には危機的な状況もあった。

■吹き飛ぶ韓国軍兵士

北朝鮮と韓国は2015年8月、北朝鮮側がDMZに仕掛けた対人地雷により、韓国軍兵士が身体の一部を吹き飛ばされ重傷を負う事件があった。その背景にあったのが、北朝鮮軍兵士の相次ぐ亡命である。

DMZでは近年、今回のように北朝鮮兵士が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいる。兵士らが飢えや虐待に苦しむ北朝鮮軍の軍紀びん乱は周知のとおりだが、韓国軍の警備に欠陥があるのも明らかだった。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

DMZに入り込む北朝鮮兵士に対し、韓国軍は必要なら発砲するなりして警告せねばならない。そのようなリスクがあれば、北朝鮮兵士が最前線で脱北するのは簡単ではなかったろう。ところが韓国軍では、亡命兵士が見張り所に入り、見張り所のドアをノックするまで気付かないといった事態が起きていたのだ。

これを受け、おそらく北朝鮮軍は仕方なく、兵士の脱走を防ぐための対人地雷を埋設したのだ。

(参考記事:北朝鮮、軍事境界線付近に地雷埋設か 韓国軍が警戒

ところが不運なことに、この地雷に偵察任務中の韓国軍兵士が接触してしまったのだ。いずれにせよ、DMZでの地雷埋設は明白な休戦協定違反だ。ここから双方は非難の応酬を繰り返し、危機がエスカレートしてしまったのだ。

その過程で韓国軍は、北朝鮮の地雷が爆発し、兵士らの身体が吹き飛ばされる瞬間の動画を公開している。仲間が傷つけられる場面を見た韓国軍将兵や国民の中には、強い復讐心を抱く者も少なくなかった。韓国側は北朝鮮に軍事的圧力をかけ、北側もこれに対抗する動きを見せる。



この時、韓国と北朝鮮はすんでの所で踏みとどまり、話し合いにより危機を回避した。しかし今後、同じような事態が生じた場合に、話し合いで解決できるとは限らない。その後、北朝鮮の核兵器開発が大きく進展し、韓国軍が圧倒的に優位だった2015年8月とは、戦力バランスが変わってきているからだ。

とは言っても、北朝鮮軍兵士の亡命をこちら側から止めることもできない。危機が生じた際、それを安全に乗り越えられるかどうかは、ひとえに韓国と北朝鮮の対応にかかっているのだ。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃


【私の論評】北朝鮮有事は最悪、北と韓国による米・中・露の代理戦争になり得る(゚д゚)!

2017年、北朝鮮兵士による韓国側への亡命はこれで4人目となりました。

直近では11月13日にも、板門店(パンムンジョム)の共同警備区域で北朝鮮兵士が銃撃を受けながら走って亡命し、重傷を負いました。この時の監視カメラの映像を国連軍が公開、世界中で報じられその実態に関心が集まりました。



この兵士は、韓国側による宣伝放送を聞いており、上官による暴力が「耐えられなかった」と話しているといいます。その後、韓国側の治療を受けており、韓国側は宣伝放送でこの兵士の処遇について広報していました。

また、兵士以外の亡命も相次いでいる。

韓国側は、今回の事件の前日、12月20日午後11時半ごろにも、手漕ぎの木造船を使用して民間人2人が韓国側に亡命していた。海洋警察が身柄を確保しています。

2017年に北朝鮮から韓国へ亡命した軍人、一般人は計9回で15人(うち兵士が4人)。2016年の5人(兵士1人)から3倍となっています。

一方、亡命者が増えている背景についてはよくわかっておらず、分析が続けられています。

聯合ニュースは、「経済制裁で生活が苦しくなったのではとの分析がありますが、説得力に欠ける」と解説しています。脱北者の数は減っているからです。

2017年に韓国入りした脱北者は、961人(10月末まで)で、2016年の同期比で16.8%減少しています。金正恩委員長が脱北者の取り締まりを強化しており、中国ルートではなく韓国海上ルートでの亡命が増えているとの見方を聯合ニュースは紹介しています。

これは、たとえ米国が北朝鮮に対して武力攻撃をしなかったとしても、ブログ冒頭の記事にもあるよに、北と韓国との間で紛争が起こる可能性があることをしめ示しています。

北と韓国が紛争を起こした場合、韓国内に駐留している米軍がこれに巻き込まれ、戦争に突入するという可能性も否定できません。

朝鮮半島で戦争が起きれば、中国とロシアはアメリカの敵に?

さらに、米国が北と戦争を始めれば、中国・ロシアも参戦する可能性も否定できません。実際、朝鮮半島で戦争が起こった場合を想定し、アメリカへの攻撃計画を進めている可能性があることが、2人の中国軍関係者の発言で明らかになっています。

中国人民解放軍南京軍区の元副司令官(中将)の王洪光(ワン・ホンコアン)は12月16日、「今から来年3月までの間に、いつ朝鮮半島で戦争が起こってもおかしくない」と警告しました。

王洪光中将
中国共産党機関紙人民日報系の環球時報が北京で主催した会議での発言です。環球時報は翌日、王の発言を大々的に報じ、軍事専門家の宋忠平(ソン・チョンピン)のコメントを付け加えました。「中国に脅威を与えるなら、アメリカとの武力衝突もあり得る」

「中国は、朝鮮半島有事に備える必要がある。そのためには、中国東北部に動員をかけるべきだ」と王は16日の会議で言いました。「戦争を始めるためでなく、防御的な意味での動員だ」

軍事専門家の宋忠平(ソン・チョンピン)
人民解放軍のロケット軍の前身である「第2砲兵」に所属していた宋は、環球時報の取材に対し、中国の主権を米軍が侵した場合に報復するための危機管理計画も「防御」目的に含まれる、と語りました。

宋はまた別の取材で、中国とロシアが12月11日に北京で行ったミサイル防衛演習について、ドナルド・トランプ米大統領が命じる中ロ両国への軍事攻撃を想定したものだと言いました。

トランプ大統領は今年1月の就任以降、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との対立を激化させる一方です。トランプ政権は北朝鮮の核保有を認めない立場ですが、北朝鮮は金政権崩壊を狙うアメリカの攻撃から自衛するために核が不可欠だと主張しています。

中国とロシアはこれまで、北朝鮮による核・ミサイルの開発を非難するアメリカに同調してきましたが、アジア太平洋地域に米軍の影響力が拡大することには断固反対です。

「中ロが合同演習を行う場合の仮想敵国は、中ロにとって本物の脅威となる弾道ミサイルと巡航ミサイルの両方を保有するアメリカだ」と、宋は香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストに語りました。「中国とロシアには、今回の合同ミサイル防衛演習を戦略的な対米抑止に利用したい思惑があった」

韓国に配備された米軍の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)は、迎撃用から攻撃用に簡単に転換できるとみられており、何としても撤去させたい気持ちは中ロ共通です。

米軍は9月、予定していた6基のTHAADの韓国配備を完了しました。米国防総省は、北朝鮮のミサイル攻撃から同盟国である韓国を防衛するためにTHAADが必要との立場ですが、中国とロシアは自国の国家安全保障上の脅威になるとして配備に反対してきました。

しかし、北朝鮮への軍事的圧力を強めるトランプは、情勢が緊迫する朝鮮半島周辺に空母や戦略爆撃機を続々と派遣し、軍事演習も大幅に増やすなどして、中国とロシアを激怒させました。

1950年代初頭、建国間もない北朝鮮と韓国の間で朝鮮戦争が勃発した時、中国とロシア(旧ソ連)は共産主義国である北朝鮮軍を、アメリカをはじめとする国連軍は韓国軍をそれぞれ支援しました。

軍事専門家の宋忠平(ソン・チョンピン)
3年に及ぶ戦争には、米ソ冷戦における最初の代理戦争という側面もありました。1953年に休戦協定が締結され、北緯38度線を休戦ラインとして、南北軍事境界線に沿った「非武装地帯(DMZ)」が設定されました。和平協定はいまだに締結されていません。

国連に制裁を科されても、金は父や祖父の代から引き継いだ核開発を一段と加速させています。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自国の軍事力と政治的影響力を世界に拡大させるため、歴史的な軍備増強を行っています。

トランプ大統領は12月18日に発表した「米国第一」主義に基づく国家安全保障戦略のなかで、核武装した北朝鮮を「ならず者国家」と非難。中国とロシアについても「アメリカの安全や繁栄を脅かそうとしている」と言って対抗姿勢を匂わせました。

トランプ大統領
朝鮮半島というと、かつて日本もこの地を日本に併合しました。その目的は、ソ連の脅威から日本を守るために、ソ連と対峙することでした。マッカーサーは朝鮮戦争のときに、実際に朝鮮半島を自分の目でみて、なぜ日本がこの地と満州を併合したかを理解し、後に米国の公聴会で「彼ら(日本)の戦争は防衛戦争だった」と証言しています。

朝鮮半島ならびに北朝鮮と中国国境に位置する中国東北地方(満州)は、昔から戦争の火種の絶えないところです。今回も、最悪の事態になれば、米国、中国、ロシア、北朝鮮、韓国などの国々での本格的な戦争になることも考えられます。

米国、中国、ロシアなどは本格的な総力戦にまでエスカレートすることは避けるでしょうが、朝鮮半島を巡って再び、北と韓国による代理戦争になる可能性は否定できません。

北と韓国だけが、紛争をするというのなら、早期に決着がつくかもしれませんが、バックに米国、中国、ロシアがついての代理戦争ということになると、戦争は長期になる可能性もあります。日本もこの最悪のシナリオに備えるべきです。

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2019年2月26日火曜日

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」―【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

米朝首脳会談…同じ船に乗るトランプ氏と正恩氏 キーワードは北朝鮮に眠る「驚くべき資源」

金正恩(左)とトランプ(右)

ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金 正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は27、28日、ベトナムの首都ハノイで2回目の首脳会談を行う。

 世上では、米朝首脳会談はトランプ氏が前のめりで、正恩氏のペースで進められるのではないか-と懸念する向きが多い。

 果たして、この指摘は正しいのか、検証してみる。

 注視すべきは、同首脳会談実現に向けて繰り返された、米朝実務者協議の米側代表であるスティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が1月31日、米スタンフォード大学で行った講演(全文3800語)である。

 注目すべき箇所は、次のフレーズだ。

 「トランプ大統領が、金正恩委員長に(シンガポールで)会ったとき、堅固な経済開発が北朝鮮にどのような意味を付与するかについてビジョンを示しました。それは、朝鮮半島の驚くべき資源を利用して構築される投資、外部との交流、そして貿易などの明るい未来と、計画の成功のためのわれわれの戦略の一部です」

 キーワードは「驚くべき資源」である。

 トランプ氏は2月8日のツイッターで、首脳会談の開催地がハノイに決まったと明らかにした。

 と同時に、かつてミサイル実験を繰り返す正恩氏を「ロケットマン」と揶揄(やゆ)したが、このツイッターでは「北朝鮮は違うロケットに、すなわち経済のロケットになるだろう」と、ヨイショしたのだ。

 では、困窮する北朝鮮経済を「経済のロケット」にする「驚くべき資源」とは、いったい何なのか。

 米地質調査所(USGS)や、日本貿易振興機構(JETRO)などの「資料」によると、半端ない量のマグネサイト、タングステン、モリブデン、レアアースなどのレアメタル(希少金属)が埋蔵されているという。

 さらに、石油の埋蔵量も有望とされる。だが、「千三つ」(=試掘井を1000カ所掘削しても3カ所出るかどうかの確率)と言われるほど投資リスクが高く、高度の掘削技術が必要である。米国が構想しているのは、エクソン・モービルなど米石油メジャーとの共同開発なのだ。

 一方のレアメタルについても、中国の習近平国家主席が進める「宇宙強国」構想に負けないためにも、宇宙・航空産業が喉から手が出るほど欲しい。

 遠くない将来、かの地で採掘・精製施設建設まで実現できれば、計り知れない「利」が期待できる。地政学的に採算ベースに合うのだ。

 トランプ、正恩両氏は同床異夢であれ、取りあえず同じ船に乗ろうとしているのだ。(ジャーナリスト・歳川隆雄)

【私の論評】米朝首脳会談次第で北はどうする?あらゆる可能性を視野に(゚д゚)!

金正恩氏を乗せた特別列車=2019年2月26日午前、広西チワン族自治区憑祥

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」

北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流します。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富です。冒頭の記事にもあるように、鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、2百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も40種を超えます。

近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされています。

これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なります。韓国の大韓鉱業振興公社は2008年月に総額2千2百87兆ウォン(約176兆円)と推定しましたが、韓国の統一省は09年10月に国会に提出した資料で6千9百84兆ウォン(08年基準=約5百37兆円)とまで見積もりました。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはありません。

米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告されました。
さらに、ウランも約4百万トンの埋蔵量があるとされます。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もあります。北が自前の原子力発電や核に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることです。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善されます。

無論石炭の埋蔵量も多く、韓国の研究者の推計によれば、北朝鮮全体の石炭埋蔵量は90億であり、そのうち61億トンが採掘可能と見られる。後者の内訳は無煙炭が16億トン、褐炭が34億トン、超無煙炭が11億トンである。なお、瀝青炭は産出されないため、鉄鋼生産などに使用する分は全量を輸入に頼っています。

日本の統治時代には、石炭は様々な産業の基盤だったこともあり、北朝鮮のほうが南よりも産業基盤が整っていました。南にはほとんど産業基盤がなく、農業が主体でした。そのため大東亜戦争終戦直後からしばらくは、北朝鮮のほうがGDPも南より大きく、韓国が北朝鮮のGDPを追い抜いたのは1970年代に入ってからことです。

ところが、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近いです。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためです。たとえば、鉄鉱石の生産は1985年の9百80万トンをピークに減少に転じ、98年には2百89万トンまで減りました。その後の経済回復で08年には5百31万トンまで戻ったのですが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実です。

鉱物資源協力は資源の「貿易」以上の経済的便益を南北の両側にもたらす可能性があります。朝鮮半島は面積は狭いですが南と北の地下資源の賦存環境が大きく異なります。韓国は世界5位の鉱物資源の輸入国で鉱物自給率が極めて低く、全体鉱物の輸入依存度は88.4%にのぼります。



政治的緊張がなければ、隣接した両地域の格段の鉱物資源分布の差が経済的側面で自然と相互に鉱物資源貿易・投資をもたらした可能性もあります。

北朝鮮の鉱物資源開発の過程でまず必要なのは、鉱山開発に使われる莫大な量の電力供給を解決することです。文大統領が金委員長に渡した新経済構想の資料に「発電所」が含まれていたのは、これと無関係ではないと見られています。2007年、鉱物資源公社が端川地域の鉱山開発の妥当性の検討に乗り出すときも、北朝鮮の水力発電設備を改・補修して電力を供給する案を検討したことがありました。

経済を対外開放した国の大部分は、地下資源の採掘権を海外に与えて、国富を蓄積してきた。ミャンマーやカンボジアのように、比較的最近に民主化した国家も、中国などに鉱山開発を任せ、一定の収益を受け取ってきました。

北朝鮮が次なる経済協力案件として地下資源を本格化させれば、北朝鮮の経済成長に大きく寄与できるのは明らかです。韓国のエネルギー経済研究院によれば、北朝鮮のGDPにおいて鉱業は全体の13.4%であり、北朝鮮の輸出額の70%を鉱物が占めます。

鉱山を開発すれば、製鉄や精錬のような加工産業に対する投資が行われ、雇用拡大と付加価値創出にもつながります。南北鉱物資源開発協力がスムーズに行われれば、北朝鮮に対する財政的支援という負担がなくても、北朝鮮の経済開発と経済協力事業を同時に推進できます。

米朝首脳会談の行方を見守る必要がありますが、現在は国連による経済制裁で北朝鮮の物資を韓国へ持ち込めません。経済制裁が解除されない状況では、当然協力もないです。米朝会談ではこれも話し合われることになるでしょう。

制裁解除は北朝鮮への米国の意思が重要です。現実的な問題もあります。韓国政府は2007年に8000万ドルを借款形式で北朝鮮に提供したのですが、2010年以降、南北経済協力はほかの協力事業とともに、中断したままです。

2012年にこの借款を提供した韓国の輸出入銀行が、5年の返済猶予が終了した後に償還の開始を北朝鮮側に要求したのですが、なしのつぶてだといいます。南北経済協力事業を経験した韓国政府側関係者は「経済協力を始めるなら、まず北朝鮮が8000万ドルの借款を償還すべきだ。南北合弁で開発した鉱山の契約も履行すべき」と言います。

この関係者は「ただ今回の首脳会談が関係回復に優先順位を置いていたので、経済協力が再開されたとしても、問題が経済的な論理で解決されるとは思えない」と打ち明けます。

資源を共同開発しても、その果実を収穫できるインフラ建設と、投資への安全性保障も必要です。しかし、開城(ケソン)工業団地が突然閉鎖されたように、投資家が人質のような形に追いやられる余地が残っているのなら、経済協力の軸となる民間企業が資源開発投資を行うことはできなです。

現在、北朝鮮の地下資源投資に関する法律は、北南経済協力法と外国人投資関連法、地下資源法があります。北南経済協力法は宣言的な内容にすぎないため、投資への安全を保障することはできないです。

地下資源法によれば、廃鉱も許可制とされています。経済性がなくても投資家が自律的に廃鉱を決定できないことになります。開発主体も北朝鮮国内機関に限定されています。外国人投資法でも資源輸出を目的とする外国人企業の投資は禁止されています。北朝鮮の法意識上、最高統治者と朝鮮労働党、政府との関係が複雑であることや既存の関連法が存在するだけに、特別法やこれに準ずる具体的な協議が必要とされるでしょう。

実は北朝鮮の資源をめぐる争奪戦は、すでに始まって久しいです。2004年から11年の間に北朝鮮で合弁事業を開始した世界の企業は350社を超します。中国以外ではドイツ、イタリア、スイス、エジプト、シンガポール、台湾、香港、タイが積極的ですが、そうした国々よりはるかに先行しているのは、意外にも英国です。

英国は01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設。06年には、金融監督庁(FSA)が北朝鮮向けの開発投資ファンドに認可を与えたため、英国系投資ファンドの多くが動き出しました。

具体的には、アングロ・シノ・キャピタル社が5000万ドル規模の朝鮮開発投資ファンドを設立し、鉱山開発に名乗りを上げました。北朝鮮に眠る地下資源の価値は6兆ドルとも見積もられています。そのため、投資家からの関心は非常に高く、瞬く間に1億ドルを超える資金の調達に成功しました。また、英国の石油開発会社アミネックス社は、北朝鮮政府と石油の独占探査契約を結び、1000万ドルを投資して、西海岸地域の海と陸の両方で油田探査を行う計画を進めています。

一方、ロシアは冷戦時代に開発した超深度の掘削技術を武器に、北朝鮮に対し油田の共同探査と採掘を持ちかけています。この技術は欧米の石油メジャーでも持たない高度なものであり、ベトナムのホーチミン沖で新たな油田が発見されたのも、ロシアの技術協力の賜物といわれています。15年4月には、ロシアと北朝鮮は宇宙開発でも合意しています。両国の関係は近年急速に進化しており、ロシアは新たに北朝鮮の鉄道整備のために250億ドルの資金提供を約束しています。

韓国の現代グループは、1998年から独占的に金剛山の観光事業を行っていますが、数百億円に及ぶ赤字を出しながらも撤退しないのは、金剛山周辺に眠っているタングステン開発への足がかりを残しておきたいからでしよう。

米国からは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問していますが、核開発疑惑が表沙汰になる前の98年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行いました。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手しています。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいといいます。

韓国はじめ、中国、ロシアといった周辺国や米国、英国の支援を得ることで、豊富な地下資源を開発することに成功すれば、北朝鮮は現在の中国のように急成長することが期待されます。今が安く先物買いをする絶好のチャンスだと宣伝しているのです。実は、2015年4月、北朝鮮のリスユン外相はインドを訪問し、スワラジ外相との間で北朝鮮の地下資源開発と輸出契約の基本合意に達しています。

インドにとっては、中国と北朝鮮の関係が変化するなか、北朝鮮との資源外交を強化しようとの思惑が見え隠れします。要は、国境紛争やインド洋への影響力を強めつつある中国をけん制するためにも、北朝鮮を懐柔しようとするのがインドの狙いと思われます。

日本人の大半はそのような動きにはついていけず、発想そのものに抵抗を感じるでしょうし、金儲けを最優先する投資ファンドの動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これが世界の現実なのです。

文在寅(左)と習近平(右)

さらに、これは以前からこのブログに掲載していることですから、米国側からみると、北朝鮮の核は結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいます。以前からこのブログに掲載しているように、北朝鮮は中国からの完全独立を希求しています。韓国は、以前から中国に従属しようとしている国です。

北朝鮮の核は、日米だけではなく、中国にとっても大きな脅威なのです。もし、北に核がなければ、はやい時期に朝鮮半島は中国のものになっていたか、傀儡政権によって南北統一がなされていたかもしれません。これは、最悪の事態です。

であれば、現在中国と対立している米国からすれば、米国に到達するICBMは別にして、北朝鮮に現在ある中短距離核ミサイルは中国に対する牽制になります。

そのため、今回の米朝首脳会談では、ICBMの撤去を最初に行い、中短距離は後でということになる可能性が高いです。

日本人の大半は金儲けを最優先する投資ファンドの動きについていけないのと同様に、軍事戦略的そのものに抵抗を感じるでしょうし、このような米国や北朝鮮の動きには嫌悪感すら抱くに違いないでしょう。しかし、これも世界の現実なのです。

21日には、トランプ大統領がTwitterで「第3回目の会談開催の可能性」を示唆しました。これは、第3回目の可能性をテーブルに挙げておくことで、米国が満足する結果が得られるまで、延々と会談は続けられ、それまでは対北朝鮮制裁の締め付けは緩めないというメッセージであると考えられます。

そして、報道されない現状として、米軍の攻撃部隊がアジアに集結してきているという事実もあります。これは、第2回首脳会談の結果次第では、米国は対北朝鮮攻撃に踏み切るという無言のプレッシャーでしょう。つまり、表向きに伝えられているよりも、米朝間の関係をめぐる緊張感は思いのほか高まっているのです。

そして、その緊張感は、北朝鮮側に立っている中国やロシアの動きを封じ込める役割も果たしています。両国とも米国が北朝鮮を攻撃するという事態は最悪のシナリオとなり、さらに朝鮮戦争時と違い、とても迎え撃つことはできないため、27日までは両国とも沈黙を保っています。同時に考え得る混乱に備え、すでに中朝国境やロシア・北朝鮮国境付近には、北朝鮮からの難民の流入を阻止するために軍隊が配備されています。つまり、北朝鮮は実際には孤立しているとも言えます。

しかし、その孤立を和らげているのが、文大統領率いる韓国政府です。国連安全保障理事会で合意された対北朝鮮制裁の内容に公然と違反して、包囲網を破っていますし、同盟国であるはずの日米両国をあの手この手で激怒させて、意図的に長年の友人を遠ざける戦略を取っています。その反面、北朝鮮との融和をどんどん進め、もしかしたら朝鮮半島の統一は近いのではないか、との幻覚を抱かせる効果も出ています。

それを演出しているのは、中国でしょう。日米韓の同盟は長年、中国にとってはとても目障りな存在でしたが、このところ韓国が日米に反抗するようになり、同盟の基盤が崩れ去る中、中国にとっては国家安全保障上の懸念が薄まってきています。北東アジア地域における覇権を握るために、北朝鮮を通じて韓国に働きかけを行い、日米の影響力を削ごうとする願いが見え隠れしているように思います。

もし、米国が従来通りに北朝鮮への攻撃をためらってくれるのであれば、中国の思惑通りに進みますが、仮にトランプ大統領が攻撃にゴーサインを出してしまったら、中国は究極の選択を迫られることになります。それは、あくまでも北朝鮮の後ろ盾として米国への対抗姿勢を貫くか、もしくは、北朝鮮・韓国を見捨てて自らの安全保障・存続を選ぶかの2択です。普通に考えると後者を選択するでしょうが、今、それが許されるための手はずを整えているように思います。

では、そのような際に日本はどうでしょうか?まず拉致問題については、直接的かつ迅速な解決は望めないと思いますが、第1回首脳会談と同じく、トランプ大統領が拉致問題の解決の重要性を強調することには変わりないと思われるため、何らかのブレイクスルーが起こるかもしれません。

また、メディアでは悲観的かつ絶望的な見方が多数を占めていますが、実際には水面下で日朝首脳会談に向けた調整も行われており、北朝鮮の経済的な発展へのサポートの見返りに、拉致問題に関わる様々な問題に対する“答え”を得るという折衝も続けられていますので、第2回米朝首脳会談に対しては大いに期待していることと思います。

そして第2回米朝首脳会談が終わる2月28日は、いみじくも米中貿易戦争における報復関税猶予期間の最終日ですので、第2回米朝首脳会談の結果は、米中が様々な局面で争う新冷戦時代に大きな影響力を与えることにもなりかねません。

明日から運命の会談は開催されますが、どのような結果になるのか、固唾を飲んで見守りたいと思います。

この首脳会談の結果が出次第、日本としては国際政治経済ならびに安全保証の動きを冷静にとらえ、北朝鮮に対する戦略を練り直す必要があるでしょう。

仲が良いと思っていた金委員長と韓国の文在寅大統領がある日突然離反し、北と米国が、中国に対峙するという観点から急接近するかもしれません。あるいは、大方の予想を裏切り米国が最終的に北に対して軍事攻撃をするかもしれません。そうなれば、朝鮮戦争当時とは違い今ややり返す力のない中国やロシアは仰天することでしょう。

特に、中国にはかなりの見せしめになります。習近平は、金正恩や金正日と同じ恐怖を味わうことになります。ありとあらゆる状況を視野に入れておくべきです。「想定外」では済まされないです。

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2017年4月5日水曜日

北朝鮮「テロ支援国家」再指定なら金正恩氏の「破れかぶれ」が加速する―【私の論評】北が日本に報復の場合、野党はそれを政治利用する?

北朝鮮「テロ支援国家」再指定なら金正恩氏の「破れかぶれ」が加速する

高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

金正恩

米下院は3日、北朝鮮をテロ支援国家に再指定するよう求める法案を圧倒的な賛成多数(賛成394:反対1)で可決した。法案は今後、上院を通過し、大統領が署名すれば成立する。

可決後、法案を発議したテキサス州選出のテッド・フォー議員は金正恩党委員長を「Little Kim(キムの坊や)」と呼んで小馬鹿にし、敵意をむき出しにした。

法案の内容は、ティラーソン国務長官に対し法案成立から90日以内に北朝鮮がテロ支援国家の要件を満たしているかどうかを調査し、議会に報告することを求めるものだ。

その後、再指定を求める声はあちこちで上がっていたが、北朝鮮と対立を深めたオバマ前政権下においても、その要求は通らなかった。理由はいくつかあるが、北朝鮮が現在進行形でテロに関わっている具体的な証拠がなかったこともそのひとつだろう。

しかし、金正恩氏の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏殺害の背後に北朝鮮がいるのは確実と見られている上、同事件で化学兵器の神経剤VXが使用されたこともあり、トランプ政権ならば、この法案が成立することは十分にあり得る。

北朝鮮は1988年1月から米国政府によりテロ支援国家に指定されていたが、核問題をめぐる6者協議の進展を受けて2008年10月に解除された。当初は米朝関係改善の足掛かりになるとの見方もあったが、結局のところ、状況に対した変化は起きなかった。米国は北朝鮮に対して多数の法律で何重にも制裁をかけており、ひとつを解除しただけではほとんど意味がないのだ。

そこで2009年7月、オバマ前政権のクリントン国務長官(当時)は次のような提案を行った。

「完全かつ後戻りできない非核化に同意すれば、米国と関係国は北朝鮮に対してインセンティブ・パッケージを与えるつもりだ。これには(米朝)国交正常化が含まれるだろう」

インセンティブ・パッケージとは、米国が国交正常化、体制保障、経済・エネルギー支援などを、北朝鮮は核開発プログラム、核関連施設はもちろん、ミサイルなどすべての交渉材料をテーブルに載せ、大規模な合意を目指すことを念頭に置いていたものとみられる。

ところが、北朝鮮はこれにも乗らなかった。理由はおそらく、人権問題である。米国にはブッシュ政権時代に出来た、北朝鮮人権法という法律がある。日本人拉致問題も含め、北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止すると定めたものだ。

恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉のテーブルに乗せることなどできるはずがない。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

同じ理由から、仮にテロ支援国家に再指定されたとしても、正恩氏はさして痛痒を感じない可能性がある。北朝鮮の人権侵害は、正恩氏の時代になって悪化している部分もあり、「人道に対する罪」に問われかねない立場にある同氏は、国際社会に華々しくデビューすることなどかなわなくなっているのだ。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

正恩氏がその状況を理解しているのならば、「テロ支援国家だろうが何だろうが、好きにしやがれ」という心境であるはずなのだ。そしてそうでなければ、衆人環視の中で兄を殺させるようなことはしないだろう。

こう考えてくると、正男氏殺害は核兵器開発や弾道ミサイル発射と同じく、正恩氏の「あきらめ」あるいは「破れかぶれ」による暴走だったとも見ることができる。

いずれにせよ、北朝鮮がテロ支援国家に再指定されれば、正恩氏の暴走は拍車がかかる可能性がある。米国の政治家はこのことをよく考え、正恩氏の暴走に対する「次の一手」を用意しつつ行動してもらいたい。

【私の論評】北が日本に報復の場合、野党はそれを政局利用する?

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は4日、米国下院外交委員会所属の議員らが発議した従来の北朝鮮に対する制裁法をさらに強化した法案に対して、「日増しに非常に強化されるわが共和国の政治的・軍事的威力にあわてふためいた者らのたわいない妄動」と非難する論評を配信しました。

論評は、「敗れた制裁の太鼓をいくら力いっぱい叩いてもまともな音が出るはずがない。 米帝の『制裁万能論』はこの地ですでに粉みじんになり、敵対勢力内でまで対朝鮮『制裁無用論』が台頭しているのが厳然たる現実である」と主張しました。
また、「敵対勢力が決めておいた『時限』内にわれわれは地対地中・長距離戦略弾道ロケット『火星10』の試射、戦略潜水艦弾道弾水中試射、新型の静止衛星運搬ロケット用大出力エンジンの地上噴出実験、核弾頭爆発実験の相次ぐ大成功で世界を驚かし、核強国の威容を全世界に誇示した」と強調しました。
さらに、「領土があり、党と共和国政府があり、この地に流れる水と空気だけあれば、いかなる制裁・圧迫も粉砕し、自力自強で強盛復興することができるということがわが軍隊と人民の信念、意志である」としながら「われわれには、制裁が絶対に通じない。米国には『新しい法案』が必要であるのではなく、新しい思考、新しい戦略が必要である」と述べたまし。
新しい思考と戦略が必要である 朝鮮中央通信社論評 
【平壌4月4日発朝鮮中央通信】最近、米議会下院が「対北朝鮮取引関連制裁強化法案」を通過させようとしている。 
わが国を国際金融システムから完全に排除しようとする悪らつな目的を追求することを骨子とするこの「法案」は、米国の旧態依然とした反共和国制裁圧殺策動の連続として、別に新しいものではない。 
にもかかわらず、何らの意義でもあるかのように採択劇を考案して奔走するのは、日増しに非常に強化されるわが共和国の政治的・軍事的威力にあわてふためいた者らのたわいない妄動としかほかには見られない。 
特に、問題の「法案」が対朝鮮政策で完全な失敗を自認した前オバマ行政府時期の「2016年対北朝鮮制裁および政策強化法」を修正、補充してつくられたという事実は、米国が窮余の策に執着しているということを自らさらけ出したことになる。 
しかし、敗れた制裁の太鼓をいくら力いっぱい叩いてもまともな音が出るはずがない。 米帝の「制裁万能論」はこの地ですでに粉みじんになり、敵対勢力内でまで対朝鮮「制裁無用論」が台頭しているのが厳然たる現実である。
破たんしきった「制裁強化」騒動で名実相伴う核保有国の政治的・軍事的威信を阻んでみるということ以上に無駄な妄想はない。 
米帝とその追随勢力が昨年3月、新しい「制裁決議」を作り上げて未曾有の制裁を加えれば6カ月内にわれわれが屈すると豪語したが、その判断がいかに愚かだったのかを振り返ってみろ。 
まさに、敵対勢力が決めておいた「時限」内にわれわれは地対地中・長距離戦略弾道ロケット「火星10」の試射、戦略潜水艦弾道弾水中試射、新型の静止衛星運搬ロケット用大出力エンジンの地上噴出実験、核弾頭爆発実験の相次ぐ大成功で世界を驚かし、核強国の威容を全世界に誇示した。
勇ましい挑戦中央通信社論評なのですが、北朝鮮が国際金融システムから完全に排除されることをかなり恐れていることが、にじみでています。

再度テロ支援国家に再指定された場合には、確かに北朝鮮は核開発どころではなくなります。

アジア大会でのシンクロ北朝鮮チームの演技
北朝鮮の場合、核開発とはいっても国外から工作機械や部品などを購入しなければ、自国だけでは何もできません。北朝鮮のミサイル、核兵器は実は日本製と言っても良いくらのものです。

このことは、昨年の出来事をみても明らかです。北朝鮮のミサイル関連企業に関与した在日研究者が、再入国禁止の対象者とされたのです。

日本政府による北朝鮮への独自制裁で、訪朝後の再入国を原則禁止した在日本朝鮮人科学技術協会(科協)の5人のうち、1人はロケットエンジン開発の権威とされる東大出身の博士号を持つ研究者で、北朝鮮のミサイル関連企業に関わっていた。共同通信による公安関係者への取材で昨年の3月19日、明らかにされたのです。

公安関係者によると、これに関係する企業は北朝鮮の元山市にある「金剛原動機」で、ミサイルのエンジン開発に関与している疑いがあります。経済産業省は大量破壊兵器開発の懸念があるとして、機械や技術を輸出する場合には許可が必要となる「外国ユーザーリスト」に載せています。

このような事実からもわかるように、北朝鮮のミサイルや核兵器の開発の為に、日本国内にある在日社会と、その支援者が物心両面で広く手助けしたに違いないのです。

不思議なことに、日本社会が北朝鮮と在日社会の密接な繋がりを知りながら黙認し続けています。朝鮮総連も朝鮮学校も、何故かそのまま容認されているのです。

かつて北の二代目独裁者、金正日は、「在日朝鮮人の70%が、30兆円市場である日本のパチンコ産業に関わっており、その送金がわが国を支えている」とまで語っていたました(「日本のパチンコ産業が北朝鮮を支えている」…金正日会談議事録)。

日本はそれを放置し続け、ついに北朝鮮は核とミサイルを手にし、日本をその標的とし、いずれ米国をも標的内に収めようとしているのです。

今となっては、手遅れな感もありますが、この問題はなんとかすべきです。

金正恩がまともに論理的に合理的に物事を判断できれば良いのですが、「破れかぶれ」が加速すれば、何をするかわかったものではありません。

このブログにも掲載したように、米国が北朝鮮を攻撃をする可能性が高まっています。その場合、北朝鮮の報復の可能性は高いです。50万発の砲弾が韓国の首都ソウルに降り注ぐといわれていますし、日本には核ミサイルを打ち込むことも懸念されています。さらには、すでに日本に潜伏している北朝鮮の工作員が日本国内で、テロ活動を行う可能性もあります。

北朝鮮による砲撃訓練
そのような最中に、日本の国会では森友問題にばかり時間が割かれ、テロ等防止法の審議も遅れていますし、民進党をはじめとする野党はこれに反対するばかりです。そうして反対する目的は、安倍政権打倒です。

一体野党は、日本と日本人を守るという考えがあるのでしょうか。私が仮に彼らの立場なら、一触即発の北朝鮮情勢を踏まえて、この危機に備えるために、テロ等防止法の時限立法などを立案して、成立を急ぎ今そこにある危機に備えると思います。

このままだと、日本に北朝鮮のミサイルが打ち込まれたり、北の工作員がテロ活動を甚大な被害が出た場合野党は、安倍政権が悪いと糾弾し、政権打倒の道具にしようとするのではないでしょうか。恐ろしいことです。しかし、今のテロ等防止法などへの対応をみているとそのような雰囲気です。

そのようなことは、絶対にないと思いたいところですが、何でも政局に利用する最近の民進党をみていると、本当に人非人のような仕業をするのではないかと思えてきます。

米軍が北朝鮮を先制攻撃したとしても、日本にはほとんど北朝鮮の報復が及ばないということも十分にありえます。その反対に、北朝鮮の報復にあって、日本が甚大な被害にあったとしても、日本国がそれで消滅することはないです。日本はまた立ち直り、復興することになるでしょう。

いずれの場合においても、当面の脅威が過ぎ去るまで、私たちは政治の動きをしっかり見守り、駄目な政党、駄目な政治家のことをしっかり把握しておき次の選挙の判断材料にすべきです。

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