2016年3月4日金曜日

【正論】「欲ない、夢ない、やる気ない」……現代日本の最大の危機はこの「3Y」にある 作家・堺屋太一―【私の論評】団塊の世代以上の世代には想像もつかない現代の若者の窮状(゚д゚)!


堺屋太一氏

《「身近な願い」ばかり》

今年2月、奈良県御所市名柄に世界初の郵便庭園が開かれた。

明治初年から昭和までの時代を象徴する郵便切手を大きく拡大、透明な衝立(ついたて)に並べて野外に展示する。これが設けられる「郵便名柄館」の本体は、100年ほど前に開設された木造洋館の旧郵便局を再生した産業遺産である。

郵便名柄館のテープカットをする関係者ら 右から二人目が堺屋太一氏
昨年8月には、ここをあて名として「はがきの名文コンクール」が行われた。テーマは「ひと言の願い」、地元にある一言主神社にちなんだものだ。

これには全国から3万9500余通、5歳から101歳までの人々が応募してくれた。

ところが、応募された「ひと言の願い」はすべて内向き。最も多かったのは「死んだおじいちゃんおばあちゃんに会いたい」の類、次いで「家族の病気を治してください」や「平和な暮らしが続けられますように」である。

そこには将来展望を語り、明日への希望に夢膨らませる類のものはなかった。

「将来はサッカー選手になりたい」とか「宇宙飛行士志望」という少年も、「会社社長の大富豪」や「日本を導く政治家を目指す」という青年もいなかった。

予備審査員40人が探してようやく3通前向きなものが出てきた。「お寺の住職になりたい」という青年と消防士志望の少年、そして「ケーキ屋で近所を喜ばせたい」という少女である。

「はがきの名文コンクール」だけで世の風潮を断じるわけではないが、ここに示された「欲望の低さ」は、あらゆる場面に見られる。

まずは若者の間に広がる物欲の低下だ。20世紀のうちは家族も独身者も「豊かなモノ」に憧れ、衣料を買い込み電気製品をそろえ自動車を買った。中年世帯は分譲住宅を探して展示場を回った。

だが最近は、あえて高級衣料や電気製品をそろえず、必要に応じてレンタルする人々も多い。自動車にしてからが「要るときにレンタルすればよい」という向きも増えている。

1980年代以降に生まれた「ミレニアム(世紀末)世代」は、モノを持つことにステータスを感じないらしい。

《激減した海外への留学生》

第2に、最近の若者には「未来への夢」が乏しい。90年のバブル景気の頃までは、年々経済は成長し、収入は増加した。誰もが「明日は今日よりも豊かだ」と信じて夢を描くことができた。

だが90年以降の日本は経済も人口も頭打ち、よほどの努力と幸運に恵まれない限り、人生を変えるほどの飛躍はない。むしろ予測されるのは意外な転落である。人はみな臆病な心配性になってしまったらしい。

そのせいか、飛躍を夢見て海外に留学をする青少年もめっきり減った。欧米では今や日本からの留学生は「絶滅危惧種」、中国や韓国人の大集団に圧倒されている。

だが何よりの気懸かりは40歳にして一度も結婚を経験していない男性の急増だ。

75年、私は40歳で結婚未経験の男性だったが、当時それはきわめて珍しかった。高校大学の同級生も役所の同期入省者もみな結婚経験者。多くは子持ちである。それだけに結婚を迫る圧力は四方から感じた。
ところが、2015年には40歳の男性の30%以上が結婚未経験者。生涯未婚で終わる男性は20・1%と予想されている。

なぜこれほど40歳男性の未婚が多いのか。その理由が経済的な問題や住宅問題でないのは明らかだ。日本人ははるかに貧しい時代に若くして結婚し、どんどん子を産んでいた。諸外国でも貧しい人々が早期に結婚、若い年頃で出産している。

それがなぜ、最近の日本人に限り40歳になっても結婚しない者が多いのか。

《「3Yない社会」の危機》

この理由は2つ。1つは結婚を強いる社会の機能がなくなったこと、もう1つは若者自身の結婚生活への想像力と決断力が欠如していることだろう。

実際、現在の日本社会の最大の危機は、社会の循環を促す社会構造と若者層の人生想像力の欠如、つまり「やる気なし」である。「欲ない、夢ない、やる気ない」の「3Yない社会」こそ、現代日本の最大の危機である。

16年に入ると、日本をめぐる状況は急に厳しくなった。中国経済の減速と国際原油価格の下落で、経済は混乱し出した。

過激組織「イスラム国」(IS)や北朝鮮の動きも要警戒だ。国内の政治も一見は安定してみえるが、「次」が見えない不安がある。だが、何よりの重大問題は「3Yない」の社会風潮。世の雰囲気である。

今の日本は世界で最も「安心で安全で清潔で正確な国」だ。だがあまりにも安全清潔に徹する規制と厳格な基準の故に、人々の楽しみを奪い、やる気を失わせているのではないか。官僚、教育などの猛省を促したいところである。(さかいや たいち)

【私の論評】団塊の世代以上には想像もつかない現代の若者の窮状(゚д゚)!

何やらこの記事を読んでいると、怒りのようなものが沸々と湧いてきます。堺屋太一氏自身は、上の記事で、最後に「今の日本は世界で最も「安心で安全で清潔で正確な国」だ。だがあまりにも安全清潔に徹する規制と厳格な基準の故に、人々の楽しみを奪い、やる気を失わせているのではないか。官僚、教育などの猛省を促したいところである」と結んでおり、今の風潮を批判する立場でこの記事を書いています。

堺屋太一氏といえば、『団塊の世代』という近未来小説を今から40年ほど前に書かれています。団塊の世代(だんかいのせだい)とは、日本において、第一次ベビーブームが起きた時期に生まれた世代のことをいいます。第二次世界大戦直後の1947年(昭和22年)~1949年(昭和24年)に生まれて、文化的な面や思想的な面で共通している戦後世代のことです。
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第一次ベビーブーム世代とも呼ばれる彼らは、日本経済においては第二次世界大戦後の高度経済成長、バブル景気と失われた20年開始までの時代を共に経験しています。

堺屋太一氏の『団塊の世代』に関して、年齢のギャップによる軋轢などが掲載されていますが、失われた20年に関しては、予測不能だったのか、掲載されていません。確かに、これほど酷い停滞をすることなど当時は、全く予想できなかったのだと思います。

そうして、私はこの予想つかなかった、経済的な大停滞が、今の若者の「欲ない、夢ない、やる気ない」という3Yを生み出しているのではないかと思います。

堺屋太一氏は、40歳男性の未婚が多いことの理由が経済的な問題や住宅問題でないのは明らかだとしています。そうして、「日本人ははるかに貧しい時代に若くして結婚し、どんどん子を産んでいた。諸外国でも貧しい人々が早期に結婚、若い年頃で出産している」としています。

しかしながら、1970年〜1980年あたりには豊かな国と言われていた日本です、その後に日本に生まれた若者にとっては、この状態が貧乏でもなく、豊かでもなく、それが当たり前です。昔の日本が貧乏だったことや、諸外国にはとてつもなく貧乏な人がいることなど、彼らにとっては、人ごとに過ぎす、自分たちと比較して考えることもすらおぼつかないと思います。

それに、人はたとえ貧乏だったにしても、経済が良くなるとか、いずれ自分の給料が上がるとか思えると、将来に希望が持てますが、その見込みがなければ、ある程度豊かであっても、将来に希望はなかなかもてません。

日本もかつては、アメリカや他の先進国と同様に、会社に入って、同じ地位についていたとしても、緩やかなインフレだったので、1、2年では対して変わらないように見えても、20年もたつと、物価はかなりあがり、給料は倍近くなるというのが当たり前でした。経済が緩やかにでも成長していれば、そうなります。

しかし、デフレでは、そのようなことはありません。ジリジリと物価は下がり続けるのですが、給料も下がっていきます。そんな状況では、人々は将来に希望など持てなくなり、防御一辺倒になり、節約に走るのが当たり前です。

諸外国の貧しい人々が、早期に結婚して、若い年頃で出産するのは、当然といえば当然です。彼らの多くはあまりに貧困で、娯楽というなどというものはほとんどなく、唯一セックスだけが手軽な娯楽であり、その結果として、早く結婚して、早く出産ということになります。

発展途上国の子沢山

これと、先進国の若者を単純に比較するのは間違いです。それに、団塊の世代が若い時代には、すでに日本は豊かな国になっていたことを考え合わせると、団塊の世代と現在の若者が置かれている環境の差異に着目する必要があると思います。

そうして、現状の経済の状況をみてみると、昨年10-12月期のGDPはマイナスで、これは明らかに8%増税の悪影響であることは明らかです。消費税増税の影響は一時的であって、増税から1年以上経っても影響があるとは考えられないと考えるむきもありますが、こういう人は、消費税率8%の負担が永続的にかかり続けるという事実を忘れているのだと思います。加えて、わが国の場合、2017年4月から10%への消費税再増税が予定されている。多少所得が増えたとしても、2017年4月に増税が予定されているのだから、家計の財布の紐が緩まないのは当然とも言えます。

このような環境に置かれている、若者が、「欲ない、夢ない、やる気ない」の3Yになるのは、無理もないことだと思います。

そうして、最近の経済状況は確かに悪いのですが、過去を振り返ると現在の状況は過去よりははるかに良いです。日本は、1997年の消費税増税から、デフレに突入し、古今東西に見たことのないほどデフレが続きました。

最近では、ようやっとデフレから脱却しかかっているのですが、それでもデフレの悪影響は色濃く残っています。

ところで、自殺者数と景気は相関が高いことが知られていますが、この数年間の経済状況の改善と、さらに自殺対策にここ数年経費を増加させていく方針を採用していることもあり最近は自殺者数が減っています。類似の事例はホームレス対策にもいえ、ホームレス数は景気要因に関わらず対策費の増加に合わせて減少しています。

自殺者数の減少については、マクロ(景気)とミクロ(自殺対策関連予算の増加スタンス)の両方が功を奏していると考えられます。

自殺対策関連予算の推移はまとまったデータがないので拾い集めてみると

平成19年 247億円 平成20年 144億円 平成21年 136億 平成22年 140億 平成23年 150億 平成24年 326億 平成25年 340億 平成26年 361億 となってます。

以下に、失業率と自殺者数の推移のグラフを掲載しておきます。


日本がデフレに突入した、97年あたりからそれまで、2万台であった自殺者数が、一挙に3万人台になっています。このグラフをみただけでも、経済政策の失敗は自殺者数を増やすということがいえそうです。

さて、ここで、一冊の書籍を紹介させて頂きたいと思います。

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策


この書籍には、経済政策と死者数と間の相関を調べた内容が記載されています。

さて、日本では、現在アベノミクスの是非が話題になっています。世界中どこでも、不況に陥ると経済政策をどのようにするべきか、議論されます。しかし、結局のところ、どのような政策がいいのでしょう。そして、その決断を、イデオロギーや経済理論だけを頼りに行って、本当に良いのでしょうか。

世界規模の不況に陥ったとき、国ごとに経済政策は異なり、それによって国民の運命も異なる方向に動かされてきました。公衆衛生学者と疫学者である本書の著者は、そのことを利用して政策の優劣を比較しました。つまり、過去の各国の政策選択とその結果のデータを、世界恐慌からソ連崩壊後の不況、アジア通貨危機、そしてサブプライム危機後の大不況まで調査し、比較したのです。

比較の指標は、国民の生死です。政策の違いによって、国の死者数は増えたのか減ったのか、健康状態や平均寿命などがどう変化したかを比較しました。経済政策は、国の借金返済や構造改革、景気刺激など、さまざまな目的で行われますが、そもそも国民に死を強いるようでは元も子もありません。結果はどうだったのでしょうか。

著者らの研究によれば、不況下で危険な「緊縮政策」を選択した影響で増加する死亡数は、まさに驚くべきものです。最も悲惨なのは、ソ連崩壊後のロシアで、1990年代に経済政策の失敗により数百万人の男性が死んだ(主に自殺とアルコール関連の死亡)と考えられるといいます。


アジア通貨危機後にIMFに緊縮財政を強いられたタイでは、感染症対策支出を削らされたせいで、感染症による死亡率が大幅に上昇しました。現在、緊縮財政をとっているギリシャでは、これも対策費の削減によりHIV感染が拡大しているほか、医療費カットで医療制度が崩壊し国民の健康状態はひどく悪化しています。

著者たちは次のように述べています。
民主的な選択は、裏づけのある政策とそうでない政策を見分けることから始まる。特に国民の生死にかかわるようなリスクの高い政策選択においては、判断をイデオロギーや信念に委ねてはいけない。…正しくかつわかりやすいデータや証拠が国民に示されていないなら、予算編成にしても経済政策にしても、国民は政治家に判断を委ねることができない。その意味で、わたしたちはこの本が民主化への第一歩となることを願っている。
私は、本書をきっかけに、政策論争がイデオロギーを離れ、経済理論だけではなく、現実のデータに基づいたものになることを願っています。

この書籍の示すデーターなどからも、日本のデフレ下における増税(緊縮財政)は、やはり自殺者を増やしたものと思います。

そうして、ここにさらにショッキングな若者のデータがあります。


日本の年間自殺者は全体的に減少傾向にあります。’98年以降、14年連続で3万人を超えていたその数は、’12年から3年連続で3万人を割り、警察庁によると’14年は2万5218人でした。その後も2万人台です。

しかし、若年層の自殺は深刻な状況にあると言ってよいです。15~39歳の死亡原因の第1位は自殺でした(男女別では男性15~44歳、女性15~34歳で1位)。

G7で15~34歳の死因の1位が自殺というのは日本だけです(上のグラフ参照)。死亡率はアメリカやフランス、カナダの約2倍、ドイツやイギリスの約3倍、イタリアの約4倍となっています。

私自身は、会社で人事を担当していたこともありますから、その時々の若者と話をする機会も多いです。そうして、ここ数年特に大学生などの若者が置かれている立場が、私達の頃と比較してさえ、ひどい状況にあることが見て取れます。

おそらく、生まれてから一度も景気が良かったことがなく、デフレ・スパイラルの泥沼に沈み込んでいた時代の若者については、団塊の世代以上の人たちには、想像もつかないと思います。まずは、親の収入が従来よりも減っているのは統計上からも明らかですし、まだデフレから脱却していないので、これからあがるということもなかなか期待できないです。

団塊の世代以上の人々の中には、「我々の子ども時代や若い時代は貧乏だった」と語る人もいると思います。しかし、団塊の世代以上の人たちの頃のように、経済が伸びていたり、少なくともデフレでなければ、多くの人々は将来に夢を託すことができます。しかし、デフレであれば、ある程度豊かであったにしても、その豊かさがいつまで続くのか疑心暗鬼になるのか当たり前です。

それが、今の若者を直撃しています。仕送りなども従来から比較すると低くなっていますし、バイトも昔のように恵まれていません。そのせいですか、奨学金という名の実質上の就学ローンがかなりの額になります。大学や、大学院を卒業したとたん数百万の借金という人など珍しくもありません。

そうして、今の若者は、生まれて物心ついてからこのかた、一度もデフレでなかった時代を過ごしたことがありません。こんなことは、おそらく、古今東西はじめてのことではないでしょうか。景気は、循環するのが当たり前なのに、今の若者はもの心ついてから一度も景気の良い時代を経験したことがありません。

「モノを持つことにステータスを感じない」のではなく、そもそも「モノ持つ」余裕がないのです。実際は買えるのかもしれませんが、そうした心の余裕が持てないのです。団塊の世代が若いときや、少なくとも我々が若い時代までの頃には、若者が法外な価格の車を購入するのは珍しいことでもなんでもありませんでした。高い車を購入しても、それを転売して、新しい車に変えたり、そうしていずれ賃金も上がるので、返済することも可能でした。

「未来への夢」が乏しいのではなく、そもそも、「若者を取り囲む社会が未来に乏しくなった」のです。過去の酷いデフレ状況では、日本に10の大きな問題があったとして、何か一つ解決すると、他にしわ寄せが行くだけで、何の解決にもなりませんでした。

もし、デフレから完璧に脱却さえすれば、10の大きな問題のうち6つくらいは自動的に解消されます。そうして、残りの4つも目星はつけられることになります。しかし、過去はデフレだったため、結局八方塞がりでした。こんな社会で若者が「未来への夢」を持てといっても、土台無理です。この理不尽な社会に、防御を固めるだけです。

実際私の知っている、ある若者は、札幌の大学で親から離れて4年間を過ごしたにもかかわらず、一度もすすきの飲みに行ったことがないという、にわかには信じがたいことを語っていました。学生と飲みは、切っても切り離せないものですが、彼は近所の飲み屋に行ったことはあったそうですが、それも稀で、飲むのは、自宅アパートでの家飲みがほとんどだったそうです。

すすきの交差点
そうして、これまた信じられないのですが、車はもちろん持たず、飲みにも行かず、親からはある程度仕送りをしてもらい、学費と生活費はなんとかなっていたのですが、バイトもしていて、なんとそのバイトでの給料を貯金したそうです。そうして、4年間で少なくとも数百万以上の貯蓄をしていたそうです。

彼自身は、比較的裕福な家庭の出身のようですが、まわりの友人などが深刻な状況であれば、自分独りだけ遊んだり、楽しんだりすることもできず、将来には不安もあるということで、こういうことになってしまったのだと思います。

「40歳にして一度も結婚を経験していない男性の急増」これも、なんとなく理解できます。結婚するにしても、ある程度お金がかかります。さらに、最初は共稼ぎできたとしても、子どもができれば、共稼ぎはなかなかできず、男性にある程度稼ぎがないと生活がなりたちません。仮に、成り立つとしても、それがいつまで続くかなど保証の限りではありません。そうなれば、結婚に二の足を踏むのは当然のことです。

それに先ほどの若者のように、車を持たない、飲みにも行かないし、そもそもあまり外出しないということでは、女の子と知り合う機会もないではありませんか。

以上のようなことから、私は堺屋太一氏を含めた、団塊の世代以上の人たちが思っている以上に現在若者がおかれている環境は厳しいものがあると思います。

若者にもっと優しい社会を!

最近このブログては、安倍総理が増税を見送るかもしれないということを掲載しています。8%増税でも酷い結果を招いていまいました、10%増税など予定通りに行われてしまえば、とんでもない結果を招いてしまいます。若者の自殺者がさらに増えてしまうことになるかもしれません。

今一度言います。増税は緊縮財政です。そうして、先ほども述べたように、不況に陥った際に緊縮財政によって死者数が増えていた国々が多数あります。かつての日本もそうでした。

そうして、堺屋太一氏の主張する現代日本の最大の危機はこの若者の「3Y」にあり、これを取り除くためには、緊縮財政ではなく、当面積極財政を行うべきです。

そのためには、10%増税は完全デフレ脱却まで、絶対にしないことと、減税、給付金、公共工事など、積極財政をすべきです。

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2016年3月3日木曜日

【朝日新聞記事】(政治断簡)だまってトイレをつまらせろ 政治部次長・高橋純子―【私の論評】「朝日が正しい、安倍が間違い」という観点から意思決定をする朝日新聞に明日はない(゚д゚)!

【朝日新聞記事】(政治断簡)だまってトイレをつまらせろ 政治部次長・高橋純子

2016年2月28日05時00分

高橋順子
「だまってトイレをつまらせろ」

このところ、なにかにつけてこの言葉が脳内にこだまし、困っている。新進気鋭の政治学者、栗原康さんが著した「はたらかないで、たらふく食べたい」という魅惑的なタイトルの本に教えられた。

ある工場のトイレが水洗化され、経営者がケチってチリ紙を完備しないとする。労働者諸君、さあどうする。

(1)代表団を結成し、会社側と交渉する。

(2)闘争委員会を結成し、実力闘争をやる。

まあ、この二つは、普通に思いつくだろう。もっとも、労働者の連帯なるものが著しく衰えた現代にあっては、なんだよこの会社、信じらんねーなんてボヤきながらポケットティッシュを持参する派が大勢かもしれない。

ところが栗原さんによると、船本洲治という1960年代末から70年代初頭にかけて、山谷や釜ケ崎で名をはせた活動家は、第3の道を指し示したという。

(3)新聞紙等でお尻を拭いて、トイレをつまらせる。

チリ紙が置かれていないなら、硬かろうがなんだろうが、そのへんにあるもので拭くしかない。意図せずとも、トイレ、壊れる、自然に。修理費を払うか、チリ紙を置くか、あとは経営者が自分で選べばいいことだ――。

船本の思想のおおもとは、正直よくわからない。でも私は、「だまってトイレをつまらせろ」から、きらめくなにかを感受してしまった。

生かされるな、生きろ。

私たちは自由だ。



念のため断っておくが、別にトイレをつまらせることを奨励しているわけではない。お尻痛いし。掃除大変だし。

ただ、おのがお尻を何で拭こうがそもそも自由、チリ紙で拭いて欲しけりゃ置いときな、という精神のありようを手放したくはないと思う。

他者を従わせたいと欲望する人は、あなたのことが心配だ、あなたのためを思ってこそ、みたいな歌詞を「お前は無力だ」の旋律にのせて朗々と歌いあげる。うかうかしていると「さあご一緒に!」と笑顔で促される。古今東西、そのやり口に変わりはない。

気がつけば、ああ合唱って気持ちいいなあなんつって、声を合わせてしまっているアナタとワタシ。ある種の秩序は保たれる。だけども「生」は切り詰められる。



「ほかに選択肢はありませんよ――」

メディア論が専門の石田英敬・東大教授は2013年、安倍政権が発するメッセージはこれに尽きると話していた。そして翌年の解散・総選挙。安倍晋三首相は言った。

「この道しかない」

固有名詞は関係なく、為政者に「この道しかない」なんて言われるのはイヤだ。

近道、寄り道、けもの道、道なんてものは本来、自分の足で歩いているうちにおのずとできるものでしょう?

はい、もう一回。

だまってトイレをつまらせろ。ぼくらはみんな生きている。

【私の論評】「朝日が正しい、安倍が間違い」という観点から意思決定をする朝日新聞に明日はない(゚д゚)!

新聞をトイレットペーパーに?

ネット上でかなり批判を浴びていたので、朝日新聞の2月28日朝刊のコラム記事を読んでみました。それが、ブログ冒頭の記事です。これにはもう、驚いてしまいました。こんなハチャメチャな記事を掲載して、日本の大手全国紙の矜持は一体どこに吹き飛んでしまったのでしょうか。いや、もともと朝日新聞にはそのようなものはなかつたのでしょう。

内容が、偏向しているとか誤報だというのならまだ理解できなくもありませんが、内容があまりに粗暴、下品、かつ論理のかけらもなく、違法行為の扇動を示唆する内容になっています。

筆者は政治部次長の高橋純子記者です。次長だから一般記者の取材や出稿を指揮する立場なのだと思います。少なくとも中堅以上のキャリアのある人だと思います。

さて以上の記事のテーマは普通に読めば、たとえ比喩やたとえにであったとても、トイレで大便をした後に新聞紙を使え、という勧めです。そうして、それが安倍政権への反対活動の最善の方法だということです。

私自身も、長い間地元の北海道新聞や、その他の全国紙を読んできましたが、こんなひどい記事は読んだことがありません。地元地方紙の北海道新聞にも酷い記事が掲載されており、過去には、このブログで北海道赤旗新聞と揶揄したこともあるくらいです。

しかし、今回のこの記事は、北海道新聞よりもさらに低劣で、救いようのない内容です。朝日新聞の編集は、どうしてしまったのでしょうか。もうここまで落ちてしまったのでしょうか。

それにしても、新聞記者が自分の生命でもある新聞を尻拭きに使えという無神経、朝日新聞は、朝日新聞をトイレットペーパーに使えとでも言いたいのでしょうか。そうして、それを強引に安倍政権叩きに結びつけるという論理の飛躍。朝日新聞は、とうとう発狂したのでしょうか。

ブログ冒頭の記事で、安倍総理の「この道しかない」というキャッチフレーズは、2014年衆院解散総選挙のときのものだったと思います。そのときの自民党のCMの動画を以下に掲載します。




この時に、朝日新聞を含めたメデイアの多くは、衆院解散を「大義なき解散」と断定して報道していました。しかし、14年の4月からの増税は大失敗であったことがはっきりとしていたので、今頃10%増税など当初の予定通りに実施していたら大変なことになっていたはずです。

だから、この時の「景気回復、この道しかない」というキャッチフレーズは正しいものであったと評価できます。それに対する批判であるとすれば、とんでもない見当違いです。それに、安倍総理が「この道しかない」としたのは、あくまで「景気回復、この道しかない」としたのであって、ブログ冒頭の記事の書き方では、他の事柄、たとえば「戦争への道、この道しかない」とでも受け取られかねない書き方です。

高橋順子といえば、朝日新聞の社説「余滴」というコラムで、得体のしれない「1分半に1度かけられる命」という意味不明の記事も書いていたました。以下にその記事のコピーを異彩します。


この記事も酷いものですが、ブログ冒頭の記事は、さらに磨きがかかつたというか、酷い内容になっています。

通常、新聞のコラムは、掲載にあたり、デスクや編集長 紙面審査委員による審査があり、コラムの筆者も筆者ですが、これを通過させる神経が全く理解できません。 ガバナンスどころの問題ではありません、通常のマネジメントもできていないレベルではないかと思います。

ブログ冒頭の記事も、上の記事も、何が酷いといって、内容が空虚で結局のところ、安倍総理に対する個人攻撃になって閉まっている点です。

そうして、このような状況では、朝日新聞ではまともなマネジメント上の意思決定など全く行われていないということが良く理解できます。

このブログでは、何度かマネジメント上の意思決定の原則について掲載したことがあります。

その代表的な記事のリンクを以下に掲載します。
民主など 首相の大阪でのテレビ出演に抗議―【私の論評】最初から誰が正しいか何が受け入れられるかで意思決定するな!すれば与野党ともドツポにはまる(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事よりマネジメント上の意思決定の原則に関する部分のみ以下にコピペします。

"
最初から誰が正しいか何が受け入れられるかで決定してはならない

この言葉の意味は重要です。この言葉を良く理解すれば、なぜ今の国会審議があれほどまでに、空虚で意味のないものになっているのかを良く理解できます。

ドラッカー氏は、『経営者の条件』という書籍で以下のように述べています。
 決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、最初から誰が正しいか、何が受け入れられやすいかという観点からスタートしてはならない。
これは、意思決定の過程においては、まずは「誰が正しくて、誰が間違いか」などという論議すべきではなく、あくまで「何が正しくて、何が間違いか」という議論をすべきであって、そうでなければ、全く不毛な論議となってしまい、まともな意思決定ができなくなってしまうということです。

いわゆる「安倍嫌い」は、最初から「誰が正しくて、誰が間違いか」という主張をしているに過ぎません。要するに、上のTweetで田中氏が述べているように、「自分と意見違うものはリンチという徹底した態度」ではまともな論議ができず、まともな意思決定もでなきないということてず。

そのためでしょうか、国会での最近の安保法制の議論など、全くまともな議論になっておらず、国民にとっても理解しがたいものになっています。

しかも、大方の政治家は、せっかくの意思決定も実行されなければ意味がないと思うものです。そのため、最初から落としどころとしての妥協を考えてしまいます。

妥協には昔から知られているように2つの種類があります。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基づくものです。

前者では半分は必要条件を満足させる。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用となる。しかし、半分の赤ん坊では妥協にもなりません。

ラファエロ作『ソロモンの審判』
『ソロモンの審判とは、』旧約聖書に出てくる話であり、イスラエルの賢王ソロモンが、いかにも当時の絶対専制君主らしく、子を剣で半分に切って女二人で分けよと審判します。このような妥協ならしないほうがずっとましです。
民主党などの野党は、とにかく「安倍嫌い」の立場から、安倍総理の主張は全く間違いであり、自分たちが正しいものとして、物事を考えているようです。そうして、そのスタンスで安倍総理に対峙するものですから、とにかく憲法解釈の変更による集団的自衛権に関わる、安保法制は違法として、安倍総理に対峙しようとします。

そのため、全く話が噛み合いません。そうして、いずれ妥協の段階に入るとは思いますが、安倍総理の立場からすれば、民主党などの言うとおりに妥協してしまえば、まともな「戦争抑止法案」とはなりえず、それこそソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」という結果を招いてしまい、とんでもないことになってしまうため、妥協はできません。そのため、無意味な審議は長引くばかりです。

ドラッカーは、何が受け入れられやすいか、何が反対を招くから触れるべきでないかを心配することは無益であって、時間の無駄だと言います。心配したことは起こらず、予想しなかった困難や反対が突然ほとんど対処しがたい障害となって現れるとしています。

かつての自民党は、安全保障に関して、非常に曖昧な態度をとりました。これが、今日の事態を招いたことも否めません。
"
まさしく、朝日新聞は「何が正しい、何が間違い」という観点からマネジメント上の意思決定をするのではなく、「誰が正しい、誰が間違い」という観点、もっと直截に言えば、「自分たちが正しい、安倍が間違い」という観点から意思決定をしているとしか思えないです。

こんなことはでは、まともな意思決定ができないのは当然のことです。上の2つの高橋順子の2つの記事を読むと、「何が正しい、何が間違い」という観点は全くなく、「朝日が正しい、安倍が間違い」という観点で書かれているためか、情報量という観点からも、本当に希薄な内容になっています。安保を論ずるにしては、あまりにもガサツで、粗野な観点しかなく、これではとうていまともな論議などできるはずもありません。

そうして、このような記事の掲載を許す、デスクや編集長 紙面審査委員が存在しているということです。これでは、まともな意思決定ができず、それこそ、いつも半分の赤ん坊を得るという類の妥協しかできず、そのような妥協を重ねていくうちに、やがて組織が崩壊することでしょう。

ドラッカー氏が生きていたとしたら、朝日新聞は、意思決定のまずさのケーススタディーとして、取材を受けたかもしれません。そうして、朝日新聞は、たとえドラッカー氏がコンサルタントをしても、体質を変えることができずにやがて崩壊することでしょう。

朝日新聞の体質は全く変わっていないということです。

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2016年3月2日水曜日

【米大統領選】トランプ氏、中国に敵意むき出し クリントン氏も「中国は大量の政府情報盗んでる」―【私の論評】トランプが大統領になる日、日本はどうなる(゚д゚)!




米大統領選のスーパーチューズデーで大勝し、指名獲得に近付いた共和党のトランプ氏と民主党のクリントン氏。いずれも環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に反対しているほか、対中強硬姿勢を鮮明にしており、両氏が大統領になった場合の対中、対日政策が注目されている。

「貿易でも軍事でも(他国に)勝利する」「日本や中国から雇用を取り戻す」

1日、オハイオ州の空港に専用機で現れたトランプ氏は、お決まりのフレーズで支持者に呼びかけた。夜にはフロリダ州の自身が所有する社交クラブで勝利宣言を行い、「建機大手のキャタピラーは、コマツと競争するのが円安で難しくなっている」などと発言し日本にクギを刺した。

「強い米国」の復活を掲げるトランプ氏は米中貿易改革も公約の一つで「中国の輸入関税を45%にする」と極論を展開。「中国は米国民が飢え死にすることを望んでいる」と発言するなど敵意をむき出しにする。

これに対し、クリントン氏も昨年7月、中国の南シナ海の軍事拠点化を「同盟国の脅威」と指摘し、サイバー攻撃では「中国は大量の政府情報を盗んでいる」と言い切った。9月には、中国の習近平国家主席が女性の権利向上に関する会合を国連で開いたことにツイッターで「恥知らず」と批判し、話題を集めた。

また今年2月、米紙への寄稿で改めてTPP反対を表明し、中国や日本が輸出拡大のために為替操作を行っていると批判。大統領に就任した場合は対抗措置を取るとしている。

競い合うように対中強硬姿勢を打ち出す両氏だが、トランプ氏の政策は実現困難との見方が多い。クリントン氏も自由貿易政策を支持してきた経緯があり、実際の政策運営がどうなるかは未知数だ。

【私の論評】トランプが大統領になる日、日本はどうなる(゚д゚)!

トランプ氏は、従来から中国に対しては厳しい発言をしてきました。ただし、日本に対しても、厳しい発言をしていました。

クリントン氏も、習近平に対して「恥知らず」と批判したことは、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ヒラリー氏が習主席に「恥知らず」抗議女性拘束の中国が人権会合のホスト?―【私の論評】次期米大統領は、口先オバマのようには御せないことを思い知った習近平(゚д゚)!
ヒラリー・クリントン
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事は昨年の9月28日のものです。以下に、元記事から以下に一部を引用します。

"
ヒラリー・クリントン前国務長官は27日、中国の習近平国家主席がニューヨークの国連本部で同日、女性の権利向上に関する会合を国連と共催したことに関し、自身のツイッター上で「恥知らず」とののしった。
ヒラリー・クリントン氏のツイッターから
ロイター通信によれば、中国当局は今春、公共交通機関内でのセクハラ行為に抗議しようとした女性5人を拘束。釈放したのは約1カ月後だった。これについてパワー米国連大使は「女性の権利向上を実現したいのなら、信条や考えを問題視して投獄などするな」と中国を非難していた。

習氏がホスト役を務めた会合は、女性の権利保障をうたった「北京宣言」(1995年)から20年になるのを記念する特別行事。潘基文(パン・ギムン)国連事務総長や各国首脳らも出席した。
"
そろって、対中強硬論を打ち出すトランプ、クリントン両氏のいずれもが大統領になってもおかしくはない状況になりつつあります。実際にいずれかが、大統領になったとして、どの程度対中強硬路線を打ち出すのか、未だ未知数ではありますが、結局中国を増長させてしまったオバマ大統領のようなわけにはいかないと、習近平も覚悟を決めていることでしょう。

さて、クリントン氏が大統領になれば、日本としてはオバマ大統領が民主党であったこともあり、オバマが大統領であとったときとアメリカの政策はあまり変わらないものの、クリントン氏は及び腰だったオバマよりは、はるかに中国に対して強硬派であることから、かなり御しやすいことでしょう。

しかし、まかり間違って、トランプ氏が大統領になったとしたら、日本も習近平なみに覚悟を決める必要があることでしょう。

演説するトランプ氏

ご存知のように、トランプ氏の発言は超過激です。例えば、不法入国した1100万人のメキシコ人を全員強制送還し、国境に「万里の長城」を作り、その費用はメキシコに払わせると宣言しました。

これは、非現実的ではありますが、最近の米国は及び腰のオバマのせいで、世界中で中国、ロシア、中東諸国に譲歩を重ねてきた反動なのか、米国人は今、トランプのような強い指導力に飢えています。

オバマ氏は、米国は世界の警察官をやめると公言し、中国やロシアを増長させ、移民問題も含めて、外交政策には大失敗しました。この外交音痴ぶりについては、日本におけるあの鳩山氏よりも、米国内では評判が悪いです。

また、オバマが在任中に、財政赤字も膨らむ一方でした。一方、連邦議会も膠着状態に陥っています。政治家が公約を守らないことに、国民はあきれ果てています。不満が鬱積した米国民は少しくらい独裁的で下品でも、真実を語り、やるべきことをやる強いリーダーを求めています。


ドナルド・トランプ氏とエクイタブル生命保険が共同所有するトランプタワー
他の共和党候補は、トランプ氏のなりふり構わぬ戦い方に圧倒されています。政治経験全くなく、4度の破産経験があるトランプ氏が大統領になったら米国は一体どうなるのか、世界がどうなるのか、まったく読めません。良くなるかもしれないですが、悪くなる可能性も十分にあります。

特に、トランプ氏は、日本に対しては、集団的自衛権の片務性に関して、強く非難しています。

日本は、自国を攻撃されれば米国に防衛してもらうのに、米国が攻撃されても何もしないというのでは不公正だ、と声高々に批判しました。

昨年の8月21日、アラバ州モービル市の巨大なフットボールスタジアムに集まった3万人の聴衆に向かい、トランプ氏はこの発言を行いました。聴衆の間からは「ノー」という声がいっせいにわきあがりました。

昨年8月21日のアラバマ州モービル市の集会では、トランプ氏は赤いキャップを被っていた
トランプ氏は、「集団的自衛権」などという一般に馴染みのない用語は使っていません。日本や日米関係にも詳しくない平均的な米国民にとって理解しやすい表現で、米国からみて日本の集団的自衛権問題がいかに特殊であるのかをはっきりと描写しました。大衆アピールや扇動の巧みなトランプ流の演説だといえます。しかし、このような形で日米同盟の年来の片務性が米国一般に問題として提示されることは、日本側にとって好ましいはずはありません。

トランプ氏の演説には、この片務性は、本来米国による日本の弱体化の一環であるという歴史的背景を示す言葉が一切ありません。これでは、親日派や、知日派の人々は別にして、一般の人々には日本が卑怯であるとしか映りません。

そうして何よりも衝撃的だったのは、このトランプ氏の発言が行われたときに、ほかならぬ日本では、国会で集団的自衛権の行使を含む安保法案の審議が行われていたにもかかわらず、この発言に関してほとんど顧みられることなく、野党の「戦争法案」というレッテル貼りによる、審議拒否により、怒号と混乱の中で、安保法案が成立したことです。

及び腰の、オバマ氏の任期中、世界がどれほど揺れ動いたかを考えると、日本の安全保障を、いつまでも米国に依存するのは危険です。安全保障法制にまだ抗議している野党議員は、国家観や世界観など頭の片隅にもありません。日本は早く自立した国家になり、平和を愛する他の国々と協力して、リーダーシップを発揮すべきです。

特に中国に対しては、アジア一極支配や、海洋進出の野望を打ち砕きアジアの平和と安定を実現し、引き続きアジアの繁栄を確かなものにしていくべきです。

そのためには、私たち日本人も覚悟を決める必要があります。マスコミや、いわゆる識者の間では、トランプ氏は絶対に大統領になるべきではない人物との定評ですが、トランプ氏が大統領になることは、悪いことばかりではないと思います。

そもそも、アメリカは二大政党制の国で、大統領が民主党のオバマから共和党のトランプに変わったからといって、政治が驚天動地の変化をするということはありません。60%〜70%はどちらの政党がなったにしても、内容は変わりません。残りの、40%〜30%で前政権との違いを出します。

さらに、現状は、大統領は民主党ですが、議会は共和党が多数派です。それに、アメリカ大統領は、平時においては世界でもっとも権限が少ない国家元首ともいわれています。アメリカにも三権分立がありますが、平時には大統領の権限がかなり弱く、司法が最も強いともいわれています。

アメリカの政治は大統領独りで自由に変えられるものではない

そんな中で、トランプ氏がいくら強行発言をしたからといって、まともな手続きを経てでないと何もできませんから、トランプ氏が大統領になったからといって、実際にどの程度のことができるのか疑問です。

ただし、アメリカの法律は不思議なもので、平時は権限の少ない大統領なのですが、一旦戦争することを議会が承認したとなると、突然大統領の権限が増大し、オールマイティーになってしまうという国柄です。

トランプ氏は自らの強硬な発言を実現しようとすれば、議会を説得して、正式に戦争に突入するという道しかないです。

ただし、今年に入ってから、世界の各地でいつどこで戦争になってもおかしくはない状況にあります。もしアメリカがいずれの国であれ、正式に戦争ということになれば、トランプ氏が大統領なら、かなりのことができるようになります。

そんなことになっても私たちは、うろたえることなく、日本の正しい道を選択できるように今から準備をしておくべきです。

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2016年3月1日火曜日

【マイナンバー】システムが危機に直面! 障害1カ月連続発生 追加サーバーも欠陥、原因不明―【私の論評】この体たらくは、政治主導ではなく官僚主導ですすめられた制度だから(゚д゚)!



全国民に12桁の番号を割り当てるマイナンバーカードをめぐるシステムが危機に直面している。カードを発行する地方公共団体情報システム機構のサーバーで原因不明のシステム障害が1カ月以上にわたり1日に1回のペースで発生していることが1日、判明。1月25日までの約2週間に6回発生した公表済みの障害以降も続いていた。機構は、原因不明の障害を起こした既存サーバー2台の欠陥を知りながら追加導入した同機種3台全てに障害が発生したが、リスクを抱えた運用を続ける構えだ。

機構によると、1月26日から2月29日までに、カード作成のための「中継サーバー」のデータ処理が、平均で1日1回遅滞する障害が発生。カード交付に必要な情報を自治体に伝達できなくなった。そのたびに再起動を繰り返し毎回数分間サーバーの機能が停止した。1月末には1日に3回も障害が発生したことがあった。

結局、1月25、28、2月5日に追加導入した3台全てに障害が相次ぎ再起動を余儀なくされたが、いずれも原因は判明していない。サーバーは、トラブルがなければ再起動せずに常時稼働しているはずだった。

機構は2月1日、各自治体に対し、障害時の対応として「サーバーを再起動し、事象を解消するよう努める」と説明。具体的には自治体と交信中のサーバーを再起動した場合、自治体の処理が無効になるため別のサーバーを活用する考えを伝達した。再起動が実際に頻発し、再処理に迫られた自治体が複数あった。

だが、機構は障害の影響について「大きな問題だが、多くの自治体から問い合わせはなかったので、住民サービスへの影響はなかった」と主張している。

障害をめぐり、機構は1月22日、それまでの1、2号両機のシステム障害を受け「契約上の望んだ機能がない」と納品した情報通信会社に抗議した。両機で計6回も障害が起こったものの、同機種のサーバーでも複数あればデータ処理を補えると判断し、相次ぎ追加導入した。現在、障害が深刻な2号機を切り離し、追加サーバーを含めた4機態勢で運用を続けている。

【用語解説】地方公共団体情報システム機構

住基ネットなど個人認証業務を全国の自治体から請け負う地方自治情報センターが平成26年に組織改編し、地方共同法人として発足。マイナンバーカード発行を独占するが、省庁のように情報公開制度の対象になっていない。

【私の論評】この体たらくは、政治主導ではなく官僚主導ですすめられた制度だから(゚д゚)!


私自身としては、マイナンバー制度自体には、税金を確実に収めさせるとか、反社会的な組織の資金源をつきとめたり、断ったりすることもでき、非常に良い制度だと思います。

これにあからさまに反対する人は、脱税しているか、反社勢力とのお付き合いがあることを告白しているようなものではないかと思います。

以下にマイナンバー制度の意義に関する動画を掲載させていただきます。




さて、ブログ冒頭の記事のように、マイナンバー制度の運用が始まる中、カード発行を担う地方公共団体情報システム機構のプログラムに誤りがあったことが分かりました。

また、システム障害の情報開示について、マイナンバーを管理する地方公共団体情報システム機構が拒否していたことも明るみになり、機構の隠蔽体質が浮き彫りになった形となりました。
機構は平成26年、マイナンバー業務など公的個人認証業務を専門に行う「地方共同法人」として発足しましたが、秘匿性の高い個人情報を取り扱うため、省庁や地方自治体のように情報公開制度の対象になっていません。

個人情報を扱うので、情報開示制度の対象外というのはわからなくもないです。しかし、運用方法などが法律で定めれられているとしても、システムトラブルやにバグについては公開しても良いのではないと思います。

実際にバグがあるのであれば、運用を延期するか、管理情報の内容を浅くするべきです。かつて会社のシステムを組んでいた経験もある私としては、多少のバグはやむを得ないと思います。

ウィンドウズのOSでも、バグ修正のアップロードしないといけないということもありますし、原子力のプラントとかシステムにも、バグがあると書いてある読み物もあるくらいですから・・・・。

しかし、データのアップロード程度ことで、バグがあるとすれば、セキュリティーに関しても脆弱な部分があると疑うべきでしょう。

対策としては、マイナンバーの運用材料を最小限(税金と保険・年金に限るとか)にして、安定したシステム運営が確立してから、膨大な情報(銀行預金データ・パスポート・本籍など)とのリンクを開始すべきではないでしょうか。

税金や保険・年金に関する個人情報が多少漏れたとしても、さほど大きな問題になるとは思えません。


しかし、パスポート情報や運転免許証にリンクされている本籍の情報などは、それこそ、当の本人が拉致・抹殺された後に第三者が当人成り変わることもできるようなことも可能になる重要なデータです。

これらのリンクは、セキュリティーの完成度を確認してからにすべきです。それにしても、情報開示もしない組織ですから、すでにそのような重要な情報を既にリンクしているかもしれません。これは、恐ろしいことです。


さて、これはこれとしてこのマイナンバー制度の推進機関でもある、地方公共団体情報システム機構について、触れます。

この組織、実は総務省の天下り機関として有名な「財団法人地方自治情報センター」が、マイナンバー制度の導入をきっかけに形を変えたのものです。略称として、「機構(きこう)」や「J-LIS(ジェイリス)」と呼ばれています。

この機構は、法律(地方公共団体情報システム機構法)で定められた「地方公共団体が共同して運営する組織(地方共同法人)」なので、その資本金は地方公共団体から出資されています。言ってみれば、全国の自治体が株主になった株式会社みたいなものです。さらに機構の運営に要する費用についても、同法で地方公共団体が負担することになっています。

ですから、機構の運用費用は、この法律に従い市などの自治体から機構へ、その市町村が負担する分の費用を支出するという形になります。

機構の業務範囲も法律で定められていて、マイナンバー制度に関する事務もその一つです。マイナンバー以外にも、住基ネットや公的個人認証など、自治体の情報システムに関する業務のほとんどを、機構が取り仕切っていると言って良いでしょう。

マイナンバー制度は、国の事業ですから、国から市に対して補助がありますが、他の機構の業務も国の補助を受けるものが多いので、「国から市に入ったお金(補助)を右から左へ機構に(機構運営の自治体負担分として)支出」と見えることがあります。

役員の報酬及び退職金については、自治体の首長等で構成される「代表者会議」の議決を経る必要があるので、市の議会で「理事長の報酬が高いのではないか」といった議論を行い、その結論を踏まえて、機構の「代表者会議」に提言することは当然に認められます。

財団法人(公益法人)から「地方共同法人」になったことで、機構の経営についても自治体の権限が強化されたのですが、依然として総務省の所管(総務大臣への届出等が必要)であり、その影響を強く受けているのが実態です。実際、機構の役員情報(PDF)を見ると、副理事長と理事の一人は旧自治省出身者となっています(注意]現在は閲覧できません)。

機構の役割は何かと言えば、「国や地方の税金を財源とする自治体情報システム市場のハブとしての機能」です。

国(総務省)の配下に機構があり、その機構に全国の自治体がぶら下がっていて、さらにその下にITベンダーやシンクタンクがぶらさがっているという「エコシステム(生態系)」が出来上がっているわけです。「ITや情報システム」の名目で集められた税金を、官民学の関係者に再分配するということです。

さて、総務省では、マイナンバー導入にかこつけて2016年度予算に向け「自治体支援費」を計上しようと検討が進められていました。

全国の自治体には、個人情報を扱っているパソコンを、インターネット接続できる系統から完全分離している自治体は1割弱しかありません。サポートが切れたウィンドウズXPをまだ使っている自治体もかなりあります。マイナンバーの個人情報漏れを防ぐためには、各自治体で新しいパソコンを増やし、システムを更新しなければならない。しかし地方では予算がないから、国が支援する必要があるとの理由で、検討がすすめられ、番号制度の円滑な導入と利活用の促進ということで 204.3 億円の予算がつきました。

 地方自治体ではサポートの切れた、ウィンドウズXPを使用している場合も・・・
厚生労働省では、年金や健康保険の手続きでマイナンバーを利用するため全国300か所の年金事務所のシステムを構築する必要があり、巨額の費用がかかります。それに加えて労働基準監督署やハローワークでもマイナンバーを使おうと準備が進められています。

そもそも、「地方公共団体情報システム機構」に組織改編されたときの、予算書を見ると本年度は700億円もの事業費を計上しており、うち500億円以上がマイナンバー関連事業とされています。同機構の副理事長と理事は、もちろん総務省出身の天下りです。

内閣官房には、「政府CIO(チーフ・インテリジェンス・オフィサー)」なる聞き慣れない肩書きを持つ「内閣情報通信政策監」を長とする、「IT総合戦略室」という組織がある。ここにもマイナンバーを担当する班が存在する。



こう見てくると、“マイナンバー特需”に沸いているのは官僚たちだけだということがよく分かる。

今後、会社員は家族分を含めたマイナンバーを会社に提出し、2016年1月からは証券口座開設の際に番号を求められ、2018年からは預貯金口座のマイナンバー登録も始まる。企業には厳しい個人情報管理が要求され、従業員100人の企業のコスト負担は初期費用で1000万円、毎年400万円ほどになるという試算もある。

本当に「国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する」仕組みになるか、監視が必要です。

こうした「エコシステム」が良いか悪いかは賛否の分かれるところですが、各自治体がバラバラに情報システムを構築・運用している現状を考えると、「お金の分配」はそれなりに上手くやってきたものの、「費用対効果の高い効率的で持続可能な自治体の情報システム」は結局のところ、ブログ冒頭の記事もわかるように、実現できなかったわけで、機構のガバナンスについても経営・運営についても課題が多いです。

総務省エコシステムは、官僚にとって最適のシステムであり国民にとって最適なシステムではない
なぜこのようになってしまうかといえば、やはり官僚主導で新しいマイナンバー制度が推進されるからだと思います。マイナンバー制度の導入や、法律などは確かに国会で政治家によって、決められたことですが、具体的な導入は、方針等を含めて、そのほとんどが総務・財務官僚などによって、推進されたからです。

これでは、当然のことながら、官僚にとって都合の良いシステムになるのが当然のことです。そうして、これからも、「地方公共団体情報システム機構」は官僚の天下り先としての役割を果たし、官僚のハッピーライフのために奉仕します。

それを是正するためには、政治主導にするしかありません。それを打破するためには、まずは役所の中の役所ともいわれる財務省を解体する必要があります。

ただし、この財務省、単純に解体すると、解体された組織を時間をかけて植民地化するという習性があり、それを放置しておくと、解体したときよりもさらに自分たちの権益を増大するという恐ろしい怪物です。

これは、経済学者の田中秀臣氏が私にツイッターで教えていただいたことです。田中氏は、これを防ぐ手段として、解体した財務省の各々を、他の省庁の下部組織として配置することを提案していました。これだと、完璧です。

そうして、ここからは、私の提案ですが、これにプラスして、さらにマイナンバー制度などを実施するにあたっては、各省庁が直接行うというのではなく、政治主導で、NPOに委託する形として、競争入札で民間NPOに実施させる形とすべきです。

これで、完璧に官僚主導は終焉し、政治主導の政治を推進することができるようになります。

NPOというと、日本では、善意で集まった人々が手弁当で実施する奇特な事業くらいの感覚しかありませんが、欧米では違います。特にアメリカでは、全NPOの予算は国家予算に匹敵するほどで、かなり大型のプロジェクトも手がけています。

アメリカでは、たとえば、大きな建築会社や、銀行などもNPOのメンバーに入っていて、アメリカ各地で、貧困層住宅の包括的プログラムで、住宅だけではなく、雇用のための教育・訓練や雇用までも含む、包括的パッケージで貧困層を支援するなどということが手広く行われています。



そうして、NPOは大学や大学院を卒業した前途ある若者の、雇用先としても注目されている、立派な組織でもあります。

それにしても、このようなことを推進するにしても、やはり最初の崩さなければならない本丸は財務省です。

日本で、なぜ欧米型のNPOが成り立たないかといえば、それは寄付金の文化がないためです。そうして、寄付金の文化がない理由は、大量の寄付がなされるということは、財務省からすれば、財政民主主義の立場から良くないとして、様々な制限があるからです。

いずれにせよ、まずは財務省を解体して、他省庁の下部組織にしてしまうことが、ブログ冒頭の記事に書かれているような過ちを防ぐための第一歩となることは確かなようです。

【関連記事】

財務省が軽減税率で無理筋の還付案を出した狙い―【私の論評】安保法制が通った今、日本最大の危機である増税呪詛を回避する方法はこれ一つ(゚д゚)!




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2016年2月29日月曜日

【湯浅博の世界読解】「自滅する中国」という予言と漢民族独特の思い込み―【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!


孫子の兵法書
中国の習近平国家主席は昨年9月に訪米し、確かに「南シナ海を軍事拠点化しない」といった。果たして、この言葉を素直に信じた沿岸国の指導者はいただろうか。

その数カ月前、米国防総省の年次報告書「中国の軍事力」は、南シナ海の岩礁埋め立てが過去4カ月で面積が4倍に拡大していると書いた。中国の国防白書も、「軍事闘争の準備」を書き込んで、航行の自由を威嚇していた。

かつて、マカオの実業家がウクライナから空母ワリヤーグを購入したとき、中国要人が「空母に転用する考えはない」と語ったのと同様に信用できない。中国の退役軍人がマカオ企業の社長だったから、尻を隠して頭を隠さずというほど明白だった。

漢民族は自らを「偉大なる戦略家である」と思い込んでいる。孫子の兵法を生んだ民族の末裔(まつえい)であるとの自負が誤解の原因かもしれない。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問、E・ルトワク氏は、戦略家であるどころか「古いものをやたらとありがたがる懐古的な趣味にすぎない」と酷評する。実際には、中核部分の「兵は詭道(きどう)なり」というだましのテクニックだけが生きている。

その詐術も足元が乱れることがある。米メディアが南シナ海のパラセル諸島への地対空ミサイル配備を報じた直後、王毅外相が「ニュースの捏造(ねつぞう)はやめてもらいたい」といった。すると、中国国防省がただちに「島嶼(とうしょ)の防衛体制は昔からだ」と反対の見解を表明して外相発言を打ち消していた。

国家の外交が、ひそかに動く共産党の軍に振り回されている。軍優位の国にあっては、当然ながら国際協調などは二の次になる。

ミサイル配備が明らかになったウッディー島は、南シナ海に軍事基地のネットワークを広げる最初の飛び石になるだろう。早くも22日には、CSISが南シナ海スプラトリー諸島のクアテロン礁に中国が新たにレーダー施設を建設しているとの分析を明らかにした。

やがて、これら人工島にもミサイルを配備して戦闘機が飛来すれば、船舶だけでなく南シナ海全域の「飛行の自由」が侵される。

ルトワク氏はそんな中国を「巨大国家の自閉症」と呼び、他国に配慮することがないから友達ができないと指摘する。例外的に1国だけ、核開発に前のめりの北朝鮮がいるが、それも近年は離反気味である。

中国が脅威を振りまけば、沿岸国など東南アジア諸国連合(ASEAN)は、共同で対処する道を探る。オバマ米大統領が昨年はじめてASEAN大使を任命し、米・ASEAN関係を戦略的パートナーに格上げすることで、その受け皿にした。

中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を含む札束外交で歓心を買おうとしても、従属を強要する意図が見えれば中国への警戒心はむしろ高まろう。ASEAN首脳が米西海岸サニーランズでオバマ大統領との会談に応じたのも、対中ヘッジ(備え)になってくれると考えるからだ。

オバマ政権のアジア・リバランス(再均衡)に中身がなくとも、中国のごり押しで米国とASEANの緊密化が進み、中国の影響力をそぎ落とす。それがルトワク氏のいう『自滅する中国』という予言なのだろう。(東京特派員)

【私の論評】すでに自滅した中国、その運命は変えようがない(゚д゚)!

『自滅する中国』は、アメリカの戦略家E・ルトワク氏による、中国はなぜ対外政策面で今後行き詰まるのかを、大まかながら鋭く分析した異色の書です。

以下に、この書籍を読んで私自身が考えたことなどを掲載します。

著者は中国行き詰まる理由として、中国が巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っていると指摘しています。

この「内向き」な思考にはしばしば驚かされます。中国でかつて行われた、反日デモは官製でもであることが明るみに出ていますが、なぜ国家があのようなことをするかといえば、日本を敵にしたたて、共産党政府に人民の怨嗟の矛先が向かないようにするためです。

最近ほとんど見られなくなった中国の反日デモ。
デモするのも、しないのも、中国内部の事情だ。 
しかし、この反日デモも、発生してしばらくすると、必ずといって良いほど、反政府デモに変わってしまうため、最近では政府が逆に規制をして実施させないようにしています。尖閣や、南シナ海の中国の行動に関しても、対外的な示威行動という側面は無論ありますが、中国内の人民や政敵にむけての示威行動という部分もかなりあります。

さらにこのようなことに、追い打ちするように、著者は中国(漢民族)は実は戦略が下手だという意外な指摘を行なっています。その理由として著者は「過去千年間に漢民族が中国を支配できていたのはそのうちの3分の1である」と語っています。そしてこの戦略の下手さが、現在のように台頭した中国にも随所に見られるというのです。

後半では日本を始めとする東アジアの周辺国の、過去五年間ほどの対中的な動きについて大まかに理解できる構成になっており、著者が驚くほど「嫌韓派」であることがわかるのは意外で面白いところですが、私が最も気になったのは、おそらく誰もが読み過ごしてしまうであろう22章の、アメリカの三つの対中戦略についての話です。

ここには、キッシンジャーがなぜここまで親中派なのか、その理由があからさまに書いてあります。

文章はやや固くて多少読みにくいと感じましたが、それでも原著者の原文の読みにくさを考えれば、これは十分読みやすいほうの部類に入ると思います。

ヘンリー・キッシンジャー氏 

この書籍には、甘言、阿諛、ウソ、脅し、裏切り、毒盛り、暗殺、奇襲・・・という中国の文化と政治を書いてあります。われわれ日本人なら多かれ少なかれ知っている事柄ですが、欧米人にはなじみのない中国のことですから、啓蒙の効果はあるでしょう。しかし、多くの欧米人には「本当? ウソでしょう?」と、すぐには信じられないかもしれません。

中国の演劇とか小説のことにもふれてあれば、中国がどんな世界かわかりやすかったかもしれないです。アメリカ人のルトワック自身も、われわれが何となく知っている、こうした中国の政治文化や外交政策を理解するには、ずいぶんと時間と研究をしなくてはいけなかったのではと想像します。

しかし、たとえばこの戦後の日中関係、あるいは日中国交樹立以後の日中関係、だけをみても、中国の伝統がわかります。たとえば数日前の新聞報道によると、反日政策が強い反中感情を生み出したので、こんどは一般の日本人をターゲットに親中的態度や感情を培養醸成するというようなことがよく見られます。微笑み、もてなし、平手打ち、足げり、罵り、甘言、握手、唾ふきかけ・・・と、ころころ手をかえます。

こうなると、騙す中国より、騙される日本が悪いのかもしれません。

中国は他者を政治的に支配しておかないと安心できません。冊封(さくほう)関係がそれで。まず甘言と賄賂からはいり、次は経済的に依存させ洗脳。最終的に中国の支配下におく。こうなるともう中国は遠慮会釈もなく、冷淡冷酷残忍なとりあつかいをします(第4章)。

さらに、ルトワック氏はこの書籍で、中国の孫子の兵法をとりあげます。これは2500年以上もまえ春秋戦国時代時代の中国の状況から生まれたものですが、この時代の中国内は群雄割拠の時代です。

これはルネッサンス期のイタリアの国際政治とおなじく、文化的に等質でおなじ規模の国家からなりたっていた時代の産物であり、第一に相互に徹底した実利主義と日よみり主義で闘争と協調がなされます。第二に故意に挑発し交渉に持ち込もうとします。第三に虚偽や騙しや、それにもとづく奇襲や暗殺が正当化されあたりまえになっています。

いまの中国もこれをそのまま繰り返しています。

以下に漢民族のコラージュを掲載します。


上段から左から右:蒋中正嬴政
毛沢東楊広郭躍中国人民解放軍の兵士達、パトリック・ルイス・ウェイクワン・チャン
楊玉環曹操司馬懿孫武
劉備関羽張飛孫権

中国人はこの古代からの戦略に深い知恵があるものと信じて疑わず、これさえあれば欧米などをあやつれ、優位にたてると考えています。キッシンジャーはこの中国の考えに敬意をはらう人間です(第9章)。(ただし、この本には書いてはいませんが、キッシンジャーはかって中国を嫌悪軽蔑していました。)

なお、著者は語っていませんが、脅し、甘言、賄賂、裏切りなどは、中国人どうしの対人関係でも用いられる常套手段です。だから中国は信用度の低い社会で、ご存じのとおり日本では考えられないことが起きています。

2012年の習近辺の主席就任でも、激烈なパワー・ポリティックスがありました。あの薄煕来(はっきらい)の裁判も法の正義が実現されるのではなく、単なる政治裁判のショーでした。



こうした中国のあきれるばかりの現金でお粗末なやり方は、かえって信用低下をまねき、中国に対する公式非公式の包囲網を自然と形成させました。第13章以下ではオーストラリア、日本、ヴェトナムなどの中国への警戒が述べられています。

ただこうしたなかで、事大主義・朱子学ファンダメンタリストの韓国だけは中国にすり寄りました(第16章)。その立派な口先とはうらはらに、自分は安全保障のコストをはらわずに、ただ乗りするありさまが書かれています。北朝鮮の核問題をどれだけ真剣に考えているのでしょうか。

私は、韓国の政策からして、もう日本は韓国を朝鮮半島唯一の正統政府をみとめる理由や義務はなくなったと思います。北が核を放棄し、拉致問題を解決すれば、アメリカが強く反対しないかぎり、北ももう一つの正統政府と考えていいのではないでしょうか。

中国がその表面とは違い、実態は多くの脆弱性をもつことは、近年欧米でもさかんに指摘されるようになりました。最後に著者は、この本はいままでどおり中国が成長していうという前提で議論をすすめてきたと断り、この前提に立ちはだかる中国の現実問題にふれます。

著者は中国の民主化に望みをつないでいますが、社会が豊かになれば民主化するわけではありません。これが欧米人の考えの弱いところです。中国の中産階級は西欧の中産階級と違い、歴史上王朝権力を支持してきました。いまは共産党政府を支持しています。また民主化した中国が親日とか親欧米だとは限りません。やはり中華的でしょう。

この本の主題からすれば小さなことですが、著者には欧米人のあいも変らぬロシアについての無理解があります。ロシアはその歴史的経験から中国を大変警戒しています。ロシアが伝統的にタタールの軛を離れ、ヨーロッパに復帰したいというその深層に理解がおよばないようです。ロシアはヨーロッパでありたいのです。

ルトワック氏はウクライナ危機でシナとロシアの接近は氷の微笑だと分析した
この本のどこかで著者は、中国は日欧米から貿易で管理的に差別されれば、ロシアから資源を買いつけることによって、問題を解決できるとしています。しかし資源の爆食国家中国に資源さえあればいいというものではありません。

資源を魅力ある製品化する効率的技術とか、その製品の販路販売の市場といった点で、ロシアが日欧米に代れるわけではありません。

ただし、最近のルトワック氏は、ウクライナ危機でシナとロシアの接近は、氷の微小だと分析しており、両国が本格的な協力関係になることはあり得ないと分析しています。

中国は無差別公平な自由貿易により大いにうるおい、かつ巨大化してきました。逆に、著者もいっているように、中国にたいし管理貿易をおこなえば、中国は大いに損をして弱体化します。この案は、著者に限らず、多くの人にも論じられています。
◆エドワード・ルトワック
エドワード・ルトワック氏 
ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級アドバイザー。戦略家であり、歴史家、経済学者、国防アドバイザーとしての顔も持つ。国防省の官僚や軍のアドバイザー、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーを務めた経歴もあり。

米国だけでなく、日本を含む世界各国の政府や高級士官学校でレクチャーやブリーフィングを行う。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれ。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。

同年国防省長官府に任用される。主著の『戦略:戦争と平和のロジック』(未訳)を始め、著書は約20ヵ国語に翻訳されている。邦訳には『クーデター入門:その攻防の技術』、『ペンタゴン:知られざる巨大機構の実体』、『アメリカンドリームの終焉:世界経済戦争の新戦略』、そして『ターボ資本主義:市場経済の光と闇』がある。
さて、ルトワック氏の分析もそうですが、過去の中国、そうして最近の中国を見ていても、何も大きな変化はなく「内向き」で最初から自滅することが運命づけられているようです。

事実、中国は大帝国を築き、分裂、また大帝国を築き分裂という歴史を繰り返してきました。そうして、大帝国と大帝国との間には、何のつながりもなく分断されているという、愚策を何千年にもわたって繰り返してきました。

中国の歴史を振り返ると、時代が移り変わり、登場人物も変わり、一見すべてが変わって見えるのですが、非常に単純化すると以下のような図式になります。
1.天下統一して、現代中国に近い版図の大国家ができる。

2.官僚主義により行政が腐敗する。

3.民衆が官僚主義の現況である大国家に反発する。それにつけこんだ新興宗教が広がり、大国家全土で反乱が多数興る。

4.叛乱の多発に乗じて地方軍が軍閥化する。軍閥が肥大化して群雄割拠の時代となる。

5.国内の乱れにより周辺異民族の活発化する。大国家の権威が地に落ちる。長い戦乱の世が続き多くの人民が疲弊する。厭戦的な世論が形成される。

6.大国家の権威が地に落ちたのを機に英雄が現われ周辺異民族を巻き込み再びの天下統一をはかる。
多少の前後があったとしても、大体がこのパターンに従うのが中国の歴史です。

現中国もその例外ではないでしょう。いずれ、分裂して小国の集合体になるか、分裂しなかったにしても、図体だけが大きい、アジアの凡庸な、独裁国家になり、他国に対しての影響力を失い自滅することになります。

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