2019年7月29日月曜日

かんぽ生命の不正販売、背景にある民主党政権「郵政再国有化」の真実―【私の論評】官僚が商売や事業等を直接しても絶対にうまくはいかない(゚д゚)!

かんぽ生命の不正販売、背景にある民主党政権「郵政再国有化」の真実

「ノルマ」に頼る構造はなぜ生まれたか

「民営化の歪み」が原因ではない

かんぽ生命に、顧客に対し新旧契約の保険料を故意に6ヵ月以上二重払いさせるなど、かなり悪質な不正が多数発覚している。

かんぽ生命の顧客数は約2600万人だが、不正契約件数は実に約9万3000件にのぼるという。被害に遭った顧客のほとんどは高齢者層である点も悪質だ。「常套手段」とされていたのが乗換時の不正で、保険の二重契約(2万2000件)、無保険期間を作る(4万7000件)といったものだ。

被害者からは、「80歳代の母が、かんぽ保険の乗換で被害に遭い、30万円の不利益を被った。母は郵便局を信頼していたから、貯めたお金を言われるがままにだまし取られた」との声も上がっている。郵便局というブランドを信じていた人々の心を踏みにじる、詐欺的な行為だ。被害総額の詳細は、まだわかっていない。

この種の話が出ると、「郵政民営化による歪み」のために不正が起こったという、早とちりの意見がすぐに上がる。しかし経緯を調べれば、このような見方がすぐに間違いだとわかる。

マスコミの報道だけしか知らない人は「郵政は民営化された」と思い込んでいるが、実は民主党政権時代に「再国有化」されているのだ。不正の発端も、そこに潜んでいる。どういうことか説明しよう。

筆者は小泉政権時代、郵政民営化の制度設計を担当した。まず、郵政民営化が実行された理由をあらかじめ書いておきたい。マスコミはこの基本を理解していないし、そのせいで国民は郵政民営化の背景を知らなすぎるからだ。

民営化前の郵政は、(1)郵便事業、(2)郵貯事業、(3)簡保事業を営んでいた。しかし、郵便はインターネットの登場によりジリ貧、郵貯は貸出部門がなく、簡保は100年前の不完全保険である「簡易保険」しか商品開発できず、いずれの事業でも経営問題が起こることは時間の問題だった。

こうした経営問題を抱える事業を維持するためには、年間1兆円もの税金補填(ミルク補給)が必要だった。それでも、いずれ郵政が経営破綻するのは確実だった。このあたりの詳細については、拙著『財投改革の経済学』に記してあるのでご覧いただきたい。

小泉政権が成立させた郵政民営化法では、(1)日本郵政という持株会社の下に、郵便会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(4社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社と郵便局会社への日本郵政の株式をいずれも維持しつつ、ゆうちょ銀行とかんぽ生命では、日本郵政の株式をすべて売却する(完全民営化)としていた。



こうした民営化を通じて、郵便会社と郵便局会社には「郵便」以外の事業展開を、ゆうちょ銀行にはまともな貸出を、かんぽ生命には「簡易保険」以外の商品開発を促そうとしたのだ。それと同時に、年間1兆円にのぼる血税からの「ミルク補給」も打ち止めにしようとした。

郵便局会社を作ったのは、そこで簡易保険だけではなく、他の民間生保の商品も販売できるようにしないと、郵政全体の経営が危うくなるからだ。後で詳しく述べるが、郵政民営化の制度設計当時から、簡易保険の商品性はあまりにお粗末であり、経営上簡易保険以外の商品も売る必要に迫られていた。

事実上、また「国有」に

しかし、2009年に政権交代が起こった。民主党政権は、この民営化スキームを変更して、郵政を事実上「再国有化」した。つまり、(1)日本郵政という持株会社の下に郵便会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命を設けること(3社分社化)、(2)日本郵政への政府株、郵便会社、ゆうちょ銀行とかんぽ生命への日本郵政の株式はいずれも維持する(非民営化)としたのだ。


公的事業の民営化のキモは、株式の民有化、経営の民間化である。郵政3事業にはすべてに政府株が係っている。しかも、小泉政権時代の民営化の際、民間から西川善文元住友銀行頭取ら20名程度の民間人が入った。まじめに経営しようとすれば、この程度の人員がいなければ、郵政のような巨大組織は運営できない。この意味で、西川氏は本気で郵政を民営化しようとした。

しかし、上述のように民主党政権で民営化は否定され、「再国有化」された。特に痛かったのは、政府株だけではなく、小泉民営化で馳せ参じてきた民間人もすべて追いだされたことだ。

さすがに、民間人なしではマズイと思ったのか、お飾り程度の人材は来たが、西川氏のように大量に腹心を連れてくるようなことはなく、ほぼ一人で来て、あっという間に元郵政官僚に籠絡されるのがオチだった。

その後民間では、民主党政権時代に、郵政へ送り込まれた民間人が追い出された事実が知れ渡ったから、経営の心得がある人材は誘われても敬遠するようになった。どちらかといえば、小粒な民間人が単発で来るようになったことも、郵政が実質的に「再国有化」されたことを物語っている。

要するに郵政は、小泉政権時代に民営化されたが、民主党時代に再国有化され、事実上、以前の国営とたいして変わりなくなったのだ。今回のかんぽ生命の不祥事を考える上で、この点をおさえておかなければいけない。

激化する競争に勝てるはずもなく

郵政が改革をサボっている間に、保険市場は激変した。

かつて、日本人は生保好きといわれていた。そのため外資系保険会社は日本市場への参入を強く希望していた。たしかに、1990年代の生命保険料のデータを見ると、日本は先進国の中でも高い部類だった。

一方、1990年代まで、日本の保険業界には金融縦割り規制があった。保険業界でも生命保険と損害保険は分離され、銀行、証券とも分離されていた。それが金融自由化の波とともに、業界の垣根が取り除かれていった。特に証券投資信託の販売は、証券会社だけではなく銀行にも広げられた。

実は、保険という金融商品は保障の面ばかりが強調されるが、運用面をあわせて考えると、保障と証券投資信託のハイブリッド商品であるともいえる。掛け捨ての保険なら保障機能だけといえるが、保障機能が弱く満期返礼金が強調される貯蓄型保険は、証券投資信託とほぼ同じなのだ。

かつて保険好きと言われていた時代の日本で主流だったのが、貯蓄型保険だった。それが金融自由化により、証券投資信託の販売が広く銀行などに認められるとともに、外資系保険会社にも参入が認められたので、本邦系生保会社の競争環境は激変した。

その結果、今では日本の生命保険料などは概ね標準的な水準に落ち着いた。もはやデータからは「生命保険好き」と言えない状況だ。日本の保険市場における競争はそれほど激化し、低金利・ゼロ金利環境も保険会社の収益に影響を与えている。

しかし、これらの環境変化が民間生保会社にもかんぽ生命にも等しく影響を与えている中、かんぽ生命では事実上、商品が簡易保険しかないという特殊事情がある。

簡易保険は今からおよそ100年前の1916年にに開発された古い商品だ。その特徴は、健康診断がないという点だ。

民間生命保険の場合、健康診断を要件としてリスク管理を行った上で、保険料率と保険額を決めている。しかし簡易保険の場合は健康診断がないのでリスク管理がうまくできず、それをカバーするために、保険額を低く抑えている。

単純なしくみだが、保険数理からみれば「どんぶり勘定」にも近いものであり、保険商品として保障機能が弱く、運用成績の悪い証券投資信託と同じような商品であるといえる。このため簡易保険は、金融自由化の波をモロに被ってきた。

そして「ノルマ」に頼った

筆者は郵政民営化の制度設計時に、簡易保険という旧来商品だけではまともな生保会社になれるはずもないので、新商品開発とともに、民間生保の特色ある保険も販売できるようにした。しかし、民主党時代の「再国有化」によって、その時間はムダになってしまったようだ。

かんぽ生命は新商品開発を怠り、その代わりに従来通りの「ノルマ」で戦おうとした。民間生命保険会社のような商品は開発能力がなく作れないので、旧来商品を体育会系のノリで、販売員へ「ノルマ」を課すことで乗り切ろうとしたのだ。

民間生保には「生保レディー」という強力な販売部隊がいたので、それを活用する人海戦術も行ったが、さすがにそれには限界もあり、現在では新たなステージに移行し対応している。しかしかんぽ生命は民間生保から見れば「周回遅れ」の状況だ。

ネット上では、かんぽ生命関係者を名乗る人物からのこのような書き込みがある。

「今回の問題は今に始まったことではなく、ずっと以前からあった問題です。お客様を騙してでも保険契約をした職員は評価され、それを指摘した職員は評価されないだけではなく、邪魔者としてパワハラされるのがかんぽ生命です」(元郵便局員)

「会社の上層部は昔から不適切な営業をして数字という結果を残してきた人がほとんどです。優秀成績者と呼ばれる人のほとんどは上から守られるようになっていました」(かんぽ販売員)

こうした営業実態は、10年くらい前から蔓延し始めたという証言もある。ちょうど「再国有化」のタイミングだ。

郵政を「再国有化」すれば元官僚主導の会社になる。新商品開発のための知恵もない。そのため、体育会系の「ノルマ」頼みにならざるを得ない。せめて他の民間生保なみのまともな保険商品であれば、それほどの「ノルマ」を課さなくても、郵便局ブランドである程度販売できただろう。

これで、かんぽ生命は「ノルマ」営業と決別せざるを得ないが、生命保険商品として簡易保険を売ることはもはや不可能だろう。かんぽ生命は経営危機に陥る。

今回発覚した被害の詳細はまだわからないが、現在のかんぽ生命は民間会社ではなく、国の関連企業と言っていい。この詐欺的な営業に、国の責任がないとは言えない。被害者が代表訴訟で訴える可能性もある。そのとき、国はどう対応するのだろうか。

いずれにしても、民営化を逆戻りさせた政策のミスだ。国の責任は免れないだろう。

【私の論評】官僚が商売や事業等を直接しても絶対にうまくはいかない(゚д゚)!

この類の話を聴くと、昔の電電公社の民営化の具体的なとんでもない話を思いだします。電電公社は民営化してNTTとなり、電電公社に所属していた逓信(ていしん)病院はNTT病院と逓信病院に別れました。

この逓信病院は現在でも存在しています。無論NTT病院も存在しています。民営化したばかりのある逓信病院の院長の話として今でもはっきり記憶している話があります。逓信病院にはNTTの職員が多く診断や治療を受けたり、入院したりします。無論、NTT職員意外の人も、逓信病院で普通に診療を受けたり、入院や治療を受けたりすることもできます。

当時ある逓信病院で、その地域のNTT職員でノイローゼになる人が極端に多く出たので、院長が詳しくその原因を調べました。そうするとその原因は、なんと当時まだ売上が伸びていた、テレフォンカードの販売に関係していました。

その地域では、とにかくテレフォンカードの売上を高めることが至上命題となっており、NTTの職員らは、とにかく全員がカードの販売に携わっていました。おそらく、ノルマもあったのでしょう。

懐かしのテレフォンカードは今でもコンビニで普通に売られている

そうして、あろうことが、毎晩9時から10時くらいまで、どうやって売上をあげるのか、議論されていたそうです。それも、営業の人間だけではなく、技術職も事務職もその話し合いに参加していたそうです。強制か、自主的かはわかりませんが、とにかく多くの職場でこの話し合いが行われていたそうです。

普通の感覚であれば、夜遅くまで、論議をしたからといって、それだけで売上が上がるはずもなく、適当なところでやめてしまうのでしょうが、これが数カ月も続いたそうです。そうして、無駄なことを長時間実施したことが、ノイローゼの患者を増やすことにつながったのです。

人は、希望が持てるなら、長時間働いたり、議論をしていてもなんともないですが、徒労としか思えないような話を長時間していれば、おかしくもなります。

そのため、この院長はこの無駄な話し合いをやめさせるように、強くNTTに指導をしたそうです。そのかいもあってか、その後ノイローゼ患者は極端に多くはなくなったそうです。

商売のセンスがない人たちが、追い詰められるとこのようなことになりがちです。結局その当時のNTTも、かんぽ生命のように、売れるテレフォンカード等新商品開発や、テレフォンカードに変わる事業の柱を開発することを怠り、その代わりに「ノルマ」や根性でで戦おうとしたのです。

それは、うまくはいきませんでした。現在のNTTでは、テレフォンカードも存在しているでしょうが、携帯電話やスマホが登場した現在ではそれはもはや主力商品ではありません。

おそらく、現在の郵政でもこのようなことが行われていたのでしょう。

更に驚くべきことかあります。かんぽ生命保険の不適切販売問題をめぐり、日本郵政がかんぽ生命株を国内外の投資家に売却した4月時点で、かんぽ生命の経営陣が不適切な事案を把握していたことが29日、分かったというのです。

同日開かれた政府の郵政民営化委員会の会合で、かんぽ生命幹部が報告しました。重大な経営問題を認識しながら株を売り出し、投資家の不利益を増大させた恐れがあり、経営責任が問われそうです。

29日の民営化委では、不適切販売問題について委員が郵政グループ幹部に聞き取りを実施。同委の岩田一政委員長は会合後に記者会見し、かんぽ生命幹部から「4月の段階で個別の(不適切な事案についての)苦情はある程度把握していた」と報告を受けたことを明かした。事案の規模がどの程度かは把握していなかったといいます。


今月10日の記者会見で、かんぽ生命の植平光彦社長は「不利益が発生している状況は直近の調査で判明した」と説明していました。

郵政民営化法では日本郵政は保有するかんぽ生命株をすべて売却することを目指すと定められています。平成27年にゆうちょ銀行を含めたグループ3社が上場した際に、日本郵政は100%保有していたかんぽ生命株の11%分を売り出し、今年4月の2次売却では89%の保有株を64%程度まで引き下げました。

2次売却の売り出し価格は1株2375円でしたが、その後不適切販売問題が深刻化してかんぽ生命の株価は下落。29日の終値は1797円でした。経営陣が問題を把握しながら株式を売り出したのであれば、市場に対する背任行為として株主代表訴訟も起こりかねないです。

岩田委員長は29日の会見で「契約者に不利益が生じたような事案があった場合は速やかに公表すべきで、透明性が極めて重要だ」と述べ、日本郵政グループの対応を問題視。また、「マーケットが評価しない経営には問題がある」と経営責任にも言及しました。

31日に開催される日本郵政の長門正貢社長らの会見では、かんぽ生命株の2次売却の適正性や経営責任が大きな焦点になります。

やはり、郵政は「再々民営化」が必要です。商売センスのない役人は事業運営にはタッチさせないようにし、民間の保険などのノウハウがある人を入れて、まともにすべきです。でないと、先に掲載したNTTでノイローゼ患者がかなり増えたのと同じことになります。

商売センス・事業センスのない官僚が事業を駄目にするのです。これは、郵政でなくても同じことです。政府は、インフラの整備などに専念して、そのインフラの上で活動するのは、民間に任せるべきなのです。

間違っても、インフラの上で官僚が商売や事業等(福祉事業や社会事業も駄目)を直接しても絶対にうまくはいかないのです。これがうまくいくというのなら、共産主義も成功していたはずです。

共産主義では、頭の良い設計主任が、事業を計画して、あとはその計画通りやれば、すべてはうまくいくはずでした。しかし、それはことごとく失敗して、いまや共産主義は崩壊しました。この基本を忘れると、今回のような事件が起こってしまうのです。

【関連記事】

2019年7月28日日曜日

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」―【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

ジョンソン新英首相、EU離脱は「とてつもない経済好機」

ボリス・ジョンソン氏

ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)英首相は27日、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット、Brexit)について、テリーザ・メイ(Theresa May)前首相の下では「有害な天気事象」として扱われていたが英国にとって「とてつもなく大きな経済好機だ」と主張した。

 ジョンソン氏は中部マンチェスターで行った演説で、「英国民がEU離脱の是非を問う国民投票で反対票を投じた相手はEUだけではない。英国政府にも反対を突き付けたのだ」と述べ、離脱派が勝利した地域に新たな投資を行うと明言。EU離脱後に向けて貿易協定交渉を推し進め、自由貿易港を設置して景気浮揚を図ると確約した。

 さらに、財政難にある100自治体を支援するため、36億ポンド(約4800億円)を投じて基金「タウンズ・ファンド(Towns' Fund)」を設置し、そうした自治体に必要な交通輸送網の改良やブロードバンド接続の向上を実施していくと約束した。

 またジョンソン氏は、EU離脱について「英議会が主権をEUから取り戻すだけではない。われわれの都市や州や町の自治が強化されるということだ」と述べ、「EU離脱は、とてつもなく大きな経済好機だ。英国はこれまで何十年も(EUに)許可されなかったことを実行できるようになる」と強調した。

【私の論評】ブレグジットの英国より、日本のほうが経済が落ち込むかもしれない、その理由(゚д゚)!

英国では、ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏が保守党党首選挙を制し、メイ首相に代わって新首相に就任しました。前外相のジョンソン氏が、現外相のジェレミー・ハント氏に勝利しました。10月31日に期限が迫る欧州連合(EU)離脱など、ジョンソン氏には取り組むべき問題が山積しています。

それについては、他のサイトでもかなり詳しく掲載されていますので、そちらを参照していただきたいと思います。

確かにジョンソン新首相の前途は多難です。しかし、明るい材料もあります。

それは、まずは過去の保守党政権が一貫して緊縮的な財政運営を行ってきたのに対し、ジョンソン氏は所得減税、社会保障負担の軽減、教育・治安対策・インフラ関連予算の拡充などを掲げて拡張的な財政運営にかじを切る方針だということです。

ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して作り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた
 『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、イギリス政府の緊縮財政政策に対する痛烈な批判が
 込められている。

また、ジョンソン氏はEU離脱後もEUと緊密な通商関係を継続するとともに、より多くの国や地域と自由貿易協定を結ぶことを目指しています。ジョンソン氏が財務相に選んだサジド・ジャビド前内相、貿易相に選んだエリザベス・トラス前副財務相は、いずれも自由主義経済の信奉者として知られています

最大の貿易パートナーであるEUとの関係が、これまでほど緊密でなくなる可能性があることや、英国が離脱できずにいる間に、EUが日本や南米南部共同市場(メルコスール)などとの通商協議をまとめた点は英国に分が悪いです。ただしこれまでも、そしてこれからも、英国が世界有数の自由貿易志向国家であることに変わりはないです。

ジョンソン氏も無秩序な形での合意なき離脱を望んでいる訳ではないです。やむなく選択する場合も、国民生活や経済活動への打撃を小さくするため、EUとの間で最低限の取り決めをし、通関業務の簡素化や中小企業への支援強化など、準備作業を加速する方針です。

様々な閣僚ポストで改革を実践してきたマイケル・ゴーブ元環境・食糧・農村相を合意なき離脱の準備を担当する閣僚に任命しました。

EU側は英国への影響緩和を目的とした措置に否定的ですが、EU加盟国である隣国アイルランドへの影響の大きさを考えれば、既存ルールの暫定適用など、緊急避難的な対応には応じる可能性もあります。

企業側の対応も万全とは言えないです。合意なき離脱対応によるコスト負担も発生するでしょう。ただ、今年3月末に合意なき離脱の予行演習が行われており、一通りの準備作業と頭の体操はできています。無論、どんなに準備をしても物流の混乱は避けられないでしょうし、想定外の問題も発生するでしょうが、合意なき離脱の影響を軽減することは可能です。

合意の有無はさておき、離脱確定後は手控えられていた設備投資が再開し、先に述べた通り、財政政策も拡張的となります。EUとの経済・貿易関係に大きな亀裂が入ったり、金融システムに混乱が生じたりしない限り、英国の景気拡大に弾みがつく可能性があります。特にイングランド銀行は、危機に陥ったときはすぐに金融緩和に踏み切るということを過去にも実践してきました。

こうなると、思い出されるのは、2016年に米国でトランプ大統領が誕生した後の株式市場の活況と米国経済の好調ぶりです。トランプ氏の型破りなパーソナリティーや保護主義的な政策を不安視する声も多かったのですが、大規模な減税と財政出動で景気拡大を後押しし、ドル高けん制発言や中央銀行の独立性を度外視した発言のため株高があがり、さらにその後は経済がよくなりました。特に雇用の回復には目を見張るものがありました。

では、ジョンソン氏は公約通り拡張的な財政運営を行うことが可能なのでしょうか。英国は欧州債務危機でEU諸国が導入した財政協定への署名を拒否したのですが、EUの一員として財政規律を順守する必要があります。ところが、離脱後はその財政規律の束縛からも解放されることになります。

野放図な財政拡張は調達金利の上昇を招く可能性もありますが、世界的な低金利環境下で、ある程度は許容されるはずです。英中央銀行のイングランド銀行(BOE)も、離脱後は財政ファイナンスを禁じられたEU条約の対象から外れます。財政政策との協調も視野に入れた柔軟な金融政策運営が可能になります。

折しも、離脱協議の長期化で延長されたマーク・カーニーBOE総裁の任期は来年1月に迫っており、現在、後任の人選が進められています。総裁の任命権は財務相にあり、次は新政権の意向に沿った人物となりそうです。

後継候補として、ジョンソン氏がロンドン市長時代に経済アドバイザーを務めたジェラルド・ライオンズ氏、元BOE副総裁のアンドリュー・ベイリー氏、元インド準備銀行(中銀)総裁のラグラム・ラジャン氏などの名前が挙がっています。

マスコミではトランプ氏とジョンソン氏は様々な共通点が報道されていますが、それらの大部分は些細なことに過ぎません。最大の共通点は、経済活性化を重視した拡張的な財政運営に関する考え方です。ジョンソン氏の金融政策に対する姿勢は未知数ですが、積極的に介入する素地は整うことになります。

強硬離脱派首相の誕生に不安が先行しますが、トランプ氏がまともな経済政策を実行して、経済を良くし、特に雇用をかなり良くしたように、ジョンソン氏も積極財政、金融緩和策などの、まともな経済対策で、ブレグジットをソフトソフトランディングさせ、それだけにとどまらず英国経済をさらに発展させることに期待したいです。

さて、日本を振り返ると、10月より消費税が10%になります。デフレから抜けきっていない、この時期に緊縮財政をするとは経済政策としては悪手中の悪手です。

この状況は、実はロンドンオリンピック直前の英国と似ています。英国は、ロンドンオリンピックの直前に付加価値税(日本の消費税に相当)を大幅にあげ、大失敗しています。

それについては、このブログでも何度か掲載しています。そのうちの一つの記事のリンクを以下に掲載します。
景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!
ロンドンオリンピックのビーチバレーの試合
詳細は、この記事をご覧いただくもとして、この記事の結論部分をいかに引用します。 
英国は量的緩和政策で景気が回復基調に入ったにもかかわらず、「付加価値税」の引き上げで消費が落ち込み、再び景気を停滞させてしまいました。 
その後、リーマン・ショック時の3.7倍の量的緩和を行っても、英国経済が浮上しなかった教訓を日本も学ぶべきです。

このようなことを主張すると、英国の財政は日本よりも良い状況だったからなどという人もいるかもしれませんが、日本の財政は負債のみでなく、資産にも注目すれば、さほどではないどころか、英国よりもはるかに良い状況にあります。

それについては、昨年のIMFのレポートでも裏付けられています。このレポートの内容を掲載した記事を以下の【関連記事】の一番最初に掲載しておきます。

これを知れば、増税など絶対にすべきでないことは明らかです。
さて、ボリス・ジョンソン氏はこれまでの保守党とはうってかわって、EUの軛(くびき)から離れて、積極財政を実行しようとしています。イングランド銀行も、EUの軛から離れれば、かなり自由に金融緩和ができます。

そうなると、経済的にはブレグジットは意外とソフトランディングできるかもしれません。短期的には、いろいろ紆余曲折があるものの、中長期的には英国経済は良くなる可能性も大です。

これに対して、日本は10月から現在の英国とは真逆に、緊縮財政の一環である、増税をします。さらには、日銀は緩和は継続しているものの、イールドカーブ・コントロールにより、引き締め傾向です。

こうなると、英国はブレグジットをソフト・ランディングさせ、中長期的には経済がよくなるものの、日本は増税で個人消費が落ち込み、再びデフレに舞い戻り、経済が悪化するでしょう。 まさに、ブレグジットした英国よりも、増税で日本の景気のほうがおちこむかもしれません。

それこそ、緊縮財政で『わたしは、ダニエル・ブレイク』で描かれた当時の英国社会のようになってしまうかもしれません。

安倍総理は、任期中には10%以上に増税することはないと明言しました。これ以上の増税は今後はないでしょうが、それにしても10%の増税は国内経済に甚大な悪影響を及ぼすことは、確実です。

そうなった場合、安倍総理は、増税見送りや凍結ではなく、まずは減税による積極財政を実行すべきです。次の選挙で是非公約に掲げて実行していただきたいです。

【関連記事】

景気後退…消費増税「回避」待ったなし!? 専門家「4月に判断しないと間に合わない」―【私の論評】ロンドンオリンピック直前に消費税増税した英国の大失敗に学べ(゚д゚)!

消費増税のために財務省が繰り出す「屁理屈」をすべて論破しよう―【私の論評】財務省の既存の手口、新たな手口に惑わされるな(゚д゚)!

五輪に沸くロンドンが「ゴーストタウン」化 短期的な景気浮揚効果の予測に疑問符―【私の論評】不況のイギリスでは増税した後で増刷して、さらにオリンピックでも景気浮揚の効果はなくなったというのに、日本ではこれから増税とはこれいかに?



2019年7月27日土曜日

ファーウェイは巨大な諜報機関だった…中国、5G通信主導で世界諜報インフラ完成へ―【私の論評】ファーウェイの本当の脅威はサイバーテロ(゚д゚)!

ファーウェイは巨大な諜報機関だった…中国、5G通信主導で世界諜報インフラ完成へ

文=深田萌絵/ITビジネスアナリスト

ファーウェイ研究開発ビル

 次世代型通信規格「5G」が始まろうとしている。大容量通信、同時多接続、超低遅延というハイスペックを謳う5Gだが、それを主導しているのは米国政府から「スパイ企業」と呼ばれた中国大手通信企業「ファーウェイ」だ。

 昨年のファーウェイ創業者の娘である孟晩舟氏逮捕をきっかけに世論は「ファーウェイはスパイ企業なのか?」と疑問を抱いたが、その疑問に明確に答えられた人はいない。

 ファーウェイは、単なる通信スパイではない。筆者の見解では、ファーウェイは世界各国の諜報機関と連携する巨大な諜報機関だ。

 通信スパイは専門用語で「シギント」と呼ばれており、通信を盗聴、ハッキングして情報を収集するだけで人員を送り込まない。これに対し、諜報員を送り込んで情報収集や工作活動に当たることを「ヒューミント」と呼ぶ。

『「5G革命」の真実 –5G通信と米中デジタル冷戦のすべて』(深田萌絵/ワック)

 ファーウェイは単なる「シギント」機関ではなく、「ヒューミント」機能を有している。それどころか、ポーランドの諜報機関や、MI6(英・秘密情報部)、FBI(米・連邦捜査局)などにも影響力を持っていたところからして、我が国の内閣情報調査室(内調)や公安警察を軽く超える諜報能力を有しているのだ。

 6年前にファーウェイのスパイ事件に巻き込まれて以来、筆者はファーウェイのスパイ事件を追い続けている。筆者が国の衛星実験の仕事を下請けとして受注した現場で、ファーウェイの工作活動が始まっていたのに気づいてしまったからだ。筆者が経営しているIT企業と共同研究の依頼をした3つの研究室すべてにファーウェイ社員が現れたのだ。

 当時、すでに米国ではファーウェイはスパイだと認識されており、弊社の技術は米国からもたらされているために敏感にならざるを得ない。衛星は最新兵器の命令系統を担う軍事上の重要インフラだ。さすがに衛星をハッキングされては安全保障上の問題となるので、刑事告発に踏み切ったが、事件は受理されなかった。それもそのはずで、日本ではスパイ活動が“合法”なので、取り締まりようがないのだ。

 仕方なくFBIに証拠を持ち込んで事件を通報したのだが、証拠に混ざった1枚の名刺はFBI捜査官をして「こいつは、米国政府が追っているスパイだ」と言わせたのだ。その名は、孟晩舟逮捕のきっかけとなった、イラン制裁違反を犯したスカイコムテック社の役員「アイウェイ」だった。

言論弾圧との戦い

 「スパイ活動は合法です」--。そう言った警察の言葉に愕然として、我が国のスパイ防止法の歴史を見ると、ことごとく野党に潰されてきたという驚愕の事実を知った。これは、世論に訴えかけなければならない――。その使命感を持って、2014年からファーウェイ事件をいくつかのメディアに持ち込んだが、一度は記事が採用されても、すぐに中国側から抗議が入って二度目は潰されるということが何度となく続いた。

 ファーウェイ事件に巻き込まれたことを書かせてもらう機会は得られなかったが、孟晩舟逮捕の報が流れた瞬間、6年間追い続けていたことが事件となったことに感慨深い気持ちになりブログに投稿したところ、入稿を終えた出版社から連絡があった。

 なんと、拙著『日本のIT産業が中国に盗まれている』(ワック)に、ファーウェイ事件について加筆してもいいといわれたのだ。筆者が事件に巻き込まれてから、FBIがファーウェイに寝返り、米国議員を頼り情報発信を続けるとタイヤに釘を打たれ、最終的にはCIAに駆け込むところまで追い詰められた話を書いた。これで、ファーウェイのスパイ活動についての認知度は多少上がるかと期待した。

 しかし、ファーウェイの広告が急増し、保守派の中国ウォッチャーがこぞって左旋回してファーウェイ礼賛を始めたために、3月頃にはファーウェイネタはすっかり鎮静化してしまった。これだけの言論統制力を持っているファーウェイは驚異的だ。

 そのファーウェイが、5G通信基地局を世界で推進する“隠された意図”は何か。

5G通信の機能から読み解くウラ事情

 この中国が主導した5G通信の「大容量」「同時多接続」という仕様には、裏の目的がある。端的に言うと、中国製5G通信インフラとは「中国の全地球支配を完成させるための諜報インフラ」だ。ダウンロード20Gbpsという大容量通信は、動画を楽しみたい人ならまだしも、各端末から10Gbpsというアップロード能力は、そこまで必要なのかと言われれば疑問だ。

 そこで、ドナルド・トランプ米大統領が「国防権限法」によって利用を禁止した中国企業5社の製品を見ると、通信企業が2社、監視カメラ企業が3社だ。

 この監視カメラ企業の監視カメラは、インターネット経由でカメラ映像を見ることができるのだが、バックドアが仕込まれており、実は中国から丸見えだ。筆者も以前に中国製監視カメラをオフィスに置いていたが、ある日、カメラの向きが変わっていることに気がついた。エンジニアに調べさせると、何者かがインターネット経由でカメラのアングルを変えて室内を無断で監視していたのである。

 中国製監視カメラは、本当に「スパイ機能」を有していたのだ。

 また、なぜ5Gが必要なのか。

 カメラ映像1台分くらいなら4G通信でスペックは事足りる。ところが、世界中に格安で販売した中国製監視カメラから映像を伝送するには、「大容量」「同時多接続」というスペックを満たした5G通信でなければ、カメラの台数分だけの通信回線が確保できない。逆に、この2つを組み合わせれば「世界諜報インフラ」が完成するということだ。

 それが、トランプ大統領が国防権限法で中国製通信基地局と監視カメラを禁じた理由だ。

 ファーウェイの基地局が世界中に設置されて諜報網が完成してしまえば、世界は実質的に中国の支配下に落ちる。すべての情報が制御され、私たちは無検閲の情報を手にすることが不可能になり、政治家は弱みを握られて中国の言いなりになる。

 中国製基地局を利用した全人類の通信内容から、中国製監視カメラで撮影した映像がすべて中国共産党に渡り、世界は支配される。「世界諜報インフラの完成」が、中国製5G通信基地局の隠された目的だということを、世界はいまだに理解できていないようだ。
(文=深田萌絵/ITビジネスアナリスト)

深田萌絵(ふかだもえ)
ITビジネスアナリスト
早稲田大学政治経済学部卒 学生時代に株アイドルの傍らファンドでインターン、リサーチハウスでジュニア・アナリストとして調査の仕事に従事。外資系証券会社を経て、現在IT企業を経営。

深田萌絵

【私の論評】ファーウェイの本当の脅威はサイバーテロ(゚д゚)!

冒頭の記事、自らの実体験を踏まえたものであり、生々しいです。さて、ファーウェイは今週、シカゴやワシントン州、ダラスに拠点を構える米国の研究部門Futurewei Technologiesの人員600人を解雇しました。この数字は850人いるこの研究部門の70%にあたり、解雇は米政府によるHuaweiブラックリスト入りを受けた動きです。

Futurewei Technologies

一方ファーウェイの任正非CEOの名前で、2019年卒新入社員の年俸について記載された社内メールが流出し、中国で大きな話題となっています。ファーウェイは元々、高年収で知られますが、今回のメールでは最も優秀な8人のために、最高額で201万元(約3200万円)の年棒が用意されていることが明らかになったからです。

ファーウェイやリストに掲載された学生たちは否定するコメントは出しておらず、中国メディアは本物だと結論付けています。

このような米中冷戦におけるファーウェイ排除の報道を見ても、私たちは何が大問題なのかピンとこないところがあります。諜報員を送り込んで情報収集や工作活動に当たること、すなわちヒューミントによる「スパイ活動」は足がつきやすいです。

今後も、ヒューミントに関しては米国内はもとより、世界中で捜査が進んでいくことでしょうし、そもそそも「ヒューミント」がしにくい環境をつくりだしていくことでしょう。

通信スパイ「シギント」は、ブロックチェーン技術の応用である程度は防御が可能です。だからこそ、米国のトランプ大統領が中国の大手通信機器メーカー Huawei(ファーウェイ)への禁輸措置を事実上解除するともみれていました。

しかし、ロス米商務長官は9日、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置をめぐり、取引に米政府の許可が必要となる対象企業リストに華為を指定し続けると表明しました。トランプ米大統領が容認する方針を示した同社への部品供給は限定的になる見通しが強まりました。

では、米国はなぜファーウエイに脅威を感じているのでしょうか。

安全保障上もっとも大きな問題なのは「ヒューミント」や「シギント」ではなく、「サイバー攻撃」のほうです。それは5Gネットワークの時代になると危険度を増します。だから今、問題視されているのです。

私たちは現在4Gの世界にいます。スマホでもサクサク動画が楽しめますし、友達とSNSを使って連絡を取り合い、「Siri」や「Alexa」といった音声アシストも役に立つようになりました。これが4Gです。

わたしたちは現在でもサイバー攻撃の脅威にさらされている

5Gだとアップリンクが早く、情報を早く盗み取れますが、一番怖いのはリモートコントロールです。スパイチップを埋め込めれば、外部からシステムを意図的に「機能不全」に陥らせることも可能なのです。

5Gの世界は自動運転、自動認識、自動制御、遠隔制御の世界です。例えば、農業の最先端技術では、農作物の温度や写真などから生育状況を察知し、必要な肥料や農薬などを自動散布するドローン技術がすでにあります。法律や許認可の問題などの制度改革を待たなければなりませんが、人工衛星、通信機能などを使って遠隔地でも制御でき、自動で農作物を作れるような社会になります。

また、建築現場では破損した建物の屋根の下などを飛び回って、ほぼ正確な図面をつくるドローンも存在します。自力で急斜面や川、岩だらけの道や氷の上も歩いてモノを運ぶロボットもすでに開発されています。そして、自動車の自動運転技術も実用化に向けて動き出しています。

遠隔操作で動くものが増え、無人化も進み、キャッシュレスも進みます。顔認識技術も進歩し、監視カメラ画像と衛星写真で追跡も可能になります。法律の整備や帯域の問題など解決すべき問題はたくさんありますが、5Gの未来はそこまできています。この動きは止められません。私達の生活が便利になる一方で、サイバー攻撃の危機も高まっているのです。

埋め込んだチップでシステム全体を機能不全に陥らせることは比較的容易です。キャッシュレス社会でシステム・クラッシュが起きれば、買い物もできなくなり、生産装置や自動運転を停止させるなど大混乱が生じます。

このサイバーテロを米国などの先進国は恐れています。鉄道や航空機など民間企業が運営しているシステムがとても心配です。トランプ大統領が対中冷戦を起こす理由がこれでおわかりいただけたでしょうか。

ファーウェイは、ハードウェアとソフトウェアに「バックドア」を潜ませていることや、政府とのつながりについて強く否定しています。しかし、7月6日に英紙テレグラフが「ファーウェイ社員の履歴書が漏洩し、一部社員が過去に中国の諜報当局に協力したことを認めた」と報じ、同社に対する疑念はますます強まっています。

ワシントン・ポストに7月5日に掲載されたオピニオン記事は、ファーウェイを次のように批判しています。「大手通信会社はどこも軍と関係があり、ファーウェイが中国軍と関係していること自体は驚くべきことではない。より重大な懸念は、ファーウェイがこれまでその事実を認めてこなかったことであり、同社と中国政府の双方が繋がりを秘密にしていることだ」

Henry Jackson Societyの研究者によると、今回流出した2万5000件の履歴書を分析した結果、ファーウェイの社員の中には、元国家安全部のエージェントや人民解放軍との共同プロジェクトに従事した者、中国でトップクラスの陸軍士官学校の卒業生、米企業にサイバー攻撃を仕掛けた軍の部門出身者などが含まれるといいます。

一方日本では、安倍総理はファーウェイ製品の政府機関での調達の制限をして、安全保障上問題がある政府内の機器への対処を命じました。しかし、我が国はサイバーセキュリティの技術者の数が産業界でも足りていません。

仮に一昔前のように国産通信機器に戻せばいいと考えても、残念なことに我が国の国産通信機器の供給能力はすでに縮小し、「国産」に頼っていると5Gインフラの普及が遅れてしまいます。八方ふさがりですが、あきらめるわけにはいきません。

重要な機器類の保守やチェックができる技術者を増やすのは、今なのです。冒頭の記事にもあるとおり、スパイ防止法すらない我が国ですが同盟国である我が国から軍事機密が漏れるようなら、米軍は自衛隊とのリンクを切る可能性だってあるのです。やっと、その対策が始まりました。

新防衛大綱にサイバーセキュリティ強化が明記されました。やっと予算もつき実働部隊が設置されました。防衛省は米国カーネギーメロン大学付属機関等や防衛大学でも人材育成を強化して、さまざまな機関と連携し、防護システムをつくろうとしています。これが次世代のAI社会への布石になります。防衛省がハブとなり、我が国全体へのセキュリティ対策を編み上げ、産業の育成にも貢献してほしいものです

【関連記事】

2019年7月26日金曜日

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢―【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

有志連合軍に自衛隊派遣が唯一の選択肢

香田洋二 (ジャパンマリンユナイテッド顧問 元自衛艦隊司令官)

 ホルムズ海峡付近の航行船舶に対する小規模な攻撃が多発している。その対象は単に民間船に留まらず、当該海域に展開する米海軍部隊も含まれており、頻度・内容もエスカレートする傾向にある。特に、同海域に展開する米海軍空母打撃部隊に対する挑発はドローンや高速小型艇による妨害や挑発に留まらず、去る6月20日のイラン革命防衛隊による米軍無人偵察機撃墜や7月18日の米海軍強襲揚陸艦によるイランのドローン撃墜事案などの小規模な小競り合いなども生起しており、両国の対立は激化傾向にある。

イランに拿捕された英国のタンカー

米国の要請に対して
日本が検討すべき2項目

 7月9日にダンフォード米統合参謀本部議長(以下「統参議長」)はホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合軍を結成すべく関係国と調整していると発言した。この発言に関連しては我が国政府も打診はあったことを認めたものの、細部の言及は避けたと報道されている。

 さらに、19日に米国務省と国防総省は、ホルムズ海峡周辺における航行船舶の安全確保に向けた有志連合について、ワシントンで非公開会合を開き、日本を含む各国外交団に構想を説明し参加を要請したと報じられた。本会合に対する各国の対応等を確認するため、7月25日に米中央軍が司令部を置くフロリダ州タンパで2回目の会合が開かれ、参加国の把握や具体的な行動内容などについて協議する予定と報じられている。

 イラン核疑惑に関連する現地情勢、特にホルムズ海峡の航行安全の不安定化は我が国のみならず全世界に対するエネルギー安定供給を大きく阻害する事態に直結する恐れがあることから、米国提案の有志連合に対する我が国の取り組みに関する論議が活発化することは明白である。その際の考慮事項は次の二点に収斂する。

① 我が国船舶の安全確保は我が国の責務

 第一は、我が国船舶の航行安全確保は我が国の責務であり、いかなる外国もその任に当たることはない、という至極当然の大原則と現実である。その前提からすれば、現下のホルムズ海峡における我が国船舶の航行安全確保に対する取り組みは、米統参議長発言により検討に着手するものではなく、我が国が主体的に取り組む問題として自発的に開始されるべきものであることは明白である。

② 湾岸戦争等とは全く異なる有志連合軍の編制・任務及び予想される作戦形態

 第二は、米国が構想する有志連合軍の任務は、ホルムズ海峡の航行安全確保であり、湾岸戦争、9・11後の対テロ戦争及びイラク戦争時に編成された、自衛権(個別あるいは集団)を発動した外国への兵力投入によるクウェート解放、テロリスト根拠地根絶等の作戦目的を達成するための攻勢的な有志連合軍とは性格、作戦目的や任務及び作戦形態が全く異なるものであるということである。一部マスコミの論議において、集団的自衛権の行使と自衛隊の有志連合軍への参加を短絡的に結び付けて反対する論調が観られたが、この観点からすれば、それは全くの的外れである。

 要するに、今回の作戦目的であるホルムズ海峡の航行安全確保は、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、同海峡の海上交通の秩序維持のための軍事活動であり、両者を明確に区分する観点に立った我が国の取り組みが論ぜられなければならない。
有志連合編成を打診した
米国の狙いとは

 シェール革命による米国のエネルギー供給における中東依存度は著しく下がっている。米国を仕向け地とするタンカー等の運航隻数が極少になっている現状から、ホルムズ海峡の安全航行の確保そのものは米国の直接の国益ではなくなっているといえる。勿論、米国は海洋の自由使用と航行を国益としていることから、ホルムズ海峡を含むペルシャ湾海域の航行安全は米国の国益となることもまた自明の理である。
 このため、①の観点からは、米軍が中東、特にペルシャ湾海域を航行する各国船舶の航行安全確保に直接関与する正当性と必要性は減少している。それが、今次トランプ発言の原点、すなわち「米国へ向かう船舶がほぼ不在のホルムズ海峡において、米軍が莫大な負担をしてまで他国の船舶を守る義務も根拠もない。各国は自国の船舶は自国で守れ!」ということであろう。
 同時に、米国は、ホルムズ海峡を通峡する個々の船舶ではなく、ペルシャ湾全域を世界の安全保障に大きな影響を与える重要地域として安定させる観点から、当該海域の海上交通の秩序を維持することは依然として重要と位置づけているのである。その観点から、ホルムズ海峡航行船舶への挑発や攻撃のような、イランの軍事的冒険主義の抑止と排除を引き続き重視している。
 ただし、そのための活動の全てを米国が賄うということではなく、「自国の船を守る力のある国は自分でやる」という大原則を改めて明確にしたものが、先般の統参議長の発言であり、それを具現する第一歩が7月19日の非公式会議と言える。
 報道によると、その会議では、米国によるホルムズ海峡の現状認識及び船舶の運航安全確保のための有志連合の必要性が説明されたとのことである。具体的には、自国船舶の航行安全確保は各国の判断とするとともに、米国が各国の自国船舶航行安全確保活動に必要な情報共有メカニズムを構築することを有志連合の活動骨子としたうえで、各国に艦船や航空機の派遣、資金拠出を求めたとされる。
 報道では言及されていないが、自国船の航行安全確保を直接実施する力のない国の民間船舶が事態緊迫時に無防備のままペルシャ湾周辺を航行することは別の不安定要素となることから、有志連合参加国による自国船舶の航行安全確保活動と同期して、この様な国の船舶を運航することより、これら船舶にも警戒の目を配する体制を構築するための調整活動(軍事用語で「船舶運航統制」と呼称)も米国が担任すると考えられる。
これらの総合的な効果により、ホルムズ海峡の航行安全を確保する態勢は格段に改善され、結果的にペルシャ湾地域全体の安定に寄与する、ということが米国の狙いと考えられる。

選択肢は4+α
採るべき解は1つ
まず、現地の事態緊迫時の日本船舶、広義には日本を仕向け地とする他国籍船も含む船舶(以下、両者を包括的に「日本船等」)の航行安全をどのように確保するかという課題への取り組みが問われることとなる。
 その際の基本事項として、①で示した、日本船等の航行安全を確保するのは日本であり、他のいかなる国も、自国の生存に無関係な外国船としての日本等船の航行安全を確保することはあり得ないという大原則から、事態緊迫時の日本船等の航行安全確保のための自衛隊派遣が有力な選択となる。同時に、我が国には自衛隊を海外に出すことに依然として大きな抵抗が存在することも事実である。
 それらの賛否論点も含め総合的に我が国の可能行動を整理すると、以下の選択肢が考えられる。
  • 選択肢-1:有志連合不参加・自衛隊非派遣
  • 選択肢-2:有志連合不参加・自衛隊派遣、有志連合とは別個に自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-3:有志連合参加・自衛隊派遣、有志連合の枠組みの下で自衛隊が日本船等の安全確保
  • 選択肢-4:有志連合参加・自衛隊非派遣、資金・後方支援等、有志連合国を間接的に支援
 各選択肢の要点を整理すると次のようになる。
選択肢-1
 本選択は、国際枠組みを一切無視して、日本船等を自らは守らないということを意味する。要するに、主権国家として日本船等の安全を「運を天にまかせる」または「他国の善意に預ける」ということである。その選択においては、事態緊迫時の日本船等を運航する船員の生命をどう考えるのか、という問題が生ずるとともに、国家活動の基本となるエネルギーの安定供給をいかに担保するかという命題が残る。我が国の一部に根強い、有志連合参加及び自衛隊派遣反対論は、この論議を意図的に避けたとさえ思える観念的な憲法論や平和論のみに立脚したものであり、無責任な論議である。
選択肢-2
 これは独立国として責任のある対応であるが、有志連合不参加に起因する任務遂行上の不都合、特に部隊運用上必須となる情報共有態勢が弱化することから安全運航を確保する作戦が非効率となる恐れが常に内在する公算が大となる。更に、我が国単独の作戦は必然的に国際協調の欠落という面の問題を惹起する。
選択肢-3
 この選択は、我が国憲法と現行法制及び国際協調やと国際貢献の観点から最適と考えられる。今回、米国が提案する有志連合は②で述べた様に、イランへの兵力投入を前提とした攻勢作戦のための母体とは全く異なる、武力行使や集団的自衛権はおろか個別的自衛権の行使さえ前提としない、ホルムズ海峡の航行安全確保のための軍事活動母体である。このため、我が国が有志連合に加わり、自衛隊を派遣して自ら日本船等の航行安全を確保することは現行法制、具体的には平和安保法制の枠内で十分に実施可能な活動である。このことから、我が国政府も自衛隊もイラン、ペルシャ湾そしてホルムズ海峡の現状において集団的自衛権を行使した軍事作戦に加わることは全く考えていないと見積もられる。
選択肢-X
 選択肢-4以前に、「有志連合不参加・自衛隊非派遣=資金・後方支援等、有志連合国を間接支援」という別のオプションが理論上存在する。これは、結果的にせよ世界から全く評価されなかったイラン・イラク戦争及び湾岸戦争時の論議の繰り返しとなることは明白である。仮に、この選択肢を採用するとすれば、1980年以降の我が国の自衛隊による国際貢献への努力の足跡を完全に消去することであり、同時にその選択は、我が国の国際貢献という時計を40年巻き戻すものでもある。この観点から、本オプションは敢えて本検討の選択肢に入れなかった。
選択肢-4
 これは、経済力や後方支援能力の弱い有志連合参加国に対する非軍事面での支援というメリットが存在するが、やはり選択肢-1の最大の問題である、日本船等を我が国が守る、という大原則の無視に直結することから、責任ある国際社会の責任ある一員の選択としては不適切である。
 以上から、我が国の選択としては選択肢-3、すなわち自衛隊を派遣した有志連合の枠組みの下で、自衛隊が日本船等の航行安全確保に任ずることが最適である。
日本船舶等の航行安全確保
自衛隊が活動する法的根拠

 ホルムズ海峡の航行安全確保のために編成される有志連合に我が国が参加して、自衛隊が日本船等の航行安全確保のための任務を遂行する(以下「日本船等を自衛隊が守る」)作戦成功の鍵は、航行安全確保の際の船舶の防護方法である。この作戦は海上航行秩序の維持を目的とすることから、武力行使及び自衛権の発動を要しない海上作戦であり、軍事力による海上の警察活動であると位置づけられる。その際、任務遂行に必要な場合、航行秩序を乱す目的で日本船舶等の安全航行を妨げる勢力に対しては武器の使用が必要になる場合も生起することは当然である。
 上述の日本船等を守る作戦において想定される事態への対処は、2015年9月に成立、公布された平和安保法制を基本とすると、自衛隊法第82条に定める海上警備行動を根拠とすることが適当と考えられる。その際の権限は自衛隊法93条により規定されるが、同条で認められた停船のための武器使用は対象船舶が我が国領海内にある場合に限られるが、わが国から遠く離れたソマリア沖の海賊対処の際の当初の政府の措置、すなわち海賊対処法制定までの間の自衛隊を派遣する根拠として海警行動を発動した際の考え方が参考になると考える。その骨子は次の通りである。
(1)保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など、日本が関与するもの
(2)司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施
(3)武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定
(4)防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画を国会に報告
 これを今次ケースに適用すれば、今回の任務はあくまでもホルムズ海峡における航行安全確保であることから、(2)は不要であり、派遣された自衛隊の部隊運用は(1)、(3)及び(4)に準拠することになる。この際、任務遂行上必要となる公海上の武器使用は、抑制的ではあるが航行安全確保という任務遂行を可能とすると考えられる。
 特に、(1)において防護対象を整理して規定したことは、日本を仕向け地とする船舶の多くが日本船籍ではない現状から、日本船等を守る作戦における防護対象船を明確に規定できることから、この考え方の任務遂行上の合目的性は高いといえる。
 その他、海警行動の際に認められる権限には警察官職務執行法第7条(警職法:武器の使用)、及び海上保安庁法第十六条(協力の要請)、海上保安庁法第十七条第一項(書類の提出・船舶の停止と立ち入り検査・必要な質問)並びに海上保安庁法第十八条(必要な場合の措置)が自衛隊員に適用されることから、現場での部隊運用の幅を広げ、柔軟性を確保することが可能となる。
 次のオプションとして海賊対処法がある。これは公海上で我が国の船舶に対し海賊行為等の侵害活動を行う外国船舶を自衛隊の部隊が認知した場合の対処である。この際の自衛官の職務執行に際しては、海警行動と同様、警職法7条に基づく武器の使用が認められるほか、民間船に接近する等の海賊行為(今次任務では日本船等に対する妨害や威嚇、停船要求あるいは乗船捕獲などが該当)を行っている船舶の航行を停止するため、他の手段がない場合には、その事態に応じ合理的に必要な限度における武器の使用が認められることから、日本船等を守る作戦の根拠として海賊対処法の適用を準備することも必要である。
 ここまで、事態緊迫時のホルムズ海峡の航行安全を確保する際の日本船等を「守る」方策を検討した。この際の大原則は、自国の船の安全は自国が守る、言い換えれば他国は守ってくれないということである。更に、米国が提唱する有志連合は武力行使によるイラン侵攻を目的としたものではないことから、我が国の憲法の下で平和安保法制を適切に適用することにより、我が国自体の活動として、自衛権を発動することなく自衛隊が日本船等を守ることは十分に可能である。
 逆に、それを実施しないという選択は、単に国際協調という問題のみならず、独立国の基本としての自国民の生命と財産の保護という、国家として根本的姿勢を問われることとなり、政府の政策としては極めて無責任と言わざるを得ない。
 一方、将来、さらに事態が緊迫化した際の国際的な活動への取り組みについては、ここまで論議したホルムズ海峡の航行安全確保とは別に、改めて我が国の憲法と平和安保法制の枠内で実施可能な行動方針を定め、実施することが求められる。
 仮に、新たな有志連合が自衛権の発動と武力行使を前提としたイラン侵攻を目的とするものになるとすれば、その枠組みへの自衛隊の参加はあり得ないことも明白であるが、その際も、憲法と平和安保法制に基づく、対テロ戦争における後方支援のような活動は可能となる。
 また、その時点でホルムズ海峡の航行安全活動のための有志連合の下で自衛隊が日本船等を守る活動を実施中(選択肢-3)であるとすれば、我が国政府には、その作戦の継続、あるいは事態を勘案した防衛出動の下令とそれに応じた新たな活動への移行、もしくは実施中の作戦を直ちに中止した撤退という選択肢が残ると考えられる。
 最後に、今次の様なケースに際して速やかに行動に移せるのは、平和安保法制が、様々な事態を想定してシームレスな対応を可能とさせることをその目的の一つとしているからである。
【私の論評】「有志連合」の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと(゚д゚)!

6月13日、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡近くでタンカー2隻(内1隻は日本の海運会社が運航)が何者かにより攻撃を受けました。1週間後の20日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を飛行する米国の無人偵察機を撃墜しました。


7月19日、今度はイランのものと思われる無人機がホルムズ海峡で米海軍によって撃墜されました。米国によると米海軍艦艇に900メートルまで接近したためといわれています。同日、ホルムズ海峡周辺海域でイランが英国タンカーを拿捕したことを公表しました。中東情勢は日に日に緊張が高まっています。

今回の「有志連合」は、ブログ冒頭の記事にもあるように、航行の自由、安全を確保する努力は、米国だけが行うのではなく、各国が「応分の負担」をすべきというトランプ大統領の意向を踏まえたものでしょう。

日本国内では「有志連合」の言葉に「戦争」を想起したためでしょうか、内容確認もそこそこ条件反射的に「米国の戦争に巻き込まれる」「自衛隊を参加させるべきではない」とメディアは主張しました。岩屋毅防衛相も米国務省の説明会に参加する前から、「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない」と部隊派遣を否定していました。

ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡は、いずれも中東の原油輸送の大動脈です。これら大動脈の航行の安全を、これまで米海軍の第5艦隊と第7艦隊が守ってきたのは事実です。特に日本は中東への原油依存度が87%で、日本に原油を運ぶ船舶が年間1800隻もホルムズ海峡を通過しています。大動脈の航行安全の恩恵を日本が大きく受けてきたのは否定できないです。

他方、米国はトランプ大統領が演説で度々述べているように、米国だけが負担を被るこれまでの状況は不公正と考え、各国に負担を求めつつあります。7月18日、米国防総省高官はロイター通信に対し、有志連合構想の説明にあたって、ホルムズ海峡周辺でのタンカー護衛について「米軍は他国の船舶を護衛しない」と述べました。

米国は有志連合参加について、今のところ「他国の軍が自国の船舶を護衛するかは各国の判断に委ねる」とし、船舶の護衛を強制しない考えを示しています。しかし、米海軍が「海峡の安全確保」に手が回らなくなった時、あるいはトランプ大統領が正式に「米軍は他国の船舶を護衛しない」方針を打ち出した時、それでも日本は有志連合に「自衛隊を派遣しない」と言えるでしょうか。

日本で混乱しているのは、米国が主張している有志連合構想は、ブログ冒頭の記事にもあるように、平時の「海峡の安全確保」のための「有志連合」であり、「対イラン武力行使」への「有志連合」ではないことです。メディアの論調をみていると意図的に混同しているようにも見えます。

米国防総省も各国の懸念を払拭すべく、「イランに対する軍事連合を結成するのが目的ではない」と明言し「対イラン軍事連合ではない」ことを強調しました。「最大の目的は警戒監視を強化し、船舶への攻撃を抑止する懐中電灯のような役割を果たすことだ」と述べて各国に理解を求めています。

有志連合の最大の目的は懐中電灯のような役割を果たすこと

また有志連合における米国の役割については「参加国で共有される枠組み的な情報を提供し、自国の船舶を護衛したい国々を支援する」と述べています。「有志連合」は趣旨に賛同する国が、「この指とまれ」と集まってくる集合体です。

今回、米国が主導するというのは、集まってくる各国海軍を効率よく警備や護衛任務に就けるよう、米国が情報を提供し、全般を統制しようとするものです。武力行使のための作戦統制ではありません。

であれば、日本が「参加しない」という選択肢は最初からあり得ないです。「参加しない」は、「日本政府は日本の船舶を守りません」ということか、「引き続き米国が、日本の船舶を守ってください」と言うに等しいです。

米国が「米軍は他国の船舶を護衛しない」と表明している時、「引き続き米国が守れ」等とは言えないでしょうし、日本政府は「もはや日本の船舶を守りません」などということは主権国家としてあり得ないです。

船員組合が乗船をボイコットすれば、原油の搬入は断たれ、日本は存亡の危機に立たされます。平時の「海峡の安全確保の活動」とはいっても、近い将来、米国がイランを攻撃する可能性もあり「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念する人もいます。

しかし、既述のように今回の有志連合の趣旨は「船舶への攻撃を抑止する懐中電灯の役割」を果たすことであり、もしそうでなくなれば、その時点で有志連合から離脱すれば良いし、米国側も予めそれを知らせてくることでしょう。

それができるのが有志連合です。繰り返すが有志連合というのは趣旨に賛同する国が集まる組織体であり、趣旨が変わればリセットされるべきものです。

米国主体の有志連合に参加することによってイランを刺激するとの懸念があるのも事実です。しかし、6月に日本企業が運航するタンカーが何者かによって攻撃されたのは事実であり、イラン政府はこれをやっていないと主張しています。

そのため、イランを対象とするものではないですが、今後、再び日本のタンカーが何者かによって攻撃されないように護衛するものです。このことをイラン政府にしっかり説明する必要があります。強調すべきは「イラン攻撃のための有志連合」ではないことです。このことはイランも理解するでしょう。

今回、法的に自衛隊の派遣は可能かという問題もある。それについては、ブログ冒頭の記事に掲載されています。そうして、この記事から判断するところでは、法的に自衛隊の派遣は十分可能です。

であれば、「ホルムズ海峡安全」の恩恵を最も受けている日本が、海峡の安全確保に汗も流さないなどということがあってはならないです。まして自国の船舶さえ守らないなら、国際社会での評判は地に落ちるだけでなく、日本は存続の危機に陥ることにさえなりかねません。まずは、自分の国の船舶さえ守らない日本を米国が何かのときに守るでしょうか。

日本の湾岸戦争負担金 総額 1兆6900億円。米国より多く出していた

湾岸戦争時、日本国内では、すったもんだしたあげく、当時の海部内閣は、汗を流すこともなくカネで解決しようとしました。その結果「小切手外交」「漁夫の利を得るだけの自己勝手な日本」という悪名を被り、日米同盟まで漂流するに至りました。

あの「悪夢」の再来だけは何としてでも避けなければならないです。ましてや、今回の「有志連合」は他国を直接攻撃することではなく、自国のタンカーを守る、それも懐中電灯の役割を期待されているのですから、これには日本として参加しないという選択肢はあり得ないです。

【関連記事】

2019年7月25日木曜日

韓国「WTOの支持取り付け失敗」 ロイター通信報道―【私の論評】韓国への貿易管理強化は、日本版「国家経済会議」設立の前触れか?設立されれば、中露も対象になり得る(゚д゚)!


日本の輸出規制強化について記者会見する成允模・韓国産業通商資源相=24日、ソウル

 韓国産業通商資源省は24日、日本政府が安全保障上の友好国として輸出上の手続きを簡素化する「ホワイト国」から韓国を除外する方針を示していることについて、不当な措置であり、即時撤回を求めるとする意見書を日本政府に提出した。

 ジュネーブで24日に開かれた世界貿易機関(WTO)一般理事会では、韓国を支持する動きがなく、ロイター通信は「韓国は支持を取り付けることに失敗した」と報じた。

 24日は「ホワイト国」除外に関して日本政府が実施しているパブリックコメント(意見公募)の締め切り日に当たる。除外措置が実施されれば、半導体材料3品目について4日から行われている輸出管理の厳格化に比べ、自動車産業など広範囲に影響が及ぶと予想され、韓国は強く警戒している。

 成(ソン)允(ユン)模(モ)産業通商資源相は、記者会見で「韓国の輸出統制制度の未熟さや両国間の信頼関係の毀(き)損(そん)など、日本側が挙げる措置理由には全て根拠がない」と批判。日韓の経済協力の「根幹を揺さぶる重大事案」を事前協議なく通告したとして遺憾の意を表明した。「韓国政府は未来志向的な関係発展のため、いつどこでも対話する準備ができている」とも述べ、日本側に協議に応じるよう促した。

 韓国の主要経済5団体も23日に「世界経済に相当なマイナス影響を及ぼす」として措置の撤回を求める意見書を日本側に提出した。

 一方、訪韓したボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は24日、康(カン)京(ギョン)和(ファ)外相と会談し、日韓関係のさらなる悪化を防ぎ、対話を通じた外交的解決を模索する上で、意思疎通を密にすることで一致した。韓国外務省が発表した。

 ボルトン氏は、韓国大統領府の鄭(チョン)義(ウィ)溶(ヨン)国家安保室長や鄭(チョン)景(ギョン)斗(ドゥ)国防相とも会談、北朝鮮核問題などでの日米韓協力の重要性を再確認した。韓国は、深刻化する日韓対立の仲裁を米国に期待しているが、米側は、まずは日韓で解決すべきだとの立場を維持している。

【私の論評】韓国への貿易管理強化は、日本版「国家経済会議」設立の前触れか?設立されれば、中露も対象になり得る(゚д゚)!

韓国を包括輸出対象国(ホワイト国)から除外する日本政府の手続きが完了した場合、年間6200億円を超す半導体製造装置の輸出に大きな影響が出そうです。輸出側の日本企業と輸入側の韓国企業双方の事業に短期的打撃が発生する事は避けられないですが、この問題に詳しい自民党議員からは短期的な損失は予想しており、中長期的なメリットを勘案しながら、最終的な決断を行うとの方針が示されています。

財務省が発表している貿易統計によると、2018年の対韓国向け輸出総額は5兆7925億円で輸出全体の約7%。その中で輸出額が多いのは半導体等製造装置の6297億円、鉄鋼の4551億円、半導体等電子部品の2565億円。

半導体等製造装置の対韓輸出は、全世界向け輸出の2割強を占めます。この分野での日本企業の世界シェアは高く、輸入している韓国企業にとってもメンテナンスなどのアフターサービスが充実し、日本企業らしいきめ細かなサービスが魅力となっているといいます。

このような状況の中で、包括的な輸出許可が出なくなり、個別審査による輸出許可を待つシステムへのシフトは、商品の受注から実際の出荷までの期間が大幅に長期化し、短期的に韓国企業のニーズに応えることが難しくなることが予想されます。

複数の関係者によると、日本メーカー側は売上高、営業利益を短期的に押し下げる可能性があり、韓国企業にとっては稼働率の低下による売上高、営業利益などの下押し要因になります。

業界筋によると、日本から大規模に半導体製造装置を輸入している企業として、サムスン電子、SKハイニックスなどが知られているといいます。

こうした展開が予想される中で、甘利明・自民党選挙対策委員長とともに、「国家経済会議」の創設を提言しているグループに属する同党の中山展宏・衆議院議員は、ホワイト国除外措置の検討について「日本の国益が損なわれる安全保障上の問題を重視しているため」と説明しています。

中山展宏・衆議院議員

そのうえで「短期的に韓国、日本企業に打撃があることは承知している」との見解を示しました。

中山氏が強調するのは、今回の除外措置が実施されれば、長期的にアジアの安全保障の確保を支援し、日本企業がアジアで安全にビジネスを継続することが可能になるとの論点です。

こうした観点から、自民党は短期的な打撃と長期的なメリットがどの程度になるのかシンクタンクに試算を依頼しており、近く公表する方針といいます。中山氏はその試算結果などを踏まえ、企業の理解を得たいと説明しました。

同氏らが創設を働きかけている国家経済会議は、安全保障と経済政策を一体とした政策として捉えることを前提としており、韓国をホワイト国から除外する政策対応は、同会議発足後の対応を先取りしたかたちとも言えます。

ただ、同氏は「ホワイト国除外といっても禁輸措置ではないため、企業に実害の少ない形で対応できる」と言及。韓国側の対応次第では、柔軟に対応する余地があることをうかがわせました。

国家経済会議とは、米国ではすでに設立されている機関であり、上の記事にもあるように、日本でも設立しょうとの動きがあります。

米国の、国家経済会議(英: National Economic Council, NEC)は、安全保障、社会保障なども含めた総合的な立場から経済政策の立案、調整および大統領に助言を行うアメリカ合衆国連邦政府の行政機関のことです。

国家経済会議は1993年にクリントン政権において、「軍事的安全保障」と並んで、「経済的安全保障」という考え方のもと、国家安全保障会議と同じ機能を果たすことを期待されて大統領令によりホワイトハウスに設立されました。

会議の役割は、ホワイトハウスにおいて経済政策の一貫性を維持する為、また、各経済官庁の調整を図って政策立案を行なうことです。

メンバーは、大統領、副大統領、国務長官、財務長官、農務長官、商務長官、労働長官、住宅都市開発長官、運輸長官、エネルギー長官、保健福祉長官です。他にも閣僚級のスタッフや各種大統領補佐官が拡大関係者(Additional Participants)として参加します。大統領が議長を務め、経済政策担当大統領補佐官が事務を統括する委員長を務めます。

オバマ政権では政権発足早々「経済が非常事態のさなかにある」との認識の下、委員長のサマーズが主導して、毎日、大統領に経済情勢の報告をしていく方針を決めました。

さて、この国家経済会議では"Economic Statecraft"に関しても国の政策として検討されることもあります。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

中国の軍事予算は毎年増えるばかりで、日本はこれに対して無力と思われ
がちだったが、それは違う。Economic Statescraftという奥の手があった
この記事は、3月7日のものです。この頃から、日本が韓国に対して"Economic Statecraft"の一環として、制裁もしくは、何らかの管理強化をすることは十分可能でした。だからこそ、この記事を掲載したのです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在します。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。 
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。 
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。
日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。
これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。 
さて、このような"Economic Statecraft"ですが、この記事では日本は韓国をその練習台とすべきことを主張しました。その部分を以下に引用します。
日本としては、韓国に単純に制裁を課すというのでなく、長期的な戦略を持ってeconomic statecraftを発動するのです。韓国は断交したとしても、日本にはあまり悪影響はないので、格好な練習台になります。さらには、米国などの同盟国も、これに対してはあまり反対したり批判したりすることはないでしょう。
無論、単純に断交するだけというのではなく、韓国がある程度変われば、TPPへの加入とか、ODAなども実行することも視野に入れた包括的なものにすべきと思います。変わらなければ、台湾に対して手厚い支援を行うなどのことも視野にいれるべきです。 
こうして、韓国などに実行してみて、失敗したところはきちんとフィードバックして日本独自のeconomic statecraftの実施方法を確立した後に、本格的に北朝鮮、中国、ロシアにも適用していくべきと思います。
日本にはすでに、甘利明・自民党選挙対策委員長とともに、「国家経済会議」の創設を提言しているグループがあることから、自民党内でも"Economic Statecraft(以下ESと略す)"を認識している議員も複数存在するのでしょう。

日本の韓国に対する輸出管理も広義のESと言えるでしょう。ただし、ESといっても範囲は広く、輸出に関するものだけでも、輸出管理なし→輸出管理の検討(現在の日韓はこの時点)→輸出管理の強化→輸出禁止→軽い制裁→本格的制裁という順番を経てなされるものです。

ESなどとは関係なく、輸出管理検討や、強化は普通の国々では当たり前に行われていることです。

日本が韓国に対する輸出管理を強める背景には、元徴用工訴訟の判決だけではなく、昨年12月に起こった韓国海軍による海上自衛隊哨戒機に対するレーダー照射問題もあるでしょう。この問題は一歩間違えば、本当の戦争になっていたかもしれません。

韓国への輸出管理の検討により「日韓経済戦争」が開始直前になったといえます。憲法9条では交戦権が否定されていますが、これはあくまで「火を噴く戦争」に限定してのことです。ESは憲法9条の範疇外です。

日本国憲法は設立当初ESなど想定していなかったので、無論それに関する規定はなく、日本は平和憲法に呪縛されることなく、ESを発動できます。そういう意味でも、この輸出管理強化は、日本という国の在り方を問う試金石であり、政策の争点になっても良いものです。

米国でESの司令塔を務めるのが国家経済会議(NEC)です。このNECは、冷戦終結後の安全保障政策は軍事力に頼るだけではなく、経済統制も用いるべきとの発想の下、クリントン政権時代に創設されました。国家安全保障会議(NSC)と兼任しているメンバーもいます。

日本政府に近い関係者が今春、NECを訪れ、経済制裁担当ディイレクターと面談した際には、日本にもNECが創設され、日本による効果的なESの展開に必要な機密情報の共有が可能になることを期待されたといいます。

日本政府は、韓国への輸出管理の効果を見たうえで、日本版NEC創設の検討に入るのではないでしょうか。昨今の世界情勢を見ていれば、日本版NECが必要な時代が来ているのは確かです。

現在、日本が韓国に対する輸出管理の強化検討した時点で、これは日韓関係が悪化するので、習近平はほくそえんでいるなどとする人もいますが、果たしてそうでしょうか。

今までの日本は、何をしても平和憲法の壁があって反撃されることはないと高をくくっていた習近平は現在かなり脅威を感じていると思います。こういう観点からも、米国は日本の対韓国貿易管理強化を静観しているのでしょう。

日本は金融政策や財政政策が失敗続きで、GDPの伸びは、低く一歩間違えばデフレに舞い戻りという体たらくですが、世界一の政府資産大国(世界で一番資産を持っている国)です。また、民間レベルでも金余りであり、対外純金融純資産(外国に貸し付けている金のこと)は世界一です。その日本が、ESを本格的に戦略的に行使することになれば、外貨不足の中国の習近平は日本の金をあてにするどころか、経済的にかなりの打撃を被る可能性があります。

さて、米国のNECは省庁横断的にメンバーが構成されていますが、日本では経産省を嫌う外務省が主導権を握りたがるでしょう。しかし、果たして外務省に、部品や素材レベルでの日本への経済依存度を把握する必要があるESを仕切れるような知識やノウハウはあるのでしょうか。さらには、馬鹿の一つ覚えのように、何かと増税・緊縮ばかりする財務省にも、当然そのようなノウハウがあるはずもありません。議論が本格化すれば、改めて「省益主義」が問われることになるでしょう。

このようなことを防ぐためにも、米国のように日本のNECも省庁横断的にメンバーを構成し、さらに若手で各省の省益ならびにそれに起因する省毒におかされていない人物をメンバーにして、真に国益に寄与するNECを結成していただきたいものです。

私としては、NECには日本の様々な分野から英知を結集したシンクタンクを併設し、誰にも思いつかないような、とてつもないESで、中国・ロシア・北朝鮮などを引っ掻き回していただきたいと思います。その上で、世界に向かって日本が日本の国益を追求できる体制を一日もはやく築いてほしいです。

【関連記事】


2019年7月24日水曜日

揺らぎつつある中国の周縁部掌握―【私の論表】過剰生産を海外でも踏襲する中国は消えたほうが、世界経済のため(゚д゚)!

揺らぎつつある中国の周縁部掌握

岡崎研究所

中国共産党は、自国の周縁部(香港、新疆ウイグル、チベット、台湾)に対し、締め付けを強化している。

中国のありとあらゆる地域に存在する鬼城(ゴーストタウン)

 1989年6月4日に起きた天安門事件から、2019年はちょうど30周年を迎えた。この時、天安門に集まった学生の民主化要求のデモに対し、中国共産党は、武力をもって鎮圧した。装甲車が、群衆が埋め尽くす天安門広場を走る映像と、銃声は、世界に流れた。

 これが分水嶺となり、その後の共産党中国は、国内の民主化要求等に、より神経を尖らすことになって行った。いったんタガを緩めると、共産党体制の維持が難しくなるかもしれないとの警戒心、恐怖心が共産党指導部を支配する。そして、習近平政権下において、このような傾向は一層強まっているように見える。

 他方、周縁部、とくに最近の香港における逃亡犯引き渡し条例をめぐる香港市民の反応を見ると、約束されてきた「一国二制度」なるものが、単なる欺瞞であり、いつ拘束され中国に引き渡されるかわからないという香港市民の恐怖心が見て取れる。

 このように、体制側にも周縁部にも恐怖の相互作用が見られるのが、今日の中国の一党独裁体制をめぐる状況である。

 香港の人達にとって、「一国二制度」が壊され、香港が想像以上の速さで中国化され、表現の自由や香港が享受してきた民主主義を失うことは、香港が香港でなくなることであり、それへの反発が、今回の抗議デモにつながったのだろう。これに対して、香港当局とその背後にいる中国共産党とがいつ、如何なる強硬手段を用いて、これら大規模デモを鎮圧しようとしているのか、よく読めないところがある。これまでのように、せいぜい催涙弾やゴム弾などを用いた警察力で対応することになるのか(その場合には、これからも香港デモは頻発することとなる)、あるいは人民解放軍を投入することになるのか(その場合には、第二の天安門事件に結び付く)、注視されるところである。

 旧植民地帝国、英国が、今日の中国・香港当局の対応ぶりは香港返還協定を決めた「中英共同声明」の規定に反するとして中国を非難しているが、当然のことである。

 新疆ウイグル自治区については、ウルムチ事件から、7月5日で、丁度10周年を迎えた。「職業訓練」と称したウイグル族の「強制収容」については、国際的非難が高まっている。7月5日、米国議会の超党派の委員会、Congressional Executive Commission on China (CECC、委員長はJames P. McGovern 民主党下院議員、共同委員長はMarco Rubio共和党上院議員)は、ウルムチ事件から10周年の声明を発表した。その中で、新疆ウイグル自治区への中国共産党の人権問題は、「長く乱暴な歴史」(a long and brutal history)を有すとして、ウルムチ事件は、「天安門事件以来の犠牲者の多い暴力」(the deadliest violence since the Tiananmen Square )だと述べた。議会の委員会として、この問題に対して、トランプ政権に必要な行動を取ることを促す書簡を2019年4月3日付で送ったが、政権は何もしていないとした。人口の約10%にあたる200万人ものイスラム教徒が宗教を理由に再教育キャンプに収容されている現状については、世界的により強い非難の声が上がるべきだろう。

 習近平主席の強調する「偉大なる中華民族の復興」というスローガンの重要な要素は、「台湾統一」である。今日の台湾の人々にとっては、香港での大規模デモに対し、中国が如何なる対応を取るのか、注視の的となっている。

 香港では、条例案の「完全撤回」を求める声は収まらず、また、林行政長官の辞任を要求する声も収束しそうにない。

 台湾では、中国の対台湾政策(とくに「一国二制度」など)に対し、これまでより以上に、明確かつ強硬に拒絶的姿勢を取りつつある蔡英文への支持率が急上昇するという予想外の現象が見られるようになった。これは、台湾が「台湾」でなくなることへの危機感の一つの表れであろう。

【私の論表】過剰生産を海外でも踏襲する中国は消えたほうが、世界経済のため(゚д゚)!

世界の経済を牽引しているなどの中国幻想が未だまかり通る中国ですが、その実過剰生産により、世界の経済を脅かし続けてきた中国が、崩壊する兆しをみせつつあります。

それを象徴するような記事があります。それは、WEDGE infinityの以下の記事です。
敗色濃厚の中国不動産業、海外巨大事業もピンチ

中国の大手不動産会社がマレーシアで建設を進めている「フォレストシティ」

活下去」――。 
中国の不動産大手万科(Vanke)の2018年秋季社内経営会議で打ち出されたスローガン。中国語で「生き残る」という意味だ。「活下去」の文字が大きく映し出された会場の写真がネット上で流れていた。 
(中略) 
そもそも中国経済を支えていたものは何かというと、「労働力」と「不動産」(=土地や資源の取引)なのだ。この2つに亀裂が入れば、まさに生死にかかわる大問題となる。 
(中略) 
中国人の大量移住によって東南アジア屈指の「中国人街」を作り上げる。その中核プロジェクトとして、マレーシア南部のジョホールバルに中国の大手デベロッパー・碧桂園(Country Garden)が開発を手掛けている「フォレストシティ」(中国語名:森林都市)は、大きなトラブルに見舞われている。 
(中略) 
基幹産業とは、一国の経済発展の基礎をなす重要産業を指す。ドイツは機械・自動車、イギリスは金融、フランスは文化、スイスは精密機械・観光、日本は電機・自動車、台湾は半導体、シンガポールは金融・フィンテック……。中国の基幹産業は不動産だった。バブルになりやすい不動産の脆弱性に気付いた中国は「脱不動産」を図り、IT産業に力を入れ、サプライチェーンの上流を抑えようと乗り出したわけだが、これも今、米国との貿易戦争の最中にある。

まず、位置関係を把握しておきますう。以下にGoogleマップの衛星写真から掲載します。


シンガポールとの国境近くの埋め立て地というのがよくわかります。海峡をはさんで国が違うとはいえ、シンガポール側の開発具合と、マレーシア側との対比は、違いが明白だです。

Googleマップのストリートビューを使うと、フォレストシティの一部を見ることもできました。


撮影は2018年7月のようです。まだ建設中の建物ばかりで、「WELCOME HOME」の文字が虚しいです。

高層マンションがこれでもかというくらい建設中ですが、これが計画のごく一部だというのに驚きます。やることがいかにも中国らしいのですが、いくらなんでも供給過剰だと思ってしまいます。

中国本土でも似たようなこと国中でやっていて、のきなみ真新しいゴーストタウンそ(中国では鬼城という)が誕生しました。このフォレストシティも、完成を見ることなくゴーストタウンになりそうです。

無茶な計画に、無茶な投資と開発、あげくに途中で投げ出す。中国国内でやってる手法を、海外でもやっているようです。というより、中国は国内でのやり方をそのまま海外でも踏襲しているようです。中国国内よりも、こうした海外のプロジェクトのほゔが、子細に観察できます。このようなやり方をすれば、供給過剰になるのは当然といえば、当然です。中国のプロジェクトは、鉄道建設でもゴタゴタが多いです。

マレー半島およびシンガポールは、地震がきわめて少ない地域です。にもかかわらず、中国が建てるビルに日本のような耐震構造は施されていないそうです。その分、建設コストは安くなるということなのでしょうが、あまりに無責任です。


スマトラ島のインド洋側は地震多発地帯ですが、マレー半島側はプレート境界から離れているため、ほとんど大きな地震は発生していないです。

また、スマトラ島が防波堤のような役割にもなっているので、津波の影響も少ないわようです。

赤道に近いため、台風も襲来しないです。自然災害の少ない地域ともされています。地理的に恵まれた場所ではあります。

中国の強みと弱点は、産業と政府(というか共産党)が、持ちつ持たれつの一心同体な点です。

政府の支配力や影響力が強ければ、産業も強引に突き進めるのですが、政府が行きづまると産業も傾くことになります。

中国の発表する経済指標が粉飾されていることは、いろいろと指摘されていますが、張り子の虎でも虎は虎。共産党が潰れるわけがないという誤った過信もあるようです。

経済の行き詰まりが、共産党の行き詰まりにもなりえます。広い国土と13.86億人の人口を統制していられるのは、一党独裁だからでもあります。その体制が傾くと、中国が分裂する可能性も十分あります。かつてのソ連がそうでした。

中国の民主化運動が成功しなかったのは、巨大な国をまとめるのには独裁しかなかったからかもしれません。民主化すれば、民族間の対立が顕在化するだろうし、都市部と地方の格差が火種になるだろうし、宗教的な対立も出てくるだろうし、軍部の暴走もあるかもしれないです。それらを無理やり抑え込んでいるのが、一党独裁の中国共産党なのです。

中国の歴史は、王朝の歴史でもありました。清が滅んで王朝はなくなったのですが、共産党という衣を着た王朝ができたようなものです。トップに立つ人間に、巨大な権力が集中するのは変わっていないです。つまり、現在は習近平が帝位についているわけです。

最後の王朝の清は296年続きました。それ以前は、明が276年、元が97年、宋が319年。
中華人民共和国の成立は1949年10月1日です。未だ70年の歴史しかありません。

最短の元すら超えていません。明のように続くのでしょうか。時代背景を考えると、変化が激しい現在において、200年以上続くのは難しいでしょう。

中国の民主化を望む声があったりもしますが、民主化は中国の不安定化、分裂化を招く可能性があります。かといって、共産党の支配にも限界があります。ほころびが、破断に至るのは時間の問題というのが、歴史の教訓です。

その時間が、数年後なのか数十年後なのか、それとも百年後なのか。少なくとも、一党独裁が永遠に続くことはないです。

「チャイナショック」という言葉があります。これまで起きたチャイナショックの事例は、比較的小規模なものでした。それでも世界が風邪をひいたくらいの影響を及ぼしました。

大規模なチャイナショックが起きたら、日本政府がよく使う「リーマン級の…」を超える事態になるかもしれないです。そのリスクが、徐々に高まっています。はたして、中国が崩壊する日は、いつ来るのでしょうか。

中国の崩壊で悪いことばかり起こることを考える人もいますが、私はそうは考えません。過剰生産を国内だけではなく、海外でも踏襲する中国です。これか、現在の世界の過剰生産・過剰貯蓄の傾向をもたらしています。

このため現在の世界は供給過剰であり、中国がこれ以上世界て巨大プロジェクトを実行すれば、世界が中国国内のようになります。であれば、現在の中国が崩壊すれば、短期的には悪影響もありますが、長期では世界経済にとって良いことになります。

現在の中国のあとに出来上がる国、もしくは国々が過剰生産を繰り返さないことを期待したいです。そうでなければ、同じことの繰り返しです。

【関連記事】

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由―【私の論評】中国はTPP参加に手をあげたことにより墓穴を掘りつつある

【中国の偽善が許されるのはなぜ?】GDP世界第2位の大国がWTOで“途上国扱い”され続ける理由 岡崎研究所 まとめ 中国が自国の保護主義政策を講じながら、米国の産業支援策を非難しているのは偽善である。 現行のWTO制度は、多くの国が「途上国」と自称できるため、中国の保護主義政策を...