2022年1月29日土曜日

ウクライナ大統領、ロシア侵攻めぐる発言の抑制要求 「これはパニック」―【私の論評】ウクライナ問題を複雑化させる右翼武装グループ「ロシア帝国運動」と「アゾフ連隊」(゚д゚)!

ウクライナ大統領、ロシア侵攻めぐる発言の抑制要求 「これはパニック」

ロシア侵攻に関する発言が「パニック」を引き起こしていると訴えるゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、他国の指導者がロシアとの戦争の可能性を誇張し、「パニック」とウクライナ経済の不安定化を引き起こしていると訴え、発言の抑制を求めた。

外国報道陣との会見で述べた。これによると、ゼレンスキー氏はバイデン米大統領やマクロン仏大統領との電話会談で、ロシアからの脅威は「差し迫った絶え間ない」ものではあるものの、2014年の侵攻以降、ウクライナ国民はこうした脅威と暮らすことを学んできたと説明したという。

ゼレンスキー氏は「彼らは明日にも戦争になると言っている。これはパニックを意味する」と述べた。

ロシアはウクライナ国境に数万人規模の兵力を集結させており、プーチン大統領が侵攻を計画しているとの懸念の声が上がる。ただ、ロシアはウクライナ侵攻を繰り返し否定している。

ロシアの脅威の深刻さは正確には不明なままで、この点をめぐりゼレンスキー氏とバイデン氏の見解が対立しているとの情報がある。

ウクライナ高官がCNNに明かしたところによると、両氏の27日の会談は不調に終わったとされる。バイデン氏がロシアの侵攻はほぼ確実で差し迫っていると警告する一方、ゼレンスキー氏は脅威は「危険だがあいまい」なものにとどまるとの認識を改めて表明したという。

一方、ホワイトハウスはこの説明に異を唱え、匿名の情報筋が「偽情報をリーク」していると指摘。報道官の1人は、バイデン氏はゼレンスキー氏に2月侵攻の「明確な可能性」があると警鐘を鳴らしたと述べた。

【私の論評】ウクライナ問題を複雑化させる右翼武装グループ「ロシア帝国運動」と「アゾフ連隊」(゚д゚)!

このブログでは、ロシアによるウクライナ侵攻の確率はかなり低いことを主張してきました。その論拠としては、まずはロシアのGDPは今や韓国と同程度あり、しかも人口はロシアが1億4千万人、韓国は5千万であり、一人あたりのGDPとなると、韓国を大幅に下回ることです。

これだけGDPが低く、しかも国土は世界一の広さとなると、守備すべき国境線も長大であり、最早ロシアは大きな戦争はできません。米国抜きのNATOともまともに戦えば、負けます。

さらに、もう一つの論拠はロシア地上軍は兵站を鉄道にかなりの部分を頼っており、脆弱であることを考えると、ロシア軍はウクライナ全土に侵攻するのは不可能というものです。よって、侵攻するのは最大でもドネツクなどのいくつかの州であり、それも州全部ではなく、州の骨棘近くまでかもしれません。

なぜなら、兵站を鉄道に頼るロシア地上軍は、国境近くでは、高いパフォーマンスを発揮できるものの、それを超えると急激にパフォーマンスが低下するからです。

ウクライナ南部クリミア半島で18日、高速道路を走るロシア軍の装甲車

さらに、26日には別の論拠もあげました。それは、米国のランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしていることです。

そうなると、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になり。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だというものです。

ロシア地上軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしてもウクライナを占拠するのは、到底不可能です。

以上は、純粋に軍事的な観点からの分析です。実は、この他にウクライナ問題を複雑にしている問題があります。それは、ウクライナとロシアに存在する過激な右翼団体の存在です。これについては、情報も少ないので、このブログではとりあげてきませんでしたが、最近は少しずつでてきているので、本日はこれについて掲載します。

ウクライナ側の右翼団体は、アゾフ連隊です。ロシア側のそれは、ロシア帝国運動です。

これについては、以下の記事が詳しいですし、よくまとまとまっています。日本にいて、漏れ聞こえてきた情報をまとめると、おおよそこの記事のようになると思います。私の知り得た情報もこれ以上のものはありません。
ウクライナ危機の影の主役――米ロが支援する白人右翼のナワバリ争い
以下に一部をこの記事から引用します。
クリミア危機の後のミンスクII合意でロシアと欧米そしてウクライナは「外国の部隊」の駐留を禁じることを約束した。これは緊張緩和の一環だった。

ところが、その後もロシア系人の多いウクライナ東部ではウクライナからの分離独立とロシア編入を求める動きが活発化しており、その混乱に乗じて2019年段階ですでに50カ国以上から約17,000人の白人系右翼が集まっていたと報告されいる。

彼らは立場上「民間人」ですが、実質的には外国人戦闘員です。とりわけ多いのがロシアから流入した白人系右翼で、その背後にいるのが「ロシア帝国運動」だ。

「ロシア帝国運動」の国内でのデモ

民間人の立場を隠れ蓑に軍事活動を活発化させるロシア帝国運動は、ウクライナでエスカレートする緊張と対立の、いわば影の主役とさえいえる。
そうして、影の主役はウクライナ側にもいるのです。ウクライナの右翼団体アゾフ連隊です。
アゾフ連隊(現在はアゾフ大隊と呼ばれている)は2014年、クリミア危機をきっかけに発足し、民兵としてロシア軍やロシア帝国運動と戦火を交えた経験を持ち、その頃から民間人の虐殺といった戦争犯罪がしばしば指摘されてきた。そのためロシアメディアではネオナチ、ファシストと呼ばれている。 
ロシア軍のクリミア侵攻の時に記念写真をとるアゾフ連隊
戦場の様子などもFacebookなどで発信し、欧米からも右翼活動家をリクルートするアゾフは、欧米での白人テロを誘発させかねない存在として危険視されている。実際、アメリカ議会は2015年、アゾフを「ネオナチの民兵」と位置付け、援助を禁じる法案を可決した。

ところが2018年、国防総省からの圧力で議会は法案を修正し、それを皮切りに欧米はアゾフに軍事援助をしてきた。ジョージワシントン大学研究チームが昨年発表した報告書によると、アゾフやその下部団体のメンバーは米国をはじめ欧米諸国から訓練を受けており、なかにはイギリス王室メンバーも卒業生のサンドハースト王立陸軍士官学校に留学した者までいる。

要するに、欧米はロシアを睨んでアゾフを手駒として利用しようとしているのです。これこそ冷たい国際政治の現実であるが、欧米での右翼過激派の動向を考えれば、危険な賭けであることも確かです。

しかし、それはアゾフには関係ない。むしろ、欧米から承認を取り付けたアゾフは、ウクライナ危機がさらにエスカレートすれば、これまで以上に活動を活発化させることになるだろう。

いわば世界が懸念を募らせるウクライナ危機は、日陰の身にあったコーカソイド系右翼にとっての晴れ舞台ともなり得るのである。

ウクライナ問題で、こうした右翼の影の動きがほとんど報道されなかったのは、 ロシアは武装グループである、「ロシア帝国運動」を支援して都合よく使ってきたからであり、欧米やウクライナもロシアの抵抗勢力として、アゾフ連隊を手駒として用いようとしてきたからでしょう。

こうした右翼団体の活動が、両陣営のコントロールが及ばなくなったときのことも想定して、ロシア軍は国境に大部隊を配置している面は否めないと思います。何しろ、ロシアはウクライナと国境を接しているので、その緊迫感は欧米よりは高いでしょう。

国境を直接接していない欧米側は、あくまでウクライナ政府にコントロールさせようとしているのでしょう。

ロシア側としては、「ロシア帝国運動」がロシアの意向に反した行動をした場合、あるいはしそうな場合は、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。

また、アゾフ連隊が越境したり、越境しそうな場合には、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。また、アゾフ連隊がウクライナ領内外の「ロシア帝国運動」の拠点を潰したり、潰そうとした場合これを攻撃して、拠点を確保するつもりだと思います。そうして、あわよくば、その拠点を増やそうという腹だと思います。

また、「ロシア帝国運動」や「アゾフ連隊」が不穏な動きをしないように、抑止するという意味もあると考えられます。

以上のようなことを知らない人が、ウクライナ情勢をみると、一触即発でウクライナとロシアがすぐに大戦争を始めてしまう可能性を危惧してしまうのでしょう。

米国、NATO、ウクライナ、ロシアもそれは望んでいないでしょう。ロシアとしては、戦争を望んではいないのでしょうが、ウクライナがNATOに入るのは許容できないのでしょう。

冒頭の記事でのゼレンスキー大統領の発言は、以上のようなことを説明していないので、なんとも歯切れがわるいというか、理解しにくいものになっています。

ウクライナ問題を解決するには、まずは両陣営とも、テロリストでもある右翼武装グループに対する支援を打ち切ることだと思います。その方が良いですし、そもそもテロリストはいつ飼い主の手を噛むかわかったものではないからです。

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2022年1月28日金曜日

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り―【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り


 岸田文雄首相は「佐渡島の金山」(新潟県)をめぐる韓国との「歴史戦」に挑むにあたり、さまざまな情報の間で揺れ動いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する覚悟を決めたのは27日だった。「最後は俺が決める」。そう周囲に語る言葉は自身を鼓舞するようでもあった。

 「世界遺産に登録できるように、冷静で丁寧な議論をやろう。米国や韓国をはじめ、関係国にしっかりと説明してくれ」

 首相は28日午後、官邸の首相執務室に林芳正外相や末松信介文部科学相ら関係閣僚を集め、こう指示した。

 首相は、昨年末に佐渡金山が世界遺産の推薦候補に選ばれてから、推薦の可否を慎重に探ってきた。

 外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた。

 外務省などが推薦見送りの調整に動き、自民党重鎮議員らへの根回しに入っていた。これに対し自民党内からは「来年に先送りして登録の可能性が高まるのか」(安倍晋三元首相)、「誤ったメッセージを国際社会に発信することになりかねない」(高市早苗政調会長)などの声が強まった。

 推薦論と見送り論の板挟みになったが、首相は平成27年に長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が登録された際の外相だ。当時は、韓国の主張を一部認めることで登録を実現させたが、韓国はその後も問題を蒸し返しており、軍艦島は今も韓国との歴史戦の最中にある。

 首相は佐渡金山の推薦を見送っても、韓国を相手に登録への道が開ける保証はないとの判断に傾いていった。地元・新潟の強い希望も踏まえた。

「安倍政権のときのような『歴史戦チーム』を復活させたい」

 首相は22日、安倍氏にそう打ち明けた。韓国から疑義が呈された場合、一つ一つ証拠を挙げて反論する態勢を整えるためだった。外務省、文科省を中心に省庁一体で取り組むタスクフォースを早期に発足させるという。「登録に向けて早く議論を始めるべきだ」と語る首相の韓国との「歴史戦」が始まった。(永原慎吾)

【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

この岸田総理の決断本当に良かったと思います。また、ちゃぶ台返しという批判もあるようですが、このようなちゃぶ台返しなら、何度もやっていただきたいです。

このような決断をしなかった場合、韓国側の主張を認めるような流れのなかで推薦を見送るということになり、諸外国から「日本には後ろめたいところがあるのだろう」と疑われることになったはずです。

 韓国は「安倍晋三政権とは違って、岸田文雄政権はイチャモンをつければ折れてくる」と見て、あらゆる分野で対日攻勢をかけてきたでしょう。というよりは、私は文在寅は、岸田政権を値踏みしていたのだと思います。

推薦を見送った場合、慰安婦問題に関する「河野談話」に匹敵する大失政になりかねない状況だったと思います。

ちなみに 「佐渡島の金山」への韓国側のイチャモンは、「強制動員労働の現場だった」というものです。そんな場所を「日本政府は世界遺産に推薦してはならない」と主張しています。

 本当に「強制動員労働の現場」だったのでしょうかか。 朝鮮日報(2022年1月20日)に、佐渡島の強制動員労働の被害者の娘2人(82歳と77歳)の話を掲載しました(下写真)。 2人の父が佐渡島に入ったのは1940年のことでした。


つまり、徴用令が朝鮮人に適用される(44年9月)前のことです。父は生まれたばかりの長女ともに佐渡島へなどの話をしていますが、ここからして疑問です。そうして、勘違いされないように年のため付け加えておくと、徴用=強制労働ではありません。韓国では、両者を同じように語る人もいるようですが、これがそもそも大きな間違いです。

大戦中は、日本で日本人(当時は朝鮮は日本領だったので、当然のことながら、朝鮮人もふくまれる)が徴用されるのはごく普通のことでした。いや、世界中の他の国々でも、戦争で人手が足りなかったので、米英豪でも、フランス、ドイツでもイタリアでも、当時のソ連でも徴用はありました。

世界中の国々で、男性だけではなく、多くの女性も徴用されました。下の写真は、第2次世界大戦中の女性の徴用工の写真です。


戦時徴用され航空機づくりの作業に従事しているアメリカ人女性

そうして、徴用といった場合、給料を支払われました。強制労働ではありません。

ただ、実際に強制労働をさせた国はありました。それは、どこかといえば、ソ連です。いわゆるソ連によるシベリア抑留です。これは、第二次世界大戦の終戦後、武装解除され投降した日本軍捕虜らが、ソビエト連邦(ソ連)によって主にシベリアなどへ労働力として移送隔離され、長期にわたる抑留生活と奴隷的強制労働により多数の人的被害を生じたことに対する、日本側の呼称です。

ソ連によって戦後に抑留された日本人は約57万5千人に上ります。厳寒環境下で満足な食事や休養も与えられず、苛烈な労働を強要させられたことにより、約5万8千人が死亡しました。このうち氏名など個人が特定された数は2019年12月時点で4万1362人です。

朝鮮人もシベリア抑留された事実も2010年に明らかになっています。しかし、韓国は当時のソ連の非道ぶりを批判するのではなく、この事実を日本への攻撃材料として用いています。

このソ連の行為は、武装解除した日本兵(当然のことながら朝鮮人も含めて)の家庭への復帰を保証したポツダム宣言に反するものでした。ロシアのエリツィン大統領は1993年(平成5年)10月に訪日した際、「非人間的な行為」として謝罪の意を表しました。ただし、現在ロシア側は、移送した日本軍将兵は戦闘継続中に合法的に拘束した「捕虜」であり、戦争終結後に不当に留め置いた「抑留者」には該当しないとしています。

少し話が横道にそれたので、朝鮮日報の話に戻ります。記事に書いてあることから推測できるのは、「日本の強制動員労働」とは、妻子も一緒に連行するばすもなく、この記事の二人の父親は、高給目当ての「押しかけ応募工」だった可能性が高いです。 長女は「奴隷のような待遇だった」という話を具体的に述べています。小学生前の見聞を、82歳になっても鮮明に記憶しているとは俄に信じがたいです。 

それよりも、そうした環境にいた父親が、佐渡島で2女と3女をもうけた事実に着目せざるを得ないです。奴隷のような待遇にあったとは思えません。

 戦時の混乱で、朝鮮人を含む労働者に月給が支払われなかった一時期があったことは確かにあります。しかし、その金額が後に供託された証拠が日本には残っています。供託するにあたっては、賃金台帳がなければできませんが、それも残っています。その一例が下の写真です。

当時徴用された朝鮮人の名簿「半島労務者」、「給与係」と書かれ
ている所に注目 これは今でいえば、賃金台帳のようなものです。

「強制動員労働させられた奴隷」が月給をもらっていたというのは理屈にあいません。しかも、 日本に来たために奴隷のようなひどい目に遭ったというのに、戦後も日本に住み続け、現に娘たちも日本にいるのは、日本人の感覚からすると、どうにも不可解すぎます。

 韓国が慰安婦関連資料のユネスコ登録を目指した際、日本は「関係国が合意しない限り申請しない」という制度導入に中心的役割を果たしました。このため、外務省は「佐渡島の金山」の推薦に消極的だと日韓双方のマスコミは伝えています。

 しかし、慰安婦関連資料が登録を目指したのは「世界記憶遺産」(Memory of the World)Mであり、「佐渡島の金山」が登録を目指すのは「世界文化遺産」(World Heritage)です。基本的性格が異なるものです。

 岸田首相周辺からは「日本政府が推薦すると、韓国が日本に対する悪宣伝を展開しかねない」との見方が伝えられています。甘い見方です。 イチャモンを付けられることを恐れて推薦を見送れば、「悪罵の大国」はますます図に乗って、世界中で対日悪宣伝を進めるでしょう。

 今さら官房副長官が「韓国の主張は受け入れられない」と述べたところで、日本が韓国のイチャモンに屈したとの見方を、どうして払拭できるでしょう。

 宮沢喜一首相と河野洋平官房長官(ともに当時)の〝宏池会コンビ〟が1993年、簡単にだまされて(=もしかしたら、だまされたふりをして)犯した大失策を想起しなくてはならないです。「ケンカするのは怖いから嫌だよ」 岸田首相と林外相のコンビは、同じ轍をもう少しで踏むところでした。

今後も、高市政調会長や安倍元総理なども含めて、まともな自民党国会議員は今後も岸田政権の動向に注目して、今回のような事態が起こりそうなれば、国会で追求したり、忠告をしたりして阻止していただきたいです。

そうして、岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しをしてください。外務省、財務省、厚生労働省、その他の官僚達をきりきり舞いさせて欲しいものです。

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2022年1月27日木曜日

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題―【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題

岡崎研究所

 11月24日に始まったソロモン諸島の首都ホニアラでの暴動は、豪州など部隊の介入により、一応抑圧された。この暴動は、中国をめぐる地政学的文脈を持つものとして報道された。略奪された財産の多くは中国人所有のものであったし、ほとんどの暴徒の出身州であるマライタ州知事スイダニは、2年前ソガバレ(首相)が外交承認を台湾から中国へ切り替えた時に反対運動をしたという経緯もある。


 ソロモン諸島は人口70万を擁し、太平洋島嶼国の中では大きな国だが、ここ20年余り政治状況は不安定である。その背景には、①中国と台湾・米国の間の競争(2019年に外交承認を中国に切り替えた。マライタ州は台湾を支持)、②経済発展の欠如(若者が職に就けない)と州間の経済格差の不満、③本島のガダルカナル島と最多人口を擁するマライタ島の対立と指導者の対立(首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争している)などが複雑に絡んでいるようだ。

 フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張する。豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べている(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

 しかし、12月6日にはソガバレに対する不信任案が議会で投票に掛けられ(結果的には否決された)、その過程で野党代表がソガバレは「一つの大国の利益」だけを考えていると批判し、ソガバレはマライタ州は「台湾の代理人」であり、暴徒は政府転覆を謀っていると応酬したことなどを見れば、中台という地政学が大きな不安定要素になっていることは否定できない。

 中央政府の要請を受けた豪州、フィジー、パプアニューギニア、ニュージーランドの軍・警察部隊の介入で平静を取り戻したことは評価される。しかし、ヒルが指摘するように、ソロモン諸島の経済や政治が変わらない限り、再発する可能性がある。日本を含め関係国が夫々の協力を強化するとともに、太平洋の安定のために島嶼国支援を強化していくべきである。

中国も食指を動かす太平洋島嶼地域

 太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大している。恐らく中国は斯かる重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのであろう。何れ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になれば、それは危険である。

 太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間である。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではない。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

 12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」には多くの島嶼国が招請されたことが注目される(フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようだ。

 日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要である。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言う。地政学の舞台は益々大陸から大洋のオープン・エリアに拡大している。

【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国は、様々な面でソロモン諸島と親交を深めつつあります。

外交部の趙立堅報道官は26日の定例記者会見で、中国の援助物資を満載したチャーター機が26日、ソロモン諸島の首都ホニアラに到着したことを明らかにしました。

趙報道官は、「ソロモン諸島側の要請に応じて緊急提供した5万回分の新型コロナワクチン、2万人分の検査キット、6万枚の医療用マスクなどの感染症対策物資と、これより以前に中国がソロモン諸島政府の治安維持と暴動防止を支援するために約束した約15トンの治安用物資が含まれる」と説明しました。また、中国側の治安顧問チームと建設支援プロジェクト専門家チームも同じチャーター機で到着しました。

趙報道官は、「中国側は今後も引き続きソロモン諸島の国内の安定維持、国民の安全と健康の保護、経済発展と国民生活改善のためにできる限りの支援を提供し、両国の良好な関係の恩恵が両国民に行き渡るようにしていく」と表明しました。


中国は、台湾の国際的活動空間を狭めることで、台湾の蔡英文政権に圧力を加えていますが、2019年にはソロモン諸島と、次いでキリバスが台湾との国交断絶を発表し、中国との外交関係の樹立を発表しました。

これには、大きな中国マネーが動いたと言われています。2019年10月24日号の英エコノミスト誌によれば、中国土木・建設会社は、外交関係の変更のために50万ドルの借款・贈与を提供しました。

他にも、中国鉄道会社は、金鉱再生のために8億2500万ドルを貸すと約束しました。中国政府はスポーツ・スタジアムを建設し、台湾への借金120万ドルを肩代わりすると申し入れました。

上の記事では「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と指摘しています。

ソロモン諸島の経済はどうなのか、一人あたりのGDPを以下にあげておきます。

一人あたりのGDPは、2千ドル台ですから、これは日本円になおすと大雑把に2万円台です。いかに貧しいかがわかります。中国の一人あたりのGDPは1万ドル前後ですから、これは中国よりもかなり低いです。

以前このブログで私は、中東欧諸国が中国から離反して、台湾への接近を推し進める理由をあげたことがあります。それを以下に再掲します。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。
中東欧諸国は、先進国のように豊かではありませんが、リトアニアを含めほとんどの国々が一人あたりのGDPは、中国を上回っています。そのため中東欧諸国は、中国に取り込まれる危険はなくなったというか、最初から取り込まれる危険はなかったといえると思います。

台湾も一人あたりGDPが中国をはるかに上回っています。だからこそ、台湾人は大陸中国に飲み込まれることを嫌がるという側面は否めません。

しかし、ソロモン諸島は違います。時間をかけ民主主義を値付け、政治と経済の分離を図り、法治国家化をすすめることにより、多数の中間層を生みだし、それらが自由に社会活動をした結果富を生み出した西欧諸国のような発展方式より、短期間に政府主導で経済を成長させた、中国の方式のほうが通用することが考えられます。日米豪などが、対応を間違えば中国に取り込まれてしまう危険は十分にあります。

そうして、ソロモン諸島は人口が70万弱ということも、西欧諸国と違った形で経済成長する可能性を示唆しています。たとえば、シンガポールです。シンガポールは、都市国家であり、人口は568万人です。

シンガポールは一党独裁状態にあります。日本をはじめとする先進国の政治体制とは仕組みが異なりますので、一概には比較できないですが、①政治の強いリーダーシップと、それに伴う迅速な意思決定力があり、②1971年に発表された長期計画(コンセプトプラン)の維持と、見直しが継続的に行われていること、③他政府の事例等を学びながら、良いところと課題を抽出し、シンガポールに合った形に組み換え実行すること。この3つの力がシンガポールの経済発展をもたらしました。

ただ、私自身はシンガポールは都市国家であったからこそ、管理が行き届き、一党独裁であっても優れた経済政策を打ち出すことができ経済発展できたのでしょう。しかし、逆に優れた経済政策が打てなければ、一党独裁であるが故に、経験交替が起こらず、経済が低迷した状況が長く続くことになると思います。

ただ、ある程度以上の人口を抱えた国では、1党独裁であっては経済発展できないです。それは高橋洋一氏が作成した以下のグラフではっきりと示されていると思います。


このグラフをみると、一人当たりのGDPが1万ドル以下までは、民主化と一人あたりのGDPはあまり関係ないのですが、1万ドル超えると、民主化と一人あたりのGDPには明らかに相関関係があることが示されています。相関係数は0.71であり、社会現象としては高い相関を示していると思います。

ソロモン諸島は、当面一党独裁で中国やシンガポールのような発展をすることもできますし、西欧諸国のように民主化をすすめて経済発展をすることもできます。しかも、ソロモン諸島の人口は70万弱です。そうなると、シンガポールのように一党独裁を保ったままでも、かなりの経済発展ができる可能性すらあります。

しかも、中国の援助を受けながら、将来的には中国と貿易をしながら、経済発展するという道もあります。そうなると、ソロモン諸島等が中国に飲み込まれる可能性は、中東欧諸国やASEAN諸国よりもはるかに高いと認識する必要があります。

第2次世界大戦中、この地域は日米の激戦地でしたが、これらの諸島が持つ地政学的価値があるからです。特に、これらの諸島は米国と豪州を結ぶシーレーンの上にあります。日米豪印が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、中国の進出は、その戦略を進めていく上で、大きな阻害要因になります。これは日米豪間で話し合うべき問題です。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間です。中国が今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させます。  

中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきました。これは防衛的戦略とも言えますが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示しているといえます。

中国が進出する前に、あらゆる手段を講じて、阻止すべきです。中国はすぐに軍事基地を設けたりはしないかもしれません。南シナ海のように、サラミ戦術を用いてゆっくりと数十年かけてソロモン諸島を傘下に収め、軍事基地を設営するかもしれません。

日米豪印は、南シナ海の失敗を繰り返さないように早めにを手を打つべきです。一度南シナ海のように、既成事実化されてしまうと、それを元に戻すことは難しいです。

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2022年1月26日水曜日

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略―【私の論評】ウクライナで失敗すれば、それは米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのデビッド・イグネイシャスが、1月6日付け同紙に、バイデン政権はウクライナをロシア軍に攻め込まれてもこれに頑強に抵抗するハリネズミのような国にすることを検討しているとの論説(‘Biden wants to turn Ukraine into a porcupine’)を書いている。


 要点を一部抜粋して紹介すると次の通りである。

 「ロシア軍が国境線を越えれば、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国は長期の抵抗戦のための兵器と訓練を提供する。米国と同盟国は、訓練とスティンガー防空ミサイルを含む兵器をもってウクライナの反乱を支援する方法を考え始めている。ランド研究所のアナリストによれば、そのような反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要する。だとすれば、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になる。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だ」

 「ウクライナの抵抗能力を強めるために、最近になって、米国とNATOは防空、ロジスティックス、通信、その他の枢要な部分の調査のためのチームを派遣した。米国はロシアのサイバー攻撃と電子戦争に対するウクライナの防衛能力の梃入れもしたようだ」

 敵に侵攻を断念させるため抑止を働かせることが望ましいが、米国と欧州にはウクライナの防衛のために欧州を戦場としてロシアと戦う意思がない。そうであれば、ロシアが一旦国境を越えれば、これに抵抗するウクライナの反乱闘争を武器の提供をもって支援し、泥沼に足を取られるロシアに最大のコストを払わせることをもって戦略とせざるを得ないであろう。厳しい経済制裁だけでは抑止として不十分だと思われるので、この戦略を加えて抑止とすることが重要と考えられる。

 筆者のイグネイシャスは政権の内部情報に通じた人物であるので、論説に書かれているウクライナをハリネズミとする戦略が米国とNATOで検討されていることは事実であろう。もし、1月から始まった一連のロシアとの協議を通じて、ロシアがディエスカレーションに関心がなく、協議を侵攻のための口実作りに利用しているに過ぎないことが明らかになる場合には、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきであろう。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討に値しよう。

NATOとロシアの政治的合意も形骸化

 イグネイシャスは上記論説で、侵攻があれば、NATOは兵を前方に動かすことを議論している、とも書いている。その具体的な内容は分からないが、もはや、1997年5月のNATO・ロシア議定書の規制に縛られる必要はない。

 この議定書はNATOの東方への拡大が議論されていた当時、ロシアを慰撫し、ロシアとの関係を維持するために作成された政治的合意(法的拘束力はない)であるが、その中でNATOは旧共産圏諸国への実質的戦闘部隊の常駐を控えるとの自己規制を表明している。それゆえに、NATOは、バルト三国とポーランドへの部隊の派遣はローテーションによることとしてきた。

 しかし、この規制は「現在および予見し得る安全保障環境」と「ロシアが同様の抑制を行使する」ことを前提とすることが議定書に記述されている。ロシアのクリミアの奪取とウクライナ東部への干渉、更には昨年来のウクライナ国境における軍事的威圧に鑑みれば、規制は死文化していると言うべきであろう。

 恐らく、プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう。

【私の論評】ウクライナての失敗は米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

このブログでは、以前からロシアによるウクライナ侵攻の可能性は低いことを掲載してきました。特に、ロシアがウクライナに侵攻して、全土を掌握することは、かなり難しいことを掲載してきました。

その根拠としては、現在のロシアの一人あたりのGDPは、韓国を大幅に下回るろ(ロシア10,126.72 USD、韓国 31,489.12 USD)こと、さらにロシア軍の兵站は主に鉄道に頼っており、非常に脆弱であることをあげました。

韓国とロシアは国としては、GDPは大体同じくらいでロシアの方が若干少ない程度ですが、韓国の人口は5174万5000人であり、ロシアは1.441億です。韓国よりは、ロシアのほうが軍事技術ははるかに進んでおり、大きな軍隊を持っていますが、それにしても韓国程度の経済力で軍事的に何ができるかと考えれば、ロシアのできることは限られているとみるのが普通だと思います。

韓国とロシアのGDPは同じくらいだが、一人あたりGDPではロシアは韓国よりはるかに低い

この2つをもっても、ロシアがウクライナ侵攻して、全土を掌握するのはかなり困難だということがいえると思います。鉄道に兵站を頼っているロシア軍は、鉄道を破壊されてしまえば、補給が絶たれることになります。

そのため、特にロシア陸軍は国境付近では高い能力が発揮できますが、ウクライナ奥地に入り込むに従い、兵站をウクライナ軍や、NATO軍などにより破壊され、弾薬、水食料、燃料などが手に入りにくくなり、進撃をストップせざるをえなくなります。ちなみに、線路の破壊は、手榴弾でもできます。

そのため、ロシアはウクライナ侵攻はできません。できるとすれば、ロシア国境に近いいくつかの州を掌握できるくらでしょう。それも無理かもしれません。いくつかの州のロシア寄りの狭い部分を掌握できるだけかもしれません。それも、いわゆるハイブリット戦を駆使しまくってもその程度でしょう。

上の記事にもあるように、ランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしています。これが、どのようにして計算されたものかは知りませんが、これが正しいとすれば、ロシアのウクライナ全土への侵攻は全く不可能ということになります。

上の記事では、ロシアはウクライナを占領するのに、88万6000人の占領軍を必要としますが、ロシア陸軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしても到底不可能です。

1945年から1948年にかけて、動員解除によってソ連軍は1130万人から280万人に減らされ、1946年には33に増加していた軍管区が21に減らされました。また、地上軍は982万2000人から244万4000人に人員を減らしました。減らしたといっても、244万ですから、現状のロシアとは全く異なります。

過去40年では最大のツゴル演習場で行われた露中合同軍事演習「ボストーク2018」にて

ロシアというと、かつての超大国ソ連のイメージが強く残っており、軍事力も世界で第二位とされるので、ロシアによるウクライナ侵攻などを簡単に思ってしまう人も多いようですが、少し数字を確認すれば、そうではないことがわかります。

このことが理解できない人たちは、ロシアがウクライナを破壊することと、ロシアがウクライナを占拠することとは、大違いであることを知らないのかもしれません。破壊するだけなら、核ミサイルを数発発射したり、航空機等を用いれば、それで良いです。

しかし、破壊するだけであれば、ほとんど意味を持ちません。ロシアの狙いは、NATO拡大を防ぐことです。破壊してしまえば、NATOに格好の口実を与え、NATOはウクライナに軍隊を進駐させることでしょう。

しかし、占拠するとなると、多数の軍隊を派遣して、これらに兵站を通じて、弾薬・水・食料(一日3000kcal)等を補給し続けなければなりません。これは、経済力がなければなし得ないことです。現状では、NATO諸国と比較すると、ロシアの経済力はかなり見劣りします。現在のロシアでは、米国を除いたNATOにさえまともに対峙できる状況ではないです。

ただ、ロシアは旧ソ連の核と、軍事技術を継承しています。その点では、決して侮れる相手ではありませんが、過大評価はすべきでないです。あくまで、等身大で見るべきと思います。

そうして、上の記事の結論部分の「プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう」も正しいと思います。

プーチンは、バイデンを値踏みしているともいえると思います。どの程度圧力をかけられるか、その限界はどこまでか、またどの程度圧力をかけるとどの程度の譲歩をするかなどを推し量っていることでしょう。これが、プーチンの目的といえるでしょう。

バイデンとしては、ここで下手な譲歩はするべきではありません。昨日も述べたように、もはやウクライナ情勢一つとっても、米国とロシアの対決という単純なものではなくなっているからです。

昨日も述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあるからです。北朝鮮は危険ではありますが、すでに世界の対立軸からは姿を消したとみるべきでしょう。北に接近し、対立軸の中に入ろうとした韓国も姿を消しました。

バイデンがウクライナで下手な譲歩をすれば、バイデンの失敗ではなく「米国連合」の失敗ということになり、「反米枢軸」は「米国連合」の脆弱な点を見つけ出し、その点を突き、自分たちに有利になるように、あらゆる攻勢をしかけてくることになります。

「米国連合」側である、日本やその他の同盟国は、そうした観点からウクライナ情勢を見るべきであり、ウクライナで失敗すれば、それはバイデンの失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となるとみるべきです。

上の記事にもあるように、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきです。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討すべきです。

「枢軸側」が勝利を収め続けることになれば、日本にも悪影響がでてくるでしょう。たとえば、一見ウクライナ情勢とは無関係にみえる、「北方領土交渉」もかなり不利になる可能性があります。

逆に、「米国連合」が勝利を収め続け新冷戦に勝利すれば、日本は旧ソ連との冷戦・中国との新冷戦の両方の戦勝国となり、世界における日本の存在感が増し、「北方領土交渉」どころか、多くの面で有利になるのは確実です。2回におよぶ冷戦の勝利により、名実ともに日本は真の独立を勝ち得ることになるでしょう。

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2022年1月25日火曜日

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バイデン政権がウクライナ危機を失地挽回に利用?保守派の論客は「不干渉」訴え 


米国はウクライナ問題に関わるべきではないという意見が、保守派の間から上がり始めた。 

【画像】輸送機に積み込まれるウクライナへの物資(カリフォルニア州・トラビス空軍基地)

ウクライナへの「不干渉」訴える声

FOXニュースの看板キャスターで、保守派の論客として知られるタッカー・カールソン氏は、18日に放送された自身の番組の中でこう言った。
 今回のウクライナ危機の原因を考えてみましょう。なぜロシアが腹を立て、衝突の危機が迫っているのでしょうか?その理由はこうです。米国政府は長年にわたってウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させるよう推し進めてきました。もしメキシコが中国に軍事的に支配されたらと考えてみてください。我々は当然、それを疑いもない脅威と受け取るでしょう。ロシアもNATOによるウクライナの支配をそう見ているのですが、間違っているでしょうか。それに引き換え我々は、ウクライナをNATOに押し込んでもなんら得なことはないのです。 
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月18日放送)
 この発言は大きな反響を呼び保守・革新双方から批判の声があがったが、カールソン氏は屈せず、21日には自身の番組で“ウクライナ不干渉説”を説いた。
 昨日はロシアとウクライナの戦いという暗い話題について話しました。ワシントンでは超党派のネオコンの同盟が、この衝突を発火させるべく仕掛けてきました。米国の外交問題の当事者たちは数億ドルもの兵器を世界でもっとも不安定なこの地に送り込み、爆発が起きるのを期待して待っているのです。 その期待が叶う日が近いようです。爆発は起きそうですし、それは米国をいとも簡単に紛争の中心に吸い込むことになるでしょう。私は昨夜そう言ったわけです。しかし正直言って、信じられないことです。我々は本当に戦略的に意味のない地域の腐敗した国のために戦わなければならないのでしょうか。我々の国で他にもいろいろな問題を抱えている時にです。正常な人間ならばそんなことをするわけがないでしょう。それなのになぜそうなるのでしょうか。 
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月21日放送)
カールソン氏は「ネオコン(新保守主義者)」に対抗する「ペイリオコン(伝統的保守主義者)」で、外交的には「孤立主義」の立場をとり、かつてトランプ前大統領にアフガニスタン撤退を助言したと言われる。

バイデン政権の「ワグ・ザ・ドッグ」作戦?

ウクライナ問題に対しては、別の視点から疑問を挟む声もある。
 この(バイデン)行政府は、ウクライナ問題を「ワグ・ザ・ドッグ」に利用しようとしています。
 保守派のコメンテーターのジャック・ポソビエック氏は、19日に公開したポッドキャストでこう言及した。 

「ワグ・ザ・ドッグ」とは、直訳すれば「(尾が)犬を振る」で「本末転倒」を意味するが、かつて同名の映画(邦題『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』)が、大統領のスキャンダルを隠すために米国が架空の戦争を始めるという筋書きでヒットした。

 現実でも、ビル・クリントン元大統領が1998年8月にアフガニスタンとスーダンに爆撃を命じたが、それは同じ日に大陪審で行われたインターンの女性との不倫問題の聴聞から世間の関心を逸らすための「ワグ・ザ・ドッグ」だったと言われている。

 ポソビエック氏は、ホワイトハウスのスタッフから得た情報として、行政府はその失地挽回と国民の関心を逸らすためにウクライナとロシアの間の緊張激化を利用していると、そのポッドキャストで語った。 
彼ら(バイデン政権)は武装衝突を利用して米国の若者たち、あなたの息子や娘たちを戦地に送り込もうとしているのです。政権の国内的、対外的な信頼感を取り戻すために。
 そして同氏はポッドキャストでこう警告した。
 これは「ワグ・ザ・ドッグ」に他なりません。そしてウクライナで米国人が殺されるのです。ちょうど(アフガニスタンの)カブールで起きたのと同じように。私の言葉を信じなさい。
 こうした中、バイデン政権の新たな支持率が47%という世論調査の結果が23日伝えられた。 最近の平均支持率より5ポイントほど上昇している。それも、バイデン政権には厳しいFOXニュースの行った調査なので説得力がある。「ワグ・ザ・ドッグ」作戦が功を奏しているのかもしれない。

【私の論評】日米とその同盟国は、悪の3枢軸こそ本当の敵であることを片時も忘れるな(゚д゚)!

バイデンが失地回復を狙っていることについては、すでにこのブログにも掲載しています。昨日も掲載したばかりです。その部分を以下に引用します。
中国への強硬姿勢に対しての米国内での支持は大きいです。「中国に厳しく」という世論はますます強く、対中国政策で弱気な対応を見せれば、それはバイデン氏の民主党政権にとって国民の支持を失いかねない局面に直結することになります。

秋には中間選挙があります。2021年11月の2つの州知事選挙、バージニア州ではバイデン大統領が応援に入ったにもかかわらず民主党候補が破れ、ニュージャージー州でも民主党の現職知事が大苦戦して辛くも逃げ切りました。中間選挙の結果、そして次期大統領選の結果によっては超大国の指導者がまた変わるかもしれません。

2022年の世界も“世界唯一の超大国”と言われる米国を中心に動くでしょう。2月の北京冬季五輪パラリンピックを見据えた外交戦術、さらにロシア軍が国境に展開して緊張が続くウクライナ情勢など外交の課題は山積です。その一方、苦戦している国内での支持率。バイデン政権2年目は、秋の中間選挙に向けて、国内外の多くの緊張と共に歩んでいくことになる。

移民政策でも、アフガン撤退でも明らかに失敗したバイデン、今年の中間選挙のことを考えると、中露に対して弱い姿勢は見せられません。何らかの形で、失地を回復する必要があります。

米国のウクライナ情勢に対する対応のすべてがバイデンの失地回復のためということはないでしょうが、そういう要素があるのは間違いないです。

21日にジュネーブで行われた米露外相会談で、バイデン米政権は、外交による事態打開に道を残しました。ロシアの要求に対して「文書での回答」を約束したことで、プーチン露政権に言質を与えて交渉の幅をせばめるリスクも負ったといえます。ただ、どのような回答をするかによって、失地回復のための交渉なのか、そうでないのかも、ある程度判断できると思います。

一方ウクライナ国内の現状はどうなのか述べておきます。

「ウクライナの子どもは悪い環境で生まれて悪い選択だけを強要される。そしてその人生は良くならない。政治家は権力さえ手にすれば同じ失敗を繰り返すからだ」。 2015年10月に初放送されたウクライナの国民ドラマ『国民のしもべ(Servant of the People)』の第1話に登場するセリフです。

ドラマの中で小市民であり高校の歴史教師である主人公は、国民の生活よりも自分の利益を真っ先に考える政治家に怒り激しい批判を浴びせ、偶然撮影されたこの様子がSNSを通じて人気を呼び、結局大統領になります。

 その役を演じたウォロディミル・ゼレンスキーは4年後、実際にウクライナの大統領になりました。清廉潔白な政治新人であることを前面に出し、決選投票で73.2%という高い得票率を記録しました。

ウクライナ国民は17歳でロシアのコメディテレビショーに出演して知名度を上げてきたコメディアンに希望をかけるほど、前職大統領の腐敗と無能に身震いしていたのでしょう。

しかし12万7000人を要するロシア軍が侵攻の準備を完了した危機の中で、ゼレンスキー大統領はウクライナ国民の期待とは異なる姿を見せています。

19日(現地時間)この日、ウクライナ裁判所が国家反逆容疑を受けているペトロ・ポロシェンコ前大統領に対して検察が請求した拘束令状を棄却して内紛はさらに泥沼化しています。令状実質審査が行われた裁判所の周囲にはポロシェンコ氏の支持者が集まり、警察と小競り合いが起きました。

ポロシェンコ氏の支持者は大統領宮に向かって行進しながらゼレンスキー大統領に対して抗議デモを行いました。 ポロシェンコ氏は2019年大統領選挙でゼレンスキー氏に敗北して再選に失敗した政治的ライバルです。

彼は在任時代だった2014~2015年、ウクライナ東部ドンバス地域の親ロシア分離主義勢力の資金調達を助ける大量石炭販売に関与したという容疑で調査を受けている間、先月ポーランドに出国しましたが17日にウクライナに復帰しました。

キエフのスタジアムで2019年4月19日、ウクライナ大統領選の決選投票を前に
討論するウクライナのポロシェンコ大統領(左)とゼレンスキー氏

帰国当時の第一声は「危機に瀕している祖国を助けるために帰ってきた。ゼレンスキー氏は全く関係がない容疑を私にかけて粛清を行おうとした。彼はロシアの攻撃に対して何をするべきかも分かっていない」でした。

 国が風前の灯火の状態だというのに、前・現職指導者が団結どころか政治的な争いを繰り広げているのです。17日、米国ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「ウクライナと西側間の会談で疎外されたゼレンスキー大統領が国内問題に重点を置いている」と指摘しました。

19日、ウクライナ首都キエフでゼレンスキー大統領に会ったトニー・ブリンケン米国務長官も「ロシアに対抗するウクライナのリーダーたちが団結した戦線を形成しなければならない」と強調しました。

ウクライナが本当に危機に瀕していれば、前・現大統領とも利害を超えて、協力すると思うのですが、そうではありません。ウクライナ危機はさほど深刻ではないのか、あるいは前・現大統領とも愚かなのかどちらかです。

一方ウクライナと中国の関係をみてみます。中国とウクライナは2013年末、友好協力条約を締結。両国は中国の100億ドル以上の投資計画で合意し、ウクライナ側も「一帯一路」を全面支援しました。

2014年のロシアによるクリミア併合以降、中国がロシアに代わってウクライナ最大の貿易相手国となり、特にウクライナ製兵器の輸出先は中国向けが圧倒的に多いです。

人民解放軍系企業が穀倉地帯のウクライナ東部で、200万ヘクタールの農地を50年間租借し、中国最大規模の海外農場を建設する計画を進めているとの報道もありました。

友好協力条約には、ウクライナが核の脅威に直面した場合、中国が相応の安全保障を提供するとの一節があります。ウクライナを脅かす国はロシアだけであり、ロシアのウクライナ攻撃では中国がウクライナを擁護するとも読めます。

1月初めには、習主席とゼレンスキー大統領が国交樹立30周年の祝電を送り合い、「戦略的パートナー関係の発展」を誓ったばかりでした。中国はロシアのクリミア併合を承認していません。

そうしたウクライナですが、ウクライナ政府は、同国の航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の中国企業による買収を阻止することを決めています。ゼレンスキー大統領は、昨年3月23日、関連する大統領令に署名しました。中国への軍事技術流出を警戒する米国が買収に懸念を示していました。

阻止の背景には、ロシアとの対立で米国の支援を得たいゼレンスキー政権の思惑があります。ウクライナの国家安全保障・国防会議が11日に開かれ、ダニロフ書記が「近い将来、モトール社はウクライナ国民と国家に戻されることが決まった」と説明していました。

1907年設立のモトール社はソ連の軍用ヘリコプターや輸送機のエンジンを製造し、ソ連崩壊後もロシアが大口顧客でした。しかし、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合で両国関係が悪化。ロシアとの取引を停止した結果、経営難に陥っていました。

こうした中、モトール社買収を狙ったのが中国企業「北京天驕航空産業投資」(スカイリゾン)で、19年末までに株式の過半数を取得したとされます。しかし、米国はウクライナに買収を認めないよう要請。20年8月に行われたゼレンスキー氏との電話会談で、ポンペオ米国務長官(当時)は「モトール社の買収を目指していることを含め、ウクライナにおける中国の悪意ある投資への懸念」を表明していました。

米商務省は昨年1月、スカイリゾンが「外国の軍事技術の獲得を進めていることは米国の安全保障と外交利益に対する重大な脅威」として、米国製品の輸出を制限する軍事企業のリストに加えました。スカイリゾンが中国人民解放軍と深い関係を持つとも指摘しました。

このような状況をみていると、ウクライナが米中露の間で揺れ動いていることがよくわかります。ただ、モトールシーチへの中国の悪意ある投資を阻止したことで、やはり米国寄りであることが見て取れます。

プーチン氏(左) とライシ氏(右)

こうした最中イランの反米・保守強硬派のライシ大統領は19日、去年8月に就任して以降初めてロシアを訪れ、プーチン大統領と会談しました。

冒頭でプーチン大統領は、国際社会の課題に対してイランと緊密に協力していると強調したうえで「核合意をめぐりイランの立場を知ることは、非常に重要だ」と述べました。

これに対し、ライシ大統領は「両国関係は戦略的で永続的なものになるだろう。アメリカの一方的なやり方に、ロシアとともに対抗していく」と述べ、アメリカの制裁に対抗するため経済面などで両国の連携を強化する考えを強調しました。

イランの核合意をめぐる協議では、アメリカが解除する制裁の範囲などをめぐって意見の隔たりが大きく、妥結のめどは立っていません。

ライシ政権としては、伝統的に友好関係にあるロシアとの関係強化を図ることで、核合意の立て直しに向けた協議でアメリカに譲歩を迫るねらいもあるものとみられます。

ライシ師は20日にはロシア下院で演説、「北大西洋条約機構(NATO)がさまざまな口実を使って独立国家に侵入を図っている」と米欧を非難し、ウクライナ侵攻も辞さないとするプーチン氏を援護射撃しました。外国の首脳が下院で演説するのは極めて異例。プーチン氏がライシ大統領を歓迎し、厚遇した証と受け取られています。

イランは核協議が不首尾に終わった場合、不倶戴天の敵であるイスラエルが核施設などに軍事攻撃を仕掛けてくると警戒しており、SU35、S400ともイスラエルに対する強力な抑止力になると見られています。イスラエルはロシアと良好な関係を維持しており、今後、イランへの兵器売却を思いとどまるようロシア側に働きかけることになるでしょう。

首脳会談での具体的な合意については公式的には発表されていないですが、今年で期限切れとなる「経済・安全保障協力協定」の枠組みを更新することで一致したといいます。特に安全保障面では、ロシアがイランに対し100億ドルに上る兵器売却で合意したとされ、イランが強く求めていた最新鋭戦闘機SU35や地対空ミサイルS400も含まれている模様です。

新協定のモデルになったのはイランが昨年3月に中国と締結した戦略協定です。

中国がイランのエネルギー、通信、交通などの分野に総額4000億ドル(約44兆円)を投資するのと引き換えに、イラン原油を安価で安定調達するというのが骨子。制裁で苦しむイランにとっては国益にかなう協定です。イランはロシアからの兵器購入費約100億ドルの支払いについては、中国からの石油代金の未回収分でまかなうのではないかと観測されています。

イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

SCOは中国とロシアが主導し、8カ国で構成。オブザーバーで参加してきたイランは9番目の加盟国となります。プーチン氏にとってもイランとの関係強化を世界に見せつけることはプラスです。

中露とイランは3カ国枢軸を誇示するようにこのほど、ペルシャ湾の外側のオマーン湾付近で海軍の合同演習を実施しました。

ウクライナ危機も、「3カ国枢軸」と「米国連合」という図式の中で見ていく必要があります。ただ、その中で一番の強敵はやはり中国です。ただ、この悪の3枢軸は互いに協力しあうでしょう。

たとえば、ロシアによるクリミア併合以降、中国がロシアに代わってウクライナ最大の貿易相手となったり、友好協力条約を結びウクライナが核の脅威に直面した場合、中国が相応の安全保障を提供するとしてロシアのウクライナ攻撃では中国がウクライナを擁護するような素振りをみせましたが、今後もこのような行動をとるでしょう。

このようなことが、今後ウクライナ以外でも行われるでしょう。この三者は互いに連携しており、現実には「3カ国枢軸」にとって最も良いように動くことになるでしょう。ロシアは、中国やイランに軍事技術の提供をある程度強化するかもしれません。

バイデンを含む民主党も、無論共和党にとっても選挙、特にこの秋の中間選挙は重要でしょう。ただ、バイデンは「ワグ・ザ・ドッグ」だけで動くのではなく三国枢軸こそが、本当の敵であると見極めるべきです。共和党もそうです。両者とも選挙に勝つために、悪の3枢軸を利することがあってはならないです。


バイデン政権が同盟国との関係を強化しているのはいかに超大国とはいえども米単独で「反米枢軸」と対峙していくのは財政的にも軍事的にも耐え切れなくなり、応分の負担を要求せざるを得ない、というのが実情でしょう。特に日本は対中、対ロシアの最前線に位置し、同政権にとっての日本の存在価値は格段に上がりました。今後も日本が米戦略にさらに組み込まれていくでしょう。

しかし、昨日も述べたように、これは同時に日本の存在感を高めるチャンスでもあるのです。

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日米、沖縄南方で異例の大規模共同訓練の狙いとは 中国や北朝鮮の軍事的覇権拡大の姿勢に警戒か 識者「演習が有事のテストになる」―【私の論評】米・中露対立は日本にとって大きな懸念事項だが、存在感を高める機会ともなり得る(゚д゚)!

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海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

 海上自衛隊は23日、米海軍と沖縄南方で17~22日に共同戦術訓練を実施したと発表した。欧米諸国がロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、北朝鮮は今年に入って極超音速ミサイルや弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国が台湾への軍事的圧力を強める可能性も指摘される。日米共同訓練の狙いに迫った。


 注目の共同訓練には、米海軍の原子力空母「カール・ビンソン」と、同「エーブラハム・リンカーン」、強襲揚陸艦「アメリカ」と、同「エセックス」、ドック型揚陸艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦3隻が参加。海自からはヘリコプター搭載型護衛艦「ひゅうが」が参加した。

 これに対し、中国や北朝鮮は軍事的覇権拡大の姿勢を崩さない。

 台湾国防部は23日、中国軍機が相次いで台湾南西の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表した。進入したのは、戦闘機「殲16」24機と、戦闘機「殲10」10機、爆撃機「轟6」1機、対潜哨戒機「運8」2機、通信対抗機「運9」2機の合わせて39機とみられる。日米共同訓練が始まった17日から4日連続で台湾のADIZに侵入している。

 北朝鮮は今年に入り極超音速兵器などを4回、計6発発射している。

 日米、中国の動きをどうみるか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「年明けから動きをみせる北朝鮮を含め、日米は中国に警戒心を強めている。空母と揚陸艦を合わせて5隻が参加する訓練は異例の規模だ。特に米国は、北京冬季五輪終了後、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて、中国が東アジアで動き出すとみており、演習が有事へのテストになる」と指摘した。

【私の論評】米・中露対立は日本にとって大きな懸念事項だが、存在感を高める機会ともなり得る(゚д゚)!

上の記事にもあるように、中国軍機が相次いで台湾南西の防空識別圏(ADIZ)に進入した意図は、日米の訓練実施を受けて中国の兵力、火力を見せつける意図があった可能性があります。

台湾のシンクタンク、国家政策研究基金会の掲仲副研究員は、進入した機数が過去最多レベルではなく、進入した空域も台湾の南西に集中しており日米が訓練を行った範囲からは離れていることから、弱腰になっていないという態度を示すと同時に、意図しない事態の発生を避ける狙いがあったとの見方を示しいます。

米海軍の異例の行動は、これだけではありません。香港(CNN)によれば、 米海軍のオハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦「ネバダ」が最近米領グアムに寄港しました。アナリストからはこれについて、インド太平洋地域の緊張が高まる中で同盟国と敵の双方にメッセージを送る動きだとの指摘が出ています。

トライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港しました。弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

米海軍のオハイオ級弾道ミサイル原子力潜水艦「ネバダ」が先週末、米領グアムに寄港した

米海軍の声明では今回の寄港について「米国と地域の同盟国の協力を強化し、米国の能力や柔軟性、即応態勢、インド太平洋地域の安全と安定に対する継続的な関与を示すものだ」としています。

通常、米海軍が保有する弾道ミサイル原潜14隻の動きは極秘にされています。これらの潜水艦は原子力を動力とするため一度に数カ月連続で潜航することが可能で、航続時間を制約する要素は150人を超える乗組員の生活維持に必要な物資のみとなる。

海軍によると、オハイオ級潜水艦は平均77日間にわたって海にとどまり、その後はメンテナンスや補給のために約1カ月港に滞在します。

ワシントン州バンゴーやジョージア州キングズベイにある母港の外では艦影が撮影されることさえまれです。徹底した秘密主義の結果、弾道ミサイル原潜は「核の3本柱の中で最も生残性の高い部分」となっています。核の3本柱にはこれ以外にも、米本土のサイロに格納される弾道ミサイルや、B2やB52のような核兵器を搭載可能な爆撃機があります。

ただアナリストによると、台湾の地位を巡る米中間の緊張がくすぶり、北朝鮮がミサイル実験を強化する中、米国は弾道ミサイル原潜を展開することで中国や北朝鮮には不可能なメッセージを発することができるといいます。北朝鮮は潜水艦プログラムを開発中ですが、まだ実戦配備レベルに達していません。

米海軍の元潜水艦長で、現在は新アメリカ安全保障センターでアナリストを務めるトーマス・シュガート氏は「意図的かどうかはともかく、弾道ミサイル原潜はメッセージを送っている。米国は100発あまりの核弾頭を相手の玄関先に配置することができるが、相手はそれを知ることすらないか、あるいは大した対応が取れない、というメッセージだ。これが逆の立場になることはありえず、そうした状況はしばらく続く」と述べました。

北朝鮮による弾道ミサイル原潜の開発計画はまだ始まって間もないです。中国は推定6隻の弾道ミサイル原潜を保有しますが、米海軍の保有数には見劣りしますし、米海軍の戦力とは比較にならないという分析が多いです。

また戦略国際問題研究所の専門家による2021年の分析によると、中国の弾道ミサイル原潜は米国のものほどの能力はありません。中国の094型弾道ミサイル潜水艦は水中作戦時米潜水艦の倍の騒音を発するため探知されやすいほか、ミサイルや弾頭の搭載量でも劣るというのが、米戦略国際問題研究所(CSIS)の分析です。

他にも異例な動きはあります。米国防総省は24日、原子力空母2隻の打撃群が訓練のため南シナ海に入ったと明らかにしました。軍幹部は、同盟国を安心させ、「有害な影響に対抗」する決意を示すのが目的と述べました。

国防総省によると、「カール・ビンソン」と「エイブラハム・リンカーン」の原子力空母打撃群が23日に南シナ海に展開し始めました。

上の記事にもあるように、「カール・ビンソン」と「エイブラハム・リンカーン」は沖縄南方で17~22日に日本と共同訓練を行っていますから、この共同訓練が終わってから、すぐに南シナ海に展開したということになります。

この展開力も米軍の強みです。巡航速度がはるかに遅い中国の空母にはできない離れ業です。

米原子力空母「エイブラハム・リンカーン」クリックすると拡大します

両打撃群は、対潜水艦、空や海上の戦いを想定した訓練を実施します。

米海軍は23日、両打撃群が台湾の東岸沖のフィリピン海で海上自衛隊と訓練を実施していると明らかにしました。

一方北大西洋条約機構(NATO)は24日、ロシアによるウクライナ侵攻に備え、東欧に臨時の部隊を待機させ、艦隊や戦闘機を増派すると発表しました。ウクライナのNATO加盟を警戒するロシアは、NATO不拡大を確約するよう米欧に要求しています。バイデン政権は今週、ロシアの提案に文書で回答しますが、確約は拒絶する方針です。

ロシアはウクライナ国境周辺に軍部隊を展開しています。米国務省は23日、在ウクライナ米大使館職員の家族に国外退避を命じました。英国も同様の措置を取りました。

22日、ウクライナの首都キエフで、訓練を受ける同国兵士ら

バイデン米大統領は19日、就任から20日で1年となるのを控え、ホワイトハウスで記者会見した。緊迫するウクライナ情勢について「ロシアはウクライナに侵攻するだろう」との「推測」を示したうえで、その場合、「深刻な代償を支払うことになる」と大規模な経済制裁を発動する意向を強調し、ロシアをけん制しました。

 バイデン氏は会見で、ロシアのプーチン大統領が外交による緊張緩和か軍事侵攻かの「選択」を求められていると説明。侵攻を選んだ場合の制裁として、「ロシアの銀行はドル取引ができなくなる」と述べた。世界の主要金融機関が参加する国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除を念頭に置いた発言とみられます。

これについては、米国家安全保障会議(NSC)は、西側諸国が「国際銀行間通信協会」(SWIFT・本部ベルギー)システムからロシアを遮断する可能性を排除したとする報道を否定しました。

中国への強硬姿勢に対しての米国内での支持は大きいです。「中国に厳しく」という世論はますます強く、対中国政策で弱気な対応を見せれば、それはバイデン氏の民主党政権にとって国民の支持を失いかねない局面に直結することになります。

秋には中間選挙があります。2021年11月の2つの州知事選挙、バージニア州ではバイデン大統領が応援に入ったにもかかわらず民主党候補が破れ、ニュージャージー州でも民主党の現職知事が大苦戦して辛くも逃げ切りました。中間選挙の結果、そして次期大統領選の結果によっては超大国の指導者がまた変わるかもしれません。

2022年の世界も“世界唯一の超大国”と言われる米国を中心に動くでしょう。2月の北京冬季五輪パラリンピックを見据えた外交戦術、さらにロシア軍が国境に展開して緊張が続くウクライナ情勢など外交の課題は山積です。その一方、苦戦している国内での支持率。バイデン政権2年目は、秋の中間選挙に向けて、国内外の多くの緊張と共に歩んでいくことになる。

移民政策でも、アフガン撤退でも明らかに失敗したバイデン、今年の中間選挙のことを考えると、中露に対して弱い姿勢は見せられません。何らかの形で、失地を回復する必要があります。

プーチン大統領がウクライナ国境に軍を展開して、武力で威嚇して圧力をかけているのは、おそらく、バイデン大統領の国内の弱い支持基盤を見越して、ウクライナのNATO加盟を阻止し、欧州でのNATOの中距離ミサイル配備をけん制することで、自国の安全保障をより確実にすることが狙いでしょう。

しかし、それが達成されなくとも、欧州の同盟国との連帯をトランプ前政権の違いとして打ち出していきたいバイデンの指導力が低下して、2024年の大統領選挙で、ロシアに「優しい」トランプ大統領が再選されることなど、米国の弱体化と米欧の連帯の弱体化を期待する複合的な狙いがあると考えられます。

中国にとっても、このような米国の同盟国との紐帯を弱める方向性は、自らの利益に沿うものであり、逆に日本にとっては懸念すべき要素です。

かつての日本にとって日米同盟とは、自国を守るための最強のツールとしての意味しかありませんでした。ところが、今や、日米同盟を機能させることは、米国の窮地を救い、長期的な国際秩序の方向性を決める重い課題となっています。その意味で日本の責任は重いと同時に、日本にとっては存在を高める大きな機会でもあります。

その意味でも、日米の沖縄南方で異例の大規模共同訓練は大きな意義のあるものであったと思います。

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2022年1月23日日曜日

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ウクライナで政権転覆画策か ロシアで動き、英が「異例発表」

18日、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島を移動するロシア軍の装甲車両の列

 英外務省は22日、ロシアでウクライナに親ロシア指導者を就任させようとの動きがあると発表した。親ロシアのヤヌコビッチ元政権下で最高会議議員だったムラエフ氏が最有力視されているという。トラス外相は「ウクライナの政権転覆を狙うロシアの活動が明るみに出た」との声明を出した。機密情報の発表は異例だ。

トラス外相

 ロシアはウクライナ国境周辺に推定10万人の軍隊を展開。21日に米ロ外相が直接会談したが、緊張緩和への具体的合意はなかった。ロシアの軍事侵攻の可能性に危機感を抱く英国は阻止へ外交努力を続け、情報収集を強化している。ロシア外務省は「偽情報」だと非難した。

【私の論評】米国が「ウクライナ反浸透法」を成立させ、露の現状変更を許さなければウクライナ問題は解決する(゚д゚)!

ロシアのウクライナ侵攻については、昨年暮にどうなるか予想しました。その結論は以下のようなものです。

一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

中略

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。
そうして、現在のロシアが、ウクライナを屈服させて従わせるのは至難の業であることも、この以前このブログに掲載しました。

これを裏付ける情報もあります。ロシア国防省は昨年4月23日、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島に演習を名目に増派していた部隊が撤退を始めたと明らかにしています。ロシアのショイグ国防相が同年同月22日、部隊に帰還命令を出していました。ショイグ氏は、ロシア南部のウクライナ国境付近に集結している部隊にも帰還を命じていました。

ウクライナのクリミア半島で上陸訓練をするロシア軍兵士ら

さらに、ロシアはカザフスタンに派遣していた小規模な空挺部隊を早々と引き上げました。その理由は、ロシアはカザフスタンとウクライナでの両作戦を実施するだけの力はないからです。

そうして、中露両国が恐れているのは、以前もこのブログで指摘したように、以下のようなものだと推測できます。

中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。

結局ロシアが、ウクライナに拘るのは、ウクライナがNATOに加わることを是が非でも阻止したいということに尽きると考えられます。

ウクライナがNATOに加われば、ロシアはNATOと直接国境を接することになり、これはロシアにとっては大きな脅威です。それに、現在のロシアでは、米国抜きのNATOと戦っても勝てる見込みはありません。

無論ロシアには、核もあり、旧ソ連から継承した軍事技術もあり、侮れる相手ではありませんが、それにしても通常兵器による戦いでは、初戦では軍事技術に優れたロシアが勝利をおさめるかもしれませんが、本格的な戦争になれば、そのための兵站を維持できるだけの経済力はありません。

プーチンとしては、ウクライナを親露的にできれば、軍事的にウクライナに侵攻しなくても、NATOの脅威を取り除くことができます。ロシアでウクライナに親ロシア指導者を就任させようとの動きはプーチンの立場にたてば、当然といえば当然です。

これは、台湾と中国との関係にも似たところがあります。中国も台湾に武力で侵攻するのは難しいことをこのブログに掲載したことがあります。それは、中国軍の海上輸送力が脆弱であり台湾に一度に十分な兵力を送ることができず、小出しにするしかないからであるとしました。

そうすると、小出しにした人民解放軍は、その都度台湾軍に個別撃破されることになります。これでは、中国は海上輸送力を劇的に改善するまでは、台湾に侵攻できないのははっきりしています。

しかし、それでも中国にできる方法があります。それは、人民解放軍をこっそりと目立たないように民間人のようにみせかけて、少しずつ台湾に送り込むことです。あるいは、台湾人でも中国に親和的な人々を取り込んで、こっそりと軍事訓練をして、人民解放軍に組み込むことです。

中国は、かつて南シナ海でサラミ戦術で成功しています。台湾併合もサラミ戦術ですこしずつ台湾内に人民解放軍を増やしていけば成功することもしれません。

両者合わせて30万人も超えれば、クーデターなどのみせかけて、台湾を絡め取ることができます。直接軍事力を用いなくても、このような方法なら長い年月をかけて、台湾を併合することができるかもしれません。

そうして、これに米国が対抗するためには、私は米国が「台湾反浸透法」を成立させて、台湾への中国の不当な浸透があった場合には、制裁を課すなどの措置をすべきと思います。さらに、中国が台湾に人民解放軍を合法的にみせかけて送り込む等の挙に出た場合は、一定数以上の米軍を台湾に派遣する等の旨をはっきりさせるべきでしょう。

このようなやり方を、ウクライナにも適用すべきと思います。米国が「ウクライナ反浸透法」を成立させて、ウクライナへのロシアの不当な浸透があった場合には、制裁を課すなどの措置をすべきと思います。無論、ロシア産ガスを取引材料にした場合もそのような制裁を課すべきと思います。

ただ、それ以前に、EUはロシア産ガス以外のエネルギー源の多様化も進めるべきでしょう。これも、ロシアに対抗する措置となり得ます。

さらに、ロシアがウクライナに非合法な手段で親ロシア指導者を就任させようとの動きをした場合、さらにロシアがウクライナにいかなる理由であれ、軍を派遣すれば一定数以上の米軍もしくはNATO軍をウクライナに派遣する等の旨をはっきりさせるべきでしょう。無論、これはウクライナの了承も得る必要があります。

無論、これはバイデン大統領が主張するように、ロシアによる現状変更を一切許さないという前提で行うべきでしょう。これを裏返せば、米国も現状変更をしないことを意味します。

バイデン米大統領とプーチン露大統領

このような条件のもとで、バイデン氏がプーチン氏と交渉すれば、ウクライナを巡る緊張がとける可能性は十分あると思います。

バイデン政権も現状では中国対応が最優先課題であり、ロシアが現状変更しないと確約し、それを遵守すれば、ことさら事を荒立てたくはないでしょう。

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2022年1月22日土曜日

台湾の非対称戦力構築を後押しする法案 米議員が提出―【私の論評】米国は「台湾反浸透法」を成立させ、中国の不当な浸透があった場合には制裁を課せ(゚д゚)!

台湾の非対称戦力構築を後押しする法案 米議員が提出


マイク・ギャラガー米下院議員(共和党)は21日、台湾の非対称戦力構築の加速化などを促す「武装台湾法案」を提出した。

法案では、米国防長官に対し「台湾安全支援イニシアチブ」を策定することや、イニシアチブの遂行に向け2023~27会計年度に毎年30億米ドル(約3410億円)を拠出することを求める。台湾の非対称戦力の構築を加速させるとともに、中国の台湾侵攻を遅らせたり阻止したりする目的で、台湾への武器供与や訓練などに使われる。

ギャラガー氏は、同日付のリリースで、「アフガニスタンやウクライナ、イランで露呈したバイデン政権の弱腰ぶりを見て中国は侵略的になる一方だ」と指摘。その上で「議会は、手遅れになる前に抑止力を取り戻すための行動を起こす必要がある」と訴えた。

上院では昨年11月、同じく共和党のジョシュ・ホーリー議員も同様の法案を提出していた。

【私の論評】米国は「台湾反浸透法」を成立させ、中国の不当な浸透があった場合には制裁を課せ(゚д゚)!

台湾海峡の軍事バランスは急速に悪化しています。その結果、中国が2020年代後半までに台湾に侵攻し、その支配権を握ることができる、あるいは実際にできると結論づける懸念が高まっています。

わたし自身は、この説に与するものではありません。このブログでは、現在すぐに中国が台湾を武力侵攻する可能性は低いことを、根拠を指し示してこのブログで何度か掲載しています。

その根拠とは、中国軍の海上輸送力が貧弱であり、台湾を制圧するだけの兵力を一度で台湾に上陸させることができないということです。それでも、無理に台湾を併合しようとして、兵員を送り込めばどういうことなるかといえば、何回かにわけて兵力を送り込むことになり、一度に送り出せる兵力には限りがあり、それは台湾軍に個別撃破されることになってしまいます。

こうした「戦力の逐次投入」で日本もかつて大東亜戦争で失敗しています。現在の中国が台湾に武力で侵攻しようとした場合、こうした失敗を繰り返すことになります。

それに、中国が台湾に本当に武力侵攻した場合、米国は黙っていないでしょう。中国軍は米軍の応援にも対処しなければならなくなります。

中国の海上輸送力が向上するまでは、中国は台湾に武力侵攻できないという結論になります。これは、単純な計算で導き出すことができます。

ただ、このブログでは、それでも台湾が中国に併合される可能性があることを指摘しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策―【私の論評】中国は台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!


 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。
蔡英文総統の民主進歩党が政権の座についてから、台湾では中国の影響力はかなり低下しました。ただ、中国は台湾に対して浸透工作をこれからも強めるでしょう。それだけではなく、さらに中国は台湾を国際的に孤立させたり威信を低下させる挙にでるでしょう。経済的に不利益を被るように仕掛けるでしょう。

この浸透工作、台湾の国際的地位低下工作によって、台湾に親中政権ができたとしたら、どうなるでしょうか。しかも、その親中政権が中国の傀儡政権に近いものだった場合どうなるでしょう。

中国はある程度時間をかけて、少しずつ中国に人民解放軍を上陸させるでしょう。場合によっては、目立たないように、民間人を装って入国させるかもしれません。仮に30万人以上も上陸させてしまったとしたら、時すでに遅しです。台湾は事実上、中国領になってしまいます。それも、合法的にそうなるのです。

そうして、いずれ台湾は正式に中国の省になるか、あるいは対岸の福建省に取り込まれてしまうでしょう。

これを取り戻すには、米軍にとっても大変なことです。傀儡政権が出来上ってから、米国がこれに対応すれば、ベトナム戦争のように泥沼化する可能性もあります。

そうなる前に、対処すべきです。そのためには、今から「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきです。
現在台湾の蔡英文総統の率いる民主進歩党は、親中的でないですから、中国に与するようなことはしませんが、台湾政府が未来永劫、親中的にならないとはいえないです。さらには、政府が親中的ではないにしても、軍隊や産業界等が中国の工作にあって、親中的になる可能性は十分にあります。

そうなれば、上で示したように、中国が台湾にこっそりと、軍隊を送り込むということはありえます。そうなると、一度に軍隊を送る必要はなく、何度にも分けるとか、方法も空路、海路をもちいて複数の方法でできます。

あるいは、台湾に在住する中国出身者や、中国に親和性を持つ台湾人を中国側に導いた上で、密かに軍事訓練などをするという方法で、目立たない形で、台湾内に人民解放軍を組織するということもできるでしょう。

しかも、中国が得意なサラミ戦術で、毎年すこしずつ、何十年もかけてこのようなことをすれば、南シナ海で成功したように、台湾でも成功するかもしれません。

そうなれば、台湾は内部から崩壊して、中国の配下に収まるしかなくなります。こうした可能性は十分にあります。

こういうことをなくすためにも、米国は「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきと私は主張しているわけです。

中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏も、習近平がすぐにも台湾に侵攻することはないと主張しています。その記事のリンクを以下に掲載します。

中国が崩壊するとすれば「戦争」、だから台湾武力攻撃はしない

遠藤氏は、"習近平は台湾の「武力統一」はしないつもりで、2035年まで待って台湾経済界を絡め取って「平和統一」に持って行くつもりだ"としています。

さらに、"2030年頃には、中国のGDPがアメリカを凌駕していて、2035年頃には少なくとも東アジア地域における米軍の軍事力は中国に勝てなくなっているだろう。だから2035年まで待つ。これが習近平の長期戦略だ"ともしています。

そうして、最後に以下のように締めくくっています。

"以上より、「中国は勝てない戦争は絶対にしない」と言うことができ、もし逆に中国共産党の一党支配体制を崩壊させたいのなら、「アメリカや台湾の方から中国に戦争を今すぐにでも仕掛けるといい」という、何とも皮肉な現実が厳然と横たわっている。

習近平にとって、何よりも重要なのは中国共産党による一党支配体制の維持なので、中国自らが率先して台湾を武力攻撃することはない。

これを勘違いすると、日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる。"


私自身としては、現状の不動産バブル崩壊の深刻さやこのブログでも述べているように中国が中進国の罠にかかる可能性からみると、2030年頃に中国のGDPが米国を凌駕することはないとみていますし、2035年まで待って台湾経済界を絡め取って「平和統一」に持ってくことも難しいのではないかと思います。

ただ、"日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる"というところは、私も同感です。

特に、経済界は、台湾政府が親中的になっても、大陸中国の国内産業の締め付けなどをみていれば、全部が親中的にはならないというか、なれないのではないかと思います。

そうすると、やはり上で述べたような、人民解放軍および武器を逐次台湾に上陸させるか、台湾人の親中国的な人々を人民解放軍に引き入れて、30万人以上も兵力を確保できる目処がたったときに、クーデター等にみせかけて、一気に制圧し、台湾を絡めとるのではないかと思います。

こういうことを考えると、台湾の非対称戦力構築の加速化も必要ですが、それ以外にも何らかの措置を講じておく必要があると思います。

そもそも、中国が台湾に対して何か非合法な動きすれば、それを封じる仕組みなどの構築が必要だと思います。

台湾の議会は2019年12月31日、中国から政治的影響が及ぶことを阻止するための「反浸透法案」を可決しました。

台北市内の立法院で、「反浸透法案」に反対し、本会議場で座り込む国民党の立法委員ら

国民党は、他国による浸透から台湾を守る対策は後押しするものの、民進党が支持率拡大のために法案可決を急いでおり、民主制度を脅かしていると非難。国民党の議員数人は採決中に抗議として議長壇の前で座り込みました。議会の外で抗議活動する親中派政党の支持者もいました。

法案は、中国による工作に対抗する数年来の努力の一環によるものです。台湾では、中国が政治家への不法献金やメディア、その他の不正手段で、台湾の政治や民主制度に影響を及ぼそうとしているとの見方が多いです。

反浸透法は、中国によるロビー活動や選挙運動などを含む資金提供を法的に防止する手段となります。違反した場合は最大7年間の服役が科されます。


米国はウイグル人権法の他、ウイグル輸入禁止法も成立させています。中国はこれを内政干渉として批判しています。このような法律を成立させたのですから、米国でも、「台湾反浸透法」を成立させて、台湾への中国の不当な浸透があった場合には、制裁を課すなどの措置をすべきでしょう。中国が台湾に人民解放軍を合法的にみせかけて送り込む等の挙に出た場合は、一定数以上の米軍を台湾に派遣する等の旨をはっきりさせるべきでしょう。

無論、これはバイデン大統領が主張するように、中国による現状変更を一切許さないという前提で行うべきでしょう。

そうして、ほかならぬ日本は台湾を見習い「反浸透法」を成立させるべきです。日本こそ、そのような法律が必要と思います。岸田政権には逆立ちしても、無理でしょうから、次の政権に期待したいところです。

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2022年1月21日金曜日

仏下院「対中非難」採択…「ウイグル弾圧はジェノサイドに相当する」と明記 情けない日本の決議案―【私の論評】「日米中正三角形」にさらに「楕円の理論」で磨きをかけようとする林外相は、ただ口が軽いだけ?(゚д゚)!

仏下院「対中非難」採択…「ウイグル弾圧はジェノサイドに相当する」と明記 情けない日本の決議案


フランス下院(定数577)は20日、中国が新疆ウイグル自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)を犯していると非難する決議を採択した。北京冬季五輪の開幕を前に、決議は少数民族ウイグル族に対するジェノサイドを政府が公式に認定し、非難するよう求めた。

決議は、新疆ウイグル自治区では強制労働が行われ、拷問、性的虐待についても証言があると指摘した。強制不妊政策でウイグル族の人口が抑制され、子供の連れ去りも横行していると批判。中国には「ウイグル族全体、またはその一部を抹殺しようとする意図がある」とし、ジェノサイドに相当すると明記した。

日本も2月1日に国会決議を採択する方向で調整しているが、決議案は自公間での修正協議で「人権侵害」が「人権状況」に変わり、「非難決議案」から「非難」の文字が削除され、「中国」という国名もない情けないものになっている。

【私の論評】「日米中正三角形」にさらに「楕円の理論」で磨きをかけようとする林外相は、ただ口が軽いだけ?(゚д゚)!

昨日もこのブログで述べたとおり、欧州の中国に対する見方は近年厳しくなる一方です。

昨日のブログでも述べたように、フランスのルドリアン外相とインドネシアのルトノ外相は昨年11月24日、インドネシアの首都ジャカルタで会談し、両国の防衛協力の強化に向け22年に外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を始めることで合意しました。フランスは22年上半期にEU議長国として「インド太平洋地域との関係強化が優先事項になる」(ルドリアン氏)との立場も表明しました。フランス下院は昨年11月29日、世界保健機関(WHO)など国際機関への台湾の参加を支持する決議を採択しました。

フランスのルドリアン外相

そうして、上の記事にもあるように、20日仏下院「対中非難」を採択したのです。

フランスだけをみていても、このように中国に対してはどんどん厳しくなっています。他の国々も例外ではありません。

欧州というと、わずか数年前では、現在の日本の岸田政権のように中国に配慮する国が多かったと記憶しています。

特に2020年欧州における対中認識、姿勢の変化は、中国の行動に起因しています。トランプ政権が、EU自体を含む欧州の重視する国際枠組みに軒並み対決姿勢を示したことは、中国にとっては欧州・中国関係を改善する絶好の機会だったはずですが、中国それを完全に棒に振りました。

米欧対立の深まる4年間を経て、より多くの欧州人が中国を「体制上のライバル」とみなすようになったことは、衝撃的です。しかもそれは、トランプ政権による説得の結果ではありません。

香港における法の支配への挑戦をはじめとする中国自身の強硬な行動や不器用な外交の結果です。新疆ウイグル自治区における少数民族に対する迫害への関心も欧州で上昇しています。また、新型コロナウイルス感染症の発祥地などに関する強硬な「戦狼外交」やディスインフォメーション(偽情報の意図的な流布)は、完全に逆効果に終わりました。

欧州連合(EU)の欧州議会は20日、香港での人権状況の悪化を理由に、EUや加盟国に対し、北京冬季五輪へ外交団を派遣しないよう求める決議を採択しました。欧州議会は昨年7月にも、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害を理由に、北京五輪の外交ボイコットを求める決議を採択しています。

欧州議会は決議で、中国政府が選挙制度を変更し、民主派勢力の排除を進めたことや、メディア関係者など反体制派の逮捕が相次いでいる点を指摘し、「表現や報道の自由の厳しい制限など、香港での人権の悪化を最も強い言葉で非難する」としました。EUや加盟国による北京五輪の「外交的ボイコット」や、人権侵害に関わる中国・香港の当局者、関係企業に対する制裁措置を求めました。決議に拘束力はありません。

同時に欧州議会は、香港の人権状況を非難し、政府トップの林鄭月娥行政長官を含む複数の高官に対して、渡航制限や資金凍結などの制裁を科すよう加盟国などに求める決議を賛成多数で採択しました。決議に法的拘束力はなく、実現の見通しも不透明ですが、EUと中国の関係はさらに悪化しそうです。

結局香港に対する中国の振る舞いほど、欧州人を激怒させたものはないようです。香港問題がなければ、まだ中国に配慮する欧州人もいたかもしれません。しかし、これが決定的に欧州人の中国に対する見方をかえさせたようです。

香港

習近平国家主席が、中国は多国間協力におけるパートナーだと売り込んでも、香港問題以降信じる欧州人はほとんどいません。EUのボレル外相(外交安全保障上級代表)は、中国の姿勢は「自らの好きな部分だけの選択的多国間主義であり、それは国際秩序に関する異なる理解に依拠している」と述べています。

60年までのカーボンニュートラルの目標や、新型コロナのワクチンを共同購入する国際的枠組みであるCOVAX(コバックス)への参加は、外交上も得点を稼ぐものですが、欧州における中国に対する懐疑的見方は根強いです。

他方で、米新政権の下、欧州での対米イメージは大きく改善するでしょう。バイデン氏は、対中政策に関しても欧州と協力するとみられます。世界貿易機関(WTO)の活用や、気候変動に関するパリ協定や世界保健機関(WHO)への復帰も含まれます。そうした中で、気候変動に関する中国の目標達成やワクチンを外交ツールとして使わないことを監視できます。

ドイツも欧州も、米国の進める中国との「デカップリング(分断)」には反対してきました。それでも、ドイツでは、経済関係を多角化することで、中国への依存度を軽減し、リバランスをはかる必要があるとの意識が広がっています。

20年9月にドイツ政府が発表した「インド太平洋指針」の背景にも、効果的な中国政策を展開するには、中国以外の諸国との協力が不可欠だとの認識が存在しています。価値を共有する諸国と経済・政治関係を強化することも、その一環です。

1997年、香港がイギリスから中国に返還されて以来、一つの国に二つの政治制度、しかも資本主義と一党独裁社会主義が並立するという世界史初の壮大な実験は、2021年に失敗に終わりました。

2021年3月11日、中国人民代表大会(全人代)が香港の民主化に歯止めをかける選挙制度改変を決めました。賛成2895票、反対0、棄権1という、習近平体制の一枚岩を誇示する採決結果でした。

その後、全人代常務委員会などで詳細が詰められ、香港の議会にあたる立法会で条例が改められることになったのです。

改変の目的は、国家安全維持法などで一度でも罪に問われた人は「愛国者ではない」と新設の委員会から認定され、香港議会に立候補すらできないという仕組みの確立でした。香港の自治や北京中央政府に対する「異論」はすべて封じられることになりました。

これは、契約や国際法なども重んじる欧州人からみれば、法の支配へのあからさまな挑戦であり、挑戦言語道断の措置であり、欧州人のほとんどは、中国は全く信用ならないという観念を植え付け、固定化させたといえます。そうして、それは、当然のことながら、議会の立法や政府の政策にも反映されます。

だから、欧州が中国に対して厳しくなるのは当然なのです。

同じことをみても、なお中国に配慮しようとする愚かな人たちがいます。それが岸田政権です。無論政権のなかには、岸防衛大臣含め、そうではない人もいるのですが、首相、外務大臣、幹事長がそういう人たちなのですから、目もあてられません。

林芳正外相は13日、日本記者クラブで会見した。外交方針について、所属する派閥・宏池会(岸田派)の先輩、大平正芳・元首相が唱えた「楕円(だえん)の理論」を引き合いに、「なんとかひとつの楕円にする努力をやらなければならない」と語っています。米中による覇権争いのなか、日本としてバランスをとる重要性を強調しました。

大平元首相は、調和を探る「楕円の理論」を説きました。林氏は「外交はほとんどの場合、相矛盾するような課題が出てくる」と述べた上で、「大平総理は、両立の難しいことを二つの円にたとえ、一つの楕円にする努力というものをやらなければならない、と。好きな言葉だが、外務省に来て、言葉の重みをかみしめている」と語りました。

大平元首相

一昨日は、このブログで、「日米中正三角形」論について述べましたが、「楕円の理論」でさらに、日中友好に磨きをかけたようです。これを、現状に当てはめれば、2つの円が「米国と中国」を指すのは明らかです。楕円にするとは「米国と中国の対立をなんとか丸く収める」という意味でしょう。そのために、林氏は暗に「日本が仲介努力をする」と語ったともいえます。

この林外務大臣は13日の日本記者クラブ主催の記者会見で「秋の中国共産党大会で、おそらく習近平総書記の3期目の続投が決まる」と述べています。昨年11月には中国共産党第19期中央委員会第6回総会が習氏の功績を称(たた)える決議を採択して習氏の3期目突入が確実となっており、こうした情勢を踏まえた発言とみられます。

ただ、外務大臣という立場で、このような発言をするのは、他国の内政に干渉することになります。まだ習近平総書記長の続投が決まっていないわけで、これでは口が軽すぎると言わざるを得ません。これは、辞任に発展してもおかしくない案件だと思います。

林外大臣は、着任そうそうテレビ番組の中で、「中国から招待を受けた」旨を公表しています。これは、外交儀礼上あり得ない行為です。

林外務大臣は口が軽すぎです。この有様では、今後日本は外交上で大きな不利益を被ることになりかねません。岸田首相とバイデン米大統領は日本時間21日夜、初めてオンライン形式で会談することになっていますが、オンラインでの会談は異例ですし、それに会談の予定が決まるまでにかなりの時間を要しました。これには、林外務大臣の口が災いしている可能性が大きいです。

林外務大臣はこれからも、軽口を叩く可能性が大きいです。もう一度重大案件で軽口を叩けば、岸田首相は林外務大臣を辞任させるべきでしょう。

そうして、それを皮切りに、安倍・菅政権の路線を継承し、両政権でなしえなかった懸案事項などを成し遂げ、その後に岸田カラーを出しても遅くはないです。このくらいの大きな転換をしないと、岸田政権は短命で終わると思います。しかし、現状の岸田内閣をみていると、岸田暫定内閣で終わった方が、岸田氏にとっても自民党にとっても有権者にとっても良いようも思います。

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