グレゴリー・マンキュー教授 |
著書や論文を多数発表し政府の諮問委員も務めるなどした経歴を持つ、ハーバード大経済学部のグレゴリー・マンキュー教授が自身が受け持つ講義を受ける学生たちに、電子メールを送信したのだった。そのタイトルが「金持ちは貧しくなっている」。
教授は米国歳入庁のデータを紹介。データによると、07年~09年の間に、人口の上位0.1%の所得は約215万ドルから、約143万ドルに下がっている。また、また、上位1%の所得は約41万ドルから、約34万9000ドルに下がっているのだ。
ところが、一般中間層は3万2879ドルから、3万2396ドルと微減だった。富裕層の方が割りを食っているという主張である。こうした事実は、このデモの間に誰もが語ることはなかった。
ただ、この発言に一部の学生が怒ったようなのだ。フェースブックにわざわざアカウントを作成して、教授の講義をボイコットしようと呼びかけている。
【私の論評】このままでは、オバマの大統領戦の勝利は遠のくばかり!?
上の経済学者の意見は、事実に基づくものです。上の数字は正しいものです。ただし、デモをしている側の学生達の主張も正しいものです。では、デモをしている人たちの主張はといえば、"We are the 99%"です。
これがウォール街占拠デモの合言葉です。1%の富裕層が富の大半を保有し残りの世界を仕切っていることに対するアンチテーゼです。米中間層には従来から、没落感が強まっていました。米議会予算局が25日発表した調査結果(10/26 WSJ)が状況を的確に表しています。
記事によると2007年までの30年間の所得推移が、所得最高位の1%に入る家庭が275%伸びたのに対し、60%の中間層が40%足らず、再下位層の20%はわずか18%でした。言い換えるとこの30年間富裕層のみが劇的に所得を増やしたということです。
ところが、上の記事の数値では、07年~09年の間に、人口の上位0.1%の所得は約215万ドルから、約143万ドルに下がっている。また、また、上位1%の所得は約41万ドルから、約34万9000ドルに下がっているのだ。しかし、一般中間層は3万2879ドルから、3万2396ドルと微減でした。
アメリカの富の象徴、ウォール街 |
このウォール街占拠デモには「共通する概念」が見えないと言われています。いずれのデモも「経済政策の見直しや格差是正」を声高に叫んで現状に不満を表明する「複合集積体」です。しかし、ニューヨークに始まったデモは1ヶ月以上も続き、フェイスブックやツィッターを通じて全米から世界に広がりを見せています。しかし、共通する概念がないまま、これほどまでに、大きな動きになるものでしょうか?
茶会は共和党に取り込まれた
それを考える上で、このデモは、茶会(Tea Party)運動とよく比較されています。茶会は中西部シカゴの白人中産階級から始まりました。運動の主体は、地方都市の自営業者と非労組組合員の高卒白人労働者たちで、毎日曜日に教会に行く福音主義プロテスタント教徒、「働かざる者食うべからず」が信条だそうです。
Tea Partyのデモ |
その身近な憤りが、「小さな連邦政府・州政府の権限拡大」とか「合衆国憲法への回帰」を要求する抽象的なスローガンにすり代わり、共和党に巧みに取り込まれて反オバマ大統領運動の推進力にもなったとされています。
引き裂かれている民主党
オバマ大統領はこれまでにデモに対して一定の理解を示す発言をしています。しかし、オバマ大統領は、金融システムのあり方に対するより広範囲な不満を代弁と、持って回った慎重な発言をしています。来年の大統領選挙を控え選挙資金の大口寄付者である金融機関を簡単に敵に回す訳にはいかないようです。
一方、08年に初の黒人大統領誕生に導いた若いボランティアや組合、市民団体といった支持者達はウォール街選挙デモ支援に回っています。米キニピアック大学がニューヨーク市の有権者1068人を対象にした調査では、67%がウォール街選挙デモを支持すると回答。来年の大統領選挙に向けて民主・共和両党にとって無視できない有権者の動向になる可能性があるといわれています。
ウォール街選挙デモの動機は経済格差にあり、グローバルな問題である経済格差をターゲットにしたからこそ、政治に無関心な若者層・失業者など主義主張を超えて共感し運動が急拡大しました。政策云々よりも、遅い経済回復や、失業率が改善の見込みのなさに対する不満が鬱積しているようです。。
大胆に色分けすると、茶会の構成メンバーが自営業者・非組合労働者であるのに対し、ウオールストリート街選挙デモのそれは失業者の負け組であるといえると思います。抗議の対象は前者が政府、後者が富裕層です。
今のアメリカには、経済の復元力がない
さて、アメリカの景気、おそらく、経済の復元力からいって、アメリカは内需主導で、景気回復することは無理だと思います。この10年間のアメリカは、景気が悪くなれば、その都度政府が大規模な財政出動をして、場合によっては、民間企業や銀行にまで、巨大な公的資金を投下することまで、して、その都度無理矢理景気を回復させ続けききました。
この政府による民間企業への公的資金の大量のつぎ込みが、茶会グループの反感をかい、さらに、公的資金をつぎ込まれた側の、投資銀行など幹部などが、経済が回復したといって又もや高額の報酬を得始めたことがウォール街占拠デモ派の反感をかっているというわけです。
そうはいいながらも、こうした対策が功を奏して07年~09年の間に、一般中間層の賃金は、3万2879ドルから、3万2396ドルと微減ですんできたといえます。この期間には、確かにオバマ大統領も、あのGMに大量の公的資金を投入するなどで、一定の効果をあげてきたわけです。さらに、リーマンショックによる信用不安にも対処してきたというわけです。
しかし、10年から今年入ってきてからは、様相が変わっています。過去においては、大量の公的資金をつぎ込むことで何とかなってきたアメリカ経済ですが、公的資金をつぎ込むこと自体にも限界がありますし、それに経済の復元力という問題が顕著になってきているのだと考えられます。
経済の復元力に関しては、このブログにも幾度か掲載してきましたが、経済の復元力とは、たとえば、かなり長い間景気の良い状況が続いた場合は、さしたる理由もないのに、経済が下向いたり(今のアメリカの状況)、逆にかなり長い間景気の悪い状況が続いた場合(まさに今の日本)場合は、さしたる理由もないのに景気が上向いたりする状況のことをいいます。
国民生活に深くかかわる、実体経済に関しは、いくら、投資銀行や、政府や、FDR(日本の場合は日銀)人為的に、良くしようとか、一時悪くしようと努力しても、できないところがあります。政府や、日銀ができるのは、せいぜい、経済が良くなったり、悪くなったりするのは、急激にではなくソフトランディングさせることです。
アメリカに関してはもはや、経済の復元力からして、ここ数年は、景気が良くなることはないと考えられます。だから、オバマ大統領ができることは、せいぜい、悪くなるにしても、急激に悪くなることなく、ソフトランディングさせることだけです。これでは、アメリカは八方塞がりのようです。
このままTPPを推進して日本がそれにのればオバマの敗北はより一層色濃くなる
しかしながら、そんな中に一つだけ、アメリカの景気を多少とでも、良くさせる方法はありました。そうして、それをオバマ大統領が推進しようとしてます。そうです。それは、アメリカの輸出を増やすというこです。実は、オバマ大統領は、輸出を増やすことを昨年あたりから言っていました。
オバマ大統領は、当然のことながら、アメリカの経済の復元力はほとんどないことは理解していると思います。であれば、外需主導でアメリカの景気を良くすることを考えるのが当然の成り行きです。そうなると、経済の復元力がある日本に輸出できれば、それこそ、オバマ大統領にとっては、願ったり叶ったりということだと思います。
そうした動きは、今年も随所にみられました。たとえば、アメリカのデフォルト騒ぎです。私は、アメリカ側がデフォルト騒ぎを演出するのは、ドルを一時でも、相対的に安くし、アメリカの貿易の振興を図り、一時的に外需主導で、アメリカの景気を良くしようという企てがあるのだと思います。 これは、以前のブログにも掲載しました。要するに、アメリカの債務限度引き上げなどは、年中行事であるにもかかわらず、今回はやたらと手間取りました。それをアメリカが、日本のねじれ国会と同じような状況にあるからとする人もいますが、私はそれだけではなく、根底には、ドル安を導く狙いがあったものと思っています。
そうして、その目論見は、的中しています。まさに、日々日本では、円高が報道されるようになりました。まさに、アメリカから日本に対して、輸出がしやすい状況になったわけです。しかし、これだけではまだ不十分です。そうです、日本が内需主導型でかなり経済を伸ばすことができれば、アメリカの目論見は大成功ということになります。
そうして、ここで、オバマ大統領が、さらに、まともな経済学者なども動員して、日本に圧をかけ、増税なんぞは、愚の骨頂、まずは、デフレを克服するために、自分かかつてやったように、大規模な財政出動をやるべきであり、無論日銀は増刷拒否の姿勢を崩すべきであり、デフレの時期に増税するなどとはトンデモないなどと語たり、日本の政府にそれを強く働きかければ、日本のデフレも解消され、さらに、内需拡大で、アメリカの貿易もかなり伸びる可能性があったと思います。そうすれば、アメリカの景気も若干ですが、上向き、オバマは、アメリカ国内でこの成果を高らかに宣言して、またまた、"Yes, We Can"のスローガンで、大統領戦に勝利を収めることができたかもしれません。
ところが、オバマがやっていることといえば、例の"TPP"です。私自身は、TPPには反対ですが、その理由などここには、他のサイトなど見ていただくものとして、ここでは、本題とは直接関係なので詳細は述べません。
ただし、TPPということになれば、海外から安いものが日本に入ってくるわけですから、日本はデフレ傾向になるということです。今は、デフレの最中にあり、震災の復興需要とか、日本経済の復元力からいって、増税などしなければ、デフレから脱却できたかもしれません。
にもかかわらず、日本政府が増税をしたり、TPPに加入したりすれば、せっかくの日本の景気浮揚、デフレ脱却に水をさし、日本がデフレ状況から脱却できなくなります。そうなれば、アメリカから日本への輸出も伸びることはなく、せいぜい、農産物くらいでお茶を濁す程度で、結局オバマの目論見も失敗し、アメリカの外需主導による景気回復の道は絶たれるわけです。日本の農産物の自給率は、世界に類を見ないカロリーベースで計算されていますから、実際には、自給率は高く、アメリカの市場の牧畜関係者が潤うだけで、結局は、ウォール街占拠派や、茶会のメンバーが潤うはずもなく、かえって、反感を招く結果になります。
さて、この上の記事の経済学者は、最近の傾向だけ述べて、学生からさらに反感をかってしまったようです。オバマもせっかくのチャンスがありながら、そのチャンスを活かせずに、このままでは、敗北することが濃厚になってきたと思います。ちなみに、ウォール街占拠デモ派は、TPPに反対です。そりゃそうですね、単純に考えれば、関税障壁なしに、輸出できるということは、アメリカの数少ない輸出産業(GDPの6%にすぎない)にとっては良いかもしれませんが、それ以外の人には、外国から安いものがどんどん入ってくることになれば、国内内需には打撃で、さらに、職が減ることになるでしょう。
それに、TPPの構成国で、GDPの大半を占めるのは、アメリカと日本ですから、その肝心の日本が、デフレ状況から脱することができないなら、いかに、円高であっても、日本国内の消費が上向くことなく、アメリカからの輸入も伸びる余地はなくなります。また、TPPのアメリカ、日本以外のメンバーは、どれも、経済的には、小国です。これらの国のGDPをあわせても、日本の半分以下です。これらの国への貿易が伸びたとしても、ほんどアメリカには関係ありません。これでは、農産物などの一次産品の輸出だけにとどまり、高付加価値の工業製品や金融商品などは売ることができなくなります。
さらに、外需主導の景気回復がどのようなものか、日本人なら多くの人がすでに体感しているはずです。そうです、金融危機の直前まで、日本の景気は緩やかに回復していました。しかし、これは、外需主導型であり、国内はあいかわらずデフレ傾向でした。この景気回復は、日本の輸出産業によるものであり、これは少数派(GDPに占める輸出の割合は16%)にすぎませんから、これに関しては、多数の人々が認識できなくて、「実感なき経済成長」とも呼ばれていました。これは、アメリカではもっと顕著であり、輸出がGDPに占める割合は、6%に過ぎません。日本より、圧倒的に少ないわけですから、さらに多くの人々が実感できないということになります。
景気が多少良くなっても、輸出産業ばかりで、他の多数派の人々には、ほとんど関係ないわけですから、また、茶会や、ウォール街占拠派からかえって、非難されるかもしれません。それに、景気が良くなるにしても、一次産品のみ良くなるということで、これでは、付加価値があまりなく、雇用に及ぼす影響は限られています。これではは、さらに国内両派から反感を買い、日本のデフレ脱却に水を指し、オバマは、選挙どころではなくなると思います。"Yes We Can"、"Change"のスローガンなど今はむなしい響きがするばかりです。このブログでは、日本の政治家の愚かさを掲載してきましたが、アメリカの政治家も負けず劣らずという感じてす。最近では、オバマを見て愚かに見えるのは、私だけでしょうか?
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