2021年3月2日火曜日

険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ―【私の論評】日本が対ロシア経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

 険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ

岡崎研究所

 2月13日付の英Economist誌が「EUは本当のロシアに対峙しなければならない。宥和は機能していない」との記事を掲載し、EUの対ロ外交のあり方を論じている


 エコノミスト誌の記事はロシアに対して大変厳しいものであるが、プーチン政権の自業自得といってよいと思われる。ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるとの判断は正しい判断であると思われる。

 この論説のきっかけになったのはEUの外交責任者、ボレルのロシア訪問である。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられない。その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表した。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくだろう。EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂があるが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強い。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとった。

 プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じである。中ロは最近ますます共同戦線をはっている。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしてしまっている。こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与える。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしている。こんな政権を相手に条約を結んでも意味がない。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべき時期が来ているのではないかと考える。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきであろう。

 ロバート・コンクエストの「The Great Terror」には、大きな衝撃を受けた。この点、プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能と考えられる。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっているが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないだろう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ない。

【私の論評】日本が対ロシアを経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

安倍前首相には首相在任中に、果たせなかった目標がいくつかあります。それは、憲法改正、拉致問題解決、そして北方領土返還です。

プーチン露大統領と安倍元首相


安倍氏はロシアのプーチン大統領と良好な関係を維持してきました。しかし、領土問題に関しては、「一歩も前進しなかったばかりか、後退した」と言っても過言ではありません。

ロシアでは2020年7月1日、憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。その結果、プーチン大統領の任期延長が可能となり、最長で36年まで長期化する可能性が出てきました。

また、「ロシア領土の割譲に向けた行為は認めない」と憲法に明記されました。ただ「隣国との国境画定は例外とする」ともあり、北方領土交渉は例外とも解釈できます。しかし、大方のみかたでは難しくなったと見られています。

このような厳しい状況の中、菅新首相は「長期独裁政権」となるプーチン・ロシアと、どう付き合っていくべきでしょうか。

日本ではよく、「プーチンが何を考えているか、わからない」といういわれているようですが、実は、彼が何を考えているのかは明白です。

日本に関して、プーチン氏の頭の中にあるのは、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」の3つです。

安倍氏が首相に再就任したのは、2012年12月でした。13年、「私の代で領土問題を解決する」と気合が入っていたこともあって、同氏はロシアとの関係改善を猛烈な勢いで行っていました。

ところが、当時は「島を返せ!」とはあまり言わず、日ロ間のビジネス発展に力が注がれていました。

14年3月、ロシアがクリミアを併合し、転機が訪れました。日本は米国、欧州の「対ロシア制裁」に参加し、日本政府や企業は、経済(金儲け)の話ができなくなってしまいました。


そうして、日本政府高官ができるのは、「4島返還」の話だけになってしまいました。ロシア側は「金は欲しいが、島は返したくない」ので、日ロ関係は悪化し続けていきました。

次に転機が訪れたのは、16年5月でした。ソチでプーチン氏と会った安倍首相は、「8項目の協力プラン」を提案しまし。つまり、日本政府は北方領土問題の話を止め、再び金儲けの話を始めたのです。

プーチン氏は大満足で、同年12月に訪日を果たしました。これで、日ロ関係は劇的に良くなりました。

安倍時代最後の転機は18年11月でした。シンガポールでプーチン氏と会談した安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる」ことを提案しました。これは日本にとって「大きな譲歩」でした。

安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎とする」としたことで、これまで日本政府の基本方針だった「4島一括返還論」を捨て去り、「2島返還論」にシフトしたのでした。にもかかわらず、プーチン氏は安倍首相の大胆な決断を評価していません。

繰り返しますが、プーチン氏の頭の中は、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」なのです。元々4島はもちろん、2島返還もしたくないのです。

この後、日ロ関係は再び悪化していきました。プーチン氏は「島を返せば、米軍が来るだろう」と言い、19年3月には、「日本が日米安保から離脱しなければならない」と発言しました。それ以後、日ロ関係は良好とは言えない状態が続いています。

ここまで第二次安倍政権時代の日ロ関係の流れを見てきた。

以上から、日露関係は以下の法則があることがわかります。

法則1、北方領土の話をすると、日ロ関係は悪化する。

法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される。

では、日ロ関係をどうすべきなのでしょうか。それなら、断交してかまわないと、少なからず、そう考える人がいると考えられます。

私自身も、確かに平時ならそれもありだと思います。ところが、現在はとても平時とはいえません。

無論、現在はコロナ禍であるということもありますが、それ以前に中国は2012年11月、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線」構築を提案したという事実があります。

この時中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない」と宣言しています。この宣言は、なぜか日本ではほとんど報道されることもなく、ご存知の方も少ないでしょうが、これは日本にとっては、中国による宣戦布告と言っても過言ではありません。これを受けて安倍内閣は、米国、ロシア、韓国との関係改善に取り組み始めました。

安倍首相は15年4月、米議会で「希望の同盟」演説を行い、日米関係を強固なものにしました。15年12月の慰安婦合意によって、日韓関係は一時的にですが、良くなりました。先に述べたように日ロ関係も改善されました。

このあたりの動きについては、日本では中国による反日統一共同戦線」構築の提言が報道されなかったなので、なぜ安倍前総理がこの時期に米・韓国・ロシアなどとの関係改善を急いだのか多く人々には理解されなかったかもしれません。

プーチン訪日時、物事を戦略的に見る中国は、日ロ接近を嘆きました。

中国国営新華社通信は日ロ会談に関する論評で「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」と反発。(時事通信2016年12月16日)
この時、日本政府関係者は誰も、「中国包囲網を強化したい」とは言っていませんでしたが、中国は戦略的危機感を持ったのです。中国は、日ロ接近を恐れているのです。

プーチン大統領は北方領土を返す気がないが、中国に対抗するために、ロシアと付き合うというのが、現状の正しい姿勢です。では、菅政権はどうロシアと付き合うべきなのでしょうか。

これは、「法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される」が答えになります。菅首相は前安倍政権が約束した「8項目の協力プラン」を、ゆっくりとでもいいので、進めていくべきです。無論現状は、大規模な支援ができる状況ではありません。しかし、全く切らないで、いざというときには交渉の材料にできるようにはしておくべきです。

ここまで書いても「ロシアと組むのは嫌だ」という人は多いでしょう。長い日露関係史からいって何度も裏切られ、危険な目にあってきた日本人がロシアを嫌がるのは当然といえば当然かもしれません。

ただし、現在のロシアは昔のロシアとは違います。あの広大な領土に日本より2千万人くらい多い、1億二千万人の人口しか存在しません。下の地図の赤い部分は、ロシア極東地区ですが、ここの人口は、 2016年の調査によると約620万人に過ぎません。 民族的にロシア人とウクライナ人がこの地域の主要民族となっています。
この地域に接する黒龍江省だけでも人口は、3800万人です。ロシアと中国は現状では経済的には中国が圧倒的に上であり、現在のロシアのGDPは、日本の1/5程度に過ぎません。そのため中露国境は、中国人が越境して、ロシア領内でビジネスをすることが多く、国境が曖昧になり、国境融解と呼ばれている程です。

こうした状況にロシアが、脅威を抱いていないということはあり得ませんが、現状は中国のほうが圧倒的に国全体としては、国力が強いので、ロシアは中国と事を荒立てたくないので、友人同士のように振る舞っていますが、その実、かつては中露国境紛争で激しく衝突したという経緯もあり、互いに敵愾心を持っているのは疑いの余地はありません。

さらに、上記のようにEUは、ロシアに敵対しており、中国に対してはどうなのか疑問符がつく米国のバイデン政権もEUとの同盟関係を重視しているため、ロシアに対しては厳しいでしょう。

そうなると、ロシアに手を差し伸べる国は、当面中国と日本だけということになりますが、プーチンとしては、中国に恩を売られるのは良しとしないでしょう。となると、当面は日本がかなり有力ということになります。

日本が援助の手を差し伸べることにより、中国を牽制することができます。これは、結果として、日本をはじめとする中国と対峙する先進国にとっては良いことです。

そうして、世界一の戦略家ともいわれるエドワード・ルトワック氏は、著書『自滅する中国』(芙蓉書房出版)の中で、日本が生き残るためには、ロシアとの関係が「極めて重要」と断言しています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。(『自滅する中国』188p)
感情的にロシアが嫌いなのは、日本人としては当然のことと思います。しかし、中国に尖閣、沖縄、台湾を奪わせないために、中国の海洋進出をこれ以上許さないためにも、日本はロシアと「組む」べきなのです。

そうすれば、中国としては、ロシアに備えなければならず、国境に多数の兵力を割くことになります。ロシアというと、先程も述べたように、経済的には日本の1/5であり、東京都と同程度のGDPに過ぎなく、単独では米国を除いたNATOともまともに対峙できません。現在のロシアができるのは、クリミア併合が精一杯というところでしょう。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器や軍事技術の継承者であり、軍事的には侮れないところがあり、中国としては軍事的にも心理的にもロシアの存在は重荷になるはずです。

北方領土については、日本がある程度援助したところで、現在のロシアには石油・天然ガス産業くらいしか育っておらず、将来発展する産業もないですし、米国やEUから経済制裁を受けている現状では、いずれ必ず経済的にかなり行き詰まり、八方塞がりになることは明らかです。

その時には、プーチン政権が退陣せざるを得ないくらいに追い詰められるのは目に見えています。

そうなれば、ロシアは北方領土どころではなくなります。それどころか、極東地域そのものが、中国の脅威にさらされることになります。その時が交渉のやり時でしょう。この時には、日本に経済援助が切り札になります。経済援助を打ち切るか、継続するかが、鍵になります。

また、それ以前にも、ロシアがはっきりと中国に対峙する道を選ばなければ、経済援助を打ち切るという手もあります。とにかく、日本側が援助という外交カードを握るのが重要なことです。

その時は、20年後とか、30年後というよりは、もっと早く来るでしょう。

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