ピアース・モーガン「メーガン妃への謝罪拒否で番組降板」「表現の自由が攻撃を受けている」怒り露わ
ピアース・モーガン |
英時間9日、ピアース・モーガンが英ITVの朝の人気番組『Good Morning Britain』を突如降板することが発表された。モーガンは同日朝の生放送中に男性お天気キャスターと言い争いになり退席、苦情が殺到したことから同日中に降板を発表した。この前日には「メーガン妃の言葉は一言も信じない」と非難し、物議を醸していた。そして後日の報道で、メーガン妃の代理人が番組に対して苦情文を送っていたことが明らかになった。
モーガンは現地時間12日、自身のInstagramでフォロワーに向けた直筆の手紙を公開。「皆さん、こんにちは。応援してくれている皆さんに、感謝の気持ちを伝えたい。(私を嫌っている人々にもね。)」と挨拶した後、今の心情をこのように綴った。
「今週は私にとっても、英国と王室や私たちの未来にとっても、特別な1週間だった。私のことを良く知っている人達は、私が多くの欠点があるにもかかわらず、自分が最も重要だと思うことに対して常に毅然とした態度で臨んでいることをご存じだろう。」
そのように説明した後、『Good Morning Britain』から急遽降板した理由を明かした。
「私はイラク戦争に猛烈に反対し『Daily Mirror』から追放された。アメリカの銃規制の異常さを率直に訴えたことで、CNNでの仕事が終わることになった。そして今、オプラ・ウィンフリーとのインタビューでメーガン・マークルの主張を信じなかったことへの謝罪を拒否したため、『Good Morning Britain』の仕事を失ったのだ。」
続けて、ソーシャルメディアで特定の人物や組織などを徹底的に糾弾し、社会から排除しようとする「キャンセル・カルチャー」の危険性について激しく非難した。
「このようにして私は、この国において毎分、毎時間、毎日のように浸透しているキャンセル・カルチャーの最新の犠牲者になった。もちろん自分は被害者でもなければ、実際に排除されたわけでもないと思っている。」
「しかし表現の自由と正直な意見を述べる権利を守ることは、私のキャリアにおいて最も重要な課題であり、英国社会においても最も重要な課題であると考えている。」
2枚目の手紙では「民主主義の根幹である表現の自由が、これまでにないほどの攻撃を受けている。これは防衛しなければならない。民主主義国家に住むことは特権であり、英国人であることも特権だ」と述べ、「これは単に反抗的な行為ではなく、我々共同体の未来に対する責任だ」と締めくくった。
ピアース・モーガンの番組復帰を望む署名運動では、現地時間12日時点で13万件以上の署名が集まっている。しかし本人はツイッターで「戻ることはない」と復帰を否定、「署名してくれた皆さんには感謝します。いつもは私の解雇や国外追放を求める署名活動ばかりだが、これは嬉しいサプライズだ」と皮肉交じりに伝えた。
【私の論評】実はキャンセル・カルチャーはありふれた現象、振り回される人は一昔前の中国の紅衛兵のようなもの(゚д゚)!
とはいっても最近のキャンセル・カルチャーの加速度は、無視できないほどの勢いがあります。なかには、その怒りが何に向かっているのか最早よくわからないような人も見かけます。
つい最近、日本でも重鎮とされてきたオリンピック委員会の前会長の発言をうけて、人々の声がそれまでの流れを変えるという動きがありました。
森前会長 |
キャンセル・カルチャーは、メディアを通じて個人や企業に非難を集め、社会的にボイコットする運動を指します。2015年から言葉として使われ、2018年から運動として盛んになりました。
非難の理由は差別反対で、その点は1980年代からのポリティカル・コレクトネスと同じですが、ポリコレが言葉や表現の是正なのに対し、キャンセル・カルチャーは社会的追放を目指すボイコット運動です。
そうして運動は爆発的に広がります。その際、非難された側に反論や弁明の機会が与えられたとしても、正義の側であることに気を奪われた人々は聞く耳を持ちません。あるいは非難される恐怖から逃れるため、不寛容あるいは暴力的にさえなります。その暴力は、正義を主張する者にとっては正当なのです。
ただ、こうした動きは、目新しいものと思われがちですが、以前からありました。たとえば、恐怖心と暴力を利用して大衆を操った毛沢東の文化大革命でした。当時の中国は、毛沢東思想を基準に個人の言葉や生活態度の正しさを相互に監視させ、革命に反対している疑いのある者を密告するよう奨励しました。
文化大革命当時、「反革命分子」の髪を切り、自己批判を迫る紅衛兵 |
密告されれば晒し者にされ、自己批判するまで糾弾されました。人々は密告される恐怖から逃れるために他人を密告し、ついには親兄弟まで密告する者もいました。
毛沢東革命の妨げとなる要因といえば、2000年来の四書五経を基本とする知識人の思考形態と、日本の和製漢語を通じて入ってきた西洋近代文明だったでしょう。それらを中国中心の文明に置き換えるため、経済発展と個人の人間性を犠牲にしたのが文化大革命だったといえるでしょう。
キャンセル・カルチャーの延長線上に現れたのが、2019年8月のニューヨーク・タイムズの特集記事「1619プロジェクト」でした。特集は、黒人の父と白人の母を持つジャーナリスト,ニコル・ハンナ・ジョーンズが編集者となり、以下のような黒人中心史観を主張しました。
毛沢東革命の妨げとなる要因といえば、2000年来の四書五経を基本とする知識人の思考形態と、日本の和製漢語を通じて入ってきた西洋近代文明だったでしょう。それらを中国中心の文明に置き換えるため、経済発展と個人の人間性を犠牲にしたのが文化大革命だったといえるでしょう。
キャンセル・カルチャーの延長線上に現れたのが、2019年8月のニューヨーク・タイムズの特集記事「1619プロジェクト」でした。特集は、黒人の父と白人の母を持つジャーナリスト,ニコル・ハンナ・ジョーンズが編集者となり、以下のような黒人中心史観を主張しました。
米国の真の建国は、最初の黒人奴隷がバージニア植民地に連れてこられた1619年8月であり米国史は黒人迫害史である。1776年の独立戦争も、奴隷制維持が主な動機だった。そして初代大統領ワシントンと第3代大統領のジェファーソンは奴隷を所有し、リンカーンも先住民抑圧を正当化した差別主義者だった。
1619プロジェクトは、黒人も含む歴史学者や、リベラル陣営も含むメディアなどから、史実の誤認や曲解を指摘され、批判されました。しかし、プロジェクトの前書きには「歴史と黒人米国人の米国への貢献を理解する方法を再構成した」とあります。
つまり、プロジェクトは学術研究でもジャーナリズムでもなく、政治主張です。黒人中心史観を主張するなら、国家の歴史とは別の黒人史を書くしかありません。
近年の左翼の手法、現在の価値観で過去を断罪し、権威を引きずり下ろして権威になり替わろうとする歴史修正主義に他ならないです。しかし、ハンナ・ジョーンズ氏の文章は,翌年のピュリッツアー賞を受賞し、民主党の地盤の学校では教材に使われるといいます。1619プロジェクトは、米国の分断の象徴、または火に投じられた燃料となったのです。
2013年から始まったBlackLivesMatter(黒人の命も大切だ、または黒人の命こそ大切だ)運動の後も、白人警官による黒人殺害事件は起きていましたが、2020年5月のジョージ・フロイド氏の事件に対する抗議行動は、全米140都市で暴動化する異常事態となりました。明らかに1619プロジェクトが燃料を注いだといえます。
政治目的にる歴史修正はここ日本でも、過去にもありました。一つはGHQによる占領政策です。日本の国柄や欧米帝国主義からのアジアの自立などを論じた7769点の書籍を没収し、NHKラジオで日本軍の悪行愚行を「眞相はかうだ」シリーズ等を放送し、公職追放の後のポストに協力者を配して、日本人の精神的武装解除を行いました。
具体的には、以下の30項目のどれかに当たれば、その出版物は削除されるか、あるいは発行禁止にされました。これは米国国立公文書館分室の資料番号RG331、Box No.8568、『A Brief Explanation of the Categories of Deletions and Suppressions』(1946年11月25日)という資料に記されています。ちなみにSCAPというのはGHQのことです。
1.SCAP-連合国軍最高司令官(司令部)に対する批判要はGHQにとって都合の悪い話は全部禁止ということです。これだけの規制をしておいて、言論の自由なんてあるわけがありません。しかし、当時GHQは「我々が日本に言論の自由をもたらした」とうそぶいていました。
2.極東軍事裁判批判
3.SCAPが日本国憲法を起草したことに対する批判
4.検閲制度への言及
5.合衆国に対する批判
6.ロシアに対する批判
7.英国に対する批判
8.朝鮮人に対する批判
9.中国に対する批判
10.他の連合国に対する批判
11.連合国一般に対する批判
12.満州における日本人取扱についての批判
13.連合国の戦前の政策に対する批判
14.第三次世界大戦への言及
15.ソ連対西側諸国の「冷戦」に関する言及
16.戦争擁護の宣伝
17.神国日本の宣伝
18.軍国主義の宣伝
19.ナショナリズムの宣伝
20.大東亜共栄圏の宣伝
21.その他の宣伝
22.戦争犯罪人の正当化および擁護
23.占領軍兵士と日本女性との交渉
24.闇市の状況
25.占領軍軍隊に対する批判
26.飢餓の誇張
27.暴力と不穏の行動の煽動
28.虚偽の報道
29.SCAPまたは地方軍政部に対する不適切な言及
30.解禁されていない報道の公表
これを受けて、朝日新聞を筆頭とする日本のメディアは、GHQにいちゃもんをつけられそうな記事の書き方を避け、GHQに喜ばれそうな記事を量産するようになります。その結果、GHQや米国を賛美し、日本が悪かったという自虐的な内容に偏るようになりました。
ちなみに、このプレスコードの存在は新聞社や出版社などに関わる人たちだけに知らされ、その他の多くの日本人には知らされませんでした。つまりほとんどの日本人は、メディアが自主的にそういう記事を書いていると思い込んでいたのです。
戦争体験者がもっと戦場の真実を語り継いでいれば、多くの日本人が洗脳されずに済んだのかもしれません。しかし、それは不可能でした。このプレスコードを見て分かるように、当時の日本人は強烈な言論封殺の環境下に置かれていたのです。検閲によって日本人は皆強制的に沈黙させられ、GHQの一方的な情報発信によって真実が歪められていったのでした。
もう一つは、民主化のパラドックスとも言われる、韓国左翼の潮流です。麗沢大学客員教授の西岡力氏が紹介した、主体思想派と呼ばれる韓国与党の思想は次の通りです。
李承晩は銃弾の1発も撃たず、米国の力で初代大統領になった。用いたのは日本時代に育成された人材。だから大韓民国は成立から穢れた国であり、その後も清算が済んでいない。北朝鮮こそが、貧しくとも民族の自主性を純粋に守る正しい国である。
2019年7月、李栄薫元ソウル大学経済学教授ら6人の学者が、資料分析による経済史学の手法で、日本統治に対する韓国社会の通念を覆す『反日種族主義』を発行しました。11万部のベストセラーになったのですが、強烈な反発も受けました。しかし、根拠を示した反論は一切ありません。「日帝の侵略、略奪、陵辱」という出来上がった通念は、議論すら許せないない人が多いようです。
2021年1月28日,ハーバード大学のジョン・マーク・ラムザイヤー教授が論文「太平洋戦争における性契約」をInternational Review of Law and Economicsに掲載しました。特に物議を醸した論文要旨は、以下のようなものでした。
2021年1月28日,ハーバード大学のジョン・マーク・ラムザイヤー教授が論文「太平洋戦争における性契約」をInternational Review of Law and Economicsに掲載しました。特に物議を醸した論文要旨は、以下のようなものでした。
戦前の遊郭における売春婦と楼主の契約と、開戦後の軍慰安所における慰安婦と事業主の契約を比較すると,多額の前借金に応じた年季奉公と毎回の売上の分配という形態において同じ。
韓国で報道されるや大騒ぎになったのですが、『反日種族主義』と同様、根拠を示した反論はありません。議論すること自体を許さないのです。3月初めには、韓国留学生会の提案をハーバド大学学生会が受け入れ、ラムザイヤー教授に公式謝罪を要求しました。
元日本共産党職員でジャーナリストの篠原常一郎氏は、日本にも主体思想派が「自主の会」と称して浸透しており、アイヌと琉球人は被差別先住民族だという運動を展開していると紹介しています。
元日本共産党職員でジャーナリストの篠原常一郎氏は、日本にも主体思想派が「自主の会」と称して浸透しており、アイヌと琉球人は被差別先住民族だという運動を展開していると紹介しています。
人間社会には100%潔白で公明正大な人などというものは存在しないにもかかわらず、自分の側だけが正義だと思えば、自分の醜さや悪意に気づかずに、あるいはそれに向き合うこともなく、相手に人差し指を突きつけることができるからです。
かつての紅衛兵も味わったこの快感はやめられない刺激を生むのでしょう。実際こういう人は、脳内でドーパミンが分泌されて、幸福感に浸るそうです。
15歳の紅衛兵が叫ぶ…中国文化大革命下の少女 1966年 |
反論が一見難しい正義を掲げ、検証も議論も許さず糾弾するキャンセル・カルチャーは、伝統的価値観や歴史の積み重ねを否定し、権威を奪い取る目的で、世界を吹き荒れているようですが、このような動きに、惑わされるべきではありません。
そうして、そういうことを主張する人を見分けるのは、存外簡単なことです。人の意見など最初から聞かず、自分の思想は絶対善であり、さしたる根拠もあげずに、他は全部間違いという主張をするからです。そのような国や、そのような人、結構目につきませんか。
それにしても、キャンセル・カルチャーは願い下げです。カウンター・カルチャーならば、一時混沌としたにしても、何か新しいものが生まれる可能性がありますが、キャンセル・カルチャーは古いものをぶっ壊すだけです。あるのは混沌だけです。何の生産性もありません。
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