2017年5月16日火曜日

実は不動産会社だった? 日本郵政が野村不動産買収との報道、その狙いは―【私の論評】官製企業から再度完全民営化しなければこれかも失敗し続ける(゚д゚)!

実は不動産会社だった? 日本郵政が野村不動産買収との報道、その狙いは

日本郵政が不動産大手の野村不動産を買収するとの報道が出ています。郵便局が不動産会社を買収するというのはピンと来ませんが、どのような意図があるのでしょうか。


 各種報道によると同社は野村證券グループの不動産会社である野村不動産に対してTOB(公開買い付け)を実施する方向で検討を進めているそうです。野村不動産は大手デベロッパー5社に入る企業で、「プラウド」というブランド名でマンションを展開しているほか、オフィスビルの運用を行っています。

 郵便事業を営む会社が不動産会社を買収というのはあまりピンと来ませんが、郵便事業の半分は不動産業ともいえます。全国に郵便を届けるためには、各地にその拠点を備える必要があり、日本郵政は2万カ所の郵便局を所有しています。

 また同社はもともと国営の事業だったこともあり、逓信病院などの医療施設、かんぽの宿といった宿泊施設など、民間では考えられないような多数の不動産を抱えています。所有する土地の面積は東京ドーム5万5000個分にもなり、建物などを加えた固定資産の総額は3兆円に達します。

 同社はNTT以来の超大型銘柄として鳴り物入りで上場を果たしましたが、郵便事業は縮小が余儀なくされており、今後の成長シナリオを描く必要に迫られています。

 しかし、現実はそう簡単ではありません。2015年5月に6200億円もの巨費を投じて買収したオーストラリアの物流会社は、予定の業績を達成することができず、はやくも4000億円の損失が発生している状況です。海外事業で躓くということになると、選択肢は日本国内にある不動産の有効活用しかありませんが、日本郵政には不動産運用に関するノウハウはほとんどありません。野村不動産をわざわざ買収することにはこうした事情があると考えられます。

「プラウド」というブランド名でマンションを展開している野村不動
 野村不動産の株式を過半数取得するということになると、最低でも2000億円以上の資金が必要となりますが、15兆円以上の純資産を持つ日本郵政からすれば微々たるものでしょう。

 買収による増益効果についても、野村不動産の売上高が全額連結決算に反映されたとして数%という程度ですから、業績への影響は軽微です。重要なのは、野村不動産のノウハウを今後、どのように自社の不動産運用に活用できるのかというところに絞られてくるでしょう。

 日本郵政が野村不動産を買収すること自体は不自然ではありませんが、海外の物流会社を買収して損失を計上したかと思えば、今度は国内の不動産会社を買収するなど、収益拡大に向けて無軌道に会社を買い続けているという印象は否めません。経営陣の戦略性がより厳しく問われることになるでしょう。

【私の論評】官営企業から再度完全民営化しなければこれかも失敗し続ける(゚д゚)!

日本郵政については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本郵政 豪物流事業の業績悪化で巨額損失計上か―【私の論評】財務省御用達人材が、東芝、日本郵政を駄目にした(゚д゚)!
この記事では日本郵政の業績悪化の原因と思われるものについて掲載しました。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にそれに関わる部分のみ掲載します。
日本郵政の社長は、元東芝の社長であった西室泰三氏です。東芝も西室氏のころから危なくなりました。日本郵便は事業や投資に関しては、官僚だけの素人集団です。これでは先行きかなり厳しいです。ちなみに西室氏が日本郵政社長になった当時の日経はかなり高く評価していましたが、どうしてそうなるのか理解できません。以下にその紙面を掲載します。
郵政民営化を簡単に振り返ると、小泉政権の時に民営化法成立し、民営化が実施されました。ところが、民主党政権になって民営化を否定し実質上「再国有化」されました。

郵政民営化のときには西川氏が本当に民間会社にするつもりで、大量の民間人を引き連れてきました。ところが、再国有化されると、西川氏とその仲間の多量の民間人は追いだされ、財務省御用達の西室氏だけがトップで来て、周りはほぼ官僚だけとなりました。これでは、海外投資業がうまくいくはずがありません。
以上のように、日本郵政の業績不振は、まずは西室氏の経営者としての能力が低いこと、さらには現在の日本郵政の幹部は西室氏を除いてすべて元官僚によって占められていることです。

さて先週末のニュースで意外性があったのは、この報道です。野村不動産ホールディングスの時価総額は約4000億円。この株式の一部あるいは全部を日本郵政が取得し、不動産開発事業を加速させる狙いがあります。

日本郵政は土地保有額の上場企業ランキングで6位に入っています(下のグラフをご覧になってください)。しかも、郵便局などの土地建物は、鉄道のターミナル駅近くにある場合が多く、都心の一等地の不動産を、有効活用できれば収益性を高めることができます。



有名な例では、東京駅の前に出来たJPタワーがあります。かつての東京中央郵便局を再開発し、大型商業施設として生まれ変わりました。また名古屋駅前にもJPタワー名古屋を開業し、博多でも同様の商業施設が博多駅前にオープンしています。

昨年、200兆円の資産を保有するゆうちょ銀行が、今後5年程度で、国内外の不動産や未公開企業などのオルタナティブ投資と呼ばれる資産に、最大6兆円を資産配分すると報道されました。ゆうちょ銀行の資産運用は金融資産が運用対象の中心で、その中でもリスクの低い国債が過半を占めていました。日銀がマイナス金利を導入したことで、運用利回りの低下が大きな経営課題になっています。

不動産開発や不動産投資事業は、日本郵政が従来手掛けてきた、郵便事業や金融資産を中心とした資産運用とは、異なるノウハウが必要です。社内で人材を育てていては間に合わないので、不動産会社を買収することで、新事業の経営ノウハウを一気に手に入れようということです。

日本郵政が保有する土地が、マンション開発などに活用されれば、住宅供給が増えて需給にとってはマイナスの影響が予想されます。一方で、JPタワーのような商業施設が駅前に開業すれば、その駅の周辺の開発が加速され、不動産価値の上昇というメリットが出るかもしれません。

今後不動産有効活用を検討する大手企業が追随する可能性もあり、国内不動産事業への注目が高まることは確実です。唐突な感じがした、今回の買収記事ですが、買収価格はともかく、有休不動産保有企業と不動産開発業者の組み合わせという点で、シナジーが期待できます。

買収額は数千億円規模といわれます。日本郵政は全国2万以上の郵便局をはじめ多くの不動産を保有していますが、不動産ビジネスのノウハウはなく、いわば宝の持ち腐れでした。今回の買収劇からは、不動産業を経営の柱に据えたいという意気込みが伝わってきます。

日本郵政も不動産開発には全く無関係だったというわけではく、2007年の民営化後、東京駅前の商業施設「KITTE(キッテ)など不動産開発を手掛けてきました。ただ、遊休地の活用など経営課題は多いです。

日本郵便初の商業施設「KITTE(キッテ)」
日本郵政は17年3月期に約400億円の最終赤字を見込んでいます。15年に買収したオーストラリアの物流大手トール社に絡み、4000億円以上の減損を計上するためです。こうしたマイナスイメージから脱却するため、成長性のある不動産ビジネスへの進出をブチ上げたのでしょう。

上でも掲載したように、西室氏は東芝時代に、米ウェスチングハウス社の買収に暗躍し、日本郵政では豪トール社買収を主導しました。両案件とも巨額損失につながっただけに、西室氏の責任を問う声大きいです

実は、野村不動産と東芝の関わりは深いのです。08年、野村不動産が東芝不動産(現NREG東芝不動産)の株式65%を取得し、子会社化しています。当時、西室氏は相談役でしたが、東芝社内への影響力は絶大でした。

NREG東芝不動産は、人気の商業施設として知られる「ラゾーナ川崎プラザ」(川崎市)を開発。隣は、東芝未来科学館の入る「ラゾーナ川崎東芝ビル」です。

ほぼ10年前に野村不動産グループとなった「東芝ビル」を、日本郵政が手に入れようとしている。そこかしこに東芝のドンのカゲがチラつきます。

とはいえ西室氏はすでに経営の第一線から退き、療養中だとされています。今回の日本郵政による野村不動産買収に口出しするとは思えません。しかし、本当はどうなのか外部からうかがい知ることはできません。

そうして、今後の不動産業界を考えると、不安がよぎります。

リーマンショック以降、不動産業界ではマンションの価格下落、ビルの空室率上昇、賃料の下落、不動産投資市場の低迷など暗いニュースが続いていました。しかし、ここ最近は、東京オリンピックの開催が5年後に迫ってることもあり、東京都心部の一部では活発に不動産取引が行われています。

一方、地域別にみると苦戦を強いられているエリアが存在するのも事実であり、都心部と地方の格差は拡大するばかりです。
また、一部の業者による「物件の囲い込み」の実態が明るみになったりと何かと世間を騒がせているのもこの業界ならではないでしょうか。オリンピックが開催する2020年までには、海外投資家が投資した東京都心部の収益物件が次々と売却される恐れもあるため、今以上に不動産市場の需要と供給のバランスが保てなくなる可能性も否定できません。

国立社会保障・人口問題研究所による推移において、市区町村別の数値が公表されるのは人口だけで、残念ながら世帯数は都道府県別にとどまります。2013年3月に公表された市区町村別人口推計を見ると、2040年の人口が現在の半数を割込むところも少なくないです。中には3分の1程度まで減少する町村もあるようです。


もちろん東京都でも、人口減少とは無縁でいられません。2040年の人口が2010年より増えると予測されているのは以下だけになります。

【東京都】
中央区、港区、新宿区、墨田区、江東区、練馬区、三鷹市、東村山市、稲城市の6区3市、それにもともとの人口が少ない御蔵島村だけです。
【大阪府】
大阪市の西区、天王寺区、鶴見区、北区の4区、大阪府下では田尻町のみが増加となっている。また、大阪市内には2割以上の人口減少が見込まれている区も多いようです。
【愛知県】
名古屋市で守山区と緑区だけが増加なのに対して、その周辺では安城市、大府市、高浜市、日進市、みよし市、長久手市、東郷町、豊山町、大口町、大治町、幸田町が増加すると予測されています。
いずれにせよ大都市圏でも大半の市区町村で人口の減少が避けられず、それに数年ずつ遅れながら世帯数の減少も進行していくことでしょう。人口および世帯数の減少は街の活気を奪い、不動産市場も次第に縮小していくことでしょう。現在もすでに住宅の数が充足し、逆に家余りが社会問題となっています。2014年7月に総務省が発表したデータによると、日本全国では820万戸空き家があり、空室率は13.5%まで上っているのです。

国内における人口の減少、それに続く世帯数の減少は、不動産業界のあり方も大きく変えることになります。

市場規模の縮小を見越して、一部の住宅メーカーはすでに海外の不動産市場へ参入を始めているほか、国内では住宅ストックの活用に軸足を移している例も多いです。

また、単身者世帯、高齢者世帯の割合の増加に合わせた商品企画も求められます。特に2020年からは、単身者世帯が最も多くなります。以下のグラフをご覧になって下さい。
今後単独世帯、夫婦のみ世帯が増加する見込み

2020年には大半の都道府県で単独世帯がもっとも多い家族類型に
間取りの変化だけでなく、留守の時間が長くなりがちな単身者世帯のセキュリティ対策、高齢者向けのバリアフリーなど普段の生活が快適に過ごせるような工夫も重要になるでしょう。さらに、顧客と長くお付き合いができる体制を作らなければ、需要が減退していく社会の中で生き残ることは困難です。

一棟マンション・アパートにはじまる収益物件をメインに扱う不動産会社であれば、「投資」という部分にフォーカスした、より高い知識が営業担当者に求められます。

投資家が求めているサービスを提供するためには、投資アドバイザーという立場から、不動産以外に資産全体の組み替えを含むポートフォーリオのアドバイス、実際の買収・売却請負、財務分析、資産評価などを行うほか、投資内容や投資先の分散、投資期間の設定などについて工夫し、助言することが要求されるようになるでしょう。

新築分譲を手掛ける不動産会社であれば、販売後のアフターサービスがますます重要になるでしょう。それも従来のような物件の定期点検や保証といった範囲にとどまらず、入居後の生活全般に対するフォローが欠かせなくなります。インテリアのアドバイスやリフォームの提案、さらに将来の売却、場合によっては子育て相談や生活相談まで、住まいに関するトータルサービスを提供することが求められます。

不動産仲介会社であれば、整備されつつある中古住宅流通市場の中で、他社より「優れたサービス」を考えることが重要です。契約時における的確な情報提供や物件調査のスキルアップはもちろんのこと、これまでのように「物件の引渡しが済んだらそれで終わり」というスタンスからは卒業しなければならなくなります。入居後の生活全般をトータル的にサポートする等、従来の不動産業からの脱却を目指すことも必要になるでしょう。

株式上場計画について記者会見する日本郵政の西室泰三社長(当時)=2014年12月26日

このように将来の不動産業界の変化を見通すことは、原子力産業の将来を見通せなかった、西室氏には到底無理なことです。そうして、現在日本郵政の幹部のほとんど占めている官僚出身者にも到底無理です。

さて、日本郵政の不動産事業はこれからどうなるかは、わかりませんが、まずは野村不動産買収に成功した場合、まずはどのような人事政策をとるかが鍵になると思います。

野村不動産の運営には、西室氏や官僚出身の幹部らは一切かかわらず、金や資産を差し出すことはしても、運営には一切口を挟まないという体制が築かれれば成功する見込みも少しはあります。

現在は、2016年4月1日付で、西室泰三日本郵政社長の病気による退任に伴い、ゆうちょ銀行の代表執行役社長職を退き(取締役としては留任)、後任の日本郵政取締役兼代表執行役社長に就任しています。

ただし、現状をみてみると、どうも疑問です。そもそも西室氏のように経営力に不安のある人物しかリーダーになれなかった日本郵政の体質にも問題があるといえるでしょう。実際のところ、本当に優秀な経営者であれば、政府が株式を保有しているために制約が多い会社に来ようとは思わないでしょう。

仮に一人あるいは数人の優秀な民間経営者が来たとしても、野村不動産を買収できたとしても、周りを元官僚で固められています。頭だけ民間に代えても、首の下は官営企業そのものです。

そうして、西川氏更迭のときに追放された民間人も悲惨な待遇を受けています。そのときは西川氏の尽力で救済された人も多いそうですが、これは彼にしかできない芸当でもあります。

この顛末をよく知っている経営者は、日本郵政のかじ取りに二の足を踏んでしまいます。民間から人を連れてくれば、このような憂き目にあうかもしれないということになれば、二の足を踏まざるを得なくなります。こうした何重もの制限がある日本郵政が赤字になるのは当然のことです。これからも、今のままでは、失敗することは目に見えています。

方法としては、もう一度完璧な民営化を目指すこと以外にはありません。

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2017年5月15日月曜日

【一帯一路】中国の指導力拡大を容認する米国 中国市場へのアクセスと引き換え 「自国第一」…米国の利益優先―【私の論評】ゾンビ企業の受け皿にしてはあまりに小さな投資(゚д゚)!


「一帯一路」をテーマに北京で開かれた国際会議で、ロシアのプーチン大統領(前列右)ら
各国首脳と記念撮影に向かう中国の習近平国家主席(同中央)=15日、北京市郊外
中国が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を推し進めるなか、トランプ米政権は「米国第一」へのこだわりを強めている。その表れのひとつが11日発表の貿易などをめぐる米中合意。米国が中国市場へのアクセスを得る一方で、中国の国際社会における指導力拡大を容認する内容だった。ただし中国が国際協調を尊重しないのではないかという疑念は拭えず、トランプ政権に内向きな姿勢からの脱却を求める声もある。

 米国はオバマ前政権下では一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)から距離をとり、中国の影響力拡大を牽制。また日米など12カ国で合意した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも中国に国際貿易のルールを作らせない狙いがあると公言してきた。

 しかしトランプ政権下では様相が一変した。11日の米中合意は米国が中国の牛肉や金融サービスの市場開放を勝ち取ることと引き換えに、「米国は一帯一路の重要性を認識する」と明記して中国の指導力を歓迎する内容。米国は今回の国際協力サミットフォーラムにも代表団を派遣した。ロス商務長官は「米中関係は特に貿易面で史上最高の良好さだ」と言い切る。

 一方、トランプ氏は中国の鉄鋼の過剰生産問題など米国経済に大きなダメージをもたらす問題では中国への譲歩は示していない。しかしTPP離脱や国務省の海外援助予算の削減方針などからみても、米国としての国際社会での指導力発揮よりも米国の利益を優先させる意思は鮮明だ。

 トランプ氏には北朝鮮の核問題への対処のためには中国の協力が必要だという計算もあるが、各国の間では中国が国益追求のために国際社会の規範を破ることへの懸念は根深い。米シンクタンク、ブルッキングス研究所は4月の中国の国際経済戦略についての報告書で「中国の狙いを慎重に見極めなければならない」として、トランプ政権に監視の目を光らせるよう促している。

 一方、トランプ氏は中国の鉄鋼の過剰生産問題など米国経済に大きなダメージをもたらす問題では中国への譲歩は示していない。しかしTPP離脱や国務省の海外援助予算の削減方針などからみても、米国としての国際社会での指導力発揮よりも米国の利益を優先させる意思は鮮明だ。

 トランプ氏には北朝鮮の核問題への対処のためには中国の協力が必要だという計算もあるが、各国の間では中国が国益追求のために国際社会の規範を破ることへの懸念は根深い。米シンクタンク、ブルッキングス研究所は4月の中国の国際経済戦略についての報告書で「中国の狙いを慎重に見極めなければならない」として、トランプ政権に監視の目を光らせるよう促している。

【私の論評】ゾンビ企業の受け皿にしてはあまりに小さな投資(゚д゚)!

一帯一路については、このブログでも今年の年初に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
黒竜江省の炭鉱労働者のデモ
鞍山鉄鋼集団
仕事を失った労働者はどうするのでしょうか。鞍山市では興味深い動きが見られます。国外に活路を見出す労働者が増えているのです。

中国には、国外への赴任や移民などを扱う機関として各地に「対外サービスセンター」が設置されています。鞍山市のセンターがまとめた統計によれば、2015年に出国した労働者や技術者は前年比18%増加の6360人に上ったといいます。

受け入れ先は主に、中国の大型国有企業の国外拠点です。現在、中国政府が直接管理する「中央企業」が、続々と国外でインフラ建設プロジェクトを立ち上げています。失業者が増える一方の国内とは異なり、中央企業が事業展開する海外では、機械の操作や建築物の設計、建設現場での労働などに従事する中国人労働者の募集が増えているのです。

金融系シンクタンクの中国人研究員は、この動きの背景を次のように説明しています。

「習近平政権は、中国と周辺国との国境に道路や鉄道を設け、経済をつなげる『一帯一路』構想を打ち出しています。その構想に沿って進められているインフラ建設プロジェクトが、今後リストラされた中国人労働者の受け入れに大きく貢献する可能性があります」

この研究員によれば「一帯一路構想には、国内で過剰となった生産設備や労働者を沿線国に拡散させる狙いもありました」と言う。その狙い通りになりつつあるというわけです。

河北省唐山のゾンビ企業の敷地に積み上げられた鉄鋼製品
中国が「一帯一路」構想の対象とする国は71カ国におよびます。だが、民族・部族問題、宗教問題、政治闘争や内乱など、途上国のリスクは高いです。近年はイスラム過激派組織・イスラム国(IS)によるテロが活動範囲を拡大させています。71カ国のうち「30カ国以上は危険な状態にある」との分析もあります。

しかし、リストラされた労働者はそうした国に赴任することを拒まみません。職工の場合、派遣期間は最低2年。この間に20万元の報酬に得られるならば、たとえ危険の多い新興国であっても躊躇しないのです。1人が国外に出稼ぎに出れば、一家はたちまち富裕になれるのです。

ただし、一度国を離れた労働者が中国に戻って再就職するのは難しいです。途上国での仕事は単純作業が多いため、次の仕事につながる技術やスキルが身に着けられないからです。ましてや外資による中国への投資が一段落した今、帰国後に再び働ける工場などを見つけるのは困難です。新興国ののんびりした空気に馴染んでしまい、中国への帰国が億劫になるケースもあるといいます。

それでも、中国人労働者が国外流出する流れは加速していきそうです。

かつて朱鎔基政権で行われた国有企業改革で、1998年に1254万人、1999年には1174万人と、2年で2400万人を超える規模の大量リストラが行われました。今回のゾンビ企業の淘汰では「それ以上になるのではないか」と憂慮する声もあります。

今後、国外に活路を見出す中国人労働者は空前の規模になるのではないでしょうか。「国内のゾンビ企業淘汰と『一帯一路』は連動している」(前出の研究員)のだとすれば、「一帯一路」の沿線国に向けた中国人労働者の大移動はますます本格化するでしょう。

一方で「一帯一路」には、国有企業改革という中国の政策目標を阻むリスクがあることも否定できません。「一帯一路」で最大の恩恵を受けるとみられるのが、まさに国有企業だからです。

朝日新聞によると中国は自らが主導するシルクロード経済圏構想(一帯一路)の参加国に、今後5年間で最大1500億ドル(約17兆円)を投資する方針をまとめたそうです。

たった、17兆円です。これでは、とてもじゃないですが、一帯一路などの大規模な開発には足りないです。桁がちがうのではないでしょうか。

1500億ドルという額は中国が世界金融危機時に行った景気刺激策の30分の1の規模にすぎません。過去の刺激策の結果生じた、過剰設備という構造問題を「一帯一路」で解決できると考えるのは「幻想」といえるでしょう。

習近平は、絵に描いた餅のようでもある「一帯一路」を本気でやろうと考えているとは、とても思えません。結局のところ、ゾンビ企業の余剰労働者の厄介払いであり、棄民政策ともいえるのでないでしょうか。

とにかく一見すごいことをやるようにみせかけて、結局余剰労働者を世界各地にばら撒いて、ゾンビ企業を国内から一掃するということなのではないかと思います。

このような実体を知ったらトランプ大統領もさぞ驚くことでしょう。

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2017年5月14日日曜日

エンゲル係数「上昇」の深層 「生活苦」と「食のプチ贅沢化」の関係―【私の論評】フェイクを見抜け!上昇の主要因は高齢化(゚д゚)!



  家計支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」の上昇が話題になっている。安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスの期間と重なる2013~2016年まで4年連続で上昇しているのだ。教科書的には生活の豊かさに反比例、つまり、低いほど豊かと説明される指数の上昇をどう読み解けばいいのか。

   総務省の家計調査(2017年2月発表、速報値)によると、16年(2人以上世帯)のエンゲル係数は25.8%と前年比0.8ポイントアップし、1987年(26.1%)以来29年ぶりの高水準を記録した。

   家計支出と食費の関係

   そもそもエンゲル係数は19世紀のドイツに社会統計学者、エルンスト・エンゲルが論文で発表したもの。家計の支出のうち、酒やたばこに代表される嗜好品は削れても、米や野菜など食費は削るにも限度があるので、エンゲル係数が高いほど生活が苦しいという傾向がみられる、という理屈だ。実際、2016年の数字でも年収とエンゲル係数は、反比例の関係を示している。

   歴史的に見ても、戦後1946年の66.4から復興、高度成長に伴って急降下し、70年代以降は徐々になだらかな傾斜になりながら、2005年に22.9%まで下がって最低を記録した。しかし、その後は上昇基調に転じ、12年までは毎年0.1ポイントずつくらいの上昇だったのが、13年の23.6%から14年24.0%、15年25.0%、そして16年の25.8%へと上昇ピッチを速めている。

   ここにきての上昇の原因として、まず挙げられるのが、生活が厳しくなっていることだ。総務省が2014~16年の上昇幅計1.8ポイント分の要因を分析したところ、半分の0.9ポイント分が食料品の値上がり。消費税率の引き上げ(2014年4月)のほか、アベノミクスによる円安で輸入食品の価格が上がって食品メーカーが値上げに踏み切ったからだ。

   加えて、残りのうち0.7ポイント分が消費支出そのものの減少。2016年の消費支出は28万2188円で、物価変動の影響を除いた実質で前年比1.7%減と3年連続マイナスになっている。

    手取り伸び悩みと物価上昇

   少し詳しく世代別に見ると、高齢化の進展で高齢者世帯が増えていることがエンゲル係数を押し上げていることが分かる。教育費などがなくなって食費が支出の中心を占めるようになる一方、収入は現役時代より減るからだ。2016年の無職の高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)のエンゲル係数は1.7ポイント増の27.3%と、それより若い年代を上回っている。

   現役世代はというと、2015、16年と2年連続で収入が増えたものの、社会保険料の増加などで手取りが伸び悩んでいて、エンゲル係数を押し上げる一因になっている。

   アベノミクスのシナリオは、金融緩和で円安を進め、企業業績を回復させ、賃金も上げ、円安と相まって物価上昇させ、デフレを脱却するというもの。円安とそれによる食料を中心とした輸入物価上昇は生きたが、賃上げが低迷しているため、収入減と物価上昇という入りと出の両面でエンゲル係数上昇に作用した面があるといえそうだ。

   さらに、非正規労働者の増加で収入が不安定になり、食事も満足にとれない子どもの増加などが社会問題化しているが、「住居費は家を追い出されるのでカットできない分、食費を極限以下に切り詰め、『食べられない子ども』が増えているほか、少ない収入でもスマホなどに金がかかる分、食費を極端に抑える若者もいる。エンゲル係数の数字以上に個々には深刻な事例もある」(大手紙経済部デスク)。

   もちろん、すべてを「生活苦」で説明できるわけではない。「調理品」が消費支出に占める割合は2016年で3.4%と、過去30年で2倍近くに増えている。高齢化や共働き世帯の増加で、総菜などを利用する人は増えているということだ。日本総研のリポート(2017年3月1日「リサーチアイ」)は、調理品のほか飲料、乳卵類、油脂・調味料が増加していることを挙げ、これらには高付加価値品、嗜好品も多いことから、「家計のプチ贅沢の対象として『食』が浮上している」と指摘し、前向きな消費もエンゲル係数上昇に一役買っていると分析している。

【私の論評】フェイクを見抜け!上昇の主要因は高齢化(゚д゚)!

 エンゲル係数について今一度確認してみます。総務省の「家計調査」から2人以上の世帯について、食料費(外食を含む)と消費支出の比率をみると、12年の23・6%から、15年に25・0%に上昇しています。

もっとも、23・1%を記録した07年までは低下傾向だったが、その後上昇に転じています。上昇傾向は最近起こったのではなく、継続している現象です。

実は、07年以降のエンゲル係数上昇は、日本に限らず他の先進国でも起こっています。例えば、欧州連合(EU)の28カ国でみても、07年に23・2%まで低下した後で上昇し、14年は23・8%となりました。特にフランスやイタリアでは07年以降の上昇が大きいです。


07年以降のエンゲル係数の上昇が先進国で共通している背景には、リーマン・ショック以降、景気が落ち込んだのですが、食費は切り詰めにくいので結果的にエンゲル係数が上昇したためと考えられます。そうした世界の動きに加え、日本では、14年4月の消費増税の影響で所得が伸びなかったことの要因が大きいです。

さらに、高齢化の影響もあってエンゲル係数が伸びた面もあります。以下の図をご覧になって下さい。

データ出典 総務省統計局「家計調査報告」 以下同じ

これは、世代別のエンゲル係数の動きを示したものです。この図から明らかな通り、基本的には、若い世代ほどエンゲル係数が低く、高齢世代ほどエンゲル係数が高くなっていることが分かります。


高齢世代のエンゲル係数が高くなる理由は、多くの場合、主な収入源が、年金と貯蓄の取り崩しに限られる中、消費支出を切り詰めざるを得ない一方で、生きていくのに必要な食費は、消費支出全体の減少よりは減らない(経済学的には、食料などの必需品は需要の所得弾力性が小さい)ため、エンゲル係数が大きくなって見えるためです。

次に、下図をご覧ください。


これは各年のエンゲル係数を、世代別に分解したものです。この図から分かりますように、近年、日本のエンゲル係数に占める60歳世代以上(緑色の棒+青色の棒)のウェイトが上昇していることが確認できます。つまり、最近のエンゲル係数の上昇には高齢化が影響しているということです。これは、他の先進国でも似たような状況にあるものと考えられます。

さらに、下図をご覧ください。


この図はエンゲル係数の変化に対して、各世代のエンゲル係数の変化の寄与度を示したものです。同図からは、やはり高齢世代、特に70歳世代以上のエンゲル係数の上昇(緑色の棒)が、日本全体のエンゲル係数の上昇をけん引していることが確認できます。

もし、高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。

結局、エンゲル係数の趨勢的な上昇をもたらしているのは、高齢化と先に述べたものも加わったことが主要因であり、アベノミクスの影響ではないということです。

以下の表は、2015年から2016年にかけての世代別エンゲル係数の変化に対して、どのような食料品項目がどの程度の影響を与えたかを分析したものです。

この表によれば、2015年から2016年にかけて各世代のエンゲル係数を押し上げた一番の要因は調理食品への支出です。調理食品は、お弁当、お惣菜、冷凍食品、揚げ物等への支出です。これは共働き世帯が増えつつある、あるいは高齢世代では自炊するより出来合いのものを買ってきた方が安く上がる等の結果であると言えるでしょう。

以上の通り、最近のエンゲル係数上昇の背景は、大きく分けると2つあり、1つは世界の動きに加え、日本では、14年4月の消費増税の影響で所得が伸びなかったこと、もう1つは高齢化の進行です。そうして、高齢化の進行のほうが大きいといえます。

今後も日本ではいっそうの高齢化の進行が見込まれていますので、他の条件が一定であるとすれば、エンゲル係数は上昇を続けるでしょう。だからといって、日本が貧しくなっているとは言えません。

もし、エンゲル係数の上昇が問題であるとすれば、それは循環的な要因を原因とするものです。つまり、将来不安による消費支出の削減、食料品価格の上昇です。ただし、こうした循環的要因に対しては対策を講じることができます。

まず、将来不安を取り除いて、安心して消費を増やせる環境を作ること、それには将来不安を生じさせている原因を特定する必要があります。現在は漠然と将来不安の原因として社会保障制度の持続可能性に関する疑いが挙げられますが、きちんとした確認が必要だと思います。

次に、食料品価格の上昇に関しては、円安政策を放棄して円高に誘導することで、輸入食料品価格を引き下げることを挙げることができます。

さらに、農産物の輸入自由化を進めることによっても、食料品価格の引き下げは可能です。

経済学では短期的(一時的)な現象と長期的(趨勢的)な現象を峻別するのがとても重要です。現在問題とされているエンゲル係数についても同様のことがいえます。

近年のエンゲル係数の上昇は高齢化やこれまで家の中で仕事をしていた主婦が家の外で働くようになった結果、お惣菜や弁当といった調理食品を購入せざるを得なくなったことに伴う構造的な要因が主因であり、それにリーマン・ショックなどの国際情勢や、消費税増税も絡まっています。

そうでなければ、アベノミクスが始まるより以前の2006年からエンゲル係数が傾向的に反転に転じている理由及び本格的に円安が進行を始めた2012年からではなく2014年からエンゲル係数が急上昇した理由を説明できません。

したがって、近年、日本のエンゲル係数が上昇したのは、生活防衛のための消費切り詰めがあるにしても、日本人の生活水準が趨勢的に低下したからではなく、基本的には日本人が高齢化した結果に過ぎず、ことさら大騒ぎするほどのもではないです。

そもそも、エンゲル係数の上昇は生活の苦しさを表すとも報道されていますが、そう断言できるのか疑問なところがあります。エンゲル係数の食料費には外食も含まれています。しかも、各国ともに生活慣行などが大きく左右するので、エンゲル係数の水準は大きく異なっています。

日本でも1960年代の一時期には、エンゲル係数を用いて生活保護世帯への支給額の基準を決めたこともありました。しかし、今では生活保護世帯への支給額は消費動向などから決定されており、エンゲル係数は重視されていません。

以前もジニ係数がどうのこうのという報道がありましたか、これも結論からいうと高齢化がジニ係数が高くなっていることに寄与しています。アベノミクスとは関係ありません。以前マスコミがこれに騒いだのですが、何しろ統計が2010年までしかなかった時なので、詳しいデータなど掲載することもできなかったので、このブログでは真正面からは取り上げませんでした。

いずれにせよ、ブログ冒頭の記事のように、高齢化に全く触れない記事はフェイクとみなして良いです。

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2017年5月13日土曜日

安倍首相、文氏と激突!日韓合意厳命「責任持って実施を」 反故なら米国の顔にも泥―【私の論評】世界と国民にそっぽを向かれ、文在寅政権は短期で崩壊(゚д゚)!

安倍首相、文氏と激突!日韓合意厳命「責任持って実施を」 反故なら米国の顔にも泥

安倍晋三首相
 安倍晋三首相が、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対し、慰安婦問題に関する日韓合意の順守を“厳命”した。11日に行われた電話首脳会談で、合意について「未来志向の日韓関係を築いていくための欠くことができない基盤だ」と断言したのだ。文氏は「国民の大多数が心情的に受け入れられない…」などと反論を試みたが、「最終的かつ不可逆的に解決」という国家間の合意の重みを理解しているのか。「慰安婦カード」で優位に立とうとした文氏のもくろみは失敗に終わったといえる。
 
 文氏は大統領選で、歴史問題と経済問題を切り離す「ツー・トラック外交」を掲げた。日韓合意の見直しを求めながらも、日本から経済協力を得たい。そんな都合のいい考えは、安倍首相の冒頭発言で打ち砕かれた。

 「日韓関係は長年にわたって両国の関係者が努力を積み重ね、友好関係を築いてきた。大統領とともに未来志向の日韓関係を築いていきたい」

 過去ではなく、「未来」という言葉を使ったことに、慰安婦問題を対日カードとして「蒸し返すことは許さない」という安倍首相の強い決意がうかがえる。日韓合意をめぐっても、次のようなやりとりが交わされた。

 安倍首相「日韓合意を含む2国間関係を適切にマネージしていきたい。合意は日韓両国間で約束したもので国際社会から高く評価された。未来志向の日韓関係を築いていくために欠くことができない基盤だ」「責任を持って(合意を)実施していくことが重要だ」

 文氏「韓国国内では日韓合意には慎重な意見がある」「国民の大多数が心情的に受け入れられないのが現実だ」「民間の領域で起きた問題を政府が解決するには限界があり、時間が必要だ」「(河野談話など)精神を継承し尊重する姿勢が必要だ」「両国の発展のためには、歴史問題は賢く解決していく必要がある」

 国内世論などを理由に逃げを図ろうとした文氏だが、「極左・従北」とされるリーダーは国際社会のルールをまったく理解していない。

 ソウルの日本大使館前や、釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約に完全に違反する。「民間の領域~」という言い訳はまったく通用しない。

 加えて、日韓合意を反故(ほご)にする行為は、国際社会から「韓国は国家間の約束も守れない野蛮で恥知らず、信用できない国」と位置付けられる。日韓合意の後ろ盾となった米国の顔にも泥を塗る行為であり、今後、外国企業の韓国進出、投資などにも影響が出る。国家として「自滅」の道をたどりかねないのだ。


 文氏が「切り札」のように持ち出した1993年の「河野洋平官房長官談話」は、信憑(しんぴょう)性のない“作文”であることが判明している、いわくつきの談話である。

 政府の調査では「慰安婦の強制連行は確認できなかった」のに、河野氏が記者会見で、独断で強制連行を認める発言をしたのだ。「河野氏は万死に値する」という識者もいる。

 そんな談話に頼らざるを得なかったところに、文氏の苦しさが表れている。

 文氏は電話会談で「歴史問題が両国関係発展の足を縛るのはよくない」とも述べた。韓国が、歴史問題をたびたび蒸し返し、日本に反省と謝罪を求めていることを忘れているかのような“妄言”といえる。

 安倍首相との電話会談で、やり込められた形の文氏だが、それに先立つ中国の習近平国家主席との電話会談でも、厳しい要求を突きつけられた。

 韓国に配備された、米軍の最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」について、習氏から「重大な懸念」を示されたのだ。中国外務省によると、習氏は「韓国新政府が中国側の重大な懸念を重視し、両国関係の健全で安定した発展のため、実際に行動をとることを希望する」と語ったという。

 韓国・聯合ニュースは、文氏は習氏に対し、次のように答えたと報じている。

 「THAAD配備に対する中国の関心と憂慮をよく承知している。これに関する理解を深めながら、速やかに両国間の意思疎通が図られるよう希望する」

 すでに配備されたTHAADの撤去は現実的に困難で、北朝鮮の「核・ミサイル」による脅威を考えても、同国の防衛上必要不可欠なものだ。文氏の回答には、苦しさしか感じられない。

 就任式の演説で、文氏は「必要なら直ちにワシントンに飛んでいく。北京、東京にも行き、条件が整えば平壌にも行く」といい、全方位外交に強い意欲を示した。だが、その外交はスタート早々、つまずきを見せた。

【私の論評】世界と国民にそっぽを向かれ、文在寅政権は短期で崩壊(゚д゚)!

日韓合意は、従来の日韓基本条約とは全く性格を異にしています。そのことについて、文在寅(ムン・ジェイン)は全く理解していないようです。これについては、このブログでも解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【釜山・慰安婦像設置】菅義偉官房長官会見詳報 韓国・釜山の慰安婦像設置に対抗措置 菅氏「日韓関係に好ましくない影響」「国と国として約束、履行してほしい」―【私の論評】先進国になれなかった韓国は、中所得国の罠にはまり発展途上国となる(゚д゚)!

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事では1965 年に締結された日韓基本条約と、一昨年の暮れに締結された日韓合意の根本的な違いについて述べました。

以下に、その違いを簡単に掲載しておきます。
日韓基本条約の大きな問題点は、賠償請求権協定が韓国側非公開であったことであり、それを日本側も容認していたことにありました。これは、二国間の条約であり、秘密協定に近いものなので、外交カードとしては、利用しにくかったのです。そもそも、日韓基本条約が韓国で公開されたのは条約締結から40年過ぎ2005年でした。しかし一昨年の日韓合意は国際社会に開かれたカードであり、以前とは 状況が全く違います。
一昨年末の電撃的な日韓慰安婦合意について、日本政府は「最終的かつ不可逆的な解決」と胸を張ったのにはこのような背景があったのです。 
しかもこの日韓合意に関しては、米国のオバマ大統領が深く関与していました。日韓基本条約は韓国にとって都合の良い穴があったわけですが、一昨年の日韓合意ではこの穴は塞がれたのです。

韓国政府は、この違いについて良く理解していると思います。しかし、国民の反発を恐れて、その違いを韓国民には良く説明していないようです。そのため、韓国内では日韓基本条約は破棄しても良いものと思い込んでいる韓国民も多いようです。

さすがに、文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は破棄して良いとは思ってはないようですが、それにしても、安倍首相に対して、慰安婦問題を再び「慰安婦問題」を、外交の切り札にできると思っていたようです。しかし、その思いは見事に裏切られました。

そもそも相手が安倍首相であることと、日韓基本条約は二国間だけの条約という性質のものではなく、しかも米国も関与していることですから、従来のように都合よく、外交カードにつかえるものではありません。

これは、水戸黄門様の葵の紋の入った印籠を、日本国内で人々に見せつければ、権威の象徴となり、人々がひれ伏すものの、もし水戸黄門様が外国でそのようなことをしても、全く通用しないのと同じようなものです。


文在寅大統領としては、安倍総理に「国民の大多数が心情的に受け入れられない…」などと反論をし強気に振るまえば、また「慰安婦問題」が切り札となって、日本に対して再び強気にでてそれこそ、水戸光圀公のように、「助さん、角さん、やつけてあげなさい」という具合に、その後は自分が表にでなくても、外務大臣などの部下をつかって、日本を思い通りにできると高をくくっていたのでしょうが、そうはなりませんでした。

今後安倍総理も日本政府も、韓国が「慰安婦問題」を蒸し返そうとしたり、それにからめて様々な批判をしたり、海外でどんなに騒ごうと、日本側は"日韓合意に基づく"といえばそれで終わりということで、それは一切効き目がないということになります。

そうなるとどいうことが予想されるかといえば、過去の朴槿恵元大統領をはじめとして、多くの大統領が、日本を意図して意識して悪者に仕立て上げ、国民の憤怒のマグマを日本に向けさせると同時に、反日で韓国内の求心力を高めるということができなくなるということでしょう。

まさに、これは日本側の切り札ということになります。慰安婦問題で韓国が難癖をつけてきても、それを切り返せる「万能の切り札」を得たことになります。無論、韓国側はそれでも難癖をつけるかもしれませんが、それに対して日本側が何をしなくても、日本は国際社会からは何ら避難されることはありません。

とはいいながら、韓国のロビイストらの働きによって、国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は12日、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意について、被害者への補償などが不十分として、合意の見直しを勧告する報告書を発表しました。

しかし、勧告に法的拘束力ありません。韓国メディアは、事実上の合意再交渉を求めたと報じており、日韓合意の「再交渉」を公約に掲げる韓国の文在寅大統領が勧告を基に日本政府に再交渉を要求する可能性もあります。

とはいえ、そもそも国連は非常に問題のある組織です。

【痛快!テキサス親父】辺野古反対派リーダーの勾留「政治的な理由」ってマジか? NGOが国連人権理事会で主張―【私の論評】「国連人権委」の実体は左翼による内政干渉機関(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では国連の実体、特に下部組織の実体は、左翼による内政干渉機関のようになっていることを掲載しました。

このような国連に対して、日本や米国は韓国などよりかなり大きな額の分担金を支払っているのです。

日米が関与した「日韓基本条約」に反する勧告を出す国連など、まるで存在意義がありません。であれば、日米が拠出金を出すことを拒めば良いのです。その結果国連が運営できなくなっても、国連はほとんどまともに仕事をしていませんから、世界は何も変わらないでしょう。

日本としては、米国と協調して、国連に圧力をかければ良いです。まあ、そこまでしなくても、潘基文が歴代の中で最悪ともいわれている国連総長をやめたので、国連も少しはましになるかもしれません。

このようなことから、韓国はもはや「慰安婦問題」を切り札として、日本に迫ることはできなくなります。

習近平国家主席
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は11日、就任後初めて中国の習近平国家主席と電話会談を行いました。文氏は、米新型迎撃ミサイルTHAAD(サード)の韓国配備を巡る緊張を解消する前に、北朝鮮が挑発行為をやめる必要があると述べたといわれています。

THAAD配備が決まった直後から、中国の韓国バッシングが始まっています。韓国の対中輸出額は昨年1240億ドル(約14兆3100億円)に上り、対日輸出額の約5倍、また韓国にとって2番目に大きな市場である米国と比べても2倍の規模となっています。

しかし、ミサイル迎撃システム配備に抗議して、中国国営メディアが韓国製品のボイコットを訴えているため、今年の対中輸出は落ち込む可能性があります。同システムは北朝鮮からの攻撃を阻止するために導入されるが、中国はシステムのレーダーが自国の領土も監視可能だと主張しています。韓国は、中国にもそっぽを向かれているのです。

トランプ大統領
さて、トランプ米大統領は12日に放送された米NBCテレビのインタビューで、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が北朝鮮との直接対話に前向きな姿勢を示したことについて「対話をするのは構わないが、適切な条件下でなければならない」と述べました。米側は北朝鮮が核放棄に向けた具体的な行動をとることを対話の条件としています。

対話のタイミングについて「1カ月か2カ月すれば、きちんとした答えを言うことができるだろう」と述べ、明言は避けた。その上で、北朝鮮の核・ミサイル開発は「韓国や日本、中国にとっても非常に危険だ」と指摘。「オバマ前大統領ら過去の大統領が対処すべきだったのに、私はとてもしっかり対処してきた」と実績を強調しました。

しかし、文在寅新大統領は、大統領選のときから、韓国民に親北であることをアピールしており、北に対しては太陽政策をとることを発表しています。このまま、中途半端なことをしていれば、米国からそっぽを向かれるか、国民からそっぽを向かれることになります。

このまま日米中に対して、文在寅新大統領が煮え切らない態度をとり続ければ、すべての国からそっぽを向かれることになります。これらにそっぽを向かれれば、大国でも韓国は世界中の国々からそっぽを向かれることになります。

そうして、国内ではどうかといえば、このブログでも以前掲載したように、雇用を創出するために補正予算を組むと言いながら、その財源は増税によってまかなうとか、金融緩和には言及しないなど、文在寅新大統領は経済に関してはまるで素人のようです。

しかも、朴氏を批判したこともあって、「財閥」と呼ばれる同族経営の巨大な複合企業体を狙い撃ちにする可能性が高いです。「財閥こそ韓国の構造問題だ」という考え方であり、そうなるとマクロ経済政策を使わずに、早急に財閥解体という過激な「構造改革」に向かう可能性が高いです。そうなれば、韓国経済を破壊することになります。

となると、国民からもそっぽを向かれることになります。これでは、世界と国民にそっぽを向かれ、文在寅政権は短期で崩壊することが決まったようなものです。

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2017年5月12日金曜日

2018年末ダブル選シナリオも… 安倍首相の改憲発言、財政条項は意図的に排除か ―【私の論評】安倍首相による憲法改正は、まともな憲法論議の最初の偉大な一里塚(゚д゚)!

2018年末ダブル選シナリオも… 安倍首相の改憲発言、財政条項は意図的に排除か 

憲法改正を訴える会合に寄せられた安倍首相
のビデオメッセージ=3日、東京都千代田区
 安倍晋三首相は「2020年の憲法改正の施行」を打ち出した。改憲(施行)のスケジュールが明かされたのは画期的なことだ。

 16年7月の参院選で、衆参ともに改憲勢力が3分の2超になっていることを考えると、今の時期に安倍首相が改憲スケジュールを示したということは、18年12月までの衆院の任期で、解散と衆院選より前に憲法改正の発議をする可能性が高いということだろう。

 改憲スケジュールの中で国会発議の可能性を考えると、(1)17年秋の臨時国会(2)18年の通常国会(3)18年秋の臨時国会-と3回ある。

 国会発議の後に国民投票が実施されるが、憲法改正では発議から180日以内というのが常識になっている。国民投票と衆院選が同日の方が与党有利になるだろうから、18年12月の衆院任期前に日取りを選べる(1)17年秋の臨時国会または(2)18年の通常国会での発議の可能性が高いだろう。

 18年12月は、衆院任期終了とともに天皇陛下のご譲位も予定されている。このときに、憲法改正の国民投票と衆院選のダブルをぶつけてくるというのが、今の段階での第1シナリオではないだろうか。となると、(2)18年の通常国会後半での発議が第1候補になる。

 もちろん、情勢次第では、衆院選の後に改憲スケジュールをこなすこともありえる。この場合には、今年中に解散と衆院選(まさに改憲選挙)を行い、(1)17年秋の臨時国会で発議という手順になるのが第2シナリオだろう。

 改憲の内容について安倍首相は、9条に自衛隊に関する条文を追加する意向を示している。「自衛隊は合憲」とする民進党と、「違憲」とする共産党は股裂き状態になり、選挙協力に支障が出ないのか、政治的には興味深い。

 安倍首相は教育無償化も改正の項目として例示した。民進党と共産党は、ともに「中身としては賛成だが、憲法改正には反対」という国民には分かりにくい行動になる。

 「憲法改正なしでも教育無償化は可能だ」と主張しても、「時の政権の意向に左右されずにしっかり国の基本となるから、憲法改正した方がいい」と反論されてしまうだろう。そうなると、民進党と共産党は苦しい。

 しかも、「自衛隊合憲」と「教育無償化」で改憲勢力は一致できる。国政選挙を考えると、「自民党、公明党、日本維新の会」対「民進党、共産党」という対立図式となり、「自公維」に有利に働くだろう。

 ちなみに「財政規律条項」については、民進党の蓮舫代表や自民党の一部が必要だと主張しており、両党で差別化できない。そもそも財政規律条項を憲法改正で入れると、緊縮財政の傾向がさらに強まり、日本経済にとっては害悪である。

 この点を考慮し、安倍首相は自衛隊合憲と教育無償化を改正事項に掲げることで、財政規律条項を憲法改正の俎上から意図的に落としたのではないか。

 なお、国民投票法では、発議は個別発議なので、憲法全体を示す必要はない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍首相による憲法改正は、まともな憲法論議の最初の偉大な一里塚(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事には掲載されていませんでしたが、安倍首相自身にとって非常に重要なのはやはり、自民党総裁3選です。2期6年の任期が切れる2018年9月には総裁選が実施されるのですが、3月5日の自民党定期党大会で総裁任期が「連続3期9年」に延長されることを受けて、首相が出馬すれば3選は確実というのが現時点での常識ともいえると思います。
総裁任期延長を伝えたAbemaTV
そうなれば首相にとって第1次と合わせた「9年8か月の史上最長政権」という金字塔も現実味を帯びることになります。その場合の首相の任期満了は2021年9月で、次回も含めて2回以上の解散断行のチャンスが出てくることにもなる。

そうして、安倍首相にとって遠いゴールを見据えての解散戦略の中核となるのは「在任中に成し遂げたい」と明言した憲法改正の実現です。昨年7月の参院選での与党圧勝でいわゆる「改憲勢力」が衆参両院で3分の2を超え、数の上では衆参両院での憲法改正発議が可能な状況となりましたた。

このため、首相は衆参両院の憲法審査会での改憲条項の早期絞り込みに強い期待を表明し、二階幹事長も「今国会での発議」にまで言及していました。

ただ、昨年秋にスタートした憲法審査会での各党協議は、憲法問題も絡む天皇陛下の「生前退位」をめぐる与野党協議が先行しているため、改正が必要な条文などの詰めの協議は秋の臨時国会以降になると思われます。

こうなると、秋の臨時国会で与野党協議が進み、2018年の通常国会の早い段階で憲法改正の発議にこぎつけ、夏に改憲国民投票を実施するのがベストと考えられます。

7月2日の都議選を理由に通常国会の大幅延長は想定されていないため、政府・与党は9月末か10月初めには臨時国会を召集する考えのようです。その場合、首相が臨時国会での解散断行に「色気」を示せば、与野党の改憲協議は停滞し、18年春の国会による改憲発議も絶望的となります。

しかも、自民党の全国情勢調査などでは「次回衆院選では自民党が30~50議席減」(自民選対)との予測もあり、解散断行によって衆院の改憲勢力は3分の2を割り込み、早期改憲発議自体が困難になる可能性もあります。となれば、首相が今秋もしくは年末解散を見送って、「衆参3分の2」を維持したまま来夏の改憲国民投票に合わせての解散・衆院選という「ダブル選」日程が"本命"として浮上してくるのではないかと考えられます。

首相は1月5日夕の時事通信グループの新年互礼会の挨拶で解散について「今年は全く考えていないとはっきり申し上げておきたい」と発言しました。居合わせた二階幹事長や山口那津男公明党代表ら政府与党幹部の表情は変わらなかったのですが、同夜に首相周辺が「首相から『今年ではなく、今月の言い間違いだった』と聞いた」と解説したことで新聞各紙は「首相、年内解散を否定」とは報道せず、「首相が言い間違い」とする囲み記事でお茶を濁していました。

時事通信グループの新年互礼会で挨拶する安倍首相
ただ、永田町では「解散時期について首相が言い間違うはずがない。思わず本音が漏れただけ。軌道修正は自民党議員が安心して選挙活動をなまけないようにするため」(自民長老)と解説する向きが多いようです。

政府・与党内には来年の解散について「追い込まれ解散になりかねない」との危惧もあります。しかし、内閣支持率が6割前後をキープし、自民党支持率も4割前後という状況が続けば、任期満了が迫っても安倍政権が追い込まれることはないのも事実です。もちろんトランプ政権の暴走やアベノミクスの失速といった政局運営の不安要素は少なくないのですが、"安倍1強"が続いていれば、あえて解散せずに過去1回しかない任期満了選挙も有力な選択肢といえます。

やはり、来夏の改憲国民投票に合わせての解散・衆院選という「ダブル選」日程が"本命"ということになりそうです。

いずれにせよ、ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事では「自衛隊合憲と教育無償化を改正事項に掲げることで、財政規律条項を憲法改正の俎上から意図的に落としたのではないか」としていますこれについては、現状を考えた場合緊急を要するものであると思います。

先日はいわゆる一部保守層による無責任な憲法改正論議について批判しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【参院予算委】安倍晋三首相が民進党に改憲案提出を要求 蓮舫代表は答えず… 首相批判に終始―【私の論評】土台が狂った日本国憲法典の字面を変えてもまともな憲法はできない(゚д゚)!

詳細は、この記事を読んでいただくものとして、この記事では、憲法改正はGHQによってわずか1週間程度で草案された日本国憲法はそもそも土台が狂っており、日本国憲法の字面を変えるだけでは、まともな憲法はできないことを主張しました。

そうして、まともな憲法をつくるなら一度帝国憲法に立ち返ってそこから、新たな憲法をつくるということをしなければ、まともな憲法など永遠にできないと主張しました。

以下に日本国憲法と帝国憲法の比較を示した表を掲載します。

大日本帝国憲法と日本国憲法の相違点
以上の表は、第日本国帝国憲法について若干の間違いはありますが、それにしても、この表からですら、そもそも日本国憲法は日本人のために作られたものではないことがはっきりわかります。

さらに、大日本国帝国憲法制定時の世界水準で考えると、大日本帝国憲法は世界の他の先進国と比較して、かなり民主的でありあらゆる点で斬新で進んだものであったことは確かです。

ただし、制定された時代は日本国憲法より遥かに古く、現状には即していない部分も多々あります。しかし、それでも日本という国ができときの経緯やその後培われた日本国の国柄を反映したものです。日本国憲法にはそのような内容は皆無です。

だからこそ、本来の憲法論議をしようとした場合、日本国憲法の条文の字面を変えただけではまともな憲法にはならないのです。

しかし、まともな憲法論議をするということになれば、少なくとも5年〜10年の時が必要です。そうなると、緊急を要する事柄に対しては、対応できないということも十分考えられます。

大日本帝国憲法制定の中心となった伊藤博文公
たとえば、自衛隊がそうです。自衛隊がすでに存在して、自衛隊員の方々が、場合によっては命の危険にさらされながら、我が国、我が国民を守ろうとしているときに、自衛隊は違憲だとか、法律違反ということにでもなれば、これこそ自衛隊員の方々に失礼なことであるし、自衛隊の方々の士気をくじくことになります。

そうして、教育の無償化も最近の日本の若者の姿をみれば、緊急を要する課題です。現在の若い世代は、将来の日本を担うわけですが、その若い世代がまともな教育も受けられないということにでもなれば、日本の将来は危ういです。

だから、このような緊急を要する、課題を克服するためには、日本国憲法典の字面を部分的変えるということもやむを得ないところがあります。

しかし、かつて伊藤博文が中心として10年もの年月をかけて、日本の国柄などを反映した憲法を草案しその後世界の伍することができたように、これからの日本の運命を左右する新たな憲法も、そのくらいの時間と手間が必要になるのはいうまでもありません。

安倍首相はまずは日本国憲法の部分改正をした上で、残り全任期をまともな憲法論議が日本でできるように雰囲気を醸成し、それだけではなく将来日本国憲法は完璧に葬り去り、新たな日本人による日本人のための憲法づくりができるように努力していただきたいものと思います。

戦後70年にもわたって、日本国憲法典の一字一句も変えることすらできなかったわけですから、憲法典に手が加えられたとしたら、それはそれで画期的なことです。

安倍首相による憲法改正は、まともな憲法論議の始まりに過ぎないのです。これを契機にいずれまともな憲法を制定するための、偉大な一里塚とすべきなのです。

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2017年5月11日木曜日

小泉進次郎が「こども保険」にこだわるホントの理由はアレしかない―【私の論評】経済における清貧思想が生み出した緊縮脳こそが社会の害悪(゚д゚)!

小泉進次郎が「こども保険」にこだわるホントの理由はアレしかない

田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

毎年、3月11日になると、2011年3月にどんなことが起きたのか、当時の記録が掲載されている自分のブログを見て思い出すことがある。もちろん東日本大震災の悲惨な被害、そして失われた多くの命、さらには「人間的価値の毀損(きそん)」という事態の前では、いまだ復興への道のりが遠いことに思いを強くしている。だが、今日書きたいのは、当時の「非人道的」ともいえる動きである。

2011年6月、党首討論で発言する自民党の谷垣禎一総裁(左)と、菅直人首相
 それは2011年3月13日、当時の民主党政権の菅直人首相と自民党の谷垣禎一総裁の会談において、復興政策の一番手として増税政策があげられたことだ。その時点では、被害の実態も把握できず、復興自体よりも人命救助に努力を傾注すべきときだった。もちろん福島第二原発の状況は予断を一切許さない緊迫したものであった。

 さらにこの増税政策は、後に設置された政府の「復興構想会議」などでも最初の具体的提案として、議長や委員から提起されている。実際に復興政策として何を行うかさえもはっきりしない段階において、である。

 この復興構想会議では、事実上、後に「復興特別税」となる増税構想だけが具体的に決まったといっていい。当時、複数の復興構想会議の委員に会ったが、いまでも印象に残るのは、「僕らは経済のことはわからないから」という発言だった。経済のことを理解していない人たちが、なぜか増税だけを最優先にかつ具体的に決めたというのはどういったことなんだろうか。

 さらに時間が経過していくにつれてわかったことだが、この復興特別税での当時の与野党の連携は、民主党・自民党・公明党による「社会保障と税の一体改革」、つまりは今日の消費税増税のための「政治的架け橋」になっていたことだ。

 つまりは、大震災で救命対策が必要とされる中、消費増税にむけた動きが震災後わずか2日後には本格化していたことになる。つまりは震災を人質にしたかのような増税シフトである。これが冒頭で書いた「非人道的な動き」の内実である。

 実際、民主党政権はその政治公約(マニフェスト)の中には、消費増税のことは一切書かれていなかった。だが、この震災以降の増税シフトが本格化する中で、当時の野田佳彦首相(民主党、現在の民進党幹事長)は、自民党と公明党とともに消費増税を決定した。日本では社会と経済の低迷と混乱が続いていたにもかかわらず、ともかく消費増税だけは異様ともいえるスピードと与野党の連携で決まったのである。この消費増税は後に法制化され、第2次安倍政権のもと、日本経済を再び引きずり下ろす役割を果たした。その意味でも本当に「非人道的」であった。

 さてこの動きと類似した消費増税シフトをいまの政治の世界でも見ることができる。自民党の小泉進次郎議員が主導する「2020年以降の経済財政構想小委員会」が発表した、いわゆる「こども保険」だ。現在の社会保険料に定率の増加分をのせて、それで教育の無償化を狙うスキームである。「こども保険」と呼ばれているが、実体はただの「こども増税」である。以下でも詐称を控えるためにも、「こども保険」ではなく、正しく「こども増税」と表記する。

自民党の小泉進次郎衆院議員
 小泉議員らの主張によれば、高齢者に偏重する社会保障体系を、若年層向けに正す効果があるという。この一見するとあらがうことが難しいようなスローガンではある。だが、これがくせ者であることは、冒頭のエピソードを読まれた読者はピンとくるはずだ。

 消費増税シフトは、そもそも震災復興を契機に仕込まれ、そして社会保障の充実という名目で選挙公約を無視してまで導入された。この経緯を踏まえると、小泉議員らの「こども増税」は、消費税増税シフトを狙う政治勢力の思惑ではないか、と推察することは可能だろう。

 もちろん「こども増税」自体が消費増税ではない。「こども増税」は、消費増税をより実現しやすくするための、政治勢力の結集に使われる可能性があるのだ。小泉議員は国民の人気が高い。いわば「ポスト安倍」候補の一人であろう。

 現在の安倍政権は、首相の決断によって過去2回消費増税が先送りされた。さまざまな情報を総合すると、安倍首相の財務省への懐疑心はいまも根深いとみられる。なぜなら財務省は2013年の消費増税の決定時期において、「消費増税は経済に悪影響はない。むしろ将来不安が解消されて景気は上向く」と説明していたからだ。もちろんそのようなトンデモ経済論は見事に外れた。日本経済がいま一段の安定経路に入れないのは、この消費増税の悪影響である、と首相は固く信じているようだ。そのための二度の消費増税延期である。

 このような首相の決断は、財務省を中心とする消費増税派からすれば脅威に思えるだろう。今後の消費増税は本当に実施されるのか、また10%引き上げ後も財務省が現段階で狙っていると噂される15%以上への引き上げの道筋が早期にめどがつくのかどうか、彼らは不安であろう。

 ある意味で、ポスト安倍の有力候補としての力の結集、または現段階で安倍首相を与党の中で牽制(けんせい)する「消費増税勢力」が誕生した方が得策である、と消費増税派は踏んでいるのかもしれない。もちろん「こども増税は、消費増税を確実にするための前ふりですよね」と、小泉議員らにいっても即座に否定するだろう。だが、同時に思い出されるのは、数年前に復興構想会議のメンバーに「この増税路線は消費増税路線の一環ではないか」とただしたとき、「そんなことはない」と一笑にふされたことだ。今回はだまされたくはないものである。

【私の論評】経済における清貧思想が生み出した緊縮脳こそが社会の害悪(゚д゚)!

上の記事、簡単に言ってしまうと、小泉進次郎議員は大増税と緊縮財政で財政再建すると、まだ若いのに老害議員と同じ事を言っているということです。

この小泉進次郎氏はたびたびこのようなことを提言しています。実際昨年の4月にも、高齢者に偏った社会保障の見直しを目指して「65歳からは高齢者はもうやめよう」などとする提言を発表しました。

記者会見で小泉進次郎氏は以下のような発言をしていました。

「今、労働力が減る減ると言われている。このままだったら2045年には52%にまで減少するが、仮に18歳から74歳という年齢幅を、私の中ではより今の社会にフィットしている(と考えるが)、生産年齢人口として見てみると、意外に平気じゃないか、景色が違うぞと」

「65歳が高齢者の時代ではない。15歳から64歳までの生産年齢人口労働力、現役世代だという定義も 100年時代ではこのままではいかない。国の形をかえるという発想につながる」

「“65歳からは高齢者”はもうやめよう」「現役世代の定義そのものから変えていく」、そして、「それは働き方、生き方、教育の位置づけ、そして社会保障を見直すことにつながる」などと訴えています。提言のタイトルは、「レールからの解放」となっていました。


この発言そのものは、さほど悪いとは思わないのです。実際米国では州によっては定年制がないところもあります。定年がないということは、日本では考えられないことでしょうが、実際定年制が廃止になっている州も米国にはかなりあります。

そのような州では、人を雇用する際に年齢を理由に採用しないとか、年齢を理由として人を解雇することはできません。高齢者を解雇する場合でも、年齢ではなく他の理由がないと解雇できません。多くの場合、定年は被用者自らが決めます。要するに、自分が辞めたいときに辞めるということです。

かなり前からそうなっているのですが、結局社会保障費などの財源が不足することから、そのようなことにならざるを得ないということもあります。

そうして、経済学の大家ドラッカー氏も以下のように語っています。
高年者が働くのは、怠けているよりも働きたいからである。仲間が欲しいからであり、依存したくないからである。これらの欲求が、経済的な理由と同じように、あるいはそれ以上に、彼らの労働力市場への参入を促している。(『変貌する経営者の世界』)
96歳を迎える直前まで活躍していたドラッカーにしてみれば、65歳の定年退職が間違っていることは当然だったのかもしれません。

定年が65歳に定められたのは、ビスマルク時代のドイツにおいてです。これが米国に導入されたのが第一次世界大戦時で、今日の平均寿命と高年齢者の健康状態から計算すれば、当時の65歳は今日の75歳に相当します。

ドラッカーは、65歳定年は、元気な人たちをゴミ箱へ捨てているようなものだといいます。なぜななら、現在では昔と違い、多くの人の仕事が肉体労働ではなく知識労働に変わっているからです。一昔前の肉体労働者なら、55歳も過ぎれば、もう働きたいと思うのが普通でした。しかし、知識労働者は違います。彼らの反撃は当然です。しかも、65歳定年は、年金制度にとっても耐えがたい負担の原因となっています。

これも踏まえて、ドラッカー氏は定年の延長は当然であるとしたのです。実際ドラッカー氏がこのような主張してから間もなく、米国などでは定年をなくしたり延長するようになりました。

しかも彼ら高年齢者は、自らの主張を通すだけのパワーを持ちつつあります。ドラッカーは、この高年齢パワーを「パーマネント・マジョリティ」と呼びました。先進国では、彼らの人口は増える一方であり、選挙での投票率も高いです。

定年延長ないし定年制廃止は、政治的にも、経済的にも、不可避です。いまや、年齢による強制退職は差別といつても良いくらいです。残された問題は、高年齢者自身が納得する退職基準の構築だけです。
かつては、年齢の故に退職する者などいなかった。高齢者そのものがいなかった。(『変貌する経営者の世界』)
このドラッカー氏の主張は、私も正しいとは思います。 しかし、日本では現在では大企業の定年が60歳から65歳に延長されたばかりであり、このような主張を受け入れる素地はなかったとみえ、この小泉進次郎氏の発言は多くの人の共感は得られなかったようです。

そうして、小泉進次郎氏の発言などを分析してみると、結局65歳定年は、「年金制度にとっても耐えがたい負担の原因」となっていることに主眼が置かれているようです。だから、増税するか、定年延長をするしかないということです。

これは、とにかくどんな場合でも増税したい財務省からすれば、都合の良い話です。要するに増税が駄目なら、定年を延長したり、なくしたりすれば、今まで働いていなかった人が税金を支払うようになるため、増税したのと同じ結果になります。

さらには、小泉進次郎氏の主張は、「年金制度にとっても耐えがたい負担の原因」となっていることをアピールしやすくなり、増税に対する理解を得やすくなります。

そうです。とにかく、小泉進次郎氏の主張は、増税を促すことなのです。小泉進次郎氏はこの他にも「増税」すべきであるとの発言行っています。それについては、このブログでも以前何度か掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
総裁任期「3期9年」に延長=26日に全体会合へ提示―自民―【私の論評】財務省とわたりあえる人材が出てくるまでは安倍総裁とすべき(゚д゚)!
野田元総理の増税狂発言。おまけ、安住元財務省の増税狂発言。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部分を以下に引用します。
現在の民進党の議員のほとんどは、増税推進派で、経済や財政について語るときは、まるで財務省のスポークスマンのようです。民主党政権だったときの、民主党は上記の事実でもわかるように、財務省の使い捨て政党です。その性質は昔から変わらず、現在もそうであり、将来も継承続けていくことでしょう。

一方自民党はどうかというと、これも民進党と同じように、財務省の影響下にあったのは間違いないです。というより、自民党でも安倍総理が、衆院を解散してまで、財務省に反旗を翻して増税を阻止して、真正面からわたりあった最初の総裁ということになります。

自民党も民進党の財務省の使い捨て政党というところまではいかないものの、同じように財務省の影響下にあって、財務省にはなかなか正面切って逆らえなかったというのが実体です。

ただし、今の自民党は、安倍総理と一部の安倍総理に近いブレーンが財務省と渡り合っているだけであって、他の自民党議員はなかなか財務省に諜略されているか、諜略されないまでも正面切って逆らえないというのが実体です。

例えばかって小泉純一郎元首相は在任時に「景気が回復すると構造改革ができなくなる」と明言していました。これは、平たくいうと、構造改革をするためには、金融緩和や積極財政はしてはならないということです。これでは、まるで財務省のスポークスマンのようです。

実際に8%増税は、大失敗だったことは統計数値をみれば明らかなのに、民進党は先ほど述べたように、ほとんどが増税狂です。

しかし、自民党でも安倍総理とこれに近いブレーンは別として、ほとんどの議員は金融政策の意味や、財政政策の正しい運用の仕方を理解してないか、理解していたとしても、財務省に正面切って逆らえないでいるようです。

ちなみに自民党の中の「ポスト安倍」と目されている人たち、たとえば、稲田朋美防衛大臣、小泉進次郎衆議院議員、石破茂衆議院議員らの過去の発言をみれば、消費増税ありきの財政再建主義か、もしくは金融政策中心のデフレ脱却への懐疑的であったり批判的であることが明瞭です。
稲田大臣は、先の再延期の前には「消費税をまず1%引き上げる」案をだしていましたが、そもそも消費増税を経済が低迷しているときになぜ増税にそこまでこだわるのか、その背景についての説明は全くありませんでした。最初から消費引き上げ自体を目的とした発言としか思えません。
そうして、小泉議員はより深刻です。先の再延期のときの報道を読むかぎりでは、消費増税先送りへの懐疑的な態度にくわえて、親譲りなのでしょうか、とにかく社会保障の見直しなどで、倹約という視点しかありません。景気循環的な発想が全くありません。増税延期が決まった直後の、「延期するけれども決まっていた(社会保障)充実策はやるというなら、こんなおいしい話はない。 そんなおいしい話に若い人たちはだまされない」と発言にはほんとうに驚いてしまいました。これでは、まるで財務省のスポークスマンであり、経済・財政などに関しては、民主党議員とほとんど変わりありません。
「(増税)延期するけれども決まっていた(社会保障)充実策はやるというなら、こんなおいしい話はない。 そんなおいしい話に若い人たちはだまされない」、「65歳からは高齢者はもうやめよう」、「こども増税」などの発言をみれば、小泉進次郎議員は明らかに増税推進派です。

口を開けば「増税すれば税収は増える」と言い、過去においては増税すればするほど財政悪化した事実はみようともしない。このような「緊縮脳」の政治家にはうんざりするのですが、小泉進次郎議員のような若手議員にもこんなボケ老人みないな人が大勢居るのです。それも自民党の中にさえいるのです。

小泉進次郎議員は、小渕優子議員とともに過去にはマスコミから「次期総理大臣候補」と呼ばれていました。

2012年12月に始まった第2期安倍政権は当時マスコミなどからは「持って1年か2年」と思われていたようで、これは過去の20年を振り返れば妥当な予想でした。

1987年の中曽根康弘以降、2年以上続いた総理は橋本龍太郎と小泉純一郎の2人しか居ませんでした。1年か2年後には次の総理を立てる必要があるので、早々と次期総理候補については多くの国民も関心があるであろうということで、マスコミも取り扱ったのでしょう。

名前が挙がったのは2人の他に石破茂や河野太郎、「女性の時代だ」というので野田聖子や小池百合子らも候補になっていました。その後は、稲田朋美も候補と言われるようになりまた。これらの人たちは人柄はともかく、経済を良くするための政策は特に考えていない人が多いです。

「経済の事はこれから勉強します」と昔大臣の就任会見で言った人がいましたが、日本での政治家はだいたいこのレベルです。経済の細かなことは知らなくても良いですが、不景気になったりデフレになった場合には、どのような財政政策や金融政策をとるかくらいは知っているべきです。知らないというのなら、政治家になるべきではありません。

政治家の言う経済の勉強とはそのほとんどが自ら学ぶというよりは、財務官僚によるレクチャーのようですが、実際には財務官僚は「経済」ではほとんどが素人です。

財務省はお金の使い方を制限する役所で、企業の財務担当者と同じような事をしています。これは、大企業では財務と経理と明確に区分されているから理解しやすいでしょうが、中小企業以下の企業でいえば、いわゆる「経理」です。

財務の人は「電気は消灯してください」「エアコンは28度」「エンピツやボールペンは最後まで使う」などうるさいです。

だがボールペンのインクを最後の一滴まで使いきっても、恐らくその会社の売上は1円も増えないのではないでしょうか。

これは、無論全部の財務部門の人にあてはまるわけではありませんが、よく見られがちな弊害として、売上を増やす事にはまったくの素人で、ひたすら支出を減らす事だけを考えます。

こんな人間が出世して社長になったら、社員に「エアコン禁止令」を出したり、幹部の秘書を廃止したりして、幹部の雑用を増やすようなことをし、だいたいその会社は売上が減って倒産しまいかねないことになります。

会社全体を良くするには、鉛筆を最後まで無駄なく使うことを絶対善とする「緊縮脳的」発想だけではダメで、むしろ一見浪費に見えるようなことでも出費してでも売上を増やすタイプが社長に向いています。

そうして、残念ながら現在の財務省は「緊縮脳」の集まりで、財務省の左遷先の経済省も似たようなものです。実際、財務省は確かに東大卒は多いのですが、経済学部出身者はあまりいません。一番多いのは法学部出身者です。

これは、財政は予算という法形式で規律される行政方式であり、さら予算があっても関連法律が通らないと実施できないですし、また税金の徴収も法律に則り行われるので、やはり法律に疎いと仕事にならないという面もあるとは思います。

しかし、経済とは法律で割り切れるようなものではない社会現象です。財務自体は、法律により執行されるものですが、それ以前に社会現象としての経済を正確に捉える力量が問われます。間違った経済認識のもとで、正しく迅速に法律を執行したとしても無意味です。 

さらには、大学院卒もほとんどいません。大学院で経済学を選考した人などは皆無に近いです。これは、経済学を大学院で選考した人も多い他国の財務省の官僚と比較するとかなり奇異なことです。言い方は、悪いかもしれませんが、他の先進国と比較すると低学歴と言ってもよいのかもしれません。

そうして、彼ら財務官僚は、どんな場合にも出費を少なくする事が善であるというような、何というか経済における清貧思想に染まっているとしか思えません。このような経済省の官僚から経済を教わった国会議員の多くもまた、救いがたい「緊縮脳」になるのです。

例えば財政再建といえば増税しか考えず、増税すれば税収が増えると考えているようです。実際には消費税創設、消費増税によって過去25年間税収が減り続けているのですが、都合が悪いデータを見ないのか、財務官僚に見せてもらっていないようです。

自民党の麻生太郎財務大臣、谷垣幹事長はその筆頭ですが、小泉進次郎議員のように若手のほとんども「緊縮脳」になっています。民進党では、現在では馬淵議員一人だけが「緊縮脳」ではないようです。実はももう一人、金子洋一参議院議員がもその一人だったのですが、誠に残念ながら昨年の参議院議員選挙で落選してましまいした。

2016年6月31日に消費増税延期について質問された小泉進次郎議員は先にも述べたように、「増税延期は無責任だ。若者は騙されない」と増税を主張しました。内容は財務省の官僚と同じで、増税をやれば税収が増え、財政再建できるという事です。

こういう「緊縮脳」の人でも、発言がしっかりして堂々と見えるから始末が悪いのです。過去4回の消費税創設と増税で、その後には必ず税収が減ったのは見ようとせず、ひたすら自分の意見だけを自信たっぷりに言うのです。

彼らの自信の根拠は結局のところ「東大卒のエリート財務官僚が間違っている筈がない」という事で、自分で頭で考えてはいないのでないでしょうか。

ちなみに最近も「緊縮脳」の暗躍で日本は結局のところ緊縮財政に傾いています。以下にグラフを掲載します。

上のグラフは一般会計の前年比の推移です。緊縮度は予算総額の前年比増減額から税収増減額を差し引いて算出したものです。税収が増えても、財政支出を通じて民間に還元しないと、民間の所得が奪われます。安倍政権はアベノミクスを本格的に作動させた2013年度、緊縮度はゼロに近かったのですが、14年度には消費税増税と歳出削減の超大型緊縮財政に踏み切りました。

15年度も緊縮を続け、16年度も当初予算でさらに緊縮を継続。すると消費は不振に陥ったままで、物価は下落し、デフレ局面に舞い戻りました。税収も減り始めました。そこで2、3次の補正予算を組んだ結果、拡張型に転じましたた。
ところが、17年度当初予算はトランプ効果による円安・株高の陰に隠れて目立たないのですが、補正後の16年度予算に比べてかなりの緊縮になっています。円高、株安に反転しようものなら、またもやあわてて補正という図式がみえみえです。

これほどの経済大国でありながら、「緊縮脳」の官僚の采配に国家予算が委ねられる先進国はほかにあるのでしょうか。

私たちは、緊縮脳こそが社会の害悪であるといい加減悟るべきです。経済における清貧思想はなんの解決ももたらさないのです。


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