2017年7月6日木曜日

米国艦をついに凌駕か、中国の新鋭駆逐艦の戦闘力―【私の論評】隠忍自重の必要なし!日米はすぐ行動できる(゚д゚)!


北村 淳

今回FONOPを実施した米海軍のアーレイバーク級駆逐艦「ステザム」

   「アジア最強の駆逐艦」進水、米国の新たな危惧が現実に

アメリカ海軍ミサイル駆逐艦「ステザム」(横須賀を本拠地とする第7艦隊所属)が、7月2日、西沙諸島のトリトン島沿岸12海里内海域を通航した模様である(アメリカ当局は公式には発表していないが中国当局は抗議と警告を発している)。5月26日に引き続いて、トランプ政権下で2度目の南シナ海における「FONOP」(公海での航行自由原則維持のための作戦)ということになる。

南シナ海でのFONOPが2015年に始められてから6度目になるが、わずか1カ月の間を置いて実施されたのは今回が初めてである。

北朝鮮情勢を巡って中国に対して“気を使わざるを得なくなった”トランプ政権に苛立ちを隠せなかった対中強硬派の米海軍関係者たちは、今回のFONOP実施によって、「より頻繁なFONOPの実施」が定着することを期待している。

しかしながら、いくら中国の覇権主義的海洋進出政策を米海軍や米外交当局が牽制しようとしても、「せいぜいFONOPを南シナ海で実施するのが関の山」といった状況であるのもまた事実である。

そして、対中国戦略家たちにとって、新たな危惧が現実のものとして突きつけられた。それは、6月28日に中国海軍が進水させた最新鋭の駆逐艦である。

   中国メディアは「アジア最強の駆逐艦」と喧伝

中国当局側の発表によると、進水した「055型ミサイル駆逐艦」は、全て“国内技術”によって建造されたという。基本排水量1万トン、満載排水量1万4000トン、全長180メートルの055型駆逐艦は、これまで中国海軍が建造してきた水上戦闘艦(航空母艦、揚陸艦を除く駆逐艦やフリゲートなど)のうちで最大であるだけでなく、第2次大戦後にアジアで建造された最大の水上戦闘艦である。

大きさだけではなく、様々な充実した装備も積載しており、「アジア最強の駆逐艦」あるいは「アメリカの最新鋭ズムウォルト級ミサイル駆逐艦に迫る世界最強の駆逐艦の1つ」と中国当局系のメディアなどは喧伝している。

055型駆逐艦は(もちろん実戦に投入されたわけではないので真の戦闘能力に対する評価は誰にも分からないが)中国当局系メディアなどによる自画自賛だけではなく、アメリカ海軍関係者の間でも評価が高く、強く危惧している人々は少なくない。すなわち、「055型駆逐艦の海上戦闘における攻撃能力はアメリカ海軍のいかなる水上戦闘艦より勝っている」
として、警戒を強めているのだ。

「055型ミサイル駆逐艦」1番艦の進水式

   敵を侮ってはいけない

日本では、中国の軍艦をはじめとする兵器などに対して「見かけ倒しに過ぎない」とか「張り子の虎のようなものだ」といった見方が少なくない。しかしアメリカ海軍関係機関やシンクタンクなどの軍事専門家(兵器や武器マニアの親玉といった人々ではなく、軍事戦略や安全保障政策のエキスパートたち)の多くは、「少なくとも確実なデータが入手できていない段階では、敵側の戦力などに関しての楽観的な判断は避ける」という習性を身につけている。

1941年の日米開戦以前、当然のことながら、アメリカ軍、そしてアメリカ政府は、日本海軍が巨大な戦艦や航空母艦を建造し、ゼロ戦をはじめとする多数の航空機を手にしていることを認識していた。しかし、日本の場所さえ知らないアメリカ国民はもとより多くの軍人さえも「いくら立派な戦艦やゼロ戦を持っていても、日本人ごときにとっては宝の持ち腐れで、虚仮威(こけおど)しに過ぎない」とみくびっていた。

そのため、太平洋方面(すなわち対日本)の最前線であるハワイ(太平洋艦隊)や、前進軍事拠点であるフィリピン(米フィリピン駐屯軍、とりわけフィリピンの米軍司令官マッカーサーは日本軍の“強さ”を過小評価していた)での対日防備は隙だらけで、結果として日本軍の先制攻撃を受けて大痛撃を被ることとなった。

アメリカ海軍戦略家の多くはこの種の教訓を生かし、「決して敵対する勢力の戦力を『どうせ・・・ちがいない』といった具合に自分たちにとって都合が良いように見くびってはならない」と考えている。「とりわけ、敵の人的資源に対して『士気が低いようだ』『訓練が行き届いていない』『作戦立案能力が劣る』といった評価をなすことは控えるべきであり、少なくともわが軍と同等かそれ以上の存在であると考えておけば、実戦になって『こんなはずではなかった』という事態に陥ることはない」として、敵の資源を決して過少評価せず、むしろ自軍を上回っていると想定するのである。

そのため、055型駆逐艦を論ずる米海軍関係者たちの間には、「ついに、中国海軍駆逐艦がアメリカ海軍のそれを凌駕する日がやってきてしまった」という評価が広がっているのだ。

    「055型」駆逐艦の海上戦闘能力

米海軍がとくに脅威に感じているのは、055型駆逐艦が備えている海上戦闘能力である。

現在、アメリカ海軍最強と言われている水上戦闘艦は「ズムウォルト級ミサイル駆逐艦」である。2016年に就役したこの新鋭駆逐艦は、最新型の多機能レーダーシステム(AN/SY-3)、全ての艦内システムのネットワーク化、最新型のミサイル垂直発射装置(MK57-VLS: 発射管合計80セル)などを装備している。

米海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦「ズムウォルト」
MK57-VLSからは、地上攻撃用トマホーク巡航ミサイル、各種対空ミサイル、弾道ミサイル防衛用ミサイル、対潜水艦用ミサイルなどを発射することができる。このほかズムウォルト級駆逐艦は、最新推進システム、最新情報処理システム、それに高度なステルス形状を備えているため「最強の駆逐艦」と言われている。

だが、当初は32隻の建造計画があったものの、現時点では1隻が就役しているのみで、あと2隻で建造は打ち切られることになっている。

そのため航空母艦を除くアメリカ海軍の主力水上戦闘艦は、「アーレイバーク級ミサイル駆逐艦」(合計76隻を保有する予定、現在62隻が就役中、2018年中までに6隻が就役予定)と、「タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦」(現在22隻が就役中)ということになる。いずれの軍艦にも、ズムウォルト級駆逐艦よりも発射管数(アーレイバーク級駆逐艦は90セルあるいは96セル、タイコンデロガ級巡洋艦は122セル)の多いミサイル垂直発射装置(MK41-VLS)が装着されているが、情報処理システムやステルス形状などはズムウォルト級駆逐艦とは比べようもないレベルである。

タイコンデロガ級巡洋艦「シャイロー」
一方、中国の055型駆逐艦は、ズムウォルト級駆逐艦に迫るステルス形状をしており、中国が独自に開発したミサイル垂直発射装置(発射管は128セル)はMK41-VLSやMK56-VLSよりも大型のミサイルを発射することが可能である。そして、潜水艦を探知するソナー類も、米海軍や海上自衛隊の装備に勝るとも劣らない強力なシステムを搭載しており、「中華神盾」と称する対空レーダー戦闘システムもアメリカが誇るイージスシステムを凌駕するとされている。

    米海軍が恐れる「YJ-18」

このような強力な防衛手段に加え、米海軍関係者たちが大きな危惧を抱いているのは、この新型駆逐艦の128セル垂直発射管からは“超強力”な「鷹撃18型超音速巡航ミサイル」(YJ-18)が発射されることである。

YJ-18は、地上目標も敵艦も攻撃することができる巡航ミサイルであり、最大射程距離は540キロメートル程度とされている。軍艦と軍艦による海上戦闘では500キロメートル以上も離れた敵艦を攻撃することはほとんど考えられないものの、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦や一部のアーレイバーク級駆逐艦が装備しているハープーン対艦ミサイルの射程距離が124キロメートルとされているため、055型駆逐艦は米巡洋艦や駆逐艦の脅威圏外から米艦艇を攻撃することが可能となる。

さらに、YJ-18は攻撃目標に接近すると最終段階の40キロメートルはマッハ3以上で飛翔する「ロシア譲りの性能」を有していると推定されており、米海軍にとっては極めて深刻な脅威となる。

このような脅威に対して、アメリカ海軍は空母打撃群を繰り出し、空母から発進する攻撃機によって敵艦艇を撃破するという基本方針に頼ってきた。そのため、巡洋艦や駆逐艦自身が搭載する対艦ミサイルを強力化する必要性は生じなかった。それよりも、防空ミサイルシステムをはじめとする防御能力に莫大な資金と最先端技術をつぎ込んできたのである。

ところが、中国海軍との戦闘が予想されるのは南シナ海あるいは東シナ海であり、中国との有事の際に、それらの海域に空母打撃群を出動させるという米海軍の大前提そのものが怪しくなってきてしまった。というのは、中国人民解放軍ロケット軍が東風21-D型対艦弾道ミサイル(DF-21D)ならびに東風26型対艦弾道ミサイル(DF-26)の運用を開始したからである。

まず、東シナ海は中国沿岸域から最大でも1000キロメートル程度の広がりしかない。また、南シナ海での予想戦域でも1500キロメートル程度の距離しか離れていない。そのため、東シナ海や南シナ海に進攻した米海軍空母はDF-21DやDF-26の餌食となりかねず、米海軍の伝統的な空母艦隊による作戦は極めて危険となる。したがって、中国との海上戦闘は、艦艇対艦艇の戦闘を想定すべきであるという考えが持ち上がってきている。

すると、ハープーン対艦ミサイル程度の敵艦攻撃力しか備えていない米海軍の戦闘艦は、055型駆逐艦にはとうてい太刀打ちできないということになる(中でも、新鋭のアーレイバーク級駆逐艦とズムウォルト級ミサイル駆逐艦には、ハープーン対艦ミサイル程度の攻撃力すら備わっていないため、増設が必要となる)。

     「今後5年間は隠忍自重するしかない」

以前よりこのような状況になりかねないことを危惧していた一部の海軍戦略家たちは、「YJ-18」に匹敵する強力な対艦超音速巡航ミサイルの開発を提唱していた。しかし、その開発はようやくスタートしたばかりであり、誕生するのは早くても5年後と考えられている。

一方、先日一番艦が進水した055型駆逐艦は3番艦までが引き続き誕生し、アメリカの新型対艦ミサイルが誕生する5年後までには、少なくとも8隻前後の055型駆逐艦が就役しているかもしれない。また、問題のYJ-18は055型駆逐艦より小型の052D型ミサイル駆逐艦(1番艦が2014年に就役し、間もなく6番艦と7番艦が就役する)にも搭載されるため、すでに2020年には20隻以上の中国海軍駆逐艦がアメリカ海軍艦艇をアウトレンジ攻撃する能力(敵の射程圏外から敵艦を攻撃する能力)を身につけることになる。

このため、米海軍関係者からは「少なくとも今後5年間は、(中国近海域すなわち東シナ海や南シナ海における海上戦闘では)どうあがいても中国海軍優位の状況を突き崩すことが困難になってしまった」との声も上がっている。アメリカ海軍の弟分である海上自衛隊にとっても、このような“米海軍の嘆き”は、残念ながら共通する。

このような状況に立ち至った原因は、アメリカ海軍艦艇(海自艦艇も同様)が、強力な敵艦攻撃能力を犠牲にしてまでも、超高額な予算と最高度の技術が要求される対空防御能力の充実に努力と予算を傾注しすぎたからである。この事例は、我が国の弾道ミサイル防衛態勢や、専守防衛という国防の基本方針そのものにとっても、大きな教訓とすべきである。

【私の論評】隠忍自重の必要なし!日米はすぐ行動できる(゚д゚)!

上の記事は、中国の新鋭駆逐艦をあまりに過大評価していると思います。それには2つの要因があります。

まず一つ目は、中国メディア「環球網」の2015年1月6日の記事です。それによりますと、中国が当初2015年にも進水させるとされた、新鋭の055型ミサイル護衛艦について「世界が騒然」としている様子を示した一方で、「外国で騒がれるほどの突出した性能ではない」などとする、中国の専門家の指摘を紹介しています。

055型ミサイル駆逐艦は全長183メートルで船幅は22メートル、標準排水量は1万2000トンで、情報化やステルス性能を向上させ「第4世代に属する」とされています。

環球網は米国、ドイツ、ロシア、台湾、米国など世界各地のメディアの取り上げ方を紹介「米イージス艦に匹敵。あるいはそれ以上」、「中国は、大規模な海の戦闘について、準備を大きく邁進させた」、「ステルス性を持つ米国のDDG-1000(ズムウォルト級)ミサイル駆逐艦に次ぐ、世界最大の駆逐艦。中国の船舶技術と船舶工業能力の最高水準を示している」、「中国が世界の軍事バランスを変更する5つの“殺し道具”のひとつ」などの記事を並べました。

しかし環球網によると、ある軍事専門家は「時代を超えるほどの先進性は、取り立ててないだろう」と評したといいました。現役の052級駆逐艦と比べ、電子システムや武装は向上するだろうが「戦争のゲームのルールを変えるほどの役割をはたすことはない」との考えでした。

同専門家は、「外国のメディアは、中国の新たな武器について騒ぎ出す場合が多い」と指摘。現在、多くのメディアが注目するのは055型の大きさだが、実際には米国が80年代に就役させたタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と同程度の大きさであり、電子装備の面で(055型は)はやや向上しているが、搭載する武器のレベルは米国の最新式のものとでは「比較にならない」程度にとどまっているといいます。

同専門家はさらに、中国の武器の水準は全体的に「加速しつつはあるが、(世界最先端の武器の水準に)いまだに追いつこうとしている状態」、「距離はまだ、相当に大きい」と説明。20年前と比べれば、「世界最先端との距離はやや縮まった」だけだが、「一部の西側メディアは、そのことに適応できないのだろう」との見方を示しました。

実際にそういうところなのでしょう。たとえ、高性能の武器を搭載したとしても、実際にはソナー、レーダーなどの電子機器は、はるかに及ばないというところが実情なのでしょう。ステルス性もどの程度のものなのか、未知数です。

現在中国は、30年前に配備された航空自衛隊のF15Jより優れた戦闘機を一機も保有していません。旧ソ連が開発したSu27やMIG29のコピーをせっせと作ったり、ロシアから劣化版を輸入しています。

また中国は工作技術が劣っているので、ロシアの旧式潜水艦を輸入したり、旧ソ連の潜水艦をコピーしています。

またフランスが輸出した小型のフリゲート艦のシステムを、ありがたがって空母や「イージス艦」に搭載したりもしています。

航空機や潜水艦、軍艦の技術水準に関しては、現在の中国は崩壊前のソ連より劣っています。その中国の最新鋭艦が突然、米国の水準を凌駕するなどということはあり得ません。やはり、中国の専門家の意見のほうが正しいと考えられます。055型駆逐艦は主体建造を始めたばかりで、2018年より先に就役することはありません。いずれ、化けの皮が剥がれます。

それと、もう一つはブログ冒頭の記事では、現代艦船における潜水艦の役割や、潜水艦そのものと、対潜哨戒能力(潜水艦を探査する能力)の中国と日米との差異については全く触れていません。これでは、著しく公正性に欠けていると言わざるを得ません。

日本の潜水艦については、このブログでも何度か掲載してきたように、日本の工作技術が優れているために、抜群のステルス性を誇っています。日本の最新鋭の潜水艦は、水中をほとんど無音で進みます。中国の対潜哨戒能力はかなり劣っているため、中国は日本の潜水艦を探知することができません。

これに対して、中国の潜水艦は工作技術が格段に劣っているために、ステルス性は低く、参議院議員の青山繁晴氏の言葉を借りると、中国の潜水艦は最新鋭のものでも、まるで水中をドラム缶をドンドンと叩きながら進むように音をたてるので、世界でもトップクラスに属する対潜哨戒能力に優れた日本側は、容易に探知することができます。

米国の潜水艦は、ステルス性では日本の潜水艦には劣るものの、中国よりははるかに優れていて、中国の対潜哨戒能力をもってしていはなかなか探知できません。さらに、ソナーなどの電子機器は日本を凌駕し、原子力潜水艦艦は1年以上も潜水したままで、軍事作戦を遂行する能力があります。

これでは、中国側は日米の潜水艦には対処しようもないわけです。いくら中国の最新鋭駆逐艦が優れたミサイルを搭載しているとはいっても、南シナ海や尖閣付近にこれらの最新鋭なる駆逐艦を多数派遣したとしても、予め多数の潜水艦群を日米がこれらの地域に配置しておけば、中国の艦艇や潜水艦はすぐにも撃沈できるのです。

であれば、せっかくの強力なミサイルを搭載した駆逐艦といえども、本格的戦闘に入る前に日米の潜水艦に撃沈され、海の藻屑と消え去るだけです。

南シナ海を中国が戦略原潜の聖域にして、この海域に空母や最新鋭駆逐艦を派遣したとしても、米国としては、潜水艦でこれらを撃破し、さらに陸地のミサイルを撃破し、そのあとで、空母打撃群を派遣すれば良いのです。

だからこそ、この中国の最新鋭駆逐艦が建造されることを知っていても、オバマ政権はそれに対する対抗措置を特別とらなかったのだと思います。

実際に日米の潜水艦がどのような行動をとっているのか、以前このブログにも掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
半島に米原潜など50隻集結! 金正恩氏はのど元に「トマホーク」を突き付けられている状況―【私の論評】世界最大の原潜「ミシガン」がなりを潜めている!トランプ大統領は本気だ(゚д゚)!
世界最強の攻撃型原潜、米海軍のバージニア級
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
朝鮮半島の周辺海域で「水面下の戦い」が繰り広げられている。米国と北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアなどの50隻前後とみられる潜水艦が、息を殺して、お互いをけん制しているのだ。ドナルド・トランプ米大統領は「無敵艦隊を派遣した。空母よりずっと強力な潜水艦も持っている」と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に警告した。水中から巡航ミサイルのターゲットにされた正恩氏は、「6回目の核実験」を強行できるのか。
日米は朝鮮半島の周辺海域にすでに数十隻の潜水艦を派遣しているのです。当然中国の潜水艦も派遣されているでしょう。中国側は、日米の潜水艦を探知するのは困難ですが、日米は容易に中国の潜水艦を探知していることでしょう。

ときたま、中国側が思いもよらないところに、潜水艦を浮上させて、度肝を抜いているかもしれません。

この記事でトランプ大統領の語っている「空母よりずっと強力な潜水艦」というのは、おそらく、世界最大の潜水艦である、オハイオ級戦略原潜「ミシガン」のことだと考えられます。

このオハイオ級原子力潜水艦ミシガンは、巡航ミサイルのトマホークを1隻で最大154発、水中から連射できるのです。

このオハイオ級原子力潜水艦はアメリカ海軍が現在保有する唯一の戦略ミサイル原子力潜です。西側諸国で最大の排水量を誇る潜水艦であり、また全長と弾道ミサイル搭載数は現役の潜水艦で最大です。同型艦は、ミシガンを含めて、全部で18隻就航しています。

先日のシリアの攻撃の時に駆逐艦2隻で発射したトマホークの数が59発だからその規模がとんでもないことがわかります。下の写真は、水中のハッチが開いて7つある発射口からトマホークが高圧空気で押し出されるところです。


このミシガンですが、4月にこの記事を書いたときには、まだなりを潜めていたのですが、5月には釜山港に入港したので、私はこの時点でしばらく米国による北朝鮮への武力攻撃はないだろうと考えていました。しかし、最近では、米国人の若者が北朝鮮から帰され、その後死亡したり、ICBMを発射したことなどから、また武力攻撃に踏み切る可能性は高まったものと思います。

それと、ミシガンをはじめ、朝鮮半島付近の海域にあれだけの大艦隊を派遣するというとは、当然のことながら中国への牽制でもあることを忘れるべきではない思います。
【世界ミニナビ】中国ご自慢の空母「遼寧」は日米潜水艦隊がすでに“撃沈”?―【私の論評】中国の全艦艇は既に海上自衛隊により海の藻屑に(゚д゚)!
実戦ではほとんど役立たずといわれる空母「遼寧」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
日本の海上自衛隊と米国海軍の潜水艦艦隊が演習で遼寧を“撃沈”しているようだと明らかにしたのは、米誌「ナショナル・インタレスト」だ。同誌は6月18日のウェブサイトで、「撃沈している」との断定的な表現は微妙に避けながらも、日米の潜水艦艦隊は遼寧が出航するたびに追尾し、“撃沈”の演習を繰り返しているとしている。
遼寧は、ソ連崩壊のあおりを受けてスクラップ同然となった未完成の空母「ワリヤーグ」を、中国がウクライナから購入し、改修したものだ。米海軍が運用しているようなスチームカタパルトを装備した空母ではなく、艦載機はスキージャンプ台から発艦するなど、米海軍の空母と比べるとその能力は低い。 
一方、ナショナル・インタレストは海軍艦艇の中で最も強力なのは潜水艦戦力で、空母をはじめとする水上艦艇を沈めるのに最も有効な手段だとしている。遼寧についてもその配備先は当初、海南島や台湾やベトナム近くの海軍基地ではないかとの観測もあったが、山東半島の付け根にあり、黄海に面した北海艦隊の根拠地となっている青島に配備された。 
ナショナル・インタレストは、中国が遼寧の母港を青島にした理由として、通常動力型の宋級潜水艦と漢級原子力潜水艦が配備されているためだとしており、宋級潜水艦と漢級原子力潜水艦が日米の潜水艦隊に対抗するうえで有効なためだと分析している。 
ナショナル・インタレストは潜水艦戦力の例として、2006年10月に宋級潜水艦が沖縄近海で米空母キティホークに魚雷攻撃ができる距離まで近づき、浮上したことを紹介。また、2013年に中東のオマーン湾で行われた演習で、米海軍の攻撃型原潜が英海軍の空母イラストリアスに魚雷で攻撃できる距離まで近づいたことを明らかにしている。 
水上艦や潜水艦をはじめとする中国海軍の動向は人工衛星や偵察機によって把握され、艦艇が出港すると、海上自衛隊や米海軍の本格的な監視・追跡が始まる。もちろん、まさにこの時間帯にも中国の軍港の近海や東シナ海や南シナ海から西太平洋に抜ける海峡などのチョークポイントに日米の潜水艦隊は潜んでおり、中国の海軍艦艇をにらんでいる。
要するに、中国の対潜哨戒能力が低いので、日米の潜水艦は中国側にさとられずに何度も、シミレーションで撃沈されたということです。この対潜哨戒能力とは、人や対潜哨戒機も含む立体的な統合システムによるものであり、「055型」駆逐艦のソナーなどの能力が向上したからといって、すぐに能力が向上するわけではありません。

055型駆逐艦も本格的に就航し、遠洋にでるようになれば、日米の潜水艦は中国側にさとられることなく、シミレーションで何度も撃沈されることになることと思います。

このようなことから、ブログ冒頭の記事の「少なくとも今後5年間は、(中国近海域すなわち東シナ海や南シナ海における海上戦闘では)どうあがいても中国海軍優位の状況を突き崩すことが困難になってしまった」という見解は間違いであり、隠忍自重の必要など全く必要はなく、中国がさらに傍若無人な行動した場合日米はすぐに対応し、軍事的意図をくじくことができます。

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2017年7月5日水曜日

国の税収減で騒ぐ人の思惑 「アベノミクスの限界」は言い過ぎ、増税派が牽制か―【私の論評】再増税でまた失われた20年に突入しても良いのか?

国の税収減で騒ぐ人の思惑 「アベノミクスの限界」は言い過ぎ、増税派が牽制か



 2016年度の国の一般会計税収が7年ぶりに前年割れとなったことを受けて、「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」などと報じられている。

 数字を確認しておくと、16年度の国の一般会計税収は、15年度実績の56・2兆円から0・4兆円以上減る見込みである。

 これまでの統計をみれば、税収の伸び率は名目経済成長率にリンクしている。

 税収の増加率が名目経済成長率の何倍になるかを示す「税収の弾性値」は、財務省の計算では「1・1」という数字が使われる。もっとも、景気低迷期で赤字企業が多い場合、少し景気が良くなると、赤字企業が減少し、黒字転換で法人税を払うようになるので、税収弾性値は1・1より大きくなる。実際に、過去20年くらいの実績をみると「3」程度となっている。1・1というのは、所得税の累進税率を勘案した長期的な数字とされている。

 経済学の理論では、税収弾性値はプラスであり、名目経済成長率がプラスであれば、税収もそれなりにプラスになるはずだ。しかし、名目経済成長率がプラスでも低い場合、税収がマイナスになることもある。16年度がその例に当たる。

 16年度の名目経済成長率は1・1%にすぎなかったため、税収は0・7%程度も減少した。

 過去にも03年度に似たようなことは起こっている。名目経済成長率が0・7%にとどまったので、税収が1・1%も減少したのだ。

 いずれにせよ、筆者は14年4月の消費増税の影響について「2~3年程度は継続する」と本コラムでも予想していたが、この増税の影響で16年度の名目経済成長が伸び悩んだことが、税収減の主な原因だといえる。

 さらに、16年度前半の円高進行により企業が納める法人税収が伸び悩んだのも大きかった。

 これらをもって「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」というのは言い過ぎである。消費増税の悪影響や一時的な円高により、アベノミクスの効果が損なわれたとみるほうが正しい。

 「アベノミクスの限界」という人の多くは、6月に決めた骨太の方針で、財政再建姿勢が後退したと批判する。こうした人たちは14年4月の消費増税についてはやるべきだと主張していた。増税で経済成長が腰折れしたことが税収減の主因であるにもかかわらず、再び消費増税を主張するのは理解に苦しむ。確実な税収増のためには、より高い名目経済成長が必要なだけなのだが。

 消費税率10%への再増税は、当初は15年10月からとされていた。しかし、安倍晋三政権が17年4月に延期し、さらに経済状況の悪化で19年10月に再延期した。実際に、それを実行するかどうかは18年中に決めなければいけない。安倍政権は20年の憲法改正を目指しており、国民投票もあるかもしれない。

 こうしたことを背景として、三たび消費増税が見送られないように、増税派が今から牽制(けんせい)球を投げているとみたほうがいいだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】再増税でまた失われた20年に突入しても良いのか?

税収の推移のグラフを以下に掲載します。これは2016年12月22日に作成されたものです。

この時点て、2017年度の一般会計税収は、57兆7120億円となると見込まれています。1991年度(決算ベース、59兆8204億円)以来、26年ぶりの高い水準。安倍政権は経済成長による税収増を「アベノミクスの果実」と位置付けており、円安に伴う企業業績の好転などを追い風に、16年度当初予算に比べ1080億円の増額を確保すると見込んだのです。

税目別の内訳を見ると、所得税が16年度当初比で270億円減の17兆9480億円。企業の賃上げの動きを背景に、15年度(決算)から3年連続で17兆円台後半となります。

法人税は企業業績の改善が見込まれるため、1580億円増の12兆3910億円、消費税は470億円減の17兆1380億円。相続税は2兆1150億円と1940億円増加する一方、酒税は1兆3110億円と480億円減少します。

16年度補正後の一般会計税収は当初予算から1兆7440億円減額し、55兆8600億円になると見積もっていました。年度前半の円高に伴う法人税収の落ち込みを織り込んだものです。

16年度に税収が落ち込むことは、いわば予定帳場です。これを、「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」というのは、全くあたりません。

こういうことを言う人たちには、必ずしも増税=増収ではなかったことを思い起こしてほしいです。


1989年の増税では翌年の1990年は、前年と比べて税収が5兆円増えて60兆円となりました。しかし、その年をピークとして、その後20年間、日本経済は長い停滞期に入り、一度たりとも90年時の税収を上回ることはありませんでした。

97年に消費税を5%へ増税するとすぐに税収は減少しました。消費税率を5%に上げた1997年とその翌年98年を比較すると、消費税収は増加したものの、所得税収と法人税収はそれぞれ2兆円減少。トータルで見ると53.9兆円から49.4兆円へと4.5兆円も減った。

この違いは、1989年には消費税増税はあったものの、当初から所得税、法人税の減税がありました。一方1991年は、当初は減税措置がなく、年末に特別対策として実施されたという違いがあったからです。

いずれにせよ、消費税増税しても結局税収は長い目では伸びなかったのです。これは、どういうことかといえば、消費税増税でGDPの6割を占める個人消費が減ってしまったからです。

一方2014年の増税では、税収が減るということはありませんでしたが、2016年度には減ることになりました。政府は2017年度には増えるとしてはいますが、それもどうなるかはわかりません。

結局、消費増税を行うと、いっとき消費税収は増えるのですが、やがて国民や企業はその負担に耐え切れなくなり、景気が後退していくのです。その結果、企業の収益は悪化し、雇用者の所得も減少します。そうなれば、法人税収、所得税収が減ってしまい、トータルの税収は増えないのです。

こうしたデータを見れば、消費増税をしても税収が増えないことは明白な事実です。しかし、財務省はこうした事実を説明することなく、「増税しないと財政赤字が拡大する」というワンパターンのフレーズで国民の不安をあおってきました。

省益を拡大するために消費増税の嘘を覆い隠してきた財務省には大きな罪があります。さらに問題なのは、消費税の問題点を知りながら片棒を担いでいるエコノミストやマスコミです。もし、消費税の問題点を知らないというなら「無知」の罪があり、国民に判断材料を提供する公人の使命を果たしているとはいえません。

税収を増やしたいならば、デフレから回復しきっていない日本の場合は、結局は経済発展するしかないのです。消費増税は愚策中の愚策です。

「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」などのフレーズで騙されて、安易な増税に突き進み、またまた失わた20年に突入し、私達の子どもや孫の世代を途端の苦しみに追いやるべきではありません。

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2017年7月4日火曜日

都議選惨敗、安倍首相に残された道は「消費減税」しかない―【私の論評】子どもや孫の世代が途端の苦しみに塗れるようなことにしたくないなら?


田中秀臣(上武大ビジネス情報学部教授)

 東京都議選は都民ファーストの会の圧勝と、自民党の歴史的大敗北に終わった。公明党、共産党は選挙前の議席数から増やし、民進党も選挙前の議席が少ないとはいえ健闘した。自民党への逆風が猛烈だったぶん、批判の受け皿として都民ファーストが大きく勝った。

候補者の名前が並ぶボードを背に開票を待つ自民党の
下村博文都連会長=7月2日、東京・永田町の党本部
政治的には、都民ファーストの大勝よりも、自民党の惨敗の方が重要だと思う。国政への影響が避けられないからだ。いくつかその影響を考えることができる。あくまで予測の域をでないのだが、いまの政治状況を前提にすれば、年内の衆議院解散は無理だろう。2018年12月の任期満了に近くなるかもしれない。もっとも、1980年代から現在まで3年を超えての解散が多いので、それほど不思議ではない。ひょっとしたらこれはすでに織り込み済みかもしれない。ここまでの大敗北はさすがに自民党も予測はしていなかったろうが。

 国政に与える影響で興味の焦点は、安倍晋三政権の持続可能性についてである。あくまで都議選でしかないことが注意すべきところだが、今後いままで以上にマスコミの安倍批判が加速することは間違いない。都議選の有権者が東京都民だけにもかかわらず、それを世論と等値して、国民から不信任を食らったと煽(あお)るかもしれない。

 もちろん煽らなくても、今回の都議選大敗により、世論調査で内閣支持率がさらに低下し、自民党の支持率も急減する可能性はある。ただその場合、国政には都議選で受け皿となった都民ファーストがないし、また野党も受け皿にはなれない。つまり支持率の低下はほぼ無党派層の増加に吸収される可能性が大きい。この現象がみられるとすれば、都議選の大敗北は、安倍政権への世論の逆風が全国的に吹いたままだということを意味するだろう。

 この潜在的な逆風が、安倍政権をレームダック(死に体)化するだろうか。ここでのレームダック化は、安倍首相が現状のアベノミクスなど基本政策を実施することが難しくなる状況、あるいは転換を迫られる状況としたい。当面はその可能性は低いと思われる。

 ただし、党内の政治闘争は以前よりも格段に顕在化するだろう。そのキーワードは、やはり消費税を含めた「増税主義」である。2017年度の政府の基本的な経済政策の見立てを描いた「骨太の方針」には、19年10月に予定されている消費増税の記述が姿を消した。また20年度のプライマリーバランス黒字化の目標もトーンが下がったとの識者たちの評価もある。

 おそらくそのような「評価」をうけてのことだろう。石破茂前地方創生担当相は、消費税を必ず上げることが国債の価値を安定化させていること、またプライマリーバランスの20年度の黒字化目標を捨てることも「変えたら終わりだ」とマスコミのインタビューに答えている。今回の都議選大敗に際しても、石破氏は即時に事実上の政権批判を展開していて、党内野党たる意欲は十分のようである。

日本記者クラブの改憲で「こども保険」の構想について説明する小泉進次郎議員=6月1日
写真はブログ管理人挿入 以下同じ
また財務省OBの野田毅前党税制調査会長を代表発起人とし、財政再建という名の「増税主義者の牙城」といえる勉強会もすでに発足している。またその他にも反リフレ政策と増税主義を支持する有力政治家は多く、小泉進次郎氏、石原伸晃経済再生相ら数えればきりがないくらいである。また金融緩和政策への理解はまったく不透明だが(たぶんなさそうだが)、消費増税に反対し、公共事業推進を唱える自民党内の勉強会も発足している。

 これらの動きが今後ますます勢いを増すのではないだろうか。もっとも安倍政権への世論の批判は、筆者からみれば実体がないのだが、森友学園や加計学園問題、続出した議員不祥事などいくつかに対してである。そもそもアベノミクスに対して世論が否定的な評価を与えたわけではない。それでも自民党も野党も含めて、アベノミクスに代わる経済政策はほぼすべて増税主義か、反リフレ政策(金融緩和政策の否定)か、その両方である。

 もちろん世論が、アベノミクスの成果を評価しても、それを脇において安倍政権にノーをつきつける可能性はある。アベノミクスの中核は、リフレ政策(大胆な金融緩和政策)である。現在の政治状況では、いまも書いたが安倍政権が終わればリフレ政策もほぼ終焉(しゅうえん)を迎える。日本銀行の政策は、政策決定会合での多数決によって決まる仕組みだ。日銀にはリフレ政策を熱心に支持する政策委員たちがいるにはいるが過半数ではない。政府のスタンスが劇的に変化すると、それに応じていままでの前言を撤回して真逆の政策スタンスを採用する可能性はある。

 そもそも、安倍首相と同じリフレ政策の支持者は、菅義偉官房長官はじめ、自民党内にはわずかしかいない。次の日銀の正副総裁人事が来年の3月に行われるはずだが、そのときに最低1人のリフレ政策支持者、できれば2人を任命しないと、リフレ政策すなわちアベノミクスの維持可能性に赤信号が点灯するだろう。このリフレ政策を支持する人事を行えるのは、安倍首相しかいないのである。それが安倍政権の終わりがリフレ政策のほぼ終わりを意味するということだ。

 もちろん日銀人事だけの問題ではない。仮に日銀人事をリフレ政策寄りにできたとしても、政府が日銀と協調した財政政策のスタンスをとらないと意味はない。デフレを完全に脱却するまでは、緊縮政策(14年の消費増税と同様のインパクト)は絶対に避ける必要がある。デフレ脱却には、金融政策と財政政策の協調、両輪が必要なのだ。

 さて、安倍首相もこのまま党内闘争に巻き込まれ、守勢に立たされるのだろうか。それとも攻勢に出るのだろうか。そのきっかけは大胆な内閣改造や、より強化された経済政策を行うことにあるだろう。後者は18年夏頃までのインフレ目標の達成や、教育・社会保障の充実などが挙げられるが、端的には減税が考えられる。何より国民にとって目に見える成果をもたらす政策パッケージが必要だ。それこそ筆者がたびたび指摘しているように消費減税がもっともわかりやすい。

 実際に、消費増税が行われた14年以降、政府が実施してきた中で、消費増税の先送りや毎年の最低賃金引き上げ、そして昨年度末の補正予算ぐらいが「意欲的」な政策姿勢だったという厳しい評価もできる。2%のインフレ目標の早期実現を強く日銀に要請することはいつでもできたはずだ。ある意味で、雇用の改善が安倍首相の経済政策スタンスの慢心をもたらしている、ともいえる。

 いまも書いたように、さらなるアベノミクスの拡大には実現の余地はある。ただ、それを行うだけの政治力が安倍首相にまだ残っているだろうか。そこが最大の注目点だろう。

【私の論評】子どもや孫の世代が途端の苦しみに塗れるようなことにしたくないなら?

昨日のこのブログの記事では、都議選敗退で国政に影響はなく、首相憲法改正まっしぐらに突き進み、長期政権になるであろうことを掲載しました。これは、かなり楽観的なシナリオです。

しかし、一方で、ブロク冒頭の田中秀臣氏の記事のように、悲観的な側面もあるわけです。この悲観的な側面が現実となれば、安倍政権は悲願である憲法改正を何とか成就させ、その後は政権が崩壊、金融緩和から金融引締めに転じ、雇用状況の改善も元通りになり、増税延期も中止され、それこそこのブログに一昨日掲載したように、マスコミの一部と官僚支配が作る日本最期の厳しい時代がくるという最悪のシナリオも考えられます。

こうなると、日本は数十年後には先進国から、発展途上国におちるということも十分考えられます。近代以降、先進国から発展途上国になった国はアルゼンチン一国のみです。その逆に発展途上国から先進国になった国は日本だけです。例外は一つもありません。中国や韓国も先進国にはなりきれていません。日本もアルゼンチンのようになる可能性も十分あります。

日本人にもあの哀愁の帯びたアルゼンチンタンゴを踊る日がやってくるのか?
昨日のブログは以下のように締めくくっています。
もし民進党が大きな力を持てば、当然のことながら、自民党内にもこれに脅威を感じて、安倍おろしなどの風も吹きかねませんが、この状況だと、少なくとも自民党内の安倍政権反対派がさほど大きな力を持つということは考えにくいです。 
さらに、昨日にも述べたように、小池百合子氏は、積極財政にはあまり関心がないので、やはり小池氏を中心とする勢力も国政にはあまり大きな影響を及ぼすには至らないこととが予想できます。 
そうなると、安倍政権が初心にもどり、さらなる量的金融緩和を実施したり、大規模な積極財政に踏み切れば、経済が安定し、国民の支持も増え、憲法改正はかなりやりやすくなると考えられるとともに、安倍政権が長期政権になる可能性も開けてくることになります。
確かに、安倍政権が初心にもどり、さらなる量的緩和を実施したり、大規模な積極財政に踏み切れば、経済は安定するのは必定です。そうなれば、憲法改正はかなりやりやすくなり、安倍政権が長期政権になる可能性も開けてきます。

しかし、積極財政とはいっても、過去のように追加補正予算数兆というのでは、国民も納得しないでしょう。少なくとも10兆円以上の補正予算とし、さらに8%増税で失敗したのは明らかですから、田中秀臣氏が主張するように、これを5%に戻すことができれば、無党派層の多くも安倍政権を支持することになり、民進党をはじめとする野党が支持率をあげることができない現状では、安倍政権は安泰です。

さて、5%減税については、このブログでも何度か掲載したことがあります。その最新のもののリンクを以下に掲載します。
なぜ日本の「実質GDP成長率」は韓国以下のままなのか?―【私の論評】緊縮会計をやめて消費税も5%に戻せ(゚д゚)!
この記事の元記事である、安達誠司が述べるところによれば、日本の実質GDP成長率が韓国以下のままなのは、詳細はこの記事をごらいただくものとして、一言でいえば、以下の背景によるものです。

多くの国民が、「2017年からの消費税率引き上げはなくなったが、いずれかの時点(この場合、2019年10月)で消費税率の引き上げは実現し、場合によっては、それだけでは終わらず、将来的にはさらなる増税も実施されるに違いない」ことを想定して、「節約志向」を変えなかったからです。そして、この流れは現在も継続中ということです。

上の消費性向の低下の推移のグラフをみると、特に加速度的に低下が進行したのは2016年半ば以降であることがわかり、この推論を裏付けているようにみえます。

そうして、【私の論評】において、私は、この多くの国民のマインドを変えるには、消費税の5%への減税が必要であることを主張しました。

私としてとしては、都議会選挙は別にして、経済の現状を考えた場合、多くの国民のマインドを変えるためには、このくらいドラスティックなことをする必要があるように思えたのです。

しかし、都議選において歴史的な大敗を喫した現在では、なおのこと5%減税をすべきと言う結論になります。

一方金融緩和の現状についても、以前このブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「ポスト安倍」も問題だらけだ! 財務省や日銀の言い分信じて財政や雇用理論を間違える人―【私の論評】今のままでは再びデフレスパイラルの無間地獄にまっしぐら(゚д゚)!
過去の日本の失業率をみると(97以降はデフレ下にあため参考にはならない)、構造的失業率は
2%台半ばくらいであると推定できる。実際過去には失業率が3%が超えると問題であるとされた

詳細は、この記事をご覧いただくものとしして、現在の金融政策の状況を一言で述べると以下のような状況です。
「賃上げが進まない理由は単に構造失業率を、日銀が本当は2%台半ばであるものを3%台半ばであると間違っただけ」、日銀からさらに量的金融緩和をすれば、失業率は2%半ばにまでさらに下がるはずなのに、日銀は量的金融緩和をしないので、失業率が高含みのまま推移しているので、人手不足でも賃金があまりあがらないという状況が続いているのです。
誰にでもわかるように、賃金を上げるためには、現在のようにマイナス金利による質的金融緩和だけではなく、さらなる量的緩和が必要なのです。物価目標2%を未だに達成できないのも、さらなる量的緩和を実行しないからであるのは、明らかです。

以上のことから、都議選で大敗したしないは別にして、やはり現在の安倍政権の喫緊の課題は、消費税を5%に戻すこと、2%物価目標を達成するためにも、さらなる量的金融緩和を行うことです。

そうして、これを実行するだけの、政治力が安倍首相にまだ残っているかどうかという話になりますが、安倍総理一人に頑張っていただく以外に方法ないのでしょうか。

私は、あると思います。

日本では昔から集票力のある圧力団体が自分たちの利益のためにロビー活動しています。選挙のときにも自前で用意した組織内議員を送り込んでいます。つまり圧力団体の発言は政治家や政党も無視できない影響力を持っています。これは強固な組織や票をもっている圧力団体だからこそできることなのです。

また以前にデモも活発に行われましたが、これはたとえば「参加している人と一緒に行動する連帯感」「人前で行動を起こすことの開放感」「目立つことをしていることの高揚感」などといったデモに参加している人たちの内面を大きく変える事柄であっても、対外的なこと(政治や社会など)を変える力にはなりませんでした。

私は「必ず選挙に行って投票しなければならない」とか、「困っている人はみんなロビイングすべき」といったことはまったく言うつもりはありません。

しかし、「選挙で投票する」、「選挙に立候補する」ことを圧力団体が行えば、当然のことながら「圧力団体」が望む方向へと政治は動いていきます。

もちろん「選挙に立候補する」ことはハードルが高いかもしれません。では、「ロビイング」のほうはどうでしょうか?

「ロビイング」のことについては知らない人たちがたくさんいます。これでは「ロビイング」を既にやっている人たちが望む方向へと政治は動いてしまいます。

「参加する/参加しない」を選択するのは個々人の自由ですが、「知っている/知らない」で損得をしてしまうことは不公平だと思います。私はこれから「ロビイング」のことをたくさんの人たちに知ってもらい、そのうえで「ロビイングする/ロビイングしない」を選択できる社会に変えていきたいと考えています。

そして『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)はロビイングが誰でもできるものだと主張する、いわばロビイングのマニュアル書です。私は、この書籍を参考にして、ロビイングやってみたいと思っています。皆さんも、是非参考にしてみて下さい。

とにかく、たとえ憲法改正ができたにしても、日本が再びデフレ・スパイラルのどん底に沈み、マスコミの一部と官僚支配が作る日本最期の厳しい時代が来て、私達の子どもや孫の世代が塗炭の苦しみに塗れることだけは避けたいものです。

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2017年7月3日月曜日

小池都知事の急所と安倍政権の「これからの秘策」を明らか にしよう―【私の論評】都議選敗退で国政に影響なし、首相憲法改正まっしぐら(゚д゚)!

小池都知事の急所と安倍政権の「これからの秘策」を明らか
にしよう

原点回帰」がキーワードだ



  妙手連発

2日に行われた東京都議選は、小池新党である都民ファーストの会の圧勝だった。

都民ファーストは、選挙前勢力の5からほぼ10倍の49議席をとった。都民ファーストと選挙協力を行った公明党は選挙前23と同じ23、自民党は選挙前57から大幅減の23、民進党は選挙前18から激減しての5、共産党は選挙前17とほぼ同じ19だった。

都民ファーストの大躍進は、自民と民進を食った形だ。

東京都議選は、1人区(小選挙区)と2~8人区(大選挙区)の並立制で行われている。1人選挙区は千代田区など7区、大選挙区はそのほか35区だ。これは、普通ならそれほど大きく変動の起こらない選挙制度であるが、1人選挙区7つのうち、都民ファーストは6人、大選挙区でも43人が当選した。

都民ファーストの勝因は、何にも増して小池都知事の魅力である。これは、大阪維新の会が橋下氏の人気で持っているのと同じである。政策と言うより、行政を変えていこうという姿勢や、この人なら何かをやってくれるという期待からの指示であることは言うまでもない。

地方行政の選挙の場合、たとえば公約をみると細かく生活に密着している話は多いが、テーマが多種多様にわたっているので、ワンイシューにまとめにくく、なかなか政策議論になりにくい。

東京の場合、2020年の東京五輪を控えているので、五輪の顔として小池都知事は絶対的な存在になる。であれば、議会も小池都知事をサポートするような体制が望ましいと、多くの都民が考えたのだろう。

豊洲移転問題は確かに争点であったが、これについても小池都知事は絶妙なハンドリングを行った。筆者は、本コラムで書いていたように、サンクコスト論と豊洲・築地の科学的なリスク評価のみで考えても、豊洲に移転するのが合理的な帰着であると主張してきた。

ところが、小池都知事の老獪なところは、この単純明快な答えをすぐには出さずに、政治的なタイミングをはかって、都議選の直前に打ち出したことだ。これは「一周遅れ」との批判を招いたが、そのとき同時に、「築地を再開発する」ともいっている。豊洲と築地の両方にいい顔をしただけと見ることもできるが、これが効果的だったということだ。

政策論としては、「築地再開発」は筋悪である。食のテーマパークを作るという主張についても、無理して施設を作ることは可能だが、問題はその後どのように黒字経営できるかの見通しを示せてはいない。思いつきレベルの話で、どこまで収支計算ができるかわからないし、実際、詳しい収支計算はやっていないようだ。

選挙前の話なので、方向性だけを示しておいて、その後、「やっぱりやめます」と取り消すことも可能なしろものである。しかし、選挙向けと考えれば、実に計算された「政治的な妙手」である。

なにより、小池都知事はメディアの動向を読むのがうまい。国政レベルで、森友・加計学園問題が「もりそば・かけそば」と揶揄され、本コラムで書いたようにいずれも「総理の関与」も「総理の意向」もないにもかかわらず、イメージだけは確実に悪くなるような報道がなされた。

それだけではたいしたことはなかったはずだが、都議選終盤において、豊田真由子議員の信じられない暴言、稲田朋美防衛相の失言は、あまりにわかりやすく、これが決定的に都議選へ悪影響を及ぼしたといわざるをえない。これらの暴言・失言は、小池都知事の豊洲移転の失敗を覆い隠すとともに、自民党の自滅を誘った。小池氏はとにかく運がいい。

さて、この都議選が国政へなにか影響を及ぼすのだろうか。

   結局、国政には影響なし…?

無論、自民党はこれだけの大敗をしたのだから、影響がないはずない。有権者は、国政選挙が当分ない安倍政権への「お灸」をすえたのだろう。

一方で、この影響が国政に直接響くとは言えないだろう。そもそも都議選は地方選挙であり、国政選挙でない(当たり前のことで恐縮だが)。民進党、共産党が大躍進でもしない限りは、国政での自公連立は揺らがないだろう。というのは、都民ファーストが勝ったのは、公明党の勝利という見方もできるからだ。

かなり乱暴な言い方であるが、自公連立政権としては、都民ファーストが勝っても自民が勝ってもどちらでも良かったともいえる。

都民ファーストが勝利したが、2020年の東京五輪を控えて、小池都知事が国政で自公政権と対立するとは思えず、むしろ協力関係を築くことになるだろう。都民ファーストの勝利は、自民党都議の議席を減らすと同時に、民進党にとっては「虎の子の民進党都議」を小池都知事にとられただけ、になる可能性が高いのだ。

東京都における都民ファーストの躍進は、大阪における維新の台頭と表面的には似ているとも言える。大阪では維新の会は自民党と競合しているが、大阪万博やカジノ誘致のために、国政では安倍政権と協力関係にある。小池都知事が率いる都民ファーストは、2020年東京五輪があるので、同じように安倍政権と協力関係にならざるを得ないだろう。

実際、小池都知事の発言をよく読むと、安倍政権の批判はしていない。安倍首相も、小池都知事を名指しで批判していない。このあたりは、今後の協力関係を想定しているかのようだ。

それでは、国政は今後どうなるのだろうか。安倍首相は、2020年に憲法改正を施行するというスケジュールで進めており、当然のことながら、これを中心として、今後の政治スケジュールが進んでいくだろう。

「2020年憲法改正施行」から逆算すると、憲法改正の国民投票は遅くとも2019年夏までに行われることになる。国民投票だけで憲法改正の賛否を問うことも可能であるが、政治的な常識からは、2019年夏の参院選か、2018年12月に任期終了する衆議院と同じタイミングで国民投票にぶつけるのだろう。

初めての憲法改正であるので、周知期間を長くとるために、2018年中のおそらく後半に衆議院解散をして、国民投票と総選挙との「ダブル選挙」を行うことがメインシナリオではないかと筆者は考えている。そのとき、2019年10月から予定されている10%への消費増税の是非も争点になるはずだ。安倍政権は、憲法改正、消費増税凍結で、国民投票と総選挙のダブルを仕掛けてくると筆者はにらんでいる。

国民投票の手続きには、国会の発議が必要だ。衆院議員100人以上、参院議員50人以上の賛成により、憲法改正案の原案が発議され、衆参両院の憲法審査会で審査したうえで、両院の本会議に送られる。ここで両院議員のそれぞれ3分の2以上が賛成し、可決されると、国会での憲法改正の発議となる。国民投票は発議の日から起算して60日以後180日以内に行われるが、ここも初めてのことなので、最大の180日を採ることにになるだろう。

であれば、憲法改正の発議は、2018年6月までに行われることとなる。つまり、来年の通常国会中に発議するというわけだ。

   政局を起こしたいならば…

こういう今後のスケジュールをみれば、先日、安倍首相が「秋の臨時国会で自民党の憲法改正案を示したい」と発言したのはうなずける。秋の臨時国会までに、各党の憲法改正案を示して、来年の通常国会での発議を目指しているのだ。

さて、秋の臨時国会までに必要なのが内閣改造だ。今年の通常国会では、閣僚の失言などが目立ったので、秋の臨時国会に備えて、内閣の体制強化が求められている。もっとも、内閣改造すると、どうしても「適齢期」などを考慮して処遇せざるを得ない人物も出てくるので、必ずしもいいことばかりでない。

内閣改造の後、第二次安倍政権の原点回帰ともいうべき経済政策の強化のために、秋の臨時国会で補正予算が打ち出されるだろう。通常国会では、森友学園・加計学園と、国政ではどうでもいいような話題に対してマスコミ・野党の激しい思い込みが炸裂し、政策論争が行われなかった。

秋の臨時国会では、実りある政策論争をするために、補正予算を出すだろう。と同時に、来年後半の国民投票・衆院選のダブル選に向けた環境整備も行われるだろう。

もっとも、政局的には、都議選での自民党惨敗によって、自民党内での安倍政権への逆風が吹くことのほうが、民進党、共産党等の野党の動きよりも不気味だろう。それが見えてくるのは、秋の臨時国会までに行われる内閣改造のタイミングである。

ここで、反安倍の動きが出るかどうか、ここが正念場である。強い逆風が吹くようであれば、2018年後半での、国民投票と衆院選のダブル選のメインシナリオも変化する可能性も出てくる。

しかし、ここでひとつ釘を刺しておきたいのは、政権に対して逆風を吹かせるにしても、それに政策論が伴うかどうかが重要、ということだ。政策論としては、安倍政権下の雇用環境は歴代政権の中でも最高のパフォーマンスであり、これでは政局を起こそうにも、大義名分が生じない。

政局を仕掛けるなら、アベノミクス(特に金融緩和)の成果を上回る雇用を生み出し、それを提示しなければ、国民から見ればいい迷惑であることも付け加えておこう。

【私の論評】都議選敗退で国政に影響なし、首相憲法改正まっしぐら(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にもあるように、今後の安倍政権の動きとしては、やはり憲法改正が最大のものとなることでしょう。以下に、2020年に改正憲法を施行する場合そうていされるいくかつのスケジュールを掲載しておきます。


安倍政権としては、その時々で政局をみながら、いずれかのスゲシュールで20年の改正憲法の施行をやり遂げることでしょう。

そうして、いずれのスケジュールを採用するにしても、憲法改正のためには、政権を安定させる必要があります。なるべく支持率が高い時に、国民投票にぶつけたいと考えるのは間違いないです。

そのためには、国民投票が行われる時期には、経済がかなり上向いているか、あるいは上向きつつあることが多くの国民に実感できるようになっている必要があります。

そのため、2019年10月から予定されている10%への消費増税は、延期もしくは景気が上向くまで無期限延期にすることが考えられます。いずれにせよ、これに関してはいずれかの国政選挙での公約にすることでしょう。

このあたりは、大規模な政局に発展する可能性があります。昨日のこのブログでも述べたように、骨太の方針から「増税」という言葉がいっさい消えました。

この動きに、消費増税を「省是」としている財務省は神経を尖らせています。表立っては動けないのですが、いろいろと手を回しているようです。その一例が、このブログでもとりあげた自民党内の「反アベノミクス」勉強会の発足支援です。

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」に否定的な自民党有志による「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」(野田毅会長)が15日、2回目の会合を国会内担当で開き、石破茂前地方創生相ら議員約30人が出席しました。講師の早川英男元日銀理事は「デフレ脱却による高成長は幻想だ」とアベノミクスを批判し、石破氏は記者団に「原油安と円安に頼る経済政策であってはならない」と述べました。

講師の早川氏は、「金融緩和するとハイパーインフレになる」と言っていたエコノミスです。今のところそのようなことは起こっていません。

一方安倍政権は、ノーベル賞学者であるスティグリッツ氏やシムズ氏の意見を参考にし、必要なのは財政健全化よりもむしろ財政出動である、としています。彼らは、政府の財政状況を見るとき、実質の「子会社」といえる日銀を含めた「統合政府」のバランスシートで見るべきで、そうすれば特に財政上の問題はないことがわかると主張しています。

ここのところ、政権と「反安倍」の政治闘争が過熱してきています。「骨太方針」で消費増税の文言が消えたのは、本格的な政治闘争が幕を切った合図であると考えられます。

この政治闘争に当然のことながら、野党、マスコミ、自民党の反対派も参戦します。いかに、安倍政権側が多勢に無勢であるか理解できます。しかし、自民党内の反対派の活動も意外と小さなものになるのではないかと思います。

何しろ、都議選では大敗したものの、国政では内閣支持率が低下したとはいうものの、まだまだ安倍自民党は強いです。最近は下がったとはいえ、過去の内閣支持率の推移をみると、特に政権末期にはどの内閣もかなり支持率を落としています。安倍第二次政権が成立以来、三年以上の月日がたっていますが、これを考えるとまだまだ驚異的に高いです。


今回の都議選では、民進党も大敗を喫しました。そうして、高橋洋一氏は今回の都議選の結果は、自民党にとっては国政にはあまり影響はないだろうとしたものの、民進党では国政レベルでも大きな影響が出てくるのは必至だと思います。

民進党は4月に党内きっての実力者である細野豪志氏が代表代行を辞任。さらに都連幹事長の長島昭久氏も党を離れました。都議選を仕切る立場の人間が直前に党を離れるようでは、勝ち目などあるわけがありません。その後も次々と離党者が相次ぐさまは、まさに沈む船からネズミが逃げるような状況です。

都議会では、『東京改革議員団』という会派名に改称し、“民進”という名前を消しましたが、民進党といえば蓮舫氏。知名度が抜群なのは政治家にとって大きな武器ですが、彼女の二重国籍問題がまだ尾をひいています。

蓮舫代表の地元・東京での敗北は結果責任をまぬがれないとの見方がありましたが、自民党への逆風が強まり、民進党は選挙前よりわずかに党勢を回復しました。党内の非主流派が「蓮舫降ろし」に動く気配はなく、蓮舫氏は代表を続投する方針です。

民進党の野田佳彦幹事長は3日の記者会見で、東京都議選で現有議席を下回った情勢に対する蓮舫代表の責任に関し「『選挙の顔』がそんなに他にいるのかどうか。(蓮舫氏は)責任を果たし続けて結果を次に渡すという確固たる決意を持っている」と述べ、引責辞任の必要はないとの認識を明らかにしました。


当初は『議席ゼロ』の予測もありましたが、それは免れたため、代表を降ろす口実はなくなったということのようです。知名度が高い彼女を切れば、民進党は本気だとアピールできたと思いますが、このまま蓮舫代表が続投ということですから、民進党が国政レベルで勢いを増すということは当面あり得なくなりました。

もし民進党が大きな力を持てば、当然のことながら、自民党内にもこれに脅威を感じて、安倍おろしなどの風も吹きかねませんが、この状況だと、少なくとも自民党内の安倍政権反対派がさほど大きな力を持つということは考えにくいです。

さらに、昨日にも述べたように、小池百合子氏は、積極財政にはあまり関心がないので、やはり小池氏を中心とする勢力も国政にはあまり大きな影響を及ぼすには至らないこととが予想できます。

そうなると、安倍政権が初心にもどり、さらなる量的金融緩和を実施したり、大規模な積極財政に踏み切れば、経済が安定し、国民の支持も増え、憲法改正はかなりやりやすくなると考えられるとともに、安倍政権が長期政権になる可能性も開けてくることになります。

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2017年7月2日日曜日

「左がかった人たち、安倍政権をたたきつぶそうと必死」阿比留編集委員が講演、わが国の将来は―【私の論評】これからマスコミの一部と官僚支配が作る日本最期の厳しい時代がくるかもしれない(゚д゚)!

「左がかった人たち、安倍政権をたたきつぶそうと必死」阿比留編集委員が講演、わが国の将来は

講演する阿比留瑠比・産経新聞政治部編集委員=6月15日、松江市
 産経新聞のコラム「極言御免」を手がける阿比留瑠比・政治部編集委員兼論説委員が、松江市で「安倍政権と日本の将来」と題して講演した。経営者らの会合に講師として招かれた阿比留編集委員は、国会運営や憲法改正などさまざまなトピックスを挙げ、取材現場で耳にした安部晋三首相の「肉声」を交えながら、メディアの問題点を指摘するとともに、わが国の行く末について見通しを示した。

 主な講演内容は次の通り。

   メディアのバカ騒ぎ

 多くの新聞が「共謀罪」と印象操作した「テロ等準備罪」の法律が成立した。世界中で同種の法律を持たない国がいくつあるか。日本が何か特別なことをやろうとしたわけではなく、世界標準に加わろうとしているだけ。それも“ザル法”で、だ。

 少し前には、特定秘密保護法をめぐるバカ騒ぎがあった。多くのメディアは、「暗黒社会が訪れる」「戦前回帰だ」「映画が作れなくなる」「小説が書けなくなる」と騒いだ。

 その次には、集団的自衛権を限定的に容認する安全保障関連法が成立。このときも、新聞やテレビは「徴兵制が復活する」「米国が世界の裏側で起こす戦争に日本が参加させられる」などと、さんざんあおった。さて、そんなことが1つでもあったか。「いい加減にしろ」と言いたい。

 左がかった人たちは、戦後の既得権益者としてぬるま湯にどっぷりつかっていたいのに、このまま憲法が変えられるとそれが許されなくなるから、安倍政権をたたきつぶそうと、必死になっているのだ。

   反対派の主張とは「いつも逆」

 安倍政権は特定秘密保護法を作ったとき、内閣支持率を10ポイント程度下げた。支持率は、内閣にとって相当に大きな政治的資産だが、それを10ポイントも下げてまで不人気法案を通したのは、世間で言われるように「戦争がしたい」という理由であるわけがない。必要だったからに決まっている。

 今や世界はテロの時代。そんな中で、特定秘密保護法があることで、世界の国々と情報のやり取りが簡単にでき、それまで入ってこなかった機密情報が日本政府に寄せられるようになった。

 安全保障関連法も、そうだ。反対していた人たちが「世界の裏側で戦争を起こす」と言っていた米国は、「世界の警察官ではない」と宣言。すると、ISのような勢力が力を伸ばし、中国は東シナ海や南シナ海で海洋進出を既成事実化していく。

 力の空白が生まれたら、それを埋めるためにどこかが出てくるというのは、世界史・政治学の常識。日本にとって喫緊の課題は尖閣諸島で、ここを中国が軍事占領したら、日本はどうするか。米国は、たかが日本の無人島のために血を流したり莫大(ばくだい)なカネを使ったりしてくれるか。

 そこで、日本政府は集団的自衛権の行使を一部ながら容認し、日本が巻き込まれる恐れのある戦争に、米国も巻き込んでちゃんと守ってもらおう、と安全保障関連法を作った。反対派の主張とは、まったく逆なのだ。

   金正恩氏も計算外?

 今国会では何が取り上げられていたかというと、前半は「森友問題」で後半は「加計問題」。北朝鮮が何発ミサイルを飛ばしても、そればかりだった。金正恩氏は日本をびびらせようと思っているのに、まったく無反応。彼も計算外だったのではないか。

 今年5月3日、安倍首相は、憲法改正の具体的な目標と中身を提示した。「9条に自衛隊の存在を明記する」というのは、多くの人たちが9条に思い入れと思い込みを持ち、条文を消すのは抵抗がある中、現実的であり名案だと思う。

 自衛隊に対し、国民の9割が親しみを持つ一方、憲法学者の7割が「憲法違反だ」と述べるという矛盾を解消するのは、非常に大事なことだ。

 憲法改正に対し、左系メディアは「国民の機運が盛り上がっていない」と言う。彼らは「立憲主義」という言葉が好きなはずなのに、憲法が自衛隊を違憲のような状態に置いているのを平気で見逃している。

   安倍首相再登板の理由

 かつて「もはや戦後ではない」と言われてから半世紀、中曽根内閣が「戦後政治の総決算」と言ってから30年以上がたつのに、私たちはまだ「戦後」という言葉にしばられている。中国や韓国は繰り返し、「戦後の枠組みを守れ」と言う。

 戦後の枠組みとは、第二次大戦における戦勝国と敗戦国の枠組みのこと。彼らや日本の左翼の人たちは、日本を永久に敗戦国のままにしておきたいのだ。

 戦争の反省や過去の歴史に学ぶ姿勢は大切だが、70年以上前のことで、ずっと責められ続けなければならないのは、おかしい。

 戦後70年談話で、白人による植民地が世界に広がった事実を盛り込みつつ、米国も中韓も文句がつけられないよう工夫して高い評価を得た。

 安倍首相は「歴史問題は難しい。匍匐(ほふく)前進で行かなければならない」と言っていた。まどろっこしく、はっきり分かりやすい成果は少ないが、それでも大きく進んでいる。一度辞めた総理の座を再び目指したのはなぜか。歴史問題にしても憲法改正も拉致問題も、彼のほかにやる人間がいないからだ。

   憲法を日本人の手に

 私たちは戦後、憲法をまったく触っていない。「戦後」を終わらせるには、憲法を一条でも一項でも書き換えることが必要だ。

 「憲法は日本人が70年にわたり育んできた」という人がいるが、これは嘘。「育む」とは、手塩にかけて愛情を注ぎ、手取り足取り育てることだ。

 私たちは、憲法を神棚の上に置いて遠くから眺めるだけで、ほこりを払おうともしてこなかった。日本人の手で少しでも変えることによって、憲法は日本人の手に取り戻され、戦後の終わる一歩が踏み出せる。

 それをやろうとしている安倍政権には、匍匐前進でもいいから進めてほしいと心から願っている。

【私の論評】これからマスコミの一部と官僚支配が作る日本最期の厳しい時代がくるかもしれない(゚д゚)!

阿比留氏の「左がかった人たち、安倍政権をたたきつぶそうと必死」というのは、本当です。本日も都議選でその典型的なマスコミのやり口がツイッターで流されていました。

そのツイートを以下に掲載します。

写真の部分、ツイートでは小さいので、以下に拡大したものを掲載しておきます。





本当にこの事例は理解しやすいです。森友学園でも、加計問題でも、このような調子です。先日は、「そこまで言って委員会NP」に竹中平蔵氏がでて、森友でも加計問題でも、総理や菅官房長官らが、総理の意向などとは全く関係ないことを、わかりやすく説明しているにもかかわらず、マスコミはそれを報道しないという趣旨のことを語っておられました。

この構造、上のツイートと全く同じです。この点では、阿比留氏の講演内容は素晴らしいものとは思います。

それにしても、反安倍派は、必死です。そもそも、都議選は国政選挙ではありません。国政選挙でなぜ「反安倍」なのかも良く理解できません。この選挙は国政にはほとんど影響はないでしょう。

仮に影響があったにしても、以前もこのブログに掲載したとおり、都民ファーストの会が大勝利したとしても、それは公明党の勝利でもあります。であれば、国政にはほとんど影響はないとみるべきでしょう。そんなことは、最初からわかりきっているのですが、都議選にまで「安倍やめろ」シュプレヒコールをぶちあげ、それをマスコミが偏向報道してまで強調するというのですから、彼れらにとっては安倍総理はよほど、脅威に感じているのでしょう。

朝日新聞や、毎日新聞など反安倍系のシナリオの続きは、ここで安倍政権が求心力を失い、それを煽りまくり、7月に前倒しされた内閣改造が「冴えない」「新鮮味がない」と連続印象操作で畳かけるのが次の戦法になると思われます。

そうして、これほど壊滅的とは思っていなかったにせよ、自民党内では都議選敗北は織り込み済なので、自民党の議員の関心は大規模になりそうな内閣改造・党役員人事でのポスト奪取にもとから移動していると思います。壊滅的な敗北なので入れ替えポストが増えそうと内心喜んでいる人も多いかもしれません。
それにしても、都民ファーストはかなり強いです。自民は歴史的大敗です。ここまでは反安倍系のマスコミがずっと想定し、事実上の策動していたシナリオ通りです。しかし、問題は民進党と共産党がどこまで減らすかです。このふたつの政党が思いのほか自民党を崩してしまうことが反安倍系のマスコミの狙いでしょう。

しかし、これだけ都民ファーストが強いということになると、たぶん日本風リベラル・左派系の反安倍系の人たちで、まともな政治勘をもっている少数の人々は、この都民ファーストの大躍進にむしろ脅威を抱いているかもしれません。なんといっても小池氏の政治信条というか本音はかなり右なのは過去の発言をみれば明瞭です。これで、改憲にはずみがつくかもしれません。

しかし、知事のチェック機能がもともとないとはいえ、今後名実ともになくなるわけで、小池知事の責任はマックスになります。つまり失敗の言い逃れは一切できなくなります。それは財政状況で単純に今後明瞭になることでしょう。

ところで、ブログ冒頭の記事で、阿比留瑠比氏の全くするりと抜けている観点が、やはり安倍総理の経済対策です。いわゆる金融緩和と積極財政によるデフレからの完全脱却です。

安倍政権で変わったのは、何といっても日銀の金融緩和策です。残念ながら、積極財政は、できなかったどころか、8%増税により、全く反対の方向に動いてしまいました。ただし、10%増税はいまのところ延期された状態にあります。

ちなみに、都民ファーストの強さは、安倍政権が強かったことと同じで、都民の関心は、雇用(景気)・福祉・教育に重点があり、それについての小池氏への期待が色あせてないと考えられます。対して小池知事に反対する側は、豊洲や東京オリンピックなど都民の関心の低いもので批判を展開していて、批判効果は限定的だったと考えられます。

それだけ、国民も都民も雇用(景気)・福祉・教育に重点おいているのです。これを都自民党は忘れていたというか、ほとんど眼中になかったように思います。

そうして、先日このブログにも掲載したように、骨太の方針から「増税」という言葉がいっさい消えました。

この動きに、消費増税を「省是」としている財務省は神経を尖らせています。表立っては動けないのですが、いろいろと手を回しているようです。その一例が、このブログでもとりあげた自民党内の「反アベノミクス」勉強会の発足支援です。

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」に否定的な自民党有志による「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」(野田毅会長)が15日、2回目の会合を国会内担当で開き、石破茂前地方創生相ら議員約30人が出席しました。講師の早川英男元日銀理事は「デフレ脱却による高成長は幻想だ」とアベノミクスを批判し、石破氏は記者団に「原油安と円安に頼る経済政策であってはならない」と述べました。

講師の早川氏は、「金融緩和するとハイパーインフレになる」と言っていたエコノミスです。今のところそのようなことは起こっていません。

一方安倍政権は、ノーベル賞学者であるスティグリッツ氏やシムズ氏の意見を参考にし、必要なのは財政健全化よりもむしろ財政出動である、としています。彼らは、政府の財政状況を見るとき、実質の「子会社」といえる日銀を含めた「統合政府」のバランスシートで見るべきで、そうすれば特に財政上の問題はないことがわかると主張しています。

ここのところ、政権と「反安倍」の政治闘争が過熱してきています。「骨太方針」で消費増税の文言が消えたのは、本格的な政治闘争が幕を切った合図であると考えられます。

この政治闘争に当然のことながら、野党、マスコミ、自民党の反対派も参戦します。いかに、安倍政権側が多勢に無勢であるか理解できます。

戦前から、政権批判で政治的実力者を叩き落とすのは、本人の「スキャンダル」のねつ造、煽りでした。最近では、政治家が平均的に隙きがなくなったのか、首相のケースでわかるように、「お友達」「夫人」などのキーワードでありもしないことをねつ造して批判する新手法が登場しました。この手法の威力はかなりあることも今回証明されました。

いずれにせよ、ネットvs新聞・テレビでは前者はまだまだ圧倒的に不利です。戦前には、今で言うフェイクニュースを乱造する大マスコミに、当時の小新聞などが抗したのですが、結局大勢を変えることはできませんでした。今回の都議選も同じ展開でした。

ひよっとすると、安倍政権は、多勢に無勢の状況を変えることができず、マスコミや野党、自民党内の敵により、先の新手法により完敗して、これからマスコミの一部と官僚支配が作る日本最期の厳しい時代がくるのかもしれません。そのようなことだけは、避けたいものです。

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2017年7月1日土曜日

文在寅大統領への「ホメ殺し」 人生のルーツを持ち出し反米、親北、親中にブレーキ―【私の論評】文在寅大統領が失脚したとき韓国は北朝鮮に飲み込まれる(゚д゚)!

文在寅大統領への「ホメ殺し」 人生のルーツを持ち出し反米、親北、親中にブレーキ 

韓国の文在寅大統領=6月28日、ワシントン
 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)・新大統領が米国を訪問中だ。彼はワシントンに到着した日、まず米海兵隊博物館にある朝鮮戦争(1950~53年)を記念する米韓友好のモニュメントを訪れた。これが戦争で最激戦地の一つだった「長津湖(チャンジンホ)戦闘」を記念するものというところが興味深い。

「長津湖」は北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)のケマ高原にある地名。北朝鮮支援で攻め込んできた中国の大軍に米軍(国連軍)が包囲され、大打撃を受けたことで知られる。

朝鮮戦争は北朝鮮軍の奇襲侵攻でソウルが陥落した後、米軍(国連軍)の支援で盛り返し、ソウルを奪還した米韓軍は北上して平壌を占領。さらに北上したため中国軍が北方から大軍で介入し、米韓軍を南に押し戻したという経緯がある。

長津湖戦闘記念碑を訪問した文在寅大統領が28日(現地時間)、米バージニア州海兵隊博物館で
スティーブン・オルムステッド元米海兵隊中将(右側)と一緒に、長津湖戦闘記念碑を見学している
 したがって朝鮮戦争は途中から“米中戦争”の様相となった。なかでも「長津湖戦闘」は米軍が中国の大軍に押しまくられ、東海岸の咸鏡南道・興南港から大量の避難民とともに南への撤退を余儀なくされた「興南撤収作戦」につながる苦闘の象徴として知られる。

この時の「興南撤収」で北朝鮮から逃れ釜山港にたどり着いた北朝鮮の住民に文在寅氏の両親もいた。文氏はその後、釜山近郊で生まれたが、歴史的な意味では彼はいわば「長津湖戦闘」の“申し子”なのだ。

1950年12月9日から24日まで続いた興南撤収
 その彼が訪米の第一歩に「長津湖戦闘記念碑」訪問を選んだことを韓国メディアはこう書いている。

「あの時、米軍が大きな犠牲を払って中国軍の南下を阻止したおかげで、文大統領の父母をはじめ20万人の興南撤収が可能になったのだ。(記念碑訪問は)韓米血盟にからむ文大統領の家族史を通じ、同盟外交の第一歩を踏み出す象徴的な歩みである」(6月29日付、東亜日報社説から)

左派系の革新政権である文在寅政権の外交姿勢については内外で懸念する声がある。文氏が自ら秘書室長など参謀を務めた師匠の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(2003~08年)が「米国を怒らせることがあってもいいではないか」などと公言し、いわば「米・中等距離外交」で米国離れを目指した“前科”があるからだ。

盧武鉉大統領(右)秘書室長職を務めていた文在寅(左)
 今回、文大統領の訪米直前には政権の外交参謀が北朝鮮の主張に歩調を合わせるように「米韓軍事演習縮小論」を公言。政権内部に「自主外交派」を布陣し、対北政策における米韓協調路線を手直しするような動きが見え隠れしている。

このため不安が強い保守派を中心に国民は大統領の初訪米を固唾をのんで見守っているのだが、そのスタートが「長津湖戦闘記念碑」訪問だったから保守派はとりあえずホッとしている。

先の新聞社説はそうした国民心理の反映といっていい。あえて解説すれば「文在寅さん、あなたのルーツは反北、反中、親米だったのではないですか。それを忘れては困りますよ」というもので、彼の人生のルーツを持ち出し反米、親北、親中に傾かないようブレーキをかけているのだ。一種の“ホメ殺し”である。

ついでにもう一つホメると、文在寅氏はすでに息子を米国に娘は日本に留学させるなど家庭は十分に国際的で現実的なのだ。自らのルーツと韓国が置かれた現実的な国際環境からすれば反米、反日など出てこないはずだが。

【私の論評】文在寅大統領が失脚したとき韓国は北朝鮮に飲み込まれる(゚д゚)!

現在韓国は、結局北朝鮮に飲み込まれてしまうと説と、そうはならないだろうという説とが真っ二つに別れているようです。

北朝鮮に本当に飲み込まれるかどうかは、別にして、飲み込まれるとしたらこのようなシナリオになるだろうということについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【痛快!テキサス親父】韓国はまさに「赤化危機」 完全な日韓合意違反、国際的信用は失墜した―【私の論評】韓国の赤化で、半島全体が支那の傀儡になる?
金正恩
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、韓国が北朝鮮にのみこまれるシナリオの部分を以下に引用します。
赤化した韓国は、THAADの導入を拒否するか、導入した後に撤去することになるかもしれません。そうして支那は、それを促すため、北朝鮮と韓国に平和条約を結ぶよう勧告するでしょう。そうして、支那は韓国に平和条約を結すべばTHADDの導入は必要ないことを強調することでしょう。

THAAD導入で支那から制裁を受け、経済面に苦しい韓国は、THAADを導入を断念すれば、韓国制裁を解くといわれれば、赤化した韓国は拒否できないことでしょう。軍事境界線に配備した長距離砲の撤去など、非核化した北朝鮮が韓国の要求をのめば、平和条約が締結される可能性はかなり高くなると思います。

平和条約締結後の韓国には、在韓米軍が存在する意義がなくなくなります。韓国は、米軍の撤退を要求するかもしれません。それに呼応して、在韓米軍は大幅に削減され、いずれ撤退することになるかもしれません。
次のステップは「南北連邦国家形成」ということになるでしょう。支那の意を受けた北朝鮮の工作員が「今こそ悲願の統一だ」と民族感情を刺激し、すでに赤化している韓国の人々は「一国・二政府・二体制での統一」という建前に熱狂することでしょう。そうして「南北朝鮮民主連邦」が実現することになります。

そして、最終段階が「北朝鮮体制での完全統一」です。支那傀儡の北朝鮮は「一国二体制は非効率だ。一方の体制に統一しよう」と国民投票を韓国側に呼び掛けることでしょう。人口が2倍いる韓国は「北朝鮮をのみ込める」と踏んで、これに応じることでしょう。

しかし、北朝鮮は約2000万人の有権者全員が北の体制を支持します。一方、韓国側の約4000万人の有権者はそうはいきません。仮に、投票率80%とすると投票者は約3200万人。うち、600万人以上が北の体制を支持すれば、北朝鮮側の勝利となります。
大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の人口の推移
「財閥を潰して社会格差を無くせるなら」「地獄の生活苦から抜け出せるなら」など、韓国には国全体をガラガラポンしたい衝動に駆られる住民が大勢存在します。
国民投票で選ばれるのは、恐らく北朝鮮側の体制でしょう。そうなれば、韓国は北朝鮮にのみ込まれて「支那の属国」と化し、人々からすべての人権が剥奪されることになります。その時韓国は、真実の「HELL(地獄)のKOREA(韓国)」となるのです。 
このようなシナリオは十分に成り立つものと思います。しかし、現在のところ韓国が北朝鮮に飲み込まれる可能性は五分五分だと思います。

私自身は、五分五分に近いものの、北朝鮮に飲み込まれない可能性のほうが高いと思っています。

ブログ冒頭の記事にもあるように、文在寅大統領は、訪米初日にボスニア州の米海兵隊国立博物館にある長津湖戦闘記念碑を訪問しています。

長津湖戦闘記念碑を訪問した際当時参戦した海兵に興南撤退の
写真を見ながら説明を受けている文在寅大統領(手前左)
そうして、以下のように述べています。

「長津湖(チャンジンホ)の勇士たちがなかったら、興南(フンナム)撤収作戦の成功がなかったら、私の人生は始まっていなかったはずであり、今日の私もいないはずです」

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は28日(現地時間)、米国訪問初の日程としてワシントンの米海兵隊博物館にある長津湖戦闘記念碑に献花しました。長津湖の戦いは1950年の冬、蓋馬高原(ケマゴウォン)にある長津湖一帯で、中国軍7個師団に包囲された米海兵1師団が悪戦苦闘の末、中国軍の南進を遅らせた戦闘で、連合軍の興南撤収に決定的な貢献をしたと評価されています。

文大統領は、ロバート・ワーク米国防総省副長官やロバート・ネラー海兵隊司令官のほか、興南撤収作戦に関わった関係者と家族らが参加した中で開かれた献花式で、「長津湖の勇士たちの驚くべき闘魂のおかげで、10万人以上の避難民を救出した興南撤収作戦も成功することができた。その時、メレディス・ビクトリー号に乗り込んだ避難民の中には私の両親もいた」とし、長津湖戦闘と興南撤収作戦にまつわる家族史を紹介しました。

文大統領は、「皆さんの犠牲や献身に対する感謝の気持ちはどんな言葉でも言い表せない。緊迫した瞬間に、多くの避難民たちを北朝鮮から脱出させてくれた米軍の人類愛に深い感動を覚える」として、心から感謝の意を伝えました。

文大統領はさらに、「大韓民国は皆さんと両親の犠牲や献身を記憶している。韓米同盟はそうして戦争の砲火の中で血で結ばれ、両国国民一人ひとりの人生と強くつながっており、『さらに偉大で強い同盟』に発展するだろう」と強調した。ネラー司令官は記念演説で「文大統領の家族は我が海兵、特に、海兵1師団と個人的な縁を持っている。その縁を大切に思ってくれたことに感謝する」と話した。

記念演説直後、近くに山査子を一本植えた文大統領は「韓米同盟はこれからさらに生い茂った木のように成長し、統一された朝鮮半島という大きくて充実した実を結ぶだろう」と話しました。同日の行事は米海兵隊のフェイスブックを通じて生中継されました。中継映像には文大統領の到着と献花、文大統領とネラー司令官の記念演説シーンなどがそのまま流れました。動画は1日で22万人が視聴しました。

文在寅氏は当然のことながら、両親からこの話を受け継いだのでしょう。その際に、当時の北朝鮮の酷さや中国のやり口についても受け継いだと思います。その大統領がやすやすと、北朝鮮に飲み込まれるようなことはしないと考えられます。

興南撤収に関しては、韓国民であれば誰でも知っていることであるし、米人でも知っている人は多いです。これは、2015年度の韓国映画『国際市場であいましょう(Ode to my father)』にも描かれています。

『国際市場で逢いましょう』(こくさいいちばであいましょう、原題:국제시장)は、2014年の韓国映画。家族を守るために、朝鮮戦争やベトナム戦争といった激動の時代を生き抜いた男の生涯を描いた映画。第52回大鐘賞では作品賞を始め10部門を受賞しました。観客動員数は1300万人を突破し、韓国映画の歴代観客動員数2位につけています。


58秒くらいのところに、江南撤退のシーがあります。

「興南撤退」は、朝鮮戦争当時、中共軍の攻勢で戦況が不利になると、咸鏡道(ハムギョンド)北東部戦線で作戦中だった米軍が、興南港で「メロディス・ビクトリー号」に約1万4千人の避難民を乗せて撤退した作戦です。「メロディス・ビクトリー号」は1950年12月23日に興南を経ち、24日に釜山(プサン)を経て25日に巨済島(コジェド)に着いて避難民を降りました。これは「クリスマスの奇跡」とも呼ばれています。この1万4千人の避難民の中に在文寅氏の両親も含まれていたのです。

映画「国際市場であいましょう」から。咸鏡南道興南港で「メロディスビクトリー号」に
積んでいた武器を捨て、代わりに約1万4千人の避難民を乗せて撤退した「興南撤退」のシーン
2015年に、この映画が米国で放映されたときの模様については、以下の記事をご覧になって下さい。
韓米の老兵を泣かせた「国際市場」、「今でもその日を忘れられない」 
文在寅氏は、このような家族史を持ち、息子を米国に娘は日本に留学させるなど家庭は十分に国際的で現実的な感覚を持っているはずです。

文在寅氏は1953年、韓国南部の慶尚南道・巨済島で2男3女の長男として生まれました。両親は北朝鮮の咸鏡南道出身。朝鮮戦争で避難を余儀なくされた一家は巨済へ逃れ、その後、釜山へ転居します。避難民の集まる貧民街で練炭配達などをして生計を立てました。生活は貧しく苦しい日々でしたが、それによって自立心が育てられたと振り返っています。

成績は良く、中学・高校と名門校に進学しましたが、裕福な学友との違いに直面し、友達ができませんでした。図書館に籠って、本ばかり読んでいたといいます。

高校に入ると社会への反抗心が芽生え、酒やタバコにも手を出し、4回停学処分を受けました。このため「文在寅(ムン・ジェイン)」という名前をもじって「問題児(ムンジェア)」のあだ名がつけられました。

慶熙大学時代には学生運動に積極的に参加。3年生だった1975年、朴正煕政権反対デモを主導して逮捕・収監され、大学を除籍されました。

釈放された文氏は強制徴兵され、特殊部隊に配属されます。パラシュート降下訓練、夜間行軍、水中浸透、暴動鎮圧など、多様な訓練を経験しました。過酷な訓練によって同僚が命を落とす場面にも遭遇したといいます。文氏自身、「パラシュート降下訓練で空中を飛ぶのが気分爽快だった」と話しています。

特殊部隊に所属していたときの文在寅氏
北朝鮮に融和的と指摘される文氏ですが、北朝鮮有事の際には「前線で戦う」と明言。特殊部隊での経験を誇りにしています。

妻との出会いは大学でした。学園祭のパートナーとして過ごし、「好感をもった」。しかし、その後はデートをしたことがなかったといいます。

そんな彼女が突然、拘置所まで文氏の面会に来たのです。文氏は驚きました。彼女が持参したのは、文氏の出身校が高校野球で優勝したというスポーツ新聞の記事。文氏の野球好きを覚えていたのです。

「刑務所で母校の高校野球優勝の記事を読むなんて」

文氏はおかしくなりましたが、そんな彼女をかわいい、と思ったといいます。

軍隊、司法修習所、刑務所と、文氏の行く先々に彼女が面会に訪れる。2人は長い「面会の歴史」を経て、出会いから7年後、結婚したのです。

除隊後は猛勉強の末に司法試験に合格。2次試験の合格通知は再び収監された刑務所の中で受け取りました。判事を志望しましたが、学生運動の経歴があるため叶わず、釜山で弁護士生活を始めます。

この時、のちに大統領になる盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏と運命的な出会いを果たします。共に労働運動の弁護に取り組み、盧氏が大統領に当選した後は、政権発足から終了までを共にしました。激務のため歯が10本抜けたとのエピソードがあるほどです。

盧武鉉氏の死後は政界とは一線を画していましたが、政権交代の声に押されて復帰。国会議員当選を経て、2012年の大統領選に出馬し、朴槿恵氏に僅差で敗れました。

「大統領に就任したらアメリカより先に北朝鮮に行く」
「核の完全廃棄と朝鮮半島の非核化を議論できるなら、金正恩と首脳会談する」
選挙戦の初期にはこう述べていた文氏。

その後は「早いうちにアメリカを訪問して米韓同盟を再確認する」「金正恩が最も恐れる大統領になる」と方針転換しました。

文在寅氏は、本心では北朝鮮に韓国を飲み込ませようなどという考えは毛頭ないものの、大統領選に勝利するため、親北派と反日を利用したのだと思います。

というより、これは朝鮮の歴史をみているとよくわかるのですが、とにかく外国を自分の国の内乱などに利用すという、朝鮮のお家芸の発露なのではないかと思います。

しかし、ミイラ取りがミイラになるという格言もあります。大統領になるために、親北派を利用したものの、北の考えに感化されしまうということもありえます。あるいは、自らは本当は親北派ではないものの、親北派を味方につけないと政権を維持できない状況に追い込まれ、結局行動は親北派のようになるということも考えらます。

あるいは、大統領選で親北派を利用したことがアダとなり、親北派から反発をくらい、朴槿恵のように短期で政権の座を追われるということも十分に考えられます。

文在寅政権が長続きすれば、北の工作員の扇動になどにより、親北に振れた韓国民の感情も徐々に落ち着き、まともになる可能性も大きいと思います。何しろ、北や中国の脅威は歴史は長く韓国民の記憶に刻まれているはずです。

いずれにせよ、いまのところは結論はいえませんが、私としては文在寅大統領が短期で失脚したときが、北に飲み込まれる危機がやってくるのではないかと思います。そうして、その確率は高いです。なぜなら、このブログにも以前から述べているように、文在寅氏の経済対策は全く意味がなく、韓国経済はこれからさらに苦しくなるだけだからです。苦しいどころが、今のままでは大多数が塗炭の苦しみに追いやられることになるはずです。

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2017年6月30日金曜日

日銀の原田泰審議委員はヒトラーを賞賛してはいない。ロイターの記事は誤解を招く―【私の論評】経済史を理解しないと馬鹿になる(゚д゚)!

日銀の原田泰審議委員はヒトラーを賞賛してはいない。ロイターの記事は誤解を招く

田中秀臣


上武大学教授田中秀臣氏

非常に驚く記事を読んだ。ニューズウィーク日本版ウェブに6月28日に掲載された、ロイターの伊藤純夫(編集 田巻一彦)による"日銀の原田審議委員「ヒトラーが正しい財政・金融政策をして悲劇起きた」" と題された記事だ。

 深刻な誤解を世界の読者に与えた

この題名しか読まない人は、あたかも原田泰審議委員が、ヒトラーの政策を「正しい」ものとして肯定したかのような印象をうけとったのではないか。実際にこの記事へのコメントには、少数ながらそのような反応がある。さらに深刻なのはこの記事の海外版の見出しであり、Bank of Japan policymaker Yutaka Harada praises Hitler's economic policiesとある。つまり「原田泰日銀政策委員がヒトラーの経済政策を賞賛した」というものとして掲示されている。これは深刻な誤解を世界の読者に与えたであろう。

もし原田審議委員のヒトラーに対する評価を肯定的なものと解釈するならば、それは解釈する側の無理解か、または悪意による歪曲か、そのいずれかでしかない。原田審議委員は従前から、ヒトラーの悪行の数々を痛烈に批判し、ヒトラー政権のような存在が二度とこの世に現れないために、いままでもいくつかの著作・書籍を書いてきた。それらは公知のものであり、ロイターの記者らも簡単に入手でき、原田審議委員の発言の趣旨を確認できたはずだ。それをしないのであれば、私見では深刻な問題であろう。また少なくともヒトラー政権を肯定的にみなしていると誤解を与えないような記事内容、また見出しの工夫が必要だったろう。

 原田審議委員の趣旨は

以下では、原田泰審議委員のヒトラー政権の評価、そしてヒトラーの経済政策の問題性を、彼の著作『反資本主義の亡霊』(日経プレミアムシリーズ)を参照に解説したい。なるべく原田審議委員の趣旨を伝えたいので、文章も彼のものをできるだけ拝借したことを、著者と読者の方々にお断りしたい。

原田泰審議委員 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
「第一次世界大戦後の混乱の中で、ドイツは物価水準が一兆倍にもなるハイパーインフレ―ションに襲われた。その混乱の中でナチスが権力を握り、ヨーロッパを戦乱に陥れ、ユダヤ人の大虐殺を行った。世界を征服しようというナチスの勢いを見て、日本の軍部は日独同盟を結び、アジア征服に乗り出した。その結果が、大惨事である。だから、インフレを起こしてはいけないと議論されることが多い」(同書。187頁)。

このハイパーインフレ(高いインフレ)がドイツ社会を破壊し、それがナチスの台頭を招いたというのは誤解であると、原田審議委員は説いている。ハイパーインフレや高いインフレではなく、デフレの蔓延こそがナチスの台頭を招き、後の大惨事につながったというのが原田審議委員の主張だ。

ドイツのハイパー・インフレ時に紙くずになった札束をゴミ箱に捨てる人たち
そもそもドイツでハイパーインフレが起きたのは1910年代の末であり、ナチスが政権を奪取したのは1934年であり、ハイパーインフレから15年も時間が経過している。1920年代はワイマール共和国の時代であり、なんとか平和が維持されていた、それが崩れたのは1930年代の大恐慌というデフレと失業の時代ゆえであった、というのが原田審議委員の着眼点だ。インフレではなく、デフレこそナチス台頭の経済的原因であったということだ。

「ヒトラーは、インフレの中では(ミュンヘン一揆の失敗など)権力が握れず、デフレになって初めて権力を得たのである。この単純な事実から、インフレもデフレも悪いが、デフレの方がより悪いと結論を下すのが当然と思うのだが、なぜ逆の結論になって、その結論を多くの人が信じているのだろうか」(カッコ内は田中の補遺、同書188頁)。

1930年代のドイツでは、デフレの進行と30%を超える極度に高い失業率が出現した。ナチスはこの経済的混乱を利用して、「人々の敵愾心をあおり、政権を奪ったのである」(同書、189頁)。

「政権を奪った後に何をしたか。金融緩和政策でデフレから脱却し、景気を回復させ、アウトバーンという高速道路を建設し、フォルクスワーゲン(国民車)を造るという産業政策も行った。(略)すべては大成功だった。国民はこの大成功を見て、ナチスの対外政策、ヨーロッパ征服も正しいのではないかと思ってしまった。日本の軍部もそう思ったのである」(同書、189頁)。

 ナチスの経済政策の「大成功」をほめたたえているのではない

だが、これはナチスの経済政策の「大成功」をほめたたえているのではない。経済政策は「大成功」したが、それによってもたらされたのは、ナチス政権による「人種差別や世界征服」などの「大惨事」であった。ナチスの経済政策の「大成功」という皮相な評価にドイツ国民や日本の軍部が目を奪われないで済んだ可能性の方に、原田審議委員は注目すべきだと説いているのだ。ここを間違えてはいけない。ロイターの記事のように間違えてはいけないのだ。

「そもそも、ヒトラーの前の政権が、金融を緩和し、デフレから脱却すればよかっただけの話である。そうすれば、失業率は低下し、人々は理性を取り戻し、人種差別や世界征服を呼号するナチスに投票などしなかっただろう。ヒトラーは政権に就くことができず、第二次世界大戦は起こらなかった」(同書、189-190頁)。

この一文を読めば、原田審議委員の趣旨は明瞭であろう。彼ほど世界の人々の自由を愛しその可能性を推し進めようというエコノミストは、ほとんど私のまわりにいなかった。その発言の一部だけを切り取り、自由と人権とそして人々の生命を奪ったヒトラーの政策、そして経済政策を「賞賛」することほど、原田の趣旨に遠いものはない。

【私の論評】経済史を理解しないと馬鹿になる(゚д゚)!

ナチスを台頭させたのは、ハイパーインフレであると思い込んでいる人は結構多いようです。しかし、これは真実ではありません。ナチスを台頭させたのは、デフレです。

この歴史的事実を把握している人は、原田審議員の主張を間違えて受け取ることはなかったでしょう。

原田氏は、誤解を招いたことに関しては、謝罪をしています。以下にそれに関する記事のリンクを掲載します。
ヒトラーの政策を正当化する意図ない=原田日銀委員が謝罪


日銀の原田泰審議委員は30日、都内で29日に行った講演で、ナチス・ドイツ総統だったヒトラーが「正しい財政・金融政策をしてしまったことで、かえって世界が悪くなった」などと発言したことについて、誤解を招く表現があったことを心よりお詫び申し上げたいと謝罪した。ロイターに対してコメントした。 
原田委員は一連の発言について「早期に適切な政策運営を行うことの重要性を述べたものであり、ヒトラーの政策を正当化する意図は全くない」と述べ、「実際、発言の中において、ヒトラーの政策が悲劇をもたらしたことは明確に指摘している」とした。 
ただ、「一部に誤解を招くような表現があったことについては、心よりお詫び申し上げたい」と謝罪した。 
原田委員の発言について日銀では「日本銀行としても、審議委員の発言に誤解を招くような表現があったことについては遺憾に思っており、こうしたことがないよう、今後とも注意してまいりたい」とコメントした。 
原田委員は29日の講演で、1929年の世界大恐慌後の欧米の財政・金融政策に言及し、「ケインズは財政・金融両面の政策が必要と言った。1930年代からそう述べていたが、景気刺激策が実際、取られたのは遅かった」と述べた。 
さらに欧米各国を比較すると、英国は相対的に早めに財政・金融措置を講じたが、ドイツ、米国は遅く、フランスは最も遅くなったと分析。 
そのうえで「ヒトラーが正しい財政・金融政策をやらなければ、一時的に政権を取ったかもしれないが、国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかっただろう。彼が正しい財政・金融政策をしてしまったことによって、なおさら悲劇が起きた。ヒトラーより前の人が、正しい政策を取るべきだった」と語った。 
合わせてナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺と第2次世界大戦によって、数千万人の人々が死んだとも述べた。
この謝罪の内容からみて、ブログ冒頭の田中秀臣氏の論評は筋の通ったものであることがわかります。

さて、ドイツのハイパーインフレに関してさらに付け加えさせていただきます。

1922年から1923年に起きたドイツのハイパーインフレ Hyper Inflation は、西側諸国の教科書では「政府の通貨システム支配の失敗による典型的な人災」として紹介されています。

銀行家が通貨発行権を支配するということは「責任を課せられ」、「安全を保障する」ことです。しかしその実、銀行家と彼らが支配する中央銀行は、ドイツにハイパーインフレを起こした黒幕でした。

ドイツ帝国銀行 Reichsbank(1876~1948年)は、1876年に創設された民間所有のドイツの中央銀行ではありましたが、ドイツ皇帝 Deutscher Kaiser と時の政府の意向を大きく受けていました。帝国銀行の総裁と理事は全て政府の要職が担当し、皇帝が直接に任命する終身制でした。中央銀行の収益は民間株主と政府に配当されましたが、株主は中央銀行の政策決定権を有していませんでした。

これはイングランド銀行 Bank of England(1694年~)や、フランス銀行 Banque de France(1800年~)、アメリカ連邦準備銀行と明らかに異なり、ドイツ特有の中央銀行制度であり、通貨発行権は最高統治者のドイツ皇帝にしっかりと握られていました。ドイツ帝国銀行創設後のマルク Deutsche Mark は非常に安定し、ドイツの経済成長を大いに促進し、金融制度の立ち遅れた国家が先進国を追い越す成功事例となりました。

ドイツ敗戦後の1918年から1922年の間も、マルクの購買力は依然として堅調であり、インフレは英米仏などの戦勝国と比べてもあまり差はありませんでした。焦土と化した敗戦国でありながら、ドイツ帝国銀行の通貨政策がこれだけのレベル Level〔※水準〕で維持され、効果を上げたことは称賛されるべきことでした。

敗戦後、戦勝国はドイツの中央銀行に対するドイツ政府の支配権を完全に剥奪しました。1922年5月26日、ドイツ帝国銀行の「独立性」を確保する法律が制定され、中央銀行はドイツ政府の支配から抜け出し、政府の通貨政策支配権も完全に廃止されました。ドイツの通貨発行権は、ウォーバーグ Warburg Family などの国際銀行家を含む個人銀行家に移譲されたのです。

そうして、ドイツのハイパーインフレの直接のきっかけは、第一次大戦後のヴェルサイユ講話条約により、戦勝国がドイツに支払い不可能な天文学的な数字の賠償金を課したことによります。ドイツ政府はそこで賠償金の資金を調達するため、当時のドイツ帝国銀行に国債を引き受けさせた結果、ドイツ帝国銀行は、大量の紙幣を新規発行したため通貨価値が急激に下がりハイパーインフレが起こったのです。

ウィリアム・オルペン画『1919年6月28日、ベルサイユ宮殿、鏡の間での講和条約の調印』
そうして、それを可能にしたのが、当時のドイツ帝国銀行の独立性です。先にも掲載したように、ドイツ帝国銀行は、ドイツ政府の支配から抜け出し、政府の通貨政策支配権も完全に廃止されました。これは、ドイツ帝国の金融政策を政府はなく、ドイツ帝国銀行が決めることができるということです。

これが、ハイパーインフレを招いた根本にあります。ドイツ帝国銀行としては、天文学的な国債を引き受けるためには、ドイツ帝国の金融政策などおかまいなしで、大量のマルクを刷り増すしか方法がなかったのでしょう。

このドイツのハイパーインフレの惨禍の反省にたち、現在世界各国の中央銀行は、国の金融政策を自ら決定することはなくなりました。国の金融政策の目標はあくまで、政府が定め、中央銀行は、その目標に従い、専門家的立場からその目標を達成するための手段を自由に選べるというのが、今日世界中の中央銀行の独立性のスタンダードとなっています。

しかし、現在そうではない国があります。そうです。それは、日本です。日本もかつては、日本国の金融政策の目標を政府が定めることができたのですが、1997年に日銀法が改悪され、日本国の金融政策は日銀が定めることになったのです。

これでは、あたかも日銀が、1922年当時のドイツ帝国銀行のようになってしまったようです。そうして、これはドイツの惨禍とは全く異なる形で、惨禍をもたらしました。そうです。何が何でも金融引締めということで、デフレをもたらし、その結果として超円高となり日本経済が長い間デフレ・スパイラルの泥沼にしずみこんでしまいました。

しかし、2013年より金融緩和を標榜する安倍政権が登場し、日銀の総裁も白川総裁から、黒田総裁に変わり、金融緩和を実施するようになりました。その後、量的緩和が十分ではない部分もありますが、緩和策が実行され続け、雇用状況は劇的に改善されました。

しかし、日銀法は改悪されたままであり、日本国の金融政策の目標は日銀の審議会で定められています。そうして、現状ではこの新議員の多数派、金融緩和派で占められているので、不十分とはいながら、緩和政策が続けられています。

しかし、日本国の金融政策は日銀の審議会で決定されるわけですから、今後緩和に反対する審議員が多数派になれば、日本政府の意図とは関係なしに、引き締めに転じてしまうということも十分にあり得るのです。

こんな馬鹿なことがつづけられているのが、日本国の金融なのです。しかし、上記のようにドイツ帝国銀行の「独立性」がハイパーインフレの原因の一つであったことが多くの人々に認知されれば、現行の日銀法は改正して、再度日本の金融政策の目標は政府が定めるようにすべきであるという認識が広まると思います。

それと、経済史的な観点からもう一つ付け加えると、世界金融恐慌の原因は、1990年代の研究でデフレであったことがわかっています。

そうして、この世界恐慌から一番最初に抜け出したのは、実はドイツではないのです。それは、日本です。当時の高橋是清大蔵大臣が、今日でいうところの、リフレ政策すなわち、金融緩和策、積極財政を実行していち早く脱却しています。

これについては、このブログでも以前何度か掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ポール・クルーグマンの新著『さっさと不況を終わらせろ』−【私の論評】まったくその通り!!

 

詳細は、この記事をご覧下さい。この記事には、「宝永の改鋳」という江戸時代の、金融緩和策と、高橋是清の政策についても掲載しています。

いずれにせよ、このような経済史を知れば、どういうタイミングで、金融緩和や積極財政を実施すれば良いのか理解できるはずです。

しかし、経済史を知らなければ、原田泰審議委員の講演はヒトラーを賞賛したものと思い込んだり、デフレであるにもかかわらず、金融引締めをしたり、増税などの緊縮財政を正しいと思い込んでしまうような、頓珍漢なことをしても何もおかしいとは思わないということにもなりかねません。

現在のメディア関係者や、政治家などこのような知見を欠いている人が多いです。このようなひとたちが、8%増税を強力に推進したり、景気や雇用が悪い時に、金融引締めを推進するという馬鹿なことをしてしまうのです。

心ある人、特に若い人は、是非経済史を振り返っていただきたいです。そうすることにより、日本国の経済に関して、正しい認識を持てるようになります。

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