2020年10月23日金曜日

EUが対中政策を再考、台湾との関係は深化するのか―【私の論評】台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとって最重要拠点になった(゚д゚)!

EUが対中政策を再考、台湾との関係は深化するのか

岡崎研究所

 9月19日付の台湾の英字紙Taiwan Newsは、中国が世界中、とりわけ最近は欧州で厳しい目を向けられている状況は、台湾と西側民主主義諸国との関係を強化する千載一遇の好機である、とするDavid Spencer(在台湾コンサルタント)の論説を掲載している。


 たしかに、最近のEU諸国と中国との関係の悪化とは裏腹に、EU諸国と台湾との関係はより良好かつ緊密になりつつある。ただし、このような EU諸国と台湾との関係改善の傾向がさらに強化されるかどうかについては、今後、関係各国が台湾との具体的関係をどのように展開させるかにもかかっているので、過度の楽観は禁物であるといえよう。

 9月14日付の仏ル・モンド紙に寄稿した9人の専門家(学者、元政治家を含む)たちが、最近、ますます攻撃的になり、かつ独裁色を強める中国に直面して、欧州は台湾の民主主義を擁護するため行動をとるようにと呼び掛けた。この寄稿文は、これまで欧州は台湾についての中国の主張を追認してきたが、最近、とくに香港をめぐり、国際ルールを平然と無視する中国の動きを見て衝撃を受け、EU諸国にとって対中国、対台湾政策を再考すべき時期に来た、と述べている。

 それだけ香港への「国家安全法」の適用は、香港に2047年まで保証されるはずだった「一国二制度」を抹殺するものとして、大きな影響を欧州諸国に及ぼしていることを意味する。

 さらに、チェコ上院議長一行の台湾訪問団について、中国の王毅外相がチェコは「重い代価」を払うことになる、と恫喝したことは、EUの人々にその傲慢さを強く印象付けたことになる。その他、新型コロナウイルスへの中国の対応やWHOの対応の過ち、ウイグル、チベット等における人権無視、東シナ海・南シナ海を含む周辺海域における独善的拡張主義などはEU諸国に対し、台湾との関係見直しの材料になってきた。

 欧州諸国と中国の関係を見るとき、欧州から見て、中国は経済面で重要性をもっていたが、外交、安全保障面での関係は二の次と見られることが多かった。2008年のリーマンショク等の金融危機直後の欧州は中国からの投資を必要とした時期があった。しかし、その後の過去10年の間にEU諸国と中国の経済関係には大きな変化があったといえる。

 なお、欧州諸国の中では、中国との緊密な経済関係から、ドイツの対中態度は他のEU諸国とは温度差があるのではないかと見られていたこともあり、今後の独中関係には特別の注視を必要としよう。

 今後の欧州諸国と台湾との関係は、日本にとっても他人事ではない。とりわけ、今後の課題としては(1)自由、民主の価値観を共有する台湾との間で、人的交流を拡大し、接触のレベルを上げること(これは、最近米上下両院が可決した「台湾旅行法」の趣旨に合致する)、(2)対話・交流の内容を経済活動だけではなく、安全保障面にまで拡大すること、(3)WHO への台湾の加入促進だけではなく、TPP(環太平洋連携協定)への台湾の加盟を促進することなどは、日本が欧州、米国とともに、あるいはこれら諸国に先駆け率先して、行うべき課題であろう。

 今日、台湾が有する経済・技術のレベル、民主化のレベルはすでに「自由で開かれた」インド・太平洋地域における大きな資産となっているといっても言い過ぎではないと思われる。

【私の論評】台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとって最重要拠点になった(゚д゚)!

上では、主に欧州と中国にの関係について述べていて、我が国に関する記述は少ないです。では、我が国についてはどうすべきなのかを以下に述べます。

我が国が中国との戦いに勝利するには、第一として長期戦を戦い抜く覚悟が必要です。米国との貿易戦争で苦戦している中国は、短期的には米国に対し恭順の姿勢を示し、部分的な譲歩妥協を重ねて早期の合意に導き、経済や国家制度の根幹見直しが強いられる事態の回避に全力を挙げようとするかもしれません。

しかし、中国は“面服従一面抵抗”の戦術に長けています。上辺だけの妥協、戦術的譲歩で時間を稼ぎ、その間にハイテクやAI技術を高め、やがて米国を抜き去る時期が来れば、一転攻勢に転ずることは間違いないです。短期の合意で問題が解決することはないということを肝に銘じるべきであす。中国の脅威を完全に取り除くには、長期の戦いになることへの覚悟と、それを勝ち抜くための強い決意が求められます。

対中戦略の第二のポイント、それは自由主義諸国が引き続き科学技術、なかでもハイテクノロジーなどの知的財産における優越を保ち続けることです。精強な軍事力の維持や経済の繁栄も無論大切な要件ですが、世界をリードし社会を発展させる礎となるのは科学技術です。世界で最初に第1次産業革命を成し遂げた英国は18~19世紀の覇権国に、それに続く米国は第2・3次産業革命を主導して20世紀の覇権国となりました。

他方、近代科学の吸収に遅れた中国はそれまでの大国の座から一挙に転がり落ちていきました。その中国が200年後の現在、第4次産業革命(The Fourth Industrial Revolution:4IR)をリードし、21世紀における覇権国家の座を射止めんとしています。

これを阻止し、日本や欧米が第4次産業革命の主導権を維持するためには、科学技術教育の充実や研究体制の整備、労働力の質的向上等ソフト・ハード両面における大規模な改革が不可欠です。そして人工知能(AI)やビッグデータの精通度、インテリジェントシステムを駆使した巨大プラットフォームの運営能力の高さが、中国との戦いの帰趨を決する鍵になるでしょう。

特に日米としては、これはなぜかあまり注目されないのですが、対潜哨戒能力の圧倒的優位性や、原潜、通常型潜水艦の攻撃能力の優位性については何が何でも守り抜くべきです。


韓国海軍のレーザー照射事件で有名になった海自のP1哨戒機

この優位性があるため、中国が日米の潜水艦の行動をつかめないのに対して、日米は中国の潜水艦の行動を逐一把握できるのです。実際に戦闘になった場合は、中国は日米の潜水艦を発見できないため、中国の潜水艦や空母を含む中国の艦艇は、すぐに撃沈されしまいます。

現在、この能力に関しては米中が中国を圧倒しているため、台湾を軍事的に守ることは実はさほど難しいことではありません。しかし、この優位性が崩れれば、中国はすぐにも台湾や尖閣を占拠し、大々的に世界の海に乗り出すことになるでしょう。

実際米海軍太平洋艦隊の潜水艦が多数、東シナ海、南シナ海など西太平洋海域で活動中であることが5月下旬、明らかにされました。その任務はアメリカ国防総省の「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿って中国への抑止を誇示することにあるのだといわれました。

米軍全体としては当時新型コロナウイルスの感染が海軍艦艇の一部乗組員にも及び、艦隊の機能低下が懸念されることに対応しての潜水艦隊出動の公表のようでした。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて5月下旬に報道しました。米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。だが今回は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

私自身は、米国はコロナに関係なく、原潜を南シナ海や東シナ海に常時派遣しているのでしょうが、今回はコロナ感染により、米軍の力が弱っていると中国にみられ、この地域で中国の行動を活発化することが予想され、それを抑止すためあえて公表したものとみています。米軍は潜水艦のみでも、抑止ができるとみているということです。

中国は、自らの経済的利得拡大のためにグローバリズムを最大限活用し、他国の市場や技術力を貪欲なまでに取り込んでいます。他方、自国に対する外部からの働きかけには徹底した閉鎖鎖国主義で対抗するという非対称のアプローチを採っています。その中国と戦うには、第三の戦略として“真逆の非対称戦略”が効果的です。

これには、自由と公平、そして開かれた国際貿易を守るための多国間ルールの整備・厳格化やWTOの強化・改革などの取り組むことが重要です。


での共同声明では、日米両国が「第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良くするための協力を強化する」ことが合意され、「WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公平な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極」が緊密に協力することがうたわれました。

2018年9月にニューヨークで行われた日米首脳会談

これは名指しこそしていないですが、国際規範やルールの壁で中国の横暴を阻むための戦略の一環とです。

さらに、中国社会の自由化や民主化を促し共産党独裁の体制に穴をあけるため、グローバリズムを活用することです。

すなわち、①世界および中国国内の大衆に向けて、人権や民主主義といった普遍的価値の重要性を繰り返しアピールするとともに、中国国内の人権抑圧や少数民族弾圧の惨状を発信します。②共産党による抑圧や自由の否定は、国際社会だけでなく中国国民も最大の犠牲者であることを訴えます。③世界にとっての主敵は共産党であり中国人民ではありません。自由と解放の社会に向けて、中国国民と自由民主主義諸国が連携を深めるのです。

対中戦略における第四のポイントは、主敵を中国一国に絞り込むということです。ソ連のアフガニスタン侵攻で開始された新冷戦が僅か10年足らずで幕を閉じ、ソ連を崩壊へと追い込んで西側世界が冷戦に勝利できたのは、当時の米国のレーガン政権が主敵をソ連一国に絞った世界戦略を展開したからです。現在のトランプ政権はその方向に進みつつあるようですが、我が国を含む自由主義諸国も戦略の焦点を中国にあわせ、その孤立化を最優先目標とすべきです。

武力による現状変更を躊躇しないロシアも国際秩序の攪乱者であり自由世界の脅威ですが、戦略目的達成のためには時にロシアとの戦術的な妥協も厭うべきではないです。そもそも、現在のロシアのGDPは東京都なみであり、ロシアができることは限られており世界の脅威になることはありません。

しかし、旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承するロシアは、軍事的には侮ることはできません。しかも、中国と長大な国境を接しており、ロシア自身が中国を驚異とみなしています。ロシアを自らの陣営に引き込み、中露の密接な関係に楔を打ち込み両国を引き裂くとともに、北朝鮮問題の早期にロシアも巻き込み、中国のライバルであるインドとの関係も強化する必要があります。

同盟国を持たず、一帯一路、南シナ海どころか地球の至るところで、中国は行動を起こし、集中することがないという中国の弱点を突き、その孤立化を図ることは極めて効果的な戦略になります。

膨張を続ける中国から自由世界を守るには、中国の海洋進出は絶対に阻止しなければならないです。一帯一路構想を挫き、南シナ海やインド洋における影響力の拡大を阻むことも重要だですが、最優先すべきは台湾の防衛です。

中台統一を目論む中国の活発な動きを看過すべきではありません。もし台湾が大陸中国に吸収されれば、中国海軍の外洋進出を食い止めることが困難になるでしょう。中国が民間船舶の妨害を仄めかすだけで、東アジア諸国は中国の威圧に屈せざるを得なくなるでしょう。

日本を含むアジア太平洋諸国のシーレーン防衛は、台湾を確保できるか否かにかかっており、台湾の喪失は自由世界への重大な脅威となることを認識すべきです。

自由と民主主義の理念を台湾と共有する日米欧は、台湾を守るための取り組みを強めていかねばならないです。18年8月にアメリカで成立した「国防権限法」では、台湾との防衛協力を強化する方針が打ち出され、軍事演習の促進も盛り込まれました。

18年3月には米台政府高官の往来を可能にする「台湾旅行法」が成立し、台湾の防衛当局との相互訪問も明記されました。中台紛争の火の粉が南西諸島に波及し、台湾有事が即日本有事となる危険性を考慮すれば、自らの生存と台湾の防衛が一体不可分であることを日本は忘れてはならないです。

台湾は、中国の全体主義への砦

最後に、唯一の超大国米国が、海洋諸国家と緊密な連携と協力を深めていくことが対中戦略において何よりも重要な課題です。海洋への進出を企てる中国からリムランドを防衛し、自由主義諸国のシーレーンを守る重要な役割を担うのは日米豪英印ASEANなどで構成される海洋同盟です。その機能発揮がなければ対中防護壁の構築やグローバル戦略の発動に穴が開いてしまいます。

政治・経済・軍事・文化等を駆使し総合戦略を発揮する中国に対抗するには政経分離のアプローチでは不十分です。「自由で開かれたインド太平洋構想」の枠組みを活用し、海洋諸国家共通の包括的総合的な戦略の構築が求められます。

中国が足並みの乱れを突いて切り崩しに動き、海洋同盟が分断される事態を防ぐことも必要です。米国の影響力が相対的に低下しつつある現在、覇権と抑圧の政治に対抗し、公正で自由な国際経済秩序を維持するため、海洋同盟の主たるプレーヤーとしての日本の責任や果たすべき役割は極めて大きいです。

そうして、台湾の喪失は日本にとって大きな脅威となることは言うまでもありません。

最早台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとっては、最重要拠点といっても過言ではありません。何が何でも守り抜くべきです。

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2020年10月22日木曜日

「左派高学歴エリートは語義矛盾の存在になり果てた」それでも“トランプ再選”が世界のためになるワケ―【私の論評】日本はもとより、世界にとってバイデンよりはトランプのほうがはるかにまし(゚д゚)!

 「左派高学歴エリートは語義矛盾の存在になり果てた」それでも“トランプ再選”が世界のためになるワケ



当選すれば就任時78歳のバイデン氏

 11月3日に米国で行われる大統領選。各種世論調査では、現職トランプ大統領に対して、民主党バイデンの優位が伝えられ、多くのメディアも、バイデンの勝利を予想し、またバイデンの勝利の方が望ましいと論じている。 

 だが、仏の歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は、こうした論調に異議を唱える。

 〈「トランプ再選となれば、米国の民主主義も終わりだ!」といった言辞が繰り返されています。米国に限らず、エリート層が好む高級メディアほど、この論調です。トランプが、下品で馬鹿げた人物であることは言うまでもありません。私自身も、人として、とても許容できない。ただ、トランプをそう非難するだけで事足れりとすれば、米国社会の現実を見誤ることになるでしょう〉

「トランプの再選の方が、どちらかと言えば望ましい」

 トッド氏は、前回の選挙の際も、トランプ勝利を半ば「予言」していた。

 〈2016年の米大統領選の際、私は「トランプが必ず勝つ」とまでは言わずとも、「トランプの勝利などあり得ない」という論調が大勢を占めるなかで、トランプ勝利の可能性を大いに強調しました〉  そして、こう続ける。

 〈前回ほどオリジナルな見解とは言えませんが――というのも一度は起きたことなので――、今回もトランプ勝利の可能性が大いにあり、またトランプの再選の方が、米国にとっても、世界にとっても、どちらかと言えば望ましい――馬鹿げた対イラン政策などを理由に前回ほど積極的な支持ではないのですが――と私は考えています〉

  トッド氏はなぜそう考えるのか。

勝利の可能性は「白人死亡率の上昇」から読み取れた

 〈前回の大統領選を振り返ってみましょう。  ヒラリー・クリントンが「自由貿易」「移民受け入れ」「寛容さ」を米国の“理想”として単に繰り返すなかで、米国社会の“真実”を語ったのは、トランプの方でした。

  その“真実”は、例えば、1999年から2013年にかけて上昇した「45~54歳の白人人口の死亡率」に現れていました。

  中年人口の死亡率の上昇というのは、先進国では前代未聞の現象です。中国との競争に敗れ、産業空洞化が著しい州ほど、死亡率が上昇していたことが示すように、これは、「自由貿易」に大いに関係していました。

  私は、かつて「乳幼児死亡率の上昇」から、「ソ連崩壊」を予言しましたが、「保護貿易への転換を訴えるトランプに勝利の可能性」を見たのは、この「白人死亡率の上昇」という指標からです。ところが、エスタブリッシュメント層は、こういう“現実”を見ようとしなかったのです〉

 トッド氏がとくに問題視するのは、「左派」を自称する高学歴エリートの自己欺瞞だ。

「エリート主義vsポピュリズム」という分断

 〈ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市のメディアや大学のエリートは、トランプ支持者を「学歴がない」「教養がない」と馬鹿にし、ヒラリー本人も、「嘆かわしい人々(deplorable)」とまで言いました。

  学歴社会とは、「出自」よりも「能力」を重視する社会です。しかし、本来、平等を促すための能力主義なのに、過度な能力至上主義によって、高学歴エリートが、学歴が低い人々を侮蔑するような事態に至ってしまったのです。 

 高学歴エリートは、「人類」という抽象概念を愛しますが、同じ社会で「自由貿易」で苦しんでいる「低学歴の人々」には共感しないのです。彼らは「左派(リベラル)」であるはずなのに、「自分より低学歴の大衆や労働者を嫌う左派」といった語義矛盾の存在になり果てています。「左派」が実質的に「体制順応主義(右派)」になっているのです〉

  そして、「教育」が「格差拡大」につながっているとして、こう指摘する。

  〈これは、「学歴」と「左派」が密接に結びつき、「高等教育」が「格差是認」につながっているという皮肉な事態です。その結果として、「エリート主義vsポピュリズム」という分断が生じています。米国に限らず、多くの先進国に共通する現象です〉  この他、「米国の原点としての黒人差別」「民主党の対黒人政策の欺瞞」「鍵を握るヒスパニック票」「米中対立」「もし私が米国人だったら……」を論じたエマニュエル・トッド氏「 それでも私はトランプ再選を望む 」の全文は、「文藝春秋」11月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年11月号

【私の論評】日本はもとより、世界にとってバイデンよりはトランプのほうがはるかにまし(゚д゚)!

エマニュエル・トッド氏といえば、人口統計などからソ連崩壊を正確に予言した、フランスの歴史人口学者です。この方は、私の記憶ではソ連には一度も行ったことはないはずです。人口統計などを元に丹念に調べて、ソ連の崩壊の時期を正確に予測したのです。

フランス人というと、『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティも、米国だけではなく先進国で“高学歴な人”ほど左派政党を支持するということを指摘しています。

現在ではコロナ禍により影を潜めているようにみえますが、フランスでの燃料税増税への反対デモ「黄色いベスト運動」のように、世界中で政治への不満が高まっています。その背景として、世界の政党の大きな変容があります。

かつて左派といえば、労働者の権利を守る集団でした。ところが現在の左派政党は労働者の味方であることをやめ、エリートのための政党に変容しつつあるようです。

江南左派の典型と見られる韓国全法務部長官チョ・ゴク氏


日本や韓国でもそのような傾向があります。資本主義の豊かな生活をしながら高級住宅街に住み、いわゆるエリートであるにも関わらず左翼思想を持ち、親北左翼に同調する人々のことを韓国では「江南左派(かんなむさは)」と呼びます。

体は資本主義の恵沢と大韓民国の恩恵を満喫しながら精神は金正日に親和的、きわめて米国的な生活をしながら口では反米を叫び、自らはお金を求め ながら、他人の蓄財を誹謗します。

人権擁護を主張しつつ、独裁者を庇護し、親日派を糾弾しながら日本企業からお金を貰ったりもします。彼らは偽善者で、二重生活者という見方もできます。

そこから、経済評論家の上念司氏が「江南」を「世田谷」に置き換えて日本の左派(主に主体思想派)を揶揄するために「世田谷自然左翼」という言葉を使い始めました。

本来であれば「世田谷左派」「世田谷左翼」となるはずですが「世田谷自然食品」という響きの良さを取り入れ「世田谷自然左翼」と呼ばれています。ただし、「世田谷自然食品」とは無関係です。
保坂展人世田谷区長は元社民党副幹事長という経歴の持ち主

トマス・ピケティ氏も先進国に共通する同じような事柄に注目しました。

ピケティが研究対象としたフランス、イギリス、アメリカの3国には、選挙の出口調査の膨大なデータベースがあります。国により多少の差異はありますが、投票者の投票先、性別、人種、宗教、最終学歴、所得、資産、といったさまざまな属性が分か。選挙ごとのサンプル数も数千~1万件くらいはあるので、信頼性はかなり高い。

ピケティは、1948年から2017年にわたるこの膨大なデータを使用して、投票者の投票先ごとに、彼ら(彼女ら)の属性が時代とともにどう変化したのかを分析した。すると驚くべきことに、3国のいずれでも、ほとんど同じ傾向が見られたのだ。

ピケティの「発見」を整理すると、以下のようになります。
1.資産の多い人は「右派」に投票し、少ない人は「左派」に投票する。この傾向は、1948年から2017年まで変わっていない。

2.所得の多い人は「右派」に投票し、少ない人は「左派」に投票する。この傾向も変わっていない。ただし所得と投票先の相関は近年、弱まっている(高所得者が「左派」に投票する割合が増えている)。

3.マイノリティ(非白人)はいつの時代も圧倒的に「左派」に投票する。

4.女性は1948年には圧倒的に「右派」に投票していた。だが、徐々に「左派」に投票する人が増え、現在では、「左派」に投票する人の半数以上が女性である。
5.1948年には高学歴者の大多数が「右派」に投票していたが、高学歴者の「左派」に投票する比率が徐々に増えている。現在では、高学歴者のなかの「左派」に投票する比率が、低学歴者のなかの「左派」に投票する比率を超えている。
前述の1~3はほとんど変化していない属性であり、4と5は大きく変化した属性ですが、このなかで、ピケティはとくに5に注目しています。

もともと左派政党というのは労働者階級の政党で、その支持基盤は労働組合でした。労働者は総じて低学歴であり、一方、高等教育が大衆化する以前の高学歴者とは、富裕な資産階級の子弟が圧倒的だから、1948年にいずれの国でも高学歴者が富裕層を代弁する右派政党に投票する傾向が強いのは納得できます。

ところが、先進国では高等教育が徐々に大衆化します。いずれの国でも、大学進学率が大きく上昇しました。これは資本主義経済がより技能の高い労働者、すなわちエンジニアやホワイトカラーのような知識労働者を必要とするようになった結果です。

そして、このようにして高学歴になった人びとは、終戦直後の高学歴者とは異なり、必ずしも右派政党に投票する保守層ではなく、むしろ左派政党に投票する傾向があります。

ピケティによれば、これには2つの理由があります。一つは、高等教育がそもそもリベラルな価値観を涵養するということがあります。たとえば、ほとんどの世論調査で移民に寛容でマイノリティに同情的な人の比率は、高学歴層のほうが低学歴層よりはるかに高いです。

もう一つの理由は、高学歴労働者の所得水準は比較的高いですが、必ずしも資産を多くもつ富裕層ではないからです。彼らには、伝統的に資産階級を優遇する保守政党、つまり「右派」に投票するインセンティブがありません。

このようにして、高等教育の大衆化に伴い、左派政党の支持基盤が低学歴労働者から高学歴の知識労働者へと、大きくシフトしたのです。高学歴の「左派」支持者は、所得水準が比較的高いので、所得再分配にさほど関心をもちません。

彼らが関心をもつのは、リベラルな価値です。こうして現代の左派政党は知的エリートの政党に変質し、その結果として左派政党の関心も所得再分配から移民やマイノリティの問題、あるいはLGBT問題に代表されるアイデンティティ・ポリティックスにシフトした、というのがピケティの見立てです。

このような、リベラルの価値観を重視する米国のリベラル・左派のことを、先の上念氏は、「ビバリーヒルズ青春左翼」と呼んでいます。これは、無論米国の人気テレビ番組の「ビバリーヒルズ青春白書」をもじって揶揄したものです。

このドラマ、実際に放映されていたときは、自分が過ごした高校生活と比較して、あまりに贅沢で、ファッショナブルで眩しく、登場人物たちのものの考え方や、価値観が、自分とは違い、格好も良く感じられ、当時は羨ましくもあり、ある意味妬ましくもありました。そのため、このドラマの登場人物たちに感情移入ができませんでした。

今考えると、こうした妬ましさがもっと大きな度合いにまで、それも絶望的な閉塞感にまで高まっているのが米国の低学歴ブルーカラーの実情なのではないかと思います。

実際、この年代の人たちで、このドラマにでてくるようなライフスタイルをしていた裕福な人たちが、現在リベラル・左派の中心的な存在になっていると考えられ、言い得て妙な揶揄だと思います。

米国で1990年から2000年まで放送された「ビバリーヒルズ青春白書」

かつて、政治における右派と左派の対立は「もつ者ともたざる者の対立」、つまり資本家と労働者の階級対立であると考えられてきました。ところが、現代では左派政党の変質により、右も左もエリートの政党になったのです。そうして、現在ではかつての保守・革新という分類もほとんど用をなさなくなっています。

ピケティの言葉を借りれば、右は資産(物的資本)を所有する「商人エリート」、左は「知的エリート」です。後者は、ヒューマン・キャピタル(人的資本)の所有者と言い換えてもよいでしょう。ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンを思い浮かべれば分かりやすいでしょう。

つまり、右派の伝統的な支持基盤はそれほど変わっていないのですが、左派の支持基盤が大きく変わって、ブルーカラー労働者の味方がいなくなるというエア・ポケットが生まれたのです。

事実、どの国でも、低学歴層の投票率は時を追うごとに低下しています。そしてこの変化に気づいたのは、フランスでも米国でも、左派ではなく右派でした。マリーヌ・ル・ペンであり、ドナルド・トランプです。

さらに、バイデンや民主党が厳しく批判する割には、概してトランプの経済政策は非常にまともです。特に雇用についてはかなり改善しました。これについては、このブログにも過去に掲載したようにFRBも認めています。そうして、経済政策ではトランプ大統領は、雇用にかなり注力しています。それは、低所得者を意識しているからでしょう。

しかし、バイデンは様々な政策を提言をしているのですが、その財源には増税すると発言します。この政策には、低学歴層はとてもついていけません。

さらに、トランプ大統領の一見乱暴に見える言葉遣いや態度は、意図的にブルーカラー労働者に訴えかけるものです。自分は、エリート層の養護者ではないことをその最たるものが、「国境に壁を作る」というネイティビズム(排外主義)です。

なぜなら、移民労働力との競争に真っ先にさらされるのは低所得の労働者であって、知的エリートではないからです。知的エリートはこの壁に激しい拒絶をしていましたが、壁のあるなしは彼らにはほとんど関係がないからです。

ブルーカラー労働者のエア・ポケットは、本来政府が埋めなければなりません。ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市のメディアや大学のエリートは、トランプ支持者を「学歴がない」「教養がない」と馬鹿にし、ヒラリー本人も、「嘆かわしい人々(deplorable)とまで呼んだわけですから、とんでもないです。

企業などの組織であれば、「嘆かわしい人々」は、企業の外に出せば、それは企業にとっては、外部経済となるのでそれでも良いかもしれませんが、国単位ではそういうわけにはいきません。国には外部経済という概念はありません。ヒラリーのいう「嘆かわしい人々」が貧困層となりそれが増えれば、国全体としても問題になります。

そうして、企業にとっても外部経済に貧困者が増えれば、顧客減少につながることになります。

こうしした問題には、従来の民主党政権も共和党でさえも応えようともしなかったのです。それに応えようとしたのが、トランプなのです。

この問題に関しては、もしトランプ氏が再選されたら、雇用を良くするだけではなく、本格的に取り組んでいただきたいものです。

さらに、米国の人口の少なくとも半分は存在している保守層が、米国内のありとあらゆるところで、幅を利かせているリベラル・左派の主張や考え方に、自分たちの考えがかき消されることに、焦燥感や閉塞感を抱いていたところに、トランプが登場したわけです。これらの人々の多くもトランプ支持に回ったので、トランプ大統領が誕生したのでしょう。そうして、これらの人々の多くは、隠れトランプ支持派にまわったとみられます。

無論、米国は大きな国で、様々な要素がからみあっていますから、そう簡単には分析はできないとは思いますが、それにしても少なくとも以上で述べたようなことがなければ、トランプ氏が大統領になることなど考えられませんでした。

トマス・ピケティ氏自身は、トランプ支持の立場を表明したことはないようですが、彼風の見方をしても、どうやらバイデン氏よりは、トランプ氏が大統領になったほうが良いようです。

そうして、日本にとってはどうなのかということですが、これも無論バイデンよりはトランプのほうが良いです。

なぜなら、トランプ氏が登場して、米国が中国に対峙するようになってから、米国の日本に対する過剰な要求や、理不尽な要望が影を潜めるようになってきたからです。

トランプ氏も大統領になりたてのころは、日本に対して厳しい要求をするように見えましたが、結局それらは影を潜めました。それはやはり、中国の国際法やWTOを完璧に無視したようなやり方と、日本を比較すれば、日本は国際法をはじめルールを守っていることが、明白になったからでしょう。

これが、トランプ氏の日本に対する認識を変え、日本に過大な要求をするのは間違いであり、中国こそ過大な要求をするどころか、制裁するべき対象であると考えるようになったのでしょう。そうして、日本との同盟関係を一層強めることこそ、米国にとって利益であると考えるようになったのです。

無論、これに関しては安倍元総理が築いたトランプ氏との太いパイブが役にたっていたのは言うまでもありません。菅政権は、安倍元総理のレガシーでもある米国との太いパイブを維持し、日米の同盟関係をさらに強化していくべきです。

それに、そもそも米国民主党が「反日・媚中」であるのは歴史的伝統であることも忘れるべきではありません。

最も象徴的だったのが、民主党のクリントン大統領が1998年、日本に立ち寄ることなく9日間にわたって中国に滞在したため、「ジャパン・パッシング」と非難された「事件」です。この当時は、日本は世界第2の経済大国でしたし、その頃には天安門事件後様々中国のルール違反や人権無視の状況は散見された時ですが、まさにクリントンの行動は、無礼千万と言わざるを得ません。しかし、邪悪と知りながら、金儲けの誘惑に負けた、民主党はその後中国に傾斜し、オバマでその頂点を迎えることになったのです。

さらに、第二次世界大戦中に日系人を強制収容所に送ったのは民主党のルーズベルト大統領でした。米国では、他の敵国であるドイツ系人やイタリア系は、強制収容所に送られませんでしたから、これは明らかに日本人に対する人種差別です。戦後、88年にレーガン大統領、92年にブッシュ(父)大統領がこれに対して謝罪と賠償を行こないましたが、どちらも共和党です。

そうして、日本人が決して忘れるべきではないのは、民主党のトルーマン大統領が日本に原爆を投下させたことです。ほとんど日本の敗北が濃厚だったときに、長崎と広島に違ったタイプの爆弾を落としたのは、効果を測定する「人体実験」と言われても仕方がないです。

米民主党は、元々は日本の「特定野党」のような政党がが大同団結して巨大化したような組織です。「アベノセイダーズ」ならぬ「トランプノセイダーズ」として声を張り上げたり、「俺にもよこせ」と主張はできても、国家全体の豊かさを増やすことはできません。それは、オバマやバイデンの経済政策をみてもわかります。国富を増やすのは共和党の役割です。

米キニピアック大学が2014年に発表した世論調査で、トルーマン氏以後の米大統領の中でオバマ氏への評価が最低だとの結果が出た後、米国の良識ある国民はトランプ氏を選択したのです。

日本にとっても「反日・媚中」の民主党は鬼門といっても良いくらいの存在です。

日本はもとより、世界にとってバイデンよりはトランプのほうがはるかにましということはいえそうです。

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2020年10月21日水曜日

深刻な欧米のコロナ第2波、日本の輸出産業にも打撃に 第3次補正予算の編成急務だ ―【私の論評】第二次補正予算の予備費を使い切り、第三次を成立させることが当面の菅政権の最優先課題(゚д゚)!

深刻な欧米のコロナ第2波、日本の輸出産業にも打撃に 第3次補正予算の編成急務だ 

高橋洋一 日本の解き方

マクロン仏大統領

 「私たちは第2波のただ中にいる」とマクロン仏大統領は14日、危機感を表した。

 「4週前の4倍に増えた。これらの数字は旅客機の計器盤の警告のように、われわれに向けて点滅している」。これは12日、ジョンソン英首相が国民に警戒を呼び掛けたものだ。

 欧州では新型コロナウイルスの感染が再拡大し、夜間の外出禁止など再び規制を強化する動きも出ている。コロナは世界的に長期化するのか。

 まず、データを整理しよう。16日時点の主要7カ国(G7)の人口100万人当たりの感染者数についてみると、日本は718人、米国は2万4780人、カナダが5067人、英国が9908人、フランスが1万2396人、ドイツが4159人、イタリアが6314人。死亡率は日本が1・8%、米国が2・7%、カナダが5・0%、英国が6・4%、フランスが4・0%、ドイツが2・8%、イタリアが9・5%だ。

 欧米の感染者数は日本と比較して5・8~34・5倍、死亡率は1・5~5・3倍と、かなり深刻だ。

 日本でのコロナ感染は、感染者数と死亡率から欧米から見れば大したことではなく、コロナと経済活動は両立できる程度だ。特に日本の7月からの第2波では、感染者数は増えたが、若年層が多くなったことに加え複合的な薬の投与により全体の死亡率はかなり低下した。このため、緊急事態宣言どころか、各種の自粛措置も取られていない。

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 しかし、欧米でのコロナ感染は、社会的には看過できない水準だ。特に死亡率の高さは深刻であり、ある程度の感染防止のための社会的な規制は国民感情からしても避けられない。

 経済へのひどい悪影響が懸念されるため、非常事態宣言のような強力な措置が取られることは当面ないだろうが、地域を絞ったうえでの夜間外出禁止などの規制はあり得るだろう。

 つまり、コロナと経済活動の両立はなかなか困難だ。経済活動よりコロナ対策を優先せざるを得ない状況だ。となると、欧米の経済活動は制約を受け、低迷するだろう。

 もちろん、財政支援策により経済低迷をある程度抑えることもできるが、悪影響は残るだろう。しかもかなり長期化する可能性が高い。やっと最悪期を脱したところで再びコロナショックに見舞われたわけだ。

 日本としても、国内環境から見ればコロナと経済活動の両立はできても、国内への感染を予防するために、感染が深刻な欧米との人の往来は当分の間できないと思われる。

 欧米の経済活動低迷を受け、日本からの欧米向け輸出もさえなくなるだろう。日本経済は内需が大きいとしても、せっかく経済とコロナの両立ができかけてきたのに痛い打撃だ。

 その意味でも、第3次補正予算をしっかりしなければいけない。2次補正の予備費もまだ5兆円以上残っている。予備費を早く使い切り、3次補正によって、日本経済が欧米のコロナ第2波の悪影響を回避する必要がある。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】第二次補正予算の予備費を使い切り、第三次を成立させることが当面の菅政権の最優先課題(゚д゚)!

以下に三次補正の動きなどに関して、まとめておきます。

政府・与党は10月13日、追加の経済対策を盛り込む2020年度第3次補正予算案を年内に編成し、2021年1月召集の通常国会に提出する方向で調整に入りました。新型コロナウイルスの影響で落ち込む景気の下支えや雇用対策が中心となる見通しです。

自民党の有志議員グループ「経世済民政策研究会」の長島昭久元防衛副大臣らは14日、首相官邸に菅義偉首相を訪ね、新型コロナウイルスの経済対策のため令和2年度第3次補正予算の編成を求める要望書を手渡しました。定額給付金の支給継続を盛り込みました。

要望には打撃を受けた病院の経営支援や、マイナンバーの活用を念頭に社会保障給付の情報基盤整備も求めました。

14日、官邸で菅首相と面会したのは、自民党の有志グループ「経世済民政策研究会」(座長・三原じゅん子厚労副大臣)の長島昭久衆院議員や細野豪志元環境相、武部新衆院議員、渡嘉敷奈緒美衆院議員、三宅伸吾参院議員らです。

首相に提出した要望書には、第2次補正予算で積んだ予備費の残りから国民1人当たり5万円の給付金を追加で支給すべきだとした。さらに給付金の支給継続や、持続化給付金の追加給付などを盛り込んだ3次補正の年内編成を求めました。

面会に同行した田中氏は、菅首相の印象について「既得権を打ち破る成長戦略を実現すべく、経済全体を活性化させるマクロ経済政策の必要性を認識されていた。まさにアベノミクスの継承だ」と振り返りました。

面会では長島氏が要望書について説明した後、田中氏が雇用や財政について、菅首相に補足説明を行いました。

8月の完全失業率(季節調整値)が3・0%に上昇したことが話題となりましたが、菅首相は鋭い現状認識を示したといいます。

「私が『雇用の悪化で現状のままでは最悪40兆円程度の経済損失が出る』というと、菅首相から『失業率は公式統計は3%だが、本当はもっと高いのですよね』と切り返しが来た」(田中氏)

要望書では金融政策についても、政府と日銀の連携を継続したうえで、日銀に2%のインフレ目標を2021年度中に達成するよう求めています。

菅首相は「金融政策への関心も高く、地方経済の医療の現場に対する問題意識も強かった」という田中氏。スガノミクスの財政支出についても、「明言は避けたが、『もっとしなければならない』と語っていた」と明かしました

注目の追加給付金について、メンバーの一人、細野氏はツイッターで、「5万円は2次補正の予備費からの給付、3次補正も合わせると15万円の給付を提案した。首相は3次補正に前向きだったが、定額給付金への直接的な言及はなかった」と説明しています。

田中氏は、「金額を出すと独り歩きするので、首相への要望は『5万円』のみだったが、3次補正での定額給付金も、最低でも10万円はなければ日本経済は支えられない。先行きが不確実な中、大きなバスケットに予算を詰め込むべきだ」と主張、合計15万円を上回る給付金が必要だとの認識を示しました。

これは、本人もTwitterなどで示しているように、5万円の定額給付金という金額が一人歩きし、多くのSNSや報道番組でとりあげられたからと思われます。5万では、日本経済は支えられないとしています。

田中秀臣氏(左)と菅総理(右)  田中氏のツイターより

10月26日から臨時国会が開かれる運びになっていますが、そこではなく年明けの通常国会で第三次補正予算が提出されます。

これは、少しのんびりしているようにもみえますが、第二次補正の予備費7兆円ていどがあるので、当面は何とかしのぐことができます。何かあればそこから出せばいいということです。ただし、予備費はもっと積極的使うべきです。

7兆円ということはGDPの1%くらいですが、これはたとえば次のGo To トラベルのようなものに使えば良いとおもいます。医療関係にもさらに使うべきです。

日本では過去に予備費を10兆円も積んだことはありませんでした。予備費を先に積んだのですから、どんどん使うべきです。それに対する執行を誰かが抑えているのではないかと勘ぐってしまいたくなります。

しかも、予算で決定しているのですから、予備費を使うには閣議決定などいりません。後で報告が出て来ます。いろいろなとき機能的に使えるのが予備費なのです。

10兆円が大きすぎるという議論もありますが、当初予算に比べれば10兆円などさほど大きな額ではありません。それを使うために予算計上したのだからどんどん使うべきです。

補正予算は政府が国債を発行して、それを日本銀行がすべて買いとります。この方式だと、財政破綻などありえません。唯一のリスクはインフレですが、元々デフレ傾向だった日本経済は、コロナでさらにデフレに触れる危機にある現在では、そのような心配は全くありませんし、将来世代へのつけになることもありません。

そのために日本銀行の黒田総裁と麻生財務大臣の2ショットの共同会見を実施したという背景もあります。日本銀行が買えば、実質的な財政負担はありません。

「安倍政権の継承」と菅総理は語っていますが、金融政策と財政政策について、特に金融は緩和して財政出動を適切に実行していく方針です。

ただ、金融政策とはいっても、英語で言うとフィナンシャルマネタリーと2つの意味があるので、日本語で言うとどちらなのかわからなくなってしまいます。マネタリーの意味での金融政策は従来通りになるでしょう。菅総理が日銀の黒田総裁と会談したときに確認しているはずです。

菅首相との会談を終え、報道陣の質問に答える日銀の黒田総裁(9月23日、首相官邸)

自民・公明両党の幹部は、今後編成が見込まれる今年度の第3次補正予算案や、来年度予算案に追加の経済対策を盛り込む必要があるとして、両党で具体策を検討していくことで一致しました。

本日東京都内で開かれた会談には、自民党から二階幹事長や森山国会対策委員長らが、公明党から石井幹事長や高木国会対策委員長が出席しました。

この中で両党の幹部は、新型コロナウイルスによる経済への影響は依然として厳しい状況で、今後編成が見込まれる今年度の第3次補正予算案や、来年度予算案に追加の経済対策を盛り込む必要があるとして、両党で具体策を検討していくことで一致しました。

また、来週26日に召集される臨時国会に政府が提出する10本程度の法案を、12月5日までの会期内に確実に成立させるとともに、継続審議になっている国民投票法の改正案も、野党側の協力を得ながら成立を目指すことを確認しました。

一方、会談では、衆議院議員の任期満了まで21日で1年となったことに関連し、二階氏が「1年しかないので常在戦場だ」と述べ、これを踏まえて両党で連携して選挙準備を進めることになりました。

とにかくはやく対策をしていく必要があります。予備費7兆円を、所得税現なしの、5万円の給付金で使い切り、その後にさらに第三次補正で最低でも1回、10万の給付金をすみやかに実施すべきです。

経済が落ち込むものとみなし、私としては、第三次補正でも予備費を積んで10万円の給付金をさらに、最低2回くらいはできるようにしておくべきと思います。これを対策の柱として、他は補助的に実施し、必要があればまた予備費で対応するなど柔軟な対応が必要です。

そのような備えがあれば、どのような対策でもすぐに実行できます。所得制限なしの給付金にする意味としては、GOTOトラベルなどは、いくら前もって制度設計を十分に行っても、不平等な点等が必ず出てくることや、他の給付方式だと詐欺が出てくる可能性が大ですが、所得制限なしの給付金であれば、そのようなことはないからです。

旅行に使うとか、他の目的に使うかは、国民一人ひとりに任せるべきと思います。そうして、第二次補正の予備費の消化はもとより、第三次補正もすみやかにすすめるべきです。

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2020年10月20日火曜日

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 【日本の解き方】菅政権のマクロ経済政策は「第3次補正予算」が当面のポイント 内閣官房参与の仕事と決意


菅総理

 菅義偉政権の発足から約1カ月、これまで個別の政策が注目されてきた。コロナ禍からの経済再生で求められるマクロ経済政策はどのようなものになるだろうか。

 マクロ経済政策は、金融政策と財政政策に分けられる。金融政策の実行主体は日銀であるので、政府としては日銀と共通の目標を確認し、実行状況の報告を受け、必要であれば適宜、意見を述べればいい。

 菅政権はアベノミクスを継承しているので、金融政策のスタンスも同じはずだ。実際、菅首相は9月23日、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁を官邸に呼んで会談した。その場で、政府と日銀が十分に意思疎通し、連携していくことを確認した。

 アベノミクスではインフレ目標を設けているので、日銀はその達成に向けて尽力することが全てだが、金融政策のスタンスが菅・黒田会談で改めて確認されたとみていい。

 もう一つの柱が財政政策だ。来年度通常国会前に提出される今年度第3次補正予算がポイントになるだろう。

 安倍政権でのコロナ対応はどうだったのか。経済協力開発機構(OECD)および20カ国・地域(G20)の主要31カ国において、コロナショックでの財政支出の国内総生産(GDP)比をみると、日本はニュージーランド、米国に次いで第3位の高率だ。財政出動のGDP比は、当然それぞれの国のコロナショックに対する経済の落ち込みとも関係するはずなので、経済落ち込みに対する財政出動の割合で、各国のコロナ対応を見ると、日本は31カ国中、ニュージーランドに次いで第2位だ。

 こうした財政出動の結果、日本経済の落ち込みは欧米と比較して軽微になっている。この良い傾向を第3次補正でも維持できるかどうかがポイントだ。

 コロナショックへの対応で財政出動は正しい政策だが、最近、債務増大を危険視する論調が出始めている。例えば、国際通貨基金(IMF)が半年ごとに出している財務モニターでは、各国の債務残高が上昇したので、警戒が必要としている。ただし、その数字はグロス(総額)の債務残高対GDP比であり、ミスリーディングだ。例えば、日本では、日銀が保有している債務残高が半分近くあり、その利払い・償還は実質的にないので、相殺したネット(純)債務残高で見るべきだ。

 なお、私事になるが、筆者は13日付で内閣官房参与に就任した。この身分は一般職(非常勤・諮問的官職)の国家公務員で、役割は内閣総理大臣の諮問に答え意見を述べることだ。

 割り当てられた担当は、経済・財政政策となっている。国家公務員なので、国家公務員法は適用されるが、営利企業の役員等との兼業禁止などは適用除外になっている。その意味で、筆者の仕事は従来通りに行える。内閣官房参与を一般企業で言えば、顧問のような存在だ。

 かつて筆者はキャリア国家公務員だった。その中で数%しか経験しない官邸官僚として退職し、12年ぶりに官邸に戻った感じだ。公務員は公僕であり、国民のためにしっかりやりたいと思う。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】人事の魔術師、菅総理の素顔が見えてきた(゚д゚)!

加藤勝信官房長官は13日の記者会見で、宮家邦彦・立命館大客員教授、高橋洋一・嘉悦大教授ら6人を内閣官房参与に任命したと発表した。宮家氏は「外交」、高橋氏は「経済・財政政策」を担当する。このほかに任命されたのは、「感染症対策」で岡部信彦・川崎市健康安全研究所長。「経済・金融」で熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト。「産業政策」で中村芳夫・経団連顧問。「デジタル政策」で村井純・慶応大教授。いずれも13日付(13日付朝日新聞)。

この発表を受けて、市場ではやや動揺というかさざ波が立ちました。それはいわゆるリフレ派を代表すると思われるひとり、高橋洋一氏の名前が挙がったためです。ところが、それと同時に、緊縮派で増税推進派である熊谷亮丸も参与に任命されたからです。

熊谷亮丸氏

熊谷亮丸氏といえば、大和総研の専務取締役調査本部長チーフエコノミストです。日本の財政について「政治家を選んできたのは誰なのか。日本は『独裁国家』ではなく、『民主主義国家』である。政治家の質が低下しているのだとすれば、それは日本人の『民度』の低下を映す鏡に過ぎない。象徴的な事例は、国民の間に蔓延する『消費税引き上げ』に対する過剰な拒絶反応である。『民度』を高めること、つまり国民一人一人が『見識』を持たなければ、日本の財政破綻は回避できない」と述べています。また、「日本の『民度』を向上させるために最も重要なのは、個人の能力を高める『教育改革』である」と主張しています。

両方とも、【『消費税が日本を救う』 日本経済新聞出版社〈日経プレミアムシリーズ〉、2012年)】からの引用ですが、これからもわかるように筋金入れの緊縮派、増税推進派です。この方は、とにかくどんな時でも自信たっぷりに「増税すべき」と主張しています。

熊谷氏の増税への熱意は、凄まじいものがあり、彼が増税の必要性について語るときには、一点の曇りもなく、心の底から増税が正しいと信じているような語りぶりです。このような語りをされると、経済に疎い人は、単純に増税は正しいと信じてしまうでしょう。ただし、彼の経済予測はほとんど当たっていません。8%増税のときには、「増税しても日本経済への悪影響は軽微と」語っていました。

ところが、一方はご存知いわゆるリフレ派の高橋洋一氏も参与として任命されています。高橋氏は具体的に数値を元にして、マクロ経済学的に、何がただしいかを力説します。リフレ派といえば、安倍政権時代にも内閣官房参与に浜田宏一氏や本田悦朗氏がやはり任命されていた。いわば高橋洋一氏はこの両者の後任のような格好となるのかもしれません。

2012年末の衆院選での自公圧勝による安倍政権の誕生とともに生まれたアベノミクスと呼ばれた政策には、当然ながら高橋洋一氏らのリフレ派の考え方が採られていました。ただし、リフレ派の考え方とはいいつつも、安倍政権では結局2回も増税され、緊縮財政が実行がされてしまいました。

その安倍政権の官房長官となったのが、現在の菅総理ですが、すでに当時から菅官房長官と高橋洋一氏は頻繁に会っていたとみられています。この意味でもアベノミクスには菅官房長官を通じて高橋洋一氏が絡んでいた可能性は十分に考えられます。

私自身は、この参与の人事に関して、当初危惧を念をいだきました。安倍政権の時は、浜田宏一氏がリフレ政策推進、藤井聡氏は反リフレ(財政中心主義のため増税には反対)でした。菅政権は熊谷亮丸氏は反リフレで、高橋洋一氏は財政担当でリフレ政策推進派です。このアンバランスか後々の安倍政権の時と同じように政策についての間違ったメッセージを市場や国民に与えかねないと感じました。

菅氏が自民党総裁になった際にも将来の消費増税に言及はしていましたが、少なくとも消費減税に言及することはありませんでした。

そうはいっても菅政権は安倍政権を引き継ぐと主張し、それは金融財政政策も同様ということになり、さらにリフレ色を強める可能性も十分にあります。

なぜそのようなことをいうかといえば、今回参与に任命された、菅政権は熊谷亮丸氏は金融担当、高橋洋一氏は財政担当だからです。

さらに、上の記事にもあるように、菅首相は9月23日、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁を官邸に呼んで会談しました。その場で、政府と日銀が十分に意思疎通し、連携していくことを確認しました。

この意味するところは、第2次補正でもそうだったように、今後もコロナ対策からコロナ復興に向けて、政府が資金を調達するときに、国債を発行して日銀がそれをすべて購入するという形で、政府が潤沢な資金を得ることができるようにするということです。これは、このブログにも掲載した政府と日銀連合軍が今後も機能することを意味していると思います。

熊谷氏は筋金入の緊縮派の増税主義者ですが、金融に関してはあまり主張することはなく、比較的中立的な立ち位置とみても良さそうです。おそらく、金融に関して提言をするにしても、具体的な根拠をもって提言をして、大きな影響力を発揮するようなことはできないのではないかと思います。

ただし、菅総理としては、筋金入りの緊縮派の増税主義者の熊谷氏に関しては、別の意味で利用価値があります。その一つとしては、筋金入り緊縮派がどのような考えを持っているのか、それを確認できるということです。しかも、熊谷氏の人脈を含めれば、財務省はもとより、日本の財界や、政治学者などの考えを確認できます。

これに関しては、首相補佐官に姉崎氏を起用したこととも相通じるところがあると思います。

内閣官房参与の任命に先立ち、政府は10月1日、首相補佐官に共同通信元論説副委員長の柿崎明二氏を充てる人事を発令しました。柿崎氏は菅義偉総理と同じ秋田県出身で、共同通信政治部記者や、編集委員を歴任し、政策評価、検証を担当します。

首相補佐官とは、政策提言などをするための直属のスタッフで、そのトップは内閣官房長官なのですが、内閣官房には属しません。安倍政権のときに「官邸官僚」という言葉が出て来ましたが、官邸官僚は内閣官房に属さずに官邸にいて、官僚、あるいは官僚的な仕事をします。

総理直属なので、総理の威を借りてということになりがちです。首相補佐官はその官邸官僚の1人で、そのなかでもトップ級になります。まだ明らかにはなっていませんが、柿崎氏は官邸の4階に専用の部屋をもらったと、されています。しかも、給料が良いです。年間約2357万円ということです。共同通信社よりは良いでしょう。かなり力を持ったポジションだと考えても良いと思います。

柿崎明二氏

姉崎氏は毎日新聞から共同通信に転じて、今度は共同通信を退社して首相補佐官になります。つまり、退路を絶っているのです。ということは、将来が約束されている可能性もあります。単純に高給、専用の部屋、秘書、黒塗りの専用車に釣られたのではなくて、将来的にもある種約束され、場合によっては政治家になるという可能性もあるのではないでしょうか。

マスコミ出身者が、政治家、あるいは政治家という経験を経ずに首相補佐官になったというのは初めてです。

姉崎氏の仕事は、「政策全般について評価や検証、さらには改善すべき点について、必要に応じて意見を言う。総理に対して進言や意見具申を行う」ということです。職務内容については、「この範囲のなかでやってください」とペーパーで総理から示されます。

そのなかには、マスコミや世の中、特に左派から批判を受ける、今回の日本学術会議のような、または、森友、加計、桜を見る会等のようなケースもでてくるでしょう。

そのような時に、「柿崎さん、これについて検証、評価をお願いします」と言われると、自分の将来もかかっていますし、あくまで政府側にたって、左派系の人間の考えそうなことは、すぐに思いつくし、それに対する対応法を編みだすこともでき、左派の弱点などを突くこともできます。

菅総理としては、「もりかけさくら」は、もう懲り懲りなのでしょう。そもそも、現在に至るまで、倒閣に結びつくような物証はまだだれもあげられていません。野党やマスコミは「疑惑は深まった」というだけで、結局何もできませんでした。本来「疑惑」や「忖度」だけの曖昧な事柄だけで、人や組織を攻撃することはあってはならないことです。これは、一般社会では許容されないことです。にもかかわらず、実際に国会は振り回され、無駄に時間が費やされ、安倍政権は結局憲法改正等の重要な案件に関する時間をとることができませんでした。

菅総理は、あのようなことが起きた場合には、姉崎氏に対して早めに事態を収拾する方策を考えさせると思います。それ以外の思いも寄らない事態がおきたときも、姉崎氏をあてにできるかもしれません。

就任前後から柿崎氏の酒癖の悪さや怪しい人間関係の話題が週刊誌を賑わせていました。それに関して、「週刊文春」(文藝春秋)に記事にされたとき、柿崎氏は「文藝春秋の記者たちの飲み方を、俺は知ってるぞ」と言ったとの話もあります。

姉崎氏が最初に勤めた毎日新聞社は、転職者が多いことで有名です。しかも、転職して出世する人が多いのです。そのため、姉崎氏がこれまで一緒にいろいろやってきた同業他社の記者たちが、今や各紙の政治部長のポジションにいるのです。

以下は単なる深読みですが、たとえば、違法ではなくても、世間に知られると恥ずかしいことや現代のモラルでは許されないこと等がありますが、柿崎氏の「真の役割」は、メディアに対して「(もりかけ桜のように)政権を批判するなら、お前のあのことやこのことを暴露するぞ」と牽制することもあるのではないかと思います。

まさに、何とかとハサミは使いようという格言通り、姉崎氏は大化けするかもしれません。それに、姉崎氏は59歳です。共同通信に勤務していても、今後は出世する見込みはなかったかもしれません。そこに、菅総理は首相補佐官の人参をぶら下げたのです。

今後姉崎氏が菅総理の期待に応えれば、さらに大きな道がひらけるかもしれません。

菅総理は、これくらいの人事をやってのけるるのですから、筋金入りの緊縮派の増税主義者の熊谷氏を参与に任命し、増税派、緊縮派の動静をうかがったり、これに対応する方策を聞いてい見るということもするかもしれません。

熊谷氏がこれに快く応じて、様々なアイディアを出し、実際それを実行して、増税派や増税派を封じることができれば、熊谷氏には次の人事が待っているかもしれません。そうでなければ、参与止まりでしょう。

高橋洋一氏に対しても、今後もまともな経済政策を提案させて、実際それを実行してみて、経済が上向けば、次の人事で参与より上のポジションを提供するかもしれません。

高橋氏については、ご存知のようにかなり優秀な人ですが、財務省では反緊縮派であったこともあり、高級官僚らには不興を買っていました、そのためもあって、官僚をやめて東洋大学の教授に転じていました。

高橋洋一氏

ところが、2009年3月24日に練馬区の「としまえん」内の温泉施設の脱衣所で、他人のロッカーから現金約5万円入りの財布や、数十万円相当の「ブルガリ」の高級腕時計を盗んだ疑いで、3月30日、警視庁に書類送検されました。結局は起訴はされませんでした。

退職金を受け取ったばかりの元財務省官僚の高橋氏が金に困っていて、わずかな金品を盗むとは考えにくい。しかも、大学教授、著名な言論人であるという社会的地位・名誉をあわせ考えると、そんな軽はずみな行動を取るとは信じがたいです。そのため、陰謀説なども囁かれています。

高橋氏はこの事件で東洋大学を懲戒解雇され、東京地検は起訴猶予処分という判断を下しました。それ以来、高橋洋一氏は嘉悦大学の教授となり、様々な言論活動をしてきました。ただ、政府などの機関で表立った立場では仕事ができない状況となっていました。

高橋氏としては、やはり能力を活かして、具体的にマクロ経済的な施策を実行したいとの希望はあると思います。高橋氏の年齢は65歳です。まだまだ、政治の世界では様々なことができると思います。

私は、菅総理は、この二人を競わせるかもしれないと思っています。うまくいけば、いずれ他の人事が待っているかもしれません。それは姉崎氏の例をみれば明らかです。姉崎氏に関しては、菅総理はこの二人よりは、はやく上にあげて、すぐにでも使いたいと考えたのでしょう。

高橋氏にはさらに上を目指し、できれば現在ではなくなってしまった日本の高度成長を主導した経済企画庁のような組織を新たな創設して、日本で再びまともなマクロ経済政策できるようにしていただきたいです。

もうその時々で、財務省や日銀の意向を気にせざるを得ないような政府ではあるべきではありません。そのようなことよりも、国民に顔を向けた経済政策を日本でも実行できるようにすべきです。

それにしても、菅総理の人事は「内閣人事局がらみの発言」、「日本学術会議人事」、「内閣補佐官人事」、「内閣参与人事」において、真骨頂を発揮しつつあるようです。

大企業においても、まともな企業では考え抜かれた人事が実行されています。その中には、当然一般の社員にはなかなか理解できない人事もあります。しかし、まともな企業であれば、人事発令の裏にはそのような深謀遠慮があるのが普通です。

というより、ある企業のことを深く知りたいと思えば、長期にわたって公表される人事を詳細に調べれば、その企業が何をしようとしているか、他のいかなる情報よりもはるかに知ることができます。

過去に日本経済がかなり落ち込んだ平成年間の中期あたりには、いくつかの企業が総務本部長にかなり有能な人物が選ばれたりして話題になったことがありました。これは、その企業が不況に本格的に立ち向かおうとしていることを雄弁に物語る人事といえます。

経営学の大家ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)

まさに、真に力のあるコントロール手段は、人事なのです。他にも様々なコントロール手段もありますが、しかし人事にまさるものはありません。単純な人事なら、AIにもできますが、政府の仕事に関わる重要な人事はやはり、総合的な観点から人間が行わなければなりません。

このようなことを知ってか知らずか、野党やマスコミなど、人事に関する無責任な発言が多すぎです。人事が最大のコントロール手段であることを考えると、野党やマスコミは今後ますます自らの組織のコントロールが効かなくなり衰退するでしょう。

政府の機関である「日本学術会議」が左翼のゴミ溜めのようになっているのは、どう考えても政府にとって良いことではありません。このような人事を長年にわたって歴代の政権が許してきたこともあり、前川喜平のような非常識な人間が文部次官になってしまうようなことがまかりとおってきたのです。

ちなみに、前川氏は文部省が作成した「天下りに関する調査報告書」に50回も名前が登場しています。無論、天下りに関与した人物としてです。前川氏は退職金も満額(8000万円)もらっています。これは、政府による温情的な措置であることが非常識な前川氏には理解できていないようです。私は、このような人物は懲戒免職したほうが良かったと思います。

そういった意味では、菅総理は人事が真のコントロールであることを熟知しており、人事の魔術師と呼ぶにふさわしいかもしれません。今後どのような人事をしていくのか、注目です。

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2020年10月19日月曜日

中国、輸出管理法が成立 12月施行 米の禁輸措置に対抗可能 日本企業にも影響―【私の論評】日本企業を含む先進国の企業は、中国で研究開発はできなくなった(゚д゚)!

 中国、輸出管理法が成立 12月施行 米の禁輸措置に対抗可能 日本企業にも影響



 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は17日、ハイテク製品の輸出管理を強化する輸出管理法案を可決、同法が成立した。12月1日に施行する。国家の安全を損ねると判断した海外企業をリスト化し、輸出を禁止できるようにする。中国国営中央テレビが伝えた。

  米国が通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)など中国企業への禁輸措置を強める中、同様の対抗措置が可能となる。中央テレビなどによると、中国からの輸入品を加工して第三国に輸出する企業も制裁対象になるため、実際に中国が米国企業をリストに載せれば、米中対立が激化するだけでなく、中国からモノを輸入する日本企業にも大きな影響を与えかねない。

  成立した輸出管理法では、管理を強化する技術や品目を定めた上で、中国の輸出企業に対し、最終的な顧客企業や使い道に関する証明書の提出を求める。その上で当局が「国家の安全への影響」などの観点から輸出許可を判断する。また、「国家の安全に危害を及ぼす恐れがある」などと判断した具体的な顧客企業を特定し、リスト化。制裁措置として輸出を禁止・制限する。

  米国は昨年5月以降、安全保障や外交利益に反する事業者を記す「エンティティーリスト」にファーウェイを登録。その後も中国企業を記載し続けている。こうした動きを念頭に、同法では「いかなる国や地域でも、輸出規制を乱用して中国の安全と利益を害する場合、対等の措置をとることができる」と明記した。 

 米国への対抗措置では、中国商務省が今年9月、国家の安全や中国企業の利益を損ねる「信頼できない企業」をリスト化し、輸出入や投資などを禁止・制限する新制度を公表、即日施行している。ただ、今回の輸出管理法では、中国の技術や製品を使用・輸入する最終的な顧客企業だけではなく、中国から輸入した原材料などを加工し、部品などの中間財を外国企業に「再輸出」する企業も含まれる。米国の対中制裁に同調した企業なども制裁の対象になるとの懸念も出ており、日本や世界各国の企業に打撃を与える可能性がある。【小倉祥徳】

【私の論評】日本企業を含む先進国の企業は、中国で研究開発はできなくなった(゚д゚)!

輸出管理法に関しては、今回突然できたものではありません。中国は2017年6月に輸出管理法の草案を公表しました。

日本の産業界は、当時施行されれば貿易・投資環境が著しく阻害されると警戒し、安全保障貿易情報センターや日本貿易会、経団連などが、憂慮する意見書を中国政府に提出しました。具体的には、どんな事態が懸念されたのでしょうか。

輸出管理法は安全保障などの観点で輸出を規制するものです。海外に流出した先端技術や製品の不当な兵器転用は許されないとされました。日本を含む各国にも輸出管理制度があり、法整備自体は当然の責務です。

            日本にも輸出管理制度がある

問題は、他国とは異なる憂慮すべき内容を含み、多数の外国企業に広範な規制をかけようとしている点にありました。

例えば、中国当局が指定する規制品目を一定以上使った製品について、日本などから第三国へと輸出する際に中国政府の許可を求めるという「再輸出規制」が盛り込まれていました。

中国から輸入した部材を日本国内で加工し、アジアや欧米に輸出するケースを考えればわかりやすいです。これを中国の許可制にするというのです。

日本の輸出管理制度に屋上屋を架すようなものです。これを口実に中国当局が日本の生産現場への立ち入りを求めたり、その際に技術が中国に流れたりしないかと、産業界が心配するのも無理はありませんでした。


上のポイントなどをみている限りでは、表面上、日本で言う外為法に似てはいますが、その実国外の組織や個人も法的責任追及の対象との規定、或いは国家等に報復措置をとることも可能な条文も記載してあります。「再輸出規制」「みなし輸出規制」については曖昧なままです。更に問題はその運用、「輸出管理リスト」や「規制リスト(エンティティリスト)」の中身を注視する必要あります。

これについては、以下のサイトが参考になります。


加藤勝信官房長官は19日午前の記者会見で、中国政府が安全保障の観点から輸出管理を厳しくする輸出管理法が12月1日から施行されることに関し「現時点で法律に基づき、どのような運用がなされるかは明らかではない。政府としては、日本企業の経済活動に影響を与える可能性を含め、高い関心を持っている」と述べました。 

19日記者会見する加藤官房長官

その上で「同法に基づく国家の安全利益を理由とする規制対象品目の範囲、域外適用の可能性など、今後の運用を注視していく」とも語りました。

以下に中国の輸出管理法施行にともなう留意点を掲載します。

留意点〉
 
(1)施行日が本年 12 月 1 日となったため、対応を急ぐ必要 

○準備期間を十分確保するよう意見書では要請してきたが、結局、公布から 1 か 月半足らずでの施行となったため、対応準備を急ぐ必要。 
○規制対象となる管理品目や、下記規則がそれまでに公表されるはずだが、直前にな る可能性も。 

(2)輸出・投資環境の激変であり、経済活動の大前提が崩れる可能性 

○これまで規制がなく自由に輸出ができていた多くの製品・技術(ワッセナー品目や 独自品目)が輸出許可対象となる点だけでも激変。 
○これに、再輸出規制、みなし輸出規制が加われば、中国を製造加工拠点、研究拠点 とする貿易・投資の大前提が崩れる可能性。

 (3)輸出管理法は、「信頼できないエンティティ・リスト」「輸出禁止・輸出制限技術リ スト」と一体で捉える必要

 ○既に 8~9 月に施行されている「信頼できないエンティティ・リスト」「輸出禁止・ 輸出制限技術リスト」は、根拠法は異なるものの、輸出管理法と密接に絡んでお り、一体ものとして捉える必要(下位規則でそれらも反映される可能性)。 ※ 両リストについては、以下の CISTEC 解説資料を参照。 
◎中国における「信頼できないエンティティ・リスト」、「輸出禁止・輸出制限技術 リスト」の施行について(2020.9.23) https://www.cistec.or.jp/service/uschina/30-20200923.pdf 

(4)踏み絵・股裂き局面に直面するおそれ 
 
○本来、中国輸出管理法草案は、ワッセナー合意に準拠する国際的義務の履行が主な 趣旨だったはずだが、米中緊張を反映して、国家安全法制、報復手段の整備の色彩が色濃くなった。
 ○米国の Entity List や制裁により取引停止した場合、新たに規定された報復条項や 輸出禁止先リスト掲載、「信頼できないエンティティ・リスト」掲載等によって、 制裁を受ける可能性。 

(5)国家安全、競争優位性の観点から対抗的、制裁的、エコノミック・ステイトクラフ ト的運用がなされる懸念

 ○中国と日本、米国間で安全保障上の利害は必ずしも一致していないため、政治的、 軍事的摩擦、緊張が高まれば、日本向け輸出や最終需要者が問題とされる可能性 
○輸出許可申請時に技術開示要求や、審査期間が見通せなくなる可能性 
○外国企業が中国内で共同開発した技術が輸出できなくなる可能性 

(6)国家安全法制が外商投資促進策をオーバライドしつつあり、対中ビジネスの態様に 応じた課題・リスクの抽出と対応の検討が必要

 ○2014 年以降、国家安全法制が次々と整備され、国家安全法、国家情報法、サイバーセ キュリティ法等、外商投資促進策とは相反する規制が打ち出され影響を及ぼすことと なった。

 ○今年に入って、香港国家安全維持法(中国本土にも適用)、「信頼できないエンティテ ィリスト」制度、国家安全法制的条項や域外適用がある中国輸出管理法など、外国企 業を著しく不安、不安定にさせる動きが目立っている。7 月に公表されたデータセキ ュリティ法草案もまた、域外適用による責任追及が強調されており、対中ビジネスに 大きな影響を与え得る。

 ○今回の中国輸出管理法の当初草案が 2017 年 6 月に公開されて以降、日米欧産業界が連 名で総意として、懸念点に関する照会、規制内容の明確化、異質な制度の削除と国際 的制度運用への準拠等を繰り返し訴えてきたが、ほとんど顧みられることがないまま に成立し、施行されようとしている。提起してきた懸念は、いずれも中国の貿易・投 資環境に著しい影響を及ぼすものであり、外商投資促進の方向性と相容れないものも 少なくない。これらの中国側の反応をみると、国家安全法制整備のドライブが外商投 資促進策をオーバーライドしつつあることを感じざるを得ない。

 ○一連の国際情勢や中国側の姿勢等を踏まえて、各企業がそれぞれの対中ビジネスの態 様に応じて、課題とリスクの抽出と、今後の短期的、中長期的対応を検討することが 必要と思われる。


留意点をさらにざっくりと簡潔にまとめておくと、日本企業は11月中に、中国で開発している技術と技術者を日本に戻す必要があります。 12月1日の輸出管理法の施行により、技術者が日本に帰ってこられなくなる可能性が高いです。 もう、日本をはじめとする先進国の企業は、中国では研究開発はできません。

それにしても、中国はさらに米国が、中国に対してドル元交換禁止や、中国所有の米国債の無効化などの措置をさらに実行しやすくしたようです。恐ろしくないのでしょうか。

再び、毛沢東時代の経済に戻るのは怖くないのでしょうか。そうなれば、さすがに共産党幹部も富裕層も、習近平政権を支持しなくなるでしょう。

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2020年10月18日日曜日

ヒラリーの悪夢、再び…? 米国「女性大統領候補」を待ち受ける「イバラの道」―【私の論評】バイデンが大統領になり職務を遂行できなくなくなった場合、ハリスが大統領になる!その時米国はどうなるのか(゚д゚)!

 ヒラリーの悪夢、再び…? 米国「女性大統領候補」を待ち受ける「イバラの道」


全米デビューしたカマラ・ハリス上院議員

 カマラ・ハリス上院議員が、全米デビューした。10月7日夜(日本時間8日午前)のTVディベートだ。民主党副大統領候補のカマラ・ハリスは、初の女性大統領への第一歩を順調に踏み出したのだろうか。 【写真】2020年、実は日本が「世界最高の国ランキング3位」になっていた…!  アメリカの大統領選挙2020はいよいよ大詰め。投票日は11月3日に迫っている。9月29日にはトランプVSバイデンの大統領候補同士のディベート(一回目)が行なわれ、泥仕合に終わった。トランプが不規則発言を連発し、討論にならなかった。

  そのあとトランプのコロナ感染が判明し、入院。でもすぐ退院し、タフなところをアピールしている。ディベートの二回目(10月15日)は中止になった。三回目(10月22日)が行なわれるか、不透明だ。

  カマラ・ハリスVSマイク・ペンスの副大統領候補対決は、前週のトランプVSバイデンよりましだった。少なくとも、討論のかたちになっていた。

  会場は、ユタ州ソルトレーク・シティ、司会は、USAトゥデーのスーザン・ペイジ氏。ハリスはステージの左側、ペンスは右側に離れて着席し、アクリル板が両者を隔てている。

  全部で90分。コロナ/副大統領の役目/経済/気候変動/中国/最高裁/人種と正義/大統領選挙、の8つのテーマについて、双方2分ずつ発言。そのあと討論を交わす、という流れだ。

          副大統領! 私が話してるんですけど

 ハリスは厳しい検察官のイメージがあった。そこで、笑みを絶やさず、ソフトな印象を与える作戦をとった。今回初めて、ハリスが話すところを、じっくり観ることになった有権者も多いだろう。おだやかだが、しっかりした語り口だ。

  ペンスが話の途中に割り込むと、「副大統領! 私が話してるんですけど」と切り返した。  おおむね好印象を与えたようで、CNNの事後調査では、ハリス59%・対・ペンス38%と、優勢の数字が出た。ただしこの調査は、CNNの視聴者に電話をかけたもの。もともと民主党寄りなので、割り引いて考える必要がある。

  カマラ・ハリスは父がジャマイカ、母がインドの出身。アメリカでは黒人になる。法律を学び、カリフォルニア州で検事をつとめて、州司法長官に当選。そのあと上院議員になった。

 2019年、民主党大統領候補の予備選に立候補し、いい線だったが脱落。バイデンに指名されて副大統領候補の座を射止めた。

  ジョー・バイデンは77歳、トランプより高齢だ。かりに当選しても、二期目に出ない可能性が高い。では4年後、民主党の大統領候補は誰か。副大統領のカマラ・ハリスが、最有力なのは間違いない。というわけで今回、副大統領候補のハリスは、将来の大統領として大丈夫かもチェックされている。

  「女性で黒人」は、やはりハンデである。ちょっとどうも、と思う有権者がそれなりにまだいるのだ。ハリス候補はそれを、乗り越えられるか。

  黒人にも、いろいろある。ボストンで、ある黒人の教会を訪れたら、自分たちはカリブ海の出身だと言っていた。ボストンは港なので、カリブ海からその昔、港湾労働者が移住して住み着き、コミュニティをつくって教会に集まっている。自分たちは奴隷でなく、自由民としてこの国に来たのだ、というニュアンスだ。アフリカ系の黒人が聞いたら、コチンと来るかもしれない。 

 ハリス候補はジャマイカの血をひき、アフリカ系黒人でない。インド系でもある。彼女はわれわれの代表だ、と人びとが思うかどうか、微妙なところがある。

ペンスのスピーチは菅官房長官の記者会見のよう

 では、両候補のスピーチの出来ばえはどうだったか。『パワースピーチ入門』を7月に出したばかりで、政治家のスピーチに関心のある私は、耳をそばだてて、ディベートの応酬に注目した。

  まずペンス候補。先週トランプが行儀が悪くて評判を落したのを挽回しようと、冷静にそつなくやりとりを進めた。大きな減点なし、である。でも地味で、面白みに欠ける。なんとなく、菅官房長官の記者会見を思わせる。

  そして、じっくり聞いてみると、司会の質問をはぐらかし、正面から答えないケースが多い。ハリス候補から、民主党の左派っぽい発言を引き出して、立ち位置をぐらつかせようともした。

  ハリス候補は、まだ試運転の段階だ。政策をよく煮詰め、パンチラインをつぎつぎ繰り出すにはほど遠い。先週のバイデン候補の発言と、合わないと思えるところもある(グリーン・ニューディールなど)。外交は苦手なようで、中国は敵か味方かと聞かれたが、答えに説得力がない。

  それでも全米デビューは、うまく行った。注目の集まった大舞台を、落ち着いてやりとげた。ハリス候補は元気で、華がある。頭はよいので、政策はこれから勉強し、スタッフとチームを組めばよいだろう。

11月3日の選挙への影響は

 今回の副大統領候補ディベートは、11月3日の選挙のゆくえにどう影響するか。

  トランプは感染のあと、支持率をなお下げた。バイデンに10ポイント程度、差をつけられている。ふつうなら民主党圧勝だが、まだ予断を許さない。バイデン陣営には熱気がなく、しぶしぶ支持している有権者が多い。コアな支持層を固めているトランプをあなどれない。

  今回のディベートは、バイデン有利の流れを、なお確かにしたろう。ペンスはトランプのマイナスを取り返そうとよくやったが、逆転するには決め手を欠いた。

  ハリス候補は、2024年の女性大統領誕生に向けて、一歩近づいたのか。たしかに一歩は近づいた。選挙戦終盤の注目の討論会で、有権者にまずまずの印象を残したからだ。だが、この先はまだ長い。そして厳しい。 

 つぎの一歩は、大統領選でトランプを破ること。ここで負けては、話にならない。

  そのつぎの一歩は、副大統領として、しっかり仕事をし、有権者によい印象と信頼感を与えること。4年間は長丁場だ。よく勉強し、経験を積み、失敗しても取り返す技量と精神力が必要になる。

ヒラリー・クリントン

 オバマ政権のヒラリーは、だいたい同じ位置にあった。国務長官をつとめ、それなりに仕事もしたが、メイル問題でケチをつけた。権力の中枢にいるうち、清新なイメージが崩れて行った。同じパターンになってはいけない。

  副大統領は、決まった仕事がない。バイデンに、仕事を分けてもらわないといけない。でも、手足となる部下がいない。見せ場をつくり、成果もみせるのは、ハードルが高い。 

 そのつぎの一歩は、2024年に、バイデンが出馬しないと決めるかどうかだ。ハリスは、年だから辞めなさい、とも言えないし、辞めないで、とも言えない。そこをしくじると微妙なことになる。

  さらにつぎの一歩は、民主党の予備選で、ぶっちぎりの好位置につけること。2020年のバイデンは、元副大統領なのに、それなりに苦しんだ。サンダースやウォレンやブティジェッジやハリスなど対立候補の票が割れたので、救われたかたちだ。

  2024年に、民主党が一枚岩になって、ハリスを推すかどうか。民主党の指名を受けられるか、である。

  そして最後の一歩は、共和党の対立候補を破って、大統領に当選すること。気の遠くなるようなタフな戦いが、これからハリスを待っている。

アメリカで大統領になることの難しさ

 アメリカで大統領になることの、何がむずかしいのか。

  大きな政府/小さな政府。リベラル/保守。平等/自由。政治理念の対立軸をめぐり、共和党と民主党が争うのが、アメリカの政治だった。

  ところが、アメリカ社会の分断が進んだ。宗教右派という岩盤支持層を掘り起こせば、当選できることを発見し、共和党を乗っ取ったのが、トランプ大統領だ。社会主義路線でそれに対抗するのが、サンダース候補やウォレン候補のリベラル左派だ。

  リベラル中道や、保守中道が、ふたたび多数派を形成することができるのか。ハリス候補は、リベラル中道に軸足を置く。保守中道やリベラル左派、宗教右派が立ちはだかる。 

 SNSのフェイクニュースやQアノンの陰謀論を信じる有権者も、無視できない人数になっている。古典的なグラスルーツ(草の根)の政党組織は、ガタガタになっている。 

 これを立て直して、アメリカの再生をはかること。新しい理念を示すこと。カマラ・ハリス候補が直面する課題は、とてつもない難題なのである。

橋爪 大三郎(社会学者)

【私の論評】バイデンが大統領になり職務を遂行できなくなくなった場合、ハリスが大統領になる!その時米国はどうなるのか(゚д゚)!

ハリス氏の父はジャマイカ生まれ、母はインド生まれで、先祖を辿ればアフリカと南アジアにルーツを持ちます。ただしバイデン陣営内に異論もあり、すんなりとは決まったわけではありません。

最大の問題は、ハリス氏が公開の場でバイデン氏に人種偏見があるかのような言いがかりを付けながら、明確に反省ないし謝罪の弁を述べていないことであす。「なのになぜ、バイデン氏から和解の手を差し伸べねばならないのか」が不満点としてくすぶっていたののです。

バイデン氏には、黒人一般の感受性や判断力を見下していると疑われかねない失言が多いです。つい最近も「黒人社会―顕著な例外はあるが―と違って中南米系社会は非常に多様性のある社会」と発言して釈明に追われたばかりでした。

ハリス氏は、第1回民主党大統領候補討論会(2019年6月26日)の場で、フロントランナーのバイデン氏に打撃を与えようと、まさにその人種問題で無謀な攻撃を仕掛け、瞬間的に支持率を上げたものの、結果的に自ら墓穴を掘った格好で、早々に大統領レースから脱落しました。

ハリス氏が取り上げたのは、1970~80年代に、リベラル・エリートが推進した「強制バス通学」でした。白人学生の一部を黒人地区の公立学校へ、黒人学生の一部を白人地区の公立学校へ通わせるもので、ハリス氏は自身が「それを経験した少女」だったと切り出しました。

ハリス氏は、バイデン氏がこの政策に消極的で、自分を含む差別される側の痛みに鈍感だったと、怒りに震えるかのような演技を交えて追及し、虚を突かれたバイデン氏は「連邦による強制に反対しただけで、地方レベルの実施には賛成だった」と防戦に追われました。

しかし、この政策は、当時黒人の間でも評判が悪いものでした。朝の道路は混雑します。通学に1時間前後掛かる場合も珍しくなく、選別された生徒は親も含めてその分早く起きねばならなりませせんでした。早朝の1時間の差は大きいです。近所の幼馴染らと離れた学校生活を送ることにもなりました。校内では少数派として疎外感を覚える場面も多かったのてす。

この政策を発想し、推進したいわゆるリベラル・エリートたちは、自らの子弟は、措置の対象外である私立学校に通わせる例も多く、一層庶民の憤懣を買いました。結局、先鋭な対立と大混乱を招いた挙句、廃止に近い修正措置を取る地域が続出することになりました。

討論会の後、ハリス氏はメディアから逆に追及を受けました。「あなたが大統領になったら強制バス通学を復活させるのか」と問われて、「それは手段の一つで大事なのは目的」などと誤魔化していたものの、結局「連邦レベルでやることには反対」と答えざるを得なくなりました。要するにバイデン氏の答と同じです。ハリス氏が以後、この話題に触れることはありませんでした。

感情的にバイデン氏に絡んだことで、「クール・ビューティ」のイメージを自ら壊し、「動じない雰囲気の彼女ならトランプ大統領と堂々とやり合えるのでは」という期待も、大舞台における一世一代の演技がぶざまに破綻したことでしぼみました。

トランプ氏はいち早く、「彼女はそれほどタフじゃない。簡単につぶせる」と豪語していましたが、それを実証した形となりました。

ハリス氏が民主党の大統領候補を目指していた昨年11月の世論調査では黒人からの支持率は5%で、バイデンの43%に遠く及ばない4位にすぎませんでした。

ハリス氏は検察官出身です。訴訟のプロでありながら、最高裁まで争われ全米を揺るがした「強制バス通学」問題の歴史にうといと見られたことで、法律の専門家としての能力にも疑問符が付きました。共和党はこの辺りを徹底的に突くことになるでしょう。

ハリス氏は大統領選に向けて昨年、著書を出しました(Kamara Harris, The Truths We Hold, 2019)。その中で、性的マイノリティー(LGBTQ)の権利拡大を何よりの業績と誇るのですが、外交安保分野についてはほとんど記述がなく、その後の言動に照らしても全くの未知数です。

特に、中国に関して目立った発言がなく、香港、ウイグルに関する数次の制裁法案に何ら積極的に関与していない点は、「今の時期」の副大統領として適性に大きな疑問を感じさせます。

上院議員1期目ながらハリス氏が知名度を上げたのは、何か独自の政策提案によるのではなく、もっぱら人事承認公聴会における追及ぶりが、リベラル・メディアによって盛んに「クールでタフ」と喧伝されたことによります。

しかし中身を見ると、ブレット・カバノー最高裁判事(当時は指名者)に対する根拠が薄い「性暴行疑惑」の追及など、保守派から見れば、思わせ振りで嫌味なものばかりです。超党派で賛辞を贈られるような発言は、これまでのところありません。

副大統領候補の討論会において、ハリスは「米国の多くの製造業が奪われました。貿易戦争で敗れたからです。同盟国のリーダー達は習近平をトランプよりも尊敬すると言っている」と語っていました。 

しかし、コロナ前迄は米国は好景気になっていて、特に雇用はかなり改善していました。同盟国のリーダーで習近平を尊敬すると発言している者は存在せず、 習近平を尊敬すると表明したのは、反米国やアフリカの一部の国の指導者たちです。これでは、経済にもも、世界情勢にも疎いと言われても仕方ありません。

さらにハリスは「中国との貿易戦争について、あの戦争は負けたんですよね?」と マイク・ペンス副大統領と質問し、これにペンス副大統領は「負けた?バイデンは戦うことすらしなかった。中国共産党を何十年も応援してきた人物だ」と語っています。国際情勢に関しては、ハリス氏は誰からの話を聞きかじって理解しているというようにしか見受けられません。

これに関しては、討論会の次の日の北海道新聞に以下のような記事がでていました。


冒頭の記事においては、ハリスが大統領になるのは難しいとしていますが、もしバイデン氏が大統領になったとしたら、副大統領候補のカマラ・ハリス氏は、バイデンは任期中に亡くなる可能性は低いとはいえないし、さらには、認知症などの病気で職務を遂行できなくなる可能性も高いです。その場合、ハリスが大統領になります。

そうなれば、一体どうなるのか、これを不安に感じる人は、共和党支持者はもとより、民主党支持者にも多いのではないかと思います。一方トランプ氏が、何らかの都合で大統領の職務を果たせなかった場合には、ペンス氏が大統領になるわけです。安定性ということでは、ハリス氏を圧倒的に上回っていると思います。これが、最終的に大統領選にどのように影響するのかみものです。

私は、バイデン氏のハリス氏と同じように有名ではなくても良いので、もっと安定感のある人物を副大統領に指名してほしかったです。米国の人口は3億二千万です。日本の3倍以上もあるのですから、探せばもっと安定感のある人物が見つかったと思います。

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2020年10月17日土曜日

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「元徴用工」どうなる日本企業の資産現金化


菅総理

 政府は韓国で開かれる次回の日中韓首脳会談に関し、いわゆる元徴用工問題で受け入れ可能な措置を講じない限り、菅義偉首相は出席しないとの立場を韓国に伝えたという。元徴用工訴訟問題や半導体素材の対韓輸出管理強化などについて、菅政権は今後、どのようなスタンスで臨むのか。

 菅首相は、官房長官時代に数々の韓国案件を手掛けていた。その一例は、慰安婦問題に関する2015年12月の日韓合意だった。これは朴槿恵(パク・クネ)政権の時だったが、文在寅(ムン・ジェイン)政権も、韓国政府の継続性の面から合意を維持しないとおかしい。しかし、18年1月、韓国は国内事情から日韓合意を反故(ほご)にした。

 さらに18年10月には、韓国の最高裁にあたる大法院が新日本製鉄(現日本製鉄)に対し損害賠償を命じた。

 これについて文政権は、賠償の肩代わりなどの法的措置をとらずに大法院の損害賠償命令を放置し、1965年の日韓請求権協定を反故にする暴挙に出てきた。

 2019年1月、日本は日韓請求権協定に基づく韓国との協議を求めたが、韓国はこれに応じなかった。そのため、日本は5月、韓国に対し同協定に基づく仲裁付託を通告し仲裁手続きを進めた。しかし、韓国はこれにも全く応じないで、結果として同協定を無視した状態が継続している。

 これは、明確な国際法違反であり、日韓関係の基本原則をゆがめるもので、ここまでくると、とても韓国とはまともな話し合いはできない。

 日韓関係は、戦後最悪といわれるが、前政権が結んだいくつもの日韓合意を簡単に反故にする文政権と話し合いをする余地はない。仮に合意に達したとしても、後継の政権で反故にされる可能性が高いので、日本としても文政権と交渉する関係を持つことはないだろう。

 以上見てきたように、17年5月に文政権になってから、日韓関係は悪化の一途であるが、それは文政権の仕掛けたことが原因だ。例えば、18年12月、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射する事件もあった。

 こうした一連の文政権による不誠実な対応を菅首相は、官房長官として対処してきた。当然であるが、毅然(きぜん)とした対応だったので、首相になってからもそれがぶれるとは考えにくい。

 一方、文政権も支持率が低迷しており、打開策は日本叩きか、北朝鮮と関係改善の二択だとの見方もある。

 ただ、北朝鮮としてはトランプ米大統領と直接のパイプができたので、韓国の仲介は「余計なお世話」であり、韓国主導で関係を改善できる環境にはない。ということは、日本叩きをするしか方法がないので、文大統領が菅首相と対話しようとする状況にもない。

 このような事情は菅首相も当然把握しているので、元徴用工や輸出管理の問題で手を緩めることはないと思われる。当分の間、日韓関係は改善の兆しは見えず、冷え込んだままだろう。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理の韓国に対する、激怒の限界を超えさせたのは文在寅(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事を裏付けるようなことがすでに起こっています。菅総理大臣は10月13日、自民党の役員会で、18日から4日間の日程でベトナムとインドネシアを訪問することを明らかにしました。菅総理が外国を訪問するのは就任後はじめてとなります。 そうして、韓国は素通りです。

菅総理は電話では韓国をはじめとして様々な国々と会談しています。この電話会談の順番が興味深いところがあります。 たとえば米国の前にオーストラリアとしていました。 韓国の後に中国とするという具合でした。

中国の王毅氏は、菅政権ができてすぐに日本に来たかったようですが、来づらい理由もあったたようです。それは、インド太平洋戦略にもとづいた日米豪印の外相会談を日本で開催されたということです。

これは安倍前首相が提唱したもので、日本に敬意を表して日本で実施ことになったのだと考えられます。日本に様々な国の外相が来たので、王毅氏としては、来日しずらくなったようです。

四カ国外相会議の直後に来れば、中国は何を言われるかわかりませんので。そこで距離を置いている間に尖閣に侵入したのです。そういう意味では中国は理解しやすい国です。菅総理のやり方は興味深いです。韓国が元徴用工問題で受け入れ可能な措置をしない限り、日中韓首脳会談には行かないようです。

今年(2020年)は韓国が議長国で12月にも日中韓首脳会議にはするということでしたが、菅総理は、徴用工の件で、資産の差し押さえと売却をやめるということでもなければ、行かないでしょう。 そもそも、菅総理は韓国が日本企業の資産現金化を行う場合には報復を行うと再三言及していることも紹介しています。

海自の航空機に対してのレーダー照射等の一連の問題が発生したときも、菅氏は官房長官をやっていましたから、当然のことながら細部にいたるまで時系列で覚えているでしょう。この件については、未だに韓国側から謝罪はありません。

安倍政権は「嫌韓」一色だったと国内外では見られがちでが、必ずしもそうとはいえないです。 

たとえば、2015年末に締結された慰安婦合意のときがそうでした。 

2014年慰安婦合意の時の安倍総理(当時)

韓国サイドから“極右政治家”と見なされていた安倍首相は、ソウルにまで乗り込み朴槿恵大統領(当時)と日韓首脳会談を行い、慰安婦合意への下交渉を行ったのです。 

日韓首脳会談の成果が結実する形で、2015年12月28日・日韓外相会談で日韓合意が発表される。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのです。 

岸田文雄外相(当時) は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり日本政府は責任を痛感している」と謝罪の気持ちを表明していました。

慰安婦合意は、韓国のテレビキャスターが速報を見て絶句してしまうほどの衝撃のニュースでした。ある意味で反日に慣れきっていた韓国側も、驚愕するほどの外交成果だったといえます。

もし安倍氏が巷で言われている“極右政治家”であれば慰安婦合意を成し得ようとは思わなかったはずですし、岸田氏のコメントを「良し」とはしなかったはずです。

こうして見てみると、安倍政権は決して嫌韓一辺倒ではなかったということが理解できます。私自身は、安倍晋三氏は現実主義的な人だと思います。

このとき、官房長官だった当時の菅総理は慰安婦の基金に関する折衝を担当していました。菅官房長官(当時)は李丙ギ(イ・ビョンギ)大統領秘書室長(朴槿恵政権時)とともに調整にあたっていましたが、文政権になってこの合意が一方的に覆されたばかりか、李丙ギ氏が文政権下で逮捕されてしまいました。

イ・ビョンギ氏

李氏が文政権で逮捕拘束され、慰安婦合意が紙切れとなった際、菅氏が激怒したという事実は日本の政界では広く知られています。菅氏は李氏が刑務所に送られると、手紙を書くなどして李氏を慰めたといいます。

菅首相は『文藝春秋』の最近のインタビューで「日韓両政府は2015年末、慰安婦問題の『最終的かつ不可逆な解決』で合意した。韓国側が合意を覆す可能性もゼロではなかった。もっとも、これほど早く関係がおかしくなるとは思わなかった」と述べました。慰安婦合意が紙切れになった後、菅氏の韓国を見る目が大きく変わったことは間違いないでしょう。

この一連の出来事で受けた失望感、文政権への不信が菅総理の対韓姿勢に強く反映されているのは当然のことです。そうしてこれらを文政権がすべて反故にしたということに菅総理は心底憤慨していると思います。韓国は、過去の経緯を踏まえて対応しなければ、菅総理もまともに対応できないのは当然のことです。

文在寅

この時に安倍晋三氏とともに、味わった苦い思い出を菅総理は一生忘れないでしょう。総理は、韓国が何らかの形で折れて、向こうのほうからまともな条件を出せば対応はするでしょうが、そうでなければ、表面的には無視し続け韓国との接触は避け、裏では韓国が何かをすれば、すかさず何らかの対抗措置をとることになるでしょう。そうするように仕向けたのは韓国であり、文在寅です。

こうした菅氏を怖いと感じる、日本の官僚、野党、マスコミ関係者もいるでしょうが、そう感じるのにはそれなりの理由があると思います。どれだけ、彼らが韓国のように安倍総理や安倍政権をコケにしてきたか、菅総理はそれを逐一細部まで知っているのです。だから怖いのです。

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2020年10月16日金曜日

モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出―【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

 モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出

岡崎研究所

クラベルカロネ氏

 創設以来南米出身者が占めてきた米州開発銀行(IDB)総裁の座にトランプ政権の高官(米国家安全保障会議のクラベルカロネ上級部長)が選出された。9月12日に行われたIDB総裁選挙では、加盟国48か国中、域内加盟国23か国を含む30か国がクラベルカロネを支持し、出資比率においても圧勝したといえる。

 当初、「総裁はラテンアメリカ出身者」という不文律を破ったことに対する反発は強く、元コスタリカ大統領など有力候補もいたにもかかわらず、ブラジルやコロンビアが米国支持を表明するなどラテンアメリカ諸国の足並みは乱れ、投票延期論も支持を得られず、結局対立候補も辞退する結果となった。

 トランプ再選の可能性を考慮すれば、この段階で米国と事を構えることは得策でないとの判断もあったのであろう。

 9月17日付の英Economist誌は、このモンロー主義が戻ってきたような事態は弱い分裂した南米の敗北を意味する、と評している。ただ、同記事は、今回のIDB総裁選挙の事例をもってモンロー主義の復活を改めて認識しているようであるが、いささか焦点がぼけているようにも感じられる。トランプには、選挙戦中からモンロー主義的傾向があり、2018年11月の国連総会演説でもそのような立場を明らかにしており、同時期のボルトンの「暴政のトロイカ」演説でも確認されていたことである。

 IDB総裁人事に関する米国の強硬な対応の背景には、ラテンアメリカ地域に対する中国の影響力拡大への懸念がある。昨年3月に中国で開催される予定であったIDB総会が開催1週間前にキャンセルされたが、その理由は中国がベネズエラのグアイド暫定大統領の代表の出席を認めない方針を変えなかったことにあった。

 国際機関の会議の開催地は事務局を通じて調整されるのが通常なので、このような事態は予想できたにもかかわらず中国での開催を進めたモレノ総裁に対し米国が不信感を持ったことは想像に難くない。後任者に中国に宥和的な人物を排除し、IDBを中国に対抗する手段として効果的に活用するには、米国人を総裁に据えるしかないと判断したのであろう。

 冷戦時代には、ラテンアメリカ諸国は西側陣営に組み込まれ、米国が積極的な介入を行った歴史がある。経済的ライバルでもある中国は東西冷戦期のソ連よりはるかに手強いのであるから、米中冷戦時代にモンロー主義が復活するのは自然の成り行きであるともいえよう。従って、仮にバイデンが大統領となったとしても直ちにクラベルカロネが退任することにはならず、加盟国の立場から総裁をコントロールしようとすることになる可能性もあるのではないかと思われる。

 急速に存在感が高まっている中国の経済支援には「債務の罠」的な問題もあり、支援対象国も政治的に偏りが見られるであろう。IDBの新型コロナ対策や経済支援の観点から、より適正で譲許性の高い資金供給を行う役割は、ラテンアメリカ諸国にとっても重要である。新総裁が域内諸国との融和にも努め、そのような自覚をもって取り組むことを期待したい。

【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

米州開発銀行本部(米ワシントン)

米州開発銀行(IDB)は中南米・カリブ(LAC)加盟諸国の経済・社会発展に貢献することを目的として、1959年に設立されました。IDBの活動を補完しLAC加盟諸国の民間企業に対する投融資を通じて域内経済の発展に寄与することを目的とする米州投資公社(IIC)、民間投資を促進するため技術協力や零細・中小企業育成等を行うため設立された多数国間投資基金(MIF)と合わせて、米州開発銀行グループと呼びます。

初のIDB米国人総裁選出の背景にあるのは中国の存在です。中南米は米国の「裏庭」とも呼ばれてきましたが、近年は貿易や投融資で中国が影響力を強めてききました。仮に、中国と関係が近い国から総裁が選ばれれば、IDBでの米国の力が下がる可能性があると警戒したと見られます。

中国はIDBに2009年に加盟しました。IDBは19年3月に中国・成都で年次総会を開く予定をたて、米国が反対して延期したこともあります。

60年に業務を始めたIDBは中南米の経済発展を支援してきました。05年から総裁を務めるコロンビア出身のモレノ氏の任期は9月末で満了します。

ラテンアメリカは地理的に米国に近く、歴史的に米国の影響範囲内にあります。ラテンアメリカでは20世紀半ばに共産主義が横行し、社会主義政権がいくつか誕生しましたが、米国に脅威をもたらすほどにはなりませんでした。

しかし近年ラテンアメリカに広がる中国共産党の浸透は、米国にとって深刻な脅威です。中国共産党は中国の市場、投資、軍事援助に依存する国家の政策を左右し、米国と対立させることも可能です。

     トランプ政権初期のラテン・アメリカ政策は「米国第一」で
     敵・味方を峻別 中露の影響力増大に懸念もあがっていた

中国共産党が建設した運河、港湾、鉄道、通信インフラは、すべてグローバルな覇者となるために将来利用する重要な道具なのです。

 一方 米国の対中南米関与は、トランプ大統領による、ブラジル、メキシコ、コロンビアなど 特定の国との個別外交に留まっています。その結果、中南米諸国の間で分断が引き起こさ れています。

例えばOECDへの加盟支持を巡って、米国がアルゼンチンからブラジルに鞍替 えしたことによって両国の分断を招きました。米州開発銀行(IDB)の総裁選挙でも、中南米諸国の分断が顕著となりました。

先にも掲載したように、 トランプ政権は、これまで中南米諸国出身者が務めてきた同ポストにトランプ政権高官を擁立しまし た。域内28カ国のうち、ブラジルやコロンビアを含む23カ国が米候補を支持した一方で、 アルゼンチンなど5カ国はコロナ禍を理由に総裁選の延期を主張し、分断された中南米 諸国は対抗馬の擁立に至りませんでした。

クラベルカロネ新総裁は、IDBの融資拡大によっ て中国の域内進出の動きを阻むと発言している。 一方で中国は、米国がもたらした中南米諸国の分断化の隙間を埋めつつあります。中国外相 はメキシコ外相と共に7月22日、新型コロナウイルス対応を巡る中国と中南米諸国のビ デオ会議を開催し、アルゼンチン、チリ、コロンビアを含む域内13カ国の外相が参加し ました。

中国政府は、自国で開発されたワクチンを中南米諸国が入手しやすくなるよう10億 ドルの融資を提供する計画を発表し、域内諸国との友好な関係構築を印象付けました。 中国は二国間でも、マスクや医薬品の供与、ワクチン開発協力によって影響力を拡大しています。

ブラジルでは現在、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が最終 治験段階で最も進んでおり、サンパウロ州知事によると早ければ12月中に実用化し、 2021年2月末までに6,000万回分の投与が可能とります。

ボルソナーロ大統領の息子エドゥ アルド下院議員は3月、新型コロナウイルスの感染拡大を中国の陰謀だとSNS上で発言。 これに対し副大統領や下院議長が批判した他、現地主要紙も否定的に取り上げるなど、 世論は中国に肯定的な動きを見せています。

米州開発銀行(IDB)新総裁クラベル カロネ氏は来月1日付で総裁(任期5年)に就任することが決まる一方、同氏はすでに1期しか務めな い方針を明らかにしており、異例の形でIDBの運営が行われることになるります。

他方、同氏はこれまでア ジアに生産拠点を構える米企業に対して、米国や中南米、カリブ地域への移転を促す『米州への回帰』 を促すイニシアティブを主張してきたほか、その実現に向けて企業に対する融資を強化する考えをみせ てきましたが、今後はIDBがそうした政策の『旗振り役』となることも予想されます。

 昨年6月G20での米トランプ、ブラジル ボアソナロ両大統領の会談


また、米トランプ政 権がIDB総裁人事に触手を伸ばした背景には、上述のようにIDBを通じて中国が中南米諸国に対す る影響力を強めてきた上、中国とブラジルが加盟する新開発銀行(NDB:いわゆるBRICS銀行)、 多数の中南米諸国が加盟するアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて中南米諸国への支援を 活発化させてきたことが影響しています。

こうしたなか、米トランプ政権としてはIDBに資源を集中さ せることで中南米諸国への影響力を強化させることを狙ったとみられる一方、11 月に米国では次期大統 領選が予定されており、仮にトランプ大統領が再選を果たせなかった場合にトランプ大統領との距離が 極めて近しいクラベルカロネ次期総裁の立場が如何なる状況になるかは見通せません。

その意味では、中 南米諸国に対する米国の『トランプ流外交』は一段と強まることで同地での米中対立の激化が予想され る一方、その行く末については大統領選の行方がカギを握る展開が続くでしょう。

これ以上のことは、大統領選挙次第ということで、大統領選挙が終了した段階で、また論じてみようと思います。

ただ一ついえるのは、中国共産党は世界中で浸透工作をしていますが、それには莫大な経費と時間がかかります。このようなことは、永遠には続けられないでしょう。旧ソ連も世界中で存在感を増そうとして、浸透しましたが、米国も似たようなことをしていましたが、結局経済的にも軍事的にもはるかにまさる米国に敗北しました。

それを考えると、やはり米国の最優先順位はやはり、現在では中国でありアジアということに変わりはないでしょう。米国としては、中国の脅威が中南米でこれ以上高まらないように対処するということになるでしょう。積極的に中南米に強力に関与することにはならないでしょう。これは、次に誰が大統領になろうと変わることはないでしょう。

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