2021年3月6日土曜日

事実上の“中国包囲網”、QUAD首脳会合開催へ 識者「G7より先行して対中路線を先導できる」日本は存在感が求められる局面―【私の論評】日本がクアッド関係国の軍事的危険を、無視するようなことがあってはならない(゚д゚)!

 事実上の“中国包囲網”、QUAD首脳会合開催へ 識者「G7より先行して対中路線を先導できる」 日本は存在感が求められる局面

クアッド4首脳、菅、バイデン、モリソン、モディ

 中国の軍事的覇権拡大に対峙(たいじ)する、戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」を構成する、日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国は、今月中旬にも初の首脳会合をオンラインで開催する方向で調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進や、新型コロナウイルスのワクチン普及に向けた協力などを話し合う見通しだ。日本にとっては存在感が求められる局面だ。


 首脳会合には、菅義偉首相や、ジョー・バイデン米大統領、スコット・モリソン豪首相、ナレンドラ・モディ印首相が出席する予定。

 クアッドは、ドナルド・トランプ前政権時の2019年に初の外相会合を開催し、中国を「唯一の競争相手」と位置付けるバイデン政権も4カ国連携を重視している。今年2月には電話で外相会合を行い、中国の力による一方的な現状変更の試みに強く反対する方針で一致した。

 首脳会合が3月になったのは、対中政策で協調する日米豪3カ国と、やや距離を置くインドとの間で調整に時間がかかったためとみられる。

 中国では5日、第13期全国人民代表大会(全人代)が開幕した。習近平政権は「外部勢力からの干渉を断固として防ぐ」として、香港での「民主派排除」につながる選挙制度見直しを進める見込みだ。

 新疆ウイグル自治区での人権弾圧をめぐっても、李克強首相は欧米からの批判を突っぱね、「中華民族共同体意識を確立し、宗教が社会主義社会に適用するよう導く」と強調するなど、強硬姿勢が目立つ。

 中国は2035年までに「軍の現代化」を実現し、今世紀半ばに「世界一流の軍隊」とする目標を定めており、国防費を膨張させている。

 このタイミングでの首脳会合には、どのような意味があるのか。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「重要なポイントは、6月のG7サミット(先進7カ国首脳会議)などに先行して会合が行われることだ。対中国の国際協調路線を先導することができる。中国の名前を出さないまでも、『自由で開かれたインド太平洋』などについて方針を一致させたい。地政学的に最も中国の影響を受けやすい日本も、存在感が求められる重要な局面だ」と分析している。

【私の論評】日本がクアッド関係国の軍事的危機を、無視するようなことがあってはならない(゚д゚)!

今回の、クアッド首脳会談が注目されるのは、やはり初の首脳会談だからでしょう。それ以外であれば、いままでも何度か開催されてきました。先月十八日にも、 「QUAD(クアッド)」の外相会合はオンラインで開催されました。

習近平主席は2015年12月31日、中国建国以来、最大規模となる軍改革の断行を発表しました。これは毛沢東や訒小平でさえ手を付けなかった解放軍の大改革です。

習近平主席が唱える「中国の夢」つまり「中華民族の偉大なる復興」の実現にとって、解放軍は不可欠な存在です。

とくに台湾の併合は中国の夢の核心部分であり、それを実現することにより実績をつけて、毛沢東や鄧小平を超える指導者になることが習近平主席の野望です。

解放軍改革は、2015年12月31日から2020年末までの5か年をかけて実施されてきました。

「中華民族の偉大なる復興」の達成年度は2049年(中国建国100周年の年)であり、この年までに「社会主義現代化強国」を達成し、軍事的には「世界一流の軍隊」の建設を目指しています。

その前段階として2020年までに「解放軍の機械化と情報化」を達成し、2035年までに「国防と解放軍の現代化」を実現すると宣言しています。

解放軍改革によって一挙に米軍に匹敵する実力がある解放軍になるわけではありません。この解放軍改革は、2020年、2035年、2049年という目標年に向かう3段階発展戦略の第1段階として捉えることができます。

「中華民族の偉大なる復興の道筋」


こうした、中国の軍事・経済的影響力拡大に対抗するために安倍晋三前首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想に、ドナルド・トランプ前米大統領が共感して発足した協議体がクアッドなのです。最初に構想したのは、安倍前総理なのです。

このロードマップをみてみると、昨年までには、第二列島線までを確保することになっていますが、現実には台湾・尖閣諸島を含む第一列島線も確保できていません。一方、ロケット軍の創設などには取り組んでいます。一言でいうと、陸上国である中国は、海洋においての試みはロードマップどおりにはいっていません。

そうして、陸上国である中国なのですが、先日もこのブログに掲載したように、中国と小競り合いが続いていたカシミール地方でインドが中国軍を押し返しました。

クアッドは、ジョー・バイデン米政権での継承が懸念されていたのですが、1月28日の日米首脳電話会談で、バイデン大統領は菅義偉首相に継承を伝えていました。同月29日には、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、中国への厳然とした対応を強調し、クアッドによる協力が「インド太平洋地域における米政策の基礎となる」と述べていました。4カ国の外相会合はバイデン政権発足後初となりました。

このブログにも以前掲載したように、クアッドには、英国の参加の可能性が浮上しています。英国政府は、香港問題やウイグル族へのジェノサイドをめぐって中国への対抗姿勢を鮮明にしています。英国は、日本が主導する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を正式申請し、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする部隊を日本の南西諸島周辺に長期派遣することを予定しています。

英空母「クイーン・エリザベス」

ドイツのクランプカレンバウアー国防相は昨年12月12日までに、時事通信の書面インタビューに応じ、日本やオーストラリアなどインド太平洋諸国との連帯を示すため、独連邦軍のフリゲート艦1隻を近くインド太平洋地域に派遣すると表明しました。また、中国の南シナ海での領有権主張に強い警戒感を示し、自衛隊やインド太平洋諸国の軍隊と共同訓練を行う可能性にも言及しました。

先月19日、フランスのパルリ国防相は仏紙フィガロとのインタビューで、フランス海軍の原子力潜水艦エムロードを南シナ海に潜航させたことを強調しました。フランスは仏領ポリネシアやニューカレドニア等を太平洋に保有しており、その排他的経済水域に中国が進出していることに懸念を有しています。

中国が南シナ海で行っているような国際法違反を野放しにすれば、いずれは太平洋の自国領土にも波及する可能性があることから、今回の原子力潜水艦派遣に踏み切ったものと考えられます。同20日には九州西方で仏フリゲート艦プレリアルと海自、米海軍が共同訓練を行いました。

英空母部隊の東アジア来航時、これにドイツ海軍のみならずフランス海軍も加わったら、英仏独というNATO主要海軍国が揃い踏みすることになり、クアッドとの共同訓練で中国に対しては強烈なメッセージを発することができる。

クアッドが、英国が加わった「QUINTET(クインテット=5人組)」に発展すれば、自由社会の対中抑止力は格段に増すでしょう。日本は、英国と米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5カ国が、安全保障上の機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」への参加も望まれています。この両方を日本は何としても、実現すべきです。

自由社会の連携が進み、日本が一定の位置を占めているのも、安倍前政権での安全保障改革で国際的信用度が高まったことが大きいです。国内では猛烈な批判にさらされましたが、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権の限定行使を可能にしなければ、クアッドもファイブ・アイズへの参加もあり得ません。安倍政権は大きな戦略を描き、自由社会結束の基礎をつくったといえます。

クアッドの立役者 安倍前総理

今後は、新・日英同盟の締結やクアッドの同盟化も必要となるでしょう。そのためには、国内体制の整備が不可欠です。自衛隊が海上保安庁と同様に領海侵入などに対処できる「領域警備法」整備は言うまでもありません。さらに、現在限定的な集団的自衛権をさらに拡張することも必要不可欠です。

クアッドの関係国が、軍事的危険にさらされているときに、日本が限定的な集団自衛権しか行使できないとして、関係国の危険を無視するようなことがあってはならないからです。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」するとして、自国防衛の主体性を放棄している現行憲法の改正が欠かせないことも再認識すべきです。

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2021年3月5日金曜日

米国民の約9割「中国は敵か競争相手」 全米調査―【私の論評】既存タイプの政治家バイデンはトランプのように中国との対峙を最優先にすることなく、結局何もできなくなる可能性が高い(゚д゚)!

 米国民の約9割「中国は敵か競争相手」 全米調査

米国と中国の国旗

 米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターは4日、米国にとって中国は「敵」または「競争相手」であるとする回答が計89%に上る一方、「パートナー」と位置付けたのは9%だったとする全米世論調査の結果を発表した。

 また、中国への感情を寒暖で表現した場合、悪感情を意味する「冷たい」が2018年の46%から67%に増加。このうち「非常に冷たい」は23%から47%に上昇したとし、この3年間で米国民の対中感情が急激に悪化していることが浮き彫りとなった。

 中国と「敵」としたのは全体の34%で、保守派の共和党支持者に限れば64%に上った。リベラル派の民主党支持者も71%が中国を「競争相手」であると答えており、中国への警戒感が超党派で高まっていることも分かった。

 バイデン大統領の対中政策については53%が「信頼できる」と答え、「信頼できない」の46%を上回った。ただ、「信頼できる」は民主党支持者で83%に達した一方、共和党支持者では19%にとどまった。

 また、「中国は市民の権利を尊重していない」との回答は90%に上ったほか、70%が「(中国との)経済関係が悪化しても人権問題(の改善要求)を優先すべきだ」と答えた。

 米中関係での深刻な懸案としては「中国からのサイバー攻撃」(91%)との回答が最も多かった。このうち「非常に深刻」と答えたのは65%で、前年に比べ7ポイント増加した。

 続いて「中国の軍事力増強」86%、「対中貿易赤字」85%、「雇用喪失」「中国の人権政策」「中国の技術発展」とも84%-などの順となった。

 調査は2月1~7日、2596人を対象にオンライン形式で実施された。

【私の論評】既存タイプの政治家バイデンはトランプのように中国との対峙を最優先にすることなく、結局何もできなくなる可能性が高い(゚д゚)!

この調査の詳細は、ピュー・リサーチ・センターのサイトからご覧いただけます。そこから、以下に調査をまとめたグラフを以下に掲載します。


ピュー研究所の最新世論調査によると、外交政策問題の中で米国人はジョー・バイデン大統領の中国に取り組む能力に最も不信を示しています。

67パーセントの回答者がバイデンは米国同盟国との関係を向上できると考えている一方で、バイデンの中国への取り組みに信頼を示したのはわずか53パーセントでした。世論調査は米国人の外交政策に関する意見における傾向をより大きく調査したものですが、それによるとバイデンの中国政策に対する信頼はテロリズムと国際貿易を含む他の外交政策の中で最下位となっています。

また回答者は中国に対して史上最低の好感度を報告した。調査対象の約90パーセントは中国を「競争相手または敵」と見なしており、70パーセントはたとえ米国の北京との経済関係を損なうことになったとしても、中国の人権侵害に対するより厳しい取り組みを支持しています。中国に対する「冷たい感情」も2018年から21パーセント増加しました。

中国が主導したサイバー攻撃と中国の人権問題が「非常に深刻」とした回答者は共に20年から7%ポイント増え、それぞれ65%と50%になりました。

中国によって米国で雇用が失われたことが非常に深刻な問題とした回答者は前年から6%ポイント増の53%。中国の軍事力が拡大していることが非常に深刻な問題とした回答者も過半数の52%でした。

中国の新型コロナウイルスの対応が不十分だったとする回答者は54%。ただ、米国の対応が不十分だったとの回答者はそれを超える58%でした。

対照的に、同盟国との関係改善など、バイデン氏が外交問題で総じてプラスの結果を出すと予想するとした回答は6割に上りました。

バイデン氏の対中政策に関して懐疑的な見方がくすぶる背景には、中国の習近平国家主席に対する深い不信感もあります。ピュー・リサーチ・センターの調査では、習氏が国際問題に関して正しい行動を取るとの回答は15%にとどまりました。

バイデンと習近平

しかし米国人が北京の競争相手をどう見ているかには党派間で隔たりがあります。共和党の50パーセント以上が中国を「敵」と見なしている一方、民主党ではわずか20パーセントが同じ見方をしています。

この党派間の隔たりはバイデン政権の中国政策実施に影響を及ぼす可能性があります。バイデン政権はウイグルジェノサイド宣言のように中国に関するトランプ政権の政策の一部を続けていますが、バイデンはトランプ政権のよりタカ派の方策の一部を実行するには至っていません。

2月にバイデンは米国の大学と中国が支援する孔子学院の間でさらなる情報公開を義務付ける保留中だったトランプ大統領令を取り消しました。重要な移行、外交、そして防衛の立場に就くバイデン任命者と候補者の中には中国に共感する見方を示したことのある人物もおり、中国の支援する団体と緊密なつながりを獲得している場合もあります。

先週公表のギャラップ調査では、中国に対して否定的な見解を持つ米国民の割合が79%に上り、調査を開始した1979年以来で最悪の水準となりました。中国よりも悪かったのはイランと北朝鮮だけでした。

4日の初の外交演説で、トランプ前政権が決めたドイツ駐留米軍の削減計画の凍結を発表しました。演説で「重大な競争相手」と位置づけた中国や、ロシアの脅威に対抗するため、欧州や日本など同盟国との連携を強めるとしています。


「米国は戻ってきた。外交を再び対外政策の中心に据える」。バイデン氏は4日、国務省で初めて実施した外交演説で強調しました。

まず示したのは、米国第一を掲げたトランプ氏の外交政策の転換です。バイデン氏は「米国の外交政策や安全保障の優先課題に適合させるため、オースティン国防長官が米軍の世界的な態勢を検証する」と述べ、3分の2に縮小する予定だった駐独米軍再編を検証が終わるまで見合わせると明らかにしました。

駐独米軍の削減は2020年夏、トランプ前政権がドイツとの調整も経ずに決めた経緯があります。ドイツが国防費を十分に負担していないと判断したためで、北大西洋条約機構(NATO)などからはロシアの脅威が増すなかでの一方的な決定に不満の声があがっていました。

オースティン氏は声明で「米軍の態勢見直しに際しては、同盟国や友好国と相談する」とトランプ前大統領との違いを明確にした。駐独米軍の削減計画の凍結はバイデン氏が掲げる同盟国重視の一環といえます。

バイデン政権でアフガニスタンの米軍撤収期限の延期論が浮上しているのも同じ文脈です。アフガンに駐留するNATO加盟国と足並みをそろえ、現地の治安安定に取り組むべきだとの声があります。トランプ氏は海外の米軍縮小という選挙公約の実現を優先し、反政府武装勢力タリバンとの合意に基づく5月の撤収に前のめりでした。

歴代米政権は安全保障環境に応じて米軍再編に取り組んできました。ブッシュ(第43代)政権は米同時テロに直面したことで旧ソ連との冷戦を想定した陸軍中心の態勢を見直し、機動性を重んじる非対称のテロとの戦いに軸足を置く米軍のトランスフォーメーション(変革)に動きました。

オバマ政権はアジア太平洋へのリバランス(再均衡)を提唱し、中東や欧州からオーストラリアなどへの配置転換を志向しました。ただ、過激派組織「イスラム国」などテロとの戦いに終止符を打つことができず、構想は道半ばに終わりました。

トランプ前政権は軍備予算を拡張する一方で、日本、韓国には駐留米軍の撤収をちらつかせながら負担増を迫ったこともあります。その交渉は決着せず、バイデン政権に持ち越しました。バイデン氏は最大の競争相手である中国の抑止に向けてどう米軍を配置するのが適切かを探ることになります。

欧州はアジアの安全保障に関与を強めています。ドイツはフリゲート艦の日本派遣の検討を進め、英国は空母クイーン・エリザベスをインド太平洋に送ります。南シナ海への海洋進出など中国の動きが念頭にあるのは明らかです。

バイデン氏は4日の演説で、トランプ氏が重視した中国の人権問題も取り上げました。中国の人権弾圧を明示して「攻撃的な行動に対抗する」と宣言しました。

NATOはバイデン政権発足後で初めてとなる国防理事会を17、18両日にオンラインで開きます。アフガンでの対テロ作戦、NATOが伝統的な脅威に据えるロシアに加え、中国への対処を協議する。トランプ前政権できしんだ同盟再構築に向け、具体的な第一歩となります。

以上、バイデン氏の政策などについても触れてきましたが、ここで気になるのは、バイデン氏は既存のタイプの政治家であり、やはり何かといえば、あれもこれもという総合的対策になる傾向があるということです。

トランプ氏の場合は、どちらかというと中国と対峙することを最優先にしていて、その他は従属的な要素と考えているようでした。そうして、それは、大統領になってから現実をみてそのような考えてに変わっていったと思います。北朝鮮の問題もそうです。トランプ氏は中国の問題が片付けば、北朝鮮の問題も片付くと考えていたようです。

この文脈で考えると、ロシアの脅威も従属的にみていたのだと思います。なにしろ、現在のロシアはGDPは日本の1/5です。人口は、1億4千万人です。これではロシアのできることは限られます。いくら頑張っても、できるのは、クリミア併合くらいであり、その以上のことはできません。ドイツ駐留米軍の削減計画もうなずけるところがあります。ドイツに多数の駐留軍を配置するくらいなら、中国との対峙にまわしたほうが、コストパフォーマンスは高いと考えたのでしょう。

現在のロシアは単独でNATOと対峙することもできません。米国抜きのNATOとでも戦えば、負けるでしょう。そうはいいながら、ロシアはソ連の核兵器や軍事技術の継承者ですから、侮ることはできないのですが、中国の脅威から比較すれば、さほどではありません。

中国は、一人あたりのGDPは先進国と比較すると及ぶべくもないのですが、人口が14億人もあり、国全体の経済では世界第二の大国になりました。世界にはこれを超える国は米国だけです。それを考えると、トランプ氏が中東への関与を縮小しようとしたのも理解できます。

中東といえば、従来は石油の産地ということで、米国にとっも重要な地域ですが、現在の米国は産油国となり、中東の価値は相対的に低下しています。私自身は、トランプ政権末期の中東和平の実現は、無論中国との対峙を最優先に考えてのことだと思います。

これを考えると、トランプ氏が中国問題を最優先するのは当然といえば、当然です。そうして、トランプ氏はバイデン氏とは異なり実業家です。実業家の特性として、物事に優先順位をつけて、会社を経営します。優れた経営者程のそのような傾向が強いです。

なぜそうなるかといえば、いかに大きな企業であっても、ヒト・モノ・カネ・情報・時間など使える資源は有限だからです。あれもこれもと、同時に実行すると、結局何もできなくなり、会社は衰退します。

しかし、その時々で3年から5年で、最優先の問題・課題を解決していくと、うまくいくことが多いのです。これは、企業でマネジメントをしている方なら、多くの人が経験していると思います。優先事項が5つくらいあったとして、その最上位項目を片付けると、ほとんどの場合、上位三項目くらいは自動的に解決するか、そこまでいかなくても、わずかの手間で解消できることが多いです。物事に優先順位をつけなくても、民間企業のように倒産することのない政治家や官僚との大きな違いです。

トランプ氏は大統領になって、超大国米国ですら、使える資源は有限であり、政治家や官僚の得意とする総合的対策をしていては、絶対にうまくはいかないと考えるようになり、中国との対峙を最優先に考えるようになったのでしょう。

もちろん、国でも企業でも、最優先事項だけ実施するというわけにはいかず、他のことも予算をつけて実行していかなくてはならないです。しかし、優先順位をつけなければ、何も成就しません。これは、戦時体制を考えればわかります。特に総力戦などの場合、あれもこれもと考えていれば、戦争に確実に負けます。負けてしまえば、本末転倒です。まずは、戦争に勝つことを最優先にしなければなりません。

あれもこれもという傾向は、党派にかかわらず、オバマ政権、ブッシュ政権、クリントン政権など過去の政権をみていてもそういうところがありました。トランプ政権だけが、例外だったと思います。バイデン氏もこのことに早く気づき、中国との対峙を最優先にすべきです。

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2021年3月4日木曜日

インドはどうやって中国軍の「侵入」を撃退したのか―【私の論評】中国撃退の背景にチベット人特殊部隊!日本も尖閣に侵入した中国軍を撃退できる(゚д゚)!

 インドはどうやって中国軍の「侵入」を撃退したのか

Did India Just Win?

ハーシュ・パント(英キングズ・カレッジ・ロンドン国際関係学教授)、ヨゲシュ・ジョシ(国立シンガポール大学南アジア研究所研究員)

中国との国境紛争が生じている地域で補給物資を運ぶインド軍の車両

<小競り合いが続いていたカシミール地方でインドが中国軍を押し返した戦術と戦略>

インドと中国は2月10日、過去50年間で最大の衝突が生じていた国境紛争で、一部地域からの撤退を開始した。

実効支配線を挟んだにらみ合いは続いているが、今回問題となったインド北東部、ラダック地方のパンゴン湖周辺では、両軍が装甲車などを撤収する様子が衛星写真などで確認された。インドと中国は、領有権争いのある地域を「緩衝地帯」とも呼んでいる。

この結果にインドは大喜びしているに違いない。実効支配線を侵害してインド側に入り込んできた中国軍を、事実上追い返したのだから。

今回の衝突が始まったのは2020年5月のこと。中国軍が実効支配線をまたいでインド側に侵入し、インド軍のパトロール活動を妨害するとともに、野営地や集落を設置したのだ。それは地理的にも規模的にも、局地的とか限定的と呼ぶレベルを超えていた。

 中国軍6万人が集結

世界が新型コロナウイルス感染症への対応に追われている間に、中国は実効支配線付近に6万人ともいわれる兵力を集めて、インド側に圧力をかけ始めた。

これは1962年の中印国境紛争後に辛うじて維持されてきた均衡を脅かしただけではない。両国軍はパンゴン湖の北に位置するガルワン渓谷で実際に衝突して、インド兵20人が犠牲になったのだ。

インドのナレンドラ・モディ首相にとっては、メンツをつぶされた格好にもなった。17年にブータン西部のドクラム高地で、やはり中国が実効支配線を越えてブータン側に侵入し、応援に駆け付けたインド軍と衝突したとき、モディは中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に直接対話を申し入れる「大人の対応」をしていたからだ。

中国がコロナ禍のどさくさに紛れて実効支配線を越えて、本来インド領とされていた地域の領有権を既成事実化するつもりだったとすれば、ガルワン渓谷での衝突は致命的なミスとなった。インドは中国のゴリ押しを受け入れるどころか、断固立ち向かう決意を固くしたからだ。

インドは経済力、外交力、軍事力を駆使して反撃に出た。まず、インド国内の中国企業にターゲットを定めた。

インドは原材料や完成品の輸入で中国に大きく依存しているが、中国も巨大なインド市場に依存している。そこでモディ政権は、インド国内で中国製アプリの使用を禁止し、中国国有企業によるインフラ投資参加に待ったをかけた。次世代通信規格5Gのインフラ事業から華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を排除する可能性も示唆した。

外交面でインドは欧米との連携を深める戦略を取った。昨年10月には、アメリカと衛星情報の共有などで合意したほか、インド洋で行われる日米印の合同軍事演習にオーストラリアを招いた。さらに海軍の駆逐艦1隻を南シナ海に派遣して、この海域の領有権争いで中国に対抗する陣営を応援する姿勢を示した。

軍事面では、ラダック地方の軍備を大幅に強化した。陸軍をほぼ3師団配置したほか、空軍もミグ29戦闘機、スホイ30攻撃機、ミラージュ2000戦闘機など最新鋭機を配置した。海軍は、対潜哨戒機ポセイドンを、ヒマラヤ地方の哨戒活動に派遣した。

 中国の意表を突いたインド軍

そうまでしても、中国の侵攻に待ったをかけるのは容易ではなかっただろう。全体として見れば、インドの軍備は中国のそれを大幅に下回るし、中国経済はインドとのデカップリング(切り離し)を許容できるだけの規模がある。

ではなぜ、中国は今回、事実上の撤退に同意したのか。それはインドが限定的だが独創的な兵力によって、ラダック地方の戦術的現実を変えたからだ。具体的には、インド軍は高地を支配して、より低地にいた中国の意表を突いた。

例えば昨年8月末、インド軍はヒマラヤ山脈と並行して走るカイラス山脈の重要地点を確保した。ここからなら、パンゴン湖の北岸と南岸の中国の拠点が丸見えだ。また、インド軍は同湖北岸の高地にも拠点を築いた。この戦術に中国軍は驚いた。そこにとどまっていては、想定を大きく上回る損害を被りかねない。

だから9月初め、上海協力機構(SCO)外相会議のためにモスクワを訪れていた中国の王毅(ワン・イー)外相は、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相と2国間協議に応じたのだ。そこから4回にわたる軍高官級会議が開かれ、インドはこの問題に(取りあえず)片を付けることに成功したのだ。

だが、中印関係の根本的な問題が消えたわけではない。中国の影響力拡大と、定期的な実効支配線侵害は、今後もインドにとって最大の戦略的課題であり続けるだろう。このためインドは、対外戦略の3つの見直しを進めている。

第1に、軍の重点配備地域を北西部から北東部にシフトさせた。これまでインドが最も警戒してきた相手はパキスタンだったが、今後は中国になるだろう。既に陸・空・海軍の再編は始まっている。

 「中国の孤立化」を急げ

第2に、中国との経済的デカップリングは今後も迅速に進むだろう。もちろんインドが譲歩しなければならない場面もいくつかあるだろうが、両国経済の軌道が異なる方向を向き始めたことは、今や明白だ。

日米豪印のいわゆるクアッドは、中国のパワーの源泉が自由主義経済の国々との経済的な相互依存関係であることに気付きつつある。従って中国を軍事的に抑止するためには、中国を経済的に孤立させる必要がある。これは短中期的にはクアッド諸国に痛みをもたらすだろうが、長期的には中国の痛みのほうが大きくなるだろう。

第3に、インドは引き続き、欧米諸国との協調路線を強化するだろう。これまでは、物質的および地位的な便益をるためにアメリカに追随していたが、今は、生き残りのためにアメリカと歩調を合わせる必要がある。インドが中国に対抗するテクノロジーや資金、武器を確保するためには、アメリカをはじめとするクアッドが必要不可欠だからだ。

パンゴン湖周辺からの中印両軍の撤退は、ひとまず両国間に緊張緩和をもたらしているが、根本問題が解決したわけではない。中国の軍事的台頭と領土拡張志向を考えると、今後も定期的な武力衝突は避けられないだろう。

インドが中国の弱いものいじめに立ち向かうためには、真に有効な軍事的抑止法を手に入れる必要がある。インド政府はそのために、これまでにない努力をする決意のようだ。このことは中印関係だけでなく、インド太平洋地域全体の地政学をも、新たな段階に移行させるだろう。

【私の論評】中国撃退の背景にチベット人特殊作戦部隊!日本も尖閣に侵入した中国軍を撃退できる(゚д゚)!

インドが中国軍を退けた事実は、日本や台湾など中国の脅威にさらされている国々にとっては、実効支配線を侵害してインド側に入り込んできた中国軍を、事実上追い返したことは、久々の朗報だと思います。インドができることを日本や台湾だけができないということはないはずです。

インドがカシミール地方でインドが中国軍を押し返した戦略と戦術は、外交面でインドは欧米との連携を深める戦略をとったこと、中国軍の意表をついた戦術採用したこと、クアッドにインドが加入しているという事実ということに集約されそうです。

これは、日本にも多いに参考になります。外交面では、日本はインドと同じかそれ以上に従来から、欧米と連携を深めています。

中国軍の意表をついた戦術は日本もとれます。これは、後で述べます。最後のクワッドに関しては、もともと安倍総理がこれを提案したものです。

中国軍の意表をついた戦術に関しては、上の記事では、以下のように記述しています。
インドが限定的だが独創的な兵力によって、ラダック地方の戦術的現実を変えたからだ。具体的には、インド軍は高地を支配して、より低地にいた中国の意表を突いた。

例えば昨年8月末、インド軍はヒマラヤ山脈と並行して走るカイラス山脈の重要地点を確保した。ここからなら、パンゴン湖の北岸と南岸の中国の拠点が丸見えだ。また、インド軍は同湖北岸の高地にも拠点を築いた。この戦術に中国軍は驚いた。そこにとどまっていては、想定を大きく上回る損害を被りかねない。

これに関しては、あまり報道はされていませんが、インドに在住しているチベット人の活躍があったものみられます。

昨年8月末、インドと中国の緊張関係は、ヒマラヤ山脈の高地での兵士の戦闘につながったことが確認されています。

戦闘は、インドのラダック地方パンゴン湖周辺の係争中の実効支配線沿いで起こり、500人以上の兵士が関与して約3時間続いたと報告されています。

インドは、中国の侵略に対応したものだとし、数日後には特殊作戦部隊がステルス作戦で中国の野営地を押収したと述べました。

この事件は、同じ地域で同様の衝突が起き、インド人兵士20人と中国軍の兵士(人数は不明)が死亡してから2カ月以上が経過した後に起きました。死傷者の数字はまだ報告されていないですが、インド人兵士1人が地雷原に入って死亡し、1人が負傷したといいます。

それらの兵士はチベット人で構成されるインドの秘密部隊、特別フロンティア部隊(SFF)の一員でした。この件をきっかけに、この秘密部隊は注目を浴びることになりました。創設から約60年を経た今、この部隊のメンバーをはじめとする多くのインド在住チベット人が悲願とする「中国への挑戦」を始めています。



SFFは、インド軍ではビカス大隊として知られている部隊で、1962年のインドと中国の国境紛争の際に設立されました。この戦争に敗れたインドは、高地での偵察や打撃作戦が可能な専門の山岳部隊の必要性を痛感したのです。

最良の兵士候補はインドに大勢いるチベット難民でした。その多くは1959年にチベット蜂起に失敗した後、彼らの指導者であるダライ・ラマとともにインドに逃れてきた人々でした。

難民たちは高地に慣れており、中国共産主義勢力との戦いに意欲を燃やしていました。何人かは蜂起に加わった軍人で、何人かは以前にCIAによってゲリラ戦の訓練を受けていました。この部隊は、インドの国内情報機関である情報局によって創設され、その後、インドの対外情報機関である調査分析部隊に引き継がれました。

当初は「エスタブリッシュメント 22」と呼ばれていたましたが、1967年にSFFと改名されました。CIAは1970年代初頭まで訓練や装備の援助を行っていました。彼らは献身的な山岳部隊であり、ヒマラヤの厳しい気候の中でのパトロールと戦闘の達人でした。

SFFは1962年の中国と戦争時にはまだ創設されておらず、創設の主な理由は中国と対峙することでしたが、これまでそれを行う立場に置かれたことはほとんどありませんでした。インド人が中国への対抗に情熱を燃やしている隊員が緊張状態をエスカレートさせるのではないかと危惧したのかもしれません。

しかし、SFFは何度も戦場で活躍してきました。1971年のインド・パキスタン戦争では、バングラデシュ(当時の東パキスタン)のパキスタン軍の背後に 3000人の隊員が降下して要所を制圧し、パキスタン兵がミャンマーに退却するのを防ぎました。この戦闘では50人の隊員が死亡、190人が負傷しました。

彼らは 「ブルースター作戦」でシーク教徒の反乱軍と戦い、1984年にサイアヘン氷河をインドが制圧するのを助け、1999年にもカルギル戦争で戦いました。

SFFの特殊部隊はまた、CIAが中国の核兵器開発計画を監視するのを秘密裏に支援し、中国との国境沿いに最新の監視装置を設置し、維持するのをサポートしました

SFFの初代司令官の息子で、SFFとともに戦った退役軍人であるグルディップ・シン・ウバン(Gurdip Singh Uban)氏は最近、彼らを「大胆不敵だ」と評し、「決して躊躇しない」と語りました

SFFはインドの内閣官房の管轄下にあり、インド軍の一部ではありません。この部隊の兵力は3000人から5000人と推定されています。

グルカ兵として知られているインド人やネパール人の戦士もSFFには存在しますが、部隊の記章はチベットの旗に見られるのと同じ雪獅子であり、そのアイデンティティは明らかにチベットであるといえます。

その起源と任務のため、この部隊は秘密にされてきました。インド当局は、8月の戦闘で死亡した軍歴33年間の古参兵テンジン・ニーマ(Tenzin Nyima)の家族に、彼の任務について話さないよう求めました。

テンジン・ニーマ氏

しかし、ある出来事によって、この部隊は注目を集めました。その部隊が8月下旬に中国の野営地を攻撃したとき、インド在住のチベット人がインドと中国が大規模な軍事力増強を行っている国境地帯に向かうSFFの兵士を温かく見送る様子を撮影したビデオが公開されたのです。

このことは、SFFとインドのチベット人コミュニティ全体が、彼らが受けるに値する認知と注目を得ることへの期待につながっています。それはまた、宿敵に立ち向かう機会を得て、インドに住む一部のチベット人の感情をかき立てたのです。

ある元SFF兵士は最近、サウスチャイナ・モーニング・ポストに対し、「ほとんどのチベット人がこの部隊に参加するのは、これが中国と戦う唯一の方法だからだ」と語っています。

さて、SFFの話が長くなってしまいましたが、中国軍の意表をついた戦術は日本もとれるという話に戻ります。

それは、このブログの読者なら、もうご存知でしょう。無論日本の静寂性(ステルス性)に優れた、潜水艦隊を用いることです。

以前にもこのブログに掲載したように、中国海軍の対潜哨戒能力はかなり低いので、日本の潜水艦の行動を確認することはできません。一方、中国の潜水艦は静寂性が劣っているどころか、騒音がするので、日本の海自の対潜哨戒能力は世界トップ水準です。

日本の世界トップレベル対潜哨戒能力の象徴でもあるP1哨戒機

この優位性を活用すれば、特殊作戦部隊(SFF)がステルス作戦で中国の野営地を押収したようなことが、日本側には容易にできてしまいます。

さらに、日本は当然のことながら、東シナ海の海域に関しては隅々まで知っていますし、中国の潜水艦はじめとする艦艇の音紋を把握しており、中国海軍がどのような行動をしているかを熟知しています。

さらに、東シナ海や尖閣諸島付近の海底についても熟知しています。これは、SFFの兵士たちが、高地を熟知しているのと同じです。どこに潜水艦を潜めておけば、効果的なのかを熟知しているのです。

これらの情報と、日本の潜水艦のステルス性を活用すれば、SFFが実行したように、中国海軍に対して、様々なステルス作戦を実行できます。

このようなことを前提として、以前もこのブログに掲載したように、たとえ中国海軍や民兵が尖閣諸島に上陸したとしても、日本の潜水艦隊で尖閣諸島を包囲し、近づく中国の補給船や航空機などを威嚇するか、最悪撃沈、撃墜するということをすれば、尖閣諸島に上陸した部隊は補給が受けられずお手上げになり投降するしかなくなります。

尖閣諸島に近づく艦艇も、すぐに撃沈されてしまいます。おそらく、日本の潜水艦隊が、尖閣諸島を包囲した段階で、そこにとどまっていては、想定を大きく上回る損害を被りかねないと判断し、SFF等が実効支配線を侵害してインド側に入り込んできた中国軍が撤退したように、尖閣に上陸した中国軍も撤退するのではないでしょうか。撤退しなければ、中国は多くの艦艇・航空機を失うことになります。

なにやら、最近は保守派でも、中国の軍事力が圧倒的に強いので、尖閣は危ないと煽りまくる人もいますが、それだけだと中国に利することなりかねず、バランスを欠くと思います。中国の脅威を訴えるのは良いことだとは思うのですが、それだけではなく上で述べたような文脈のような情報も同時に提供してしかるべきと思います。

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2021年3月3日水曜日

台湾産「自由パイナップル」が中国の圧力に勝利、日本も支援―【私の論評】中国の恫喝に対応するため、同志国はさらなる協調をせよ(゚д゚)!

 台湾産「自由パイナップル」が中国の圧力に勝利、日本も支援

中国から突然禁輸を通告されたパイナップルを宣伝する台湾の蔡英文総統(3月3日)

<中長期的には、輸出の中国依存を脱却しなければいつまた突然禁輸措置を突きつけられるかわからない>

台湾の市民と企業は、収穫の開始直前に中国税関から無期限の禁輸措置を受けた国内のパイナップル生産者を一丸となって支援している。

地元のバイヤーだけでなく、日本などの近隣諸国が、今年中国市場向けに生産したパイナップル4万トン以上を「ものすごい勢いで」買ってくれた、と台湾の陳吉仲(チェン・ジィゾン)農業委員会(農林水産省)主任委員は、2日に語った。

3月1日から台湾産パイナップルの輸入を停止するという中国税関総局の通知を台湾政府が受けたのは、禁輸開始3日前の2月26日のことだった。理由は、昨年以来、台湾産農産物からさまざまな有害生物が発見されたからだという。

台湾行政院農業評議会(COA)は、2020年に中国向けの輸出貨物6200件のうち13件に有害生物がいたという報告を受け、対処していた。そして同評議会は、中国政府が昨年10月に改正輸入規則を導入して以降、有害生物の苦情は受けていない、と述べた。

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、行き場を失ったパイナップルに対処する政権の計画を発表するフェイスブックの投稿で、土壇場で禁輸を通知した中国政府のやり方を「不意打ち」と非難した。蔡政権閣僚をふくむ政府当局者は、与党民主進歩党の支持者が多い南部の農民をターゲットにした中国による政治的な動きとみて、批判している。

 いち早く日本が反応

COAのデータによると、台湾から輸出されるパイナップルのほぼすべてが中国向けで、台湾の年間産出量41~43万トンの約10%を占めている。昨年は4万1000トン以上が中国に輸出された。

台湾政府の計画では、余った5万トンものパイナップルの60%を日本、アメリカ、シンガポールなどに輸出し、残りの40%は国内加工食品メーカーに地元産パイナップルの使用を奨励することで消費するつもりだった。

しかし、蔡政権が主導し、有名人や大企業が支援を呼びかけを始めると、パイナップルの需要は急増した、と陳主任委員は語った。

中国政府の通知から約96時間後の2日正午までに、海外市場への5000トンを含む4万1687トンのパイナップルが売れた、と陳は記者らに語った。この数字は昨年の中国への販売量を上回っている。

世界で最も厳しい食品輸入基準のある日本も、最も速く反応した国のひとつだった。台湾政府のパイナップル推進キャンペーンの初日に、日本からの受注は62%増加した、と陳は言い、今年の対日輸出量は前代未聞の5000トンに達すると予測した。

台湾政府はまた、国外在住の台湾市民からの需要の増加にも対応しようとしている。そのなかには、今のところ台湾からの生の果物の輸入を許可していない国が含まれている。

陳は記者会見で、パイナップルの輸入を停止するという中国政府の「一方的な」決定は「国際貿易の規則に矛盾している」と述べた。だが農業委員会は、世界貿易機関(WTO)に対する仲裁の申し立てを検討する前に、中国の関税当局とのさらなるコミュニケーションを試みるだろうと、言った。

他の農産物の中国への輸出は影響を受けていない。

今回は「危機をチャンスに変える」ことに成功したが、そもそも台湾政府は、単一の輸出先に依存しすぎる状態を避けるために積極的に他の市場を開発していたと、陳は言う。

蔡政権は、16カ国の市場に目を向けている。そのひとつであるアメリカでは、2019年から20年の間に台湾産果物の輸入量が210%増加した。

2月28日に高雄市を訪問した蔡総統は、農業が盛んな台湾南部のパイナップル生産者の懸念を和らげようとした。「パニックに陥らないでください、政府があなた方を守ります」と、彼女は人々に語りかけた。

蔡政権は、台湾のパイナップル産業の損失を補填するために、3580万ドルの支援を約束。また、市場でパイナップルがだぶついて値段が下がり、農家が大きな損失を被らないように、現在の市場価格を維持することを約束した。

 自由パイナップルに支援を

一方、台湾の外交部(外務省)は、今回の中国によるパイナップル禁輸を、かつてオーストラリアからのワイン輸入を制限した中国政府の反ダンピング(不当販売)措置のようなものとみている。あのときはオーストラリア産ワインに200%の追加関税が上乗せされた。

台湾政府はオーストラリアの「自由ワイン」を支持しようと呼びかける国々に加わった。今回、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長(外相)は台湾の「自由パイナップル」に同様の支援がほしい、とツイッターに書き込んだ。

「中国による台湾産パイナップルの輸入禁止措置は、ルールに基づく自由で公正な貿易の前に効力を失った。台湾のパイナップルの品質は最高で、最も厳しい国際認証基準を満たしている。われわれは、中国政府に決定の取り消しを求める!」と、外交部はツイートした。

経済を利用した抑圧だという台湾の非難に対して、中国の国務院台湾事務弁公室は、パイナップルの禁輸は、中国の独自の農産物を保護するために「必要」だったと発表。台湾側は、中国の信用を落とすためにこの問題を「故意に歪曲」している、と中国の当局者は述べた。

蔡が総統に就任して以来、政府の経済計画は「新南向政策」に基づいている。その目標は、中国市場への依存を解消し、そのかわりに南アジア、東南アジアのパートナー国と貿易および安全保障を構築し、それをオーストラリア、ニュージーランドまで拡大することだ。

台湾の行政院財政部(財務省)によると、昨年の台湾からの輸出の40%以上が中国と香港向けで、輸出総額3452億ドルのうち1514億ドルを占めた。

【私の論評】中国の恫喝に対応するため、同志国はさらなる協調をせよ(゚д゚)!

中国依存の危険に関しては、我が国をはじめ世界中の国々が今回のコロナ禍で再認識しました。特にマスクが一斉に姿を消したことは、私達の記憶にも新しいところです。

マスクをはじめ、どのような製品・サービスであろうと、中国にだけ過度に頼ることは本当に危険です。今回のパイナップルをめぐる出来事もその認識を強める結果となりました。

サプライチェーンに関しては、企業レベルにとどまらず国レベルでもその脆弱性を考える必要があることが明らかになったと思います。マスクや医療用ガウンなど個人防護具(Personal Protective Equipment)の不足は、感染拡大で通常時の50倍の需要が発生したことが主な要因でしたが、多くの輸出制限措置も取られました。

また、中国のオーストラリアへの措置のように、国家として政治的目的で「経済的恫喝」(economic coercion)を使うケースもあります。

貿易取引が経済的恫喝に使われる点は、1945年にアルバート・ハーシュマン(Albert O. Hirschman)が『国力と外国貿易の構造』(National Power and the Structure of Foreign Trade)の中で説明しています。

アントン・ドストラー将軍の軍事裁判にて通訳を務めるハーシュマン。(1945年)

ハーシュマンは、貿易が「供給効果」(supply effect)とともに「影響力効果」(influence effect)を生み出すと指摘しています。供給効果は、貿易により経済厚生が増大し国が豊かになる効果ですが、影響力効果は、貿易が依存関係を作り、それが政治的目的のために利用される効果です。これら両効果は相互に排他的なものではありません。

この影響力効果の基礎となる「依存」は、貿易を行う2カ国に同時に発生しますが、ハーシュマンは、依存が「非対称的」と主張しました。具体的には、1938年のドイツとブルガリアの貿易の例を引き、ブルガリアにとっては輸出の52%、輸入の59%がドイツであったのですが、ドイツにとってブルガリアとの貿易は、輸入の1.5%、輸出の1.1%にすぎなかったとし、ドイツが一方的に「影響力効果」を行使し得る関係を描きました。

ナチスドイツ総統ヒトラー

『国力と外国貿易の構造』は1930年代にナチス・ドイツが東・南東ヨーロッパに貿易と政治的影響力を拡大するさまを分析したもので、中国を扱うものではありませんが、その分析枠組みは今日の中国の「経済的恫喝」を考えるうえで示唆に富んでいます。世界最大の貿易大国となった中国は各国に強い「影響力効果」を有しています。

中国も自らの力を認識。習近平主席は2020年4月10日の党中央財経委員会での演説で「産業の質を高めて世界の産業チェーンのわが国への依存関係を強め、外国による人為的な供給停止に対する強力な反撃・威嚇力を形成する」と表明。実際には「反撃」にとどまらず、オーストラリアのCOVID-19発生源調査、日本の尖閣諸島、ノルウェーの劉暁波へのノーベル平和賞授与、韓国のTHAAD配備等に関連して「経済的恫喝」の先制攻撃を繰り返している点は広く知られているところです。

われわれはいかに対応したらいいのでしょうか。ハーシュマンは、貿易のメリットを生かしつつ、「影響力効果」を減らすため、貿易規制権限を各国から国際機関に移管することを主張しました。実際に国際社会はその後、GATT締結、WTO設立と貿易規制権限を国際組織に移管していきました。

しかし、国際ルールは完全でも網羅的でもありません。中国はこの隙間を利用し、自らの措置をオーストラリアのダンピングに対する対抗措置、検疫や環境に関連した措置などと主張、「経済的恫喝」とは認めません。日本が主権を有する尖閣諸島に関連して中国が2010年に行った日本向けレアアースの輸出停止も、中国は環境問題が理由と主張しました。

こうした状況に鑑みれば、WTOというの機能の強化は無論のこと、同志国の連携強化も必要であり、たとえば「自由連合基金」等を設けるべきです。

同基金では、同志国が共同して中国の「経済的恫喝」を認定し非難する枠組みをつくるべきです。そうして、この基金は中国等の貿易による損失を被った国に対してその補填をするのです。

これは「抑止力」としても有効です。同志国で真剣に議論が行われるだけでも一定の抑止的効果があります。さらに、基金による補填ということで、中国が経済力を背景とする恫喝を和らげることができます。

米国と台湾は昨年9月4日、新型コロナウイルス禍に伴うサプライチェーン(供給網)の再構築に向け、自由や民主主義など価値観を共有する「同志国」に協力を呼び掛けました。

チェコ上院議長らの台湾訪問に合わせ、米国が主催したフォーラムには、台湾やチェコ、日本、欧州連合(EU)、カナダの代表らが出席しました。

米国の台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所のブレント・クリステンセン所長(大使に相当)は、会議に集う全員が表現や信条の自由といった共通の価値観でつながっているとした上で、「こうした共通の価値観は将来の供給網を再構築する上での道しるべになる。経済や業界、企業が安全な供給網を構築するには、われわれ全員による協調的な取り組みが必要だ」と訴えました。

台湾の呉ショウ燮外交部長(外相に相当)は、中国を念頭に「法の支配や自由、民主主義、透明性を尊重しない国」が主要産業を牛耳れば何か起こるかをコロナ禍で思い知ったとした上で、「今後われわれは他の同志国と協力して、強制、搾取、拡張主義ではなく、共同繁栄につながる相互の産業関係を確立していく。台湾と欧州、アジア、北米の民主主義国との間に、一層緊密な協力関係を築く上で大いなる可能性がある」と述べました。

いじめっこに声を上げるのは勇気がいります。自分が直接いじめられていなければなおさらです。しかし、いじめは成功すれば繰り返されます。今日のオーストラリアとの連帯は、明日の日本を守ることなのです。

ハーシュマンは『国力と外国貿易の構造』を書いた34年後の1979年に「非対称性を超えて」(Beyond Asymmetry)という小論を記しました。その中で、貿易から生じる依存は非対称で大国が有利だが、小国が経済的懲罰を甘んじて受けるのか、自由のために戦うのか、その意志や士気も影響すると述べています。同志国が連帯して意志を示すことは、いじめの抑止への重要な一歩です。

脆弱性克服のためにできることは他にもあります。重要物資が1カ国へ過度に依存している場合、その分散や、国内生産能力の強化も有効です。

また、日豪印、日アセアンでもサプライチェーン強化の議論が始まっていますが、米国等とも協力しこの動きを拡大することは意義があります。アセアンやインドへの企業立地の促進には、インフラ整備を含めた投資環境の改善も必要で、日本がそのために協力できます。

また、石油等と同様に、重要物資の戦略備蓄の強化も大切です。さらに、GATT第20条(b号)では生命・健康に影響する場合には自由貿易原則の例外として貿易制限が認められますが、それゆえに危機時に重要物資の入手が困難になります。

輸出制限措置を制約するような国際ルールの変更、あるいは、そうした例外措置を用いないという同志国の合意は、危機時の重要物資の調達の安定性を高めまする。オタワグループを含め、そうした動きがすでにみられることは心強いです。

  昨年日本を含むWTO有志国で構成された、オタワグループの閣僚級会合が
  テレビ会議形式で開催され、牧原経済産業副大臣が参加。


ただし、サプライチェーン強化が偽装した保護主義とならないよう注意を払う必要もあります。すべての工場を国内回帰という政策は、国力を弱めます。米国でよく聞く「経済安保は国を守る」(Economic security is national security)という主張は正しい(ハーシュマンの言う影響力効果)です。

しかし、経済成長は国力を高め国防費の増加を支え、国の安全も高めます。その意味で、「経済も国を守る」(Economy is also national security)(ハーシュマンの言う供給効果)という指摘は正しいです。

日本は経済安保のさらなる強化が必要ですが、米国内で一部見られる経済安保に名を借りた保護主義は、経済を弱めることで安全保障も毀損することになります。そうした落とし穴を避け、適切な経済安保政策で貿易相手国からの影響力効果をコントロールしつつ、貿易が生む供給効果で国を豊かで強くすることこそ重要です。私達は、改めてハーシュマンの知恵に学ぶ必要があります。

今回の、台湾のパイナップルに関しては、日本をはじめとして各国の協力があって、結局中国に対する圧力に勝利することができましたが、もっと基幹的な産業の製品などにおいて同じような恫喝を受けた場合、とんでもないことになりそうです。

たとえば、EUであれば、リチュウム電池は製造しておらず、すべて中国からの輸入にたよっています。これは、輸入先を増やすとともに、EU内でも製造できるようにすべきでしょう。レアアースに関しては、日本では代替品もできてはいますが、やはり中国だけではなく、他国からも輸入できる体制を整えるべきでしょう。

日本は、ほぼすべての産業の技術が集積しており、中国からの輸入等が途絶えても、コストを無視すれば、自国内ですべて製造できます。その点は心強いです。そうして、それは、日本は中国・インド・米国などを覗けは1億人以上もの人口を有する国だからです。

他の人口が数千万人以下の国々では、自国にない技術に関しては、同志国の間で補い合うべきです。

今後中国は今回の台湾のパイナップルにとどまらず、様々な恫喝をかけてくるでしょう。それに負けないためにも、同志国は協調する道を選ぶべきです。


中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか―【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

2021年3月2日火曜日

険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ―【私の論評】日本が対ロシア経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

 険悪化する欧露関係、「本当のロシア」に対峙せよ

岡崎研究所

 2月13日付の英Economist誌が「EUは本当のロシアに対峙しなければならない。宥和は機能していない」との記事を掲載し、EUの対ロ外交のあり方を論じている


 エコノミスト誌の記事はロシアに対して大変厳しいものであるが、プーチン政権の自業自得といってよいと思われる。ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるとの判断は正しい判断であると思われる。

 この論説のきっかけになったのはEUの外交責任者、ボレルのロシア訪問である。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられない。その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表した。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくだろう。EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂があるが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強い。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとった。

 プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じである。中ロは最近ますます共同戦線をはっている。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしてしまっている。こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与える。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしている。こんな政権を相手に条約を結んでも意味がない。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべき時期が来ているのではないかと考える。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきであろう。

 ロバート・コンクエストの「The Great Terror」には、大きな衝撃を受けた。この点、プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能と考えられる。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっているが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないだろう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ない。

【私の論評】日本が対ロシアを経済援助をする意味と意義(゚д゚)!

安倍前首相には首相在任中に、果たせなかった目標がいくつかあります。それは、憲法改正、拉致問題解決、そして北方領土返還です。

プーチン露大統領と安倍元首相


安倍氏はロシアのプーチン大統領と良好な関係を維持してきました。しかし、領土問題に関しては、「一歩も前進しなかったばかりか、後退した」と言っても過言ではありません。

ロシアでは2020年7月1日、憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。その結果、プーチン大統領の任期延長が可能となり、最長で36年まで長期化する可能性が出てきました。

また、「ロシア領土の割譲に向けた行為は認めない」と憲法に明記されました。ただ「隣国との国境画定は例外とする」ともあり、北方領土交渉は例外とも解釈できます。しかし、大方のみかたでは難しくなったと見られています。

このような厳しい状況の中、菅新首相は「長期独裁政権」となるプーチン・ロシアと、どう付き合っていくべきでしょうか。

日本ではよく、「プーチンが何を考えているか、わからない」といういわれているようですが、実は、彼が何を考えているのかは明白です。

日本に関して、プーチン氏の頭の中にあるのは、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」の3つです。

安倍氏が首相に再就任したのは、2012年12月でした。13年、「私の代で領土問題を解決する」と気合が入っていたこともあって、同氏はロシアとの関係改善を猛烈な勢いで行っていました。

ところが、当時は「島を返せ!」とはあまり言わず、日ロ間のビジネス発展に力が注がれていました。

14年3月、ロシアがクリミアを併合し、転機が訪れました。日本は米国、欧州の「対ロシア制裁」に参加し、日本政府や企業は、経済(金儲け)の話ができなくなってしまいました。


そうして、日本政府高官ができるのは、「4島返還」の話だけになってしまいました。ロシア側は「金は欲しいが、島は返したくない」ので、日ロ関係は悪化し続けていきました。

次に転機が訪れたのは、16年5月でした。ソチでプーチン氏と会った安倍首相は、「8項目の協力プラン」を提案しまし。つまり、日本政府は北方領土問題の話を止め、再び金儲けの話を始めたのです。

プーチン氏は大満足で、同年12月に訪日を果たしました。これで、日ロ関係は劇的に良くなりました。

安倍時代最後の転機は18年11月でした。シンガポールでプーチン氏と会談した安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる」ことを提案しました。これは日本にとって「大きな譲歩」でした。

安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎とする」としたことで、これまで日本政府の基本方針だった「4島一括返還論」を捨て去り、「2島返還論」にシフトしたのでした。にもかかわらず、プーチン氏は安倍首相の大胆な決断を評価していません。

繰り返しますが、プーチン氏の頭の中は、「金が欲しい」「でも領土は返したくない」「できれば日本から食い逃げしたい」なのです。元々4島はもちろん、2島返還もしたくないのです。

この後、日ロ関係は再び悪化していきました。プーチン氏は「島を返せば、米軍が来るだろう」と言い、19年3月には、「日本が日米安保から離脱しなければならない」と発言しました。それ以後、日ロ関係は良好とは言えない状態が続いています。

ここまで第二次安倍政権時代の日ロ関係の流れを見てきた。

以上から、日露関係は以下の法則があることがわかります。

法則1、北方領土の話をすると、日ロ関係は悪化する。

法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される。

では、日ロ関係をどうすべきなのでしょうか。それなら、断交してかまわないと、少なからず、そう考える人がいると考えられます。

私自身も、確かに平時ならそれもありだと思います。ところが、現在はとても平時とはいえません。

無論、現在はコロナ禍であるということもありますが、それ以前に中国は2012年11月、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線」構築を提案したという事実があります。

この時中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない」と宣言しています。この宣言は、なぜか日本ではほとんど報道されることもなく、ご存知の方も少ないでしょうが、これは日本にとっては、中国による宣戦布告と言っても過言ではありません。これを受けて安倍内閣は、米国、ロシア、韓国との関係改善に取り組み始めました。

安倍首相は15年4月、米議会で「希望の同盟」演説を行い、日米関係を強固なものにしました。15年12月の慰安婦合意によって、日韓関係は一時的にですが、良くなりました。先に述べたように日ロ関係も改善されました。

このあたりの動きについては、日本では中国による反日統一共同戦線」構築の提言が報道されなかったなので、なぜ安倍前総理がこの時期に米・韓国・ロシアなどとの関係改善を急いだのか多く人々には理解されなかったかもしれません。

プーチン訪日時、物事を戦略的に見る中国は、日ロ接近を嘆きました。

中国国営新華社通信は日ロ会談に関する論評で「安倍首相はロシアを抱き込み、中国に対する包囲網を強化したい考えだが、中ロ関係の土台を揺るがすのは難しく、もくろみは期待外れとなる」と反発。(時事通信2016年12月16日)
この時、日本政府関係者は誰も、「中国包囲網を強化したい」とは言っていませんでしたが、中国は戦略的危機感を持ったのです。中国は、日ロ接近を恐れているのです。

プーチン大統領は北方領土を返す気がないが、中国に対抗するために、ロシアと付き合うというのが、現状の正しい姿勢です。では、菅政権はどうロシアと付き合うべきなのでしょうか。

これは、「法則2、金儲けの話をすると、日ロ関係は改善される」が答えになります。菅首相は前安倍政権が約束した「8項目の協力プラン」を、ゆっくりとでもいいので、進めていくべきです。無論現状は、大規模な支援ができる状況ではありません。しかし、全く切らないで、いざというときには交渉の材料にできるようにはしておくべきです。

ここまで書いても「ロシアと組むのは嫌だ」という人は多いでしょう。長い日露関係史からいって何度も裏切られ、危険な目にあってきた日本人がロシアを嫌がるのは当然といえば当然かもしれません。

ただし、現在のロシアは昔のロシアとは違います。あの広大な領土に日本より2千万人くらい多い、1億二千万人の人口しか存在しません。下の地図の赤い部分は、ロシア極東地区ですが、ここの人口は、 2016年の調査によると約620万人に過ぎません。 民族的にロシア人とウクライナ人がこの地域の主要民族となっています。
この地域に接する黒龍江省だけでも人口は、3800万人です。ロシアと中国は現状では経済的には中国が圧倒的に上であり、現在のロシアのGDPは、日本の1/5程度に過ぎません。そのため中露国境は、中国人が越境して、ロシア領内でビジネスをすることが多く、国境が曖昧になり、国境融解と呼ばれている程です。

こうした状況にロシアが、脅威を抱いていないということはあり得ませんが、現状は中国のほうが圧倒的に国全体としては、国力が強いので、ロシアは中国と事を荒立てたくないので、友人同士のように振る舞っていますが、その実、かつては中露国境紛争で激しく衝突したという経緯もあり、互いに敵愾心を持っているのは疑いの余地はありません。

さらに、上記のようにEUは、ロシアに敵対しており、中国に対してはどうなのか疑問符がつく米国のバイデン政権もEUとの同盟関係を重視しているため、ロシアに対しては厳しいでしょう。

そうなると、ロシアに手を差し伸べる国は、当面中国と日本だけということになりますが、プーチンとしては、中国に恩を売られるのは良しとしないでしょう。となると、当面は日本がかなり有力ということになります。

日本が援助の手を差し伸べることにより、中国を牽制することができます。これは、結果として、日本をはじめとする中国と対峙する先進国にとっては良いことです。

そうして、世界一の戦略家ともいわれるエドワード・ルトワック氏は、著書『自滅する中国』(芙蓉書房出版)の中で、日本が生き残るためには、ロシアとの関係が「極めて重要」と断言しています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。(『自滅する中国』188p)
感情的にロシアが嫌いなのは、日本人としては当然のことと思います。しかし、中国に尖閣、沖縄、台湾を奪わせないために、中国の海洋進出をこれ以上許さないためにも、日本はロシアと「組む」べきなのです。

そうすれば、中国としては、ロシアに備えなければならず、国境に多数の兵力を割くことになります。ロシアというと、先程も述べたように、経済的には日本の1/5であり、東京都と同程度のGDPに過ぎなく、単独では米国を除いたNATOともまともに対峙できません。現在のロシアができるのは、クリミア併合が精一杯というところでしょう。

とはいいながら、ロシアはソ連の核兵器や軍事技術の継承者であり、軍事的には侮れないところがあり、中国としては軍事的にも心理的にもロシアの存在は重荷になるはずです。

北方領土については、日本がある程度援助したところで、現在のロシアには石油・天然ガス産業くらいしか育っておらず、将来発展する産業もないですし、米国やEUから経済制裁を受けている現状では、いずれ必ず経済的にかなり行き詰まり、八方塞がりになることは明らかです。

その時には、プーチン政権が退陣せざるを得ないくらいに追い詰められるのは目に見えています。

そうなれば、ロシアは北方領土どころではなくなります。それどころか、極東地域そのものが、中国の脅威にさらされることになります。その時が交渉のやり時でしょう。この時には、日本に経済援助が切り札になります。経済援助を打ち切るか、継続するかが、鍵になります。

また、それ以前にも、ロシアがはっきりと中国に対峙する道を選ばなければ、経済援助を打ち切るという手もあります。とにかく、日本側が援助という外交カードを握るのが重要なことです。

その時は、20年後とか、30年後というよりは、もっと早く来るでしょう。

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2021年3月1日月曜日

ドナルド・トランプがCPAC2021で基調講演―【私の論評】トランプは未だ意気軒昂(゚д゚)!

 ドナルド・トランプがCPAC2021で基調講演

CPACで演説するトランプ氏

<引用元:ニューヨーク・ポスト 2021.2.28

ドナルド・トランプ前大統領は、2月28日の保守政治活動会議(CPAC)で6週間弱前にホワイトハウスを去ってから初の公の場での演説を行い、2024年の出馬の可能性をちらつかせバイデン政権を強く非難した。

トランプはオーランドで舞台に上がるとスタンディングオベーションで迎えられ、「我々の運動・・・は始まったばかりだ」と宣言した。

「私は今日みなさんの前に立ち、我々が4年前にともに始めた驚くべき旅はまだまだ続いていくと宣言します」とトランプは熱狂的な聴衆に語った。

「誇りある勤勉なアメリカの愛国者の運動は始まったばかりです。そして最後に我々が勝利します!」とトランプは述べた。

トランプは共和党で影響力を保つ意向であることを明言しながら、2024年の大統領選への出馬をほのめかした。

民主党について言及して「私は彼らを3度目に打ち負かそうと決意するかもしれません」と述べると、参加者からは割れるような喝采が起こった。

トランプはまた「強くタフな」共和党が選出されるよう取り組むと述べ、新政党を始める計画だという噂を「フェイクニュース」だと一蹴した。

「我々には共和党があり、団結してかつてないほど強力になろうとしています」とトランプは話した。

「我々は新党を始めません。『彼は全く新しい党を始めようとしている』と言い続ける人たちがいます。我々には共和党があり、団結してかつてないほど強力になろうとしています。私は新党を始めません。それはフェイクニュースでした。フェイクニュースです。違うのです。それが華々しいことになるでしょうか?新党を始めて票を分けましょう、では決して勝てません。いいえ、我々はそのようなつもりはありません」

トランプがその後、2020年大統領選に「不正があった」という主張を繰り返すと、聴衆から「あなたが勝った!」という声援が沸き起こりました。


トランプは、米国最高裁判所は結果に異議を唱える訴訟で「行動する勇気を持たなかった」と主張し、「彼らは自分たちが国に対して行ったことを恥ずべきです。正しい判断をするための根性も勇気もありませんでした」と続けた。

また後任の大統領を狙い撃ちし、バイデン大統領は「現代の歴史上の大統領の中で最も悲惨な最初の月」だったと主張した。

「我々全員がバイデン政権は悪くなると知っていましたが、どれほど悪くなるかは誰も知りませんでした」とトランプは述べた。

「南部国境での新たな悲惨な危機ほど良い例はありません。わずか1カ月の短期間でアメリカ・ファーストからアメリカ・ラストになってしまいました」とトランプは続けた。

トランプはバイデンの移民政策が次の2つの連邦選挙で民主党の足を引っ張ることになると主張した。

「我々は1つの国です。世界の問題を被る余裕はありません。喜んで―喜んで助けたいという気持ちは山々です。それはできないことです。それで彼らはみな約束と愚かな言葉のためにやって来ているのです」とトランプは語った。

前大統領はまたパンデミックの中での米国の学校再開を呼びかけ、バイデンは「アメリカの生徒たちを教員組合に売り渡した」と非難した。

「ジョー・バイデンは恥ずべきことにアメリカの若者を裏切りました。そして彼は残酷にも子供たちを家庭に閉じ込めています。そうする理由は全くありません。彼らは外に出たいのです」とトランプは語った。

「彼らは次世代のアメリカ人から彼らにふさわしい未来を騙し取っています。彼らは本当にこの未来に値します。彼らは成長しようとしていますが、傷を負おうとしています・・・こうした若者の精神的肉体的健康は限界点に達しつつあります」とトランプは続けた。

「アメリカのお母さん、お父さん、そして子供たちのために、私はジョー・バイデンに学校の再開を今すぐに行うよう要求します」とトランプが語ると喝采が起こった。

またトランプは自政権のコロナウイルス・ワクチン準備の取り組みを自賛し、「彼らの手柄にさせてはなりません。彼らは我々の計画に従っているに過ぎません」と述べた。

トランプは、前大統領が何も残さなかったので全国ワクチン配布計画を開発するために「ゼロから着手」していたという主張についてバイデン政権を非難した。

「バイデンは我々にワクチンがなかったと言いました。今私は、彼がそう言ったのは一体何が起こっているのかを分かっていなかったからだと本当に思います」とトランプはジョークを飛ばした。

また「ビッグテック」を非難し、独占の解消と「公平な競争」が取り戻されることを求めた。

「ツイッター、グーグル、そしてフェイスブックのようなビッグテックの巨人は、保守派の意見を黙らせる時はいつでも大きな制裁で罰するべきです」とトランプは述べた。

トランプは、共和党が2022年の中間選挙で多数を取り戻し2024年にホワイトハウスを勝ち取ることを願う中、オーランドでの年に1回の4日間の会議の最後を締めくくって全国の注目を取り戻した。

トランプは「民主党はアメリカに対する率直な軽蔑を基盤としている」と述べ、チャック・シューマー上院多数党院内総務、ナンシー・ペロシ下院議長、そして民主党を非難しながら、共和党を団結させるために演説を利用した。

「我々の党はアメリカ人に対する愛と、これが神に祝福された並外れた国だという信念を基盤としています」

「我々は偉大なアメリカ国旗を尊重します!」とトランプが語ると、聴衆からは「あなたを愛している」という掛け声が長時間続いた。

前大統領は聴衆の熱愛を受けるのは「名誉」だと述べ、共和党のことを「罪のない命を守ることと」アメリカ建国者の「ユダヤ・キリスト教の価値観をアップロードすることに全力で取り組んでいる」と表現した。

会場に登場したトランプの金ピカの像

「我々は自由思想を歓迎し・・・そして左翼の暴挙を拒否し、『キャンセル・カルチャー』を拒否します。我々は法と秩序を信じており・・・『警察の資金を断ち切る』ことはありません」と彼は述べた。

また「トランピズム」という言葉が現れたことを指摘し、減税、強固な国境、憲法修正第二条の保護、そして「非常に長い利用されていた忘れ去られたた男女に対する支持」と同様に、「私が考え出したものではなかったが意味するところはとても大きい」と述べた。

同時に前大統領は反トランプの共和党を追及し、「スタンドプレーをする」議員を名指しで批判した。その多くは下院と上院でトランプ弾劾に賛成した人々だった。

「ワシントンの共和党エスタブリッシュメントのトップは、バイデン、ペロシ、シューマーと民主党に反対することにエネルギーを注ぐべきです。私は彼らの一部にこう言ったことがあります。『オバマ時代、そして今はバイデン時代に、私に対する攻撃と同じだけのエネルギーを彼らを攻撃することに費やせば、実際に成功するだろう』と」

トランプが自分に反対する共和党議員を「RINO」つまり「名ばかりの共和党」と呼ぶと、聴衆は彼らに向けてブーイングを浴びせた。

「彼らを全員追い出せ」とトランプは述べた。

トランプがミッチ・マコーネル上院少数党院内総務からの推薦を指摘すると、聴衆のブーイングの声がさらに強まった。

「民主党は常に協力し合っていて、グループの中にミット・ロムニーはいません。共和党にとって幸運なことに、民主党はひどい政策です。おめでとうございます。ですから我々には共和党があります」とトランプは語った。

「しかし、共和党が協力し合わなければ、我々を取り巻くRINOが共和党とアメリカの労働者を破壊し国自体を破壊するでしょう」

「今はこれまで以上にタフで強く、精力的な、鋼のような勇気を持つ共和党指導者が求められる時代です。我々には強いリーダーシップが必要です」とトランプは語った。

トランプの待望の演説までには、共和党の大統領有望候補者ら―ジョシュ・ホーリー上院議員やテッド・クルーズ上院議員など―が週末にかけて前座を務め、かつての最高司令官を待つCPACの聴衆に勢いをつけた。

1月20日に退任してから、トランプはフロリダ州マーアラゴのリゾートで過ごしており、自身と共和党の政治の舞台での復帰に向けた下準備をする中で元陣営幹部や共和党議員らと面談していた。

トランプはCPACの演説の最後をこう締めくくった。「我々はまず下院を取り戻し、共和党大統領がホワイトハウスに勝利の帰還を果たすでしょう。それは誰になるでしょうね?」

【私の論評】トランプは未だ意気軒昂(゚д゚)!

CPAC2021の会場

CPAC(シーパック)は"The Conservative Political Action Conferenc"の略であり、守政治活動協議会または保守政治行動会議と訳されます。 American Conservative Union (ACU).が主催し、100を超える他組織が参画し、全米の保守主義の活動家・政治家が出席する、年に1度のスピーチ討論会です。

まずは、以下にこの演説を日本語に翻訳した、動画を掲載します。


この演説で、「バイデン現大統領は、アメリカ第1主義をアメリカ最後主義に転換させた」と語り、バイデン現大統領の就任からの1ヶ月を歴代大統領の中で史上最悪のスタートだとしました。

特に、バイデン大統領の移民政策や新型コロナウイルス感染拡大への対応を改めて批判する一方、ワクチン開発は「私たちの業績だ」と強調しました。

また共和党支持者への演説で、「私たちは一緒に信じられないほどの旅に乗り出し、現在、米国の将来のための歴史的な闘争の真っ只中にいる」とし、自身と支持者らが4年前に始めた「素晴らしい旅」は「決して終わってなどいない」と強調しました。

さらに、「自分は米国で新党を結成する気はなく、共和党に留まるであろう」と強調しました。

そして、「われわれは勝利し、米国はかつてないほど強く偉大な国になるだろう」と述べて、2022年の中間選挙で共和党の主導権奪還に向け、大きな役割を果たす姿勢を強調しました。

さらに「私自身が3度目の民主党の打倒を決意するかもしれない」と言明し、昨年の大統領に勝っていたとの主張を繰り返しつつ、24年大統領選に出馬する可能性を示唆しました。

米大統領選では、民主党が黒人や若者に有権者登録を呼び掛ける中、トランプが共和党支持者らに不在者投票を促さなかったことが700万票もの差で同氏がバイデン氏に敗北する要因になったとみられています。

選挙の日程は投票日当日までの数日間ではなく、実際の投票日1日のみとするべきだと主張。また「不在者投票には正当な理由が必要だ」と述べました。

さらに、もう1つの敗因となった郵便投票の廃止や、投票所での身分証明書の提示義務付けなどを提案しました。

これに先立ち、米上院の共和党最有力者の1人である上院野党指導者ミッチ・マコーネル氏は、数週間前に上院でトランプが今年1月6日の議事堂襲撃に関与したことを鋭く批判していました。

CPACで演説するポンペオ前国務長官

その一方で、トランプが党の指名争いに勝った場合、共和党は2024年の選挙でトランプを支持する、と表明しています。

トランプは、今年1月6日の米議事堂襲撃事件で支持者を騒乱へと煽動した罪に問われています。

しかし、こうした中トランプ弾劾法案は、米国上院での総議席の3分の2を得られず、否決されました。

トランプは、共和党内で同氏の弾劾に賛同した造反議員ら全員を名指しし、特に下院ナンバー3のリズ・チェイニー氏に対して強い怒りを示しています。

ひさしぶりのトランプ演説ですが、未だ意気軒昂です。今後の展開が楽しみです。今後も既存の政治家の枠を大きくはみ出た行動で、米国政界をリードしていくのは間違いないようです。

このトランプ演説に関しては、翻訳や、様々な見方が、報道されるようになると思います。今後もこのブログでは、そうした内容も取り上げていきます。よろしくお願いします。

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2021年2月28日日曜日

バイデン政権、中国融和の兆し―【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

 バイデン政権、中国融和の兆し




【まとめ】

バイデン政権が「中国ウイルス」「武漢ウイルス」の呼称禁止。
・米大学が「孔子学院」との接触を報告する義務づけも撤回。
・バイデン大統領の実際の行動はすでに習近平政権への融和路線。

アメリカのバイデン政権が中国への融和を示すような動きをあいついでとった。

アメリカ新政権の中国への姿勢や態度は日本でもきわめて関心度が高い。その新政権は登場から5週間ほど、新任の高官たちは議会の公聴会などでみな中国をアメリカの競合相手と呼び、中国側の軍事拡張や不公正な経済慣行、さらには人権弾圧への批判的な言辞を述べる。

その発言を集めると、バイデン政権も中国にはなかなか強硬な態度をとるかのようにもみえる。日本の識者たちももっぱらバイデン政権の対中政策は強硬になるとの見方が多いようだ。だがその判断の根拠となるのはみな言葉だけのようである。

ところがバイデン政権が実際の公式の行動として中国発の新型コロナウイルスを「中国ウイルス」や「武漢ウイルス」と呼ぶことを公式に禁止した事実は日本では意外と知られていないようだ。 

それだけではない。
 
バイデン政権は同時にアメリカの各大学が中国共産党の対外宣伝教育機関の「孔子学院」との接触を米側公的機関に報告することを義務づけたトランプ前政権の行政命令をも撤回した。

両方とも中国への融和や忖度を思わせる措置である。単なる言葉ではなく、実際の行政措置という行動なのである。

「バイデン政権はトランプ前政権と同様の対中強硬策をとる」と断言する向きは直視すべき現実だろう。

この二つの措置はいずれもトランプ政権の政策の逆転だった。しかもその逆転に対してアメリカ国内ではすでに激しい反対論も生まれてきたのである。

バイデン大統領は2021年1月26日、新型コロナウイルスのアメリカ国内での大感染の結果、アジア系米人への差別や憎悪が生まれているとして、その種の差別を取り締まる大統領令を出した。

その行政令に付随した覚書でバイデン大統領は「このウイルスの起源の地理的な場所への政治指導者の言及がこの種の外国人嫌悪を生んだのだ」と述べ、連邦政府としては「中国ウイルス」とか「武漢ウイルス」という呼称を使うことを禁ずることを宣言した。政府関連の文書でのその種の用語の禁止だった。

同覚書の「政治指導者」とは明らかにトランプ前大統領やその閣僚らを指していた。トランプ氏は2020年春から率先して「中国ウイルス」という呼称を使っていたからだ。

トランプ政権の方針を逆転させたこの措置には保守系の政治学者ベン・ワインガルテン氏が大手雑誌ニュースウィーク最新号への寄稿で「国際的な感染症を発生地名で呼ぶことはごく普通であり、その禁止は隠蔽の責任を隠す中国政府を喜ばし、米国の国家安全保障への脅威となる」と激しく反対した。

さらに注目されるのはアメリカ国内での孔子学院に関するバイデン政権の動きである。バイデン政権が孔子学院に関するトランプ前政権の規制の行政令を撤回したのだった。

その措置も「中国ウイルス」という用語の禁止令が出たのと同じ1月26日だった。

トランプ政権は孔子学院がアメリカの多数の大学で講座を開くのは中国共産党の独裁思想の拡散やスパイ活動のためだとして刑事事件捜査の対象としてきた。

トランプ政権はその政策の一環としてアメリカ国内の各大学に対して、もし孔子学院との接触や契約があれば政府当局に報告することを行政命令で義務づけてきた。



孔子学院が中国共産党の直轄機関として対外的に中国政府の共産主義独裁の思想や人権抑圧の統治の正当化の理論を広げる政治プロパガンダの拡散だけでなく、アメリカ側へのスパイ活動、ロビー工作、アメリカ国内の中国人留学生の監視など違法活動にもかかわっている、というのがトランプ政権の認識だった。だからその活動を最大限に規制するという方針を打ち出していたのだがバイデン政権はそのトランプ政権の行政命令をなくす措置をとったのだった。

この措置もコロナウイルスの呼称の措置も同政権は当初はあえて公表しなかっためアメリカ国内一般に情報が広がるのが遅れていた。

その結果、2月中旬になってまず議会の共和党側ではバイデン政権の孔子学院に関する措置への強い反対が表明された。

  マルコ・ルビオ上院議員やマイケル・マコール下院議員が以下の趣旨の声明を出したのだ。

 「孔子学院のアメリカ国内での活動はアメリカの高等教育機関や学生への危険な洗脳、影響力行使の工作だと証明されているのにバイデン政権の規制撤回の措置はそんな工作の黙認につながる

マルコ・ルビオ上院議員

 ルビオ議員はとくに「バイデン大統領は言葉では中国を『戦略的競争相手』などと批判するが、実際の行動ではすでに習近平政権への融和の道を歩み始めた」と厳しく論評した。

 こうした展開はバイデン政権の中国に関する言葉ではなく実際の行動として注視すべきだろう。

 バイデン政権の対中態度はちょうど日本の古い表現の「衣の下から鎧がみえる」の反対だともいえそうだ。「鎧の下から衣がみえる」という感じなのだ。 

表面だけは共和党の抗議や一般国民からの反発を懸念して中国に対しては強硬な批判や糾弾の言葉を述べる。だがその強固にみえる鎧の下からはソフトな衣がちらつく。そして本音はどうも鎧よりも衣、中国への融和や協調のようなのである。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【私の論評】バイデン政権は、かなり短命になる可能性も(゚д゚)!

昨年の、大統領選を振り返ってみると、政策の争点は突き詰めれば、新型コロナウイルス対策と経済回復のどちらを重視するかというものでした。コロナに感染し入院してもすぐに退院して、大規模集会で経済回復を訴えたトランプ氏と、マスク着用を呼び掛けて遊説でも「密」を徹底的に避けたバイデン氏の水と油のような違いをそのまま反映しまし。

米メディアが発表した投票所での出口調査によると、経済よりもコロナ対策を重視すると答えたのは51%、経済重視は42%であり、24万人が死亡したコロナの方が当然ながら米国民の喫緊の課題でした。

そのコロナ対策ではバイデン氏の方が良いと判断したのは53%であり、トランプ氏の43%に差を付けました。こうした数字から明らかになるのは、新型コロナウイルスの感染症が米国を襲ったことで票がバイデン氏に集まり当選したという事情が浮かびます。このため、コロナがなければ、米国の地合いは「トランプ再選」だったのだろう、との思いが生じます。

驚くべきことは、トランプ氏が、7300万超という共和党候補としては過去最高の票を獲得したことです。これは前回2016年の大統領選より約1千万票多いです。リベラル・メディアでは、コロナ対策の失敗だけではなく国際協調を無視した外交・通商や人種・民族を差別するような言動、自らを批判する報道機関を「フェイクニュース」と決めつける手法として、取り上げられ、徹底的に糾弾されたトランプ氏ですが、それを膨大な数の米国民が拒否していないのです。

昨年CPACで演説したトランプ氏、今年も予定されている

バイデン氏は約8000万票という大統領選史上最高の票を得たされていますが、トランプ氏との票差は総投票数と比べて僅差です。現職だから本来は勝って当然だと言えばそうなのですが、トランプ氏が集めた票は、膨大な数のトランプ支持者の存在を証明しています。

今回トランプ氏は郊外票や高齢者票をコロナ対策の失政を理由に失い、バイデン氏に敗れたのかもしれません。しかし、米メディアによると、トランプ氏は前回2016年に比べて、白人女性で2%、黒人男性、黒人女性で4%、中南米系で3%票を上積みしたと報告されています。白人男性票を5%減らしたことでそうした上積みは帳消しとなったようです。それにしても、女性、黒人、中南米系で票を本当に増やしたとすれば、「女性蔑視、人種・民族差別主義者」というトランプ氏のイメージは崩れます。

トランプ氏へのこうした評価は経済政策の実績が背景にあります。実際コロナが始まる前の米国は、オバマ政権時代の景気刺激策とトランプ政権の大型減税策で成長率は先進国の中でトップでした。日本や欧州が1%前後で推移していたのに対して、米国は2%を超え18年には3%の成長を記録した。これは国際通貨基金(IMF)が発表した米国経済の成長見通しを上回りました。

失業率も50年ぶりの低い水準で、富裕層のみならず中間層の所得も着実に増えていました。昨年1月にコロナ禍が始まる前まで、大方の予想はトランプ氏の再選であり、その理由は好調な経済だったことが思い起こされます。

米国の選挙では大きなインパクトを持たないものの、外交での成果もありました。中国への強硬姿勢や北米自由貿易協定(NAFTA)の改定、そしてイスラエルとアラブ諸国の正常化合意などは、トランプ嫌いの民主党も評価していました。

今回の大統領選では、誰に投票するかを投票日の前1カ月以内に決めた人は13%で、1週間前以内は5%だ。そして1カ月前以内に決めた51%、1週間前以内の54%がトランプ氏に投票したという。これはコロナにもかかわらずトランプ氏が展開した遊説の勢い、さらにトランプ陣営の戸別訪問の威力を示したものといえます。

仮定の話になりますが、この猛烈なトランプ氏の追い上げを考えると、あと1週間、あるいは3日間の時間があれば、トランプ氏は再選をもぎ取っていた可能性があると思います。

そしてメディアがあれだけ非難したトランプ氏の人格も大きな影響を与えていないようです。出口調査では大統領に求めるのは「強い指導力」が33%、「良い判断力」24%に続いて「国民統合」は19%です。人格よりも強さが大統領の資質と判断しているようです。

こうした事実から読み取るべきは、バイデン氏は支持基盤が限定された弱い大統領になるという見通しです。だからこそ、トランプ氏は敗北を認めずに抵抗を徹底し、今後の共和党を率いるリーダーとして影響力を行使し続けるつもりでしょう。

バイデン氏の弱さを象徴するのが、有権者は何を目的に投票したのかという調査です。投票者の中で相手候補を倒すために投票したという人は24%いるのですが、そのうちバイデン氏への投票者が68%を占めています。

つまり、バイデン氏への投票のうちのかなりが「トランプ憎し」の票であってバイデン氏本人を支持したものではないということです。この傾向はペンシルべニアなど激戦州はさらに強いようです。

ということは、バイデン氏へ票を投じた人々の間で、トランプ氏という「敵」がホワイトハウスから退場するとともに、バイデン氏に対し、急速に関心をなくし、その支持もしぼんでしまう可能性があります。「悪役」の後に登場した大統領としては、ニクソン大統領の後のフォード氏やカーター氏を思い起こすのですが、彼らも役割を終えた段階で、ホワイトハウスから1期だけで消えていきました。

もう一つバイデン氏の悩みの種は民主党内の足並みの乱れでい。オカシオコルテス下院議員を中心とした左派グループです。

左派グループは今回の大統領選で顕著となった若者の民主党への投票を自らの功績として「政策や人事で左派の主張を取り入れなければ、次回選挙で若者は背を向ける」と警告しています。

こうした難局の中で誕生したバイデン大統領は、大統領権限でかなりの行動の自由がある外交に活路を見いだすのかもしれません。バイデン氏は長く上院外交委員長を務め外交を得意とし、優秀な専門家が側近として多数ついています。同盟を重視し、中国との対決は「管理された競争」に移行し、経済制裁・金融制裁も含めて経済安全保障政策を軍事圧力や外交とコーディネートして履行すると期待されています。トランプ時代の予測不能外交との決別は国際社会が望むものではあります。

ところが、内政という足場が弱ければ、外交力も衰えます。中国、ロシア、イランなどの地政学パワーが基盤の弱いバイデン政権を揺さぶってくるでしょう。弱い大統領の誕生とは、国際社会の混乱の深まりに直結してしまうものです。

最後に今回も的確性で話題となった世論調査による事前予測について考えてみます。

確かに事前の世論調査が示したバイデン氏がトランプ氏に対して全米で10ポイント、激戦州で5~7ポイントもリードしているという予測は、選挙結果と異なりました。ただ、これらの数字は調査時点での有権者の判断を示したもので、終盤の猛烈なトランプ氏の追い上げは当然反映していません。

こうした世論調査の数字を基にさらに精緻に各州の動向を分析した政治専門サイトなどは、10月下旬の段階でバイデン氏とトランプ氏の獲得州をほぼ完全に当てました。激戦州の動向もこれらのサイトの予想通りとなりました。こうしたことから、2016年のような当落が予想と反対の結果が出るという屈辱的な失敗は回避できたようです。

しかし、世論調査が白人ブルーカラーや中南米系の意向をとらえきれていないという問題は依然残ったままです。世論調査で正直に思いを答えないという心理の背景には、メディアや世論調査機関などいわゆるエリート体制に対する怒りというものが存在するのからかもしれません。これはトランプ支持者の全容が隠れたままである現状をあらためて見せつけました。

トランプ氏が2024年の大統領選に再出馬するかどうかは分からないです。しかし、7300万票という過去の共和党政治家が得たことがない支持者を握り、トランプ氏は得意のメディアを駆使する戦術で米政治・社会で影響力を持ち続けるでしょう。ホワイトハウスという桎梏から逃れて、より奔放にまた効果的にバイデン氏や民主党を攻撃するはずです。

大統領選挙直前に、保守系のタブロイド紙「ニューヨーク・ポスト」ジョー・バイデンの家族に関するスキャンダル記事を掲載しました。




ポスト紙は独自に入手したEメールやテキストを引用し、バイデンの長男のハンター・バイデンが、父親の影響力を利用し、ウクライナと中国で事業を行っていたと指摘した。同紙はさらに、バイデン候補がそこから利益を得たと主張しました。

これに関する真偽は、現在もはっきりとはしていませんが、以前から各方面で噂されていたのは事実です。これが解明され、明らかにこれが事実ということになれば、バイデン政権が大きく揺らぐのは間違いありません。

また、不正選挙疑惑もありました。これに関しては、州レベルの訴訟では、トランプ陣営が勝訴しているものも多数あります。米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これは、日本では全く報道されていません。

バイデン大統領は、「トランプ」という巨大な敵に阻まれ「短命」に終わるでしょう。それどころか、年内に終わる可能性すらあると思います。

不正選挙の裁判に関しては、州レベルのものでは、トランプ陣営が勝利しているものも多数あります。さらに、米国連邦最高裁では受理して審議中の大統領選挙不正の訴訟が20件以上あります。これらについては、日本では全く報道されていません。

ただし、いずれの裁判で、不正疑惑が認定されたとしても、それでバイデン政権が終焉することはありません。なぜなら、1月6日に議会で正式な手続きを経て大統領になったバイデンを司法がやめさせることはできません。米国の三権分立においては、司法は議会の決定したことを覆すことはできません。

ただし、バイデンを弾劾裁判にかけるということは、共和党の発議でできます。そうして、その発議の有力な根拠にはなりえます。これに加えて、共和党側の独自の調査で、弾劾に値する何らかの証拠をあげることができて、民主党側に多数の造反者がでれば、バイデンの弾劾は成り立つ可能性はあります。

そうして、これはあながちあり得ないことではありません。なぜなら、民主党はペロシ下院議員の提案により、最初から無理筋のトランプ弾劾裁判を実行したからです。

すでに、退任した大統領を弾劾裁判にかけるという、前代未聞の出来事は、着せずして、弾劾裁判のハードルを下げたといえます。共和党としては、バイデンの弾劾裁判がやりやすくなったともいえます。

ただし、バイデンが大統領を辞任すれば、左翼のカマラ・ハリスが大統領になります。そうなると、共和党側もかえってやっかいなことになります。共和党としては、バイデンと、カマラ・ハリスの両方を同時に辞任に追い込むことが課題となるでしょう。

今後の状況を見極めて、共和党側はこれも視野にいれているでしょう。特に、次回の中間選挙で共和党が多数派に返り咲けば、実行する可能性は十分あると思います。条件が整えば、それ以前にも弾劾手続きに入る可能性は十分あると思います。

弾劾されるかどうかは、別にしても、米国共和党そうして、日本をはじめとする同盟国は、様々な方法を駆使して、バイデン政権が中国に対して宥和的な政策をとらないように、牽制していくべきです。

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