2022年3月8日火曜日

日銀審議委員人事に悪い予感…インフレ目標軽視は「雇用軽視」 金融政策は旧体制に逆戻りか―【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

日本の解き方


岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏

 政府は、7月に任期満了を迎える日銀の片岡剛士審議委員と鈴木人司審議委員の後任に、岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏を充てる国会同意人事案を提示した。

 高田氏はいわゆるエコノミスト枠、田村氏は金融機関枠だ。金融機関枠は、金融政策とは直接関係のない業界代表といえるため、本コラムでは高田氏に絞って考えてみよう。

 高田氏は財務省の「国の債務管理の在り方に関する懇談会」のメンバーを務めた。その意味で、今回の提示は典型的な財務省人選だ。

 2013年には『国債暴落―日本は生き残れるのか』という著書を出版している。単純な国債暴落論ではなく、中身はそう簡単に国債は暴落(金利は急上昇)しないということを主張したものだ。ただし、どこかのタイミングでは国債暴落(金利上昇)とも書いている。

 高田氏は、国債が暴落しない理由として、①経常収支黒字②ホームカントリーバイアス(自国通貨志向)③財政規律の存在―を挙げている。

 今はそうでもないが、将来には国債暴落もあり得る―というのは、財務省にとって好都合な主張である。そうならないために財政再建が必要だという流れになるからだ。高田氏は「財政規律は不可欠。消費増税は最低限の姿勢」との見解を示しており、財務省と同じ路線だ。

 高田氏の財政状況の見方は、財務省と同じく、債務残高対国内総生産(GDP)比だ。この数字は悪いため、暴落もあり得るが、前述の3つの要因があるから、今のところなかなか暴落しないというものだ。

 ファイナンス論からいえば、国債は政府の債務なので重要なのは政府の財政状況であり、国全体の話ではなく、①の経常収支は関係ない。②の自国通貨志向は多少あり得るが、どこの国でも同じことで決定的ではない。③について、消費増税が財政規律の表れというのは、バランスシート(貸借対照表)から財政状況をみるファイナンス論からすると、財務省を忖度(そんたく)しているように感じてしまう。

 国債関係者は市場機能を重視するので、国債市場に日銀が出てくるのを伝統的に嫌ってきた。その意味で、大量の国債オペが伴う大規模金融緩和に消極的な人が多い。

 今回の人事について、一部のマスコミは「非リフレ派」と報じている。「リフレ派」は、世界標準のインフレ目標に従って金融政策を考える人なので、非リフレ派が日銀に入ってはまずいのではないか。

 国債関係者は、市場機能を重視し、インフレ目標について考えることが少ないと懸念している。

 インフレ率は雇用と大きな関係がある。インフレ目標というが、裏を返せば、それを軽視するのは雇用軽視にもなる。今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りする予感がする。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

岸田文雄首相は4日の参院本会議で日本銀行の黒田東彦総裁の後任に関し、2%の物価安定目標に「理解のある方が望ましい」と話しています。

黒田総裁は2023年4月に任期満了となるため、「後任人事についてはその時点で日銀総裁に最もふさわしいと判断する方を任命することが基本」とも述べました。2%物価目標の早期実現を明記した13年1月の「共同声明」を岸田政権下で再確認したことにも触れ、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向け、今後とも緊密に連携して取り組んでいく」と強調しました。

4日の参議院報会議に臨む岸田総理

海外の主要中央銀行がインフレ対応で金融緩和からの転換に乗り出す中で、日本は未だ金融緩和が不十分なのは明らかであり、そうした中ての総裁人事は「新しい資本主義」を掲げる岸田政権の金融政策を占う試金石となります。

大胆な金融政策をアベノミクスの第一の矢に掲げた当時の安倍晋三首相は、黒田総裁を起用し、政策委員にリフレ派を次々と送り込み世界標準のインフレ目標に従った金融政策を実現しようとしました。

岸田政権が、「2%物価目標の早期実現」を本気で目指すなら良いでしょうが、そうでなく誰かの意見を聞いて、これを翻ることにでもなれば、日本はまたデフレに舞い戻ってしまいます。

日銀は現在でも緩和はしてはいるものの、16年1月にマイナス金利を導入した際、日銀はターゲットを「量」から「金利」へと明確に切り替えたので、長期国債買い入れの金額にノルマは存在しません。

日銀当座預金の政策金利残高にマイナス0.1%、10年物国債利回りにゼロ%程度という長短金利ターゲットを設定したイールドカーブコントロール(YCC)の下で、それと整合的なイールドカーブが形成されるような長期国債の買い入れを実施しています。

21年11月末に日銀が保有している長期国債残高は、前年同月末比プラス16兆3265億円にすぎません。ターゲットがまだ「量」だった頃、この数字はプラス80兆円を超えていたので、実態としては「テーパリング(量的緩和の縮小)」的なことはすでに相当進んでいるわけで、これを「ステルス(隠密)テーパリング」と呼ぶ向きもあります。

ETF(上場投資信託)買い入れはどうでしょうか。21年3月に行った金融緩和策の「点検」の際に日銀は、ETFの買い入れ手法を「柔軟化」したという体裁をとりつつ、相場急落時以外の買い入れは行わない態勢に移行しました。ETFの新規買い入れからは事実上「撤収」したと言っても過言ではないでしょう。

日銀は現在の金融緩和策の柱の1つとして、「オーバーシュート型コミットメント」を掲げている。これは「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するもの」です。

その一方、日銀は21年12月の金融政策決定会合で「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション」(コロナオペ)のうち、民間債務担保分は22年3月末で終了し、制度融資分とプロパー融資分は半年間だけ延長することを決定しました。

コロナオペの残高は足元で80兆円を超えています。満期到来でこれが全部なくなれば、マネタリーベースが落ち込むことは避けられないです。海外投資家の間で「日銀は金融緩和縮小に転じたのではないか」「YCC見直しがあるのではないか」といった思惑が生じる可能性が浮上しています。

この点について、日銀はどう説明して乗り切りを図るのでしょうか。12月会合における主な意見には「昨春以降のマネタリーベースの増加は、感染拡大による流動性需要の高まりに日本銀行が潤沢な資金供給で応えてきた結果である。今回の措置により短期的にマネタリーベースが減少しても、長期的な増加トレンドは維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しない」「特別プログラムを全て手仕舞いすることになったとしても、それはコロナ禍対応の終了であり、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』のもとでの金融緩和の縮小を意味するものでは全くない」といった意見が出されたことが記されていました。

そうした日銀による説明(一種の言い訳)がどこまで為替市場で通用するかは見ものです。このように、22年の日銀の金融政策に関しては、米国やユーロ圏の中央銀行のように「緩和の縮小」に動いているのではないかという思惑が為替市場で浮上する素地があります。

また、参院選が終了した後には、岸田首相の言動も市場の関心事になりやすいです。FRBの利上げの限界が徐々に認識される中で、そうした日銀関連の思惑も加わると、ドル/円相場が110円ラインを越えてドル安・円高方向へと動く可能性もあります。

とは言え、結局のところ、日銀の不十分な緩和は22年以降も淡々と続いていくことでしょう。であれば、最悪の事態は免れるかもしれません。ただ、心配なのは今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りすることです。そうなれば、またデフレからしっかりと脱却していない日本が、完璧にデフレに舞い戻ることにもなりかねません。

ネット上で貧乏神と揶揄された白川方明

デフレに戻れば、就職氷河期がまた再現されることになります。しかし何といっても、悔しいのは、日本がデフレで苦しむ一方、日本から原材料を輸入する韓国や中国はぬるま湯につかったような状況になることです。

過去のデフレの真っ最中には、実は円が異様に高くなり日本で原材料を組み立てて、輸出するよりも、中国や韓国で組み立てて、そこから輸出したほうがコストがかからないという異常事態が発生しました。当然のことながら、日本から原材料を輸入しそれを組み立てて、輸出する中国や韓国のほうがさらに安いという状況でした。これでは、日本の国際競争力が落ちるのも必然でした。

このような状況では、国内で様々な製品を製造するよりも、国外で製造した方が安いということになり、日本国内の産業の空洞化がすすみ、中国や韓国の多数の富裕層を生み出すことになりました。

中国富裕層

特に韓国では、原材料を製造する技術も高くないし、そういうことをしようとする地道な技術者や経営者を馬鹿にし卑しみ、組み立てる人間が一番偉いという文化があり、日本のデフレはまさにこうした韓国にとっては、うってつけであり、日本がデフレの底に沈んでいるときには、優れた部品や素材を開発する日本を卑しみ、我が世の春を謳歌していたといっても過言ではありません。

挙げ句のはてに、日本では中国の富裕層をインバウンドともてはやし、これに頼るしかなくなる事業者も生まれでる始末でした。何これ?日本人あまりに惨めじゃないですか?なんで金持ちにしてやって、さらに奉仕までしなくてはないのですか?中韓が得ていた莫大な利益は、本来は日本企業や日本国民が得るものだったのではないですか?日銀がまともな金融政策さえしていれば、このようなことは起こらなかったはずです。

さすがに現在のロシアは制裁対象でないのでこのようなことはできないですが、もしロシアがそれができるなら、極東に様々な工場や工場団地を造成して、日本企業を誘致し、そこで組みたてと製造輸出を行い、儲けまくってニューオルガリヒが生まれることになるかもしれません。

このようなことはあり得ませんが、ただ制裁などの対象になっていない国である程度産業基盤のある国では、中国や韓国の大成功にあやかり、日本から安い原材料を輸入し、それを組み立てて大儲けする国も現れるかもしれません。そうして、そうした国で富裕層を生み出し、日本人がその富裕層を大歓迎するなどという、過ちが繰り返されるかもしれません。

そうなれば、現在コロナ禍からも立ち直りきっておらず、ロシアによる制裁による原油高などの悪影響を受けたうえ、さらにデフレということで、2重パンチで、景気が落ち込みデフレスパイラルのどん底に沈み、それこそ制裁を受けているロシアのように経済がどん底に沈み、失われた20年が再現されることにもなりかねません。

ウクライナに侵略したロシアが景気の落ち込みによって苦しむのは、自業自得で致し方ないですが、日本が自分の首を自分でしめるような真似をすることは、まっぴらごめんです。

そのようなことだけは避けたいです。岸田首相が日銀の金融政策を誤った方向に変えようとすれば、安倍元首相や高市政調会長が大騒ぎをするでしょう。ただ、それだけでは、岸田首相の翻意を翻すことはできないかもしれません。やはり、反対の世論形成が重要だと思います。

岸田首相が稚拙な日銀人事で金融引締に走るようであれば、皆で大騒ぎしようではありませんか。そうすれば、人の言うことを聴く耳を持つと自称する、岸田首相も多くの人の反対意見を聴くことになり、過ちを訂正するかもしれません。

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2022年3月7日月曜日

ロシアは「長期的な敗戦」の可能性が高い―【私の論評】最終的にプーチンは失脚か、地位の禅譲のいずれしかなくなる(゚д゚)!

ロシアは「長期的な敗戦」の可能性が高い

岡崎研究所

 ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻を開始した。ウクライナ戦争は、ウクライナ人の抵抗がどの程度強いか、ロシアにおけるプーチン批判がどのくらい出てくるか、西側の対応がどれくらいのものになるかなど、条件によって帰趨が決まる。


 ウクライナ人の防衛意識は高いようであるし、国際金融システムSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシア排除をはじめとする対露経済制裁が迅速に決まったり、ウクライナへの西側の武器支援が強まるなど、ロシアへの圧力は急速に強まっている。しかし、まだ確定的なことは言えない。

 侵攻については、多くの社説、論説が各紙に出されているが、2月24日付でニューヨーク・タイムズ紙に掲載された、米外交評議会のリチャード・ハース会長の論説‘The West Must Show Putin How Wrong He Is to Choose War’が納得できる。ハースの言う通り、西側はプーチンに如何に戦争を選択したことが間違っているかを示さなければならない。
 
 今度のプーチンのやり方は到底許されるものではなく、国連憲章にも乱暴に違反したことであり、プーチンの狙い通りになることは阻止する必要がある。そのためには、長期戦も覚悟してやるべきことをやっていくということだろう。

 国際秩序や平和維持に責任を有する国連常任理事国であるロシアが武力侵攻という蛮行を行ったのは極めて重大なことである。国際連盟が第2次大戦の発生を防げず崩壊したように、国際連合も崩壊の瀬戸際に立たされているように思える。いずれにせよ、ロシアには国際連合安全保障理事会の常任理事国たる資格はない。こういう政治面でのロシア排除も考えていくべきであろう。

 今回の侵攻は、ロシア自身にとって、長期的に大きなマイナスになり得る。侵攻前に書かれた記事だが、エコノミスト誌2月19日号の社説‘Whether he invades Ukraine or backs down, Putin has harmed Russia’は参考になる。

 同社説によれば、プーチンは戦術的利益を得たとしても、長期的、戦略的には負けている、と指摘する。具体的には、「(西側の制裁を補うため)中国への依存を強めれば、ロシアを中国のジュニア・パートナーにしてしまうだろう。中露の専制主義者の同盟はロシア国内に心理的コストをもたらす」、「プーチンは治安当局者への依存を深め、ロシア国家の他の柱である自由な資本家とテクノクラートの敗北になるだろう」、「停滞と憤激が反対派に蓄積され、それに対しより残酷な弾圧が加えられるだろう」などと指摘する。

 そして、「西側は活性化し、ロシアのガスに背を向ける決心をするだろう。ウクライナはロシアにとってお金と人命を費やす問題になり、プーチンはパリア(のけ者)になろう。ロシア自身は短期的には制裁で、その後はアウタルキー(自給自足経済)と弾圧で損なわれるだろう」と予測する。

現実となりつつある「長期的なマイナス」

 西側、特に北大西洋条約機構(NATO)、先進7カ国(G7)の団結、ウクライナ人の反発、スウェーデンやフィンランドのNATO接近などの動き、煮え切らなかったドイツの国防政策転換などをみれば、エコノミスト誌の社説の言う通りであろう。ロシアは核兵器保有国であるが、核兵器はそう簡単に使える兵器ではない。ロシアの経済は国際通貨基金(IMF)統計の国内総生産(GDP)では韓国以下である。

 カール・ビルト元スウェーデン首相は、プーチンは「insane(気違い沙汰)」なことをやっていると言っている。プーチンが戦略的に考え、今の自分のアプローチは色々な欠点があることに気づき、現実的に力関係を冷静に考え、適切な判断に至ることが望まれる。

 なお、ロシア人がウクライナとの戦争を支持する気持ちはほとんどなく、ウクライナ戦争では、クリミア奪回後のプーチン支持率の急上昇のようなことにはならないと大方の人が考えている模様である。

【私の論評】最終的にプーチンは失脚か、地位の禅譲のいずれしかなくなる(゚д゚)!

英国軍の国防参謀総長は「ウクライナに侵攻しているロシア軍の主要戦力が打撃を受けていることから、ウラジーミル・プーチン ロシア大統領がウクライナ戦争で敗北する可能性もある」と分析しました。 

6日(現地時間)英国日刊紙“ザ・タイムズ”などによると、英国のトニー・ラダキン国防参謀総長はこの日、英国BBC放送に出演し「計画通りに進んでいないウクライナへの侵攻により、(プーチン大統領は)自らロシアを混乱の中へと追い込んだ」とし「ロシアの主要戦力がすでにウクライナから深刻なダメージを受けていることから、ウクライナを制圧するのはもう必然だとは言えない状況になった」と説明しました。

英国のトニー・ラダキン国防参謀総長

 ラダキン総長のこのような内容は、ロシア空軍所属の航空機8機が最近ウクライナ軍より撃墜された中、発言されたものです。 ラダキン総長は「現在のロシアは、苦痛を受けている孤立した強大国だ」とし「全面侵攻直前の時より、現在のロシア軍の戦力は顕著に弱まっているとみることができる」と語りました。 

つづけて「ロシアは第2次世界大戦以降、今回のような大規模軍事作戦を実施した経験はない」とし「このことにより、軍隊の維持と補給など複雑な部分で問題が生じている」と説明しました。 実際ロシア軍は、全世界の主要国たちの予想とは異なり、ウクライナ軍による決死の抗戦に遭い、開戦11日が過ぎようとしている中、ウクライナで完全な勝機を掴めず苦戦している。

 ただ、ラダキン総長は「目標達成に向かって遅々として進んでいないことから、プーチン大統領がウクライナに対して今よりもさらに残酷な攻撃に乗り出す恐れがある」と懸念しました。 

ラダキン総長は「今後ウクライナに対するロシアの暴力は加重され、これにより血生臭いおぞましい状況をより多く目撃することになるだろう」とし「民間人を対象にした無差別砲撃はもちろん、原子力発電所を攻撃するなどのとんでもない攻撃につながることだろう」と強調しました。

 最後にラダキン総長は「この戦争を終えることのできる人は、プーチン大統領だけだ」とし「全世界は『ロシアとプーチン大統領に対する圧力を続ける』という決心を維持しなければならない」と力説しました。

今後、ロシアが進む道を考えた場合、国際的な孤立しか考えられません。今は中国と蜜月関係ということになっていますが、今後ますます制裁が強くなれば、その余波を受けて、中国ですら離れていく可能性もあります。

仮に軍事的に勝利したとしても、国際政治的にロシアの勝利はありません。もはやプーチン大統領の体制転換以外に、ロシアが生き残る道はないでしょう。

プーチン露大統領

ロシアのウクライナ侵略には以下のようなシナリオが考えられます。

一つは、短期決戦でロシアが勝利するというものです。しかし、これは今の段階でも見込み薄になりました。

2つ目は、長期戦になることです。ただ、米国がアフガンに20年駐留したようなことにはならないと思います。ロシアのGDPは現状では、韓国を若干下回る程度です。現在のロシアに長期にわたってウクライナにとどまり続ける力はありません。長くても、1年でしょう。

3つ目は、ウクライナ戦争が、欧州戦争にまで発展する可能性です。自分の地位を保つにはそれしか方法がないとプーチン氏が考えたなら、この危険を冒すかもしれないです。ウクライナで敗北に直面した場合、プーチン氏はエスカレーションを選ぶかもしれないです。

4つ目は、外交的解決です。プーチン氏が戦争を終える屈辱よりも、戦争を続ける方が自分の立場が危ういと判断した場合これは、あり得ます。

最後にプーチン氏の失脚です。プーチン大統領が壊滅的な戦争に突き進んだせいで、何千人、何万ものロシア兵が死ぬかもしれません。経済制裁が響き、プーチン氏は国民の支持を失うでしょう。

市民が革命を起こす恐れが出てくるかもしれないです。大統領は、国内治安部隊を使って反対勢力を弾圧するでしょうが、それで事態はさらに悪化し、ロシアの軍部、政界、経済界から相当数の幹部やエリート層が、プーチン氏と対立するようになるでしょう。

ウクライナ領土防衛軍の民兵によって捕虜となったロシア兵

欧米は、プーチン氏が政権を去り、穏健な指導者に代われば、対ロ制裁の一部を解除し、正常な外交関係を回復する用意があると、態度を明示するかもしれません。そうなると、流血のクーデターが起こり、プーチン氏は失脚することになるでしょう。

この展開はま現時点ではあり得ないことに思えるかもしれないですが、プーチン氏から利益を得てきた人たちが、もはやこのままでは自分たちの利益は守られないと思うようになれば、可能性がゼロということはないでしょう。

ただ、今後5年くらいのスパンで物事を考えれば、最終的にはプーチン氏は失脚させられるか、そうでなければ、先に述べたようにプーチン大統領自身による体制転換ということにならざるを得ないでしょう。体制転換により、誰かに自らの地位を禅譲するしかなくなるでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻は、勝ち負け以前にブーチンの大失敗だったのです。

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2022年3月6日日曜日

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米国務長官が中国外相に「世界は見ている」と迫る

米ブリケン国務大臣(左)と中国王毅外相外相

 アメリカのブリンケン国務長官は中国の王毅外相と電話で会談し、ロシアの侵攻を止めるため、中国に対し欧米と足並みをそろえるよう訴えました。

  アメリカ国務省の発表によりますと、5日に行われた会談でブリンケン長官は「世界はどの国が自由や主権のために立ち上がるか見ている」と迫りました。

  さらに、「世界はロシアの侵攻を否定するため結束して行動している」と指摘しました。  中国外務省の発表によりますと、これに対し王毅外相は「大規模な人道的危機が避けられることを望む」と危機感を示し、アメリカとNATO=北大西洋条約機構、EU、ロシアによる「平等な話し合い」を求めました。

【私の論評】ロシアへの厳しい制裁と、ベトナム戦争後最大数のインド太平洋地域への米空母派遣と日米演習におののく中共(゚д゚)!

このブログでも何度か掲載してきたように、現在のロシアにはウクライナに侵攻して、全土を制圧するだけの力はありません。にもかかわらず、バイデン政権がロシアのウクライナ侵攻の可能性を非難し、侵攻後にはさらに徹底して非難してきた背後には、ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国は経済制裁の大義を得て、ロシアを孤立させ経済的に弱らせることができるということがあるのでしょう。

「ノルドストリーム2」を葬り去り、自国産のシェールオイル・ガス、小型原発などのエネルギーをドイツへと輸出する道も開けるかもしれないです。なぜか、これにはバイデン自身は消極的なのですが、少なくとも共和党はこちらのほうに舵をきるべきと考えていることでしょう。

それにロシアの関心を西方に縛り付け、インド太平洋地域で中露両国と向き合うというリスクを避けながら、問題を長期化させロシアの力をじわじわと削ぐこともできます。

そうした考えは、先日もこのブログで紹介したばかりの、バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」にも透けて見えます。

先にも指摘したとおりに、何とこの戦略には「ロシア」という言葉は一つも出てこないのです。極東ロシアは、オホーツク海を隔てつつも、インド太平洋地域につながっているし、ロシアには太平洋艦隊という名称の艦隊があるにもかかわらずです。

米国の対峙の最優先は、やはり中国なのです。評論家の石平氏は、米国務長官が中国外相に「世界は見ている」と迫った背景には、プーチンの失敗と沈没に怯えてロシアと距離を置き始めた中国の「二股外交」があるとしています。

詳しくは以下の動画をご覧になって下さい。


インド太平洋戦略に「ロシア」の文字が一字もないことは、中国も当然のことながら、気づいているでしょう。そうして、こうした米国の行動に関して、不気味さとともに、恐怖も感じていることでしょう。

米国がなぜここまで、中国に対して強い猜疑心をもっているかといえば、それははっきりしています。それは2018年に遡ります。

それについては、このブログにも掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
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トランプ前米大統領と習近平中国国家主席

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。

 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。
・・・・・・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・・・・・・
 米国政府は中国に対してここまでの警戒や懸念を表明してきたのである。これまで習近平政権はその米国の態度に対して、正面から答えることがなかったが、今回の対外戦略の総括は、その初めての回答とも呼べそうだ。つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。米国と中国はますます対立を険しくしてきた。

このときに、習近平は世界秩序の変更に挑戦することを公表したのであり、これは第二次世界大戦後世界秩序の頂点にたち、旧ソ連との冷戦にも勝利し、現在の世界秩序の頂点の地位を不動のものとした米国としては、 絶対に許容することはできないわけです。

米国としては、現在の世界秩序を前提として、そのなかで中国覇権をできるだけ強化したいというのなら、まだ理解できるところもあるかもしれませんが、そうではなくて新しい世界秩序を中国が築こうとしていることは、絶対に許容できないです。

無論、ロシアも世界秩序の変更を企図してはいるのでしょうが、今やロシアのDGPは韓国を若干下回る程度であり、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。

このロシアは、中国と一人あたりのGDPでは、中国と同程度ですが、ロシアの人口は1億4千万人、中国の人口は14億人であり、中国の人口はロシアの10倍です。

国全体のGDPでは、中国はロシアの10倍です。ただ、中国のGDP統計は全くのデタラメという説もありますが、それでも国全体のGDPでは中国がロシアをはるかに上回るのは確かでしょう。

世界秩序の変更とはいっても現在のロシアにできるのは、せいぜいウクライナに侵攻して、ウクライナをNATOに加入させないことぐらいで精一杯でしょう。現在の戦況をみているとそれすら覚束ない可能性も大きいです。

実際、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は4日、BBCのジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員に対して、ウクライナが「時間をかければ、もちろん」ロシアに勝てると確信していると話しました。戦争がいつまで続くか分からないが、ウクライナの敗北は決して避けがたいものではないとも述べました。

ブリケン国務長官

今後、ロシア軍は都市部の制圧に入る予定でしょうか、都市部においては、制空権すら掌握していないロシア軍が苦戦するのは目に見えています。米軍の経験から、現代戦ではホテルのような建物一つを制圧するにも、数百人の兵隊が釘付けにされるといいます。

それに、現状のようにロシアの制裁が強まったので、このままの状態が続けば、ロシアのGDPは現在の韓国なみから、北朝鮮なみに落ち込むことも予想できます。

しかし、中国は違います。軍事的にも経済的にも、ロシアをはるかに上回っています。だからこそ、ロシアに対して厳しい制裁を加えつつも、米国の最優先は中国の対峙なのです。

そのため、ロシアのウクライナ侵略が実施されているさなかであっても、米軍は地中海には一つの空母打撃群しか派遣していませんが、インド太平洋地域には3つの空母打撃群を派遣しているのです。ただし、地中海はフランス、イタリアの空母を演習に参加させるなどして、空母打撃群の力を補っています。

地中海を並走する米仏伊3カ国の空母。手前から仏空母「シャルル・ド・ゴール」、伊空母「カブール」、米空母「ハリー・S・トルーマン

そうして、冷戦後初めて米海軍空母打撃群がNATO軍の指揮下に入りました。 空母ハリーSトルーマン以下連合艦隊は地中海に展開中です。

インド太平洋地域には、米海軍は空母打撃群を3つ派遣する他にも、F35を搭載した強襲揚陸艦も2隻派遣しており、これはベトナム戦争以降最大の配置です。

さらに、米海軍と日本海自との共同演習も昨年暮れから2月までという短期間に三回も実施しています。

ロシアに対する厳しい制裁を目の当たりにした中国がそれに加えて、ベトナム戦争以降最大の米空母の配置と、日米共同軍事演習に脅威を感じるのは当然です。中国としては数少ない理解者であるロシアを無下にするわけにもいかず、かといって米国は恐ろしいわで、二股外交に舵を切るのも無理からぬところだと思います。

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2022年3月5日土曜日

北方領土の主権主張「永久に忘れた方がいい」…ロシア外務省幹部が強硬姿勢示す 交渉"さらに難航"の恐れ―【私の論評】ウクライナ人も多数居住する北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつある(゚д゚)!

北方領土の主権主張「永久に忘れた方がいい」…ロシア外務省幹部が強硬姿勢示す 交渉"さらに難航"の恐れ

外務省のザハロワ報道官は2016年5月19日、「ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議」の公式レセプションで、ロシアの民族舞踊「カリンカ」を披露した

 ロシア外務省幹部が定例会見で3月3日、日本が北方領土の主権を主張することは「永久に忘れた方がいい」などと発言しました。ウクライナへの侵攻で国際社会から孤立する中、異例の直接的な発言で、領土交渉がさらに難航する恐れがあります。

  発言したのは、ロシア外務省のザハロワ報道官です。

  ザハロワ報道官は、日本の外務省の宇山秀樹欧州局長が2月28日、国会で「ロシアが北方領土を占領した」と話したことを受け、「日本の外交官の発言に秘められた"報復主義"を指摘したい。我々は(宇山局長の発言は)日本の政界で特定の勢力がロシアに領土を引き渡すよう求めていることを念頭に置いている証拠とみなしている。このやり方は永久に忘れることを勧めたい」と述べました。

  日本政府は一貫して「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島からなる北方四島は、一度も他国の領土となったことがない日本固有の領土で、ロシアの不法占拠が続いている」との立場です。

  ロシアは2020年7月、憲法に「領土の割譲を禁止する条項」を盛り込み改正していて、北方領土の交渉そのものが難しくなったという立場を示す発言が目立ちますが、日本側は平和条約締結に向け、帰属問題の解決を目指す立場を堅持しています。 

 ザハロワ報道官の発言は、ウクライナ侵攻で国際社会から孤立するロシアが強硬姿勢を強めていることを示唆したもので、今後の領土交渉がより一層、難航する恐れがあります。

【私の論評】ウクライナ人も多数居住する北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつある(゚д゚)!

外務省の宇山秀樹欧州局長

宇山秀樹氏なる人物、私は上のニュースを見るまで知りませんでした。日本国内でも、宇山氏が上記のような発言をしたことなど、報道されていません。

これが、岸田総理とか林外務大臣などの発言であれば、理解できなくもありませんが、なぜザハロワ報道官がこのような発言をしたのか理解に苦しみます。

このようにあまり有名でもない人物の発言、しかもほとんど報道されもしない発言をわざわざ取り上げるということは、ロシアは北方領土に関して、神経質になっていると考えざるをえません。

なぜ神経質になっているかといえば、2つほど理由があると思います。

1つ目は、現在ロシアはウクライナに侵略をしており、極東の守備が疎かになっているということがあります。極東ロシア地上軍はソ連邦崩壊前では、40数個師団あったものが、現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団合計8万人です。これは、4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっています。

極東の東部軍管区には8万人しか配備されていない

北方領土への守備隊の配置は、第18機関銃・砲兵師団が、主に着上陸防御を目的として択捉島及 び国後島に所在しており、その規模は約3,500人とされています。

もう一つは、北方領土にはウクライナ人が多く住んでいるということです。1989年の調査では12%、1991年の調査によると全人口の4割がウクライナ人とする調査もあります。2016年時点で、国後島に7914人、択捉島に5934人、色丹島に2820人の計16,668人のロシア国籍の住民が在住していますが、そのうち1割~4割ほどが民族的にはウクライナ人とされます。

北方領土の代表的な町はユジノクリリスク(7048人、2002年調査で8.2%がウクライナ人)、ゴリャチエ・クリュチ(2025人)、マロクリリスク(1873人)、クリリスク(1666人、2002年調査で9.2%がウクライナ人)、クイビシェフ(1757人)等です。

2014年に起きたウクライナ内戦の混乱から逃れるため、ドネツィク州等の東部の親露派地域からウクライナ人がウクライナ系住民が多い北方領土に難民として入植してきた例も報告されています。


北海道新聞は、北方領土・国後島の中心地、古釜布(ユジノクリーリスク)で2014年3月17日、ウクライナ支援集会が開かれたことを報道しました。北方領土はウクライナ出身者が特に多く「3人に1人(国後島民)とも言われ、出身者を含む約500人が集まり「故郷を支えよう」などの声明を採択し、ウクライナ東部やクリミア半島のロシア語系住民との連帯を表明しました。参加した出身者の一人は「故国の混乱が早く収まってほしい」と話しました。

今回のロシアのウクライナ侵攻に関しては、このような報道はされてはいないものの、このような声が高まることはあり得ると思います。

現在ロシアによるウクライナ侵略多数の難民がウクライナを出国しているといわれています。いまのところ、こうした難民が北方領土に入植しているという報道はありませんが、今後のウクライナ情勢いかんでは、入植する可能性もあります。そうなると、北方領土のウクライナ人の比率はさらに高くなります。

ロシア革命の前後、ロシアから日本へ亡命してきた人(白系ロシア人)の中には、シュウエツ家に代表されるようにウクライナ人も多数いました。多くのウクライナ人は日本領である南樺太に定住していましたが、函館や神戸などで活躍したウクライナ人やユダヤ系ウクライナ人もいました。

亡命者は北海道や関東、関西を中心に在住し、一部は太平洋戦争前に米国などへ渡りましたが、残ったものは日本国籍を取得し、ウクライナ系日本人の系譜となりました。

戦後しばらくはウクライナ人と日本人の交流は停滞していましたが、90年代末以降、日本政府が興行ビザの発給を緩和して以降、在日ウクライナ人の人口が増加しましたた。日本に在留しているウクライナ人の数は2003年には最大の1,927人にまで急増したが、2005年の興行ビザ発給制限の影響で減少し続け、興行ビザの人口は2020年に29人にまで減りました。

2020年12月現在では1,867人となっています。

ロシア軍は、ウクライナのドネツク州、ルガンスク州のロシア系住民が虐待されたこと(真偽はあきらかではないが) をウクライナ侵略の理由の一つにしています。日本はロシアのように極悪非道なことはしませんが、ロシア側からみれば、日本が北方領土のウクライナ人が迫害を受けていることを理由に自衛隊を進駐させることもロシア側からみれば、理論的にはあり得るわけです。

だからこそ、ロシアとしては警戒しているのでしょう。

多くの人は、今回ロシアがウクライナに侵略したことをもって北方領土返還交渉が難しくなると考えているようですが、私はそうではないと思います。

現在ロシアは厳しい経済制裁を受けています、それによりいずれロシア経済はかなり低迷することになります。そのときには、ロシア経済は北朝鮮なみになる可能性があります。そうなったときに、ロシアは自らの根幹部分を守ることで精一杯となり、北方領土を守備したり、自らの領土として行政サービスをする能力すらなくなってしまう可能性が大きいです。

そうなれば、地震や津波のような深刻な自然災害が起こっても放置するしかなくなってしまうでしょう。医療や教育、さらには福祉政策もおろそかなになっとしまうでしょう。

ウラジーミル・プーチン大統領はロシア連邦大統領で、ロシア連邦内にはいくつもの共和国が存在し、共和国には大統領も存在します。ロシア連邦の行政・地方区分システムはかなり複雑で、州、地方、連邦市、共和国、自治州、自治管区、連邦管区などが存在します。これらの地方自治体は、憲法上同等ですが、実際には相互に大きな差があります。

ロシア連邦が経済的に苦しくなれば、軍事的にも守備できる範囲は狭まり、ロシアはモスクワを中心とした部分のみを自らのテリトリーとして他は手放す可能性が高まることが考えられます。

とはいいながら、ロシアはなるべく多くのテリトリーを維持したいと考えるでしょうが、それにしても極東はかなり無理になり、その中でも北方領土は放棄する可能性が高いです。

その頃には、極東にも別の国ができているかもしれません。そうなると北方領土はロシアとの交渉ではなく、その国との交渉となります。その頃には、極東の新しい国も経済的に低迷し、日本支援に期待するようになっている可能性もあります。

そのときが、日本が北方領土を取り戻す最大の機会だと思います。現在のロシアもそうした可能性も意識の上に顕在化はしていないものの、潜在的にはありうると感じているのではないでしょうか。

だからこそ、そのようなことは断じてあってはならないという思いから、あまり有名でもない人物の発言をわざわざ取り上げ異例ともいえる報道官の発言となったのではないでしょうか。

私自身は、北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつあると思います。

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2022年3月4日金曜日

岸田首相「省エネ」呼びかけで政府の対応は―【私の論評】エネルギー政策で失敗し、ロシアを利することになりかねない日米両首脳(゚д゚)!

岸田首相「省エネ」呼びかけで政府の対応は


岸田首相が3日の会見で、国民に対してこれまで以上の省エネに取り組むよう呼びかけたことに関連し、松野官房長官は、4日、「政府としては、公用車の電動車への置き換えなど積極的に進める」と強調しました。

ロシアによるウクライナ侵略などの影響を受け、ガソリン価格などの高騰が続いています。岸田首相は3日の会見で、「エネルギー価格高騰による我が国経済への悪影響を少しでも減らすべく、これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をしていただくことが大切だ」として、国民に対しこれまで以上に省エネに取り組むよう呼びかけました。

これに関連し、松野官房長官は4日、政府で率先して行う取り組みについて公用車の電動車への置き換え、庁舎におけるLED照明の導入、再生可能エネルギー電力の調達などを積極的に進めていく考えを示しました。

【私の論評】エネルギー政策で失敗し、ロシアを利することになりかねない日米両首脳(゚д゚)!

岸田、目の前にあるエネルギー危機に関して、この程度のことしか言えないのでしょうか。先日もこのブログに掲載したように、現在稼働を中止している全原発を稼働させるようにすれば、日本のエネルギー問題はすぐに解決します。

そうして、日本て余った石油やガスをヨーロッパにまわすようにすれば、日本の世界での存在感は高まります。それに、ロシアに対する制裁にもなります。まさに、一石三鳥ともいえる政策だと思います。

原発の危険を指摘する人もいるでしょうが、原発を稼働していなくても、そこに核燃料があれば、危険であることには変わりありません。稼働していようと、していまいと、危険があることには変わりないのです。であれは、稼働すべきです。


それに、首相が現在のロシアによるウクライナ侵攻の危機や、それに伴うエネルギー危機に対して危機感を示すことによって多くの国民や政治家にとっても、安全保障やエネルギー問題を考える良い機会になったのではないかと思います。

現在のような危機にあって、原発稼働について議論もしない現在の政府の姿勢には、本当に疑問を感じてしまいます。

これは、米国のバイデン政権も似たり寄ったりです。先日もこのブログに掲載したように、米国もシエールガス・オイルを増産すれば、ガソリンの高騰を抑えることができ、秋の中間選挙においても有利なることが考えれますし、ロシアの制裁にもなり、EUにガス・オイルを回すことができ、こちらも一石三鳥になるにもかかわらず、バイデン大統領もそれについては、全く言及しません。

バイデン政権としては、脱炭素社会を提唱しているため、シェールガス・オイルの増産に関して発言することは憚られる面もあるのでしょうが、それにしても、議論もしないのはいかがなものかと思ってしまいます。

米国デイリー・コーラーによれば、ジョー・バイデン大統領は就任以来、積極的に反化石燃料政策を推し進め、米国のエネルギー自給目標に悪影響を与え、ロシアによる侵略を可能にしたと専門家は述べています。まさに、バイデンの脱炭素政策が、ロシアに金を握らせてしまったともいえます。

バイデン政権は積極的な気候問題対策の一環として、パイプラインを拒絶して掘削プロジェクトを見捨て、重くのしかかる規制を推進して連邦政府の重要な石油・天然ガス承認プログラムを遅らせ、米国の化石燃料業界に反対する政策を実施しています。その一方で米国は、ロシアの石油を含めてますます輸入に依存するようになっており、ロシアは世界の天然ガス市場で主要なプレイヤーの地位を確立しました。

連邦政府の予測によると、米国はバイデン政権下で2022年に原油の純輸入国に戻ろうとしています。米国は石炭と天然ガス両方の取引を考慮すると、2019年に全エネルギーの純輸出国となり、2020年には石油の純輸出国となりました。

「原油価格が100ドルに迫り、ロシアが政府予算―軍とウクライナ侵攻も含まれる―の資金獲得のためにエネルギー販売に依存する中、ロシアのエネルギー輸出が西側に及ぼす影響力に今世界は注目している」と、米国商工会議所世界エネルギー研究所のマーチン・ダービン所長は1日のブログ投稿で述べました

「この現実から、こうした依存の一因となっているエネルギー政策を至急見直さざるを得なくなっている」とダービンは続けました。

1日に下院民主党は、連邦政府がエネルギー市場におけるロシアの支配を埋め合わせるために、米国の石油・天然ガス生産を「解放」するよう義務付けることを提案する共和党の米国エネルギーのロシアからの独立法案の検討を阻止しました。

「プーチンとロシア経済は、支配的なエネルギー生産と他国への輸出に依存している」と、法案起草者であるエネルギー商業委員会幹部メンバーのキャシー・マクモリス・ロジャースと、天然資源委員会幹部メンバーのブルース・ウェスターマンは2月28日の共同声明で述べました

「(プーチンは)そうすることで権力を得ており、彼の軍隊と攻撃的な行動の資金源となっている。プーチンに対抗するために、我々の法案は米国のエネルギー雇用、生産、輸出の推進にスイッチを入れるものだ」と彼らは続けました。

このように米国がエネルギー生産の観点から大幅に弱体化したため、ロシアに対抗する力が大きく失われることになりました。

いま世界中でエネルギー価格が高騰しています。欧米がロシアに経済制裁をすれば、ロシアからのガスの供給が滞ることになります。欧州はガス価格の高騰のみならず、物理的な不足に直面します。暖房もできなくなり、工場の操業も止まることになります。そして、すでに進行中のインフレが悪化すれば、どの国の政権も安定ではいられないです。

大統領就任の初日に、バイデンは環境問題を理由に、建設が進んでいたキーストーンXL事業を阻止する命令を出しました。こキーストーンパイプラインがあれば、ヨーロッパへのエネルギー輸出を拡大することで、ロシアに対抗する能力をアメリカに与えていたはずです。

工事中のキーストンパイプライン

いまEUは世界から天然ガスを買い漁っています。とくに米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入が急激に増えています。トランプ政権時代に増産していたおかげで、何とかまだ急場を凌(しの)いでいるという状態ですが、いつまで持つのでしょうか。こんな不安要素を抱えて、本当に経済制裁をして本当に大丈夫なのでしょうか。

さらに、大統領は下院と上院の民主党の中から助言を聞き入れることを選択し、1日にはエネルギー省に緊急用石油備蓄を放出するよう命じると発表しました。米国は備蓄から3千万バレルを引き出しますが、他の数十カ国も備蓄から同じ量を放出します。

バイデン政権は非常用の石油備蓄補充のための計画をまだ立てていません。日本も同じことです。

米国内では、バイデン政権のエネルギー政策がロシアのウクライナ侵攻を招いたとして、野党の共和党議員から猛烈な非難が浴びせられています。脱炭素政策の大幅な見直しは避けられないでしょう。

一般教書演説でロシアを非難するバイデン大統領

日米ともに、小型原発の開発をすすめてはいますが、それはまだ先の話です。ロシアがウクライナに侵攻した現在、ここ当面どうするかについては、はっきりとした政策は打ち出していません。それは、結局ロシアを利することになります。

特に日本では、エネルギーのロシア依存度は、EUほどには高くありませんから、いまのところ目立った弊害はありませんが、ロシアのウクライナ侵攻に続き、ロシアに対する制裁がなされ、エネルギー価格が上昇しています。この状況はしばらくおさまりそうもありません。

このままの状態が続くと、岸田政権もエネルギー政策に真摯に向合なければ、支持率が落ちて大変なことになりかねません。

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2022年3月3日木曜日

蔡総統、ポンペオ米前国務長官に勲章授与 台米関係への貢献たたえる/台湾―【私の論評】台湾大規模停電とも関係?ポンペオ氏を未だに恐れる中国(゚д゚)!

蔡総統、ポンペオ米前国務長官に勲章授与 台米関係への貢献たたえる/台湾

台湾総統府で会談したポンペオ前米国務長官(左)と蔡英文総統=3日、台北

蔡英文(さいえいぶん)総統は3日、総統府で、台湾を訪問しているポンペオ米前国務長官に特種大綬景星勲章を授与し、台米関係向上への貢献をたたえた。ポンペオ氏が在任中、米外交・軍事当局者と台湾間の交流制限撤廃や台湾への武器売却の常態化など台米関係に大きな進展をもたらしたことにも触れ、台湾の人々を代表して「最も深い感謝」を表明した。

ポンペオ氏の訪台は台湾のシンクタンク、遠景基金会の招きに応じたもので、2日から5日まで滞在する。滞在中は政財界や学術界の関係者と交流するほか、4日には講演を行う。

勲章を受け取ったポンペオ氏はあいさつで「光栄」だと述べ、蔡総統らと対面できたことに喜びを示した。また、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に、今、欧州で起こっていることを見れば、自由が当たり前のものではないことが分かると言及。蔡氏の総統在任中、自由への渇望を踏みにじる行為が許されることはないと信じていると述べ、米国もずっと台湾と共にあると語った。

ポンペオ氏ら一行は、米国と中華民国(台湾)それぞれの国旗のデザインとともに中国語で「堅若盤石」(大きい岩のように固い)の文字をあしらったマスクを着用して授与式に臨んだ。

【私の論評】台湾大規模停電とも関係?ポンペオ氏を未だに恐れる中国(゚д゚)!

ポンペオ全国務長官の訪問に先立つ2日午前には、米国のマイケル・マレン元統合参謀本部議長率いる代表団が台湾を訪問しています。

蔡英文総統は2日午前、同代表団の表敬訪問を受けました。代表団はマレン氏のほか、ミシェル・フロノイ元国防次官、メーガン・オサリバン元大統領副補佐官(国家安全保障担当)、国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めたマイケル・グリーン氏とエバン・メデイロス氏で、米国の超党派で実績のある人物で組織されています。

米国のジョー・バイデン大統領が台湾に派遣した事実上特使団が「台湾との約束」を固く守っていくと明らかにした。台湾は今回の米国代表団訪台を通じてアジア太平洋地域の対中牽制(けんせい)体である日米豪印戦略対話(QUAD=クアッド)に参加し、外交的突破口を用意したいとの希望も正式に伝達しました。

蔡総統はあいさつの中で、全世界がウクライナ情勢を注視する今、バイデン大統領が代表団を台湾に派遣したことは台米のパートナーシップに対する重視のみならず、双方の関係が「岩のように」固いことを示していると歓迎、地域の安全保障における台湾の役割は際立っており、世界の民主コミュニティはより緊密に団結しなければならないと語りました。

バイデン米大統領の指示を受け、米国のマイケル・マレン元統合参謀本部議長率いる代表団が台湾を訪問。蔡英文総統は2日午前、同代表団の表敬訪問を受けた。写真は蔡総統(左から7人目)を囲む代表団のメンバーら。(総統府)

バイデン大統領の指示に伴う今回の代表団訪台は、昨年4月にクリス・ドッド元上院議員ほか、、国務副長官を務めたリチャード・アーミテージ、ジェームズ・スタインバーグら3人で構成された非公式代表団訪問以降、二度目となる。

さて、これらとは別に台湾では、ある大きな事件が起こっています。

3日午前9時7分ごろ、台湾各地で大規模な停電が発生しました。台湾電力(台電)は、南部・高雄市にある興達発電所の設備が故障したことが原因としており、ただ、詳細は明らかにされていません。蔡総統は原因究明と早期復旧を指示しました。総統府は停電していません。

また行政院(内閣)原子能委員会(原子力委員会)によると、外部電力の影響で、屏東県の第3原子力発電所の発電ユニット2基が運転を停止したといいます。安全性に問題はないとしています。

台湾南部、屏東県の第3原子力発電所

停電は南部だけでなく、台北など北部にも及びました。

台湾総統府によると、台北を訪問中のポンペオ前米国務長官と蔡英文総統の会談はライブ配信が中止されましたた。

半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などが拠点を置く新竹サイエンスパークは、停電していないといいます。

また、TSMCが工場を持つ南部の台南サイエンスパークは、午前中に電圧低下に見舞われたが、生産には影響がなかったとしました。

TSMCは複数の工場で、最長1秒以上続く「電力低下」が見られたとし、「現在、実際の影響があるかどうか確認している」と発表した。

運輸当局によると、北部と南部を結ぶ高速鉄道にも影響が出たが、通常運行が再開しています。

前日には事実上の米国特使団が訪問し、蔡英文総統とポンペオ元国務長官が米台関係強化を話し合っていたタイミングでの台湾の大規模停電です。

中国のサイバー攻撃を煽るつもりはありませんが、ただ「リスク管理」的な観点からしても、これは相当危険です。意図的に南部・高雄市にある興達発電所の設備を攻撃すれば、大規模停電が発生するということです。

今回の件、仮に中国のサイバー攻撃が関係していたとして、これを中国による台湾侵攻の前兆とする人もいますが、私はこのブログで主張してきたように、中国軍の海軍輸送力の脆弱性から、一度に数万の海上兵力しか送り込めないので、これは台湾軍によって個別撃破されてしまう規模であることから、軍事的にはすぐにはあり得ないです。

あるとすれば、やはりポンペオ全国務長官訪台に対する牽制だと思います。実際、中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は3日の記者会見で、ポンペオ前米国務長官が台湾を訪問して蔡英文総統と会談したことに対し、「恥ずべき行為だ」と反発しました。その上で「徒労に終わることは避けられない」と主張しました。

中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官

中国がわざわざこのような発言をするということは、台湾の大規模停電に中国が関与していないとしてもやはりポンペオ長官のことを、かなり脅威に感じているということです。本当にわかりやすいです。

マイク・ポンペオ氏は米国務長官であった2020年7月23日、カリフォルニア州のニクソン大統領記念図書館で「共産主義の中国と自由世界の未来」と題した演説を行い、中国との対決姿勢を鮮明にしました。当時のトランプ政権としては、2019年10月にマイク・ペンス副大統領が行った演説以降で最も高いレベルでの対中政策に関する演説となりました。

2019年10月のペンス氏の演説では、中国に対して現実的な関係構築を呼び掛ける内容でしたが、今回のポンペオ氏の演説は、中国共産党と自由・民主主義国家を明確に対比させ、「自由主義の世界は独裁体制に勝利しなければならない」と強硬姿勢を前面に出した内容となっていました。

ポンペオ氏は、中国が繁栄すれば民主主義に転換するとの期待の下で続けていた従来の関与政策は失敗だったとしました。その上で、演説の冒頭と最後で、1970年代の米中国交正常化を主導したリチャード・ニクソン元大統領の「中国が変わらない限り、世界は安全にはならない」との言葉を引用し、自由主義の同盟・有志国が立ち上がって中国の姿勢を変えるときだとしました。

これにより、政権や党派の枠組みを超えて、米国の中国に対峙する姿勢ははっきりし、その姿勢は現在のバイデン政権にも受け継がれています。実際、先日もこのブログで述べたように、ロシアがウクライナに侵攻している最中でも、米国は決して台湾海峡から目を逸らさないです。そういう意味では欧州の戦争に派兵しない米国の方針は大局的には、正しいかもしれないです。ロシア以上に世界の平和に対する脅威はまさに中国です。

中国としては、現状でもポンペオ氏は影響力があるし、秋の米国の中間選挙の結果いかんでは、2024年にはトランプが大統領に返り咲くかもしれず、たとえ返り咲かなくても、中国に対してはさらに厳しい大統領になる可能性も高く、またポンペオ氏が表舞台にでてくることを恐れているのだと思います。


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2022年3月2日水曜日

プーチンは当初4日でウクライナを片付けるつもりだったようだ。しかし、そうは行かなかった。戦いは長引くだろう―【私の論評】プーチンすでにオワコン、後釜はナルイシキンか(゚д゚)!

プーチンは当初4日でウクライナを片付けるつもりだったようだ。しかし、そうは行かなかった。戦いは長引くだろう

ロシアのプーチン大統領

抵抗続けるウクライナ…ロシアの目論見外れる?

「6日前、ロシアのウラジミール・プーチンは自由社会の礎を揺さぶり、彼の意のままに屈しせしめようとした。しかし、彼は大きな計算違いをした」

「彼は予想だにしなかった強固な壁にぶち当たったのだ。それはウクライナの人々だ」

アメリカのバイデン大統領は、ワシントン時間の3月1日夜、日本時間の先程、時季外れの一般教書演説で、ウクライナ侵攻を決断したプーチン氏を非難するとともに、抵抗を続けるゼレンスキー大統領とウクライナ国民をこのように讃えた。

アメリカの国防総省高官がオフレコのブリーフィングで、ロシア軍の侵攻計画の遅れを指摘したのは何日か前のことだが、バイデン氏が言う“強固な壁にぶち当たった”ロシア側の当初の目論見はやはり大外れのようだ。

イギリスの安全保障専門家の分析

安全保障問題に詳しいイギリスのポール・ビーバー氏は言う。

「ロシア側の攻勢はあたかも全面攻撃をまだ始めていないように見えるかもしれない。しかし、侵攻初日から、フル・スケールの攻勢に出ているのだ。ただ、ウクライナ側の頑強な抵抗が、攻撃は序の口だと思わせているだけだ。」

ビーバー氏はインディペンデントの防衛問題アナリストで、イギリス軍の元兵士でもある。

「ロシア軍部隊はウクライナに侵攻しても解放者として歓迎されると思っていた。プーチンもウクライナを解放するのだと説明していた。しかし、現実は全く違った。ロシア軍は侵攻初日から目標を達成できなかったのだ」と。

しかし、第二の都市ハリコフに最初に侵入したロシア軍部隊がすぐに撃退されたのは、あれが威力偵察と言われる作戦で、全面攻撃ではなかったからではないか?という素人なりの疑問をぶつけると、ビーバー氏は「ハリコフへの当初の侵入は威力偵察を含めたロシアの戦術の一環であろう。が、ロシア軍はウクライナの抵抗の激しさに驚愕したのだ。ウクライナの人々がロシア軍を解放者とは見なさないという決意を示したからだ」という。ウクライナ・ハリコフ(2月27日)

その上で、ビーバー氏は言う。

インテリジェンス情報が示唆するのは、ロシアは当初、わずか4日間の作戦で、主要都市を陥落させてウクライナ政府首脳を殺害するか捕え、キエフに傀儡政権を設立するつもりだった。しかし、これにロシア軍は失敗し、双方に想定以上の死傷者を出しているのだ」と。

前稿「“英雄”に大化けしたゼレンスキー大統領とウクライナ国民に最大限の敬意を表す」でも記したように、やはり、プーチン大統領の想定を遥かに超えたゼレンスキー大統領とウクライナ国民の勇気と決意、そして抵抗が、プーチン氏の邪悪な目論見を撥ね返し、持ちこたえているのである。

プーチン大統領の誤算

プーチン氏は明らかに誤算を重ねている。独裁を長年続けたロシアの大統領はとうに裸の王様になっているとも思われるが、西側の前例のない制裁にも苛立つその裸の王様は、見せ掛けの交渉で時間を稼ぎつつ、計画を練り直して更なる攻勢に出ようとしている。

徴兵された戦闘経験無しの若者が多いと見られる侵攻ロシア軍の士気は高くないようだが、それでも、キエフとハリコフを包囲すべく、ひたひたと迫っていて、現地で取材を続ける西側の記者が危惧するように、戦いはより激しく恐ろしい事態を招くかもしれないと不安は募るばかりだ。

しかし、ビーバー氏は「ウクライナがプーチン氏に憐れみを乞う可能性は非常に低い」と断じる。そして「戦いは長引くだろう」とも。

バイデン大統領も一般教書演説で「次の数日、次の数週間・数か月はウクライナ国民に厳しいものになるだろう。」しかし、「ウクライナの人々の自由への愛をプーチンが消し去ることは出来ない。自由社会の決意を彼が弱体化することは無い」と断じている。

現地1日午後のEU議会向けリモート・スピーチでゼレンスキー大統領も「誰も我々を打ち砕くことはできない。我々は強固だ。我々はウクライナ人なのだ」等と意気軒高だ。

戦いがより血塗れの泥沼に陥る前に、正義の側が侵入者を撃退することを願って止まない。

【私の論評】プーチンすでにオワコン、後釜はナルイシキンか(゚д゚)!

米国の情報によれば、ウクライナに派遣されているロシア軍のうち、多くの兵士が新兵で戦地に送られることも知らなかったことがわかっていますが、彼らは作戦に必要な通信手段を欠き、通常の無線や携帯電話に依存しています。このため中央からの命令も届かず、部隊間の連絡もうまくいかず、ウクライナに交信を傍受・遮断され、同士討ちさえあるというのです。

このようなことは、ウクライナ軍からの以下の報告でも裏付けられています。


以下に要約を掲載します。
1.ロシア軍の半分は、本人たちがどこへ行くのか知らなかった。冬季訓練地だと思っていたが、実はウクライナだった。

 2.保安維持で出発前に兵士たちの携帯電話を全部押収したが、いざ無線機を与えず多数の兵士が上部と連絡が途絶えた状態。

3. 兵士たちを指揮しなければならない将校陣は、作戦遂行のために出かけたが、距離が遠すぎて連絡が途絶えた状態。

 4. スペツナズの大半はセキュリティ維持で、自分がウクライナのどの空港にパラシュートで降下したのかも知らなかった。

5.補給計画を愚かに進めたため、物資はいまだにロシア本土に集積された状態。 6.特殊部隊がマートを略奪するのは本当に食糧普及が途絶えたからだ。 7.兵士たちはここがどこかも分からないがとにかく寒くてお腹がすいたから軍装備を捨てて脱走中。 8.作戦司令部は隷下部隊と全く連絡が取れない状況。
ロシアは今回の侵攻に向けてウクライナ国境周辺に約15万人超の兵力を集結させたと伝えられています。

ロシア経済にとって危険なレベルの損害を被ることなく、一気に戦争を始めて終わらせるための奇襲をするためには、あまりに少なすぎます。奥行きが1500キロのウクライナ全土を攻め落とすには、充分に訓練を積んだ兵力が最低50万人は必要であり、だからこそ、私は当初は侵攻の確率は低いと考え、このブログにもそのように述べました。

15万でウクライナに攻め込んだロシアは最初から苦戦を強いられることになるのは、目に見えていました。この数だと、ドンバス地区の完全占領は可能ですが、それ以上は不可能に見えました。

さらに、プーチン大統領は、ウクライナの抵抗や、欧米諸国の対ロ制裁やウクライナへの支援について安易に考えていたと思われます。

ゼレンスキー大統領は米国の亡命提案を拒否しました。これによってウクライナ軍は士気を高め、必死の抵抗を見せました。こうしたウクライナの「英雄的な抵抗」に続き、西欧諸国の対応も変化しました。

「SWIFT」からのロシア排除に消極的だったイタリアやドイツは一転して賛成にまわり、武器供与に慎重だったスウェーデンなどの中立国さえもウクライナへの武器支援に踏み切りました。

このため、「迅速でほとんど努力を要しない勝利を約束していた」プーチン大統領は突然窮地に立たされたのです。

現在、ロシアとウクライナの代表団による停戦交渉が現在行われていますが、これはプーチンが意図的に始めた戦争から解放されるために交渉しなければならないことを意味するため、これはプーチン大統領にとって大敗北といえます。

交渉において、ウクライナはロシア軍の即時完全撤退を要求し、ロシア側がもしこの要求を受け入れるなら、戦争に踏み切ったプーチン大統領は、権力の座に留まることはできないでしょう。

逆に拒否すれば、非常に厳しい戦いに戻り、ゆっくりとキエフに進軍するでしょうが、欧米等から支援を受けたウクライナ軍の抵抗に遭い、甚大な人的被害が生じるでしょう。さらに、その後には反ロシア派の多い地域も征服する必要があり、戦闘がさらに激化します。この場合はプーチン大統領がどのように勝利を収めるか想像できません。

もう一つの可能性は、核兵器の使用をちらつかせることでが、老婦人ですら火炎瓶を手にするなど激しい抵抗姿勢を見せる市民が、そうした脅しのために戦いをやめるとはとうてい思えません。

東部ドニプロで火炎瓶を手作りする女性たち

そうなれば、プーチン大統領は、迅速な勝利の約束を果たす方法も、ロシアに深刻な損害を与え、その軍隊に恥をかかせた理由の弁明もできなくなり、侵攻前にウクライナとの対話を提案していたロシアのセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官が台頭することになるかもしれません。

最近ロシアのプーチン大統領をめぐって話題になっている映像があります。ウクライナ東部、親ロシア派の地域の独立(ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国)を一方的に承認したプーチン大統領。承認をするにあたり政権の主要幹部を集めて独立国家承認に賛成か反対か1人ずつ登壇させて聞いていったそうです。

対外情報局長官セルゲイ・ナルイシキン、67歳が登壇すると空気が一変。プーチン大統領に詰問されたじたじとなったそうです。

この映像、ツイッターなどで拡散され公開叱責のようになっていました。パロディ画像も拡散されています。

ナルイシキンは米国のCIAのような機密情報を扱う機関のトップで大物政治家です。ロシア情勢に詳しい拓殖大学・名越健郎教授によると、2人は1970年代後半からの付き合いで、ナルイシキンはKGB(ソ連のスパイ組織)でプーチンの後輩です。

プーチンと、セルゲイ・ナルイシキン氏

そのため名越氏は、プーチンがナルイシキンを困らせようとからかったのではと推測しています。私自身は、やはりナルイシキンが侵攻前にウクライナとの対話を提案していたこととかかわりがあると思います。

ナルイシキンは、このとき自分が首になるかもしれないと考えたかもしれません。まさか、プーチンが首になるかもしれないとは、考えてもみなかったかもしれません。

その後に自らが台頭することになるかもしれないとは、考えてもみなかったかもしれません。

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2022年3月1日火曜日

バイデンの対ロシア政策は吉と出るか凶と出るか―【私の論評】米国が力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは世界にとって良いことだ(゚д゚)!

バイデンの対ロシア政策は吉と出るか凶と出るか

岡崎研究所

 ブッシュ政権時代に国家安全保障会議(NSC)と国務省に勤務していた、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)外交・防衛政策担当ディレクターのコーリ・シェイクが、バイデンの対露政策を批判する論説を2月11日付ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に掲載した。


 ウクライナ情勢は緊迫状態が続いているが、最近の欧米メディアにおいては、バイデン大統領の対露政策の対応や手法を問題視するものも目立っている。特に、NYT紙は、2月11日付で、このコーリ・シェイクの投稿の他に、オバマ時代のウクライナ担当の国防次官補代理であったエブリン・ファルカスが、クリミアなどへの対応が不十分であったとして誤りを繰り返すべきではないとして、より強硬な政策を求める投稿を掲載している。

 シェイクの投稿は、バイデンのリーダーとしてのマネージメント全般にも関するものでもある。シェイクは、バイデンの最大の問題は、ウクライナ危機の初期の段階で米軍をウクライナに投入しないことを明言したことであり、これによりロシアは安心して軍事介入の準備を進めることになったと指摘する。

 シェイクは、その背景として、安全保障チームに意見を同じくする昔の部下らを任命し政権内でしっかりした議論をせずに、自分の好む政策決定を行っている結果、人権外交、貿易政策、対中国政策、更にはアフガニスタン撤退などの失敗を引き起こしているのもバイデンの責任であるとする。

 ロシアは、その要求を実現するため正規軍10万人をウクライナ国境に集結し軍事演習を行っている。この段階で既に、国連憲章第2条4項の「武力による威嚇」の禁止義務違反の疑いが強い。また、仮に正規軍が国境を越えれば、明らかな武力攻撃、或いは侵略行為であり、憲章51条の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」の行使の対象となる事態であり、米国はウクライナを軍事的に支援する集団的自衛権を国際法上の権利として持つことになる。バイデンは、なぜ早々にその権利を放棄するかのごとき発言をしたのであろう。

 シェイクは、バイデンが、ロシアとの直接対立の可能性を打ち消したのは、核大国である米露の軍事衝突リスクを避けたかったからであろうと指摘する。しかし、それではプーチンの交渉立場を極めて有利にし、その要求を断念させることが難しくなることは明らかであった。
核保有国への対応の前例に

 2014年のクリミア併合や15年のドンバス地域への間接侵略に対する米国および欧州諸国の制裁措置が甘く、その後のドイツのノルド・ストリームへの対応、更にはトランプのプーチン礼賛がプーチンを増長させたことは間違いないであろう。ウクライナで譲歩すれば、バルト3国が次の標的となることは目に見えている。

 そして、シェイクは、アフガニスタン撤退によりさらに弱まった米国の抑止力を回復するためにも、より強硬な対応が必要だと主張する。

 しかし、バイデン政権も、その後、周辺国に米軍を派遣し、バイデン自身が2月12日、ウクライナのゼレンスキー大統領に電話で、侵攻があればロシアはすぐにも「過酷な代償」を支払うことになるだろうと述べ、また2月13日、サリバン安保担当補佐官も、同盟国などと団結し、「断固と対応する準備もできている」と述べ、その表現は厳しくなってきている。種々の準備が進んでいることも背景にあるのであろうが、いずれにせよ、それは経済・金融上の制裁と見られている。

 他方、ロシアでは、2月15日、プーチンがショイグ国防相やラブロフ外相に対して今後の対応につき意見を求め、両大臣が回答する場面が国営放送で中継された。ラブロフは外交的解決の可能性はあるとして交渉継続を進言し、如何にも芝居がかっている印象を受けた。

 なお、ウクライナ情勢が今後どう推移しようとも、バイデンが、ロシアの軍事侵攻に対しても対策は経済制裁だけで軍事的介入は行わないとの方針を表明したことは、今後、核兵器国による同様の問題に関する米国の対応についての先例と見られてしまうことが懸念される。

【私の論評】米国が力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは世界にとって良いことだ(゚д゚)!

バイデン政権は発足間もない昨年3月、発表した国家安全保障戦略の中で中国を唯一の競争相手に位置づけました。中国に対しては同盟国や友好国と共に協力しながら対抗していく姿勢を強調し、ロシアにも懸念はあったものの、対抗相手として中国とロシアには大きな差があります。

このブログでは、何度も述べたように、ロシアの現在のGDPは韓国より若干下回り、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回っています。そのロシアにできることは限られています。ただ、ロシアは旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承する国であり、軍事力も世界第二位とされており、決して侮れる相手ではありません。

対ロ関係は難しいですが、対中国でロシアと少なからず協力するという選択肢もあったのかもしれません。バイデン政権は中国を唯一の競争相手と位置づけることで、対中国に集中したかったのでしょう。

その思いは、バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」にもにじみ出ています。先日もこのブログで指摘したように、この戦略には「ロシア」というキーワードが一つもでてきません。

米国の「インド太平洋戦略」は以下のリンクからご覧いただけます。
INDOPACIFIC STRATEGY OF THE UNITED STATES
バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」の表紙

 このサイトで「Japan」で検索すると、10個でてきます。それだけ日本はこの地域で米国は、重要視しているということでしょう。


一方「Russa」で検索すると、一切でてきません。これは、いくらロシアの現状の海戦能力が低いからとはいえ、正直驚きました。

バイデン政権が「インド太平洋地域」でも、中国を唯一の競争相手と位置づけることで、対中国に集中しようとする姿勢を強力に打ち出したことにより、プーチンはウクライナに軍事侵攻したとしても、極東で米国に脅かされる懸念はないか、あったにしても少ないとみたでしょう。

そのバイデン政権の思惑を巧みに利用するかのように、ロシアのプーチン政権は思い切った行動に出ました。すでに米ロ関係が急速に冷え込み、バイデン政権は多正面作戦を回避したかったようですが、その思惑は確実に裏目に出ました。

ただ、バイデンが中国に集中するというのなら、ウクライナが脅威になるとは考えにくいわけであり、そこが矛盾するようにも見えます。ただ、現在の状況がいつまで続くかわからないという考えもプーチンにはあるのかもしれません。

米国には地政学を専門に扱うコンサルティング会社「ユーラシアグループ」がありますが、同社の社長である国際政治学者イアン・ブレマーは以前から「Gゼロの世界」を提唱してきました。

イアン・ブレマー

Gゼロの世界とは、簡単に言えばグローバルリーダシップを発揮できる指導者がいない世界ということを意味します。米国の力が相対的に弱くなり、中国が影響力を高め、ロシアが拡張主義的行動をエスカレートさせる今日の世界は、まさにGゼロの世界なのかもしれません。

プーチンもGゼロの世界になったとみなし、この世界はいつまで続くかもわからないし、今こそチャンスだとばかりにウクライナに侵攻したのかもしれません。

今後の世界は現在より不安定化する可能性が高いです。今回のウクライナ問題では、中国はその行方を第三者の立場で静かに注視し、欧米の死角や政治的間隙を縫う方策を探っているでしょぅ。

今後ロシアやイラン、北朝鮮など安全保障上懸念される国々は米国の反応をこれまでほど窺わなくなり、自主的な行動をさらにエスカレートさせる可能性もあります。

また、米国や日本、オーストラリア、欧州などは今後も対中国、対ロシアで協力することがあるでしょうが、第三世界の国々がそれにどこまで付いてくるかがポイントとなります。

21世紀に入り中国は着実に力をつけ、一帯一路などによって周辺地域やアフリカ、中南米諸国などとの経済関係を強化しており、すでに第三世界の国々にとって欧米陣営に付いていけば安心という国際関係ではない。今日ウクライナ情勢はGゼロの世界を加速させるプロローグなのかもしれません。

このブログでは、以前からロシアのウクライナ侵攻は、確率が低いこと、中国の台湾侵攻や、尖閣侵攻はないだろうことを主張してきました。ただ、それは純粋に軍事的に見た場合の観点から主張したものです。

中露がGゼロの世界になったとみなせば、軍事的に不可能とみられた行動も起こすかもしれません。まさに、それが今回のロシアによるウクライナ侵攻といえます。

ただ、このウクライナ侵攻はまだ結論が出ていません。これからもバイデンの政策いかんによっては、ロシアにそうして、中国に対しても未だ世界は「Gゼロ」ではないと思い知らせることはできます。

何よりも、ロシアの経済力ではウクライナで長期わたって戦争を継続することは不可能です。もう、その兆候はみられています。

バイデンが、ロシアの軍事侵攻に対しても対策は経済制裁だけで軍事的介入は行わないとの方針を表明を撤回すべきです。本当に介入するかしないかは別にしても、条件づきで介入する可能性を打ち出すだけでも良いでしょう。

さらに、米国およびその同盟国が結束して、返り血を浴びてもロシアを経済的に壊滅させる動きにてでいます。

それによって各国の国債のCDSがどうなったか、以下に本日の数字をあげておきます。

CDSとは、企業や国などの破綻リスクを売買するデリバティブ(金融派生商品)で、投資対象の破綻=デフォルトに備えた保険です。CDSの買い手は売り手に一定の手数料を支払う一方、投資先がデフォルト(債務不履行)した場合には売り手が損失を肩代わりし、「保険金」を支払います。

国家破綻のリスクが高くなった!というときに、国債の金利が上昇しますが、国債金利以上に端的に破綻リスクの高まりを表すといわれるのが「国債CDS」です。

以下に5年間の国債CDSの本日の一覧表を掲載しておきます。


ちなみにPDは破綻確率です。ロシアの破綻確率は6.87%です。日本は、0.31%です。日本というか、先進国では0%以下というのが普通です。日本は、どう考えても、破綻しようにもありません。しかし、ロシアやトルコは破綻確率がかなり高いです。

ロシアの金利は10%台にまで跳ね上がっています。国債金利の危険水域は7%ですから、ロシアはかなり危険ということです。

ロシアも、今後さらに破綻確率があがっていくことが考えられます。

ロシアは今回のウクライナ侵攻後には、いずれ二桁台で経済が落ち込みとてつもないことになるでしょう。そうなると、今後ロシアは戦争どころではなくなります。

ロシアがウクライナに侵攻している最中でも、米国は決して台湾海峡から目を逸らさないです。そういう意味では欧州の戦争に派兵しない米国の方針は大局的には、正しいかもしれないです。ロシア以上に世界の平和に対する脅威はまさに中国です。

ロシアのGDPは今や韓国を若干下回る程度です。一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回ります。ロシアと中国の一人あたりのGDPは同じくらいですが、ロシアの人口は1億4千万人ですが、中国の人口は14億人で、GDPはロシアの10倍です。

力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは良いことです。最悪の事態が生じても、NATOがこれに対峙できます。しかし、中国が相手では、QUADも結成されたばかりのAUKUSもまだ十分対応しきれるかどうかは、わかりません。やはり米国が前面にでて、中国に対峙しようとしているのです。

これは、大統領がだれであろうと、いまや米国の方針なのでしょう。

そのことを理解したからこそ、ドイツをはじめとするEUの国々も、方針を変えてウクライナに武器の支援等をしようとしているのでしょう。

以上を注視している中国は「Gゼロ」的な世界観を当面捨て去るかもしれません。

日本としては、以上のような状況を良く認識しておくべきでしょう。今後の世界は、いつ「Gゼロ」になるか、あるいロシアにようにそうなったと思いこむ国が出てくるかわかったものではないです。

そのときには、現在のロシアのような行動を、中国が起こすかもしれないです。それに対処するには、日本は安倍元総理が主張するように、たとえば米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について、国内でも議論すべきです。その他の抑止力についてもタブーにすることなく議論すべきです。

議論そのものすら受け付けないという人は、代替案を上げた上で反対すべきです。

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2022年2月28日月曜日

「逆キューバ危機」と言えるウクライナと中露共同声明―【私の論評】中露の思惑はウクライナでは外れそうな状況になってきた(゚д゚)!

「逆キューバ危機」と言えるウクライナと中露共同声明

岡崎研究所

 2月4日、中国の習近平主席とロシアのプーチン大統領は北京で首脳会談を行い、中露共同声明を発した。この共同声明には、その長さ(約5000語)と言い、中味と言い、些か驚かされた。

 基本的には、双方の文言提案の寄せ集めの感を受けるが、安全保障等重要部分については双方が調整、それぞれの政策を相互に支持し合い、中露連携を強く打ち出している。それは「新たな枢軸」の結成と言っても良い。要注意である。声明の主要点は次の通り。


(1)世界は「新たな時代」に入っている。多極化、経済のグローバル化、情報化、グローバル・ガバナンス制度・秩序の変化、世界のパワー配分の変化(米衰退論が透けて見える)を強調。国連安保理中心のガバナンス、国際法に基づく秩序の擁護を強調。(この部分は中国主導の起案か)。

(2)第I部:「民主主義は普遍的価値であり、一部の国の特権ではない」。(「民主主義」の語が中露のナラティブにハイジャックされないように要注意)。

(3)第II部:ユーラシア・パートナーシップの拡大や一帯一路計画に言及の上、経済発展の重要性を強調。気候変動、コロナ問題などにも言及。

(4)第III部:安全保障につき、中露は相互の「核心利益」を擁護する。「ロシアは一つの中国の原則を支持する、台湾は中国の固有の一部である、如何なる形であれ台湾の独立に反対することを再確認する」。ウクライナと明示しないで、「両国は近接地域での外部勢力による干渉を排除し、カラー革命に反対し、当該地域での両国の協力を強化すると述べ、テロ反対にも言及。双方は「北大西洋条約機構(NATO)の更なる拡大」に反対する。

 中国は欧州安保に関するロシアの提案を支持。アジア太平洋の閉鎖的なブロック化に反対、米のインド太平洋戦略を警戒する。ABMシステム(弾道弾迎撃ミサイル制限)を廃棄すべき。オーカス(AUKUS)を非難、核・ミサイル不拡散を守るべき。米のアジアや欧州での中・短距離ミサイルの配備計画の中止を求める。宇宙にも言及。福島の「核汚染水」の海洋投棄を懸念。

(5)第IV部:共同して「新たな形の国際関係」を築く。両国は第二次大戦の結果を堅持する。両国の友情に限界はなく、協力に禁止区域はない。WTOを支持。APECを強化する。

 ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、2月8日付け同紙掲載の論説‘The crisis in Ukraine is one for the history books’において、ウクライナ危機は将来専門家達による事例研究のひとつになると言い、上記の中露共同声明はケナンのソ連封じ込め戦略の中露版と考えることもできる、ウクライナを巡る対立は「逆キューバ危機」である、などと指摘している。その通りであろうと思われる。目下のウクライナ危機は、それほど歴史的な意味合いを持っている。

 ロシアとの話合いは続いている。何か動いているのではないかと思われるが、交渉の正確な状況は分からない。プーチンは長年の冷戦を米と共に管理することに成功してきたロシアの指導者であるという意味では、一定の合理主義者だと思われる。

 そうであれば、エスカレーションを支配しバイデンを困らせる危険なゲームを楽しんでいるとも考え難い。他方、プーチンは、ウクライナに対して、強迫観念に近い執着を持っているようにも見られる。不可解なのは、具体的に達成可能な何を達成しようとしているのか、よく分からないことである。

バイデンの積極的な情報戦

 ベラルーシやロシア西部、クリミア沖に集結する部隊や艦隊の写真は尋常でない。特にウクライナとの間での誤算が心配になる。プーチンには問題を外交で解決する責任を発揮してもらわなければ困る。

 今回の危機へのバイデンの対応は総じて評価されるだろう。特に目立つのは、積極的な諜報情報の発信である。単にアフガンでカブール政権の余命を読み誤ったことに対する教訓だけのようには思えない。危機の際の情報戦が地上の形勢に影響すると考えての事であろう。

 実際、ロシアは米国の発信を嫌がっている。また今回は軍関係者の意見をよく聞き、周到な部隊展開などを行っているように見える。もう一つアフガンとの違いは、同盟国との連携が大きく改善されていることだ。

 他方、バイデンはウクライナのために戦争をする意図はないと明言しているが、1月19日の「ロシアのウクライナへの侵攻が侵攻に留まるならば西側の対応も小規模にとどまる」旨の発言と相俟って、もう少し慎重な発言をすべきではないかとの印象も受ける。しかし、米露直接衝突は何としても避ける必要があること、プーチンに誤算させないことを確保するために米国の意図は明確にし、他方で侵略が何時あってもおかしくないとの情報戦は積極的に続けることで状況をコントロールしようとしているのかもしれない。

【私の論評】中露の思惑はウクライナでは外れそうな状況になってきた(゚д゚)!

キューバ危機時にソ連の輸送船を監視する米哨戒機

キューバ危機とは、キューバにソ連軍のミサイル基地が建設中であることに抗議して、1962年10月22日以降、米国が戦艦と戦闘機でキューバを海上封鎖した事件のことです。 米国大統領J.F. ケネディは、キューバから攻撃があった場合にはソ連によるものとみなして報復するとしました。

逆キューバ危機とは、この言葉を用いなかったものの、このブログにも掲載したことがあります。以下にその記事のリンクを掲載します。
カザフ、ロシア主導部隊が2日後に撤退開始 新首相選出―【私の論評】中露ともにカザフの安定を望む本当の理由はこれだ(゚д゚)!

トカエフ大統領

これは1月11日の記事です。カザフスタンのトカエフ大統領は11日、抗議デモを鎮圧するため先週派遣を要請したロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の部隊が2日後に撤退を開始すると表明しました。

カザフスタンでは暴動などがあったため、ロシアはロシア軍主導のCSTOの部隊を急遽派遣し、その後迅速に引き上げさせています。そのロシア側の考えをこの記事では分析しています。その部分を以下に掲載します。
中露としては、大統領がトカエフだろうが、誰だろうが、とにかく安定していて欲しいというのが本音でしょう。トカエフ政権が崩壊するようなことでもあれば、力の真空が生まれます。そこに乗じて米国が暗躍し、中露の両方に国境を接するカザフスタンに親米政権でも樹立されNATO軍が進駐することにでもなれば、それこそ中露にとって最大の悪夢です。

米国にとっては、アフガニスタンでの失地を大きく回復することになります。失地回復どころか、アフガニスタンは現状では、中国とは一部国境を接していますが、ロシアは国境を接しているわけではないのですが、カザフスタンは両国と長い国境線をはさんで隣接しています。

中露にとっては、かつての米国にとってのキューバ危機のように、裏庭に米軍基地ができあがることになります。それ以上かもしれません。冷戦中にカナダやメキシコに、親中露政権が樹立され、中露軍基地ができるような感じだと思います。そこに中長距離ミサイル等を多数配備されることになれば、中露は戦略を根底から見直さなければならなくなります。ロシアはウクライナどころではなくなります。中国は海洋進出どころでなくなるかもしれません。
中露は、この逆キューバ危機に対処するためにこれからも、綿密に協力しようとしているのです。

ウクライナへの侵攻も、プーチンの頭の中では、基本的にはこのカザフスタンへのCSTOの派遣と同じような理屈によるものでしょう。

ただ、カザフスタンのトカエフは親露・親中的であり、カザフスタンのトカエフ政権が安定すれば、カザフスタンがNATOに加入したり、ウクライナのように親欧米的な行動をとることはないとみられることから、ロシアとしては、それ以上のことをする必要性もないためすぐに部隊を退かせたのです。

ウクライナに関しては、NATO入を検討したり、親欧米的であるため、侵攻して、ドンバス地域だけではなく、首都のキエフにも侵攻しようとしているようです。とくかく、ロシアの最終目標としてはウクライナを絶対にNATOに加入させないようすることだと考えられます。


ただ、上の記事にもあるように、不可解なのは、具体的に達成可能な何を達成してこれを実現ようとしているのか、よく分からないことです。

私としては、ロシアは本当は、ウクライナ全土に侵攻して、ゼレンスキー政権を倒して、ウクライナにロシアの傀儡政権を樹立して、ウクライナが未来永劫にわたって、NATOに入ることを阻止し、ウクライナをロシアのNATOに対峙する緩衝地帯としたいのでしょうが、それは軍事的にも経済的にもできないのでしょう。

そのため、次善の策として、ドンバスを独立させ、ロシアの傀儡政権を樹立させ、さら首都キエフなどの都市部に攻勢をかけ、占領するような素振りをみせ、ゼレンスキーを投降させるか、海外に脱出させ、ウクライナに傀儡政権まではいかないまでも、親ロシア政権を樹立させ、間違ってもNATOに加入することがないようにしようとしているのではないかと思います。

ただ、現状では思いの外頑強なウクライナ軍の抵抗にあることと、ゼレンスキー大統領がキエフにとどまり続けることを表明しているため、手詰まり状態になっているのだと思います。

ロシア側にとって、ウクライナ側の抵抗も予想以上でしょう。ソ連時代のアフガン侵攻と同じような泥沼化を避けられるかどうか。長期化すればするほど、ロシア国内の反戦ムードはますます高まり、欧米はウクライナ軍に軍事物資を供給し続けることになります。

ちなみに、米国はアフガニスタンに20年間もとどまり続けることができました。しかし、ロシア軍はこのように長期にわたって、ウクライナにとどまり続けることは、軍事的にも経済的に無理です。10日で戦費がつきるという話もありますが、これはウクライナ側の発表です。特に根拠はないのですが、私はは最長で、数ヶ月というところだと思います。

この戦い、ウクライナ軍は善戦していますが、その裏には米国の諜報活動があると思います。先日もこのブログで述べたように、ロシアの兵站は鉄道に頼るところが大きいので、米軍は偵察衛星を用いて、当然のことながら、鉄道を監視しその情報をウクライナ側に伝えていると考えらます。

そうすると、ウクライナ側はロシア軍からあまり不意打ちを仕掛けられることはなく、逆にウクライナ側はロシア軍に対して不意打ちを仕掛けられるのが容易だと思われます。衛星による監視や、諜報活動では米軍はかなり優れています。

その能力を生かして集めた情報をもとに、米国は効果的な戦術を考え出し、それをウクライナに伝えるなどのこともしているでしょう。兵站に関しても、ロシアに妨害されにくい方法を考えてウクライナ軍に実施している可能性もあると考えられます。

ロシア軍の進撃が停滞しているうちに、ウクライナ軍が順次強化、それも最適に強化されるということも考えられます。

この状況だと、プーチン大統領の思惑というか、中露の思惑とは真逆の事態になりかねません。

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