2023年3月9日木曜日

〝高市潰し〟か 小西洋之議員が公表「取扱厳重注意」放送法文書〝流出〟の背景 総務省の内部対立を指摘する声も―【私の論評】文書からは総務省内の旧自治省系と、小西氏が出身の旧郵政省系の派閥争いが読み取れる(゚д゚)!

〝高市潰し〟か 小西洋之議員が公表「取扱厳重注意」放送法文書〝流出〟の背景 総務省の内部対立を指摘する声も


 総務省は7日、立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した同省の内部文書とされる資料を公式な「行政文書」と認めた。野党は、安倍晋三政権がテレビ番組に圧力をかけようとした証拠だと批判している。ただ、文書の記述は推定や伝聞に基づくものも含まれるうえ、「公共の電波」を使って放送されるテレビ番組の「政治的公平」は以前から問題視されてきた。行政文書を提供したとされる総務官僚の行為に、法的問題(国家公務員法違反など)はないのか。総務省内に残る「旧自治省」と「旧郵政省」の対立と、高市早苗経済安全保障担当相が追及される背景とは。いくつかの論点を取材・考察した。


 「文書の内容が正確なものだったかなどを、総務省で引き続き精査している」「経緯は総務省が国民に分かりやすく適切に説明することが重要」

 岸田文雄首相は7日の衆院本会議で文書について問われ、こう答えた。

 問題の文書は78ページ。小西議員が総務省職員から受け取ったとして2日に公表した。安倍政権当時の2014~15年、官邸側と総務省が放送法をめぐって協議した経緯という。総務省は7日、行政機関の職員が職務上つくり、組織的に用いるものとして保有する「行政文書」と認めた。

 野党側は「放送法の解釈を事実上変更し、番組に圧力をかける目的があった」などと批判している。

 新聞や雑誌などと違い、国民共有の財産である「公共の電波」を使用するテレビ局の番組に対しては、放送法が定められている。同法第4条では、「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」などと記されている。

 昨年、「政治的公平」が疑問視される出来事があった。

 テレビ朝日系の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」で昨年9月28日、同社社員のコメンテーター、玉川徹氏が生放送で、「僕は演出側の人間ですから、テレビのディレクターをやってきましたから、それはそういう風につくりますよ。政治的意図がにおわないように制作者としては考えますよ」と発言したのだ。

 テレビでは以前から、特定番組の「政治的公平」が疑われてきた。

 米カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏は、日本のテレビ番組の現状について「特定の政権や、政策などへの批判や意見ありきで、番組が作成されているようにみえる。賛成・反対意見の放送時間の比重が偏っていたり、反対運動も主催者発表をそのまま流したりしている」テレビは絶大な影響力がある。電波を独占する局だけが情報を統括できてしまう現状は問題だ」などと語った。

 「行政文書の提供・流出」も注目点だ。文書の多くには、「厳重取扱注意」「取扱厳重注意」の記載があった。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は7日の記者会見で、「行政文書が安易に外に流出すること自体、国家のセキュリティー管理としては問題だ」「外に出すことがルールとして駄目だとされているものが、国会議員の手に渡り、国会で議論になり、後付けでそれを認めていくというようなことになった」と批判した。

 これに対し、前出の小西氏は「違法行為を告発した総務省職員は、国家公務員の鏡であり、真の英雄です」「『国家公務員法の守秘義務に反せず、むしろ、積極的に法令違反の是正に協力すべき』が政府見解です」などとツイートし、公益通報だと主張している。

■総務省「内部対立」か

 法的な問題はないのか。

 元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「国家公務員法違反罪などで刑事告発があれば、特捜部が担当する政治案件になる。特捜も推移を見守っているだろう。まず真偽を検証するため、総務省への聞き取りや資料を精査する。内容が事実なら、国家公務員法違反などに該当する機密漏洩(ろうえい)かの判断が焦点だ。また、資料に捏造(ねつぞう)があれば虚偽公文書作成罪に該当する可能性もある。時間が経過しており検証は困難だが、並行して総務省の調査や、内規に基づく処分もあるだろう」と語る。

 それにしても、このタイミングで騒動が勃発した背景は何か。

 玉木氏は「民主主義のプロセスに関して、リークを通じて何かをやろうとすることが、政治的意図をもとに行われたとしたら問題だ。特に、選挙(=今春の統一地方選)にこういったものがどう影響するかどうかも含め、適切な行為とは思えない」と指摘する。

 総務省の内部対立を指摘する声もある。総務省は2001年、「自治省」「郵政省」「総務庁」などが統合されて発足した。〝出身母体〟による主導権争いがあるというのだ。

 政府関係者は「文書に何度も登場する礒崎陽輔首相補佐官(当時)は旧自治省出身。電波行政を担当する総務省の旧郵政省側と緊張感のあるやり取りをした。『敵』が多かった」と証言する。

 もう一つ、指摘される背景が〝高市潰し〟だ。

 高市氏のお膝元の奈良で4月、県知事選が行われる。高市氏の元秘書官も務めた元総務官僚の新人が出馬するが、現職候補と「保守分裂選挙」の様相を呈している。

 さらに、高市氏は経済安保相として、安全保障に関わる機密情報を扱える人を認定する「セキュリティー・クリアランス(S・C=適格性評価)」創設の正念場を迎えている。反対派の妨害工作との見方もある。

前出の政府関係者は「政権を『攻撃』する意図で不確かな資料を野党側に漏洩したとすれば、組織の情報管理上、最悪の事態だ」と語った。

■「放送法文書」問題 主な論点

①テレビなど放送の特殊性

②政治的公平性と安倍政権の圧力

③総務省の行政文書の不備

④行政文書の提供・流出(国家公務員法違反では)

⑤騒動の背景(旧自治省vs旧郵政省、高市潰し?)

【私の論評】文書からは総務省内の旧自治省系と、小西氏が出身の旧郵政省系の派閥争いが読み取れる(゚д゚)!

上の記事では、いろいな要素をあげているので、かえって解りにくくなっている部分がありますが、その本質は現総務省の中における旧自治省系と、旧郵政省系の派閥争いです。それは、下の高橋洋一氏の動画をご覧いだたければ、ご理解いただけるものと思います。

小西議員が公開した、いわゆる「行政文書」は、安倍政権下で当時の総理補佐官が「放送法の事実上の解釈変更を求めた経緯が記された」と指摘されています。文書は行政文書であることが確認されたと、松本剛明総務大臣が3月7日、会見で述べています。

文書自体は、公表されていますので、以下のリンクからご覧になることができます。

立憲民主党の小西洋之参院議員が公表した同省の内部文書とされる資料

この文書自体は、行政文書であることは、見ればだいたいわかります。しかし、当該の行政文書が正しいかどうかはまったくの別問題です。 ただ、一見した限りでは、ひどい行政文書だという印象を受けました。例えば当該文書には「厳重取扱注意」と記されていますが、普通の行政文書には「取扱厳重注意」です。

官庁で作成される文書は、配布先を見ると、それが行政文書かどうかはわかります。行政文書とは官僚が仕事で作成文書であり、個人メモではありません。個人メモは、作成者自身だけしか見ないものです。

官庁で、仕事で作成したものは、官庁内の多くの人が見ます。当該の行政文書でも配布先を見ると、何人かいるでしょう。 このようなものは、行政文書といえます。

とこが当該文書の当時の高市早苗総務大臣への大臣レクチャーのところを見ると、大臣室には回覧されていないことがわかります。大臣レクチャーにかかわる文書は大臣室に回すのが普通です。

なぜかと言うと、内容に誤りがあってはいけないからです。でも当該文書は回覧されていません。ですから、これでは当時の高市総務大臣はがチェックできません。レクチャーの内容が適切にに書かれていない可能性が高いです。

要するに高市氏に文書が回覧されていないことから、高市氏が実際には、語っていないことが書いてある可能性があります。あるいは逆に、語ったことが書れていない可能性もあります。たとえば大臣がレクチャーの中で質問したことも正確には書かれていない可能性があります。

そういうことは大臣室に回せばチェックできます。でも、旧郵政のトップである桜井俊さんにしか回していない。事務次官と大臣室には回していないので、適当に書かれていてもわからないのです。ただし、行政文書にはなります。

定義上は行政文書になりますが、それ自体が正しいか正しくないかで言うと「あまり信憑性がない」というのが、外形的にすぐわかるような行政文書です。

この文書よく読めば、総務省のなかの、旧郵政省と旧自治省の争いが官邸まで波及したことが読み取れます。磯崎補佐官は旧自治省の方です。 山田秘書官は旧郵政省の方ですから、両方で派閥争いをしていることが読み取れる文章になっています。

省庁再編で統合された官庁

しかも、当時の総務省内の話が官邸まで及んだことが読み取れます。特に高市さんは総務大臣でしたから、それがすぐに認識できます。ただ、当時の高市大臣は、派閥争いには関わらないというスタンスでした。というより、そもそも官庁内の派閥争いには、ほとんど関心がない感という感覚だったと思います。

いずれかに片寄せすると、一方の肩を持ってしまうことになり、厄介なことになります。 ですからいずれにも近付かず、適当にあしらっていたのが実態だつたと思います。

この文書全78ページのうち、磯崎氏の名前が出てくる部分は多いですが、高市大臣が出てくるのは4ページのみです。

なぜこのような8年前の文書が今になって表に出たのでしょうか。それはおそらく上の記事では、元総務官僚の新人が出馬するとしか書かれておらず、何のことかわかりませんが、高市氏のお膝元の奈良で4月、県知事選においては、高市氏の元秘書官も務めた元総務官僚(旧自治省系)の新人が出馬、大分県補選においても、それぞれ旧自治出身者が立候補します。

高市氏を攻撃することで、元自治省出身者を貶め、ネガティブキャンペーンを実施して選挙戦を不利にさせる作戦であると考えられます。高市氏を貶めたい人たちと、旧自治省出身者を貶めたい旧郵政省派閥が協力した可能性もあります。

このようなことに、小西議員や野党、マスコミは利用されているに過ぎないとみるべきでしょう。お粗末です。結局いくら追求しようと、「モリ・カケ・桜」の二の舞いを舞うだけでしょう。これでは、自民党も対応には時間を費やすことになるかもしれませんが、安泰でしょう。

しかし、このようなことで国会で無駄時間を費やしていただきたくないものです。現状では、安全保障、外交、経済などの問題が山積しています。

まともな国会審議をしていただきたいものです。

最近、長年にわたり頻繁に利用させていただいているタクシー会社が今月の19日に廃業することを決めたということを運転手の方から聞いたばかりです。

正直かなり驚きました。原因は、人手不足だそうです。とにかくドライバーのなり手がおらず、運営していても、いずれ赤字になることは明らかで、運営を断念したようです。

巷で、人手不足であることが言われていますが、実際に身近でこのようなことが起こったのには驚きました。

現在日本は海外から輸入している、エネルギー・資源価格などが高騰しているところにもってきて、日銀が金融緩和を継続しているため、人手不足になるのは当然のことです。

ただし、日本はデフレから完全に脱却しておらず、日着は金融緩和を継続すべきです。利上げなどの引き締め策に転ずることになれば、またデフレに舞い戻ることになります。

このようなときに真っ先に実行すべきは、現在未だ日本経済に存在する受給ギャップ30兆円を埋めることです。

現状のままだと、価格高騰と、日銀の金融緩和策により、人手不足にはなるものの、多くの企業は需要が少ないなか価格転嫁をするのは難しくなります。特に、中小企業はそうです。先にあげたタクシー会社もその典型的な事例であり、多くの老舗や、町工場などか廃業を余儀なくされています。

昨年10月28日夕刻に閣議決定された総合経済対策は、電気・都市ガス料金の負担軽減など物価高騰への対応が柱で、国費の一般会計歳出が29兆1000億円程度とさました。ただ、ほんんど全部が補助金で実行されるため、実行するのが遅かったり、執行できないものも出やすいです。

そのため、需給ギャップが急速に埋めるのは難しいです。そのため、エネルギー・資源価格が高騰しても、多くの企業が価格転嫁できず、先のようなタクシー会社のような事例もでてくるようになるのです。

普通の国だと、減税主体で実行するので、執行速度はかなりはやいですし、執行漏れも少ないです。補助金となると、実行するのは市町村などが窓口となって実施するので、人員も限られているこれらの自治体が実行するには時間がかかります。しかも、colabo問題でも明らかになったように、審査や監査なども甘くなり、不正の温床になりやすくなります。だから、経済政策は他国と同じように減税を主体とすべきなのです。

このような大問題があるのに、それは無視して、小西議員は正確性が疑われるような行政文書で、総務省内の郵政派閥の文書をわざわざ国会で取り上げ、高市氏を貶めるとともに郵政派閥に肩入れするような馬鹿真似をしています。小西氏は元々旧郵政省出身なので、こういうことするのかもしれませんが、現在の立場は国会議員です。立場をわきまえるべきです。これを、立憲民主党やマスコミも取り上げて、問題にしようとしています。

小西議員

あまりにポンコツすぎて、空いた口が閉まりません。こういう人たちには、「インド太平洋戦略」という概念を生み出し、世界に新たな秩序を作り出した、安倍元総理のものの考え方など全く理解できないのでしょう。私は、安倍元総理のものの考え方は、統合的思考の極致であり、本来政治家とはこういう考え方をすべきと思っています。

無論、政局も重要です。いくら素晴らしい政策論を語っても、足場が脆弱では、影響力を行使できません。しかし、政治家が政局だけで動けば、有権者にとっては無意味な存在になってしまいます。政治家は、政局も統合的思考の枠組みの中で捉えて物事を考え、行動すべきです。

政治家がそのような考え方ができず、本当にチマチマした考え方や行動しかしないのでは世も末です。政治家は本来世界と日本との関係や日本全体のスケールでマクロ的に物事を考えるべきです。そういう視点がなくて、ただ現場をミクロ的にしかみないのであれば、政治家には不向きです。社会事業家等になり、現場で困った人たちを直接助けるべきです。

時間的尺度もせいぜい数ヶ月後のことしか考えないようでは、終わっています。国家百年の計という言葉があるように、100年後のことを考えることも場合によっては必要かもしれませんが、いくら100年後ことを考えても現世代の人はそれを確認することもできず、実用的ではないかもしれません。ただ最低でも10年後や30年後のことを考えて、仕事をすべきでしょう。目の前の、倒閣運動に集中し、それで一喜一憂するようでは、到底まともな政治家とはいえません。

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2023年3月7日火曜日

対中「先制降伏」論の何が危険か―【私の論評】日本が対中「先制降伏」すれば、米国は日本に対して大規模な焦土作戦を実行する(゚д゚)!

対中「先制降伏」論の何が危険か

国旗掲揚式で中国国旗を掲げる子供たち=香港で2021年10月1日

【まとめ】

・日本には中国に攻められたら「先制降伏」するのが正解との趣旨を公言する評論家や「学者」がいる。

・中国に無抵抗降伏した途端、アメリカは瞬時にして「最凶の敵」に転ずる。

・「先制降伏」すれば、占領中国軍による暴虐と、アメリカによる攻撃の両方に晒されることになろう。


アメリカの次期大統領選に出馬を検討するマイク・ポンペオ前国務長官は、かつて米陸軍の戦車部隊長として東西ドイツ国境地帯で偵察任務に当たった経験を持つ。

その時期、常にレーガン大統領の言葉を肝に銘じていたという。

「アメリカが自由を失えば、どこにも逃げる場所はない。我々は最後の砦だ」

日本には、中国に攻められたら逃げればいい、無理に抵抗せず降伏するのが正解との趣旨を公言する評論家や「学者」がいるが、歴史およびアメリカを知らない発言という他ない。

例えばテレビコメンテーターの橋下徹氏は、ロシアの侵略に軍事的抵抗を続けるウクライナに関し、抵抗すれば死傷者が増えるだけだから「政治的妥結」(降伏と同義だろう)をし、将来起こるかも知れない(と氏が仮定する)状況の好転に期待すべきだと、在日ウクライナ人研究者らに繰り返し説諭してきた。

これは、尖閣諸島への領土的野心を隠さない中国共産党政権(以下中共)の習近平総書記に対して、暗に「少なくとも僕はテレビを通じて、一切抵抗するなと、日本国民の説得に当たります」とメッセージを送っているに等しい。

中共は常に日本世論の動向を注視している。プーチン氏同様、独裁病の進行が懸念される習近平氏が、大手地上波放送局に頻繁に登場する橋下氏らの影響力を過大評価し、無謀な軍事行動に出るといった展開もあり得ないわけではない。

しかし橋下氏の勧めに反して、自衛隊はもちろん多くの国民は戦いや抵抗を選ぶから、日本はウクライナのような状況に陥るだろう(専守防衛を改めない限り、本土が戦場にならざるを得ない)。

トップに遵法精神も人権感覚もない国の軍隊は、占領地で歯止めなき暴行略奪集団と化す。現に、非武装のウクライナ人商店主らを背後から射殺し、略奪、乾杯に及ぶロシア兵たちの姿が監視カメラに捉えられている。

橋下氏は次のようにも述べている。

《軍事的合理性に基づく撤退は当然あり得る。問題は一般市民をどうするかだ。ロシア軍はウクライナ市民を虐殺するので戦うしかないと言っていたのなら一般市民を置き去りにする撤退はあり得ない》(2022年5月28日付ツイート)

当初は、降伏すればロシア占領下で平穏に暮らせるとのシナリオを提示していたはずだが、ロシア軍の残虐行為が次々明らかになるにつれ、ウクライナ軍は市民を全員引き連れてどこかに撤退し、町を無人の状態でロシア軍に引き渡せとの立場に変わったらしい。

中国軍日本侵攻の場合に置き換えれば、自衛隊は一般市民を先導していち早く僻地まで撤退せよ、あるいは海外に逃避せよ、との主張になろう。無傷のまま明け渡された家屋は中国兵が利用し、やがては一般の中国人が住むことになる。

要するに、中共に攻撃を逡巡させるような抵抗や反撃の態勢(すなわち抑止力)を日本は放棄し、中国の植民地になる運命を甘受せよというのが橋下論法の行き着く先となる。

こうした議論は、「アメリカの怖さ」を理解していない点でも致命的である。今でこそ同盟国だが、日本が中国に無抵抗降伏した途端、アメリカは瞬時にして「最凶の敵」に転ずるだろう。

東アジアにおいて、地理的位置、経済力の点で戦略的に最重要の日本が、中国軍の基地およびハイテク拠点として使われるのを座視するほどアメリカはのんき者ではない。

戦わずに手を挙げれば平穏無事どころか、占領中国軍による暴虐と、アメリカによる攻撃の両方に晒されることになろう。歴史はそうした事例に満ちている。

例えば第二次世界大戦初期の1940年7月3日、イギリス海軍が、直前まで同盟国ながらドイツに降伏したフランスの艦隊に総攻撃を加えた。地中海に面した仏領アルジェリアの湾に停泊していた船舶群だった。

その2週間前、フランスはナチスのパリ無血入城を許していた。そのためイギリスは、陸軍力、空軍力に比し海軍力が弱かったドイツが、フランス艦隊を組み込むことで一挙に海においても強敵となり、軍事バランスが決定的に崩れかねないと懸念した。そこでまず、艦船の引き渡しをフランス海軍に要求したが拒否されたため、殲滅作戦に出たわけである。

この間、フランス海軍のダーラン司令官は、ドイツ軍の傘下には決して入らないと力説したが、英側の容れるところとはならなかった。

結局、イギリス軍の爆撃によって、フランス側は、艦船多数を失うと共に、1297人の死者を出した。

アメリカも、戦略的に最重要の横須賀海軍基地(巨大空母が入港できるドックがある)をはじめ、日本にある軍事施設や戦略インフラを相当程度破壊してから去るだろう。

アメリカに甘え、アメリカを知らない「先制降伏」論は、日本を、かつて「中東のパリ」と言われるほど栄えながら、その後、戦乱とテロで荒廃の地と化したレバノンの東洋版へと導くだろう。

【私の論評】日本が対中「先制降伏」すれば、米国は日本に対して大規模な焦土作戦を実行する(゚д゚)!

米国による第二次世界大戦後における日本の占領は世界史上稀にみるほど、穏当なものでした。無論、問題がなかったかといえば、そのようなことはなく、極東裁判そのものには問題があり、GHQによるプレスコードによる言論統制は今でも日本に悪影響を与えているなどの問題はあります。

しかし、戦前のソ連内におけるウクライナなどへの圧政、第二次世界大戦中のドイツによる東欧諸国の占領、戦後のソ連による東欧諸国の占領政策等の苛烈さから比較すれば、米国の日本占領政策は穏当なものでした。

このブログでは、当時ソ連に属していた、ウクライナに対する圧政について掲載したことがあります。

その記事のリンクを以下に掲載します。
橋下氏らの執拗な「降伏」「妥協」発言、なぜそれほど罪深いのか ウクライナへの“いたわりに欠ける”姿勢で大炎上!―【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。ここでは、スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた大飢饉(ホロドモール)に関してのみ引用します。
さて、ここではホロドモールについてさらに詳しく述べていこうと思います。

当時限られた農作物や食料も徴収された人々は、鳥や家畜、ペット、道端の雑草を食べて飢えをしのいでいました。それでも耐えられなくなり、遂には病死した馬や人の死体を掘り起こして食べ、チフスなどの疫病が蔓延したとされています。
ウクライナの飢餓を伝える当時の米国の新聞
極限状態が続き、時には、自分たちが食事にありつくため、そして子どもを飢えと悲惨な現状から救うために、我が子を殺して食べることもあったと言います。おそるべきディストピアです。

通りには力尽きて道に倒れた死体が放置され、町には死臭が漂っているという有様でした。当時は、飢饉や飢えという言葉を使うことも禁じられていたそうです。

飢饉によってウクライナでは人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われています。

また、600万人以上の出生が抑制されました。被害にあった領域はウクライナに限らず、カフカスやカザフスタン、ベラルーシ、シベリア西部、ヨーロッパ・ロシアのいくつかの地域にまで及んでいます。

ソ連では長きにわたってホロドモールの事実が隠蔽され、語られることはありませんでした。結局、ソ連政府がこの大飢饉を認めたのは1980年代になってからです。

この飢餓の主な原因は、凶作が生じていたにもかかわらず、ソ連政府が工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓輸出したことにあります。

このことからウクライナでは、ホロドモールはソ連による人為的かつ計画的な飢餓であり、ウクライナ人へのジェノサイド(大虐殺)とみなされています。

しかし、ソ連は飢饉の存在自体は認めたものの、被害を被ったのはウクライナ人だけではないとして、虐殺については否定しました。

ソ連は虐殺を否定したものの、これは同じような被害を被ったのはウクライナ人だけではないと語っていることから、当時のソ連領内の他の地域でもこれと同様なことがあったことを暗に認めているわけです。

工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓と引き換えに輸出したというのですから、酷い話です。

ソ連の悪行はこれにとどまりません。

旧ソ連時代の共産党による「犯罪」を正当化するプーチン氏 ロシアが再び中・東欧諸国を脅かし始めた今、日本も対峙すべき―【私の論評】日本はプーチンの価値観を絶対に受け入れられない(゚д゚)!

赤軍に捕虜にされたポーランド軍将兵 多くがカティンの森事件で殺害された

 これは、昨年2月23日の記事です。この記事では、ソ連の東欧に対する過去の圧政に対して掲載しました。江崎道朗氏の元記事からその部分のみを以下に引用します。

 第二次世界大戦後、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中・東欧諸国はソ連の影響下に組みこまれ、バルト三国は併合された。これらの国々は50年近く共産党と秘密警察による人権弾圧と貧困に苦しめられてきた。

 意外かもしれないが、そうした中・東欧の「悲劇」が広く知られるようになったのは、1991年にソ連邦が解体した後のことだ。日本でも戦後長らく、ソ連を始めとする共産主義体制は「労働者の楽園」であり、ソ連による人権弾圧の実態は隠蔽されてきた。

 ソ連解体後、ソ連の影響下から脱し、自由を取り戻した中・東欧諸国は、ソ連時代の人権弾圧の記録をコツコツと集めるだけでなく、戦争博物館などを建設して、積極的にその記録を公開するようになった。

 そこで、私は2017年から19年にかけて、バルト三国やチェコ、ハンガリー、オーストリア、ポーランドを訪れて、各国の戦争博物館を取材した。それらの博物館には、ソ連と各国の共産党によって、いかに占領・支配されたか、秘密警察によってどれほどの人が拷問され、殺されたのか、詳細に展示している。
リトアニア KGBジェノサイド博物館(江崎道朗氏撮影)
 旧ソ連時代の共産党一党独裁の全体主義がいかに危険であり、「自由と独立」を守るため全体主義の脅威に立ち向かわなければならない。中・東欧諸国は、このことを自国民に懸命に伝えようとしているわけだ。

 それは、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの指導者たちが再び、中・東欧諸国を脅かすようになってきているからだ。プーチン氏らは、旧ソ連時代の「犯罪」を「正当化」し、ウクライナを含む旧ソ連邦諸国を、再び自らの影響下に置こうとしている。

以下にこの記事の【私の論評】から一部を引用します。

ウイグルや香港など、中国共産党からみれば彼らの私有物なのです。助ける方法などありません。むしろ今の中国は他人の持ち物を奪おうとしているのです。

欧米と中露の根本的な違いは何でしょうか。「人を殺してはならない」との価値観が通じる国と通じない国です。日本は明らかに「人を殺してはならない」との価値観の国々と生きるしかありません。そうして、同盟の最低条件は「自分の身を自分で守る力があること」です。

国際社会では軍事力がなければ何も言えないのです。ようやく「防衛費GDP2%」が話題になりましたが、それで間に合うのでしょうか。 いきなり核武装しろとまでは言いませんが、国際社会での発言力は軍事力に比例します。金を出さなければ何もできないです。

 欧米でも、西欧人に対しては「人を殺してはならない」という価値観をはやくから持っていましたが、西欧人以外は事実上の適応除外的な扱いをし、植民地においては苛烈な圧政を強いるようなことを平気でしていました。

国際会議において人種差別撤廃を明確に主張した国は日本が世界で最初です。第一次世界大戦後のパリ講和会議の国際連盟委員会において、日本が主張した、「国際連盟規約」中に人種差別の撤廃を明記するべきという提案をしました。

ところが、この提案に当時のアメリカ合衆国大統領だったウッドロウ・ウィルソンは反対で事が重要なだけに全員一致で無ければ可決されないと言って否決しました。

その後第二次世界大戦を経て、戦後に多くの国々が独立して、今日では人種差別撤廃は民主主義国においては当然のこととされています。

しかしこれを未だに軽んじているのが、ソ連の承継国ともいえる現在のロシアです。その残虐性は今もウクライナで発揮されています。ロシアのミサイルは、民間人施設を徹底的に叩き、多くの町を廃墟にしています。戦闘以外での殺人、略奪、強姦などが行われていたことが、報道さています。

それは、ウクライナ人に対してだけではなく、自国民である予備役に対しても遺憾なく発揮されています。

イギリス国防省は5日、ウクライナ侵攻を続けるロシアの予備役が、弾薬不足のために「シャベル」を使って「接近戦」を行っている可能性が高いとの見方を示しています。督戦隊まがいのようなことをしているという報道もあります。

中国は、ウイグル、チベット、内モンゴル自治区などで、苛烈な圧政をしています。

中露北等はいまでも、「必要とあらば人を殺しても構わない」という価値観を有している国です、このような国と我が国のような「人を殺してはならない」という価値観の国とは理解し合えるはずもありません。日本は同じ価値観の国々と生きるしかないのです。

にもかかわらず、日本が中国に無条件降伏してしまえば、中国は日本の優れた技術力を我がものにして、それで様々な軍事品から民生品まで、日本人に安い賃金で製造させ自国内に輸入したり、海外に輸出したりで自国を豊にするとともに、日本を米国に対する防波堤にすることは確実です。それどころか、日本を米国に対峙するための前進基地するでしょう。

米国からみれば日本は、中国を制裁すべき国なのにそれどころか、中国に無条件降伏してしまえば、積極的に中国を助けることになります。これは、米国に対する著しい裏切りであり、敵対行為であり、国際法違反でもあります。それだけで厳しい制裁対象になります。それどころか、世界から爪弾きされます。

そんなことは最初から分かりきっていますから、そもそも、米国が日本から引きあげるということになれば、将来に敵なる日本、しかも強敵になりそうな日本をそのまま中国に引き渡すはずもなく、軍事施設、艦船、航空機、武器などは破壊できるだけ破壊しつくし、日本の原発、火力発電所などの大部分を破壊し、鉄道、空港、港湾主要インフラも破壊するでしょう。

物理的には破壊しないかもしれませんが、ハッキング等で、破壊して使えないようにすることは十分にあり得ます。

さらに、当然のことながら、金融システムなども破壊するでしょう。無論米国資産は、できるだけ、持ち帰るでしょう。知的財産なども破壊するでしょう。それどころか、優秀な技術者その他米国に大きく寄与するような有能な人たちは、米国に引き抜かれることになるでしょう。

しかし、怒りを顕にした米国は、日本の皇族等を受け入れないかもしれません。他の国に受け入れてもらい、細々と日本文化が継承されることになるかもしれません。

これは、いわゆる焦土作戦というものです。これは、戦争等において、防御側が、攻撃側に奪われる地域の利用価値のある建物・施設や食料を焼き払い、その地の生活に不可欠なインフラストラクチャーの利用価値をなくして攻撃側に利便性を残さない、つまり自国領土に侵攻する敵軍に食料・燃料の補給・休養等の現地調達を不可能とする戦術及び戦略の一種です。

米国はアフガニスタンからの撤退は失敗していますが、それでも現状のアフガンは国外からの支援は枯渇し、物価は急騰。現地通貨の価値は暴落し、アフガンが持つ94億ドルの準備金も米国に凍結されて引き出せません。そのため、タリバンは経済では八方塞がりになっています。日本が対中「先制降伏」となれば、米国にとっては、アフガン失うどころではなく、大きな損失であり、しかも事前にそれは余地できるでしょうから、当然焦土作戦をできるだけ実施することになるでしょう。

本当に米軍が立ち去ることになれば、焦土作戦はかなり大規模なものになることが予想されます。無論、民間人や自衛隊員等を積極的に殺すことはしないでしょうが、この焦土作戦に反対するものは、殺傷される可能性もあり得るでしょう。そのようなことになっても、日本は米国を裏切り、国際法違反をしているのですから、米国側にためらいはないでしょう。特に、米国民の多くも、これに積極的に反対する人は少ないでしょう。

さらに、日本の弱点を知り抜いた米国は、通商破壊まではしないでしょうが、あらゆる方法で通商妨害を行い、日本は、エネルギーや食糧などを海外から輸入する道を絶たれるかもしれません。中国から多くを輸入するようになり、日本人は中国なしでは、生活できなくなるでしょう。

米軍の焦土作戦でめぼしいもの何もなくなった日本に進駐してきた中国は、日本から富を得るどころか、多数の日本人を当面養わざるを得ないことになり、何もない日本に怒りを顕にして、日本人をウイグル人やチベット人らと同じように強制労働させることになるでしょう。

挙げ句の果に、中国は「計画的、組織的、統一的な政策」として「長期的に日本人の人口削減」を実行し、日本人を地上から消そうとするかもしれません。そうして、日本を中国の領土の一部にして、多くの中国人が日本に移住することになるでしょう。

「先制降伏」すれば、日本にはこのような悲惨な未来が訪れるのです。ウクライナも日本と異なる形であるものの悲惨な未来が待っていることが予想できたからこそ、ロシアに対して徹底抗戦しているのです。平和ボケ日本人は目を覚ますべきです。

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2023年3月6日月曜日

ウクライナ戦争で大きく変わる世界秩序 米国が中国を抑え付ける好機、日本も自由民主主義国としての連携を―【私の論評】ここ10年が最も危険な中国に対峙して日本も米国のように「準戦時体制」をとるべき(゚д゚)!

日本の解き方


 中国からロシアへの兵器供与を断念するよう米国が求めるなど、米中対立が強まっている。急速に台頭する国が既存の大国と衝突するのは歴史上、珍しいことではない。

大統領補佐官サリバン氏は「(武器供与する)道に進めば中国に代償を強いることになる」と述べた

 覇権国の歴史をみると、ナポレオン戦争終了時(1815年)から第一次世界大戦勃発(1914年)までが英国、第一次大戦終結(18年)から第二次大戦(39年)までの間は米国、英国、フランスの多極体制、第二次大戦終結(45年)から湾岸戦争・ソビエト連邦崩壊(91年)までは米ソの両極体制・冷戦、それ以降は米一極体制だ。

 ウクライナ戦争で、ロシアはウクライナにも勝利できないことが改めてわかったので、米国の対抗になり得ない。台頭してきた中国が唯一の競争相手だ。自由民主主義と専制権威主義の対立である点は冷戦時と変わらないが、多くの発展途上国・新興国にとっては中国モデルが魅力的なものとみえる。

 習近平国家主席は、中華人民共和国成立100周年に当たる2049年に、米国を凌駕(りょうが)する社会・共産主義大国として覇権を取るとしている。その前に台湾統一があり、遅くとも5年以内と多くの専門家はみている。

 中国は経済を発展させることで、中国共産党が権力を持つことを国民に納得させてきた。だが、最近は国民1人当たり国内総生産(GDP)が1万ドルを長期に超えにくいという社会経験則にぶち当たっているように見える。

 となると、ウクライナ戦争で世界秩序が大きく変わろうとしている今、米国にとって中国を抑え付ける絶好のチャンスだ。この好機は2大政党の民主党と共和党も共に認識しているので、誰が大統領でも同じだ。

 米中間で対立が激化したのはトランプ前政権時だが、バイデン政権が発足して以降も緊張関係は続いている。米国はトランプ政権から、5G(第5世代移動通信システム)におけるファーウェイ(華為技術)に象徴されるように、中国企業のハイテク分野での活動を排除した。輸出管理や中国の対米投資に対する審査強化は今後も続く。

 トランプ政権ではヒューストンの中国総領事館閉鎖など産業スパイ対策があったが、バイデン政権下では人権とビジネスに関する規制が一層強化されるようになった。一例が「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」だ。

 バイデン政権では民主党らしく産業政策を重視している。例えば、半導体補助金を含む競争力強化のための大型投資法案「CHIPSおよび科学法」や、史上最大の気候変動対策予算を含む「インフレ削減法」が成立した。

 安倍晋三元首相がかねて各国首脳に説いていた中国の脅威がいよいよ現実化してきた。自由民主主義と専制権威主義の対立であることから、日本としては自由民主主義国としての振る舞いが求められるし、日米同盟も堅持するのは当然だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授)

【私の論評】ここ10年が最も危険な中国に対峙して、日本も米国のように実質上の「準戦時体制」をとるべき(゚д゚)!

ジョー・バイデン米政権が、中国の軍事的覇権主義に対峙する強い姿勢を示しました。ダニエル・クリテンブリンク国務次官補は2月28日、米下院外交委員会の公聴会で、中国による沖縄・尖閣諸島や台湾への威圧に対し、「米国は対抗し続ける」と表明しました。

ダニエル・クリテンブリンク国務次官補

中国とロシア、北朝鮮などの専制主義国家が連携を強めるなか、米国は世界各国で外交攻勢を仕掛けている。識者は「米国が『戦時体制』に入った」と分析しました。 東アジア・太平洋を担当するクリテンブリンク氏は、委員会に事前提出した書面証言で、南シナ海や尖閣諸島を含む東シナ海、台湾海峡をめぐる中国の脅威や挑発を看過しない立場を表明しました。

 米国本土上空に飛来した「偵察気球(スパイ気球)」問題にも触れ、「中国が国内ではより抑圧的に、対外的にはより攻撃的になっていることをさらけ出した」と非難しました。

 米国が制裁対象とする中国の衛星会社「スペースティー・チャイナ(長沙天儀空間科技研究院)」が、ウクライナを侵略したロシアの民間軍事会社「ワグネル」に衛星画像を提供していたことも明かし、中露の連携について友好国と「懸念を共有している」と述べました。

 今後は、中国と「全力で競争」しつつ、衝突を回避すべく「責任あるかたちで管理していく」と説明しました。 米国は、ロシアが勢力圏とする中央アジアへの働きかけも強めています。

 アントニー・ブリンケン米国務長官は2月28日、中央アジアのカザフスタンを訪れ、カシムジョマルト・トカエフ大統領と会談しました。経済などの関係強化で一致した。中央アジア5カ国との定期協議枠組み「C5プラス1」の閣僚会合にも参加し、経済やエネルギー、安全保障など各分野での協力推進を協議しました。

トカエフ・カザフスタン大統領と会談したブリケン国務長官

このブログでは、かねてから中国による台湾侵攻は、中国がASW(Anti Submarine Warefare:対潜水艦戦)能力が日米に比較してかなり低いことや、ロシア軍がウクライナで露呈したように、中国の兵站も脆弱であり、さらに兵員を輸送する船舶も多くはなく、難しいとの見方を掲載してきました。

さらに、台湾軍は開戦当初のウクライナ軍とは異なり、はるかに強力であり、長距離、中短距離、対艦ミサイル、対空ミサイルなどを大量に配備しており、中国が台湾に侵攻すれば、中国軍の艦艇、航空機、さらに中国本土も無傷ではいられないと強調しました。

それは事実です。実際、最近の米軍の軍事シミレーションでも、中国が台湾を侵攻すれば、大打撃を蒙り、侵攻できないとの結果を出しています。ただし、日米も大きな打撃を被る可能性もあるものの、それでも中国は台湾を侵攻できないとしています。

ただし、それで戦争が起きないといえるかといえば、そんなことはありません。侵攻は難しいものの、中国が台湾を武力で威嚇し、さらに台湾軍の艦艇を撃沈したり、航空機を撃墜したり、台湾の軍事基地を破壊したり、現在ロシアがウクライナで行っているように、民間施設をミサイルなどで破壊するということは十分にあり得ます。これは、侵攻ではないですが、戦争の一形態です。このようなことは、十分にあり得ます。

さらに、いきなり台湾を侵攻ということではなく、経済制裁や武力で攻撃しつつ時間をかけてかなり弱らせた上で、侵攻というシナリオも十分にあり得ます。

ただしメデイア等、あまりにも簡単に中国が台湾を侵攻できるかのような報道を安易に繰り返すので、それは違うということを強調したまでで、戦争自体は、どのような形態を取るかは別にして、十分に起きる可能性があります。

結局ロシアのウクライナ侵攻を許してしまい失敗した米国は、アジアではその二の舞いを舞うことはしないことを決意して、米国は事実上の戦時体制に入ったとみられます。

中央アジアにおいては、米中ロが入り乱れて、まるで三国志演義の世界のように、互いに中アジアの国々を自分たちの味方に引き入れようと、競い合ってきました。ブリケン長官が、今のこの時期に中央アジア一の大国である、カザフスタンを訪れたのも、相対的に力が衰えつつあるロシアにかわって、中央アジアでも、中国が台頭することを防ぐためでしょう。

米国の下院に最近設置された「中国委員会」のマイク・ギャラガー氏は、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利ですが、10年の短期では危険な状態にあると述べています。中国は人口減少が生む経済問題などから「無謀さを増す」とし、中国に対し米国は対策を誤っていると具体的指摘しています。

台湾有事やインド太平洋戦略で最も重要な海軍の近代化は時間がかかり、その間、防衛線上のサモアやグアムなどの防衛体制や海兵隊の基地の準備が不十分であると指摘しています。

そうして将来の技術を待つのでなく、既存の法や技術、装備の活用を推しています。例えば、日本の防空体制強化のために退役予定の弾道弾ミサイル防衛機能を有す米海軍の巡洋艦シャイロー、ヴェラ・ガルフなどに改善を加え日本に残すことです。

ギャラガー氏は、新委員会の委員長として次のような課題を挙げています。供給網の問題、抗生物質やレアアースなどの過剰な中国依存、中国の殺戮や軍拡への州の年金基金の流用、台湾の防衛強化やインド太平洋諸国との関係強化、共産党中央統一戦線工作部の介入、ロビイング法の甘さや米国の学術組織への影響力、米国の領土や経済安全保障を脅かす土地買収などです。

日本も、将来の技術等に目を向けるだけではなく、現在有しているものの有効活用などを推進すべきでしょう。たとえば、22隻体制を築いた潜水艦隊の有効利用です。新装備品の購入ばかり考えるのではなく、既存の兵器等の弾丸・砲弾・ミサイルなどの供給体制の充実や、兵站の充実で足腰の強い自衛隊を目指すとか、それこそ、ギャラガーが主張していたように、米軍の兵器を譲り受けたり、安倍元総理が生前主張していたように、米国と核共有をするなどです。

令和4年度国際観艦式に参加した潜水艦艦隊

そうして、無論軍事だけではなく、先日もこのブログで示したように、国家安全保障戦略にも示されたように、軍事力に加え、経済・外交・技術力・情報力も合わせた総合力で日本を守り抜くべきです。これは、ギャラガー氏の主張と軌を一にするものとも言えます。

日本もしばらくは、米国のように実質上の「戦時体制」に入り、中国を牽制すべきです。それが、ロシアがウクライナで働いた乱暴狼藉のようなことを、中国がアジアで実施することを思いとどまらせることになります。

米国もいつまでも「戦時体制」を続けることはできないでしょうが、中国の覇権拡大のための無謀な試みはここ10年で最も高まる可能性が強いのですから、そのことを考え、日本もここ10年くらいは「準戦時体制」をとるくらいの気構えをみせるべきです。防衛費も2%にこだわることなく、GDPにも寄与する日本国内の防衛産業を育てることを条件として、3%から4%にしても良いでしょう。10年以内の期限付きでも良いと思います。

ギャラガーのいうように10年もしくはそれ以下で、中国の退潮は明白になり、他の全体主義国家は、たとえ存在していてもその影響力は小さなものであり、世界に平和が戻ってくるでしょう。それまでの辛抱です。中国の覇権に飲み込まれることを考えれば、日本としてもそのくらいのことはして当然です。

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2023年3月5日日曜日

G7サミット・広島開催、中露に忠告する絶好の場所 日清戦争の「軍事拠点」「臨時首都」岸田首相、スピーチすれば歴史に残る!?―【私の論評】岸田首相は、令和の後白河法皇になるか(゚д゚)!

国家の流儀


 岸田文雄首相はひょっとしたら、とんでもない「策士」なのかもしれない。

 今年5月19日から21日まで、日本が議長国を務めるG7サミット(先進7カ国首脳会議)が、広島で開催される。なぜ広島開催なのか。

 岸田首相は昨年5月23日、ジョー・バイデン米大統領との共同記者会見で、「中国については、最近の中国海軍の活動や、中露両国による共同軍事演習などの動向を注視するとともに、東シナ海や南シナ海における力を背景とした現状変更の試みに強く反対する」と述べたうえで、こう説明している。

 「世界が、ウクライナ侵略、大量破壊兵器の使用リスクの高まりという未曽有の危機に直面しているなか、来年のG7サミットでは、武力侵略も核兵器による脅かしも国際秩序の転覆の試みも断固として拒否するというG7の意思を歴史に残る重みをもって示したい」

 要は、中国、ロシアなどによる「力による現状変更の試み」「国際秩序の転覆の試み」を断固として拒否する広島サミットにしたいと、その意気込みを述べ、こう付け加えているのだ。

 「唯一の戦争被爆国である日本の総理大臣として、私は広島ほど平和へのコミットメントを示すのにふさわしい場所はないと考えています。『核兵器の惨禍を人類が二度と起こさない』との誓いを世界に示し、バイデン大統領をはじめ、G7首脳とともに、平和のモニュメントの前で平和と世界秩序と価値観を守るために結束していくことを確認したい」

 広島というと「被爆地」のイメージが強いが、実は日本有数の「軍事拠点」でもあった。

 日清戦争の最中である1894年9月には、軍を指揮する「大本営」が、東京から広島に移された。明治天皇も広島城に住まいを移し、東京以外で唯一の国会が開かれ、臨時首都の機能を果たした。広島市郊外の宇品港は日清戦争、日露戦争において朝鮮半島や中国大陸に向かう、兵士や物資の輸送の最前線、つまり後方支援の拠点となった。

 ある意味、世界の大国であった清と戦い、打ち破ったときの「軍事拠点」であり、「臨時首都」が広島だったのだ。

 ロシアや中国による「国際秩序の転覆の試みも断固として拒否するというG7の意思」を示すうえで、確かに、広島ほどふさわしい場所はないかもしれない。

 しかも広島サミットの首脳会議場は「グランドプリンスホテル広島」だ(広島サミット準備会議・第2回会合議事録)。ここは、日清戦争の後方支援の拠点となった宇品港を一望に見渡せる場所にある。

 「いまから128年前、日本は大国・清を打ち破ったが、そのときの軍事拠点、臨時首都がここ広島であり、その兵站の拠点が眼下に広がる宇品港だ」

 レセプションの席上、岸田首相がこうあいさつをしたら、絶対に歴史に残るスピーチになるのだが…。 =おわり

■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や国会議員政策スタッフなどを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに従事。「江崎塾」を主宰。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、19年はフジサンケイグループの正論新風賞を受賞した。著書・共著に『インテリジェンスで読む日中戦争』(ワニブックス)、『米中ソに翻弄されたアジア史』(扶桑社新書)、『日本の軍事的欠点を敢えて示そう』(かや書房)など多数。

【私の論評】岸田首相は、令和の後白河法皇になるか(゚д゚)!

上の記事では、岸田文雄首相はひょっとしたら、とんでもない「策士」なのかもしれないとしていて、G7の会場選びなどについて言及していますが、それは国内でも発揮されているのかもしれません。

たとえば、林氏を外務大臣にした、岸田氏の内閣人事です。林氏と岸田氏同じ出身派閥(宏池会)であり、岸田氏は総理大臣になってからも、この派閥を抜けていません。岸田氏も林氏も宏池会の中では、有力な政治家であり、岸田氏としては、林氏を入閣させて、側においておくことで、派閥内での勢力拡大を抑止しているものとみられます。これも、一つの「策士」ぶりの発露なのだと思います。

これは、林氏への「位打ち」といえると思います。最近岸田首相は、この位打ちさらなる策士ぶりを発揮しています。それは、林外務大臣に対する位打ちともみられるやり方です。

私は、現代企業の位打ちの実態に何度か遭遇したことがあります。たとえば、昔私はある居酒屋の常連で、ある青年と親しくなって様々な話をするようになったのですが、ある日その青年の会社である人が課長に昇進したというのです。その青年は「あんなヤツがうちの課の課長になるなんて信じられない」と憤っていました。

青年の話を聞いていて、私はこれはひょっとして「位打ち」ではないかと思いました。その青年にその話をして「会社には会社の都合があって、そのような人事をしているのだから、悪口なんていわないで、しばらく様子を見ては?」と話しました。案の定その課長は一年を待たずして、その会社を退社したそうです。マネジメント能力がないのに、それをしなければならない立場に追い込まれたため、能力の限界を感じて自ら辞めたようです。

位打ちとは、昔から日本で用いられてきた手法で、時の権力者が、敵対する新興勢力を自滅させるために、その人物にふさわしくない位階を次々と与えることによって、人格的な平衡感覚を失わせ、自滅させていく手法です。

 この「位打ち」の使い手として有名なのが平安時代末期の後白河法皇で、その対象となった代表格は、平清盛であり源義経です。

天子摂関御影』より「後白河院」藤原為信 画

岸田首相は、林外務大臣がG20に出席しないことを決めたときには、本来尻を叩いてでも無理にでもいかせるべきだったと思われるのですが、意図的にそうはしなかったのでしょう。これによって、林外相の評判は、自民党内外で地に落ちました。もし、岸田首相が何をさておいても行くべきだと諭していれば、林外務大臣はG20に出席したと思われます。

実際、当初は林外務大臣は出席する意向だったようです。こうして、林外務大臣をG20に出席させないようにしたものの、Quadの会談には出席させ、本格的に日本が外交で不利になることを避けたものとみられます。

さらに、岸田首相は19~21日にインドを訪問し、ナレンドラ・モディ首相と会談する方向で調整に入りました。これは、5月に広島市で開催する先進7か国首脳会議(G7サミット)に向け、主要20か国・地域(G20)議長国のインドと連携を確認する方針です。

G7サミットでは、ウクライナを侵略するロシアへの制裁やウクライナ支援が議題となる見通しです。対露包囲網を形成して圧力をかけるには、G20を構成する多くの新興国との連携が重要となる。このため、広島サミットの前にモディ氏と意見交換しておく必要があると判断したとされています。

首脳会談は20日を予定している。対中国を念頭に置いた「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日印の連携のほか、南半球の発展途上国や新興国を中心とする「グローバル・サウス」との協力についても議論する見通しです。

岸田首相は、さらにウクライナに電撃訪問するかもしれません。

これで、岸田首相の林外務大臣に対する、位打ちは、最終段階を迎えたといえます。一連の措置により、林外務大臣の威信は完璧に落ちました。今後は、ただのお飾りになる可能性もでてきました。

これによって、林外務大臣が、宏池会の中で、岸田氏よりも権力を強めるということはなくなったといえます。


身近な政敵を葬った上で、日清戦争の後方支援の拠点となった宇品港を一望に見渡せる「グランドプリンスホテル広島」で、上に記事にもあるようなスピーチをすれば、岸田首相の威信は高まります。

そうして実際にリップサービスだけではなく、中露に対する様々な牽制措置を打ち出した上で、ウクライナに対する支援を行えば、日本の評価、すなわち、岸田首相の評価も否が応でも高まります。

このような、岸田首相とは対照的に、林外務大臣は愛してやまない中国からも、利用価値がなくなったとみなされ、見放されことになるでしょう。頼みの綱の中国からさえ見放されれば、宏池会の中で浮いてしまうことになります。自民党内でも埋没する可能性がでてきました。岸田首相の思惑通りのようです。

最近でも相変わらず岸田政権の支持率は落ちていますが、それでもなかなか表立って「岸田降ろし」の声が、自民党内ではみられません。岸田政権は、LGBT法案の審議等により、自らへの批判は回避しつつ、世論の追い風を利用して党内保守派を抑え込む戦術をとっているようで、予算成立後も自民党内政局は表面的には未だ具体的動きはありません。


これで、少なくともG7までは、岸田政権は安泰のようですが、問題はその後どうなるかです。岸田政権も長期安定政権を目指したいというのなら、何かを変えなければならないです。

それを岸田氏が本気で考えれば、何かを変えるかもしれません。その最たるものは、財政政策、金融政策を変えることです。財務省のいいなりで、増税などの緊縮財政や、日銀が金融引締に走ってしまえば、自民党内の積極財政派からも、国民からも離反されるのは確実です。

何かを変えるための準備段階として岸田総理は次期日銀総裁候補として、植田和男氏を選んだ可能性が高いです。植田氏の金融政策の関する考えは、金融システム重視なのですが、学者ということもあり、財務省の息はかかってはおらず、どちらかというと、岸田政権が意のままに動かしやすいです。

岸田首相としては、植田氏は財務省や日銀官僚などの意向よりは、岸田首相の言う通りの政策を実行する可能性が高いので、選んだと見えます。今後、金融引締に走るにしても、緩和を継続するにしても、岸田氏の思う通りに動く可能性が高いです。

財政政策に関しても、少子化対策を進めるための財源について、自民党の税制調査会で幹部を務める甘利前幹事長は、5日将来的な消費税率の引き上げも検討の対象になるという認識を示していたものが、3月5日のフジテレビの番組で、少子化対策の財源確保に向けた消費増税について慎重な姿勢を示しました。岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の財源をめぐり、「よほど景気がよくならないと、(消費増税は)相当景気に影響するというのが経験値だ」と述べました。

甘利氏の発言はいずれも、岸田政権の意向を踏まえたものであると考えられます。岸田首相としては、政権を長期に安定的に維持するためには、財務省の意向通りに、増税したり、日銀に金融引締をさせれば、マイナスになると判断しつつあるのかもしれません。

ただ、財務省と真っ向勝負すれば、財務省からの反発は凄まじいものになるでしょうし、それこそ、『安倍晋三回顧録』に書かれてあるとおり、財務省は倒閣運動に本格的に動くかもしれません。かといって財務省の意向通りにだけ動けば、自民党内の積極財政派からの反発は凄まじいものになり、国民からの反発も必至ということになり、長期政権は望みようもなくなるので、これは何かを変えなければならなくなるとは考えているのでしょう。

そこで解決策として、後白河法皇のようなやり方に傾きつつあるのかもしれません。後白河法皇のようなやり方とは、源平合戦を中心とする政争・戦乱の陰の演出者として後白河法皇が動いたやり方です。

実際、岸田総理は、自民党内で、積極財政派と財政再建派に議論をさせ、財政政策で自民党内では、自らは火の粉をかぶらないような状況を作り出しました。自民党内の会合では、怒号が飛び交うような事態にもなっていました。ただ、数的には積極財政派が優勢でした。

しかし、これだけでは決着がつなかい状況になっています。今後は、自民党対財務省という流れをつくりだし、自らは火の粉を被らず、両者を戦わせようと画策している節があります。

自民党対財務省の戦いということなれば、壮絶な戦いになることが予想されます。それこそ、自民党内の積極財政派の議員の中には財務省によって政治生命を絶たれるものもでてくるかもしれません。財務官僚もただごとでははすまないかもしれません。自民党側が勝てば、財務省は消えるかもしれません。

ただ、岸田総理としては、こうした画策を始めるということは、後白河法皇が平家を潰す方向に動いたように、財務省を潰す方向で動くことになるでしょう。ただし、後白河法皇のように、表向きはそのようなことには全く関与していないように振る舞うでしょうし、その目的は平家、源の双方を弱らせ、自らの権力を強化することにありましたが、実際には揺るぎない武士の時代を開くことになりました。

この戦いは結構長引くでしょうが、その間、後白河法皇が権力を維持したように、岸田政権が続くことになるでしょう。これで岸田政権自体は長期安定政権になる可能性もあります。

こうして、最終的に自民党側が財務省に勝った場合どうなるでしょうか。後白河法皇が没した後には、本格的な武士の時代が来ました。自民党側が財務省に勝った場合は、宏池会の天下となるわけではなく、いわゆる政治主導が日本でも達成され、役人はあくまで政治家を補佐する役割に徹するようになるかもしれません。

これは、私の単なる推測かもしれませんが、岸田首相の考えはどうであろうと、この方向に動いていく可能性はあると思います。そもそも、後白河法皇の時代においても、平家が我が者顔で振る舞う様は、異常でしたから、それを廃する方向に歴史が動くのは当然のことで、現代でも、国民から選ばれてもいない財務省が大きな政治組織のように動くのは異常なことですから、それを廃する方向に歴史が動くことは十分あり得ることだと思います。

省益を増すためだけに、国民経済を無視して、増税に走る様は、平家が驕り高ぶったのとよく似ています。

そのようになれば、国民としては大歓迎です。とにかく、財務省の横暴はいつか誰かが止めなければなりません。どんな形であれ、これが成就すれば、日本にとって良いことです。

さて、岸田首相が令和の後白河法皇のようになるかどうかは、まだわかりませんが、岸田氏がそうなる可能性は捨てきれません。これは、興味深いテーマなので、これからも追求していきます。何か新しい動きがあれば、またレポートしています。

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2023年3月4日土曜日

謝駐日代表が日経新聞に「遺憾」 退役軍人の関連報道巡り/台湾―【私の論評】今や日米と台湾の離反は、中共の最大のテーマ、中国側の心理戦に惑わされるな(゚д゚)!

謝駐日代表が日経新聞に「遺憾」 退役軍人の関連報道巡り/台湾

台湾軍女性兵士

 日本経済新聞が、台湾の軍幹部の約9割が退役後、中国に渡り、軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化しているなどと報じた問題で、台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)は3日、記事は確認と検証がされておらず、国軍の名誉を甚だしく傷つけたとして、深い遺憾の意を表明する文書を同紙に送った。謝長廷(しゃちょうてい)代表(大使に相当)が同日、自身のフェイスブックで明らかにした。

 報道を受けて国防部(国防省)は1日、「事実無根の作り話だ」と反論。総統府も2日、同紙に対して深い遺憾を表明し事実を明確にするよう求めていた。

 謝氏は同紙に、台湾の立場に立ち、バランスの取れた報道をするように求めたと報告。また退役軍人の関連業務を取りまとめる国軍退除役官兵輔導委員会の馮世寬(ふうせかん)主任委員(閣僚)が2日、立法院(国会)の外交・国防委員会で質疑に応じたことに触れ、その内容を日経に追加で送付するよう指示したことも明かした。

 また謝氏は、通常このような記事には執筆した記者の名前が書かれ、責任を負った上で掲載されると指摘。新聞社が検証を行うことを信じているとコメントした。

 一方、北部・台北市松山区の同紙台北支局では3日、男が尿をまく騒ぎが発生。謝氏は、焦点がずれてしまうとして、非理性的な行為をしないよう呼びかけた。

【私の論評】今や日米と台湾の離反は、中国の最大のテーマ、中国側の心理戦に惑わされるな(゚д゚)!

問題となっている日経新聞の記事は以下のリンクからご覧になれます。
台湾では2日正午ごろ、日本経済新聞社の台北市局の入口で撮影したとする写真2点(下写真)を添えて、「(自分が)抗議のために尿をかけた」とする表明するネット投稿がありました。同投稿は日本経済新聞に対して、24時間以内の謝罪を要求した。台湾警察は、現場を調べたところ「不明な液体」が存在したことを確認したことを明らかにしました。



警察側は同行為について、「関連する人物の身元をすでに特定しており、事情の説明を求める通知をする」と表明した。また、このような行為は社会秩序維持法第68条により、3日以下の拘留や1万2000台湾ドル(約5万3500円)以下の罰金を科すことができると紹介した上で、「民衆は理性的な方法で意見を表明すべきです。絶対に、法に抵触することを衝動的にしないでください」と呼びかけました。

従来は、台湾の防諜機関は中国の工作活動を未然に防ぐため日夜懸命の努力を重ねているものの、少なくない台湾軍関係者が中国側の誘いに乗ってしまうのはスパイ罪として有罪判決を受けても刑罰が軽すぎるという点に問題があるといわれていました。

軍法で裁かれる現役将兵の場合は最高で死刑もしくは無期懲役の刑罰が下されますが制服を脱いだ退役軍人は軍法ではなく国家安全保障法で裁かれるため刑罰(最大5年以下の懲役と100万台湾ドル/約400万円の罰金)が非常に軽く、中国側が提供する経済的な利益の方が不利益を上回ると言われていました。

この構造を熟知しているからこそ中国は台湾の退役軍人に多額の金品や無料の海外旅行を提供して誘惑していたのですが、台湾側も世論の圧力を受けて2019年に国家安全保障法の最高刑引き上げを実行、これにより制服を脱いだ退役軍人がスパイ罪として有罪判決を受けると最低でも7年以上(上限なし)の懲役と最低5,000万台湾ドル~最大1億台湾ドル/約2億円~約4億円の罰金が課されることになりました。

これは、2022年からさらに強化されました。台湾法務部は同年5月20日、「国家安全法」の改正草案が立法院の第三読会(立法に必要な3回の審議)を通過したと発表しました(法務部プレスリリース)。

今回の改正は、ハイテク産業の競争力保護を拡充し、経済発展を強固にするとともに、台湾の重要コア技術に関する営業秘密が域外の敵対勢力などによって侵害されないようにするため、当局が核心的なコア技術に関わる営業秘密の階層的保護システムを積極的に構築することなどを目的としています。

法務部によると、改正の要点は「経済スパイ罪」と「国家核心コア技術営業秘密の域外使用罪」の追加です。「経済スパイ罪」では、重要コア技術営業秘密を窃取、横領、だまし取り、脅迫、無断複製、あるいはその他の不正な方法で取得・使用・漏えいした場合、5年以上12年以下の懲役と、500万台湾元以上1億台湾元以下(約2,150万円以上4億3,000万円以下、1台湾元=約4.3円)の罰金を科される可能性があります。なお、「経済スパイ罪」に該当する案件の第1審は知的財産・商業法院の管轄となります。

「国家重要コア技術営業秘密の域外使用罪」では、台湾域外で重要コア技術に関する営業秘密を使用した場合は、3年以上10年以下の懲役と、500万台湾元以上5,000万台湾元以下の罰金を科される可能性があります。

中国が台湾に浸透しようとしても、もはや民主主義が定着した台湾で一党独裁の中国共産党政権に対する好感が高まっていくとは思えません。

台湾においては「天然独」と呼ばれる新しい世代の台頭があります。「天然独」とは「生まれながらの独立派」とでもいうべき30代半ば以前の若者達です。 彼らは「自らは台湾人」であるとの強いアイデンティティーを持ち、「台湾と中国は別々の存在」であることが、 空気のように自然な世代です。 台湾アイデンティティーは、今後強まることすらあれ、弱まることはありません。

そのため中国側の心理戦は「強大な中国に逆らって統一を拒み続けても無駄」「いざという時に外国は当てにならない」という考えを台湾で広めることに重点を置いているとみられます。

野党・国民党の馬英九前総統はロシア軍のウクライナ侵攻後、地元メディアに「米国は武器を売ったり、情報を提供したりしてくれるが(台湾を守るために)出兵はしない」と語りました。

馬英九(左)と習近平(右)

馬氏のような考えが今後増えて、統一に積極的な親中派政権が発足するのが中国にとって理想的パターンといえます。それでも台湾側の民意がちゅうちょして統一に向かわない場合、中国の指導者は武力行使の誘惑に駆られるかもしれないですが、中国の軍事力の実態から言えば、米軍もしくは日米同盟の直接介入は絶対に避けたいでしょう。

そこで、台湾だけでなく、日米に対する心理戦も重要になってきます。経済発展レベルを示す1人当たりの国内総生産(GDP)を見ると、中国はいまだに約1万3000ドルで、日本のわずか3分の1、米国の6分の1でしかないです。

ちなみに、ロシアと中国の一人あたりのGDPはほぼ同じです。ただ、中国の人口は14億人であり、ちょうどロシアの10倍であるため、国単位のGDPでは、中国GDPはロシアの10倍です。

しかし、人口の多さに起因するGDP規模の大きさを強調し、中国超大国論を拡散することにより、日米の世論や政官財界に対中宥和論を増やし、「台湾は超大国・中国の一部として生きていくのが最善」「米軍が介入しても、人民解放軍にはかなわない」「中国経済に依存せざるを得ないので、台湾問題より対中ビジネスを優先すべきだ」といった声が日米でどんどん広がっていけば、中国の統一政策に大いに寄与することになります。

今や日米と台湾の離反は、中共にとって最大のテーマとなっています。今回の出来事も、今後の台湾当局の捜査によらなければ、真相はわかりませんが、日本と台湾を離反させたい中国の意図とも関係があるかもしれません。このくらいのことで、日本と台湾の絆が崩れるわけもありませんが、今後このような出来事がかなり増えてくる可能性はあります。

日本側としては、これに留意して、中国の心理戦に乗らないようにすべきです。

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2023年3月3日金曜日

イェール大名誉教授が警鐘「防衛"増税"より、コロナ禍からの回復や経済成長を優先せよ」―【私の論評】防衛力強化だけでは日本を守れない、経済・外交・技術力・情報力も合わせた総合力で日本を守り抜け(゚д゚)!

イェール大名誉教授が警鐘「防衛"増税"より、コロナ禍からの回復や経済成長を優先せよ」

■日本人が知らない安倍外交のウラ側とは

 地球全体がますますきな臭くなりつつあるなか、世界における日本のプレゼンスは安倍晋三元首相の外交で高まった。太平洋戦争の発祥地であるハワイの真珠湾に安倍元首相が訪れ、そして人類初の原爆投下が行われた広島にオバマ元大統領が訪れたことは、戦争被害者を悼み、将来の戦争がないように祈る記念的な出来事であった。当時、外務大臣だった岸田首相には、これらを実現させた大きな功労がある。2023年5月に広島で開催されるG7サミット(主要国首脳会議)では、その経験を生かしてほしい。首脳外交には、首脳たちの人柄や個性が反映される。岸田首相の持ち味が生かせるような、各国首脳との新しい関係が築かれることを望みたい。

2015年4月29日、米国連邦上下両院合同会議で演説する安倍晋三首相。地球儀を俯瞰しつつ現実に目を向け、防衛力を高めた。

 安倍元首相の外交面で発揮された個性は、並外れたコミュニケーション能力だった。特に2015年4月29日に行われた米国連邦上下両院合同会議での演説は、今も記憶に残る。一部に「安倍は歴史修正主義者ではないのか」と警戒する議員もいたが、演説を終えると全議員が総立ちの拍手で元首相を称えた。

 そして安倍元首相は、日本の敵となりかねない核保有国の中国、ロシア、北朝鮮に囲まれている現実を直視し、それに対抗できるような防衛力の増強に努力してきた。ウクライナへの侵攻で、台湾への中国の軍事介入が心配されると、米国に対して、戦略的に曖昧な外交姿勢を取らずに台湾防衛の意思を表明するように、元首相は有力者の論評を配信する国際的なNPO「プロジェクト・シンジケート」での論考で強調した。

 さらに、集団的自衛権を行使して自衛隊が海外で活動できるようにしたし、かつては防衛費を増強し、防衛庁を防衛省に昇格させた。これらは、自国の防衛力を高めることによって、相手が報復を恐れて日本への攻撃を思いとどまらせようとする抑止力強化の手段である。安倍元首相の努力で、日本はわずかではあるが、より安全になったといえよう。

 安倍元首相の防衛努力は、なにも国内の防衛力増強だけ、従米一辺倒だけだったわけではない。「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げて在任中に元首相が訪問した国・地域は80を数え、飛行距離は約158万キロメートル(地球約40周分)にも及んでいる。

 貿易に関しては、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉を、米国離脱後に日本が中心となってまとめた。「自由で開かれたインド太平洋戦略」ではASEAN(東南アジア諸国連合)・南アジア・アフリカ東海岸の国々との結びつきを強め、米豪印とは「QUAD(クアッド)(日米豪印戦略対話)」の枠組みで、影響力を増す中国を牽制した。

■防衛問題に対して急速に国民の関心が高まっている

 いま、ロシアがウクライナに非条理に侵攻し、中国の習近平国家主席が台湾を統一する意思を示して以来、防衛問題に対して急速に国民の関心が高まっている。日本が不戦の誓いを立てていても、攻め込んでくる国は容赦してくれない。

 確かに、安倍元首相もはっきりいわれたように、日本は世界全体の核兵器廃絶を目指す運動を止めてはいけない。壮絶で悲惨な体験をした、唯一の被爆国である日本は絶対にそうしてはいけない。

 一方、唯一の被爆国として核を持たない、作らない、持ち込ませないとの心情は日本人にはもっともだが、それで他国からの侵略のリスクはなくならない。残念ながら、日本国憲法の前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義」という条件が満たされない世界に我々は住んでいる。

 官邸での安倍元首相との懇談の際は基本的に経済について議論する時間しかなかったが、あるときふと「飛来するミサイルを撃墜する技術も進歩はしているが、精度と費用の面で課題が大きい。相手国に撃ち返せるといいのだが」と言われたことがある。また「トランプ大統領(当時)は日本を守ってあげると言うが、本当かわからないトリッキーなところがある」と漏らされたこともあった。

 この言葉の真意をもっと詳しく聞いておけばよかったと悔やんでいるが、日本が守ってもらう形の日米安全保障体制の下では、日本の歴代首相は、米国と付き合うたびに、同じような悩みを抱くのかもしれない。

■コロナ禍からの回復や経済成長を優先せよ

 核兵器でお互いに抑止し合っている状況のなかで、日本だけが核兵器を持たないと、核兵器を持たないウクライナのように相手に見くびられてしまう可能性もある。安倍元首相は22年2月27日のテレビ番組でその対処として、日本は核兵器の単一所有国にならずとも、その共有を行えばよいとの提案を行った。後で考えると、これは元首相の遺言のようなものだったと思う。

 たとえば、米国と核兵器を共有すると、日本の独自な判断では核を使用できないが、米国の同意が得られれば使用できることとなり、その結果日本の抑止力は大幅に高まる。実際にドイツとイタリアは、米国と核兵器を共有している。

 これに対しては意見が大きく分かれるだろうが、熟慮に値するものではないか。アベノミクスで雇用が増えて大きな恩恵を受けた日本の若者は、戦争体験や被爆体験はないため、核アレルギーを強く持っていない。核共有を実現させることで日本に抑止力を付け、将来世代の安全性を増そうとするのは、安倍元首相から若者への意味のある「プレゼント」であるともいえる。

 リベラルの人々やジャーナリズムから「軍国主義だ」と批判されながらも、安倍元首相は将来世代の安全・自由・繁栄を真剣に考えていたのである。いま、岸田政権が防衛費をGDP(国内総生産)比2%に引き上げる方針を掲げたのも、安倍政権時代から進められてきた防衛重視の流れからの継続である。

 最後に、防衛財源をどう賄(まかな)うのが適当かについて述べよう。中国の軍事的脅威が2~3年で解消するとは思えない。長期間にわたって防衛費が日本国民の重荷になるなか、それを国債負担で行おうとすると、いずれは市中のお金の目減りでインフレになるか、経常収支が悪化して対外資産の取り崩しにつながり、国民につけが回ってくる。国を守るのは現在、将来各世代の責務と考えれば、中期的には国防費は国債でなく、税収で賄うのが基本原則だろう。

 だが、日本経済はコロナ禍からの回復が始まったところである。経済成長や技術革新などの回復の兆しを、あまりに早く抑制してはならない。

 クレディ・アグリコル証券のエコノミスト会田卓司氏の言うように、直ちに財政バランスを達成しようとすると、不完全なままの雇用均衡のもとに、日本経済は足止めになる。同様に考えると、本格的な長期回復に向かう前に、防衛増強のためと称してすぐ増税を実施すると、消費増税によって景気の芽を摘んだ今までの失政を繰り返すだろう。

 せっかくのコロナ禍からの回復に水を差さないようにしながら、長期的に税収確保をしながら国民の全体世代で国を守る姿勢を確保していくという難題が、経済政策全体に課せられている。

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浜田 宏一(はまだ・こういち)

浜田宏一氏

イェール大学名誉教授
1936年、東京都生まれ。東京大学法学部入学後、同大学経済学部に学士入学。イェール大学でPh.D.を取得。81年東京大学経済学部教授。86年イェール大学経済学部教授。専門は国際金融論、ゲーム理論。2012~20年内閣官房参与。現在、アメリカ・コネチカット州在住。近著に『21世紀の経済政策』(講談社)。

【私の論評】防衛力強化だけでは日本を守れない、経済・外交・技術力・情報力も合わせた総合力で日本を守り抜け(゚д゚)!

浜田宏一氏が指摘するように、安倍元首相の外交面で発揮された個性は、並外れたコミュニケーション能力でした。特に2015年4月29日に行われた米国連邦上下両院合同会議での演説は、私も記憶に残っています。これは、動画が残っているので、以下にその動画をを掲載します。


現在大統領のバイデン氏は、当時は副大統領でした。スピーチをする安倍総理の背後の高い席の向かって左側に着席されています。その隣が、議長の方で、名前は失念しましたが、安倍首相の演説に感動して涙を流し、それをハンカチで拭っておられました。残念ながら、上の動画に、それは写っていませんが、私は、はっきりと記憶しています。

夕刊フジのサイト版のコラム「国家の流儀」に、江崎道朗氏が以下のような記事を掲載しています。
一国平和主義から集団自衛体制へ 防衛力強化だけで守ることは難しい 第2次安倍政権以来〝5つの力〟使って味方を増やしてきた日本

 

江崎道朗氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に安倍政権が味方を増やした「5つの力」に関する部分のみを引用します。 

日本の防衛力強化だけで日本を守ることは難しい。

では、どうするか。今回の国家安全保障戦略の特徴は、防衛力強化以外の方策も明確に打ち出していることだ。

日本を守る力は防衛力だけでない。次の5つだと同戦略は指摘している。

第1に外交力。ロシアによるウクライナ侵略でも明らかなように、友好国、同志国をどれだけ持っているかが戦争の動向を左右する。よって日本も、「大幅に強化される外交の実施体制の下、今後も、多くの国と信頼関係を築き、我が国の立場への理解と支持を集める外交活動」を展開している。

第2に防衛力。それも防衛力に裏打ちされてこそ外交力は高まるとして「抜本的に強化される防衛力は、わが国に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための外交の地歩を固めるものとなる」として、外交と防衛の連動を強めてきた。

第3に経済力。「経済力は、平和で安定した安全保障環境を実現するための政策の土台となる」。経済力があってこそ軍事力も強化できる。

第4に技術力。この「官民の高い技術力を、従来の考え方にとらわれず、安全保障分野に積極的に活用していく」。科学技術の軍事利用に反対する一部勢力には屈しない、ということだ。
第5に情報力。「急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宜に適った情報収集・分析が不可欠である」。
この5つの力を使って第2次安倍晋三政権以来、日本は必死に米国以外の国とも防衛協力関係を強化してきた。その結果、いまや以下の国・組織が、日本の「味方」になりつつある。
安倍元首相は、この5つの力を使って、仲間の国を増やしてきたからこそ、第二次安倍政権以前よりは、日本は確実に安全になったのです。

そうして、この5つの力のうち、第3の経済力ついて、述べたのが上の浜田氏の記事です。私自身は、経済力は、日本を守る上で他の要素を伸ばすための土台になるものだと思います。

十分な経済力がなければ、他の要素を伸ばそうにも伸ばしようがないからです。どの要素も、ある程度の経済力があって、初めて伸ばすことができるからです。

安倍首相の外交安保における成果は、戦後の長期政権だった佐藤榮作の沖縄返還や、戦前の桂太郎の日露戦争などとは、比べられるようなものではありません。


しかし、中国の経済的・軍事的膨張と、強圧的な対外政策を前に、日本に根深い原理主義的な平和主義を考えたとき、相当の成果を挙げたと言えます。

同盟国の米国では、オバマ政権からトランプ政権へと大きな転換がありました。その中で安倍首相は先にもあげたワシントンの連邦議会で演説(2015年4月)し、オバマ大統領の広島訪問(2016年5月)を実現させ、さらに真珠湾を訪問(2016年12月)し、かつ、トランプ大統領との間で信頼関係を築きました。

そうして、これらの成果の他に、中国などに対抗すべく米国以外同志国を増やしました。「一国平和主義」から「集団自衛体制」へ、第2次安倍政権以来、日本は戦略的に動くようになっなりました。日本の味方が増えたことも大きな成果です。

これを考えると、今回林外相がG20に参加できなかったことは残念でなりません。ただ、 岸田文雄首相は今月中~下旬にインドを訪問する方向で調整に入りました。19~21日を軸としているそうです。関係者が3日、明らかにしました。

岸田首相は、モディ首相によくお詫びしてきて欲しいものです。そうして、日印関係をしっかりと結び直していただきたいです。

防衛力強化だけで日本を守ることは難しいです。経済・外交・技術力・情報力も合わせた総合力がなければ、日本を守り抜くことは難しいです。その観点からも、現在は防衛増税などの的外れな経済政策をしている時ではありません。

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2023年3月2日木曜日

「所得倍増と資産所得倍増って違うんですか?」岸田総理、総裁選時の公約「令和版所得倍増」は撤回せず 参院予算委―【私の論評】岸田首相の経済対策のうち「所得倍増政策」のみがアベノミックスとの親和性が(゚д゚)!

「所得倍増と資産所得倍増って違うんですか?」岸田総理、総裁選時の公約「令和版所得倍増」は撤回せず 参院予算委


岸田総理は、2021年の自民党総裁選挙の際に公約として掲げていた「令和版所得倍増」について、現在も撤回していないとの認識を示しました。

国民民主党 舟山康江 参院議員
「所得倍増と資産所得倍増って、これ同じなんですか?違うんですか?」

岸田総理
「所得倍増と資産所得倍増、違うか同じか。まず違います。所得倍増の考え方の中で、あわせて可処分所得を広げるという意味で、資産所得倍増という言葉が出てきたと理解をしております」

岸田総理は「所得倍増という考え方を重要視しているからこそ、今、賃上げに取り組んでいる」「賃上げを行うことの大きな意味は可処分所得を引き上げることだ」などと強調しました。

そのうえで、「所得倍増という看板はおろしていないのか」との野党議員の質問に「そのとおりだ」と答えました。

【私の論評】岸田首相の経済対策のうち「所得倍増政策」のみがアベノミックスとの親和性が(゚д゚)!

岸田総理の所属派閥である「宏池会」は、自民党内のリベラル派として知られており、池田勇人が佐藤栄作と袂を分かって旗揚げしたのが始まりで、2022年8月現在において党内で最古の派閥です。池田勇人氏は、「宏池会」の海の親です。

その池田勇人氏が総理大臣のときに、実現したのが「所得倍増計画」です。


正式には「国民所得倍増計画」です。1960年 12月に池田内閣によって決定された長期経済計画で、61年度から 70年度までの 10年間に実質国民総生産 (実質 GNP) を年率平均 7.2%増、実質国民所得を倍増しようという計画でした。

現在は、GNPは現在では用いられていない指標です。

GNP(Gross National Product)=“国民”総生産です。

1993SNAの導入に伴い、GNPの概念はなくなり、同様の概念として“GNI(Gross National Income)=国民総所得”が新たに導入されました。

GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含みません。

一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいます。

以前は日本の景気を測る指標として、主としてGNPが用いられていましたが、現在は国内の景気をより正確に反映する指標としてGDPが重視されています。

ただ、GNPを倍増するには、GDPも倍増しなければならず、それができなけばGNPは倍増しません。そのため現在でいえば、GDPをニ倍にする計画であるといって良いです。

この計画では、(1) 社会資本の充実、(2) 産業構造の高度化、(3) 貿易と国際経済協力の促進、(4) 人的能力の向上と科学技術の振興、(5) 二重構造の緩和と社会的安定の確保という5項目が計画の課題として掲げられました。

この「国民所得倍増計画」に先立って日本の経済計画には「経済自立5ヵ年計画」 (1955.12.鳩山内閣) 、「新長期経済計画」 (57.12.岸内閣) の2つの計画が策定されていましたが、所得倍増計画は従来の2計画とは異なって日本経済の成長力を高く評価するとともに、社会資本の充実、産業構造の高度化などを目指した意欲的な計画で、第2次世界大戦後の日本の経済計画策定の歴史に一時代を画しました。

当初は「月給が2倍」といったあいまいな目標だったようですが、池田首相のブレーンだった官僚出身の経済学者、下村治氏らが積極財政政策による景気刺激で実現する道筋を理論化。1970年度のGNP(国民総生産)を1960年度対比で2倍の26兆円に引き上げる目標を設定し、その後の経済運営の基本方針に据えました。

所得倍増計画では、「国民生活水準の顕著な向上」「完全雇用の達成」など前向きなスローガンを掲げ、鉄道や道路など社会資本の整備、重化学工業化、社会福祉の推進などの政策が次々と実行に移されました。1964年の東京五輪も高度成長に大きく貢献しました。結局、所得倍増の目標は超過達成され、日本は1974年の石油危機まで息の長い経済成長を続けることになります。

計画の数値目標は、35年度の国民総生産額である13兆6千億円の2倍、26兆円を10年以内に 達成するというものであった。また、35年度から年間平均9%の経済成長率を達成し、38年度 に17兆6千億円の実現を期することが当初3か年の目標とされました。 

金融引締が命のような、日本銀行も池田首相の「低金利路線」に阻まれ て公定歩合引上げ等の引き締めには踏み込めず、結果としてこの頃の日本の高度成長を阻害することもありませんでした。

そうして、日本経済は予想以上の成長を遂げ、実質国民総生産は約6年で倍増を、国民一人当 り実質国民所得は7年で倍増を達成するという驚異的な経済成長率を記録したのです。 

その後、佐藤栄作内閣によって高度成長によるひずみの是正や社会資本整備を目的とする 「中期経済計画」(40年)および「経済社会発展計画」(42年)が策定されていくことになりました。

さて、現在日本人の賃金が他国なみに上がらないのは、過去の日銀の金融政策の失敗によるものです。それについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

これまでの筆者の試行錯誤では、マネーの伸び率が最も相関が大きい。マネーの伸び率でも日本は世界の中でほぼビリだ。ちなみに、140カ国で30年程度の名目成長率とマネー伸び率の相関は0・90(1が最大)、大きな異常値と思われる数字を除いた130カ国でも0・73といずれも高い。社会科学ではめったに見られない高い相関だ。

もちろん相関関係は因果関係を意味しないが、マネーの伸び率は政策的に操作可能なので、結果として名目経済成長率の低下を招いた可能性がある。つまり、こうした国際比較分析からいえるのは、日本の賃金が伸びなかったのはマネーの伸び率の低さによるものということだ。

無論、現在日本経済には30兆円程度の、需要ギャップがあるため、これをまず埋める必要がありますが、埋めたにしても、金融緩和を継続しなければ、賃金はあがりません。

所得倍増計画には、実質経済成長率を高めるような政策が必要であり、規制改革がないと実施しにくいです。それとともに、需要を増やすためには、マクロ経済政策でインフレ目標を高めるべきです。

「インフレ目標2%」にこだわり、2%を超えたらすぐに金融引締に転ずるようなことをすれば、仮に年間で1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかることになります。

これは、「72の法則」として良く知られています。ちなみに、お金が2倍になる期間が簡単にわかる便利な算式がありますこれは、「72÷金利≒お金が2倍になる期間」となる。 たとえば、金利18%でお金を借りた場合、「72÷18=4」となるので、約4年で借りたお金が2倍になることがわかります。

インフレ目標を4%くらいに引き上げて、需要を少し強くすれば、簡単に名目5%くらいにできるのできます。目標を5%にすると倍増が13年~14年になるので、良い目標になります。ちなみに、この手法を高圧経済と呼びます。

他の効果的な政策も実施すれば、さらに目標達成は早くなります。たとえば、少子高齢化への対応として、経済学上でいうところの装置化を大々的に導入すべきです。

これは、昔なら機械化です。現在であれば、ロボット化のさらなる推進と、AIの積極活用です。無論ロボットのAI化も含みます。これでかなり生産性があがります。この生産性の向上に呼応して、日銀が金融緩和をさらに拡大すれば、経済は順調に伸びます。

これを積極的にすすめていけば、所得倍増は10年間で成し遂げられるかもしれません。

私は、少子化を様々な方法で改善することができるという説は、あまり信用していません。実際、そのような制度がなくても過去の日本では人口が飛躍的に伸びていた時期もあるのです。少子化の原因は何かをつきとめたり、それを解消する方法を見つけるのはかなり難しいと思います。であれば、少子化になっても困らない措置をするのか最上の策だと思います。

NHKの社員の平均賃金は1800万円といわれています。これが事実なのかどうかは、はっきりしません。

ただ、もし日本が平成年間に日銀が金融政策などを間違わなれば、日本も他の先進国と同様に賃金が伸びて、このくらいの水準は当たり前になっていたと考えられます。

岸田首相は、「令和版所得倍増」は、撤回しないというのなら、上で述べたような政策をとる必要があります。

これを実現して、「所得倍増」を是非とも実現していただきたいものです。岸田首相の経済対策はいずれも、岸田首相自身が「進歩の10年」と評価する、安倍・菅政権時の経済対策とは齟齬をきたすものばかりですが、「所得倍増」はそうではありません。

安倍・菅政権の経済政策の継続の上で、「所得倍増」は成り立つものです。この政策だけが、アベノミックスと親和性があります。


人間には、三種類あります。最初のタイプは、先人の遺産を引き継ぎ発展させるタイプ、次のタイプは、先人の遺産を引き継ぎ維持するタイプ、最後は先人の遺産を破壊するタイプです。

岸田総理が、今後増税、金融引締方向に走れば、日本人の賃金がさらに下がることになります。これは安倍・菅政権の遺産を破壊することになります。

「所得倍増」を成し遂げれば、安倍・菅政権の遺産を引き継ぎ発展させることになります。いずれの道を選ぶかは、岸田総理自身です。

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2023年3月1日水曜日

林外相、クアッド出席へ 与野党が合意―【私の論評】林外相のG20不参加は、Quad、インド太平洋戦略の生みの親、安倍晋三氏のレガシー潰しか(゚д゚)!

林外相、クアッド出席へ 与野党が合意

林芳正外相=衆院本会議場

 衆院議院運営委員会の理事会で6日、政府が安倍晋三首相と河野太郎外相の海外出張について説明したのに対し、野党側は国会軽視の対応だとして反対し、理事会の了承を得られませんでした。

 林芳正外相が3日にインドで開かれる日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の外相会合に出席できる方向になった。自民党の野上浩太郎、立憲民主党の斎藤嘉隆両参院国対委員長が1日、国会内で会談し、3日の参院予算委員会の一般質疑に林氏の出席を求めないことで合意した。野上氏が斎藤氏に提案した。

 参院予算委は1、2日の両日、岸田文雄首相と全閣僚が出席する基本的質疑を実施。林氏は1~2日にインドで開かれる20カ国・地域(G20)外相会合への参加を断念したが、与党は外交上の国益の観点から、林氏がクアッドに出席できるよう野党と調整していた。

【私の論評】林外相のG20不参加は、Quad、インド太平洋戦略の生みの親、安倍晋三氏のレガシー潰しか(゚д゚)!

最初、林外相はG20外相会談も、QUAD外相会談も、出席するつもりであったとされています。ところが、国会の予算審議には、副大臣ではなく外相本人が出席すべきだという意見が主に野党側から上がり、結局、日程の関係上、国会における予算審議を優先し、インドへの訪問の日程をずらすことにしたのです。

G20外相会談への出席はもうできない状況になりました。これに関しては、当然のことながら、まともな議員らかに非難轟々となったので、QUAD外相会談参加は、急遽の合意で決まったのでしょう。

林外相は、山崎幸二統合幕僚長と共に、インド外務省が資金を出して100カ国以上の出席者が集まる大きな国際会議であるライシナ会議でもスピーチをする予定でした。それも欠席します。

どうして最初から、G20含め根回し、日程調整しなかったのでしょうか。これは、以前からいわれてきたことですが、国会改革をしないと、長く真面目に総理の任を果たそうとする人は「国会に殺されてしまいかねない」です。昨日もこのブログに掲載したメディアによる首相動静もやめるべきです。岸田首相のキーウ訪問は、無論電撃訪問にすべきです。そうでなければ、日本外交は地に落ちます。


林外務大臣はもちろん、外務省、さらに自民党の"外交センス"が、実はこんなレベルだったという残念な現実の露呈です。これはG7議長国として、またG20への責任の自覚の欠如のみならず、QUAD軽視、インド軽視の姿勢の表れでしょう。同時にQuadやインド太平洋戦略の父でもある安倍晋三氏のレガシー潰しと疑われても仕方ないと思います。

そもそも、日本の多くの国会議員は、インド太平洋戦略やQuadの重要性を認識しておらず、政局にしか関心がなく、外交、安保などどうでも良く、とにかく安倍首相の功績でもある、これらのレガシーを潰したくて仕方ないのかもしれません。野党は無論のこと、与党の中にもそうした馬鹿者、愚か者が存在しているからこそ、今回のような事態が生じてしまったのではないでしょうか。

このようなことは、安倍氏が総理大臣であったときにもありました。衆院議院運営委員会の理事会で2018年7月6日、政府が安倍晋三首相と河野太郎外相の海外出張について説明したのに対し、野党側は国会軽視の対応だとして反対し、理事会の了承を得られませんでした。

日本共産党の塩川鉄也議員は、河野外相が野党の要求で国会に出席したためチャーター機を利用し「質問は2問しか出なかった。1問が何千万円だ」などと発言した問題について、「国会出席を軽んじる発言だ」と批判。首相外遊日程も当初より大幅に延長されており「大臣には国会での応答義務(説明責任)があり、それを果たすべきだ」と述べました。

立憲民主、国民民主、無所属の会の各党会派も「国会会期を一方的に延長しておきながら国会軽視もはなはだしい」などと指摘。古屋圭司議運委員長は、河野氏の発言について「よろしくない」と苦言を呈したものの、「政府の判断で対応を」と述べました。

当時の河野外相も、安倍総理も無論、重要な案件で海外に行っていたと思います。当時これは話題となり、海外においては首相や外相が、国会会期中にすべの審議に出席する義務はないことが報道されたりしていました。

サウジアラビア北西部ウラでムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談した安倍晋三首相(2020年1月12日)

この状況は現在も変わっていないのです。海外では、国会会期中に大統領や、首相や、閣僚が海外の重要会議に出席することも珍しくもありません。ですから、国会出席を理由にG20を欠席するというのは非常に珍しいですから、すでに世界的なニュースになってしまったことが非常に問題です。

出席しても大したニュースにはならないですが、欠席したことで、大きなニュースになってしまいました。何が起きているのか、世界中が注目しています。

インドはG20議長国として、今年50以上の都市で200以上のイベントを開催します。その中で外相会談は9月の首脳会談を除けば、トップクラスの目玉です。

その目玉である外相会談を、日本だけが欠席したのですから、インドが本気で取り組んでいる会議にはでなくていいと、日本はメッセージを送ったことになります。これは、インドのプライドを深く傷つけたでしょう。

G7に新興の影響力ある13カ国を加えて会議を行うのです。ところが、日本がG20には1ランク下げた大臣を送るならば、どのようなメッセージを送ることになるでしょうか。

G20はG7に影響力のあると見られる国13カ国を加えて行う会議です。今回、林外務大臣は行かず、ランクが下の副外務大臣を行かせるということは、日本にとってG7は大事だが、残りの13カ国は大事ではないというメッセージを送ってしまうことになります。

実際の世界の現状はそうではありません。G7だけでは足りないから、最近、G7各国は、G7以外で力をつけつつある国をゲスト国として呼び、G7とそれらの新興国を合わせて、会議を行うのです。

日本も今年5月に広島で開催する、G7にゲスト国としていくつかの国々を呼ぶでしょう。日本自身が送る大臣のランクを下げたのに、これらの新興国は応じてくるでしょうか。

さらに問題なのは、今回のG20に中国の外相は出席しているということです。今年、インドは、G20の議長国というだけではなく、上海協力機構の議長国でもあります。しかし、インド軍は、印中国境で中国軍と戦闘準備状態でにらみ合ったままです。

そのような中で、インドは中国に対し、厳しい姿勢で臨んでいます。だから、日本や米国との協力関係を深め、昨年後半には、米軍を印中国境近くに受け入れて共同演習も行い、今年に入ってからは、日印共同演習が1月から3月まで4回(陸1回、海1回、空2回)も行っているのです。

日本がインドに派遣する大臣のランクを下げれば、インドは日本に興味があるのですが、日本の方はインドに興味ないかのようなメッセージを送ったことになり、これは日本の国益を損ねことになります。最大の問題は、国会が林外相のG20出席の重要性に気付いていなかったことです。そもそも日本の国会は、世界情勢に影響を与える国としての体制になっていません。

国会議員は、もっと世界で講演すべきですし、そもそも「外遊」という、まるで遊びに行くような言い方で外交を軽視することは改めるべきです。外交は国内政治の延長として起きる部分はありますが、同時に世界情勢の変化は、国内を動かします。日本の防衛政策が、冷戦期と冷戦後で違うのを見れば、世界の動きが日本国内を変えているのは明らかです。

安倍首相は「インド太平洋」の重要性を説き「QUAD」の設立を提唱しました。この動きにより、現在の世界はそれまでの世界とは明らかに異なる秩序が形成され、中国の危険性が認識されました。

QUADの父安倍晋三氏(右)とインドのモディ首相

まさに、安倍外交によって日本から世界を動かす時代になったのです。安倍元総理が「インド太平戦略」を打ち出し、それに多くの国が共鳴したことにより、日本は単独で中国と対峙するのではなく、多くの国々とともに対峙する体制を整えることができました。

国内情勢を良い方向にもっていくためには、日本自身が世界情勢を動かす必要がある、ということを、国会はよく認識すべきです。そういう体制を整えることができなければ、同じような問題を、また起こすことになります。

林外相はQuadの会議には出席することになりました。G20に参加しなかった失地をできるだけ、取り戻すべきです。岸田首相も、林外相も安倍元首相のような外交ができないのは仕方ないと思いますが、このレガシーを潰すような真似だけはしないでいただきたいです。

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