2023年3月1日水曜日

林外相、クアッド出席へ 与野党が合意―【私の論評】林外相のG20不参加は、Quad、インド太平洋戦略の生みの親、安倍晋三氏のレガシー潰しか(゚д゚)!

林外相、クアッド出席へ 与野党が合意

林芳正外相=衆院本会議場

 衆院議院運営委員会の理事会で6日、政府が安倍晋三首相と河野太郎外相の海外出張について説明したのに対し、野党側は国会軽視の対応だとして反対し、理事会の了承を得られませんでした。

 林芳正外相が3日にインドで開かれる日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の外相会合に出席できる方向になった。自民党の野上浩太郎、立憲民主党の斎藤嘉隆両参院国対委員長が1日、国会内で会談し、3日の参院予算委員会の一般質疑に林氏の出席を求めないことで合意した。野上氏が斎藤氏に提案した。

 参院予算委は1、2日の両日、岸田文雄首相と全閣僚が出席する基本的質疑を実施。林氏は1~2日にインドで開かれる20カ国・地域(G20)外相会合への参加を断念したが、与党は外交上の国益の観点から、林氏がクアッドに出席できるよう野党と調整していた。

【私の論評】林外相のG20不参加は、Quad、インド太平洋戦略の生みの親、安倍晋三氏のレガシー潰しか(゚д゚)!

最初、林外相はG20外相会談も、QUAD外相会談も、出席するつもりであったとされています。ところが、国会の予算審議には、副大臣ではなく外相本人が出席すべきだという意見が主に野党側から上がり、結局、日程の関係上、国会における予算審議を優先し、インドへの訪問の日程をずらすことにしたのです。

G20外相会談への出席はもうできない状況になりました。これに関しては、当然のことながら、まともな議員らかに非難轟々となったので、QUAD外相会談参加は、急遽の合意で決まったのでしょう。

林外相は、山崎幸二統合幕僚長と共に、インド外務省が資金を出して100カ国以上の出席者が集まる大きな国際会議であるライシナ会議でもスピーチをする予定でした。それも欠席します。

どうして最初から、G20含め根回し、日程調整しなかったのでしょうか。これは、以前からいわれてきたことですが、国会改革をしないと、長く真面目に総理の任を果たそうとする人は「国会に殺されてしまいかねない」です。昨日もこのブログに掲載したメディアによる首相動静もやめるべきです。岸田首相のキーウ訪問は、無論電撃訪問にすべきです。そうでなければ、日本外交は地に落ちます。


林外務大臣はもちろん、外務省、さらに自民党の"外交センス"が、実はこんなレベルだったという残念な現実の露呈です。これはG7議長国として、またG20への責任の自覚の欠如のみならず、QUAD軽視、インド軽視の姿勢の表れでしょう。同時にQuadやインド太平洋戦略の父でもある安倍晋三氏のレガシー潰しと疑われても仕方ないと思います。

そもそも、日本の多くの国会議員は、インド太平洋戦略やQuadの重要性を認識しておらず、政局にしか関心がなく、外交、安保などどうでも良く、とにかく安倍首相の功績でもある、これらのレガシーを潰したくて仕方ないのかもしれません。野党は無論のこと、与党の中にもそうした馬鹿者、愚か者が存在しているからこそ、今回のような事態が生じてしまったのではないでしょうか。

このようなことは、安倍氏が総理大臣であったときにもありました。衆院議院運営委員会の理事会で2018年7月6日、政府が安倍晋三首相と河野太郎外相の海外出張について説明したのに対し、野党側は国会軽視の対応だとして反対し、理事会の了承を得られませんでした。

日本共産党の塩川鉄也議員は、河野外相が野党の要求で国会に出席したためチャーター機を利用し「質問は2問しか出なかった。1問が何千万円だ」などと発言した問題について、「国会出席を軽んじる発言だ」と批判。首相外遊日程も当初より大幅に延長されており「大臣には国会での応答義務(説明責任)があり、それを果たすべきだ」と述べました。

立憲民主、国民民主、無所属の会の各党会派も「国会会期を一方的に延長しておきながら国会軽視もはなはだしい」などと指摘。古屋圭司議運委員長は、河野氏の発言について「よろしくない」と苦言を呈したものの、「政府の判断で対応を」と述べました。

当時の河野外相も、安倍総理も無論、重要な案件で海外に行っていたと思います。当時これは話題となり、海外においては首相や外相が、国会会期中にすべの審議に出席する義務はないことが報道されたりしていました。

サウジアラビア北西部ウラでムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談した安倍晋三首相(2020年1月12日)

この状況は現在も変わっていないのです。海外では、国会会期中に大統領や、首相や、閣僚が海外の重要会議に出席することも珍しくもありません。ですから、国会出席を理由にG20を欠席するというのは非常に珍しいですから、すでに世界的なニュースになってしまったことが非常に問題です。

出席しても大したニュースにはならないですが、欠席したことで、大きなニュースになってしまいました。何が起きているのか、世界中が注目しています。

インドはG20議長国として、今年50以上の都市で200以上のイベントを開催します。その中で外相会談は9月の首脳会談を除けば、トップクラスの目玉です。

その目玉である外相会談を、日本だけが欠席したのですから、インドが本気で取り組んでいる会議にはでなくていいと、日本はメッセージを送ったことになります。これは、インドのプライドを深く傷つけたでしょう。

G7に新興の影響力ある13カ国を加えて会議を行うのです。ところが、日本がG20には1ランク下げた大臣を送るならば、どのようなメッセージを送ることになるでしょうか。

G20はG7に影響力のあると見られる国13カ国を加えて行う会議です。今回、林外務大臣は行かず、ランクが下の副外務大臣を行かせるということは、日本にとってG7は大事だが、残りの13カ国は大事ではないというメッセージを送ってしまうことになります。

実際の世界の現状はそうではありません。G7だけでは足りないから、最近、G7各国は、G7以外で力をつけつつある国をゲスト国として呼び、G7とそれらの新興国を合わせて、会議を行うのです。

日本も今年5月に広島で開催する、G7にゲスト国としていくつかの国々を呼ぶでしょう。日本自身が送る大臣のランクを下げたのに、これらの新興国は応じてくるでしょうか。

さらに問題なのは、今回のG20に中国の外相は出席しているということです。今年、インドは、G20の議長国というだけではなく、上海協力機構の議長国でもあります。しかし、インド軍は、印中国境で中国軍と戦闘準備状態でにらみ合ったままです。

そのような中で、インドは中国に対し、厳しい姿勢で臨んでいます。だから、日本や米国との協力関係を深め、昨年後半には、米軍を印中国境近くに受け入れて共同演習も行い、今年に入ってからは、日印共同演習が1月から3月まで4回(陸1回、海1回、空2回)も行っているのです。

日本がインドに派遣する大臣のランクを下げれば、インドは日本に興味があるのですが、日本の方はインドに興味ないかのようなメッセージを送ったことになり、これは日本の国益を損ねことになります。最大の問題は、国会が林外相のG20出席の重要性に気付いていなかったことです。そもそも日本の国会は、世界情勢に影響を与える国としての体制になっていません。

国会議員は、もっと世界で講演すべきですし、そもそも「外遊」という、まるで遊びに行くような言い方で外交を軽視することは改めるべきです。外交は国内政治の延長として起きる部分はありますが、同時に世界情勢の変化は、国内を動かします。日本の防衛政策が、冷戦期と冷戦後で違うのを見れば、世界の動きが日本国内を変えているのは明らかです。

安倍首相は「インド太平洋」の重要性を説き「QUAD」の設立を提唱しました。この動きにより、現在の世界はそれまでの世界とは明らかに異なる秩序が形成され、中国の危険性が認識されました。

QUADの父安倍晋三氏(右)とインドのモディ首相

まさに、安倍外交によって日本から世界を動かす時代になったのです。安倍元総理が「インド太平戦略」を打ち出し、それに多くの国が共鳴したことにより、日本は単独で中国と対峙するのではなく、多くの国々とともに対峙する体制を整えることができました。

国内情勢を良い方向にもっていくためには、日本自身が世界情勢を動かす必要がある、ということを、国会はよく認識すべきです。そういう体制を整えることができなければ、同じような問題を、また起こすことになります。

林外相はQuadの会議には出席することになりました。G20に参加しなかった失地をできるだけ、取り戻すべきです。岸田首相も、林外相も安倍元首相のような外交ができないのは仕方ないと思いますが、このレガシーを潰すような真似だけはしないでいただきたいです。

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