2023年3月4日土曜日

謝駐日代表が日経新聞に「遺憾」 退役軍人の関連報道巡り/台湾―【私の論評】今や日米と台湾の離反は、中共の最大のテーマ、中国側の心理戦に惑わされるな(゚д゚)!

謝駐日代表が日経新聞に「遺憾」 退役軍人の関連報道巡り/台湾

台湾軍女性兵士

 日本経済新聞が、台湾の軍幹部の約9割が退役後、中国に渡り、軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化しているなどと報じた問題で、台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)は3日、記事は確認と検証がされておらず、国軍の名誉を甚だしく傷つけたとして、深い遺憾の意を表明する文書を同紙に送った。謝長廷(しゃちょうてい)代表(大使に相当)が同日、自身のフェイスブックで明らかにした。

 報道を受けて国防部(国防省)は1日、「事実無根の作り話だ」と反論。総統府も2日、同紙に対して深い遺憾を表明し事実を明確にするよう求めていた。

 謝氏は同紙に、台湾の立場に立ち、バランスの取れた報道をするように求めたと報告。また退役軍人の関連業務を取りまとめる国軍退除役官兵輔導委員会の馮世寬(ふうせかん)主任委員(閣僚)が2日、立法院(国会)の外交・国防委員会で質疑に応じたことに触れ、その内容を日経に追加で送付するよう指示したことも明かした。

 また謝氏は、通常このような記事には執筆した記者の名前が書かれ、責任を負った上で掲載されると指摘。新聞社が検証を行うことを信じているとコメントした。

 一方、北部・台北市松山区の同紙台北支局では3日、男が尿をまく騒ぎが発生。謝氏は、焦点がずれてしまうとして、非理性的な行為をしないよう呼びかけた。

【私の論評】今や日米と台湾の離反は、中国の最大のテーマ、中国側の心理戦に惑わされるな(゚д゚)!

問題となっている日経新聞の記事は以下のリンクからご覧になれます。
台湾では2日正午ごろ、日本経済新聞社の台北市局の入口で撮影したとする写真2点(下写真)を添えて、「(自分が)抗議のために尿をかけた」とする表明するネット投稿がありました。同投稿は日本経済新聞に対して、24時間以内の謝罪を要求した。台湾警察は、現場を調べたところ「不明な液体」が存在したことを確認したことを明らかにしました。



警察側は同行為について、「関連する人物の身元をすでに特定しており、事情の説明を求める通知をする」と表明した。また、このような行為は社会秩序維持法第68条により、3日以下の拘留や1万2000台湾ドル(約5万3500円)以下の罰金を科すことができると紹介した上で、「民衆は理性的な方法で意見を表明すべきです。絶対に、法に抵触することを衝動的にしないでください」と呼びかけました。

従来は、台湾の防諜機関は中国の工作活動を未然に防ぐため日夜懸命の努力を重ねているものの、少なくない台湾軍関係者が中国側の誘いに乗ってしまうのはスパイ罪として有罪判決を受けても刑罰が軽すぎるという点に問題があるといわれていました。

軍法で裁かれる現役将兵の場合は最高で死刑もしくは無期懲役の刑罰が下されますが制服を脱いだ退役軍人は軍法ではなく国家安全保障法で裁かれるため刑罰(最大5年以下の懲役と100万台湾ドル/約400万円の罰金)が非常に軽く、中国側が提供する経済的な利益の方が不利益を上回ると言われていました。

この構造を熟知しているからこそ中国は台湾の退役軍人に多額の金品や無料の海外旅行を提供して誘惑していたのですが、台湾側も世論の圧力を受けて2019年に国家安全保障法の最高刑引き上げを実行、これにより制服を脱いだ退役軍人がスパイ罪として有罪判決を受けると最低でも7年以上(上限なし)の懲役と最低5,000万台湾ドル~最大1億台湾ドル/約2億円~約4億円の罰金が課されることになりました。

これは、2022年からさらに強化されました。台湾法務部は同年5月20日、「国家安全法」の改正草案が立法院の第三読会(立法に必要な3回の審議)を通過したと発表しました(法務部プレスリリース)。

今回の改正は、ハイテク産業の競争力保護を拡充し、経済発展を強固にするとともに、台湾の重要コア技術に関する営業秘密が域外の敵対勢力などによって侵害されないようにするため、当局が核心的なコア技術に関わる営業秘密の階層的保護システムを積極的に構築することなどを目的としています。

法務部によると、改正の要点は「経済スパイ罪」と「国家核心コア技術営業秘密の域外使用罪」の追加です。「経済スパイ罪」では、重要コア技術営業秘密を窃取、横領、だまし取り、脅迫、無断複製、あるいはその他の不正な方法で取得・使用・漏えいした場合、5年以上12年以下の懲役と、500万台湾元以上1億台湾元以下(約2,150万円以上4億3,000万円以下、1台湾元=約4.3円)の罰金を科される可能性があります。なお、「経済スパイ罪」に該当する案件の第1審は知的財産・商業法院の管轄となります。

「国家重要コア技術営業秘密の域外使用罪」では、台湾域外で重要コア技術に関する営業秘密を使用した場合は、3年以上10年以下の懲役と、500万台湾元以上5,000万台湾元以下の罰金を科される可能性があります。

中国が台湾に浸透しようとしても、もはや民主主義が定着した台湾で一党独裁の中国共産党政権に対する好感が高まっていくとは思えません。

台湾においては「天然独」と呼ばれる新しい世代の台頭があります。「天然独」とは「生まれながらの独立派」とでもいうべき30代半ば以前の若者達です。 彼らは「自らは台湾人」であるとの強いアイデンティティーを持ち、「台湾と中国は別々の存在」であることが、 空気のように自然な世代です。 台湾アイデンティティーは、今後強まることすらあれ、弱まることはありません。

そのため中国側の心理戦は「強大な中国に逆らって統一を拒み続けても無駄」「いざという時に外国は当てにならない」という考えを台湾で広めることに重点を置いているとみられます。

野党・国民党の馬英九前総統はロシア軍のウクライナ侵攻後、地元メディアに「米国は武器を売ったり、情報を提供したりしてくれるが(台湾を守るために)出兵はしない」と語りました。

馬英九(左)と習近平(右)

馬氏のような考えが今後増えて、統一に積極的な親中派政権が発足するのが中国にとって理想的パターンといえます。それでも台湾側の民意がちゅうちょして統一に向かわない場合、中国の指導者は武力行使の誘惑に駆られるかもしれないですが、中国の軍事力の実態から言えば、米軍もしくは日米同盟の直接介入は絶対に避けたいでしょう。

そこで、台湾だけでなく、日米に対する心理戦も重要になってきます。経済発展レベルを示す1人当たりの国内総生産(GDP)を見ると、中国はいまだに約1万3000ドルで、日本のわずか3分の1、米国の6分の1でしかないです。

ちなみに、ロシアと中国の一人あたりのGDPはほぼ同じです。ただ、中国の人口は14億人であり、ちょうどロシアの10倍であるため、国単位のGDPでは、中国GDPはロシアの10倍です。

しかし、人口の多さに起因するGDP規模の大きさを強調し、中国超大国論を拡散することにより、日米の世論や政官財界に対中宥和論を増やし、「台湾は超大国・中国の一部として生きていくのが最善」「米軍が介入しても、人民解放軍にはかなわない」「中国経済に依存せざるを得ないので、台湾問題より対中ビジネスを優先すべきだ」といった声が日米でどんどん広がっていけば、中国の統一政策に大いに寄与することになります。

今や日米と台湾の離反は、中共にとって最大のテーマとなっています。今回の出来事も、今後の台湾当局の捜査によらなければ、真相はわかりませんが、日本と台湾を離反させたい中国の意図とも関係があるかもしれません。このくらいのことで、日本と台湾の絆が崩れるわけもありませんが、今後このような出来事がかなり増えてくる可能性はあります。

日本側としては、これに留意して、中国の心理戦に乗らないようにすべきです。

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