2023年3月23日木曜日

岸田首相の早期衆院解散、観測強まる ウクライナ電撃訪問で政権内に追い風期待―【私の論評】防衛増税見送りを大義名分として岸田首相が衆院解散に踏み切る可能性が高まってきた(゚д゚)!

岸田首相の早期衆院解散、観測強まる ウクライナ電撃訪問で政権内に追い風期待

握手する岸田首相(左)とゼレンスキー大統領

 岸田文雄首相によるウクライナの首都キーウへの電撃訪問を受け、今国会会期中(6月21日まで)の衆院解散の観測が与党内で強まった。関係正常化で合意した16日の日韓首脳会談後に内閣支持率が上昇し、ウクライナ訪問がさらなる追い風になるとの期待感が政権内にあるからだ。

世論調査で支持率向上

 「ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならない。G7(先進7カ国)議長国のわが国はリーダーシップを発揮しなければならない」。23日に帰国した首相は同日の参院予算委員会に出席し、ウクライナ訪問の成果と決意を強調した。

 首相は16日に日韓首脳会談に臨み、17日には記者会見で子育て世帯への支援強化策を打ち出した。直後の18、19両日の産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では内閣支持率は45・9%。2月の前回調査から5・3ポイント増えた。

 ウクライナ電撃訪問の翌22日、自民党幹部の一人は「支持率はもっと上がるんじゃないか。選挙に勝てるかどうかだけを考えれば、こんなチャンスはない」と反応した。想定可能な衆院選日程で最も早いのは、3月下旬の令和5年度予算成立後に解散し、衆参5選挙区補欠選挙などと同じ4月23日投開票となる。

6月中旬「可能性高まってきた」

 ただ、首相周辺は「まだやることがある」と否定的だ。政府は3月末に少子化対策のたたき台を取りまとめ、4月1日にこども家庭庁を発足させる。広島市で5月19~21日に開くG7首脳会議(サミット)の準備も大詰めを迎える。

 6月中旬になれば、すでに広島サミットは閉幕し、具体的な少子化対策を盛り込む経済財政運営の指針「骨太の方針」も閣議決定できそうだ。このため、国会会期末間際の解散は「可能性が高まってきた」(閣僚経験者)との声が出ている。ある政府高官も、今年後半は国内経済や国際金融市場の不透明感が増す可能性があると指摘し、「今年前半に衆院選に打って出た方がよいという判断になるかもしれない」と語る。

 野党が会期末間際に内閣不信任決議案を提出し、岸田政権にノーを突き付ければ、首相が「国民の信を問う」と解散に踏み切る引き金になりうる。

【私の論評】防衛増税見送りを大義名分として岸田首相が衆院解散に踏み切る可能性が高まってきた(゚д゚)!

今後、岸田内閣の支持率低下が止まらず、仮に支持をしないが40%前後を維持することになれば、党内政局などにより内閣総辞職に至る可能性が出てくると考えられます。福田政権から野田政権まで、いずれも支持しないが40%を超えて退陣となっています。当時はそのほとんどの期間がねじれ国会であったため、単純比較はできないものの、一応の目安となりそうです。

2023年中に総辞職があるとすれば、支持率の低下があとサミットが終了してもほど止まらないケースでしょう。その場合、岸田首相の悲願とも言える5月のG7広島サミットを「花道」とした、辞職となるでしょう。


ただし、上のグラフをご覧いただいてもわかるように、ウクライナ訪問前より、支持率は上げ調子となっています。これで、ウクライナ電撃訪問で支持率があがり、さらにG7後に支持率があがることになれば、解散総選挙は可能になります。

早期の衆院解散は岸田政権にとってメリットはあるが、デメリットも相当に大きいです。

メリットとしては、野党の衆院選への共闘態勢が整っていない点を挙げることができます。立憲民主党と日本維新の会は、臨時国会の運営や審議にあたって共闘態勢を構築しました。ただ、両党の関係が、立候補者調整など選挙協力に発展するかはまだ不透明です。

これまでの国政選挙で構築されてきた野党共闘の枠組みの先行きも不透明で、早期に衆院解散に踏み切れば、野党が分断した状態で与党は選挙に臨むことができます。

一方、デメリットとしては、政権の安定を目指して衆院解散に踏み切っても、議席を大きく減らせば、その責任を問われるなどかえって政権が不安定化しかねない点が挙げられます。

2021年秋の衆院選において、総裁選が盛り上がった余韻が残る中、感染収束や野党共闘失敗にも助けられ、自民党は単独で絶対安定多数を獲得する大勝を飾ることができました。今後どのタイミングで衆院解散に踏み切っても、現状の議席を維持するハードルは高いのではないでしょうか。

もし今の状況で衆院解散に踏み切れば、有権者の支持を得られるか疑問符がつきます。

岸田首相が長期政権を志向する場合、最も望ましい衆院解散時期は、やはり自民党総裁選の直前となる2024年夏頃でしょう。衆院選で勝利すれば、総裁選を無投票再選で乗り切る可能性が高まるためです。

では、2023年中の可能性はどうでしょうか。もし行われるとすれば、やはりG7広島サミットを終えた後の年央以降でしょう。内閣支持率が持ち直し、勝てそうな、もしくは負けを抑えられそうなタイミングがあれば、衆院解散はあり得るといったところでしょう。

広島サミットの主会場に決まったグランドプリンスホテル広島


2023年の経済政策はどうなるでしょうか。これも、解散総選挙があるか否かの目安になります。

まず、岸田政権は20日付で氷見野、内田両氏を副総裁、4月9日付で植田氏を総裁に任命します。

植田氏は国際経済学が専門。金融緩和に積極的だった現職の黒田 東彦はるひこ 総裁に比べ、金融緩和による効果とともに悪影響にも配慮するとみられています。2月の衆参両院における所信聴取で、植田氏は金融緩和を継続する意向を示しつつ、「政策には効果と副作用が常にある。冷静に比較考慮し、適切な政策を実施していく」と語りました。

日銀との関係では、1998~2005年、金融政策の決定に関わる審議委員を務めた。ノーベル経済学賞を受賞した元米連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏らとも交流があり、国際人脈が豊富です。

副総裁となる氷見野氏と内田氏も、当面は金融緩和を続ける考えを示しています。氷見野氏は金融庁時代、主要各国が集まる国際的な金融規制の協議体でとりまとめ役を務めました。内田氏は日銀理事などとして現在の金融緩和策の大半の立案・設計に携わりました。

植田氏は、このブログでも以前に述べたように、どちらかというと金融システム重視派であり、国民経済や失業率などよりも、金融システムを重要視する傾向があります。しかしながら、現状の日本経済は、金融システムにとっても、緩和をすすめるほうが良い状況にあります。

金融緩和をやめて、引き締めに転じたほうが良いと考えるのは、金融機関のなかでも特殊ないわゆる債権村と呼ばれる人たちだけであり、金融システム重視であっても現状ですぐに金融引締に転じるべきとは、植田新総裁でも考えないでしょう。

副総裁となる氷見野氏と内田氏も当面は金融緩和を続ける考えを示していることを考えると、日銀がすぐに禁輸引き締めに走るなどのことは考えられません。すぐに、本格的な利上げを図ることもないとみられます。

財政を巡る自民党内の積極財政派と、財政再建派の路線対立は続いていますが、どちらかと言えば数的には、財政再建派のほうが多く、財政規律は緩む方向にあります。

防衛増税の実施時期決定が先送りされたように、内閣支持率が低迷する中、積極財政派の主張が通りやすくなっています。党内政局を引き起こさないよう、岸田政権は積極財政派の主張に配慮しています。仮に国民民主党が連立入りするなどのことがあれば、積極財政派の主張は勢いを増すでしょう。

積極財政派は増税反対で一枚岩ではなく、賛否が分かれているため、防衛増税が正式決定される可能性もあります。ただ、仮に景気が悪化すれば、防衛増税が見送りとなる可能性が出てきます。その場合、防衛増税見送りの信を問うため衆院解散に至るというシナリオは考え得ます。


過去を振り返れば、安倍政権は消費増税延期や軽減税率導入を大義名分として3度国政選挙に臨み、いずれも勝利しました。2014年12月の衆院選では、10%への消費増税延期の信を問うことを大義名分としました。2016年7月の参院選では、増税再延期を掲げました。2017年10月の衆院選では、軽減税率導入を掲げました。

あくまでも以上は、リスクシナリオにもとづく見立てですが、防衛増税見送りを大義名分として岸田政権が衆院解散に踏み切る可能性を頭の片隅に入れたほうが良いでしょう。

防衛増税の時期も、何年何月からということではなく、失業率やその他の経済指標などをもとに、指標を作成し、それを超えた場合に増税するなどのことをすれば、自民党内の積極財政派も納得するでしょうし、有権者も納得するベストシナリオになるかもしれません。

その次の段階では、防衛増税だけではなく、すべての増税に関して、これを適用するようにすれば、岸田政権は長期政権になるかもしれません。ウクライナ外交で大成功した現在、G7サミットでも大成功すれば、このシナリオは十分あり得るものとなってきました。

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