2024年1月12日金曜日

【奇跡の救出劇】JAL機炎上事故…乗客を救ったCAの半分が新人だった!―【私の論評】JAL機御巣鷹山墜落事故の教訓と企業内コミュニケーションの重要性

【奇跡の救出劇】JAL機炎上事故…乗客を救ったCAの半分が新人だった!

まとめ
  • JAL機の事故では、CAの迅速な避難誘導で乗員乗客全員が脱出できた。
  • 事故機のCAの約半数は、入社してまだ日が浅い新人だった。
  • JALのCA研修は厳しく、あらゆる事態を想定した訓練が徹底されている。
  • 今回の救出劇は、その厳しい訓練の賜物だったと言える。
  • 新人CAたちは緊張感の中で冷静に任務を遂行し、プロの実力を発揮した。
  • 彼女たちの努力に敬意を表したい。JALの訓練システムの重要性が示された。
日航のCA

 JAL機のバードストライク事故で、CAたちの迅速な避難誘導により、乗員乗客379人全員が脱出することができた。驚くべきことに、事故機のCAの約半数は入社して日が浅い新人だった。

 JALのCA研修は、バードストライクや火災など緊急事態の訓練が徹底的に行われる。新人CAはこの過酷な訓練に耐え抜き、言葉や動作のすべてにおいてプロフェッショナルとしての実力を磨かれる。今回の救出劇は、そうした訓練の成果が発揮された結果だったと言える。

 新人CAたちは、自らもパニックに陥いていただろうが、訓練で身につけた手順と冷静さを保ち任務を全うした。彼女たちの努力に心からの敬意を表したい。JALの訓練システムの重要性と、それを支える新人CAの規律正しさが示された事例だった。CAのプロフェッショナリズムが、乗員乗客の命を救った。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】JAL機御巣鷹山墜落事故の教訓と企業内コミュニケーションの重要性

まとめ
  • 日航123便の1985年の御巣鷹山墜落事故は520人もの死者を出した
  • 事故の教訓が今回のJAL機の事故で生かされたとみられる
  • 成功の要因は訓練やCAの規律正しさだけではなく、社内でコミュニケーションが確立されていたことに大きな要因があるとみられる
  • 日航では安全のための真のコミュニケーションが共有されていたようだ
  • 企業内のコミュニケーションが重要である
航空機事故として、日本で最大のものは、日航機の御巣鷹山への墜落事故です。1985年8月12日、日本航空123便(ボーイング747SR-100型機)が、群馬県多野郡上野村の御巣鷹山に墜落しました。この事故は、単独機での事故としては、死者数において世界最悪の航空事故となりました。

事故の原因は、機体後部圧力隔壁の破壊とされています。この破壊により、大量の空気が流れ出し、垂直尾翼の構造が破壊されました。そのため、機体は制御不能に陥り、御巣鷹山に墜落したとされています。

事故機の乗客乗員524名のうち、死亡者数は520名、生存者は4名でした。

この事故では、事故の発生場所が山奥だったことや、事故当日の天候が悪かったことも、生存者の数を減らした要因と考えられます。また、事故機の脱出の方法にも問題があった可能性があり、乗客は機体から脱出する際に、様々な危険にさらされました。

出典は、以下のとおりです。
  • 日本航空123便墜落事故に係る航空事故調査報告書(昭和62年6月公表)
  • 日本航空123便墜落事故の真実(柳田邦男著)
  • 8・12連絡会ホームページ
なお、事故の原因や事故の状況については、様々な意見や説があります。しかし、事故調査委員会が発表した最終報告書では、機体後部圧力隔壁の破壊が原因であると結論づけられています。

この事故は、単独機での事故としては、死者数において世界最悪の航空事故となりました。事故の教訓を踏まえ、この航空機事故の防止に取り組んできました。

その成果が、今回の事故では生かされたようです。

ただ、今回の成功に関して、厳しい訓練を義務付けたからとか、CAの資質によるもののみではなく、やはり、日航内でのコミュニケーションが行き届いていたこともあると思います。

ただ、このブログでも、以前述べたことがありますが、コミュニケーションという言葉ほど曖昧に使われている言葉ありません。

アベノミクス以前のかなり景気が悪かった時期に多くの企業で採用の「コミュニケーション重視」と謳う企業が多く存在したので、就職フェアに参加していた他のいくつかの大手企業の採用担当者に「御社でいうコミュニケーションとは何を意味するのですか」と聞いてみたことがありました。

その返答はみな曖昧で、結局私には、結局のところ「景気が悪いから、独創的な人や、チャレンジ精神あふれる人ではなく、あたりさわりのない"調整型"の人を採用したい」というふうにしか聞こえませんでした。"調整型"ではあまりに格好が悪いので「コミュニケーション」という言葉言い換えたとしか思えませんでした。

この言葉は、定義が明確にされないまま、使われています。この定義に関しては、経営学の大家のドラッカー氏の原理を、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
豊田真由子議員が会見「生きているのが恥ずかしい、死んだ方がましではないかと思ったこともありました」―【私の論評】私達の中の1人から私達の中のもう1人に伝わるものとは?

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事よりコミュニケーションの原理に関わる部分を以下に引用します。

"
1. コミュニケーションは知覚である
これは単純に言ってしまうと、相手の立場に立つということです
知覚という言葉を広辞苑で引くと「感覚器官への刺激を通じてもたされた情報をもとに、外界の対象の性質・形態・関係および身体内部の状態を把握する働き」と出てきます。つまり、自分とその周囲のものとの差を感じるということです。 
相手との違いをきちんと把握し、相手に合わせた手段でもって人と接する必要があるということです。ソクラテスは、「大工と話すときは、大工の言葉を使え」と言っています。例えば、自分が日本語と英語を話せて相手が英語しか話せなかったら、当然のように英語を使います。相手の立場に立って意思疎通をとる必要があります。受け手がいなければコミュニケーションが成り立たないのです。 
言葉だけでなく、自分の持っている情報と相手の頭にある知識は異なります。どのような言葉を使えば相手にストレートに伝わるのかを考えながらコミュニケーションをとる必要があるのです。
2. コミュニケーションは期待である
人は自分が期待していないものを知覚できない生き物です。期待していないものには意識がいかず、誤解が生じたりすることにつながるのです。相手の期待に反するようなことを伝えると相手に上手に伝わらないのはそのためです。 
今のやり方を維持したい部下に対して違うやり方を一方的に伝えても、それは相手の期待に反することであり、本当の意味で伝わることは難しくなります。そのような場合には、最初のやり方を変えるところから一緒に話し合い、納得してもらう必要があります。
受けての受け入れ範囲

3. コミュニケーションは要求である
つまり、相手の期待の範囲を知ること。コミュニケーションをとるということはつまり、相手に何らかの要求があるということです。自分の話を聞いて何かを変えたいと思うから、人は誰かとコミュニケーションをとろうとするのです。それが受け手の価値観に合致したとき、その要求は相手に伝わります。しかし、合わない時にはそれは反発され受け入れられません。コミュニケーションが難しいとされるのは、相手に何かしらの変化を与えることの難しさからくるのでしょう。 
相手に何か変化を与えたいと思ったとき、それは相手の期待の範囲をこえる場合もあります。その場合には、これからおこることは相手の期待の範囲を超えていることを伝えなけばなりません、そのためには覚醒のためのショックを与える必要があります。
覚醒のためのショックというと、仰々しいですが、平たくいうと、企業活動の日常でよくあるのは叱ることです。
この覚醒のショックを与えるには、相手の期待を良く知っていないければ無理です。 
4. コミュニケーションは情報ではない
コミュニケーションは情報ではありません。しかし、両者は相互依存関係にあります。情報は人間的要素を必要とせず、むしろ感情や感想、気持ちなどを排除したものの方が信頼される傾向にあります。そして、情報が存在するためにはコミュニケーションが不可欠です。 
しかし、コミュニケーションには必ずしも情報は必要ありません。必要なのは知覚です。相手と自分との間に共通するものがあれば、それでコミュニケーションは成り立つのです。
この原則からすると、豊田真由子氏と元秘書との間にはコミュニケーションが成り立っていなかったということで、豊田真由子氏は元秘書の期待の範囲を良く理解していなかったのだと思います。

豊田氏と元秘書の間には、「私達という関係」が成り立っていなかったのです。コミュニケーションが「私達の中の1人から、私達に伝わるもの」であるということを考えると、コミュニケーションの成り立っていない間柄の人間同士では、表面的な付き合いしかできないということです。

しかし、豊田氏はこのことを理解せず、相手のことを理解せず、「このハゲー」という覚醒のためのショックを与え、自分の要求を通そうとしたのです。

しかし、結果は惨憺たるものであり、元秘書は、豊田氏の覚醒のためのショックを暴言、暴力と受け取ってしまったのです。

"
上の記事の中で太字の部分は「私達の中の1人から、私達に伝わるもの」は、ドラッカー氏がコミュニケーション論議の結論と位置づける重要なものです。

私が、先に「ただ、今回の成功に関して、厳しい訓練を義務付けたからとか、CAの資質によるもののみではなく、やはり、日航内でのコミュニケーションが行き届いていたこともあると思います」と述べたのは、無論このコミュニケーションの原理にもとづくそれです。

上の記事には、コミュニケーションについては述べられていないものの、その原理を想起させる内容もあります。

たとえば、上の記事元記事には、 "なかには教官から『これが本番だったら、お客様は死んでいました。あなたは命を預かる責任の重さをわかってるの? 』と怒られ、涙を流す子もいるほどです」"という記述がありますが、これはコミュニケーションの原理"3.コミュニケーションは要求である"に関するものです。

ここで述べた、「覚醒のためのショック」です。日航では、安全を巡って様々なコミュニケーションが展開される、素地ができていたものと思います。

日航に入社したひとたちが、受ける新人の訓練の中には、厳しい安全に関する教育・訓練が含まれており、これを実施することで「私達といえる関係」を構築しているのでしょう。

その他にも、日航内では、公式でも非公式でも、様々なコミュニケーションが実施され、安全に関わる心構えが、社員に徹底されているいるのだと思います。

訓練システムや、規律正しさ、日航の社員の安全に関する心構えが、様々なコミュニケーションによって共有されているのでしょう。

コミュニケーションは私達の一人から私達につたわるもの

素晴らしい訓練システムが存在し、CAに規律があったからといって、それだけでは今回のような事故の安全確保ができるとは限らないと思います。

今後企業経営者が訓練システムを強化し、規律正しい新人を雇うことにだけ注力をした場合、いざというときに、日航のCAのような対応をとれるとは限らないです。

俗にいう、「ほうれんそう」=「報告・連絡・相談」を密にすることは、そもそもコミュニケーションではありません。ましてや、ノミニケーションでコミュニケーションが良くなる可能性は否定しきれませんが、これはコミュニケーションそのものではありません。実際、私達という関係を構築できていない人と飲みにいってもあまり楽しくはありません。

上の記事はそういう意味では物足りないです。もっと、日航の会社内でどのようなコミュニケーションがとられているのか、特に安全に関して、どのようにされているのか、それを明らかにして欲しかったです。

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米英メディア、乗客全員の脱出「奇跡」 航空機衝突事故で―【私の論評】羽田空港 衝突事故 乗客全員脱出 訓練・規律・準備が功を奏す 今後の安全対策に課題も

2024年1月11日木曜日

〝麻生vs中国〟バトル再燃!台湾総統選直前 麻生氏「軍事的統一は国際秩序に混乱招く」 中国「内政干渉、自国に災難招く」―【私の論評】麻生氏の発言で浮かび上がる日本の対潜水艦戦力:台湾海峡の安全確保への新たな一歩

〝麻生vs中国〟バトル再燃!台湾総統選直前 麻生氏「軍事的統一は国際秩序に混乱招く」 中国「内政干渉、自国に災難招く」

まとめ
  • 自民党麻生副総裁は、米国訪問中、台湾への軍事的圧力を強める中国に対し、軍事的統一は国際秩序を乱すとして厳しく牽制した。
  • 台湾有事に日本が直接介入する可能性を示唆し、日米同盟の強化やAUKUSへの参加を主張した。
  • 中国は麻生氏の発言を強く批判し、日本は中国の内政に干渉すべきではないと主張した。
  • 麻生氏は、訪米前の地元福岡での国政報告会で「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語り、「台湾に戦っておいてもらわなければ、邦人を無事に救出することは難しい」とも述べている。
  • この発言は、中国の反発を招くとともに、中国の軍事的圧力に強く牽制する姿勢は、抑止力として働く可能性がある。
昨年8月08日、麻生太郎氏は台湾を自民党議員団とともに訪台した際の写真

 自民党の麻生太郎副総裁が米ワシントン訪問中、中国の台湾に対する軍事的圧力に対して強硬な姿勢を示した。彼は、「軍事的統一は国際秩序を混乱させるだけで許されない」と述べ、中国の行動を牽制した。麻生氏は過去にも度々台湾有事に言及し、中国側の反発を招いていまる。特に、台湾総統選が迫っている中、麻生氏と中国との対立が緊迫している。

 麻生氏は米シンクタンク「米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)」の主催会合で講演し、「対話継続を諦めてはいけない」と述べ、日米両国が協力して中国に自制を促す必要性を強調した。また、彼はロシア、中国、北朝鮮の軍事動向を「権威主義国家の脅威」と断じ、日米同盟の重要性を訴えた。地域の安定と平和を確保するために、日本も米英豪との安全保障枠組み「AUKUS」に参加すべきだとの立場を示した。

 中国大使館は麻生氏の発言に対し、「強烈な不満と断固とした反対」を表明し、「日本の政治家が再び台湾問題で勝手なことを言い、中国の内政に干渉した」と非難した。中国は、「(日本が)中国内政と日本の安全を結び付ける考えに固執すれば、自国や地域に災難を招くだろう」と強調した。

 麻生氏はワシントン訪問に先立ち、福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語り、「台湾に戦っておいてもらわなければ、邦人を無事に救出することは難しい」とも述べている。これらの発言は、特に台湾総統選前のタイミングで、中国に対する反対姿勢を示すものであり、国内外で大きな注目を集めている。

【私の論評】麻生氏の発言で浮かび上がる日本の対潜水艦戦力:台湾海峡の安全確保への新たな一歩

まとめ
  • 麻生氏のワシントン訪問前の福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語ったことが注目されている。
  • 「潜水艦など」の発言は、日本のASW(対潜水艦戦)の可能性を指摘しており、現代海戦においてはASWの強さが勝敗を決定する。
  • 日本と米国はASWにおいて他国を圧倒しており、中国のASWは日米に比べて遅れているため、日本や米国の海軍が優位性を持っている。
  • ASWにはハードだけでなくソフト面も重要であり、長年の経験とノウハウが必要であり、中国がASWで日米に追いつくには数十年かかる。
  • 麻生氏の発言は、台湾海峡の緊張激化、麻生自身の中国に対するタカ派的な立場、国内政治への配慮などが背景にあり、日本政府の姿勢の変化を示していると考えられる。
私は、麻生氏はワシントン訪問に先立ち、福岡県での国政報告会で、「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」可能性について語ったことに注目しました。

私は、「潜水艦など」の発言は、日本のASW(対戦水艦戦争)のことを意味するのではないかと解釈しました。現代海戦においては、空母などの水上艦艇はミサイルの標的にすぎませんが、潜水艦は違います。日米ともに、対潜哨戒能力に優れ、他国を圧倒しています。日本は静寂性に優れた潜水艦を持ち、米国は破格の攻撃力を持つ攻撃型原潜を持っています。

よって両国ともASWに関しては、他国を圧倒しています。現代海戦においては、ASWが強い軍隊が勝利を収めます。ASWが弱い海軍は、これに強い海軍に勝つことはできません。中国のASWは日米に比較すると相当遅れているので、日本や米国の海軍に勝つことはできません。

このことは、このブログにおいて、何度か指摘してきました。これと同じようなことを元海将伊藤俊幸氏が語っているのですが、伊東氏によれば、「私はこのようなことを語るから、テレビに出してもらえない」と語っておられました。 確かに、テレビなどでは、これはタブーのようです。

ただ、このタブーは、テレビ局だけではなく、新聞などのマスメディア全体はもとより、政治家、官僚などにとってもタプーだったようで、台湾有事や尖閣有事などに関する対処方法としては、過去には潜水艦やASWについてはあまり触れられることはありませんでした。

日本の対潜哨戒機P1

日本での、台湾有事のシミレーションでは、潜水艦といういう言葉はまずありませんでした。特に、マスコミなどはそうです。多くの識者や報道関係者によって、台湾有事においては、日本には潜水艦隊など存在しないかのように、潜水艦にふれることはありませんでした。多くの人は、未だに台湾有事というと、潜水艦をはじめとする、日本のASWを有効に使うべきという発想には至っていないのではないでしょうか。

日本のASWに関する代表的な私のブログの記事を以下にあげます。
中国「戦争恐れない」 尖閣めぐる発言に日本は断固たる措置を 高橋洋一―【私の論評】中国の脅威に直面する日本の安全保障:意思の強さと抑止力の重要性
軍事科学院の何雷・元副院長(中将)

この記事の中でASWに関わる部分のみを以下に掲載します。
私は、中国は対潜水艦戦(ASW)で日米にかなり劣っているため、現実には中国が尖閣や台湾への軍事侵攻をする可能性は低いと思っています。

ただ、こういうことを言うと、中国のASWも相当進んできているから、そうとは言えないと主張する人が必ずでてきます。

しかし、こういう人たちは大事なことを忘れていると思います。それはASWにはハード面も重要ですが、ソフト面も重要であるということです。

借りに、中国海軍が、日米なみにASWのハード面を整えたとしても、すぐにはASWが日米並にはならないということです。ASWはそれだけでは強化できず、長年の経験とノウハウの積み重ねが必要だからです。ましてや、中国海軍のASW関連のハードは、未だに日米に比較して遅れています。

これは、たとえば脳外科手術において、様々な最新のハードを導入したとしても、長年の経験やノウハウがないと、満足な手術ができないのと同じです。ハード面を整備したからといって、すぐに高度な手術ができるわけではないのです。優れた脳外科医のノウハウや経験必要不可欠なのです。
現代の脳外科手術には様々なハードが利用されるが、ハードが揃ったからといって優れた手術ができるわけではない
これと同じような、発言をする自衛隊幹部の人もいますが、このような発言をするためか、その方は、「おかげで自分は地上波テレビには出られない」と語っておられました。しかし、これが現実なのです。この現実を突きつけられるのを嫌がる人がマスコミには多いようです。
対潜哨戒も、潜水艦に対する攻撃に関しても、長年培ってきたノウハウやソフトがものをいいます。それからすると、中国が日米のASWk水準に追いつくには、今後数十年かかるでしょう。

これを考えると、ASWは中国にとっては鬼門のようなものであり、これを語られると、いくら中国が艦艇を増やしたにしても、日米等に対しては軍事的にはあまり意味がないことが暴露されることを嫌がっているようにもみえます。

「潜水艦などを使って台湾海峡で戦う」等という発言は、麻生氏も初めてですし、他の日本のリーダーもそのような発言はした前例がないという点で重要です。他の首脳が地域の安定に懸念を表明し、平和的解決を提唱することはあっても、直接の軍事的関与、特に潜水艦について明確に言及したことはありませんでした。

日本の指導者たちが、程度の差こそあれ、台湾問題を取り上げたことはあり、台湾への懸念を表明し、地域の安定を主張することは日本の指導者の間では一般的なことですが、麻生氏が潜水艦のような具体的な軍事戦術について明確に言及したことは、たとえ、福岡県での国政報告会の場であったにしてもも、政府による公的なレトリックの大きな転換を意味するのかもしれません。これには、以下の要因があると考えられます。

台湾海峡の緊張激化: 最近の中国の軍事演習や主張の強まりは、地域の不安を増幅させている。
麻生自身の中国に対するタカ派的な立場: 麻生副総理は、歴史的に他の日本の指導者と比べて中国に対して強い立場をとってきた。
国内政治への配慮: 台湾総統選挙を控えており、中国に対する国民の不安が高まっていることから、麻生氏の発言は日本の有権者の特定の層にアピールすることを目的としている可能性がある。

麻生総理の発言は、国内外でさまざまな反応を呼んでいることに注意する必要があります。必要な強さのシグナルと見る向きもあれば、中国のように緊張をさらにエスカレートさせ、事態の複雑さを見誤る可能性に懸念を示す向きもあります。

麻生総理の前例のない発言は、台湾問題とその潜在的な軍事的影響に関する日本の政治的言説の顕著な変化を示しているといえます。中国と台湾に対する同様の懸念表明は他の指導者たちによってもなされてきましたが、麻生副総理が潜水艦による「戦闘」について具体的に言及したことは、新たなレベルの直接的なものです。

麻生氏の発言は、中国の軍事的拡張を抑止し、台湾の安全を守るという日本政府の姿勢を明確に示すものといえます。

また、麻生氏の発言は、日本が台湾問題に関与する意欲を強く示したものであり、日米同盟の強化や地域の安全保障の強化にもつながるものです。

麻生氏の発言は、日本政府が過去には、中国を刺激することを避けるためか、日本の対潜水艦戦闘戦争(Anti Submarine Wafare)能力の高さを表明することはなかったようですが、台湾海峡の緊張がかなり激化した現在では、これを表明しないことが、かえって緊張を高めることになると、日本政府が判断しつつあることを示す、先駆けなのかもしれません。

もしそうなら、我が意を得たりという思いがします。今後、日本国内でも日本のASW能力がかなり高いことが、多くの人々に認識される日が来ることを願います。

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2024年1月10日水曜日

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」―【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

EUのウクライナ支援を阻む「オルバン問題」

岡崎研究所

まとめ
  • オルバン首相は、ウクライナに対するEUの500億ユーロの支援を阻害し続けている。
  • オルバンの行動の動機は、経済支援の継続である。
  • オルバンはEUの「スポイラー」として機能しており、EUは彼の不適切な行動を制止しなければならない。
  • EUは、オルバン首相と汚い取引をせずに、ウクライナ支援の方途を見出さなければならない。
  • EUは、オルバン首相の行動がEUの機能や存在意義を脅かすことを認識し、毅然とした対応をとるべきである。
オルバン首相


 フィナンシャル・タイムズ紙の12月19日付け社説‘The EU has a messy Orbán problem’は、ハンガリーのオルバン首相が欧州連合(EU)の500億ユーロの対ウクライナ支援を依然として妨害し続けていることについて、EUがオルバン首相と汚い取引をすることなく、「オルバン問題」に対処する方途を見出さねばならない、と論じている。

 社説は、オルバンの行動の動機は、大方カネであり、経済を押し上げ、自分に対する支持を支えるためには、EUの資金がハンガリーに流入し続ける必要があるとしている。また、オルバンはEUを離脱するつもりはなく、有志の諸国とともにEUを「乗っ取ろう」と欲しているが、その目標から遠いところにあると指摘している。

 しかし、オルバンは「スポイラー」としての能力を証明したとし、EU諸国は、彼と彼の仲間の不適切な行動を制止するために、持てる道具を断固使うべきであると主張している。具体的には、EU条約第7条を発動し、ハンガリーの投票権を停止することも可能であることを明確にすべきであるとしている。

 また、加盟国が民主主義や法の支配に逆行する場合、EU資金の提供を封鎖する仕組みを使うことをEU首脳はひるむべきではないと述べている。さらに、ウクライナに対する援助資金については、EUは26カ国の政府間合意による他のルートを見出さねばならないと提言している。

 最後に、社説は、欧州のより広い範囲の安定のために、EUの拡大の可能性が戻って来たことは歓迎であるが、EUはその機能が少数派の人質に取られることを認めることは出来ないと強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】EUのウクライナ支援をめぐるオルバン首相の反対論点 - ハンガリーの国益優先かEUの団結損なうか

まとめ
  • オルバン首相はEUのウクライナ支援策に反対している。これはハンガリーの国益を優先するためだと支持者は主張する。
  • しかし、多くのEU加盟国からは、オルバン氏の行動はEUの団結を損ない、ウクライナ支援を妨害するものだと批判されている。
  • 一方、オルバン氏はハンガリーの国益に資する独立したウクライナの重要性を認識しており、完全にウクライナ支援に反対しているわけではない。
  • ただし、支援の在り方には慎重で、資金流用のリスクがあるとして直接支援には反対している。
  • 汚職や資金流用の疑惑が絶えないウクライナで、オルバン氏の懸念は決して杞憂とはいえない。
  • EUはウクライナ支援の正当性と同時に、資金の透明性・適正使用の確保にも配慮が必要だ。
上の記事に出てくるフィナンシャル・タイムズの記事は、煎じ詰めれば「オルバン首相の行動は、EUの機能や存在意義を脅かすものであり、EUは毅然とした対応をとるべきであると主張している」ということです。

EUの旗

ただ、この見解が正しいか、間違いかは、一概には言えないところがあります。

オルバン氏の行動を支持する議論としては、以下のようなものがあります。
 オルバン首相が500億ユーロの援助パッケージに反対することでハンガリーの国益を優先していると主張する人たちがいます。 彼らは、ハンガリーには、特に景気低迷下においては、これほど多額の拠出金を支払う余裕はないと考えています。

ウクライナが援助資金をどのように使用するのかを疑問視し、汚職や不正管理の可能性について懸念を表明する人もいます。

オルバン首相は一部のEU政策を声高に批判しており、この機会を利用して不支持を表明したり譲歩したりしている可能性があります。
オルバン氏の行動に対する反論する議論としては、以下のようなものがあります。 
多くの人は、オルバン首相の行動は、危機の際にEUの団結と団結を弱体化させようとする試みであると見ています。

援助パッケージを阻止すれば、ロシアの侵略からウクライナを防衛する能力に大きな損害を与える可能性があります。

オルバン首相はほとんどの加盟国が重要視している大義への貢献を拒否しながら、EUの資金提供から恩恵を受けていると主張する人もいます。

オルバン首相の行動は、民主主義と法の支配というEUの中核的価値観に対する攻撃であると一部の人は見ています。
オルバン首相は「ハンガリーの安全はウクライナの安全に大きく依存している」と述べています。 オルバン氏はウクライナ政府に直接送金することに懸念を抱いていますが、ウクライナの安定がハンガリーの国益にかなうことを認識しています。

ハンガリー国旗

 オルバン氏によれば、「我々はウクライナが独立した一体国家であり続けることに既得権益を持っている」と語っています。 ウクライナがロシアの支配下に置かれた場合、ハンガリーにとって脅威となり、欧州の安全保障が損なわれる可能性があります。

 オルバン氏は「最も重要なことは、ウクライナが西側世界に属するべきだということだ…ロシアに属すべきではないと信じている」と語っています。 同時にオルバン氏は、大規模な援助を受ける前に、汚職などの問題に対処するために「ウクライナは政治経済改革をする必要がある」と主張しています。

 同氏は、EUは指導者に「白紙小切手」を切らずにウクライナの安全と独立を支援する方法を見つけるべきだと考えています。 鍵となるのは、資金が責任を持って使われ、実際にウクライナ国民の利益となるようにすることです。 [出典:2014年から2017年にかけてロイター通信、ポリティコ、その他メディアとのインタビューから得たヴィクトル・オルバン氏の引用]

オルバン氏は国家主権の忠実な擁護者である一方、ハンガリーの安全保障はウクライナの抵抗や、独立に依存していることを認識しています。 

 しかし同氏は、EUがウクライナ政府に援助や保証を提供する方法については慎重でなければならないと考えています。 現在の支援の仕方では、ウクライナそのものを支援することにはならず、汚職や政治的失政で資金を浪費することになってしまいかねないことを危惧しています。そうでななく、責任ある指導者を支援すべきとしています。

最近でも、汚職や不正の疑いは絶えないです。

ゼレンスキー大統領は9月3日夜のビデオ演説で、オレクシー・レズニコフ国防相(57)を交代させると発表した。国防省では軍の調達などをめぐる汚職疑惑が相次いで発覚しており、事実上の更迭とみられる。ウクライナ側の反転攻勢が続く中での重要閣僚の交代となり、戦況への影響が注目されました。

オレクシー・レズニコフ氏

ゼレンスキー氏は演説で、「国防省には新しいアプローチや軍、社会との新たな関係が必要だ」と述べた。国防省では今年1月、兵士らの食料調達が小売価格の2~3倍で行われていた疑惑が浮上。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされます。

ウクライナでは、徴兵逃れなどでも汚職が指摘されている。ゼレンスキー氏は汚職対策に取り組む姿勢を強調し、米欧からの支援に影響しないよう腐心しています。

レズニコフ氏は2021年11月、国防相に就任しました。ロシアの侵略以降、米欧諸国からの軍事支援取り付けで中心的な役割を果たしてきました。

国防省では昨年1月、食料調達をめぐる汚職が浮上しました。当時の国防次官が解任され、レズニコフ氏の監督責任を問う声も上がったのですが、ゼレンスキー氏が留任を求めたとされています。国防省ではその後、別の汚職疑惑も伝えられていました。

レズニコフ氏は、弁護士出身で2021年11月に国防相に就任しました。ウクライナメディアは国防相を辞任後、駐英大使に就任する可能性があると伝えていました。ただ、現在時点では、レズニコフ氏が駐英大使になったという公式の情報はありません。

ウクライナは、ソビエト連邦の崩壊後、汚職と腐敗に苦しんできました。ウクライナは、世界の腐敗指数であるトランスペアレンシー・インターナショナルの調査によると、2012年には180カ国中122位でした。しかし、2014年以降、ウクライナは汚職対策に取り組んでおり、改善傾向が続いています。

 2023年8月には、ウクライナの大統領であるゼレンスキー氏が、汚職に対する取り組みを強化するための法律に署名しました。 この法律は、汚職に関与した公務員や政治家に対する厳しい罰則を設けることを目的としています。しかし、ウクライナはまだ汚職と腐敗に苦しんでおり、改善が必要な状況にあります。

ウクライナ国防省内で汚職や不正行為が懸念されているのは事実です。 ただし、一般化する前に、聞いた情報を注意深く分析し、信頼できる情報源に相談したり確認することが重要です。

ただ一ついえることは、オルバン氏の懸念は決して杞憂として片付けられるものではないということです。

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2024年1月9日火曜日

2024 年 10 大リスク―【私の論評】ドラッカー流のリスクマネジメントで、ユーラシア・グループの10大リスクに立ち向かう

2024 年 10 大リスク


まとめ

  • 米国の分断
  • 情報戦争の中毒
  • ウクライナの事実上の割譲
  • AIのガバナンス欠如
  • ならず者国家の核脅威
  • 深海へ侵害できない自己主権
  • 重要領域物資の短絡
  • インフレの足音がせまる
  • エルニーニョ再来
  • 米国でのリスキーなビジネス


コンサルティング会社ユーラシアグループの社長イアン・ブレマー氏


 ユーラシア・グループは2024年の地政学リスクトップ10を発表しました。


 1位は米国内の深刻な政治分極化です。11月の大統領選は既存の分裂を悪化させ、過去150年間で最も米国の民主主義を脅かし、国際社会での信頼性を損なうと予想しています。


 2位は中東の緊張です。イスラエルとハマスの戦争がエスカレートし、イランとの戦争に発展するリスクが高いと指摘しています。イスラエルの攻撃、ヒズボラの反撃、フーシの活動などが引き金となる可能性があるとしています。


 3位はウクライナの事実上の分割。ロシアが人的・物的に優位に立ち、ウクライナが劣勢になると予想。米国の支援低下も分割に拍車をかけるとしています。


 4位はAIのガバナンス不足。生成AIによる偽情報が選挙や紛争を混乱させると懸念。


 5位はならず者国家同盟の台頭。ロシア、北朝鮮、イランが武器供給で協力し、世界秩序に挑戦すると予測。


 6位は中国経済の停滞。構造的制約が続く中、成長の回復は望めないと指摘。


 7位は重要鉱物を巡る争奪戦。米中の覇権争いがサプライチェーンを混乱させると警告。


 8位はインフレによる世界経済の逆風。高金利が成長を鈍化させ、金融リスクを高めると予想。


 9位はエルニーニョ現象による異常気象の頻発。食料危機や自然災害のリスクを増すと懸念。


 10位は企業の米国市場リスク。共和・民主両州の対立に企業が挟まれると指摘。


 米国と中東の政治・軍事的リスクが最大の焦点とされています。


この記事は、元記事を要約したものです。詳細をご覧になりたい方は、元記事をご覧になって下さい。


【私の論評】ドラッカー流のリスクマネジメントで、ユーラシア・グループの10大リスクに立ち向かう


まとめ

  • ドラッカーのリスクに対する考え方は、ユーラシア・グループの10大リスクに対処する上で、重要な示唆を与えてくれる。
  • リスクをゼロにすることは不可能であり、むしろリスクを認識してそれをコントロールすることが重要。
  • 適応的なリーダーシップを育成し、長期的な回復力への投資を進め、グローバルなコラボレーションを促進すべき。
  • 以上をもって計算されたリスクテイクを行うことが重要。
ドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は、リスクについて以下のように語っています。
企業活動に伴うリスクをなくそうとしても無駄である。現在の資源を未来の期待に投入することには、必然的にリスクが伴う。(『マネジメント』)
複雑な世界にあって、見えない未来に向けて、ヒトとモノとカネを投入する。そして、投入したものをはるかに超えるものを得る。それが企業の成長であり、社会の繁栄である。そこにリスクが伴うのは当然である。わかりきったものからは、わかりきったものしか手に入れられないのです。

ドラッカーが気にするのは、この当然のことに対する無知や無理解ではない。それ以前の問題として、頭もよく知識も豊かな人たちが、リスクについて持っている考え方である。リスク抜きを是とするメンタリティです。

それは世界からリスクを取り除くことはできるし、取り除かなければならないとする考えです。

そうではなく、より大きなリスクを負えるようにすることが必要なのです。

たとえば、毎年数百億円を研究開発につぎ込めるようになることが肝心なのです。

経済活動において最大のリスクは、リスクを冒さないことです。そしてそれ以上に、リスクを冒せなくなることです。
リスクの最小化という言葉には、リスクを冒したり、リスクをつくりだすことを非難する響きがある。つまるところ、企業という存在そのものに対する非難の響きがある。(『マネジメント』)

 ドラッカーは、おもにビジネスの世界のリスクについてとりあげており、地政学的リスクに焦点を当てたわけではないですが、それがビジネスや社会に与える潜在的な影響を認識していました。

1970年の著書『断絶の時代』の中で、EUや日本のような「メガブロック」の出現について書き、その経済的・政治的影響力の増大を予測し、その影響を考慮するよう企業に促しました。

また、資源不足や環境問題が主流となる数十年も前に、そのリスクについて警告を発し、サプライチェーンや世界の安定を破壊する可能性を強調しました。

また、国際舞台におけるパワー・ダイナミクスの変化を理解することの重要性を強調しました。彼は、中国やインドといった新たな経済大国の台頭について書き、それに応じて戦略を適応させるよう企業に促しました

また、世界政治が複雑化し、テロリスト集団のような非国家主体が新たな安全保障上の脅威を引き起こしていることも認識し、企業はそれを考慮する必要があるとしました。

この考え方は、企業だけではなく、政府を含む他の多くの組織にもあてはまると思います。

ドラッカー流の考え方に立脚すれば、ドラッカーの視点をユーラシア ・グループが特定した 10 の主要なリスクに適用できると、考えられる政府や企業を含むあるゆる組織にとってのリスクへのアプローチ法がいくつか示すことができます。

まずは、固有のリスクを受け入れることです。 純粋にリスクの排除を目指すのではなく、複雑な世界をうまく切り抜けるには固有のリスクが伴うことを受け入れるべきなのです。 これらのリスクの性質、その潜在的な影響、およびそれらがもたらす機会を理解することに焦点を当ててるべきなのです。

次に、リスクをひたすら忌避するリーダーシップではなく、適応的なリーダーシップを育成するべきです。企業、政府、組織は、変化する地政学的な状況の中でタイムリーな意思決定を行い、戦略を調整できるリーダーを必要としています。 予期せぬ課題に効果的に対応するために、柔軟な計画、シナリオ分析、継続的な学習を奨励すべきです。

第三は、長期的な回復力への投資をすべきです。衝撃や混乱に耐えられる堅牢なシステムとインフラストラクチャを構築します。 潜在的な危機の影響を軽減するために、サイバーセキュリティ、エネルギー安全保障、食糧安全保障などの重要な分野への投資を優先します。

第四に、グローバルなコラボレーションを促進すべきです。 ドラッカーは世界が相互につながっていることを認識していました。 重大なリスクに対処するには、国際的な協力と調整が必要です。 対話を促進し、パートナーシップを構築し、地球規模の課題に取り組むための責任の共有を促進するのです。

第五に、計算されたリスクテイクを受け入れることです。 たとえ重大なリスクを伴うとしても、長期的なニーズに対応する大胆な取り組みを躊躇するべきではないのです。 たとえば、次世代の小型原発や、核融合に多額の投資をしたり、野心的な防災・減災開発プロジェクトを立ち上げたりするには、固有のリスクを認識しながらも、莫大な利益が得られる可能性を認識する必要があります。

第六に、戦略的な先見性を強調すべきです。 ドラッカーは長期的な思考とシナリオ計画を支持しました。 これらのリスクから生じる潜在的な将来のシナリオを分析し、機敏性と備えを確保するための緊急時対応計画を策定するよう組織を奨励します。

第七に、倫理的なリーダーシップの促進をすべきです。 倫理的な意思決定と企業の社会的責任は、ならず者国家の台頭や AI テクノロジーの悪用など、特定のリスクによる悪影響を軽減するために重要です。

第八に、知識と理解に焦点を当てるべきです。ドラッカーは、リスクを効果的に管理するには知識が鍵であると信じていました。ただ、ドラッカーのいう知識は、百科事典に書かれているような知識ではなく、たとえば、現代の医学知識のような、広く理解されて行動の基盤となる知識のことです。

 これらの世界的なリスクの性質と複雑さをより深く理解するために、研究、データ分析、情報共有に投資すべきです。

ドラッカーのアイデアはビジネスに焦点を当てていたことを思い出してください。 これらをより広範な社会および政府レベルに適用するには、思慮深い解釈と適応が必要です。 しかし、リスクを受け入れ、回復力を育み、長期的思考を優先するという彼の基本原則は、ユーラシア グループが浮き彫りにした複雑で相互に関連した課題に対処するための貴重な洞察を提供します。

これらの戦略を実行することで、組織や政府はリスクを最小限に抑える考え方から、責任あるリスクテイクと積極的な管理の考え方に移行し、より機敏性と回復力を持って将来の不確実性を乗り越えることができます。

この視点が、これらの世界的なリスクの潜在的な影響を分析し、それに対処するための有用な枠組みを提供することを願っています。

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2024年1月8日月曜日

日本が戦争犯罪の“抜け穴”になるおそれも…プーチン大統領に“逮捕状”出した日本人裁判官 単独取材で見えた「日本の課題」―【私の論評】プーチン氏の国際会議欠席が示すICC逮捕状の影響と、日本の法整備の課題

日本が戦争犯罪の“抜け穴”になるおそれも…プーチン大統領に“逮捕状”出した日本人裁判官 単独取材で見えた「日本の課題」

まとめ
  • ICCの赤根裁判官がプーチン大統領に戦争犯罪の容疑で逮捕状
  • ロシアから指名手配され、行動を制限
  • ICC逮捕状に有効期限なく、重要な役割
  • 日本に戦争犯罪の法整備なく、抜け穴に
  • 赤根氏、時代劇から正義感。不正義を改善したい
国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子裁判官

 国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子裁判官は、2022年3月、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナ侵攻に関連する戦争犯罪の容疑で逮捕状を発付した。このことでロシアから指名手配される事態となり、赤根氏は安全面での配慮を余儀なくされている。夜の外出を控え、知人以外との食事を避けるなど行動を制限しているという。 

 ICCの逮捕状には有効期限がなく、プーチン氏の足枷となっている。赤根氏はICCが最後の砦として機能することが重要と強調する。一方、日本の法制度には戦争犯罪や人道に対する罪に関する処罰規定はないため、赤根氏は「日本が戦争犯罪等のループホール(抜け穴)になるおそれがある」と指摘。法整備の必要性を訴えた。

 赤根氏の正義感の源泉は子供の頃に視聴していた時代劇「銭形平次」だという。善悪のはっきりした物語に共感し、検事として正義の実現を志した。今も世界の不正義を改善する思いは変わらないと語った。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】プーチン氏の国際会議欠席が示すICC逮捕状の影響と、日本の法整備の課題

まとめ
  • プーチン大統領は、G7サミット、APECサミット、東アジアサミットには完全不参加。G20と国連総会はビデオ参加にとどまる。従来は重要会議には欠かさず出席していたが、今回はICCの逮捕状を意識しての対応と見られる。
  • 日本には戦争犯罪を処罰する法制度がないため、戦争犯罪者の「抜け穴」になる恐れが指摘されており、日本の国際社会での立場を弱めかねない。
  • 欧米諸国では国内法により戦争犯罪を処罰する仕組みが整備されている。
  • 日本も国際基準に沿って戦争犯罪に対処する法制度の整備が必要との指摘がある。
  • 日本はジュネーブ条約やローマ規定を批准してはいて、ICCの逮捕状に基づく引き渡し義務があるが、戦争犯罪を看過する「抜け穴」は世界の標準から外れるので、早期の対応が望まれる。
プーチン


プーチン大統領がウクライナ侵攻後、国際会議への参加を控えた又はビデオ会議にとどまった具体的な事例は以下の通りです。 

  • 2022年6月のG7サミット(ドイツ) - 不参加 
  • 2022年11月のG20サミット(インドネシア) - ビデオ参加
  • 2022年9月の国連総会(米ニューヨーク) - ビデオ演説のみ 
  • 2022年11月のAPECサミット(タイ) - 不参加 
  • 2022年12月の東アジアサミット(カンボジア) - 不参加 

これらのうち、G7サミット、APECサミット、東アジアサミットへは完全に不参加です。 G20サミットと国連総会はビデオ参加にとどまりました。 プーチン大統領はこれまでG20やAPEC、東アジアサミットには欠かさず出席していたことから、今回の不参加は異例の対応だと報じられています。ICCの逮捕状を意識し、身柄の安全が保証できない現地参加を避けているものと分析されています。


国際司法裁判所(ICC)

日本が戦争犯罪と人道に対する罪の「抜け穴」になる具体的なリスクとしては以下のようなことが考えられます。

  • 国外で戦争犯罪等を行った他国の人物が、日本に逃亡してきた場合に訴追できないことがある。
  • 国外で戦争犯罪等に関与した日本人が、日本に逃亡して帰国後も処罰を免れることができない場合がある。
  • 日本を経由して、戦争犯罪等の容疑者が第三国に逃亡することを防ぐことができない場合がある。
  • 日本国内で集められた戦争犯罪等の証拠を国際的に共有・活用することが困難になる場合がある。
  • 日本が国際的な戦争犯罪等への対処に消極的な姿勢だとみなされるリスクがある。

つまり、日本の法制度の空白が、戦争犯罪を行った者の逃避行為を助長し、国際社会における日本の立場を弱める結果になりかねない、という指摘だと考えられます。


日本は、戦時中の民間人や捕虜に対する残酷で非人道的な扱いを禁止するジュネーブ条約などの国際協定には、参加しています。1953年4月21日にジュネーブ4条約に加入し、2004年8月31日にジュネーブ条約追加議定書第1および第2追加議定書に加入しました。


また、日本はローマ規定批准国であり、ICCが指名手配をした犯人を拘束してICCに身柄を渡す義務があります。そのため、例えばプーチンが来日した場合、日本政府はプーチンの身柄を拘束して、ICCに引き渡す義務を負います。


ハマスに全員殺されたシマン・トーブさん一家


しかし、ほとんどの欧米諸国では、戦争犯罪や人道に対する罪、その他の極悪非道な行為に対して厳しい法律がありますが日本にはありません。例えば、米国には1996年に制定された戦争犯罪法があり、海外で行われた戦争犯罪やジェノサイド、その他の残虐行為を管轄することができます。


ほとんどの民主主義国家には、同様の法律が存在します。このように国家が自らに、そして互いに説明責任を果たすことは重要です。法的な結果が伴わなければ、このような悪行に対する真の抑止力は生まれないです。


日本は戦争犯罪等に対する姿勢を強化し、自国の法律をより国際基準に沿ったものにした方が良いと思います。「戦争犯罪の抜け道」は、今日の世界では容認できないです。政府は蛮行を防ぎ、人権を守る道徳的義務があります。日本が早急にこの問題に取り組むことを望みます。


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