2024年3月14日木曜日

いま金融緩和をやめたら日本は再びデフレに戻る…!経済学者が「植田日銀は金融緩和を継続をしたほうがいい」と主張するワケ―【私の論評】たった一表で理解できる、日銀が現状でゼロ金利解除をすべきでない理由

いま金融緩和をやめたら日本は再びデフレに戻る…!経済学者が「植田日銀は金融緩和を継続をしたほうがいい」と主張するワケまとめ
  • マネタリーベース(MB)増加と名目GDP増加には正の相関があるが、日本ではこの関係性が希薄である。
  • 日本のMB増が名目GDP押し上げに結びつかない主因はデフレ経済の持続にある。
  • 主要国ではMB増による金融緩和時に物価も上昇し、名目GDPも増加している。
  • 日本でもマイルドなインフレ(2%程度)があれば、MB増が実体経済を押し上げる効果が高まる。
  • したがって、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性に乏しく、当面は緩和継続が不可欠である。
日本銀行

 マネタリーベース(MB)と名目GDPの間には、長期的な正の相関関係が確認されている。しかし、日本ではこの関係性が必ずしも成り立っていない実態がある。具体的には、1997年から2012年にかけて日本はMBを拡大させたものの、名目GDPはほとんど伸びず、むしろ低迷を続けた。

 この主因は、日本経済がデフレ経済に長らく陥っていたことにある。デフレ下では、中央銀行がMBを増やしても、家計や企業がキャッシュや預金という形で資産を保有し続ける傾向が強く、マネーが実体経済に滲み出ず、有効需要や設備投資の増加につながらないためである。

 実際、本文で示された回帰分析の結果によれば、2009年以降の日本におけるMB1億円増に対する名目GDP増加分は僅か0.1億円にすぎず、米国の2.3億円、英国の0.6億円、ユーロ圏の0.7億円と比べて格段に小さい。

 一方、金融緩和に伴いMB増加の際に、物価も上昇(インフレ)傾向となった主要国では、マネーが実体経済の活性化に結びついている実態が確認できる。マイルドなインフレ経済下では、MB増加が有効需要の創出や、企業の設備投資を喚起し、名目GDPを押し上げる効果を持つと考えられる。

 仮に日本が2%程度のマイルドなインフレ経済に転じることができれば、MB増による名目GDP押し上げ効果が大きく高まる可能性がある。つまり、デフレ脱却なくしては金融緩和の実効性が乏しいということである。

 したがって、現時点で日本が異次元の金融緩和政策からの解除に踏み切れば、再びデフレ経済に逆戻りするリスクが高まり、それによって金融緩和の効果がさらに低下し、ひいては経済成長を阻害する恐れがある。そのため、当面は金融緩和の継続が不可欠であると本文は結論づけている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】たった一表で理解できる、日銀が現状でマイナス金利解除をすべきでない理由

まとめ
  • 市場では日銀による金融引き締め(マイナス金利解除)への警戒感から、株価が下落している。
  • 日本のコアコアCPIの伸び率は主要国に比べて大幅に低水準にある。
  • 金融引き締めを行えばデフレ再発のリスク、経済成長の鈍化、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねない。
  • デフレ下で金融引き締めを行えば、マネタリーベース増による物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われる可能性がある。
  • したがって、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが日本の金融当局に求められる。

日銀植田総裁

3月18日-19日に行われる「金融政策決定会合」が行われることになっているため、市場関係者の中に、マイナス金利解除(実質的な利上げ、金融引締)がなされるのではということで警戒を強める関係者も多いようです。

14日午前の東京株式市場の日経平均株価は続落しました。下げ幅は一時300円に迫りました。前日の米国市場でハイテク株の値動きが軟調だった流れを引き継ぎ、日経平均への影響が大きい半導体関連株が下落しました。

午前10時現在は前日終値比254円16銭安の3万8441円81銭。東証株価指数(TOPIX)は6・32ポイント安の2642・19。

日経平均の急上昇をけん引してきた東京エレクトロンなどの半導体関連株を中心に、朝方から売り注文が優勢でした。

前日は今春闘の集中回答日で、製造業大手を中心に高水準の賃上げ回答が相次ぎました。これを受け、市場では日本銀行の金融政策の修正スピードが速まるとの警戒感が強まり、積極的な取引を控える雰囲気もあったとされています。

この市場の反応は、まともです。原田泰氏は、MBの観点から、現在は金融引締すべでなく、緩和を続けるべきと主張していましたが、別の観点からもそれはいえます。以下にコアコアCPIの推移の国際比較を掲載します。

2020年〜直近までの先進国のコアコアCPI

国名2020年2021年2022年2023年2024年予想
アメリカ1.40%2.30%4.70%3.90%3.40%
日本0.00%0.10%0.60%0.70%0.80%
ドイツ0.70%1.90%3.30%2.60%2.30%
イギリス1.20%2.10%5.90%4.10%3.60%
フランス0.50%1.60%2.80%2.20%1.80%
イタリア0.00%1.20%3.80%3.10%2.80%
カナダ1.70%2.20%4.30%3.70%3.20%

参考資料:

コアコアCPIは、消費者物価指数(CPI)から酒類を除いた天候や市況など外的要因に左右されやすい食料と、エネルギーを除いた指数のことです。 毎月総務省が発表している指標として、金融関係者から注目されています。 何故酒類は省くのかというと、酒類以外の食料品は気象条件によって大きく価格が変わることがあるからです。

消費者物価指数(CPI)だけをみていると、エネルギーや食料品などが含まれていて、これらは変動が激しいことと、これらは、特に日本では、海外から輸入する割合が多いので、国内経済を正しく反映した指標とはいえません。

そのため、正しい状況を見る場合は、コアコアCPIを用いるのです。

上の表からは、日本のコアコアCPIの伸び率が2020年から2024年予想まで、ほとんどの年でアメリカやユーロ圏、カナダなどの主要国に比べて大幅に低い水準にあることが分かります。確かに現状では物価高ではあるのですが、それは海外から輸入するエネルギーや資源が値上がりしてそれが物価をおしあげているのであり、それを除いた日本国内では物価は低水準にあるといえます。

これを見誤るべきではありません。正しい政策は、金融政策においては、金融緩和を継続することです。財政としては、輸入企業などを支援しながら、金融緩和を継続というのが、当面の正しいあり方です。

物価上昇率が低位にある状況下で、日本が金融引き締め政策に転じた場合、以下のようなリスクが考えられます。
  1. デフレ再発のリスク: 日本の物価上昇率はすでに低水準にあり、金融引き締めによってさらに需要が減退すれば、デフレ経済に逆戻りする可能性が高まります。デフレ下では家計や企業のキャッシュ保有が増え、マネーの実体経済への波及が阻害されるため、金融政策の効果が著しく低下します。
  2. 経済成長の鈍化: 物価上昇率が低水準の段階で金融引き締めを行うと、実質金利の上昇を招き、家計の消費や企業の設備投資を減速させかねません。需要の押し下げを通じて経済成長が鈍化するリスクがあります。
  3. 金融政策の機能不全: デフレ経済下で金融引き締めを行えば、上の元記事で原田泰氏が主張しているように、マネタリーベース増によっても物価上昇やGDP押し上げ効果が得られにくくなり、金融政策の実効性が失われてしまう可能性があります。
以上のように、日本がいまだ物価安定の目標に届いていない状況で、金融引き締め政策に転じればデフレ再発や、さらなる経済減速、金融政策の機能不全などの重大なリスクが生じかねません。

デフレ・スパイラル AI生成画

したがって、この表が示すコアコアCPIの推移から、当面は現行の金融緩和政策を継続し、物価の安定的な上昇を実現することが、日本の金融当局に求められていると言えるでしょう。当面、マイナス金利解除(実質的な金融引締)もすべきではありません。

これは、上の一表をみただけでもあまりにも明らかなのに、なのになぜマスコミはマイナス金利解除など言い出すのか全く理解に苦しみます。このようなことをいうマスコミは、無論上の表なものを提示しません。示せば、すぐに間違いが露呈するのでできないのでしょう。あるいは、小鳥脳なのか・・・・・?

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2024年3月13日水曜日

日韓関係の改善は進んだのか 徴用工訴訟で日本企業に実害 肩代わりなくば「スワップ協定」白紙、さらなる制裁を検討せよ―【私の論評】日韓対立 - 韓国の約束不履行に対し日本国内で強硬対応を求める声

まとめ
  • 韓国政府は昨年、日本企業への賠償を政府財団が肩代わりすると約束したが、実行されていない。
  • 日本企業の供託金が原告に支払われるなど実害が生じており、韓国の約束違反が疑われる。
  • 韓国側は日本企業にも資金拠出を求めているが、請求権協定上おかしい。
  • 韓国の約束が怪しいにもかかわらず、日本は通貨スワップ再開などの対応をした。
  • 肩代わりが実現しなければ、日本は制裁措置を含む対抗手段を検討すべきだろう。
尹韓国大統領

 韓国政府が2022年3月に提示した「元徴用工」訴訟の解決策から1年以上が経過した。その解決策とは、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金支払いについて、韓国政府傘下の財団が肩代わりすることだった。日本政府はこれを受け入れ、2022年6月に通貨スワップ協定の再開や輸出規制の緩和などを行い、日韓関係改善に向けた一歩を踏み出した。

 しかし2023年2月、元徴用工訴訟の一件で、日本企業の供託金が原告に支払われるという実害が生じてしまった。韓国政府は早急に約束どおり、政府傘下の財団による肩代わりを実行すべきである。それができれば日韓関係は改善したと言えるだろう。

 ところが、当初予定されていた岸田首相の訪韓がキャンセルされたことから、肩代わりがすぐに実行されない可能性が示唆されている。原告に渡った供託金は僅か6000万ウォン(670万円)に過ぎず、韓国政府が約束を果たす意思がないのではないかとの疑念が生じている。

 さらに韓国側は、日本企業にも解決への協力を求めているが、1965年の請求権協定の精神に反する要求と受け止められかねない。仮に日本企業の資金拠出がないから肩代わりできないというのであれば、当初の約束自体が怪しいものと映る。

 そうした怪しい約束に基づき日本政府が前出の対応をしたことは軽率であり、肩代わりが実現しないのであれば、通貨スワップなどを白紙に戻すべきかもしれない。さらに、麻生元財務相が言及したような、関税引き上げやビザ発給停止など、様々な対抗措置の選択肢を検討する必要もあるかもしれない。

 一方で、韓国政府が約束を守れば問題ない。政府傘下の財団設立は政府主導で行われるべきで、そこからの6000万ウォン支払いは容易なはずである。

 要するに、韓国政府による約束の遵守が解決のカギを握っており、それがなされなければ日韓関係の改善は望めない状況に陥っている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日韓対立 - 韓国の約束不履行に対し日本国内で強硬対応を求める声

まとめ
  • 日本国内で、国際法に基づき韓国政府に約束履行を強制すべき。
  • 経済制裁など対抗措置を講じ、韓国政府に圧力をかけるべき。
  • 日韓関係改善の取り組みを一時的に見直し、韓国に問題の深刻さを認識させるべき。
  • 国際社会に働きかけ、韓国への協力を求め、韓国に圧力をかけるべき。
  • 韓国の約束不履行により日本企業・国民が被害を受けており、日本政府の強硬姿勢をみせるべき
尹韓国大統領と岸田首相

韓国政府による元徴用工問題の解決策履行の遅延をめぐり、日本国内の世論は高まる一方です。政府に対し、韓国に強硬な態度で臨み、厳しい対応をとるよう求める声が大きくなっています。

代表的な意見の一つは、国際法に基づき韓国政府に約束履行を強制すべきというものです。1965年の請求権協定において、韓国政府は元徴用工問題が解決済みであることを確認しています。しかしながら、現在に至るまで韓国政府は約束した解決策の履行を遅らせており、これは国際法違反に該当します。日本政府は、国際法の下にある正当な権利として、韓国政府に対し約束履行を強く迫るべきです。

さらに、経済制裁などの対抗措置を講じ、韓国政府に圧力をかけるべきだと訴える意見も根強いです。韓国政府は日本企業に不利益を与え続けることで、日本側に譲歩を迫ろうとしているが、このような行為は国際社会の規範に明らかに反するものです。経済制裁を実施すれば、韓国経済に大きな打撃を与え、韓国政府の態度を改めさせる効果が期待できるでしょう。

一方で、韓国政府は表面上は日本との関係改善を望んでいるものの、実際には約束履行を怠っており、矛盾した振る舞いをしています。このため、日本政府は一時的にでも関係改善に向けた取り組みを見直し、韓国政府に問題の深刻さを認識させ、真剣な解決に向けた姿勢を促す必要があります。

さらに、韓国政府の対応は国際社会の信頼を損ねかねないものであり、日本政府が国際社会に働きかけ、韓国への協力を求めるべきです。国際社会からの批判の声が高まれば、韓国政府に大きな圧力となり、約束履行に向けた具体的な行動を取らざるを得なくなるでしょう。

このように厳しい対応を求める意見が大きな流れとなっている背景には、韓国政府による約束履行の長期間の遅延が、日本企業に多大な経済的損失をもたらしているだけでなく、日本国民の感情をも逆なでしているという事情があります。過去にも韓国政府が約束を反古にしたことがあり、今回も同様に約束が守られるとは思えないという、韓国政府への不信感も拭えません。

加えて、これまで日本政府が最大限の譲歩を重ねてきたものの、韓国政府の姿勢が改善される兆しは見えないことから、政府の対応に対する国民の失望感も大きいです。一部では、日本政府の対応に問題があり、もっと早期から強硬な姿勢に出るべきであったと批判する声すら上がっています。

このまま事態が進展しない限り、日韓関係の改善は見込めないでしょう。そのため、多くの有識者は、日本政府が韓国に対してさらなる圧力をかけ、約束の履行を迫る強硬な姿勢に出ることを提言しています。具体的な対抗措置の選択肢をあらゆる角度から検討し、実行に移す覚悟が求められています。


安倍政権下で検討された韓国への対抗措置としては、以下のものが挙げられます。

経済制裁

  • 貿易制限
    • 特定品目への輸出入関税引き上げ
    • 輸出許可制の導入
    • 輸出優遇措置の停止
    • 輸入割当制度の導入
    • 貿易協定の破棄
    • 国際機関における対韓支援の停止
  • 金融制裁
    • 対韓送金停止
    • 韓国金融機関への制裁
    • 対韓投資制限
    • 国際金融機関における対韓融資停止
  • 経済協力停止
    • ODAの停止
    • 技術協力停止
    • 開発援助停止
    • 国際会議への韓国招待停止

外交・安全保障

  • 外交関係降格
    • 大使召還
    • 領事館閉鎖
    • 外交関係断絶
  • 安全保障協力見直し
    • 日韓情報交換協定の破棄
    • 日米韓合同軍事演習の中止
    • 在韓米軍基地の縮小・撤退
    • 韓国への武器輸出禁止
  • 国際機関における対韓圧力
    • 国際機関における対韓非難決議の支持
    • 韓国の国際機関加盟阻止

その他

  • 入国制限
    • 韓国人へのビザ発給停止
    • 入国審査の厳格化
    • 韓国人に対する入国制限措置の導入
  • 文化交流停止
    • 文化交流事業の中止
    • 韓国アーティストの招聘停止
    • 韓国映画・ドラマの上映禁止
  • 国民への情報発信
    • 韓国政府の不当行為に関する広報活動
    • 韓国への渡航注意喚起
    • 韓国製品の不買運動の呼びかけ

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性―【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

2024年3月12日火曜日

「中国軍は見掛け倒し」 不正横行、ずさんな兵器管理―インド軍元中将インタビュー―【私の論評】中国軍の実力不足が露呈、台湾侵攻は地理的に極めて難しい理由

「中国軍は見掛け倒し」 不正横行、ずさんな兵器管理―インド軍元中将インタビュー

まとめ
  • 中国は国防予算を7.2%増やし、軍拡を進めているが、実際の兵器は粗悪で不正や管理の不備が横行していると、ラビ・シャンカル元インド陸軍中将が指摘。
  • 大規模演習でのミサイルの誤作動や、中国製兵器の輸出先での不具合が問題視されている。
  • 多くの中国軍高官が昨夏以降、汚職により失脚し、後任の選定は政治的な要素が重視されている。
  • 中国軍は実戦経験が不足し、人事の選定が能力よりも政治的な要素を重視しているため、新しい兵器の運用に必要な知識と経験が不足している。
  • 中国軍は連鎖的な戦争に懸念を抱いており、特に米国と協力する形で、インドが国境地帯で軍事活動を開始すれば、中国は対処できない可能性があると述べられている。

インド陸軍中将時代のラビ・シャンカル氏

 中国軍の動向を研究してきたラビ・シャンカル元インド陸軍中将が時事通信のオンラインインタビューで述べたところによれば、習近平政権は今年の国防予算を前年比7.2%増の急増させ、軍拡を進めているが、その一方で不正や管理の不備が軍内に横行しており、兵器の品質が粗悪であるとの指摘がなされている。中国軍は外部に対しては力強く見えるが、実際はその実力に見合わないとの見解を示した。

 続けて、中国軍の兵器管理のずさんさが問題視され、昨年の大規模演習でのミサイルの誤作動や、中国製兵器が他国での運用においても問題が発生していることが挙げた。また、中国軍内では昨夏以降、多くの高官が汚職により失脚しており、彼らは核兵器を扱うなど経験豊富な人物であったが、後任の選定は習近平に対する忠誠心が重視され、能力よりも政治的な要素が優先されていると指摘した。

 さらに、中国軍の実戦経験が不足しており、人事の選定も能力よりも政治的な要素を重視していることから、新しい兵器の運用に必要な知識や経験豊富な人材が不足していると指摘。これまで中国軍は1979年以来、本格的な実戦を経験しておらず、戦意も乏しいとされ、習近平政権が台湾への侵攻を命じる可能性は低いと予測している。

 最後に、中国軍は連鎖的な戦争に懸念を抱いており、特に米国と協力する形で、インドが国境地帯で軍事活動を開始すれば、中国は対処できないだろうとの見方を示した。中国経済が停滞しており、台湾への侵攻が長期化すれば共産党体制に大きな打撃を与える可能性を指摘。習近平が侵攻を決断する可能性は低いとした。

 この記事は元記事の要約です。詳細は、元記事を御覧ください。

【私の論評】中国軍の実力不足が露呈、台湾侵攻は地理的に極めて難しい理由

まとめ
  • 中国全人代で軍首脳が「偽の戦闘力」を取り締まると表明し、中国軍の実力不足を指摘しており、ラビ・シャンカル元インド陸軍中将の発言を裏付けている。
  • 能登半島の地理的制約から、緊急支援でのヘリコプターや空からの物資投下が困難であったように、台湾侵攻も地形的に極めて難しい。
  • 台湾東側は急峻な山地で上陸点がなく、西側も平地が狭く、都市部、河川、防衛施設が障害となる。
  • 台湾の地理と発達した防衛網は中国軍の侵攻を困難にし、「天然の要塞」と評価できる。
  • 中国の立場に立てば、台湾への本格侵攻は避けつつ、ミサイル攻撃、爆撃、小規模ゲリラ活動、「グレーゾーン戦略」「ハイブリッド戦略」による圧力行使をしつつ台湾を疲弊させ実効支配に結びつけるという方法が現実的である。
ラビ・シャンカル元インド陸軍中将の発言を裏付けるような事実は、ごく最近でもありました。それも、中国内部からの発信です。その内容を以下に簡単に掲載します。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、11日閉幕の中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、軍首脳が「偽の戦闘力」を取り締まると表明しました。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられます。

発言したのは、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏。全人代期間中に開かれた軍代表団の会議で述べました。

何衛東氏

ラヴィ・シャンカル氏の、中国軍が汚職と不正経理により実際には弱体化しているという発言には、一定の根拠があります。しかし、この問題は複雑であり、両論あります。以下に、その主張を支持する事実と、反する事実の両方を示します。

主張を支持する事実:
1. 汚職スキャンダル: 過去にも、中国軍内部で多くの高位将校が汚職や不正経理で処分・解任されるなど、大がかりな汚職事件が発生しています。例えば2014年には、徐才厚や郭伯雄の元最高指導者らが習近平の反汚職キャンペーンで処分されました。

2. 品質への懸念: ステルス戦闘機J-20やミサイル駆逐艦タイプ055など、中国の一部の武器システムには、エンジン問題や輸入部品への依存など、品質と信頼性に対する懸念が指摘されています。

3. ロジスティクス(兵站)上の課題: 中国本土から遠く離れた地域で大規模作戦を維持する能力に、物流・補給面での弱点があるとの指摘があります。
主張に反する事実:
1. 急速な現代化: 課題はあれ、中国軍は近年、高度な兵器システム、サイバー能力、遠距離作戦能力など、大規模な現代化投資を行っています。 
2. 品質の向上: 一部に課題があるものの、中国はハイパーソニックミサイル、ステルス戦闘機、空母などの先進兵器開発で進展を見せ、技術力の向上が伺えます。 
3. 台湾侵攻のリスク: 台湾侵攻は大きなリスクとコストがありますが、中国はそうした作戦を実行できる能力を着実に高めているとの見方が多数あり、成功の見通しについては議論があります。
軍事力の評価は、主観的な側面があり、政治的背景や情報の制約などの影響を受ける可能性があります。中国軍の真の実力は、実際の戦闘で試される まで正確に知ることはできないかもしれません。その日が来ないことを願うばかりです。

ただし、台湾に侵攻することは、中国に限らずいずれの軍隊にとっても難しいです。その難しさは、最近の能登半島地震での自衛隊の支援活動をみてもわかります。
  • 能登半島は急峻な山地が海に突き出した地形で、以下のような理由から空からの支援は困難だったと考えられます。
  • 着陸場所の制約 急峻な山地が多く、ヘリコプターが着陸できる平坦地が少ない。展開に時間がかかる。
  • 風の影響 急峻な地形により上空で強い横風が吹くため、ヘリコプター操縦や物資投下が危険。
  • 地形の障害 尖った山々が障害物となり、低空飛行や投下はリスクが高い。
  • 目標地点への到達困難 急峻な山々に遮られ、被災現場までの到達が難しい場所も。
このように、能登半島特有の地形的制約があり、広範囲に被害が出た直後の緊急支援では、ヘリコプターによる被災地への物資搬入やパラシュートによる物資投下は現実的ではなかったと言えます。 より迅速な陸路からの進入や、小型船舶による沿岸部へのアクセスなどが適切だったといえます。

以上は、支援活動ですが、これは軍事活動でも同じようなことがいえます。

能登半島と台湾の地理的条件を比較すると、中国が台湾に軍事進攻を行うことの困難さがよくわかります。

まず地形の面では、能登半島ですら急峻な山地が支援活動の障害になったように、台湾はさらにその地形が極端です。東側は海岸線から急峻な山岳地帯が連なり、上陸に適した平地はなく、東側も上陸地点が制限されてしまいます。また、中央部の山岳地帯は戦車や重火力の機動を著しく阻害すると考えられます。

台湾の東海岸


次に海洋条件では、台湾の西側は南シナ海に面し、水深が浅いため、中国の潜水艦が有利に活動できる海域ではありません。東側は太平洋に面し、海流や潮流が複雑で危険も多いでしょう。

西側は、比較的平坦なので、上陸しやすくも見えますが、そうではありません。

台湾の西側から上陸する場合の制約について、以下の点が挙げられます。

地形的制約 :西側の平野部は比較的狭く、上陸に適した砂浜が限られている。後背地付近は直ちに丘陵地帯となり、台湾の東側ほど急峻ではないものの機動の障害になる。
河川の障害: 中央山脈から複数の大きな河川が西側に注ぎ、上陸後の橋渡りが必要になる。河川は障害物となり機動を阻害する。
都市部の障害:台北などの大都市部が西側の平野部に位置し、市街地戦となれば中国軍は過酷な状況に直面する。これは、最近のウクライナでの都市部の戦闘や、ガザ地区の戦闘などが参考になる。
防衛施設の集中:西側平野部には空軍基地や防衛施設が多数配置されており、対空・対艦防衛網が精強である。
海岸線の複雑さ:西側海岸線は湾入部が多く入り組んでおり、大規模上陸に適した砂浜が少ない。よって、台湾軍による待ち伏せなどが可能。

このように、台湾西側は地理的に狭く、都市部や防衛施設の集中、複雑な海岸線といった理由から、中国による大規模上陸に適した場所は限られている と考えられています。東側と同様に、侵攻は極めて困難と言えるでしょう。さらに、台湾の防空・防衛網は高度に発達しており、米国から最新鋭の武器も提供されているため、中国軍の空からの攻撃を難しくしています。

以上のように、台湾の地理的条件と防衛力の高さは、中国にとって多大な制約となり、軍事進攻のリスクは極めて高いと言えます。

能登半島での自衛隊の支援活動の苦労に比べれば、台湾での作戦は格段に困難になると考えられます。つまり、台湾は中国からすれば、攻略が極めて難しい「天然の要塞」と評価できるでしょう。

能登半島地震に際して、徒歩で物資を運ぶ自衛隊員

中国が台湾にすぐに簡単に侵攻できると考える人は、上の事実を無視していると考えられます。しかし、だからといって、中国の軍事活動を軽視しろと言っているわけではありません。

中国は台湾の本格的に侵攻することはないかもしれませんが、ミサイルや航空機を用いて、台湾を破壊することはできます。また、本格的に侵攻しなくても、小数の部隊を上陸させて、破壊活動をしてすぐ引き上げるなど、ゲリラ活動をするなどのことはロジスティクス(兵站)を考慮する必要はなく比較的簡単にできます。

このようなことは、十分に考えられます。しかし、これは侵攻と呼べるような代物ではありません。侵攻となると、大部隊を上陸させて、台湾軍を打ち負かし、まずは台湾全土を占拠しなければなりません。これは、破壊やゲリラ活動から比較すると一挙にハードルがかなりあがることになります。このことを理解せずに、「侵攻」と簡単に言ってしまう人が多すぎだと思います。

しかし、破壊やゲリラ活動等もこれは台湾にとって、大きな脅威であることにかわりありません。

それに、破壊やゲリラ活動にあわせて「グレーゾーン戦略」や「ハイブリッド戦略」で徐々に台湾を疲弊させるということも考えられます。中国が得意のサラミ戦術です。これによって時間をかけてでも、台湾を最終的に実効支配するという手段のほうがより現実的です。

だからこそ、台湾政府は中国に対する警戒を強めているのです。台湾侵攻という言葉は刺激的で強烈ですが、何年たっても侵攻が現実のものとならなければ、人々の関心は徐々に薄れていくでしょう。そうして、ある日気がついてみたら、台湾が南シナ海のように中国に実効支配されているという事態になりかねません。私は、こちらの脅威のほうがより現実的であり、いまから備えなければならない真の脅威であると考えます。

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2024年3月11日月曜日

アメリカでEV販売失速、トヨタのHVがテスラのEVを逆転…欧米主導EVシフトが崩壊で見えた、日本一人勝ちの未来―【私の論評】究極的には核融合炉の実用化が内燃機関からの完全脱却を可能に

アメリカでEV販売失速、トヨタのHVがテスラのEVを逆転…欧米主導EVシフトが崩壊で見えた、日本一人勝ちの未来

まとめ
  • 日経平均株価が史上初の4万円を記録し、日本経済の好景気が期待されている。
  • 世界的にEV(電気自動車)需要が鈍化する一方で、トヨタが得意とするHV(ハイブリッド車)の需要が高まっている。
  • トヨタは2024年3月期の連結営業利益見通しを前期比80%増と大幅に上方修正した。
  • トヨタの時価総額が60兆円を超え、日本企業として唯一世界時価総額ランキングトップ50に入っている。
  • トヨタは新たにエンジン開発プロジェクトを立ち上げ、HVやエンジン車に注力する方針を示した。


 日本経済が長年の低迷から脱却する兆しを見せる中、日経平均株価が史上初めて4万円の大台に乗り、バブル経済期以来の高水準となった。企業業績の好調が株価の上昇を後押ししており、国を代表する自動車メーカー、トヨタ自動車は2024年3月期の連結営業利益見通しを前期比80%増の4兆9000億円と大幅に上方修正するなど、好調な数字を示している。

 このようにトヨタの業績動向が、日本経済の現状と行方を占う上で重要な指標となっている。同社は世界シェア6割を誇るハイブリッド車(HV)が柱となっており、米国をはじめ各国で販売が伸びている。一方で欧米勢は電気自動車(EV)への注力が空回りし、需要の鈍化に直面、戦略の見直しを余儀なくされている。

 豊富なハイブリッド技術とノウハウを有するトヨタは、EVのみならずHV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車など、全方位で電動化に取り組む構えだ。とりわけHVについては「トヨタ一強」の状況が続いており、今後もさらなる需要の高まりが予測されている業界調査結果も出ている。

 かつてEVに傾注していた米自動車大手ビッグ3も、EV需要の停滞を受けてHVの開発に回帰する動きを見せるなど、日本勢の得意分野であるHVが再び注目を集めつつある。

 トヨタは創業者の言葉に基づき、時代の変化に先んじた革新的な取り組みを行うことで、日本の自動車産業の盤石な基盤を維持し、さらには裾野の広い同産業から波及する実体経済への好影響が期待されている。

 世界の自動車業界をリードし、時価総額でも世界トップクラスの存在感を放つトヨタの業績動向は、日本経済の浮沈を占う重要な バロメーターとなっているため、その先行きに注目が集まっている。

 この記事は元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】究極的には核融合炉の実用化が内燃機関からの完全脱却を可能に

まとめ
  • 20世紀初頭の自動車普及は、フォードのモデルTの低価格化と、ガソリンの低価格が大きな要因であった。また、馬糞の環境問題からの解放も後押しした。
  • 現状では発電・送電ロスが大きいため、総合的なエネルギー効率ではガソリン車のほうがEV車より優位にある。
  • 小型原子炉が普及すれば、送電ロス削減、CO2排出量削減、エネルギー安全保障の強化などによりEV車の普及が加速する可能性がある。
  • 小型原子炉の実用化により、自宅やあらゆる場所でEVの便利な充電が可能になり、ガソリンスタンドの必要性が低下する。
  • しかし、究極的にはより安全な核融合炉の実用化が、内燃機関からの完全な脱却につながると考えられる。
EV車、HV車に関しては、以前このブログでも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
結局、豊田章男会長の予測が正しかった…アメリカで「日本製ハイブリッド車」がに売れている理由―【私の論評】EV車の普及にいまだ徹底的に欠けるものとは


 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部分を引用します。

米国において、輸送手段が馬から自動車へと大きくシフトしたのは、20世紀初頭とされています。この転換のきっかけとなった大きな要因は、ヘンリー・フォードによるモデルTの大量生産です。1908年にフォードによって導入されたモデルTは、低価格で大量生産が可能な自動車として、広く一般の人々に受け入れられました。以下に参考資料として、馬の餌代と、T型フォードの燃料代の比較を掲載します。

項目T型フォード
餌代月額10ドル~20ドル月額15ドル~20ドル
年間費用年間120ドル~240ドル年間180ドル~240ドル
燃料干し草、オオムギ、ニンジンガソリン
燃費1日あたり約20kgの干し草1ガロンあたり約25マイル

大雑把な比較ですが、餌代、燃料費との比較では、馬とT型フォードは伯仲していることがわかります。それと、当時都市部の環境問題の最大のものは実は馬糞でした。公共の交通機関から、個人の乗り物として、馬が多様されていた当時の世界中の都市部では、これが最大の環境問題となっていました。

これもかなり後押ししたものと思います。

馬とT型フォードのいずれを買うか悩む米国人 AI生成画像
当時の馬は、多くの人にとって手の届く価格でしたが、T型フォードは高価な買い物でした。T型フォードが普及するには、大量生産による価格低下と、平均的な労働者の年収向上が必要でした。

それと、米国における自動車の普及には確かにガソリンの低価格が大きな役割を果たしています。米国は世界有数の原油生産国であり、一般にガソリン価格は日本など他国と比べても低めに設定されています。20世紀初頭から中盤にかけて、特に安価な燃料の供給が自動車の急速な普及を後押ししたことは間違いありません。

自動車自体と、燃料が低価格ということが、米国で自動車が普及することに大きく貢献したといえます。

そうして、自動車が普及した背景として、馬糞の処理からの開放というのも大きかったことは間違いありません。これは、個人的にもそうですが、社会的にもそうでした。20世紀初頭の世界の都市の環境問題だったのは、馬糞の処理の問題でした。ガソリン車はこの環境問題を根本的に除去したのです。

この記事の結論は以下のようなものです。

私は、EV車が普及するのは、小型原発が普及した後であると思います。これについては、述べると長くなるので、詳細はまた別の機会に掲載しようと思います。ただ、小型原発が各地に設置されるようになれば、停電の心配はほとんどなくなるのと、従来の原発のように巨大な発電、送電施設も必要なくなるので、これはEV車の普及に間違いなく拍車をかけると思います。それまでの間は、やはりHV車が主流になると思われます。 

本日は、小型原発の普及がなぜEV車の普及に拍車をかけるのかを説明します。

まずは、エネルギー効率の観点から説明します。

現状の発電・送電システムにおいては、ガソリン車のほうがEV車よりもエネルギー効率が良いと考えられます。
  • 発電時の燃料損失: 火力発電所では、燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の燃焼時に一部がロスしてしまいます。発電効率は最大でも約40%程度です。
  • 送電時の電力損失 :長距離の送電では10%以上の電力損失が発生します。
  • 充電時の電力損失 :EV車の充電時には、さらに5~15%程度の電力損失があります。
  • ガソリン車のエネルギー効率 :一方、ガソリン車のエンジン効率は20~30%程度です。燃料輸送時の損失も少なく、タンクから車両までは比較的エネルギー損失が少ないです。
つまり、火力発電から充電までの一連のプロセスで50%以上の損失が発生するEV車に比べ、ガソリン車のほうがエネルギー効率では優位になっているわけです。

例えば、発電効率40%、送電損失10%、充電損失10%とすると、EV車では実際に動力に使えるのは発電所の燃料の僅か32%にすぎません。ガソリン車のエンジン効率25%と比べると、ガソリン車のほうが良いエネルギー効率となります。

このため、発電・送電インフラの抜本的な改善がない限り、現状ではガソリン車のほうが総合的なエネルギー効率で有利だと言えるでしょう。

小型原子炉が実用化され、各地に配置されれば、EV車の普及が本格化する理由は以下の点が挙げられます。

電力供給の安定性が高まる: 小型原子炉は立地場所を選ばず、需要地の近くに設置できるため、送電ロスが少なく、安定的な電力供給が可能になります。EVの充電インフラが十分に整備されれば、電力不足に伴う充電の制約がなくなります。
CO2排出量削減が進む: 原子力発電は運転時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーです。小型原子炉が普及すれば、化石燃料火力に比べCO2排出量が大幅に削減できます。EVの主要メリットである環境負荷の低減がさらに進むでしょう。
エネルギーセキュリティが高まる: 国内に分散配置された小型原子炉により、エネルギー供給のリスク分散が可能になります。中東情勢など海外に過度に依存しなくなり、エネルギー安全保障が強化されます。
EV普及のインセンティブが高まる: 環境対策や国家的なエネルギー安全保障の観点から、政府によるEV普及支援策が一層推進されるでしょう。補助金や税制優遇、インフラ整備など、EVを取り巻く環境が大きく改善する可能性があります。

つまり、小型原子炉の実用化により、EVの充電インフラが整備され、環境負荷低減とエネルギーセキュリティ確保が同時に図れるため、EV普及が加速する背景になると考えられます。

小型原発が普及した世界では、EV車の充電は自宅でするのが普通になるでしょう。それどころか、現在でも電化が進んでいますが、すべてがオール電化し、さらに、自宅以外で、充電できる場所もかなり広がるでしょう。そもそも電気料金がかなり下がるでしょう。それこそ、現在スマホの充電が無料でできるスポットがあるように、外で無料で便利に充電できるスポットもでてくるでしょう。

そのような世界では、ガソリン車、HV車のように、車のためだけに、ガソリンスタンドにわざわざガソリンを入れる手間は大きなものとなり、それこそ20世紀初頭の馬糞処理のように面倒なものとなるでしょう。

その頃には、EV車が当たり前のものとなり、ガソリン車、HV車は現在の馬のようなものであり、ノスタルジーを感じさせるものとなるでしょう。

小型原子炉は出力が小さいため、必要な冷却量は大型原子炉に比べて少なくて済みます。そのため安全ともいわれてはいますが、危険がないとうわけではないので、これを忌避する人々も多く普及には時間がかかるとみられます。

しかし、核融合炉が実用化し、小型化されれば、これは完璧にEV車は当たり前になるどころか、エネルギー源はすべて電気ということになり、世の中から内燃機関はなくなるでしょう。

逆に言うと、その時代が来るまでは、EV車の普及はないということです。

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2024年3月10日日曜日

世界の生産拠点として台頭するインド 各国が「脱中国」目指す中―【私の論評】中国輸出失速、インド急成長で新時代 - 日印連携で自由なインド太平洋実現へ

世界の生産拠点として台頭するインド 各国が「脱中国」目指す中


まとめ
  • インドは価格競争力や豊富な労働力を生かし、航空機製造や電気自動車など多岐にわたる産業で成長し、輸出製造大国として急速に浮上している。
  • 多くの企業がインドに進出し、米ボーイングやテスラなどが調達を増やす中、アップルはインドで製造拠点を拡大している。
  • インドの輸出品は特に電子製品が躍進し、アップルやヴェスタスなどが新たな生産拠点を設立。アップルは生産能力を拡大し、競合他社も同国に進出している。
  •  地政学的理由からも、多くの企業が中国以外での供給源を模索し、インドが「チャイナプラスワン」戦略の一環として注目を集めている。
  • インドは米国のインド太平洋経済枠組みで重要な位置を占め、対米輸出が急増。政府は経済的な要因や労働力の活用を通じて製造業を支援し、2030年までに2兆ドルの輸出を目指している。

インドの縫製工場

  インドは、価格競争力や豊富な労働力を活かし、様々な産業で成長し、将来の輸出製造大国として急速に台頭している。ボストン・コンサルティング・グループによる報告書によれば、航空機製造分野や風力発電機、電気自動車など、多くの企業がインドに進出している。輸出品では電子製品が特に増加し、アップルなど大手企業が生産拠点を拡大している。地政学的理由からも、中国以外の供給網を築く「チャイナプラスワン」戦略の一環として、多くの企業がインドに拠点を置く傾向がある。

 また、インドは米国のインド太平洋経済枠組みの中で重要な位置を占め、昨年上半期には最大の貿易相手国となった。これは、中国を除外し、他の信頼性のある供給国からの調達を促すための枠組みである。インドの対米輸出は急速に拡大し、自動車部品、機械、半導体などが大きく伸びている。中国の対米輸出はこれらの分野で減少しており、多くの企業が中国以外での供給源を模索している。

 インド政府は経済的な要因や労働力の多さを活かし、製造業の成長を促進している。生産連動型奨励策や資本優遇措置を通じて、企業に補助金を提供している。また、労働力の能力向上にも取り組んでおり、電子機器の生産を強化している一方で、課題も抱えている。技術製品の多様化や生産品質の向上が求められており、これらの課題を克服するためには生産能力を拡大し、近隣諸国との連携を強化する必要がある。「メイク・イン・南アジア」政策を通じて、2030年までに輸出額を2兆ドルに引き上げるという政府の目標達成に向けた動きが期待されている。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になってください。


【私の論評】中国輸出失速、インド急成長で新時代 - 日印連携で自由なインド太平洋実現へ

まとめ

  • 中国の輸出入は2023年ともにマイナス成長となり、特に輸出では大幅なマイナス(-6.1%)となった。
  • 一方、インドの輸出は過去から堅調に伸びており、2023年も7.4%のプラス成長を記録した。
  • 中国への経済制裁国向けの輸出がマイナスだったのに対し、非制裁国のロシア、アフリカ向けは増加した。
  • インドの輸出額は中国の約10分の1と伸び代が大きく、日本にとって重要な輸出先となりうる。
  • 日本は価値観を共有するインドとの安全保障、経済、人的交流分野での協力を一層深めていく方針。

以下に中国とインドの輸出を比較する表を掲載します。

インドと中国の輸出推移比較表(1999年~2023年12月)

データ: 世界貿易機関 (WTO) 貿易統計、中国税関

単位: 10億米ドル

インド中国前年比(インド)前年比(中国)
199943.5194.9--
200044.8249.43.00%28.10%
200584.4438.488.60%76.00%
2010246.31,578.10190.10%260.40%
2015310.42,271.2026.50%44.20%
2020297.82,594.50-4.10%14.30%
2021336.13,364.6012.80%29.80%
2022422.23,955.8025.60%17.60%
2023453.33,716.407.40%-6.10%

WTO: https://wto.org/statistics

この表をみると、中国、インドともに過去にはかなり輸出を伸ばしてきたことがわかります。昨年に関しては、インドはプラス幅は過去よりは、小さめであるものの、プラス成長しています。中国は-6.1%です。

これに関しては、ブルームバーグなどの1月の報道では、-4.6%などとしていましたが、当時は12月の数値が未定だったため、推計値と思われます。それにしても、-61%とは驚きです。なぜ日本でこれがもっと大々的に報道されないのか不思議です。

以下に1月に公表された、中国の貿易統計の一部を掲載します。輸出は-4.6%となっていますが、大勢には影響がないと思うので、掲載します。

2023年中国貿易統計(一部抜粋集計)

項目前年比金額 (ドル)
輸出-4.60%3兆3800億
輸入-5.50%2兆5568億
貿易総額-3.70%5兆9368億
地域別輸出
- ロシア+26.3%2401億
- EU-10.20%1兆1800億
- 米国-13.10%9400億
- 日本-8.40%1兆1200億
- アフリカ諸国+5.7%1550億

 出処:中国税関総署:http://gdfs.customs.gov.cn/customs/syx/index.html

特徴的なのは、輸出、輸入ともマイナスということです。輸入がマイナスなのは、中国の景気が良くないことをしめます。通常、景気が良いと、輸入は増加します。

輸出で特徴的なのは、日本を含めた先進諸国は、のきなみマイナスであり、ロシア、アフリカ はプラスになっているということです。これは、中国に対して経済制裁している国々が輸入を減らしたからでしょう。中国に対して経済制裁をしていないロシア、アフリカの輸出が増えたということです。ロシアとアフリカの輸出が増えたにしても、これから急激に伸びることはなく、中国の輸出はこれから先細っていくことでしょう。

これをみると制裁を受けていないインドは、これからさらに輸出を伸ばしていける余地があるといえます。さらに、輸出額で223年時点では、10分の1 よりもまだ若干少ない程度です。これは、まだまだ伸びしろがあることを示しています。

そうして、中国依存を避け、輸入先などを転換すべき日本は、インドからの輸入を増やすことは経済安保の観点からも望ましいです。また、インドへの輸出拡大は、日本経済にとって大きなチャンスです。日本政府と民間企業が一体となって取り組むことで、課題を克服し、インド市場で成功することができるでしょう。

そうしてインドへの輸出拡大は、日本経済にとって大きなチャンスです。日本政府と民間企業が一体となって取り組むことで、課題を克服し、インド市場で成功することができるでしょう。

また、日本は、安全保障環境の変化に対応するため、インドとの関係を深めることが重要です。両国は、共通の価値観と戦略的利益を共有しており、安全保障分野での協力は、自由で開かれたインド太平洋地域を維持するために不可欠です。

上川外務大臣は7日今月訪日中のインドのジャイシャンカル外相と会談を行い、以下の点で一致しました。
  • 「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて日印の連携を強化する。
  • 安全保障、経済、人的交流など幅広い分野で両国関係を深化させる。
  • 具体的には、自衛隊とインド軍の共同訓練の実施、日本の防衛装備品の移転推進、宇宙・サイバー分野での協力拡大を図る。
両国は民主主義や法の支配など基本的価値を共有し、新興国の代表格であるインドとの関係を日本は重視していることを確認しました。



もう次世代は、中国ではなくインドです。未だ中国幻想に酔っている人たちは、もう時代おくれです。

そうして、インドと日本の関係に先鞭をつけたのが安倍総理です。岸田首相はこの路線を継承し、インドとの関係をさらに深めていただきたいものです。

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