2025年4月6日日曜日

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税―【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税

まとめ
  • 米中貿易戦争が激化し、相互関税の応酬が続く。トランプ政権は5日から一部関税を発動、中国は34%の追加関税で対抗。米国では農産物輸出や景気への悪影響が懸念。
  • TikTokの米事業売却が新たな火種に。トランプが期限を75日延長するが、中国は報復で承認を保留。依存度低下で報復に自信か。
  • 米国にとって中国は重要な輸出先。前回の貿易戦争で農産物輸出が急減、農家は今も苦境。対立はエスカレートする一方だ。

激論するトランプと習近平 AI生成画像

米国と中国の間で貿易戦争が激化し、相互関税の応酬がエスカレートしている。トランプ米政権は5日、一部関税を発動し、これに対し中国は米国からの輸入品すべてに34%の追加関税を課す対抗措置を打ち出した。米国では農産物の輸出減少や景気全体への悪影響が強く懸念されており、中国は報復として大豆やトウモロコシなど米国産農産物にも対象を広げている。

関税は2段階方式で、5日からすべての貿易相手国に一律10%が適用され、9日から貿易赤字の大きい国への上乗せ分が追加される。TikTokの米国事業売却問題も新たな火種となり、トランプ大統領は売却期限を延長したが、中国は相互関税への対抗として承認を保留している。

オランダのエコノミストは、中国の対米輸出依存度が低下していると指摘し、報復への自信を強めていると分析。米国農業界は前回の貿易戦争で受けた輸出急減などの打撃を訴え、再びの悪影響を避けるよう求めているが、事態悪化への懸念は収まる気配がない。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖

まとめ
  • 米中関税合戦では米国が圧倒的に有利。国際金融のトリレンマで、変動相場制の米国は自由に動けるが、管理変動相場制の中国は人民元を縛られ、金融政策が制限される。輸出品でも米国の大豆や天然ガスは代替が難しく、中国の電子機器や服は簡単に他国に切り替えられる。
  • 経済規模と貿易依存度でも差は歴然。米国のGDPは25兆ドルで内需が強く、輸出はGDPの11%。中国は18兆ドルで輸出依存度20%と高く、米国市場を失うと痛手が大きい。2018~2019年の貿易戦争で中国経済は揺れ、米国は平然と耐えた。
  • 技術とサプライチェーンでも米国がリード。ファーウェイ制裁や半導体規制で中国を締め上げ、TikTok売却問題でも圧力をかける。中国が報復関税に固執するのは意地だけだ。変動相場制と市場自由化が必要だが、共産党の統制がそれを阻む。
  • 共産党の体制が中国の足かせだ。民主化、政治と経済の分離、法治国家化が改革に必要だが、党の支配が崩れるのを恐れてできない。このままでは経済が衰退し、ソ連崩壊のような末路が待つ。経済に疎い習近平にはこの現実が見えていない可能性がある。
  • 現実が明らかになれば、中国は軍事で賭けるかもしれない。2024年の台湾演習や軍事費2450億ドルが示すように、覇権強化を狙う可能性がある。だが、米国は2正面作戦に限界があり、2025年トランプはアジアシフトを宣言。AUKUSや日韓協力で迎え撃つ準備を進めている。

トランプが「関税」のハンマーを振りかざし、習近平を圧倒! 米国の経済力と技術優位が中国を追い詰める   AI生成画像

米中間の関税合戦が火を噴いている。だが、マスコミがあまり騒がない裏で、中国が明らかに不利で、米国が圧倒的に有利な状況が広がっているのだ。この現実は、国際金融のトリレンマという世界の金の流れを支配するルールや、為替の違い、貿易への依存度から見ると、ビシッと浮かび上がる。米国は変動相場制で自由に動き回れるし、輸出品の強さ、国内市場の巨大さ、技術の力でも中国をぶっちぎっている。
中国が報復関税で意地を張っても、自分の首を絞めるだけだ。生き残る道は、為替制度をガラッと変え、市場を自由に開くことしかない。なのに、中国はそれができない。共産党の政治が足を引っ張り、民主化や法治国家への道を塞いでいるからだ。このままじゃ、長く衰退し、ソ連が崩れたみたいな末路が待っているかもしれない。
しかも、この現実は経済に疎い習近平やその取り巻きたちが強く認識していない可能性がある。今は報復関税に終始しているが、いずれ誰の目にも明らかになる。その時、中国は最後の賭けに出るかもしれない。それは、軍事力を使った覇権の強化だ。だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。だからこそ、トランプはアジアにシフトすると宣言しているんだ。さあ、一気にその核心に突っ込んでみよう。
まず、国際金融のトリレンマだ。これは、金の流れを動かす3つの柱——為替を固定するか、資本を自由に動かすか、金融政策を自分で決めるか——を全部は手にできないという法則だ。どれか2つしか選べない。経験も数字もこれを裏付けている。米国は変動相場制を選んだ。ドルは世界の基軸通貨だ。資本を自由に動かしつつ、連邦準備制度が金融政策をガンガン進められる。2022年、インフレを抑えるために利上げした時、ドル高がグイッと進んだ。だが、米国経済はビクともしなかった。
変動相場制を採用している国なら、関税で輸出が減ると通貨が下落し、輸出品が安くなって競争力が回復する。2015年の日本の例を見ると、円安が進んだことで自動車や電子機器の輸出が持ち直し、経済が安定した(日本銀行データ)。米国も変動相場制だ。2022年、FRBがインフレ抑制のために利上げした時、ドル高が進んだが、その後調整が入り、輸出産業は大きなダメージを免れた(米国商務省)。つまり、米国は関税戦争の影響を為替の動きでカバーできる余地がある。

だが、中国のような固定相場制に近い管理変動相場制の国では話が違う。人民元はドルに縛られ、自由に動けない。中国人民銀行は為替を一定の範囲に抑えるため、2018~2019年の貿易戦争で外貨準備を大量に投入した(中国人民銀行発表)。為替が動かないから、関税のダメージを緩和する余地がない。2018年、米国が中国製品に25%の関税をかけた時、中国の輸出は急減し、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち込んだ(中国国家統計局)。一方、米国は為替調整で輸出競争力を維持し、内需の強さもあって経済は安定した(米国経済分析局)。
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次に、輸出品の違いだ。米国の対中輸出は大豆、トウモロコシ、天然ガスといった生活や産業に欠かせないものだ。中国が関税をかけても、完全には切れない。2018年、米国産大豆に25%の関税をぶつけた時、輸入は減った。だが、中国はブラジルに頼るしかなく、コストが跳ね上がった。米国農務省のデータを見れば、2020年以降、中国の需要が戻って輸出が盛り返している。一方、中国の対米輸出は電子機器や服だ。米国が関税をかければ、ベトナムやメキシコにサクッと切り替えられる。商務省の数字でも、2018~2019年に中国からの輸入が減った分、東南アジアがグンと伸びた。このズレが、中国をジリ貧に追い込む。

経済の大きさと市場の力も見逃せない。米国のGDPは約25兆ドル(2023年IMF推計)。中国は18兆ドルだ。米国は世界一の消費市場で、中国企業には欠かせない。2018年、トランプが中国製品に500億ドル、後に2500億ドルの関税を叩きつけた。中国の報復は米国製品600億ドル止まりだ。なぜか? 中国の対米輸出は総輸出の16%(2022年中国税関総署)。米国は7%(2022年米国商務省)。中国企業は米国を失うと痛い。
米国企業は他でカバーできる。貿易への依存度も目を引く。米国の輸出はGDPの11%(世界銀行、2022年)。内需がガッチリ支えている。中国は最近内需にシフトしたとはいえ、まだ20%だ。関税で輸出が減ると、中国経済はガタガタ揺れる。2018~2019年、輸出企業が売上を落とし、仕事が減った。米国は内需の力で平気だ。また米国の一人当たり名目GDPは約76,399ドルで、世界でもトップクラスに位置している。これに対し、中国の一人当たり名目GDPは約12,720ドル。この数字から、米国の一人当たりGDPは中国の約6倍に達している。この差はデカすぎる。
技術とサプライチェーンでも米国が圧倒する。半導体や先端技術でリードし、中国を締め上げる。2020年のファーウェイ制裁、2022年の半導体規制で、中国のハイテク産業は大打撃だ。国産化を急ぐが、台湾のTSMCや韓国のサムスンに追いつけない。米国は中国の安物に頼らず、サプライチェーンを広げられる。TikTokの話もそうだ。2025年4月、トランプが売却期限を75日延ばしたが、中国が承認を渋り、計画はポシャった。米国市場を失うリスクは中国側に重く、米国は平然と圧力をかける。
中国が報復関税にしがみつくのは、意地っ張りにしか見えない。経済に疎い習近平やその側近が、現実を分かってないのかもしれない。2018~2019年、GDP成長率が6.6%から6.1%に落ち(中国国家統計局)、製造業も低迷した。中国のGDP統計なんて信用ならないが、落ち込んだのは確かだ。関税は輸入コストを上げ、自国を苦しめる。抜け道はある。変動相場制にして人民元を市場に任せ、市場を自由にすればいい。2015年の人民元切り下げで輸出が持ち直した例もある。資本を自由に動かし、投資を呼び込めば、経済は強くなる。だが、中国は動けない。
なぜだ? 共産党の体制が邪魔をする。経済は党が牛耳り、人民銀行も国有企業も党の言いなりだ。変動相場制は人民元を市場に預けること。資本の自由化は資金が海外に逃げるリスクを孕む。それを防ぐには市場を透明にしないといけないが、共産党はそんなこと許さない。国有企業を優遇し、民間を締め付ける。2021年、アリババや滴滴出行を叩いたのは、党が経済を握りたいからだ。1989年の天安門後、鄧小平は経済を開いたが、政治は触らなかった。
今の習近平は権力を握り、改革を嫌う。本当は、民主化、政治と経済の分離、法治国家が必要だ。米国や西側じゃ当たり前だ。だが、中国では共産党が法の上に立ち、経済も党の道具だ。民主化は国民の声が力を持つ。政治と経済が別れれば、国有企業の利権が消える。法治国家なら党の勝手が通らない。だが、これをやれば共産党の支配が崩れる。だからできない。改革は体制を揺るがす爆弾だ。
だから中国は動けない。関税で意地を張るだけだ。だが、この現実は、いずれ誰の目にも明らかになる。経済に疎い習近平やその取り巻きは、今は報復関税に終始している。2025年3月、中国外務省の王毅は「米国の一方的ないじめ」と非難し、対抗措置をチラつかせた(CNN報道)。だが、経済は弱り、成長率は2010年代の8%超から5%台へ(2023年予測)。人口は減り、借金は膨らむ。
中国人民解放軍は今月2日間にわたって、台湾周辺で実弾演習を行った
ソ連は計画経済で潰れ、1991年に崩壊した。中国も同じ道をたどるか? その時、最後の賭けに出るかもしれない。軍事力を使った覇権の強化だ。2024年10月、習近平は台湾周辺で軍事演習を強化し、「戦争準備」を叫んだ(BBC報道)。中国の軍事費は2450億ドル(ストックホルム国際平和研究所、2023年)と米国(9160億ドル)の4分の1だが、アジアに集中すれば脅威だ。
だが、米国は今、2正面作戦を余裕でこなせる状態じゃない。ウクライナと中東で手一杯だ。2022年、ロシアのウクライナ侵攻で米国は軍事支援に追われ、2023年にはイスラエル支援も重なった(米国防総省)。兵站も予算も伸びきっている。だから、トランプはアジアにシフトすると宣言したのだ。2025年1月、彼は「アジアが最優先」と演説し、日本や韓国との同盟強化を強調した(AP通信)。AUKUSやクアッドも動き出し、2023年に米国、日本、韓国がキャンプデービッドで協力を固めた(ホワイトハウス発表)。中国が軍事で賭けに出ても、米国はアジアで迎え撃つ準備を進めている。
結論だ。米国は経済の力と体制の柔軟さで中国をぶっちぎる。報復関税は中国を弱らせるだけだ。為替と市場を変えなければ生き残れない。だが、共産党がそれを許さない。民主化も法治も無理だ。この現実を習近平が見誤れば、いずれ崩壊が誰の目にも明らかになる。その時、軍事で賭けるかもしれないが、米国はアジアにシフトして備えている。この戦い、米国が圧倒的に有利なのは、経済と現実が証明する揺るぎない真実だ。
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2025年4月5日土曜日

「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」―【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか

「荒唐無稽」「乱暴すぎる」トランプ関税が世界中から総スカン!それでも強行する「トランプのある危機感と狙い」

まとめ
  • 相互関税の発動: トランプが4月2日に「相互関税」を発表。貿易相手国の関税や非関税障壁(為替操作、補助金、消費税など)に対抗し、日本には実質関税率46%の半分、24%を課す。
  • 目的と論理: 貿易赤字是正と製造業の国内回帰を目指す。消費税の輸出還付(例: トヨタ6102億円)が補助金と見なされ、非関税障壁に含まれる。
  • 安全保障の背景: 関税政策は、経済合理性を欠くという批判があるが、たとえば有事の製造能力喪失(造船能力は中国の1/242)が危機とされ、安全保障強化を優先するための製造業国内回帰を目指すもの。
  • 市場と経済の反応: 発表後、日本株は一時急落も下げ止まる。米国経済は消費者信頼感低下とインフレでスタグフレーション傾向。
  • 短期戦略: 中間選挙(2026年秋)を見据え、2025年夏までの短期的な経済回復を目標に、関税収入と歳出削減で減税や支給を計画。


トランプが掲げる「相互関税」が4月2日に発表された。これは、以前から予告されていたもので、貿易相手国がアメリカに対して課している関税や非関税障壁に対抗する政策だ。トランプの主張では、アメリカが貿易赤字に苦しむ原因は、相手国の不公正な貿易にあるという。具体的には、アメリカ製品への関税に加え、為替操作、政府補助金、ダンピング(不当廉売)、科学的根拠に乏しい検疫基準、知的財産の盗難、そして消費税(付加価値税)などの非関税障壁が問題だとしている。

これらを合算した「実質的な関税率」を計算し、それに匹敵する関税をアメリカが課すのが「相互関税」の仕組みだ。例えば日本に対しては、実質関税率を46%と推計しつつ、「寛大」にもその半分程度の24%の関税を課すとしている。この46%という数字は、日本の対米貿易黒字と輸出総額の比率(684億ドル÷1482億ドル)から導かれた可能性がある。

特に注目されるのは、消費税が非関税障壁に含まれる点だ。例えば日本では、輸出企業が国内で支払った消費税を還付される仕組みがあり、トヨタの場合、2023年4月から2024年3月までの還付額は6102億円に上る。これは輸出品が国内消費されないため当然の措置だが、取引の実態では還付が補助金的な効果を持つとアメリカ側は解釈している。

トランプの目的は、貿易赤字是正だけでなく、製造業を国内に戻し、安全保障を強化することにある。経済学的には、自由貿易が最適な生産と利益をもたらすとされ、トランプの関税政策は「荒唐無稽」と批判される。実際、アメリカは製造業が衰えた一方で、金融やデジタル分野で強みを発揮し、国際分業が進んでいる。しかし、有事における製造能力の喪失が安全保障上の危機と見なされており、例えば造船能力が中国の242分の1しかない現状では、戦争時の補充が困難だ。この危機感が、経済合理性を超えた政策の背景にある。

発表後、日本の株式市場は4月3日に一時1600円以上下落したが、下げ止まり、悪材料出尽くしとの見方が広がった。今後、各国との交渉で関税が緩和されるとの楽観論もある。しかし、アメリカ経済は消費者信頼感の急落(3月の指数は92.9とコロナ禍以来の低水準)やインフレ進行でスタグフレーション傾向にあり、トランプがさらなる関税引き上げを検討する可能性も否定できない。トランプは中間選挙までの時間を計算し、関税収入と歳出削減で減税や国民への支給を実施し、短期的な経済回復を目指しているとみられる。

朝香 豊(経済評論家)

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【私の論評】トランプ関税の裏に隠れた真意とは?エネルギー政策と内需強化で米国は再び覇権を握るのか

まとめ
  • トランプは関税政策ばかりが強調されるが、エネルギー政策も重要だ。エネルギーではシェールガスや石油の増産、小型原子炉(SMR)、核融合技術への投資で価格を下げ、経済を活性化させる狙いがある。
  • 関税は経済成長目指すものではなく、内需比率の引き上げが目的だ。2018~2019年の対中関税でGDP成長率が2.9%から2.3%に落ちたが、中国依存を減らし、国内製造業を戻す戦略である。
  • 第二次世界大戦中、米国は輸出がGDPに占める割合は4~6%と低く、内需で経済を支えた。これが戦争を有利に進めた要因であり、トランプはこれを再現しようとしている。
  • 関税で経済が停滞するリスクに対しては、エネルギー政策で対処しようとしている。2019年のエネルギー輸出増で米国は純輸出国となり、2025年にはシェールオイル拡大で経済を下支えする計画だ。
  • 関税政策は経済合理性だけでは理解しにくいが、中国との対決や安全保障を優先し、内需を固める盾だ。エネルギー政策と組み合わせ、国力を維持しながら内需拡大を目指すのがトランプの戦略だ。
トランプの政策に関しては、最近では関税政策ばかりが目立ち、もう一つの重要な政策に関してはあまり振り返られことはない。もう一つの政策とはエネルギー政策である。これについては昨日このブログに掲載したばかりだ。

この記事より、一部を以下に引用する。
米国のエネルギー戦略がはまれば、形勢は逆転する。トランプ政権はシェールガスや石油をガンガン増産し、安全な原子炉スモール・モジュール・リアクター(SMR)や、核融合っていうクリーンな技術に巨額の投資をする。これでエネルギー価格を下げる算段だ。
SMRの1ユニットはトレーラーで運べる程度の大きさ
トランプ氏は気候変動対策や脱炭素には冷ややかだ。当面は化石燃料をフル回転させ、3年後にはSMR(小型モジュール炉)でコストを下げ、5年後には核融合の実用化で製造業をブーストする気だ。欧州や日本が脱炭素に拘泥している間に、米国はエネルギー安をバネに経済を活性禍させるだろう。エネルギー価格が下がればインフレは収まり、国内生産は勢いづく。エネルギー輸出が増えれば貿易収支も上向き、ドル高の圧力も和らぐ。こうして関税の不況を帳消しにし、米国経済は成長のレールに戻る。この逆襲は3~5年以上の時間がかかる。鍵はエネルギー技術のブレイクスルーだ。

トランプ政権のエネルギー政策は、グリーンな頭ではなく経済合理性の観点からみれは、非常に納得のいく政策だ。それも、先の先まで見通している。最終的に目指すのは核融合だが、これに成功すれば、人類はあまりエネルギーを心配する必要はなくなる。しかし、これは今ではない、それでもエネルギー価格を安定させるため、まずは化石燃料を掘りまくり、次の段階ではSMRによるエネルギー供給だ。これらは、核融合炉が稼働するまでのつなぎという考え方だろう。

緑色の帽子を被ったグレター・トゥーンベリ AI生成画像

こうした冷徹な経済合理性を追求する一方で、経済合理性からみるとまったく不合理な関税政策するのはなぜかという問いに対して上の記事では、「製造業を国内に戻し、安全保障を強化することにある」としている。

これは、妥当な見方だと思う。しかし、私はそれだけではないと思う。それを以下で紐解いていく。

これも以前このブログに掲載したことだが、米国の内需は近年低下傾向にあった。以下に一部引用する。

米国の輸出と輸入の状況を振り返ると、興味深い事実が浮かび上がる。米国の輸出がGDPに占める割合は、1960年の5%から長い間10%未満が続いた。しかし、2019年には12%に達し、長期的に貿易依存度が上昇しているものの、他の主要国と比べると依然として低水準である。2023年時点では、輸出のGDP比は11.01%と、パンデミック前の水準には完全には回復していない。この背景には、米国の巨大な国内市場(2023年実質GDP成長率2.5%)と堅調な個人消費(第3四半期3.5%増)が持続的な経済成長を支えていることが挙げられる。

近年、輸出主導型成長戦略の限界が指摘されるようになり、各国が内需拡大へと戦略を転換している。ドイツの輸出信用保証は1990-2002年に輸出を1.7~6倍に促進したが、同制度は輸出企業に21億ユーロ(総輸出の2.9%)を保証する一方、政府債務残高は年平均115億ユーロに上り、財政負担の持続可能性が課題となっていた。

2010年代後半から2020年代初頭にかけてEC諸国は「非市場リスク」に限定する規制を導入したが、この背景には、過度な輸出支援が市場歪曲を招くリスクへの警戒があった。この規制は、環境基準を満たさない製品の輸出制限や、適切でない労働条件からの製品に対する輸入制限を含む。また、消費者保護の観点から、安全基準を満たさない製品やデータ保護規制に違反する企業のデータの国外持ち出しも制限される。
以上のような状況は、いわゆるグローバリズムがもてはやされた結果、経済的利益を優先し、安保や社会の安定等を無視して貿易に過度に走ったための弊害が出てきたため、それを是正しようとする動きであると言える。

内需が大きい国は、国内の消費や投資が経済の主要な推進力であるため、外国の経済状況や需要の変動に左右されにくい。米国のように国内市場が巨大で自給自足的な要素が強い場合、輸出入の変動があっても内需が安定していれば経済全体への影響は限定的だ。

一方、外需が大きい国は、輸出や外国からの需要に依存しているため、海外の景気後退や貿易政策の変更などの影響を直接受けやすい。例えば、ドイツや韓国のように輸出主導型の経済では、外国の需要が落ち込むと経済成長が大きく鈍化する傾向がある。戦争やそこまでいかなくても、経済戦争などが起こった場合、内需の大きな国は、外需が大きい国より、圧倒的に有利だ。

内需比率が高かったことは、第二次世界大戦中に米国が他国と比べ国内への影響を抑え、戦争を有利に進めることができた要因でもあった。米国は第二次世界大戦中であっても、輸出がGDPの4~6%程度と低く、内需と豊富な資源で経済を支えることができた。貿易途絶の影響をほとんど受けなかった。

さらに本土が戦場から遠く、生産基盤が維持され、労働力動員や消費も安定しており、国内経済は強さを保つことができた。ドイツや日本は外需依存で資源不足に苦しみ、経済が崩壊した。米国は内需のおかげで戦車や航空機を大量生産し、レンドリース法で連合国を支援し、物量で枢軸国を圧倒する。この経済的持久力と柔軟性が、戦争を有利に進める鍵であった。

米国以外の国々では、戦争経済への移行でGDPは伸びたものの、いびつな経済構造となって人々を苦しめた。しかし、米国は強力な内需により、他国より戦争経済に移行しても、その悪影響は少なかった。

第二次世界大戦中の軍需工場で働く女性をモチーフにした写真

中国との本格的対立に先立って、トランプはまさにこの頃のような米国経済に戻ろうと目論んでいるのだろう。それを短期で実行する手段がトランプ関税であると考えられる。無論、このような方法に頼らなくても、内需の拡大はできるだろう。しかし、それには時間がかかる、短期に実行しようとした場合のトランプ流の回答が関税政策であるとみられる。短期的な混乱や、景気の低迷は織り込み済みだろう。一時的に、経済が縮小したとしても、内需の比率をあげようという腹だろう。

そもそも、トランプの関税政策はそれによって経済成長を目指すものではなく、内需比率の引き上げが目的と見られる。2018~2019年の関税で対中貿易赤字は減ったが、GDP成長率は2.9%から2.3%に鈍化し、全体の経済拡大は犠牲になった。2019年のメキシコへの関税威嚇は移民対策に成功したが、米国企業のコスト増で経済にブレーキをかけた例もある。彼の狙いは関税による経済規模の拡大より、中国依存からの脱却と内需の強化にあるのだ。

しかし、そのままでは米国の経済が長期停滞する恐れがある。その対策として上にも述べたようにエネルギー政策が鍵となる。トランプは化石燃料の増産を掲げ、2025年にシェールオイル生産を拡大する計画を進めている。2019年のエネルギー輸出増で米国は純輸出国となり、経済を下支えした実績がある。関税で内需をかため、エネルギーで停滞を防ぎ、いざというときに戦争経済に移行しやすくするというのが彼の戦略なのだろう。

経済合理性だけでトランプ関税を眺めると、頭を抱えるしかない。数字だけ追いかける学者や評論家連中には、さっぱり理解不能な愚策に映るだろう。関税をかければ輸入品の値段が跳ね上がり、企業はコスト増で悲鳴を上げ、消費者は財布の紐を締める。結果、経済全体がガタガタになるリスクだってある。2018年の中国への25%関税で、アメリカのGDP成長率が2.9%から2.3%に落ち込んだデータを見れば、誰だって「何だこの自滅行為は!」と叫びたくなるだろう。

だが、ちょっと視点を変えてみれば、この関税の本質は、中国との殴り合いに備えて、内需をガッチリ固めるための盾であることが見えてくる。そう考えれば、このトランプ流の荒っぽいやり口も、ある程度は腑に落ちるのではないか。それに、関税政策もやりっぱなしではなく様子を見ながら、素早く変えていくだろう。さらに関税だけでなく、エネルギー政策も平行してすすめるなど、国力を落とさず内需拡大を目指す抜かりのなさも見えてくる。

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2025年4月4日金曜日

「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か―【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か

「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か


トランプ大統領が「相互関税」を発表したことでアメリカの株価が急落した。だが、トランプ氏はこれを「予想されたこと」と冷静に受け止め、関税導入を「重病患者の手術」に例えた。アメリカ経済は手術を終えた病人であり、今後は静養を経て好景気になると強気だ。株価下落にも関わらず関税政策を緩める気はなく、近いうちに半導体や医薬品への新たな関税を発表する意向も明らかにした。

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【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か

  • トランプ氏は関税で米国の貿易赤字を解消し、製造業を守り、「経済自立」と「競争力回復」を目指す。1980年代から貿易赤字にこだわり、関税を切り札と信じている。
  • 短期的には関税が世界不況を招く。貿易コストが上がり、輸入品価格が高騰、消費が冷え込み、輸出産業が報復関税で打撃を受け、1~2年で経済が停滞する。
  • 長期的には米国のエネルギー戦略が鍵。シェールガス、SMR、核融合でエネルギー価格を下げ、3~5年後に経済を立て直し、不況を帳消しにする可能性がある。
  • 日本は関税で自動車や電子機器が標的となり、消費税批判も受けているが、報復せず消費税減税や米国とのエネルギー協力、CPTPPで米国抜きの貿易を進めるべき。
  • 短期混乱は確実だが、長期的なエネルギー戦略でトランプの賭けが成功する可能性がある。日本としても、冷静に勝ち筋を探すべき。
トランプ氏が選挙でぶち上げた公約が、世界を震撼させている。目的は明確だ。米国の貿易赤字をなくし、国内製造業を守ることにある。トランプ政権の関税の本音は、ズバリ「米国経済の自立をぶち上げること」と「世界での競争力を取り戻すこと」だ。トランプ氏は1980年代からずっと、貿易赤字にムカついてきた男だ。関税こそがその切り札だと、頑なに信じてきた。


この関税が短期的にもたらすものは何か。世界が不況に突っ込む可能性だ。経済の常識で考えれば、関税は貿易のコストを跳ね上げる。輸入品の値段が上がれば、消費者の財布は締まり、輸出産業は報復関税でボコボコにされる。結果、世界の貿易量がガクンと落ち込む。

米国内では、輸入品の値上がりでインフレが燃え上がり、家計は冷え込む。部品を輸入に頼る製造業はコストが跳ね上がり、競争力がズタズタになる。中国や欧州は経済成長が鈍り、日本も巻き込まれる。

過去に米国の成長率が関税で2%も落ち込んだ事実がある。2025年も同じような衝撃が待っているだろう。この不況は、関税を引き上げた直後の1~2年でハッキリ顔を出す。短期的には経済が停滞する泥沼から逃れられない。それでもトランプ政権は、この混乱を逆手に取る気だ。他国との外交交渉を有利に進めるための武器にしようという腹だろう。

だが、長期的には話がガラッと変わる。米国のエネルギー戦略がはまれば、形勢は逆転する。トランプ政権はシェールガスや石油をガンガン増産し、安全な原子炉スモール・モジュール・リアクター(SMR)や、核融合っていうクリーンな技術に巨額の投資をする。これでエネルギー価格を下げる算段だ。

SMRの1ユニットはトレーラーで運べる程度の大きさ

トランプ氏は気候変動対策や脱炭素には冷ややかだ。当面は化石燃料をフル回転させ、3年後にはSMRでコストを下げ、5年後には核融合の実用化で製造業をブーストする気だ。欧州や日本が脱炭素に拘泥している間に、米国はエネルギー安をバネに経済を活性禍させるだろう。エネルギー価格が下がればインフレは収まり、国内生産は勢いづく。エネルギー輸出が増えれば貿易収支も上向き、ドル高の圧力も和らぐ。こうして関税の不況を帳消しにし、米国経済は成長のレールに戻る。この逆襲は3~5年以上の時間がかかる。鍵はエネルギー技術のブレイクスルーだ。

日本はどうなるか。米国に輸出の自動車や電子機器が関税の標的た。トランプ氏は日本の消費税を「ズルい」とケチをつけてきた。その真偽はともかく、日本の消費税を関税と同じような、輸出障壁というのだ。どう対応するべきか。報復関税なんてバカな真似はせず、消費税を下げてみせろって話だ。これだけでも日本の景気は良くなる。

それに、エネルギー政策で米国とタッグを組む手もある。米国の原子力技術を取り入れ、エネルギーコストを下げる策を進めれば、経済のダメージを抑えられる。さらに、日本にはCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)という切り札がある。米国抜きの世界貿易をガンガン推し進める道だ。トランプ関税で米国市場が危うくなるなら、CPTPPを盾にアジア太平洋で貿易網を固め、米国以外の国とガッチリ手を組む。これで関税の衝撃を和らげ、日本主導の貿易圏をぶち上げる戦略が浮かんでくる。

建築中のトカマク型核融合炉の内部 核融合炉は従来の原子炉と異なりクリーンなエネルギー源

関税で米国内でインフレが燃え上がれば、米連邦準備制度は利上げに追い込まれ、ドル高が進むだろう。日本の円安が加速し、輸出産業に救いの手が伸びる。短期的には、トランプ関税で世界経済がガタガタになるのは確実だ。だが、長期的にはエネルギー戦略が筋が通ってる。そのためトランプの「賭け」が大当たりする可能性だってある。

結論だ。トランプ関税は「短期的には痛いが、長期的には米国の力を強める政策」だ。その成否はエネルギー政策の実行力と他国の動きにかかっている。関税の嵐にビビりすぎず、長い目で経済を見ろ。日本だって冷静に立ち回れ。CPTPPで米国抜きの貿易をぶち上げつつ、柔軟に勝ち筋を探るべきだ。

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2025年4月3日木曜日

高橋洋一・政治経済ホントのところ【異例ずくめの予算成立】場当たり対応 首相失格―【私の論評】2025年度予算のドタバタ劇:石破政権の失態と自民党が今すぐ動くべき理由

高橋洋一・政治経済ホントのところ【異例ずくめの予算成立】場当たり対応 首相失格

まとめ
  • 異例の審議と石破の対応: 2025年度予算は成立したが、衆院で否定した高額療養費凍結を石破首相が突然発表、参院再修正を招く失態に。
  • 立民の協力と政権維持: 立憲民主党が審議を緩め政府に協力、参院選まで石破政権延命を狙い、自民内も「石破降ろし」が進まず。
  • 石破の無理解: 物価高対策発言で再々修正を示唆、予算無知と失言が露呈、筆者は首相失格と続投に疑問を呈す。


 2025年度予算は3月31日に衆院本会議で成立し、政府与党の年度内成立目標は達成された。しかし、予算審議の過程は異例ずくめだった。少数与党の衆院では日本維新の会と協力して予算を修正し成立させたが、その直後に石破茂首相が高額療養費引き上げの凍結を発表。凍結自体は良いことであるといえるが、これは衆院審議で否定されていた内容で、参院での再修正を余儀なくされる失態となった。

 本来なら年度内成立が困難になる状況だったが、石破が降りるよりも石破政権で次の参院選を有利に戦いたいと目論む立憲民主党が協力的になり成立に至った。石破政権は予算成立後も物価高対策を検討すると発言し、再々修正の可能性を示唆。不適切な政権運営、失言や場当たり対応で首相失格にもかかわらず、今でも首相を続けているのが不思議なくらいだ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】2025年度予算のドタバタ劇:石破政権の失態と自民党が今すぐ動くべき理由

まとめ
  • 2025年度予算の異例な成立: 衆院と参院で二度の修正を経て、年度最終日に大多数の賛成で成立。参院修正後の衆院回付は戦後初で、少数与党と石破政権の対応が異例さを際立たせた。
  • 石破の場当たり的対応: 高額療養費引き上げを「今は不要」と否定後、すぐ「凍結」と言い出し、物価高対策も軽率に発言。一貫性ゼロであることが暴露された。
  • 党内基盤と調整力の欠如: 総裁選連敗で派閥基盤が弱く、2024年に首相就任も孤立。官僚や維新との連携も失敗し、短期的な人気取りに走るしかなかったようだ。
  • 政策通の専門性が怪しい: 防衛や地方創生で知識を誇るが、アフガン派遣はうやむや、地方予算は丸投げ、2025年度予算でも財源などの具体策なし。実行力がない。
  • 参院選と自民党の危機: このままでは参院選は戦えず、国民も呆れ果てている。自民党は石破を降ろし、新リーダーで勝機を見出すべきだ。

過去には、年度内成立がギリギリだったり、暫定予算で対応したりしたケースはあるが、2025年度予算のように衆院と参院で二度の修正を経て、年度最終日に大多数の賛成で成立した例は異例だ。

特に、参院での修正後に衆院へ回付され成立したのは、戦後初の出来事とされている。過去の予算成立では、与野党の対立や災害などの外的要因が遅延の主因だったが、今回は少数与党という政治状況と石破政権の対応が異例さを際立たせている。

石破茂首相の場当たり的対応が、2025年度予算審議で暴露された。石破茂首相が予算委員会で高額療養費引き上げについて「今はやる必要がない」と否定した後、衆院通過から数日後に「やっぱり凍結する」と言い出したのだ。これは「引き上げ自体を当面ストップする」という決断を示している。さらには予算成立後に物価高対策を検討するとポロリ。これでは、一貫性のかけらもない。だが、これは単なるミスではない。石破という男の政治家人生そのものに、深い闇が潜んでいる。

総裁に選ばれた直後に朝日新聞に掲載された石破茂氏の略歴

彼は自民党内で政策通として名を馳せてきた。防衛相時代、2008年には自衛隊の運用知識で舌を巻かせ、2010年代には地方創生で具体案をぶち上げた。だが、首相としての総合力はどうだ? 危機管理の経験はゼロに近い。これが場当たり的な対応を生む土壌である。

党内での派閥基盤もガタガタだ。2012年、2018年、2020年と総裁選で連敗。2012年には一次投票でトップに立ったのに、決選投票で安倍晋三に叩きのめされた。支持を広げる力がないまま、2024年にやっと首相の座を掴んだが、党内はまとまらず孤立感が漂う。そんな男が、短期的な人気取りに走るのは必然だ。高額療養費凍結の発表は、国民の不満に媚びた即興劇。物価高対策の発言も、経済不安を誤魔化す軽い一言。計画性ゼロである。

官僚との連携もボロボロだ。財務省や内閣府は予算の整合性を守るため、シナリオを緻密に作る。だが、石破はそれを無視して独断で動く。高額療養費引き上げ凍結に関して財務省幹部は「事前相談が皆無だった」と嘆いたという。2018年の総裁選でも、農協改革をゴリ押しして農水省と衝突、党内から総スカンを食らった過去がある。政策通の自信が、逆に足を引っ張るのだ。予算の複雑さを理解せず、現場の声を無視した結果、参院での再修正というドタバタ劇を招いた。

少数与党のプレッシャーも大きい。自民と公明だでは過半数に届かず、維新との協力が必須だった。だが、石破に迅速な対応力はない。維新と予算修正で手を組んだまではいいが、凍結発表で信頼をぶち壊し。1993年の細川政権や2009年の鳩山政権を見ても、少数与党下では調整力が命だ。石破にはその経験がまるでない。状況に流され、その場しのぎの策を繰り出すしかないのだ。

しかも、よくよく見れば、彼の政策通としての専門性だって怪しい。確かに防衛や地方創生では知識をひけらかしてきた。だが、実績を掘り起こすと穴だらけだ。2008年の防衛相時代、アフガニスタン派遣を巡る議論で「自衛隊の役割を拡大する」と意気込んだが、具体的な法案は出せず、結局うやむやに終わった。

地方創生大臣としても、2015年に「地域の自立」を掲げて全国を回ったが、肝心の予算配分は財務省に丸投げ。地方の首長からは「口だけ番長」と陰口を叩かれたほどだ。2024年の総裁選でも、「新しい資本主義」を批判したまではいいが、対案は曖昧で経済界から「何がしたいのか分からない」と呆れられた。

地方創生大臣として全国行脚をした石破氏

経済に関する認識も低く、安倍政権のブレーンでもあった本田悦朗氏は今年の1月以下のようなツイートをしている。
"十年程前、某機内で現総理とたまたま隣席になったことがある。これ幸いとアベノミクスの基本を説いた。しかし、「経済成長無しでは絶対に財政の改善は出来ない」ことが理解出来なかったようだ。同時に、経済成長無しでは国民は豊かになれない。財政赤字比率を見て生活しているのは、現総理と財務省か。"
政策通と言っても、経済に疎いため、財源の捻出に頭がまわらず、机上の空論に終始し、実行力が伴わないのだ。2025年度予算でも、高額療養費凍結を打ち出したはいいが、その財源や影響をどうするかの説明はゼロ。物価高対策も、具体策なしの空手形だ。専門性があるなら、こんな無責任な対応はあり得ない。防衛も地方創生も結局政府の仕事は、政策にみあった資金を提供するのが仕事であり、これができなければ、単なる思いつきや良き意図に過ぎない。

こんな石破のままじゃ、夏の参院選をまともに戦うなんて夢のまた夢だ。立憲民主党は延命を狙って予算成立に協力したが、選挙になれば容赦なく攻めてくる。国民だって、このドタバタ劇にウンザリしている。

自民党は目を覚ますべきだ。党内は「石破降ろし」でグズグズしてる場合じゃない。2025年度予算の混乱は、彼の弱さが炸裂した瞬間である。計画も調整もない判断の連鎖が、政権の信頼を根底から揺さぶった。石破じゃダメだ。自民党は今すぐ新しいリーダーを立てて、参院選に勝つ道を探るべきだ。それが現実だ。

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2025年4月2日水曜日

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使―【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

米ロ、レアアース開発巡りロシアで協議開始=ロシア特使

まとめ
  • ロシアと米国がレアアース鉱床開発などの共同プロジェクト協議を開始し、ドミトリエフ特使が協力の重要性を強調、複数企業が関心を示している。
  • プーチン大統領が将来的な経済協力協定での米国参加の可能性に言及し、次回協議が4月中旬にサウジアラビアで予定されている。

ドミトリエフ特使

ロシアと米国は、ロシアのレアアース鉱床開発などの共同プロジェクトについて協議を開始した。ロシアのドミトリエフ特使は、レアアースが協力の重要分野であると述べ、すでに複数の企業が関心を示していると明かした。プーチン大統領は、将来の経済協力協定で米国が参加する可能性に言及。次回の米ロ協議は4月中旬にサウジアラビアで開催される可能性があり、そこでさらに議論が進むと見られている。

【私の論評】プーチンの懐刀ドミトリエフ:トランプを操り米ロ関係を再構築しようとする男

まとめ
  • キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁で、プーチンの側近だ。米国での教育と金融経験を武器に、トランプの「ディール外交」に食い込み、米ロ経済協力を進める。
  • プーチンとの絆は強く、2016-2017年の「ロシアゲート」や2025年のウクライナ停戦交渉で暗躍。レアアースや北極圏エネルギー事業で米国企業を引き込む。
  • 2025年2月のリヤド会談で「3240億ドルの損失回復」を提案し、トランプ側を動かす。3月にはイーロン・マスクとの宇宙協力や制裁解除を視野に交渉を進める。
  • ロシアは黒海安全航行合意で制裁解除を要求。KGB流「ミラーリング」でトランプを取り込み、和平への道を模索するが、駆け引きは続く。
  • 2020年のコロナワクチン、スプートニクVで実績を上げ、2025年第2四半期に米国企業のロシア復帰を予言。制裁下でも柔軟に米ロ関係修復を目指す注目人物だ。

プーチン(右)とドミトリエフ

キリル・ドミトリエフはロシア直接投資基金の総裁だ。プーチン大統領の懐に深く食い込んだ側近として名を馳せている。

1975年、ウクライナで生まれ、スタンフォードとハーバードで頭を磨いた男だ。ゴールドマン・サックスで金融の荒波を泳ぎ、2011年にRDIFの舵取り役に抜擢される。ロシア経済を多角化する使命を背負った。

この男、プーチンとの絆は鉄壁だ。妻がプーチンの次女と同級生という縁が絡む。プーチンの経済戦略を現実のものに変える実行者だ。

特に米国との交渉では、まるで将棋の駒を動かすように立ち回る。2016年から2017年、トランプ政権のジャレッド・クシュナーやエリック・プリンスと密かに手を握ろうとした。「ロシアゲート」騒動で一気に名が売れた。米ロの裏のつながりを作ろうとした野心がそこにある。

2025年2月、サウジアラビアのリヤドで米ロ高官が顔を突き合わせた。ドミトリエフはウクライナ停戦の裏舞台で暗躍する。レアアース開発を切り札にプーチンの意志を押し通した。3月にはイーロン・マスクに目を付ける。スペースXとロスコスモスを結びつけ、プーチンの宇宙への夢を後押しした。

2025年初頭、トランプとプーチンの電話会談が失敗に終わったと騒がれたが、ドミトリエフの手腕が光る。経済協力の土台を固めたのだ。2月18日のリヤド会談では、「米国企業がロシアで3240億ドルの損失を取り戻せる」とぶち上げた。米国のマルコ・ルビオ国務長官が「歴史的なチャンスだ」と目を輝かせた。

マルコ・ルビオ国務長官

エネルギー分野の共同事業も提案し、トランプの特使スティーブ・ウィトコフが前のめりになったとCNNが報じた。3月にはレアアースの具体的な話が動き出し、米国企業が食いついたとロイターが伝える。プーチンとトランプの間を縫うドミトリエフの調整力が証明された瞬間だ。ただし、CNNなどの報道は一面的なものであり、以前このブログでも指摘したように実際の交渉はかなり困難なものである。

この男、トランプの「ディール外交」にぴったりの交渉人だ。米国での学びと金融経験が武器だ。プーチンの後ろ盾を得て、トランプのビジネス魂に火をつける。

リヤド会談では「北極圏で年200億ドルの利益」と具体的な数字を叩きつけ、ウィトコフが「現実的だ」と唸ったとウォール・ストリート・ジャーナルが書いた。ロシアが狙うディールはでかい。レアアース、北極圏のエネルギー事業、そして経済制裁の解除だ。

イズベスチヤは3月に「レアアースが制裁緩和の第一歩」と叫び、ドミトリエフが米国企業に「制裁が解ければ5000億ドル超の投資が動く」と囁いたと報じた。北極圏の天然ガスでは、エクソンモービルとの再タッグを画策中だ。ブルームバーグがトランプ政権の前向きな反応を漏らした。これがドミトリエフの描く米ロ再構築の青写真だ。

3月25日、ウクライナとの黒海安全航行の合意が話題に上った。クレムリンサイトが条件を突きつける。①ロシア農業銀行の制裁解除とSWIFT復帰だ。②食料貿易のロシア船への制裁解除。③農業機械や食料生産品の供給制限解除だ。停戦への道で、ロシアは米国に制裁解除を迫る。

米シンクタンクCSISのマリア・スネゴワヤは言う。「ロシアのトランプへのアプローチは、KGBの『ミラーリング』そっくりだ」と。相手の言葉を真似て信頼を掴む手口だ。

プーチンは2020年の米大統領選でトランプの「勝利を盗まれた」という叫びを拾い、「それがなければ22年のウクライナ危機はなかった」と同調した。和平への道は険しい。だが、ロシアはトランプを取り込み、制裁解除を進めながら、紆余曲折を経て前進するだろう。3月のレアアース協議では米国が制裁緩和をチラつかせたが、ロシアの強硬姿勢で一時暗礁に乗り上げた。両国の駆け引きが続く。

1月25日のTBSの報道

ドミトリエフは、2020年、コロナ禍でスプートニクVワクチンを世界に売り込んだ。中東やインドとの契約をまとめ、ロシアの影響力を高めた。プーチンから「よくやった」と評価された。米国企業をロシアに引き戻す実利主義を貫き、2025年第2四半期には米国企業の復帰を予言する。

制裁の網に絡まり、ウクライナ侵攻への関与や倫理無視で叩かれたものの。その柔軟さと実行力はプーチン政権の停戦交渉の柱だ。国際金融の知恵と人脈をフル回転させ、米ロ関係の修復とロシアの地位向上に挑む。今後交渉自体はどうなるか未知数だが、今後のロシアにとってドミトリエフは、なくてはならない人物となるだろう。

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2025年4月1日火曜日

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏裁判所―【私の論評】フランス政界を揺るがすルペン氏と国民連合(RN)を襲う政治弾圧

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏裁判所

まとめ
  • パリ裁判所はマリーヌ・ルペン氏をEU公金不正流用で有罪とし、5年間の被選挙権停止を命じた。これにより、2027年の大統領選出馬が困難に。
  • ルペン氏は「政治的決定」と反発し、控訴意向を示す。禁錮4年(執行猶予2年)と罰金も科されたが、被選挙権停止は即時適用。
  • RNのバルデラ党首が次期候補となる可能性。欧州極右指導者から批判が上がり、フランス政治の勢力図変化が予想される。
パリ司法裁判所

 パリの裁判所は3月31日、極右政党「国民連合(RN)」の指導者マリーヌ・ルペン氏に対し、EUからの公金不正流用で有罪判決を下し、5年間の被選挙権停止を命じた。これにより、控訴審で勝訴しない限り、2027年の大統領選に出馬できなくなり、ルペン氏に大きな打撃となる。ルペン氏は「政治的決定だ」と反発し、出馬阻止が意図されたと主張。控訴する意向を示しつつ、政治からの引退は否定した。

 ルペン氏らは欧州議会の資金400万ユーロ超を不正に使用したとして訴えられ、判事は禁錮4年(執行猶予2年)と罰金10万ユーロを科した。控訴中は刑は執行されないが、被選挙権停止は即時適用される。RNのバルデラ党首は「民主主義が殺された」と非難し、次期大統領選の候補となる可能性が高い。

 欧州の極右指導者らは判決を司法権限の濫用と批判。政治アナリストは、フランス政治の勢力図に変化が生じると指摘。バルデラ氏がRNを率いる場合、広範な支持を得られるかは不透明だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】フランス政界を揺るがすルペン氏と国民連合(RN)を襲う政治弾圧

まとめ
  • マリーヌ・ルペン氏とRN幹部24人が、欧州議会の400万ユーロ超の資金を党職員の手当に流用したとして訴えられた。裁判所はこれを不正と断じ、ルペン氏を「黒幕」と決めつけた。
  • RNは「スタッフの仕事は議員支援。ルール内だ」と反論したが、裁判所は証拠を盾に退けた。過去にも類似の追及があり、RNへの攻撃が続いている。
  • ルペン氏はこの判決を「政治的意図で2027年の大統領選挙を阻む」ものと主張。右派への厳しさと左派への甘さから、司法の偏りが疑われる。
  • マクロンは2024年議会選挙で極左と組み、RNを封じ込めた。100議席以上を奪ったとされ、新参のRNを潰す策略が露骨だ。
  • ルペン氏の今後は不透明だが、RNの反移民・反EU・国家主義の信条は国民に支持され、特に若者に広がる。この声は無視できない。


マリーヌ・ルペン氏と彼女が率いるフランスの右派政党「国民連合(RN)」、そして同党の幹部24人が、欧州議会から支給された400万ユーロ(約433万ドル)以上の資金を巡って訴えられた。この金は、欧州議会の議員活動を支えるためのものだ。政策調査やスタッフの給料に使うのが当たり前とされている。

しかし、ルペン氏らがこれをフランス国内のRN党職員の手当や給与に使ったとして糾弾されたのだ。たとえば、欧州議会の記録によれば、RNが「議会アシスタント」として雇った人々が、パリや地方で党のために働いていたことが分かった。2015年から2017年の調査で、給与明細や書類が揃えられた。これを証拠だと持ち出された。

RN側は堂々と反論した。スタッフの仕事は議員を支えることだ。どこで何をしようが、その目的に沿っていれば問題ないと主張したのだ。ルペン氏の弁護団は「欧州議会のルールが曖昧すぎる。明確な線引きがない」と訴えた。RNの公式声明でも「我々はルールを破っていない。フランスで党務を進めるのも議員活動の一部だ」と胸を張った。

だが、裁判所は聞く耳を持たなかった。資金が議会と関係ないRNの運営に流れたと決めつけ、証拠が十分だと断じた。たとえば、ある幹部が欧州議会の金で給料をもらっていたのに、議会業務にほとんど関わっていなかったとされた。メールや出勤記録がその根拠だ。だが、これはRNの活動を貶めるためのこじつけにしか見えない。過去にも、2014年にルペン氏の父ジャン=マリー・ルペンが似た疑惑で追及されたことがある。RNに対する執拗な攻撃が続いているのだ。今回の裁判でも、判事はルペン氏を「事件の黒幕」と決めつけた。400万ユーロ超の不正が組織ぐるみだと結論づけた。あまりにも一方的な裁きだ。

この疑惑には、明らかに政治的な意図が透けて見える。ルペン氏は判決後、「裁判所は政治的な意図で動いた。2027年の選挙に出るのを邪魔する気だ」と声を上げた。その通りだろう。極右とみなされたRNへの司法の目は異様に厳しい。たとえば、左派の「不服従のフランス」のリーダー、ジャン=リュック・メランションは2018年に公金疑惑で調べられたが、被選挙権を奪われるような重い罰は受けていない。

この不公平さは何だ? 政治的な偏りを感じずにはいられない。欧州議会も、RNのような反EUの勢力を目の敵にしてきた。2016年には620万ユーロの返還をRNに迫った例がある。その後も追及が止まらない。ルペン氏を支えるイタリアのマッテオ・サルヴィーニ(副首相兼インフラ大臣)は「司法の暴走だ」と怒りをぶつけた。ハンガリーのオルバン首相も味方についている。保守へ抑圧だと多くの人が感じている。フランス国内ではRN支持者が「政治弾圧だ」とデモを起こした。

政治アナリストのアルノー・ベネデッティ氏はRN関連の著書でこう言った。ルペン氏の5年間の被選挙権停止は、フランス政治の大きな転換点だ。「特に右派の勢力図がガラッと変わる」と見ている。ルペン氏はRNの魂であり、保守の希望として輝いてきた。彼女が2027年の大統領選に出られないとなれば、RNは新しいリーダーを立てざるを得ない。

党内の力や方針が揺らぐかもしれない。右派全体でも、RNの力が削がれれば、保守派や中道派が幅を利かせる隙が生まれる。後継候補と目されるジョルダン・バルデラが注目されているが、ルペン氏の輝きに匹敵するかは分からない。それでも、この変化は不当な弾圧の結果だ。

仏マクロン大統領

日本ではあまり知られていないが、フランスの大統領エマニュエル・マクロンはRNを潰すのに必死だ。党派や信条を捨て、新参のRNを叩き潰そうとした。その最たる例が、2024年6月の議会選挙で見られた動きだ。この選挙でRNは第1回投票で首位に立った。フランス全土で支持が広がり、議席を大幅に増やす勢いだった。ところが、マクロンはRNの勝利を阻止するため、極左の「新人民戦線」と手を組んだ。

具体的には、第2回投票前に両陣営が選挙区ごとに候補者を調整したのだ。RNに対抗するため、互いに候補を取り下げ、票を分散させない戦略を取った。たとえば、パリ近郊のセーヌ=サン=ドニ県では、RN候補が優勢だった選挙区で左派が候補を降ろし、マクロン派の候補を支援した。その結果、RNは議席を伸ばしたものの過半数には届かなかった。

フランス紙「ル・モンド」によると、この連携でRNが獲得できたはずの100議席以上が失われたと推計されている。マクロンは自らの進歩主義や中道の看板を捨て、極左との裏取引に走ったのだ。さらに、2022年の大統領選でも、マクロンはRNのルペン氏を「フランスの脅威」と呼び、メディアを総動員して反RNキャンペーンを展開した。

公共放送フランス2では、RNの政策を誇張して危険視する報道が連日流れた。これらは、RNを新参者として政界から締め出すための露骨な仕掛けである。マクロンにとってRNは、既存の秩序を乱す厄介者だ。その勢いを潰すことが何よりも大事だった。

これは日本でたとえれば、2025年夏の参議院選挙で石破自民党が野田立憲と手を組んで候補を調整し、国民民主を議席10くらいに抑えるようなものと考えれば、フランスの状況がスッと頭に入る。無論、RNは右派、国民民主党はそうではないという違いがあるが、これはアナロジーとしては十分成り立つ。


ルペン氏の今後は見えない。控訴審で被選挙権停止が覆るかどうかに全てがかかっている。だが、RNの政治信条は多くのフランス国民の心を掴んでいる。これを無視するのは許されない。RNの信条は潔い。反移民、反EU、国家主義がその柱だ。移民を締め出し、EUからフランスの誇りを取り戻し、「フランス第一」を貫く。

2022年の大統領選でルペン氏は決選投票で41.5%の票を得た。経済の不安や移民への怒りを抱える労働者や地方民が熱く支持した証だ。RNの支持率はぐんぐん上がり、特に若者に響いている。バルデラがSNSで若者を惹きつける姿がその証明だ。ルペン氏が不当にも舞台から引きずり下ろされても、RNの信条が響かせる国民の声は止まらない。この多くの国民の叫びがフランスを動かすだろう。

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