2025年4月20日日曜日

金子洋一氏Xにポスト 「子孫のツケ」論が招く貧困➖【私の論評】経済政策の勝敗を決める直感と暗黙知:高橋是清の成功の教訓

 金子洋一氏Xにポスト 「子孫のツケ」論が招く貧困




【私の論評】経済政策の勝敗を決める直感と暗黙知:高橋是清の成功の教訓

まとめ
  • 直感に基づく経済政策の成否は暗黙知に依存する。高橋是清の関東大震災復興(1923年)と積極財政(1930年代)は、暗黙知に支えられた直感が現実の問題を捉え、国債活用で成功した。
  • 高橋の暗黙知は、財政・金融の実務経験から生まれた「経済停滞の解決策」の直観であり、ケインズ理論(1936年)以前にその実践がケインズの形式知の礎となった。
  • 失敗例(1987年の日本リゾート法、2022年のトラス減税)は、暗黙知の欠如で経済の複雑さや制約を見誤り、信頼を失い混乱を招いた。
  • 金子洋一氏の語る「r<gなら債務の重みは低下」は、暗黙知と結びつくと国債の有効性を示すが、暗黙知がなければ形式知は空回りする。
  • 成功には暗黙知で現実を捉え、国債で負担を分散し、信頼を保つことが不可欠。トランプ関税のような外部ショックへの対応も、暗黙知と形式知の融合が効果を上げる。

高橋是清(中央の人物)
直感に基づく経済政策が成功するか失敗するかは、何が決めるのか。金子洋一氏は「政府債務のコストは国債利子率r-名目経済成長率gで決まる。r<gなら債務の重みは低下する」と喝破する。これは正しい。米国や日本のような国では、この法則が債務の負担を軽くする。

トランプ関税のような外部ショックが襲えば、誰もが「国内の景気を下支えしよう」と考える。それが直感だ。この直感が、経済政策を動かす鍵となる。だが、直感は時に大成功を呼び、時に大失敗を招く。その差は何か。歴史の事例を紐解き、高橋是清の鉄橋と暗黙知の力を軸に、その核心に迫る。

まず、成功の物語だ。1930年代、世界恐慌で日本はデフレと失業に喘いでいた。高橋是清蔵相は「経済にお金を流せば動く」と直感し、緊縮財政を捨てた。公共事業と軍事支出を増やし、日銀に国債を引き受けさせて通貨供給を拡大。円安で輸出を刺激し、1930年から1935年で工業生産は80%も増えた。工場が動き、雇用が戻り、街に活気が蘇った。国民は「経済が動き出した」と実感した。

これはケインズ理論の登場(1936年)より前だ。高橋には理論的裏付けなどなかった。蔵相や日銀副総裁の経験から生まれた現実感覚が、彼を突き動かした。この直感は、ケインズが有効需要の理論を形式知としてまとめる礎となり、彼の実践が後の経済学に影響を与えた。

高橋の直感は、1923年の関東大震災復興でも輝いた。東京や横浜が壊滅し、江東地区の木造橋が焼失。蔵相として復興を主導した高橋は、税金だけで賄えば現世代が貧困に沈むと直感。国債を発行し、資金を調達した。頑丈な鉄橋や道路を建設し、コストを将来に分散。現世代と将来世代の負担を公平にしたのだ。

これらの鉄橋は、1945年の東京大空襲で避難路となり、多くの命を救った。戦後80年経ても、たとえば江東新橋は今も経済活動を支え、ドラマの舞台にもなる。もし税金だけで賄っていたら、当時の日本は貧困に喘ぎ、その後の世代は鉄橋の便益も十分活かせなかっただろう。この成功体験が、1930年代の積極財政を後押しした。国債で長期プロジェクトを賄う鉄橋の歴史は、その正しさを雄弁に物語る。

江東新橋
では、失敗はどうか。1987年の日本、リゾート法は「観光で地方を活性化する」と直感したが、過剰融資と投機で土地価格が急騰。日銀は物価が安定しているのに金融引き締めに踏み切り、バブル崩壊を加速させた。
不良債権は80兆円に膨らみ、地方経済は苦しんだ。2022年の英国では、リズ・トラス首相が「減税で即成長」と直感。財源の裏付けなく大規模減税を発表し、市場がパニックに。ポンドは急落、国債利回りが急騰、年金基金が危機に瀕した。数週間でトラスは辞任。経済は混乱した。これらの失敗は、直感が経済の複雑さや現実の制約を見誤り、信頼を失った結果だ。
成功と失敗の分岐点は、暗黙知にある。本ブログ記事(2025年4月19日)では、暗黙知を「経験や観察から得た、言葉にしにくい知識」と定義するとした。高橋の暗黙知は、財政・金融の実務で磨かれた「経済停滞の原因と解決策」の直観だ。震災復興では、国債で負担を分散すれば現世代の貧困を防ぎ、将来に便益を残せると見抜いた。
1930年代では、需要不足を財政と金融で解消できると確信した。この暗黙知が、金子氏の「r<gなら債務の重みは低下」という形式知を活かした。暗黙知があれば、r<gは国債が経済成長で債務負担を軽減することを明確に示す。高橋はr<gの状況を直感的に理解し、国債を効果的に使った。

昨年破綻したリゾート運営会社

逆に、暗黙知が欠如すると、r<gの形式知は意味をなさない。リゾート法はバブルの過熱を見誤り、日銀の引き締めは物価の現実を無視。トラスは市場の反応を読み切れなかった。暗黙知がないと、形式知は空回りし、経済の複雑さに対応できない。

直感は、暗黙知に支えられて初めて力を発揮する。暗黙知があれば、トランプ関税のような外部ショックへの景気下支えも効果を上げる。r<gの形式知は、暗黙知と結びついて国債の有効性を示す。暗黙知の支えがない人にとっては、それが現実と結びつかず、単なる数式にすぎない。高橋の鉄橋と積極財政は、暗黙知が直感を成功に導き、ケインズの形式知の礎となった。

そうして、今では暗黙知のあるなしにかかわらず形式知によって財政政策の方向性は誰が実施しても、間違いがないようになっている。にもかかわらず、なぜ日本の財政政策は間違い続けてきたのだろうか。

日本では、1997年や2014年の消費税増税はデフレ下で消費を冷やし、GDPを押し下げた。財務省の「財政健全化」はr<gを無視。1987年のリゾート法はバブルを過熱させ、日銀の誤った引き締めで不良債権80兆円に。政治家や官僚は形式知を装った、財務省の嘘の論理に流され、現場の暗黙知を磨かず、コロナ禍の追加給付も見送り消費回復を遅らせた。

失敗は、暗黙知の欠如で現実を見誤り、信頼を失うことから生じる。高橋の成功は、暗黙知の力を証明する。経済政策の未来は、暗黙知と形式知の融合にかかっている。都内の丈夫な鉄橋をはじめとして、形式知の正しさを裏付ける暗黙知の見本は、古今東西を見回せばいくらでもある、それを漫然と見過ごすか、見過ごさないかで、大きな違いが出てくるようだ。

暗黙知に裏付けられた、形式知はほど強いもはない。私は、これを見過ごさなかったのが、高橋是清であり安倍晋三という政治家だったのだと思う。だかこそ、高橋は直感で、勇気を持って当時は多くの人に理解されなかった政策を行い日本経済を立て直し、安倍は貿易面で筋を通して、トランプ大統領に現実を認識させ、説得できたのだと思う。

【関連記事

自民党は「野党に転落」する…! 自民党が「派閥解消」で”自爆”へ、参議院選挙で「自民党大敗」の「ヤバすぎる事情」―【私の論評】自民党「背骨勉強会」の失敗を暴く!暗黙知とドラッカーが示す政治の危機 2025年4月19日

与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ―【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル 2025年4月12日

高橋洋一・政治経済ホントのところ【異例ずくめの予算成立】場当たり対応 首相失格―【私の論評】2025年度予算のドタバタ劇:石破政権の失態と自民党が今すぐ動くべき理由 2025年4月3日

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず―【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か? 2025年3月29日

「派閥解消」岸田首相には好都合の理由 総裁選再選視野、派閥という〝緩衝材〟抜きで議員の直接統制が可能に―【私の論評】岸田首相の巧妙な戦略!派閥解散が日本政治に与える影響と、財務省との権力闘争の行方 2024年1月23日

2025年4月19日土曜日

自民党は「野党に転落」する…! 自民党が「派閥解消」で”自爆”へ、参議院選挙で「自民党大敗」の「ヤバすぎる事情」―【私の論評】自民党「背骨勉強会」の失敗を暴く!暗黙知とドラッカーが示す政治の危機

自民党は「野党に転落」する…! 自民党が「派閥解消」で”自爆”へ、参議院選挙で「自民党大敗」の「ヤバすぎる事情」

まとめ

  • 「背骨勉強会」の問題点: 自民党が派閥解消後に設立した「背骨勉強会」は、座学中心のアプローチで政治を教えようとするが、政治に必要な「実践知」を軽視しており、滑稽だと批判されている。
  • オークショットの理論: マイケル・オークショットは、知識を「技術知」(明示的・伝達可能)と「実践知」(経験や人間関係で育まれる暗黙の知性)に分け、政治は実践知が中心だと強調。派閥は実践知を養う場だった。
  • 自民党の危機: 派閥を廃し、座学に頼る自民党は、先人たちの築いた人間性や実践知の伝統を軽視。岩田温氏の著書は、この誤りが自民党の衰退や野党転落を招くと警告。

自民党が派閥解消後に新人議員や立候補予定者の教育を目的として設立した「背骨勉強会」は、座学中心の取り組みが政治に不可欠な「実践知」を軽視しているとして、永田町で物議を醸している。

政治哲学者マイケル・オークショットは、知識を「技術知」(明示的で体系化され、伝達可能な知識、例: マニュアルや手順)と「実践知」(経験や文脈に根ざし、言語化が難しい暗黙の知性、例: 対人関係の機微や状況判断)に分類し、政治においては実践知がより重要だと説く。

たとえば、2024年秋の自民党総裁選に出馬した元大蔵官僚の小林鷹之氏は、派閥で酒席での上下関係や人間性を学ぶことで実践知を磨いたと語り、こうした知性は実践の場でのみ養われると指摘。

派閥は、政策だけでなく人間性や政治的直感を鍛える教育機関としての役割を果たしてきた。しかし、自民党は派閥を解消し、座学による「技術知」の習得に頼る方向にシフト。岩田温氏の著書『自民党が消滅する日』は、先人たちが築いた実践知の伝統を軽視し、人間性を育む機会を失ったこの誤った姿勢が、自民党の衰退を加速させ、野党転落やさらなる危機を招くと鋭く警告している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】自民党「背骨勉強会」の失敗を暴く!暗黙知とドラッカーが示す政治の危機

まとめ
  • 背骨勉強会の限界:自民党の「背骨勉強会」は座学中心で、オークショットの「技術知」に偏り、「実践知」を軽視。派閥が担った政治的センスや人間性の育成が欠如。
  • 暗黙知の欠如:野中郁次郎のSECIモデルに基づく暗黙知の社会化・外化が不足。派閥の対話や実践の場がなく、勉強会は形式知の注入に終始。
  • ドラッカーの視点:ドラッカーの「実践を通じた知識の適用」や「顧客の創造(政治では国民への価値提供」が欠け、勉強会は国民への価値提供や信頼回復につながらない。
  • 組織学習の停滞:SECIモデルでは知識は個人から組織へ拡大するが、勉強会は党全体の学習や政治文化の変革を促せず、適応力が低下。
  • 自民党の危機:政治資金収支報告書不記載問題や支持率低下(20%台、2024年5月)の背景に、暗黙知の更新不足と成果志向の欠如がある。対話と実践が必要、そのための場としての派閥も必要
自民党の「背骨勉強会」をめぐる議論が熱を帯びている。マイケル・オークショットの「技術知」と「実践知」の枠組みでその限界を鋭く批判する上の記事を、経営学の「暗黙知」と「形式知」、ピーター・ドラッカーの視点、そして野中郁次郎のSECIモデルの観点から見直す。新たな光が当たる。派閥を失った自民党の教育体制は、なぜ機能しないのか。2024年夏の参議院選挙を前に「自民大敗」の声が高まる中、その答えを探る。

背骨勉強会の限界:技術知への偏重

マイケル・ジョセフ・オークショット

「背骨勉強会」は、派閥解消後の自民党が新人や中堅議員を鍛えるために2024年3月から6月まで7回開催した講義プログラムである。対象は当選4回以下の衆院議員、当選2回以下の参院議員、立候補予定の新人や元職。約80~94人が参加し、戦前史や国家観、保守思想を学んだ(産経新聞、2024年3月)。だが、上の記事はこれを痛烈に批判する。

オークショットの「技術知」、つまり明示的でルール化された知識に偏り、政治に不可欠な「実践知」、すなわち経験や人間関係で磨かれる暗黙の知性を軽視している、と。派閥は酒席での上下関係や人間性を鍛える場だった。それを捨て、座学で政治を教え込もうとする自民党は、衰退の道を突き進む。2024年夏の参院選を前に「自民大敗」の予測が飛び交うのも、こうした教育の失敗が背景にある(朝日新聞世論調査、2024年5月)。

経営学の「暗黙知」と「形式知」の視点で見ると、勉強会の欠陥が浮き彫りになる。形式知は文書やデータで共有可能な知識だ。勉強会の講義、たとえば日本国中の解説や保守思想の歴史はこれに当たる。伊藤哲夫氏(日本政策研究センター代表)の戦後レジーム分析は、データと理論に基づく形式知である(自民党公式サイト、2024年3月)。これはオークショットの技術知と重なり、政策や歴史の理解に役立つ。

だが、野中郁次郎のSECIモデルは、知識創造には形式知と暗黙知(言語化しにくい個人内在の知識)の相互変換が必要だと説く。SECIモデルは、知識創造を4つのプロセスで説明する。社会化(暗黙知の共有)、外化(暗黙知の形式知化)、結合(形式知の統合)、内化(形式知の実践化)だ。このサイクルが個人から組織へと知識を広げ、イノベーションを生む(『知識創造企業』、1995年)。

勉強会は結合や内化に偏り、社会化や外化が欠けている。派閥では、ベテラン議員が若手に酒席で政治の「空気」を教え、暗黙知を共有した。ある若手議員は「先輩の交渉のタイミングを見て学んだ」と振り返る(匿名インタビュー、2024年)。だが、勉強会は一方的な講義だ。参加者間の対話や実践を通じた暗黙知の共有はない。参加者の一人は「講義は勉強になったが、現場でどう活かすかわからない」と漏らした(読売新聞、2024年6月)。これは政治的センスや実践力を育む機会の喪失である。

派閥の価値と暗黙知の力
野中郁次郎

暗黙知の視点は、派閥の価値をさらに明らかにする。上の記事では、2024年総裁選候補の小林鷹之氏が「派閥で酒席の上下関係を学んだ」と語り、実践知の重要性を強調する。暗黙知の観点では、これは政治家としての思考のフレームや人間関係のコツを築くプロセスだ。野中は、こうした暗黙知は対話やメタファーで形式知化できると指摘する。

トヨタの生産方式では、職人の暗黙知(例:機械の音の違いを聞き分ける感覚)をOJTで共有し、作業手順書に変換する。「カイゼン会議」で作業員が経験を語り、暗黙知を外化するのだ(野中・竹内、1995年)。勉強会にはこうした場がない。参加者は講師の形式知を受け取るだけで、自身の経験や直感を共有できない。政治の「肌感覚」を磨く機会が失われている。

ドラッカーの視点は、勉強会の構造的欠陥をさらに暴く。ドラッカーは『マネジメント』(1973年)で、知識社会の組織は知識労働者の自律性と継続的学習に支えられると説く。知識は実践で初めて意味を持つ。勉強会の講義形式は、ドラッカーが嫌う「情報偏重」に近い。

受動的な学習で終わり、参加者が自身の暗黙知を振り返り、判断力を磨く機会がない。ドラッカーは知識労働者に「強みを活かし、自己開発を続ける」ことを求める。GEのCEOジャック・ウェルチは部下との対話で経営の暗黙知を磨き、組織を変革した(『ポスト資本主義社会』、1993年)。勉強会にはこうした実践が欠ける。

さらに、ドラッカーは組織の目的を「顧客の創造」と定義する。政治なら国民への価値提供だ。だが、勉強会は内向きの教育に終始する。2024年の政治資金収支報告書不記載問題で自民党の支持率は20%台に落ち、国民の不信感が広がる(朝日新聞、2024年5月)。勉強会は信頼回復や政策成果に結びつかない。ドラッカーの言葉を借りれば、「効率は高いが、効果はゼロ」だ。

自民党の危機:組織学習の欠如

ドラッカー

暗黙知・形式知の視点は、組織学習の欠如を浮き彫りにする。SECIモデルでは、知識創造は個人から組織へと広がる。だが、勉強会は個人への知識注入で終わり、党全体の学習やイノベーションにつながらない。派閥は若手がベテランの暗黙知を吸収し、党の政治文化を継承する場だった。安倍晋三氏は若手時代、派閥の会合で先輩の交渉術を学び、後に外交で活かした(『安倍晋三回顧録』、2023年)。

派閥解消後、この機能は失われた。勉強会は代替にならない。政治評論家の田崎史郎氏は、2024年の政治資金収支報告書不記載問題を背景に「自民党の政治文化が見直されるべき」と指摘する(日本テレビ『スッキリ』、2024年2月)。暗黙知の視点では、「永田町の論理」といった暗黙の慣習が問題の根源だ。勉強会が若手に形式知を押し付けるだけでは、党の暗黙知や倫理観は変わらない。組織としての適応力は落ちる一方だ。

暗黙知の伝承には時間と対話が必要だ。だが、勉強会は7回で終了し、継続的なメンタリングや実践の場がない。野中は、暗黙知の社会化には「フェイス・トゥ・フェイスの対話」が欠かせず、異なる視点の交差がイノベーションを生むと説く。

アップルのスティーブ・ジョブズは、チームの対話で暗黙知を共有し、iPhoneのデザインを生み出した(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』、2011年)。勉強会は、保守系議員の批判(例:青山繁晴氏の「背骨は自主憲法制定」発言、ニコニコ生放送、2024年4月)を受け、議論の場として一部機能したが、党全体の暗黙知を更新するには不十分だ。さらなる対話と実践が必要である。

オークショットの批判は、勉強会の技術知偏重が政治の複雑さを無視すると訴える。だが、暗黙知・形式知とドラッカーの視点は、もっと深い問題を突く。知識の流れが止まっている。組織学習が機能していない。国民への成果が欠如している。勉強会は形式知に偏り、派閥の暗黙知の共有機能を代替できない。党の政治文化を変革し、適応力を高める力はない。

ドラッカーの視点では、議員の強みを活かす仕組みや国民への価値提供が欠けている。自民党が政治資金収支報告書不記載問題や信頼喪失を乗り越えるには、座学だけではなく、対話と実践で暗黙知を磨き、ドラッカーの言う「成果」を追う仕組みが必要だ。オークショットの警告を超え、組織の知識創造と目的の欠如を突きつけるこの視点は、自民党の危機の本質を明らかにする。

【関連記事】

与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ―【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル 2025年4月12日

高橋洋一・政治経済ホントのところ【異例ずくめの予算成立】場当たり対応 首相失格―【私の論評】2025年度予算のドタバタ劇:石破政権の失態と自民党が今すぐ動くべき理由 2025年4月3日

石破政権延命に手を貸す立民 国民民主と好対照で支持率伸び悩み 左派色強く 減税打ち出せず―【私の論評】石破政権崩壊カウントダウン!財務省の犬か、玉木政権への道か? 2025年3月29日

狡猾な朝日新聞 政治記者なら百も承知も…報じる「選挙対策 かさむ出費」とを大悪事、合唱し続ける本当の狙い―【私の論評】政治資金問題は、民主主義体制である限り完璧にはなくなることはない 2024年5月16日

「派閥解消」岸田首相には好都合の理由 総裁選再選視野、派閥という〝緩衝材〟抜きで議員の直接統制が可能に―【私の論評】岸田首相の巧妙な戦略!派閥解散が日本政治に与える影響と、財務省との権力闘争の行方 2024年1月23日

2025年4月18日金曜日

欧州中央銀行 0.25%利下げ決定 6会合連続 経済下支えねらいも―【私の論評】日銀主流派の利上げによる正常化発言は異端! 日銀の金融政策が日本を再びデフレの闇へ導く危険

欧州中央銀行 0.25%利下げ決定 6会合連続 経済下支えねらいも

まとめ
  • 利下げとインフレ: ECBは6会合連続で0.25%利下げ、政策金利を2.25%に。インフレ率は2.2%上昇で低下傾向。
  • 経済と貿易摩擦: トランプ関税による貿易摩擦で景気減速懸念。ECBは経済下支え狙い、成長への影響を警告。
ユーロのモニュメントが立つ、欧州中央銀行

欧州中央銀行(ECB)は17日、金融政策を決定する理事会で、6会合連続となる0.25%の利下げを実施し、政策金利のうち金融機関から資金を預かる際の金利を2.25%に引き下げた。ユーロ圏の消費者物価指数は先月、前年同月比2.2%上昇と2カ月連続で伸びが鈍化し、ECBは「インフレ率の低下は順調に進んでいる」と評価。

一方で、トランプ政権の関税措置による貿易摩擦の激化が景気減速を引き起こす懸念が高まっており、経済成長見通しは悪化している。今回の利下げは、こうした状況下でユーロ圏の経済を下支えする狙いがあるとみられる。ラガルド総裁は記者会見で、「世界的な貿易摩擦と不確実性が輸出を抑制し、ユーロ圏の成長率を低下させ、投資や消費の足かせとなる可能性がある」と述べ、関税と報復関税による影響に強い懸念を示した。

この記事は、元記事の要約です。詳細をしりたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】日銀主流派の利上げによる正常化発言は異端! 日銀の金融政策が日本を再びデフレの闇へ導く危険

まとめ
  • 中川順子氏の2025年4月17日発言「利上げを進める」は、日銀主流派のいわゆる正常化志向を反映。日本国内でも世界標準主流派は、2%物価目標未達成(CPI1.5~2%)と米関税リスクを軽視する誤りと批判。早期利上げはデフレを再燃させる。
  • 世界標準主流派的には、高圧経済を重視。2%超のインフレでも緩和継続、4%くらいまでは上昇を許容。フィリップス曲線に基づき、失業率2.5%でも物価低迷なら引き締め回避、賃金・物価好循環を優先すべき。
  • 中川氏の発言は期待インフレ率を下げ、2013年黒田緩和の成功に逆行。民間出身で経済学背景なし、2021年就任時から専門性に疑問。正常化志向の田村直樹氏と同様の懸念。
  • ECBは2025年4月17日、利下げ(金利2.25%)でインフレ鈍化(CPI2.2%)と関税リスクに対応。日本も緩和が必要だが、中川氏の発言は経済を不安定化。
  • 財務省の緊縮は異端と批判されるようになったが、日銀の金融政策の異端性や雇用政策との一体性の認識は低い。この理解が広がらなければ、金融政策の誤りで「失われた30年」が再来する可能性を否定できない。

日銀審議委員中川順子氏は2025年4月17日発言「経済・物価見通しが実現すれば利上げを進める方針に変更はない」と発言しているが、これは、世界標準主流派(グローバルな標準的マクロ経済学に基づく)の視点からは明らかな間違いである。2%物価目標の未達成(2025年CPIは1.5~2%)と米関税の不透明感を軽視しているという点で、誤りである。この発言は、日銀政策委員会の日銀主流派の意見を反映し、2024年3月のマイナス金利解除や7月の国債購入縮小に賛成する審議委員(例:田村直樹氏、高田創氏)の金融正常化志向と一致する。

世界標準主流派、つまりグローバルなマクロ経済学の常識から見れば、中川順子氏の上の発言は、完全に的外れだ。日本の消費者物価指数(CPI)は2025年時点で1.5~2%と、2%目標に届かず、米国の関税政策による不透明感が経済を脅かす中、こんな発言は無責任としか言いようがない。

この発言は、日銀政策委員会の日銀主流派、つまり金融正常化を急ぐ一派の考えをそのまま映し出している。2024年3月のマイナス金利解除や7月の国債購入縮小に賛成する田村直樹氏や高田創氏らと足並みを揃えたものだ。しかし、世界標準主流派は声を大にして言う。2%目標が安定して達成されるまで、金融緩和を続けるべきだ。早期の利上げは、デフレの悪夢を呼び戻すだけだ。

さらに、世界標準主流派は高圧経済の必要性を訴える。労働市場や生産能力をフルに使い切る状態を作り出し、物価が2%を超えてもしばらくは緩和を続けるべきだ。一時的に4%程度のインフレになっても、それは経済を強くするためのものだ。なぜなら、30年にわたるデフレで日本人のインフレ期待は地に落ちており、これを立て直すには大胆な一手が欠かせない。

)。日本ではデフレのせいでこの曲線が平べったくなり、失業率が2.5%と低くても物価は上がらない。

世界標準主流派は言う。労働市場をさらに締め上げ、賃金を押し上げ、インフレ期待を根付かせるべきだ。インフレが2%を超えても失業率が上がらなければ、緩和を続けてじっくり見守るべきだ。逆に、失業率が2.5%でも物価が低迷しているなら、引き締めなど論外だ。経済は一度冷やすと、再び温めるのは途方もない努力が必要になる。


驚くべきことに、フィリップス曲線のような基本すら理解しない人が、中央銀行の議論の場にいる。これは世界中どこでも通用する鉄則を無視する行為だ。中川氏の発言は、世界標準主流派の理論をまるで理解していない証拠であり、国際舞台では笑いものだ。

日銀の2024年10月展望レポートは、2025年度の物価見通しを2%前後と予測するが、安定達成は不確実だ。歴史を振り返れば、1997年の消費税増税と金融引き締めがデフレを悪化させた。2024年3月のマイナス金利解除後も、円安(1ドル=150円超)にもかかわらず物価上昇は鈍い。これらは、利上げがどれほど危険かを物語る。

中川氏の発言は、期待インフレ率を下げる毒だ。世界標準主流派は、ポール・クルーグマン等の理論を掲げ、政策はインフレ期待を高めることで力を発揮すると強調する。2013年、黒田東彦総裁の量的・質的金融緩和(QQE)は「レジームチェンジ」を宣言し、期待を動かして失業率低下と企業収益改善を実現した。だが、中川氏の利上げ前提の発言は、緩和継続の約束を曇らせ、期待を冷やす。世界標準主流派の野口旭氏は、2024年の正常化を「時期尚早」と切り捨てた。

中川氏の経歴も問題を深刻にする。野村アセットマネジメント社長という民間出身で、経済学の学術的背景はない。2021年の審議委員就任時、朝日新聞ですら彼女の専門性に疑問を呈した。同じく民間出身の田村直樹氏(2022年就任)は金融正常化を推し進め、世界標準主流派からデフレ脱却の足かせと批判された。中川氏も同じ道を歩む危険がある。

対照的なのが欧州中央銀行(ECB)の動きだ。2025年4月17日、ECBは6会合連続で0.25%の利下げを決め、政策金利を2.25%に設定した。ユーロ圏のインフレは2.2%に鈍化し、トランプ関税による景気減速が懸念される中、ラガルド総裁は貿易摩擦が成長を抑えると警告し、経済の支えを優先した。日本も物価目標未達成と外部ショックに直面している。利上げなど論外で、緩和継続こそが正しい道だ。

中川氏の発言が日銀主流派に沿った慎重なものだとしても、3年の審議委員経験(2021年6月~2025年4月)で知識を補ったとしても、世界標準主流派の目には通用しない。消費税増税やコロナ禍の傷を考えれば、2%達成直後の引き締めは高圧経済を潰し、フィリップス曲線が示す賃金・物価の好循環を壊す。ECBの緩和姿勢と比べ、中川氏の発言はデフレ脱却を遠ざけ、経済を不安定にする誤った信号だ。世界標準主流派を無視する姿勢は、国際的な議論で評価されるはずがない。


日本では、財務省の緊縮財政が、世界標準主流派から異端とされつつあり、批判が広がっている。私自身は、この認識の広まりにより、石破政権後には、日本の財政政策は世界標準主流派に近づいていくであろうことを期待している。

だが、日銀の金融政策が同じく異端であるとの認識はまだ薄い。中央銀行の金融政策は雇用政策と一体であり、雇用の失敗は金融政策の失敗、つまり日銀の失敗だ。世界標準主流派は、雇用の最大化と物価安定を金融政策の双子の目標と見なす。この認識が浸透しなければ、たとえ財政政策が今後正しい方向に変わっても、日銀主流派の金融政策の誤りが「失われた30年」を再び招く危険は消えない。日本の未来は、この認識にかかっている。

【関連記事】

高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい―【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く 2025年4月15日

家計・企業の負担増も 追加利上げ、影響は一長一短 日銀―【私の論評】日本経済の危機!日銀の悪手が引き起こす最悪のシナリオ! 2025年1月25日

日銀追加利上げのハードルさらに上昇か、世界的な金融緩和強化の流れ―【私の論評】日銀の独立性と過去の失敗:石破政権が目指すべき金融政策の方向性 2024年10月4日

追加利上げに2人反対 日銀審議委員の中村、野口両氏―【私の論評】日銀の追加利上げと金融政策の転換:オントラックとビハインド・ザ・カーブの狭間で 2024年8月1日

安倍元首相「日銀は政府の子会社」発言は完全に正しい…批判するマスコミと野党は無知―【私の論評】「政府の借金」という言葉は間違いだが「政府の小会社」は、政府と日銀の関係を適切に表している 2022年5月13日

2025年4月17日木曜日

映画「鹿の国」が異例の大ヒットになったのはなぜ?鹿の瞳の奥から感じること、日本でも静かに広がる土着信仰への回帰も影響か―【私の論評】日本の霊性が世界を魅了:天皇、鹿、式年遷宮が示す魂の響き

映画「鹿の国」が異例の大ヒットになったのはなぜ?鹿の瞳の奥から感じること、日本でも静かに広がる土着信仰への回帰も影響か

まとめ
  • 鹿への焦点: 監督・弘理子は諏訪の神事撮影から鹿にこだわり、4年間の制作で鹿の目線で自然と命の循環を捉えた。
  • 諏訪信仰と鹿: 鹿は諏訪信仰の神事に不可欠で、「御頭祭」では鹿の生首が供物として捧げられ、歴史的に重要な役割を果たす。
  • 自然と四季の表現: スローモーションやコマ送り映像、静かなナレーションで、鹿を通じて四季の移ろいと命の躍動・儚さを描く。
  • ヒットと観客の反応: 全国45館で上映、観客2万5000人超を記録。若者を中心に口コミで広がり、諏訪の人々の神への親しみが共感を呼ぶ。
  • 土着信仰の回帰: 明治以降の西洋化で断絶した日本人の自然や「見えない何か」への信仰が、現代で再び求められている。

 映画「鹿の国」は、鹿の深い瞳と中世の神事を再現した少年たちの美しい映像が心に残るドキュメンタリー作品。劇場を後にすると、鹿とともに森を歩いたような爽快さと余韻を感じる。監督の弘理子(ひろりこ)は、長野県諏訪の神事撮影から始まり、4年にわたる制作過程で鹿へのこだわりを強めていった。

 当初は神事を記録するだけだったが、現代的な要素が「神」や「見えないもの」の気配を薄め、単なる神事の羅列では作品として物足りないと感じた。そこで、野生動物撮影の経験豊富なカメラマン毛利立夫らと組み、獣道をたどり鹿を追う撮影にシフト。諏訪信仰の研究者北村皆雄も、弘の鹿への強い執着に驚いたと振り返る。

 諏訪信仰では、鹿は神事に不可欠で、「年内神事次第旧記」に「鹿なくてハ御神事ハすべからず」と記される。毎年4月15日の「御頭祭」では、豊作を祈り鹿の生首が供物として捧げられてきた。弘は、人間や儀礼中心の民俗学的な視点ではなく、自然と風土を優先。鹿の目線で四季の移ろいを捉え、命の循環や「素の命」を表現した。毛利のスローモーション映像や明石太郎の稲の芽吹きのコマ送り映像、静かなナレーションが、命の躍動と儚さを伝え、雪の舞うような詩的な雰囲気を醸し出す。

 2025年正月に東京と長野で公開された本作は、全国45館に上映が拡大し、4月3日時点で観客2万5000人超、公式ガイドブックは1万部近くを記録する異例のヒット。ドキュメンタリー映画館では、民俗学を学ぶシニアや学者に加え、若者が口コミで集まり、大きな支持を得ている。諏訪の人々のゆったりとした表情や、神への親しみが漂う佇まい、桜の古木での祈りや猟師の伝統的な行為が、観客に「ああ、日本人はいいな」と感じさせる。

弘は、自然の循環や「見えない何か」への信仰が、かつては不思議な現象として人々を惹きつけ、現代でもその感覚が求められていると指摘。明治以降の西洋化で断絶した土着信仰への回帰が、個々の心で広がっていると分析する。鹿は、こうした日本人の足元にある「何か」を体現する存在として、作品の核心を成している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の霊性が世界を魅了:天皇、鹿、式年遷宮が示す魂の響き

まとめ
  • 日本の霊性の根源: アニミズムとシャーマニズムに根ざし、自然と「見えない何か」に敬意を払う文化。天皇は神々の子孫として調和の精神を象徴し、霊性の基盤を成す。
  • 諏訪信仰と鹿の象徴性: 鹿は神と人を結ぶ神聖な存在で、「鹿の国」はその視点で命の輝きと自然への感謝を描き、2万5000人以上が共感した。
  • 伊勢神宮と祭りの霊性: 式年遷宮は天皇の祈りと自然の再生を体現。桜の花見や祇園祭は、アニミズムとシャーマニズムが日常に息づく場。
  • 思想家の視点: マルロー、ユング、鈴木大拙が日本の霊性を称賛。宗教の時代から霊性の時代への移行を予見し、自然との対話が普遍的価値と響く。
  • 現代の意義: 物質主義を超え、伝統文化が心の救いとなる。神田祭や御頭祭で若者が霊性を感じ、現代社会で日本の霊性の響きが増す。
供物として捧げられた鹿の生首

映画「鹿の国」の鹿は、ただの動物ではない。日本の霊性を体現する存在だ。日本の霊性は、自然のあらゆるものに魂を見出し、人の心と深く共鳴するアニミズムとシャーマニズムに根ざす。アニミズムは、山や川、木や動物に神聖な力があると信じる思想で、日本では八百万の神々として息づく。シャーマニズムは、巫女や祈祷師が神や霊と交信し、自然や祖先の力を借りて人々を導く実践だ。日本の神事や祭りでは、神を降ろす儀式にその片鱗が見える。この二つが絡み合い、堅苦しい教義や儀式を超えて、自然との一体感や「見えない何か」への畏敬を生み出す。

フランスの作家アンドレ・マルローは、日本の霊性を「天皇を原点とする神聖な調和の精神」と呼び、その独自性を讃えた。2025年2月16日の本ブログ記事では、マルローが「天皇は、自然と民を結ぶ神聖な糸であり、日本の霊性を形作る」と語ったと伝えた。天皇は、神々の子孫として自然の秩序を体現し、霊性の礎だ。諏訪信仰では、鹿が神と人を結ぶ神聖な存在として中心に立つ。「年内神事次第旧記」に「鹿なくてハ御神事ハすべからず」とあるように、鹿は欠かせない。4月15日の「御頭祭」では、かつて75頭の鹿の生首が豊作を祈って捧げられ、今は3頭に減ったが、その伝統は生きている。厳冬の「御室神事」では、少年が神域に籠もり鹿を捧げる。そこには、シャーマニズムの神降ろしの息吹が感じられる。

映画「鹿の国」は、鹿の視点で四季の移ろいと命の輝きを切り取り、自然への感謝を現代に響かせる。全国45館で上映され、2万5000人以上が観賞したこの作品は、観客の心を掴んだ。Xの投稿では、諏訪の神事の美と神秘に感動し、600年前に途絶えた神事の再現が素晴らしいと評価される。別の投稿は、映画が日本の信仰と芸能の原点を描き、自然の豊かさに心打たれると語る。現代日本人が自然との絆を渇望している証だ。

式年遷宮

伊勢神宮の式年遷宮は、霊性の結晶だ。20年ごとに社殿を建て替え、神々を遷す儀式は、1300年以上続く。2013年の第62回式年遷宮では、天皇が祈りを捧げ、伝統技法で社殿を再建。神域の森から伐った木材には感謝の祈りが込められ、アニミズムの敬意とシャーマニズムの対話が融合する。単なるメンテナンスではないのだ。1400万人が参拝し(伊勢神宮公式発表)、天皇の祈りに心を寄せた。

日本は、これらを他国のようにアニミズム、シャーマニズムを途絶えさせることなく、近現代では忌避される呪術的要素を廃し昇華させつつ社会に定着させ継続させている稀有の国なのだ。他国では、これらはほぼ廃され、一部は残っているものの、社会の一要素とはみなされず、宗教がこれに変わっている。これを残した先達の知恵を感じる。

日常にも霊性は息づく。桜の花見は、命の儚さを愛でる平安時代からの風習で、2023年の上野公園の花見には400万人が集まった(東京都発表)。京都の祇園祭や秋田の竿燈まつりは、自然と絆を結ぶ。祇園祭では神霊を迎えるシャーマニズムの儀式があり、山鉾巡行はユネスコ無形文化遺産だ。2024年には120万人が訪れた(京都市観光協会)。これらの祭りは、天皇の調和の精神を背景に、アニミズムとシャーマニズムが織りなす。

天皇は、日本の霊性の礎だ。『日本書紀』では、天照大神の子孫として、稲作や自然の恵みを守る祭司とされる。今も新嘗祭で天皇は米を神に捧げ、シャーマニズムの神との対話で国民の安寧を祈る。2019年の即位礼正殿の儀では、令和の天皇の祈りが世界を魅了し、BBCが「天皇の神聖な役割は日本の精神文化の基盤」と報じた。諏訪信仰の鹿は、天皇の調和の精神と響き合い、アニミズムの敬意とシャーマニズムの媒介として「見えない何か」を届ける。鹿は、天皇の祈りと共に、霊的な力を放つ。

日本人自身の声も響く。禅の研究者・鈴木大拙は、霊性を「自然と人間の無我の合一」と定義し、禅を通じて世界に示した。茶道や俳句にアニミズムの霊性が宿り、自然との対話が精神を形作ると説く。『禅と日本文化』(1938年)では、侘び寂びが自然の無常を愛で、金閣寺の庭園で「静寂の中で自然と一体になる感覚」を描いた。シャーマニズムについては、禅僧の瞑想が宇宙の真理と交信する行為を霊性の深さと評価。鈴木の視点は、諏訪の鹿や伊勢の式年遷宮に通じ、アニミズムとシャーマニズムが日常から神聖な場まで貫く。

マルローと心理学者カール・ユングは、「宗教の時代は終わり、霊性の時代が来る」と予言した。マルローは、宗教の形骸化を断じ、芸術や精神性に真の意味を見た。龍安寺の枯山水でアニミズムの調和を感じ、霊性が内省を促すと記した。ユングは、集合的無意識で個と普遍が結びつき、霊性の時代が生まれると説いた。2025年1月18日の本ブログ記事では、日本の神話が深層心理に根ざし、ユングが伊勢神宮で感じた「神聖な静けさ」がシャーマニズムの対話を示すと述べた。鈴木大拙も、禅の「無」が霊性の時代に通じ、アニミズムとシャーマニズムの融合が日本の精神性を輝かせると予見した。日本の霊性は、これらの声と響き合い、天皇を原点とする自然との対話で、霊性の時代を体現する。

鈴木大拙:ZENを世界に広めた仏教哲学者

諏訪信仰の鹿は、霊性の象徴だ。ユングの集合的無意識のシンボルとして、個と人類の精神を結ぶ。諏訪大社の神事では、鹿の角や毛の変化がアニミズムの神の顕現とされ、シャーマニズムの神降ろしで人々は神聖な命を感じる。古老が「鹿の目を見ると、山の神が宿る」と語った(諏訪大社公式ガイドブック)。マルローの美意識、鈴木の侘び寂びは、鹿の眼差しに宿る。映画「鹿の国」のスローモーション映像は、鹿の動きを詩的に捉え、命の儚さを刻む。

現代は、経済や技術が支配するが、物質では心は満たされない。2014年1月18日の本ブログ記事では、伝統文化が精神の救いとなると説いた。過労や孤立に悩む人が祭りで安らぎを得るのだ。2024年の神田祭では30万人が神輿を担ぎ、シャーマニズムの神霊を感じた(神田神社報告)。諏訪の御頭祭では、若者が増え、「神を感じる瞬間」を共有する(地元メディア)。

日本の霊性は、マルロー、ユング、鈴木大拙の予見と共鳴する。諏訪の鹿は、自然と神、命と人を結び、失われた一体感を呼び戻す。映画「鹿の国」は、鹿の眼差しで命の尊さを伝え、観客の心を揺さぶる。上映後のトークで、20代の若者が「鹿の映像で子どもの頃の森の感覚が蘇った」と語った。伊勢の式年遷宮では、2013年に高校生が「新社殿の清らかさに心が洗われた」と述べ(朝日新聞2013年10月報道)、天皇の祈りが若者を動かした。

桜の花見、祇園祭、諏訪の神事は、天皇の調和の精神を背景に、アニミズムとシャーマニズムが人々の心に根付く。マルロー、ユング、鈴木大拙が予見した霊性の時代が今、始まる。日本の霊性は、物質主義や分断を突き抜け、世界に深い示唆を与える。天皇の祈り、鹿の眼差し、伊勢の神聖な森。それらは、自然と向き合い、心の奥を探る力を与える。その響きは、現代社会でますます強くなる。

【関連記事】

「ハーバード卒より配管工のほうが賢い」米国保守派の「若きカリスマ」の演説にインテリが熱狂するワケ―【私の論評】日本から学ぶべき、米国が創造すべき新たな霊性の精神文化 2025年2月16日

トランプとマスクが創ろうとするアメリカとは―【私の論評】マスクが日本の霊性を通じ新しいアメリカを創造しようとする背景とトランプのビジョン
 2025年1月18日

なぜ「女系天皇」は皇室を潰すのか 「皇室そのものの正当性の根拠は消え…内側から解体されていく」との見方も 門田隆将氏特別寄稿―【私の論評】皇統を守り抜かなければ、日本は日本でなくなる 2021年5月3日

石平手記「天皇陛下は無私だからこそ無敵」―【私の論評】知っておくべき、これからも私達が天皇とともに歩み、「世界史の奇跡」を更新し続けるワケ 2019年10月23日

2025年4月16日水曜日

ママ友に「今年度から高校授業料無償化でうれしいね」と話したら、「それ、他の人に言わないほうがいいよ」と返答が! なにか悪いことを言ってしまったの?“気を付けるべき理由”を解説―【私の論評】高校授業料無償化の隠れた危機:中国人留学生急増と教育の未来

 ママ友に「今年度から高校授業料無償化でうれしいね」と話したら、「それ、他の人に言わないほうがいいよ」と返答が! なにか悪いことを言ってしまったの?“気を付けるべき理由”を解説

まとめ

  • 高校授業料無償化の概要と変更点:2026年度から所得制限を撤廃し私立高校の支援上限を45万7000円に引き上げ。2025年度は先行して全世帯に11万8000円支給。現在の支援制度では、公立11万8000円、私立全日制39万6000円などを年収910万円以下(4人家族目安)などに支給。
  • 高年収世帯への影響と注意点:2025年度の制度拡大で年収910万円超の高年収世帯が新たに対象に。制度に詳しい人に支給開始を話すと高年収と推測される可能性があり、話題選びには慎重さが求められる。
  • 公立離れの懸念:大阪府で無償化に伴い公立高校の出願率が1.14倍から1.01倍に低下、定員割れ校が13校から35校に増加。「公立離れ」が懸念され、教育の質確保が課題。

  • 写真は、テレビドラマ「対岸の家事」より ママ友には言ってはいけいないこともある? 

    2026年度から高校授業料の無償化が実施される。2025年度にはその前段階として所得制限が撤廃され、公立・私立を問わずすべての世帯に11万8000円が支給される。2026年度には私立高校の支援上限額が現在の39万6000円から45万7000円に引き上げられる。現在の支援制度では、公立高校に通う生徒には年間11万8000円、私立全日制には39万6000円、私立通信制には29万7000円、国公立高等専門学校には23万4600円が支給される。

    受給資格は保護者の所得により制限がある。4人家族(両親の一方が働く場合)を目安に、年収910万円以下で11万8000円、年収590万円以下で39万6000円が支給される。支援金は直接家庭に支払われるのではなく、学校の授業料と相殺される仕組みである。

    あなたが仮に新たに高校無償化の恩恵について周囲に話すと、所得制限の撤廃により今まではもらえなかった高年収の世帯であることを察する人がいるかもしれない。これを理解して話題選びに気をつけるべき。

    この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい人は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】高校授業料無償化の隠れた危機:中国人留学生急増と教育の未来

    まとめ
    • 中国人高校留学生の急増:少子化による私立高校の定員割れと無償化(2025年度開始、2026年度支援上限45万7000円)で、中国人留学生が増加。米国での290%増加(2010-2015年)や宮崎県の学校(在校生9割が中国人)の例から、大量受け入れが懸念される。
    • 安全保障リスク:中国の「国防動員法」やJAXAサイバー攻撃(2023年)、フィリピンのスパイ懸念(2024年)、カナダのビザ拒否(2024年)から、留学生の大量受け入れは技術流出やスパイ活動の危機を招く。
    • 教育の質と地域社会への影響:留学生の日本語力不足で授業の質が低下し、教員の多文化教育研修不足(OECD、2023年)が問題。福岡県の学校(2024年)では住民が地域の教育変化を不安視。
    • 教育格差と財政負担:無償化は私立校進学を促すが、進学校と定員割れ校の格差が拡大(文部科学省、2023年)。年間3000億円の追加予算(財務省、2024年)が必要で、増税は家計を圧迫するが、経済成長で賄える可能性がある(OECD、2023年)。
    • 不登校対応の不足:不登校生徒34万6000人(文部科学省、2023年)への対応が不十分で、北海道の私立校(2024年)では支援不足が批判される。日本の教育は今、岐路に立つ。対策を怠れば、未来の世代にツケを回すだけだ。
    高校授業料無償化に伴う問題点として、元の記事では「高年収世帯への誤解」と「公立離れ」が指摘されているが、私立高校における定員割れ校への中国人高校留学生の増加やその他の問題点も重要な懸念として浮上している。
    中国人高校留学生の急増が突きつける危機
    日本の少子化は私立高校を直撃している。生徒数が減り、定員割れが続出だ。2025年度の高校授業料無償化は、こうした学校に一筋の光をもたらす。授業料負担が減り、円安(2025年3月、1ドル=約150円)で日本留学が割安となり、中国人高校留学生の受け入れが急増する可能性がある。

    日本の18歳人口は1990年の約200万人から2025年には約110万、2040年には88万人まで落ち込む(文部科学省、2024年)。大阪府では2025年度、公立高校35校が定員割れだ(元の記事)。文部科学省の2023年データでは、外国人留学生の4割が中国出身である。宮崎県の日章学園九州国際高等学校は在校生の9割が中国人留学生で、無償化とビザ緩和を追い風に受け入れを拡大している。

    日章学園九州国際高校の在学生の9割が中国人留学生

    福岡県の私立高校は2024年度、中国の教育機関と組み、100人の留学生を呼び込んだ。学校は「授業料収入で校舎を改修できた」と胸を張るが、地元住民は「地域の教育が変わる」と不安を口にする(朝日新聞、2024年10月)。別の地方の私立高校では、中国人向け日本語コースを設けたが、教員の負担が重く、日本語が不十分な生徒で授業が滞る(日本経済新聞、2025年2月)。教員は「文化や言葉の壁に対応しきれていない」と吐露する。

    この動きは学校の存続を支えるが、深刻な問題を突きつける。留学生の日本語力不足に対応できる教員が少なく、授業の質が落ちる危険がある。OECDの2023年報告では、日本の高校教員の多文化教育研修受講率はOECD平均を下回る。地元生徒や保護者からは「学校の伝統が失われる」との声が上がる。地方の小さな学校は地域との絆が強いだけに、こうした変化は衝突を生む。南華早報(2024年4月)は、フィリピンで中国人留学生の急増が地域社会の懸念を引き起こしたと報じ、類似のリスクが日本でも顕在化しつつある。

    今後、無償化がさらに進み、2026年度に私立高校の授業料支援上限が45万7000円へ引き上げられれば、経済的魅力が高まり、中国人高校留学生の大量受け入れが加速する。米国では2010年から2015年に中国人K-12留学生が8857人から3万4578人に290%増加した(米国国土安全保障省、2015年)。日本でも同様の急増が起きれば、定員割れ校は留学生に依存する構造が強まる。

    だが、これは安全保障上の危機でもある。中国の「国防動員法」(2010年施行)では、有事の際に海外在住の中国国民が動員対象となり得る。カナダの連邦裁判所は2024年、中国人学生がスパイ行為に圧力を受ける可能性を理由にビザを拒否し、大学が「非伝統的スパイ活動」の場となり得ると警告した(CBCニュース、2024年1月)。

    フィリピンでは2024年、カガヤン州で4600人の中国人留学生の急増が「スパイの潜入」懸念を呼び、情報機関が調査を開始した(South China Morning Post、2024年4月)。日本でも、技術流出やスパイ活動のリスクが高まる。2023年に元中国人留学生が日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)へのサイバー攻撃に関与した事件が報じられ(朝日新聞、2023年6月)、留学生が大学や企業に進むと機密情報へのアクセスが増え、国家安全保障が脅かされる。
    教育格差と財政の重圧
    無償化は私立高校への進学を後押しするが、質の高い私立校と定員割れ校の格差を広げる。文部科学省の2023年調査によれば、進学校の大学進学率は8割を超えるが、定員割れ校は3割未満だ。大阪府の保護者は「無償化で私立が選びやすくなったが、定員割れ校は進学実績がなく、子どもの将来が不安だ」と語る(毎日新聞、2025年1月)。

    都市部の名門私立校は入試競争が過熱し、低所得層の生徒は門前払いだ。財政負担も重い。財務省の試算では、2026年度の無償化完全実施に年間3000億円の追加予算が必要だ(2024年報告)。留学生の増加で支給対象者が増え、財政はさらに圧迫される。ある地方自治体は、無償化の財源確保のため、公民館の学習支援事業を縮小した(読売新聞、2025年3月)。

    実は日本の財政赤字は他国よりはるかに軽い。2024年の財政赤字はGDP比2.3%で、米国の7.6%の3分の1だ(財務省、2024年)。G7ではカナダがGDP比3.6%(2022年、IMF)と最も低く、日本は2番目に健全だ。EUでは、政府と中央銀行を合わせた統合ベースで財政を評価し、債務の持続性や金融システムの安定性を測る。日本の統合ベースでは、2019年頃にすでに黒字化している(IMF財政モニター、2018年)。

    だが、日本は新政策の財源確保に増税を頼りがちだ。消費税は1989年の3%から2019年には10%に上がり、教育や社会保障に充てられた(財務省、2024年)。無償化のコスト増で消費税のさらなる引き上げや新税が議論されるかもしれない。だが、増税は家計を圧迫し、無償化の恩恵を帳消しにする。

    恒久財源を建前に増税を目論む財務省に抗議の声があがったが・・・・・

    恒久財源という財源を先の先まで確保する考えに、経済学者は異議を唱える。OECDの2023年報告では、カナダやニュージーランドのように短期的な赤字を許容し、経済成長で税収を増やす国では、教育投資が大きな成果を上げる。日本の実質GDP成長率は2024年で1.2%と低いが(IMF推計)、教育投資は人的資本を高め、成長を押し上げる。

    1990年代のスウェーデンは教育無償化を赤字国債で賄い、10年後に経済成長で財政を立て直した(OECD、2000年)。2020年のコロナ給付金では、10兆円の支出を赤字国債で賄ったが、2023年のインフレ率は3.1%にとどまる(日本銀行)。世界標準のマクロ経済学にもとづくある経済学者は「無償化が教育や労働生産性を高めれば、税収増で財源は賄える」と断言する(東京新聞、2025年2月)。増税に固執すれば、無償化の家計支援という目的が揺らぐ。
    不登校への対応不足と解決への道
    無償化は私立校への進学を促すが、不登校や特別なニーズを持つ生徒への対応が追いつかない。文部科学省の2023年データでは、不登校生徒は34万6000人に達し、11年連続で増加だ。私立校の多くは特別支援教育の体制が整わず、定員割れ校は特にリソースが乏しい。留学生の増加で教員の負担が増え、こうした生徒への対応は後回しだ。北海道の私立高校は不登校生徒の受け入れを掲げるが、カウンセラー不足で十分な支援ができず、保護者から「看板倒れだ」と批判された(北海道新聞、2024年12月)。

    不登校の高校生 イメージ画像

    無償化は教育の機会均等を掲げるが、課題は山積みだ。中国人留学生の急増は教育の質や地域社会との関係、財政に重い負担をかける。無償化の進展は留学生の大量受け入れを加速させ、安全保障の危機を招く。JAXAへのサイバー攻撃やフィリピンでのスパイ懸念は、日本が無防備であってはならないことを示す。

    カナダの裁判所の警告も、留学生がスパイ活動のリスクを孕む現実を突きつける。短期的な授業料収入は学校を救うが、質の低い私立校への依存は生徒の将来を縛る。財政面では、増税による財源確保が家計を苦しめ、無償化の意味を薄れさせる。しかし、経済成長による税収増を見据えれば、恒久財源へのこだわりは不要だ。

    不登校生徒や特別なニーズへの対応不足は、無償化の恩恵をすべての生徒に届ける壁となる。解決は急務だ。私立校の教育水準を厳しくチェックする。留学生を受け入れる学校は地域住民と対話し、特別支援教育を整える補助金を設ける。これらの対策で、無償化の理想を現実に近づけ、問題を最小限に抑える。

    日本の教育は今、崖っぷちに立っている。愚かな先送りと無責任な楽観で、子どもの未来を売り飛ばすのか。それとも、覚悟を持って立ち向かうのか。わが国の大人たちは、今こそ目を覚ますべきだ。

    【関連記事】

    与党が物価高対策で消費減税検討 首相、近く補正予算編成を指示 「つなぎ」で現金給付へ―【私の論評】日本経済大ピンチ!財務省と国民の未来を賭けた壮絶バトル 2025年4月12日

    高校授業無償化が柱の新年度予算案、合意文書に自公維が署名…予算成立確実に―【私の論評】高校無償化で中国の魔の手が!? 中長期では医療費タダ乗りと移民急増の危機 2025年2月26日

    冗談のような「子育て支援金」 現役世代に負担を増やす矛盾 官僚機構に〝中抜き〟される恐れ…国債を財源とするのが最適だ―【私の論評】本当にすべきは「少子化対策」よりハイリターンの「教育投資」 2024年2月15日

    日本を危険にさらす財務省「ヤバい本音」〜教育に金は出せないって…―【私の論評】希望にあふれる未来を次世代の国民に約束するため、教育や研究に投資するのは当然のこと 
    2019年6月9日

    日本に巣食う寄生虫を駆除する方法とは?『財務省を解体せよ!』で高橋洋一氏が指摘する「官僚とマスコミの利害関係」―【私の論評】財政政策の大失敗をリスクとみない恐るべき怠慢官庁財務省 2018年6月14日

    2025年4月15日火曜日

    高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい―【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く

    高橋洋一氏 中国がわなにハマった 米相互関税90日間停止 日本は「高みの見物」がいい

    まとめ
    • トランプ関税の影響: トランプ大統領の対中関税(計145%)は、経済的に米国の中低所得者や製造業に負担を与え、輸出国に損失をもたらすが、政治的には中国との覇権争いの一環。中国のみ報復関税で対抗し、世界経済への影響は限定的。
    • 米中対立の展望: 中国は輸出依存経済のため関税で大きな打撃を受け、米国は関税収入を減税に活用し影響を軽減可能。米中対立は中国に不利とされる。
    • 日本の対応: 日本は米中対立で中立を保ち「高みの見物」が賢明。訪中は誤解を招く恐れがあるため避けるべき。

     トランプ米大統領は9日、「相互関税」の第2弾上乗せ分を90日間停止すると発表し、中国への関税を84%から125%に引き上げ、合成麻薬流入を理由とした20%と合わせ計145%とした。トランプ関税は経済的には米国の中低所得者や製造業に負担をかけ、輸出国に損失を与えるが、政治的には中国との覇権争いの一環で「中国たたき」の意図がある。

     中国のみ報復関税で対抗し、90日間高関税が続く状況に。世界経済への影響は、中国以外の国が従来の関税に戻れば限定的となり、中国は輸出依存の経済構造上、代替可能な汎用品の輸出減で大きな打撃を受ける。ここまでトランプ大統領が読んでいたのかどうかは分からない。トランプ大統領としては「してやったり」だろう。

     習近平国家主席はトランプ大統領のわなにハマったとも言える。米国は関税収入を減税に活用し経済的影響を軽減する可能性があり、米中対立は中国に不利とされる。日本は中立を保つ「高みの見物」が賢明で、訪中は誤解を招く恐れがあるため避けるべき。

     この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

    【私の論評】トランプの関税戦略は天才か大胆不敵か? 中国との経済戦を読み解く

    まとめ
    • トランプの戦略的関税政策: トランプは2016年選挙から「アメリカ・ファースト」を掲げ、中国の貿易不均衡に対抗するため関税を活用。2018-2019年の貿易交渉や2025年の高関税(125%)は、中国への圧力と内需拡大を狙った計算された一手だった。
    • 実業家経験の影響: 不動産やエンターテインメントで成功と失敗を経験したトランプは、短期の痛みを許しつつ製造業復活を追求。ビジネスでの大胆さと柔軟さが、関税の急な停止や高税率設定に反映された。
    • 真の狙いは内需拡大: 関税は中国を締め上げるだけでなく、米国の産業と雇用を強化する手段。2018年の鉄鋼関税で雇用回復、関税収入の減税構想で消費刺激を目指した。
    • 「3次元チェス」の評価: 関税は経済、外交、国内支持を同時に動かす戦略とされるが、計画性と即興性が混在。トランプの多層的な思考はビジネス経験に根ざすも、政治の複雑さで波紋を広げた。
    • 誤ったレッテルへの反論: トランプを狂人、無知、粗暴、ピエロと見るのは偏見。2016年選挙勝利、2019年米中合意、2018年北朝鮮会談など、戦略的成果が彼の計算を証明する。


    トランプ大統領は中国への関税政策をどこまで「読んでいた」のか。トランプの動きを追いかけると、戦略と直感が絡み合う姿が浮かぶ。2016年の大統領選から「アメリカ・ファースト」を掲げ、貿易赤字を減らし、製造業を立て直すと訴えた。中国に対しては、知的財産の盗用や不均衡な貿易を問題視し、関税を切り札に選んだ。選挙戦で「中国は米国を食い物にしている」と語り、45%の関税をちらつかせたのは、ただの勢いではない。中国に経済的な圧力をかける狙いがそこにあった。

    2018年から2019年の貿易交渉では、2500億ドル相当の中国製品に10~25%の関税をかけ、「関税は米国の力になる」と言い切った。側近のピーター・ナヴァロは、トランプが中国の影響力を抑える計画を進めていたと語る。関税は思いつきではない。戦略の一手だったのだ。とはいえ、側近の意見や外部の状況に影響された面もあった。

    トランプの背後には、実業家としての人生がある。実業家は短期の利益と長期の成長、企業全体と各部署のバランスを常に考える。失敗は倒産に直結する。トランプは不動産やエンターテインメントの世界で、この試練をくぐり抜けた。1980年代、トランプ・タワーを建てるとき、巨額の融資と市場の不確実性に挑み、ニューヨークの象徴を生み出した。だが、1990年代のカジノ事業では負債が膨らみ、危機に直面した。

    成功と失敗を知るトランプにとって、関税は短期の痛みを許しつつ、製造業の復活や中国への圧力という大きな目標を追う道具だった。政治家なら選挙や議会の空気を気にするが、トランプは実業家らしく、自分のビジョンを貫いた。関税の急な停止や高税率の設定には、ビジネスで培った大胆さと柔軟さが息づく。

    トランプ・タワー

    元記事が触れる「第2弾上乗せ分の90日間停止」と「中国への関税を84%から125%に引き上げ」は、トランプの戦略の一端だ。2025年3月、カナダやメキシコにも関税を打ち出したが、中国には麻薬流入を理由に125%の重い関税を課した。2期目の始まりで、強い姿勢を見せる必要があったのだ。

    2019年の米中交渉では、関税を遅らせて中国を動かし、「第1段階合意」にこぎつけた実績がある。90日間の停止は、交渉の余地を残す一手だった。トランプは物価の上昇が農家や消費者に響くことを承知していた。2025年3月の演説で「一時的な負担はあるが、農家は報われる」と語り、関税の収入を減税に回す考えを示した。経済への影響を和らげる工夫だ。

    90日間の停止は中国を揺さぶりつつ、国内の不満を抑える計算だった。125%の関税は麻薬問題を絡め、支持層にリーダーシップを印象づけた。ここには実業家の知恵がある。関税収入を減税に使うのは、まるでビジネスの利益を再投資する発想だ。全体と部分を調整する経営者の視点が生きている。

    トランプの真の狙いは、このブログでも過去に述べたように、米国の内需拡大にある。中国への関税は、単に相手を締め上げるだけでなく、米国内の産業を育て、雇用を増やし、経済を強くする手段だ。2018年の鉄鋼・アルミニウム関税では、米国の鉄鋼産業が雇用を回復し、生産能力が向上した(出典:Economic Policy Institute, 2019年)。

    トランプは2025年2月の演説で「我々の工場を取り戻し、アメリカ人を雇う」と強調し、内需を軸にした経済再生を繰り返し訴えた。関税収入を減税に回す構想も、国民の購買力を高め、消費を刺激する狙いがある。中国への圧力は、内需を強化する一環なのだ。

    「してやったり」という元記事の言葉は、トランプが中国を出し抜いた自信を表す。通商チームは中国の報復を想定していた。2020年の報告書では、米国のサプライチェーンを中国から切り離す方針を掲げ、関税が中国経済を直撃すると見ていた。2025年2月、トランプは「我々は中国に強い圧力をかけた」と胸を張った。

    ブルッキングス研究所の報告によれば、関税は米国に一時的な負担をもたらしたが、中国の輸出経済には大きな打撃だった。トランプの狙いは結果を出していた。中国が報復に出たことで、他の国が軽い関税で済んだ状況を、トランプは活かした。中国を牽制し、米国を有利に導いたと信じたのだ。実業家として、トランプは競争相手を上回る感覚に慣れている。ビジネスでの勝利やブランド作りを、政治の場に持ち込んだ。「してやったり」は、市場で勝ち誇る実業家の声に似る。

    トランプの決断は、戦略と直感が交錯する。ナヴァロやライトハイザーの助言を受けつつ、最後は自分の判断を信じた。ジョン・ボルトンは、トランプが細かい計画より目立つ成果を好むと語った。2018年から2019年の貿易交渉では、中国がすぐ折れると読んだが、予想以上の抵抗に遭った。2期目では麻薬問題を絡め、関税を強めた。だが、2025年3月の自動車関税では、カナダやメキシコとの調整不足で反発を招いた。

    トランプの読みは万能ではない。中国の弱点を突く戦略は功を奏したが、国際的な反応や国内経済への影響を過小評価した部分もある。実業家の経験がここに表れる。トランプのホテル事業では、市場の変化に対応する柔軟さが成功を呼んだが、カジノの失敗はリスクの甘さを示した。関税政策も同じだ。大胆な一手が中国を動かした一方、国内への影響を軽く見た面がある。

    一部でトランプの動きを「3次元チェス」と呼ぶ声がある。衝動を超え、複雑な戦略を重ねているという見方だ。関税は経済の圧力、外交の駆け引き、国内へのアピールを同時に担う。中国の反応を誘い、支持層を固める計算がある。だが、この見方はトランプの計画性を高く評価しすぎるかもしれない。複数の目標を追っていたのは確かだが、計画と即興が混ざり合っていた。

    実業家として、トランプは多層的な思考をビジネスで磨いた。不動産、テレビ、ライセンス契約を並行させ、ブランドを築いた経験だ。関税政策でも、経済と外交と支持層を同時に動かす姿は、ビジネスの戦略を思わせる。だが、政治はビジネスより複雑だ。リスクを取る実業家の感覚が、時に波紋を広げた。

    トランプを狂人、無知、粗暴、ピエロと見るのは明らかな間違いだ。こうしたレッテルは、トランプの意図や成果を無視した偏見にすぎない。トランプは実業家として数十億ドルの資産を築き、複雑なビジネス交渉を成功させてきた。2016年の選挙では、既存の政治勢力を破り、誰も予想しなかった勝利を掴んだ(出典:NY Times, 2016年11月)。

    邪悪なピエロ AI生成画像

    彼の交渉術は、2019年の米中「第1段階合意」で中国から譲歩を引き出し、米国の農産物輸出を拡大した(出典:Reuters, 2020年1月)。2025年3月の演説では、麻薬問題を関税に結びつけ、社会課題への関心を示した。エピソードとして、トランプは2018年に北朝鮮の金正恩と会談し、緊張を和らげた実績もある(出典:BBC, 2018年6月)。これらは、狂気や無知では成し得ない成果だ。トランプのスタイルは型破りだが、戦略的な計算が根底にある。粗暴やピエロという批判は、彼の直接的な発言やパフォーマンスに惑わされた見方にすぎない。

    トランプは中国をどこまで「読んでいた」のか。選挙公約や過去の交渉から、中国を経済的に押さえる意図は明らかだ。90日間の停止や高関税は、交渉と国内支持を睨んだ一手だった。中国の報復を活かし、米国を有利に導いたと信じた。内需拡大を軸に、米国の経済を強くするビジョンがそこにあった。

    だが、すべてを見通せたわけではない。中国の抵抗や他国の反応を読み切れなかった。即興的な対応も目立った。国内への影響を軽く見た面もある。トランプの戦略は、綿密な計算より、目標と直感に突き動かされていた。実業家としての経験が、その根底にある。

    成功と失敗を知るトランプは、リスクを冒し、短期と長期のバランスを考え続けた。政治の複雑さはビジネスの枠を超えるが、トランプは自分の道を突き進んだ。「してやったり」は、トランプが成果を確信し、支持層に響かせる声だ。2025年4月、米中交渉の再開が囁かれる。トランプの次の一手は何か。答えはまだ見えない。

    【関連記事】

    「米国売り」止まらず 相互関税停止でも 国債・ドル離れ進む―【私の論評】貿易赤字と内需縮小の誤解を解く! トランプの関税政策と安倍の知恵が示す経済の真実 2025年4月13日

    米国は同盟国と貿易協定結び、集団で中国に臨む-ベッセント財務長官―【私の論評】米のCPTPP加入で拡大TPPを築けば世界貿易は変わる? 日本が主導すべき自由貿易の未来 2025年4月10日

    「AppleはiPhoneを米国内で製造できる」──トランプ政権―【私の論評】トランプの怒りとAppleの野望:米国製造復活の裏で自公政権が仕掛ける親中裏切り劇 2025年4月9日

    二大経済大国、貿易戦争激化へ 中国報復、米農産物に打撃 トランプ関税―【私の論評】米中貿易戦争の裏側:米国圧勝の理由と中国の崩壊リスクを徹底解剖 2025年4月6日

    「手術は終了 アメリカ好景気に」トランプ大統領が関税政策を正当化 NY株価大幅下落も強気姿勢崩さず 新関税も正式発表か―【私の論評】トランプ関税の衝撃と逆転劇!短期的世界不況から米エネルギー革命で長期的には発展か 2025年4月4日

    2025年4月14日月曜日

    今日は、世界量子デー(World Quantum Day)―【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

     今日は、世界量子デー(World Quantum Day)

    上のアニメーションDoodle(Googleが特別なイベントや記念日を祝うために、検索エンジンのホームページのロゴを一時的に変更したデザインやアニメーションのこと)は、世界量子デーを祝います! Doodleは、量子コンピューティングを可能にする基本原理の1つである重ね合わせの概念を表現しています。

    世界量子デーについて

    このDoodleは、量子物理学と技術の理解を深める年次行事である世界量子デーを祝います。日付である4月14日は、プランク定数の最初の3桁を表しており、これは量子エネルギー(例えば光子)のエネルギー と周波数の関係を記述します:4.14×10−15 eV。

    今日のDoodleに登場するアートワークは、ソーマトロープを描いています。これは、両面に異なる絵が描かれたディスクからなる道具であり、光学的なおもちゃです。高速で回転させると、私たちの脳は両方の画像を重ね合わせ、1つの画像が合成されたように見えます。ソーマトロープは、粒子が複数の状態に同時に存在する量子重ね合わせの概念を説明するのに役立ちます。

    【私の論評】量子コンピュータの未来を解く!ソーマトロープと猫が教える不思議な世界

    まとめ
    • ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子力学の重ね合わせ(複数の状態が同時に存在する現象)をわかりやすく説明する例え話である。
    • 量子コンピュータは、重ね合わせ、干渉、もつれを利用し、薬開発、暗号解読、最適化などで革新的な速度を実現する。
    • 2025年は量子力学100周年で、ユネスコが「国際量子科学技術年」に指定し、量子技術の重要性が世界で高まっている。
    • 日本の量子コンピュータ開発は進むが、米中の先行に比べ投資や人材が不足し、加速が必要である。
    • 日本の文化や職人技術、言語の柔軟性は、量子コンピュータ開発に有利な強みを持ち、産業や安全保障での可能性を秘める。
    ソーマトロープとシュレディンガーの猫は、量子の世界の不思議さを鮮やかに描く例え話である。ソーマトロープは、ディスクに鳥とかごの絵が描かれている。ぐるぐる回せば、脳が二つの絵を重ね、「鳥がかごに入っている」姿を見せるのだ。これは、量子の世界で物が「Aの状態」と「Bの状態」を同時に持つことをイメージしやすくする。

    一方、シュレディンガーの猫は、箱の中の猫が「生きている」か「死んでいる」か、開けるまでわからない状況を想像する。実は、開ける前は両方の状態が共存していると考えるのだ。これは、量子の世界で観察されるまで複数の可能性が混在することを示す。どちらも、1つのものが2つの状態を持つ量子の謎を、身近な絵で伝える。

    2025年は量子力学誕生から100年である。ユネスコは「国際量子科学技術年」に定めた。ハイゼンベルクやボルンが基礎を築いたあの瞬間から、100年が経つのだ。


    量子理論は、現代のコンピュータに革命を起こしている。普通のコンピュータは、0か1のビットで動く。だが、量子コンピュータは量子ビットを使い、重ね合わせで0と1を同時に表現する。ソーマトロープの絵が混ざるように、複数の状態を一気に計算するのだ。

    量子干渉は正しい答えを浮かび上がらせ、シュレディンガーの猫のように観察まで状態が共存する不思議さを利用する。量子もつれは、離れた情報を瞬時に結び、複雑な処理を可能にする。これにより、薬開発、暗号解読、最適化が劇的に速くなる。GoogleやIBMが突き進む中、量子理論は普通のコンピュータの暗号やアルゴリズムにも影響を及ぼし、技術を根底から変えている。

    量子コンピュータの未来は、ソーマトロープが新たな絵を描くように、驚くべき解決策を生み出す。がんの特効薬を数日で作れるかもしれない。分子の動きを瞬時に計算し、薬の最適な形を見つけるのだ。今は数十年かかるがん治療薬の開発が、量子コンピュータなら個人に合わせた薬を短期間で生み出す。

    物流では、渋滞を解消するルートをリアルタイムで計算し、エコな社会を築く。AIは気象データを処理して台風を予測し、遺伝子データからがんを早期発見する。軍事では、暗号を一瞬で破る力を持つ一方、量子もつれで盗聴不可能な通信を守る。兵器シミュレーションやドローンの配置も高速化する。まだ道半ばだが、量子理論は新薬、環境、AI、軍事をSFの世界に変える。

    日本の量子コンピュータ開発は、世界に遅れつつも進んでいる。理化学研究所や富士通は2023年、64量子ビットのマシンを完成させた。ソーマトロープの絵が形になり始めた瞬間だ。だが、IBMの1121量子ビットや中国の量子通信に比べると、まだ差がある。中村泰信博士は1999年、超伝導量子ビットを世界で初めて作り、日本の底力を示した。

    だが、2014年頃の国の投資不足で停滞し、海外との差が開いた。2020年の「量子技術イノベーション戦略」や2022年の「量子未来社会ビジョン」で再び動き出したが、2050年までの実用化目標には加速が必要だ。

    日本が量子技術を全力で進めるべき理由は明快だ。まず、国の安全がかかっている。量子コンピュータは暗号を瞬時に破る。独自技術がなければ、機密や金融システムが他国に握られる。2023年のG7で量子が議題に上がり、日本が危機感を持った証拠だ。

    次に、産業の未来がある。量子コンピュータは化学や材料で革新を起こす。富士通と大阪大学は、誤り訂正の量子ビットを10分の1に減らす技術を開発した。これが進めば、新素材や薬で世界をリードする。気候変動対策も変わる。CO2吸収材料を短期間で設計できれば、日本の環境技術が世界の希望になる。分子科学研究所と日立は2025年、中性原子方式のマシンを動かす予定だ。

    だが、投資は米国の37億ドル、中国の150億ドルに対し、日本は2.67億ドルと少ない。研究者も足りず、海外流出が心配だ。しかし、希望もある。2025年の大阪・関西万博で、大阪大学とアルバックが純国産の量子コンピュータを公開する。日本製の部材で作られた初のマシンで、技術自立の象徴だ。

    理研の国産超電導量子コンピューター初号機

    実は、日本には量子コンピュータ開発で有利な強みがある。まず、物事の考え方だ。日本の文化は、調和や曖昧さを重んじる。量子力学の「確定しない状態」を受け入れる発想は、欧米の二元論的な思考より日本の感性に近い。

    2023年の国際量子学会で、日本人研究者が量子もつれを「糸でつながれた双子の心」に例え、複雑な数式をシンプルな物語で説明し、聴衆を魅了した。このエピソードは、日本の直感的な発想が量子研究に新たな光を当てることを示す。

    次に、職人文化だ。量子コンピュータの部品は、ナノメートル単位の精密さが必要だ。日本の半導体技術や光学機器のノウハウは、これに直結する。ニコンやキヤノンのレンズ技術は、量子ビットの制御に必要なレーザー装置に応用されている。

    言語の強みもある。日本語の柔軟な表現は、複雑な量子現象をチームで共有するのに役立つ。東京大学の研究チームは2024年、日本語の「曖昧な指示」を活かし、量子アルゴリズムの設計で新たなアイデアを生んだと報告した。

    これらの強みを生かせば、日本は量子技術で世界を驚かせることになる。産学官が力を合わせれば、量子革命の中心に立てる。ソーマトロープが鮮やかな絵を描くように、量子コンピュータは日本の未来を力強く切り開くのだ。

    【関連記事】

    次世代電池技術、機微情報が中国に流出か 潜水艦搭載を検討中 経産相「調査したい」―【私の論評】全樹脂電池の危機:中国流出疑惑と経営混乱で日本の技術が岐路に 2025年3月2日

    〈やっぱりあの国⁉︎〉相次ぐ海底ケーブル、海底パイプラインの破壊工作、日本が他人事ではいられない深刻な理由―【私の論評】日本のエネルギー安保と持続可能性:原子力と省電力半導体の未来 2024年12月20日

    米英豪「AUKUS」、日本との協力を検討 先端防衛技術で―【私の論評】日本の情報管理体制改革がAUKUS参加と安全保障の鍵となる 2024年4月9日

    OISTが燃料不要な「量子エンジン」の設計・製作に成功 エネルギー新時代の幕開けか―【私の論評】技術の進化と未来への希望! 量子エンジンが解決策を提供する可能性 2023年10月10日

    原発が最もクリーンで経済的なエネルギー―【私の論評】小型原発と核融合炉で日本の未来を切り拓け 2022年2月14日

    【主権の危機】中国の静かな侵略に立ち向かう豪米、日本はなぜ対策を怠るのか

      まとめ 中国は統一戦線工作部を通じ、政治・教育・メディアに合法的な形を装って浸透し、他国の世論や政策決定を内部から操ろうとしている。 オーストラリアとアメリカは、外国勢力の影響力を可視化・抑制するための法制度(外国干渉防止法、FARA)を整備し、実際に孔子学院の撤退や外国資本...