2019年6月26日水曜日

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか―【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

G20議長国・日本に難題山積 経済と安全保障の均衡取り…当面の解決策模索できるか


サミット会場近くで警備をする警官

28、29日に大阪で20カ国・地域首脳会合(G20サミット)が開かれる。中心となる議題やG20に合わせて開かれる予定の米中首脳会談などの注目点、議長国である日本の役割について考えてみたい。

 G20は、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダおよび欧州連合(EU)の「G7メンバー」に、ロシア、中国、インド、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えたものだ。

 国際通貨基金(IMF)が4月9日に公表した世界経済見通しは、2019年の成長率予測を3・3%とし、前回1月の見通しから0・2ポイント引き下げた。米中貿易戦争や中国経済の減速、英国のEU離脱問題が引き続き懸念材料だからだ。

 世界中が注目している米中貿易戦争では、G20の場で米中首脳会談が開かれることが決まった。このニュースで米国株などが上昇する場面もあった。

 もっとも、今回の米中首脳会談で、すべてが解決するとは多くの人が思っていない。よくて部分的な解決であり、最終的な解決には時間を要するというのが一般的な見方だ。

 英国のEU離脱(ブレグジット)も大きな問題だ。メイ首相は来日するかもしれないが、すでに保守党党首は辞任しており、もはやレームダック状態だ。ブレグジットは英国の国内問題にとどまらず、欧州経済にすでに悪影響を与えている。メイ首相の政治力があれば日英間で貿易問題を話し合い、日英経済連携協定(EPA)や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への英国加盟などの可能性があったが、これらの問題は次期首相の手に委ねられる。

 香港の「逃亡犯条例改正」審議が、大衆デモによりに延期となったが、これについて英国は、香港返還の経緯などを国際社会に説明する必要がある。「一国二制度」がすでに形骸化しており、今回の事件もそれが顕在化したにすぎない。G20では、香港の人権問題を扱ってもいいはずだが、はたしてどこまで議論できるのだろうか。もっとも米中首脳会談において、トランプ米大統領が中国に対して人権問題として取り上げるかもしれない。

 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、G20に対し、世界的な経済成長へのリスクを和らげるため貿易摩擦の解決を最優先課題とするよう求めている。

 ただし、米中貿易戦争は、単に経済の問題だけではない。知的財産権の強制移転や盗用という安全保障面での問題もある。議長国の日本としては、経済問題と安全保障問題のバランスをとりながら、当面の解決策を求めていく必要がある。

 資本取引の自由という西側資本主義ロジックと、生産手段の私有を制限するために資本取引制限のある東側社会主義ロジックとの間の調和・調整が問題解決に求められている。

 また、人権や環境にも配慮し、地球規模問題の解決を図る必要もある。国際社会において名誉ある地位を占めるのは、言うは易く行うは難しだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】G20で見えてくる衆参同時選挙ではなく、時間差選挙の芽(゚д゚)!

夏の参院選を控え、G20サミットで議長を務める首相にとっては、外交手腕を示す格好の場となりそうです。一方、韓国大統領府高官は25日、G20サミットに合わせ、首相と文在寅大統領との日韓首脳会談について「開かれない」と記者団に語りました。高官は「われわれは会う準備ができていると伝えたが、あちら(日本)から何の反応もなかった」と説明。一方で、その場で日本から要請があれば、「いつでも会える」と述べ、会談への未練をにじませました。

安倍総理と、トランプ米大統領との会談は今回のサミットで12回目を数えます。4、5月に続く3カ月連続の相互往来で、強固な日米同盟を世界に示します。非核化をめぐる米朝協議など最新の情報を共有し、北朝鮮が非核化に向けた具体的な行動を示さない限り、国連安全保障理事会の決めた経済制裁は解除しない方針も再確認します。

また首相は、今月のイラン訪問の詳細をトランプ氏に伝えます。イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡付近での米軍無人機撃墜などで米イランの対立は激化しており、首相は衝突回避の重要性を働きかける意向です。

中国の習近平国家主席は、2013年の国家主席就任後初の来日となります。首相との会談では、米中貿易摩擦が世界経済最大のリスクとなっていることから、通商問題で意見を交わします。20~21日の中朝首脳会談を踏まえ、北朝鮮情勢も協議します。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案撤廃をめぐる香港の混乱について、首相がどう提起するかにも関心が集まるところです。

26回目となるプーチン大統領との会談は、協議が停滞している日露平和条約交渉の取り扱いが焦点です。昨年11月、日露両首脳は1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に条約交渉を加速させることで合意しましたが、プーチン氏は北方領土の引き渡しに関し「計画はない」と明言するなど、局面打開は難しい情勢です。

一方、G20サミットの全体会議では、世界経済、イノベーション、格差・インフラ、気候変動の計4分野が主要議題となります。

トランプ米大統領が今回のG20首脳会議で目指すのは、中国との貿易摩擦、ロシアとの核軍縮、イラン核問題など米国が抱える懸案に関し、「米国第一」の立場から自国に有利な展開を引き出すことです。

トランプ大統領

G20などの多国間会議の場で設定される首脳会談は外交儀礼上、必ずしも正式な会談に位置づけられるわけではないです。

しかし、主要国などの首脳が一堂に会する多国間会議は、複数の国の首脳とそれぞれ効率的に意見を交わす一方、利害が多国間にまたがる特定の懸案については会議の場で合意形成を図れるという利点があります。

トランプ大統領も中国問題については今回、首脳会議ではサイバー攻撃などによる情報窃取、技術移転の強制、関税や非関税障壁などに関し「不公正な貿易慣行」の排除に向けた各国と認識をすり合わせつつ、習近平国家主席との直談判で具体的合意にこぎ着けたい考えです。

ただ、G20首脳会議の枠組みそのものは既に形骸化が明白となっており、米政権としてはさほど重要視していないのも事実です。

2008年に当時深刻化していた世界金融危機に対応するためにワシントンで始まったG20首脳会議は、世界経済が回復軌道に乗った09年にピッツバーグで開かれた第3回首脳会議の時点で、本来の役割は終了したとの指摘は多いです。

ピッツバーグサミット

その第3回会議でも、メディアに最も注目されたのはイランが当時、秘密の核施設の存在を明らかにしたことに対して米英仏の首脳が抗議の合同記者会見を開いたことで、形骸化の萌芽は既に現れていました。

今回もG20自体は米中の直接対決を前に存在がかすみがちになるのは確実とみられます。

そうした中で、安倍総理にとってG20を活用する方法として、やはり増税凍結もしくは見送りの地ならしです。

これについては、以前このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【G20大阪サミット】大阪から世界が動く 米中貿易摩擦で歩み寄り焦点 日本、初の議長国―【私の論評】G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになる(゚д゚)!
詳細は、この記事をごらんいただくもとして、以下に増税見送りに関する部分のみ引用します。
経済協力開発機構(OECD)は5月21日、世界全体の実質GDP成長率が2018年から縮小し、19年は3.2%、20年は3.4%との経済見通しを発表しました。日本については、19年と20年のGDP成長率をそれぞれ0.7%、0.6%とし、3月の前回予測から0.1ポイントずつ下方修正しました。米中貿易摩擦の影響が大きく、OECDは「持続可能な成長を取り戻すべく、各国政府は共に行動しなければならない」と強調しました。 
そのような中、日本が初めて議長国を務めるG20サミットが開かれます。日本は議長国として、機動的な財政政策などを各国に呼びかける可能性が高いです。それにもかかわらず、日本のみが増税すれば、日本発の経済不況が世界を覆うことになる可能性を指摘されることにもなりかねません。 
平成28年5月下旬、三重県で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット、G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進め、直後に延期を正式表明しました。
伊勢志摩サミットで「リーマン・ショック級」の危機を強調した安倍総理

果たして、G20はG7の再来となるのでしょうか。もし今回増税すれば、日本経済は再びデフレスパイラルの底に沈み、内閣支持率がかなり落ちるのは目に見えています。 
それでも、増税を実施した場合、安倍政権は憲法改正どころではなくなります。それどころか、野党はもとより与党内からも安倍おろしの嵐が吹き荒れレームダックになりかねません。 
まさに、G20前後の安倍総理の意思決定が、安倍政権と国民の運命を左右することになります。
 さて、増税見送りということでは、当初永田町では、衆院解散のタイミングは6月から7月初頭の間に断行して今夏の参院選との同日選に持ち込む案(この場合、投票日は8月4日とするとの説があった)と、今夏は参院選単独で行っておいて今秋から暮れにかけて衆院選を行う「時間差ダブル選挙」とする案がありました。

現状では、衆参同時選挙の芽はなくなってしまったようですが、全くないということでもないと思います。さらに、今秋に増税凍結を公約として衆院選挙という手は未だ否定しきれないところがあると思います。暮ということでは、増税延期には間に合わないので、今秋衆院選は未だにありえる選択肢です。

現在、政争の道具にするには、全く不利で実際他国ではほとんど政争の道具にされていない年金問題で野党は政府を追求しようとしています。この試みは、「もりかけ」問題と同じく野党にとって全く不毛な結果に終わることでしょう。

しかし、現実には与党の支持率は落ちています。とはいいながら、野党に支持率はあがっていません。この状況ですからから秋に衆院選をすることにし、それまでの間に年金問題に関して国民にわかりやすく説明していくことなどの戦略は十分に考えられます。

いずれにしても、伊勢志摩サミット(G7)で、安倍首相は「リーマン・ショック級」の危機を強調しながら、増税延期の地ならしを進めたように、G20でもそれを安倍総理が実行するかどうか、見逃せないところです。

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2019年6月25日火曜日

日本にとって心強い、モディ首相のインド太平洋重視―【私の論評】アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化し日本やインドは良い影響を受ける(゚д゚)!

日本にとって心強い、モディ首相のインド太平洋重視

岡崎研究所

世界最大の民主主義国、インドで、モディ首相率いる与党は勝利をおさめ、モディ首相は、引き続き首相の座に留まることになった。総選挙勝利の一週間後の5月30日、モディ首相は、ジャイシャンカル前外務次官を外相に任命した。

インドの女優Shruti Haasan 

ジャイシャンカル氏は、駐中国大使、駐米国大使を勤める等、大物の外交官である。米印間の原子協定の締結に貢献した実績があり、第一期モディ政権でも、良好な米印関係の構築に寄与した。中国との関係では、2017年の中印間の軍事衝突の危機の際に、それを回避させることに成功した。モディ首相のジャイシャンカル氏への信任は厚く、モディ首相が第二期政権で外交を重視する方針を明らかにする中で、外交の責任者である外相に任命された。

今回、モディ首相は、就任式に、環ベンガル湾多分野経済技術協力(BIMSTEC)の代表を招待した。BIMSTEC の参加国は、インド、バングラデシュ、ミャンマー、スリランカ、タイ、ネパール、ブータンである。パキスタンを排除し、近年では、BIMSTECが、南アジア地域協力連合(SAARC)にとって代わっている。

インドは建国以来、インドのDNAと言われるくらい大国志向が強かった。南アジアでは超大国であり、その中でパキスタンとの関係の調整に腐心してきた。と同時に、世界の中での大国を志向する動きも見せてきている。核保有国になったのはその表れの一つであり、国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指す動きもそうである。国連安保理の常任理事国入りでは、日本、ドイツ、ブラジルとともにG4を構成している。

これは一つには、中国を強く意識していたことの反映とも考えられる。 モディ首相がインド太平洋を重視するに至ったのは、中国の影響力の増大を強く意識する中で、地域的には南アジアの枠を越えて、大国としての外交を展開しようとする意欲の表れとも考えられる。

その点、モディ首相が BIMSTEC を重視するようになったのは興味深い。BIMSTECは日本ではあまりなじみのない言葉であるが、モディ首相が、インドの東側、東南アジアを重視するようになったことを示すものとして、インドの戦略の重要な変化を象徴するものである。

ジャイシャンカル外相の下、日本とインドとの関係が一層緊密化することが期待される。 6月4日、河野外務大臣は、ジャイシャンカル外相と電話会談を行い、日本と関係の深いジャイシャンカル外相の就任に祝意を表した上で、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、グローバル・パワーたるインドが果たすべき役割と責任は極めて大きい、と述べた。

日本と関係の深いジャイシャンカル外相というのは、ジャイシャンカル外相がかつて日本に勤務した経験があることを念頭にしての発言と思われる。ちなみに、ジャイシャンカル外相の夫人は日本人である。 

ジャイシャンカル外相

河野外務大臣はまた、昨年モディ首相が訪日したことを踏まえ、今年は安倍首相がインドを訪問する番であるとも述べた。 モディ首相が、インド太平洋を重視する政策を掲げていることは、日本にとって心強いことである。インド太平洋の航行の自由を確保することは、日本にとって死活的な重要性を持つ。日本は、2015年の安倍首相のインド訪問の際に言及した両国の特別戦略的グローバル・パートナーシップの一層の推進に努めるべきであろう。

第二期モディ政権のモディ=ジャイシャンカル外交は、十分、それに応えてくれることが期待できる。上記のBIMSTECを重視するインドの姿勢もそうだが、昨年のシンガポールでのアジア安全保障会議「シャングリラ・ダイアローグ」の基調講演でも、モディ首相が明言したように、インドは、「アクト・イースト」政策を推進し、ASEANを中心に、自由で開かれたインド太平洋を求めて行く(詳細は、2018年6月18日付の本コラムを参照)。実際、既に、インドは、様々な諸国と海洋協力を推進している。例えば、昨年10月11日から15日は、インド洋のベンガル湾で、日本の海上自衛隊が、護衛艦「かが」と「いなづま」を派遣して、日印共同訓練を行っている。


最近では、2019年(令和元年)5月3日から9日、米国と日本、インド、フィリピンの4か国で、南シナ海を中心とした海域で共同訓練を行なった。この4か国で共同訓練したのは初めてだと言われる。インドが、もはや非同盟中立国の伝統よりも、「アクト・イースト」政策を通じて、民主主義諸国とともに、ルールに基づいた「自由で開かれたアジア太平洋」を維持していきたいとの表れと見ることができる。日本としても歓迎すべきである。

【私の論評】アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化し日本やインドは良い影響を受ける(゚д゚)!

今回の総選挙でモディ首相は有権者の愛国心をかき立てることによって勝利を引き寄せたが、途上にある経済改革を前進させることなしに国民の支持を維持し続けることは難しいでしょう。

経済大国に至る具体的な道筋を打ち出すことができなければ、格差や雇用に対する国民の不満が間を置かずに吹き出し始めるでしょう。

世界景気の先行きに不透明感が強まるなか、高い経済成長を実現し続けるのは難しいようにも見えます。ただインドにとっては、不透明感を強めている主因の1つである米中貿易摩擦が追い風になる可能性があります。中国と米国に代わる世界経済の担い手としてインドへの期待が高まっているからです。

これから、アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化するのは当然のことであり、このことにより、日本やインドは良い影響を受けることになるでしょう。

アジア地域のサプライチェーンの脱中国的な再編が加速化

米中貿易戦争は、供給過剰で疲弊している世界経済を救うかもしれないです。なぜなら現在世界経済が疲弊しているのは、中国を中心とする国々の過剰生産とそれに伴う過剰貯蓄の影響だからです。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国においてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しないです。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

中国が過剰生産をできるなくなることによって、世界経済は良い影響を受けるでしょう。特に、インドや日本はそうです。ただし、これは中長期的みかたであり、短期的には中国経済の悪化は無論日印によって悪影響を及ぼす可能性もあります。そのため、日本では増税などしている場合ではないです。インドでも当面の経済運営が重要になります。

米国と中国という二大国の経済成長に対する不安が高まれば高まるほど、安定した日本と巨大な市場と豊富な人材を抱えるインドの重要性が相対的に高まります。インドは米中に代わる投資先としての魅力をアピールすることで、400億ドル台で足踏みしている海外からの直接投資の流入量を増やすことができるかもしれないです。日本は、安定したハイテク部品の供給の見地から、見直されることになります。

懸念材料として、米国が次の“貿易戦争”のターゲットとしてインドを見ているのではないかという指摘はあります。今年に入りインドに対する一般特恵関税制度の適用を取り消す方針を示したからです。

また米国のイランへの経済制裁は、同国から原油を多く輸入してきたインド、そして中国を直撃しています。ただ、仮に米国がインドへの締め付けを強めるとすれば、それはインドと中国とを接近させる結果を招き、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)のような新しい経済圏の誕生を後押しすることになるでしょう。

それに、インドと中国とは根本的に違います。中国では選挙はありませんが、インドでは選挙があります。確かにインドは地方にいくと、未だに社会が遅れているところがあり、数年前にも、持参金問題で嫁を焼き殺すなどの信じがたい事件がありました。

とはいいながら、インドは民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分とはいえないまでも、少なくとも中国よりははるかに進んでいます。

政治と経済の分離が進んでない中国では、国営・国有企業がゾンビ化して、中国経済の足を引っ張っていますが、インドではそのようなことはありません。そもそも、インドでは中国のように、需要を全く無視して、製品を製造したり、住宅を建設することなどできません。そんなことをすれば、企業が倒産します。

西欧的な社会構造をある程度受け入れたインドと、それを拒絶した中国とでは、社会構造が全く異なります。米国にとっても、中共は滅ぼすべき相手ですが、インドの現在の体制は滅ぼすべき相手ではなく、ともに繁栄したいと望む相手です。無論日本も米国にとってはそのような存在です。

モディ首相率いる与党の優勢が伝えられて以来、株式市場や為替市場ではインド株とルピーが買われ大きく上昇しています。モディ首相は今回の選挙で獲得した国内における強い基盤と、海外投資家や企業からの期待を追い風にして、途上にある経済改革を加速させることができるでしょうか。2期目に入る政権の真価が問われます。私としては、中国が弱体化しつつある現在、モディ首相はうまくインドの舵取りをしていくと思います。

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2019年6月24日月曜日

中国次官、米側の譲歩求める G20、香港問題は「議論許さぬ」―【私の論評】米国に続いて日本も中共の面子を叩き潰せ(゚д゚)!


G20で香港問題の議論は深まるか。トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席の対応に注目が集まる

 中国商務省の王受文次官は24日の記者会見で、大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた米中首脳会談をめぐり、「一方(中国)だけでなく双方が譲歩しなければならない」と述べ、貿易協議の妥結には米国側の譲歩も必要だとの立場を強調した。中国外務省の張軍次官補も同じ記者会見で「G20で香港問題を議論することは許さない」とし、同問題を提起する方針を示したトランプ米大統領を牽(けん)制(せい)した。

 習近平国家主席は27~29日に大阪を訪問。王氏は、米中の交渉団が現在、双方の相違を解決する方法に関し、交渉を続けていると表明した。一方で、トランプ政権を念頭に「一部の国が一国主義や保護主義を実行し、ほしいままに貿易相手国に関税をかけている」と非難し、G20で多国間主義への支持が一層高まることへの期待感を示した。

 習氏は昨年11月末からのアルゼンチンでのG20首脳会議で、米中首脳会談を控えていたため「保護主義」への反対といった米国との対決色を封印した。ただ中国は、5月に貿易協議が事実上決裂した原因は米国にあると国内メディアを通じて宣伝。協議再開に道筋が付いた場合、一方的に譲歩したと受け止められるのを避けるため、今回のG20ではより強い表現で米批判を展開する可能性がある。

 一方で中国当局は、香港の混乱をめぐり各国から批判を浴びる事態を懸念している。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案について香港政府は作業の完全停止を発表したが、張次官補は条例改正が法律上の欠陥を補うために必要だとの認識を改めて表明。「どのような場面や形式であろうと、いかなる国も中国の内政に干渉することは許さない」と米側にクギを刺した。

【私の論評】米国に続いて日本も中共の面子を叩き潰せ(゚д゚)!

香港のデモに関しては、やはり話し合うべきでしょう。香港の政治的不安定は、世界経済にも影響を与えるから当然議題にすべき筋のものです。私は、中共はこの問題をあまりに安易に考えてると思います。中国がこれについて、全く話し合いをしないというのなら、トランプ大統領は習近平の会談をキャンセルすることもあり得ると思います。

もうオバマ政権時代の数年前とは事情が全く異なってきていることを中共は理解していないようです。トランプ大統領としては、オバマ時代に後退した中国との対決を本気で一気に進めて米国に有利な状況をつくりだそうとしています。

すでに、中国に対する米国による最終兵器が5月15日に炸裂しました。それは華為技術(ファーウェイ)を輸出管理法に基づく輸出規制の対象(エンティティーリスト)に加えたことです。

ファーウェイを標的にしたトランプ大統領

米国の企業がファーウェイに部品やソフトウェアを売ろうとするときには商務省に申請して許可を得なければならなくなりましたが、一般に申請は許可されないといいます。

昨年4月に中興通訊(ZTE)がイランに不正輸出を行ったとして同様の制裁を科され、スマホの工場の稼働が止まるほどの窮地に陥ったことは記憶に新しいです。その時は中国政府が米国政府と交渉して、米国企業との取引禁止から罰金に「減刑」してもらうことで何とか難局を乗り越えました。

とはいいながら、ZTEが米国に対して約束した透明性を確保しなければ、制裁が再発動されることになります。

一方、ファーウェイはZTEを上回る技術力を持つハイテク企業ですが、米国政府も周到にファーウェイを追い詰めようとしています。まず昨年4月にアメリカ連邦通信委員会(FCC)は米政府の補助金を使う通信事業者がファーウェイとZTEの機器を使うことを禁じる措置を決めました。

さらに昨年8月に成立した国防権限法2019(NDAA2019)は、アメリカの政府機関がファーウェイ、ZTEなど中国企業5社の通信機器や監視機器を使用することを禁じ、さらにこれらの企業の機器を利用している企業からの調達まで禁止しました。

そしてこのたびの輸出管理法は米国の企業がファーウェイに対して機器、部品、ソフトウェアなどを輸出することを事実上禁ずる、というだけではなく、他国企業がアメリカ企業の部品やソフトなどを含むものをファーウェイに売ることにも規制の網をかけています。もしこの規制を破れば、今度はその企業が米国企業との取引禁止や罰金などの制裁を受けることになるのです。

つまり、米国企業がファーウェイに何かを売ったり、ファーウェイから何かを買ったりするのを制限するというだけでなく、ファーウェイと取引するような企業は他国の企業であっても米国の政府調達から締め出されたり、米国企業との取引を禁止されるといった制裁が科されるというのです。

もっとわかりやすくいえば、ファーウェイは、インテルやAMDのCPU、チップセットを購入出来なくなったのです。これは小売用だけでなく、社内使用分もです。また、Windows OSもです。ファーウェイは自身で開発した新 OS 何を使って開発するようなことを言っていますが、これを実行したとしても、効率はかなり悪くなることでしょう。

世界中で共通のプラットフォームとして用いられている、OS等には、様々なノウハウが蓄積されており、その豊富なノウハウなどの資源を用いることができるのですが、自社開発のOSということになれば、そういうわけにはいきません。なんでも自前て開発しなければならなくなります。

ただし、禁輸にしても、第三国経由で横流しされるでしょう。米国はそれを追跡し、第三国企業に制裁、見せしめをする事で穴を塞いで行くことになるでしょう。

インテル、nvida、AMD 3社を禁輸にすれば、天網スカイネットも瓦解するでしょう。ウイグル等人権問題が関係するので正当性はあります。NDAA2020では、天網を崩壊させるてだても組み込むことでしょう。

なぜここまでするかといえば、もう米中の貿易戦争は、冷戦の次元にまで高まっているからです。そうして、その背景には「文明の衝突」があるからです。現在の米中の争いは、米国側からすれば、中共の価値観を排除するという意味合いがあるのです。

さらに、米国共和党のルビオ上院議員が「政府の監視対象となっている企業が国内での特許について、特許侵害での提訴も含めた法による救済措置を求めることを禁止する」法案を提出したそうです。 

ルビオ上院議員

これは事実上、アメリカの監視対象となっているヒューウェイを狙い撃ちにしたものです。

ヒューウェイは米国の大手通信会社・Verizonに対し230件を超える特許を巡って10億ドル以上のライセンス料を要求していますが、法案が成立すれば救済措置を求められないどころか「ヒューウェイの特許はいくらでも侵害していい」ということになるわけです。

なお、周知の通りヒューウェイiは現行の4Gおよび次世代産業の中核となる5G技術においてトップクラスの特許を保有。5Gの標準化に大きく貢献するなど名実ともにフロントランナーです。

5Gをめぐる米中覇権争いの中、ターゲットにされている感のあるヒューウェイ。知財保護を訴えていた米国とすれば、ヒューウェイの技術は、元々成熟しかけていた米国等の技術を盗み、中国の政府補助金などで、急速に成熟化したものであると断定しているのです。

だからヒューウェイの技術に関しては、当然のことながら自分たちが金と時間をかけ成熟させるはずだったものを、盗まれたのですから、盗まれたものは取り返すという意味でこのような措置をとるのでしょう。

さらには、日米はすでに6Gの基礎研究に入っていますから、これがある程度までいったときにまた盗まれては、同じことの繰り返しです。この措置は、そんなことは絶対にさせないし、すれば取り返すだけであるという覚悟を中共にみせたのでしょう。

中国も盗まれる痛みを知らなければ、いつまでも窃盗を続けるでしょうから、私はこうした措置を歓迎したいです。

それにしても、米国の要求に折れたら習近平の負けを認めたことになり共産党支配の崩壊が早まることになります。 突っぱねれば、中国経済に大打撃を受けることになります。

トランプ政権は、中国製品に理不尽なまでの制裁関税をかけ、ファーウェイに対するアメリカ製品の輸出を禁止した。トランプに態度軟化の気配は見えず、中国はこれ以上被害が広がらないうちに折れたほうが賢明ではないかと思います。

王受文次官は、G20で香港デモの話をしないとしていますが、もし本当にそうすれば、トランプ大統領は習近平との会談をキャンセルし、さらに何らかの形で具体的に、新たな制裁を実施することになるでしょう。

王受文次官

この米国の行動は、トランプ大統領が辞任した後も続きます。それは、次の選挙でトランプ氏が再び大統領になってもならなくても、超党派で継続されます。

これについては、日本の企業や日本政府が何を言ったとしても、今後しばらくは変わりません。そうして、日本の企業が米国のやり方に違反した場合は、何らかの制裁を受けるだけになります。それは、日本政府も同じことです。

そんなことよりも、今は米国に協力して、中国がまともな国なり、中共が崩壊するか、中国の経済が弱体化して、日本等の周辺諸国に覇権を及ぼすことができなくなるまで、中国を追い詰めるときです。今は、中共の面子を米中協同でたたき潰し、中共の崩壊を推進するべき時なのです。中共が面子を気にして粋がってみせていられるのも今のうちだけです。

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香港デモのもう1人の勝者は台湾の蔡英文総統

道路を埋め尽くしたデモ隊。2014年の「雨傘運動」の象徴である黄色い傘も目立つ

(文:野嶋剛)

 香港と台湾は繋がっている、ということを実感させられる1週間だった。

 香港で起きた逃亡犯条例改正案(刑事事件の容疑者などを中国などに移送できるようにする)への抗議は、103万人(主催者発表)という返還後最大規模のデモなどに発展し、香港社会からの幅広い反発に抗しきれなくなった香港政府は、法案の審議を一時見送ることを決定した。それでも6月16日には、改正案の廃止を求めて200万人近く(主催者発表)が再びデモに繰り出した。

 前例のない今回の大規模抗議行動のもとをたどれば、台湾で起きた殺人事件の容疑者身柄移送をめぐる香港と台湾の問題に行きつくが、同時に香港のデモは、台湾で現在進行中の総統選挙の展開に対しても、非常に大きな影響を及ぼすことになった。

香港と台湾の法的関係

 15日に改正案の審議見送りを表明した林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官の会見では、「台湾」という言葉が何度も繰り返された。逃亡犯条例を香港対中国の文脈で理解していた日本人にとっては、いささか不思議な光景に映ったかもしれない。

 この逃亡犯条例の改正は、台湾旅行中の香港人カップルの間で起きた殺人事件がきっかけだった。殺された女性はトランクに詰められて空き地に放置され、男性は台湾から香港に戻っていた。香港警察は別件でこの男性の身柄を逮捕しているが、殺人事件自体は「属地主義」のため、香港で裁くことはできない。台湾に移送し、殺人事件として裁かれることは、香港社会の官民問わずの希望だっただろう。

しかし、事態を複雑にしたのは、香港と台湾の法的関係だった。香港は法的にも実体的にも中華人民共和国の一部であるが、台湾は中華人民共和国が中国の一部だと主張していても、実体は独立した政治体制である。

 現行の逃亡犯条例には「香港以外の中国には適用しない」との条項があるため、これを削除して台湾も含む「中国」へ容疑者の身柄を引き渡せるようにするのが今回の改正案なのだが、そこには「中央政府の同意のもと、容疑者を移送する」とある。台湾の「中央政府」は果たして台北なのか北京なのか、香港政府の判断はなかなか難しい。

 さらに5月9日の時点で台湾の大陸委員会の報道官が「国民の身柄が大陸に移送されない保証がない限り、改正案が通っても香港との協力には応じない」と明らかにしている。香港政府が当初の改正理由に掲げた「身柄引き渡しにおける法の不備」を解消するという必要性はあるとしても、殺人事件を理由に法改正を急ぐ必然性は失われており、市民の反対の論拠の1つになっていた。

 林鄭行政長官の記者会見でも、審議延期の理由として台湾の協力が得られない点を強調しており、「台湾に責任を押し付けることで事態を切り抜けようとしている」(台湾メディア)と見えなくはない。

もう1人の勝者は蔡英文総統

 香港デモの最大の勝者は、法案の延期を勝ち取った香港市民であるが、もう1人の勝者は紛れもなく台湾の蔡英文総統であった。

 予備選が始まった3月末時点では逆に頼氏に大きく差を開けられていた蔡総統だが、候補者決定の時期を当初予定の4月から6月にずらしていくことで支持率回復の時間稼ぎを試み、頼氏と並ぶか追い抜いたところで、香港デモのタイミングにぶつかった。

 与党・民進党では、総統選の予備選がデモの発生と同時に進んでいた。民進党は世論調査方式を採用しており、香港で103万人デモが行われた翌日の6月10日から12日まで世論調査が実施された。13日発表の結果は、蔡総統が対立候補の頼清徳・前行政院長に7~9ポイントの差をつけての「圧勝」だった。

政治家には運がどうしても必要だ。その意味では、蔡総統は運を味方につけた形になったが、香港デモの追い風はそれだけではない。対中関係の改善を掲げ、「韓流ブーム」を巻き起こした野党・国民党の韓国瑜・高雄市長は、すでに国民党の予備選出馬を事実上表明して運動を始めているが、その勢いは香港デモによって損なわれている。

 韓市長は、3月に香港と中国を訪れ、特に香港では、中国政府の香港代表機関である「中央政府駐香港聯絡弁公室(中聯弁)」を訪問するという異例の行動をとっていた。香港の抗議デモがなければ、この行動は賛否両論の形で終わっていたが、香港政府や中国との密接ぶりを演じたパフォーマンスは、今になって裏目に出た形となっている。

 対中関係については民進党と国民党の中間的なスタンスを取っている第3の有力候補、柯文哲・台北市長も打撃を受けており、この3人を並べて支持を聞いた今回の世論調査では、これまで同様の調査で最下位であった蔡総統が一気にトップに躍り出ていたのだ。

「今日の香港は明日の台湾」

 この背後には、香港情勢をまるで自分のことのように感じている台湾社会の感情がある。香港に適用された「一国二制度」は、もともと台湾のために鄧小平時代に設計されたものだ。香港で「成功」するかどうかが台湾統一の試金石になる。どのような形でも統一にはノーというのが現時点での台湾社会のコンセンサスだが、それでも、香港が中国の約束通り、「高度な自治」「港人治港(香港人による香港統治)」を実現できているかどうか、台湾人はじっと注意深く見守っている。

 香港のデモは連日台湾でも大きく報道され、台湾での一国二制度の「商品価値」はさらに大きく磨り減った。一国二制度に対して厳しい態度を示している民進党は、総統選において有利になる。「今日の香港は明日の台湾」という言葉が語られれば語られるほど、香港は台湾にとって想像したくない未来に映り、その未来を回避してくれる候補者に有権者は一票を託したくなるのだ。

 かつて香港人は、欧米流の制度があり、改革開放を進める中国大陸ともつながる香港の方が台湾より上だという優越感を持っていた。しかし、香港の人権や言論の状況が悪化し始め、特に「雨傘運動」以降、政治難民に近いような形も含めて、台湾に移住する香港人が増え始めている。香港に失望した人々にとって民主と自由があり中国と一線を画している台湾は、親近感を覚える対象になった。

 また、香港では言論や政治で縛りが厳しくなっているため、今年の天安門事件30周年の記念行事でも、かつての学生リーダーを欧米などから招いた大型シンポジウムは、香港ではなく、あえて台湾で開催されていた。

反響しあって大きなうねりを起こす

 香港では皮肉なことに返還後の教育で育った若い世代ほど、英語よりも普通語(台湾では北京語)の能力が高く、台湾と香港との交流の壁は低くなっている。

 一方、台湾からの影響力の拡大を懸念した香港政府は、台湾の民進党関係者や中国に批判的な有識者や活動家に対して、入国許可を出さないケースが相次いでおり、民間レベルでは近づきなから、政治レベルでは距離が広がる形になっている。

 香港の雨傘運動は、台湾の「ひまわり運動」から5カ月後に発生した。タイミングは偶然だったかもしれないが、「中国」という巨大な他者の圧力に飲み込まれまいとする両地にとっては、それぞれの環境が反響しあって大きなうねりを起こすことを、2014年に続いて改めて目撃することになった。

 台湾のアイデンティティが「中国人」から「台湾人」へ大きくシフトし、香港人のアイデンティティも若い世代ほど「中国意識」が薄れてきている。香港・台湾の人々の脱中国という心理の動きは、中国政府の今後の対応如何でさらに進行していくだろう。

 今回の200万人という再度の大規模デモでは、あくまで市民は逃亡犯条例改正案の審議延期では満足せずに撤回を求めており、香港人の怒りはしばらく収まりそうにない。

 台湾の総統選は半年あまり先に迫っている。「一国二制度と中国」を巡って起きている香港・台湾両地の共鳴現象は、今後注目を要する視点になるだろう。


野嶋剛


1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、「台湾とは何か」(ちくま新書)。訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。最新刊は「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

【私の論評】中共は香港デモを「超AI監視技術」を駆使して鎮圧するが、その後徐々に衰え崩壊する(゚д゚)!

世界が固唾を飲んで見守っている香港の大規模デモは、一定の成果を挙げて一段落しました。

それにしても、6月9日に103万人と発表されたデモの参加者が、1週間後の16日には200万人を超えたというのですから驚きです。主催者発表の動員数ですから鵜呑みにはできないにしても、写真や映像を見る限り、大変な盛り上がりでした。

現在の香港の人口は750万人です。そのうち中国からの移住者150万人、それに高齢者や子どもたちを除いて考えると、未曽有の参加者数といえます。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、9日の「103万人デモ」に遭遇しても強硬姿勢を崩しませんでした。そして、そのデモを評して、「法律を顧みない暴動行為」と決めつけました。

1989年、中国・北京を舞台に起きた「天安門事件」を、中国共産党が「動乱」と決めつけたことが事態を急激に悪化させましたが、今回も30年前同様、そうなりました。

ところが、その林鄭長官が「200万人デモ」に至って、態度を大きく変えた。「香港社会に大きな矛盾と紛争を生み、市民に失望と悲しみを与えた」と陳謝したのです。

民衆に対決姿勢で臨んだところ、一週間後にはなんと抵抗勢力が倍増しました。200万人と対峙(たいじ)すれば、デモはいっそう強力になって、手に負えなくなります。そうなれば、警察の力を借りるどころか、戒厳令の発動や人民解放軍の出動にもつながりかねないという判断が透けてみえます。

ただ、こうした高度な政治判断が、林鄭長官に任されているはずはないです。背後にある、中国政府、中国共産党、習近平・中国国家主席が「方針転換」の指示を出したと見るのが妥当でしょう。今月末には、大阪で主要20カ国・地域(G20)サミットで開かれる。そこで、習主席が孤立したり集中砲火を浴びたるすることを恐れたのかもしれないです。

林鄭長官は記者会見で「改正審議は再開できないと認識している」と発言。さらに香港政府は21日、「逃亡犯条例案の改正作業は完全に停止した」との声明を出し、廃案にする構えを示しました。

林鄭月娥行政長官

中国政府、香港政府はなぜ、今回の大規模デモや市民の動向を読み間違えたのでしょうか。おそらく、5年前の「雨傘運動」が意外に容易に沈静化したからでしょう。

ご存知のように、香港政府のトップである行政長官は、民主的な普通選挙によって選ばれているわけではありません。複雑な手続きによって、中国政府に批判的な人は排除される仕組みになっています。これに対して、民主的な選挙制度を求め、学生や市民が立ち上がったのが2014年秋の雨傘運動でした。

「それと比べると、逃亡犯条例改正問題に対する市民の関心は薄い」と当局が判断したとしたら、それは大きな誤算でした。選挙制度は確かに重大な問題ですが、今回の問題は香港人ひとり一人にとって、それ以上にきわめて身近で深刻な問題であるからです。

いつ身に覚えのない疑いを受けて、中国司法の闇の中に放り込まれるかわからなくなるのいです。自分が拘束されなくても、家族の誰かがそうなるかもしれないです。欧米流の民主主義に馴れている香港人は、「自由」という価値の大きさを熟知しています。

今回のデモの中核は、主婦であり、家族連れであるといわれています。天安門事件や雨傘運動のように、スター的な指導者もいないです。このことも、中国政府や香港政府に方針の転換を促したのでしょう。

今回の香港の大規模デモが、天安門事件から30周年、そしてブログ冒頭の記事にもあるように、台湾の総統改選期とも重なったことも、相乗効果として中国政府に方向転換を促したのです。とすれば、この際、中国政府、中国共産党は、1997年の香港返還に際しての国際公約、「一国二制度」と「高度の自治」を前向きに、積極的に果たしていく方向に踏み出すべきなのではないでしょうか。

具体的には、まずは香港の司法制度の独立、行政長官の直接普通選挙を実現すべきです。

デモが撤退する気配は今のところないです。運動はおそらく次の目標に向かって再編され、継続するでしょう。「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、今後は行政長官の退陣、そして普通選挙による後任長官の選出へと要求が発展していくに違いないです。

ただし、香港デモに同調して、中国共産党が、「逃亡条例案改正案」の廃案に続き、行政官の退陣、さら普通選挙制を導入するということにでもなれば、習近平の権威はかなり毀損されます。

そうなると、習近平は中国共産党内の権力闘争に負けて、失脚しかつての華国鋒のような運命をたどることになります。

華国鋒の運命を知っている習近平は、現状ではG20も迫っているので、厳しい弾圧は控えていますが、G20が終わり、デモが沈静化した頃を見計らって、厳しい弾圧を行い、デモを粉砕しようとするでしょう。

開幕した中国全人代で、政府活動報告のため席を立つ李克強首相。
       左は習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂

「天安門事件」や「雨傘運動」と今回のデモが違うのは、香港市民が中国本土の「超AI監視技術」を恐れていることです。今回のデモでは、マスク、ヘルメット、ゴーグルなどで顔を隠している参加者が圧倒的に多いです。顔認証システムで、個人を特定されたくないからです。

いずれ中国は香港でも「超AI監視技術」を導入して、デモで実質的に中核になった人々や、その協力者を一網打尽にすることでしょう。

その時は「超AI監視技術」を用いるので、「天安門事件」のときのような虐殺を伴わずに、洗練されたスマートなやり方で、首謀者・協力者などを発見しデモを鎮圧することでしょう。

現在習近平は、このようなことを実施するため、虎視眈々と機会を狙っていることでしょう。おそらく、実行するには半年から一年はかかることでしょう。

なぜそのようなことがいえるかといえば、それは中国共産党の統治の正当性があまりにも脆弱だからです。脆弱であるからこそ、内部での権力闘争があったり、日本を悪魔化して、人民の憤怒のマグマを日本に向けさせ、自らの統治の正当性を強める必要があるのです。

そもそも、中国共産党の中国統治の正当性が高いものであれば、「天安門事件」はなかったでしょう。

こうなると、香港にとって不幸なのはもちろんですが、なにより中国にとって明るい展望は一切見通せなくなります。香港のデモを無理やり鎮圧すれば、たとえそれか従来とはかなりスマートなやり方であったとしても、さらに香港市民を怒りをかい、国際的にも非難されることになります。

米国は最近米国国務省のキロン・スキナー政策企画局長が、ドナルド・トランプ米政権が、中国を覇権抗争の相手国と見なしていることを明確にしています。その背景として、トランプ政権下で急速に対中国強硬論が高まる中、ついに米中の間の対立についても、「文明の衝突」が参照されるようになってきたのです。

米国は、現在の米中の対立は、すでに貿易戦争などの次元ではなく、米国文明と中国文明の衝突であるとみなしているのです。これは、価値観と価値観のぶつかり合いなのです。

そのような中で、中国が最新のテクノロジーを用いたスマートなやり方であっても、香港のデモを鎮圧すれば、米国の「文明の衝突」という観点からの中国の見方を正当化することになります。

そうなると、米国は抑止力としては武力を使うものの、直接武力は用いることはないでしょうが、中国が先進国なみに社会構造改革をして民主化、政治と経済の分離、法治国家化を求めるようになることでしょう。しかし、中国共産党はこれを実行できません。なぜなら、これを実行してしまえば、完璧に統治の正当性を失い、中国共産党は崩壊するしかないからです。

おそらく、中国共産党は米国の要求など聞く耳をもたず、香港デモを無理やり鎮圧して、滅びの道を選ぶでしょう。そうして、米国は中国共産党が崩壊するまで、冷戦をやめないことでしょう。

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