香港・国家安全法が「中国の没落」と「日本の復活」をもたらす可能性
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ついに見えた、中国政府「衣の下の鎧」
中国の「香港国家安全法案」が月内にも全国人民代表大会で成立する見通しだ。その場合、香港にどのような影響を与えるか。
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この国家安全法は、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為を取り締まり、処罰する。香港政府が「
国家安全維持委員会」を設立し、関連事務に責任をもつが、中国政府は指導・監督のため香港に「国家安全維持公署」を設置する。国家安全法が香港の他の法律と矛盾する場合、国家安全法を優先するとしている。
このような、国家転覆を企てる行為を処罰する法制はどこの国にもある。しかし、中国は共産党が憲法の上位に位置する一党独裁国家であり、共産党批判は国家転覆につながるとみなされる。一方、民主的な国では、政権交代のための民主主義プロセスがあり、政権・政党批判は容認される。
よく香港に関しては
一国二制度といわれるが、その矛盾は、今回のような国家安全法制が出てくると、よくわかる。
欧米の自由・民主主義国では、高度な自治を有する一国二制度ともいえる自治領が歴史的にも存在してきたが、やはり中国では、自由も民主主義の歴史もないので、一国二制度は当初から無理だったのだろう。これまでも中国政府は、一国二制度は「香港固有のものではなく、全て中央政府から与えられたものである」と公言してきたが、今回の香港国家安全法で、ついに衣の下から鎧があらわれてしまった。
香港から一国二制度を取ったら何が残るというのだろうか。その証拠に、政治的基盤が揺らぎ始めてから、香港経済はガタ落ちだ。
香港の2019年7-9月期の実質域内総生産(GDP)成長率は、前年同期比でマイナス2.8%。四半期のマイナス成長はリーマン・ショック以来10年ぶりで、民主化デモの深刻化による観光客の減少と、米中貿易摩擦による中国経済の減速のダブルパンチだった。10-12月期も前年同期比でマイナス2.9%と景気後退になった。2020年1-3月期は、
コロナでマイナス8.9%とダメ押しになっている。
香港は、イギリス・スタイルの規制の緩い世界有数の金融センターだった。
イギリスのシンクタンクZ/Yenグループが2007年3月から、国際金融センターの国際的競争力を示す指標(国際金融センター指数)を公表している。100以上の都市・地域を対象とし、年2回ランキングを出している。
2020年3月に公表された最新版によれば、香港のランクは3位から6位まで低下してしまった。
その前まで、ニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位をシンガポールと競っていたが、一国二制度が揺らいでいることから、今回は下がってしまったわけだ。
自由な政治がなければ、自由な経済もない
もちろん、香港の国際金融センターとしての魅力は、自由な金融取引ができなければ維持できない。もはや、金融センターとしての香港の将来はないだろう。
特に香港ドルについてはドルペッグされており、これが香港の金融インフラを支えている。米国がドル決済で国際金融機関に制限をかければ、香港の金融経済はまったく機能しなくなり、ひとたまりもなく没落する。米国はドルという世界最強通貨をもっているので、その気になれば香港の生殺与奪を握っているともいえる。
中国にとって、香港を失うのは経済的な打撃である。国際金融センターとして上海が伸びてきているので、香港の代替ができるのではないかという意見もあるが、筆者は否定的だ。
というのは、そもそも国際金融センターとして不可欠な「自由な資本移動」が、中国では不可能だからだ。
これをきちんと理解するためには、まず国際金融の知識である「国際金融のトリレンマ」についての理解が必要だ。ざっくりいうと、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを同時に実行することはできず、このうち二つしか選べないというものである。
このため、先進国の経済は二つのタイプに分かれる。一つは日本や米国のような変動相場制である。(1)の自由な資本移動は必須なので、(2)の固定相場制をとるか(3)の独立した金融政策をとるかの選択になるが、ここで金融政策を選択し、固定相場制を放棄している。
もう一つはユーロ圏のように、域内は固定相場制、域外に対しては変動相場制を取るというものだ。(1)の自由な資本移動は必要だが、域内では(2)の固定相場制のメリットを生かし、かわりに独立した金融政策を放棄する。もっとも、域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えばやはり変動相場制ともいえる。
いずれにしても、先進各国は(1)の自由な資本移動を最優先で確保している。逆にいえば、自由な資本移動があって、自由な国際金融センターがないと、先進国の資格がないというわけだ。先進国クラブといわれるOECD(経済協力開発機構)の加盟条件として、資本の自由化が含まれているのはそのためだ。
中国経済は、そうした先進国タイプになれない。
中国は、一党独裁社会主義であるので、(1)の自由な資本移動が基本的に採用できない。例えば、土地などの生産手段は国有というのが社会主義の建前だ。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持てない。中国へ出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはない。
要するに、中国では自由な資本移動がないために、本格的な国際金融センターを擁することも不可能なのだ。
なお、先進国はこれまでのところ、基本的に民主主義国家である。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制も作れず、その結果としての成長もないからだ。このあたりの理論的な説明は、フリードマン『資本主義と自由』に詳しい。
この理論を進めると、今の中国の一党独裁体制では、経済的な自由の確保ができないので、いずれ行き詰まることが示唆される。
この議論は、近く中国が崩壊するという悲惨な予測や、中国も経済発展を遂げればいずれ民主化するという楽観論とも一線を画しており、そうした予測をするものではない。
日本は「漁夫の利」を狙える
いずれにしても、香港の将来は明るいとはいえない。香港の企業、金融機関や人々は、これから中国に従うか、それとも香港から脱出するかの二択を迫られることになるだろう。香港の人口750万人のうち、半数程度は香港に居づらくなるだろう。
香港は、モノとカネによって中国と世界をつなぐ重要なゲートウェイだったが、もはや今後、その役割を担うことはなくなるだろう。
それにしても、中国は香港について間違った選択をしている。あと10年くらい「
一国二制度」を維持していれば、香港の能力をもっと活用できただろうに、そのチャンスを自ら失ってしまった。香港の自由が、中国の一党独裁という政治的な「不自由」に、よほど脅威だったのだろう。金の卵である香港を切り捨ててでも、一党独裁体制を守りたかったに違いない。
もっともこの状況は、日本にとっては「漁夫の利」になる可能性がある。国際金融センターとしての東京の復権のためには、大きな援軍となるのだ。折しも実施される
東京都知事選で、ここを是非とも争点にしてもらいたいところだが、そうした機運がないのは極めて残念だ。
イギリスのロンドンもEU離脱により、国際金融センターとしての地位を低下させるだろう。イギリス経済をTPP(環太平洋パートナーシップ)に取り込み、さらに香港の国際金融センターとしての機能も企業とともに取り込んだら、日本の将来にとって大きな資源になるはずだ。
香港国家安全法案が可決されたら、日本は「
遺憾」を表明するだろう。これは、17日の先進7か国(G7)の共同声明での「重大な懸念」より踏み込んだ表現だ。それと同時に、香港から脱出する人に対して受け入れを優遇し、国際金融センター機能の取り込みもしたらいいだろう。
コロナ「第二波」はあるのか
最後に、話題は変わるが、
コロナ感染の第2波について気になっていることを書こう。
新型コロナウイルスの感染者が、東京都内などで増加傾向にある。海外でも引き続き感染者が増えているが、今後どうなるのか。
最近、一部週刊誌で、緊急事態宣言や活動自粛措置は意味がなかったとする見解が出ている。吉村大阪府知事は騙されたとするものもある。もっとも吉村知事は「騙されていないし、後出しジャンケンは有害以外の何物でもない」としている。
筆者は1月下旬から、2日に1回のペースで感染拡大の予測を公表してきた。予測は感染症数理モデルによるもので、一定の前提条件の下で、新規感染者数についてピークの到来時期と落ち着く時期を明示した。
筆者の予測は、3月下旬に1回だけ見直している。その当時の前提条件(自粛の緩みなど)が現実と乖離していたからだ。もちろん予測は常に外れる可能性があるので、前提条件と現実との乖離を注意深く見ての判断だった。それ以降見直しはせず、4月上旬がピーク、5月下旬に落ち着くとの予測はほぼ当たった。
これが科学の流儀である。前提条件の違いを考慮し、修正を加えながら予測すべきで、その妥当性は予測が当たるか当たらないかで判断される。一部週刊誌は、こうした予測もできないくせに、難癖をつけたにすぎない。まさに吉村知事が言う通りの後出しじゃんけんだ。
今の東京での新規感染者数をみると、筆者が予測を見直した3月下旬とはやや違うとの印象もある。クラスターは発生しているが、感染経路が比較的はっきりしており、爆発的な広がりの兆候は少ない。もっとも、第二波といえるかどうかは、もう少しデータが入らないと判断できない。
今のところ、「第2波」はあっても、第1波ほどにはならない可能性が高いとみるが、今後もデータを注視していきたい。
【私の論評】東京・ニューヨークが国際金融センターのトップとなる日が来る!(◎_◎;)
国際金融都市とは、グローバルな金融機関が拠点を構えたり、株式や為替など世界の金融・資本市場の中心となる取引所が所在する都市のことです。
ニューヨークやロンドンは歴史的に株式・為替取引が多いことからも、その代表格といえます。最近では香港やシンガポールも存在感を高め、国際金融都市の仲間入りをしていました。
国際金融都市は国際金融センターとも呼ばれ、その基準の一つとされているのが、イギリスのシンクタンクが発表する「世界金融センター指数」です。これは世界の100以上の都市・地域を対象に、金融センターとしての国際競争力を測るものです。
2019年9月に発表された最新版では1位がニューヨークで2位がロンドン。3位に香港、4位にシンガポール、5位上海とアジアが続いて、東京はその次の6位となっています。
やはりニューヨーク、ロンドンの2大都市は国際金融都市の不動のツートップ。イメージ通りの実力のようです。
それを追いかけるのがアジア勢で、中でも上海は2018年に東京の順位を追い抜き、上位勢に迫る勢いを見せています。中国のメディアは「国際社会が上海を国際金融センターとして認めるようになった」と分析。胸を張っています。
この中では、東京はツートップの“控え”のようなポジションというイメージでした。
東京の国際金融都市を目指す動きの前に、他の都市につい少してみておきます。
「国際金融センター指数」ランキングの興味深いところは政治的な国情があまり反映されない点です。昨年のランキングでは、例えば市民デモが続く香港は政治情勢が揺れ動いていたのですが、3位という国際金融センターとしての地位は安泰でした。また、ブレグジットを巡って揺れ続けているイギリスにおいてもロンドンは国際金融センターとして世界第2位の位置を堅持していました。
香港やロンドンを見ると、いったんその地位を築くと簡単には揺らぐものではないといえそうでした。その意味で上海の躍進は特筆すべきところではありました。
日本の場合、国情の安定性という点ではまったく問題はないのに、ランキングでは上海に抜かれて6位ということは、政治以外の環境、特にビジネス面での環境があまり高く評価されていな買ったということがうかがえます。
興味深いのが韓国で、ソウルの「国際金融センター指数」のランキングはなんと36位。これは、韓国がソウルと釜山の両方を金融都市として発展させようとしたために力が分散してしまった結果とみられています。
2017年11月、東京都はアジアナンバーワンの国際金融都市としての地位を取り戻すために、「国際金融都市・東京」構想をまとめました。
ここでは、①魅力的なビジネス面、生活面の環境整備 ②東京市場に参加するプレーヤーの育成 ③金融による社会的課題解決への貢献、という3つの取り組みを中心に進められることが発表されました。
この一環として2019年4月には、官民連携で各種プロモーションを展開する組織「一般社団法人東京国際金融機構」(通称:FinCity.Tokyo)が設立されました。この機構にはメガバンクや大手証券会社、金融関連業界団体のほか、東京都も正会員として参加しています。
東京国際金融機構では、世界に向けて金融都市としての東京の姿を発信すること、国際的な金融機関などが日本に参加しやすいよう支援すること、東京の金融エコシステムをアップグレードすることなどを通じて、国際金融都市を目指して東京を海外にアピールしていきます。
東京がアジアでナンバーワンの金融センターとなり、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際金融都市となるのは、決して容易なことではありません。しかし、このまま香港、シンガポール、上海に水をあけられっぱなしでいいはずもありません。同機構のこれからに注目したいところです。
以上か昨年までの国際金融センタへに関する一般的な見方でした。しかし、香港の問題や、コロナ禍により、今年に入ってからこの状況はすっかり変わってしまいました。
英国のシンクタンク
Z/Yenと深セン市(
Shenzhen)の中国総合開発研究所が3月26日に発表した「世界金融センター指数(
Global Financial Centres Index)」で、香港に大きな衝撃が起きました。ニューヨーク、ロンドンに次ぐ世界3位から一気に6位に転落。「世界三大金融センター」の座から滑り落ちたのです。昨年から続くデモ活動の影響とみられます。
世界金融センター指数は、金融センターの国際的競争力を示す指標として2007年3月にスタート。「ビジネス環境」「人的資源」「インフラ」「国際金融市場としての成熟度」「都市イメージ」の5項目を基準に、100以上の都市・地域を1000点満点で点数化し、毎年3月と9月に順位を公表しています。
最新の上位10都市は、ニューヨーク(769点)、ロンドン(742点)、東京(741点)、上海(740点)、シンガポール(738点)、香港(737点)、北京(734点)、サンフランシスコ(732点)、ジュネーブ(729点)、ロサンゼルス(723点)。
点数で見ると、上位10都市すべてが前回よりポイントを落としています。これは新型コロナウイルスや世界的貿易摩擦、英国の欧州連合(
EU)離脱など全世界共通のマイナス材料による影響ですが、香港は34ポイントマイナスで、10都市の中でも最も下落しました。
国際金融のトリレンマには、さすがに中国もいくら資金を使っても、工作員派遣して、何らかの工作をしようとしても、これを破ることはできないようです。
国際金融センターの条件として、香港問題をきっかけに、国際金融のトリレンマが、クローズアップされ、コロナ禍により、防疫体勢を含めた、安全性が注目されるようになったのでしょう。そのため、世界金融センターとしての東京の地位が上がってきたのでしよう。
ただし、今回は東京が地位をあげたというよりは、他都市が地位を下げたということが言えると思います。
特に、国際金融センターとして東京が活躍するためには、日本の銀行の生産性が低すぎです。生産性を飛躍的に高めないと、せっかくの国際金融センターとしての活躍のチャンスが巡ってきたのに、それを不意にすることになりかねません。
ただ、これもこれからの本格的な人手不足が解消することになるでしょう。生産性を上げるか、淘汰されるしかないわけですがら、これは日本の銀行なども必死になっ生産性を上げることでしょう。
日本の東京はこれにより、国際金融センターとしての地位を向上させていくでしょう。自由のない香港、上海、シンガポールなどは、これからますます地位を下げていくでしょう。
ロンドンは、ブレグジットにより、地位を下げることになります。となると、未だコロナの感染者数が増え続けている米国の状況を見ると、東京・ニューヨークが世界の金融センターの事実上のトップとなる時がきたとしてもおかしくはありません。
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