2019年9月1日日曜日

米国、米韓同盟破棄を真剣に検討か―【私の論評】韓国はいまのままなら文によって、日米を蔑ろにしつつ、相手にされてもいない北や中国に秋波を送り続けることになるだけ(゚д゚)!

米国、米韓同盟破棄を真剣に検討か

韓国はもはや味方にあらず、日米豪印同盟に舵切る米政権


「韓国は米軍のリスクを増大させた」

 韓国の文在寅政権による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄のショックが冷めやらぬ中、ドナルト・トランプ米大統領と安倍晋三首相がフランス南西部ビアリッツで会談した。

フランス南西部ビアリッツで会で会談をしたトランプ米大統領と安倍首相

 会談後の政府高官によるブリーフィングによると、両首脳は日米韓連携の重要性は確認したものの、GSOMIA破棄に関するやりとりはなかったという。

 首脳会談内容のブリーフィングではこうした「ウソ」はままある。

 筆者の日米首脳会談取材経験から照らしても、首脳会談後のブリーフィングがすべて「包み隠さぬ事実」だったためしがない。

 オフレコを条件に米政府関係者から話を聞いたという米記者の一人は筆者にこうコメントしている。

 「(文在寅大統領の決定に対する)トランプ大統領の怒りは収まりそうにない。それを安倍首相にぶつけないわけがない」

 「ただ、憤りはちょっと置いておいて、当面文在寅大統領の出方を静観することで2人は一致した。大統領は『韓国に何が起こるか見守る』とツィートしているのもそのためだ」

 だが、日米首脳会談の直後、「伏せた部分」はほぼ同時刻、モーガン・オータガス米国務省報道官が公式ツィッター上で意図的に(?)「代弁」している。

 「韓国政府のGSOMIA破棄決定に深く失望し懸念している。これは韓国を守ることをさらに複雑にし(more complicated)、米軍に対するリスク(risk)を増大させる可能性がある」

 米国務省は22日、同趣旨の報道官声明を出している。今回は韓国の決定が「米軍に対するリスクの増大の可能性」にまで言及した。ダメを押したのだ。

平気でウソをつく文在寅政権

 米国の怒りようは半端ではない。

 米政府高官たちが怒っているのは、文在寅大統領のブレーンにあれほど「破棄するな」と要求していたにもかかわらず、しらっと破棄に踏み切ったからだけではない。

 発表に際して、文在寅政権の高官でこの問題の最高責任者がぬけぬけと嘘をついたからだ。

 金鉉宗・国家安保室第2次長だ。

 タイトルから見ると偉そうに見えないが、韓国人記者によれば「ニクソン政権時代のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官のような存在」らしい。

 今年6月の時点からワシントンを訪問し、日韓間の確執について文大統領の言い分をトランプ政権高官に直接説明に来たのはこの人物だ。

 金鉉宗第2次長は、韓国人記者団にこうブリーフィングした。

 「米国は韓国にGSOMIA延長を希望した。米国が表明した失望感は米側の希望が実現しなかったことに伴うものだ」

 「外交的な努力にもかかわらず、日本から反応がなければGSOMIA破棄は避けられないという点を米国に持続的に説明した。私がホワイトハウスに行き相手方に会ったときにも、この点を強調した」

 「またGSOMIA破棄の決定前には米国と協議し、コミュニケーションを取った。米国に(韓国の決定についての)理解を求め、米国は理解した」

 この発言に米政府高官は直ちに反論した。

 「韓国政府は一度も米国の理解を求めたことはない」

 別の政府高官は韓国通信社ワシントン特派員に対して厳しい表現でこう述べている。

 「これはウソだ。明確に言って事実ではない。米国政府は駐米韓国大使館とソウルの韓国外務省に抗議した」

 外交儀礼として相手方の大統領府高官の発言を「ウソだ」と言うのも異例なことだ。

http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20190823000106
https://www.asiatimes.com/2019/08/article/us-verbal-broadside-at-seoul-over-axing-of-pact/

 「文在寅は長年にわたって築いてきた米国家安全保障体制をぶち壊した」

 ワシントン駐在の外交官たち(無論その中には韓国大使館員たちも含まれる)にとっては「虎の巻」ともされている米外交政治情報を流すニューズレターがある。

 購読料が高いので一般の人の目にはとまらない(筆者は米政府関係筋から間接的に入手することができた)。

 米政権中枢の極秘情報を提供する「ネルソン・リポート」だ。

 同リポートは韓国政府の決定直後の米政府高官・元高官の露骨なコメントを記している。さすがに主要メディアはそこまでは報じない、歯に衣着せぬコメントばかりだ。

トランプ政権高官:
 「文在寅という男は本当に阿呆(Fool)。どうしようもない」

駐韓国大使館で高位の外交官だった人物:

 「文在寅は戦略的痴呆症(Strategic stupidity)と言い切っても過言ではない」

米情報機関で朝鮮半島を担当した専門家:

 「文在寅の決定は愚かで誤り導かれた決定(Foolish and misguided decision)以外のなにものでもない」

 「後世の史家は、こう述べるに違いない。『この決定は何十年にもわたって築き上げられてきた北東アジアにおける米国の安全保障の中枢構造が終焉する、その始まりを暗示するシグナルだった、と』」

別の米外交官OB:

 「文在寅という男は、韓国に対する安全保障上の脅威(Security threats)はどこから来ると思っているのか、全く分かっていない」

 「コリア第一主義(Korea First Tribalism)に凝り固まった衆愚の知恵(Wisdom of the crowd)としか言いようがない」

「日米韓三角同盟よ、さようなら」
「日米豪印同盟よ、いらっしゃい」


 GSOMIA破棄決定を受けて米国は今後どう出るのか。

 短期的には北朝鮮のミサイル情報収集としては、2014年に締結された日米韓の「軍事情報共有協定」(TISA)がある。これまでGSOMIAと並行して機能してきた。

 同協定に基づき、米国を介した日韓間の情報交換は今後も継続させるというのが米国の方針だ。

 GSOMIAもTISAも何も北朝鮮のミサイル情報だけを扱っているわけではない。むしろもっと重要なのは中国やロシアの動向をチェックすることかもしれない。

 日米軍事情報の共有は今後さらに強化されるだるう。米国は韓国から得た情報をこれまで以上に迅速に日本に流すことになるだろう。

 国防総省関係筋はこう指摘している。

 「米国は文在寅大統領は信用しない。だが、韓国軍は信用している。つき合いは文在寅大統領とのつき合いよりも何十倍も古い」

 「先の米韓共同軍事演習も文在寅大統領の反対を押し切って実施した。それを阻止できなかったから北朝鮮は文在寅大統領を口汚く罵った」

大幅な米軍駐留費分担増要求へ

 韓国政府は、GSOMIA破棄決定を踏まえて今後米韓二国間の安全保障関係を一層強化すると宣言している。

 米国にとってはいい口実ができた。直近の対韓要求は2つある。

 一つは、駐韓米軍駐留費問題(SMA)。

 米韓問題を専門とするダニエル・ピンクストン博士(トロイ州立大学国際関係論講師)は米国はこの問題で高圧的になるとみている。

 「米軍駐留費協定交渉は昨年末以降中断したまま。韓国側は年間10億ドルを分担するとしているが、トランプ政権はその5倍、50億ドルを要求してくるといわれている」

 「協定だから議会の承認が必要だ。来年4月には選挙がある。それまでに協定に合意できなければ、駐留費問題は選挙の最大のアジェンダになってしまう」

https://www.nknews.org/2019/08/what-south-koreas-termination-of-the-gsomia-means-for-north-korea-policy/

 文在寅大統領としては米韓の隔たりを埋めて、穏便に年内に決着させたかったところだが、GSOMIA破棄決定で米国の怒りを鎮めるには米側の法外な要求も受け入れざるを得なくなってきているわけだ。

 もう一つはイランによる外国籍タンカーへの威嚇行動で生じた危機管理問題だ。

 中東ホルムズ海峡を航行する船舶の安全を確保する米主導の「有志連合構想・海洋安全舗装イニシアティブ」への参加協力要請だ。

 ホルムズ海峡は日本同様、韓国にとっても中東からのシーレーン確保の要だ。

 コリア第一主義の大衆ナショナリズムは一歩間違えば、反日から反米に点火する危険性を帯びている。文在寅大統領としても何が何でも米国の言うことを聞くわけにはいかない。

 米国にとっては、長期的にみると、これから5年、10年後の韓国をどうとらえるべきか、という重要懸案がある。

 中国が推し進めている「一帯一路」路線に対抗する米国の「インド太平洋戦略」の中核となる同盟国の構成をどうするか、だ。

 米国内には「韓国は外すべきだ」という主張が台頭している。早晩、韓国は「あちら側」つまり中国サイドにつくと見ているのだ。

 トランプ政権内部ではすでに「韓国抜き」の「インド太平洋戦略」が動き出していると指摘する専門家もいる。

 日本、豪州、インドという準大国を同盟化するというのだ。

 特に経済通商上の理由から米国と中国とをある意味で天秤にかけてきたオーストラリアは、スコット・モリソン政権発足と同時に米国に超接近し、米国の考える「インド太平洋戦略」の構築に積極的になってきたからだ。

http://www.iti.or.jp/kikan114/114yamazaki.pdf

豪ダーウィン港湾に軍用施設建設へ

 その事例がすでにある。

 マイク・ポンペオ米国務長官とマーク・エスパー国防長官は8月、オーストラリアを訪問し、米豪初の国務・国防閣僚による「2プラス2」協議で同盟強化を再確認している。

https://www.theguardian.com/world/2019/aug/04/mike-pompeo-urges-australia-to-stand-up-for-itself-over-trade-with-china

 米軍の豪州駐留永久化だ。

 米国はこれまでオーストラリア北部のダーウィンに近い豪州陸軍基地に米海兵隊を乾期だけに配備してきた。

 この港湾にワスプ級揚陸艦(LHD)が着艦可能な軍用施設を建設することを決めたのだ。すでに総工費2億1150万ドルが計上されている。

 ダーウィン港湾の管理権は15年以降、中国大手「嵐橋集団」(ランドブリッジ)が99年間貸与する契約を結んでいる。当時、中豪協力のシンボルとして騒がれた。米政府は強く反発していた。

 「嵐橋集団」のトップ、葉成総裁は人民政治協商会議の代表。中国共産党とも太いパイプを持っており、ダーウィン港湾管理権貸与の背景には対米抑止力の一翼を担う狙いがあるとされている。

 同港湾に米軍が軍用施設を建設するというのは、小さな一歩かもしれないがシンボリックな意味合いを持っている。

 米国とインドとの関係も直実に同盟化のロードマップに沿って動いている。

https://www.washingtonexaminer.com/opinion/our-most-important-alliance-in-2019-will-be-with-india-but-two-other-big-foreign-policy-opportunities-await

 オバマ政権で国務省コリア部長(韓国と北朝鮮を担当)確認だったミンタロウ・オバ氏はこう指摘する。

「GSOMIA破棄決定に米政府はこれ以上ないほどのネガティブに反応している。オバマ政権が将来を考えて編み出した協定だったからだ」

「当時関係者は『これは北東アジアにおける米安全保障体制にとっての聖杯*1(Holy Grail)だ』と言っていたくらいだ」

*1=イエス・キリストがゴルゴタの丘で磔刑された際に足元から滴る血を受けた杯。「最後の晩餐」の時にキリストの食器として使われたとされる。この杯で飲むと立ちどころに病や傷が癒され、長き命と若さを与えられるとされてきた。

 「ワシントンの多くのアジア関係者は日韓関係に赤信号が灯り始めたと見ている。韓国は今後その戦術展開の幅を狭くしてしまった」

 ワシントンの外交安保専門家たちから見ると、GSOMIA破棄で完全に米国を怒らせてしまった韓国はもはや「米国の同盟国」ではなくなってしまったようだ。

【私の論評】韓国はいまのままなら文によって、日米を蔑ろにしつつ、相手にされてもいない北や中国に秋波を送り続けることになるだけ(゚д゚)!

トランプ米政権は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が米政府の説得を振り切って日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄し、日韓の対立を安全保障分野に持ち込んだことで、文政権への怒りと不信を募らせています。

South Korea Flag Bikini 

協定の破棄で今後、ほんど日本には悪影響はないとともに、韓国のほうが悪影響があるともされていますが、それは情報のやりとりに関してのみいえることであり、信頼関係が大きく毀損されたことは間違いありません。

日米韓関係筋によると、トランプ政権は韓国が実際に協定破棄を強行するとは事前に認識していなかったとされ、完全に虚を突かれた形となりました。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は22日、トランプ政権高官の話として、韓国政府は米政権に対し、協定破棄の意思はないとの態度を事前に示していたと伝えました。

政権高官は「韓国のこうした行動は、文政権が米国などとの集団的安全保障に真剣に関与していく意思があるのか、根本的な疑問を生じさせるものだ」と述べ、韓国の同盟軽視の姿勢を痛烈に批判しました。

政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)のビクター・チャ上級顧問は「協定は北朝鮮の行動に関する日米韓の情報共有を円滑化させてきた」と意義を説明。協定破棄は「米国の同盟システムと対立する北朝鮮や中国、ロシアを利するだけだ」と警告しました。

CSISのビクター・チャ上級顧問

日本にとっては協定破棄で今後、北朝鮮の弾道ミサイルに対する早期警戒能力が低下する恐れはありません。それはつい先日、北朝鮮から短距離ミサイルが発射されたとき、日本のほうがそれをいち早く発表しました。過去の韓国側からの北のミサイル発射情報においては、誤りも多々あり、日本側の公表の後に訂正ということもしばしばありました。

そもそも、韓国は人工衛星がないという点からも、日米から比較すると情報収集能力は格段に劣っています。

しかし、GSOMIA破棄に関して、最も恐れるべきは、今回の行動は明らかに北朝鮮や中国に利する行動であり、そのような行動をとった韓国は信用することなどできません。

韓国から米国への情報に意図的な偽情報が流され米国の国益が直接脅かされる事態となることも考えられます。さらに、その偽情報が米国から日本にもたらされる可能性も否定できません。今後、日米韓連携に加え米韓同盟も弱体化するなどの甚大な影響が出るのは確実です。

北朝鮮のミサイル情報をめぐっては、2014年に締結された日米韓の「情報共有に関する取り決め」(TISA)に基づき、日本と韓国が保有する情報を米国を介して共有する枠組みがあります。

しかし、明らかに北朝鮮や中国に利するような行動をした韓国に関しては、日米ともいつ寝首を搔かれることになるかわからないと考えるのは当然のことです。特に在韓米軍にはそのような危機があるということです。

だからこそ、トランプ政権も安倍政権もこの事態に激怒しているのです。問題は、韓国から情報が入らなくなるなるという程度の些細な問題ではなく、はるかに大きなものなのです。

このブログでは、過去に何度か指摘してきたように、日米、中露、北朝鮮のいずれの国も、朝鮮半島の現状を維持を望んでいます。

日米にとって朝鮮半島に起こり得る最悪の事態は、中国の影響力が朝鮮半島全体に及ぶことです。中露にとっての朝鮮半島の最悪の事態は、韓国ベースで朝鮮半島が統一されてしまうことです。

日本のメディアなどは、韓国を他国が欲しがると言う前提で論じていますが、北朝鮮ですら欲しがらないという現実があります。周辺国が皆要らないと言う視点を持って考える方が現実的です。

金正恩は、南北統一 をしたいなどと望んでいません。金正恩にとっての最優先課題は金王朝の継続なのです。それを前提に考えれば、北は南北統一を望んでいないわけです。北朝鮮は歴代の大統領の末路を良く知っています。南北統一後の朝鮮の大統領になるというのは自分の死刑執行にサインするのと同じようなものです。

それでなくても、南北を統一すれば、幼い頃からチュチェ思想を叩き込まれ、金王朝を尊敬するように仕向けられた北朝鮮人民のほかに、チュチェ思想とは無縁で、金王朝に対する尊敬心など全くない韓国人が北朝鮮領内にも大量に入ってくることになります。

そんなことは、金正恩は、許容できません。さらに、文在寅をはじめ朴槿恵等、朝鮮半島から数十年を経た韓国では、中国に従属しようという行動が目立ちました。これも金正恩には耐え難いことです。

金正恩は、中国の干渉を蛇蝎のごとく嫌っています。それは、中国に近いといわれていた金正恩の叔父であった、張 成沢(チャン・ソンテク)を処刑したことでも、はっきりしています。

さらに、中国に近いとされた、実の兄の、金正男氏を暗殺したことでも、明白です。両者の殺害、ならびにその後の北朝鮮内の中国に近い筋の幹部などの処刑は、北朝鮮内の親中派を震え上がらせたことでしょう。

このように、金正恩が中国を蛇蝎のごとくに嫌っているという事実と、北の核が結果として、中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いでいます。

だからこそ、トランプ大統領は北が短距離ミサイルを発射してもほとんど苦言を呈することはありません。北朝鮮の短距離ミサイルは、米国にとっては脅威ではなく、北朝鮮と国境を直接接している中露にとっては脅威だからです。

にもかかわらず、金正恩が文在寅の南北統一等呼びかけに、快く応じてみせたのは、当初は米国への橋渡しを期待したのと、制裁破りや、制裁の緩和を望んでいたからでした。

しかし、鈍感な文在寅は、文在寅への呼びかけに快く応じたので、すっかり舞い上がってしまったのです。しかし、米国との応対が自らできるようになった現在では、文在寅への対応は厳しいものに変わってしまいました。

金正恩と文在寅

南北統一など文在寅の妄想に過ぎないのです。しかし、その妄想に浸りきった文在寅は、今でもその妄想から冷めることができず、北朝鮮や中国に秋波を贈り続け、挙げ句のはてに、GSOMIAを破棄してしまつたのです。

政策研究機関「新米国安全保障センター」(CNAS)のエリック・セイヤーズ非常勤上級研究員は米軍系軍事誌ディフェンス・ニューズに対し、協定は日米韓が今後、ミサイル防衛や対潜水艦作戦など幅広い分野で連携を進めていくための基盤に位置づけられていたと指摘し、韓国による破棄決定で同盟強化の取り組みは「元のもくあみとなった」と批判しています。

こうなると、韓国は文在寅を放逐するか、いまのまま文在寅によって、日米をないがしろにしつつ、北朝鮮や中国にまともに相手にされていないにも関わらす、秋波を送り続けることになるだけです。それは、韓国に何の利益ももたらしません。

そうなれば、在韓米軍の撤退ということになます。その時には、このブログでも何度か掲載したように、米国ならび日本を含む同盟国が、韓国から人や資産を引き上げたり、韓国に築いた様々なシステム(金融その他)や組織等を破壊、すなわち経済的焦土化をして韓国から引き上げることになります。米国は、習近平や金正恩の敵に塩を送るような真似はしません。

その時になっても、北朝鮮が韓国に手を差しのべることはありません。それは、中国もロシアも同じことです。この三国は、経済的にも余裕はないし、韓国に対して何の恩義も感じていません。むしろ、北朝鮮は韓国人難民が押し寄せないように38度線の守りを強化するでしょう。

中国も、ロシアも、船や航空機で押し寄せる難民を受付ないでしょう。無論日本だって受け付ける必要はないのです。ただし、領海の警備を強化することになるでしょう。日本に漂着した難民はすべて韓国に強制相関すようにすべきでしょう。

今年とはいいませんが、いよいよになれば、米国と協調しつつ、10月から12月頃に韓国の経済焦土化をするべきです。冬の日本海は一番厳しいので、1番の防護壁になります。そうして、次の年の春までに領海の警備を強化するようにすれば良いのです。

これには、在日米軍も多数の難民が日本に押し寄せれば、身動きがとれなくなるし、中には武装難民もいるかもしれないので、日本に協力することになるでしょう。

ただし、韓国が経済焦土化されず在韓米軍のほとんどが撤退するという道もあります。それは、韓国が米国中短距離核ミサイルの発射上になるという条件を飲めば、そうなります。

無論、発射を担当するのは米国です。そうなれば、朝鮮半島の軍事バランスは崩れます。北朝鮮の核の脅威は半減することになります。ただし、韓国が通常兵力で攻撃された場合は、核ミサイルではなかなか対応できず、日本からの在日米軍が日本からの許可を受けて韓国を助けることになります。そうなると、対応は後手にまわるしかありません。

これらはワーストシナリオですが、文在寅を今のまま放置しておけば、このような結果になる可能性がかなり高まります。韓国国民の賢明な判断に期待したいところです。

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2019年8月31日土曜日

通貨戦争へも波及する米中対立―【私の論評】中国「為替操作国」の認定の裏には、米国の凄まじい戦略が隠されている(゚д゚)!

通貨戦争へも波及する米中対立

岡崎研究所

 米中間の貿易戦争は、今や通貨戦争にも拡大しつつある。これは、世界的な経済成長に新たなリスクをもたらし、世界経済にも米国自身の経済にも悪影響を及ぼし得る。


 8月5日、トランプは3000億ドルの中国からの輸入品に10%の追加関税をかけると発表した。これを受けて、中国は同日、人民元の対ドルレートを2008年以来最低となる1ドル7元以上にすると決定した。これに対し米国は中国を「為替操作国」と認定、さらなる関税措置を取り得ることを明らかにした。

 中国人民銀行は5日の声明で今の人民元のレートは「合理的で均衡のとれた水準」であり、為替操作ではないと述べた。元安は、米国による関税で対米輸出が減り、中国経済が減速し、元に対する需要が減るために起こる面があるので、人民銀行の声明は、あながちこじつけとは言えない。トランプは関税によって、彼が望まないと主張する弱い人民元を作り出しているとも言える。もっとも中国が元安を容認することには、米国による関税をカバーし、輸出企業を支援して対米輸出の減少を減らそうとする側面のあることも否定できない。

 ただ、元安は中国からの資本逃避を招きかねない。中国には資本逃避を防ぐため、これ以上の切り下げを防ぐインセンティブがある。中国は多額のドル負債を抱えており、元安はこれらの負債の人民元ベースでの増額を意味する。国際金融研究所によると、非金融企業は8000億ドル(GDPの6%)のドル負債を抱えており、中国の銀行のドル債務は6700億ドル(GDPの5%)に上るという。中国としては、大幅な元安は対外債務不履行を招く恐れがあるので、何としてでも避けなければならない。2015-16年に起きた資本逃避の際、中国政府は人民元を守るために4兆ドルの外貨準備のうち、1兆ドルを費消した。あまりに元安になると、中国の借り手が切り下げられた人民元で外貨債務を返済するのに苦労し、債務危機を引き起こす可能性もある。従って、いざとなれば2016年に実施したような海外送金の規制を含め必要な措置を取るだろう。

 しかし、通貨安は元にとどまらない。米中の貿易戦争を契機とする世界経済の減速の中、南アフリカの通貨ランドは7月末から5%、韓国のウォンも直近で1.8%下落した。7月31日に米連邦準備理事会(FRB)が10年半ぶりの利下げを行ったにもかかわらず、世界的な金融緩和で世界中に行き渡ったドルが逆流している。国際金融協会(IIF)の調べでは、8月1日から6日までに新興国から流出した資金は64億ドルに上ったと言う。逆に、日本円については、人民元の下落が、投資家が安全を求め、円高につながっている。これは、日本経済にマイナスの影響を与え得る。

 トランプの関税攻勢と元安の波及により世界経済は減速の傾向を示しているが、実は米国にも景気減速の兆候が見られる。米国経済はトランプ政権の減税と規制緩和で絶好調といわれてきたが、ここにきてGDPの成長率が3%から2%に落ち、投資も減少している。世界経済のみならず米国経済自身にも悪影響を及ぼしつつあるとなると、トランプにとっても問題である。特に来年の大統領選挙を控え、トランプは何としてでも米国経済の好況は維持したいところであろう。一時的であれ、トランプが対中強硬姿勢の軌道修正を余儀なくされる可能性はある。9月1日に新たに追加関税の対象となる商品のうち、パソコンや携帯電話など一部の品目への追加関税を12月15日まで延期、「クリスマス商戦で米国の消費者に影響が及ばないように」という説明をしている。

 ただ、米国の中国に対する貿易戦争は、単に貿易赤字の問題にとどまらず、ハイテク分野における覇権争いが絡んでいるため、米中対立の構図自体に変化があるとは考え難い。トランプがすんなり矛を収めそうにはない。通貨戦争にまで拡大した米中経済対立が、今後とも世界経済に様々な波紋を広げていくことを覚悟する必要がある。

【私の論評】中国「為替操作国」の認定の裏には、米国の凄まじい戦略が隠されている(゚д゚)!

トランプ政権は中国を「為替操作国」に認定し、米中貿易戦争の段階がモノからカネに移ったようにみえます。しかし、米国の意図はそれだけなのでしょうか。

米国は、為替自由化や資本取引の自由化をてこに、中国の共産党体制を揺さぶろうという戦略が隠されているのではないでしょうか。



「為替操作国」とは、米国財務省が議会に提出する「為替政策報告書」に基づき、為替相場を不当に操作していると認定された国を指します。

1980年代から90年代には台湾や韓国も為替操作国に認定されましたが、1994年7月に中国が為替操作国として認定されて以降、為替操作国に指定された国は1つもありませんでした。

「為替操作国」の認定の基準は次の通りです。
(1)米貿易黒字が年200億ドル以上あること
(2)経常黒字がGDP(国内総生産)の2%以上あること
(3)為替介入による外貨購入額がGDP比2%以上になること
この3つに該当すれば、原則的に為替操作国として認定され、米国政府との2国間協議で為替引き上げを要求されたり、必要に応じて関税を引き上げたりされることになります。

 今年5月に提出された米財務省の報告書では、中国、韓国、日本、ドイツ、アイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアの9ヵ国が3条件のうち2つを満たすとして、「為替監視国」としてリストアップされていた。
 ただし、「為替操作国」の要件は形式的に決められていても、実際にはアメリカ大統領のさじ加減だ。
 世界の国の為替制度はどうなっているのかを見てみよう。
 IMF(国際通貨基金)では、各国の為替制度を分類しており、2018年時点で、「厳格な国定相場制」が12.5%、「緩やかな固定相場制」が46.4%、「変動相場制」が34.4%、「その他」が6.8%となっている。
 この分類によれば、米国の為替監視国リストに入っている国のうち、中国、ベトナム、シンガポール以外の国は変動相場制とされているので、よほど大規模な為替介入をしない限り、為替操作国として認定されることはないだろう。
 一方で中国の場合は「緩やかな固定相場制」だ。IMFも中国政府が為替介入していると判断しているので、中国が米国に「為替操作国」とされても文句は言えない面がある。
今年5月に提出された米財務省の報告書では、中国、韓国、日本、ドイツ、アイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアの9ヵ国が3条件のうち2つを満たすとして、「為替監視国」としてリストアップされていました。

ただし、「為替操作国」の要件は形式的に決められていても、実際には米国大統領のさじ加減です。

世界の国の為替制度はどうなっているのかを見てみます。

IMF(国際通貨基金)では、各国の為替制度を分類しており、2018年時点で、「厳格な国定相場制」が12.5%、「緩やかな固定相場制」が46.4%、「変動相場制」が34.4%、「その他」が6.8%となっています。

この分類によれば、米国の為替監視国リストに入っている国のうち、中国、ベトナム、シンガポール以外の国は変動相場制とされているので、よほど大規模な為替介入をしない限り、為替操作国として認定されることはないでしょう。

一方で中国の場合は「緩やかな固定相場制」です。IMFも中国政府が為替介入していると判断しているので、中国が米国に「為替操作国」とされても文句は言えない面があります。

中国の言い分は、為替介入はしているますが、市場で決まる水準より人民元の水準を高めに設定しているということでしょう。

最近5年間で、中国が公式に発表している外貨準備は1兆ドル程度減少しています。人民元の価値を高めるためには、ドルを売って人民元を買う必要があるので、外貨準備が減っていることは、中国政府が人民元高に誘導しているという根拠にはなり得ます。

ところが、中国の場合、そもそも外貨準備の統計数字が怪しいので、中国政府の言い分をうのみにするわけにはいかないです。

国際収支は複式簿記なので、毎年の経常収支の黒字の累計は、対外資産(資本収支と外資準備)に等しくなります。また、資本取引の主体は民間であり、他方、外貨準備は政府の勘定です。

日本をはじめとする先進国では公的セクターと民間セクターが区別できるので外資準備の統計数字に疑義はないです。しかし、中国の場合は、国営企業が多く、公的セクターと民間セクターの判別が困難で、外資準備の減少だけで人民元高への誘導を信じるのは難しいです。

そもそも、外資準備などを算出するベースの国際収支統計での誤差脱漏が中国は大きすぎます。経常収支に対する誤差脱漏の比率を見ると、中国は日本の4倍程度もあります。

ただ 仮にきちんとした統計が整備されていたとしても、そもそも、為替の自由化は、資本取引が自由化されていないと、実現は難しいです。中国のアキレス腱はまさにこの点にあります。

私は、米国が中国を為替操作国に認定したのは、資本自由化をてこに中国に本格的な構造改革を迫ろうという思惑からだと思います。

その鍵は、「国際金融のトリレンマ」です。

これは、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)一国で独立した金融政策の3つを同時に実行することはできず、せいぜい2つしか選べないということです。


先進国の場合、2つのタイプになります。1つは日本や米国のように、(1)と(3)を優先し、為替は変動相場制を採用する国です。もう1つはEUのようにユーロ圏内は固定相場制だが、域外に対しては変動相場制をとるやり方です。

いずれにしても、自由主義経済体制では、(1)自由な資本移動は必須なので、(2)固定相場制をとるか、(3)独立した金融政策をとるかの選択になり、旧西側諸国をはじめとする先進国は、固定相場制を放棄し、変動相場制を採用しています。

これに対して、中国は共産党による社会主義経済体制なので、(1)自由な資本移動は基本的に採用できません。

もちろん実際には市場経済を導入している部分はあるのですが、基本理念は、生産手段の国有化であり、土地の公有化です。

外資系企業が中国国内に完全な企業を持つこと(直接投資)は許されません。必ず中国の企業と合弁会社を設立し、さらに企業内に共産党組織の設置を求められます。

中国で自由な資本移動を許すことは、国内の土地を外国資本が買うことを容認することになり、土地の私有化を許すことにもつながります。

中国共産党にとっては許容できないことであり、そうした背景があるので、中国は必然的に、(1)自由な資本移動を否定し、(2)固定相場制と、(3)独立した金融政策になる。

米国はこうした中国を「為替操作国」というレッテルを貼り、事実上、固定相場制を放棄せよと求めるつもりなのでしょう。これは中国に、自由主義経済体制の旧西側諸国と同じ先進国タイプになれと言うのに等しいです。

中国が「為替操作国」の認定から逃れたければ、為替の自由化、資本取引の自由化を進めよというわけですが、為替の自由化と資本移動の自由化は、中国共産党による一党独裁体制の崩壊を迫ることと同義です。

今回の措置は、ファーウェイ制裁のように、米国市場から中国企業を締め出すための措置だと見る向きもありますが、それだけにとどまらない深謀遠慮が米国にはあるのでしょう。


資本の自由化が実現すれば、今でも逃げ出しつつあるのですが、中国からさらにかなりの富裕層が国外に逃げ出し、資産を移す可能性があります。中国にとっては、共産党独裁体制の崩壊につながりかねないです。

かつて日本は米国に迫られ、資本や金融の自由化を受け入れました。日本が安全保障を米国に委ねていたので、米国と決定的に対立することはできなかったし、自由化を受け入れれば国内の体制は守られました。

しかし、米国との覇権争いを繰り広げる中国にとってはこの話を絶対にのむことはできないもでしょう。

もっとも「取引(ディール)」が大好きなトランプ大統領は、中国の国家体制をつぶすつもりはないでしょう。来年の大統領選に有利になるように、中国問題を使えればいいということだと考えられます。

「為替操作国認定」という高すぎるハードルを突き付け、徐々に条件を緩めながら、貿易や安全保障などの交渉で譲歩を迫っていこうとしているのでしょう。

北朝鮮との非核化交渉で、金正恩体制の維持をカードとして使ってきたように、中国に対しても「国家体制の保証」をカードに使うことも考えているのかもしれないです。

中国の「為替操作国」の認定の裏には、こうした凄まじい戦略が隠れているとみるべきと思います。

そうして、議会はそれ以上のことを考えているでしょう。すでに、米国議会は超党派で、中国と対峙しています。彼らにとっては、中国の「為替操作国認定」は、願ってもないほどの強力な武器になります。

私は、今回のこの措置は、トランプ大統領の選挙などと言う次元を超えて、米国の中国に対するかなりの圧力になることは間違いないと思います。トランプ氏の意図などをはるかに超えて、中国を揺り動かすことになると思います。

どのように中国が対抗してくるのか見物です。

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2019年8月30日金曜日

日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか―【私の論評】増税で7年間に及ぶアベノミクスは帳消しになる。特に雇用は最悪に(゚д゚)!

日本のメディアは日韓関係悪化ばかり報じている場合なのか
消費増税の悪影響が断然大きい




8月22日に韓国大統領府が日韓軍事包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、歴史問題などをめぐり悪化していた日韓関係はさらに深刻になり、安全保障分野に影響が及ぶことになりました。

この韓国政府の判断が米中を含めアジア地域の地政学動向に将来どのような影響をもたらすかが筆者の最大の関心ですが、これは門外漢の筆者の力量を超えるテーマです。以下では、両国の金融市場、そして経済活動への影響について考えてみます。

日韓関係悪化の市場への影響

金融市場では、通貨ウォン(対ドル)は年初来で約8%安と下落。韓国の株価指数も年初から▲5%と、日本を含めた多くの主要国対比でアンダーパフォームしています。

日韓関係悪化などの韓国における政治リスクは、金融市場である程度反映されているといえます。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、将来の北朝鮮との経済統合を目指すことを見据えるなど、北朝鮮に融和的な外交姿勢を示しており、経済への悪影響だけではなく、朝鮮半島を取り巻く地政学情勢が変わることに伴うリスクが市場で意識されているかもしれません。

それでは、最近の日韓関係悪化によって、日本や韓国経済にどの程度、悪影響が及ぶでしょうか。まず日本は、7月に半導体の材料の一部品目の韓国への輸出に関して審査ルールを変更しました。

これについて、韓国に対して禁輸あるいは輸出規制強化を日本政府が行ったなどと報じられ、日本の対応が韓国政府の軋轢を強めたなどとの見方も散見されます。日韓という微妙な2国間の関係ゆえに、メディアもこれをセンセーショナルに報じたり、さまざまな立場の論者の声も大きくなっているようにみえます。

企業活動に及ぼす悪影響は限定的

実際には、韓国への輸出の取り扱い変更は、安全保障に関わる一部の材料のみが対象です。それらの輸出ができなくなるわけではなく、審査に関するこれまでの優遇措置が取りやめとなり、輸出する際の審査・許可を通常のルールに戻すのが、日本政府の対応です。特別な優遇措置を、他国同様の原則のルールに戻したということです。

輸出品が三国などを経由して問題国へ輸出されるのをしっかり管理することは、安全保障の観点から、どの国も責任を持ってやる必要があります。今回の日本の対応は、安全保障の理由で、どの国も自国の裁量で行うことができる対応です。

また、今回通常の管理対象になったのは半導体の材料になる3品目ですが、管理変更の対象になるのは試作段階のものに限られ、すでに量産されている半導体分の材料については対象外になる、との専門家による指摘もあります。

これらを踏まえれば、今回の韓国への輸出規制変更が、韓国の半導体セクターの生産活動を含めて、日韓の貿易など企業の活動に及ぼす悪影響は限定的といえます。

観光面へのインパクトは大きいが…

一方、政治的な日韓関係の悪化は、観光面については無視できない影響が及ぶでしょう。韓国からの訪日客の2割を占め、すでに7月時点で訪日客数は前年比▲7.6%と減少に転じています。一方、中国などからの訪日客が引き続き大きく伸びているため、訪日客全体は同+5.6%と底堅い伸びが続いています。

韓国からの訪日客は8月からさらに落ち込むとみられ、このまま関係悪化が長期化すれば、前年対比で半分程度まで落ち込む可能性もありえるでしょう。2018年のインバウンド消費は約4.5兆円ですが、約2割の韓国人訪日客が半減すると大胆に仮定すると、約1割訪日客数全体が減るため、単純計算で0.4兆~0.5兆円のインバウンド消費が減る可能性があります。

実際には韓国からの訪日客が減った分は、中国、台湾など他のアジアからの訪日客が増える可能性があるため、これはインパクトを最大限見積もるための仮定ですが、それでも日本のGDP(国内総生産)の0.1%の規模で経済全体への影響ではほぼ誤差といえます。

これまで判明している日韓関係悪化の、日本経済への影響はほぼありません。そして、日本から韓国への観光客も大きく減るため、韓国経済も悪影響を受けるでしょうが、同様に誤差程度の悪影響しか想定されないでしょう。

消費増税は失政になる可能性が高い

むしろ、日本経済全体に影響を及ぼすのは、10月から行われる消費増税です。2014年の消費増税は判断ミスだったと安倍首相は後悔していた、とメディアで報じられました。今回も同様に、失政だったと振り返られる可能性が高い、と筆者は考えています。

消費増税による家計負担増の金額を確認すると、消費増税にともない約4.6兆円の税収負担が増えます。増税によって、幼児教育と高等教育の無償化などの制度が始まりますが、これらによって約2.4兆円が政府から家計に支給されます。このため、今回の増税によって、恒久的な家計負担は約2.2兆円増えます。

この家計負担に対して、政府は平成31年度予算として2兆円規模の臨時の景気対策を行いますが、このうち1.35兆円は防災、国土強靭化政策で、家計の所得負担を直接軽減させることになりません。時限的な対策として、いわゆるポイント還元制度などがありますが、これらは0.66兆円となっています。

これらの予算が実際にすべて政府支出として家計に給付されるかは不明なので、先に挙げた2.2兆円の恒久的な家計負担のごく一部しか相殺されないことになります。

なお、2兆円は家計の可処分所得300兆円の約0.7%に相当します。今回の増税で個人消費がどの程度落ち込むかは見方が分かれますが、名目賃金が1%程度しか伸びていない中で、家計所得に無視できない規模の負担が生じれば、少なくとも個人消費はほぼゼロに失速すると筆者は予想します。消費増税以降、日本経済の成長率はほぼゼロ成長に減速するリスクが大きいと考えています。

日韓関係の悪化が大きなニュースになっていますが、それよりも日本人の生活に直結する問題として、消費増税の影響のほうがかなり大きいことは明らかです。最近の日本の報道では、こうした冷静な視点が欠けていると筆者は感じています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

【私の論評】増税で7年間に及ぶアベノミクスは帳消しになる。特に雇用は最悪に(゚д゚)!

日本の昭和末期から平成に至る政治史を振り返ったとき、消費税の導入や消費税の税率引き上げにまつわる動きは「呪われた歴史」といってもいいほど政権を潰し、苦境に追い込んできた。さらにはその都度、景気回復の兆しを迎える日本経済をどん底に突き落とすなど、悲劇的な状況を数々もたらす結果となった。

本来、消費税というのは優れた税制です。脱税がしにくく、徴税コストが安く、安定財源となる税制です。その優れた税制を正しく運営すべきでした。

しかし、その導入において、国民や野党の反対をかわすためだけにあまりにも誤った論理をふりかざし、嘘に嘘を重ね、しかもインボイス制度(適格請求書等保存方式)がない不完全な形で導入してしまいました。
そしてそれ以後、税理論や社会保障理論を歪めてまで、ひたすら消費税の増税こそが正義であるかのように志向してきた歴史が日本にはあります。
このような思惑で消費税の制度が歪めば歪むほど、無理が生じて、呪いにかかったかのように政権が潰され、日本経済にも悪影響を与えてきました。現在の消費増税議論がいかに歪んだものであるかを知るためにも、日本における消費税の歴史を振りかえってみます。

中根蘇康弘氏 首相当時

中曽根康弘首相は1986年7月に大方の意表を突くかたちで解散し(死んだふり解散)、衆参同日選挙に打って出ます。この折には、「国民や自民党員が反対する大型間接税はやりません」「この顔が嘘をつく顔に見えますか」と発言をし、衆院で300議席以上を獲得する大勝利を収めていました。
しかし、同年12月に政府税制調査会と自民党税制調査会が「売上税」を提案し、中曽根内閣は翌1987年2月に「売上税法案」を国会に提出したのです。

売上税はもちろん「大型間接税」ですから、「嘘つき」という批判が満ち満ちることになりました。結局、1987年の地方選挙で敗北をし、売上税は撤回に追い込まれました。大平内閣の挫折と、中曽根内閣の「嘘つき」で、消費税には決定的に悪いイメージが付くことになってしまいました。

1993年6月、野党が当時の宮沢喜一内閣の不信任案を出し、小沢一郎氏たちが造反して野党に賛成した結果、内閣不信任案は成立し、衆院選が行われることになりました。

ここで自民党は衆院での過半数を失い、逆に自民党を飛び出して新生党を結党した小沢氏たちは「非自民」勢力を糾合。かくして、自民党が下野し、八党派連立(日本新党、日本社会党、新生党、公明党、民社党、新党さきがけ、社会民主連合、民主改革連合)の細川護熙内閣が成立しました。



その細川首相が1994年2月3日未明に突然、記者会見を開いて「国民福祉税」構想を打ち出しました。税率3%の消費税を廃止して税率7%の福祉目的税にする、というものです。

細川内閣は、赤字国債を発行しないことを公約の一つにしていました。しかも当時、米国が日本の内需拡大を促すために、日本の所得減税を求めていました。

赤字国債を発行せず、所得減税も行うとなれば、消費税を増税するしかない状況でした。ところが、消費増税は、消費税反対を訴えて支持層を広げてきた社会党から受け容れられないことは目に見えていました。

ならば、いっそのこと「消費税」を廃止してしまい、「新税」の衣をまとわせようと考えたのでしょう。袋小路に陥った状況を活かそうと考えた大蔵省と小沢氏が、よく事情をわかっていない細川首相を抱き込み、一気に税制改革も進めてしまおうとしたのではないかと思います。

ところが、これが見事に頓挫します。政治家が目論む「新税」などすぐに見透かされるのであって、大蔵省とすれば、細川首相をうまく取り込んだつもりだったのかもしれませんが、連立政権内でも話し合われておらず、根回しがまったく不十分だったこともあって社会党などは猛反発しました。

たちまち翌4日の連立与党代表者会議で撤回されるに至りました。政権の求心力は急速に失われて、細川内閣は同年4月25日に総辞職しました。

そうして時代は下り、2012年12月の総選挙で、単独過半数を大きく超える294議席を獲得して圧勝した自民党が政権に返り咲き、第二次安倍晋三内閣が誕生しました。

それに先立つ2012年9月の自民党総裁選の際、安倍首相は消費税を上げる前にデフレ解消をする、といいました。安倍首相は消費税の増税には消極的でしたが、法律になったものを無視することはできず、「法律どおり」2014年4月、消費税率が5%から8%に引き上げられました。

せっかくアベノミクスによってデフレ対策が打たれ、2014年4月時点ではインフレ目標達成にかなり近いところまで行っていたのですが、消費税率を上げたことで景気は逆戻り。離陸し始めた状態で安定飛行に入っていなかった景気は、消費税の増税によって急失速してしまいました。

こうした状況を受けて、2015年10月の増税予定は一年半先送りされ、2017年4月の増税予定がさらに2年半先送りに。安倍首相が財務省の意向を退け、かろうじて踏みとどまったかたちでした。

現在、デフレは解消されつつありますが、脱却には至っていません。企業で人手不足の状況が生まれ、雇用回復に次いで当初の狙いである「賃金上昇」がようやく始まる、と思ったところで、政府は事実上の「移民」緩和政策を決めてしまいました。

過去3回の消費増税のうち、3%の税率で導入した1回目(1989年)は、バブル期で景気がよい状況でした。しかも物品税の減税と同時に行なったので、タイミングとしては悪くありませんでした。

しかし、税率が3%から5%に引き上げられた2回目(1997年)、5%から8%に引き上げられた3回目(2014年)の消費増税は最悪でした。いずれもデフレのときに行なったため、景気を大きく冷え込ませる結果となりました。

外国人労働者の流入が日本の賃金を押し下げていることは、このブロクでも過去に説明してきたように、はっきりしています。あまりにもタイミングが悪く、さらに2019年10月に消費増税を実行してしまえば、2012年以降、7年に及ぶアベノミクスの努力はすべて水の泡でしょう。

現在のマスコミは、このようなことを知ってか知らずか、増税のことなど忘れてしまったかのように、韓国問題ばかり報道しています。財務省の発表を鵜呑みにした報道ばかりで、おそらく知らないのでしょう。

2012年以降、7年に及ぶアベノミクスの努力が水の泡になるとはどういうことでしょう。結局、またデフレ円高に戻るということです。さらに、アベノミクスの大成果でもあった、雇用の改善もまた元に戻ってしまうということです。

再び、就活が最悪の状況に戻るということです。そうしてそれは、何をいみするのでしょうか。人は喉元すぎれば熱さを忘れ、という具合にわずか数年前のことでも忘れてしまいます。以下の動画は2013年に放映されていた東京ガスのCMです。

あまりにもリアルで、生々しい就活の悲惨さが批判の的になって、このCMは放送中止になりました。


以下の動画は、就活狂想曲」animation "Recruit Rhapsody"というタイトルです。

ごく普通の大学生として何となく過ごしてきた主人公。ところが近頃友人たちの様子がおかしい。聞けば、彼らは噂の"就活"に躍起になっているらしい。それが一体どのようなものなのか見極められぬまま、主人公もまた「ニッポン式就活」の渦中へと引きずり込まれて行くさまを描いています。 

作成は、「吉田まほ」さんです。2012年度の作品です。


この時代の就活ではいわゆる「コミュニケーション」を重視していました。

デフレの時期にはモノやサービスが売れないので、企業としてはなるべく新規採用を控えて、採用するにしても、デフレ対応型の無難な人材を採用する傾向が強かったものです。

デフレ対応型の無難な人材とは、どういう人材かといえば、「コミュニケーション能力に長けた人材」です。だから、採用の面談においても突飛な質問をするにしても、過去のデフレ期には「コミュニケーション能力」に関するものが多かったものです。

結局のところ、デフレという厳しい環境の中で、顧客や、会社や会社の中で働く人やに共感でき、苦難をともに乗り越えて行く人材が重視されたのです。創造性などは、あったほうが良いということで、最優先の資質ではありませんでした。

いずれかの方面に優れた才能や能力があったとしても、それはデフレの世の中ではなかなか役に立たず、結局そのような才能がなくても、コミュニーけション能力にたけた人間が一番無難だったのです。

デフレはモノ・サービスが売れず、創造性のある人材も登用されなくなるということで、想像以上に企業をかなり毀損してしまうのです。

以下は当時の就職面接を描いた動画です。声の詰まり方とかリアル過ぎてこちらがハラハラする。それにしても、このような面接現在なら考えられません。まさに、買い手市場だったからこそこのような面接になっていたのです。


そうして、このような面接が行われたのは、何も本人が悪いとか、面接官が悪いということではないのです。結局デフレのため、採用側は採用に慎重だったのが理由です。

企業その中でも、まともな企業であれは、デフレだからとっいって、一定期間に極端に採用を減らしていては、将来の管理職や幹部候補を選ぶ段になったときに、候補者がいないという状況になりかねたいため、無理をしてでも採用をしていたのです。

今年の新卒のある男性新入社員に綺譚のないところを聞いてみたところ、なかなか思った就職先に就職できなかったので、「就職浪人したい」との旨を就職担当の先生に伝えたところ、「就職状況は今は良いがいつ悪くなるかわかったものではないから、今からでも頑張って、とにかく就職しろ」と言われ、そこから就活を再開し就職したそうです。

この先生は正しかったようです。今後増税でこのようなことになるのは目に見えています。今後、就職面接でコミュニケーションが重視されることになるでしょう。

私は、安倍政権には、柔軟になっていただきたいと思います。今後、増税によって悪影響が出た場合には、柔軟に対応して、減税も実施していただきたいものです。いよいよになれば、機動的な財政政策と、金融政策を実行して、デフレから完璧脱却していただきいものです。

令和年間は、平成年間のように経済政策を間違い続け、ほとんどの期間がデフレスパイラルの底に沈んでいたというようなことは繰り返さないで欲しいです。

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2019年8月29日木曜日

豚肉を食べさせろ! パニック状態になる中国庶民―【私の論評】貿易戦争、豚コレラ、害虫発生、中国はこの三重苦を乗り越えられるか?

高騰が続く食品物価、庶民の不満はいつ爆発するのか

中華料理の定番豚肉料理「トンポーロー」

 中国で豚肉を中心とした食品物価の高騰が著しく、一部では“豚肉パニック”といった様相になっているらしい。

「中国では今、豚肉を買うのに身分証明書がいる」「豚肉制限令が出て、1日2キロまでしか豚肉を売ってもらえない」・・台湾の報道バラエティ番組が、中国の“豚肉パニック”をこんな風に報じていた。さすがにこれは、誇張のし過ぎだ、でたらめだ、と中国のネットユーザーが一斉に反論していたが、一部で豚肉購入制限が出ているのは事実で、豚肉不足と高騰が各地で確かに深刻だ。

購入量制限で庶民はパニックに

 今年(2019年)4月以降、湖北、安徽、四川、福建などの29省の一部地域で豚肉価格補填制度が導入されており、その中には、買い占め防止のために豚肉購入量の制限と身分証明書の提示が決められている地域もある。

 福建省三明、莆田の両県では豚肉の品不足と高騰があまりにもひどいことから、中秋節、国慶節にむけて、豚肉に対する補助金制度や購入制限措置を導入すると発表した。

 三明市の明渓県では、8月17日から10月7日までの週末と中秋節、国慶節には豚肉価格を平時価格に戻して発売するという。また莆田県荔城区では9月6日から豚肉4種(リブ肉、赤身肉、もも肉、ヒレ)に関してキロ当たり4元の補填金をつけるという。ただし両地では豚肉補助をつける代わりに、購入量を1人2キロまでに制限。この補助と制限を受けるためには、購入時に身分証明書が必要、という。補填最高額は1人当たり月額31元を限度とした。

 この措置が発表されたとたん、地元の庶民はパニックに陥り、スーパーにつめかけたり、電話が殺到したりしているらしい。このあたりを、台湾のバラエティ番組が面白おかしく報じたら、中国ネット民たちが激怒した、というわけだ。

庶民の不安はかなり深刻

 福建省の一部地域の対応に話を戻すと、明渓県は物価調整資金として県の4社のスーパーに対して20万元の豚肉用補助金を捻出したという。

 明渓県ではどのスーパーも1日の豚肉4種の販売量を計600キロ(ヒレ、もも肉それぞれ200キロ、リブ肉、赤身それぞれ100キロ)に制限している。消費者は1日の購入量を1人あたり2種類の肉をそれぞれ1キロまでに制限される。

 肉の販売の身分証提示や購入量制限については、安くなった肉の買い占め防止になるとして肯定的に受け入れられており、現地紙は「この政策に感謝している」という庶民の声を報道している。でも、豚肉を自由に買えないこの政策を「豚肉配給制か」と思う人もいるだろう。まあ、日本のスーパーの、お買い得品を「1人2個まで」に制限するキャンペーンと同じと言えば同じかもしれないが。

 浙江省、江西省、江蘇省、広東省はまた違う政策を立てており、養豚家への補助金などを打ち出している。浙江省は7月1日から12月31日までの期限をきって、養豚農家に対して豚1頭あたり500元を支払うという。

 また先日の国務院常務委員会では、アフリカ豚コレラ問題が完全に収束していない中で各省に養豚ノルマを課す形の養豚業強化政策を打ち出した。こうした政府側の対応をみても、中国の豚肉をめぐる庶民の不安がかなり深刻であるということは間違いない。

完全に制圧できていないアフリカ豚コレラ

 背景には、アフリカ豚コレラ、米中貿易戦争、中国のもともとの畜産と食肉流通システムの矛盾などの複合的要因がある。

 アフリカ豚コレラは昨年8月に発生して以降、あっという間に中国で広範囲に蔓延し、今も完全には制圧できていない状況だ。中国の報道ベースでいえば、昨年8月初めから2019年7月3日までに、中国でのアフリカ豚コレラの発生は143カ所で、116万頭以上が殺処分された。

 国家統計局のデータでは、2019年1~6月、全国の生きた豚の出荷数は3億1346万頭、前年同期比で6.2%下降した。養豚場にいる生きた豚の数は3億4761万頭で、前年同期比で15%減少。ちなみに中国市場の年間の豚肉生産量は5340万トン規模、輸入量が120万トン(2017年)だ。中国の豚肉消費の全体規模が大きすぎてピンとこないかもしれないが、国際貿易における豚肉取引量が年800万トンというから、たとえば中国で豚肉生産量が15%減った場合、中国人が豚肉を食べ続けようと思うと、国際市場に流通する全豚肉を中国が買い占めてもその不足分を補えない、という話になる。

 末端の豚肉価格でいえば、中国農業部が公表したところによると、8月16~22日の豚肉卸値はキロ当たり平均29.94元で、その1週間前と比べると11%上昇、前年同期比より52.3%上昇した。4、5、6、7月の上昇率は前年同期比で、それぞれ18.2%、14.4%、21.1%、27%という。去年20元だったトンカツ弁当が今年は30元以上するような感じだ。

 しかもアフリカ豚コレラが完全には制圧できていないのであれば、いつぶり返してもおかしくない。中国当局は、アフリカ豚コレラのワクチン開発が実験段階に入っている、としているが、しかし実用化までには8~10年かかるとしている。今は、アフリカ豚コレラ罹患豚を見つけたら、ただ安全に処分し完全に流通を封鎖するしかない。

 2018年のアフリカ豚コレラの影響は、単に養豚数や出荷数が減少するだけでなく、養豚家・養豚企業の激減を引き起こしており、中国の養豚産業全体を揺さぶっている。

 今年3月までに供給量が減ったため、生きた豚肉価格が急上昇した。だが4月に入ると、アフリカ豚コレラの感染地域が気温の上昇にともない北上してきたため、北部の養豚企業が、感染域が来る前に手持ちの豚を売り切ってしまおうと投げ売りを始めた。同時に、その地域の消費者は、コレラにかかった豚肉は食べたくないという心理から豚肉を敬遠するようになり、豚の需要が下落、今度は生きた豚の価格が暴落した。6月に入って、生きた豚の繁殖率の低下とともに出荷量が減少し、全国でまたまた豚肉価格が高騰。8月、豚肉の値段はピークを迎えた。

 養豚の繁殖と出荷は少なくとも半年前後の周期があり、短期間で供給量の不足を緩和するのはかなり難しい。豚コレラを恐れるあまり、母豚から子豚まで投げ売りして、養豚を廃業する企業や農家も続出した。豚肉価格は9月さらに上昇し、高止まりの状態でしばらく継続するとみられている。

 こうした豚肉価格の激しい変動によって、弱小な養豚農家は淘汰されていく。一方、いわゆる「養豚株」と呼ばれる畜産・農業企業の株は、政府がテコ入れするとの期待もあって2019年から高騰を続けている。ただ、かつて「第一豚肉株」と呼ばれた雛鷹農牧は2018年に不正会計問題が発覚し、さらにアフリカ豚コレラが重なり、30億元以上の赤字のために豚の飼料が買えずに大量の豚を餓死させたとも報じられ、上場廃止が決まっている。

 豚肉高騰のもう1つの要因として、当然、米中の貿易戦争がある。英BBCが報じているのだが、米国農業省によれば中国は8月2日から1週間の間、米国産豚肉1万トンを購入。これで中国は8週連続で米国から豚肉を大量購入したということになる。米国は8月1日に、1カ月後に3000億ドルの中国製品に10%の追加関税を1カ月後に実施するとアナウンスした。中国側はその対抗措置として、豚肉を含む米国の農産品に10%の追加関税をかけると発表している。追加関税がかかる前の駆け込み豚肉購入、というわけだ。

中国庶民の不満はどんな形で弾けるのか

 こうした状況に 中国国内メディアは「養猪喫鶏」(養豚しながら鶏肉食べよう)などという意見で、今年上半期の鶏の出荷が前年同期比15.8%増の42億羽、鶏肉生産量に換算すると6637万トン(同13.5%増)となったことなどを報じている。
 「豚肉が高いのなら鶏肉をたべれば?」という、まるでマリー・アントワネットが「パンがないならケーキをたべれば?」と言ったみたいな話なのだが、そうは簡単にいかない。もしもそのとおりに豚肉から鶏肉に切り替える人が増え続ければ、鶏肉と卵も値上がり続ける。養鶏企業、養鶏農家にとっては儲けのチャンスということで「養鶏株」も値上がりしているが、養鶏には養鶏で、鳥インフルエンザリスクの流行という極めて高いリスクもある。2018年1~8月は全国で鳥インフルエンザが流行し、鶏肉価格が暴落したことがあった。

 豚肉上昇を揶揄するような、こんな小話が中国の微博で流れているそうだ。

「早朝に油条(揚げパン)を買いに行くと1本2.5元という。昨日2元だったじゃないか?というと、おばさんは、豚肉が高騰したからね、と言った。豚肉の高騰と油条の値上げとどんな関係があるの? というと、おばさんは、私が豚肉を食べたいからだよ、という」

 豚肉高騰は豚肉だけの高騰ではなく、生活物価全体を引き上げる。中国統計局によれば、豚肉価格の上昇が他の食品価格を吊り上げる効果によって、7月の消費者価格指数(CPI)は前年同期比2.8%上昇。このうち豚肉価格が27%上昇したことがCPI全体を0.59ポイント分引き上げたという。

 ここに人民元の急落が重なっていけば、中国で急激なインフレがおきるという予測もある。経済官僚たち恐れているものの1つは、言うまでもなく中国のハイパーインフレだ。

 ちょうど30年前の1989年、学生の民主化運動が大規模化したことの背景には、1986年から89年にかけてのハイパーインフレによる庶民の生活苦や不満があった。ひどいインフレは、デモやときには暴動を引き起こす。

 しかも、今の中国のインフレは食品領域に限定されていて、その他の分野はむしろデフレ。つまり給与が上がらないのに食品代がかさむという、庶民にとっては最も苦しいスタグフレーションに陥りかけている。

 目下の中国当局サイドの反応を見るに、米中貿易戦争が今後うまくいく見込みはほとんどない。中国国内でデモや暴動の公式報道はほとんどないが、香港では反送中デモが日に日に激しくなり、これが中国にどのような影響を与えるのか、世界は固唾をのんで見守っている。香港議会では、親中派議員が香港法令にのっとった「緊急情況規例條例」(緊急法)を制定してデモを制圧すべきだという主張まででてきた。これは事実上の「戒厳令」と同じという批判が出ている。

 いたるところで緊張が極限まで張りつめている中で、中国庶民の生活物価高に対する不満がどういう形で弾けるのか、弾けないのか。チャイナウォッチャーとしては目が離せないのである。

【私の論評】貿易戦争、豚コレラ、害虫発生、中国はこの三重苦を乗り越えられるか?

豚コレラは人には感染しないが、豚が感染した場合致死率は100%

中国は激化している貿易戦争よりも、遥かに多くの政治的安定と経済への損害をもたらしかねない農業への脅威に直面しています。昨年8月、最初に発見された時以来、ここ数カ月、世界最大の豚生産国の豚頭数を脅かすアフリカ豚コレラ(ASF)問題により、中国は豚頭数を徹底的に削減せざるを得ない状況に追い込まれました。

さらに、最近、中国の穀物生産者はトウモロコシや米や他の穀物農作物に壊滅的打撃を与える「ツマジロクサヨトウ」と呼ばれる危険な害虫の大発生と呼ばれるものに出くわしています。指導部はエスカレートする米国との大きな貿易戦争のさなかにあり、中国に打撃を与えるこの組み合わせは、ほとんど想像できない形で、世界の地政学地図に影響を与えかねないです。

中国政府は、公式に、致命的なアフリカ豚コレラ(ASF)発生を根絶するのに必要な措置をとることでしょう。北京当局は、今日までに百万頭以上の豚が屠殺したといます。しかしながら、豚汚染が中国の全ての州、更に国外にさえ広がるのを阻止できませんでした。

現在、中国の食事では、豚肉はタンパク源てす。中国は世界最大の数、5億、あるいは約7億頭の豚がいます。問題はアフリカ豚コレラは豚にとってほぼ100%致命的であることです。この病気は伝染性が強く治療法もないので、群れを丸ごと即座に屠殺しなければならないのです。やっかいなことに、ウイルスは何日も何週間も行きている豚はもとより、死んだ豚の体の表面や肉で生存可能です。

米国農務省は4月の報告書で、中国はアメリカ豚の総生産高と等しい1億3400万頭の豚を殺さなければならないだろうと予想しました。米国農務省が1970年代半ばに監視を始めて以来、それは記録上、最悪の屠殺数になるはずです。

2019年4月の世界の主要農業金融機関、オランダのラボバンクによる研究報告は、中国の、実際のアフリカ豚コレラのための屠殺は、報告された百万頭よりずっと多いと推定しています。彼らは、2018年8月の最初の発生以来、致命的なアフリカ豚コレラは公式の数より約100倍酷く、中国豚の1.5億から2億頭の範囲が感染し、中国本土の全ての省に広がったと推測しています。

報告書は「2019年、アフリカ豚コレラのために、25%から35%の中国の豚肉生産損失を予想している。(50%以上の)極端な損失に関する報告は限られた地域に限定されている。」 報告書は「これらの損失は他のタンパク質(トリ、カモ、魚、牛肉や羊肉)によっては容易に代替できず、同様に大規模輸入でも完全には損失を相殺できず、これは2019年の全動物性タンパク質供給で、ほぼ1000万トンの需給ギャップをもたらすだろう」と補足しています。

それは公式データが示唆するより遥かに大きく、もし本当なら、豚の価格のみならず、損失から生き残れない何百万という中国の小農民に壊滅的打撃を与えかねないです。中国の豚生産は、健康管理対策がより緩く、接触感染がより多い、小規模農家に独占されているため、正確なデータが不足しています。

不幸にも、状態を静めるための明らかな取り組みとして、24の省で病気が蔓延していたにもかかわらず、一月に中国農業省は「アフリカ豚コレラ流行」はなく、この状況を収拾するため政府が適切な措置をとっているという声明を発表しました。

この声明が出されたタイミングは、中国旧正月の祝日の春節、一年で最大の豚消費時期の二週間前でした。皮肉にも今年は中国では豚年です。ちなみに、韓国、香港、台湾も豚年です。猪年は日本だけです。

豚の致命的な病気は隣接する主要豚生産国のベトナムにも広がり、ラボバンクは、少なくとも、この国の豚の10%が死亡しました。これはさらに、カンボジアに広がると予想されています。香港や台湾やモンゴルにも広がっています。問題は再感染のリスクが大きく、中国が豚を元通りに再生産できるようにするには何年も要すると専門家が推定しています。

雲南省で外来昆虫「ツマジロクサヨトウ」食害 被害面積93万ムー(621平方キロ)

 中国の豚生産が、数十年で最もひどい状況に陥っているこの時に、穀物も、同じく困難な状況に直面しています。なんと、穀物にとっは害虫である、蛾Spodoptera frugiperda種幼虫である
ツマジロクサヨトウの大発生に直面したのです。

米国農務省(USDA)の最近の報告によれば、この壊滅的な害虫はミャンマーから入って、1月29日、最初に雲南省で発見され、既に雲南、広西、広東、貴州、湖南や海南島を含む広範囲の南中国の省に広がった可能性があります。

米国農務省は、一晩で100キロも移動可能であるという、驚異的な移動能力をもつツマジロクサヨトウは、今後数カ月で中国の穀物生産地域の全てに広がると推定しています。典型的なツマジロクサヨトウ蛾は、1頭で1,000から1,500の卵を産み、生存期間中に500キロもの距離を移動するといわれています。卵は数日で、幼虫にふ化します。

「中国農業輸出」は、予想よりずっと速く虫が広がったと報じています。この害虫は絶滅させることが極めて難しいとされています。米国農務省は「ツマジロクサヨトウは中国に天敵がおらず、その存在により、換金作物の中でも、トウモロコシ、米、小麦、ソルガム、サトウキビ、綿、大豆やピーナッツの生産が減少し、品質が低下するかもしれない」と指摘しています。

報告書は「中国の大半の農民に、ツマジロクサヨトウに効果的に対処するのに必要な財源がなく、訓練をもけていない。たとえ緩和対策が実施されたとしても、高価な駆除対策(主に薬剤散布)は、被害を受ける大半の作物をつくる農民の生産者利益を赤字にさせるだろう」と補足しています。

米国農務省によれば、中国は2018-19年で2億5700万トンのトウモロコシを生産すると予測され、米国に続き、世界で二番目に大きいトウモロコシ生産国です。これまでの3年で、北米固有だったツマジロクサヨトウは、アフリカや南アジアや東南アジア全体で大規模経済損害を引き起こしました。イギリスに本拠をおくCentre for Agriculture and Biosciences International(CABI)によれば、ツマジロクサヨトウは、わずか2年で、アフリカの4分の3に定着したとされています。

一方トランプ政権に課された米国貿易関税に応えて、北京は米国の大豆の購入を制限し、国内大豆や他の穀物農作物をますます中国農業にとって重要なものにしました。悪天候の干ばつと異常に寒い天気が、中国の大豆とトウモロコシ生産に悪影響を与えています。

中国の経済全般が際立って停滞兆しをみせている中、アフリカ豚コレラとツマジロクサヨトウによる二重の打撃と、中国からの輸入品に対するアメリカ関税の最近のエスカレーションと組み合わさって、何十万という中国の小規模農家がおそらく経済的に破綻する可能性があり、冒頭の記事にもあるように、中国の国内食品価格インフレーションが急激に進む危険な状況を生み出しかねないです。

今や中国は世界最大の食糧輸入国であり、従来はその多くを米国から輸入していたのですが、米中貿易戦争によりその買い入れ先の変更を余儀なくされています。

米国は世界最大の食料輸出国であり、中国は世界最大の食料輸入国である

米国に対中国冷戦を挑まれた上、アフリカ豚コレラに苦しんでいるところにツマジロクサヨトウが加わって、中国は厳しい試練に晒されています。

こうした状況を日本語では「泣き面に蜂」あるいは「弱り目に祟り目」と言いますが、このような災難が重なることを中国語では“雪上加霜(雪の上に霜が降りる)”と言います。果たして中国政府はこの“雪上加霜”の試練を乗り越えることができるのでしょうか。

米国は世界最大の食料輸出国であり、中国は世界最大の食料輸入国であることを考えると、米中冷戦は中国が圧倒的に不利であるといえます。

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2019年8月28日水曜日

サミットにロシア復帰?領土問題抱える日本は賛否どうする―【私の論評】ロシアに対処するには、4つのロシアのうち「第一のロシア」を見極めなければならない(゚д゚)!

サミットにロシア復帰?領土問題抱える日本は賛否どうする

樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

ロシアのG7サミット(主要国首脳会議)への復帰がまたぞろ取りざたされはじめた。先週末、フランス・ビアリッツで開かれた首脳会合で、この問題が協議された。トランプ大統領が積極姿勢を見せたのに対し、欧州各国首脳が「時期尚早」として反対、議長のマクロン仏大統領は決定を見送った。

 ロシアがサミットを追放されたのは、ウクライナ・クリミア共和国を武力を背景に併合したことだった。「力」によって北方領土をロシアに奪われた日本も、ウクライナと同様の状況に置かれているだけに、原則論ではロシア復帰に容易に賛成できない。

 ロシア自身は自らの復帰に否定的な見解を表明しているが、安倍首相が、賛成、反対いずれを決断するにしても、プーチン、トランプ両大統領との良好な係を維持したい思惑の一方、欧州各国の反対という板挟みにあって、苦しい判断を迫られそうだ。

Russian Flag Bikini

「時期尚早」が大勢

 議長をつとめたマクロン仏大統領はサミット終了後の26日、この問題について、「新しいメンバーの出席は参加国が決めることで、全会一致でなければならない」と述べ、「クリミア問題が解決されれば復帰が実現する」と強調した。

 ロシアの復帰問題は、サミット初日、8月24日の夕食会で議論された。議論の具体的な内容は明らかにされておらず、安倍首相の対応も明らかではない。

 ブルームバーグ通信など海外メディによると、各首脳とも、ロシアとの関係再構築は重要としながらも、復帰は「時期尚早」という意見が大勢だったという。

 再招請に積極姿勢をみせているトランプ米大統領は夕食会翌日の25日、安倍首相、ジョンソン英首相らとの個別会談の冒頭、「ロシアの復帰を望む人はかなりいる。望まない人もいる」、「(自らが議長で来年、米国で開かれるサミットに)招待する可能性は十分にある」などと述べた。

 欧州連合(EU)のトゥスク大統領はサミット前、「ロシアの復帰はどんなことがあっても認めない。各国一致している。追放の理由はなお有効だ」と述べ、あくまでクリミア問題の解決が復帰の前提と強調。やはりサミットに先立って8月21日にベルリンで会談したジョンソン英首相とメルケル独首相も、時期尚早との認識で一致している。

 一方、ロシアのラブロフ外相は、こうした動きを受けて8月26日、「われわれは誰かに何かを頼んだりしたことはない。いかなる呼びかけもしておらず、今後もするつもりはない」と述べ、復帰に表向き冷ややかな反応をみせた。ただ、ぺスコフ大統領報道官は「招請があった時点で考慮する」と述べており、本音は明らかではない。

 ロシア復帰が議論されたのは、トランプ大統領が直前の8月20日、「ロシアを加えたG8の枠組みが、G7よりよほど適切だ。誰かが提案するなら好意的に考えたい」と述べたことがきっかけだった。トランプ氏は2018年6月、カナダ・シャルルボアでのサミットの際にも同様の主張を展開した経緯がある。

クリミア併合は主権・領土の一体性侵害

 ロシア排除のきっかけとなったクリミア併合は、ロシアが帝政時代、ソ連時代からの領土的野心をなお抱いていることをはっきりと示した事件だった。

 2014年春、ウクライナの親ロシア政権が崩壊、親欧米派政権が登場したことで、クリミアの一部住民が抗議。ロシア軍が進攻するなかで、クリミア共和国に親ロシア政府が樹立され、ロシアへの編入が決定された。その是非を問う住民投票は不明朗な形で行われたが、ロシアは3月、ウクライナの反発を押し切っての編入を宣言した。  

 西側諸国や国連、欧州などは、ウクライナなどの主権・領土一体性を保障した1994年のブダペスト覚書(署名、米英ロ)違反ーとして激しく非難。関与したロシア企業、個人の資産凍結、取引停止などの制裁を科した。

 この年のG8サミットは6月、ロシアのソチでプーチン大統領を議長に開かれる予定だったが、各国はこれをボイコット、6月にブリュッセルで7カ国による会合を開いた。当時、ロシアのラブロフ外相は、「G8は非公式な組織で会員証を出しているわけではない。それがなくなればどうなるか、1、2年みてみるのもいい」と皮肉交じりで強弁した。

 一方、日本にとっての北方領土問題の経緯はいまさら繰り返す必要はなかろう。

 第2次大戦の末期、旧ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄して旧満州に攻め込み、8月15日の終戦後、どさくさに紛れて、日本固有の領土である北方4島に武力で侵攻。以来不法占拠を続けている。第2次大戦の終結に当たって、戦勝国による領土拡張の意図を否定したカイロ宣言に明確に違反する。

日本、ウクライナは不法行為の被害者

 ロシアの不法行為によって国益が踏みにじられていることでは、ウクライナ、日本とも共通していることが理解できよう。

 ウクライナのハルチェンコ駐日大使は今年3月、東京・日本記者クラブで会見した際、ロシアの行動を非難したうえで、北方領土問題について、「日本は熱心に外交交渉している。グッドラック」とエールを送った。

 さて、日本はどうする。

 ロシア復帰に反対すれば、トランプ、プーチン両大統領と安倍首相の個人的な友好関係にひびが入り、北方領土交渉に悪影響が出るかもしれないと懸念する向きもあるだろう。

 賛成すれば、こうした事態は避けられるが、欧州各国からは、クリミア問題軽視という非難を浴び、ひいては北方領土問題への対応を疑問視されかねない。長期的な視点に立てば、領土問題解決に向けてプラスにはならないだろう。

安倍首相の本音は賛成か

 首相は昨年のシャルルボアでのサミット終了時の記者会見で、「経済、安全保障、世界が直面する課題に処方箋を示すにはロシアの建設的関与が必要だ」と述べ、賛成する意向を示唆している。

 首相は2016年5月、伊勢志摩サミットが開かれた際、これに先だって議長国として欧州各国を歴訪、首脳と事前の調整を行ったが、その帰途、ロシアに立ち寄り、プーチン大統領と会談した。サミットの事前打ち合わせのため各国を歴訪、その足で追放されたプーチン氏を訪ねることが各国首脳にどう映ったかはわからないが、少なくとも、首相がクリミア問題については、欧州各国とは異なった見方をしていることを示したといっていい。

 クリミア併合に当たって、日本がとった制裁をみても、ビザ自由化交渉の停止、投資、宇宙、軍事協力に関する交渉の凍結など各国に比べるとほとんど実害を与えない内容だった。

 首相は北方領土問題について最近、国後、択捉断念、歯舞、色丹の2島返還-へと方針を変更したが、この方針転換と相まって、サミットへのロシア復帰に賛成すれば、首相の北方領土問題への取り組み、対ロ政策全体の是非をめぐって議論を呼ぶことになろう。

くすぶり続けてきた復帰論

 サミットは1975年の第1回(フランス・ランブイエ)以来、毎年各国持ち回りで開かれている。ロシアの出席は歴史が浅く、1991年のロンドン・サミットで、正式会議終了後に、各国首脳とソ連のゴルバチョフ大統領(当時)とによる非公式会合がもたれたのが最初だった。94年のナポリ・サミット(イタリア)から、ロシア首脳は政治討議だけ、2003年のエビアン・サミット(フランス)から全討議に参加し、正式メンバーとなった。

 クリミアの併合によって追放された後も、毎年、サミット開催時にその復帰論が出ては消え、消えては出るの繰り返しだった。

 日本が賛否を明確にしなければならない時がいつ来るのか明らかではないが、何らかの意思表示は求められるだろう。首脳間の個人的な信頼関係も重要だが、国益第一の冷静な判断が求められよう。

【私の論評】ロシアに対処するには、4つのロシアのうち「第一のロシア」を見極めなければならない(゚д゚)!

トランプ大統領は、ロシアを中国牽制のためにG7に迎え入れようとしているようです。しかし、これは昨日のブログでも時期尚早であると述べました。それは主に以下に述べる3つのロシアの特殊事情によるものです。詳細は、昨日の記事をご覧になってください。

1.中国に経済でとてつもないほどの大きな溝を開けられたロシア

2.中国と長く国境を接している ロシア

3.中国との人口差があまりに大きすぎるロシア 

以上のようなことから、プーチン氏は現状では、中国と本気で事を構えるようなことはしたくないはずです。

ただし、昨日の述べたように中国が米国から対中国冷戦を挑まれ、経済的にかなり疲弊した場合には、 状況は違ってきます。昨日も述べたように、ロシアは中国の「一対一路」で、あまり利益を得ることもできないため、このあたりからも中国に対する不膜は高まっています。

だから、中国の経済力が弱まったときは、ロシアを中国牽制のためにG7に迎え入れるなどのことは十分に意味のあることと考えられます。

ただし、本当にロシアがそのときに、G7に入ったり、中国牽制に役に立つのかは、疑問です。

レバダ・センターというロシアの調査機関は、毎月実施している世論調査で、国民が最高指導者のプーチン氏を信認しているか、いないかを長期的に跡付けています。その結果をまとめたのが、下に見る図です。これを見ると、プーチン氏は常に、6割を超える国民の信認を集めています。普通の国であれば、盤石の支持率ということになるでしょう。


しかし、国民のプーチン氏に対する信認は、2000年代の末から低下に転じました。特に、憲法の三選禁止規定を回避するため、一時期首相職に就いていたプーチン氏が、再び大統領に復帰する方針を示した2011年秋以降、プーチン氏の数字は目に見えて悪化しました。

プーチン氏とメドベージェフ氏が、大統領職と首相職をまるで私物のようにやり取りする様子に、少なからぬ国民が愛想をつかしました。

折しも、2011年12月4日に実施された議会選挙で、体制側による不正が指摘されたことから、モスクワ中心部で大規模な抗議デモが繰り返し開催される事態となりました。結局、2012年3月4日に投票が行われた選挙に勝利し、プーチン氏は大統領に返り咲いたものの、むしろプーチン体制が揺らいでいるという印象を強く残しました。

図に見るとおり、2012年5月に第3期プーチン政権がスタートして以降も、国民の大統領に対する信認はじりじりと低下を続けたのです。

事態を一変させたのが、2014年2月のウクライナ政変と、それに続くロシアによるクリミア併合でした。それから数年間、国民のプーチン氏に対する支持率は、いわばドーピングを施されているような状態でした。



しかし、これはプーチン大統領の支持率が本来の実力以上に下駄を履かされた状態ですので、それほど長続きするはずはありません。図に見るとおり、国民のプーチン信認率は、2018年半ば頃から下落します。その引き金を引いたのは、年金改革と増税ともいわれています。

しかし、それは一つのきっかけにすぎず、むしろ、クリミア併合から一定の時間が経って、そのカンフル剤としての効果が、必然的に剥落してきたというのが真相でしょう。要するにプーチン体制は、2011~2012年頃に直面していた本来の厳しい状況に戻ったのです。

さて、上に述べたようなことは、「4つのロシア」論に当てはめると、より理解しやすくなると思います。「4つのロシア」論というのは、ナターリヤ・ズバレビチという学者(社会政策独立研究所地域プログラム部長)が、2011年12月にロシア紙に寄稿して知られるようになった分析視点です。

ズバレビチ女史によれば、ロシアはまったく異なる4つの構成要素から成り、それらはまるで別の国のように異なると言います。具体的には、①大都市、②中規模な工業都市、③農村および小都市、④北カフカスおよびシベリア南部の民族共和国、という4つの要素です。以下、ズバレビチの議論を要約してみましょう。

「第1のロシア」:大都市

「第1のロシア」は、大都市です。ロシアには12の百万都市があり、さらにそれに近い人口の都市も2つあって、ロシアの人口の21%がここに住んでいます(注:2011年時点の数字、以下同様)。過去20年間でこれらの大都市は工業都市でなくなくなりました。

大都市では、雇用構造の変化(ホワイトカラーの増大)、中小企業への就労の増加が見られ、公務員ですらより高い職能を備えるようになっています。ミドルクラスが集中しているのも、まさにこれらの大都市です。移住者が向かう行先も大都市で、ロシア全体の人口に占めるその割合が高まっています。

「第1のロシア」には、人口50万人以上の都市も加えることが可能です。そうすれば、総人口に占める比率は30%まで高まります。最も定義を緩めれば、人口25万人以上の都市を含めることができ、そうなれば全人口の36%ということになります。

ロシアのインターネット・ユーザーや、変革を欲しているようなミドルクラスが集中しているのは、まさにこれらの大都市です。彼らが政治的行動を起こしているのは、プーチンの下で停滞がずっと続くという見通しに危機感を抱いているからです。また、腐敗した国で投資が進まず、自分たちの就きたいような新しいタイプの職が不足していることにもよります。

「第2のロシア」:中規模な工業都市

「第2のロシア」は、人口2万~3万から、25万くらいまでの、中規模な工業都市や企業城下町です。ただ、時には人口が30万~50万に及ぶこともあり、最大の自動車メーカーAvtoVAZが所在するトリヤッチのように70万という例もあります。

すべての中都市がソ連時代の産業の専門を保持しているわけではないですが、その精神や、ソ連的な生活様式は根強いです。こうした都市では、ブルーカラーの比率が多い上に、公務員も多く、しかも職能の低い公務員が主流です。

需要が低かったり、制度的な壁があったりで、中小企業は圧迫されています。「第2のロシア」には、国民の約25%が住んでいます。そのうち、社会的緊張がとりわけ尖鋭な企業城下町には、約10%が住みます。

もし今後、経済危機の新たな波が生じたら、最も打撃を受けるのは、「第2のロシア」です。鉱工業が大きな落ち込みに見舞われる中で、住民の適応能力は高くないです。今後、これらの地方を支える財源が見付からないと、住民が職と賃金を求め政権に抗議する急先鋒となり、政権が大衆迎合的な決定を下す圧力が強まります。

ただ、政権は「第2のロシア」をいかに懐柔するかを、心得ています。ミドルクラスにとっては死活的な諸問題(民主主義、ネットの自由など)も、職と賃金を求める「第2のロシア」にとっては、どうでもいいことです。

「第3のロシア」:農村および小都市

「第3のロシア」は、広大なエリアから成る辺境で、農村および小都市です。ロシアの人口の38%を占めます。彼らは土地に生きており、農業の歳時記は政権交代とは関係ないので、政治には無関心す。たとえ危機で年金や賃金が遅配になったとしても、彼らの抗議エネルギーはほとんどありません。

「第4のロシア」:北カフカス、シベリア南部の民族共和国

「第4のロシア」は、北カフカスおよびシベリア南部の民族共和国で、ここにはロシアの人口の6%弱が住んでいるにすぎません。そこには大都市も中小都市もありますが、工業都市は存在しません。都市のミドルクラスは今のところほとんど未形成で、他の地域に流出してしまって育ちません。農村人口は増加し年齢構成も若いですが、若者は都市に出てしまいます。

これらの地域では現地の閥が権力、資源、民族、宗教などの闘争を繰り広げ、彼らにとっての関心事は連邦からの資金を取り付けることだけです。連邦からしてみれば、これらの地域への支援はそれほどの規模でもないから、経済危機が再燃しても対処でき、これら地域の状況は大きく変わりません。

帰ってきた「4つのロシア」

以上が、2011年にズバレビチが発表した「4つのロシア」論の骨子でした。

プーチン氏が常に6割を超える国民の高い信認を得ていると言っても、それは主に、受動的で何かと中央に依存しようとする「第2~4のロシア」からのものです。活力溢れる「第1のロシア」に住む意識の高い市民は、2011~2012年の時点で、プーチン政権を見限りつつありました。

繰り返しになりますが、これを一変させたのが、2014年以降のウクライナ危機でした。ウクライナを巡りロシアが欧米と対立し、その中でプーチン政権がクリミアの「奪還」に成功。このことが、あまりにもロシア国民の愛国主義的な琴線に触れたため、元々はプーチン政権に批判的だった「第1のロシア」の市民すらも、「今は国民が一致団結してプーチン政権を盛り立てねば」という考えに傾いたわけです。

言い換えれば、2014年から2018年半ばくらいにかけての時期は、「第1のロシア」が、「その他のロシア」に、一時的・例外的に歩み寄っていた時代だったと言えそうです。当時は、提唱者のズバレビチも、「『4つのロシア』は一時的に棚上げになっている」と認めていました。

しかし、ウクライナ危機発生から4年、5年と経ち、欧米との対立がロシア経済の沈滞に繋がっていることが明確になるにつれ、「第1のロシア」、特に若者世代が、再びプーチン体制への不満を募らせるようになりました。その表れが、現在首都モスクワで起きている反政府デモです。

プーチン政権は、ロシアのイノベーション的発展、経済のデジタル化、中小企業やスタートアップの支援といったスローガンを掲げています。そうした新しい経済の担い手となるのは、基本的に「第1のロシア」のはずです。しかし、現実には、プーチン政権は体制の安定に汲々とするあまり、市民の権利を制限するようなことばかりしていて、「第1のロシア」を敵に回してしまっています。

こんなことを続けていたら、大都市の有能な若者たちは、国を捨てて出て行ってしまうかもしれません。それでは、これまで以上に、エネルギー・資源輸出で稼いだお金で、「第2~4のロシア」を扶養するだけの国に堕してしまいます。目先の政治的安定は図れるかもしれませんが、国としての斜陽化は必至です。

まさに、プーチン政権は「第一のロシア」を納得させ、満足させることができなければ、ロシアは浮かび上がることはできないのです。

ウラジーミル・プーチン

プーチン氏の、ロシアのイノベーション的発展、経済のデジタル化、中小企業やスタートアップの支援といったスローガンが本当に実現できれば、上にも述べたように、中国が疲弊したときに、ロシアを中国牽制のためにG7に迎え入れようという試みはうまくいくかもしれません。

しかし、それが成功しなければ、ロシアはさらに斜陽化することになります。その時こそが、日本がロシアと北方領土交渉ができる状況になっているでしょう。

いずれにしても、日本としては、ロシアの中でも特に「第一のロシア」に注目しつつ、ロシアに対処していくべきでしょう。

「第一のロシア」はロシア全体の中間層の形成に大きく関与しているとみるべきです。この層が、自由に社会経済活動ができるように、ロシアも民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めなければならないのです。

ロシアの現状は、中国よりはましとはいいながら、まだまだこのあたりが遅れています。これを改善するか、できないかが将来のロシアの運命を握っているのです。

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米国に対峙する中ロ提携強化は本物か?―【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!




2019年8月27日火曜日

米国に対峙する中ロ提携強化は本物か?―【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!


岡崎研究所

 7月23日、中国とロシアは日本海と東シナ海で空軍共同軍事演習を行い、韓国と日本の防空体制を試した。この際、韓国空軍が、同国が不法占拠している竹島(韓国名:独島)の領空をロシア軍機が侵犯したとして300発以上の警告射撃を行ったことで、日本でも大きなニュースとなった。


 この中ロ空軍共同演習を契機に、中ロの提携強化に注目が集まった。米国の論壇では、米国防省の掲げる「米国の主敵は中国とロシア」というラインに沿ったものが多く見られた。例えば、米バード大学のWalter Russell Mead教授が7月29日付でウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説‘Why Russia and China Are Joining Forces’は、今回の共同演習について「この数年強化されてきた中ロ間の提携の一例に過ぎない」と指摘するとともに、「世界の秩序を乱しているのはトランプよりも、中ロの2大国が力を増し、IT技術の進歩を悪用しつつ、自らの影響力を世界中で拡大しようとしていることにある」と言っている。

 現実の米ロ関係はどうか。7月2日の中距離核戦力全廃条約(INF条約)失効にもかかわらず、現在、トランプ大統領はロシアへの宥和的姿勢を徐々に強化しつつあるように見える。これまで「トランプはロシアと"ぐる"になって、大統領選で勝利した」ことを証明しようとしてきた民主党の作戦が、モラー特別捜査官の議会証言で最終的に破綻したことも一因であろう。

 ベネズエラでの米ロ対立がすっかり影を潜めた一方、米国はなぜか「ロシア産原油」の輸入を急増させている。米国がマドゥーロ政権制裁のために、ベネズエラ原油の輸入を停止したこととの関連が疑われる。更に、米国はイランに対するロシアの影響力を活用しようとしており、6月24日にはエルサレムでボルトン大統領安全保障問題特別補佐官とパトルシェフ・ロシア国家安全保障会議書記が、ネタニヤフ・イスラエル首相及び同首相の安全保障問題担当補佐官を含めて三者会談している。

 プーチンの側も、対米関係の好転を願っているものと思われる。西側の制裁はロシアに直接の大きな作用を及ぼしているわけではないが、長期的には先端技術及び資金の流入縮小を通じて、ロシアの経済に深刻なダメージを与える。制裁で沈んだ経済成長率は2018年上昇傾向を示したが(2.3%)、本年の第1四半期には1.2%に沈む等、再び停滞傾向を強めている。対米関係を何とかしない限り、ロシアはお先真っ暗である。従って、米ロ関係には、改善に向かう潜在的要因が存在していると見られる。

 中ロ関係については、必ずしも連携が強化する一方というわけではなく、関係が進んでいる面もあれば、競り合っている面もある。進んでいると見せかけて、実際には中身がないものも多い。中身があるのは、ロシアの中国への原油と天然ガスの輸出である。他方、「両国間貿易の決済ではドルではなく、双方の通貨を使おう」ということは長年叫ばれ、6月5日には協定も署名されたが、実効は上がっていないものと見られる。

 中ロの競合は、第一に中央アジアに見られる。例えばタジキスタンで中国が共同軍事演習を繰り返しているような例である。経済力を欠くロシアにとっては、防衛面での支援は対中央アジア外交の重要な手段であるのに(タジキスタンにはロシア軍1個師団が常駐)、中国がこれを侵食しつつある。

 東アジアでも中ロが必ずしも足並みをそろえていない例がある。ロシアは、中国とは微妙な関係にあるベトナムに潜水艦を売却したし、南シナ海を睥睨するカムラン湾の基地には軍艦を時々寄港させている。ロシア海軍が日本の海上自衛隊と合同訓練をすることもあるし、米国主宰のRIMPAC演習に参加したこともある(2012年)。つまり、ロシアは、中国を絶対的な提携相手としているわけはない。そして極東におけるロシアの戦力は、原子力潜水艦を除けば大したものではない。従って、「中ロ連携強化」には、こちらが過剰反応する必要はない。

 中ロ関係強化は自己目的ではなく、ロシアと中国が対米関係で用いる脅し道具という側面が強い。中ロのいずれかが対米関係改善に成功すると、しばらくお蔵入りになるものである。今後、米ロ関係が好転するようなことがあれば、ロシアにとって中国の重要性は低下する。ただし、極東部の脆弱性をよく心得ているロシアは、中国と敵対することは避けようとするだろう。ロシアを引き込んで対中牽制に使う、という論もあるが、なかなか成り立ちがたいと思われる。

【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!

2017年5月14~15日に、中国が推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」の国際会議が中国の首都・北京で開催されました。同会議には、全世界の計130カ国の1500人、そして29カ国の首脳が参加しました。
「一帯一路」は中国が長い年月をかけて推進してきたものですが、このような会議が行われるのはこの時が初めてであり、中国は大国の威信をかけてこの会議に臨みました。この会議は、中国の当時の外交政策の成否のメルクマールとなり、また今後の「一帯一路」の発展を展望するうえでも重要な一歩とみなされていたのです。
そのため、中国の同会議に対する思い入れは極めて強く、参加国との連帯を強めていくために手を尽くし、そして、自由貿易の重要性を盛り込んだ首脳会合の共同声明も採択されました。
そして、同会議ではやはり中露関係の緊密さが顕著に見られました。米国でロシアによるサイバー攻撃とそれによる影響やドナルド・トランプ政権関係者とロシアの関係が米国政治の焦点となっていた中で、米露関係が冷戦後最低レベルに落ち込んだとすら言われる中、米国への対抗軸で共通の利害関係を持つ中国とロシアが関係を緊密にするのは自然な流れでした。
また、中露は、中国が推進する「一帯一路」構想とロシアが主導し、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」の連携協定を2015年に結び、「一帯一路」の成功が中露両国にとって有益であると国民にも訴えつつ関係深化を進めてきました。
会議においても、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領は一番の賓客として扱われ、スピーチの機会も習近平国家主席の次に設けられました。プーチンはその場を利用し、ロシアが主導している「ユーラシア経済同盟(EEU)」と「一帯一路」の類似点を強調し、中露の計画は相互補完関係にあるとした上で、これらのメガプロジェクトに代表されるユーラシア統合を「未来に向けた文明的プロジェクト」だと述べました。
ユーラシア経済同盟の加盟国

そして、ロシアは「一帯一路」との連携をさらに進め、ポジティブな成果を出す必要に迫られていました。特に、2014年後半からの原油安やウクライナ危機によって欧米が発動している対露経済制裁によって、ロシアのみならず、ロシアと深い経済関係を持つ旧ソ連諸国の多くが経済的ダメージを受けていることも重要な背景でした。
たとえば、ユーラシア経済連合の域内貿易額が、昨年には2014年と比して30%も減少したことは、その一例でした。旧ソ連諸国の経済パフォーマンスに当面期待できず、ユーラシア経済同盟加盟国の間でも失望感が広がっている状況では、数年前と比べれば随分勢いは衰えたとはいえ、まだまだ力がある中国経済による好影響を期待するほかなく、また巨大経済圏構想の可能性を見せつけることで、大国としての存在感も示すことができたのです。
そして、会議の期間中、中露間の大型プロジェクトが多数成立しました。

まず、中露両国がロシア極東及び中国北東部の開発支援のために、総額100億人民元(約145億ドル)の共同地域開発協力投資ファンドを設立するという計画が発表されました。

加えて、ロシア石油最大手ロスネフチと中国石油天然ガス集団(CNPC)は両者間の協力の効率化向上を目指すための合同調整委員会の設立に関する取り決めに調印したことが発表されました。

また、ロシア天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長とCNPCの王会長は、地下ガス貯蔵、電気産業、道路インフラなどの分野での協力深化に関する文書に調印しました。

このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きいものでした。

その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実でした。

前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けてきましたが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらいです。

プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられます。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われていました。

そのような疑念を高めているのが、「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携を象徴するプロジェクトとして発足したモスクワ・カザン高速鉄道計画におけるロシアの失望でした。



この鉄道計画は、いずれモスクワと北京が鉄道で結ばれるとされる高速鉄道の基礎となるとされ、最初の了解覚書では、同鉄道はシベリア地域を通るとされていました。しかし、のちに同鉄道の線路はロシアのほとんどの地域を通過せず、カザフスタンの首都アスタナから新疆を通過して、所要時間が3分の2になるように変えられたのです。中露協力のモデル計画とされていたプロジェクトの結果がこのような惨憺たるものであることは、ロシアにとって大きな痛手でした。

しかも、これのみならず、中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのです。さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっています。このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのです。

このような状況に鑑み、ロシアの研究者の中には、「一帯一路」構想は達成指標がないが故に、中国が軽微なものも含むあらゆる結果を「一帯一路」の成果として喧伝していることから、「一帯一路」そのものの意味に疑問を呈するものもいます。「一帯一路」がそもそも大した成果が上がっていないものなら、「ユーラシア経済連合」との連携で良い成果が出ないのは当たり前だという議論です。

確かに、「一帯一路」の経済パフォーマンスは決して良いとはいえないです。たとえば、中国の投資家は融資するプロジェクトをかなり選り好みして決めるため、実際の融資額は期待を下回っており、2017年には中国の「一帯一路」」関係の投資額は、3年ぶりに減少しました。

そして、中国の投資家からすると、ロシアが提案するプロジェクトはあまり魅力的に感じられず、結果、対露投資のパフォーマンスは悪くなるのです。そのため、ロシアの専門家の中には、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」は素晴らしいが、中国が自国の経済利益のみを考慮する利己的な行動をとるが故に、連携においてはロシアの実入りが小さいのだという議論を提示するものもいます。

さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題です。

「一帯一路」の国際会議でも、中国と中央アジアの関係強化は顕著に見られました。習主席はカザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの各国首脳と会談し、中央アジア諸国との関係強化を強調しました。

これら会談の中で、例えば、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、カザフスタン鉄道がカザフスタンと中国の国境にあるコルゴスの輸送拠点の49%を譲り受けるという合意に調印しました。

これはカザフスタンが重要物流拠点として高い戦略性を持つと見なされるようになったことの証左です。また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領も中国との経済関係の強化を強く求めており、当時の会談では最大200億ドルの協力協定も締結しました。

中国は、ウズベキスタン東部のフェルガナ盆地と、残りのウズベキスタンを結ぶ最初の唯一の鉄道に対する共同出資をすることを約束しました。この連携は中国製品を中央アジアに輸出するために極めて重要です。

その鉄道が完成した現在、中国は戦略的に1億7500万ドル相当の高速道路プロジェクトにも取り組んでいます。

このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況です。

米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではありません。

プーチンと習近平

ただし、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承しているということで決して侮ることはできないのですが、経済力が落ちているロシア(GDPは、東京都や韓国と同程度)は中国に対して強気に出られないというのが実情です。

このままだと、ロシアの中国に対する不満は高まるばかりです。現在、米国の対中国冷戦により、中国は経済的に弱りつつあります。

現状では、経済的にかなり中国に差をつけられたことと、ロシアは極東で中国と国境を接していること、しかもかなり長距離わたって接していることと、ロシアよりも中国のほうが圧倒的に人口が多く、特にロシア極東の中国との国境ではそれが顕著です。そうして、中ロ国境を多くの中国人が越境しているという特殊事情があるので、米国やEUから制裁を受けている現状で、中国と対立するのは得策ではないと考えているようですが、中国経済がかなり疲弊したときには、確実に中国と対立することになるでしょう。

米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのはまだ早すぎます。ただし、中国が経済的に疲弊した場合は、その限りではありません。その時、ロシアは対中国という観点から米国の有力なパートナーとなるかもしれません。

先日はこのブログで、長期的にはロシアの憤怒のマグマが蓄積して、いずれそのマグマはは中国に向かって吹き出すという趣旨の内容を掲載しました。「ユーラシア経済連合」のからみで、ロシアは中国に憤りを感じていることから、やはり短期的にも、中露提携強化ということはないとみておいたほうが良いと思います。これは、みせかけだけのものでしょう。ただし、いまのところは、まだロシアは中国と本格的に、対立するつもりはないとみておくべきです。

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